特許拒絶査定不服審判
2019-000485
差動信号伝送ケーブル及び多芯差動信号伝送ケーブル
- 審判番号
- 2019-000485
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2015-081219外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2019年01月16日
- 審決日
- 2020年04月16日
- 公報発行日
- 2020年07月31日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】日立金属株式会社
- 分類
- P18 .121-WZ (H01B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2015- 81219「差動信号伝送ケーブル及び多芯差動信号伝送ケーブル」拒絶査定不服審判事件〔平成28年12月 1日出願公開,特開2016-201273〕について,次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は,成り立たない。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本願は,平成27年4月10日に出願された特願2015-81219号であり,その手続の経緯は,概略,以下のとおりである。
平成30年 7月31日:拒絶理由通知(起案日)
平成30年10月 5日:意見書
平成30年10月 5日:手続補正書
平成30年10月11日:拒絶査定(起案日)
平成31年 1月16日:審判請求
平成31年 1月16日:手続補正書
令和 元年12月26日:拒絶理由通知(起案日)
令和 2年 3月 6日:意見書
令和 2年 3月 6日:手続補正書(以下,この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。)
第2 本願発明
本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項2(以下「本願発明」という。)は,以下のとおりである。
「【請求項2】
10Gbps以上の高周波帯域における差動信号を伝送する差動信号伝送ケーブルであって,
互いに平行に延在して差動信号を伝送する一対の信号線導体,及び前記一対の信号線導体を被覆する絶縁体を有する絶縁電線部と,
帯状の銅箔からなり,その幅方向の一部が重なり合うように前記絶縁電線部の周囲に螺旋巻きされたシールド導体とを備え,
前記絶縁電線部は,前記一対の信号線導体のうち一方の信号線導体を絶縁体で被覆してなる第1の絶縁電線と,前記一対の信号線導体のうち他方の信号線導体を絶縁体で被覆してなる第2の絶縁電線とを有し,
前記シールド導体の幅は,前記第1及び第2の絶縁電線のそれぞれの外径の6倍以上かつ8倍以下であり,
前記シールド導体は,破断が生じることなく長手方向に伸長可能な伸び率である許容伸び率が常温で2%以上であり,長手方向の伸び率が1%のときの引っ張り応力が300MPa以下であり,その全幅に対する前記重なり合う部分の幅方向寸法が,30%以上かつ50%未満であり,
前記一対の信号線導体の延在方向に対する前記シールド導体の巻き付け方向の傾斜角である巻き付け角度が30°以上60°以下である,
差動信号伝送ケーブル。」
第3 拒絶の理由
令和元年12月26日付けで当審が通知した拒絶理由は,大略,次のとおりのものである。
(進歩性)この出願の請求項1ないし5に係る発明は,本願の出願前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1に記載された発明及び引用文献2ないし5に記載された事項に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない,というものである。
1.特開2014-78338号公報
2.特開2011-222262号公報
3.特開平7-109552号公報
4.特開2008-171778号公報
5.特開2011-142070号公報
第4 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献1
(1)引用文献1には,以下の事項が記載されている。(下線は,当審で付した。以下同じ。)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
平行に並べられた2本の芯線を絶縁体で被覆して形成された絶縁電線と,前記絶縁電線の周囲に螺旋状にかつオーバーラップ部位を有するように巻き付けられたシールドテープとを備え,
前記シールドテープは,引っ張り強さが常温で150~450N/mm2である金属箔からなることを特徴とする差動信号伝送用ケーブル。」
「【請求項5】
前記金属箔が銅箔であることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の差動信号伝送用ケーブル。」
「【技術分野】
【0001】
本発明は,差動信号伝送用ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
差動信号伝送用ケーブルとして,2本の絶縁電線を撚らずに平行に並べ,これらをシールド導体で被覆したツイナックスケーブルが知られている。ツイナックスケーブルは,数Gbps以上の高速信号伝送に用いられている。」
「【0014】
(差動信号伝送用ケーブルの構成)
図1は,本発明の実施の形態に係る差動信号伝送用ケーブル(製造途中)の斜視図である。また,図2は,本発明の実施の形態に係る差動信号伝送用ケーブルのケーブル長手方向の要部を示す断面図である。
【0015】
本発明の実施の形態に係る差動信号伝送用ケーブル10は,平行に並べられた差動ペアをなす2本の芯線(信号線導体)1を絶縁体2で被覆して形成された絶縁電線3と,絶縁電線3の周囲に螺旋状にかつオーバーラップ部位40を有するように巻き付けられたシールドテープ4とを備え,シールドテープ4は,引っ張り強さが常温で150~450N/mm2である金属箔からなる。なお,常温とは5~35℃のことであり,5~35℃の範囲内のいずれかの温度において150~450N/mm2であればよい。
【0016】
差動信号伝送用ケーブル10は,図1に示すようにシールドテープ4の周囲に押え巻きテープ5がシールドテープ4とは逆回しで螺旋状にかつオーバーラップ部位50を有するように巻き付けられていることが,製造過程及び製造後におけるシールドテープ4の巻き緩みを防止できる点で好ましい。オーバーラップ部位50とは,シールドテープ4の周囲に螺旋状に巻き付ける際のn巻き目に巻き付けた押え巻きテープ5とn+1巻き目に巻き付けた押え巻きテープ5とがオーバーラップしている部分をいう(nは0を含まない正の整数)。
【0017】
芯線1は,例えば,銅等の電気良導体の単線,この電気導体にメッキ等を施した単線である。
【0018】
絶縁体2は,例えば,誘電率,誘電正接の小さい材料を用いて形成される。この材料は,例えば,ポリテトラフルオロエチレン(PTFE),ポリエチレン,パーフルオロアルコキシアルカン(PFA),発泡ポリエチレンや発泡テフロン等の発泡絶縁樹脂である。
【0019】
絶縁電線3は,図1に示されるように2本の芯線1をそれぞれ別体の絶縁体2で被覆した形態としても良いし,2本の芯線1を絶縁体2で一括して被覆した形態(図示なし)としても良い。一括被覆する場合,絶縁体2の断面形状を2本の芯線1の並び方向に対して平行な平坦部を有する扁平楕円形状としてもよいし,2本の芯線1の並び方向に長い楕円形状としてもよい。絶縁電線3は,例えば,2芯一括押出しにより製造できる。
【0020】
シールドテープ4は,絶縁電線3の周囲に螺旋状にかつオーバーラップ部位40を有するように巻き付けられる。オーバーラップ部位40とは,絶縁電線3の周囲に螺旋状に巻き付ける際のn巻き目に巻き付けたシールドテープ4とn+1巻き目に巻き付けたシールドテープ4とがオーバーラップしている部分をいう(nは0を含まない正の整数)。オーバーラップ部位40の幅は,シールドテープのテープ幅の1/4~4/5とすることが好ましく,1/3~3/4とすることがより好ましく,1/3~1/2とすることがさらに好ましい。
【0021】
シールドテープ4は,引っ張り強さが常温で150~450N/mm2である金属箔からなる。引っ張り強さは,常温で200~450N/mm2であることが好ましく,常温で350~450N/mm2であることがより好ましい。金属箔は,銅箔であることが好ましい。また,銅箔は,圧延銅箔であることが好ましいが,電解銅箔を用いることもできる。
【0022】
シールドテープ4は,粗化処理された粗化面41と粗化処理されていない非粗化面42とを有することが好ましい。
【0023】
シールドテープ4は,粗化面41が外向き(非粗化面42が内向き)となるように絶縁電線3の周囲に螺旋状に巻き付けられていることが好ましい。
【0024】
粗化面41の表面粗さ(Rz)は,1~2μmであることが好ましい。
【0025】
シールドテープ4は,種々の厚さ,幅のものを適宜使用できるが,厚さ8~12μm,幅4~10mmであることが好ましく,厚さ9~10μm,幅5~6mmであることがより好ましい。
【0026】
押え巻きテープ5の材料としては,例えば,PET(ポリエチレンテレフタラート)を使用できる。」
「【0027】
(差動信号伝送用ケーブルの用途)
本実施の形態に係る差動信号伝送用ケーブル10は,数Gbps以上の大容量の高速伝送に適しており,10Gbps以上クラスの高速伝送にも好適に使用できる。高速信号伝送を行なう多芯ハーネスの各ケーブルに使用でき,データセンタなどに設置されるルータ,スイッチ,サーバで使用されるケーブルアッセンブリに適用が可能である。また,パソコン(PC)やハードディスク(HDD)などに用いられるケーブルアッセンブリに適用が可能である。さらに,上記用途に使用されるケーブルデバイス(アクティブケーブル)への適用が可能である。送受信ICと組み合せたアクティブケーブルに使用してもよい。」
「【実施例】
【0033】
図3は,実施例及び比較例に係る差動信号伝送用ケーブルの減衰量-周波数特性を示す図である。
【0034】
上記本発明の実施の形態に係る差動信号伝送用ケーブル(実施例1,2)と従来の差動信号伝送用ケーブル(比較例1)について,減衰量-周波数特性を測定した。使用した差動信号伝送用ケーブルは下記表1の通りであり,シールドテープは,オーバーラップ部位がシールドテープのテープ幅の1/3となるように螺旋状に巻き付けた。
【0035】
【表1】
」
「【図1】
」
(2)上記(1)から,引用文献1には,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「平行に並べられて差動ペアをなし,銅等の電気良導体からなる2本の芯線(信号線導体)1及び,
誘電率,誘電正接の小さい材料(例えば,ポリテトラフルオロエチレン(PTFE),ポリエチレン,パーフルオロアルコキシアルカン(PFA),発泡ポリエチレンや発泡テフロン等の発泡絶縁樹脂)からなる絶縁体2を有し,
2本の芯線1をそれぞれ別体の絶縁体2で被覆した形態をなす絶縁電線3と,
絶縁電線3の周囲に螺旋状に巻き付けられ,オーバーラップ部位40を備え,表面粗さ(Rz)が1~2μmである外向きに粗化処理された粗化面41と,内向きに粗化処理されていない非粗化面42とを有し,厚さが9~10μm,幅が5~6mmである銅箔からなるシールドテープ4と,
シールドテープ4の周囲に,シールドテープ4とは逆回しで螺旋状にかつオーバーラップ部位50を有するように巻き付けられ,PET(ポリエチレンテレフタラート)からなる押え巻きテープ5と,
を有する差動信号伝送用ケーブル10であって,
オーバーラップ部位40は,絶縁電線3の周囲に螺旋状に巻き付ける際のn(nは0を含まない正の整数)巻き目に巻き付けたシールドテープ4と,n+1巻き目に巻き付けたシールドテープ4とがオーバーラップしており,オーバーラップ部位40の幅はシールドテープのテープ幅の1/3であり,
高速信号伝送を行なう多芯ハーネスの各ケーブルに使用でき,
10Gbps以上クラスの高速伝送にも好適に使用できる,
差動信号伝送用ケーブル10。」
2 引用文献2
(1)引用文献2には,以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
複数本の信号線の周囲に一括して金属箔樹脂テープを螺旋状に巻き付けてなるシールド導体を備えたシールドケーブルであって,
前記金属箔樹脂テープの巻き付けの重なり部分で,上下の金属箔が互いに電気的に接触していることを特徴とするシールドケーブル。
【請求項2】
前記金属箔樹脂テープの一方のエッジ部が,金属箔を外側にして折り返されていることを特徴とする請求項1に記載のシールドケーブル。」
「【0001】
本発明は,2本以上の信号線の周囲に一括してシールド用の金属箔樹脂テープを螺旋状に巻き付けてなるシールドケーブルに関する。」
「【0009】
【図1】本発明によるシールドケーブルの概略を説明する図である。
【図2】図1の金属箔樹脂テープの巻き付け形態を説明する図である。
【図3】本発明に用いる金属箔樹脂テープの製造例を説明する図である。
【図4】本発明に用いる金属箔樹脂テープの他の例を説明する図である。
【図5】本発明によるシールドケーブルの信号減衰の検証結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1,2により本発明のシールドケーブルの概略とその実施形態を説明する。図において,1はシールドケーブル,2は信号導体,3は絶縁体,4は信号線,5は金属箔樹脂テープ,5aは折り重ね部,6はシールド導体,6aは重なり部分,7は外被,8はドレイン線,9aは金属箔,9bは樹脂テープを示す。
【0011】
本発明によるシールドケーブル1は,図1(A)に示すように,単心線または撚線からなる信号導体2を所定の誘電率を有する絶縁体3で被覆した信号線(又は心線)4を,例えば,2本を平行に並べるか又は撚り合わせた対ケーブルで形成する。また,4本の信号線をからなるカッドケーブルとしてもよい。なお,信号線4として,この他に,絶縁体3の外側に外部導体として,金属素線を編組,横巻き,または金属箔樹脂テープの巻き付けで形成した同軸線を用いることもできる。
【0012】
対にされた2本の信号線4の外周には,金属箔樹脂テープ5を螺旋巻きしてシールド導体6とし,2本の信号線4は一括してシールドされる。金属箔樹脂テープ5は,後述するように金属箔が外側または内側になるように重ね巻きで巻き付けられ,その重なり部分6aでは,金属箔同士が互いに電気的に接触される。シールド導体6の外側には,巻き付けられた金属箔樹脂テープ5を電気的に絶縁すると共に,汚染を防ぎ,ケーブルとしての耐水性を持たせるために外被7で被覆されることがある。
【0013】
本発明のシールドケーブル1は,図1(A)に示すようにドレイン線を用いない構成であってもよいが,従来と同様に信号線4とシールド導体6との間にドレイン線8を縦添えして構成することもできる。なお,シールド導体6の金属面が外側になるように巻き付けられている場合は,図1(B)に示すように,ドレイン線8は,シールド導体6と外被7との間に縦添えで配される。
【0014】
本発明のシールドケーブルにおける信号導体2は,銅やアルミ等の電気良導体,またはこれらの電気良導体に錫メッキ等を施した単心線または撚線で形成され,例えば,AWG18~46相当の線材が用いられる。信号導体2を電気的に絶縁する絶縁体3としては,できるだけ誘電率の小さいものが用いられ,例えば,ポリエチレン(PE),エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA),フッ素樹脂等が用いられる。これらの線材と絶縁樹脂により形成される信号線4の外径は,3.0mm~0.15mmで,例えば,AWG26の線材を用いた場合の信号線4の外径は,1.2mm程度となる。
【0015】
シールド導体6を形成する金属箔樹脂テープ5は,アルミまたは銅などの金属箔をポリエチレンテレフタレート(PET)等のプラスチック基材(樹脂テープ)にラミネートしたものが用いられる。なお,金属箔の厚さは3μm~30μmで,プラスチック基材の厚さは3μm~50μmで,金属箔樹脂テープ5の厚さは6μm~80μmである。
シールド導体6の外周には,ケーブル保護のための外被7が施される。この外被7は,ポリエチレン,ポリ塩化ビニル,フッ素樹脂等の熱可塑性樹脂の押出し成形で形成してもよく,樹脂テープの巻付けで形成してもよい。
【0016】
金属箔樹脂テープ5は,図2(A)に示すような形態で,対にされた信号線4の外周に螺旋状に重ね巻きで巻き付けて,シールド導体6とされる。金属箔樹脂テープ5の重ね巻き付け角度θは,ケーブル長手方向に直交する軸X-Xに対して,8°~70°で巻き付ける。巻き付けの重なり部分6aにおいては,下側と上側の金属箔が互いに電気的に接触するようにされる。
【0017】
図2(B)~図2(D)に,上記のシールド導体を形成するための金属箔樹脂テープと,その巻き付け例を示す。
図2(B)は,金属箔9aと樹脂テープ9bがラミネートされた金属箔樹脂テープ5の一方のエッジ部を,金属箔9aが外側になるように折り返して折り重ね部5aとする。この金属箔樹脂テープ5は,金属箔9aが内側になるように信号線4の外周に巻き付ける。このとき,折り重ね部5aの金属箔9aは,巻き付けの外側に露出され,次の巻き付けターンの金属箔樹脂テープの折り重ね部を有しない他方のエッジ部の金属箔9aが重なり,電気的に接触する。
【0018】
シールド導体6の重なり部分6aの金属箔樹脂テープの折り返し幅Lは,金属箔樹脂テープ5のテープ幅Wの1/4~1/2程度とするのが好ましい。重なり部分6aの重ね幅は,金属箔樹脂テープ5の折り重ね部5aの折り返し幅Lとほぼ同程度,または少し長めであるのが好ましい。例えば,10mm幅の金属箔樹脂テープの一方のエッジを2mm折り返し,テープ幅Wを8mmとする。そして,信号線4上への巻き付けの重ね幅を2~2.3mmにして巻付ける。折り返し幅が小さいと重ね部分での金属箔の導通が十分でなくなることがあり,折り返し幅は大きすぎると金属箔樹脂テープが無駄になり,また巻きが乱れることもある。なお,金属箔樹脂テープ5の巻き付けピッチPは,3mm~50mm程度とする。
【0019】
図2(C)は,図2(B)における金属箔樹脂テープ5を,金属箔9aが外側になるように信号線4の外周に巻き付けた例である。この場合,折り重ね部5aの金属箔9aは,巻き付けの内側となって,前の巻き付けターンの金属箔樹脂テープの折り重ね部を有しないエッジ部の金属箔9a上に重なり,電気的に接触する。なお,シールド導体6の重なり部分6aの重ね幅,金属箔樹脂テープの折り返し幅L,金属箔樹脂テープ5のテープ幅W,金属箔樹脂テープ5の巻き付けピッチP等は,図2(B)の例と同じにすることができる。
【0020】
図2(D)は,金属箔樹脂テープ5の一方のエッジ部を折り返す代わりに,予めエッジ部の樹脂テープ9bが除かれて金属箔9aが上下面で露出した露出箔部5bを有するものを用いる例である。図2(D)では,金属箔樹脂テープ5は,金属箔9aが内側になるように信号線4の外周に巻き付けられ,前の巻き付けターンの露出箔部5b上に,次の巻き付けターンの他方のエッジ部の金属箔9aが重ねられて,電気的に接触する。なお,この形状の金属箔樹脂テープ5は,図2(C)と同様に金属箔9aが外側になるように信号線4の外周に巻き付けるようにしてもよい。」
「【図1】
」
「【図2】
」
(2)上記(1)から,引用文献2には,次の技術が記載されていると認められる。
ア 「銅やアルミ等の電気良導体,またはこれらの電気良導体に錫メッキ等を施した単心線または撚線で形成され,AWG26の線材が用いられる信号導体2と,
信号導体2を,所定の誘電率を有する絶縁体3で被覆することで形成し,外径が1.2mm程度である信号線(又は心線)4を,2本を平行に並べた対ケーブルと,
アルミまたは銅などの金属箔をポリエチレンテレフタレート(PET)等のプラスチック基材(樹脂テープ)にラミネートしたものが用いられ,幅が10mmである金属箔樹脂テープ5と,
対にされた信号線4の外周に螺旋状に重ね巻きで巻き付けて形成されるシールド導体6と,
を有するシールドケーブル1において,
10mm幅の金属箔樹脂テープ5の一方のエッジを2mm折り返して,テープ幅Wを8mmとし,金属箔9aが内側になるように信号線4の外周に巻き付けること。」
イ 「金属箔樹脂テープ5のテープ幅W(8mm)は,信号線4の外径(1.2mm程度)に対して,6.7倍程度であること。」
3 引用文献3
(1)引用文献3には,以下の事項が記載されている。
「【請求項1】 タフピッチ銅又は無酸素銅の鋳塊に,熱間圧延,冷間圧延及び中間焼鈍,仕上焼鈍を施して,厚さ10μm以下の極薄軟質銅箔を製造する方法において,最後の中間焼鈍と仕上焼鈍との間において施される冷間圧延による冷間加工度が95%以下であり,且つ仕上焼鈍温度(T℃)が,再結晶温度≦T℃≦(再結晶温度+80℃)であることを特徴とする極薄軟質銅箔の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は,電線等のシールド材として好適に使用しうる極薄軟質銅箔の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来より,電線を被覆するためのシールド材として,厚さ10μm以下の銅箔が使用されている。この銅箔を電線に被覆する工程では,電線に緊密に銅箔を密着させて被覆させるため,銅箔に高張力が負荷される。しかるに,銅箔の厚さが10μm以下と極薄であるため,銅箔の引張強さ及び伸びが低く,銅箔が切断するということがあった。また,厚さ10μm以下の銅箔と合成樹脂製フィルムとを貼合する場合にも,銅箔に高張力が負荷され,クラックが発生するということもあった。
【0003】銅箔の厚さが薄くなるにしたがって,銅箔の伸びが低くなり,またその引張強さが低くなることは,当業者にとって自明である。従って,電線を被覆する場合等において,当業者は,銅箔に高張力が負荷されないような試みをすることが一般的である。例えば,銅箔に合成樹脂製シート等を積層して,銅箔自体に高張力が負荷されないようにする試みがなされている。
【0004】ところで,従来,使用されている銅箔は,以下のような方法によって製造されているものである。即ち,厚さ50~300mmのタフピッチ銅や無酸素銅の鋳塊に,熱間圧延を施し,次いで冷間圧延と中間焼鈍を繰り返して,厚さ10μm以下の箔とし,その後,箔を軟化させるために,再結晶温度以上の温度で仕上焼鈍を施して,銅箔を得ているのである。そして,タフピッチ銅や無酸素銅は,冷間圧延による加工度を高くすることができるため,最後の中間焼鈍を終えたのち,冷間加工度が95%を超える程度に冷間圧延を施し,その後仕上焼鈍を施している。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】以上のような技術状況下において,本発明者は,厚さが10μm以下になっても高い引張強さを保持する銅箔を得るべく,種々研究を重ねた。その結果,上記した従来法によらずに,ある特定の方法で極薄銅箔を得ると,厚さが10μm以下となっても,当業者の常識に反して,比較的高い伸び及び比較的高い引張強さを保持することを見出したのである。即ち,タフピッチ銅や無酸素銅は,一般的に冷間加工における加工度が非常に高く(95%を超える程度に)設定されるが,本発明においては,特定の冷間圧延工程における加工度を低く設定すると,厚さが10μm以下となっても,比較的高い伸び及び比較的高い引張強さを保持することを見出したのである。」
「【0012】
【実施例】
実施例1~6及び比較例1~6
溶解・鋳造により,厚さ30mm×巾200mm×長さ300mmのタフピッチ銅の鋳塊を準備した。この鋳塊に熱間圧延を施した後,冷間圧延と中間焼鈍を数回繰り返して,最後の中間焼鈍を終えて,表1に示した厚さの銅板を得た。そして,この銅箔に,冷間加工度が表1に示した値となるようにして冷間圧延を施し,最終厚さ9μm又は7μmの極薄銅箔を得た。そして,表1に記載した条件で仕上焼鈍を施し,極薄軟質銅箔を得た。なお,各例で使用した極薄銅箔の再結晶温度は,表1に記載したとおりであった。
【0013】
【表1】
【0014】以上のような方法で得られた極薄軟質銅箔の引張強さ(kgf/mm2)及び伸び(%)は,表1に記載したとおりであった。なお,引張強さ及び伸びの測定方法は,以下のとおりである。即ち,巾10mmの試料(長手方向が圧延方向である)の両端部をチャックで把持し,チャック間距離50mm,引張速度10mm/minで,試料が破断するまで引っ張って,荷重-歪曲線を描き,最大荷重を断面で除したものを引張強さ(kgf/mm2)とする。一方,破断時における試料の長さをL1(mm)とした場合,[(L1-50)/50]×100の式で算出されるものを伸び(%)とする。
【0015】表1の引張強さ及び伸びの結果から明らかなとおり,最後の中間焼鈍と仕上焼鈍の間に施される冷間圧延工程における冷間加工度を95%以下にし,且つ仕上焼鈍の温度を再結晶温度又はそれよりも一定値高い温度で行って得られた極薄軟質銅箔(実施例1~6)は,冷間加工度が95%を超えたり,再結晶温度未満の温度で仕上焼鈍を行ったり,或いは再結晶温度よりも一定値以上高い温度で仕上焼鈍を行い得られた極薄軟質銅箔(比較例1~6)に比べて,その引張強さは高く且つ伸びも高いものであった。」
(2)上記(1)から,引用文献3には,次の技術が記載されていると認められる。
ア 「電線等のシールド材として好適に使用しうる極薄軟質銅箔においては,厚さが10μm以下となっても,比較的高い伸び及び比較的高い引張強さを保持することが望ましいこと。」
イ 「実施例1においては,厚さが9μmの銅箔の伸びが8%,引張強さが19.3kgf/mm2(189MPa)であること。 (ただし,幅10mmの試料(長手方向が圧延方向である)の両端部をチャックで把持し,チャック間距離50mm,引張速度10mm/minで,試料が破断するまで引っ張って,荷重-歪曲線を描き,最大荷重を断面で除したものを引張強さ(kgf/mm2)とする。また,破断時における試料の長さをL1(mm)とした場合,[(L1-50)/50]×100の式で算出されるものを伸び(%)とする。)」
ウ 「引張強さ(kgf/mm2)の定義は,試料が破断するまで引っ張って,荷重-歪曲線を描き,最大荷重を断面で除した値である。そうすると,実施例1の銅箔の伸びが1%の「荷重/断面」の値が,前記最大荷重である19.3kgf/mm2(189MPa)よりも小さな値であることは明らかであること。」
エ 「シールドテープ4は電線等に用いられることから,実施例1の特性は,電線が設置される地上付近での気温,すなわち常温で測定した数値であると理解することが,合理的かつ自然であること。すなわち,銅箔の伸びである8%と,引張強さである19.3kgf/mm2(189MPa)とは,いずれも常温での数値であること。」
4 引用文献4
(1)引用文献4には,以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
内部導体と,
当該内部導体の外周に設けられた誘電体層と,
当該誘電体層の外周に設けられた外部導体層と,
当該外部導体層の外周に設けられた保護被膜層とを備えた同軸ケーブルであって,
前記外部導体層と前記保護被膜層との間には,当該外部導体層を巻回する巻回帯からなる巻回帯層が設けられており,
前記巻回帯層は,前記同軸ケーブルの長手軸方向に対して,所定の角度で巻回されていることを特徴とする同軸ケーブル。
【請求項2】
前記巻回帯は金属化テープであることを特徴とする請求項1に記載の同軸ケーブル。
【請求項3】
前記所定の角度は,25度~50度の範囲内であることを特徴とする請求項1または2に記載の同軸ケーブル。」
「【0001】
本発明は,同軸ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来,同軸ケーブルの中には,シールド効果を向上させ,減衰量の低減を図ることを目的として,外部導体を,この同軸ケーブルの長手軸方向に対してある一定の角度で誘電体層に巻回したものがある。そして,本出願人は,外部導体として,絶縁テープにアルミニウム,若しくは銅等の金属を蒸着,またはこれらの箔を張り合わせた金属テープを使用した同軸ケーブル(特許文献1)と,外部導体として,複数本の導電性の素線を使用した同軸ケーブル(特許文献2)とを提案している。」
「【0015】
まず,本実施形態の同軸ケーブル1の構成について図1を用いて説明する。ここで,図1のうち,図1(a)は,本実施形態の同軸ケーブル1の斜視図であり,図1(b)は,本実施形態の同軸ケーブル1の断面図であり,図1(C)は,同軸ケーブル1の巻回帯を巻回する工程を示す図である。
【0016】
図1に示すように,本実施形態の同軸ケーブル1は,中心導体11(内部導体)と,誘電体層12と,外部導体層13と,本発明の特徴的な部分である巻回帯層14と,ジャケット15(保護被膜層)とにより略構成されている。そして,この同軸ケーブル1は以下の手順により形成される。
【0017】
即ち,この同軸ケーブル1は,複数本の導体11aを撚り合わせて中心導体11を形成し,この中心導体11の外周に押出機(図示せず)を用いて誘電体12aを押出し被覆して誘電体層12を形成する。そして,この誘電体層12の外周に複数本の導体素線13aを横巻きして外部導体層13を形成し,この外部導体層13の外周に,例えば,導体素線13aの横巻き方向とは反対方向に,金属化テープである例えばALPET14a(巻回帯)を螺旋状に巻回して,本発明の特徴的な部分である巻回帯層14を形成する。そして,この巻回帯層14の外周にジャケット15を押出し被覆して形成する。このようにして,同軸ケーブル1は形成されている。
【0018】
この同軸ケーブル1の材質は,例えば,導線11aの材質が銀めっき軟銅線,誘電体12aの材質がテトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(以下,単にFEPとする),導体素線13aの材質が錫めっき軟銅線,ジャケット15の材質がFEPとなっている。
【0019】
尚,本実施形態の同軸ケーブル1の材質は,上述した材質に限定されるものではなく,通常同軸ケーブルに用いられる他の材質の物を用いる事も可能である。例えば,誘電体には,ポリテトラフルオロエチレン(PTFE),若しくはテトラフルオロエチレン-パールフオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)等の他のフッ素樹脂を用いることも可能である。また,本実施形態の同軸ケーブル1では,巻回帯層14を巻回する方向は,外部導体層13として横巻きされた導体素線13aが締め付けられるならば,導体素線13aの横巻き方向と同方向であってもよい。
【0020】
また,ALPET14aは,アルミ箔とポリエチレンテフタレート(以下,単にPETとする)とを,ポリ塩化ビニル(以下,単にPVCとする)を介して積層してテープ状に形成したものである。そして,このALPET14aは,アルミ箔が外部導体層13と接触する態様で,外部導体層13の上から巻回される。
【0021】
上述する本実施形態の同軸ケーブル1では,図1(c)に示すように,外部導体層13として導体素線13aを横巻きしており,この外部導体層13の上から巻回帯層14を形成するALPET14aを同軸ケーブル1の長手軸方向に対して所定の角度θで螺旋状に巻回している。そのため,外部導体層13は,この巻回帯層14によって望ましい応力が加えられて締め付けられることになり,外部導体層13の導体素線13a同士の密着度が向上する。さらに,複数本の導体素線13aが,巻回帯層14によって締め付けられていることから,この巻回帯層14によって,導体素線13aが密着した状態を維持されるようになっており,例え同軸ケーブル1が曲げられたとしても,その屈曲部分で導体素線13a同士が離間することを抑制することも可能となっている。そして,この巻回帯層14は,ALPET14aによって形成されていることから,この巻回帯層14自体もシールドとして作用することになる。
【0022】
これにより,本実施形態の同軸ケーブル1では,外部導体層13と,巻回帯層14との2つのシールド効果を持つ層を備えることになり,さらに,外部導体層13の導体素線13aが巻回帯層14によって締め付けられるので,導体素線13a同士の密着度を向上させ,さらにその密着状態が維持されることになり,外部導体層13のシールド効果をより高めることが可能となる。」
「【0032】
この,巻き付け試験では,図2,3で説明したシールド試験と同一の試験用ケーブルA~Dを使用した試験と,シールド試験とは異なる試験用ケーブルF~Hを使用した試験との2種類の巻き付け試験を行った。まず,シールド試験と同一の試験用ケーブルA~Dを使用した試験の結果について図5~7を用いて説明する。
【0033】
図5は,巻き付け試験の試験結果を示す表,図6は,巻き付け試験の減衰量と巻回帯層14の巻回した角度θとの関係を示す図,図7は,巻き付け試験の減衰量の変動値と巻回帯層14の巻回した角度θとの関係を示す図である。なお,この巻き付け試験では,比較の為に従来使用されていた編組タイプ同軸ケーブルにも同様に試験を行った。
【0034】
図5から明らかなように,編組タイプ同軸ケーブルの減衰量が5GHz時に3.67dB/m,6GHz時に4.03dB/mであるのに対し,本実施形態の同軸ケーブル1の特徴的な構成を有する試験用ケーブルA~Dでは,試験用ケーブルAの減衰量は,5GHz時に3.360dB/m,6GHz時に3.692dB/mであり,試験用ケーブルBの減衰量は,5GHz時に3.305dB/m,6GHz時に3.626dB/mであり,試験用ケーブルCの減衰量は,5GHz時に3.233dB/m,6GHz時に3.554dB/mであり,試験用ケーブルDの減衰量は,5GHz時に3.192dB/m,6GHz時に3.510dB/mである。従って,本実施形態の同軸ケーブル1の特徴的な構成を有する試験用ケーブルA~Dは,編組タイプ同軸ケーブルに比べて全体的に減衰量が低減していることが判る。
【0035】
また,図5~7から明らかなように,試験用ケーブルA~Dの中では,巻回帯層14を同軸ケーブルの長手軸方向に対して40度で螺旋状に巻回している試験用ケーブルDが,減衰量及び減衰量変動の値が最も小さくなっており,試験用ケーブルAと試験用ケーブルDとでは,減衰量に約0.2dB/mの差が生じる。従って,本実施形態の同軸ケーブル1は,従来の同軸ケーブルと比べて減衰量が低減しており,また,巻回帯層14を巻回する角度θを大きくすると減衰量がより低減することが判る。
【0036】
また,試験用ケーブルCの減衰量と試験用ケーブルDの減衰量の差は,約0.04dB/mとその差が小さくなっており,減衰量変動は6GHz時では殆ど差がなくなっている。この事から減衰量の低減は,巻回帯層14を巻回する角度θが30度を過ぎると,減衰量の変化がほぼ横ばいになるので,この30度を境にある程度頭打ちになることが判る。そのため,巻回帯層14を巻回する角度θが40度以上であっても,減衰量の値は大きく変化することはなく,良好な状態を維持することができるものと思料する。そして,シールド試験の結果でも述べたように,巻回帯層14を巻回する角度θは,生産性を考慮すると50度が上限になる。
【0037】
また,本実施形態の同軸ケーブル1では,図5~7から判る様に,減衰量が従来のものに比して大幅に向上すると共に,その変動量が小さくなる巻回帯層14の巻回する角度θは,約25度となる。
【0038】
以上,この減衰量試験の結果から,巻回帯層14を巻回する角度θは,下限は25度となり,50度が上限となる。そして,減衰量と生産性とを考慮にいれた場合,減衰量の変化がほぼ横ばいになっている30度以上40度以下が巻回帯層14を巻回する最も好ましい角度であるといえる。次に別の試験用ケーブルを用いた巻き付け試験について,図8~10を用いて詳細に説明する。」
「【図1】
」
「【図5】
」
「【図6】
」
「【図7】
」
(2)上記(1)から,引用文献4には,次の技術が記載されていると認められる。
ア 「中心導体11と,誘電体層12と,外部導体層13と,巻回帯層14と,ジャケット15とにより構成されている同軸ケーブル1において,
巻回帯層14は,外部導体層13の外周に,導体素線13aの横巻き方向とは反対方向に,金属化テープであるALPET14a(巻回帯)を螺旋状に巻回して形成されたものであり,
ALPET14a(巻回帯)は,アルミ箔とポリエチレンテフタレートとを,ポリ塩化ビニルを介して積層してテープ状に形成し,シールドとして作用するものであり,
巻回帯層14のシールド効果を向上させ,減衰量を低減させるためには,巻回帯層14を巻回する角度θを30度以上40度以下とすることが最も好ましいこと。」
第5 本願発明と引用発明の対比
本願発明と引用発明を対比すると,以下のとおりとなる。
1 引用発明の「2本の芯線(信号線導体)1」は,「平行に並べられて差動ペアをなす」もの,すなわち平行に並べられて差動信号を伝送するものであるから,本願発明の「互いに平行に延在して差動信号を伝送する一対の信号線導体」に相当する。
2 引用発明の「絶縁体2」は,「2本の芯線1」を「被覆」するから,本願発明の「一対の信号線導体を被覆する絶縁体」に相当する。
3 引用発明の「絶縁電線3」は,「2本の芯線(信号線導体)1」と「絶縁体2」とを有し,「2本の芯線1をそれぞれ別体の絶縁体2で被覆した形態をなす」ものであるから,本願発明における「信号線導体」と「絶縁体」とを有し,「前記一対の信号線導体のうち一方の信号線導体を絶縁体で被覆してなる第1の絶縁電線と,前記一対の信号線導体のうち他方の信号線導体を絶縁体で被覆してなる第2の絶縁電線とを有」する「絶縁電線部」に相当する。
4 引用発明の「シールドテープ4」は,「銅箔から」なり,「絶縁電線3の周囲に螺旋状に巻き付けられ,オーバーラップ部位40を備え」たもの,すなわち,その幅方向の一部が重なり合うように帯状に巻き付けられたものであるから,本願発明の「シールド導体」と,後記相違点1ないし3で相違するものの,「帯状の銅箔からなり,その幅方向の一部が重なり合うように前記絶縁電線部の周囲に螺旋巻きされた」点で一致する。
5 引用発明の「シールドテープ4」の「オーバーラップ部位40」の幅である「シールドテープのテープ幅の1/3」は,本願発明の「シールド導体」の「全幅に対する前記重なり合う部分の幅方向寸法が,30%以上かつ50%未満」との数値範囲の条件を満たす。
6 引用発明の「差動信号伝送用ケーブル10」は「2本の芯線(信号線導体)1」と「絶縁体2」と「絶縁電線3」と「シールドテープ4」とを備えるものであるから,本願発明の「差動信号伝送ケーブル」と,後記相違点1ないし3で相違するものの,「一対の信号線導体」と「絶縁体」と「絶縁電線部」と「シールド導体」とを備える点で一致する。
7 引用発明の「差動信号伝送用ケーブル10」は,「差動信号」を伝送するケーブルであって,「10Gbps以上クラスの高速伝送にも好適に使用できる」から,本願発明の「差動信号伝送ケーブル」と,後記相違点1ないし3で相違するものの,「10Gbps以上の高周波帯域における差動信号を伝送する」点で一致する。
以上のことから,本願発明と引用発明との一致点及び相違点は,以下のとおりである。
<一致点>
「10Gbps以上の高周波帯域における差動信号を伝送する差動信号伝送ケーブルであって,
互いに平行に延在して差動信号を伝送する一対の信号線導体,及び前記一対の信号線導体を被覆する絶縁体を有する絶縁電線部と,
帯状の銅箔からなり,その幅方向の一部が重なり合うように前記絶縁電線部の周囲に螺旋巻きされたシールド導体とを備え,
前記絶縁電線部は,前記一対の信号線導体のうち一方の信号線導体を絶縁体で被覆してなる第1の絶縁電線と,前記一対の信号線導体のうち他方の信号線導体を絶縁体で被覆してなる第2の絶縁電線とを有し,
前記シールド導体は,その全幅に対する前記重なり合う部分の幅方向寸法が,30%以上かつ50%未満である,
差動信号伝送ケーブル。」
<相違点>
(相違点1)
本願発明では,「シールド導体」の幅は,「前記断面における前記絶縁体の外縁の短径の6倍以上かつ8倍以下」であるのに対して,引用発明では,そのような特定はなされていない点。
(相違点2)
本願発明では,「シールド導体」は,「破断が生じることなく長手方向に伸長可能な伸び率である許容伸び率が常温で2%以上であり,長手方向の伸び率が1%のときの引っ張り応力が300MPa以下であ」るのに対して,引用発明では,そのような特定はなされていない点。
(相違点3)
本願発明では,「シールド導体」は,「前記一対の信号線導体の延在方向に対する前記シールド導体の巻き付け方向の傾斜角である巻き付け角度が30°以上60°以下である」のに対して,引用発明では,そのような特定はなされていない点。
第6 判断
1 相違点1について
引用発明においても,シールドテープ4の製造を効率良く行うために,シールドテープ4の巻回しをできるだけ少なくすることがより望ましいことは明らかであるところ,そのためにはシールドテープ4の幅を絶縁体2の外径に対してできるだけ大きくし,一巻で被覆する絶縁体2の表面積を大きくすればよいことは,当業者が直ちに理解することである。
他方で,シールドテープ4の幅を絶縁体2の外径と比べて過度に大きくすると,シールドテープ4を螺旋巻きすることで生じるたわみによって,シールドテープ4と絶縁体2との間に空隙が発生し,その空隙が原因となってシールド効果が悪化してしまうことも,当業者が直ちに理解することである。
すなわち,シールドテープ4の幅は,シールドテープ4の製造の効率化と,シールド効果の向上を踏まえて,当業者が適宜決定すべき事項であるところ,上記第4の2(2)で指摘した引用文献2に開示された技術,すなわち,金属箔樹脂テープ5のテープ幅W(8mm)と信号線4の外径(1.2mm程度)の比を6.7程度とする技術に接した当業者であれば,引用発明においても,シールドテープ4の幅と絶縁体2の外径の比を,6.7程度とすることで,相違点1について,本願発明の構成を採用することは当業者が適宜なし得たことである。
2 相違点2について
引用発明において,シールドテープ4に高張力が負荷されてもクラックが発生することなくシールド性能を維持することが望ましいことは明らかであるところ,そのためにはシールドテープ4を構成する銅箔の特性を向上させ,破断が生じることなく長手方向に伸張可能な伸び率である許容伸び率が常温でできるだけ大きく,かつ,所定の伸び率における引っ張り応力が小さな銅箔を用いれば良いことは,当業者が直ちに理解することである。
一方,上記第4の3(2)で指摘したとおり,引用文献3には,シールド材に用いられる銅箔の特性を向上させることで,引用発明と同程度の厚さ(9μm)において,本願発明の条件を満たす銅箔,すなわち,常温での伸び率が8%であり,伸び率が1%の時の「荷重/断面」の値が,19.3kgf/mm2(189MPa)以下である銅箔の技術が開示されているから,当該技術に接した当業者であれば,引用発明においても,常温での伸び率が8%であり,伸び率が1%の時の「荷重/断面」の値が,19.3kgf/mm2(189MPa)以下である銅箔を用いることで,相違点2について,本願発明の構成を採用することは当業者が容易になし得たことである。
3 相違点3について
引用発明において,シールドテープ4のシールド効果を向上させ,減衰量を低減させることが望ましいことは明らかであるところ,上記第4の4(2)で指摘したとおり,引用文献4には,シールドとして作用する巻回帯層14を巻回する角度θを30度以上40度以下とすることが,シールド効果を向上させ,減衰量を低減させるために最も好ましい角度である旨が開示されていることから,引用文献4の当該記載に接した当業者であれば,引用発明においても,シールドテープ4を巻回する角度θを30度以上40度以下とすることで,相違点3について,本願発明の構成を採用することは当業者が容易になし得たことである。
4 そして,これらの相違点1ないし3を総合的に勘案しても,本願発明の奏する作用効果は,引用発明及び引用文献2ないし4に記載された技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず,格別顕著なものということはできない。
5 審判請求人の主張について
(1)請求人は,令和2年3月6日に提出した意見書において,「本拒絶理由通知書の本願発明1の相違点1において,「シールドテープ4の幅を絶縁体2の外径と比べて過度に大きくすると,シールドテープ4を螺旋巻きすることで生じるたわみによって,シールドテープ4と絶縁体2との間に空隙が発生し,その空隙が原因となってシールド効果が悪化してしまうことも,当業者が直ちに理解することである。」とご認定されております。
しかしながら,本願発明1においてシールドテープと絶縁体との間での空隙発生を抑える理由は,絶縁体がシールドテープによって完全に覆われていた場合であっても,シールドテープと絶縁体との間に空隙が発生すると,ケーブル長手方向に誘電率のばらつきが生じ,その結果,差動信号伝送ケーブルにおいてスキューやサックアウトが発生するからです。
引用文献1~3,5には,差動信号伝送ケーブルにおいてシールドテープと絶縁体との間に空隙が発生すると,スキューやサックアウトが発生するという課題・知見については何ら記載も示唆もされておりません。
引用文献4は同軸ケーブルに関する発明であり,同文献の段落[00048]に「外部導体層13の・・・導体素線13a同士の間に隙間が出来ることによるシールド効果の低減を防止することが可能」であることが記載されています。すなわち,同軸ケーブルにおいて絶縁体がシールドテープによって覆われていない箇所が存在すると,シールド効果が低減してしまうことについて記載されているに止まり,差動信号伝送ケーブルにおいてシールドテープと絶縁体との間に空隙が発生すると,スキューやサックアウトが発生するという課題・知見については何ら記載も示唆もされておりません。
上述のように本願発明1における,差動信号伝送ケーブルにおいてシールドテープと絶縁体との間に空隙が発生すると,スキューやサックアウトが発生するという課題・知見について引用文献1~5の何れにも記載も示唆もされておりません。
したがって,「シールドテープ4と絶縁体2との間に空隙が発生し,その空隙が原因となってシールド効果が悪化してしまうことも,当業者が直ちに理解することである」とのご認定には承服することができません。
本願発明1は,差動信号伝送ケーブルにおいてシールドテープと絶縁体との間に空隙が発生すると,スキューやサックアウトが発生するという新たな課題を解決するためになされた発明です。具体的には,シールド導体として「前記シールド導体は,破断が生じることなく長手方向に伸長可能な伸び率である許容伸び率が常温で2%以上であり,長手方向の伸び率が1%のときの引っ張り応力が300MPa以下」となる銅箔を用いた上で,更に「前記シールド導体の幅は,前記断面における前記絶縁体の外縁の短径の6倍以上かつ8倍以下」とし,「前記シールド導体は,・・・その全幅に対する前記重なり合う部分の幅方向寸法が,30%以上かつ50%未満」とすると共に「前記一対の信号線導体の延在方向に対する前記シールド導体の巻き付け方向の傾斜角である巻き付け角度が30°以上60°以下」とすることによって上記課題を初めて解決できたものであります。
上記理由により,引用文献1~5から本願の請求項1に係る発明を想到することは例え当業者であっても困難であると考えます。」と主張する。
(2)しかしながら,本願の明細書及び図面には,本願発明の各数値限定によって請求人が主張する前記効果が奏されることが具体的に示されていないから,本願発明が前記数値限定によって格別の効果を奏することができるものであるとは認めることはできない。
しかも,引用発明は,絶縁電線にシールドテープを巻き付けてなる差動信号伝送用ケーブルであるところ,後記周知文献1,2に記載されているとおり,絶縁電線とシールドテープとの間に生じる空隙は,シールド効果を損ね,伝送特性の劣化をもたらすため,当該空隙をできるだけ排除することが望ましいことは,差動信号伝送用ケーブルの技術分野における周知の課題である。
したがって,引用文献1に,絶縁電線とシールドテープとの間に生じる空隙について,何らの記載が存在しなくとも,引用発明が,絶縁電線とシールドテープとの間に生じる空隙を小さくして,シールド効果を向上させることが望ましいという課題を内在していることは,当業者であれば当然に理解するといえる。
そうすると,上記第6の1の相違点1において検討した様に,引用発明におけるシールドテープ4の幅は,シールド効果の向上等の課題を踏まえて,当業者が適宜決定すべき事項であるところ,上記第4の2(2)で指摘した引用文献2に開示された技術,すなわち,金属箔樹脂テープ5のテープ幅W(8mm)と信号線4の外径(1.2mm程度)の比を6.7程度とする技術に接した当業者であれば,引用発明においても,シールドテープ4の幅と絶縁体2の外径の比を,6.7程度とすることで,上記相違点1について,本願発明の構成を採用することは当業者が適宜なし得たことであり,その効果も当業者が予測する範囲内のものと認められる。
したがって,審判請求人の主張は採用することができない。
ア 周知文献1(特開2014-38802号公報)
(ア)「【0001】
本発明は,差動信号を伝送する一対の導線を有する差動信号伝送用ケーブル,及びこの差動信号伝送用ケーブルを複数本備えた多芯差動信号伝送用ケーブルに関する。」
(イ)「【0005】
このように構成された差動信号伝送用ケーブルでは,絶縁体とシールドテープとの間に意図しない隙間が発生すると,一対の導線における信号の伝搬遅延時間の差であるスキューや,高周波帯域(例えば10Gbps以上)での急激な信号減衰であるサックアウトが発生し,受信側において信号を正常に受信できないことがある。また,シールドテープの幅方向の両端部が重なるようにシールドテープを重ね巻きする場合には,この重なり部分における両端部の間に隙間が発生することによっても特性が変化し,スキューやサックアウトが発生する場合がある。
【0006】
本発明者らは,二重のテープをシールドテープの外周側に螺旋巻きする際に,絶縁体とシールドテープとの間及び/又はシールドテープの重なり部分に隙間が発生する場合があることを見出し,これらのテープの巻き付け構造を変更することで,これらの隙間の発生を抑制できるとの知見を得た。
【0007】
本願発明は,この知見に基づいてなされたものであり,差動信号を伝送する一対の導線を被覆する絶縁体とシールドテープ導体との間,及び重ね巻きされたシールドテープ導体の重なり部分における隙間の発生を抑制することができる差動信号伝送用ケーブル及び多芯差動信号伝送用ケーブルを提供することを目的とする。」
イ 周知文献2(特開2015-28911号公報)
(ア)「【0001】
本発明は,互いに位相が異なる2以上の信号を伝送するための差動信号伝送用ケーブル及びコネクタ付きケーブルに関する。」
(イ)「【0006】
絶縁体の周囲に縦添え巻きされているシールドテープの巻き付け方向両端部は互いに重なり合っている。このため,絶縁体とシールドテープとの間に,シールドテープの厚みに起因する空隙が発生する。具体的には,シールドテープの一方の端部の近傍において,絶縁体の外周面とシールドテープの内面との間に空隙が発生する。かかる空隙は,スキューの増大や差動同相変換量の増大といった伝送特性の劣化を招く。」
(ウ)「【0026】
さらに,シールドテープ4の第1重複領域11は,第2重複領域12によって覆われている。換言すれば,シールドテープ4の第2重複領域12は,第1重複領域11の上に重ねられている。さらに換言すれば,シールドテープ4の第2重複領域12は,第1重複領域11に乗り上げている。この結果,第1重複領域11の端部11aの近傍において,シールドテープ4の内面が絶縁体3の外周面から離反し,絶縁体3とシールドテープ4との間に空隙6が発生している。かかる空隙6がスキューの増大や差動同相変換量の増大といった伝送特性劣化の一因になることは既述のとおりである。例えば,10Gbit/s又はそれ以上の伝送速度で用いられる際には,この空隙6による伝送特性劣化の影響により,歩留まりが下がる問題がある。なお,本実施形態では,絶縁体3は,略楕円形の断面形状を有し,一対の信号線導体2a,2bを一括被覆しているため,第1重複領域11の端部11aの近傍の空隙6以外には,絶縁体3とシールドテープ4との間に空隙は発生していない。また,本実施形態では,絶縁体3とシールドテープ4との間にドレイン線を含まないことにより,ドレイン線に起因する空隙発生を回避している。」
6 小括
以上のとおりであるから,本願発明は,引用発明及び引用文献2ないし4に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
第7 むすび
以上のとおり,本願発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載の発明及び引用文献2ないし4に記載された技術に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
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2019-000485