特許拒絶査定不服審判
2018-011849
エチレン阻害剤を用いた不定胚の誘導法
- 審判番号
- 2018-011849
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2013-270266外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2018年09月04日
- 審決日
- 2019年10月23日
- 公報発行日
- 2020年01月31日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】キリンホールディングス株式会社
- 【請求人代理人】特許業務法人平木国際特許事務所
- 分類
- P18 .121-WZ (C12N)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2013-270266「エチレン阻害剤を用いた不定胚の誘導法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年7月6日出願公開、特開2015-123014〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本願は、平成25年12月26日に出願された特願2013-270266号であり、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。
平成29年10月27日 拒絶理由通知(日付は起案日)
平成29年12月25日 意見書提出
平成29年12月25日 手続補正書(以下、この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。)提出
平成30年 5月29日 拒絶査定(日付は起案日)
平成30年 9月 4日 審判請求書提出
第2 本願発明
本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項2に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。
「不定胚形成細胞を、エチレン作用阻害剤及び/又はエチレン生合成阻害剤としてSTS剤を銀イオン濃度で50μM~130μMで含む培地で培養する工程を含む、不定胚の製造方法。」
第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、本願発明は、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1ないし2に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
引用文献1 長久 逸他、「ヒロシマナの葯培養による不定胚形性及び植物 体再生」、広島県立農業技術センター研究報告、1995年、 第62号、67~76頁
引用文献2 国際公開第2013/027659号
第4 当審の判断
1 引用文献の記載事項
(1) 引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1には、以下の事項が記載されている。
ア「材料及び方法
1.不定胚誘導
材料のヒロシマナは,井谷種苗の‘1号広島菜’,‘2号広島菜’,・・・を用いた。」(67頁右欄1~6行)
イ「不定胚誘導の培地は,・・・修正B5培地7)に,0.8%アガロース(シグマ社製,タイプI)を添加して用いた。植物ホルモンとして,0.1mg/l 2,4-dichlorophenoxyacetic acid(2,4-D),0.1mg/l naphthaleneacetic acid(NAA)または1.0mg/l 2,4-D,1.0mg/l NAAを添加した。
葯の培養は,直径6cmのプラスチックシャーレに6~7mlの培地を分注した培地に,・・・10~15個の葯を置床した。培養条件は,33℃の1,2日間または35℃の1,2日間の暗黒下で前培養を行った後,25℃,暗黒下で培養した。不定胚形成については,培養1か月後に形成された不定胚数を調査した。
不定胚誘導の効率化を検討するため,‘1号広島菜’,‘2号広島菜’を用いて,培地に0.2mg/lアスコルビン酸,1.0mg/l硝酸銀,1.0mg/l aminoethoxyvinylglycine(AVG)を添加して,その効果を調べた。」(67頁右欄14~末行)
ウ「以降の試験については,0.1mg/l 2,4-D,0.1mg/l NAAを添加した修正B5培地を用い,35℃の1日間前培養を行って葯培養した。」(70頁左欄11~13行)
エ「5)培地に添加するアスコルビン酸,硝酸銀,AVGの影響
‘1号広島菜’,‘2号広島菜’の2品種を用いて,アスコルビン酸,硝酸銀,AVGの培地への添加が不定胚形成に及ぼす影響を調査した(Table 6)。2品種とも,1.0mg/l硝酸銀,1.0mg/l AVG添加区では,不定胚形成率,1000葯当たりの不定胚形成数が増加した。」(71頁右欄6~12行)
オ
(72頁)
カ「6)培地に添加する物質の影響 B. oleracea var. gemmifera(コモチカンラン)の葯培養では,エチレン作用を阻害する硝酸銀19)やエチレンの生合成を阻害するAVG19)を,培地に添加すると,いくつかの品種では,不定胚形成が飛躍的に向上すると報告されている1,14)。ヒロシマナの葯培養でも,不定胚形成培地に,1.0mg/l硝酸銀や1.0mg/l AVGを添加すると、不定胚形成率及び1000葯当りの不定胚形成数が増加した。」(74頁左欄35~43行)
(2) 引用文献2の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献2には、以下の事項が記載されている。
ア「雌株への雄花着生には、内生エチレンによる反応を低減する処理を施す。この処理は、花芽が分化する前に実施することが好ましい。具体的には、エチレンの生合成阻害剤、エチレンの作用阻害剤又はエチレンの吸着剤のいずれか、或いはそれらの2つ以上を組み合わせて、ホップ雌株に施用する。本明細書で使用する「着生」という用語は、雌株に雄花がついて生育することを指す。
エチレンの生合成阻害剤には、以下のものに限定されないが、例えば・・・アミノエトキシビニルグリシン(amino ethoxy vinyl glycine;AVG)、塩化コバルト、リゾビトキシンなどが含まれる。
エチレンの作用阻害剤には、以下のものに限定されないが、例えばチオ硫酸銀錯塩(silver thiosulfate complex;STS)、1-メチルシクロプロペン(1-methylcyclopropene)、硝酸銀などが含まれる。」(8頁13~24行)
イ「施用する薬剤の濃度については、薬剤の種類によって施用濃度が異なるので、好適な濃度を選択して用いるのがよい。例えば、薬剤としてSTSを用いる場合、施用濃度は、銀イオン濃度で、0.1~100mM、好ましくは0.4~50mM、より好ましくは1~20mMであるが、この範囲に限定されない。0.1mM未満であれば雄花誘導効果が期待されないため望ましくないし、また、100mMを超すと生長が阻害されてしまうため望ましくない。栄養生長の旺盛さにより枯死せずに耐えられる薬剤の濃度が異なると考えられるので、処理する株の状態に応じた処理濃度を選択することが望ましい。」(9頁9~16行)
ウ「[実施例6] 温室で育成した雌株への雄花着生(その3)
・・・比較区では雌花のみが着生した。クリザールK-20C 2mM区、8mM区、16mM区、STS 8mM(図5-1)、16mM区(図5-2)、硝酸銀 16mM区(図5-3)、32mM区(図5-4)、AVG 1mM区(図5-5)において雄花の着生が観察された。STS 4mM区(図6-1)、硝酸銀 8mM(図6-2)、AVG 0.2mM区(図6-3)、AVG 0.5mM区(図6-4)では、主として雌花が着生したが一部で雄花が観察された。
以上のとおり、市販のエチレン作用阻害剤であるクリザールK-20C のみならず、エチレン作用阻害剤であるSTSおよび硝酸銀、エチレン合成阻害剤であるAVGの施用によっても、雄花の誘導が可能であった。」(17頁18行~18頁11行)
2 引用発明の認定及び対比
上記1(1)ア~カの記載事項から、引用文献1には、以下の発明が記載されている(以下、「引用発明」という)。
「‘1号広島菜’、‘2号広島菜’の葯を、エチレン作用を阻害する硝酸銀を1.0mg/l含む不定胚形成培地で培養する工程を含む、不定胚の誘導方法。」
本願発明と引用発明を対比すると、引用発明の「‘1号広島菜’,‘2号広島菜’の葯」、「エチレン作用を阻害する硝酸銀」及び「不定胚の誘導方法」はそれぞれ、本願発明の「不定胚形成細胞」、「エチレン作用阻害剤」」及び「不定胚の製造方法」に相当する。
そうすると、本願発明と引用発明は、以下の構成において一致する。
「不定胚形成細胞を、エチレン作用阻害剤を含む培地で培養する工程を含む、不定胚の製造方法。」
本願発明と引用発明は、以下の点で相違する。
「エチレン作用阻害剤」が、前者は「銀イオン濃度で50μM~130μM」の「STS剤」であるのに対して、後者は、「1.0mg/l硝酸銀」である点。
3 判断
前記相違点について検討する。
例えば引用文献2(前記1(2))に記載されるように、エチレン作用阻害剤としてSTS(チオ硫酸銀錯塩)は極めて周知で硝酸銀と同列に扱われるものあるから、引用発明のエチレン作用阻害剤である硝酸銀に代えて、STS剤を採用することは当業者であれば適宜なし得たことであるし、剤や植物の種類に応じて適した濃度が異なることは技術常識であるから(例えば、前記1(2)イ)、培地におけるSTS剤の濃度を検討して銀イオン濃度で50μM~130μMと決定することも、当業者が通常行う範囲内の事項である。
次に、本願発明の奏する効果を検討すると、本願明細書の発明の詳細な説明中でSTS剤の濃度と不定胚誘導効率との関係を示す実験結果は、実施例2の表3(各種エチレン阻害剤がヤツガタケトウヒの不定胚誘導に及ぼす影響)のみであるところ、当該表3によれば、STS剤の銀イオン濃度が本願発明における銀イオン濃度(50μM~130μM)の範囲内の67μMの場合に、前記範囲外の44μMの場合より不定胚誘導効率が劣るから、本願発明が、培地中のSTS剤の濃度を銀イオン濃度で50μM~130μMの範囲に特定することにより、格別有利な効果を奏するものとも、引用発明と比較して有利な効果を奏するものとも認めることはできない。
以上のことから、本願発明は、引用発明及び引用文献2に記載された周知技術から、当業者が容易に発明をすることができたものである。
4 請求人の主張について
請求人は、原審の拒絶理由に対する意見書にて、引用文献1には、試薬により有効な銀イオン濃度が異なることは記載されておらず、クリザール又はSTS剤を用いる場合に、当業者ならば、引用文献1の記載に基づいて銀イオン濃度で数μMで用いるものと思われ、銀イオン濃度で50μM~130μMで用いることは予測することができない旨主張し、また、審判請求書にて、本願発明では、STS剤を用いる場合に、硝酸銀を用いる場合よりも、高い銀イオン濃度で用いるのに対して、引用文献2では硝酸銀溶液とSTSとはほぼ同程度の銀イオン濃度で使用されている旨、主張する。
しかしながら、前記3にて説示したとおり、引用発明のエチレン作用阻害剤である硝酸銀に代えてSTS剤を採用する際に培地中のSTS剤の濃度を検討して決定することは当業者が通常行う範囲内の事項である。加えて、本願発明の50μM~130μMの銀イオン濃度は、引用発明の硝酸銀の銀イオン濃度約6μMとたかだか10~20倍程度しか異ならないところ、培養培地に添加する作用剤の濃度を最適化するにあたり、10倍~数10倍単位で段階的に希釈して濃度を検討することは通常行われていることに過ぎず、本願発明の50μM~130μMの銀イオン濃度は当業者が検討し得る範囲の値であるといえる。加えて、チオ硫酸銀錯塩は水に溶けた際にAg(S2O3)23-の陰イオン錯体を生じることでAg+の陽イオンを生じる硝酸銀と異なる性質の化合物であることに鑑みれば、不定胚誘導に適した銀イオン濃度が培地中でチオ硫酸銀錯塩あるいはAg(S2O3)23-が示す挙動に応じて、引用発明の硝酸銀の約6μMや、引用文献2のホップ雌株における雄花誘導の濃度と異なることが、当業者の予測を超える事項であるとはいえない。
以上のことから、請求人の上記の主張を考慮しても、3にて説示した当審の判断は変わらない。
第5 むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項2に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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