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商標取消審判

2017-300733

リプロジェネティクス

審判番号
2017-300733
法域
商標
審判種別
取消審判(商標取消の審決)
出願番号
商願2015-096081
登録番号
5834594
請求日
2017年09月26日
審決日
2022年11月02日
公報発行日
2023年06月30日
結論
請求不成立
当事者
  • 【請求人】リプロジェネティクス リミテッド ライアビリティー カンパニー
  • 【請求人代理人】青木 篤
  • 【請求人代理人】田島 壽
  • 【被請求人】有限会社 オオタニメディカルサプライ
  • 【被請求人代理人】遠藤 直哉
  • 【被請求人代理人】村谷 晃司
  • 【被請求人代理人】中村 智広
審判長/審判官
  • 審判長 森山 啓
  • 審判官 小松 里美
  • 審判官 鈴木 雅也
分類
T131 .6 -Y (W4244)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
商標法53条の2
条文(本文から自動抽出・参考)
商標法第53条の2、商標法第6条、商標法第16条、商標法第20条、商標法第4条
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

上記当事者間の登録第5834594号商標の商標登録取消審判事件についてされた令和2年7月20日付け審決に対し,知的財産高等裁判所において審決の一部取消しの判決(令和2年(行ケ)第10100号,令和3年12月15日判決言渡)があったので,さらに審理のうえ,次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。

理由

理 由 第1 本件商標 本件登録第5834594号商標(以下「本件商標」という。)は,「Reprogenetics」の文字を標準文字で表してなり,平成27年9月18日に登録出願,第42類「細胞遺伝子検査」及び第44類「医療を目的とした遺伝子検査,医業及び健康のための心理検査及びカウンセリング」を指定役務として同28年3月18日に設定登録されたものである。 なお,本件商標の願書及び商標登録原簿の記載によれば,本件商標の出願人及び設定登録時の権利者は有限会社REPROGENETICSであって,当該商標権は,平成28年6月17日にCに移転され,同29年6月20日に被請求人に移転されたものである(甲1,職権調査)。 第2 引用商標 請求人が,パリ条約の同盟国,世界貿易機関の加盟国若しくは商標法条約の締結国において商標に関する権利を有していることを証するために,提示した商標は,以下のとおりである(以下,これらをまとめて「引用商標」ということがある。)。 1 国際登録第1323083号(甲2,以下「引用商標1」という。) 商標の態様:別掲1のとおり 指定役務 :第42類「DNA analysis services to determine paternity; genetic mapping for scientific purposes; genetic testing for scientific research purposes; laboratory research in the field of genetic reproduction; medical and scientific research in the field of reproduction and genetics; medical research laboratory services; medical research; research and development in the field of reproduction and genetics; research in the field of reproduction and genetics; scientific research and development; scientific research for medical purposes in the field of reproduction and genetics.」及び第44類「Medical laboratory services, namely, medical testing and patient counseling services regarding human reproduction.」 国際登録日:2016年5月24日(同年5月3日にUnited States of Americaにおいてした商標登録出願に基づいてパリ条約第4条による優先権を主張) 指定国官庁:域内市場における調和のための官庁(商標及び意匠)(甲3),ノルウェー(甲4)等 2 出願第256800号(甲5,以下「引用商標2」という。) 国名 :アラブ首長国連邦 商標の態様:別掲1のとおり 指定役務 :第42類「科学・技術のサービス及びこれらに関する研究及びデザイン,工業上の分析及び研究,コンピュータハードウェア及びソフトウェアの設計及び開発」 出願日:2016年7月19日 登録日:2017年1月18日 3 出願第256801号(甲5,以下「引用商標3」という。) 国名 アラブ首長国連邦 商標の態様:別掲1のとおり 指定役務 :第44類「医業,動物の治療他」 出願日:2016年7月19日 登録日:2017年1月18日 4 登録番号1437022764(甲6,以下「引用商標4」という。) 国名 :サウジアラビア王国 商標の態様:別掲1のとおり 指定役務 :第42類「科学・技術のサービス及びこれらに関する研究及びデザイン,工業上の分析及び研究,コンピュータハードウェア及びソフトウェアの設計及び開発」 出願日:2016年7月18日 登録日:2016年10月26日 5 登録番号1437022765(甲6,以下「引用商標5」という。) 国名 :サウジアラビア王国 商標の態様:別掲1のとおり 指定役務 :第44類「医業,動物の治療他」 出願日:2016年7月18日 登録日:2016年10月26日 6 登録第3014461号(甲11,以下「引用商標6」という。) 国名 :アメリカ合衆国 商標の態様:別掲2のとおり 指定役務 :第44類「medical laboratory services, namely medical testing and patient counseling services regarding human reproduction」 出願日:2003年8月25日 登録日:2005年11月15日 7 登録番号2654316(甲12,以下「引用商標7」という。) 国名 :アルゼンチン共和国 商標の態様:「REPROGENETICS ARGENTINA」 指定役務 :第44類「全指定役務」 出願日:2013年4月10日 登録日:2014年6月11日 なお,引用商標7の移転前の権利者は「TANGO GENICS S.A.」である。 8 登録番号2687690(甲7,甲13,以下「引用商標8」という。) 国名 :アルゼンチン共和国 商標の態様:別掲1のとおり 指定役務 :第44類「医業及び動物の治療,人及び動物のための衛生および美容のためのケアに関する役務の提供」 出願日:2013年3月15日 登録日:2014年10月23日 なお,引用商標8の権利は,2016年3月18日に「TANGO GENICS S.A.」から請求人に譲渡された(乙6)。 9 登録番号2687689(甲7,甲14,以下「引用商標9」という。) 国名 :アルゼンチン共和国 商標の態様:別掲1のとおり 指定役務 :第42類「科学的及び技術的な研究開発」 出願日:2013年3月15日 登録日:2014年10月23日 なお,引用商標9の権利は,2016年3月18日に「TANGO GENICS S.A.」から請求人に譲渡された(乙6) 10 登録番号2654315(甲15,以下「引用商標10」という。) 国名 :アルゼンチン共和国 商標の態様:「REPROGENETICS ARGENTINA」 指定役務 :第42類「全指定役務」 出願日:2013年4月10日 登録日:2014年6月11日 なお,引用商標10の移転前の権利者は「TANGO GENICS S.A.」である。 11 登録番号003615325(甲26,以下「引用商標11」という。) 国名 :European Union 商標の態様:別掲3のとおり 指定商品及び指定役務:第16類「Paper, cardboard and goods made from these materials, not in other classes; printing materials; bookbinding material; photographs; stationery; adhesives for stationary or household purposes; artists material; paint brushes; instructional or teaching machines (except apparatus); plastic materials for packing (not included in other classes); printing types; printing blocks; in particular, publications, magazines, periodicals and catalogues.」,第41類「Provision of education; providing of training; entertainment; cultural activities; in particular, arranging and conducting colloquiums, conferences, congresses, seminars, symposiums and training workshops, publication of books; electronic publication of books and periodicals online.」及び第42類「Scientific and technological services and research and design relating thereto; industrial analysis and research services; in particular, analysis of embryos and gametes.」 出願日:2004年1月9日 登録日:2005年6月23日 権利者:REPROGENETICS SPAIN S.A. 第3 請求人の主張 請求人は,本件商標の登録を取り消すとの審決を求め,その理由及び答弁に対する弁駁を要旨以下のように述べ,証拠方法として甲第1号証ないし甲第26号証を提出した。 1 請求の理由 本件商標は,商標法第53条の2の規定により取り消されるべきものである。 2 引用商標の権利及び本件商標と引用商標の類否について (1)引用商標1ないし引用商標5について ア 引用商標1ないし引用商標5の権利について 商標法第53条の2の規定は,審判の対象となる登録商標の出願時にパリ条約の同盟国等において商標権に相当する権利が確立していた(いい換えれば商標登録されていた)ことを取消の要件として規定していない。 審判の対象となる登録商標の出願時に商標権に相当する権利が確立していたことが明文で規定されていない以上,このことは本件における取消の要件とはならない。 イ 引用商標1ないし引用商標5と本件商標の類否について 引用商標1ないし引用商標5と本件商標とは「REPROGENETICS」を共通するので明らかに類似し,また引用商標1ないし引用商標5の指定役務と本件商標の指定役務は類似する。 (2)引用商標6について ア 引用商標6における「REPROGENETICS」についての権利不要求について (ア)権利不要求とは,その商標が登録された国において識別力を欠くものとされた部分について権利を行使しない(いわゆる禁止権を放棄する。)との出願人の意思表示にすぎないものであり,その申出があったからといって,その部分に商標に関する権利がないというものではない。その登録商標について商標に関する権利(商標権に相当する権利に限る。)があることを前提にその権利不要求された部分について権利行使をしないことを表示したものである。 権利不要求制度は多くの国において存在するが,権利不要求された部分について商標権が存在しないとする国は皆無である。 我が国においても,大正10年法の下では権利不要求の制度があり,権利不要求された部分については,禁止権を行使できないとされている。 商標権は登録された商標それ自体について認められるものであり,個々の構成要素ごとに認められるものではない。 (イ)米国商標法においても,権利不要求された部分に財産権たる商標権が存在しないとは規定していない。あくまで,請求権の放棄(いい換えれば,商標権に基づく権利の不行使)が規定されているに止まる。 請求権の放棄が規定されていることはその前提に商標権が存在していることを意味する。 米国商標法において,「Disclaimer」が条文上認められるものである以上,この「Disclaimer」の効果として商標権が発生しないのであれば,当然,条文で規定されるはずである。 また,米国特許庁におけるガイドラインにおいても,「disclaimer」は,商標の構成要素について使用する独占的権利を要求しないとされており,「商標権を有していない。」とは一切述べられていない。 そして,「CLEAM」の文字は「要求(請求)する権利,債権」を意味する文字(甲20)なので,当該文字からも「Disclaimer」は商標それ自体の放棄ではなく,商標権に基づく差止請求等を放棄することを意味する。 イ 引用商標6と本件商標の類否について (ア)我が国における大正10年法の下の権利不要求に係る類否判断において,「権利不要求がされた商標でも,類否の判断に当たっては,商標を全体として比較検討すべきことは一般の場合と異ならない。」とされている(甲17~甲19)。 権利不要求された部分にも「商標に関する権利(商標権に相当する権利に限る。)」があるから,先願先登録商標として類否判断の対象となっているのである。 (イ)本件商標が引用商標6と類似するか否かは,我が国における本件商標の登録が適法であったか否かを問題にするものであるから当然我が国の類否判断基準において行われるべきである。 (ウ)引用商標6は「図形」と「REPROGENETICS」との組合せからなるものであるから,「REPROGENETICS」を共通にする本件商標と引用商標6とは明らかに類似する。 また,両商標の指定役務が同一又は類似することも明らかである。 (3)引用商標7ないし引用商標10について ア 引用商標7ないし引用商標10の権利について 引用商標7ないし引用商標10の商標権は2015年12月18日に請求人に譲渡する旨の契約が締結された(甲25)。 しかるに,経験則上商標権の譲渡に当たってはその契約条件について長期間にわたる交渉が行われるものである。 そうすると,本件商標の出願時には引用商標7ないし引用商標10の商標権が請求人に譲渡するための交渉が行われていたことになる。 本件商標の出願時には請求人がアルゼンチンの登録商標の商標権を譲り受けることが確実であったから,請求人は,本件商標の出願時に「商標に関する権利(商標権に相当する権利に限る。)」を有していたと解することができる。 イ 引用商標7ないし引用商標10と本件商標との類否について (ア)引用商標8及び引用商標9は本件商標と実質的に同一のものといえる。 また,引用商標8及び引用商標9の指定役務が本件商標の指定役務と同一又は類似する。 (イ)引用商標7及び引用商標10の構成中「ARGENTINA」の文字は「アルゼンチン」を意味するので,明らかに自他役務識別力を欠くものである。 してみれば,類否判断に際しては構成中の「REPROGENETICS」の部分をもって称呼及び観念される。 したがって,引用商標7及び引用商標10も本件商標に類似する。 アルゼンチン法の下では,引用商標7及び引用商標10が登録された時点では区分の全指定役務を指定することができたので,第42類又は第44類の全指定役務を指定役務とした。引用商標7及び引用商標10の指定役務が本件商標の指定役務と同一又は類似することは明らかである。 (4)引用商標11について ア 引用商標11の権利について 引用商標11は,本件商標の出願時には既に登録されており有効に存在していたところ,引用商標11の商標権者は,請求人のスペインにある子会社である。 しかるに,今日,企業活動は国を越えて国際的に行われるのが普通となった。 そして,世界各国で活動を円滑かつ効率的に行うためにそれぞれの国ないしは地域で子会社が設立され,これら子会社によって実際には企業活動が行われることになった。この企業活動の国際化に応じて,商標も世界各国で登録することが必要となった。 この際,各国ないし企業の事情により親会社(本国での商標権者)ではなく,子会社名義で商標登録することも行われるようになった。 上記状況を勘案すれば,本件においては,請求人はその子会社が引用商標11の登録名義人であったことをもってもパリ条約同盟国等で「商標に関する権利(商標権に相当する権利に限る。)を有する者」となる。 イ 引用商標11と本件商標との類否について 引用商標11と本件商標とは類似し,引用商標11の指定役務と本件商標の指定役務は類似する。 4 パリ条約の同盟国等における商標に関する権利を有する者の代理人又は代表者について (1)商標法第53条の2にいう「代表者・代理人」は代理店,特約店,総代理店,委託販売者のように何らかの継続的な契約関係の存在がある者をいう(甲22~甲24)。 (2)請求人と本件商標の登録時の商標権者である有限会社REPROGENETICS(以下「出願人」ということがある。)の取締役の一人であるAとは2004年から,請求人の開発した出生前診断(PGD)試験プロセス及び技術について,Aの体外受精クリニック及び臨床試験研究所で利用できるようにするための合弁契約を締結していた(甲8)。 そうすると,Aは,契約に基づいて請求人の役務である科学研究・医療研究(医療検査)を請求人から技術的な援助を受けて共同して日本で提供するものであって,商標法第53条の2にいう代理人・代表者に該当する。 そして,当該合弁契約は請求人側からの書面による通知により2017年8月4日をもって解除されることになった(甲10)から,Aは,本件商標の出願時には代理人・代表者であった。 (3)そして,Aは本件商標の登録時の商標権者である出願人の取締役の一人であり,もう一人の取締役がアメリカ在住であること(甲9)及び出願人においては代表取締役が登録されていなかったことに鑑みると,Aのみが実質的には出願人の代表権限を有する取締役であったといえ,Aが日本の出願については専ら決めていたと容易に推測できる。 したがって,出願人は,実質的にはAと同一人といえる。 そうすると,出願人は,商標法第53条の2にいう代理人・代表者と解すべきであって,請求人の代理人若しくは代表者となっていた者(A)と本件商標の出願人(有限会社REPROGENETICS)とが相違することが商標法第53条の2の適用を妨げるものではない。 さらに,法人格と自然人を区別する民法の原則は商標法第53条の2の取消審判とは何ら関係がない。 5 正当理由及び承諾の不存在について 上記4(2)の合弁契約において,日本における商標に関する権利は,請求人が保持するものであって,Aは単にこれを使用できる権利を有していたにすぎない(甲8)。そして,その契約書において,Aに日本において引用商標について商標権取得を承諾する記述は一切認められない。 さらに,Aは,請求人からの合弁契約の解除の通知と共に本件商標の譲渡の申入れに対して,本件商標の譲渡と引換えに,請求人の親会社が契約の終了後2年間,日本で上記契約に係る役務を行わないという書面による確認を求めている(甲10)。 このように,Aは本件商標を請求人との交渉において取引材料として用いている。もし,Aが請求人のために同人に代わって日本で商標登録を取得したのであれば,交渉の取引材料としては使用しないはずである。この点からも,本件商標は正当な理由なく登録されたといえる。 また,被請求人は,請求人より本件商標の出願について承諾を得ていたことを何ら立証していない。 第4 被請求人の主張 被請求人は,結論同旨の審決を求め,答弁において,その理由を要旨以下のように述べ,証拠方法として,乙第1号証ないし乙第16号証を提出した。 1 請求の理由に対する答弁 本件商標は,商標法53条の2の要件を満たさないため,取り消されるものではない。 2 引用商標について 商標法第53条の2の規定の法解釈として,審判対象となる登録商標の出願時にパリ条約の同盟国等において商標権に相当する権利が確立していたことを要件としている(乙7,乙8)。 (1)引用商標1について ア 引用商標1の権利について マドリッド協定議定書第4条(1)(a)では国際登録された標章は国際登録日から指定国の官庁に直接出願されていた場合と同一の効果が与えられるところ(乙1),「域内市場における調和のための官庁(商標及び意匠)」において請求人が権利者となった日及び「ノルウェー」における引用商標1の登録日は国際登録日である平成28年(2016年)5月24日であり(甲2),本件商標の出願日よりも遅い。そのため,本件商標の出願日において,請求人は引用商標1の権利者ではない。 なお,基礎出願国である米国の商標は拒絶されている(乙2)。 イ 引用商標1と本件商標の類否について 引用商標1について,基礎出願国である米国の対応出願(87023745)には,「Reprogenetics」は辞書的な意味として「Reproductive genetics」(「生殖遺伝学」)を指すところ,これは単に指定役務の質や特徴,機能等を指すものである(乙2)。つまり,構成中の「Reprogenetics」の部分は自他役務識別力がなく要部とはいえないという理由の拒絶理由通知が提出されている。そうすると,引用商標1の要部はマークである。 引用商標1の要部であるマークと本件商標を離隔的に比較すると,両者は外観,称呼及び観念いずれも同一又は類似しているとはいえない。 (2)引用商標2及び引用商標3について ア 引用商標2及び引用商標3の権利について アラブ首長国連邦の商標法第16条には「商標が登録された時,登録の効果は出願日に遡って生じる」(乙3)とされ,同法第17条には「所有者は商標の使用について排他的権利を有する」(乙3)としていることから,商標の出願人は,出願時から権利者となる。そうすると,引用商標2及び引用商標3における出願日は平成28年(2016年)7月19日であり,本件商標の出願日よりも遅い。そのため,本件商標の出願日において,請求人は引用商標2及び引用商標3の権利者ではない。 イ 引用商標2及び引用商標3と本件商標との類否について 引用商標2及び引用商標3の指定役務は本件商標の指定役務と同一又は類似ではない。 (3)引用商標4及び引用商標5について ア 引用商標4及び引用商標5の権利について サウジアラビア王国商標法第20条には「商標登録は,登録出願の出願日から効果を生じる。」とし,同法第21条には「商標を登録した者は,その排他的な所有者となる」としている(乙4)。そして,引用商標4及び引用商標5の出願日は,平成28年(2016年)7月18日(甲6)であり,本件商標の出願日よりも遅い。そのため,本件商標の出願日において,請求人は引用商標4及び引用商標5の権利者ではない。 イ 引用商標4及び引用商標5と本件商標との類否について 引用商標4及び引用商標5の指定役務は本件商標の指定役務と同一又は類似ではない。 (4)引用商標6について ア 引用商標6における「REPROGENETICS」についての権利不要求について (ア)「Disclaimer」とはマークの特定要素を使用する排他的権利を主張していないことを示す申請書に記載された声明を指している(乙12)。 そして,「Disclaimer」は公報や登録証に記載されることで,当該文字部分に独占的権利を要求しないと対外的に宣言することとなる。 そのため,「Disclaimer」を行った用語は商標権を発生させられず,第三者も該当する商品や役務についてその文字を使用でき(乙13),商標権者は当該文字について「独占的に使用する権利」を要求していないため,当該文字部分の「商標に関する権利(商標権に相当する権利に限る。)」を有していない。 「CLEAM」の用語は,請求人が指摘する英語辞典には見当たらない。また,「Disclaimer」とは,「権利の放棄,棄権」と英訳される(乙14)。 この点からも,米国商標法における「Disclaimer」は当該部分の商標権それ自体を放棄するという意味であることは明確である。 以上のとおり,米国の「Disclaimer」制度については,我が国が過去に採用した権利不要求制度と基本的な内容が異なる。 (イ)引用商標6の「REPROGENETICS」の文字は米国商標法第6条で,請求人によって権利の部分放棄がされている(乙9~乙11)。 そのため,米国では,請求人は「REPROGENETICS」について「商標に関する権利(商標権に相当する権利に限る。)」を有していないのであるから,請求人は「商標に関する権利(商標権に相当する権利に限る。)を有する者」ではない。 イ 引用商標6と本件商標の類否について (ア)上記ア(イ)のとおり,請求人が米国商標法第6条により商標のうち「REPROGENETICS」の文字に関する権利を権利不要求(部分放棄)としているため,引用商標6の文字部分には米国商標権が何ら存在しない。 したがって,類否判断する対象は,本件商標と引用商標6のうち文字部分を除くマーク部分である。 そこで,本件商標と引用商標6のうち文字部分を除くマーク部分を類否判断すると,外観,称呼及び観念においていずれも異なることは明らかである。 (イ)引用商標6の審査において「REPROGENETICS」の文字は,自他識別力がないので権利不要求としなければならない,とのオフィスアクションが出されており(乙15),請求人はこれに応答して当該文字を権利不要求としていることから,「REPROGENETICS」の文字には自他役務識別力がないことを自認している。 我が国の商標法においても,「REPROGENETICS」の語は,引用商標6の指定役務に使用されるときには,請求人の役務の質(内容)を記述的に表示しているものとして,取引者,需要者によって一般に認識されるものであって,自他役務識別力を欠くものというべきである。 そうすると,引用商標6の構成中,文字部分については,要部ということはできないから,引用商標6は,文字部分と図形部分からなる全体の構成が一体となって,初めて自他役務識別力を有するに至っているものというべきである。 したがって,引用商標6の文字部分が本件商標と共通するだけで,他に共通する部分がない引用商標6と本件商標が類似するということはできない。 (5)引用商標7ないし引用商標10について ア 引用商標7ないし引用商標10の権利について アルゼンチン共和国商標法第4条には「商標権の所有権又はその排他的ライセンスは,商標の登録によって取得するものとする。」としている(乙5)。 引用商標8及び引用商標9は,平成28年(2016年)3月18日に,「TANGOGENICS S.A.」から請求人に譲渡され,同日に請求人の権利となっている(甲7,乙6)。 さらに,引用商標7及び引用商標10においても同様である。 そうすると,請求人における引用商標7ないし引用商標10の権利発生日は平成28年(2016年)3月18日であって本件商標の出願日よりも遅いから,本件商標の出願日において,請求人は引用商標7ないし引用商標10の権利者ではない。 イ 引用商標8及び引用商標9と本件商標との類否について 引用商標8及び引用商標9の指定役務は本件商標の指定役務と同一又は類似ではない。 (6)小括 したがって,本件商標の出願日において,請求人は,「(ア)登録商標が(1)パリ条約の同盟国,世界貿易機関の加盟国若しくは商標法条約の締結国において,(2)商標に関する権利(商標権に相当する権利に限る。)を有する者」といった要件を充たしていない。 3 パリ条約の同盟国等における商標に関する権利を有する者の代理人又は代表者について 本件商標を出願したのは,有限会社REPROGENETICSである(甲1)ところ,請求人が根拠とする合弁契約の当事者は請求人とAであり,請求人と出願人との間で総代理店契約は存在しない。 なお,平成27年(2015年)12月10日付で修正された合弁契約書が締結されたが,同契約書は本件商標の出願日以降によるものであるから,「代理人若しくは代表者又は当該商標登録出願の日前1年以内に代理人若しくは代表者であった者によってされたもの」という要件を明らかに欠いている。 出願人は請求人の米国代表者ではなく,請求人から代理権を授与されたことはないため,「代表者」に該当せず,「代理人」でもない。 日本法においては自然人と法人を別人格として扱う。出願人の法人格とAは別人格であるため同一人ではない。 出願人の取締役はAと,アメリカ合衆国を登記上の住所とするBがいる(甲9)。Bは,同社に所属するフランス人の女性との間で連絡を取り合うなどして仕事をしており,Aが日本にいる唯一の取締役で代表権を行使できるという実態も存在しない。 そして,出願人は,代表取締役を置いていないから出願人とAが同一人であるということは法的にありえない。 以上から,出願人は,代表者・代理人ではない。 4 正当理由及び承諾の不存在について (1)本件商標の出願日には引用商標は存在しない 上記2のとおり,本件商標の出願日時点で引用商標が存在しない。したがって,本件商標の出願日時点において請求人の承諾を得られないから,その商標に関する権利を有する者の承諾を得ないとの要件を要求することは不可能である。 (2)本件商標出願には正当な理由があること ア 請求人が保持できる権利は合弁契約を根拠とした権利であるところ(甲8),合弁契約はAと請求人との間で締結されたものであって,被請求人や出願人を当事者とするものではない。請求人は合弁契約第7条の規定を持ち出して,商標権に関する権利が請求人にあると主張するが,当事者違いであるので根拠とならない。 イ 請求人は正当な理由がない根拠として,本件商標を取引材料にしていると主張するところ,この主張は事実に反する。当該契約書10条Aでは,本契約の終了後2年間,各当事者は,直接又は間接的に競業避止義務を課すこととすると定めており,これを履行するよう求めたにすぎない。契約書上の義務の履行を求めたことが取引材料とすると評価されることはあってはならない。 ウ また,上記(1)のとおり,本件商標の出願日時点で引用商標が存在せず,請求人の承諾を要しないことから,本件商標の登録出願には正当な理由がある。 5 審判事件回答書(令和4年7月14日付け) 本件の審決取消訴訟(令和2年(行ケ)第10100号)(以下「本件審決取消訴訟」という。)における陳述を記載した書面並びに裁判所に提出した証拠(特許庁に提出した証拠を除く。)及びその証拠説明書を提出する(乙17~乙37(枝番号を含む。))。 第5 当審の判断 商標法第53条の2は,「登録商標がパリ条約の同盟国,世界貿易機関の加盟国若しくは商標法条約の締約国において商標に関する権利(商標権に相当する権利に限る。)を有する者の当該権利に係る商標又はこれに類似する商標であって当該権利に係る商品若しくは役務又はこれらに類似する商品若しくは役務を指定商品又は指定役務とするものであり,かつ,その商標登録出願が,正当な理由がないのに,その商標に関する権利を有する者の承諾を得ないでその代理人若しくは代表者又は当該商標登録出願の日前一年以内に代理人若しくは代表者であった者によってされたものであるときは,その商標に関する権利を有する者は,当該商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる。」と規定している。 そこで,本件商標の登録が,商標法第53条の2が規定する要件に該当するか否かについて,以下検討する。 1 本件商標の登録出願は,正当な理由がないのに,その商標に関する権利を有する者の承諾を得ないでなされたものであるか否かについて (1)前提事実 ア 請求人は,アメリカ合衆国ニュージャージー州に所在する会社である(甲8,乙21)。 イ 被請求人は,不動産の賃貸及び管理,給食業,これらに附帯する一切の事業を目的とする,昭和53年(1978年)9月30日に設立された特例有限会社であり,その取締役はAである。原告とは別の会社である有限会社REPROGENETICSは,遺伝子の検査,医療及び健康に関するカウンセリング,これらに附帯する一切の業務を目的とする,平成16年(2004年)8月20日に設立された特例有限会社であり,その取締役は,Aと,請求人の代表者であったB(甲8,乙21)である(甲9)。Aは,大谷レディスクリニックを運営する産婦人科医であり,CはAの子であり,医師である(甲8,甲10,乙21,乙24,乙25)。 (2)請求人とAとの間の契約の文言 請求人とAとの間で締結された本件原契約と本件修正契約は,次のとおりであった(以下,訳文は被請求人が本件審決取消訴訟で提出したとされるものによる。)。 ア 本件原契約 (ア)本件原契約の締結 請求人とAは,2004年(平成16年)7月11日,着床前遺伝子診断に関する研究と実験を行うことを目的とする共同事業に関する合弁事業契約として本件原契約(JOINT VENTURE AGREEMENT)を締結した(乙21)。 なお,本件修正契約の契約書には,請求人とAとの間で,2004年(平成16年)8月27日付け合弁契約が締結されたと記載されているが(甲8),この日付は誤記であり,本件原契約は,同年7月11日に締結されたもの(乙21)と認められる。 (イ) 前文の定め 本件原契約は,前文において次のように定めていた。 「ReprogeneticsとA博士は,共同事業に従事することを望んでおり,その目的は,ここに記載されている協力の原則と誓約と合意に従うことを条件に,着床前遺伝子診断(以下「PGD」)に関する合意された一定の研究と実験を行うことである。 A医師は,以下に定める条件に基づき,合弁事業を支援するために,一定のオフィススペース,設備,スタッフ,および適切な患者と紹介医師の紹介を提供することを希望する。Reprogeneticsは,技術サポート,トレーニングと支援,品質管理と科学的方向性,情報,および以下に示す条件に基づく合弁事業のサポートの改善を提供することを望んでいる。 以上のことから,両当事者は,善良かつ価値ある検討のために,その受領をここに認め,法的に拘束されることを意図して:以下のように合意するものとする。」(WHEREAS, Reprogenetics and Dr. Tetsuo Otani desire to engage in a joint venture, the purpose of which is to perform certain agreed upon research and experimentation concerning Pre-Implantation Genetic Diagnosis("PGD"),subject to the principles of cooperation and the covenants and agreements contained herein; and WHEREAS, Dr. Tetsuo Otani desires to provide certain office space, equipment; staffing and referrals of suitable patients and referring physicians in support of the joint venture upon the terms and conditions hereinafter set forth; and WHEREAS, Reprogenetics desires to provide technical support, training and assistance, quality control and scientific direction, information and improvements in support of the joint venture upon the terms and conditions hereinafter set forth; NOW, THEREFORE, for good and valuable consideration, the receipt of which is hereby acknowledged, and intending to be legally bound hereby, the Parties agree as follows:) (ウ)準拠法の定め 本件原契約は,準拠法について,「XXII.準拠法と管轄地」(XXII.CHOICE OF LAW AND FORUM)の項において,「本契約は,ニュージャージー州およびアメリカ合衆国の法律に準拠し,それに基づいて解釈されるものとする」(This Agreement shall be governed by and construed in accordance with the laws of the State of New Jersey and the United States of America)と定めていた(乙21)。 (エ)知的所有権等に関する定め 本件原契約は,知的所有権の帰属等について,次のとおり定めていた(乙21)。 a 本件原契約は,「VI.所有権;所得制限;意思決定権」(VI.OWNERSHlP;INCOME DISTRIBUTION; DECISION-MAKING AUTHORITY)の項の「B.」において,「各当事者は,製品と結果,および商標,すべての文書とコンピューターに記録されたデータ,製品と結果の開発に使用されたすべての技術,プロセスとその他の要素,およびすべての収益を含む,関連するすべての知的所有権およびその他の財産権を認め,同意する。材料または製品の両方は,両当事者が共同で,分割されていない50%の株式で共同で所有するものであり,他の個人または企業体とその一部またはその収益を共有するという両当事者の合意によって減少またはその他の影響を受けることはない。」(Each party acknowledges and agrees that the Product and Results, and all associated intellectual and other property rights, including trademarks,all documentation and computer recorded data, all techniques, processes and other elements used in cultivating the Product and/or Results; and all proceeds of the Material or Product, are proprietary to both Parties jointly, in equal, undivided, 50% shares, that may not be diminished or otherwise affected by either party's agreement to share its portion or the proceeds thereof with any other person or entity.)と定めていた(原文によれば,上記訳の「50%の株式」は,「50%の割り前」との意味と解される。)。そして,同項の「D.」において,「当事者は,本契約に基づき作成,考案,または開発された共同の知的財産権を保護し,完全なものとするために,相互に合意して行動するものとし,そのような手続きにかかる費用を平等に負担するものとする。」(The parties shall act in mutual agreement to protect and perfect their joint intellectual property rights created, conceived or developed hereunder, and shall equally bear the expenses of such procedures.)と定めていた。 b 本件原契約は,「VII.所有権」(VII.PROPRIETARY RIGHTS)において,「各当事者は,ReprogenetcisとA博士が本契約の対象となる材料と製品の共同で対等な所有者であり,当該研究を行う当事者にかかわらず,当該材料または製品を利用した内部研究に関連する知的財産権の共同所有者であることに同意する。」(Each party agrees that Reprogentics and Dr. Tetsuo OTani are joint and equal owners of the Material and the Product that are the subject of this Agreement and of any intellectual property rights related to any internal research utilizing such Material or Product, regardless of the party conducting such research)と定めていた。 イ 本件修正契約 (ア)本件修正契約の締結 請求人とAは,2008年(平成20年)3月10日,本件原契約を修正する本件修正契約(AMENDED JOINT VENTURE AGREEMENT)を締結した(甲8)。 (イ) 前文の定め 本件修正契約は前文において次のように定めていた。 「Reprogeneticsは特殊な遺伝子研究所であり,出生前診断(PGD)試験の開発に従事しており, A博士は,体外受精クリニックである大谷レディスクリニック及び臨床遺伝子試験研究所であるReprogenetics Japanの運営に従事しており, 2004年以来,当事者らは合弁を行っており,これによりReprogenetics.がA博士に対して,A博士の体外受精クリニック及び臨床試験研究所で使用するためにReprogeneticsがA博士に提供し,開発したPGD試験プロセス及び技術を利用しており, 当事者らは合弁の促進のために,2004年8月27日付け合弁契約(「2004年契約」)を締結し,当該日付より本合弁を継続的に運営しており, 当事者らは2004年契約を修正して,合弁の性質及び目的をより正確に記述し,確実に継続的運営を行うことを相互に合意した。 よってここに,約束,相互の表明,合意,契約及び本契約に記載されている条件を約因として,そして有効かつ有価の約因として;これらの受領をここに承認し,当事者らは以下のように合意する:」 (WHEREAS Reprogenetics is a specialized genetics laboratory engaged in the development of Preimplantation Genetic Diagnostics ("PGD") testing; and WHEREAS Dr. Otani is engaged hi the operation of an in vitro fertilization clinic, the Otani Ladies Clinic, and a clinical genetics testing laboratory, Reprogenetics Japan; and WHEREAS since 2004 the parties have been engaged in a joint venture whereby Dr. Otani has been utilizing PGD testing procedures and techniques developed and supplied by Reprogenetics to Dr. Otani for use in his IVF clinic and his clinical testing laboratory; and WHEREAS the parties heretofore entered into a Joint Venture Agreement ("2004 Agreement") dated August 27,2004 in furtherance of this joint venture and have continuously operated this joint venture since that date; and WHEREAS the parties have now mutually agreed to amend the 2004 Agreement so as to more accurately describe the nature and20 purpose of their joint venture and to ensure its continued operation. NOW. THEREFORE, for and in consideration of the promises and of the mutual representations, covenants, agreements and conditions et forth herein, and- for other good and valuable consideration, the receipt of which is hereby acknowledged, the parties agree as follows:)(上記の「2004年8月27日付け合弁契約」は,本件原契約のことを指すので,「2004年7月11日付け合弁契約」(乙21)が正しく,上記の日付は誤記であるものと認められる。) (ウ)準拠法の定め 本件修正契約は,準拠法について,「20.法律及び法廷の選択」(20.Choice of Law and Forum.)の項において,「本契約は,米国ニュージャージー州により規律され,かつ解釈される」(This Agreement shall be governed by and construed in accordance with the laws of the State of New Jersey and the United States of America)と定めていた(甲8)(原文によれば,「ニュージャージー州とアメリカ合衆国の法律が適用され,それらに従って解釈される」という意味と解される。)。 (エ)知的所有権等に関する定め a 本件修正契約は,知的所有権の帰属等について,次のとおり定めていた(甲8)。 本件修正契約は,「7.所有権及び財産権」(7.Ownership and Proprietary Rights)の項の「A.」において,「Reprogeneticsは,合弁における知的財産から全体的又は部分的に派生するあらゆる知的所有権の所有権を保持する」(Reprogenetics shall ret ownership of any intellectual property derived in whole or in part from its intellectual property in the joint venture)と定めていた。 b 本件修正契約は,「7.所有権及び財産権」(7. Ownership and Proprietary Rights)の項の「C.」において,「当事者らは相互契約により,本合弁の結果として創設され,生成され,開発されたあらゆる共有に係る知的所有権を保護し,完全なものにするために行動し,各当事者は,かかる努力の結果としてかかったあらゆる経費を等しく負担する。」(The parties shall act in mutual agreement to protect and perfect any joint intellectual property rights created, conceived or developed as a result of this joint venture and each party shall bear equally any expenses incurred as a result of such effort.)と定めていた。 ウ 再修正契約 請求人とAは,2015年(平成27年)12月10日付けで,本件修正契約を更に修正する契約を締結した(甲8)。 (3)請求人とAとの間の契約の解釈 ア 契約の目的 本件原契約の前文の定め(前記(2)ア(イ))によれば,請求人とAは,着床前遺伝子診断(PGD)の研究と実験を行うことを目的とする合弁事業を行うために本件原契約を締結したものと認められる。そして,本件修正契約の前文の定め(前記(2)イ(イ))によれば,本件原契約を修正するために本件修正契約が締結されたものと認められる。 イ 知的財産権の帰属 (ア)本件原契約 本件原契約の「VI.所有権;所得制限;意思決定権」の項の「B.」の定め(前記(2)ア(エ)a)によれば,「all associated intellectual and other property rights, including trademarks」(商標を含む,全ての関連する知的そして他の財産権。以下「商標を含む知的財産権等」という。)は,等しい50%の割合で請求人とAの共有に属するものと認められる。同項の「D.」の定め(前記(2)ア(エ)a)は,請求人とAの共有に属する知的財産権が存在することを前提とするものであり,また,本件原契約の「VII.財産権」の定め(前記(2)ア(エ)b)は,本件原契約に基づく合弁事業における研究に関連する知的財産権が請求人とAの共有に属することを定めており,これらの定めがあることによっても,「商標を含む知的財産権等」が請求人とAの共有に属するという,本件原契約の「VI.所有権;所得制限;意思決定権」の項の「B.」の定めの上記解釈は,裏付けられるものといえる。 (イ)本件修正契約 a 本件修正契約は,本件原契約を修正することを目的として締結されたものであるから(前記イ),本件原契約に定められた「商標を含む知的財産権等」の帰属について修正する旨の条項がなければ,「商標を含む知的財産権等」は,本件原契約が定めるとおり,請求人とAの共有に属するものと認められる。 b 本件修正契約の「7.所有権及び財産権」の項の「A.」の「Reprogeneticsは,合弁における知的財産から全体的又は部分的に派生するあらゆる知的所有権の所有権を保持する。」という定め(前記(2)イ(エ)a)の「合弁における知的財産」は,本件原契約の「VI.所有権;所得制限;意思決定権」の項の「B.」に定められた「商標を含む知的財産権等」(前記(2)ア(エ)a)を含むものであると解する余地がある。そして,「商標を含む知的財産権等」は,本件原契約の「VI.所有権;所得制限;意思決定権」の項の「B.」によれば,請求人とAの共有に属するものと定められている(前記(2)ア(エ)a)。 他方,本件修正契約の「7.所有権及び財産権」の項の「A.」により請求人(Reprogenetics)が保持するとされる知的所有権は,「合弁における知的財産」ではなく,それから「全体的又は部分的に派生するあらゆる知的所有権」とされているから,請求人が単独で保持するのは,「合弁における知的財産」とは異なるものであると認められる。 そうすると,本件修正契約の「7.所有権及び財産権」の項の「A.」は,「商標を含む知的財産権等」(前記(2)ア(エ)a)が等しい50%の割合で請求人とAの共有に属するものとする本件原契約の「V1.所有権;所得制限;意思決定権」の項の「B.」の定め(前記(2)ア(エ)a)を変更するものではなく,「商標を含む知的財産権等」とは別の,そのような財産権から派生する知的財産権を,請求人が単独で有することを定めたものであると解することができる。 本件修正契約の「7.所有権及び財産権」の項の「C.」は,「本合弁の結果として創設され,生成され,開発されたあらゆる共有に係る知的所有権」が存在することを前提としているから(前記(2)イ(エ)b),それによれば,「商標を含む知的財産権等」が等しい50%の割合で請求人とAの共有に属するものとする本件原契約の「VI.所有権.;所得制限;意思決定権」の項の「B.」の定め(前記(2)ア(エ)a)が,本件修正契約によって変更されていないことが裏付けられているといえる。 ウ 準拠法との関係 なお,前記ア,イの解釈は,本件原契約及び本件修正契約において準拠法がアメリカ合衆国とニュージャージー州の法律と定めていること(前記(2)ア(ウ),イ(ウ)(法の適用に関する通則法7条)を前提として,妥当するものである。 (4)本件商標権の帰属 ア 有限会社REPROGENETICSは,遺伝子の検査,医療及び健康に関するカウンセリング,これらに附帯する一切の業務を目的とする特例有限会社であり,その取締役は,Aと,請求人の代表者であったBである(前記(1))。そして,有限会社REPROGENETICSは,2004年(平成16年)7月11日に本件原契約が締結されて間もない同年8月20日に設立された(前記(1))。そのため,同社は,本件原契約に定められた合弁事業を行うために設立された特例有限会社であると認められ,本件修正契約書の前文(前記(2)イ(イ))にいう「Reprogenetics Japan」に当たるものと認められる。他方,本件商標は,「Reprogenetics」(標準文字)で,同社が出願したものであり,商品及び役務の区分と指定役務は,第42類の「細胞遺伝子検査」と,第44類の「医療を目的とした遺伝子検査,医業及び健康のための心理検査及びカウンセリング」である。そうすると,本件商標権は,同社及びAが,我が国において,本件原契約に基づく合弁事業を行うために必要とされるものであり,同事業にとって重要な意義を有するものであって,本件原契約の「VI.所有権;所得制限;意思決定権」の項の「B.」の「商標を含む知的財産権等」(前記(2)ア(エ)a)に該当すると解するすることができる。そして,本件原契約の「VI.所有権;所得制限;意思決定権」の項の「B.」の定め(前記(2)ア(エ)a)によれば,「商標を含む知的財産権等」は,等しい50%の割合で請求人とAの共有に属する。そうすると,本件商標権は,請求人とAとの間では,請求人とAの共有に属し,両者が持分割合50%ずつの権利を有すると解することができる。 イ 前記(3)イ(イ)bで検討したように,本件修正契約の「7.所有権及び財産権」の項の「A.」は,「商標を含む知的財産権等」が等しい50%の割合で請求人とAの共有に属するものとする本件原契約の「VI.所有権;所得制限;意思決定権」の項の「B.」の定め(前記(2)ア(エ)a)を変更するものではないと解することができ,かつ,本件原契約により,本件商標権が,請求人とAの共有に属すると解することができるから,本件商標権の帰属が,本件修正契約により,請求人が全ての権利を有するように変更されたとは認められない。 (5)判断 ア 前記(4)のとおり,本件商標権について,請求人とAとの間では,両者が持分割合50%ずつの権利を共有すると認められ,請求人とAとの契約において,本件商標権を含む知的財産権について,請求人が全ての権利を保持するとされているとはいい切れない。 したがって,本件修正契約の「Reprogeneticsは,合弁における知的財産から全体的又は部分的に派生するあらゆる知的所有権の所有権を保持する。」との定めに基づいて,「本件商標の登録出願は,正当な理由がないのに,その商標に関する権利を有する者の承諾を得ないでされたものである」と認めることはできない。 イ なお,請求人が2017年(平成29年)6月2日付けで,Aに,本件原契約及び本件修正契約による合弁契約を同年8月4日に終了させる旨のレターを送付し,同レターには,A又は有限会社REPROGENETICSが「Reprogenetics」の商標を出願する権利を有していないにもかかわらずこれを登録した旨が記載されている(甲10)。 しかし,上記レターには,A又は有限会社REPROGENETICSが「Reprogenetics」の商標を出願する権利を有していないという請求人の主張の根拠は記載されておらず,また,Aは,上記レターに対する返信において,請求人の主張を争っている(甲10)。さらに,前記(4)アのとおり,本件商標権は,有限会社REPROGENETICS及びAが,我が国において,本件原契約に基づく合弁事業を行うために必要とされるものであり,同事業にとって重要な意義を有するものである。商標登録について先願主義を採用する我が国において,合弁事業を行うために設立され,請求人の代表者であるBも取締役を務める有限会社REPROGENETICSが本件商標を出願することは,合弁事業の趣旨に反することが明らかであるとは考え難く,請求人の上記レターにおける主張の根拠は明確であるとはいえない。 したがって,請求人が上記レター(甲10)を送付したことを考慮しても,「本件商標の登録出願は,正当な理由がないのに,その商標に関する権利を有する者の承諾を得ないでなされたもの」ということはできない。 2 むすび 以上のとおり,本件商標は,「本件商標の登録出願は,正当な理由がないのに,その商標に関する権利を有する者の承諾を得ないでなされたもの」と認めることはできないものであって,商標法第53条の2の要件を充足するものではないから,本件商標の登録は,同法第53条の2の規定により,取り消すことはできない。 よって,結論のとおり審決する。

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2017-300733

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