特許拒絶査定不服審判
2019-002258
内燃機関の始動方法
- 審判番号
- 2019-002258
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2017-010883外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2019年02月19日
- 審決日
- 2020年07月20日
- 公報発行日
- 2021年01月29日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】マール パワートレイン,エルエルシー
- 【請求人代理人】特許業務法人藤本パートナーズ
- 分類
- P18 .121-WZ (F02B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2017-10883「内燃機関の始動方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年1月11日出願公開、特開2018-3831〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
第1.手続きの経緯
この出願(以下、「本願」という。)は、平成29年1月25日(パリ条約による優先権主張2016年(平成28年)7月6日(EP)欧州特許庁)の出願であって、平成30年10月18日付け(発送日:平成30年10月19日)で拒絶査定がなされ、これに対し、平成31年2月19日に拒絶査定不服審判の請求がされ、その請求と同時に明細書および特許請求の範囲を補正する手続補正書がされたものである。
その後、当審において令和元年11月29日付け(発送日:令和元年12月13日)で拒絶の理由を通知したところ、令和2年3月10日に意見書及び手続補正書が提出され、明細書及び特許請求の範囲を補正する手続補正がされたものである。
第2.本願発明
本願請求項1ないし12に係る発明は、令和2年3月10日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された事項により特定されるものであるところ請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである(下線は補正箇所を示すために請求人が付与した。)。
(1)本願発明
【請求項1】
「内燃機関(1)の予燃室燃焼システムの冷間始動方法であって、
主燃焼室(21)を画定するように、少なくとも1個のシリンダ(2)と、繰り返し往復運動のためにクランクシャフト(5)の位置でシリンダ(2)内に支持されるピストン(3)とを有する内燃機関(1)を提供するステップであって、前記内燃機関(1)が、
前記シリンダ(2)内に配置されるとともに、イグナイタ部(42)と燃料インジェクタ(43)とを備える点火装置(4)をさらに有し、前記イグナイタ部(42)と前記燃料インジェクタ(43)の両方が、予燃室(41)に配置され、前記予燃室(41)が、前記予燃室(41)と主燃焼室(21)との間の流体連通を提供するための複数個のオリフィス(44)を有するステップと、
前記予燃室(41)に燃料を注入するステップと、
前記主燃焼室(21)に注入された燃料を燃焼するために前記主燃焼室(21)に燃料を注入する前に、前記予燃室(41)を予熱するために前記予燃室(41)に注入された燃料を点火するステップと、を備え、
前記予燃室(41)に注入される燃料の量は、空気/燃料比λが1未満になるように選ばれ、
前記主燃焼室(21)に注入される燃料の量は、前記主燃焼室(21)における空気/燃料比λが1.6未満となるように選ばれ、
点火プラグからの電気エネルギーが使用されて、前記予燃室(41)内の少量の前記燃料および空気が、予燃室燃焼によって化学エネルギーに変換され、その結果、前記予燃室(41)内で圧力が上昇し、
前記化学エネルギーは、内容物が前記複数個のオリフィス(44)を通過するときに形成される噴流の形態で、前記主燃焼室(21)内へと迅速に移動させられ、前記点火プラグの点火エネルギーは、前記主燃焼室(21)内で増幅され分散され、これにより、点火性に乏しい燃料空気混合物の燃焼が可能となり、
冷間始動が実行された後は、主燃焼室(21)における前記燃料空気混合物は、空気/燃料比λが1.6~2.3の範囲となるように選ばれる
内燃機関(1)の予燃室燃焼システムの冷間始動方法。」
第3.当審が通知した拒絶理由の概要
当審において令和元年11月29日付けで通知した拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)の概要は、次のとおりである。
「(進歩性)本願の請求項1ないし12に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
本願発明1ないし12は、引用文献1に記載された発明、周知技術及び周知の事項に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものである。
引 用 文 献 一 覧
1.特開昭60-45716号公報
2.特開2016-70270号公報(周知技術を示す文献)
3.特開2011-236789号公報(周知技術を示す文献)
4.特表2011-503416号公報(周知技術を示す文献)」
第4.引用文献の記載事項
1.引用文献1について
当審拒絶理由に引用した引用文献1、すなわち特開昭60-45716号公報には、「内燃機関」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。なお、下線は当審が付したものである(以下、同様)。
ア 「この発明は主燃焼室と副燃焼室を備えた内燃機関に関する。
従来、予燃焼室や渦流室などの副燃焼室を備えたディーゼルエンジンなどの内燃機関としては、第1図に示すものがある。これを説明すると、主燃焼室(主室)1と連絡孔(噴口)2を介して通じる副燃焼室(副室)3を有し、この副燃焼室3には燃料噴射弁4と、冷間始動時で圧縮による温度上昇が充分でないときに噴霧燃料および空気を加熱するためのグロープラグ(予熱栓)5とが配設されている。燃料噴射弁4からは、圧縮行程終了直前の圧縮比略20前後になる圧縮加熱された筒内高温空気の中に、燃料供給ポンプ16より供給される軽油のようなセタン価の高い燃料が噴射され、自己着火により着火せしめられる。副燃焼室3に噴射された燃料の一部が燃焼してその中の圧力が急上昇し、未燃または不完全燃焼成分を含む高温ガスを主燃焼室1へ高速で押し出し、主燃焼室1で新気と流動、混合を促進しつつ燃焼を継続する。
しかしながら、このような従来の内燃機関にあっては、燃料噴射弁4より噴射された燃料が高温空気にふれて所定温度に上昇し、かつ空気と充分混合して着火を開始するまでには相当の時間(着火遅れ期間、一般に10°クランク角のオーダ)を要するため、第2図の特性図で示すように、着火遅れ期間(図のE)中に噴射され続けた燃料がその後一気に着火すると筒内の圧力上昇が急激(図のB→C)になり、いわゆるディーゼルノックと称する騒音を発生する。なお、第2図のFは噴射期間を示し、Gは燃焼期間を示す。また、この着火は圧縮熱にたよるため圧縮比が非常に高い(略20位)ことを必要とし、シリンダブロックの骨組などをがっちり作るため構造上重いエンジンになった。更に圧縮着火性の良いセタン価の高い軽油などの燃料しか用いることができないという問題点があった。
この発明は、このような従来の問題点に着目してなされたもので、機関の吸入行程、圧縮行程あるいは前サイクルの排気行程において副燃焼室内にあらかじめ機関1サイクルの所要燃料の一部を充填して可燃混合気を形成し、点火手段によりこれを燃焼せしめ、この燃焼期間中あるいは燃焼終了直後に残部の燃料をその燃焼ガス中に噴射するように構成することにより、着火性能を向上し上記問題点を解決することを目的としている。」(第2ページ左上欄第20行ないし同ページ右下欄第5行)
イ 「第9図には、本発明の第6実施例を示す。
前記実施例において、例えば第1実施例にあっては、噴射された燃料が常に主室1に到達しやすい構成にすると、可燃混合気形成のために噴射した燃料も主室11に漏れ出るため具合が悪いということを考慮して、燃料噴射弁14を副室13内に配設し、かつ出力発生源となる残部燃料を副室13内の既燃ガス中に噴射するような構成をしている。しかしながら、その既燃ガス中には酸素はほとんど存在しないため、後から噴射された残部燃料は完全に燃焼することができず、煤が発生しやすいという問題がある。
この第6実施例は、噴射方向の異なる2つのノズル33,34有するピントークス(Pintaux)型の燃料噴射弁35を、主室11と副室13との連通孔12近傍に配設することにより前記実施例の上記問題点の解決を図ったものである。
第10図に示すように、その燃料噴射弁35の先端部に設けた第1と第2ノズル33,34は制御弁体36を介して燃料供給通路37に連通している。可燃混合気形成用燃料を噴射する第1ノズル33は、連通孔(噴口)12に対して副室13に向けて配設され、また出力発生源となる残りの燃料を噴射する第2ノズル34は、噴射した燃料が副室13から噴出した既燃ガスを通り主室11に到達するように、連通孔12の主室11側近傍から主室11に向けて配設されている。ただし、第2ノズル34が開弁するときは第1ノズル33も同時に開弁するが、その噴射特性は第11図に示すように、少量の燃料噴射aの後に、大量の残り燃料の噴射bが行なわれる。
圧縮行程、吸入行程後期あるいは前サイクルの排気行程後期において点火用混合気形成用燃料が第1ノズル33から連通孔12を介して副室13内に向けて噴射され、その燃料は圧縮行程時の副室13内に流入する空気と混合し、副室13内に可燃混合気を形成する。その混合気を点火栓15等の点火手段により点火すると、副室13内の可燃混合気は燃焼、膨張し、高温の既燃ガスが連通孔12から噴出する。既燃ガスが噴出するとほぼ同時か、その直後に残りの燃料を第2ノズル34から噴射する。この様にすると、出力発生源となる残りの燃料は高温ガス中に噴射されることになり、燃料の気化、及び熱的な燃料のクラッキング等、燃料の初期の過程が速やかに進行し、特に燃料が十分な酸素が存在している主室11内に到達するため着火遅れが短くなり、かつその後の燃焼も完全に行なわれ煤等の発生も抑制される。
第12図には、この発明の第7実施例を示す。
この実施例は、前記第6実施例と略同様な目的を有するものであるが、第1と第2の燃料噴射弁38,39を設け、可燃混合気形成用燃料を噴射する第1噴射弁38を副室13内に配設し、出力発生源となる残りの燃料を噴射する第2噴射弁39を主室1側の連通孔12の近傍に配設している。従って、第2噴射弁39から噴射される残りの燃料は温度が高く、かつ酸素が充分にある雰囲気中に噴射されることになり、所期の目的が達成される。更に、前記第3実施例の場合と同様に、第1噴射弁38からは気体または気化性が良くかつ自己着火しにくいガソリンを噴射し、第2噴射弁39からは着火性が良く、また安価である軽油やその他重質の燃料を噴射することができる。
以上説明してきたように、この発明によればその構成を機関の吸入行程、圧縮行程あるいは前サイクルの排気行程において副燃焼室内に機関の1サイクルの所要燃料の一部を供給して可燃混合気を形成する第1燃料供給手段と、その可燃混合気を点火燃焼するための点火手段と、その燃焼期間中あるいは燃焼終了直後に残りの燃料をその燃焼ガス中に、またはその燃焼ガスを通して主燃焼室に噴射する第2燃料供給手段とを設けたため、着火遅れによる騒音が解消され、セタン価の低い燃料も用いることができ、圧縮比を減少することができるなどの効果を得ることができる。更に、上記第1燃料供給手段と第2燃料供給手段を別々の燃料タンクに連通することにより、第1,第2燃料供給手段から別々に異なった燃料を噴出することが可能となり、より適切な着火性能を得ることができる。」(第4ページ右上欄第4行ないし第5ページ右上欄第3行)
ウ 第2頁左上欄第20行から右上欄第1行の「この発明は主燃焼室と副燃焼室を備えた内燃機関に関する。」との記載、及び第2頁右上欄第7行~第10行の「冷間始動時で圧縮による温度上昇が充分でないときに噴霧燃料および空気を加熱するためのグロープラグ(予熱栓)5とが配設されている。」との記載より、この発明が「内燃機関の冷間始動の方法」に関するものであることがわかる。
上記の記載及び図面より、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。
〔引用発明1〕
「内燃機関の始動方法であって、
主室11を画定する内燃機関であって、前記内燃機関が、点火栓15と第1噴射弁38とを供え、前記点火栓15と前記第1噴射弁38の両方が、副室13に配置され、前記副室13が、前記副室13と主室11との間に連通孔12を有し、
前記副室13に燃料を噴射し、
前記副室13に注入された燃料を点火し、既燃ガスが噴出する直後に、前記主室11に噴射された燃料を燃焼するために前記主室11に残りの燃料を噴射し、
点火栓15からの点火手段により点火されて、副室13内の少量の可燃混合気が、副室13内の燃焼によって、その結果、副室13内で膨張し、
燃焼による既燃ガスが連通孔12を通過するときに形成される噴流の形態で、主室11内へ、噴出する出力発生源となる残りの燃料の燃焼が可能である
内燃機関の始動方法。」
2.引用文献2について
当審の拒絶の理由に引用した引用文献2、すなわち特開2016-70270号公報には、図面とともに以下の事項が記載されている。
ア 「【0015】
予燃室50は、基端部76および概して78で示される予燃室ノズルを区画し、該予燃室ノズルは、予燃室50の基端部76から間隔を空けて配置される。図4に最適に示されるように、予燃室50は、円錐台形状の側壁80を含み、該側壁は、基端部76から予燃室ノズル78まで実質的に延在し、前記予燃室の所定の容積を区画する。予燃室ノズル78は、長手方向軸Aを規定し、複数個のオリフィス82を含む。該オリフィスは、互いに間隔を空けて配置され、予燃室50と燃焼室2との間を流体連通する。一実施形態では、オリフィス82は、0.7mm~2.0mmの範囲の直径を有し、互いに対して所定間隔で長手方向軸A周りに配置される。さらに、一実施形態では、前記予燃室容積に対する前記オリフィス直径の比は、理想的には、0.048l/cm2~0.067l/cm2である。前記主燃焼室への激しい乱流噴流の有効な導入を保証するために、この比は、これに比例して最適に最小および最大となる部品の大きさを提供する。この有効な導入は、前記主燃焼室内での激しい乱流噴流から生じる点火ポイントの最適な乱れを順に保証するので、有効かつ最適な燃焼現象が生じる。これは、以下にさらに詳しく説明される。予燃室ノズル78は実質的にカップ形状であり、雄ねじ68を含む。該雄ねじは、ハウジング42の終端部68上で雌ねじ72と協同して、ノズル78を該終端部に接するように据え付ける。」
イ 「【0022】
さらに詳細には、図8Aは、濃厚および希薄条件の両方について、変動係数10%までの総図示平均有効圧(CoV IMEPg)限界における燃焼安定性の比較を示す。空気が過剰であると、本発明の点火システムは、排気ガスλを2.1にするまで操作できるのに対し、標準的な火花点火システムでは僅か1.4であることが明らかになる。」
ウ 段落【0022】の「本発明の点火システムは、排気ガスλを2.1にするまで操作できる」という記載、図8Aのグラフ及び技術常識としてλ=空気/燃料比であることから、「燃焼室22における主室燃料は、空気/燃料比λが、2.1までの範囲となるように選ばれる」ことがわかる。
上記ア並びに【図3】及び【図4】の記載から、引用文献2には、次の事項(以下「引用文献2記載事項1」という。)が記載されているといえる。
[引用文献2記載事項1]
「予燃室ノズル78は複数個のオリフィス82を含み、該オリフィス82は予燃室50と燃焼室22との間を流体連通すること。」
上記イ及び【図8A】の記載から、引用文献2には、次の事項(以下「引用文献2記載事項2」という。)が記載されているといえる。
[引用文献2記載事項2]
「燃焼室22における主室燃料は、空気/燃料比λが、2.1までの範囲となるように選ばれること。」
3.引用文献3について
当審の拒絶の理由に引用した引用文献3、すなわち特開2011-236789号公報には、図面とともに以下の事項が記載されている。
ア 「【0002】
天然ガスを燃料としたガスエンジンにおいて、例えば、燃費低減やNOx低減を行うために、燃焼室内の混合気の空燃比を理論空燃比よりも希薄なリーン状態として燃焼させることが行われる。しかしながら、リーン状態での燃焼は理論空燃比による燃焼に比べ、着火性が不安定となり十分な出力が得られないことがある。そこで、燃焼室を、出力を得るための主室と、主室に接続する副室とに分け、それぞれに供給する燃料の割合を変えることで着火性を上げる副室式ガスエンジンが提供されている。副室式ガスエンジンでは、燃料がリッチな混合気を充填した副室内に対し点火し、点火した副室内の混合気を主室に噴出させることで、主室内のリーンな混合気に対する着火性を上げている。」
上記ア及び図面より、引用文献3には、次の技術的事項(以下「引用文献3記載事項」という。)が記載されているといえる。
[引用文献3記載事項]
「燃料がリッチな混合気を充填した副室内に点火し、点火した副室内の混合気を主室に噴出させることで、主室内のリーンな混合気に対する着火性を上げること。」
4.引用文献4について
当審の拒絶の理由に引用した引用文献4、すなわち特表2011-503416号公報には、図面とともに以下の事項が記載されている。
ア「【0003】
リーン混合気のエンジンやオットーサイクルエンジンでは、点火は、自動的に生じず、スパークプラグのような補助装置が、点火を起こすために必要とされる。燃焼を強化し、点火手段を保護するために、リーン混合気のエンジンは、シリンダの燃焼スペースに接続される予燃焼室を使用する。よりリッチな燃料の混合気は、点火されるために予燃焼室に供給され、燃焼スペースに搬送され、これにより、燃焼スペース内のよりリーンな燃料の混合気が点火する。予燃焼室は、ガスを燃焼として使用するリッチ混合気のエンジンにおいて特に採用される。この場合、予燃焼室は、リッチな燃料の混合気を点火するために使用されるスパークプラグが設けられる。」
上記の記載及び図面より、引用文献4には、次の技術的事項(以下、「引用文献4記載事項」という。)が記載されているといえる。
[引用文献4記載事項]
「点火されるために予燃焼室に供給されたよりリッチな燃料の混合気は燃焼スペースに搬送され、これにより燃焼スペース内のよりリーンな燃料の混合気が点火すること。」
第5.対比・判断
本願発明1と引用発明1とを対比すると、引用発明1の「主室11」は、その機能、構成及び技術的意義からみて本願発明1の「主燃焼室」に相当し、以下同様に、「点火栓15」は「イグナイタ部」及び「点火プラグ」に、「第1噴射弁38」は「燃料インジェクタ」に、「副室13」は「予燃室」に、「連通孔12」は「オリフィス」に、「噴射」は「注入」にそれぞれ相当する。
また、引用文献1の記載及び図示内容並びに技術常識から、主室11は少なくとも1個のシリンダと繰り返し往復運動のためにクランクシャフトの位置でシリンダ内に支持されるピストンにより画定されているといえる。
したがって、引用発明1の「主室11を画定する内燃機関」は、本願発明1の「主燃焼室を画定するように、少なくとも1個のシリンダと、繰り返し往復運動のためにクランクシャフトの位置でシリンダ内に支持されるピストンとを有する内燃機関」に相当する。してみると、引用発明1の「主室11を画定する内燃機関」は、本願発明1の「主燃焼室を画定するように、少なくとも1個のシリンダと、繰り返し往復運動のためにクランクシャフトの位置でシリンダ内に支持されるピストンとを有する内燃機関を提供するステップ」に相当する事項も含むといえる。
さらに、引用文献1の記載及び図示内容並びに技術常識から、点火栓15及び第1噴射弁38がシリンダブロック内に設けられていることは明らかであるから、引用発明1の「点火栓15」及び「第1噴射弁38」は「シリンダ内に配置され」ていると認められ、引用発明1の「点火栓15と第1噴射弁38とを備え」ることは、本願発明1の「シリンダ内に配置されるとともに、イグナイタ部と燃料インジェクタとを備える点火装置をさらに有」することに相当するといえる。
そして、引用発明1の「副室13と主室11との間に連通孔12を有し」と、本願発明1の「予燃室(41)と主燃焼室(21)との間の流体連通を提供するための複数個のオリフィス(44)を有するステップ」とは、その機能、構成及び技術的意義からみて「予燃室と主燃焼室との間の流体連通を提供するためのオリフィスを有するステップ」という限りで一致する。
同様に、引用発明1の「副室13に注入された燃料を点火し、既燃ガスが噴出する直後に、主室11に噴射された燃料を燃焼するために主室11に残りの燃料を噴射」することと本願発明1の「主燃焼室(21)に注入された燃料を燃焼するために主燃焼室(21)に燃料を注入する前に、予燃室(41)を予熱するために予燃室(41)に注入された燃料を点火するステップ」とは、その機能、構成及び技術的意義からみて「主燃焼室に注入された燃料を燃焼するために主燃焼室に燃料を注入する前に、予燃室に注入された燃料を点火するステップ」という限りで一致する。
引用発明1の「内燃機関の始動方法」は、引用文献1の2ページ左上欄20行ないし右下欄5行の記載、特に「この発明は・・内燃機関に関する・・この副燃焼室3には燃料噴射弁4と、冷間始動時で圧縮による温度上昇が充分でないときに噴射燃料および空気を加熱するため・・・」の記載から冷間始動時の内燃機関の始動方法であることがわかり、本願発明1の「内燃機関の予燃室燃焼システムの冷間始動方法」に相当するものを含むものといえる。
同様に、引用発明1の「点火手段により点火され」は本願発明1の「電気エネルギーが使用」に相当し、以下同様に「燃料および空気」は「可燃混合気」に、「燃焼」は「化学エネルギーに変換」に、「膨張」は「圧力が上昇」に相当する。
したがって、本願発明1の「点火プラグからの電気エネルギーが使用されて、前記予燃室(41)内の少量の前記燃料および空気が、予燃室燃焼によって化学エネルギーに変換され、その結果、前記予燃室(41)内で圧力が上昇し」と引用発明1の「点火栓15からの点火手段により点火されて、副室13内の少量の可燃混合気が、副室13内の燃焼によって、その結果、副室13内で膨張し」とは、「点火プラグからの電気エネルギーが使用されて、予熱室内の少量の燃料及び空気が、予熱室燃焼によって化学エネルギーに変換され、その結果、予熱室内で圧力が上昇」する点で一致する。
また、引用発明1の「既燃ガス」は本願発明1の「化学エネルギー」に相当し、以下同様に「噴出する」は「迅速に移動させられ」に、「出力発生源となる残りの燃料」は「点火性に乏しい燃料空気混合物」に相当する。
したがって、本願請求項1と引用発明1とは、以下の一致点及び相違点を有する。
(一致点)
「内燃機関の予燃室燃焼システムの冷間始動方法であって、
主燃焼室を画定するように、少なくとも1個のシリンダと、繰り返し往復運動のためにクランクシャフトの位置でシリンダ内に支持されるピストンとを有する内燃機関を提供するステップであって、前記内燃機関が、前記シリンダ内に配置されるとともに、イグナイタ部と燃料インジェクタとを備える点火装置をさらに有し、前記イグナイタ部と前記燃料インジェクタの両方が、予燃室に配置され、前記予燃室が、前記予燃室と主燃焼室との間の流体連通を提供するためのオリフィスを有するステップと、
前記予燃室に燃料を注入するステップと
前記主燃焼室に注入された燃料を燃焼するために前記主燃焼室に燃料を注入する前に、前記予燃室に注入された燃料を点火するステップと、
点火プラグからの電気エネルギーが使用されて、予熱室内の少量の燃料及び空気が、予熱室燃焼によって化学エネルギーに変換され、その結果、予熱室内で圧力が上昇し、
前記化学エネルギーは、内容物がオリフィスを通過するときに形成される噴流の形態で、前記主燃焼室内へと迅速に移動させられ、前記点火プラグの点火エネルギーは、前記主燃焼室内で増幅され分散され、これにより、点火性に乏しい燃料空気混合物の燃焼が可能となること
を備えた
内燃機関の予燃室燃焼システムの冷間始動方法。」
(相違点)
[相違点1]
本願発明1のオリフィスは、「複数個」のオリフィスであるのに対し、引用発明1の連通孔12はかかる事項を備えているかが不明な点。
[相違点2]
「主燃焼室に注入された燃料を燃焼させるために主燃焼室に燃料を注入する前に、予熱室に注入された燃料を点火するステップ」に関して、本願発明1は「予熱室(41)を予熱するため」に行われるのに対し、引用発明1はかかる事項を備えるか不明な点。
[相違点3]
本願発明1は「予燃室(41)に注入される燃料の量は、空気/燃料比λが1未満になるように選ばれ」、「主燃焼室(21)に注入される燃料の量は、主燃焼室(21)における空気/燃料比λが1.6未満となるように選ばれる」ものであるのに対し、引用発明1はかかる事項を備えていない点。
[相違点4]
本願発明1は「冷間始動が実行された後は、主燃焼室における前記燃料空気混合物は、空気/燃料比λが1.6~2.3の範囲となるように選ばれる」のに対して、引用発明1はかかる事項を備えていない点。
上記相違点について検討する。
[相違点1について]
相違点1について検討するに、引用文献2の記載事項は「予燃室ノズル78は複数個のオリフィス82を含み、該オリフィス82は予燃室50と燃焼室22との間を流体連通すること。」である。
そして、引用文献2の記載事項並びに引用文献2の図3、図4、引用文献3の記載事項並びに引用文献3の図面及び、引用文献4の記載事項及び引用文献4の図面にみられるように、予燃室と主燃焼室との間の流体連通を提供するためのオリフィスを複数個設けて予燃室から主燃室への流入効率を良くすることは周知技術といえる。
してみると、引用発明1において、より予燃室から主燃室への流入効率を良くするために周知技術を踏まえて連通孔12を複数個のものとし、相違点1に係る本願発明1の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易になし得たことである。
[相違点2について]
相違点2について検討するに、本願の発明の詳細な説明の段落【0014】及び【0015】の記載から、冷間始動の間に予燃室だけに燃料を注入し、点火することが、「予燃室を予熱するため」のものであるといえる。そして、引用発明1の「副室13に燃料を噴射」することも、冷間始動時に行われることで、かつ「副室13」にだけ「燃料を噴射」することである。してみると、引用発明1において、「前記副室13に注入された燃料を点火」することは、副室13すなわち予燃室を予熱するためのものといえる。
そうすると、引用発明1は、相違点2に係る本願発明1の発明特定事項を実質的に備えているといえる。
したがって、相違点2は実質的な相違点ではない。
[相違点3について]
相違点3について検討するに、引用文献1の第4ページ右下欄第12行ないし第5ページ左上欄第2行の記載、特に「第2噴射弁39から噴射される残りの燃料は温度が高く、且つ酸素が充分にある雰囲気中に噴射される」との記載からみて、引用文献1には、副室13に噴射される燃料の量と主室11に噴射される残りの燃料の量とは、空気/燃料比λにおいて異なりがあり、さらに、副室13に噴射される燃料の量に係る空気/燃料比λよりも主室11に噴射される燃料の量に係る空気/燃料比λは大きいことが示唆されており、引用発明もかかる事項を備えているといえる。
そして、引用文献3記載事項は「燃料がリッチな混合気を充填した副室内に点火し、点火した副室内の混合気を主室に噴出させることで、主室内のリーンな混合気に対する着火性を上げること。」であり、引用文献4記載事項は「点火されるために予燃焼室に供給されたよりリッチな燃料の混合気は燃焼スペースに搬送され、これにより燃焼スペース内のよりリーンな燃料の混合気が点火すること。」である。引用文献3の記載事項及び引用文献4記載事項から、予燃焼室に注入する燃料の量をリッチな燃料すなわち空気/燃料比λが1未満になるように選び、主燃焼室に注入する燃料の量をリーンなものとなるように空気/燃料比λを選ぶことは周知の事項といえる。
そうすると、引用発明1において、燃焼効率を良くするために予燃焼室と主燃焼室とを設けていることから、予燃焼室と主燃焼室との関係において燃焼効率を良くするための上記周知の事項を踏まえ、当業者の通常の創作能力の範囲内で相違点3に係る本願発明1の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。
[相違点4について]
相違点4について検討するに、引用文献2には、引用文献2記載事項2に示すように、火花点火における燃焼室による燃焼により、「燃料比λが2.1までは操作可能」であることが記載されている。この「排気ガスλ(本願発明の「空燃比λ」に相当)を2.1にするまで」という数値範囲は、相違点4に係る構成における「燃料比λが1.6~2.3」の範囲と重複するものであり、引用文献2記載事項2は当該相違点4に係る発明特定事項に相当するものである。
また、冷間始動が実行された後、燃費を向上させるために燃焼室の混合物を希薄とすることは内燃機関の技術分野において周知技術(米国特許出願公開第2012/103302号公報、米国特許出願公開2015/68489号公報を参照こと)であり、λが2.1までの技術事項については、上述の通り引用文献2記載事項2に記載されており、当該技術事項を引用発明1に用いて相違点4に係る技術事項のようにすることは上述の通り当業者が容易になし得たものである。その際に、λの値を状況に応じて適宜変更することは当業者であれば通常行う事項であり、λを2.1までの範囲から、1.6~2.3の範囲となるように変更することは、本願明細書の参照(特に、本願発明段落【0042】の「・・・特に、1.6~2.3の範囲となる超希薄となるように選ばれる。」の記載を参照)しても本願発明1においてλを1.6~2.3のように超希薄とすることに、格別な臨界的意義及び技術的意義を見い出すことはできないことから、当業者が適宜容易に成し得る設計的事項である。
引用発明1と引用文献2記載事項2は、「内燃機関」という同一の技術分野に属し、「着火性能を向上させる」という課題も同一であることから、引用発明1において、上記引用発明2の記載事項2を踏まえ、当業者の通常の創作能力の範囲内で相違点4に係る本願発明1の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。
請求人は平成31年2月19日の審判請求書において「引用文献1及び2には、冷間始動において予燃室内で燃料を燃焼させること、すなわち、上記相違点2に係る構成は記載されていません。」、「そして、引用文献1及び2には、冷間始動において、熱移動の程度を高めることにより、内燃機関の始動を改良することについて記載されていないことから、引用文献1及び2に接した当業者が、引用発明1に上記相違点2に係る構成を採用する動機付けは何らないと考えます。」と主張しているが、引用発明1の認定においても示しているように、引用文献1の第2頁左上欄第20行から右上欄第1行において「この発明は主燃焼室と副燃焼室を備えた内燃機関に関する。」の記載、第2頁右上欄第7行~第10行において「冷間始動時で圧縮による温度上昇が充分でないときに噴霧燃料および空気を加熱するためのグロープラグ(予熱栓)5とが配設されている。」より、この引用発明1が内燃機関の冷間始動の方法であることがわかる。また、相違点4の検討においても示したが、引用発明1と引用文献2記載事項2は、「内燃機関」という同一の技術分野に属し、「着火性能を向上させる」という課題も同一であることから引用文献2の上記記載事項2を引用発明1の冷間始動時に用いることは当業者が容易に成し得たことである。
請求人は平成31年2月19日の審判請求書において「引用文献1では、段落0051の「希薄な燃焼を安定に実現することが可能である。」との記載から、内燃機関の始動後に主燃焼室で燃焼させる空気燃料混合物として、希薄な空気燃料混合物を対象としていることは読み取れるものの、超希薄な空気燃料混合物を対象としていることまでは読み取ることはできません。・・・・・かつ、予燃室の空気/燃料比λをどのような数値範囲に設定すべきかについては到底導くことはできません。・・・引用文献1からは到底予測できるはずもない顕著な効果を奏することができます。」と主張しているが、引用発明1は請求人が指摘しているように「希薄な燃料を安定に実現することが可能」な発明である。「超希薄な燃料を燃焼させる」技術事項については、「希薄な燃料を燃焼させる」技術事項とはきわめて類似の技術であることから希薄な燃料を燃焼させる引用発明1の燃焼対象を「希薄燃料」に代えて「超希薄燃料」へと用いることは、燃焼対象である燃料をより希薄にしただけに過ぎず、当業者が状況に応じて適宜成し得る事項である。
本願発明全体としての効果については、本願発明1は、引用発明1、引用文献2記載事項1及び2、並びに周知技術及び周知の事項から予測し得ない格別な効果を奏するものではない。
したがって、本願発明1は、引用発明1、引用文献2に記載の事項、周知技術及び周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
第6 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その他の請求項、及びその他の理由について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2019-002258