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特許異議申立

2018-700710

摩擦材組成物および摩擦材

審判番号
2018-700710
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2013-234269
登録番号
特許第6290598号(P6290598)
請求日
2018年09月04日
審決日
2019年11月08日
公報発行日
2020年02月28日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】曙ブレーキ工業株式会社
  • 【権利者代理人】特許業務法人栄光特許事務所
  • 【権利者代理人】濱田 百合子
  • 【権利者代理人】本多 弘徳
  • 【異議申立人】山本 哲夫
審判長/審判官
  • 審判長 川端 修
  • 審判官 日比野 隆治
  • 審判官 天野 宏樹
分類
P1651.121-YAA(C09K) / P1651.537-YAA(C09K)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法120条の8第1項特許法135条
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の8第1項
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特許第6290598号発明「摩擦材組成物および摩擦材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

【結 論】 特許第6290598号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~4〕について訂正することを認める。 特許第6290598号の請求項3、4に係る特許を維持する。 特許第6290598号の請求項1、2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。

理由

【理 由】 1.手続の経緯 特許第6290598号の請求項1~4に係る特許についての出願は、平成25年11月12日に出願され、平成30年2月16日にその特許権の設定登録がされ、平成30年3月7日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許について、平成30年9月4日に特許異議申立人山本哲夫(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。 その後の手続の経緯は以下のとおりである。 平成30年12月17日付け:取消理由通知 平成31年 2月15日  :意見書の提出(特許権者) 同年 3月28日付け:審尋(申立人宛) 同年 4月17日  :回答書の提出(申立人) 令和 元年 6月24日付け:取消理由通知(決定の予告) 同年 8月26日  :訂正請求書、意見書の提出(特許権者) 同年10月 1日  :意見書の提出(申立人) 以下、令和元年8月26日に提出された訂正請求書を「本件訂正請求書」といい、本件訂正請求書による訂正の請求を「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。 2.訂正請求について (1)訂正の内容 本件訂正請求による訂正事項は、以下のとおりである。 ア 訂正事項1 請求項3、4に係る訂正 特許請求の範囲の請求項3に、「前記マスコバイトの摩擦材組成物全体量に対する含有量が1~6質量%であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の摩擦材組成物。」と記載されているのを、「繊維基材、摩擦調整材及び結合材を含有する摩擦材組成物であって、該摩擦材組成物中の銅の含有量が0.5質量%以下であり、原料コークスがコールタールピッチ、石炭系ピッチ又は石油系ピッチである部分黒鉛化コークスおよびマスコバイトを含有し、前記部分黒鉛化コークスの摩擦材組成物全体量に対する含有量が2~8質量%であり、前記マスコバイトの摩擦材組成物全体量に対する含有量が1~6質量%であることを特徴とする、摩擦材組成物(ただし、ニトリル-ブタジエンゴム及び錫粉を含有する場合を除く)。」に訂正する。 請求項3を引用する請求項4も同様に訂正する。 イ 訂正事項2 請求項1に係る訂正 特許請求の範囲の請求項1を削除する。 ウ 訂正事項3 請求項2に係る訂正 特許請求の範囲の請求項2を削除する。 エ 訂正事項4 請求項4に係る訂正 特許請求の範囲の請求項4の「請求項1~3のいずれか一項」を「請求項3」に訂正する。 なお、訂正事項1~4に係る訂正前の請求項1~4について、請求項2~4は請求項1を直接又は間接的に引用する関係にあり、訂正後の請求項3、4は訂正事項1によって直接又は連動して訂正され、訂正後の請求項1、2は削除されているから、本件訂正は特許法第120条の5第4項に規定される一群の請求項1~4について請求されたものである。 (2)訂正の適否についての判断 ア 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否について (ア)訂正事項1について a.訂正の目的について 訂正事項1は、訂正前の請求項3が訂正前の請求項1又は2を引用し、訂正前の請求項2が訂正前の請求項1を引用するものであったところ、訂正後の請求項3を、訂正前の請求項1を引用する訂正前の請求項2を引用するものに限定するとともに、請求項間の引用関係を解消し、請求項1又は2を引用しない独立形式に記載を改めるものであり、また、訂正前の請求項3の摩擦材組成物において、「(ただし、ニトリル-ブタジエンゴム及び錫粉を含有する場合を除く)」ことを規定することにより、請求項に係る発明に包含される一部の事項のみを当該請求項に記載した事項から除外し、特許請求の範囲を減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮及び同第4項に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。 請求項3の上記訂正に連動する請求項4の訂正も、同様の理由により、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものである。 b.新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張又は変更について 訂正事項1のうち、訂正前の請求項3に係る発明を、訂正前の請求項1を引用する訂正前の請求項2に係る発明を引用するものに限定し、他の請求項を引用しないように記載を改める訂正は、訂正前の請求項1及び2の記載に基づいて行われるものであり、また、訂正事項1のうち、訂正前の請求項3に係る発明において「(ただし、ニトリル-ブタジエンゴム及び錫粉を含有する場合を除く)」ことを規定する訂正は、請求項3に記載した事項の記載表現を残したままで、後記4.「取消理由通知に記載した取消理由の概要」の<引用文献等一覧>の引用文献1(甲第1号証)に記載された事項を除外するものであるから、いずれも願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載された事項の範囲内で行われるものである。 さらに、上記訂正が、特許請求の範囲を拡張するものではなく、かつ発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないことも明らかである。 加えて、請求項3の上記訂正に連動する請求項4の訂正も、同様の理由により、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載された事項の範囲内で行われるものであり、また、特許請求の範囲を拡張するものではなく、かつ発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないことも明らかである。 よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項において準用する同法126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。 (イ)訂正事項2、3について a.訂正の目的について 訂正事項2、3は、それぞれ訂正前の請求項1、2を削除する訂正であるから、いずれも特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 b.新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張又は変更について 訂正事項2、3は、それぞれ訂正前の請求項1、2を削除するというものであるから、本件明細書に記載された事項の範囲内で行われるものである。 また、上記訂正が、特許請求の範囲を拡張するものではなく、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないことも明らかである。 よって、訂正事項2、3は、いずれも特許法第120条の5第9項において準用する同法126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。 (ウ)訂正事項4について a.訂正の目的について 訂正事項4は、訂正前の請求項4に記載されていた「請求項1~請求項3のいずれか一項」との記載が、請求項1、2の削除(訂正事項2、3)に伴い、削除された請求項を引用しているという不明瞭な記載になることを解消するためのものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。また、請求項1~3のいずれか一項を引用する形式で記載されていた訂正前の請求項4を、請求項1、2を引用しないように記載を改めるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。さらに、訂正前の請求項4には、訂正前の請求項1~3のそれぞれを引用する場合の発明が含まれていたところ、そのうち請求項1を引用する請求項2を引用する請求項3を引用する場合の発明に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 b.新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張又は変更について 訂正事項4は、訂正前の請求項4に記載されていた「請求項1~請求項3のいずれか一項」を「請求項3」に改めるものであるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であるといえる。 また、訂正事項4が、特許請求の範囲を拡張するものではなく、かつ発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないことも明らかである。 よって、訂正事項4は、特許法第120条の5第9項において準用する同法126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。 イ 独立特許要件について 本件においては、訂正前のすべての請求項に対して特許異議の申立てがされているので、訂正事項1~4のいずれの訂正についても、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。 ウ 訂正請求についてのまとめ 以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、同第3号又は同第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において読み替えて準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。 よって、訂正後の請求項〔1~4〕について訂正することを認める。 3.本件発明について 本件訂正により訂正された特許請求の範囲の請求項3及び4に係る発明(以下、それぞれ「本件発明3」及び「本件発明4」という。まとめて、「本件発明」ということもある。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項3及び4に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「[請求項3] 繊維基材、摩擦調整材及び結合材を含有する摩擦材組成物であって、該摩擦材組成物中の銅の含有量が0.5質量%以下であり、原料コークスがコールタールピッチ、石炭系ピッチ又は石油系ピッチである部分黒鉛化コークスおよびマスコバイトを含有し、 前記部分黒鉛化コークスの摩擦材組成物全体量に対する含有量が2~8質量%であり、 前記マスコバイトの摩擦材組成物全体量に対する含有量が1~6質量%であることを特徴とする、摩擦材組成物(ただし、ニトリル-ブタジエンゴム及び錫粉を含有する場合を除く)。 [請求項4] 請求項3に記載の摩擦材組成物を成形して得られる摩擦材。」 4.取消理由通知に記載した取消理由の概要 訂正前の請求項1~4に係る特許に対して令和元年6月24日付けで特許権者に通知した取消理由(理由I及び理由II)の要旨は次のとおりである。 理由I(進歩性) 訂正前の請求項1~4に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の引用文献1~6に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 <引用文献等一覧> 1.特開2012-255054号公報(甲第1号証) 2.特開2007-326999号公報(甲第2号証) 3.特開平5-17739号公報(甲第3号証) 4.特開2004-204904号公報(甲第4号証) 5.特開平9-71768号公報(甲第5号証) 6.松下徹, "マイカレックス", 真空, 日本, 一般社団法人日本真空学会, 1964年12月20日, vol.7, No.12, p.394-398(甲第6号証)<URL:http://www.jstage.go.jp/article/jvsj1958/7/12/7_12_394/_pdf/-char/ja> 理由II(サポート要件) 訂正前の請求項1~4に係る発明は、発明の詳細な説明に実質的に記載されたものとすることができないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、それらの発明についての特許は同法同条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 訂正前の請求項1~4に係る発明は、いずれも部分黒鉛化コークスの含有量とマスコバイトの含有量の両方が好ましい範囲に限定されているものではないから、発明の解決しようとする課題が解決されるものとはいえない。 5.当審の判断 (1)理由I(進歩性)について ア 引用文献及びその記載事項 引用文献1~6は、上記4.「取消理由通知に記載した取消理由の概要」の<引用文献等一覧>に記載したとおりのものである。 (i)引用文献1に記載された事項 引用文献1には、以下の事項が記載されている。 (1-1)「[請求項1] 結合材、有機充填材、無機充填材及び繊維基材を含む摩擦材組成物であって、該摩擦材組成物中の銅の含有量が銅元素として5質量%以下であり、銅及び銅合金以外の金属繊維の含有量が0.5質量%以下であり、ニトリル-ブタジエンゴム及び錫粉を含有するノンアスベスト摩擦材組成物。 ・・・ [請求項4] 請求項1~3のいずれかに記載のノンアスベスト摩擦材組成物を成形してなる摩擦材。」 (1-2)「[0008] そこで、本発明は、銅及び銅合金の含有量が少なくても、摩擦係数、耐クラック性及び耐摩耗性に優れた摩擦材を与えることができるノンアスベスト摩擦材組成物、さらに該ノンアスベスト摩擦材組成物を用いた摩擦材及び摩擦部材を提供することを目的とする。 [課題を解決するための手段] [0009] 本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、ノンアスベスト摩擦材組成物において、元素としての銅の含有量を一定以下とし、銅及び銅合金以外の金属繊維の含有量を一定以下とし、ニトリル-ブタジエンゴム(アクリロニトリル-ブタジエンゴム、以下、NBRという)及び錫粉を含有することで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。 すなわち、本発明は、下記のとおりである。」 (1-3)「[0021] 本発明のノンアスベスト摩擦材組成物は、上記錫粉以外の無機充填材をさらに含有することができる。このような無機充填材としては、通常、摩擦材に用いられる無機充填材であれば特に制限はない。 上記無機充填材としては、例えば、三硫化アンチモン、硫化錫、二硫化モリブデン、硫化鉄、硫化ビスマス、硫化亜鉛等の金属硫化物や、チタン酸カリウム、チタン酸リチウムカリウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸マグネシウムカリウム等のチタン酸塩、黒鉛、コークス、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、ドロマイト、コークス、マイカ、酸化鉄、バーミキュライト、硫酸カルシウム、粒状チタン酸カリウム、板状チタン酸カリウム、鱗片状チタン酸カリウム、タルク、クレー、ゼオライト、ケイ酸ジルコニウム、酸化ジルコニウム、ムライト、クロマイト、酸化チタン、酸化マグネシウム、シリカ、酸化鉄、γ-アルミナなどの活性アルミナ等を用いることができ、これらを単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。対面材への攻撃性低下の観点から、黒鉛、硫酸バリウムを含有することが好ましい。 [0022] 本発明のノンアスベスト摩擦材組成物における無機充填材の含有量は、30~85質量%であることが好ましく、40~85質量%であることがより好ましく、60~85質量%であることがさらに好ましい。無機充填材の含有量を30~85質量%の範囲とすることで、耐熱性の悪化を避けることができる。なお、上記無機充填材の含有量には、前記錫粉の含有量が含まれる。」 (1-4)「[0042] [表1] 」 (ii)引用文献2に記載された事項 引用文献2には、以下の事項が記載されている。 (2-1)「[請求項1] 繊維基材、摩擦調整材及び結合材を用いてなる非石綿系摩擦材において、部分黒鉛化コークスを0.5体積%~2.5体積%配合したことを特徴とする非石綿系摩擦材。」 (2-2)「[0005] 黒鉛は、潤滑性とすぐれた熱的安定性並びに化学的安定性のために、これを摩擦調整材として用いたときに、種々の環境の中で安定した摩擦係数が得られるばかりでなく、耐摩耗性、耐焼付性の点でもすぐれている。しかしながら、従来から用いられてきた黒鉛は添加量を多くすると摩擦係数が低下するという問題があり、高弾性黒鉛の使用が検討されているが、高弾性黒鉛でも十分満足できる材料ではなかった。 従って、本発明が解決しようとする課題は、特定の高弾性黒鉛を使用して他の特性をほとんど悪化させずに、圧縮歪み量を調整してブレーキフィーリングを向上させた摩擦材を提供することである。」 (2-3)「[発明の効果] [0007] 本発明によれば、特定の弾性を有する部分黒鉛化コークス(弾性コークス)を摩擦材へ利用することにより、成形面圧、焼成温度を下げることなく、摩擦材の気孔率・圧縮歪み量を調整することができ、ブレーキフィーリングを最適化することが出来る。 [発明を実施するための最良の形態] [0008] 本発明は、従来摩擦材に添加されていた黒鉛の一部分を弾性を有する部分黒鉛化コークスに置換することにより、他の材料や成形条件はそのままでも圧縮変形量を増加させることを見出した結果、実現した。 本発明で使用する「弾性を有する部分黒鉛化コークス」とは、弾性黒鉛を得るために黒鉛化するための原料コークス類を黒鉛化する際に、その黒鉛化を途中で止めたものであって、その黒鉛化率は80~95%であることが好ましい。前記原料コークス類としては、コールタールピッチ、石炭系ピッチ、石油系ピッチ等を約350~500℃で熱処理した時に生成する炭素質メソフェーズ又は生コークス、あるいはこれらを硝酸もしくは硝酸と硫酸との混酸で処理したものなどの、従来弾性黒鉛の製造原料とされているものを挙げることができる。」 (2-4)「[0010] 本発明の摩擦材に用いられる部分黒鉛化コークス(弾性黒鉛体)は、荷重を取り除いたときの回復率がきわめて高く、90%以上、殆ど100%である。又、900MPa荷重時の圧縮率は80%以下、好ましくは60%以下であり、上記した従来の黒鉛とは異なる物性値を有する弾性黒鉛体である。更に好ましくは、回復率が95%以上であり、圧縮率が60%~40%の範囲の弾性黒鉛体を使用する。 本発明に使用される部分黒鉛化コークス(弾性黒鉛体)のX線回折の測定による黒鉛化率は、80%~95%の範囲にある。そして、その添加量は少量で十分効果があり、0.5~2.5体積%、好ましくは2.0~2.5体積%配合すればよい。また、摩擦材においては、部分黒鉛化コークスは従来の黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛)と併用して用いられる。」 (iii)引用文献3に記載された事項 引用文献3には、以下の事項が記載されている。 (3-1)「[請求項1] 弾性黒鉛を3~15wt%を含有してなることを特徴とする摩擦材。」 (3-2)「[0002] [従来の技術及び発明が解決しようとする課題]従来上記の摩擦材の性能を向上させるための一手法として、硬度を低くすることは周知の手段である。そして上記硬度を下げるためには、摩擦材に含有されているレジン量を減らしたり、黒鉛量を多く添加したり、または材料の成形条件を検討する等の方法が取られていた。しかし上記レジン量を減らすとマトリックスの強度が低下する、また黒鉛量を多くすると摩擦係数が低下する等の問題があった。 [0003] [課題を解決するための手段]本発明はこれに鑑み種々検討の結果、従来摩擦材に添加されていた黒鉛を弾性黒鉛に置換することにより、他の材料や成形条件はそのままでも弾性が得られて硬度が低下し、気孔率が増大することを知見した結果なされたものである。」 (3-3)「[0005] [作用]上記の弾性黒鉛は、面圧5tonを加えた後除荷した時の弾性回復は50~96%のものをいう。そしてその含有量は3~15wt%とするが、バランスを考慮すると4~12wt%が良好である。 [0006]また本発明では、上記のように摩擦材において、硬度の低下及び弾性が得られたために、摩擦面の接触が良好となり、摩擦係数が向上する利点がある。また気孔率が増大したことにより、高速効力,フェードの摩擦係数及びノイズ性が改善される。同時に弾性黒鉛は通常の黒鉛と同様に、摩擦性能を安定させ、摩耗性や相手材への攻撃性も良好である。」 (iv)引用文献4に記載された事項 引用文献4には、以下の事項が記載されている。 (4-1)「[請求項1] 摩擦調整剤、繊維基材及び結合剤を含む自動車用キャリパーブレーキのライニングにおいて、摩擦調整剤の一部に下式を満たす層状構造アブレッシブを用い、かつ層状構造アブレッシブAL及び粒状アブレッシブAPを合計で5体積%以上含有してなるブレーキライニング。 制動開始時 d(v) > f(v) Δf(v) / Δv < Δd(v) / Δv 摺動速度2.5m/sec付近で d(v) = f(v) 速度2.5m/sec付近以下で d(v) < f(v) f(v):アブレッシブによる引っ掻き抵抗 d(v):アブレッシブ自体のせん断抵抗 v :速度 ・・・ [請求項3] 層状構造アブレッシブALが、へき開性を示す白雲母、金雲母からなる群から選ばれる1種以上である請求項1又は2記載のブレーキライニング。」 (4-2)「[0001] [発明の属する技術分野] 本発明は、自動車のブレーキに使用される非石綿系ブレーキライニングに関する。特に、フェノールレジンマトリックスのブレーキパッド摩擦材に摩擦係数の正の速度依存性を持たせたアブレッシブを入れることにより、速度-摩擦係数特性(以下μ-V特性とする)をコントロールして、ドライバーのより高い安心感を得られるようなブレーキの効きの上昇があり、かつ鳴きやブレーキ異音の発生し難いブレーキライニングに関する。 ・・・ [0007] [発明が解決しようとする課題] ブレーキライニングのμ上昇手段として、アルミナ、シリカ、マイカ等のアブレッシブを配合する。この成分は制動時に相手材であるブレーキロータを通常はミクロンオーダーで引っ掻くことにより、摩擦係数を上昇させる効果をもつ。 [0008] アブレッシブはブレーキロータ金属表面を引っ掻く時の抵抗が摩擦力となる。金属のこの引っ掻き抵抗は速度が速くなるにつれて下降する。これをμ-V特性であらわすと図1に示すようなμ-V負勾配を持った特性となる。・・・ [0010] ・・・このような摩擦特性のブレーキライニングを用いたとき、ブレーキ踏力に対し期待以上に制動力が増加するので、ドライバーは安心感を得る。しかしながら、従来品は制動力、安心感に直接関係しない速度以下になってもこの上昇傾向が続くため、μ-V負勾配が過度に大きくなり、異音や鳴きが発生しやすくなる特徴をもっていた。 [0011] 本発明は、μ-V負勾配が制動開始速度において大きく(摩擦係数の上昇があり)、停止間際(Vh=2.5m/sec以下)において小さく(摩擦係数の上昇が小さい)なるアブレッシブを選択したブレーキライニングを提供することを目的とする。」 (4-3)「[0020] なお、本発明においては、摩擦調整剤の一部に粒状アブレッシブ及び層状アブレッシブを合わせてブレーキライニング全体積に対して5体積%以上、好ましくは7~10.5体積%、さらに好ましくは7.5~10体積%の範囲含有することが必要とされ、含有量が5体積%未満であると摩擦係数の上昇効果が小さくなる傾向がある。10.5体積%を超えると鳴きが発生したり、ブレーキロータの摩耗が増加する傾向がある。 層状アブレッシブとしては、へき開性を有する白雲母、金雲母等を用いることが好ましい。前記のような層状アブレッシブを用いることにより、摩擦係数の上昇を2.5m/sec以下に抑えることができる。層状アブレッシブの含有量は、ブレーキライニング全体積に対して4体積%以上であることが好ましく、4.4体積パーセント以上であることがさらに好ましい。」 (v)引用文献5に記載された事項 引用文献5には、以下の事項が記載されている。 (5-1)「[0005]また、これらの他にも、摩擦材に配合される充填剤成分としては種々のものが知られ、また用いられている。そのような充填剤の1つは、例えば、雲母、タルク等の平面網状結晶構造、即ち、陽イオンが結合したケイ酸基が2次平面網状に発達し、層間が弱いファンデルワールス力で結合された層状の結晶構造、つまり、劈(へき)開性結晶構造、を有する無機物である。そして、このような雲母等を充填剤として摩擦材に配合する目的は、低周波ノイズ(グー音)を低減することにある。 [0006]・・・そして、その雲母としては、劈開性がほぼ完全であり、また良質な天然物として比較的多量に得られる点で、金雲母、或いは白雲母が一般に使用されている。 ・・・ [0008]このグー音とも呼ばれる低周波ノイズは、摩擦材と相手材との摩擦係合時に、摩擦材成分またはその分解物が相手材(ロータ)に被着し、その被着膜と摩擦材との凝着によってスティックスリップ、即ち、摩擦係数の瞬間的な変動が引起されるために発生するものである。なお、この低周波ノイズは、高周波ノイズに比べて余り目立たない騒音であるが、ユーザには不快感を与え、また自動車の高級感を損なうものである。 [0009]そして、このような低周波ノイズの発生を低減するためには、上述のように、平面網状結晶構造(劈開性結晶構造)を有する無機物である金雲母、白雲母等の雲母の配合が有効であることが知られている。なお、この雲母による低周波ノイズ低減作用については、その劈開性にあると一般に考えられている。つまり、スティックスリップの原因となる摩擦材と相手材との凝着が、摩擦材中に充填された雲母が鱗片状に劈開し、剥離して滑性の表面を形成することにより、抑制され、回避されるということである。そして、雲母の配合によって実際上十分なレベルに低周波ノイズを低減できることから、近年では、摩擦材の充填剤の一部として雲母が使用される場合が多くなってきている。」 (5-2)「[0036](合成フッ素雲母) フッ素金雲母[KMg3(AlSi3O10)F2] フッ素四ケイ素雲母[KMg2.5(Si4O10)F2] (天然雲母) 金雲母[KMg3(AlSi3O10)(OH)2] 白雲母[KAl2(AlSi3O10)(OH)2] そして、実施例1では合成フッ素雲母であるフッ素金雲母を、実施例2では同じくフッ素四ケイ素雲母をそれぞれ単独で使用した。また、実施例3では、それらの合成フッ素雲母を5重量%ずつの等量混合物として使用した。これらに対して、比較例1では天然雲母である金雲母を、比較例2では白雲母をそれぞれ用い、また、比較例3ではいずれの雲母も無配合とした。」 (5-3)「[0044]〔試験結果〕図1のように、充填剤として雲母を配合していない比較例3の摩擦材では、初期からかなり高い頻度において低周波ノイズが発生し(43回)、熱履歴後においてもその高い発生率は変わっていない。これに対して、金雲母及び白雲母をそれぞれ配合した比較例1及び比較例2の摩擦材では、低周波ノイズの発生はいずれにおいても大幅に低減され、それぞれ8回及び7回に減少している。即ち、摩擦材に雲母を配合することによって、低周波ノイズの発生が有効に低減され、抑制されている。」 (vi)引用文献6に記載された事項 引用文献6には、以下の事項が記載されている。 (6-1)「このように、雲母とは一定の化学組織からなった化合物ではなく、上述の一般式で表わされ、しかも層上に劈開しやすい独特な雲母構造をなした化合物の総称である。したがって、天然にも各種の雲母が産出する。その代表的な例を第1表に示す。これらの雲母の中で工業的に最も広く用いられている雲母は白雲母で、次が金雲母てある。」(第394頁右欄下から14行~下から8行) (6-2)「 」(第395頁第1表) (6-3)「 」(第395頁第2表) (6-4)「白雲母、金雲母、合成雲母の性質を比較すると、第2表に示すように、全般的にはそれほど大きな違いはない。主として違っている点は次の通りである。白雲母は透明度、電気的性質などの点で金雲母に優つているが、耐熱性の点では金雲母の方が秀れている。合成雲母は他の雲母に比べて耐熱温度が著しく高く、しかも紫外から赤外にわたっての光透過率が非常に秀れている。雲母は柔軟性に富んだ板状結晶であるが、中でも金雲母は軟質雲母と云われて特に柔かく、白雲母はこれより固いので、硬質雲母と云われている。合成雲母は白雲母よりさらにいくらか固い。」 イ 引用文献1に記載された発明 引用文献1には、「結合材、有機充填材、無機充填材及び繊維基材を含む摩擦材組成物であって、該摩擦材組成物中の銅の含有量が銅元素として5質量%以下であり、銅及び銅合金以外の金属繊維の含有量が0.5質量%以下であり、ニトリル-ブタジエンゴム及び錫粉を含有するノンアスベスト摩擦材組成物。」が記載されており(摘記1-1の請求項1)、「銅及び銅合金の含有量が少なくても、摩擦係数、耐クラック性及び耐摩耗性に優れた摩擦材を与えることができるノンアスベスト摩擦材組成物・・・を提供する」という課題を解決する目的で、「ノンアスベスト摩擦材組成物において、元素としての銅の含有量を一定以下とし、銅及び銅合金以外の金属繊維の含有量を一定以下とし、ニトリル-ブタジエンゴム(アクリロニトリル-ブタジエンゴム、以下、NBRともいう)及び錫粉を含有」させたことが記載されている(摘記1-2)。また、上記摩擦材組成物には、「上記錫粉以外の無機充填材をさらに含有することができ・・・このような無機充填材としては、通常、摩擦材に用いられる無機充填材であれば特に制限はない」こと、及び「黒鉛、コークス・・・、マイカ・・・等を用いることができ、これらを単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる」ことが記載されている(摘記1-3)。さらに、[表1](摘記1-4)には、上記摩擦材組成物の実施例の一つとして実施例10が記載されている。 そうすると、引用文献1の実施例10には上記[表1]から次の発明が記載されていると認められる。 「結合材、有機充填材、無機充填材及び繊維基材を含むノンアスベスト摩擦材組成物であって、 上記結合材として、フェノール樹脂を9質量%を含有し、 上記有機充填材として、カシューダストを3質量%、SBR粉を1質量%、NBR粉を2質量%を含有し、 上記無機充填材として、錫粉を2質量%、黒鉛を5質量%、チタン酸カリウムを9質量%、硫酸バリウムを25質量%、マイカを6質量%、コークスを3質量%、硫化錫を2質量%、水酸化カルシウムを4質量%、酸化ジルコニウムを20質量%を含有し、 上記繊維基材として、アラミド繊維を2質量%、鉱物繊維を7質量%含有する、 ノンアスベスト摩擦材組成物」」(以下、「引用発明1」という。) また、引用文献1には、「ノンアスベスト摩擦材組成物を成形してなる摩擦材。」が記載されているから(摘記1-1の請求項4)、引用文献1には次の発明が記載されている。 「引用発明1の摩擦材組成物を成形してなる摩擦材。」(以下、「引用発明1b」という。) ウ 本件発明3について (ア)本件発明3と引用発明1との対比 本件発明3と引用発明1とを対比すると、引用発明1における「結合材」、「繊維基材」及び「(ノンアスベスト)摩擦材組成物」は、それぞれ本件発明3における「結合材」、「繊維基材」及び「摩擦材組成物」に相当する。また、引用発明1における「有機充填材」及び「無機充填材」は、いずれも本件発明3における「摩擦調整材」に相当する。さらに、引用発明1において、「摩擦材組成物中の銅の含有量が銅元素として0質量%」である点は、本件発明3における「摩擦材組成物中の銅の含有量が0.5質量%以下」という要件を満たしている。 そうすると、両者は、 「繊維基材、摩擦調整材及び結合材を含有する摩擦材組成物であって、該摩擦材組成物中の銅の含有量が0.5質量%以下である摩擦材組成物。」 の点で一致し、 相違点1:本件発明3は、原料コークスがコールタールピッチ、石炭系ピッチ又は石油系ピッチである部分黒鉛化コークスを含有し、部分黒鉛化コークスの摩擦材組成物全体量に対する含有量が2~8質量%であるのに対し、引用発明1は、そのような部分黒鉛化コークスを含有することは規定されていない点。 相違点2:本件発明3は、マスコバイトを含有し、マスコバイトの摩擦材組成物全体量に対する含有量が1~6質量%であるのに対し、引用発明1は、マスコバイトを含有することは規定されていない点。 相違点3:本件発明3は、「ニトリル-ブタジエンゴム及び錫粉を含有する場合を除く」ものであるのに対し、引用発明1は、ニトリル-ブタジエンゴム(NBR粉)及び錫粉を含有する点。 で相違する。そこで、上記相違点について検討する。 (イ)相違点3について 事案に鑑み、まず、相違点3について検討する。 引用文献1の[0008]~[0009](摘記1-2)には、引用発明1の解決しようとする課題が「銅及び銅合金の含有量が少なくても、摩擦係数、耐クラック性及び耐摩耗性に優れた摩擦材を与えることができるノンアスベスト摩擦材組成物・・・を提供する」ことにあり、その解決手段について、「元素としての銅の含有量を一定以下とし、銅及び銅合金以外の金属繊維の含有量を一定以下とし、ニトリル-ブタジエンゴム・・・及び錫粉を含有することで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した」ことが記載されている。 そうすると、上記相違点3に係る「ニトリル-ブタジエンゴム及び錫粉」は、いずれも引用発明1が課題を解決する上で必須の成分として位置付けられているものであるから、これらを引用発明1の含有成分から除くことにより上記相違点3に係る構成に至ることは、当業者が容易に想到し得ることではない。 そうすると、相違点1及び2について検討するまでもなく、本件発明3は引用発明1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (ウ)相違点1、2及び本件発明3の効果について 令和元年6月24日付け取消理由(決定の予告)の4.(1)ウ(イ)「相違点1について」、同(ウ)「相違点2について」及び同(オ)「本件発明1の効果について」における検討を踏まえて、念のため、相違点1及び2と、本件発明3の効果についても検討する。 (ウ-1)相違点1及び2について 上記相違点3についての検討において述べたように、引用発明1において、無機充填材に錫粉を含まないようにすることは、当業者が容易になし得ることではないところ、仮に、無機充填材に錫粉を含まないようにすることが可能だとしても、引用発明1において、無機充填材は、錫粉以外に、黒鉛、チタン酸カリウム、硫酸バリウム、マイカ、コークス、硫化錫、水酸化カルシウム及び酸化ジルコニウムが含まれており、錫粉を含まないようにした場合に、「摩擦係数、耐クラック性及び対摩耗性に優れた摩擦材」(引用文献1の[0008](摘記1-2))を得るために、これらの錫粉以外の無機充填材の含有量をどのようにすればいいのかは、引用文献1~6には記載も示唆もされておらず、当業者にとって明らかではない。 そして、上記取消理由(決定の予告)に記載したように、引用文献2(摘記2-1~2-4)及び引用文献3(摘記3-1~3-3)の記載を参酌すると、当業者は、摩擦材組成物に配合される黒鉛の一部を上記相違点1に係る「部分黒鉛化コークス」に置換することにより、摩擦材の一部の特性を改善することができると理解することができ、また、引用文献4(摘記4-1~4-3)、引用文献5(摘記5-1~5-3)及び引用文献6(摘記6-1~6-4)の記載を参酌すると、当業者は、摩擦材に「雲母(マイカ)」を配合するに当たり、特定の特性を有する雲母の一つである上記相違点2に係る「マスコバイト(白雲母)」を採用することにより、摩擦材の別の特性を改善することができると理解することができるとしても、引用発明1において、無機充填材の含有量は、「耐熱性の悪化を避けることができる」(引用文献1の[0022](摘記1-3))範囲のものであって、しかも、黒鉛及び硫酸バリウムは、「対面材への攻撃性低下の観点から、黒鉛、硫酸バリウムを含有することが好ましい」(引用文献1の[0021](摘記1-3))ものであるところ、無機充填材の黒鉛及びマイカに替えて、それぞれ部分黒鉛化コークス及びマスコバイトを採用した場合に、摩擦材組成物の耐熱性の悪化を避け、対面材への攻撃性を悪化させないようにするために、部分黒鉛化コークス及びマスコバイトのそれぞれの含有量をどのようにすればいいのかは、引用文献1~6には記載も示唆もされておらず、当業者にとって明らかではない。 また、一般に、組成物の一特性を改善するために含有成分を変更すると、他の特性に負の影響を及ぼすこともあるから(もし必要であれば、特開2000-144104号公報(乙第1号証)、特開2004-131634号公報(乙第2号証)等を参照。)、引用発明1における黒鉛及び雲母の2成分について同時に入れ替えを行ったとき、望んだ特性が得られるか否かは必ずしも明らかなことではなく、まして、摩擦材としての優れた特性が得られる適切な配合割合の組合せを、引用文献1~6の記載から当業者が予測し得るものとはいえない。 したがって、部分黒鉛化コークス及びマスコバイトの含有量をそれぞれ規定する、上記相違点1及び2に係る本件発明3の発明特定事項は、当業者が容易に想到し得るものであるということはできない。 (ウ-2)本件発明3の効果について 本件明細書の[0018]には、部分黒鉛化コークスの含有量は2~8質量%が好ましいことが記載され、[0021]には、マスコバイトの含有量は1~6質量%が好ましいことが記載されているところ、本件訂正による訂正後の本件発明3においては、部分黒鉛化コークス及びマスコバイトの含有割合は、いずれも上記好ましい範囲に特定されている。 そして、[0038]の表1に記載された実施例1~7の特性及び[0039]の表2に記載された比較例1~4の特性等を参酌すると、実際に、部分黒鉛化コークス及びマスコバイトの含有割合が本件発明1に特定される上記相違点1及び2に係る範囲の組合せである場合には、本件発明の「特定の高弾性黒鉛と銅の代替材料を使用して他の特性をほとんど悪化させずに、銅フリー摩擦材の短所を補完し、高温制動時の耐摩耗性の向上と幅広い車種に適合する耐ノイズ性とブレーキの効きが改善された摩擦材を提供する」という課題が解決されるといえる。 (エ)申立人の主張について 申立人は、令和元年10月1日に提出した意見書において、「本件特許発明3の効果は、マスコバイトと部分黒鉛化コークスとのそれぞれによりもたらされる効果を足し合わせたものにすぎず、両者の併用により相乗的な効果を奏するとされるものではない」(第8頁)として、本件明細書の実施例1、比較例1、比較例4及び特許権者が平成31年2月15日に提出した意見書に示した追加比較例5の実験データを比較し、「鳴きの改善効果については、・・・部分黒鉛化コークス単独の作用によることは明らか」、「130km/hの抗力(μ)の改善効果は、・・・部分黒鉛化コークス単独の作用によることは明白」、「摩耗の改善効果については、・・・マスコバイト単独の作用によることは明白」(第10頁)と主張しているが、部分黒鉛化コークスとマスコバイトの両者を用いた摩擦材組成物において、それぞれの含有量をどのようにすれば、鳴きの改善と摩耗の改善の両方が得られるかは、引用文献1~6からは明らかではない。 そうすると、それぞれの含有量を本件発明3の範囲のものとすることは、当業者が容易に想到し得るものではなく、本件発明3によりペダルフィーリング、ロータ攻撃性、鳴き、130km/hの効力(μ)及び400℃での摩耗のいずれにおいても良好な特性が得られるという効果は、引用文献1~6の記載から当業者が予測し得たこととはいえない。 よって、申立人の主張は採用できない。 (オ)本件発明3についてのまとめ よって、本件発明3は引用発明1及び引用文献2~6に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。 エ 本件発明4について 本件発明4と引用発明1bとを対比すると、引用発明1bにおける「摩擦材組成物を成形してなる摩擦材」は、本件発明4における「摩擦材組成物を成形して得られる摩擦材」に相当する。 そうすると、両者は、 「摩擦材組成物を成形して得られる摩擦材。」の点で一致し 相違点4:摩擦材組成物が、本件発明4においては「請求項3に記載の摩擦材組成物」であるのに対し、引用発明1bにおいては「引用発明1の摩擦材組成物」である点 で相違する。 そこで、相違点4について検討すると、相違点4は、実質的に上記5.(1)ウ「本件発明3について」に記載した「相違点1」~「相違点3」と同様である。 そうすると、本件発明4は引用発明1及び引用文献2~6に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。 オ 理由I(進歩性)についてのまとめ 以上のとおり、本件発明3及び4は、いずれも引用発明1、引用発明1b、及び引用文献2~6に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。 よって、取消理由通知(決定の予告)に記載した理由I(進歩性)の取消理由により、本件請求項3及び4に係る特許を取り消すことはできない。 (2)理由II(サポート要件)について ア 本件発明の課題について 本件明細書の[0005]には、背景技術として、「ノンアスベスト摩擦材の場合、耐フェード性を向上させるため、熱伝導率の大きな金属、特に銅の繊維または銅の粒子が添加されることがあ」ったが、「河川や海洋汚染、人体への悪影響等の環境汚染に対する懸念から、銅のような重金属を含有しない摩擦材が開発されるようになり、国際的に重金属を除く動きが加速している」ことが記載され、[0008]には、「しかし、銅を除くとブレーキの耐ノイズ性、効きあるいは放熱性が低下し、適用車種が限定されてしまう場合があ」ったことが記載されているところ、本件発明の課題は、[0009]に記載されているとおり、「銅及び銅含有金属を含まない摩擦材組成物および該摩擦材組成物を成形して得られる摩擦材に関し、特定の高弾性黒鉛と銅の代替材料を使用して他の特性をほとんど悪化させずに、銅フリー摩擦材の短所を補完し、高温制動時の耐摩耗性の向上と幅広い車種に適合する耐ノイズ性とブレーキの効きが改善された摩擦材を提供すること」にあるものと認められる。 イ 本件発明3について 本件発明3は、上記3.「本件発明について」に記載した特許請求の範囲の請求項3に記載された発明特定事項により特定されるものであるところ、その含有成分である「部分黒鉛化コークス」及び「マスコバイト」の含有量は、それぞれ「2~8質量%」及び「1~6質量%」に特定されている。 ウ 本件明細書の記載について 本件明細書には、以下の記載がある。 「[0018] 部分黒鉛化コークスは、本発明においては摩擦調整材として配合され、摩擦材組成物全体量に対し2~8質量%とすることが好ましく、より好ましくは3~7質量%である。部分黒鉛化コークスの含有量が2質量%未満であると、摩擦材のダンピング特性が不足し鳴きや異音が発生し易くなる(鳴き性能が悪化する)場合がある。一方、部分黒鉛化コークスの含有量が8質量%を超えると、弾性率や潤滑性はかなり高くなるが、他の材料の含有量が減少することで、摩擦係数や強度などの各種性能が低下する場合がある。」 「[0021] マスコバイトは、摩擦材組成物全量に対し、1~6質量%含有することが好ましく、より好ましくは1~5質量%である。マスコバイトの含有量が上記範囲であると、高温制動時の耐摩耗性が向上し、高くかつ安定した摩擦係数の確保と耐ノイズ性を両立させることができるため好ましい。 [0022] 上記したように本発明の摩擦材は、部分黒鉛化コークスとマスコバイトを併用するが、両者の含有量は、摩擦材組成物全量に対し部分黒鉛化コークスが2~8質量%であり、かつ、マスコバイトを1~6質量%加えることが好ましい。」 「[0038] [表1] [0039] [表2] [0040] 表1及び2から分かるように、銅フリーの摩擦材において、実施例1~7は配合材料として部分黒鉛化コークス(弾性コークス)とマスコバイトを用い、実施例1~4は摩擦材中のマスコバイト配合量を、実施例5~7は部分黒鉛化コークスの添加量をそれぞれ変化させた例を示している。 銅を加えた摩擦材を基準にすると、マスコバイトと部分黒鉛化コークスを同時に添加した実施例1~7の摩擦材は銅を5質量%含有する摩擦材(比較例2)と同等の性能を達成できることがわかった。しかし、マスコバイトと黒鉛化コークスの少なくとも一つを添加しなかった摩擦材(比較例1、3、4)は鳴き、効力及び摩耗の評価項目を満たすことが出来ないことがわかった。」 エ サポート要件の判断 本件明細書の[0018]の記載を参酌すると、摩擦調整材に配合される部分黒鉛化コークスの含有量は2~8質量%が好ましく、2質量%未満及び8質量%超では、いずれも摩擦材の性能が低下する傾向があると解される。 また、[0021]の記載を参酌すると、摩擦調整材に配合されるマスコバイトの含有量は1~6質量%が好ましいと解される。 そして、上記5.(1)ウ(ウ-2)「本件発明3の効果について」にも記載したとおり、本件訂正による訂正後の本件発明3においては、部分黒鉛化コークス及びマスコバイトの含有割合は、いずれも上記好ましい範囲に特定されているところ、[0038]の表1に記載された実施例1~7の特性及び[0039]の表2に記載された比較例1~4の特性等を参酌すると、上記表1に記載された実施例1~7に基づいて、部分黒鉛化コークスの含有量が2~8質量%であり、かつマスコバイトの含有量が1~6質量%である本件発明3の範囲で、本件発明の「特定の高弾性黒鉛と銅の代替材料を使用して他の特性をほとんど悪化させずに、銅フリー摩擦材の短所を補完し、高温制動時の耐摩耗性の向上と幅広い車種に適合する耐ノイズ性とブレーキの効きが改善された摩擦材を提供する」という課題が解決されることが理解できる。 オ 本件発明3についてのまとめ よって、本件発明3は、本件明細書の発明の詳細な説明において、当業者が上記課題を解決し得ると理解できるものであるから、発明の詳細な説明に記載されたものであって、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものである。 カ 本件発明4について 本件発明4は、本件発明3を引用し、本件発明3をさらに限定するものであるから、本件発明3と同じ理由により、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものである。 キ 理由II(サポート要件)のまとめ 以上のとおり、本件発明3及び4は、いずれも発明の詳細な説明に記載されたものであるから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものである。 よって、取消理由通知(決定の予告)に記載した理由II(サポート要件)の取消理由により、本件請求項3及び4に係る特許を取り消すことはできない。 6.取消理由通知で採用しなかった特許異議申立理由について 申立人が申し立てた特許異議申立理由は、取消理由通知(決定の予告)に記載した理由I(進歩性)の取消理由に相当するから、取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由はない。 7.むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由のいずれによっても、本件請求項3及び4に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件請求項3及び4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 さらに、本件請求項1及び2に係る特許は訂正により削除され、本件特許の請求項1及び2に係る特許異議の申立ては対象となる請求項が存在しないものとなったから、特許法第120条の8第1項において準用する同法第135条の規定により却下する。 よって、結論のとおり決定する。

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2018-700710

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