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特許拒絶査定不服審判

2019-002030

断熱容器用積層体、断熱容器および断熱容器の製造方法

審判番号
2019-002030
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2017-525640外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2019年02月13日
審決日
2020年03月30日
公報発行日
2020年06月26日
結論
請求不成立
当事者
審判長/審判官
分類
P18 .121-WZ (B65D)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条2項
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(SGML)

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特願2017-525640「断熱容器用積層体、断熱容器および断熱容器の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年5月4日国際公開、WO2017/073537〕について、次のとおり審決する。

結論

【結 論】 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

【理 由】 第1 手続の経緯 本願は、2016年(平成28年)10月25日(優先権主張 平成27年10月26日)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は、以下のとおりである。 平成30年6月7日付け :拒絶理由通知 平成30年8月13日  :意見書、手続補正書の提出 平成30年11月5日付け:拒絶査定 平成31年2月13日  :審判請求書の提出、同時に手続補正書の提出 令和1年9月17日付け :拒絶理由通知 令和1年11年25日  :意見書の提出 第2 本願発明 本願特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成31年2月13日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「外面側から、印刷層、表面層、カバー層、紙から構成される基材層、前記基材層を構成する紙から発生する水蒸気を遮断する水蒸気遮断層、を少なくとも有する断熱容器用積層体であって、 前記カバー層は、少なくとも高圧法低密度ポリエチレンから構成されており、 前記表面層は、JIS K6922-2(2010年)により測定される融点が、前記カバー層を構成する高圧法低密度ポリエチレンの融点よりも高いポリエチレン系樹脂から構成されており、 前記印刷層は、バインダーとしてウレタン樹脂を含み、かつ印刷層の全固形分の合計質量に対する当該ウレタン樹脂の割合が18質量%以上であり、さらに、 前記カバー層は、発泡しており、その厚さが300~900μmである ことを特徴とする断熱容器用積層体。」 第3 拒絶の理由 令和1年9月17日付けで当審が通知した拒絶の理由は、次のとおりのものである。 本願発明は、本願出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 引用文献1:特開2015-98107号公報 引用文献2:特許第4619455号公報 第4 引用文献の記載事項及び引用発明 1 引用文献1 引用文献1には、以下の事項が記載されている(下線は、理解の便宜の為に当審が付した。以下同様。)。 「【0007】 本発明の目的は、発泡外観が良好で、発泡層が厚く、優れた断熱性を示す発泡積層体の製造方法を提供することにある。」 「【0009】 すなわち、少なくとも(A)層/紙基材/(B)層/(C)層の順に積層されてなる発泡積層体の製造方法であって、少なくとも下記に示す(i)~(iii)の工程を経ることを特徴とする発泡積層体の製造方法に関するものである。 (i)紙基材の片面、若しくは両面に水を塗布する工程 (ii)(A)層としてJIS K6922-1(2011年)により測定された密度が935kg/m3以上970kg/m3以下であるポリエチレン系樹脂(a)、(B)層としてJIS K6922-1(2011年)により測定された密度が910kg/m3以上930kg/m3以下である高圧法低密度ポリエチレン(b)及び(C)層として(iv)の要件を満たすポリエチレン系樹脂(c)を(v)の要件を満たすように紙基材に積層する工程 (iii)ポリエチレン系樹脂(a)/紙基材/高圧法低密度ポリエチレン(b)/ポリエチレン系樹脂(c)からなる積層体に加熱処理を施し、高圧法低密度ポリエチレン(b)を発泡する工程 (iv)ポリエチレン系樹脂(c)のJIS K6922-2(2010年)により測定された溶融温度が高圧法低密度ポリエチレン(b)よりも高い(v)(C)層の厚みが4~12μm 以下、本発明について詳細に説明する。 【0010】 本発明の積層体を構成するポリエチレン系樹脂(a)のJIS K6922-1(2011年)により測定した密度(以下、単に密度と略す。)は、断熱性、発泡の安定性に優れることから、935~970kg/m3の範囲であり、より好ましくは945~970kg/m3、最も好ましくは950~965kg/m3である。ポリエチレン系樹脂(b)の密度が935kg/m3未満では、断熱性に劣るため好ましくなく、970kg/m3を超える範囲では、発泡外観に劣るため好ましくない。」 「【0034】 本発明の積層体を構成するポリエチレン系樹脂(c)は、JIS K6922-2(2010年)により測定された溶融温度(以下単に溶融温度と略す)が(B)層を構成する高圧法低密度ポリエチレン(b)の溶融温度よりも高いポリエチレン系樹脂(c)が用いられる。」 「【0056】 本発明の製造方法では、本発明の目的が達成される限りにおいては、その他の工程を含んでも構わず、ポリエチレン系樹脂(c)の表面に紙、熱可塑性樹脂などの他の層を積層する工程、ポリエチレン系樹脂(c)又は/及び紙に印刷を施す工程、ポリエチレン系樹脂(a)/紙基材/高圧法低密度ポリエチレン(b)/ポリエチレン系樹脂(c)を容器の形状に製函する工程などが例示できる。」 「【0059】 本発明の発泡積層体について、断熱性に優れるため、発泡層の厚みの総計は1000μm以上が好ましく、より好ましくは1200μm以上、最も好ましくは1400μm以上である。 【0060】 本発明の発泡積層体は、少なくとも(A)層/紙基材/(B)層/(C)層が順に積層されてなることを特徴とするものであり、(A)層と紙基材と(B)層と(C)層の4成分のみからなるものだけでなく他の成分、例えば(D)層を含んでいてもよい。具体的には、(A)層/紙基材/(B)層/(C)層、(A)層/紙基材/(B)層/(C)層/(A)層、(C)層/(B)層/紙基材/(A)層/(B)層、(A)層/紙基材/(B)層/(C)層/(B)層、(A)層/(A)層/紙基材/(B)層/(C)層、(A)層/紙基材/(B)層/(C)層/(D)層、(C)層/(B)層/紙基材/(A)層/(D)層、(D)層/(C)層/(B)層/紙基材/(A)層/(B)層/(D)層、(A)層/紙基材/(B)層/(C)層/(D)層/(B)層/(A)層、(C)層/(B)層/紙基材/(A)層/(D)層/(A)層/(B)層などが例示される。」 本願明細書の段落0055には、「印刷層」について「・・・特に限定されることはなく、所望する意匠を実現するために、各種顔料や染料、さらにはワックスなどの添加剤を自由に用いることができる。」との記載があるところ、引用文献1の段落0056に記載された「ポリエチレン系樹脂(c)又は/及び紙に印刷を施す工程」によって、顔料あるいは染料等の何らかのものが付されていることは明らかであるから、当該工程を経たものは、印刷層を備えると解される。 したがって、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているといえる。 「外面側から、印刷層、(C)層、(B)層、紙基材、断熱性、発泡の安定性に優れることから、JIS K6922-1(2011年)により測定した密度が935~970kg/m3の範囲のポリエチレン系樹脂(a)で構成される(A)層、の順に積層される断熱性を有する容器用発泡積層体であって、前記(B)層は、高圧法低密度ポリエチレン(b)から構成されており、前記(C)層は、JIS K6922-2(2010年)により測定された溶融温度が、前記(B)層を構成する高圧法低密度ポリエチレン(B)よりも高いポリエチレン系樹脂(c)から構成されており、前記(B)層は、発泡しており、断熱性に優れるため、発泡層の厚みの総計は1000μm以上が好ましい、断熱性を示す容器用発泡積層体。」 2 引用文献2 引用文献2には、以下の事項が記載されている(下線は、理解の便宜の為に当審が付した。以下同様。)。 「【0040】 特に限定するものではないが、上述の樹脂の中では、発泡時のインキの発泡追随性および官能臭気の観点から、さらにインキの耐光性、耐熱性、耐摩擦性および耐ブロッキング性等の各種耐性、基材となる低Mp樹脂フィルムに対する接着性を考慮すると、少なくともウレタン樹脂を使用することが好ましい。バインダー樹脂としてウレタン樹脂又はウレタン樹脂を主成分とする樹脂混合物を使用することによって、長期にわたって熱や光が加わる環境下で保存した場合にも、紙カップなどの紙製容器胴体部に施される印刷部から発生する臭気をほとんどなくすことができる。また、インキ皮膜の耐摩擦性、耐ブロッキング性、基材となる低Mp樹脂フィルムに対する接着性といった各種特性において良好な結果を得ることができる。」 「【0082】 本発明のインキ組成物の一実施形態として、白インキを構成する場合、白インキの好ましい組成は、無機顔料20~50%、ウレタン樹脂(固形分)3~15%、塩酢ビ樹脂(固形分)0.1~4%、ワックスを含む助剤(固形分)0.1~5%、エステル系溶剤5~40%、アルコール系溶剤5~30%、ケトン系溶剤1~15%である。白インキのより好ましい組成は、無機顔料30~40%、ウレタン樹脂(固形分)5~10%、塩酢ビ樹脂(固形分)0.5~2%、ワックスを含む助剤(固形分)0.5~3%、エステル系溶剤10~30%、アルコール系溶剤10~20%、ケトン系溶剤3~15%である。 【0083】 一方、本発明のインキ組成物の一実施形態として、色インキを構成する場合、 色インキの好ましい組成は、有機顔料10~30%、ウレタン樹脂(固形分)3~20%、塩酢ビ樹脂(固形分)1~15%、ワックスを含む助剤(固形分)0.1~5%、エステル系溶剤10~30%、アルコール系溶剤20~50%、ケトン系溶剤5~10%である。また、上記色インキの組成において、色インキの全重量を基準として二酸化珪素を0.2~5%の割合で添加することが好ましい。また、色インキのより好ましい組成は、有機顔料10~30%、ウレタン樹脂(固形分)5~15%、塩酢ビ樹脂(固形分)1~20%、ワックスを含む助剤(固形分)0.5~2%、エステル系溶剤15~25%、アルコール系溶剤30~40%、ケトン系溶剤2~10%である。上記色インキの組成において、色インキ組成物の全重量を基準として、二酸化珪素を1~3.5%の割合で添加することが好ましい。」 「【0099】 図5は、容器の組み立て成形後に加熱処理を実施することによって得られる断熱性発泡紙製容器の構造を示す斜視図である。図中、参照符号50は容器胴体、および参照符号60は底板である。図6は図5に示した断熱性発泡紙製容器の容器胴体の参照符号VI部分を拡大して示す模式的断面図である。容器胴体は、容器の外壁面50bから順に印刷層40、低Mp樹脂フィルムからなる断熱層30’、原紙10、および容器の内壁面を形成する高Mp樹脂フィルム20から構成される。なお、図6で示した容器の容器胴体部材の層構成は、図3で示した紙製容器材料を発泡させた構造に対応している。【0100】 図6から分かるように、図5に示した容器表面を形成する印刷層40は、上記断熱層30’全面に設けられた白インキからなる下地層44、およびその上に形成された色インキからなる印刷パターン42から構成されている。このように、本発明によれば、容器胴体の外壁面を形成する印刷層40が、発泡追随性に優れたインキ組成物から構成されるため、上記低Mp樹脂フィルム(図3、参照符号30)上の印刷層(図3、参照符号40)がフィルムの発泡を阻害せず、上記低Mp樹脂フィルムは加熱処理によって均一な断熱層30’を形成する。また、上記低Mp樹脂フィルムの発泡において印刷層は、発泡追随性に優れるため容器表面に凹凸の発生が抑制され、かつインキ皮膜におけるクラックの発生が抑制される。以上のように、本発明によるインキ組成物を適用して断熱性発泡容器を構成することによって、断熱性に優れ、凹凸が少なく、滑らかな容器表面を実現することが可能となる。」 「【0130】 上記表1および2から明らかなように、バインダー樹脂の伸長率が400%~3,000%である場合には、凹凸の改善された印刷面を形成することができることが分かる。また、バインダー樹脂として、ウレタン樹脂、特に、ウレタンウレア樹脂と塩酢ビ樹脂混合物を用いることによって印刷面の平滑性が良好になることに加えて、諸特性に優れた断熱性発泡紙製容器印刷用インキ組成物が得られることが分かる。さらに、色インキに二酸化珪素を添加することによって、一般に発泡追随性の悪い色インキについても、優れた発泡追随性が得られ、発泡時におけるインキの割れ(クラック)の発生がなく、印刷発泡面の凹凸がほとんど感じられないものが得られことが分かる。本発明による発泡断熱性紙製容器材料を容器胴体部材として使用して、実際に容器を成形加工したところ、同様の結果が得られることが分かった。」 段落0082-0083に記載された「白インキ」及び「色インキ」の組成中の固形分から計算すると、印刷層の全固形分の合計質量に対するウレタン樹脂の割合は18質量%以上である。 したがって、引用文献2には以下の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されているといえる。 「発泡して断熱性発泡容器材料の断熱層を形成するポリエチレンフィルム表面に印刷層を形成するためのインキ組成物であって、バインダーとしてウレタン樹脂を含み、かつ印刷層の全固形分の合計質量に対する当該ウレタン樹脂の割合が18質量%以上であり、優れた発泡追随性が得られ、発泡時におけるインキの割れ(クラック)の発生がなく、印刷発泡面の凹凸がほとんど感じられないものが得られる、インキ組成物。」 第5 対比 本願発明と引用発明1とを対比する。 引用発明1の「印刷層」は、上記第4の1に示したように、本願発明の「印刷層」に相当し、以下、同様に「(C)層」は「表面層」に、「(B)層」は「カバー層」に、「紙基材」は「紙から構成される基材層」にそれぞれ相当する。 また、引用発明1の「ポリエチレン系樹脂(a)」が発泡の安定性に寄与するものであることや、引用文献1の段落0066に例示された「ポリエチレン系樹脂(a)」の具体例と、本願明細書段落0065に記載された水蒸気遮断層を係止するポリエチレン樹脂(C)の密度及び本願明細書段落0092に記載された水蒸気遮断層の具体例の物性を勘案すると、引用発明1の「JIS K6922-1(2011年)により測定した密度が935~970kg/m3の範囲のポリエチレン系樹脂(a)で構成される(A)層」は、本願発明の「前記基材層を構成する紙から発生する水蒸気を遮断する水蒸気遮断層」に相当する。 したがって、引用発明の「外面側から、印刷層、(C)層、(B)層、紙基材、断熱性、発泡の安定性に優れることから、JIS K6922-1(2011年)により測定した密度が935~970kg/m3の範囲のポリエチレン系樹脂(a)で構成される(A)層、の順に積層される」という態様は、本願発明の「外面側から、印刷層、表面層、カバー層、紙から構成される基材層、前記基材層を構成する紙から発生する水蒸気を遮断する水蒸気遮断層、を少なくとも有する」という態様に相当する。 引用発明1の「断熱性を示す容器用発泡積層体」は、本願発明の「断熱容器用積層体」に相当し、以下、同様に「高圧法低密度ポリエチレン(b)」は「高圧法低密度ポリエチレン」に、「JIS K6922-2(2010年)により測定された溶融温度」は「JIS K6922-2(2010年)により測定される融点」にそれぞれ相当する。 さらに、引用発明1の「前記(B)層は、発泡しており、」は、本願発明の「前記カバー層は、発泡しており、」に相当する。 したがって、本願発明と引用発明1は、以下の点で一致し、相違する。 [一致点] 「外面側から、印刷層、表面層、カバー層、紙から構成される基材層、前記基材層を構成する紙から発生する水蒸気を遮断する水蒸気遮断層、を少なくとも有する断熱容器用積層体であって、前記カバー層は、少なくとも高圧法低密度ポリエチレンから構成されており、前記表面層は、JIS K6922-2(2010年)により測定される融点が、前記カバー層を構成する高圧法低密度ポリエチレンの融点よりも高いポリエチレン系樹脂から構成されており、前記カバー層は、発泡している断熱容器用積層体。」 [相違点1] 「印刷層」について、本願発明は「バインダーとしてウレタン樹脂を含み、かつ印刷層の全固形分の合計質量に対する当該ウレタン樹脂の割合が18質量%以上であり」であるのに対し、引用発明1はその点不明である点。 [相違点2] 「カバー層」の厚さについて、本願発明は「300~900μm」であるのに対し、引用発明1の「(B)層」は「断熱性に優れるため、発泡層の厚みの総計は1000μm以上が好ましい」とされている点。 第6 判断 [相違点1]について 引用発明2の「断熱性発泡容器材料」は、その構成及び機能からみて、本願発明の「断熱容器用積層体」に相当し、以下同様に「断熱層」は「カバー層」に相当し、さらに上記第4の1に示した本願明細書の段落0055の記載を踏まえると、引用発明2の「印刷層」は、本願発明の「印刷層」に相当するといえるから、引用発明2は、本願発明と同様に、発泡している「カバー層」の存在を前提とした上で「印刷層は、バインダーとしてウレタン樹脂を含み、かつ印刷層の全固形分の合計質量に対する当該ウレタン樹脂の割合が18質量%以上であり」という構成を備えたものである。 引用発明2が解決する課題である「発泡追随性」、「発泡時におけるインキの割れ(クラック)の発生」及び「印刷発泡面の凹凸」は、ポリエチレンの発泡によって形成された「(B)層」及び「印刷層」を有する引用発明1にも内在する課題といえるから、引用発明1を具体化する際、印刷層の形成にあたり引用発明2を適用し、前記相違点1に係る本願発明のように構成することは、当業者が容易に想到し得たことである。 さらに、本願発明の作用効果も、引用発明1及び引用発明2から当業者が予測できる範囲のものといわざるを得ない。 [相違点2]について 引用発明1において「発泡層の厚みの総計は1000μm以上が好ましい」場合とは、「断熱性に優れる」との作用効果を生じせしめようとするものであるところ、断熱容器用積層体の断熱性は、発泡層の厚みや、引用文献1の段落0029に「高圧法低密度ポリエチレン(b)は、断熱性及び発泡外観に優れるため、密度が910~930kg/m3の範囲であり、より好ましくは914~926kg/m3、さらに好ましくは916~924kg/m3の範囲である。高圧法低密度ポリエチレン(a)の密度が910kg/m3未満では、発泡外観に劣るため好ましくなく、930kg/m3を超える範囲では、断熱性に劣るため好ましくない。」(なお、「高圧法低密度ポリエチレン(a)」は文脈からみて、「高圧法低密度ポリエチレン(b)」の誤記である。)と記載されているように、高圧法低密度ポリエチレンの密度に影響を受け得るものである。 そうすると、断熱容器について、断熱性という作用効果を生じさせるにあたって、「発泡層の厚みの総計」を「1000μm以上」とすることは、必須の要件であるとはいえず、高圧法低密度ポリエチレンの密度や、発泡積層体の使用して断熱性を有する容器を製造する際の、断熱性を有する容器に求める断熱性の程度等の諸元によっては、引用発明1において、「発泡層の厚みの総計」を1000μm未満とすることも可能である。 したがって、引用発明1において、前記相違点2に係る本願発明のように構成することは、当業者が適宜になし得たことである。 さらに、本願明細書、特許請求の範囲及び図面全体を参酌しても、「カバー層」の厚みを、「300~900μm」と限定したことよって、特に範囲上下限に隣接した値で、その作用・効果に格別顕著な差が見出せず、その臨界的意義が認められないから、本願発明の作用効果も、引用発明1及び引用発明2から当業者が予測できる範囲のものといわざるを得ない。 第7 令和1年11年25日に提出された意見書に記載された主張について 本件審判請求人は、意見書において、以下の主張をしている。 「(b-1)・・・引用文献2には、このインキ組成物により形成したインキ組成物層を備えた断熱積層体の「断熱性」の向上や、「断熱性」と密接に関連する「発泡層厚み」に関する記載はなく、その示唆も確認できません。 ・・・ 本発明は、引用文献2における比較例に過ぎない「バインダー樹脂としてウレタン樹脂のみを用いたインキ」に代表されるような、バインダー樹脂中のウレタン樹脂の割合を所定の割合以上とすること」を採用することにより、発泡外観にすぐれた印刷層を備えた断熱容器用積層体を見出したものであり、このような本発明の効果は、引用文献2に開示されているインキでは解決し得なかった課題を解決したことにあるといえ、そうすると、本発明における「インキ中におけるウレタン樹脂の含有量」という構成は引用文献1と2との組合せからは想到できない顕著な効果を有しているといえます。 (b-2)「相違点1」について 前記(b-1)において記載した引用文献2についての検討結果に基づき、審判官殿が認定された「相違点1」について改めて検討いたします。 ・・・ 引用文献2において、ウレタンのみを含有するインキを断熱積層体の印刷層に採用した実施例や比較例は、少なくとも「インキ割れ」の課題を解決しておりません。 そうすると、このような実施例に触れた当業者に、インキ中のバインダー樹脂としてウレタン樹脂を積極的に用いようとする動機は生じ得ないと思料します。このことは、審判官殿が、拒絶理由通知においても指摘されているように、「発泡時におけるインキの割れ(クラック)の発生」という課題が、ポリエチレンの発泡によって形成された「(B)層」及び「印刷層」を有する引用発明1にも内在する課題といえるのであれば、なおさら、当業者はウレタン樹脂をバインダーとして用いることに躊躇するのが普通であり、引用文献2を引用文献1に組合せる動機付けがあるとはいえないと思料します。 なお、引用文献2には、インキ中のバインダー樹脂としてウレタン樹脂と塩酢ビを用いることも開示されておりますが、この記載のみから、本発明の特徴の1つである「印刷層の全固形分の合計質量に対する当該ウレタン樹脂の割合が18質量%以上」との構成を見出すことは決して容易ではないと思料します。」 そこで、この主張について検討する。 まず、本願の特許請求の範囲及び明細書には、印刷層によって「断熱性」を向上させることや、「印刷層の全固形分の合計質量に対する当該ウレタン樹脂の割合が18質量%以上」という点と、「断熱性」と密接に関連する「発泡層厚み」との関係は記載されていないから、本願発明の「印刷層」が「断熱性」の向上を目的としたものとはいえない。 次に、引用文献2の段落0082-0083には、「・・・ウレタン樹脂(固形分)3~20%、塩酢ビ樹脂(固形分)1~15%、・・・」及び「・・・ウレタン樹脂(固形分)5~15%、塩酢ビ樹脂(固形分)1~20%、・・・」と記載されており、ウレタン樹脂のみを用いたものは記載されていないし、先の拒絶理由通知においてウレタン樹脂のみを用いたことを根拠にした説示もしていない。 さらに、本願明細書の段落0097には、実施例6として「印刷層:乾燥後の印刷層の全固形分の合計質量に対するウレタン樹脂の割合18質量%」のものが記載され、段落0099には、比較例2として、「印刷層:乾燥後の印刷層の全固形分の合計質量に対するウレタン樹脂の割合10質量%」のものが記載されているものの、本願発明の「印刷層の全固形分の合計質量に対する当該ウレタン樹脂の割合が18質量%以上」という数値範囲の境界、例えば、18質量%と17質量%との間に、顕著な効果の差があることが記載されていないから、本願の明細書の記載に、「18質量%」を境に顕著な効果の差があることの根拠は見いだせない。 以上のとおりであるから、当該主張は、採用できない。 また、本件審判請求人は、意見書において、大要、以下の主張もしている。 「(b-3)「相違点2」について 次に、「相違点2」についても検討いたします。 審判官殿は、拒絶理由通知書において、『断熱性は、発泡層の厚みのみならず、発泡層を形成する高圧法低密度ポリエチレンの密度によっても変化する。』と判断されています(下線は、出願人において追加しました。)。 しかし、参考資料1等の記載によれば、100℃程度の条件下で若干下がりますが、空隙率を考慮すると発泡層の熱伝導率にポリエチレン部分、つまりポリエチレン骨格の熱伝導率は大きな影響を及ぼさないと考えることができます。 そうすると、審判官殿の「断熱性は、発泡層の厚みのみならず、発泡層を形成する高圧法低密度ポリエチレンの密度によっても変化する。」という主張は根拠に乏しいといえ、『断熱性を有するに足る厚みという観点からみれば、引用発明において、「発泡層の厚みの総計」を1000μm未満とすることも可能である。』という認定は成立しないものと思料します。」 そこで、この主張について検討する。 まず、引用発明1における「高圧法低密度ポリエチレンの密度」は、引用文献1の段落0009に記載されているとおり、「JIS K6922-1(2011年)により測定された密度」である。 そして、この密度については、前掲のように引用文献1の段落0029に記載されているとおりであるから、引用文献1には、「高圧法低密度ポリエチレンの密度」が断熱性へ影響を及ぼすことが示唆されている。付言すると、発泡されるポリエチレンの密度が、発泡性に影響を及ぼすことは技術常識であるから、結果として、ポリエチレンの密度が発泡層の断熱性に影響を与えるはずである。 また、先の拒絶理由通知では「引用発明1を具体化する際、発泡層を形成する高圧法低密度ポリエチレンの密度や引用発明1によって構成する断熱性を有する容器に求められる諸元を勘案し、」とも説示しており、前述のとおり、容器に求められる断熱性の程度によって、発泡層の厚みは変更し得るところ、本願の優先日前、高圧法低密度ポリエチレンを発泡した層について、例えば、200μm以上(例、特開2012-86497号公報の段落0103)、300μm以上(例、特開2010-214720号公報の段落0086)、700μm以上(例、特開2015-98106号公報の段落0053)等、1000μm未満のものが周知であり、引用文献1の段落0059に「本発明の発泡積層体について、断熱性に優れるため、発泡層の厚みの総計は1000μm以上が好ましく、・・・」と記載されており、優れた断熱性を求めることを前提に「1000μm以上が好まし」いと記載され、1000μm未満では断熱性が得られないとまでは記載されていないから、引用発明1においても、優れた断熱性まで必要がなければ、1000μm未満とすることも可能であって、前記主張どおり「高圧法低密度ポリエチレンの密度」が「断熱性」に及ぼす影響が大きくなかったとしても、引用発明1において、断熱性を有する容器に求められる他の諸元を勘案し、300~900μm程度のものとすることは可能である。 さらに、本願明細書の段落0040には「発泡後のカバー層11の厚さも特に限定されないが、断熱性と発泡外観に優れることから、20~1200μmが好ましく、より好ましくは300~900μm、さらに好ましくは400~700μmである。」と記載されており、1000~1200μmのものも予定されていたところ、「20~1200μm」から「300~900μm」としたことによって、どれほど顕著な効果の差が生じるのかは、本願明細書に記載されていない。 第8 むすび 以上のとおり、本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。

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2019-002030

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