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商標取消審判

2021-300175

ベノサン

審判番号
2021-300175
法域
商標
審判種別
取消審判(商標取消の審決)
出願番号
商願2019-000365
登録番号
6213216
請求日
2021年03月10日
審決日
2022年04月22日
公報発行日
2022年11月25日
結論
請求成立(取消)
当事者
  • 【請求人】スイスラスティック・アクチェンゲゼルシャフト・ザンクト・ガレン
  • 【請求人代理人】特許業務法人深見特許事務所
  • 【被請求人】株式会社 ディーピーシー
  • 【被請求人代理人】特許業務法人樹之下知的財産事務所
審判長/審判官
  • 審判長 豊田 純一
  • 審判官 小田 昌子
  • 審判官 山田 啓之
分類
T131 .6 -Z (W25)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
商標法53条の2
条文(本文から自動抽出・参考)
商標法第53条の2
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

上記当事者間の登録第6213216号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。

結論

結 論 登録第6213216号商標の商標登録を取り消す。 審判費用は、被請求人の負担とする。

理由

理 由 第1 本件商標 本件登録第6213216号商標(以下「本件商標」という。)は、「ベノサン」の文字を標準文字で表してなり、平成31年1月7日に登録出願、第25類「ストッキング,タイツ,靴下」を指定商品として、令和2年1月7日に設定登録され、その商標権は、現に有効に存続しているものである。 第2 引用商標 請求人が、「パリ条約同盟国等において商標に関する権利を有する者」であることを証するために提示した商標は、以下の1及び2のとおりである(以下、これらをまとめていう場合は、「引用商標」という。)。 1 国際登録第1403960号(以下「引用商標1」という。) 国際登録日:2018年2月22日 商標:別掲のとおり 区分:第5、10、25類 指定商品:第5類(略)、第10類(略)、第25類「Clothing; socks; stockings; tights; 等」 2 国際登録第1404648号(以下「引用商標2」という。) 国際登録日:2018年3月19日 商標:VENOSAN 区分:第5、10、25類 指定商品:第5類(略)、第10類(略)、第25類「Clothing; socks; stockings; tights; 等」 第3 請求人の主張 1 請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第19号証を提出した。 2 本件商標は、パリ条約の同盟国において、商標に関する権利を有する者である請求人の当該権利に係る商標又はこれに類似する商標であって、当該権利に係る商品又はこれに類似する商品を指定商品とするものであり、かつ、その商標登録出願が、正当な理由がないのに請求人の承諾を得ないで、その代理人若しくは代表者又は商標登録出願の日前1年以内に代理人又は代表者であった者によってなされているため、商標法第53条の2の規定により、その登録を取り消すべきである。 (1)請求人が「パリ条約同盟国等において商標に関する権利を有する者」であること 請求人はスイスの法人であり、本件商標の出願日である2019年1月7日以前に出願され、パリ条約同盟国であるスイスにおける商標登録第712170号及び第714205号を基礎登録とする引用商標を有している(甲1、甲2)。 引用商標は、パリ条約の同盟国において商標に関する権利の根拠となるものである。 (2)本件商標と引用商標との同一又は類似について ア 本件商標は、片仮名「ベノサン」を書してなる。これに対し、引用商標1は、上段に図形、下段に欧文字「VENOSAN」を書してなり、引用商標2は、欧文字「VENOSAN」を書してなる。 本件商標と引用商標1とを比較すると、外観においては、図形の有無及び欧文字と片仮名の差異を有し、両商標は異なる。称呼について、引用商標1の欧文字部分から生じる称呼は「ベノサン」であり、本件商標から生じる称呼も「ベノサン」である。よって、両商標の称呼は同一である。観念について、両商標共に造語であり、特定の観念は生じない。 次に、本件商標と引用商標2とを比較すると、外観においては、欧文字と片仮名の差異を有し、両商標は異なる。称呼については、両商標から共に「ベノサン」の称呼が生じ、両商標の称呼は同一である。観念については、両商標共に造語であり、特定の観念は生じない。 本件商標と引用商標とは、称呼が同一である。外観については、本件商標は片仮名により構成され、引用商標はいずれも欧文字により構成されているが、我が国の商取引においては欧文字からなる商標を片仮名で表記することが一般的に行われており、片仮名と欧文字の外観上の違いが、称呼の同一性を凌駕するほどの相違となるものではない。また、観念については共に特定の観念を有しないのであるから、観念において区別することはできない。 そうとすると、外観、称呼及び観念を総合的に考察すれば、本件商標と引用商標とが、互いに類似する商標であることは明らかである。 イ 被請求人は、本件商標からは「ベノサン」の称呼が生じるのに対し、引用商標から生じる称呼は「ヴェノサン」であるため、両商標は語頭において「ベ」と「ヴェ」の差異があり、両者は称呼上明確に聴別し得ると主張する。 しかしながら、我が国の一般的な需要者にとって「ベ」と「ヴェ」が明確に聴別されるとはいえず、欧文字の「VE」に対応する片仮名として「ベ」と表記され、「VE」を「ベ」と発音することは一般的である。このような状況を考慮すると、引用商標に接する我が国の一般的な需要者が、これらを片仮名で表す場合に「ベノサン」と表記し、「ベノサン」と称呼することは自然である。 よって、引用商標からは「ベノサン」の称呼が生じ、本件商標と引用商標とは称呼が同一である。 そうすると、本件商標と、引用商標とは、外観については欧文字と片仮名で異なるものの、我が国の商取引においては欧文字からなる商標を片仮名で表記することが一般的に行われており、両商標における片仮名と欧文字の外観上の違いが、称呼の同一性を凌駕するほどの相違となるものではない。また、両商標の観念については共に特定の観念を有しないのであるから、観念において区別することはできない。 結論として、外観、称呼及び観念を総合して考慮すると、本件商標と引用商標とは明らかに類似する商標である。 (3)本件商標の指定商品と引用商標の指定商品との同一又は類似について 本件商標の指定商品は、第25類「ストッキング,タイツ,靴下」である。一方、引用商標は、共に、第25類において「socks(靴下)」、「stockings(ストッキング)」、「tights(タイツ)」等が指定されている。本件商標の指定商品と引用商標の指定商品とが、同一又は類似であることは明らかである。 (4)正当事由及び請求人の承諾がないこと ア 請求人は被請求人に対し、本件商標を登録することについて承諾を与えた事実はない。また、請求人が我が国において本件商標に関する権利を取得することに関心がないと主張した事実もなく、被請求人には本件商標の登録出願について正当事由も認められない。 イ(ア)被請求人は、本件商標の登録は、契約書第6.1条に基づき、正当なマーケティング戦略の一環として登録出願及び登録をしたものであると主張する。 しかしながら、同条に基づくと、被請求人は毎年のマーケティング戦略について請求人に通知する義務があるところ、請求人は本件商標の登録について、通知を一切受けていない。 「VENOSAN」又は「ベノサン」の商標を第25類の指定商品について第三者に登録されることを懸念するのであれば、請求人に対して第25類について本件商標を登録出願することを提言すれば良く、請求人に黙って自らが登録出願する必要性はない。仮にマーケティング戦略として自らが登録出願したのであるとすれば、請求人にその旨を通知する義務がある。本件商標の登録出願を請求人にあえて通知しなかったことから、被請求人には不正の目的があったといわざるを得ず、被請求人が正当な理由を有しないことは明白である。 また、本件商標の登録出願について請求人への通知義務を怠った以上、請求人が本件商標の登録出願について黙示の承諾を与えていたということもできない。契約書の第10.1条には、請求人が「Venosan」の商標の権利及び所有権を保持することが規定されている。このことからも、請求人が本件商標の登録出願及び登録をしたことについて黙示の承諾を与えていないことは明らかである。 さらに、請求人と被請求人との契約は2020年6月30日をもって終了している(甲6)。仮に、被請求人が単なるマーケティング戦略として本件商標を登録したのであれば、契約の終了後は本件商標の登録を放棄するか、「Venosan」ブランドの本来の所有者である請求人に譲渡するのが当然である。 しかしながら、請求人が複数回にわたって本件商標について被請求人への連絡を試みたにもかかわらず、被請求人はこれに応答せず、本件商標を保有し続けている。 加えて、被請求人は、自身のウェブサイトについて「venosan」を含むドメインを取得し、販売契約が終了したにもかかわらず、請求人の製品を継続して販売し(甲7)、「ベノサン○○」の表示の下、自社又は第三者のストッキングの販売も行っている(甲8~甲10)。 これらの事実から、被請求人が単にマーケティング戦略のみの目的で本件商標の登録出願を行ったとはいえず、本件商標の登録出願について正当な理由を有しないこと、及び請求人から黙示の承諾を与えられたものでもないことは明らかである。 (イ)被請求人は、引用商標より先願である登録第5541032号商標を所有すると主張する(以下「先願商標」という場合がある。乙1。)。 しかしながら、当該先願商標も本件商標と同様に、請求人の了承を得ることなく登録出願及び登録をされたものであるから、当該先願商標を所有していることが、本件商標を登録出願したことの正当な理由にはならない。 請求人は、被請求人が当該先願商標及び本件商標を所有していることを知った後、被請求人の代表取締役(以下「代表取締役」という。)にこれらの商標権の譲渡を申し入れ、代表取締役は承諾した。 しかしながら、その後も譲渡の手続はなされず、請求人及び請求人代理人は代表取締役に何度もコンタクトを試みたが、同氏は一切応答しなかった(甲15~甲18)。 このように被請求人が請求人からのコンタクトに全く応じず、不誠実な対応を取る以上、被請求人には不正の目的があるといわざるを得ず、本件商標を登録出願、及び登録をしたことについて正当な理由を有しないことは明らかであり、また、請求人が黙示の承諾を与えていないことも明白である。 (5)被請求人が請求人の代理人であったこと ア 請求人は、2017年6月12日付けで被請求人と日本における代理店契約を締結していた(甲5)。当該契約は2020年6月30日をもって終了している(甲6)。つまり、被請求人が、2017年6月12日から2020年6月30日に代理店契約が終了するまでの間、請求人の日本における代理人であり、本件商標は、被請求人が代理人であった期間に出願されたものである。 イ 被請求人は、本件商標の出願当時、請求人の我が国における代理人という立場になかったと主張する。 商標法第53条の2に規定する「商標に関する権利を有する者の代理人若しくは代表者」は、民法上の代理権を有する者のみを意味するのではなく、商標権者と信頼関係をもって、我が国における取引の代理又は媒介を行う代理店や販売店も当然に含まれると解すべきである。 代理店契約を締結していなくても、信頼関係の上で商品を継続的に輸入販売する又はしていた者は、商標法第53条の2に規定する「商標に関する権利を有する者の代理人若しくは代表者」と同視される。そうすると、本件において、仮に締結した契約が「販売契約」であったとしても、当該契約の内容に鑑みれば、被請求人が商標法第53条の2に規定する「商標に関する権利を有する者の代理人若しくは代表者」に該当することは明白である。 第4 被請求人の答弁 1 被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第8号証(枝番号を含む。)を提出した。 2(1)請求人が、「パリ条約同盟国等において商標に関する権利を有する者」であること、及び請求人の有する引用商標が、パリ条約の同盟国において商標に関する権利(商標権に相当する権利に限る。)を有する者の当該権利に係る商標であることについては、認める。 (2)本件商標と引用商標との類否について 本件商標と引用商標とは、その外観において明らかに相違する。 また、本件商標からは「ベノサン」の称呼を生じるところ、引用商標1の文字部分の「VENOSAN」及び引用商標2の「VENOSAN」からは「ヴェノサン」の称呼を生じる。日本語に本来存在しない子音である「V」の音は「ヴ」と表されるためである。そうすると、本件商標と引用商標とは、称呼の識別上重要な要素を占める語頭音における「ベ」と「ヴェ」の音に差異があり、当該差異音が、共に4音という短い音構成において、称呼全体に及ぼす影響が大きく、それぞれ一連に称呼するときに語調、語感が全く異なることから、両者は称呼上明確に聴別し得る。 したがって、本件商標と引用商標とは、その称呼において明らかに相違する。 さらに、観念においては、本願商標と引用商標とは、共に特定の観念を生じないものであるから、両者は、観念上比較することができない。 以上のことから、外観、称呼及び観念を正しく総合的に考慮すれば、本件商標と引用商標とは非類似であるというべきである。 (3)本件商標の指定商品と、引用商標に係る指定商品との同一又は類似については、認める。 (4)正当な理由及び請求人の承諾がないことについて ア 引用商標に対する先願商標の存在について (ア)被請求人は、引用商標の登録出願日よりもはるかに前である平成24年(2012年)5月2日に、先願商標を我が国で登録出願し、同年12月7日に登録になった(乙1)。 (イ)被請求人は、先願商標の登録出願当時、元々「VENOSAN」の名称で医療用圧迫ストッキングを製造しており、後に請求人に合併されたスイスの会社であるSALZMANN AG ST. GALLEN(以下「ザルツマン」という。)との間で、ザルツマンの製品の独占的販売契約を締結していた(乙2、乙3)。この販売契約書の付録Iによれば、Venosanブランドの医療用圧迫ストッキング、サポートストッキング、靴下、アクセサリーが販売契約の対象製品となっていたが、実際には、医療用圧迫ストッキングのみが取扱製品であった。このことは、日本において、ザルツマンが「VENOSAN」の登録商標を有していたのは、第10類の「脚の痛みに苦しむ病人用の医療用圧迫ストッキング」のみを指定商品とする商標だけであることからも裏付けられる(乙4)。 (ウ)被請求人は、ザルツマンとの販売契約第3条、第5.1条、第6.1条に基づいて(乙3)、ザルツマンから購入した「VENOSAN」ブランドの医療用圧迫ストッキングを、「ベノサン」の表記で、自社名かつ自費で販促活動を行っていた。その中で、被請求人は、医療用以外の衣料品としての弾性(着圧)ストッキング等について、ザルツマンが第10類でしか「VENOSAN」の登録商標を持っていないことを奇貨として、第三者に「VENOSAN」又は「ベノサン」の商標を取得されてしまうと、ザルツマンから購入した「VENOSAN」ブランドの医療用圧迫ストッキングの販促活動に支障が出ると考えた。そこで、「マーケティング戦略は被請求人の独自の裁量と費用で行う」との販売契約の第6.1条に基づき、販促活動に支障が出る事態を回避するために、被請求人は、先願商標の登録出願を行い、以後その登録商標を維持しているものである。 (エ)その後、ザルツマンが請求人に合併されたことを受け、被請求人と請求人は、改めてザルツマンとの販売契約とほぼ同じ内容の独占的販売契約を締結した(乙6、乙7)。契約当事者がザルツマンから請求人に変更された後も、被請求人は「ベノサン」の表記で請求人から購入した製品を自社名で販売していたことから、「マーケティング戦略は被請求人の独自の裁量と費用で行う」との販売契約書第6.1条に基づき、本件商標の登録出願を行ったものである。 (オ)以上のことから明らかなように、被請求人は、ザルツマン及び請求人との契約に基づいて、正当なマーケティング戦略の一環として、先願商標及び本件商標を登録出願及び登録をしたものであるから、本件商標の登録出願には正当な理由がある。 イ 請求人の承諾を得ていないことについて 被請求人は、ザルツマン及び請求人との販売契約に基づいて、正当なマーケティング戦略の一環として、本件商標の登録出願を行っている。販売契約には、被請求人による「VENOSAN」や「ベノサン」の登録出願を禁止する条項はない。被請求人が独自の裁量と自費でマーケティング戦略を行わなければならないことは、販売契約書第6.1条に明記されていたのであるから(乙7)、販売契約当事者である請求人は、マーケティング戦略の一環として行われた本件商標の登録出顧に対して、当然黙示の承諾を与えていたというべきである。 したがって、本件商標の登録出願は、請求人の承諾を得て行われたものと認められるべきである。 ウ 合議体の暫定的見解について (ア)合議体は、請求人と被請求人の間における「Venosan」製品に関する販売契約の10.1条において、請求人は「Venosan」の商標の権利を保持することが規定されていることをその根拠として、本件商標に係る権利は、本来は請求人が保持するものであると認定している。 しかし、この10.1条にいう「この商標の権利」とは、ザルツマンが平成14年6月24日に国際商標登録出願した「VENOSAN」の登録商標(国際登録第562687号商標)の商標権のみを指すと解するのが合理的かつ妥当である。なぜなら、同じ「VENOSAN」という標章であっても、商標権は国ごとに成立し、かつ、その指定商品又は指定役務が抵触しない限りにおいては、権利者を異にする複数の商標権が併存し得ることは公知の事実であるところ、ザルツマンが被請求人との販売契約当時に保有していた商標権は、国際登録第562687号商標のみであり、まだ登録出願もされておらず、さらに、将来、登録出願されるかも、その指定商品又は指定役務がなんであるかも全く不明であるのに、あらゆる「VENOSAN」についての商標権をザルツマンが保持するということは、先願主義に反する解釈であり、また過度に広範な権利をザルツマンに認めることになって、明らかに解釈として無理があり、不当であるからである。 また、元の英文契約書(乙2)においても、「商標」が「this trademark」と単数形で記載されていることからも、上記の解釈が正しいことが裏付けられる。 この点は、請求人と被請求人との販売契約においても同様である。 したがって、「本件商標に係る権利は、本来請求人が保持するものである」とした合議体の判断は、この点についての解釈を誤ったものである。 (イ)合議体は、請求人と被請求人との販売契約において、被請求人が毎年のマーケティング戦略について請求人へ通知する義務があるところ、被請求人は本件商標を登録出願することについて請求人に通知していないことがうかがわれるとし、この点から、「本件商標に係る登録出願は、正当な理由がないのに、請求人の承諾を得ないで、被請求人によってされたものといわなければならない。」と判断している。 しかし、仮に被請求人がマーケティング戦略の一環として行った本件商標の登録出願について請求人に通知していないとしても、請求人と被請求人との販売契約上、通知することが被請求人のマーケティング戦略として行われた行為の有効性の要件とされているものではないから、そのことは単に通知義務違反という債務不履行が問われるにすぎないのであって、被請求人が行ったマーケティング戦略の有効性には何ら影響しない。請求人と被請求人との販売契約において、マーケティング戦略は被請求人の独自の裁量で行うことが認められているのであり(6.1条)、どのような登録出願を行うかを含めて、被請求人がどのようなマーケティング戦略を行うかについて請求人の承諾を得ることは、当該販売契約において不要とされていたものである。 したがって、被請求人が請求人の承諾を得ることなく独自の判断で本件商標の登録出願を行うことは、請求人と被請求人との販売契約6.1条によって認められた正当な行為であるから、当該登録出願には「正当な理由」があることは明らかである。 エ 請求人は、「請求人に対して第25類について本件商標を登録出願することを提言すれば良く、請求人に黙って自らが登録出願する必要性はない。」、「本件商標の登録出願を請求人にあえて通知しなかったことから、被請求人には不正の目的があったといわざるを得」ないと主張する。 しかし、被請求人は、自らの費用負担で独自の裁量によりマーケティング戦略を行う権利と義務はあっても(6.1条)、登録出願を行うよう請求人に提言すべき義務はない。「VENOSAN」製品の我が国における販売に関するマーケティング戦略については、ザルツマンとの販売契約の時から請求人との販売契約終了の時まで11年間もの長きにわたり、被請求人は、ザルツマンからも被請求人からも、被請求人自らの費用負担で独自の裁量により行うことを全面的に任されてきたのであって、その一環として行った本件商標の登録出願を、今になって不正の目的による出願であるなどと非難されるいわれはない。 なお、請求人が、今般、急に本件商標の取消しを請求してきたのは、2018年にザルツマンが請求人をローマンアンドロッシャーに売却し(乙8)、請求人の親会社がローマンアンドロッシャーに変わったことで、それまで良好だった請求人と被請求人の関係をローマンアンドロッシャーが一方的に終了させたことに起因しており、被請求人の方こそ、ローマンアンドロッシャーの非紳士的な態度に困惑しているものである。 また、仮に請求人が主張するように、請求人が被請求人による本件商標の登録出願に対して黙示の承諾を与えていたといえないとしても、そもそも請求人と被請求人との販売契約において、マーケティング戦略は被請求人の独自の裁量で行うことが認められているのであり(6.1条)、どのような登録出願を行うかを含めて、被請求人がどのようなマーケティング戦略を行うかについて請求人の承諾を得ることは、販売契約において一切義務付けられていないのであるから、その点は問題とならない。 さらに、請求人は、販売契約の終了後は本件商標の登録を放棄するか、請求人に譲渡するのが当然であるなどと暴論を述べている。しかし、販売契約は、請求人からの一方的な申入れにより終了したものであるところ、契約終了に当たって本来であれば協議されるべき、被請求人が保有している「VENOSAN」製品の在庫の扱いや「VENOSAN」製品の販売用に被請求人が取得し維持していたウェブサイトの扱い、販売契約20.2条記載の補償金などについて、請求人は被請求人と一切話し合うことをしなかったのであり、自らそのような態度を取っておきながら、被請求人の費用で取得した本件商標の登録の放棄や譲渡が当然であるなどと主張するのは、身勝手であるといわざるを得ない。 オ 被請求人が保有する先願商標について、請求人は、請求人の了承を得ることなく登録出願及び登録をされたものであるから、当該先願商標を所有していることが本件商標を登録出願したことの正当な理由にならないと主張する。 しかし、先願商標の登録出願及び登録は、請求人と被請求人との間の販売契約が締結された2017年(平成29年)6月より5年も前である2012年(平成24年)5月に行われたものであり、そもそも請求人の了承を得る必要がないことは明白である。また、先願商標の登録出願当時に存在していた販売契約の相手方であるザルツマンについても、ザルツマンと被請求人との販売契約において、被請求人の商標取得については被請求人の独自の裁量に一任することが認められていたから、いずれにしても、この点の請求人の主張は失当である。 また、請求人は、先願商標及び本件商標について、被請求人の代表取締役にこれらの商標権の譲渡を申し入れ、同氏は承諾したが、その後も譲渡手続はなされず、同氏は請求人からのコンタクトにも応じなかったとして、このような対応をもって被請求人に不正の目的があるといわざるを得ず、本件商標を登録出願及び登録をしたことについて正当な理由を有しないことは明らかであると主張する。 しかし、代表取締役はこれらの商標権の譲渡を12月の請求人との会議までは検討はしていたが、一方的に販売契約を解約し、本来協議されるべき在庫品の取扱いや補償等についても一切協議の場を持たなかった請求人から、商標権の譲渡代金についての提示もなく(甲17、甲18)、一方的に譲渡手続に応じるよう求められたことに対して、請求人の不誠実さに失望した同氏が返信もできなかったことは、何ら責められるようなことではない。 (5)被請求人が請求人の代理人であったことについて ア 被請求人が本件商標の出願当時、請求人との間で請求人の製品の独占的販売権を付与されていたことは認めるが、請求人の代理人であったことは否認する。 イ 販売契約書(乙7)の第3条には、「株式会社ディーピーシーは、SWISSLASTICの名前でまたは代理として、いかなる点においても契約や約束を締結してはならない。」と明記されている。 したがって、被請求人は、販売契約書に基づき、請求人の製品について独占的販売権を付与されていたが、販売契約書第3条により、請求人の代理人ではなかったことは明らかである。 第5 当審の判断 1 「パリ条約の同盟国、世界貿易機関の加盟国若しくは商標法条約の締約国において商標に関する権利(商標権に相当する権利に限る。)を有する者」について (1)職権による調査によれば、スイスは、パリ条約の同盟国、世界貿易機関の加盟国、かつ、商標法条約の締約国であることが認められる。 (https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/document/mokuji/4syouhyou.pdf)。 (2)請求人は、スイスの法人であるところ、引用商標を所有していることが認められる(甲1、甲2)。 そして、引用商標は、スイスにおける登録第712170号商標(以下「請求人商標1」という。)及び登録第714205号商標(以下「請求人商標2」という。)をそれぞれ基礎登録として国際登録されていることが認められる(甲1、甲2)。 そうすると、請求人は、スイスにおいて、請求人商標1及び請求人商標2を所有しているということができる。 (3)前記(1)及び(2)によれば、請求人は、パリ条約の同盟国、世界貿易機関の加盟国及び商標法条約の締約国であるスイスにおいて商標に関する権利を有する者であるということができる。 2 「当該権利に係る商標又はこれに類似する商標」について (1)本件商標について 本件商標は、前記第1のとおり、「ベノサン」の片仮名を標準文字で表してなるものであり、当該文字から「ベノサン」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものである。 (2)請求人商標1について ア 引用商標1は、別掲のとおりの構成からなるものであるところ(甲1)、前記1(2)のとおり、請求人商標1は、引用商標1の基礎登録であるから、請求人商標1についても、別掲のとおりの構成からなるものと認められる。 イ 請求人商標1は、別掲のとおり、上段に鳥の図形を表示し、下段に「VENOSAN」の文字を表示してなるものである。 そして、請求人商標1は、その上段部分と下段部分とが視覚上分離して観察されるものであり、また、これらを常に一体のものとして把握しなければならない特段の事情も見いだせない。 そうすると、請求人商標1の上段部分と下段部分とは、これを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものとは認められないものである。 してみると、請求人商標1は、その構成中、下段の文字部分を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することが許されるというべきである。 そうすると、請求人商標1は、その構成中「VENOSAN」の文字部分から「ベノサン」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものである。 (3)請求人商標2について ア 引用商標2は、「VENOSAN」の文字からなるものであるところ(甲2)、前記1(2)のとおり、請求人商標2は、引用商標2の基礎登録であるから、請求人商標2についても、「VENOSAN」の文字からなるものと認められる。 イ 請求人商標2は、「VENOSAN」の文字からなるものであり、当該文字から「ベノサン」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものである。 (4)本件商標と請求人商標1及び請求人商標2(以下、これらをまとめていう場合は、「請求人商標」という。)との比較 ア 本件商標と請求人商標1の構成中「VENOSAN」の文字部分とを比較すると、外観においては、構成文字が片仮名か欧文字かの違いにより相違する。しかしながら、両者は、いずれも特徴的なデザインが施されているものではなく、普通の書体で表されているものであるから、この違いが取引者、需要者に対して、強い印象を与えるものではなく、記憶に残るものでもない。 そして、両者はいずれも「ベノサン」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものであるから、称呼を共通にし、観念においては比較することができない。 そうすると、本件商標と請求人商標1との外観、称呼、観念等によって、取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合してみれば、たとえ観念において比較できず、外観において相違するとしても、外観における相違は、取引者、需要者に対して、強い印象を与えるものではなく、記憶に残るものでもないことを踏まえると、称呼を共通にする両者は、商品の出所について誤認混同を生じさせるおそれのある類似する商標と判断するのが相当である。 したがって、本件商標は、請求人商標1に類似する商標というべきである。 イ 前記アと同様に理由により、本件商標は、請求人商標2に類似する商標というべきである。 (5)被請求人の主張について 被請求人は、請求人商標からは「ヴェノサン」の称呼を生じるとし、本件商標と請求人商標とは、称呼の識別上重要な要素を占める語頭音における「ベ」と「ヴェ」の音に差異があり、当該差異音が、共に4音という短い音構成において、称呼全体に及ぼす影響が大きいことから、両者は称呼上明確に聴別し得る旨主張している。 しかしながら、我が国においては、例えば、「vegetab1e」を「ベジタブル」、「vest」を「ベスト」、「very」を「ベリー」、「venture」を「ベンチャー」のように、「VE」を「ベ」と発音又は表記することが一般的であるといえる。 そうすると、請求人商標は、その「VENOSAN」の構成文字から「ベノサン」の称呼を生じるとみるのが自然である。 したがって、被請求人の主張は採用できない。 3 「当該権利に係る商品若しくは役務又はこれらに類似する商品若しくは役務を指定商品又は指定役務とするもの」について 本件商標の指定商品は、前記第1のとおり、「ストッキング,タイツ,靴下」である。 引用商標の指定商品には「socks; stockings; tights;」が含まれているから(甲1、甲2)、これらの基礎登録である請求人商標の指定商品にも「socks; stockings; tights;」が含まれるといえる。 そうすると、本件商標の指定商品「ストッキング,タイツ,靴下」と請求人商標の指定商品中「socks; stockings; tights;」(ソックス,ストッキング,タイツ)とは、同一又は類似するものである。 したがって、本件商標は、請求人商標に係る指定商品又はこれに類似する商品を指定商品とするものである。 4 「その代理人若しくは代表者又は当該商標登録出願の日前1年以内に代理人若しくは代表者であった者」について (1)商標法第53条の2の「代理人若しくは代表者」とは、商標に関する権利を有する者から代理権を与えられた者、又は商標に関する権利を有する法人の代表者に限られず、商標に関する権利を有する者との間で、契約に基づき継続的な法的関係があるか、あるいは少なくとも、継続的な取引から慣行的な信頼関係が形成され、商標に関する権利を有する者の事業遂行の体系に組み込まれている者であれば足りると解すべきである(令和2年(行ケ)第10100号判決)。 (2)両当事者の提出に係る証拠によれば、次の事実が認められる。 ア 請求人と被請求人とは、2017年(平成29年)6月12日に、「Venosan」ブランドに関する「医療用圧迫ストッキング、サポートストッキング、靴下、アクセサリー」について、販売契約(Distribution Agreement)を締結した(甲5、乙6、乙7)。 イ 当該販売契約書では、被請求人に独占的な販売の権利が付与されること(5.3条)、被請求人は、請求人の名前又は代理として契約又は約束を締結してはならないこと(3条)が規定されている(乙6、乙7)。 ウ 被請求人は、平成31年1月7日に、本件商標を登録出願した(前記第1)。 エ 前記アの販売契約は、2020年(令和2年)6月30日に終了した(甲6)。 (3)判断 前記(2)によれば、請求人と被請求人とは、2017年(平成29年)6月12日から2020年(令和2年)6月30日の間、「Venosan」ブランドに関する「医療用圧迫ストッキング、サポートストッキング、靴下、アクセサリー」について、独占販売契約を締結していたことが認められる。 そして、請求人と被請求人とは、当該契約に基づき継続的な法的関係があるといえるから、たとえ当該契約3条により、被請求人が請求人の代理権を有していないとしても、被請求人は、商標第53条の2に規定する「代理人若しくは代表者」に該当するというべきである。 さらに、本件商標の登録出願日は、前記(2)ウのとおり、平成31年1月7日であるから、本件商標は、当該独占販売契約締結中に登録出願されたものといえる。 したがって、本件商標に係る登録出願は、請求人の「代理人若しくは代表者」によってされたものといえる。 5 「その商標登録出願が、正当な理由がないのに、その商標に関する権利を有する者の承諾を得ないでされたもの」について (1)両当事者の提出に係る証拠及び主張によれば、次の事実が認められる。 ア ザルツマンは、平成14年6月24日に、第10類「Medical compression stockings for sick persons suffering from leg pain.」(脚の痛みに苦しむ病人用の医療用圧迫ストッキング)を指定商品として、「VENOSAN」の文字からなる国際登録第562687号商標を国際商標登録出願した(乙4、甲14)。 イ ザルツマンと被請求人とは、2009年(平成21年)6月26日に、「Venosan」ブランドに関する「医療用圧迫ストッキング、サポートストッキング、靴下、アクセサリー」について、販売契約(Distribution Agreement)を締結した(乙2、乙3)。 ウ 当該ザルツマンと被請求人との販売契約書では、マーケティング戦略は被請求人の独自の裁量で行い、被請求人は、毎年のマーケティング戦略についてザルツマンに通知すること(6.1条)、製品は、「Venosan」の商標で販売され、ザルツマンはこの商標の権利及び所有権を保持すること(10.1条)が規定されている(乙2、乙3)。そして、「製品」とは、付録Iに指定されているザルツマンの医療消費財及び取引製品を意味すること(1.1条)、本契約の対象となる製品範囲は、「Venosan2000」シリーズを除く「Venosan」ブランドの医療用圧迫ストッキング、並びに全ての「Venosan」ブランドのサポートストッキング、靴下及びアクセサリーであること(付録I)が規定されている(乙2、乙3)。 エ 被請求人は、平成24年5月2日に、第25類「ストッキング,靴下」等を指定商品として、「VENOSAN」及び「ベノサン」の文字を2段に表してなる登録第5541032号商標を登録出願した(乙1)。被請求人は、当該登録出願は、ザルツマンとの販売契約6.1条におけるマーケティング戦略の一環として登録出願したものと主張し、これに対し、請求人は、当該登録出願は、請求人の了承を得ることなく登録出願されたものであると反論している。 オ その後、ザルツマンは、請求人へ合併された(被請求人の主張)。前記アの国際登録第562687号商標は、2015年(平成27年)7月22日に請求人へ商標権の移転がされた(乙5の1、乙5の2)。 カ 請求人と被請求人とは、2017年(平成29年)6月12日に、「Venosan」ブランドに関する「医療用圧迫ストッキング、サポートストッキング、靴下、アクセサリー」について、販売契約(Distribution Agreement)を締結した(甲5、乙6、乙7)。 キ 当該請求人と被請求人との販売契約書では、前記ウの販売契約書と同様に、マーケティング戦略は被請求人の独自の裁量で行い、被請求人は、毎年のマーケティング戦略について請求人に通知すること(6.1条)、製品は、「Venosan」の商標で販売され、請求人はこの商標の権利及び所有権を保持すること(英文の販売契約書での記載は「The Products will be distributed under the trademark “Venosan”. SWISSLASTIC retains title and ownership of this trademark, …….」)(10.1条)が規定されている(乙6、乙7)。そして、「製品」とは、付録Iに指定されている請求人の医療消費財及び取引製品を意味すること(1.1条)、本契約の対象となる製品範囲は、全ての「Venosan」ブランドの医療用圧迫ストッキング、サポートストッキング、靴下及びアクセサリーであること(付録I)が規定されている(乙6、乙7)。 ク 請求人は、2018年(平成30年)2月22日に引用商標1を、同年3月19日に引用商標2をそれぞれ国際登録出願した(甲1、甲2)。 ケ 被請求人は、平成31年1月7日に、本件商標を登録出願した(前記第1)。被請求人は、当該登録出願は、請求人との販売契約6.1条におけるマーケティング戦略の一環として登録出願したものと主張し、これに対し、請求人は、当該販売契約6.1条に基づくと、被請求人は毎年のマーケティング戦略について請求人へ通知する義務があるが、請求人は当該通知を受けていないと反論している。 (2)判断 前記(1)カ、キ及びケによれば、請求人と被請求人とは、「Venosan」ブランドに関する独占販売契約を締結し、当該販売契約では、「製品」とは、全ての「Venosan」ブランドの医療用圧迫ストッキング、サポートストッキング、靴下及びアクセサリーであるとした上で、製品は、「Venosan」の商標で販売され、この商標の権利及び所有権は請求人が保持することになっていることが認められる。 そして、本件商標は、前記第1のとおり、「ベノサン」の片仮名を標準文字で表してなるものであるところ、当該販売契約において、請求人が権利及び所有権を保持することになっている商標は「Venosan」の文字からなる商標であるから、前記2(4)と同様の理由により、両者は類似するものであり、かつ、本件商標は、「Venosan」の文字からなる商標を片仮名で表したものである。 加えて、商標の使用においては、その構成文字を同一の称呼及び観念を生じる範囲内において片仮名及びローマ字相互に変更することが一般に行われているものである。 そうすると、「ベノサン」の片仮名からなる本件商標に係る権利は、本来は請求人が保持するものであると解するのが相当である。 そして、後記(3)イのとおり、被請求人が本件商標に係る登録出願を行うことについて正当な理由があるとは認められず、また、請求人の承諾を得て行ったものであるとも認められない。 以上によれば、本件商標に係る権利は、本来は請求人が保持するものであり、本件商標に係る登録出願は、正当な理由がないのに、請求人の承諾を得ないで、被請求人によってされたものといわなければならない。 (3)被請求人の主張について ア 被請求人は、引用商標より先願の登録第5541032号商標を所有していると主張している。 前記(1)エ及びクによれば、被請求人は、平成24年5月2日に、第25類「ストッキング,靴下」等を指定商品として、「VENOSAN」及び「ベノサン」の文字を2段に表してなる登録第5541032号商標を登録出願したことが認められ、当該登録出願は、引用商標の国際登録出願日である平成30年2月22日及び同年3月19日によりも前の登録出願であることが認められる。 しかしながら、前記(1)イないしオによれば、後に請求人へ合併されるザルツマンと被請求人とは、請求人と被請求人とによるものと同様の販売契約を締結しており、そのため、同様の事情(登録第5541032号商標に係る権利は、本来はザルツマンが保持するものであると解されること等)が認められることからすると、被請求人が登録第5541032号商標を所有していることによって、上記判断に影響を与えるものとはいえない。 イ 被請求人は、請求人と被請求人との販売契約では、マーケティング戦略は被請求人の独自の裁量で行うことができることとなっており、当該マーケティング戦略の一環として、本件商標の登録出願を行った旨主張している。 しかしながら、当該販売契約では、被請求人は毎年のマーケティング戦略について請求人へ通知する義務があるものの、請求人は当該通知を受けていないと主張している。 そうすると、本件商標に係る登録出願は、請求人の承諾を得ないでされたものといわなければならない。 また、当該販売契約において、被請求人の独自の裁量で行うマーケティング戦略が、請求人が「Venosan」の商標の権利及び所有権を保持することよりも優先されるというような特段の事情は見いだせない。 そうすると、たとえ、被請求人の独自の裁量で行うことができるマーケティング戦略の一環として、本件商標の登録出願を行ったとしても、これによって、被請求人が本件商標に係る登録出願を行うことについて、正当な理由があるとは認められず、また、請求人の承諾を得て行ったものであるとも認められない。 ウ 被請求人は、英文契約書(乙6)において、「商標」が「this trademark」と単数形で記載されていること等により、販売契約の10.1条における「この商標の権利」は、国際登録第562687号商標の商標権のみを指すと主張している。 前記(1)キのとおり、請求人と被請求人との販売契約では、1.1条において、「製品」とは、付録Iに指定されている請求人の医療消費財及び取引製品を意味することと規定されており、付録Iにおいて、本契約の対象となる製品範囲は、全ての「Venosan」ブランドの医療用圧迫ストッキング、サポートストッキング、靴下及びアクセサリーであると規定されている。 そして、当該販売契約の10.1条において、製品は、「Venosan」の商標で販売され、請求人はこの商標の権利及び所有権を保持することと規定されているが、ここでいう「製品」は、全ての「Venosan」ブランドの医療用圧迫ストッキング、サポートストッキング、靴下及びアクセサリーである。 そうすると、当該販売契約の10.1条における「この商標の権利」とは、医療用圧迫ストッキング、サポートストッキング、靴下及びアクセサリーについての「Venosan」ブランドに関する権利と解するのが相当であり、医療用圧迫ストッキング、サポートストッキング、靴下及びアクセサリーのうちの一部についての商標権のみを指すものとはいえない。 また、当該販売契約において、当該「この商標の権利」について、特定の商標登録番号の商標権に限定するような特段の規定は見いだせない。 なお、当該販売契約における10.1条の英文の記載は、「The Products will be distributed under the trademark “Venosan”. SWISSLASTIC retains title and ownership of this trademark, …….」であり、この記載中「the trademark」が単数形で記載されているが、これは、「“Venosan”」という商標のみを表すという意味での単数形であると解されるものであり、これを「“Venosan”」という商標に係る指定商品を異にする複数の商標権のうちの一つと解するのは妥当ではない。 したがって、請求人と被請求人との販売契約10.1条における「この商標の権利」を、「医療用圧迫ストッキング」を含まず、第25類「ストッキング,靴下」等を指定商品とする国際登録第562687号商標の商標権のみを指すと解することはできない。 エ 被請求人は、仮に被請求人がマーケティング戦略の一環として行った本件商標の登録出願について請求人に通知していないとしても、通知することがマーケティング戦略の有効性の要件とされているものではないから、単に通知義務違反という債務不履行が問われるにすぎず、マーケティング戦略の有効性には何ら影響しないと主張している。また、マーケティング戦略は被請求人の独自の裁量で行うことが認められているのであり、どのような登録出願を行うかを含めて、被請求人がどのようなマーケティング戦略を行うかについて請求人の承諾を得ることは、当該販売契約において不要とされていたものであると主張している。 しかしながら、たとえ、マーケティング戦略について通知していないことがマーケティング戦略の有効性には何ら影響せず、また、被請求人がどのようなマーケティング戦略を行うかについて請求人の承諾を得ることは当該販売契約において不要とされていたとしても、本件商標に係る登録出願についての正当な理由及び請求人の承諾については、前記(2)のとおり判断するのが相当である。 6 まとめ 以上によれば、本件商標は、パリ条約の同盟国等であるスイスにおいて商標に関する権利を有する請求人が所有する請求人商標に類似する商標であって、請求人商標の指定商品と同一又は類似する商品を指定商品とするものであり、かつ、その登録出願が、正当な理由がないのに、請求人の承諾を得ないで、請求人の代理人又は代表者であった者と認められる被請求人によってされたものと認められる。 したがって、本件商標の登録は、商標法第53条の2の規定により、取り消すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

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2021-300175

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