特許異議申立
2018-700116
摩擦材組成物、摩擦材組成物を用いた摩擦材及び摩擦部材
- 審判番号
- 2018-700116
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2014-533123
- 登録番号
- 特許第6179519号(P6179519)
- 請求日
- 2018年02月15日
- 審決日
- 2018年04月16日
- 公報発行日
- 2018年06月29日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】日立化成株式会社
- 【権利者代理人】大谷 保
- 【権利者代理人】平澤 賢一
- 【異議申立人】山本 哲夫
- 審判長/審判官
- 審判長 國島 明弘
- 審判官 佐々木 秀次
- 審判官 日比野 隆治
- 分類
- P1651.121-Y (C09K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6179519号発明「摩擦材組成物、摩擦材組成物を用いた摩擦材及び摩擦部材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6179519号の請求項1~10に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6179519号の請求項1~10に係る特許についての出願は、平成25年8月30日(優先権主張 平成24年8月30日 日本国)を国際出願日とする特許出願であって、平成29年7月28日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、平成30年2月15日に特許異議申立人山本哲夫(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
第2 本件請求項1~10に係る発明
特許第6179519号の請求項1~10の特許に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1~10に記載された、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
結合材、有機充填材、無機充填材、及び繊維基材を含有する摩擦材組成物であり、上記摩擦材組成物中の銅の含有量が銅元素として5質量%以下であり、上記無機充填材として平均粒子径(D50)が0.1~4μmである酸化ジルコニウムを3~20質量%含有し、粒子径が30μm以上の酸化ジルコニウムを実質的に含有せず、上記有機充填材としてカシューダストを2~8質量%含有する摩擦材組成物。
【請求項2】
さらに、有機充填材としてゴム成分を含有し、カシューダストとゴム成分との質量比が1:4~10:1である、請求項1に記載の摩擦材組成物。
【請求項3】
さらに、無機充填材として黒鉛を含有する、請求項1又は2に記載の摩擦材組成物。
【請求項4】
前記黒鉛の平均粒子径(D50)が1~100μmである、請求項3に記載の摩擦材組成物。
【請求項5】
さらに、無機充填材としてチタン酸塩を含有する、請求項1~4のいずれかに記載の摩擦材組成物。
【請求項6】
前記チタン酸塩が、チタン酸カリウム、チタン酸リチウムカリウム又はチタン酸マグネシウムカリウムである、請求項5に記載の摩擦材組成物。
【請求項7】
前記チタン酸塩の含有量が10~20質量%である、請求項5又は6に記載の摩擦材組成物。
【請求項8】
前記チタン酸塩が、柱状、板状、粒子状又は燐片状である、請求項5~7のいずれかに記載の摩擦材組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかに記載の摩擦材組成物を成形してなる摩擦材。
【請求項10】
請求項1~8のいずれかに記載の摩擦材組成物を成形してなる摩擦材と裏金とを用いて形成される摩擦部材。」
(以下、各請求項に係る発明を「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」という。また、対応する特許についても「本件特許1」などといい、まとめて「本件特許」という。)
第3 申立理由の概要
特許異議申立人は、下記甲第1号証~甲第6号証を提出し、本件発明1~10は、下記甲第1号証~甲第6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであり、本件特許1~10は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、特許を取り消すべきものである旨主張している。
記
甲第1号証:特開2000-144104号公報
甲第2号証:特開平5-247441号公報
甲第3号証:特開平10-195420号公報
甲第4号証:特開2009-30018号公報
甲第5号証:特開平6-306185号公報
甲第6号証:特開2000-265157号公報
(以下、甲第1号証などを単に「甲1」などという。)
第4 甲1~甲6の記載事項及び引用発明
1.甲1~甲6の記載事項
(1)甲1
上記甲1には、次の事項が記載されている。
(1-1)「【請求項1】 繊維基材と、摩擦摩耗調整剤と、結合剤と、からなる摩擦材であって、繊維状タルクを含有することを特徴とする摩擦材。」(特許請求の範囲)
(1-2)「【0002】
【従来の技術】自動車のドラムブレーキのライニングやディスクブレーキのパッド等の摩擦材には、ブレーキの効き、耐フェード性、耐摩耗性、耐鳴き性、高剪断強度等多数の性能が要求される。これを満足させるため、様々な繊維基材、摩擦摩耗調整剤、結合剤を配合した摩擦材が使われている。
【0003】繊維基材としては、鋼繊維等の金属繊維、石綿やガラス繊維等の無機繊維、アラミド繊維等の有機繊維が、使用されている。摩擦摩耗調整剤には、有機、無機、金属質のものがある。有機質の代表的なものは、ゴム、カシューダスト等であり、主として比較的低い温度での摩擦摩耗の調整に用いられる。無機質は黒鉛、硫化モリブデン、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、シリカ、酸化マグネシウム、等であり、金属質は銅、黄銅、亜鉛等で、主として高い温度での摩擦摩耗の調整に用いられる。
【0004】結合剤にはフェノール系樹脂やDAP樹脂等が用いられている。フェード性は、一般的には繰り返しの制動を行ったとき、摩擦面が高温になるにつれ、摩擦係数がしだいに低下する現象である。高温になると、摩擦熱による摩擦材中の結合剤や摩擦摩耗調整剤等の分解ガスが摩擦材と相手材の境面に存在することなどのためにフェード現象が発生する。
【0005】そこで従来は、耐フェード性を向上させるために、気孔率をアップした摩擦材が用いられてきた。しかし、気孔率をアップした摩擦材は強度が低下するといった課題を有していた。特に、分解ガスの発生源である有機物(有機繊維、樹脂結合剤、有機質の摩擦摩耗調整剤)の配合割合を減らして気孔率をアップした摩擦材は、有機繊維や樹脂結合剤の減少により強度が低下するといった課題があった。
【0006】
【本発明が解決しようとする課題】本発明は従来の課題を解決するもので、強度を低下させずに耐フェード性を向上した摩擦材を提供することを目的とする。」
(1-3)「【0009】繊維基材、摩擦摩耗調整剤、および結合剤は従来の摩擦材に使用されているものを使用できる。すなわち、繊維基材としては、鋼繊維等の金属繊維、石綿やガラス繊維等の無機繊維、アラミド繊維等の有機繊維が、使用できる。摩擦摩耗調整剤としては、ゴム、カシューダスト等の有機質、黒鉛、硫化モリブデン、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、シリカ、酸化マグネシウム、等の無機質、および銅、黄銅、亜鉛等の金属質を組み合わせたものが用いられる。
【0010】結合剤にはフェノール系樹脂やDAP樹脂等が用いらる。ライニングやパッドの作り方は従来のモールド法と同じである。すなわち、繊維基材、摩擦摩耗調整剤、および結合剤を配合した混合材料を常温で予備成形した後ホットプレスすることで、所定の形状の摩擦材が得られる。
【0011】
【作用】添加された繊維状タルクが繊維基材として機能して補強効果を発揮すると共に、摩擦摩耗調整剤としても機能して耐フェード性を維持する。」
(1-4)「【0012】
【実施例】本発明を自動車のブレーキパッドに具体化した実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。摩擦材の配合割合(重量%)は表1に示す通りであり、繊維状タルクの添加量を変えることによって3種類の実施例のブレーキパッドを製作した。
・・・・・・
【0013】本実施例では繊維基材として、アラミド繊維とチタン酸カリウム繊維を使用した。摩擦摩耗調整剤としては、グラファイト、酸化ジルコニウム、カシューダスト、および硫酸バリウムを使用した。結合剤としては、フェノール樹脂を使用した。
・・・・・・
【0015】
【表1】
」
(2)甲2
上記甲2には、次の事項が記載されている。
(2-1)「【請求項1】 基材繊維と、結合剤と、充填剤とからなる摩擦材において、前記充填剤の中に、平均粒子径が0.5~20μmの酸化ジルコニウムを前記摩擦材料総量に対して1~25重量%添加したことを特徴とする摩擦材。」(特許請求の範囲)
(2-2)「【0002】
【従来の技術】従来、自動車のドラムブレーキ、ディスクブレーキ等に使用されているブレーキライニングなどの摩擦材はブレーキドラム、ディスクロータの回転を止め、運動エネルギーを熱エネルギーに変えるために高温となる。したがって、耐熱性、耐摩耗性が要求されるとともに、摩擦係数の変化の少ない安定した摩擦特性が要求される。そこで、これらの各種の特性を満足するために、摩擦材は複合材料によって構成されている。即ち、摩擦材としては、ガラス繊維、アラミド繊維等の基材繊維、グラファイト、二硫化モリブデン等の充填剤、フェノール樹脂等の結合剤などを複合化した材料より構成されている。
【0003】また、充填剤は、前記グラファイト、二硫化モリブデン等の潤滑剤の他、有機ダスト、金属粉末、無機配合剤などが使用されている。
【0004】更に、摩擦材の摩擦係数を確保するために、添加剤としてアルミナ等のモース硬さが7以上のアブレッシブ剤を使用したり、モース硬さが5~8程度のアブレッシブ剤の添加量を多くし、或いは、粒子径の大きいものを使用することがある。
【0005】なお、他に前記摩擦材の摩擦係数を顕著に向上する充填剤として、酸化ジルコニウムがあり、例えば、特開昭57-109883号公報、特開昭62-20581号公報、特開平3-185030号公報には、それに関連する技術が開示されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】ところが、従来のアブレッシブ剤を用いたものは、所定の摩擦係数は確保できても相手材であるロータが鋳鉄等で形成されているために摩擦材中のアブレッシブ剤等によって研削され、その結果、使用寿命が短かくなるとともに、この相手材の偏摩耗によってブレーキ振動が発生する等の不具合があった。
【0007】そこで、本発明は、所要の摩擦係数を保持しつつ、相手材の摩耗量を低減できる摩擦材の提供を課題とするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明にかかる摩擦材は、基材繊維と、結合剤と、充填剤とからなる摩擦材において、前記充填剤の中に、平均粒子径が0.5~20μmの酸化ジルコニウムを摩擦材料総量に対して1~25重量%添加したものである。
【0009】
【作用】本発明においては、平均粒子径が0.5μm以上の酸化ジルコニウムを1重量%以上添加したことによって摩擦材の所要の材料強度、対摩耗性及び摩擦特性をを確保できる。しかも、その酸化ジルコニウムの平均粒子径を20μm以下とし、かつ、添加量を25重量%以下に限定しているので、相手材に対する研削力を緩和し、その摩耗量を低減できる。」
(2-3)「【0010】
【実施例】以下、本発明を自動車のブレーキパッドに具体化した実施例を説明する。
【0011】摩擦材の配合は図1に示した、本発明の実施例及び比較例における摩擦材の構成成分の配合比と、摩擦係数及び相手材の摩耗量の試験結果とを示す表図の通りであり、6種類の実施例及び3種類の比較例のブレーキパッドを製作した。
【0012】本実施例では基材繊維として、芳香族ポリアミド繊維、チタン酸カリウム繊維、スラグウールを使用した。前記芳香族ポリアミド繊維は芳香族を含むモノマーがアミド結合して高分子化したものであり、本実施例においては、代表的なポリアミド繊維であるケブラー繊維(デュポン社製)を使用した。
【0013】結合剤はフェノール樹脂系結合剤を使用した。
【0014】充填剤は、グラファイト、カシューダスト、銅粉、硫酸バリウム及び酸化ジルコニウムを用いた。
【0015】実施例及び比較例においては、ポリアミド繊維から銅粉までの成分の配合量は不変とし、酸化ジルコニウムの平均粒子径及び配合量を各種相違させた。実施例における酸化ジルコニウムは平均粒子径を1、2、6、8μmの4段階とし、それぞれ5重量%を配合し、更に、平均粒子径が2μmのものについては10及び15重量%配合のものを追加した。比較例における酸化ジルコニウムは平均粒子径を大きくして50μmとしたもの、及び、平均粒子径2μmについて配合量を0.5重量%、30重量%と上下限近辺の配合量としたものを作成した。
・・・・・・
【0023】これらの結果より、酸化ジルコニウムの平均粒子径が0.5μm以下、或いは、添加量が1重量%以下では摩擦係数μに対する効果を発揮できず、また、粒子径が20μmを越え、或いは、添加量が25重量%を越えると、相手材の摩耗が著しくなると考えられる。このため、酸化ジルコニウムは平均粒子径を0.5~20μmとし、かつ、その添加量を1~25重量%とした場合が良好であると判断される。」
(2-4)「【0027】
【発明の効果】以上のように、本発明の摩擦材は、基材繊維と、結合剤と、充填剤とからなる摩擦材において、前記充填剤の中に、平均粒子径が0.5~20μmの酸化ジルコニウムを摩擦材料総量に対して1~25重量%添加したものである。したがって、平均粒子径が0.5μm以上の酸化ジルコニウムを1重量%以上添加したことによって摩擦材の所要の材料強度、対摩耗性及び摩擦特性を確保できる。しかも、酸化ジルコニウムの平均粒子径を20μm以下とし、かつ、添加量を25重量%以下に限定しているので、相手材に対する研削力を緩和し、その摩耗量を低減できる。この結果、確実な制動力を発揮できるとともに、相手材の長寿命化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は本発明の実施例及び比較例における摩擦材の構成成分の配合比と、摩擦係数及び相手材の摩耗量の試験結果とを示す表図である。」及び「【図1】
」
(3)甲3
上記甲3には、次の事項が記載されている。
(3-1)「【請求項1】 繊維基材と、樹脂結合剤と、アブレッシブ剤等の充填剤とを含む摩擦材において、前記アブレッシブ剤として、平均粒子径が0.7~4.0μmであり、かつ、粒子径が平均粒子径の2倍を超える粒子を35重量%以下の割合で含む酸化ジルコニウムを摩擦材全体に対し0.5~5.0体積%の割合で含むことを特徴とする摩擦材。」(特許請求の範囲)
(3-2)「【0004】ここで、このアブレッシブ剤は、一般にモース硬さが5以上の硬度の高い無機質の微粉末からなり、その研磨または研削効果によって摩擦材の摩擦係数を高める作用を有している。ただし、それと同時にディスクロータ等の相手材を攻撃し、それを摩耗させる作用も有している。そのため、アブレッシブ剤は、主に、繊維基材としてアラミド繊維等を主材とする、所謂、非スチール系摩擦材の場合のように、繊維基材によって摩擦係数を確保し難い場合に使用されている。
【0005】具体的には、このようなアブレッシブ剤としては、シリカ、アルミナ、チタニア、ケイ酸ジルコニウム等の微粉末が一般に知られ、また用いられている。また、アブレッシブ剤としては、これらの他に酸化ジルコニウムも知られている。そして、この酸化ジルコニウムによれば、比較的硬度も高いため、これを摩擦材中に配合することによってその摩擦係数を大幅に向上し、十分な摩擦係数を確保することができる。なお、このアブレッシブ剤としての酸化ジルコニウムは、一般に、天然に産するバッデリ石(バデライト)を微粉末状に粉砕することによって得られる。」
(3-3)「【0007】
【発明が解決しようとする課題】このように、酸化ジルコニウムは、アブレッシブ剤として優れた摩擦係数の向上効果を有し、特に、非スチール系の摩擦材に配合することによって、その摩擦係数を良好に確保することができる。しかし、この酸化ジルコニウムは、同時に相手材攻撃性もその分高く、その摩耗量を増大させる傾向を有している。そして、相手材の摩耗が進行すると、偏摩耗となってノイズやブレーキジャダ等の異状振動の発生原因ともなり得る。ただし、この点については、前述の特開平5-247441号公報に開示の本出願人等の提案によれば、即ち、平均粒子径が0.5~20μmである比較的小さい粒子径の酸化ジルコニウムを使用すれば、良好なレベルの摩擦係数を維持しつつ、その摩耗量を低減することができる。
【0008】しかしながら、相手材の摩耗がより少ないほど好ましいことは言うまでもないことであり、また、特に最近では、自動車の高出力化、高速化等によって制動条件もますます苛酷になる傾向にあり、相手材の摩耗も摩擦材の摩擦特性として最重要な課題の一つとなってきている。そのため、摩擦係数の確保のアブレッシブ剤を配合した摩擦材においては、それに伴う相手材の摩耗をより少なく抑制することが、依然としてなお要望されていた。
【0009】そこで、本発明は、高い摩擦係数を確保すると共に、相手材の摩耗量をより少なく抑えることができる摩擦材の提供を課題とするものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】本発明者等は、摩擦材のアブレッシブ剤として配合される酸化ジルコニウムの粒子径と相手材の摩耗との関係について、更に試験と検討を重ねた結果、相手材の摩耗がそれの粒子径だけでなく、それの粒度分布、特に、大径側の(粒子径が大きい側の)粒度分布にも関係することを究明し、そして、酸化ジルコニウムとして、平均粒子径が小さく、しかも、特に大径側の(粒子径が大きい側の)粒度分布の幅を狭くしたものを、摩擦材全体に対し特定の配合割合で用いることによって、高い摩擦係数を確保することができると共に、相手材の摩耗を顕著により少なくすることができることを見い出し、また確認した。」
(3-4)「【0016】この酸化ジルコニウムの微粉末は、バッテリ石(バデライト)を湿式粉砕する方法によって製造することができる。具体的には、バッテリ石を一旦砂粒状に粉砕し、得られた粉砕物(バデライトサンド)を更にボールミルで湿式粉砕し、次いで乾燥する方法によって製造することができる。そして、このような方法において、その粉砕時間及びその他の製造条件を調整することによって、特に、その粉砕時間を長く採ることによって、上記のような平均粒子径及び粒度分布を有する酸化ジルコニウムを得ることができる。
【0017】ここで、その酸化ジルコニウムの粒子径は、相手材の摩耗を抑えるために、より小さいことが好ましく、試験結果からも、上記のように平均粒子径で4.0μmより小さいことが好ましい。ただし、平均粒子径が余り小さく、特に0.5μm未満ともなると、十分な摩擦係数を比較的少ない配合割合で確保することが困難となり、また一般に、平均粒子径を0.7μm未満とすることは、製造上困難を伴ない、合せてコストの増大を招く傾向にある。そのため、使用する酸化ジルコニウムの平均粒子径は実用上0.7μmを下限とする0.7~4.0μmが好ましい。また、より好ましいその平均粒子径は1.0~4.0μmである。なお、この平均粒子径は、レーザー解析によって求められる粒度分布に基づいて、大径側または小径側から累積した累積重量割合が50重量%となる粒子径である。
【0018】また、この酸化ジルコニウムの粒度分布は、相手材の摩耗をより抑えるために、特に大径側のその範囲が狭いことが好ましく、平均粒子径の2倍を超える粒子径の粒子の分量が35重量%以下であることが好ましい。即ち、平均粒子径の2倍を超える粒子径を有する粒子が全体において占める割合が35重量%以下であって、粒度分布の幅が大径側に狭い場合には、特に大径側の粒子の大きさが揃っているため相手材の研磨が極めて均一に、また滑らかに行われ、その結果、相手材の摩耗をごく微量に抑えることができる。その一方、平均粒子径の2倍を超える粒子が35重量%より多いと、相手材の研磨が若干不均一になり、相手材の摩耗の増大を十分に抑制することが困難となる傾向がある。またこの場合、平均粒子径が2.0~4.0μmであるときには、その平均粒子径に2.0μmを加えた粒子径を超える粒子径の粒子の分量が35重量%以下であることが、より好ましい。更に、上記のように、粗大な粒子は相手材の摩耗または損傷の原因となる可能性があるため、粒子径が10μm以上の粒子は、できるだけ含まれないことが好ましい。
【0019】なお、このような点からすれば、使用する酸化ジルコニウムとして最も好ましく、また理想的であるのは、0.7~4.0μmの平均粒子径を有する酸化ジルコニウムの微粉末において、その平均粒子径の2倍を超える粒子径の粒子を分級して取除き、より好ましくは更に、例えば、0.5μm未満の粒子径を同様に取除いて、粒度分布を限られた範囲とすることである。しかし、このように大径側(及び小径側)の特定の粒度の粒子を取除くことは、その製造コストを増大させることになる。したがって、実際上においては、酸化ジルコニウムとしては、上記の特定の平均粒子径と大径側の粒度分布とを有するものであれば、それを使用することができ、また、実用上十分であることが確認されている。ただし、粒子径が10μm以上の粒子が比較的多く含まれる場合には、それを取除くことが好ましい。」
(3-5)「【0028】
【実施例】以下、本発明を、実施例及び比較例により更に具体的に説明する。
【0029】図1は本発明の実施例の摩擦材の配合組成(体積%)と評価試験結果を示す表図である。また、図2は比較例の摩擦材の配合組成(体積%)と評価試験結果を示す表図である。
【0030】〔摩擦材(パッド)の作製〕 図1に示す配合組成(体積%)で、本発明の実施例1乃至実施例6の摩擦材を作製した。また、これらの実施例との対比のために、図2に示す配合組成(体積%)で、比較例1乃至比較例5の摩擦材も合わせて作製した。なお、これらの実施例及び比較例の摩擦材は、具体的には、自動車のディスクブレーキ用パッドとして具体化したものである。
・・・・・・
【0045】そして、これらの実施例及び比較例の摩擦材(ディスクブレーキパッド)の作製は、通常の熱成形による方法によって、具体的には次のように行った。即ち、各種の酸化ジルコニウムを種々の割合で含む上記の配合の摩擦材原料をブレンダで十分均一に混合し、次いで、この粉状混合物を予備成形金型に投入し、常温下、圧力200kg/cm2で1分間加圧して、パッドの形状の摩擦材の予備成形物を形成した。次いで、この摩擦材の予備成形物を、予め表面にフェノール樹脂系接着剤を塗布した裏金と共に熱成形金型にセットし、加圧圧力400kg/cm2、温度160℃で10分間熱成形した。そして、これを更に250℃で120分間熱処理して、裏金と一体になった摩擦材、即ち、ディスクブレーキパッドを得た。」
(3-6)「【0056】
・・・・・・
【図面の簡単な説明】
【図1】 図1は本発明の実施例の摩擦材(ディスクブレーキパット)の配合組成(体積%)と評価試験結果を示す表図である。」及び「【図1】
」
(4)甲4
上記甲4には、次の事項が記載されている。
(4-1)「【請求項1】
繊維基質、結合材、無機充填材及び有機充填材を含む摩擦材組成物において、前記有機充填材はカシューダストを含み、該カシューダストは、425μm以上の粒径が1質量%以下であり、且つ前記摩擦材組成物の個々の原料が、粘度平均分子量が40,000以下の液状イソプレンゴムで被覆され、
前記液状イソプレンゴムは、前記摩擦材組成物全体に対して0.5~20.0質量%であり、
前記カシューダストは、前記摩擦材組成物全体に対して10質量%以下である摩擦材組成物。」(特許請求の範囲)
(5)甲5
上記甲5には、次の事項が記載されている。
(5-1)「【請求項1】 層状鉱物粉末を含む摩擦材において、二硫化モリブデン粉末及び三硫化アンチモン粉末を合計で0.5~5体積%と、中心粒径0.1~100μmの黒鉛粉末0.1~8体積%とを含むことを特徴とする摩擦材。」(特許請求の範囲)
(5-2)「【0007】本発明では、上記の制約に加えてさらに中心粒径0.1~100μmの黒鉛粉末を用いる。黒鉛粉末の中心粒径が0.1μmより細かくなると耐磨耗性が悪化し、100μmより粗くなると低周波ノイズの抑制効果が得られない。また、黒鉛粉末の添加量は0.1~8体積%とする。少しでも含まれることにより耐磨耗性が向上し、8体積%を超えて添加すると低周波ノイズの抑制効果が得られず他の物性が低下する。」
(6)甲6
上記甲6には、次の事項が記載されている。
(6-1)「【請求項1】 摩擦調整剤として層状・板状8チタン酸カリウムを含有することを特徴とする摩擦材。
【請求項2】 層状・板状8チタン酸カリウムを3~50重量%含有する請求項1に記載の摩擦材。
【請求項3】 層状・板状8チタン酸カリウムが、長径10~500μm、短径(厚み)50~1000nmである請求項1または2に記載の摩擦材。」(特許請求の範囲)
(6-2)「【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】制動部材における摩擦材としては、これまでアスベストを有機系または無機系の結合剤に分散させ結着成形してなる摩擦材が使用されてきた。しかしながら、このものは耐熱性等の摩擦摩耗特性が不十分であるとともに、アスベストは発癌性等の環境衛生上の問題を有することから代替品の開発が強く要望されている。
【0003】斯かる要望に対し、チタン酸カリウム繊維を基材繊維または摩擦調整剤として用いた摩擦材が提案されている。チタン酸カリウム繊維はアスベストのような発癌性を持たず、耐熱性に優れ、フェード現象の防止や摩擦特性の熱安定性向上に有効であるという優れた特徴を有している。
【0004】しかしながら、チタン酸カリウム繊維を配合した摩擦材においても、制動装置の「鳴き」の問題の解決には十分対応できていないのが現状である。また、チタン酸カリウム繊維は繊維形状を有しているため嵩高く、流動性に劣り、製造時点において供給路の壁に付着して、これを閉塞させるといった問題点を有している。
【0005】本発明の目的は、上記従来の問題点を解消することにあり、摩擦摩耗特性に優れ、かつ生産性に優れた摩擦材を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明の摩擦材は、摩擦調整剤として層状・板状8チタン酸カリウムを含有することを特徴としている。」
(6-3)「【0023】本発明の摩擦材は、摩擦調整剤として層状・板状8チタン酸カリウムを含有することにより、以下のような作用効果を奏する。
1) 摩擦調整剤が平らな層状構造を有しているので安定した摩擦摩耗特性が得られる。
2) 摩擦調整剤のアスペクト比が大きいので摩擦材自体の強度の向上に資する。
3) 摩擦調整剤の流動性が高く、原料混合物の調整が容易である。
4) 吸入性粉塵の発生が極めて少なく、作業環境がクリーンに保てる。
5) 耐熱性が高く、低温~高温の広い温度領域で安定した摩擦係数が得られる。」
2.引用発明1及び2
甲1には、上記(1-1)より「繊維基材と、摩擦摩耗調整剤と、結合剤と、からなる摩擦材であって、繊維状タルクを含有することを特徴とする摩擦材」が記載されている。
また、甲1の上記(1-2)、(1-3)には、前記摩擦材に含まれる繊維基材として、金属繊維、無機繊維、アラミド繊維等の有機繊維が使用され、同様に、摩擦摩耗調整剤には、有機質(ゴム、カシューダスト等)、無機質(黒鉛、硫化モリブデン、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、シリカ、酸化マグネシウム等)及び金属質(銅、黄銅、亜鉛等)のものが使用され、結合剤には、フェノール系樹脂等が用いられ、そして、当該繊維基材、摩擦摩耗調整剤および結合剤を配合した混合材料を常温で予備成形した後ホットプレスすることで、所定の摩擦材が得られること、繊維状タルクが繊維基材として機能すること、さらに、甲1の上記(1-4)には、繊維基材として、アラミド繊維とチタン酸カリウム繊維を、摩擦摩耗調整剤として、グラファイト、酸化ジルコニウム、カシューダスト、および硫酸バリウムを、結合剤として、フェノール樹脂を、それぞれ使用すること、及び、表1には、実施例1~3として「アラミド繊維を8重量%、チタン酸カリ繊維を10重量%、繊維状タルクを3~20重量%、フェノール樹脂を12重量%、グラファイト8重量%、酸化ジルコニウムを4重量%、カシューダストを8重量%、硫酸バリウムを30~47重量%(各成分の合計は100重量%)」を含有する配合材料を成形してなる摩擦材が記載されている。
そうすると、甲1には、「繊維基材として、アラミド繊維を8重量%、チタン酸カリ繊維を10重量%、繊維状タルクを3~20重量%と、摩擦摩耗調整剤として、グラファイト8重量%、酸化ジルコニウムを4重量%、カシューダストを8重量%、硫酸バリウムを47~30重量%と、結合剤としてフェノール樹脂を12重量%(各成分の合計は100重量%)とを含有する配合材料」の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
また、甲1には、「引用発明1の配合材料を成形してなる摩擦材」の発明(以下、「引用発明2」という。)も記載されていると認められる。
第5 対比・判断
1.本件発明1について
本件発明1と引用発明1とを対比すると、引用発明1の「繊維基材として、アラミド繊維、チタン酸カリ繊維、繊維状タルク」は、本件発明1の「繊維基材」に相当し、引用発明1の「摩擦摩耗調整剤として、グラファイト、酸化ジルコニウム、カシューダスト、硫酸バリウム」は、本件明細書【0017】の「有機充填剤」及び【0020】の「無機充填剤」の箇所に、「摩擦調整材」として記載されていることもあり、本件発明1の「有機充填剤、無機充填剤」に相当するといえ、引用発明1の「結合剤としてフェノール樹脂」は、本件発明1の「結合材」に相当する。
また、引用発明1の「摩擦摩耗調整剤」である「カシューダスト」は、甲1の上記(1-2)および(1-3)より有機質であることが明らかであるから、本件発明1の「上記有機充填材としてカシューダスト」に相当するといえ、当該「カシューダスト」の含有量について、引用発明1は、「8重量%」であり、本件発明1は「2~8質量%」であることから、「8重量%」で一致しているといえる。
また、引用発明1の「摩擦摩耗調整剤」である「酸化ジルコニウム」は、酸化ジルコニウムが無機質であることが技術常識に照らして当業者にとって明らかであるから、本件発明1の「上記無機充填材として」「酸化ジルコニウム」に相当するといえ、当該「酸化ジルコニウム」の含有量について、引用発明1は「4重量%」であり、本件発明1は「3~20質量%」であることから、「4重量%」で一致しているといえる。
また、引用発明1の「配合材料」は、引用発明2のとおり成形して摩擦材となるものであることから、本件発明1の「摩擦材組成物」に相当する。
さらに、引用発明1の「配合材料」は、具体的に示した各成分の合計が100重量%であることから、他の成分を含まないものと認められ、少なくとも「銅」は存在しないか、いずれかの成分に不純物として含まれる程度の含有量と認められるから、引用発明1の「配合材料」は、本件発明1の「上記摩擦材組成物中の銅の含有量が銅元素として5質量%以下」にも相当する。
そうすると、両者は、「結合材、有機充填材、無機充填材、及び繊維基材を含有する摩擦材組成物であり、上記摩擦材組成物中の銅の含有量が銅元素として5質量%以下であり、上記無機充填材として酸化ジルコニウムを4質量%含有し、上記有機充填材としてカシューダストを8質量%含有する摩擦材組成物。」である点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点1>無機充填剤としての酸化ジルコニウムについて、本件発明1は、平均粒子径(D50)が0.1~4μmであることを特定しているのに対して、引用発明1には、平均粒子径について特定がない点。
<相違点2>無機充填剤としての酸化ジルコニウムを実質的に含有しない粒子径について、本件発明1は、30μm以上と特定しているのに対して、引用発明1には、実質的に含有しない粒子径について特定がない点。
上記相違点1及び2については、併せて検討する。
甲2の上記(2-1)~(2-4)には、「基材繊維と、結合剤と、充填剤とからなる摩擦材において、前記充填剤の中に、平均粒子径が0.5~20μmの酸化ジルコニウムを前記摩擦材料総量に対して1~25重量%添加したことを特徴とする摩擦材」(特許請求の範囲の請求項1)であること、「所要の摩擦係数を保持しつつ、相手材の摩擦量を低減できる摩擦材の提供」(【0007】)することが課題であると記載されている。
また、甲2の平均粒子径が0.5~20μmの酸化ジルコニウムには、「摩擦材の所要の材料強度、対摩耗性及び摩擦特性を確保」でき、「相手材に対する研削力を緩和し、その摩耗量を低減できる」(【0009】)という効果を奏することが記載されている。
また、甲3の上記(3-1)には、「繊維基材と、樹脂結合剤と、アブレッシブ剤等の充填剤とを含む摩擦材において、前記アブレッシブ剤として、平均粒子径が0.7~4.0μmであり、かつ、粒子径が平均粒子径の2倍を超える粒子を35重量%以下の割合で含む酸化ジルコニウムを摩擦材全体に対し0.5~5.0体積%の割合で含むことを特徴とする摩擦材」(特許請求の範囲の請求項1)が記載され、上記(3-3)には、「高い摩擦係数を確保すると共に、相手材の摩耗量をより少なく抑えることができる摩擦材の提供を課題とする」(【0009】)こと、その解決手段として、「酸化ジルコニウムの粒子径と相手材の摩耗との関係について、更に試験と検討を重ねた結果、相手材の摩耗がそれの粒子径だけでなく、それの粒度分布、特に、大径側の(粒子径が大きい側の)粒度分布にも関係することを究明し、そして、酸化ジルコニウムとして、平均粒子径が小さく、しかも、特に大径側の(粒子径が大きい側の)粒度分布の幅を狭くしたものを、摩擦材全体に対し特定の配合割合で用いることによって、高い摩擦係数を確保することができると共に、相手材の摩耗を顕著により少なくすることができることを見い出し、また確認した」(【0010】)ことが、記載されている。
また、甲3の上記(3-4)には、「使用する酸化ジルコニウムの平均粒子径は実用上0.7μmを下限とする0.7~4.0μmが好ましい」(【0017】)こと、「この平均粒子径は、レーザー解析によって求められる粒度分布に基づいて、大径側または小径側から累積した累積重量割合が50重量%となる粒子径である」(【0017】)こと、「酸化ジルコニウムの粒度分布は、相手材の摩耗をより抑えるために、特に大径側のその範囲が狭いことが好ましく、平均粒子径の2倍を超える粒子径の粒子の分量が35重量%以下であることが好ましい」(【0018】)こと、「粒度分布の幅が大径側に狭い場合には、特に大径側の粒子の大きさが揃っているため相手材の研磨が極めて均一に、また滑らかに行われ、その結果、相手材の摩耗をごく微量に抑えることができる。その一方、平均粒子径の2倍を超える粒子が35重量%より多いと、相手材の研磨が若干不均一になり、相手材の摩耗の増大を十分に抑制することが困難となる傾向がある」(【0018】)こと、「使用する酸化ジルコニウムとして最も好ましく、また理想的であるのは、0.7~4.0μmの平均粒子径を有する酸化ジルコニウムの微粉末において、その平均粒子径の2倍を超える粒子径の粒子を分級して取除き、より好ましくは更に、例えば、0.5μm未満の粒子径を同様に取除いて、粒度分布を限られた範囲とすることである。しかし、このように大径側(及び小径側)の特定の粒度の粒子を取除くことは、その製造コストを増大させることになる。したがって、実際上においては、酸化ジルコニウムとしては、上記の特定の平均粒子径と大径側の粒度分布とを有するものであれば、それを使用することができ、また、実用上十分であることが確認されている。ただし、粒子径が10μm以上の粒子が比較的多く含まれる場合には、それを取除くことが好ましい」(【0019】)ことが、それぞれ記載されている。
そして、上記で指摘した甲2及び甲3の記載に基づくと、「酸化ジルコニウム」は、高い摩擦係数を有することが知られている一方で、相手材の摩耗量の抑制という課題が存在していること、当該課題を解決するために、甲2では、酸化ジルコニウムの平均粒子径を0.5~20μm及び添加量を摩擦材総量に対して1~25重量%の範囲にすること、甲3では、酸化ジルコニウムの平均粒子径を0.7~4.0μm及び粒子径が平均粒子径の2倍を超える粒子を35重量%以下の割合で含むこと並びに添加量を摩擦材全体に対して0.5~5体積%の範囲にすることがそれぞれ記載されている。
確かに、甲2、甲3には、高い摩擦係数を確保すると共に、相手材の摩耗量をより抑制するために添加する酸化ジルコニウムの平均粒子径(なお、甲2の平均粒子径が本件発明1の平均粒子径(D50)と同じであるかは不明。)及び添加量は、本件発明1と重複する範囲であるし、加えて、甲3には、平均粒子径の2倍をこえる粒子の全体割合を35重量%以下にすることまでは記載されている。
しかしながら、甲2及び甲3の課題は、上記のとおり、高い摩擦係数を確保すると共に、酸化ジルコニウムの課題であった相手材の摩耗量の抑制である。それに対して、引用発明1の課題は、上記(1-2)に記載されているように、摩擦材の強度を低下させずに耐フェード性を向上させることであり、引用発明1と甲2及び甲3に記載された事項とは、互いに技術的課題が相違していることから、これらの発明及び文献を組み合わせる動機付けを見いだすことができない。
また、摩擦材の技術分野において、摩擦材に要求される性能として甲1の上記(1-2)の従来例に記載されているように、「ブレーキの効き」、「耐フェード性」、「耐摩耗性」、「耐鳴き性」、「高剪断強度」等多数のものが当業者に周知であることから、「耐摩耗性」に関する甲2及び甲3に記載の課題は当業者に自明の課題といえる場合であっても、引用発明1は、酸化ジルコニウム以外にも種々の摩擦摩耗調整剤を含有しており、甲1には、当該種々の摩擦摩耗調整剤の平均粒子径を考慮することが何ら記載されていないし、示唆もない以上、酸化ジルコニウムの平均粒子径やその含有量等を考慮することで、高い摩擦係数を確保すると共に、相手材の摩耗量を抑制できることが甲2及び甲3に記載されていたとしても、引用発明1に、甲2及び甲3に記載された事項を組み合わせる合理的な理由があるとは認められない。
そうすると、引用発明1において、甲2及び甲3に記載された事項を組み合わせる合理的な動機付けがなく、上記相違点1及び2は、実質的な相違点となるものであるから、当業者が容易に想到し得るものではない。
そして、本件発明1の実施例である、酸化ジルコニウムの平均粒子径(D50)が1.4μm~2.9μmの範囲であり、粒子径が30μm以上のものを実質的に含有しない実施例1~6と、平均粒子径が4μmより大きく、粒子径が30μm以上のものを実質的に含有する比較例2とを比較すると、低温(-5℃)時の鳴き発生率(%)について、実施例1~6は「4~10%」であるのに対し、比較例2は「20%」であり、また、効き特性における摩擦係数の変化率(%)である低温時効力(-5℃)と第2効力(通常制動時)の比について、実施例1~6は「107~115%」であるのに対し、比較例2は「130%」であることがそれぞれ示されている(本件明細書の【0054】の【表1】及び【0055】の【表2】参照)から、本件発明1は、低温(-5℃)時の鳴き発生率及び低温時からの摩擦係数安定性が優れるという、甲1~甲3に記載されていない異質の効果を奏すると認められる。
これに対して、特許異議申立人は、上記の相違点1及び2について、酸化ジルコニウムの平均粒子径等を特定したことについて格別の技術的意義が認められないから、甲1及び甲2~3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明できたものと主張する。
しかしながら、上記のとおり、甲1に記載された事項(引用発明1)と甲2~3に記載された事項は、それぞれを組み合わせる動機付けがなく、また、本件発明1は、甲1~甲3に記載されていない異質の効果を奏するものであるから、特許異議申立人の主張は採用できない。
よって、本件発明1は、引用発明1及び甲2~甲3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものとはいえない。
2.本件発明2~8について
本件発明2~8は、本件発明1を引用し、更に、有機充填剤、無機充填剤を特定するものである。
しかしながら、本件発明2~8は、本件発明1を直接引用していることから、上記「第5 1.」で検討したとおり、本件発明1と同じ相違点1及び2を有し、当該相違点1及び2は、実質的な相違点であることが示されている。
したがって、本件発明2~8は、甲4~6に記載された事項について検討するまでもなく、本件発明1と同様に、引用発明1及び甲2~甲6に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものとはいえない。
3.本件発明9~10について
(1)本件発明9と引用発明2との対比・判断
引用発明2の「配合材料」は、本件発明9の「摩擦材組成物」に相当し、引用発明2の「成形してなる摩擦材」は、本件発明9の「成形してなる摩擦材」に相当する。
また、引用発明2の「配合材料」は、引用発明1を、本件発明9の「摩擦材組成物」は、本件発明1をそれぞれ引用している。
そこで、本件発明9と引用発明2とを対比すると、両者は、「摩擦材組成物を成形してなる摩擦材」である点で一致し、「摩擦材組成物」に関する以下の点で相違している。
<相違点3>無機充填剤としての酸化ジルコニウムについて、本件発明9は、平均粒子径(D50)が0.1~4μmであることを特定しているのに対して、引用発明2には、平均粒子径について特定がない点。
<相違点4>無機充填剤としての酸化ジルコニウムを実質的に含有しない粒子径について、本件発明9は、30μm以上と特定しているのに対して、引用発明2には、実質的に含有しない粒子径について特定がない点。
そこで、相違点3及び4について検討すると、当該相違点3及び4は、上記「第5 1.」で既に検討した相違点1及び2と同じであるから、本件発明9は、本件発明1と同様に、引用発明1及び甲2~甲6に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものとはいえない。
(2)本件発明10について
引用発明2の「配合材料」は、本件発明10の「摩擦材組成物」に相当し、引用発明2の「成形してなる摩擦材」は、本件発明10の「成形してなる摩擦材」に相当する。
また、引用発明2の「配合材料」は、引用発明1を、本件発明9の「摩擦材組成物」は、本件発明1をそれぞれ引用している。
そこで、本件発明9と引用発明2とを対比すると、両者は、「摩擦材組成物を成形してなる摩擦材」である点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点5>無機充填剤としての酸化ジルコニウムについて、本件発明9は、平均粒子径(D50)が0.1~4μmであることを特定しているのに対して、引用発明2には、平均粒子径について特定がない点。
<相違点6>無機充填剤としての酸化ジルコニウムを実質的に含有しない粒子径について、本件発明9は、30μm以上と特定しているのに対して、引用発明2には、実質的に含有しない粒子径について特定がない点。
<相違点7>本件発明10は、さらに、摩擦材と裏金とを用いて形成される摩擦部材としているのに対して、引用発明2には、摩擦材と裏金とを用いて形成される摩擦部材について特定がない点。
事案に鑑み、相違点5及び6について検討すると、当該相違点5及び6は、上記「第5 1.」で既に検討した相違点1及び2と同じであり、当該相違点1及び2は、実質的な相違点であることが示されているから、相違点7について検討するまでもなく、本件発明10は、本件発明1と同様に、引用発明1及び甲2~甲6に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものとはいえない。
第6 結び
上記のとおり、本件発明1~10は、甲1及び甲2~6に記載された事項により当業者が容易に発明できたものではないから、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許1~10を取り消すことはできない。
また、他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2018-700116