商標取消審判
2018-300215
ヌードネールグラスネールシャイナー、ヌードネールガラスネールシャイナー、ヌードネール、ヌード、グラスネールシャイナー、ガラスネールシャイナー
- 審判番号
- 2018-300215
- 法域
- 商標
- 審判種別
- 取消審判(商標取消の審決)
- 出願番号
- 商願2016-096893外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 5911020
- 請求日
- 2018年04月12日
- 審決日
- 2019年10月15日
- 公報発行日
- 2023年03月31日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【請求人】ダインス カンパニー リミテッド
- 【請求人代理人】伊東 忠重
- 【被請求人】株式会社 ビーアンドオー研究所
- 【被請求人代理人】特許業務法人 大島特許事務所
- 分類
- T131 .6 -Z (W08)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 商標法53条の2
- 識別力・商標の種類(本文から自動判定・参考)
- 図形・ロゴ等(別掲)
- 論点(本文から自動抽出・参考)
- 不正の目的濃い色は判断部分で検討された論点、薄い色は本文中で触れているもの
- 引用商標(本文から自動抽出・参考)
- 商願2016-136383J-PlatPat(図形等・別掲)
- 引用商標「NUDE NAIL」「glass nail shiner」第8類
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 商標法第53条の2
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
上記当事者間の登録第5911020号商標の登録取消審判事件について,次のとおり審決する。
結論
結 論
登録第5911020号商標の商標登録を取り消す。
審判費用は,被請求人の負担とする。
理由
理 由
第1 本件商標
本件登録第5911020号商標(以下「本件商標」という。)は,別掲1のとおりの構成よりなり,平成28年9月5日に登録出願,第8類「つめ磨き(電動式のもの又は電動式でないもの),つめ磨き器(電動式のもの又は電動式でないもの),つめやすり,つめ切り,電気かみそり及び電気バリカン,手動利器(「刀剣」を除く。),つめ用ピンセット,つめ用紙やすり」を指定商品として,同29年1月6日に設定登録され,現に有効に存続しているものである。
第2 請求人の主張
請求人は,結論同旨の審決を求めると申し立て,その理由を要旨次のように述べ,証拠方法として甲第1号証ないし甲第16号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 本件商標がパリ条約の同盟国,世界貿易機関の加盟国若しくは商標法条約の締結国において商標に関する権利(商標権に相当する権利に限る。)を有する者であるか否かについて
請求人は,パリ条約の同盟国である大韓民国において,別掲2のとおり,「NUDE NAIL」及び「glass nail shiner」の文字を上下二段に表してなる登録第40-1191964号商標を有している(以下「引用商標」という。)。
引用商標は,第8類「爪磨き器,非電気式磨き器,つめやすり,非電気式つめやすり」を指定商品として,2015年(平成27年)8月28日に商標登録出願,2016年(平成28年)7月22日に商標登録され,現に有効に存続しているものである(甲2,甲3)。
したがって,請求人は,パリ条約の同盟国において商標に関する権利を有する者に該当する。
2 商標及び指定商品の同一又は類似について
本件商標と引用商標とは,いずれも「NUDE NAIL」及び「glass nail shiner」の文字を上下二段に表してなり,その書体もほぼ同一である。すなわち,本件商標は,引用商標をほぼそのまま日本に登録出願したものである。
そして,本件商標の指定商品及び引用商標の指定商品は,それぞれ上記第1及び上記第2の1のとおりであるから,両者は,その指定商品において,互いに同一又は類似の商品を含むことが明らかである。
したがって,本件商標は,パリ条約の同盟国等において商標に関する権利を有する者の当該権利に係る商標と同一商標であって,当該権利に係る商品又はこれに類似する商品を指定商品とするものである。
3 本件商標の登録出願が,正当な理由がないのに,請求人の承諾を得ないで本件商標の登録出願の日前1年以内に代理人若しくは代表者であった者と同等の地位にあった者によってされたものであるか否かについて
(1)請求人商品について
請求人は,2014年(平成26年)4月に設立された大韓民国に所在する法人である。請求人は,2015年(平成27年)11月より,韓国において,引用商標を使用した商品「つめやすり」(以下「請求人商品」という。)の販売を開始した。請求人商品は,強化ガラス製であり,従来の金属製又は紙製のつめやすりと比べて耐久性がある上,使用後の水洗い可能であるため清潔に保つことができる。また,磨くだけでまるで透明のマニキュアを塗ったような光沢を得ることができるため,マニキュアを使用できない妊婦,看護師,料理人なども使用可能である。
請求人商品は,その高い機能性と品質が多くの女性に支持され,順調に売り上げを伸ばしていった。請求人は,2016年(平成28年)4月には,韓国第3位の薬局チェーンである「メディファーム」においても,請求人商品の販売を開始した(甲4)。
また,2016年(平成28年)4月には,請求人商品は「CKA認証」(中国商務省傘下の国際貿易経済合作研究院が中国内の韓国製品の不法流通を根絶するために,優れた韓国製品に認証を与える制度)を獲得し,中国への1000万ドル分の輸出契約に成功した(甲5)。
さらに,請求人商品は,韓国中小企業振興公団が毎年認定する「ヒット500事業」に認定された(甲6)。
(2)請求人と被請求人の関係について
ア 請求人商品の取引
請求人は,少なくとも2016年(平成28年)5月から2017年(平成29年)3月まで,韓国の貿易会社である白岩物産株式会社(BAEK AM C&C CO.,LTD.)(以下「白岩物産」という。)を通じて,被請求人に対し,引用商標を付した爪磨き器を販売した(甲7の1~12,甲8の1~3)。
本件商標の登録出願日よりも前である2016年(平成28年)5月18日から同年8月16日までの約3か月間だけで,請求人商品について5回の取引を行い,取引総額は1261万円に上る。商品の単価が380円と廉価であることを考えれば,この販売金額は決して少ないものではない。これは,単なる得意先又は顧客の範囲を超えた取引高であるといえる。
請求人が被請求人による本件商標の登録出願の事実を知ったのは2017年(平成29年)2月末であるため,それまで被請求人との取引は継続された。
なお,請求人商品に関する「外貨獲得用原料・基材購買確認書」(甲8の1~3)は,韓国外に物品を輸出する際に必要な通関書類の一つであって,白岩物産が被請求人に販売した請求人商品が,請求人から白岩物産に販売されたものであることを示すものである。
イ 引用商標の通常使用権許諾契約の提示
請求人は,2016年(平成28年)3月に被請求人との間で請求人商品の取引を開始する際には,日本において「NUDE NAIL」及び「glass nail shiner」の文字からなる商標(以下「NUDE NAIL商標」という。)を登録出願していなかった。なぜなら,韓国の企業であって請求人商品の韓国における総販売代理店であった株式会社エスタッチ(STOUCH Co.,Ltd.)(以下「エスタッチ社」という。)が,2015年(平成27年)12月3日付で,すでに,NUDE NAIL商標について商標登録出願(商願2015-119036(以下「エスタッチ社商標」という。))をしていたからである(甲9)。請求人とエスタッチ社との間では,NUDE NAIL商標の登録後は,両者の共有名義に変更する旨合意がなされていた(甲10)。
請求人は,被請求人に対して,エスタッチ社商標が登録となった後,NUDE NAIL商標について日本国内における通常使用権を許諾することとした。
被請求人は,通常使用権の許諾契約書を取り交わすことを所望し,白岩物産に許諾契約書の草案の作成を要請したが,その内容は,NUDE NAIL商標の日本における独占的通常使用権を要求するものであった(第5条)(甲11,甲12)。
2016年(平成28年)7月1日及び同月5日,請求人は,白岩物産を通じて,被請求人に対し,独占的通常使用権を付与することは困難である旨,及び,独占的通常使用権の付与については別途協議が必要である旨連絡した(甲13,甲14)。その後,被請求人は,協議には一切応じていない。
(3)小括
このように,本件商標の登録出願日よりも前である2016年(平成28年)5月18日から同年8月16日にかけて,請求人と被請求人の間には,請求人商品についての取引が継続して行われており,また,その取引高も単なる得意先又は顧客の範囲を超えた取引高であるといえるものである。
そうすると,請求人と被請求人との間には,継続的な取引により慣行上の信頼関係が形成され,被請求人は,請求人の請求人商品の販売体系に組み込まれるような立場にあった者とみることができる。
したがって,被請求人は,商標法第53条の2にいう「当該商標登録出願の日前1年以内に代理人若しくは代表者であった者」に該当する。
(4)正当な理由の有無について
エスタッチ社商標は,日本において,エスタッチ社によって2015年(平成27年)12月3日付で登録出願されていた(商願2015-119036)。
しかしながら,エスタッチ社商標について2016年(平成28年)3月24日に登録査定された時には,エスタッチ社は倒産しており,登録料の納付がなされないまま,2016年(平成28年)8月24日に出願却下処分となった。
被請求人は,2016年(平成28年)7月5日付の白岩物産からの連絡により,エスタッチ社商標が登録に至らなかったこと,及び請求人がNUDE NAIL商標について日本で再度登録出願することを知っていた(甲14)。
その後,2016年(平成28年)9月5日,被請求人は本件商標を登録出願した。請求人は,被請求人による本件商標の登録出願及び登録について,何ら承諾を与えていない。また,被請求人は,請求人が引用商標を自ら再登録出願することを知らされているのであるから,請求人が被請求人に対し,請求人が日本においてNUDE NAIL商標の権利の取得を放棄又は取得する関心がないことを信じさせたということはない。
請求人は,エスタッチ社との契約関係(NUDE NAIL商標の共同所有に関する合意も含む)を整理した後に,日本においてNUDE NAIL商標を登録出願する予定であった。しかしながら,エスタッチ社との金銭問題の整理,及び契約解除を通知するのに時間がかかったため,請求人は,これらの処理が終わった2016年(平成28年)12月2日まで,NUDE NAIL商標を登録出願することができなかった。
被請求人は,2016年(平成28年)7月15日を請求人の「出願予告日」と一方的にとらえ,「相当な期間がすぎても請求人による商標登録出願を確認できなかったため,請求人には日本での商標登録出願の意思がないと判断し,」同年9月6日に本件商標を登録出願したのである。相当な期間がすぎても請求人による商標登録出願を確認できないのであれば,まずは請求人ないしは白岩物産に連絡し,請求人の商標登録出願の予定は具体的にどうなっているのか,状況を確認するのが当然である。被請求人が答弁するように,「被請求人は,被請求人の顧客による請求人商品の日本での販売に際し,エスタッチ社商標等の商標に関する問題を生じさせないようにする必要があった」というならなおさらである。しかしながら,請求人も白岩物産も,被請求人よりNUDE NAIL商標の登録出願予定について一度たりとも問い合わせを受けたことはない。
また,被請求人は「本件契約書案に関する請求人との協議についても全く進展がなかった」と主張しているが,2016年(平成28年)7月1日及び同月5日,請求人は,白岩物産を通じて,被請求人に対し,独占的通常使用権を付与することは困難である旨,及び,独占的通常使用権の付与については別途協議が必要である旨連絡した(甲13,甲14)。これに対し,被請求人は何ら返答をしていない。よって,本件契約書案に関する協議が進展しなかった原因は被請求人側にある。
加えて,被請求人は,「被請求人は,請求人商品の日本での販売において商標に関する問題が生じることを回避するために本件商標を取得したものである。」と答弁しているが,請求人は,少なくともNUDE NAIL商標の通常使用権の許諾については速やかに応じており,正当な理由の根拠にはなり得ない。確かに,エスタッチ社商標が却下処分となった時点で,第三者に同一商標を取得されるリスクは発生したが,被請求人がNUDE NAIL商標の登録出願予定について請求人ないしは白岩物産に一度も問い合わせを行わずに自ら本件商標を登録出願し,登録後も請求人への名義変更の要請を拒否するだけで一切の協議に応じていないことをみれば,本件商標の登録出願が本当に「請求人商品の日本での販売において商標に関する問題が生じることを回避するため」であったのかどうかも疑わしい。むしろ,上述のとおり,被請求人がNUDE NAIL商標の独占的通常使用権を確保し,ひいては請求人商品の日本における販売を独占するために,エスタッチ社商標が登録に至らなかったことを奇貨として,本件商標を剽窃的に登録出願したとみるのが自然である。
そして,請求人と被請求人との取引関係が非独占的なものであるとしても,そのことは他人の所有にかかる商標を無断で登録出願し及び登録することを何ら正当化するものではない。
よって,本件商標は,「正当な理由がないのに,その商標に関する権利を有する者の承諾を得ないで」登録出願されたものである。
(5)まとめ
以上のとおりであるから,本件商標の登録出願は,正当な理由がないのに,請求人の承諾を得ないで本件商標の登録出願の日前1年以内に代理人若しくは代表者であった者と同等の地位にあった商標権者によってされたものである。
4 その他
請求人は,被請求人による本件商標の登録出願の事実を知らず,2016年(平成28年)12月2日付で引用商標を登録出願したが(商願2016-136383),当該登録出願は本件商標を引例として拒絶理由通知を受けている(甲15)。
請求人は,白岩物産を通じて,本件商標の登録出願に対し抗議するとともに,その名義を請求人に依頼するよう重ねて申し入れたが(甲16),被請求人より誠意ある回答は得られなかった。
5 結論
以上のとおり,本件商標は,登録商標がパリ条約の同盟国において商標に関する権利を有する者の当該権利に係る商標又はこれに類似する商標であって,当該権利に係る商品又はこれに類似する商品を指定商品とするものであり,かつ,正当な理由もないのに当該権利を有する者の承諾を得ないで,当該商標登録出願の日前1年以内にその代理人若しくは代表者であった者によって,登録出願されたものである。
したがって,本件商標の登録は,商標法第53条の2に規定する要件をすべて満たしているものと認められ,該規定により,取り消すべきものである。
第3 被請求人の主張
被請求人は,「本件審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求めると答弁し,その理由を要旨次のように述べ,証拠方法として,乙第1号証ないし乙第5号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 被請求人が「代理人若しくは代表者」でなかったことについて
(1)請求人と被請求人の取引
被請求人は,白岩物産より,請求人商品の紹介を受け,2016年(平成28年)の5月から本件商標の登録出願日(2016年(平成28年)9月5日)までの間に,白岩物産に対して請求人商品を数回発注した経緯がある。
しかしながら,本件商標の登録出願日以前における請求人商品の取引期間は約3か月間と短く,また,被請求人には請求人の代理店,特約店,総代理店等のような立場も認められていなかったため,本件商標の登録出願時において,被請求人と請求人と間には,単なる得意先又は顧客を超えるような取引上格別の信頼関係は形成されていなかった。
一般に,海外で製造された商品を国内で販売する場合には,国内で製造される商品と比べて輸送等のコストが増大するため,商品単価に対する輸送等のコストの影響を抑えるために,一時的な取引であっても商品の取引量を増大させる必要があることはよく知られており,しかも,請求人が「本件商標の登録出願日よりも前である2016年(平成28年)5月18日から同年8月16日までの約3か月間だけで,請求人商品について5回の取引を行い」と主張する当該取引の大半は,2016年(平成28年)5月6日付けの被請求人から白岩物産宛ての初回の注文書(乙3)による2万個(枚)に相当するものである。
したがって,請求人は,被請求人による請求人商品の取引について,「これは,単なる得意先又は顧客を超えた取引高である」と主張するが,この請求人の主張には全く根拠がない。
さらに,例え請求人と白岩物産との関係が単なる得意先又は顧客を超えた関係であったと認められるとしても,被請求人と白岩物産とは,経済上又は組織上において一体とみなせるような特別な関係を有していなかった。
(2)請求人と被請求人の通常使用権契約
被請求人は,被請求人の顧客(小売業者)に対して請求人商品を紹介したところ,その反応が比較的良好であったことから,上述のとおり2016年(平成28年)の5月に白岩物産を介して請求人商品の発注を開始し,その一方で,請求人商品の日本での販売を本格的に開始するためには,請求人商品について請求人の代理店,特約店,総代理店等のような立場を確保することが重要であると考えた。
しかしながら,日本では「請求人商品の韓国における総代理店であった」と請求人が主張するエスタッチ社により,エスタッチ社商標が既に登録出願(登録出願日:2015年(平成27年)12月3日)されていた。
そこで,被請求人は,エスタッチ社商標の日本における安定的な使用を確保するために,白岩物産の勧めによりエスタッチ社商標の使用に関する契約書案(以下「本件契約書案」という。)を作成し,これを,2016年(平成28年)6月10日に白岩物産を介して請求人に対して送付した(甲11,甲12)。本件契約書案では,被請求人は,請求人も主張するように,日本におけるエスタッチ社商標の独占的な使用を求めていた。
これに対し,請求人は,被請求人にエスタッチ社商標の独占的な使用を認めることについて拒否し(甲13),その後,請求人と被請求人との間で本件契約書案の内容について合意に到ることはなかった。
本件契約書案について,請求人が被請求人によるエスタッチ社商標の独占的な使用を認めなかった理由は明らかではないが,例えば,被請求人から白岩物産に宛てた2016年(平成28年)11月21日付けの2通の電子メール(乙4の1~2)に示されているように,日本において請求人商品が被請求人以外によっても販売されていたことから,請求人には,エスタッチ社商標について被請求人以外の他の使用者を確保する意思があったものと認められる。
なお,当該電子メール(乙4の2)において,被請求人の担当者が,「せめて理美容室のみでとどめていただかないとこれまで弊社がやってきたことが水の泡となります。」と記載していることからも,当該電子メールが送信された時点においても,依然として被請求人には請求人の代理店等のような立場が認められていなかったことは明らかである。
また,直近の2018年(平成30年)7月の時点においても,楽天市場(https://www.rakuten.co.jp/)及びAmazon.co.JP(https://www.amazon.co.jp/)等の大手ECサイトにおいて,請求人商品が被請求人とは異なる複数の販売者によって日本で販売されている事実があり(乙5の1~8),被請求人はその対応に苦慮している。
(3)小括
このように,被請求人は,本件商標の登録出願日(2016年(平成28年)9月5日)前の約3か月間において白岩物産を介して請求人と請求人商品の数回の取引を行った事実は存在するものの,上述のとおり本件契約書案は請求人との合意に到らなかったため,請求人商品の取引において請求人との間に何らかの継続的な契約関係もなく,また,請求人から被請求人に代理権が授与された事実もない。
また,そのような約3か月間の短い取引において,請求人と被請求人との間に取引上格別の信頼関係は形成されておらず,被請求人は,請求人とは単なる顧客の関係にあったにすぎない。
したがって,被請求人は,商標法第53条の2に規定する「代理人」には相当しない。
なお,被請求人が商標法第53条の2に規定する「代表者」に相当しないことは明らかである。
2 本件商標の登録出願に関する「正当な理由」の存在について
(1)本件商標の登録出願までの経緯について
2016年(平成28年)7月5日付けの白岩物産から被請求人に送られた電子メールには,「ダインズは7月15日以前に日本商標権を出願する予定です。(すでにS-TOUCHの商標出願は無効なりました。)」との文言が存在する(甲14)。そして,その文言によれば,請求人が遅くとも2016年(平成28年)7月15日(以下「請求人出願予告日」)までに商標登録出願を行う意思があったことを推測できる。
しかしながら,被請求人は,請求人による日本での商標登録出願の事実を,通常想定される公開予定時期(請求人登録出願予告日から2~3週間程度)をすぎても確認できず,また,上述の本件契約書案に関する請求人との協議についても全く進展がなかった。
一方,被請求人は,被請求人の顧客による請求人商品の日本での販売に際し,エスタッチ社商標等の商標に関する問題を生じさせないようにする必要があった。
そして,被請求人は,請求人出願予告日から相当な期間がすぎても請求人による商標登録出願を確認できなかったため,請求人には日本での商標登録出願の意思がないと判断し,被請求人の顧客の請求人商品の日本での販売において商標に関する問題が生じることを回避するために,やむを得ず2016年(平成28年)9月5日付けで本件商標の登録出願を行った。
(2)本件商標の登録出願後の請求人の対応について
本件商標は,請求人登録出願予告日から2月以上が経過した2016年(平成28年)9月20日に出願公開され,任意の第三者には本件商標の登録出願を確認可能な状態となっていたにもかかわらず,請求人はそれを怠っていた。
さらに,請求人は,上述のとおり2016年(平成28年)7月5日以前にエスタッチ社商標が無効であることを知りながら,すなわち,任意の第三者によって引用商標と同一又は類似の商標が日本で登録出願され得る状態にあることを知りながら,請求人出願予告日から5か月近く経った2016年(平成28年)12月2日まで日本で商標登録出願(商願2016-136383)を行わずに放置していた。
このような請求人の対応を考慮すれば,請求人は,日本での商標をさほど重視しておらず,2016年(平成28年)12月2日までは日本での商標登録出願を積極的に行う意思はなかったことが推認される。
(3)エスタッチ社商標について
被請求人とエスタッチ社との間には取引関係はなく,被請求人は,請求人とエスタッチ社の関係性についても詳細を把握できていない。請求人は,エスタッチ社商標についてエスタッチ社との間で両者の共有名義に変更する旨合意がなされていた(甲10)と主張しているが,甲第10号証には,「商願2015-119036」に関する記載は見あたらず,当該合意が有効であったか否かについては不明である。
(4)小括
このように,請求人は,少なくとも本件商標の登録出願時において,日本での商標登録出願を積極的に行う意思はなかったものと認められ,また,被請求人は,請求人商品の日本での販売において商標に関する問題が生じることを回避するために本件商標を取得したものである。
したがって,被請求人は,本件商標の登録出願について正当な理由を有する。
3 まとめ
以上のとおり,被請求人は,商標法53条の2に規定する「その代理人若しくは代表者又は当該商標登録出願の日前1年以内に代理人若しくは代表者であった者」には相当しない。また,被請求人は,本件商標の登録出願について正当な理由を有する。
したがって,本件審判の請求は成り立たない。
第4 当審の判断
1 商標法第53条の2は,「登録商標がパリ条約の同盟国,世界貿易機関の加盟国若しくは商標法条約の締結国において商標に関する権利(商標権に相当する権利に限る。)を有する者の当該権利に係る商標又はこれに類似する商標であって,当該権利に係る商品若しくは役務又はこれらに類似する商品若しくは役務を指定商品又は指定役務とするものであり,かつ,その商標登録出願が,正当な理由がないのに,その商標に関する権利を有する者の承諾を得ないでその代理人若しくは代表者又は当該商標登録出願の日前1年以内に代理人若しくは代表者であった者によってされたものであるときは,その商標に関する権利を有する者は,当該商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる。」と規定し,パリ条約6条の7の規定を実施するため,すなわち,他の同盟国等で商標に関する権利を有する者の保護を強化し,公正な国際的取引を確保するために設けられた規定と解される。
そして,商標法第53条の2が,他の同盟国等で商標に関する権利を有する者の代理人若しくは代表者又は代理人若しくは代表者であった者がその権利者との間に存する信頼関係に違背して正当な理由がないのに同一又は類似の商標登録をした場合にその取消について審判を請求できる旨の規定であることにかんがみれば,同条項に規定する「代理人若しくは代表者」は,必ずしも他の同盟国等の商標権者と代理店契約を締結した者など契約上特別な関係,あるいは,法的関係にある者に限定されることなく,広く他の同盟国等の商標権者の商品を継続的に輸入し販売する又は販売していた者など,継続的な取引により慣行上の信頼関係が形成されていた関係にあった者をも指すと解される。
2 証拠及び請求人の主張によれば,以下の事実を認めることができる。
(1)請求人及び引用商標について
ア 大韓民国がパリ条約の加盟国であることは当庁において顕著な事実であるから,請求人は,パリ条約の加盟国である大韓民国に所在する法人と認められる(甲3)。
イ 引用商標は,別掲2に示すとおり,「NUDE NAIL」及び「glass nail shiner」の文字を上下二段に書して,大韓民国において2015年(平成27年)8月28日に登録出願,第8類「爪磨き器,非電気式磨き器,つめやすり,非電気式つめやすり」を指定商品として,2016年(平成28年)7月22日に設定登録され,当該商標権は請求人とエスタッチ社とが共有するものである(甲3)。
(2)エスタッチ社商標について
請求人と請求人商品の大韓民国における総販売代理店であったエスタッチ社は,エスタッチ社が日本に2015年(平成27年)12月3日付けで商標登録出願したエスタッチ社商標について,両者の共同所有とする旨合意した(甲10)。
しかしながら,エスタッチ社商標は,登録査定されたものの,登録料の納付がなされなかったことから,2016年(平成28年)8月24日に出願却下処分となった(職権調査)。
(3)請求人と被請求人との取引について
ア 白岩物産が被請求人に宛てた2016年(平成28年)5月18日から2017年(平成29年)3月14日付けINVOICE(請求書)(甲7の1~12)によれば,請求人と被請求人とは,請求人商品を2016年(平成28年)5月18日から2017年(平成29年)3月14日までの間,ほぼ毎月1回,計12回にわたり,総計8万1600個(3100万8千円),白岩物産を通じ,被請求人と取引したことが認められる。
イ 白岩物産から被請求人に宛てた2016年(平成28年)7月5日付けの電子メール(甲14)には,商標権関連の問い合わせ(請求人の意見)として,「・ダインズ(審決注:請求人)は7月15日以前に日本商標権を出願する予定です。(すでにS-TOUCHの商標出願は無効なりました。)・NUDE NAIL商標権に対する一任はNUDE NAIL委託販売についての独占権を意味します。B&O研究所(審決注:被請求人)と白岩(審決注:白岩物産)でダインズに関連独占販売権を得するために,ダインズに提案する条件について議論部分あれば提案お願いします。・・・商標権を一任する部分については,・・・一緒に議論が可能です。」と記載がある。
3 上記2で認定した事実によれば,以下のとおり判断するのが相当である。
(1)本件商標がパリ条約の同盟国,世界貿易機関の加盟国若しくは商標法条約の締結国において商標に関する権利(商標権に相当する権利に限る。)を有する者の当該権利に係る商標又はこれに類似する商標であって,当該権利に係る商品又はこれらに類似する商品を指定商品とするものであるか否かについて
ア 請求人は,上記2(1)のとおり,パリ条約の同盟国等において引用商標に関する権利を有する者である。
イ 本件商標と引用商標について
本件商標は,別掲1のとおり,上段に大きく「NUDE NAIL」の文字と下段にやや小さく「glass nail shiner」の文字を横書きしてなるものである。
他方,引用商標は,別掲2のとおり,上段に大きく「NUDE NAIL」の文字と下段にやや小さく「glass nail shiner」の文字を横書きしてなるものである。
本件商標と引用商標とを比較すると,両商標は,書体が異なる部分があるとしても,いずれも「NUDE NAIL」の文字と「glass nail shiner」の文字により構成されるものであるから,両者は相紛れるおそれのある類似の商標というのが相当である。
そして,本件商標の指定商品「つめ磨き(電動式のもの又は電動式でないもの),つめ磨き器(電動式のもの又は電動式でないもの),つめやすり,つめ切り,電気かみそり及び電気バリカン,手動利器(「刀剣」を除く。),つめ用ピンセット,つめ用紙やすり」は,引用商標が使用される商品「爪磨き器,非電気式磨き器,つめやすり,非電気式つめやすり」とは,同一又は類似の商品と認められる。
そうすると,本件商標と引用商標とは,相紛れるおそれのある類似の商標と判断するのが相当であり,かつ,本件商標の指定商品は,引用商標の指定商品と同一又は類似する商品である。
ウ 小括
以上よりすれば,本件商標は,パリ条約の同盟国等において商標に関する権利を有する者の当該権利に係る引用商標と類似する商標であって,その指定商品は当該権利に係る商品と同一又は類似の商品というべきである。
(2)本件商標の登録出願が,正当な理由がないのに,その商標に関する権利を有する者の承諾を得ないでその代理人若しくは代表者又は当該商標登録出願の日前1年以内に代理人若しくは代表者であった者によってされたものであるか否かについて
ア 被請求人は,商標法第53条の2にいう「代理人若しくは代表者又は当該商標登録出願の日前1年以内に代理人若しくは代表者であった者」に該当するか否かについて
請求人と被請求人とは,上記2(3)のとおり,請求人商品を平成28年5月18日から同29年3月14日までの間,請求人商品について継続的に複数回の取引があり,その取引高が総計8万1600個(3100万8千円)に及ぶことを踏まえると,被請求人は,請求人商品を継続的に輸入し販売する又は販売していた者であることは明らかであって,例え本件商標の登録出願前の取引が5回であるとしても,その後も継続して7回の取引が行われていたのだから,請求人との間には,継続的な取引により慣行上の信頼関係が形成されていたというのが相当である。
したがって,被請求人は,本件商標の登録出願時において,商標法第53条の2にいう「代理人若しくは代表者」であった者に該当するというべきである。
イ 正当な理由の有無について
被請求人は,請求人出願予告日から相当な期間がすぎても請求人による商標登録出願を確認できなかったため,請求人には日本での商標登録出願の意思がないと判断し,被請求人の顧客の請求人商品の日本での販売において商標に関する問題が生じることを回避するために,やむを得ず2016年(平成28年)9月5日付けで本件商標の登録出願を行った旨主張する。
しかしながら,上記2(2)のとおり,請求人は,請求人商品の大韓民国における総販売代理店であったエスタッチ社が日本に2015年(平成27年)12月3日付けで商標登録出願し,その後,出願却下処分となったエスタッチ社商標について,両者の共同所有とする旨合意していたこと,及び上記2(3)イのとおり,請求人と被請求人との取引が行われていた白岩物産と被請求人との2016年(平成28年)7月5日付け電子メールには,請求人は平成28年7月15日以前にNUDE NAIL商標を登録出願する予定であり,独占販売権については被請求人と別途協議が必要である旨の記載があることからすれば,請求人が日本でのNUDE NAIL商標を商標登録出願する意思がなかったということはできない。
そして,本件商標の登録出願前に,被請求人が請求人ないし白岩物産に対し,請求人の商標登録出願の予定を確認した事実はない。
他に請求人が被請求人に対し,日本において引用商標の権利を取得することを放棄した,又は,取得する関心がないことを信じさせた場合に該当すると認めるに足る客観的な裏付ける証拠はない。
してみれば,被請求人の本件商標の登録出願をする行為は,正当な理由があったものと認めることはできない。
ウ 小括
上記によれば,本件商標の登録出願が,正当な理由がないのに,請求人の承諾を得ないで「代理人若しくは代表者」であった者によってされたものと認めることができる。
4 むすび
以上のとおり,本件商標は,パリ条約の同盟国において商標に関する権利を有する者の当該権利に係る商標と類似する商標であって,当該権利に係る商品又はこれに類似する商品を指定商品とするものであり,かつ,正当な理由もないのに当該権利を有する者の承諾を得ないでその代理人又は代表者であった者によって登録出願されたものと認めざるを得ないから,本件商標の登録は,商標法第53条の2に規定する要件をすべて満たしているものと認められ,同規定により,取り消すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2018-300215