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特許異議申立

2018-700956

容器詰飲料

審判番号
2018-700956
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2017-074277
登録番号
特許第6336172号(P6336172)
請求日
2018年11月28日
審決日
2019年06月10日
公報発行日
2019年09月27日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】花王株式会社
  • 【権利者代理人】特許業務法人アルガ特許事務所
  • 【異議申立人】藤本 博基
審判長/審判官
  • 審判長 松下 聡
  • 審判官 槙原 進
  • 審判官 窪田 治彦
分類
P1651.536-YAA(A23F) / P1651.537-YAA(A23F)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第2項
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特許第6336172号発明「容器詰飲料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

【結 論】 特許第6336172号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし3〕について訂正することを認める。 特許第6336172号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。

理由

【理 由】 第1 手続の経緯 特許第6336172号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし3に係る特許についての出願は、平成26年9月12日に出願した特願2014-185833号の一部を平成29年4月4日に新たな特許出願としたものであって、平成30年5月11日にその特許権の設定登録がされ、平成30年6月6日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、平成30年11月28日に特許異議申立人 藤本 博基(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審は、平成31年1月28日付けで取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である平成31年3月29日に意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)を行い、本件訂正請求に対して、申立人は、平成31年4月24日に意見書を提出した。 第2 訂正の適否についての判断 1 訂正の内容 本件訂正請求は、本件特許の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1ないし3について訂正すること(以下、「本件訂正」という。)を求めるものであって、一群の請求項〔1ないし3〕に対して請求されたものである。 そして、本件訂正の内容は次の訂正事項1に示すとおりである(下線は訂正箇所を示す。)。 [訂正事項1] 特許請求の範囲の請求項1に、成分(B)に係るテアニンの含有量について「0.002~0.023質量%」と記載されているのを、「0.002~0.011質量%」に訂正する。 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1) 訂正の目的について 訂正事項1は、 請求項1に記載の成分(B)に係るテアニンの含有量の数値範囲をより狭い数値範囲に限定するもの(訂正後の請求項1を引用する訂正後の請求項2及び3においても同様)であるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 (2)本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「特許明細書等」という。)に記載した事項の範囲内の訂正であること 訂正事項1は、特許明細書等における明細書の段落【0011】の「本発明の容器詰飲料は、成分(B)としてテアニンを含有する。本発明の容器詰飲料中の成分(B)の含有量は0.002~0.023質量%であるが、コク味の増強の観点から、0.0025質量%以上が好ましく、0.003質量%以上がより好ましく、0.0035質量%以上が更に好ましく、また鼻抜け香の改善、ドライ感の改善の観点から、0.02質量%以下が好ましく、0.018質量%以下がより好ましく、0.013質量%以下が更に好ましく、0.011質量%以下がより更に好ましい。」との記載における上限値「0.011」質量%に基づくものであるから、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。 (3)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと 訂正事項1は、上記(1)のとおり特許請求の範囲を減縮するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。 3 小括 以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし3〕について訂正することを認める。 第3 訂正後の本件発明 本件訂正後の請求項1ないし3に係る発明(以下、総称して「本件発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「 【請求項1】 次の(A)、(B)及び(C); (A)非重合体カテキン類  0.025~0.2質量%、 (B)テアニン       0.002~0.011質量%、及び (C)ルチン        0.0003~0.0013質量% を含有し、 成分(B)と成分(C)の含有量が下記式(1); -0.032b+0.0006<c<-0.032b+0.0027 (1) 〔式(1)中、cは成分(C)の含有量(質量%)を示し、bは成分(B)の含有量(質量%)を示す。〕 の関係を満たし、 成分(A)と成分(C)との質量比[(C)/(A)]が0.001~0.020である、容器詰緑茶飲料。 【請求項2】 成分(B)と成分(C)との質量比[(C)/(B)]が0.01~1である、請求項1記載の容器詰緑茶飲料。 【請求項3】 pHが2~7である、請求項1又は2記載の容器詰緑茶飲料。」 第4 取消理由通知に記載した取消理由について 訂正前の請求項1ないし3に係る特許に対して、当審が平成31年1月28日付けで特許権者に通知した取消理由は、次のとおりである。なお、取消理由は、申立人が主張する全ての申立理由を含むものである。 理由1(実施可能要件、委任省令要件) 本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 理由2(サポート要件) 本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 記 ●理由1(36条4項1号)について ・請求項1ないし3 ・備考 1 明細書における段落【0005】の「・・・本発明者は、この口に含んだときに喉から鼻に抜けて感じる鼻抜け香が、容器詰茶飲料の風味を改善し急須で入れた茶飲料により近い美味しさを醸成する上で、特に重要な要素であることを見出した。・・・その結果、高濃度の非重合体カテキン類を含有する飲料においては、テアニン量が増加すると、旨味が増強される一方で、この鼻抜け香が低下するという課題があることを見出した。また、高濃度の非重合体カテキン類を含有する容器詰飲料では、鼻抜け香が低下すると、それに伴って口が渇くような感覚(以下、「ドライ感」と称する)が際立つことも見出した。本発明の課題は、高濃度の非重合体カテキン類を含有するにもかかわらず、鼻抜け香及びドライ感が改善され、コク味も豊かな容器詰飲料を提供することにある。」との記載によれば、鼻抜け香が容器詰茶飲料の風味を改善し急須で入れた茶飲料により近い美味しさを醸成する上で、特に重要な要素であって、本件発明が解決しようとする課題(以下、「本件発明の課題」という。)は、高濃度の非重合体カテキン類を含有するにもかかわらず、鼻抜け香及びドライ感が改善され、コク味も豊かな容器詰飲料を提供すること(すなわち、高濃度の非重合体カテキン類を含有するにもかかわらず、鼻抜け香の低下を抑制し、かつ鼻抜け香の低下に伴う口が渇くような感覚である「ドライ感」を改善させ、さらにコク味も豊かにした容器詰飲料を提供すること)と認められ、これを踏まえて以下検討する。 2 明細書の段落【0055】の表1において、実施例5及び実施例8は、(C)ルチンの含有量がそれぞれ0.0016と0.0014であり、成分(A)と成分(C)との質量比[(C)/(A)]がそれぞれ0.028と0.025であり、本件特許の請求項1ないし3に係る発明の発明特定事項のうち、「(C)ルチン」の含有量が「0.0003~0.0013質量%」との発明特定事項及び「成分(A)と成分(C)との質量比[(C)/(A)]が0.001~0.020である」との発明特定事項を満たさないため、比較例に相当する。 また、実施例9も、成分(A)と成分(C)との質量比[(C)/(A)]が0.021であり、「成分(A)と成分(C)との質量比[(C)/(A)]が0.001~0.020である」との発明特定事項を満たさないため、比較例に相当する。 そこで、実施例6と、比較例に相当する実施例5とを比較すると、コク味の評点は同じ5.0である。また、ドライ感の評点はその差が0.4ポイントしかない(実施例5の評点3.3に対し、実施例6の評点は3.7)だけでなく、実施例6も実施例5も、普通(評点3)とやや強い(評点4)との間の値である。 これに対し、鼻抜け香はむしろ比較例に相当する実施例5の方が実施例6よりも大幅に優れている(実施例5の評点5.0に対し、実施例6の評点は3.7)。 上記1によれば、鼻抜け香が容器詰茶飲料の風味を改善し急須で入れた茶飲料により近い美味しさを醸成する上で特に重要な要素であること、及びドライ感が鼻抜け香の低下に伴い生じる付随的な感覚であることを考慮すると、本件発明の課題に関する、明細書の段落【0008】に記載された「本発明によれば、高濃度の非重合体カテキン類を含有するにもかかわらず、コク味が感じられる上に鼻抜け香及びドライ感が改善され、口に含むと、茶葉を急須等で浸出させた飲料のような、淹れたての香りが豊かに鼻を抜ける容器詰飲料を提供することができる。」という効果(以下、「本件発明の効果」という。)において、比較例に相当する実施例5の方が、実施例6よりも優れている。 また、実施例7と、比較例に相当する実施例9とを比較すると、鼻抜け香の評点は両実施例で同じ3.3であり、コク味の評点は比較例に相当する実施例9の方が高く(実施例7の評点3.7に対し、実施例9の評点は4.7)、ドライ感の評点は実施例7の方が高くなっている(実施例7の評点4.7に対し、実施例9の評価3.3)。 そして、上記1によれば、鼻抜け香が特に重要な要素であるが、本件特許の明細書の記載には、コク味及びドライ感のいずれが重要かは示されていないから、これらの実施例7と比較例に相当する実施例9とのうち、いずれが、本件発明の効果において優れているかは、不明である。 また、比較例に相当する実施例8についても、明細書の段落【0047】ないし【0049】に記載された評価基準によれば、コク味が強く(評点5.0)、鼻抜け香(評点3.3)、ドライ感(評点3.3)も普通以上の評価を得ており、実施例6(鼻抜け香の評点3.7、コク味の評点5.0、ドライ感の評点3.7)等が比較例に相当する実施例8に対して、本件発明の効果において、総合的な効果が優れているかは、技術常識を考慮しても不明である。 そうすると、明細書の記載からは、本件発明の「次の(A)、(B)及び(C); (A)非重合体カテキン類  0.025~0.2質量%、 (B)テアニン       0.002~0.023質量%、及び (C)ルチン        0.0003~0.0013質量% を含有し、 成分(B)と成分(C)の含有量が下記式(1); -0.032b+0.0006<c<-0.032b+0.0027 (1) 〔式(1)中、cは成分(C)の含有量(質量%)を示し、bは成分(B)の含有量(質量%)を示す。〕の関係を満たし、 成分(A)と成分(C)との質量比[(C)/(A)]が0.001~0.020である」との発明特定事項(以下、「特定事項A」という。)によって、本件発明の課題を解決できるか否かが不明である。 3 明細書の段落【0061】の表4において、実施例18ないし20及び22について、鼻抜け香及びドライ感の評点が、5.3や5.7といった5点を超える評点となっている。 しかしながら、明細書の段落【0047】及び【0049】に記載された、鼻抜け香の評価基準及びドライ感の評価基準は、いずれも評点が1、2、3、4、5の5段階となっており、最高点が5点であるから、表4に記載されたような5点を超える評点は得られない。 そうすると、明細書の記載からは、鼻抜け香及びドライ感の評価をどのような評価基準で行ったのか理解することができず、また、明細書の段落【0061】の表4における鼻抜け香及びドライ感の評点が、どのような意味を有するのかも理解できない。 4 本件発明が属する飲料の分野において、緑茶の官能評価で、「ドライ感」という項目が通常使用されることはない。また、明細書にも、その段落【0005】に、「鼻抜け香が低下すると、それに伴って口が渇くような感覚」との記載がされているに止まり、「ドライ感」が質的にどのようなものを示すのか不明である。 さらに、明細書の段落【0055】の表1に記載されているように、例えば、実施例7と実施例9とは、共に鼻抜け感の評点が3.3で共通しているにもかかわらず、ドライ感については、実施例7は評点4.7、実施例9は評点3.3であり、全く異なる値となっている。また、実施例5と実施例7とは、実施例5の方が鼻抜け香の評点が高いにもかかわらず(実施例5の評点5.0に対し、実施例7の評点3.3)、ドライ感はむしろ比較例に相当する実施例5の方が低い評点となっている(実施例5の評点3.3に対し、実施例7の評点4.7)。これら表1に記載された結果からも、本件発明の課題の一部を構成し、「鼻抜け香が低下すると、それに伴って口が渇くような感覚」であるという「ドライ感」がどのようなものであるのか、理解できない。 そうすると、明細書の記載からは、「ドライ感」がどのようなものであるのか理解できないから、本件発明が、特定事項Aによって、本件発明の課題を解決できるか否かが不明である。 5 明細書の記載及び技術常識を参酌しても特定事項Aにおける「-0.032b+0.0006<c<-0.032b+0.0027」という数式(1)の導出根拠が明らかでないから、本件発明が、特定事項Aによって、本件発明の課題を解決できるか否かが不明である。 6 上記2ないし5で検討したとおり、明細書における発明の詳細な説明の記載は、本件発明の特定事項Aについて、技術的意味を理解することができないから、当業者が本件発明を実施することができる程度に明確かつ十分にしたものとはいえず、また、当業者が本件発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が記載されたものとはいえない。 ●理由2(36条6項1号)について ・請求項1ないし3 ・備考 上記理由1の2ないし5で検討したとおり、発明の詳細な説明の記載からは、本件発明の特定事項Aについて、技術的意味を理解することができないから、特許請求の範囲の請求項1ないし3の記載は、本件発明が、発明の詳細な説明において、本件発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えたものとなっている。 第5 当審の判断 1 取消理由1(特許法第36条第4項第1号:実施可能要件、委任省令要件)について (1)上記第4の理由1の2について 本件発明は、成分(B)に係るテアニンの含有量が「0.002~0.011質量%」であるから、テアニンの含有量がそれぞれ0.013質量%及び0.022質量%である実施例6及び7は、本件発明の範囲外のものである。 そうすると、本件特許の明細書の段落【0055】における表1に記載された、実施例6及び7についての鼻抜け香、コク味、ドライ感の官能評価の結果を、同じく本件発明の範囲外である実施例5、8及び9の官能評価の結果との比較をすることをもって、本件発明が、本件発明の課題を解決をできるか否かが不明であるとすることはできない。 次に、申立人は、平成31年4月24日提出の意見書の3-2.(1)(1-1)において、本件発明の範囲外である実施例5の官能評価の結果を、実施例10の官能評価の結果との比較、実施例2及び4の官能評価の結果との比較、並びに、実施例3の官能評価の結果との比較を行い、実施例5が鼻抜け香とコク味の評点の少なくともいずれかで優れていることを理由に、本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載が、本件発明の構成を満たすことにより、本件発明の課題を解決できるように記載されておらず、実施可能要件を満たさない旨主張する(3ないし5頁)。 しかしながら、本件発明の範囲外である実施例5は、鼻抜け香とコク味の評点がいずれも5.0で、優れているものの、ドライ感の評点が3.3であり、その評価は普通に近いものであるのに対して、実施例2ないし4及び10は、抜け香、コク味、ドライ感のいずれの評点も4.0以上であって、普通を超えているのであるから、本件発明の構成を満たすことにより、鼻抜け香及びドライ感が改善され、コク味も豊かな容器詰飲料を提供することができ、本件発明の課題を解決できるものといえ、申立人の上記主張は採用できない。 よって、本件特許の明細書の段落【0055】における表1に記載された各実施例及び比較例の官能評価の結果から、本件発明が、「次の(A)、(B)及び(C); (A)非重合体カテキン類  0.025~0.2質量%、 (B)テアニン       0.002~0.011質量%、及び (C)ルチン        0.0003~0.0013質量% を含有し、 成分(B)と成分(C)の含有量が下記式(1); -0.032b+0.0006<c<-0.032b+0.0027 (1) 〔式(1)中、cは成分(C)の含有量(質量%)を示し、bは成分(B)の含有量(質量%)を示す。〕の関係を満たし、 成分(A)と成分(C)との質量比[(C)/(A)]が0.001~0.020である」との発明特定事項(以下、「特定事項B」という。)によって、本件発明の課題を解決できないとはいえない。 したがって、本件特許の発明の詳細な説明の記載に基づき、本件発明の特定事項Bの技術的意味を理解することができ、本件発明の特定事項Bによる効果も確認することができるから、当業者が、本件発明を実施すること、及び、本件発明の技術上の意義を理解することができないとはいえない。 (2)上記第4の理由1の3について 本件特許の明細書の段落【0061】における表4は、実施例1の各成分の配合を基本として、実施例1に対して、さらに2種類のマルトオリゴ糖を配合量を変えて含有させた場合の鼻抜け香、コク味、ドライ感の官能評価の結果を示すものである。 そして、表4において、さらにマルトオリゴ糖を含有させた実施例18ないし20及び22において、鼻抜け香及びドライ感の評点が5.0を超えており、本件特許の明細書の段落【0046】、【0047】及び【0049】の説明とは整合していないが、これは、実施例1における鼻抜け香、コク味、ドライ感の評点をいずれも5.0として評価を行ったものであるところ、実施例1との優劣を判断するために、便宜上5.0以上の評点を採用したものと解するのが自然である。 ところで、申立人は、平成31年4月24日提出の意見書とともに甲第1及び2号証を提出しており、これらには次の記載がある。 ア 甲第1号証(特開平8-228684号公報)の記載 「【0038】(比較試験結果2)各製品(上記実施例2および比較例1~2の製品)に関して、製造直後および20℃1ヶ月保存後における、風味、綿状沈殿物(フロック)の発生状況について、各々、専門パネラー10名による官能検査および視覚判定試験を実施してその品質を比較した。その結果を表2に示す。なお、有意差は、Q検定(Tukeyの方法)で行った。 【0039】 【表2】 項目     比較例1   比較例2   比較例3   実施例2 風味 美味しさ  0.80 ±0.18  0.75±0.19  0.55±0.20  1.00±0.23 (7段階評価) こく味   2.70 ±0.48  2.70±0.48  1.80±0.45  3.70±0.34 (5段階評価) フロックの発生状況 製造直後     -      -      -     - 20℃1ヶ月保存後 ++     ++     ±     ± (注) ++~-:フロック発生の程度を示す(++──5mm程度のフロックが大量に浮遊、+──フロックが浮遊、±──殆ど見られない、-──見られない)。 7段階評価:-3;非常にまずい、-2;かなりまずい、-1;ややまずい、0;どちらでもない、1;ややおいしい、2;かなりおいしい、3;非常においしい 5段階評価:0;ない、1;ややある、2;ある、3;かなりある、4;非常にある」 イ 甲第2号証(特開平11-113492号公報)の記載 「【0034】また実施例1については、酸味評価に関する官能検査も行なった。官能評価は前述の試験と同様の条件で高温保存後、缶コーヒーの酸味臭に対して敏感な専門パネリスト5人で、7段階評価の採点法により官能評価を行った。すなわち、酸味評価方法は、評点法で「非常に良い」=+7、「良い」=+6、「やや良い」=+5、「普通」=+4、「やや悪い」=+3、「悪い」=+2、「非常に悪い」=+1の7段階とした。」 これら甲第1及び2号証の記載によれば、飲料の官能評価において、5段階より多い段階の7段階で評価することは周知であることが理解できるところ、本件特許の明細書の表4において、実施例1との優劣を判断するために、便宜上5.0以上の評点を採用したものであることを否定すべき根拠となるものではない。 そうすると、表4において、実施例18ないし20及び22における鼻抜け香及びドライ感の評点が5.0を超えていることをもって、本件特許の明細書の記載からは、鼻抜け香及びドライ感の評価をどのような評価基準で行ったのか理解することができないとはいえず、また、表4における鼻抜け香及びドライ感の評点が、どのような意味を有するのか理解できないともいえない。 よって、本件特許の発明の詳細な説明の記載に基づき、本件発明の特定事項Bの技術的意味を理解することができ、本件発明の特定事項Bによる効果も確認することができるから、当業者が、本件発明を実施すること、及び、本件発明の技術上の意義を理解することができないとはいえない。 (3)上記第4の理由1の4について 本件特許の明細書の段落【0005】における「その結果、高濃度の非重合体カテキン類を含有する飲料においては、テアニン量が増加すると、旨味が増強される一方で、この鼻抜け香が低下するという課題があることを見出した。また、高濃度の非重合体カテキン類を含有する容器詰飲料では、鼻抜け香が低下すると、それに伴って口が渇くような感覚(以下、「ドライ感」と称する)が際立つことも見出した。本発明の課題は、高濃度の非重合体カテキン類を含有するにもかかわらず、鼻抜け香及びドライ感が改善され、コク味も豊かな容器詰飲料を提供することにある。」(下線は、当審で付した。)との記載によれば、本件発明における「ドライ感」とは、「口が渇くような感覚」であって、鼻抜け香が低下する前から存在しており、鼻抜け香が低下することに伴って際立つものと理解できる。 なお、申立人は、平成31年4月24日提出の意見書の3-2.(1)(1-3)において、「さらに、上記意見書では「口が渇くような感覚」を「ドライ感」と表現した」との主張がされているが、前述したように本件明細書中には「ドライ感」について鼻抜け香の低下に伴い口が渇くような感覚と説明されており、上記意見書における主張は、本件明細書の記載に即しておらず、その点でも妥当でない。」(7頁14ないし17行)と主張するが、本件特許の明細書には、上述のとおり、「ドライ感」は、「口が渇くような感覚」と説明されているのであって、鼻抜け香の低下に伴い口が渇くような感覚と説明されているとは認められない。 ところで、特許権者は、ドライ感に関して、平成31年3月29日提出の意見書とともに乙第1及び2号証を提出しており、これらには次の記載がある。 ア 乙第1号証(特表2012-503479号公報)の記載 (ア)「【0004】 よく知られている緑茶フェノールであるカテキンは、新鮮な茶葉の乾燥重量の15%程度を占めるフラボノイド(フラバン-3-オール)である。未発酵の緑茶は、4種の主なカテキン:エピカテキン(EC)、エピカテキンガレート(ECG)、エピガロカテキン(EGC)及びエピガロカテキンガレート(EGCG)を含有する。エピガロカテキンガレート(EGCG)は、茶に最も豊富なカテキンである。」 (イ)「【0008】 フェノールは、多くの飲物及び食品の渋味に関与している。渋味は、顔をしかめるような、苦い、又は口が渇くような感じと表現され、フェノールと塩基性の唾液プロリンリッチタンパク質(PRP)との相互作用によって引き起こされると考えられる。」 イ 乙第2号証(Adam Drewnowski and Carmen Gomez-Carneros "Bitter taste,phytonutrients, and the consumer: a review1-3 " , Am J Clin Nutr 2000;72: P1424-1435)の記載 「Astringency,defined as a drying or puckering mouth feel detectable throughout the oral cavity, may be due to a complexing reaction between dietary polyphenols and proteins of mouth and saliva.」(1425頁) <訳文> 「口腔内で検出され、口が渇くような、又は口をすぼめるような感覚として定義される渋味は、食事性ポリフェノールと口中唾液タンパク質との錯形成反応に起因する可能性がある。」 これら乙第1及び2号証の記載によれば、ポリフェノール含有飲料において、渋味を「口が渇くような」感覚と表現することもあることが理解できる。 そうすると、本件特許の明細書の記載から、ポリフェノールを含有する緑茶飲料に関する本件発明において、「ドライ感」が渋味のような「口が渇くような感覚」であると理解できるのであるから、本件発明が、特定事項Bによって、本件発明の課題を解決できないとはいえない。 よって、本件特許の発明の詳細な説明の記載に基づき、本件発明の特定事項Bの技術的意味を理解することができ、本件発明の特定事項Bによる効果も確認することができるから、当業者が、本件発明を実施すること、及び、本件発明の技術上の意義を理解することができないとはいえない。 (4)上記第4の理由1の5について 特許権者が平成31年3月29日に提出した意見書の9頁には次のグラフが記載されている。 「 」 上記グラフによれば、本件特許の明細書の段落【0055】における表1に記載された各実施例及び各比較例をプロットし、各実施例の容器詰飲料と、各比較例の容器詰飲料とを区別するために、その境界線を定めており、その境界線から特定事項Bにおける「-0.032b+0.0006<c<-0.032b+0.0027」という数式(1)を導出したことが理解できる。 そうすると、数式(1)の導出根拠が明らかになったのであるから、本件発明が、特定事項Bによって、本件発明の課題を解決できないとはいえない。 よって、本件特許の発明の詳細な説明の記載に基づき、本件発明の特定事項Bの技術的意味を理解することができ、本件発明の特定事項Bによる効果も確認することができるから、当業者が、本件発明を実施すること、及び、本件発明の技術上の意義を理解することができないとはいえない。 (5)まとめ 上記(1)ないし(4)で検討したとおりであるから、本件特許の明細書における発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明を実施することができる程度に明確かつ十分にしたものといえ、また、当業者が本件発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が記載されたものといえる。 2 取消理由2(特許法第36条第6項第1号:サポート要件)について 上記取消理由1の(1)ないし(4)で検討したとおり、本件特許の明細書における発明の詳細な説明の記載から、本件発明の特定事項Bについて、技術的意味を理解することができるものであるから、本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし3の記載は、本件発明が、発明の詳細な説明において、本件発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えたものであるとはいえない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由によっては、本件請求項1ないし3に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1ないし3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2018-700956

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