特許拒絶査定不服審判
2025-005608
容器
- 審判番号
- 2025-005608
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2024-105144
- 請求日
- 2025年04月11日
- 審決日
- 2026年06月30日
- 公報発行日
- 2026年09月25日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ダイキン工業株式会社
- 【請求人代理人】弁理士法人WisePlus
- 審判長/審判官
- 審判長 田口 傑
- 審判官 笹木 俊男
- 審判官 稲葉 大紀
- 分類
- P18 .575-Z (B65D) / P18 .121-Z (B65D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2024-105144「容器」拒絶査定不服審判事件〔令和7年1月20日出願公開、特開2025-10033〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、令和6年6月28日(優先権主張令和5年6月30日)の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和6年 9月 2日付け:拒絶理由通知書
令和6年11月19日 :意見書、手続補正書の提出
令和7年 1月 6日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
(令和7年 1月14日 :原査定の謄本の送達)
令和7年 4月11日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和8年 4月 1日 :上申書の提出
第2 令和7年4月11日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和7年4月11日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。なお下線部は補正箇所である。
「【請求項1】
ポリテトラフルオロエチレンを充填するための容器であって、
前記ポリテトラフルオロエチレンが電気化学デバイス用バインダーに用いられるものであり、
側面の内壁が順テーパー又は逆テーパーの円柱状であり、
前記ポリテトラフルオロエチレンを充填した容器。」
(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、令和6年11月19日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
ポリテトラフルオロエチレンを充填するための容器であって、
前記ポリテトラフルオロエチレンが電気化学デバイス用バインダーに用いられるものであり、
側面の内壁が順テーパー又は逆テーパーの円柱状である容器。」
2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「容器」について、上記のとおり、「前記ポリテトラフルオロエチレンを充填した」という限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。
(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。
(2)引用文献の記載事項等
ア 引用文献1
(ア)引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由で引用された文献である、特開2004-182299号公報(以下「引用文献1」という。)には、「容器」に関して以下の記載がある。なお、下線は当審において付したものであり、「・・・」は省略を示す。以下同様。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
内容物を出し入れ可能な開口部を有する容器本体と、
前記開口部を塞ぐよう前記開口部に装着される蓋体とを備え、
前記蓋体は、前記開口部に装着された装着状態で、前記開口部の端部の内壁に沿って延びるとともに少なくとも一部が前記内壁に全周にわたって密着可能である進入防止部を有している、
容器。
・・・
【請求項5】
前記内容物は、ポリテトラフルオロエチレン粉末である、請求項1から4のいずれかに記載の容器。
・・・
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、容器に関する。」
「【0014】
請求項5に係る容器は、請求項1から4のいずれかの容器において、内容物は、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFE)粉末である。
PTFE粉末は、通常の状態では微粒子の形態であるが、圧接されると容易に変形して、繊維化、塊状化する性質を有している。特に、乳化重合で得られるPTFE成型用粉末(PTFEファインパウダー)の場合は、かかる性質が顕著である。
【0015】
ここでは、特に、このようなPTFE粉末の運搬等に用いられる容器において、内容物の形態の変化が抑えられる。
請求項6に係る容器は、請求項1から5のいずれかの容器において、外蓋をさらに備えている、外蓋は、装着状態の蓋体を覆うよう容器本体の開口部に装着される。」
「【0018】
【発明の実施の形態】
図2から図4に、本発明の一実施形態が採用された容器21を示す。
この容器21は、樹脂成形品等の原料となる粉末状物(例えば、PTFEファインパウダー)の保存、運搬等に用いられるものであって、容器本体23と、外蓋33と、内蓋35とを備えている。
【0019】
容器本体23は、一方の底面部分が開口されて開口部25が設けられた円筒形状であり、内容積59l程度のポリプロピレン(以下、PP)製の成形品である。・・・」
「【図1】 【図2】
[図:0001438951000001.jpg]
【図3】
[図:0001438951000002.jpg]
」
(イ)引用文献1の記載から認定できる事項
a 上記(ア)の特に図1~図3から、容器本体23の内壁27がテーパーを有していることが看取される。
b 上記(ア)の特に請求項1、5、【0014】~【0015】の記載から、引用文献1に記載された容器は、圧接されると容易に繊維化する性質が顕著なPTFEファインパウダーの保存、運搬等に用いられる容器である。そして、引用文献1には、そのようなPTFEファインパウダーを充填した容器も記載されているといえる。
c 上記(ア)の【0019】から、容器本体23は円筒形状であるといえる。
(ウ)引用文献1に記載された発明
上記(ア)及び(イ)を参酌すると、引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「内容物を出し入れ可能な開口部25を有する円筒形状の容器本体23と、
前記開口部25を塞ぐよう前記開口部25に装着される蓋体31とを備え、
容器本体23の内壁27がテーパーを有しており、
前記内容物として、圧接されると容易に繊維化する性質が顕著なPTFEファインパウダーを充填した容器21。」
イ 周知技術
(ア)引用文献A
当審において新たに提示する文献であり、本願明細書において背景技術を示す文献として記載されている特開2004-31179号公報(以下「引用文献A」という。)には以下の記載がある。
「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、カーボン等の電極材料を結着させるために用いられる結着剤に関し、より詳細には電池用電極の製造に好適に使用されるフッ素樹脂系の結着剤に関する。」
「【0010】
【発明が解決しようとする課題】
そこで本発明の目的は、電極材料と均一に混合することができ、かつ少量の添加量で高い結着力を示す電極用結着剤を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
すなわち本発明は、平均粒径が0.20μm以下でかつ真比重が2.20以下のテトラフルオロエチレン系重合体の微粒子からなり、その微粒子はそれに全体の17重量%に相当する押出助剤を加えた混合物を調製してからレオメーターによる押出圧力を測定した時に、絞り比が100対1および押出速度が18±2mm/分の条件下で、その押出圧力が220kg/cm2以上を示す電極材料用結着剤に関する。
・・・
【0013】
【発明の具体的説明】
次に、本発明に係わる電極材料用結着剤について、具体的に説明する。
まず本発明の電極材料用結着剤は、テトラフルオロエチレン系重合体の微粒子から構成されており、その平均粒径は、0.20μm以下、好ましくは0.10~0.18μmであって、また真比重は、2.20以下、好ましくは2.12~2.19である。
・・・
【0016】
一方、真比重は、ASTM D-1457に準拠して測定することができる。PTFEの分子量は直接測定することが困難なことから、一般にこの真比重の値から分子量を間接的に推測している。真比重が大きければ分子量は小さく、真比重が小さければ分子量は大きい。通常の用途で用いられている標準的なPTFEの真比重は2.21程度であるので、本発明で用いている真比重が2.20以下のテトラフルオロエチレン系重合体は相対的に高分子量体の領域に属している。テトラフルオロエチレン系重合体は通常ラメラ構造をとっており、高分子量体になるほど小さな力でそのラメラ構造が解きほぐされやすくなるので、フィブリルを生じ、電極材料との結着力を高める効果を示してくる。」
「【0024】
その押出圧力を測定する際、試験サンプルは、重合体微粒子に押出助剤を全体の17重量%になるように配合したペースト状の混合物を調製して用いる。押出助剤は、イソパラフィン成分を90%以上含有し、芳香族炭化水素およびオレフィン系炭化水素成分が1%以下に調整された石油系炭化水素から製造されている潤滑剤で、その初溜点が110℃以上、乾点が145℃以下のものを使用する。そのような押出助剤の一例として、エクソン化学株式会社製品 商品名アイソパーEを挙げることができる。また押出条件は、絞り比が100対1および押出速度18±2mmとする。試験サンプルの押出圧力が前記の範囲にあると、その試験サンプル中のテトラフルオロエチレン系重合体の微粒子は、電極材料に対して優れた結着性を示す。」
「【0032】
本発明で用いているテトラフルオロエチレン系重合体の微粒子は、その平均粒径が従来用いられてきた粒子の径よりも小さくなっており、それにつれて表面積が大きくなり、その結果粒子間の接触面積が増大して粒子間の摩擦力も大きくなっている。またこのテトラフルオロエチレン系重合体の微粒子は、高分子量体なのでフィブリル化し易い状態にある。この両方の物性が合わさってレオメーターによる押出圧力測定で高い値を示してくるが、電極材料に対する良好な結着性を発揮するにはその押出圧力が220kg/cm2以上であることが必要である。」
(イ)引用文献B
当審において新たに提示する文献であり、本願明細書において背景技術を示す文献として記載されている特開平11-343317号公報(以下「引用文献B」という。)には以下の記載がある。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、テトラフルオロエチレン系共重合体粒子からなる粉末、その粒子を含む分散液およびその分散液の製造方法に関する。」
「【0003】結着剤用途において、所望の粉体を結着させるため粉体に対して少量のPTFEを加え混練することにより、PTFEが繊維化(フィブリル化)し0.01μmオーダー以下の極めて微細な繊維を生じ、これにより粉体同士を決着させるバインダー効果が得られる。たとえば、電池製造においてカーボン粉末、フッ化カーボン粉末、2酸化マンガン粉末、酸化銀粉末、亜鉛粉末、鉛化合物粉末、ニッケル酸化物粉末、カドミウム系化合物粉末、水素吸蔵合金粉末、リチウム化合物粉末その他の電極活物質粉末と結着剤であるPTFE粒子を含む分散液を混練しPTFEを繊維化させ、得られたペーストを集電体でありかつ支持体である金網やパンチドメタルや発泡金属シート等の極板に塗布し固定する用途に供される。この場合、PTFEは電池の出力に直接関与せず、また電極中での導電性を低下させるためPTFEの添加量は少ないほどよい。したがって、PTFEは結着剤として高い結着性が求められる。このためPTFEの数平均分子量は大きい方が高結着強度となり望ましい。
【0004】また、PTFE粒子と電極活物質粉体との混練を実用上、比較的短時間で行なうことが望ましい。PTFEは、粒子の平均一次粒子径が小さい程粉体への吸着性がよく、混練工程で容易に繊維化するため望ましい。・・・」
「【0033】
【発明の効果】本発明により得られる小粒子径でかつ高分子量のPTFE系粒子およびそのPTFE系重合体粒子を含む分散液は、電池用結着剤や樹脂改質剤用として混練加工する際に良好な均一分散性を与えると共に加工成形物に良好な強度を与える。」
(ウ)引用文献C
当審において新たに提示する文献である再公表特許第2017/043372号(以下「引用文献C」という。)には以下の記載がある。
「【0001】
本発明は、ポリテトラフルオロエチレン成形体の製造方法及びポリテトラフルオロエチレン成形体に関する。」
「【0004】
しかし、高分子量のPTFEは、加工成形性が悪いという不都合を有する。例えば、PTFEを粉体として取り扱う場合は、わずかな剪断力によっても繊維化(フィブリル化)が生じるため、粉体塗装による塗工は極めて困難である。・・・」
「【0010】
[本発明の実施形態の説明]
本発明の一態様に係るポリテトラフルオロエチレン(PTFE)成形体の製造方法は、PTFEを主成分として含む成形材料に無酸素かつ結晶融点以上の条件下で電離性放射線を照射する照射工程を備え、上記PTFEの380℃における溶融粘度が、7×105Pa・s以下であるPTFE成形体の製造方法である。
【0011】
当該製造方法によれば、溶融粘度の低い、すなわち低分子量のPTFEを主成分として含む成形材料に対して電離性放射線を照射することで、耐摩耗性等の機械的特性に優れるPTFE成形体を得ることができる。なお、得られるPTFE成形体は、耐摩耗性以外の機械的特性として、引張強度や硬度なども高いものとすることができる。さらに、当該製造方法は、溶融流動性を有し、フィブリル化性を有さない低分子量のPTFEを用いるため、加工成形が容易になり、PTFE成形体の生産性を高めることなどができる。」
(エ)引用文献A~Cに記載された周知技術
上記(ア)及び(イ)を参酌すると、電池用電極の結着剤としてPTFEの中でも高分子量のものが用いられることが知られており、また、上記(ア)及び(ウ)を参酌すると、そのような高分子量のPTFEはよりフィブリル化しやすいことが知られているといえる。そうすると、以下の事項は本願優先日において周知技術(以下、単に「周知技術」という。)であったと認められる。
「電池用電極の結着剤として、PTFEの中でも高分子量のものが用いられ、そのようなものにおいてはよりフィブリル化しやすいこと。」
(3)対比
本件補正発明と引用発明を対比する。
引用発明の「内容物として」の「PTFEファインパウダー」、「容器21」はそれぞれ、本件補正発明の「ポリテトラフルオロエチレン」、「容器」に相当する。
引用発明の「円筒形状の」「容器本体23の内壁27がテーパーを有して」いることは、本件補正発明の「側面の内壁が順テーパー又は逆テーパーの円柱状であ」ることを満たす。
引用発明の「前記内容物として、圧接されると容易に繊維化する性質が顕著なPTFEファインパウダーを充填した容器21」は、本件補正発明の「ポリテトラフルオロエチレンを充填するための容器であ」ること、及び、「前記ポリテトラフルオロエチレンを充填した容器」であることを満たす。
以上をまとめると、本件補正発明と引用発明の一致点及び相違点は以下のとおりである。
[一致点]
「ポリテトラフルオロエチレンを充填するための容器であって、
側面の内壁が順テーパー又は逆テーパーの円柱状であり、
前記ポリテトラフルオロエチレンを充填した容器。」
[相違点]
ポリテトラフルオロエチレンについて、本件補正発明では、「電気化学デバイス用バインダーに用いられるもの」であるのに対し、引用発明では、PTFEファインパウダーの用途が不明な点。
(4)判断
以下、相違点について検討する。
引用発明の容器21は圧接されると容易に繊維化する性質が顕著なPTFEファインパウダーを充填したものであるところ、当該充填されたPTFEファインパウダーの用途は適宜選択されるものである。
そして、上記(2)イに周知技術として示した「電池用電極の結着剤として、PTFEの中でも高分子量のものが用いられ、そのようなものにおいてはよりフィブリル化しやすいこと」を踏まえると、引用発明の容器に充填する「圧接されると容易に繊維化する性質が顕著なPTFEファインパウダー」として、電池用電極の結着剤(バインダー)として用いられる高分子量のPTFEとすることで、相違点に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
また、テーパーによる作用効果そのものについて、少なくともテーパー部分において深さが小さくなることで自重による圧力が小さくなることは、容器の内容物の種類によらず、当業者が十分予測できたことである。このことは、本願明細書の「自重によって生じる力がPTFEの粉末に加わりにくくなり、圧密されにくくなるため、フィブリル化を抑制できる。」(【0045】)との記載とも整合的である。
そして、「電池用電極の結着剤として、PTFEの中でも高分子量のものが用いられ、そのようなものにおいてはよりフィブリル化しやすい」という周知技術に照らせば、本件補正発明が奏する効果も当業者が十分予測し得た程度のものにすぎない。
(5)請求人の主張について
ア 審判請求書での主張
請求人は審判請求書にて、「(2)・・・第一の本願発明は、電気化学デバイス用バインダーに用いられるPTFEが通常のPTFEよりもフィブリル化が起こりやすい傾向があることを見出し、さらに、容器の側面の内壁が順テーパー又は逆テーパーの円柱状であることでフィブリル化を抑制できることを見出し、完成したものです。・・・よって、当業者が引用文献1、2を参照したとしても、この新規な課題を見出し、第一の本願発明を完成させることは容易ではありません。」と主張する。
しかしながら、請求人が見出したとする電気化学デバイス用バインダーに用いられるPTFEが通常のPTFEよりもフィブリル化が起こりやすい傾向があることは、「電池用電極の結着剤として、PTFEの中でも高分子量のものが用いられ、そのようなものにおいてはよりフィブリル化しやすい」という周知技術に照らせばそもそも新規な課題とはいえないし、そのような電池用電極の結着剤(バインダー)に用いられるPTFEを引用発明の容器の内容物として選択することは当業者が適宜なし得たことであり、それにより生じる効果も、上記(4)のとおり当業者が十分予測し得た程度のものにすぎない。
したがって、請求人の上記主張は採用できない。
イ 上申書での主張
請求人は上申書にて、「(1-2)・・・実験成績証明書の実験Aで示されているように、電気化学デバイス用バインダーに用いられないPTFEでは、テーパー形状の容器に充填した場合(実験例8)と、非テーパー形状の容器に充填した場合(実験例9)とで、保管後の固まり性に違いはなく、いずれも0.1質量%未満と良好です。一方、本願明細書の実施例で示されているように、電気化学デバイス用バインダーに用いられるPTFEでは、テーパー形状の容器に充填した場合(実験例1)は0.4質量%であるのに対し、非テーパー形状の容器に充填した場合(実験例7)は5.6質量%であり、大きく相違しています。」と、本件補正発明が、電気化学デバイス用バインダーに用いられるPTFEに対して格別の作用効果を奏することを主張する。
しかしながら、請求人が主張する実験例8、9の結果は、上記(2)イで示した「電池用電極の結着剤として、PTFEの中でも高分子量のものが用いられ、そのようなものにおいてはよりフィブリル化しやすい」という周知技術に照らせば、比較的フィブリル化しにくいPTFEにおいては、テーパーにより自重が粉末に加わりにくくなる効果がなくてもフィブリル化が生じなかったという、当業者が十分予測し得た程度のことを示しているにすぎない。
したがって、請求人の上記主張も採用できない。
ウ 上申書でのその他の主張について
他の独立請求項である請求項23及び32、並びに補正の申出について、補足的に当審合議体の見解を以下に示す。
(ア)請求人は上申書にて、請求項23について、「(2-2)ここで、実験成績証明書の実験例9は、充填されるPTFEが15kgで、保管後の固まり性は0.1質量%未満です。・・・すなわち、電気化学デバイス用バインダーに用いられないPTFEは、充填量が大きくなっても、保管後の固まり性は良好です。一方、本願明細書の実施例で示されているように、電気化学デバイス用バインダーに用いられるPTFEでは、容器に5kg充填した場合(実験例5)と比較して、容器に15kg充填した場合、保管後の固まり性は大きく悪化しています。」と、請求項23に係る発明が、電気化学デバイス用バインダーに用いられるPTFEに対して格別の効果を奏することを主張する。
しかしながら、当該主張についても上記イと同様、比較的フィブリル化しにくいPTFEにおいては、15kg充填してもフィブリル化が生じなかったことを示しているにすぎない。
(イ)さらに、請求人は上申書にて、請求項32について、「(3-2)・・・実験成績証明書の実験Bで示されているように、要件1を満たさないPTFE(実験例10、11)では、要件2を満たす容器で保存しても、結着容易性が不良となっています。これらの結果から、要件1、2を満たす場合に、特異的に、PTFEの保存性、結着容易性が顕著に改善されるという効果を奏することは明らかです。」と主張する。
しかしながら、本願明細書には、粒径を「300~700μm」とすることについて、【0083】に「上記PTFEは、取り扱い性が向上する点で、粉体粒径が300μm以上であることが好ましく、・・・700μm以下であることが特に好ましい。」と記載されているにとどまり、PTFEの粒径を特定することでPTFEの保存性、結着容易性が改善することについては本願明細書全体を参酌しても記載も示唆もない。そうすると、請求人の上記主張は、本願明細書の記載に基づくものではないから採用できない。
(ウ)さらに、請求人は上申書にて、「第一の本願発明及び第二の本願発明で充填されるPTFEを、「リダクションレシオ100における押出圧力が5MPa以上」のものに限定する用意があります。」と申し出ている。
しかしながら、引用文献Aの【0024】、【0032】には、電池用電極の結着剤(バインダー)に用いられるPTFEとして、絞り比が100対1における押出圧力が例えば220kg/cm2以上(=約22MPa以上)である必要があることが記載されているから、仮に上記補正がなされたとしても、上記判断にかわるところはない。
(6)小括
以上のとおりであるから、本件補正発明は、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
3 本件補正についてのむすび
上記2のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1~34に係る発明は、令和6年11月19日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1~34に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、上記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。
2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由における請求項1についての理由は以下のものを含むものである。
本願発明は、本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献1:特開2004-182299号公報
3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1の記載事項等は、上記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。
4 対比・判断
本願発明は、上記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、「容器」について、「前記ポリテトラフルオロエチレンを充填した」という限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに「前記ポリテトラフルオロエチレンを充填した」という限定事項を付加したものに相当する本件補正発明が、上記第2の[理由]2(3)及び(4)に記載したとおり、上記限定事項の判断のために周知技術を認定し、本件補正発明が引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたとするものであるから、本願発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2025-005608