特許拒絶査定不服審判
2024-007111
光検出装置及び光検出装置の製造方法
- 審判番号
- 2024-007111
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2020-559152
- 請求日
- 2024年04月25日
- 審決日
- 2025年08月07日
- 公報発行日
- 2025年10月31日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】浜松ホトニクス株式会社
- 【請求人代理人】長谷川 芳樹
- 【請求人代理人】黒木 義樹
- 【請求人代理人】柴山 健一
- 【請求人代理人】崎山 翔一
- 【請求人代理人】和田 雄二
- 【請求人代理人】小林 紀史
- 審判長/審判官
- 審判長 波多江 進
- 審判官 吉野 三寛
- 審判官 小澤 尚由
- 分類
- P18 .121-Z (H10F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2020-559152「光検出装置及び光検出装置の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 6月18日国際公開、WO2020/121857〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2019年(令和元年)11月29日(優先権主張 平成30年12月12日(以下、この日付を「優先日」という。))を国際出願日とする日本語特許出願であって、その手続の経緯の概略は次のとおりである。
令和 5年 7月18日付け:拒絶理由通知書
同年11月24日 :意見書、手続補正書の提出
令和 6年 1月18日付け:拒絶査定
(同月30日 :原査定の謄本の送達)
同年 4月25日 :審判請求書の提出
第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、令和5年11月24日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1の記載は、次のとおりである。
<本願発明>
「光検出装置であって、
互いに対向する第一主面及び第二主面を有すると共に、前記第一主面に直交する方向から見て互いに離間してアバランシェフォトダイオードと温度補償用ダイオードとが形成された半導体基板を備え、
前記半導体基板は、前記第一主面に直交する方向から見て前記アバランシェフォトダイオードを囲んでおり、かつ、周辺に位置するキャリアを吸収する周辺キャリア吸収部を有し、
前記半導体基板は、第一導電型の半導体領域を含み、
前記アバランシェフォトダイオード及び前記温度補償用ダイオードは、それぞれ、前記第一導電型と異なる第二導電型の半導体層を含み、
前記周辺キャリア吸収部は、前記第一主面に直交する方向から見て、前記半導体領域に接していると共に前記半導体領域に囲まれている、前記第一導電型又は前記第二導電型の半導体層を含んでおり、
前記周辺キャリア吸収部の一部は、前記第一主面に直交する方向から見て、前記アバランシェフォトダイオードと前記温度補償用ダイオードとの間に位置し、
前記温度補償用ダイオードに印加されるブレークダウン電圧に応じた電圧を前記アバランシェフォトダイオードにバイアス電圧として印加することで、前記アバランシェフォトダイオードの増倍率の温度補償が行われる。」
第3 原査定における拒絶の理由
原査定の拒絶の理由のうち、本願発明についての理由1(進歩性欠如)は、以下に概要を示す理由を含むものである。
本願発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である下記の引用文献4に記載された発明並びに引用文献2及び引用文献3に例示される周知技術に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
記
2.特開昭61-289677号公報
3.特開2004-303878号公報
4.特開平6-224463号公報
第4 当審の判断
1 引用文献の記載及び引用発明等の認定
(1) 引用文献4の記載及び引用発明の認定
ア 引用文献4に記載された事項
原査定の拒絶の理由で引用され、本願の優先日前に発行された引用文献4(特開平6-224463号公報)には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当合議体が付したものであり、他の引用文献についても同様である。
(ア) 【産業上の利用分野】、【従来の技術】(【0001】~【0014】、図6~図8)
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、半導体受光装置に関し、特に、なだれ増幅機能を有するアバランシェフォトダイオード(Avalanche Photo Diode ;APDと略す)に関するものである。
【0002】
【従来の技術】図6は、従来の受光用APDの断面図を示すものである。図6の構造は、IEEEELECTRON DEVICE LETTERS,VOL EDL-7,No4,APRIL 1986 から引用したもので、受光領域と増倍領域とが分離された、SAM型(Separated Absorption and Multiplication)と呼ばれるInGaAsAPDである。
【0003】図中、20は本InGaAsAPDであり、1はn+ -InP基板、2は該InP基板1上にエピ成長され、キャリア濃度が1~10×1016cm -3 程度で、厚さが0.5~1.0μmのn型InPバッファ層、3は該バッファ層2上に連続エピ成長され、キャリア濃度が、5×1015cm -3 程度以下に制御された、厚さが4μmのn- -InGaAs光吸収層、4は該光吸収層3上に連続エピ成長され、キャリア濃度が、8×1015cm -3 程度に制御され、厚さが0.1μm程度に制御されたn-InGaAsPパイルアップ防止層、5は該パイルアップ防止層4上に連続エピ成長され、キャリア濃度が1.0~1.3×1016cm -3 に制御され、厚さが1.8~2.0μmに制御されたn-InP増倍層、6は該増倍層5上に連続エピ成長され、キャリア濃度が2×1015cm -3 に制御され、厚さが2μm程度のn- 型InPガードリング層、7は該ガードリング層6の主面より部分的に、その拡散フロントが、前記増倍層5に接するように制御され、Zn,Cdなどのアクセプタ不純物の拡散によって形成されたP+ -InP拡散領域、8は同様に該ガードリング層6の主面より、前記拡散領域7の周囲にリング状に形成され、前記拡散領域7の拡散深さよりも少なくとも深くなるように形成され、かつ、PN接合フロントが傾斜接合となるように形成された、例えばBeのイオン注入などの方法で形成されたP+ -InPガードリング領域、9は前記ガードリング層6上に形成された、例えばSiNなどの誘電体よりなる表面保護膜、10は該表面保護膜9に形成され、前記拡散領域7が露呈されたコンタクトホール、11は該コンタクトホール10を介して前記拡散領域7と電気的に導通するアノード電極、12は前記InP基板1に形成されたカソード電極、13は受光領域を示す。
【0004】図7は、従来の温度補正モニタ用の遮光APD30の断面図を示すものである。図7の構造は、図6の受光用APDと本質的には変わらない。14は、例えばAu,Ti等の金属からなる、光の入射を阻止する遮光膜である。
【0005】図8は従来の、上記遮光APD30を用いた上記受光用APD20のための温度補正バイアス回路の一例を示したもので、6個のトランジスタと、14個の抵抗からなる。101は本温度補正バイアス回路の駆動用のバイアス入力端子で、102は上記受光用APD20のバイアスを与える出力端子で、103は出力端子102の出力を制御する制御端子である。104は温度補正モニタ用の遮光APDに相当するダイオード。
【0006】次に図6の受光用APD20の動作について説明する。アノード電極11にマイナス,カソード電極12にプラスの逆方向バイアスを印加すると、拡散領域7と増倍層5とで形成されるPN接合に逆方向バイアスが印加され、主にキャリア濃度の低い増倍層5の側に空乏層が形成され、さらにバイアスを大きくすると、空乏層はパイルアップ防止層4を通過し、光吸収層3までのびる。さらにバイアスを大きくすると、光吸収層3に形成された空乏層の長さは1~3μm程度に達し、増倍層5,パイルアップ防止層4,光吸収層3にそれぞれ形成された空乏層内のドナーイオンによって生じた空間電荷により電界が発生し、特に拡散領域7と増倍層5との間のPN接合界面で最大電界となる。この様子を図9を用いて説明する。図9は拡散領域7と増倍層5との間のPN接合界面をゼロの位置にし、InP基板1方向へ距離xを取った時に各位置に生じている電界強度E(x)を示している。増倍層5のキャリヤ濃度が、パイルアップ防止層4,光吸収層3のキャリヤ濃度よりも大きいため、電界強度E(x)の傾きも大きく、パイルアップ防止層4の電界強度E(x)の傾きは光吸収層3のそれより若干大きい。さらにバイアスを大きくすると、最大電界強度EBmaxは、ついになだれ増倍を生じさせる臨界電界強度EBava. に達し、この増倍層5でなだれ増倍が生じる。一方、受光領域13より入射された波長約1.3μmの光は、バンドキャップエネルギーの大きい増倍層5,パイルアップ防止層4にはほとんど吸収されず、バンドキャップエネルギーが0.75eVの光吸収層3に達して初めて光吸収が発生し、約1.5μmの距離を通過する間に、そのほとんどが吸収される。光吸収によって生じたキャリヤは、図9で示した内部電界で加速されて、電子と正孔はそれぞれ反対方向へ移動する。特に正孔は、パイルアップ防止層4を通り、増倍層5を通って増倍され、拡散領域7へ達し、多数キャリヤとなってアノード電極11から信号となって観測されるため、微弱な光入力信号でも大きな光電流として観測されるといった、自己増幅機能を持った受光装置であることがこの装置の特徴である。
…(中略)…
【0012】
…(中略)…
一般に、図6における受光用APD及び、図7における遮光APDに限らず、アバランシェ増倍を生じている場合、一定のバイアス下で温度が増加すると、結晶格子の格子振動エネルギーが増加し、キャリヤの散乱確率が増加するため、キャリアの運動エネルギーが減少し、アバランシェ増倍を生じさせるイオン化率は低下する。つまり、温度が増加すると、ブレークダウン電圧が大きい方へシフトした分、一定のバイアス下で使用すると増倍率は減少する。図10、図11、図12にAPDの特性の一例を示す。
【0013】図11は、逆方向電圧Vrに対する逆方向電流Irのグラフを、環境温度がT1 ,T2 の場合について示し、図11はこの時の増倍率Mのグラフを示す。T1とT2 の関係は、T1 <T2 であって、環境温度が高いT2 の方が、Ir=100μAで定義したブレークダウン電圧VB が高く(VB1<VB2)なり、一定のバイアス電圧VM における増倍率Mが小さく(M1 >M2 )なっていることがわかる。図12には環境温度Tに対するブレークダウン電圧VB の関係を示す。このグラフの傾きβは、拡散領域7,増倍率5のキャリヤ濃度,厚さ等によって特に敏感に変化する。
【0014】実使用に際しては、環境温度の変化に対するバイアス補正回路が必要となり、それが、図8で示したバイアス回路と、その中で使用される図7で示した遮光APD30である。図8中で、遮光APD30(104)には、制御端子103で制御した一定の逆方向電流が流れ、温度が変化しても逆方向電流値は一定にしてあるが、遮光APD30の両極端子間の電圧は同じ理由で変化する。この電圧変化をバイアス回路内でフィードバックし、その出力端子102から受光用APD20の印加バイアスとして出力することにより、受光用APD20の入射信号強度を、独立に温度変化を補正して制御し、一定増倍率を与えることが可能となる。」(当合議体注:【0014】の「制御端子102」は、【0004】の「102は上記受光用APD20のバイアスを与える出力端子で、103は出力端子102の出力を制御する制御端子である。」との記載からみて、「制御端子103」の誤記であることが明らかであるから、誤記を正して摘記した。)
「【図6】
[図:0001427552000001.jpg]
【図7】
[図:0001427552000002.jpg]
【図8】
[図:0001427552000003.jpg]
」
(イ) 【発明が解決しようとする課題】(【0015】~【0018】)
「【0015】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、従来の受光用APD,遮光APD,及び温度補正バイアス回路は以上のように構成されているため、遮光APDの特性、特に、ブレークダウン電圧VB と、ブレークダウン電圧が温度に対して変化する量である温度係数βとは、受光用APDのそれに対し同一か、もしくは一定の比例関係のあるものの方が使いやすいが、実際は製造上のばらつき量が大きく、受光用APDの特性に見合う特性を持つ遮光用APDを別途準備する必要があり、その選別に手間がかかるため、歩留が低下し製造コストが上昇するなどの問題点があった。
…(中略)…
【0018】この発明は、以上のような従来の問題点に鑑みてなされたもので、遮光APDの選別を必要とすることなく、補正特性の良い温度補正機能を持つAPDを有する半導体受光装置を提供することを目的としている。」
(ウ) 実施例1(【0032】~【0034】、図1)
「【0032】
【実施例】実施例1.以下、この発明の実施例1を図について説明する。図1は本発明の実施例1による半導体受光装置を示し、図において、図6、図7と同一番号は、同一もしくは相当部分を示している。20は、図6と同じ構造を持つ受光用のAPDの部分を示し、30は、受光用APDと同一チップ内に形成された、図7と同じ構造を持つ温度補正モニタ用の遮光APDの部分である。
【0033】次に本実施例1の半導体受光装置の動作について説明する。本実施例のAPD部20は、従来のものと全く同様に機能し、アノード電極11,カソード電極12間に逆方向バイアスを印加すれば、やがて増倍層5でなだれ増倍が生じ、受光領域13から入射した光によって光吸収層3に生じたキャリヤが増倍され、増幅された信号となって検出される。一方、遮光APD部30の遮光膜14,カソード電極12間にも同様に逆方向バイアスを印加すれば、同様になだれ増倍が生じるが、該遮光APD部には遮光膜14によって外部からの光は全く入射せず、受光用APD部20の受光領域13に信号光が入ってきた場合にもこれと無関係に、環境温度のみで決まる電圧電流特性を与える。従って、図8で示したバイアス回路のダイオード104に代えて遮光APD30を、端子102に受光用APD20をそれぞれ接続すれば、従来と同様に、温度が変化しても、環境温度によって決まる電圧電流特性分が相殺されて、受光用APD部20は一定の増倍率を与えることとなる。
【0034】図1に示した本実施例1の受光装置においては、受光用APD20と遮光APD30を同一チップ上に形成しているため、受光用APD20の特性と遮光APD30の特性とは一定の関係を有しており、このため、受光用APD20の特性に合致した特性を持つ遮光APDを、特別に用意する必要はなくなるという効果が得られる。」
「【図1】
[図:0001427552000004.jpg]
」
イ 引用文献4の記載事項から当業者が把握できる事項
(ア) 【0032】の「図1は本発明の実施例1による半導体受光装置を示し、図において、図6、図7と同一番号は、同一もしくは相当部分を示している。20は、図6と同じ構造を持つ受光用のAPDの部分を示し、30は、受光用APDと同一チップ内に形成された、図7と同じ構造を持つ温度補正モニタ用の遮光APDの部分である。」との記載及び【図1】を併せて見ると、当業者は、図1で示される実施例1に係る半導体受光装置に関して、半導体受光装置は、受光用のAPDの部分20と、受光用APDと同一チップ内に形成された、温度補正モニタ用の遮光APDの部分30を備えることを把握することができる。
(イ) 実施例1に係る【0032】の「20は、図6と同じ構造を持つ受光用のAPDの部分を示し、30は、受光用APDと同一チップ内に形成された、図7と同じ構造を持つ温度補正モニタ用の遮光APDの部分である。」との記載から、当業者は、図6の従来の受光用APDに係る【0002】~【0003】の記載及び図7の従来の温度補正モニタ用の遮光APDに係る【0004】の記載は、実施例1に係る半導体受光装置にも該当する記載であることを把握することができる。また、実施例1に係る【0032】の前記記載に加えて、【0033】の「本実施例のAPD部20は、従来のものと全く同様に機能[する]」との記載を併せて見れば、当業者は、図6の従来の受光用APDに係る【0006】の記載は、実施例1に係る半導体受光装置にも該当する記載であることを把握することができる。さらに、実施例1に係る【0033】の「図8で示したバイアス回路のダイオード104に代えて遮光APD30を、端子102に受光用APD20をそれぞれ接続すれば、従来と同様に、温度が変化しても、環境温度によって決まる電圧電流特性分が相殺されて、受光用APD部20は一定の増倍率を与えることとなる。」との記載も踏まえれば、当業者は、従来のバイアス回路に係る【0014】の記載は、実施例1に係る半導体受光装置にも該当する記載であることを把握することができる。以下(ウ)~(エ)ではこれを踏まえて検討する。
(ウ) 【0003】の「20は本InGaAsAPDであり、1はn+ -InP基板、2は該InP基板1上にエピ成長され、キャリア濃度が1~10×1016cm -3 程度で、厚さが0.5~1.0μmのn型InPバッファ層、3は該バッファ層2上に連続エピ成長され、キャリア濃度が、5×1015cm -3 程度以下に制御された、厚さが4μmのn- -InGaAs光吸収層、4は該光吸収層3上に連続エピ成長され、キャリア濃度が、8×1015cm -3 程度に制御され、厚さが0.1μm程度に制御されたn-InGaAsPパイルアップ防止層、5は該パイルアップ防止層4上に連続エピ成長され、キャリア濃度が1.0~1.3×1016cm -3 に制御され、厚さが1.8~2.0μmに制御されたn-InP増倍層、6は該増倍層5上に連続エピ成長され、キャリア濃度が2×1015cm -3 に制御され、厚さが2μm程度のn- 型InPガードリング層、7は該ガードリング層6の主面より部分的に、その拡散フロントが、前記増倍層5に接するように制御され、Zn,Cdなどのアクセプタ不純物の拡散によって形成されたP+ -InP拡散領域、8は同様に該ガードリング層6の主面より、前記拡散領域7の周囲にリング状に形成され、前記拡散領域7の拡散深さよりも少なくとも深くなるように形成され、かつ、PN接合フロントが傾斜接合となるように形成された、例えばBeのイオン注入などの方法で形成されたP+ -InPガードリング領域、9は前記ガードリング層6上に形成された、例えばSiNなどの誘電体よりなる表面保護膜、10は該表面保護膜9に形成され、前記拡散領域7が露呈されたコンタクトホール、11は該コンタクトホール10を介して前記拡散領域7と電気的に導通するアノード電極、12は前記InP基板1に形成されたカソード電極、13は受光領域を示す。」との記載及び【図1】より、当業者は、実施例1に係る半導体受光装置に関して、受光用APD部20は、n+ -InP基板1、n型InPバッファ層2、n- -InGaAs光吸収層3、n-InGaAsPパイルアップ防止層4、n-InP増倍層5及びn- 型InPガードリング層6の順に積層される積層構造(以下、n+ -InP基板1~n- 型InPガードリング層6からなる積層構造を「半導体積層構造」という。)を備えており、さらに、ガードリング層6の主面より部分的にアクセプタ不純物の拡散によって形成されたP+ -InP拡散領域7と、拡散領域7と電気的に導通するアノード電極11と、InP基板1に形成されたカソード電極と、受光領域13とを備えることを把握できる。また、【0004】の「図7は、従来の温度補正モニタ用の遮光APD30の断面図を示すものである。図7の構造は、図6の受光用APDと本質的には変わらない。14は、例えばAu,Ti等の金属からなる、光の入射を阻止する遮光膜である。」との記載及び【図1】より、当業者は、実施例1に係る半導体受光装置に関して、温度補正モニタ用の遮光APD30の構造は、受光用APDと本質的には変わらず、光の入射を阻止する遮光膜14を備えることを把握できる。
(エ) 【0032】の「20は、図6と同じ構造を持つ受光用のAPDの部分を示し、30は、受光用APDと同一チップ内に形成された、図7と同じ構造を持つ温度補正モニタ用の遮光APDの部分である。」との記載及び【図1】を併せて見ると、当業者は、受光用APD20と遮光APD30が、ガードリング層6の主面(【0003】)に直交する断面において、互いに離間して形成されていることを把握することができる。
ウ 引用発明の認定
前記アに摘記した引用文献4の記載及び前記イの当業者が把握できる事項を総合すると、引用文献4には、図1で示される実施例1に係る半導体受光装置に関して、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。なお、参考までに、引用発明の認定に用いた引用文献4の記載等に係る段落番号等を、括弧内に付しており、他の文献からの認定についても同様である。
<引用発明>
「半導体受光装置であって(【0033】)
半導体受光装置は、受光用のAPD(アバランシェフォトダイオード)の部分20と、受光用APDと同一チップ内に形成された、温度補正モニタ用の遮光APDの部分30を備え、(前記イ(ア)・【0001】)
受光用APD部20は、n+ -InP基板1、n型InPバッファ層2、n- -InGaAs光吸収層3、n-InGaAsPパイルアップ防止層4、n-InP増倍層5及びn- 型InPガードリング層6の順に積層される半導体積層構造を備えており、さらに、ガードリング層6の主面より部分的にアクセプタ不純物の拡散によって形成されたP+ -InP拡散領域7と、拡散領域7と電気的に導通するアノード電極11と、InP基板1に形成されたカソード電極12と、受光領域13とを備え、(前記イ(ウ))
温度補正モニタ用の遮光APD30の構造は、受光用APDと本質的には変わらず、光の入射を阻止する遮光膜14を備え、(前記イ(ウ))
受光用APD20の動作について、アノード電極11にマイナス、カソード電極12にプラスの逆方向バイアスを印加すると、拡散領域7と増倍層5とで形成されるPN接合に逆方向バイアスが印加され、主にキャリア濃度の低い増倍層5の側に空乏層が形成され、さらにバイアスを大きくすると、空乏層はパイルアップ防止層4を通過し、光吸収層3までのび、さらにバイアスを大きくすると、光吸収層3に形成された空乏層の長さは1~3μm程度に達し、増倍層5,パイルアップ防止層4,光吸収層3にそれぞれ形成された空乏層内のドナーイオンによって生じた空間電荷により電界が発生し、特に拡散領域7と増倍層5との間のPN接合界面で最大電界となり、(前記イ(イ)・【0006】)
一般に、アバランシェ増倍を生じている場合、一定のバイアス下で温度が増加すると、ブレークダウン電圧が大きい方へシフトした分、一定のバイアス下で使用すると増倍率は減少し、(【0012】)
実使用に際しては、環境温度の変化に対するバイアス補正回路が必要であり、それが、バイアス回路と、その中で使用される遮光APD30であり、遮光APD30(104)には、制御端子103で制御した一定の逆方向電流が流れ、温度が変化しても逆方向電流値は一定にしてあるが、遮光APD30の両極端子間の電圧は同じ理由で変化し、この電圧変化をバイアス回路内でフィードバックし、その出力端子102から受光用APD20の印加バイアスとして出力することにより、受光用APD20の入射信号強度を、独立に温度変化を補正して制御し、一定増倍率を与えることが可能となり、(前記イ(イ)・【0014】)
受光用APD20と遮光APD30が、ガードリング層6の主面に直交する断面において、互いに離間して形成されており、(前記イ(エ))
APD部20は、アノード電極11,カソード電極12間に逆方向バイアスを印加すれば、やがて増倍層5でなだれ増倍が生じ、受光領域13から入射した光によって光吸収層3に生じたキャリヤが増倍され、増幅された信号となって検出され、一方、遮光APD部30の遮光膜14,カソード電極12間にも同様に逆方向バイアスを印加すれば、同様になだれ増倍が生じるが、該遮光APD部には遮光膜14によって外部からの光は全く入射せず、受光用APD部20の受光領域13に信号光が入ってきた場合にもこれと無関係に、環境温度のみで決まる電圧電流特性を与え、温度が変化しても、環境温度によって決まる電圧電流特性分が相殺されて、受光用APD部20は一定の増倍率を与えることとなる、(【0033】)
半導体受光装置」
(2) 引用文献2~3の記載及び周知技術の認定
ア 引用文献2に記載された事項
本願の優先日前に発行された引用文献2(特開昭61-289677号公報)には、以下の事項が記載されている。
(ア) 「第1図は本発明による半導体光検出装置の一実施例を示す平面図、第2図は第1図のX-X線断面図であり、第4図ないし第5図と同等部分については同一の符号を付けている。
これらの図の半導体光検出装置は、半導体基板上に通常のブレーナ・トランジスタやダイオード等を形成していく半導体素子製造手段にて形成されたものであり、高濃度のn+型半導体基板1上に形成されたn-型エピタキシャル層2に、p+型不純物を略円形に拡散して3個のp+型拡散層(拡散領域A)3を形成し、所謂PINフォトダイオードと称される受光素子X1,X2,X3を形成し、それぞれのp+型拡散層3の周囲に所定の間隔で、それと同一導電型の、即ちp+型不純物を拡散してガードリング9を形成している。
そして、表面部は二酸化ケイ素(Si02)等の絶縁膜で覆われ保護されている。同図中の5aは受光素子を保護する絶縁膜、5bが外側の表面を保護する絶縁膜である。
絶縁膜5a,5bには、フォトエッチングによって形成された穴を通ってそれぞれのp+型拡散層3の周囲にリング状にオーム接触する環状電極6aが形成され、それぞれのPINフォトダオードの信号出力用ボンディングパッドのコンタクト部6bに電気的に接続している。
更に、フォトエッチングにより絶縁膜5a,5bに形成されたリング状の穴を介してp+型のガードリング9に電圧を印加するための環状電極8aが形成され、他のポンディングパッドのコンタクト部8bに接続し、ガードリング用電極は8a,8bとからなる。」(第3頁左上欄第20行~左下欄第10行)
(イ) 「第3図は第1図ないし第2図の半導体光検出装置の等価回路図であり、X1,X2,X3はPINフォトダイオードを、Dはp+型ガードリング9によるPINダイオードを示し、金属電極4とコンタクト部6b、8b間に逆バイアスの電源を接続する。
まず、コンタクト部6b,8bにマイナス電圧を印加して、PINフォトダイオードX1,X2,X3とPINダイオードDを逆バイアスに接続しているので、第2図の点線で示すように、p+型拡散層3とp+型のガードリング9よりエピタキシャル層2側に空乏層10,11が広がる。尚、空乏層10,11が共にn+型基板1に達する電圧以上の逆バイアスの電圧を印加することが好ましい。この電圧は高抵抗エピタキシャル層2の厚さと不純物濃度により容易に決定できる。
ここで、半導体光検出装置に光を照射した場合、受光素子に入射した光により発生したキャリアはp+拡散層3側の空乏層10の内部電界にて集められ、受光量に比例した光電流となる。
一方、受光素子以外の部分に入射した光によりエピタキシャル層2に誘起されたキャリアは、なかには拡散して受光素子方向に向うものもあるが、受光素子空乏層10はガードリング空乏層11によって周囲を完全に囲まれているため、これらのキャリアはガードリンク空乏層11中の内部電界によって集められ、ガードリングの電流成分となる。」(第3頁左下欄第17行~第4頁左上欄第4行、当合議体注:「内部電解」(2箇所)は、技術常識からみて「内部電界」の誤記であることが明らかであるから、誤記を正して摘記した。)
(ウ) 「又、実施例では、複数個の受光素子が存在する場合を説明したが、受光素子が1個しかない場合でも、ガードリングを設けることにより遮光膜が不要となり、また正確に受光素子からの光電流のみが得られる。
(発明の効果)
以上説明したように本発明によれば、半導体受光素子の回りにガードリングを形成したので、該ガードリングに所定の電圧を印加して空乏層を形成するように駆動して使用すれば、受光素子以外の領域に入射する光にて誘起されたキャリアの受光素子への侵入を防止することができることから、受光量に対応した精度の良い光検出を行うことができる。」(第4頁左下欄第10~右下欄第3行)
(オ) 図面
「第1図
[図:0001427552000005.jpg]
第2図
[図:0001427552000006.jpg]
第3図
[図:0001427552000007.jpg]
」
イ 引用文献3に記載された事項
本願の優先日前に発行された引用文献3(特開2004-303878号公報)には、以下の事項が記載されている。
(ア) 【発明の属する技術分野】、【従来の技術】、【発明が解決しようとする課題】(【0001】~【0009】)
「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、受光素子アレイ、特にガードリングを備える受光素子アレイに関する。
…(中略)…
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
従来のフォトダイオード・アレイは、受光領域外に入射した光、あるいは隣接するセルに入射した光に対しても感度を有する(クロストークが発生する)ため、誤って信号として認識する可能性が生じる。これは、キャリアが拡散によってある確率で近接セルに到達し、電流(信号)として検出されるためである。
…(中略)…
【0009】
本発明は、このような従来の問題点に着目してなされたもので、その目的は、フォトダイオード・アレイにガードリングを設けることで、受光領域外への入射光に対する感度の抑制および隣接セル間のクロストーク低減化を可能にすることにある。」
(イ) 【第1実施例】(【0013】~【0019】、図2~6)
「【0013】
【発明の実施の形態】
【第1実施例】
図2に、本発明の第1実施例であるガードリングつきフォトダイオード・アレイ16の構成を示す。図2において、ガードリング18は受光領域(セル)と同様、拡散技術により作製したpn接合であり、列状に配列されたフォトダイオードを取り囲むように形成されている。
【0014】
図3に、図2のX-X′線断面を示す。n型InP基板30上にノンドープ(i型)InGaAs層32,n型InP層34を形成し、InP層34にZnを拡散してp型拡散領域を形成する。拡散領域36はフォトダイオードの受光領域12を、拡散領域38はガードリング18を構成する。各受光領域12上には、p型電極(アノード)14が形成され、n型InP基板30の裏面には、コモンのn型電極(カソード)40が形成される。
【0015】
図2に示すように、ガードリング18には電極42を設けてあり、コモン電極40と電気的に接続することで外部に光電流を流すことができる。また、電極42を、コモン電極40に接続することなく、電極42とコモン電極40との間に逆バイアスを印加することも可能である。
【0016】
図4は、ガードリングつきフォトダイオード・アレイ16に光が入射した時のキャリア(図中の●印)の動きを示す。図4(A)は平面図を、図4(B)はY-Y′線断面図を示す。図は光が受光領域外に入射した場合を示しているが、受光素子としては迷光など受光領域外への入射光に対して感度を持たないことが望ましい。つまり、図中の実線矢印で示す方向、すなわち受光領域への方向へのキャリアの移動は、できる限り抑制する必要がある。
【0017】
図5は、図6に示すようにX-Y座標軸を原点0を受光領域の中心に位置させて設定したときの、Y方向すなわちガードリングへの方向に対する光感度分布の測定結果を示している。なおX方向は、フォトダイオードの配列方向にとる。
【0018】
図5において、曲線Aは本実施例のガードリング有りの場合の光感度分布を、曲線Bはガードリング無しの場合の光感度分布を示している。
【0019】
光感度は、受光領域の電極から取り出される電流の値から求めている。光の入射位置が受光領域から外れると、原点0から離れるに従って光感度が低下するが、カードリング18が有る場合の方が無い場合よりも低減効果が大きくなっている。これは、ガードリング18を形成した場合、図4に示す点線矢印の方向へ拡散してきたキャリアをガードリング18で捕獲することにより、受光領域側へのキャリアの拡散を抑制できることを示している。」
「【図2】
[図:0001427552000008.jpg]
【図3】
[図:0001427552000009.jpg]
【図4】
[図:0001427552000010.jpg]
【図5】
[図:0001427552000011.jpg]
【図6】
[図:0001427552000012.jpg]
」
(ウ) 【第2実施例】(【0020】~【0021】、図7~8)
「【0020】
【第2実施例】
図7は、本発明の第2の実施例であるガードリングつきフォトダイオード・アレイ44を示す。各セルを取り囲むようにはしご状ガードリング46を構成する。48は、ガードリング46上に形成された電極である。
【0021】
このような構成のガードリングは、受光領域外へ入射した光によって発生したキャリアをより効果的に捕獲することができる。これは、X方向に対する光感度分布を測定することで確認することができる。X方向の原点は、受光領域の中心である。図8はその測定結果を示す。曲線Cはガードリング有りの場合の光感度分布を、曲線Dはガードリング無しの場合の光感度分布を示している。これら曲線から、ガードリング効果により受光領域外の光に対する光感度が十分低減できることがわかる。またこの場合、結果的に隣接セルとのクロストークも低減化できる。」
「【図7】
[図:0001427552000013.jpg]
【図8】
[図:0001427552000014.jpg]
」
(エ) 【第3実施例】(【0022】~【0025】)
「【0022】
【第3実施例】
第1実施例および第2実施例のガードリング効果は、ガードリングとセルの距離が近いほど大きくなるが、セルおよび電極の形状や配置に応じてガードリングパターンを変形することは可能である。
…(後略)…」
ウ 引用文献3の記載事項から当業者が把握できる事項
(ア) 前記イ(ウ)記載の第2実施例に係るガードリングつきフォトダイオード・アレイにおいて、ガードリングの形状及び配置以外の構成は、前記イ(イ)記載の第1実施例に係るガードリングつきフォトダイオード・アレイと同様であることを当業者は把握することができる。そうすると、【0020】の記載も考慮すると、前記イ(ウ)記載の第2実施例において、「n型InP基板30上にノンドープ(i型)InGaAs層32,n型InP層34を形成し、InP層34にZnを拡散してp型拡散領域を形成[し]」、「拡散領域36はフォトダイオードの受光領域12を、拡散領域38はガードリング46を構成[し]」、「各受光領域12上には、p型電極(アノード)14が形成され、n型InP基板30の裏面には、コモンのn型電極(カソード)40が形成され」、「ガードリング46には電極48を設けてあり、コモン電極40と電気的に接続することで外部に光電流を流すことができ」、「電極48とコモン電極40との間に逆バイアスを印加することも可能である」という構成を備えることを、当業者は把握することができる。また、フォトダイオードの動作においては逆バイアス電圧を印加するという技術常識を踏まえれば、「電極14とコモン電極40間に逆バイアスが印加されている」ことを、当業者は把握することができる。
(イ) 前記(ア)も考慮すると、前記イ(イ)、(エ)より、引用文献3の「フォトダイオードの受光領域12」となる「拡散領域36」と「ガードリング46」となる「拡散領域38」は、所定の間隔で配置されることを当業者は把握することができる。
エ 周知技術の認定
前記ア、イに摘記した引用文献2、3の記載事項及び前記ウで説示した引用文献3の記載事項から当業者が把握できる事項から、半導体光検出装置について、以下の技術事項は周知技術であると認められる。
<周知技術>
「半導体光検出装置において、n型の半導体基板上に形成されたn型半導体層に、それぞれp型不純物を拡散して受光領域となるp型拡散層及びガードリングとなるp型拡散層を形成し、受光領域であるp型拡散層上には、アノード電極を形成し、(前記ア(ア)、前記ウ(ア)、引用文献3(【0020】))
半導体基板の裏面には、カソード電極を形成し、ガードリングにはカードリング用の電極を形成し、アノード電極とカソード電極の間、及び、ガードリング用の電極とカソード電極の間には、それぞれ逆バイアスを印加し、(前記ア(ア)、同(イ)、前記ウ(ア))
ガードリングは、受光領域となるp型拡散層の周囲を囲んでおり、受光領域となるp型拡散層とガードリングとなるp型拡散層を、所定の間隔で配置し、このようなガードリングを設けることで、受光領域以外の領域に入射する光にて誘起されたキャリアの受光領域への侵入を防止すること(前記ア(ア)、同(ウ)、前記ウ(イ)、引用文献3【0020】~【0021】)」
2 対比
(1) 対比分析
本願発明と引用発明を対比する。
ア 引用発明の「半導体受光装置」は、本願発明の「光検出装置」に相当するから、本願発明と引用発明は、「光検出装置」の発明である点で一致する。
イ(ア) 引用発明の「受光用のAPD(アバランシェフォトダイオード)の部分20」は、本願発明の「アバランシェフォトダイオード」に相当する。
(イ) 引用発明の「遮光APDの部分30」は、「温度補正モニタ用」のものであり、「電圧変化をバイアス回路内でフィードバックし、その出力端子102から受光用APD20の印加バイアスとして出力することにより、受光用APD20の入射信号強度を、独立に温度変化を補正して制御し、一定増倍率を与える」ことも踏まえれば、本願発明の「温度補償用ダイオード」に相当する。
(ウ) 引用発明の「半導体積層構造」は、半導体材料から構成された部材であるから、本願発明の「半導体基板」に相当する。
(エ) 引用発明の「半導体積層構造」において、引用発明の「ガードリング層6の主面」及び「InP基板1」の「カソード電極11」が形成される面は、それぞれ本願発明の「第一主面」及び「第二主面」に相当する。そして、「半導体積層構造」は、「n+ -InP基板1、……及びn- 型InPガードリング層6の順に積層される積層構造」であるから、「ガードリング層6の主面」と「InP基板1」の「カソード電極12」が形成される面とは、互いに対向する関係にあるといえる。したがって、引用発明の「半導体積層構造」は、本願発明でいう「互いに対向する第一主面及び第二主面を有する」ものであるといえる。
(オ) 引用発明は、「受光用APD部20」は「半導体積層構造を備えて[いる]」ところ、「遮光APD30の構造は、受光用APDと本質的には変わら[ない]」ことから、「遮光APD30」もまた、「半導体積層構造を備えて[いる]」ことが理解できる。そして、引用発明は、「受光用のAPD(アバランシェフォトダイオード)の部分20と、受光用APDと同一チップ内に形成された、温度補正モニタ用の遮光APDの部分30を備え[る]」ものであることも勘案すれば、「半導体積層構造」は、当該「チップ内」において「受光用APD部20」と「遮光APD30」で共通して形成されているものといえる。したがって、引用発明の「半導体積層構造」は、本願発明でいう「アバランシェフォトダイオードと温度補償用ダイオードとが形成された」ものであるといえる。
(カ) 引用発明は、「受光用APD20と遮光APD30が、ガードリング層6の主面に直交する断面において、互いに離間して形成されて[いる]」ものであるところ、ガードリング層6の主面に直交する方向から見ても、離間していることは明らかである。したがって、前記(オ)での検討も踏まえると、引用発明の「受光用APD部20」と「遮光APD30」は、本願発明でいう「前記第一主面に直交する方向から見て互いに離間して」形成されたものであるといえる。
(キ) 前記(ア)~(カ)をまとめると、本願発明と引用発明は、「互いに対向する第一主面及び第二主面を有すると共に、前記第一主面に直交する方向から見て互いに離間してアバランシェフォトダイオードと温度補償用ダイオードとが形成された半導体基板を備え[る]」点で一致する。
ウ 引用発明の「半導体積層構造」を構成する「n型InPバッファ層2、n- -InGaAs光吸収層3、n-InGaAsPパイルアップ防止層4、n-InP増倍層5及びn- 型InPガードリング層6」は、いずれもn型半導体である。そうすると、引用発明の「n型InPバッファ層2、n- -InGaAs光吸収層3、n-InGaAsPパイルアップ防止層4、n-InP増倍層5及びn- 型InPガードリング層6」は、本願発明の「第一導電型の半導体領域」に相当する。したがって、前記イ(ウ)も踏まえれば、本願発明と引用発明は、「前記半導体基板は、第一導電型の半導体領域を含[む]」点で一致する。
エ(ア) 引用発明の「受光用APD20」は、「ガードリング層6の主面より部分的にアクセプタ不純物の拡散によって形成されたP+ -InP拡散領域7」を備えるものであるから、前記ウも踏まえれば、本願発明でいう「前記第一導電型と異なる第二導電型の半導体層を含[む]」ものである。
(イ) 引用発明の「遮光APD30」は、「構造は、受光用APDと本質的には変わら[ない]」ものであるから「受光用APD20」と同様に、「ガードリング層6の主面より部分的にアクセプタ不純物の拡散によって形成されたP+ -InP拡散領域7」を備えるものであるといえる。したがって、前記ウも踏まえれば、引用発明の「遮光APD30」は、本願発明でいう「前記第一導電型と異なる第二導電型の半導体層を含[む]」ものである。
(ウ) 前記(ア)及び(イ)をまとめると、本願発明と引用発明は、「前記アバランシェフォトダイオード及び前記温度補償用ダイオードは、それぞれ、前記第一導電型と異なる第二導電型の半導体層を含[む]」点で一致する。
オ(ア) 引用発明は、「遮光APD30の遮光膜14,カソード電極12間にも同様に逆方向バイアスを印加すれば、同様になだれ増倍が生じる」ものであるところ、APDにおいてブレークダウン電圧を逆バイアスとして印加することでなだれ増倍が生じるとの技術常識を踏まえれば、「逆方向バイアス」としてブレークダウン電圧が印加されているものであるといえる。
(イ) 引用発明は、「環境温度の変化に対するバイアス補正回路が必要であり、それが、バイアス回路と、その中で使用される遮光APD30であり、遮光APD30(104)には、制御端子103で制御した一定の逆方向電流が流れ、温度が変化しても逆方向電流値は一定にしてあるが、遮光APD30の両極端子間の電圧は同じ理由で変化し、この電圧変化をバイアス回路内でフィードバックし、その出力端子102から受光用APD20の印加バイアスとして出力することにより、受光用APD20の入射信号強度を、独立に温度変化を補正して制御し、一定増倍率を与えることが可能とな[る]」ものであるところ、引用発明の「受光用APD20の印加バイアス」及び「受光用APD20」の「一定増倍率」は、本願発明の「前記アバランシェフォトダイオードに」「印加する」「バイアス電圧」及び「アバランシェフォトダイオードの増倍率」に相当する。また、引用発明の「遮光APD30の両極端子間の電圧」は、前記(ア)の「遮光APD30」に「印加」される「逆方向バイアス」を意味することが理解できる。そうすると、前記(ア)も踏まえると、本願発明と引用発明は、「前記温度補償用ダイオードに印加されるブレークダウン電圧に応じた電圧を前記アバランシェフォトダイオードにバイアス電圧として印加することで、前記アバランシェフォトダイオードの増倍率の温度補償が行われる」点で一致する。
(2) 一致点及び相違点
前記(1)の対比分析を踏まえると、本願発明と引用発明の一致点及び相違点は、以下のとおりである。
ア 一致点
「光検出装置であって、
互いに対向する第一主面及び第二主面を有すると共に、前記第一主面に直交する方向から見て互いに離間してアバランシェフォトダイオードと温度補償用ダイオードとが形成された半導体基板を備え、
前記半導体基板は、第一導電型の半導体領域を含み、
前記アバランシェフォトダイオード及び前記温度補償用ダイオードは、それぞれ、前記第一導電型と異なる第二導電型の半導体層を含み、
前記温度補償用ダイオードに印加されるブレークダウン電圧に応じた電圧を前記アバランシェフォトダイオードにバイアス電圧として印加することで、前記アバランシェフォトダイオードの増倍率の温度補償が行われる」点。
イ 相違点
本願発明は、「前記半導体基板は、前記第一主面に直交する方向から見て前記アバランシェフォトダイオードを囲んでおり、かつ、周辺に位置するキャリアを吸収する周辺キャリア吸収部を有し、」「前記周辺キャリア吸収部は、前記第一主面に直交する方向から見て、前記半導体領域に接していると共に前記半導体領域に囲まれている、前記第一導電型又は前記第二導電型の半導体層を含んでおり、前記周辺キャリア吸収部の一部は、前記第一主面に直交する方向から見て、前記アバランシェフォトダイオードと前記温度補償用ダイオードとの間に位置[する]」という構成を有するのに対し、引用発明は当該周辺キャリア吸収部を備えない点。
3 判断
(1) 相違点についての検討
前記相違点について検討する。
ア 半導体を用いた受光装置の技術分野において、受光領域以外に入射した光に起因したキャリアによる検出結果のノイズを低減することは広く認識された課題であるから、引用発明の「半導体受光装置」においても、当業者は受光領域以外に入射した光に起因したキャリアによる検出結果のノイズを低減する動機を有する。
そして、引用発明から出発し、前記動機を有する当業者であれば、「半導体光検出装置において、」「受光領域以外の領域に入射する光にて誘起されたキャリアの受光領域への侵入を防止する」前記周知技術に接することができる。
さらに、前記周知技術に係る半導体光検出装置においては、「n型半導体層に、」「p型不純物を拡散して受光領域となるp型拡散層」「を形成[する]」構成は、引用発明の「受光用APD20」において「n- 型InPガードリング層6」「の主面より部分的にアクセプタ不純物の拡散によって形成されたP+ -InP拡散領域7」「を備え[る]」構成と、n型半導体層にp型の不純物を拡散した拡散層を備える点で、素子の構造が共通するものである。
してみると、引用発明の受光用APD20に対し、受光領域以外に入射した光に起因したキャリアによる検出結果のノイズを低減するために、前記周知技術を適用して、n- 型InPガードリング層6にp型不純物を拡散してガードリングとなるp型拡散層を形成し、ガードリングにはカードリング用の電極を形成し、ガードリング用の電極及びカソード電極12の間には、逆バイアスを印加し、ガードリングは、P+ -InP拡散領域7の周囲を囲んでおり、P+ -InP拡散領域7とガードリングとなるp型拡散層を、所定の間隔で配置することで、受光領域以外の領域に入射する光にて誘起されたキャリアの受光領域への侵入を防止する構成(以下「ガードリング形成構成」という。)とすることは、前記動機を有する当業者であれば、容易に想到し得たことである。
イ このとき、ガードリング形成構成におけるガードリングは、受光領域以外の領域に入射する光にて誘起されたキャリアの受光領域への侵入を防止するものであるから、相違点に係る本願発明の「周辺に位置するキャリアを吸収する周辺キャリア吸収部」に相当し、ガードリング形成構成は、相違点に係る本願発明でいう「前記半導体基板は、」「周辺に位置するキャリアを吸収する周辺キャリア吸収部を有[する]」ものとなる。また、ガードリング形成構成におけるガードリングは、P+ -InP拡散領域7の周囲を囲んでいるものであるから、ガードリング層6の主面に垂直な方向から見ても、P+ -InP拡散領域7の周囲を囲んでいることとなるのは明らかである。したがって、ガードリング形成構成におけるガードリングは、本願発明でいう「前記第一主面に直交する方向から見て前記アバランシェフォトダイオードを囲んで[いる]」ものとなる。
ウ また、ガードリング形成構成におけるガードリングは、n- 型InPガードリング層6にp型不純物を拡散してガードリングとなるp型拡散層を形成したものであることを考慮すれば、ガードリング層6の主面に垂直な方向から見れば、n- 型InPガードリング層6に接していると共に囲まれることになるから、本願発明でいう「前記第一主面に直交する方向から見て、前記半導体領域に接していると共に前記半導体領域に囲まれている」ものとなる。
エ そして、ガードリング形成構成におけるガードリングとなるp型拡散層は、本願発明の「第二導電型の半導体層」に相当するから、ガードリング形成構成におけるガードリングは、本願発明でいう「前記第一導電型又は前記第二導電型の半導体層を含んで[いる]」ものである。
オ さらに、ガードリング形成構成におけるガードリングは、P+ -InP拡散領域7の周囲を囲んでいるから、ガードリング層6の主面に垂直な方向から見れば、受光用APD20と遮光APD30との間にも配置されることになることになり、本願発明でいう「前記周辺キャリア吸収部の一部は、前記第一主面に直交する方向から見て、前記アバランシェフォトダイオードと前記温度補償用ダイオードとの間に位置[する]」ものとなる。
カ 小括
前記ア~オで検討したとおり、引用発明に周知技術を適用してガードリング形成構成とすることにより、当業者は、相違点に係る本願発明の構成に至ることとなる。
(2) 効果についての検討
本願発明の奏する効果は、本願発明の構成が奏するものとして、引用発明及び周知技術に基づいて当業者にとって予測可能なものであり、格別顕著な効果であるともいえない。
(3) 請求人の主張についての検討
ア 請求人は、周知技術を示す文献として例示した引用文献2、3には、PINフォトダイオードやフォトダイオード・アレイの周りにガードリングを設けることが開示されているに過ぎず、温度補償ダイオード及びAPDについての記載がない旨を主張している。
しかしながら、引用発明が温度補償ダイオード及びAPDを備えていることは前記2(1)イで説示したとおりであり、引用発明の受光用APD20に対し、受光領域以外に入射した光に起因したキャリアによる検出結果のノイズを低減するために、周知技術を適用して、ガードリング形成構成とすることは当業者が容易になし得たことであることは、前記(1)アで説示したとおりである。
イ 請求人はまた、引用文献2、3に開示のキャリア発生は、受光領域外に入射した光によって生じるものであって、温度補償ダイオードの発光によって生じる本願とは原因が異なるため、効果が異なることを主張している。
しかしながら、ガードリング形成構成は、その発生源によらずガードリングの外側で発生したキャリアの受光用APD20への侵入を防止することができることは明らかであるから、当該効果は引用発明及び前記周知技術に基づいて当業者にとって予測可能なものであり、格別顕著な効果であるともいえないことは前記(2)で説示したとおりである。
ウ 請求人は、さらに、APDはPINフォトダイオードよりも高い電圧を動作時に付与するものであり、APDとその周辺の部材との短絡を防ぐことは、当業者であれば最も危惧するところであるから、当業者が引用発明に周知技術に係るガードリングを適用しようとすることはないと主張している。
しかしながら、ガードリング形成構成は、「アノード電極11にマイナス、カソード電極12にプラスの逆方向バイアスを印加する」とともに、カードリング用の電極を形成し、ガードリング用の電極及びカソード電極12の間には、逆バイアスを印加するものであるから、アノード電極11及びガードリング用の電極にはいずれも逆方向バイアス電圧が印加されることになる。ここで、APDに付与される高い電圧とは、APDのアノード電極及びカソード電極間の電圧、すなわち、APDのPN接合に印加される逆方向バイアス電圧を意味するものであり、APDに付与される電圧が高いことは、アノード電極11とガードリング用の電極間の電位差が大きくなることを直ちに意味するものではない。このことは、たとえば、引用文献2の「受光素子とこのガードリングに同一で、それぞれの空乏層が基板に到達する以上の逆バイアス電圧を印加すると、受光素子以外の領域に入射する光に誘起されたキャリアはガードリングの電流成分となり、受光素子側へ侵入しない。そのため、余分な光電流が流れない。」(第2頁右下欄第12~17行)との記載からも首肯される。さらに、引用文献2の「逆バイアス電圧が高い場合には、それぞれ別個のプロセスにて拡散し、p+型ガードリング9をp+型拡散層3に比べてエピタキシャル層2の深層部まで拡散するようにし、耐圧を向上させる事が望ましい」(第4頁左上欄第17行~右上欄第1行)との記載を踏まえれば、周知技術を例示する引用文献2においては、ガードリングに高い逆バイアスを印加することも想定され得たことであるといえる。仮に、アノード電極11とガードリング用の電極の間で短絡のおそれが生じ得るとしても、引用文献2の「p+型ガードリング9とp+型拡散層3との間隔は、表面暗電流(リーク電流)を低減するために可能な限り小さく[する]」(第4頁右上欄第2~4行)との記載や、引用文献3の「第1実施例および第2実施例のガードリング効果は、ガードリングとセルの距離が近いほど大きくなるが、セルおよび電極の形状や配置に応じてガードリングパターンを変形することは可能である」(【0022】)との記載を踏まえれば、ガードリング形成構成のP+-InP拡散領域及びガードリングの間隔を決定するにあたり、可能な限り、すなわち、当該間隔を短絡が生じない程度の間隔とすることで短絡を防止できるから、引用発明に周知技術のガードリングを適用することに阻害要因はない。
エ したがって、請求人の主張はいずれも採用することはできない。
4 当審の判断のまとめ
以上検討のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2024-007111