特許拒絶査定不服審判
2019-002500
エラスチン様ペプチドを含む治療剤
- 審判番号
- 2019-002500
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2017-032577外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2019年02月25日
- 審決日
- 2021年02月24日
- 公報発行日
- 2021年08月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】デューク ユニバーシティ
- 【請求人代理人】稲葉 良幸
- 【請求人代理人】大貫 敏史
- 【請求人代理人】江口 昭彦
- 【請求人代理人】内藤 和彦
- 分類
- P18 .121-WZ (A61P)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2017- 32577「エラスチン様ペプチドを含む治療剤」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 5月25日出願公開、特開2017- 88627〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本願は、2009年6月29日(パリ条約による優先権主張 2008年6月27日(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする特願2011-516765号の一部を平成27年8月7日に新たな出願とした特願2015-157011号の一部を、さらに平成29年2月23日に新たな出願としたものであり、その主な手続の経緯は、次のとおりである。
平成29年 2月27日受付 手続補正書の提出
同年11月24日付け 拒絶理由通知書
平成30年 5月31日受付 意見書の提出
同年10月22日付け 拒絶査定
平成31年 2月25日受付 手続補正書及び審判請求書の提出
同年 4月 3日受付 手続補正書(方式)の提出
令和 1年 5月14日付け 前置報告書
令和 2年 6月25日付け 拒絶理由通知書(当審)
同年11月25日受付 手続補正書、意見書及び手続補足書の提出
第2 本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1~9に係る発明は、令和2年11月25日受付の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~9に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明は、以下のとおりである。
「【請求項1】
エラスチン様ペプチド(ELP)と融合したGLP-2ペプチドである融合タンパク質、及び薬学的に許容される担体又は賦形剤を含む治療用組成物であって、
前記エラスチン様ペプチドは、少なくとも90のVPGXG繰り返しユニット(配列番号3)を含み、各Xは、5:2:3の比でバリン、アラニン又はグリシン残基から独立して選択され、
前記融合タンパク質は、融合していないGLP-2ペプチドと比較して血清中の半減期が少なくとも5倍の延長を示す、治療用組成物。」(以下、「本願発明」という。)
第3 当審において通知した拒絶理由
当審において令和2年6月25日付けで通知した拒絶理由のうち、理由2の要旨は以下のとおりである。
本願の請求項1~9に係る発明は、引用文献1に記載された発明、及び引用文献1~3に記載された事項に基いて、本願優先日前の当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
<引用文献一覧>
引用文献1:国際公開第2008/030968号
引用文献2:特表2004-532819号公報
引用文献3:国際公開第2008/028117号
第4 引用文献に記載された事項及び引用発明
1 引用文献1(国際公開第2008/030968号)について
(1)引用文献1には、以下の事項が記載されている。原文は外国語であるため、当審合議体による日本語訳を記載する。なお、下線は当審合議体が付した。
(1a)「1.少なくとも1つのペプチド活性治療剤と結合した少なくとも1つのエラスチン様ペプチド(ELP)を含む、融合タンパク質(FP)治療用組成物。
・・・
4.前記ペプチド活性治療剤が、前記ELPと結合していない対応するペプチド活性治療剤と比較して、in vivo効力が増強されていることを特徴とする、請求項1に記載のFP治療用組成物。
5.前記in vivo効力の増強が、溶解性、生物学的利用性、生物学的利用不能性、有効治療量、製剤適合性、タンパク質溶解抵抗性、投与されたペプチド活性治療剤の半減期、投与後の体内での残存率、及び投与後の身体からのクリアランス速度からなる群より選択される特徴の増強を含む、請求項4に記載のFP治療用組成物。」(請求項1~5)
(1b)「[0002] 本発明は、エラスチン様ペプチド(ELPs)とペプチド活性治療剤とを含む融合タンパク質(FPs)を組み込んだ、新しい世代の治療用組成物を提供する。本発明の治療用組成物は、ELPsが付随していない同じペプチド活性治療剤を含有する対応する組成物と比較して、溶解性、生物学的利用性又は生物学的利用不能性(biounavailability)、及び投与されたペプチド活性治療剤の半減期の改善の達成を可能にする。」(段落[0002])
(1c)「[0028] 本明細書で用いる場合、本発明による製剤の「薬学的に許容される」成分(塩、担体、賦形剤又は希釈剤など)は、(1)本発明のFPと、FPの生物学的活性を失うことなく組み合わせることができる点で、製剤のその他の成分と適合し、(2)過度の有害副作用(毒性、刺激及びアレルギー応答など)なしで動物(ヒトを含む)への使用に適する成分である。副作用は、その危険性が医薬組成物により提供される利益を超える場合に「過度」である。医薬的に許容される成分の例は、限定されないが、リン酸緩衝塩溶液、水のような任意の標準的な医薬担体、油/水エマルジョン、マイクロエマルジョンのようなエマルジョン、及び種々の湿潤剤を含む。」(段落[0028])
(1d)「[0041] 本発明の実施において、ELP種は、治療用組成物中のペプチド活性治療剤を安定化するか、または改良するように機能する。結合したペプチド活性治療剤-ELP構築物をペプチド活性治療剤を必要とする患者に投与した後に、ペプチド活性治療剤及びELPは互いに結合したままである一方で、ペプチド活性治療剤は、例えば疾患状態もしくは生理的状態の治療もしくは予防またはその他の治療上の介在に対して治療活性がある。
[0042] 例えば、本発明の治療用組成物中のELPは、限定されないが以下のものを含む、種々の特徴的なテトラペプチド、ペンタペプチド、ヘキサペプチド、ヘプタペプチド、オクタペプチド及びノナペプチドのポリマー又はオリゴマー反復で形成されるELPを含んでよい:
・・・
(c)ペンタペプチドVal-Pro-Gly-X-Gly(配列番号3)、又はVPGXG(式中、Xは、任意の天然又は非天然のアミノ酸残基であり、Xは、ポリマー又はオリゴマー反復の間で任意選択により変動してよい);
・・・。」(段落[0041] ~[0042])
(1e)「[0067] 以下の実施例の部分では、ELPと結合した活性治療剤は、治療剤の遊離のタンパク質形態と比較して有意な量の治療剤の生物学的活性を保持することがわかる。さらに、ELPが長い半減期を示すことも示される。相応して、本発明に従い、ELPは、治療剤の半減期を、治療剤がELPに結合されている時に、遊離(結合していない)形態の治療剤の半減期と比較して、実質的に(特定の実施形態では、例えば10%、20%、30%、50%、100%、200%またはそれより多くを超えて)増加させるために用い得る。さらに、ELPは、in vivo投与されたときに高血液含量器官を標的にすることが示され、ゆえに体内で分配されて、身体の種々の器官又は領域のうちのあらかじめ決められた所望の身体的分布、又は治療剤の所望の選択性もしくはターゲティングを提供できる。要するに、本発明により意図される活性ELP-治療剤コンジュゲートは、半減期が延長された活性な部位特異的組成物として投与されるか又はin vivoにて生成される。[0068] 本発明の一実施形態において、ELPの長さは、5~約500アミノ酸残基、より好ましくは約10~約450アミノ酸残基、さらにより好ましくは約15~約150アミノ酸残基である。ELPの長さは、目標Ttを維持しながら、ELP配列内に疎水性ゲスト残基をより大きい割合で取り込むことにより、低下させ得る。」(段落[0067]~[0068])
(1f)「[0069] ペプチド活性治療剤-ELP構築物中の活性治療剤は、任意の好適なタイプのものであり得る。好適なペプチドは、エリスロポエチン、マゲイニン、ベータ-デフェンシン、インターフェロン、インスリン、モノクローナル抗体、血液因子、コロニー刺激因子、成長ホルモン、インターロイキン、成長因子、治療用ワクチン、カルシトニン、腫瘍壊死因子(TNF)、受容体拮抗物質、コルチコステロイド、及び酵素などの治療用タンパク質を特に含む、医薬、農業、ならびに他の科学的及び工業的分野において興味のあるものを含む。このようなペプチドの具体例は、限定されないが、補充療法で用いられる酵素;抗菌ペプチド;成長を促進するホルモン;及び種々の用途に用いられる活性タンパク質様物質を含む。具体例は、限定されないが、スーパーオキシドジスムターゼ、インターフェロン、アスパラギナーゼ、グルタマーゼ、アルギナーゼ、アルギニンデアミナーゼ、アデノシンデアミナーゼリボヌクレアーゼ、トリプシン、クロモトリプシン、パパイン、インスリン、カルシトニン、ACTH、グルカゴン、グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)、ソマトシン、ソマトロピン、ソマトメジン、副甲状腺ホルモン、エリスロポエチン、視床下部放出因子、プロラクチン、甲状腺刺激ホルモン、エンドルフィン、エンケファリン、及びバソプレシンを含む。」(段落[0069])
(1g)「[0088] 本発明のペプチド活性治療剤-ELP構築物は、非経口的に与えられた場合、すなわちペプチドが血漿プロテアーゼにより容易に代謝される場合のペプチド活性治療剤の主要な欠点を克服する。ペプチド活性治療剤の投与の経口経路は、さらにより問題が大きい。なぜなら、胃でのタンパク質溶解に加えて、胃の高い酸性が、このようなペプチド活性治療剤が意図する標的組織に到達する前にペプチド活性治療剤を破壊するからである。胃及び膵臓の酵素の作用により生成されるペプチド及びペプチド断片は、腸の刷子縁膜中のエキソペプチダーゼ及びエンドペプチドダーゼにより切断されて、ジペプチド及びトリペプチドを産出し、そして膵臓酵素によるタンパク質溶解が回避されたとしても、ポリペプチドは、刷子縁ペプチダーゼにより分解される。胃を通る経路を生き延びるペプチド活性治療剤はいずれも、腸粘膜での代謝にさらに付され、ここでは浸透バリアが細胞への侵入を妨げる。本発明のペプチド活性治療剤-ELP構築物は、このような欠点を克服し、生物学的利用性、生物学的利用不能性、治療剤の半減期、分解補助などの効力が増強したペプチド活性治療剤の組成物形態を提供する。[0089] よって、本発明のペプチド活性治療剤-ELP構築物は、経口及び非経口の剤形、ならびにペプチド活性治療剤が非常に効率的な様式で用いられ得る種々のその他の剤形を可能にする。例えば、このような構築物は、高い粘膜吸収と、より低用量を用いるという付随する能力を達成して、最適治療効果を導き出す剤形を可能にする。」(段落[0088]~[0089])
(1h)「実施例4
各種ELP遺伝子発現系列の構築
細菌の菌株とプラスミド
[0232] クローニング工程は、大腸菌XL1-Blue菌株・・・で行った。ELP構築物のクローニングベクターとしては、pUC19(マサチューセッツ州、ビバリー、NEB社製)を用いた(Meyer and Chilkoti, 1999)。・・・ELP及びELP融合タンパク質を発現した。合成DNAオリゴは、アイオワ州、コーラルビル、Integrated DNA Technologies社から購入した。すべてのベクター構築物は、標準的な分子生物学プロトコールを用いて作製した(Ausubel, et al., 1995)。
ELP1[V5A2G3]遺伝子系列の構築
[0233] ELP1[V5A2G3]系列とは、Xが、5:2:3の相対比率でバリン、アラニン、及びグリシンである、ペンタペプチドVPGXGの多数回反復単位を含有するポリペプチドを指す。[0234] ELP1[V5A2G3]系列モノマーであるELP1[V5A2G3-10]は、5’側がリン酸化され、PAGE法により精製された4つの合成オリゴをアニールして、EcoR1適合末端及びHindIII適合末端(Meyer and Chilkoti, 1999)を有する2本鎖DNAを形成することにより作製した。・・・ELP1[V5A2G3]系列ライブラリーの構築は、・・・pUC19-ELP1[V5A2G3-30]及びpUC19-ELP1[V5A2G3-40]に構築された。この手順を用いてELP1[V5A2G3]系列を拡張し、pUC19-ELP1[V5A2G3-60]遺伝子、pUC19-ELP1[V5A2G3-90]遺伝子、及びpUC19-ELP1[V5A2G3-180]遺伝子を作製した。」(実施例4のタイトル及び段落[0232]~[0234])
(1i)「実施例8
融合タンパク質の活性
[0302] 融合ペプチドによる治療用タンパク質は、以下の4つのタンパク質:青色蛍光タンパク質(BFP)、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)、チオレドキシン(Trx)、及びインターロイキン1受容体拮抗物質(IL-1Ra)を用いて産生した。各組成物は、ELP1[V5A2G3-90]を用いて、ELP/タンパク質及びタンパク質/ELPの両方の配向で産生された。」(実施例8のタイトル及び段落[0302])
(1j)「実施例9
ELP1の半減期
[0313] ELP1の薬物動態は、脚部/脇腹にFaDu異種移植を有するヌードマウス(Balb/c nu/nu)に[14C]ELP1を静脈内投与し、投与後の各時間経過後に血液試料を採取することにより決定した。血液濃度の経時推移及び血漿半減期(初期t1/2α及び終末t1/2β)を図5に示す。血中薬物動態は、高分子に対する特徴的な分布及び排出応答を示し、これは、二重指数関数過程により十分に記載された。
[0314] 図5における血漿濃度の経時推移曲線は、排出応答及び分布応答(図5に実線で示す)を共に近似する2区画モデル(2 compartment model)の解析解に適合し、関連する薬物動態パラメータを表5に示す。ELPの分布容積(1.338μl)が、仮説的な血漿容積である1.363μlとほぼ同一であった(Barbee, R.W., et al., Am. J. Physio. 263(3)(1992) R728-R733)ことは、ELPが、投与直後に特定の器官及び組織へと急速に分布又は結合しなかったことを示す。AUCは、中枢区画又は血漿中におけるELPへの累積的な曝露の測定量である。体内クリアランスは、体内におけるELP排出の、その血漿濃度と比較した比率として定義され、腎臓、肝臓などを含むすべての器官を通してのクリアランスの総和である。長い終末半減期(t1/2β=8.37時間)及び低い分布容積(すなわち、血漿容積とほぼ等しい)など、これらの薬物動態パラメータは、充実性腫瘍及び潜在的には他の疾患部位への治療剤の送達に好適であると考えられる。これは、こうした値が、他の奏効する薬剤担体に見られる場合(R. Duncan, Nat. Rev. Drug. Discov. 2(5)(2003) 347-360)と同様の形でEPR効果を利用するのに適する特性をELPが有することを示すからである。
[0315] 物質移動速度定数は、標準的な2区画モデルに由来する(k1、中枢区画から抹消区画へ;k2、抹消区画から中枢区画へ;及びke、中枢区画からの排出)。分布容積(Vd)、中枢区画濃度の経時推移曲線下面積(AUC)、及び体内クリアランス(ClB)を示す。データは、平均値(n=5、Vdを除き、初期血漿濃度(C0)は、n=3を有する類似のコホートから計算した)として示す。
図5
」(段落[0313]の2行前~ [0315]及びFIG.5)
(2)引用文献1に記載された発明 引用文献1の請求項1を引用する請求項4を引用する請求項5には、少なくとも1つのペプチド活性治療剤と結合した少なくとも1つのエラスチン様ペプチド(ELP)を含む、融合タンパク質(FP)治療用組成物であって、ELPと結合した上記ペプチド活性治療剤は、ELPと結合していない対応するペプチド活性治療剤と比較して、投与されたペプチド活性治療剤の半減期の増強を含むin vivo効力の増強を示す上記治療用組成物、が記載されている(摘記1a)。
そして、上記治療用組成物は薬学的に許容される担体又は賦形剤を含み得る組成物であり(摘記1c)、上記ELPは、ELPと治療剤とを結合させ、遊離(結合していない)形態の治療剤の半減期と比較して、ELPと結合した治療剤の半減期を実質的に200%又はそれより多くを超えて増加させるために用い得るものである(摘記1b、1e及び1g)。 また、引用文献1には、上記ELPとして、Xが5:2:3の相対比率でバリン、アラニン、及びグリシンである、ペンタペプチドVal-Pro-Gly-X-Gly(配列番号3)の多数回反復単位を含有するELP1[V5A2G3]系列のポリペプチドであるELP1[V5A2G3-90]を用いて、融合ペプチドによる治療用タンパク質を産生したことが記載されているので(摘記1d、1h及び1i)、上記治療用組成物は、上記ELP1[V5A2G3-90]と融合したペプチド活性治療剤である融合タンパク質を含み得るものであるといえる。
そうすると、引用文献1には、以下の発明が記載されていると認められる。
「エラスチン様ペプチド(ELP)と融合した少なくとも1つのペプチド活性治療剤である融合タンパク質、及び薬学的に許容される担体又は賦形剤を含む治療用組成物であって、
上記エラスチン様ペプチドは、Xが5:2:3の相対比率でバリン、アラニン、及びグリシンである、ペンタペプチドVal-Pro-Gly-X-Gly(配列番号3)の多数回反復単位を含有するELP1[V5A2G3]系列のポリペプチドであるELP1[V5A2G3-90]であり、
上記融合タンパク質は、遊離形態のペプチド活性治療剤の半減期と比較して、ELPと融合した上記ペプチド活性治療剤の半減期を実質的に200%より多くを超えて増加させるために用い得る、
上記治療用組成物。」(以下、「引用発明」という。)
2 引用文献2(特表2004-532819号公報)について
引用文献2には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審合議体が付した。
「【0002】(発明の背景)
GLP-2は、多面的なプログルカゴン遺伝子から組織特異的様式で発現される33アミノ酸ペプチドであり、したがってペプチドホルモンのグルカゴンスーパーファミリーの一部である。プログルカゴンの代替可能な翻訳後のプロセシングは、膵臓、腸および脳で生じる。プログルカゴンにおける酵素的な切断は、栄養代謝に関与する多数の多機能性ペプチドホルモンを産生する。プログルカゴン由来の主要な生物活性ホルモンは、膵臓のα細胞、および腸のL細胞におけるGLP-1およびGLP-2ならびに脳にある。それは、初めにDruckerらにより強力な腸向性性質を有することが発見された(Proc.Natl.Acad.Sci.,1996,93(115),7911-7916を参照のこと)。天然の腸由来ペプチドのような、GLP-2は、小腸および大腸の粘膜上皮に対して有意な回復活性を有することが実証されている。それはまた、腸が栄養分を消化および吸収する能力を増加することが実証されており、これは腸不全の処置における強力な治療的役割を示唆する。実際に、いくつかの研究により、GLP-2の投与が、結腸炎、腸炎、総非経口および広範囲の切除のげっ歯類モデルにおける腸の損傷を減少または予防することが現在確認されている。極めて最近では、GLP-2の第2相臨床試験はまた、短期の腸の症状を有する患者が、明らかに所望でない副作用が無く、GLP-2投与の30日後に腸内の栄養を吸収する増強された能力を示すことが実証されていることが報告されている。
【0003】
GLP-2の排除に対する主要な代謝性経路は、酵素的分解を介する。GLP-2は、ジペプチジルペプチダーゼ-IV(DPP-IV)によりその2つのN末端アミノ酸の除去を介して急速に分解されることが示されており、これはGLP-2がペプチドの完全な不活性化を導くことに起因して、主要な制限を表す。結果として、GLP-2の半減期は、従って、きわめて短く、そして現在のGLP-2処置は、注入または頻繁な注射を必要とする。腎クリアランスはまた、GLP-2のクリアランスに関与されることが示されている。GLP-2の主要な作用は、細胞増殖の刺激を含み、そしてGLP-2レセプターの活性化を細胞増殖と、直接的または間接的に共役する機構は、試験されていない。
・・・
【0005】
非常に有用であるが、上記で記載するように、GLP-2ペプチドおよびアナログの決定的な不利益は、それらの非常に短いインビボ半減期であり、これは代表的にわずか2分である。」(段落【0002】~【0005】)
第5 対比・判断
1 本願発明と引用発明との対比
引用発明における「少なくとも1つのペプチド活性治療剤」及び本願発明における「GLP-2ペプチド」はいずれも「ペプチド活性治療剤」である点で一致する。 そして、引用発明における「Xが5:2:3の相対比率でバリン、アラニン、及びグリシンである、ペンタペプチドVal-Pro-Gly-X-Gly(配列番号3)の多数回反復単位を含有するELP1[V5A2G3]系列のポリペプチドであるELP1[V5A2G3-90]」は、本願発明における「少なくとも90のVPGXG繰り返しユニット(配列番号3)を含み、各Xは、5:2:3の比でバリン、アラニン又はグリシン残基から独立して選択され」るエラスチン様ペプチドに相当する。
そうすると、本願発明と引用発明とは、
「エラスチン様ペプチド(ELP)と融合したペプチド活性治療剤である融合タンパク質、及び薬学的に許容される担体又は賦形剤を含む治療用組成物であって、
前記エラスチン様ペプチドは、少なくとも90のVPGXG繰り返しユニット(配列番号3)を含み、各Xは、5:2:3の比でバリン、アラニン又はグリシン残基から独立して選択される、前記治療用組成物。」の発明である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点)
本願発明では、ペプチド活性治療剤が「GLP-2ペプチド」であり、かつ「融合タンパク質」が「融合していないGLP-2ペプチドと比較して血清中の半減期が少なくとも5倍の延長を示す」ことが特定されているのに対し、引用発明では、ペプチド活性治療剤が「GLP-2ペプチド」であることは特定されておらず、「融合タンパク質」は「遊離形態のペプチド活性治療剤の半減期と比較して、ELPと融合した上記ペプチド活性治療剤の半減期を実質的に200%より多くを超えて増加させるために用い得る」ものである点。
2 上記相違点について検討する。
引用発明における「ペプチド活性治療剤の半減期」は投与されたペプチド活性治療剤の半減期(摘記1b)であること、引用文献1の実施例9で測定されたELP1の「血漿半減期」(摘記1j)はELP1の血漿中の半減期であると解されること、そして、ELP又はELPと融合したペプチド活性治療剤の血漿中の半減期は、これらの血清中の半減期と実質的に同一であると解されることを考慮すると、引用発明における「半減期」は「血清中の半減期」に相当するといえる。
また、引用発明における「半減期を実質的に200%より多くを超えて増加させる」という記載は「半減期を実質的に200%より多くを超えて延長させる」ことを意味する記載であると解される。
そして、引用文献1には、上記「ペプチド活性治療剤」として、インスリン、カルシトニン、ACTH、グルカゴン、グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)などの任意の好適なペプチド治療剤を用い得ることが記載されているので(摘記1f)、引用発明における「融合タンパク質」は、ELPと融合して得られた任意のペプチド活性治療剤の血清中の半減期を、ELPと融合していない上記ペプチド活性治療剤の血清中の半減期と比較して、実質的に200%より多くを超えて延長し得るものであることを、当業者は理解するといえる。
ここで、引用文献2の「(発明の背景)」の項目(段落【0002】~【0005】)には、グルカゴン様ペプチドの1種であるGLP-2ペプチドは非常に有用なペプチドであるが、インビボ半減期が非常に短い(代表的にわずか2分)ので、注入又は頻繁な注射を必要とするという「不利益」を有することが記載されており、当該記載から、投与されたGLP-2ペプチドの血清中の半減期を延長して上記「不利益」を解消することは、本願優先日当時に周知の課題であったといえる。
そうすると、上記周知の課題を考慮した当業者は、引用発明におけるペプチド活性治療剤として、引用文献1に記載のグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)と同様にグルカゴン様ペプチドの1種であり血清中の半減期の延長が要求されているGLP-2ペプチドを用い、ELPと融合したGLP-2ペプチドである「融合タンパク質」を製造して、ELPと融合したGLP-2の血清中の半減期を、融合していないGLP-2の半減期と比較して実質的に200%より多くを超えて延長することによって、引用文献2に記載のような「不利益」を解消することを、容易に想到しえたといえる。
また、引用発明における「融合タンパク質」を、遊離形態のペプチド活性治療剤の血清中の半減期と比較して、ELPと融合した上記ペプチド活性治療剤の血清中の半減期を実質的に200%より多くを超えて増加させるために用い得ることは、言い換えれば、上記ELPと融合したペプチド活性治療剤の血清中の半減期を、ELPと融合していない上記ペプチド活性治療剤の半減期と比較して、実質的に200%より多くを超えて増加、すなわち3倍よりも長い半減期に延長し得ることを意味するのであるから、所望される半減期に応じてELPのペンタペプチド反復単位の反復数を適宜調整する等によって、ELPと融合したGLP-2の血清中の半減期を、ELPと融合していないGLP-2の血清中の半減期と比較して、「少なくとも5倍の延長を示す」すなわち少なくとも6倍の長さに延長することは、当業者が適宜なし得た程度の事項にすぎない。
以上のように、引用発明のペプチド活性治療剤として「GLP-2ペプチド」を用いて引用発明を本願発明の構成を備えたものとすることは、引用発明、並びに引用文献1及び2に記載された事項から、当業者が容易に想到し得たものである。
3 本願発明の効果について検討する。
本願明細書に記載の実施例10(段落【0331】~【0333】、及び【図11】~【図12】)には、第VIIa因子-ELP1-90をラットに静脈内(i.v.)投与した場合の半減期は約690分であったのに対し、対照である第VIIa因子を投与した場合の半減期は45~60分であったことが記載されている。 また、本願明細書に記載の実施例12(段落【0337】~【0340】及び【図14】~【図16】)には、GLP1-ELP1-120をラット及びウサギに対し静脈内(i.v.)及び皮下で投与した薬物動態の結果が記載され、さらにGLP1-ELP1-90を用いることにより糖尿病マウスで血糖管理が持続したことが記載されている。 しかし、本願明細書に記載の実施例1では、本願発明のエラスチン様ペプチド(ELP)に相当するELP1[V5A2G3]シリーズ(段落【0266】~【0267】)だけでなく、本願発明のELPに相当しないELP1[K1V2F1]シリーズ(段落【0268】~【0269】)、ELP1[K1V7F1]シリーズ(段落【0270】~【0271】)及びELP1[V]シリーズ(段落【0272】~【0273】)が構築されているので、上記実施例10及び12で用いられた「ELP-1」が本願発明のELPに相当するものであるのか否かが不明である。
そして、本願明細書には、本願発明のELPと融合したGLP-2ペプチドの血清中の半減期と、上記ELPと融合していないGLP-2ペプチドの血清中の半減期とを測定して、それぞれの長さを比較した結果が記載されていないのであるから、本願発明のELPと融合したGLP-2ペプチドの血清中の半減期が、上記ELPと融合していないGLP-2ペプチドの血清中の半減期と比較して、実際にどの程度延長したのかについて定量的に評価することができず、そもそも、本願明細書の記載からは、本願発明における融合タンパク質が「融合していないGLP-2ペプチドと比較して血清中の半減期が少なくとも5倍の延長を示す」ものであるのか否かも不明である。
加えて、仮に、上記実施例10及び12で用いられた「ELP-1」が本願発明のELPに相当するものであったとしても、本願発明のELPとGLP-2ペプチドとの融合タンパク質により奏される効果と、本願発明のELPとGLP-2ではないペプチドとの融合タンパク質により奏される効果とを定量的に比較することができないのであるから、引用発明におけるペプチド活性治療剤として「GLP-2ペプチド」を用いたことによって、引用発明、並びに引用文献1及び2に記載された事項から当業者が予測し得ない格別顕著な効果が奏されたとはいえない。
4 小括
以上のとおりであるから、本願発明は、引用文献1に記載された発明、並びに引用文献1及び2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第6 請求人の主張について
請求人は、令和2年11月25日受付の意見書において、以下の(1)~(3)の趣旨の主張をしている。
(1)引用文献2の記載から、当業者がGLP-2を外因性ポリペプチドと融合させるよう動機づけられることはなく、ましてやエラスチン様ペプチドと融合させるよう動機づけられることはない。
(2)当業者であれば、融合していない状態のELPの半減期が、融合したELPを含むタンパク質の半減期と同じであるとは必ずしも予想しない。例えば、当業者は、アルブミンの半減期は約3週間であり(本意見書に添付して提出する参考資料1:Liumbruno G., et al. Blood Transfus 2009; 7: 216-34の216頁右欄14~15行)、このアルブミンを、融合タンパク質の半減期を延長するのに用いることができることについての知見を有しているが、アルブミン自体の半減期は、上述のとおり約3週間であるにも関わらず、第VIIa因子-アルブミン融合タンパク質の半減期は263分と非常に短くなっている。
(3)ELPと融合したGLP-2を含む融合ペプチドの効果を確認する試験として、120のVPGXG繰り返しユニット(各Xは、5:2:3の比でバリン、アラニン又は、グリシンから独立して選択される)を有するELPと融合したGLP-2である「PE0503(GLP-2(A2G)-ELP)」をラットに皮下投与した。その結果、11日の投与期間後、プラセボと比較して、小腸重量の顕著な増加及び絨毛長の明らかな増加がもたらされ、非常にGLP-2効果が増大していることが明らかである。ELPと融合したGLP-2ペプチドを1日1回投与した場合でも、同モル用量の、ELPと融合していないGLP-2ペプチドを1日2回投与した場合と比較して、統計的に有意な高い効果が得られている。興味深いことに、このようなELPとの融合による効果は、4日に1回融合タンパク質を投与した場合であっても確認でき、このことから、in vivoにおける半減期の延長も示唆された。
そこで、上記それぞれの主張について検討する。
[上記主張(1)について]
引用文献2にはGLP-2を外因性ポリペプチドと融合させることは記載されていないが、引用文献2の「(発明の背景)」に記載された事項から、投与されたGLP-2ペプチドの血清中の半減期を延長して「不利益」を解消する必要があるという本願優先日当時に周知の課題が存在したといえることは、上記「第5 2」で説示したとおりである。
そして、上記周知の課題を考慮して、引用発明のペプチド活性治療剤として、引用文献1に記載のグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)と同様にグルカゴン様ペプチドの1種であり、かつ血清中の半減期の延長が要求されている「GLP-2ペプチド」を用いて引用発明を本願発明の構成を備えたものとすることは、引用発明、並びに引用文献1及び2に記載された事項から当業者が容易に想到し得たものであるという、上記「第5 2」で説示した判断に誤りはない。
[上記主張(2)について]
上記意見書で提示された「第VIIa因子-アルブミン融合タンパク質の半減期が263分」であることは、本願明細書に記載の実施例10における実験(特に段落【0333】を参照。)で確認された事項であり、本願優先日当時に知られていた事項ではないから、本願出願時の技術常識として参酌することはできない。
そして、引用文献1には、引用発明のELPは、ELPと治療剤とを結合させて、遊離(結合していない)形態の治療剤の半減期と比較して、ELPと結合した治療剤の半減期を実質的に200%又はそれより多くを超えて増加させるために用い得るものであることが明確に記載されているのであるから(摘記1b、1e及び1g)、融合していない状態のELP自体の半減期と、ELPとペプチド活性治療剤との融合タンパク質の半減期とが同じであるのか否かは、上記「第5 2」で説示した判断に影響する事項であるとはいえない。
[上記主張(3)について]
上記主張(3)で提示された、ラットの実験で小腸重量の顕著な増加及び絨毛長の明らかな増加がもたらされたことを示す実験結果は、ELPと融合したGLP-2の半減期が、融合していないGLP-2の半減期よりも延長したことを定性的に評価する根拠になる可能性がある。しかし、上記実験結果は、ELPと融合したGLP-2の半減期が、融合していないGLP-2の半減期と比較して、実際にどの程度延長したのかについて定量的に評価する根拠になるものではない。
よって、仮に、上記実験結果を参酌したとしても、依然として、引用発明におけるペプチド活性治療剤として「GLP-2ペプチド」を用いたことにより、引用発明、並びに引用文献1及び2に記載された事項から当業者が予測し得ない格別顕著な効果が奏されたとはいえない。
以上のとおりであるから、請求人による上記主張(1)~(3)を検討しても、上記「第5」の判断に誤りがあるとはいえない。
第7 むすび
以上のように、本願請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明、並びに引用文献1及び2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2019-002500