特許拒絶査定不服審判
2018-010386
塗料分散体
- 審判番号
- 2018-010386
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2016-186585外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2018年07月31日
- 審決日
- 2019年09月24日
- 公報発行日
- 2020年03月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 分類
- P18 .537-WZ (C09D) / P18 .121-WZ (C09D)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項特許法36条6項1号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2016-186585「塗料分散体」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 2月16日出願公開、特開2017- 36451〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本願は、2013年(平成25年)5月6日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2012年5月9日 欧州特許庁(EP)、2012年5月9日 米国(US))を国際出願日とする特願2015-510756号の一部を、平成28年9月26日に新たな特許出願とした外国語書面出願であって、以降の手続の経緯は、概略以下のとおりのものである。
平成28年 9月30日 :翻訳文提出書・手続補正書・上申書
平成29年 7月28日付け:拒絶理由通知書
同年10月30日 :意見書
平成30年 3月30日付け:拒絶査定
同年 7月31日 :審判請求書
平成31年 4月16日付け:当審における拒絶理由通知書
令和 元年 7月18日 :意見書
第2 本願発明
本願の請求項1~14に係る発明は、平成28年9月30日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~14に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】
シラン処理コロイダルシリカ粒子およびアクリレート系バインダーを含む水性塗料分散体であって、アクリレート系バインダーに対するSiO2の乾燥重量比が、0.02から0.2の範囲であり、前記分散体中の、XRFによって測定されたSiO2の含有量が、1.05から7.5wt%の範囲であり、シラン処理コロイダルシリカ粒子中に存在するシラン基が、エポキシ基、グリシドキシ基、グリシドキシプロピル基を含有するシラン、ウレイド系シラン、メタクリルアミドシラン、メルカプトシラン、およびそれらの組合せに由来し、コロイダルシリカ粒子が、水ガラスから生じるポリケイ酸の重合によって調製される、分散体。」
第3 当審における拒絶理由の概要
当審において、平成31年4月16日付けで通知した拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という)のうち、理由1および理由3の概要は、それぞれ、以下のとおりである。
「理由1.(サポート要件)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。」
「理由3.(進歩性)この出願の請求項1~14に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記1、2の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
・・・(中略)・・・
2.引用刊行物
1.特表2006-503156号公報(拒絶査定における引用文献1)
2.国際公開第2010/103020号(拒絶査定における引用文献3)」
第4 当審拒絶理由の理由1(サポート要件)の妥当性についての判断
1 サポート要件の判断手法について
特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できるものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願日当時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できるものであるか否かを検討して判断すべきものである。
このような観点に立って、以下検討する。
2 特許請求の範囲の記載
本願の特許請求の範囲の請求項1の記載は上記第2のとおりである。
3 発明の詳細な説明の記載
本願明細書の発明の詳細な説明には以下の事項が記載されている。
摘記ア:段落0004~0005
「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特に、表面張力の低下および/または発泡問題など、その他のいかなる問題も発生せず、塗料がより好都合に塗布できるようにオープンタイムを延長する分散体を提供することが望ましい。オープンタイムは、塗料を、前に塗装された領域に再塗装することができる持ち時間である。オープンタイムは、コーティングにとって、特に刷毛塗りにとって重要な性能特性である。装飾用塗料は、それによって、より好都合にかつ柔軟に塗布できる。
【0005】
また、安定性のある塗料分散体を提供することが望ましい。特に、沈殿またはゲル化することなく、容易に貯蔵し輸送できる分散体を提供することが望ましい。また、かかる分散体を生成する好都合で安価な方法を提供することが望ましい。本発明の目的は、環境への影響を同時に最小化する、例えば、溶剤型塗料を回避するかかる分散体を提供することである。さらに、基材への塗布後の塗料の乾燥時間を維持するまたは短縮することが望ましい。」
摘記イ:段落0006
「【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、シラン処理コロイダルシリカ粒子とアクリレート系バインダーとを混合するステップを含む、水性塗料分散体を調製する方法であって、アクリレート系バインダーに対するSiO2の乾燥重量比が、0.02から0.2の範囲であり、シラン処理コロイダルシリカ粒子は、前記分散体中の、XRFによって測定されたSiO2の含有量が、1.05から7.5wt%の範囲になる量で混合され、シラン処理コロイダルシリカ粒子中に存在するシラン基が、エポキシ基、グリシドキシ基、グリシドキシプロピル基を含有するシラン、ウレイド系シラン、メタクリルアミドシラン、メルカプトシラン、およびそれらの組合せに由来する、方法に関する。」
摘記ウ:段落0046~0052
「【実施例】
【0046】
塗料の調製
表1に提示された水性塗料配合物の対照塗料および塗料A~Hを、高速Kreis溶解器(Niemann)タイプKDV30-3.0(2240rpmで30分間)を用いてすりつぶし分散した構成成分1から7のミルベースを、最初に生成することによって、室温で調製した。使用された構成成分の説明は、表2にある。構成成分8から14を含むレットダウンを、分散して1000rpmで15分間、適度に撹拌した後、引き続きミルベースに加えた。下の表1からわかるように、対照塗料は、シラン処理コロイダルシリカ(Bindzil CC301)を含有しないが、さらなる塗料A~Hは、レットダウンまたはミルベースに加えられたBindzil CC301を含む(塗料B bisに対してのみミルベースに添加)。下の表3は、調製された塗料組成物の特徴を示す。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【0049】
【表3】
【0050】
下の表4でわかる通り、加えるシラン修飾コロイダルシリカ(Bindzil CC301)が多すぎると、オープンタイムの延長をもたらさないが、塗料の固形成分含有量を低下させ、この低下は望ましくない。例えば、表1に示された配合物にBindzil CC301を20重量部(生成物に対して)加えることによって、固形成分含有量49.3wt%となり、これは水の追加部分が蒸発する必要があることを意味する。さらに、シラン修飾シリカの投与量が多いと、コストの観点から不経済であり得る。SiO2含有量を、XRFによって測定し、定量化した。本発明のシリカ含有量を測定するための方法は、以下の通りである。Li2B4O7によって試料を溶解しガラスビードにすることによって、試料調製を行った。炭素含有量が高い場合、試料を溶解する前に空気中で加熱する。同じように、認証基準を使用することによって、対照試料を調製した。Rh管によって発生させたガンマ放射線で試料を照射し、次に、Philips Magix PW2424分光計で、試料により放射された蛍光放射線の量を測定することによって、XRFを使用するSiO2の定量化を実施した。拡散を抑えるための最良の試料調製は、例えばLi2B4O7を使用して、試料を溶解しガラスビードにすることである。とりわけ、British Chemical Standards(BCS)およびNational Bureau of Standards(NBS)による16種類の認証基準によって作られた較正を使用して、蛍光の量を測定する。
【0051】
【表4】
【0052】
オープンタイムを測定するこの方法は、塗料が、刷毛入れおよび修復を可能にするほど十分「湿っている」または「オープンな」状態のままである時間の長さを決定する手順を網羅している。この方法は、時間間隔の間に(間隔=1分)塗料を、それ以上不可能になるまで塗布するような(前後への刷毛塗り10回)、刷毛を用いた塗料表面の再塗装を含む。表4から、シラン修飾シリカのミルベースおよびレットダウンへの添加時点は何ら重要でないように見えることがわかる(参照、塗料Bおよび塗料B bis)。i)塗料を、少しも眼に見える欠陥なしに再塗装できる時間のオープンタイムと、ii)塗料が明確なよく見える欠陥を有した時点までのオープンタイムとの両方に関して言えば、オープンタイムを考慮した重要な向上が、塗料C~Hについて達成されている。」
4 本願発明の解決すべき課題について
本願発明の課題は、本願明細書の発明の詳細な説明の段落0004~0005(摘記ア)の記載からみて、「表面張力の低下および/または発泡問題など、その他のいかなる問題も発生せず、塗料がより好都合に塗布できるようにオープンタイムを延長し、沈殿またはゲル化することなく、容易に貯蔵し輸送でき、環境への影響を最小化し、基材への塗布後の塗料の乾燥時間を維持するまたは短縮する分散体を提供すること」(以下、「本願発明の課題」という。)であると認められる。
5 本願発明の課題を解決するための手段
本願明細書の発明の詳細な説明の段落0006(摘記イ)の記載からみて、本願発明は、その課題を解決するための手段として、アクリレート系バインダーに対して、「シラン処理コロイダルシリカ粒子中に存在するシラン基が、エポキシ基、グリシドキシ基、グリシドキシプロピル基を含有するシラン、ウレイド系シラン、メタクリルアミドシラン、メルカプトシラン、およびそれらの組合せに由来し、コロイダルシリカ粒子が、水ガラスから生じるポリケイ酸の重合によって調製されるシラン処理コロイダルシリカ粒子」(以下、「本願発明のシラン処理コロイダルシリカ粒子」という。)を配合し、その配合量を「アクリレート系バインダーに対するSiO2の乾燥重量比が、0.02から0.2の範囲」、「分散体中の、XRFによって測定されたSiO2の含有量が、1.05から7.5wt%の範囲」と規定しているものと認められる。
6 サポート要件に適合するか否かの検討
しかしながら、本願の発明の詳細な説明には、アクリレート系バインダーに対して、上記「本願発明のシラン処理コロイダルシリカ粒子」を特定量配合することによって、水性塗料分散体の物性がどのように変化し、上記本願発明の課題を解決することになるのか、またその原理が如何なるものであるのかといった作用機序が、明りょうに記載されていない。
また、本願の発明の詳細な説明の実施例には、アクリル樹脂「Primal HG 1000」、顔料「Kronos 2310」、分散剤「Disperbyk 190」、レオロジー改質剤「AquaFlow NHS 300」、増粘剤「Coapur XS 52」、合体剤「Texanol」などをそれぞれ特定量含む塗料に対して、シラン処理コロイダルシリカ粒子「Bindzil CC301」を様々な配合量で配合し、オープンタイムの延長効果について確認した例が記載されているものの、各成分として実施例で用いられているのはそれぞれただ1種類のみであるし、シラン処理コロイダルシリカ粒子以外の成分の配合量はすべて等しい。
ここで、塗料組成物の技術分野においては、アクリル樹脂、顔料、分散剤、レオロジー改質剤、増粘剤、合体剤、シラン処理コロイダルシリカ粒子などの種類、物性、量などが異なれば、組成物の物性が異なるのが本願出願時の技術常識である。したがって、アクリル樹脂などの種類などが当該特定の実施例と異なる態様においても、当該特定の実施例と同様の効果が奏されるとはいえないし、当該特定の実施例の効果が確認できれば、本願発明の全般に渡って同様の作用効果を奏することを裏付けるような根拠も見当たらない。
してみれば、本願の発明の詳細な説明に接した当業者が、本願発明が、本願発明の課題を解決できると認識することは不可能というべきであるし、また、本願の出願日時点の技術常識を参酌しても本願発明の課題を解決できると認識することは不可能というべきである。よって、特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するということはできない。
7 請求人の主張の検討
請求人は、令和1年7月18日提出の意見書において、
「当業者であれば、本願の実施例で明確に実証された結果に基づき、かつ本願優先日時点の技術常識をも参考にすれば、本願発明の全般にわたって、実施例における結果を合理的に一般化できると思料いたします。
実施例において、「Bindzil CC301」は、シラン処理コロイダルシリカとして使用され、これはグリシドキシプロピルシラン(グリシドキシプロピル基を含有するシラン)で修飾された、周知の市販材料です(なお、これに関してはさらに以下で詳細に説明します)。本願発明では、例えばエポキシド環含有基、またはウレイド、メルカプトもしくはメタクリルアミドのような他の酸素又は硫黄含有基などの官能基を含むその他のシラン基も規定されていますが、これらのその他のシラン基で修飾されたコロイダルシリカであっても、グリシドキシプロピルシラン修飾コロイダルシリカを使用して得られた技術的効果と同様の効果が得られると、当業者であれば合理的に類推することができます。そしてこの類推を覆すような技術常識や資料もありません。
例示された塗料組成物中の他の含有成分に関しても、当業者であれば、アクリレート塗料組成物に使用され得る、ある種の性質または機能を有する従来の含有成分、例えばバインダー(アクリレート系)、分散剤/湿潤剤、合体剤/可塑剤、消泡剤、顔料、充填剤、増粘剤、分散剤、レオロジー改質剤、殺生物剤などが存在することを十分理解しています(段落[0008]~[0017])。そして、これらの他の含有成分についても、実施例で使用されたものと異なるものを使用したからと言って、全く異なる挙動を引き起こすことにはならないことは当業者であれば十分理解しています。そしてこの理解を覆すような技術常識や資料もありません。
審判官殿のご指摘のとおり、実施例では、これらの他の含有成分の相対量を同じに保つ一方で、処理コロイダルシリカの量は変更しています。これは、塗料分散体のオープンタイムに重要な影響を及ぼすファクターが処理コロイダルシリカの濃度であることを実証する実験として位置付けているためです。一方で、シラン処理コロイダルシリカの濃度を特定の限度内に維持し、かつ、アクリレート系バインダーに対する相対濃度も特定の限度内に維持することを前提とした場合、他の含有成分の量を様々に変化させたとしても、発明の本質(オープンタイム改善の効果)に大きな影響を与えることはないと考えるのは、当業者における共通の知識です。そしてこれを覆すような技術常識や資料もありません。
結論として、本願発明は、特定のシラン基で修飾したコロイダルシリカを使用することで、好ましいオープンタイムの効果が得られるという知見に基づいています。そして、本願発明の全範囲は、実施例で実際に実証された分散体の範囲に加えて、そのデータから当業者が合理的かつ妥当と判断できる一般化された範囲によって十分サポートされていると思料いたします。」と主張する。
しかし、明細書のサポート要件の存在は、特許出願人(請求人)が証明責任を負うのが相当であるにも関わらず、「当業者であれば合理的に類推することができます。」、「当業者であれば十分理解しています。」、「当業者における共通の知識です。」との主張について、請求人はそれを裏付ける証拠を何ら提示していない。また、上記6でも述べたとおり、それら主張を裏付ける根拠が存在するとも認められない。例えば、組成物中の他の物質の存在に関わらず「オープンタイム改善」をもたらす剤が存在し、当該剤と本願発明のシラン処理コロイダルシリカ粒子の類似性から、本願発明のシラン処理コロイダルシリカ粒子によるオープンタイム改善の効果が類推できる、といった事情は認められない。
よって、請求人の主張は採用できない。
8 まとめ
以上検討のとおり、本願発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではないから、本願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。
第5 当審拒絶理由の理由3(進歩性)の妥当性についての判断
1 本願発明
本願発明は、上記第2のとおりである。
2 引用刊行物
引用例1:特表2006-503156号公報
引用例2:国際公開第2010/103020号
3 引用刊行物の記載
引用例1、2には、それぞれ、次の記載がある。なお、引用例2についてはパテントファミリーである特表2012-520227号公報(以下、「公表公報」という)の該当箇所の翻訳文をもって示し、国際公開及び公表公報双方における記載箇所を明示した。
(1)引用例1
(1a)「【請求項1】
少なくとも一種のシラン化合物及びコロイドシリカ粒子を混合してシラン処理コロイドシリカ粒子を形成し、前記シラン処理コロイドシリカ粒子を有機バインダーと混合して安定な実質的に水性の分散液を生成することを特徴とする安定な実質的に水性の分散液の製造方法。
【請求項2】
前記シラン化合物がエポキシシランである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記シラン化合物がグリシドキシ基を有するエポキシシランである、請求項1又は2のいずれかに記載の方法。
【請求項4】~【請求項7】(省略)
【請求項8】
シリカ対有機バインダーの重量比が約0.01から約4までである、請求項1から7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載の方法により得られる安定な実質的に水性の分散液。
【請求項10】
シラン処理コロイドシリカ粒子及び有機バインダーを含むことを特徴とする安定な実質的に水性の分散液。
【請求項11】(省略)
【請求項12】
被覆適用のための請求項9から11のいずれかに記載の分散液の使用。
【請求項13】(省略)」(請求項1~3、8~10、12)
(1b)「【0004】
初期に沈殿しないで容易に貯蔵でき、輸送でき、しかも改良された接着性、耐磨耗性、及び/又は耐水性を必要とする用途に使用し得る安定かつ高度に濃厚なコロイドシリカ分散液を提供することは望ましいであろう。また、このような分散液の便利かつ安価な製造方法を提供することは望ましいであろう。本発明の目的は分散液の付与された効果を低下しないで環境上の影響を最小にするこのような安定な分散液を提供することである。」(段落0004)
(1c)「【0011】
特に文脈“安定な分散液”中の、“安定な”という用語は、好ましくは少なくとも約2ヶ月、更に好ましくは少なくとも約4ヶ月、最も好ましくは少なくとも約5ヶ月の期間内で室温、即ち約15℃から約35℃までの温度における通常の貯蔵で実質的にゲル化又は沈殿しない安定な化合物、混合物又は分散液を意味する。」(段落0011)
(1d)「【0021】
前記シラン化合物はシラノール基と安定なシロキサン共有結合(Si-O-Si)を形成することができ、又は、例えば、コロイドシリカ粒子の表面で、水素結合によりシラノール基に結合し得る。こうして、この方法により、シリカ粒子が表面変性される。
【0022】
好適なシラン化合物として、トリス-(トリメトキシ)シラン、オクチルトリエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、イソシアネートシラン、例えば、トリス-〔3-(トリメトキシシリル)プロピル〕イソシアヌレート、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビス-(3-〔トリエトキシシリル〕プロピル)ポリスルフィド、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)-エチルトリメトキシシラン、エポキシ基(エポキシシラン)、グリシドキシ及び/又はグリシドキシプロピル基を含むシラン、例えば、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、(3-グリシドキシプロピル)トリメトキシシラン、(3-グリシドキシプロピル)ヘキシルトリメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)-エチルトリエトキシシラン、ビニル基を含むシラン、例えば、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリス-(2-メトキシエトキシ)シラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、γ-メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリルオキシプロピルトリイソプロポキシシラン、γ-メタクリルオキシプロピルトリエトキシシラン、オクチルトリメチルオキシシラン、エチルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、3-クロロプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、i-ブチルトリエトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、フェニルジメチルエトキシシラン、ヘキサメチルジシロキサン、トリメチルシリルクロリド、ビニルトリエトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン、及びこれらの混合物が挙げられる。米国特許第4,927,749号は本発明に使用し得る更なる好適なシランを開示している。しかしながら、最も好ましいシランはエポキシシラン及びグリシドキシ基又はグリシドキシプロピル基を含むシラン化合物、特にγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン及び/又はγ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシランである。」(段落0021~0022)
(1e)「【0023】
有機バインダーが続いてシラン処理コロイドシリカ粒子の分散液と混合される。この“有機バインダー”という用語はラテックス、水溶性樹脂、ポリマー及びこれらの混合物を含む。水溶性樹脂及びポリマーは種々の型のもの、例えば・・・・・(中略)・・・・・ポリ(アクリル酸)、・・・・・(中略)・・・・・ポリアクリルアミド・・・・・(中略)・・・・・であってもよい。前記“ラテックス”という用語は樹脂及び/又は種々の型のポリマー、例えば・・・・・(中略)・・・・・、アクリルポリマー、例えば、ビニルアクリルコポリマー又はスチレン-アクリルポリマー、・・・・・(中略)・・・・・を含む。」(段落0023)
(1f)「【0024】
好ましくは、前記シラン処理コロイドシリカ粒子の分散液は約0.01から約4まで、好ましくは約0.1から約2まで、最も好ましくは約0.2から約1までの乾燥基準でのシリカ対有機バインダーの重量比で有機バインダーに添加される。好ましくは、これらの成分は、好適には約15℃から約35℃まで、好ましくは約20℃から約30℃までの適度の温度で混合される。好ましくは、各成分は約10秒から約1時間まで、更に好ましくは約1分から約10分まで混合される。」(段落0024)
(1g)「【0028】
好ましくは、この分散液は分散液中の乾燥材料を基準として約1重量%から約80重量%まで、更に好ましくは約10重量%から約70重量%まで、最も好ましくは約20重量%から約50重量%までのシリカ含量を有する。この分散液は、安定性に関して一層有効であることの他に、被覆される材料への適用後に乾燥の一層短い時間を有する。
【0029】
こうして、乾燥に使用されるエネルギーがかなり減少し得る。分散液中の高いシリカ含量は、シラン処理コロイドシリカ粒子が実質的な凝集、沈殿及び/又はゲル化を生じないで安定に分散されて留まる限り、好ましい。これはまたその低減された輸送コストに鑑みて有益である。」(段落0028~0029)
(1h)「【0031】
前記有機バインダーは、本明細書に更に記載された、ラテックスであることが好ましい。この有機バインダー及びシラン処理コロイドシリカ粒子を含む分散液の全固形分は好適には約15重量%から約80重量%まで、好ましくは約25重量%から約65重量%まで、最も好ましくは約30重量%から約50重量%までである。乾燥基準のシリカ対有機バインダーの重量比は約0.01から約4まで、好ましくは約0.1から約2まで、最も好ましくは約0.2から約1までの範囲である。」(段落0031)
(1i)「【0036】
本発明はまた被覆適用における、また増大された接着性、改良された耐磨耗性、及び/又は耐水性をコンクリートの如きセメント材料に付与するための添加剤としての分散液の使用に関する。この分散液は、被覆物として使用される場合に改良された硬度、研磨性及び流動性を有する。この種の分散液はまた着色系、例えば、塗料において一層良好なフィルム特性を与え得る。
【0037】
また、この分散液は織物及び不織布、レンガ、写真紙、木材、金属表面、例えば、鋼又はアルミニウム、プラスチックフィルム、例えば、ポリエステル、PET、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリカーボネート、又はポリスチレン、布、レザー、紙及び紙のような材料、セラミック、石、セメント質材料、ビチュメン、硬質繊維、わら、ガラス、磁器、異なる種類のプラスチック、例えば、帯電防止仕上げ及び耐グリース仕上げのためのガラス繊維を被覆し、また含浸するのに、また不織布、接着剤、接着促進剤、積層剤、シーラント、疎水化剤のためのバインダーとして、例えば、コルク粉末もしくはのこぎりくず、アスベスト、及びゴム廃棄物のためのバインダーとして、織物印刷及び製紙工業における助剤として、例えば、ガラス繊維用のサイジング剤としてのポリマーへの添加剤として、またレザーを仕上げるのに適している。」(段落0036~0037)
(1j)「【0048】
分散液の安定性
2種の異なる有機バインダー、即ち、U-801TM(アルバーディンク・ボレイからのポリウレタン樹脂エマルション)及びモウィリスTM LDM 7602-S(セラニーズからのアクリル樹脂エマルション)を使用して、本発明の分散液及びシラン処理しなかったシリカ分散液の安定性を以下に比較した。樹脂の用量はU-801について80gであり、モウィリスTMLDM 7602-Sについて100gであった。シリカ対有機バインダーの重量比はU-801TM及びモウィリスTMLDM 7602-Sについて夫々0.20及び0.40であった。サンプルを40℃で貯蔵して20℃で得られるよりも4倍の促進時間を得た。粘度(mPas、20℃)をブルックフィールド粘度計で初期、1ヶ月後及び4.5ヶ月後に測定した。水中のシランのプレミックス(シルクエストA-187:H2O(1:1))をシリカゾルに段階的に添加することによりシラン処理シリカ粒子を調製した。」(段落0048)
(1k)「【0051】
表6に見られるように、本発明の分散液の貯蔵安定性は優れており、一方、比較分散液A5、A7、及びA8(シラン処理しなかったシリカ粒子を含む)は不安定になり、時間のほんの短い期間後に固体にゲル化する。」(段落0051)
(2)引用例2
(2a)「【請求項1】~【請求項8】(省略)
【請求項9】
シラン処理コロイドシリカ粒子を含む水性分散体であって、前記シラン処理コロイドシリカ粒子が、a)エポキシ官能性を含む、少なくとも1種のシラン化合物と、b)エポキシ官能性を有しない、少なくとも1種のシラン化合物とに由来するシラン基を含む水性分散体。
【請求項10】(省略)
【請求項11】
b)が、アミド官能性、アミノ官能性、エステル官能性、メルカプト官能性、イソシアナト官能性および/またはウレイド官能性を含む、請求項9または10に記載の水性分散体。
【請求項12】~【請求項13】(省略)
【請求項14】
ラッカーをさらに含む、請求項9から13のいずれか一項に記載の水性分散体。
【請求項15】
コーティング用途における、請求項8から14のいずれかに記載の分散体の使用。」(請求項9、11、14、15、公表公報の請求項9、11、14、15)
(2b)「【0004】
従来技術の上記の欠陥を考慮して、改良されたシラン処理シリカゾル分散体を提供することが望ましいであろう。何ら初期沈殿物を含まずに、容易に貯蔵および輸送することができる、とりわけコーティング用途向けの高濃度のコロイドシリカ分散体を提供することが、やはり望ましいであろう。さらなる目的は、ラッカー配合物に、高耐水性および/または硬度、特に早期硬度(early hardness)を付与する分散体を提供することである。このような分散体の便利かつ安価な製造方法を提供することも望ましいであろう。」(第1頁20行~26行、公表公報の段落0004)
(2c)「【0011】
一実施形態により、アミド官能性物は、(メタ)アクリルアミド基を含む。一実施形態により、アミド官能性を有するシランには、例えば一般式(II)CH2=CR5-CO-NR6-R7-SiR8m-(R9)3-m(式中、m=0~2であり、R5はHまたはメチル基のいずれかであり、R6はHまたは、炭素原子1~5個を有するアルキル基であり、R7は、炭素原子1~5個を有するアルキレン基、または、炭素鎖がOもしくはN原子により中断される2価の有機基であり、R8は、炭素原子1~5個を有するアルキル基であり、またR9は、さらに複素環により置換されうる、炭素原子1~40個を有するアルコキシ基である。)のメタ(アクリルアミド)含有シラン基のエチレン性不飽和、シラン含有モノマーが含まれる。2個以上のR5基またはR9基が存在するモノマーでは、これらの基は同一もしくは異なることができる。この種類の(メタ)アクリルアミド-アルキルシランの例は、3-(メタ)アクリルアミド-プロピルトリメトキシシラン、3-(メタ)-アクリルアミド-プロピルトリエトキシシラン、3-(メタ)アクリルアミド-プロピルトリ(β-メトキシエトキシ)シラン、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロピルトリメトキシシラン、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルエチルトリメトキシシラン、N-(2-(メタ)アクリルアミド-エチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリルアミド-プロピルトリアセトキシシラン、2-(メタ)アクリルアミド-エチルトリ-メトキシシラン、1-(メタ)アクリルアミド-メチルトリメトキシ-シラン、3-(メタ)アクリルアミド-プロピルメチルジメトキシ-シラン、3-(メタ)アクリルアミド-プロピルジメチルメトキシ-シラン、3-(N-メチル-(メタ)アクリルアミド)-プロピルトリメトキシシラン、3-((メタ)アクリルアミド-メトキシ)-3-ヒドロキシ-プロピルトリメトキシシラン、3-((メタ)アクリルアミド-メトキシ)-プロピルトリメトキシシラン、N,N-ジメチル-N-トリメトキシ-シリルプロピル-3-(メタ)アクリルアミド-プロピルアンモニウムクロリドおよびN,N-ジメチル-N-トリメトキシシリルプロピル-2-(メタ)アクリル-アミド-2-メチルプロピルアンモニウムクロリドである。
【0012】
一実施形態により、ウレイド官能性を有するシランには、例えばβ-ウレイドエチル-トリメトキシシラン、β-ウレイドエチル-トリエトキシシラン、γ-ウレイドエチルトリメトキシシランおよび/またはγ-ウレイドプロピル-トリエトキシシランが含まれる。
・・・・・(中略)・・・・・
【0014】
一実施形態により、エポキシ官能性を有するシランには、例えばグリシドキシおよび/もしくはグリシドキシプロピル基、例えばガンマ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、ガンマ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、メチルジエトキシシランガンマ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、(3-グリシドキシプロピル)トリメトキシシラン、(3-グリシドキシプロピル)ヘキシルトリメトキシシラン、ベータ-(3,4-エポキシシクロヘキシル)-エチルトリエトキシシランなどが含まれる。
【0015】
一実施形態により、エポキシ官能性を有するシランには、少なくとも1つのグリシドキシもしくはグリシドキシプロピル基、特にガンマ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、および/またはガンマ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシランが含まれる。
【0016】
一実施形態により、メルカプト官能性を有するシランには、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、HS(CH2)3、Si(OCH3)3、少なくとも1つのヒドロキシアルコキシシリル基および/または環状ジアルコキシシリル基を有するメルカプトシラン、ガンマ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ガンマ-メルカプトプロピルトリエトキシシランが含まれる。
【0017】
一実施形態により、アミノ官能性を有するシランは、アミノメチルトリエトキシシラン、N-(β-アミノエチル)アミノメチルトリメトキシシラン、アミノメチルメチルジエトキシシラン、N-(β-アミノエチル)メチルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、γ-アミノイソブチルトリメトキシシラン、N-(β-アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、およびN-(β-アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシランから選択される。使用できる上記のシラン官能性物のさらなる特定の例には、参照により本明細書に組み込まれているUS5,928,790において言及されているものが含まれる。」(第2頁14行~第3頁28行、公表公報の段落0011~0017)
(2d)「【0025】
本明細書においてシリカゾルとも呼ばれるコロイドシリカ粒子は、例えば十分な純度を有する沈降シリカ、ミクロシリカ(シリカフューム)、発熱性シリカ(フュームドシリカ)またはシリカゲル、ならびにそれらの混合物に由来でき、それらは、WO2004/035474中に記載される方法によってシラン処理できる。シリカゾルは、典型的には、例えばUS,5,368,833において開示される水ガラスから得ることもできる。」(第4頁36行~第5頁3行、公表公報の段落0025)
(2e)「【0037】
一実施形態により、シラン処理コロイドシリカ粒子の分散体に、有機バインダーが添加される。用語「有機バインダー」には、ラテックス、水溶性樹脂およびポリマーならびにこれらの混合物が含まれる。水溶性樹脂およびポリマーは、例えば・・・・・(中略)・・・・・などの、種々のタイプのものとすることができる。用語「ラテックス」には、合成および/もしくは天然のラテックスであって、種々のタイプの樹脂および/もしくはポリマー、例えば・・・・・(中略)・・・・・;ビニルアクリルコポリマーもしくはスチレン-アクリルポリマーなどのアクリルポリマー;・・・・・(中略)・・・・・に基づくラテックスが含まれる。」(第6頁26行~第7頁8行、公表公報の段落0037)
(2f)「【0038】
一実施形態により、シラン処理コロイドシリカ粒子の分散体は、水性ラッカー、例えば木材用ラッカーもしくはエポキシラッカー、などのラッカーと、乾燥基準におけるシリカとラッカーの重量比約0.01~約4、例えば約0.1~約2、もしくは約0.2~約1、または約0.2~約0.5などで混合される。同様な形で、シラン処理粒子は、同一の比率で有機バインダーと混合することができる。一実施形態により、シラン処理コロイドシリカ粒子は、有機バインダーもしくはラッカーなどのさらなる成分と適度な温度で、適切には約15~約35℃、もしくは約20~約30℃で混合される。一実施形態により、これらの成分は、約10秒~約1時間、もしくは約1分~約10分混合される。」(第7頁9行~18行、公表公報の段落0038)
(2g)「【0048】
一実施形態により、本分散体は、本明細書においてさらに記述されている、ラテックスなどの有機バインダーをさらに含有する。有機バインダーおよびシラン処理コロイドシリカ粒子を含む分散体の合計固形分含量は、約15~約80重量%、例えば約25~約65、または約30~約50重量%などであるのが適切である。乾燥基準におけるシリカと有機バインダーの重量比は約0.01~約4、例えば約0.1~約2、または約0.2~約1などの範囲にあるのが適切である。」(第8頁17行~22行、公表公報の段落0048)
4 引用例1に記載された発明
引用例1には、摘示事項(1a)(請求項10参照)のとおり、「シラン処理コロイドシリカ粒子及び有機バインダーを含むことを特徴とする安定な実質的に水性の分散液。」に係る発明が記載されている。
ここで、引用例1には、上記「分散液」は「被覆適用のために使用」されると記載されており(摘示事項(1a)の請求項12参照)、より具体的には「塗料」として使用されることが記載されている(摘示事項(1i)参照)。そして、引用例1には、上記「有機バインダー」として、「ポリ(アクリル酸)」、「ポリアクリルアミド」、「アクリルポリマー」(例えば、「ビニルアクリルコポリマー」又は「スチレン-アクリルポリマー」)といったポリマーが例示され(摘記事項(1e)参照)、その実施例で「アクリル樹脂エマルジョン」が使用されている(摘記事項(1j)参照)。また、引用例1には、「乾燥基準でのシリカ対有機バインダーの重量比」を「約0.01から約4まで」とすることも記載されている(摘記事項(1a)の請求項8及び(1f)参照)。
よって、引用例1には、「シラン処理コロイドシリカ粒子及びポリ(アクリル酸)、ポリアクリルアミド、アクリルポリマー(例えば、「ビニルアクリルコポリマー」又はスチレン-アクリルポリマー)、アクリル樹脂エマルジョンといった有機バインダーを含むことを特徴とする安定な実質的に水性の塗料分散液であって、乾燥基準でのシリカ対有機バインダーの重量比が約0.01から約4までである水性の塗料分散液。」(以下、この発明を「引用例1発明」という。)が記載されていると認められる。
5 対比・判断
本願発明と引用例1発明とを比較する。
本願発明における「アクリレート系バインダー」の定義(本願明細書の段落0033参照)を参酌すると、引用例1発明の「ポリ(アクリル酸)、ポリアクリルアミド、アクリルポリマー(例えば、「ビニルアクリルコポリマー」又はスチレン-アクリルポリマー)、アクリル樹脂エマルジョンといった有機バインダー」は、本願発明の「アクリレート系バインダー」に相当するものと認められる。また、引用例1発明の「水性の塗料分散液」が本願発明の「水性塗料分散体」に相当することも明らかである。してみると、引用例1発明の「シラン処理コロイドシリカ粒子及びポリ(アクリル酸)、ポリアクリルアミド、アクリルポリマー(例えば、「ビニルアクリルコポリマー」又はスチレン-アクリルポリマー)、アクリル樹脂エマルジョンといった有機バインダーを含むことを特徴とする安定な実質的に水性の塗料分散液」は、本願発明の「シラン処理コロイドシリカ粒子およびアクリレート系バインダーを含む水性塗料分散体」に相当するといえる。
また、引用例1発明の「乾燥基準でのシリカ対有機バインダーの重量比」が、本願発明の「アクリレート系バインダーに対するSiO2の乾燥重量比」に相当するものであることも明らかである。
よって、本願発明と、上記引用例1発明とは、
「シラン処理コロイダルシリカ粒子およびアクリレート系バインダーを含む水性塗料分散体であって、アクリレート系バインダーに対するSiO2の乾燥重量比が特定の範囲内である、分散体」
である点で一致し、一方、下記の点で相違しているものと認められる。
(相違点1)
シラン処理コロイダルシリカ粒子に関して、本願発明においては、「シラン処理コロイダルシリカ粒子中に存在するシラン基が、エポキシ基、グリシドキシ基、グリシドキシプロピル基を含有するシラン、ウレイド系シラン、メタクリルアミドシラン、メルカプトシラン、およびそれらの組合せに由来」するものと規定されているのに対して、引用例1発明においては、このように規定されていない点
(相違点2)
シラン処理コロイダルシリカ粒子に関して、本願発明においては、「コロイダルシリカ粒子が、水ガラスから生じるポリケイ酸の重合によって調製される」ものであると規定されているのに対して、引用例1発明においては、このように規定されていない点
(相違点3)
本願発明においては、アクリレート系バインダーに対するSiO2の乾燥重量比が、「0.02から0.2の範囲」であるのに対して、引用例1発明においては、「約0.01から約4まで」である点
(相違点4)
本願発明においては、「分散体中の、XRFによって測定されたSiO2の含有量が、1.05から7.5wt%の範囲である」のに対して、引用例1発明においては、分散体中のXRFによって測定されたSiO2の含有量については記載されていない点
上記相違点1について検討するに、引用例1には、エポキシ基、グリシドキシ基、グリシドキシプロピル基を含有するシランとコロイダルシリカ粒子とを反応させてシラン処理コロイダルシリカ粒子を製造する点も記載されている(摘記事項(1d)参照)。しかるに、引用例1発明には、「シラン処理コロイダルシリカ粒子中に存在するシラン基が、エポキシ基、グリシドキシ基、グリシドキシプロピル基を含有するシランおよびそれらの組合せに由来」するものとする態様が記載されているものと認められ、相違点1は実質的な差異ではない。なお、本願明細書の段落0018には、「シラン処理コロイダルシリカ粒子は、先行技術、例えばWO2004/035474に記載されているいずれかの手段によって得ることができる。」と記載されているところ、上記WO2004/035474は引用例1のパテントファミリーに相当するものである。
また、引用例2には、引用例1発明と同様に、初期沈殿物を含まずに、容易に貯蔵および輸送をすることができ、高耐水性などに優れたコーティング用のコロイドシリカ分散体を提供するなどの目的で、シラン処理コロイドシリカ粒子を有機バインダー等と混合して安定な実質的に水性の分散液を製造することが記載されているところ(摘示事項(1b)、(2a)、(2b)、(2e)~(2g)参照)、コロイダルシリカ粒子と反応させてシラン処理コロイダルシリカ粒子を製造する際に、エポキシ基、グリシドキシ基、グリシドキシプロピル基を含有するシランのみならず、ウレイド系シラン、メタクリルアミドシラン、メルカプトシランを使用する点も記載されているものと認められる(摘示事項(2a)、(2c)参照)。しかるに、引用例1発明において、「シラン処理コロイダルシリカ粒子中に存在するシラン基が、エポキシ基、グリシドキシ基、グリシドキシプロピル基を含有するシラン、ウレイド系シラン、メタクリルアミドシラン、メルカプトシラン、およびそれらの組合せに由来」するものとすることは、当業者であれば容易に想到することができたものと認められる。
上記相違点2について検討するに、引用例2には、「シリカゾルは、典型的には、例えばUS,5,368,833において開示される水ガラスから得ることもできる」と記載されており(摘示事項(2d)参照)、シラン処理コロイドシリカ粒子を有機バインダー等と混合して安定な実質的に水性の分散液を製造する際に、コロイダルシリカ粒子を、「水ガラスから生じるポリケイ酸の重合によって調製」することは、広く知られた手段と認められる。よって、引用例1発明において、コロイダルシリカ粒子を、「水ガラスから生じるポリケイ酸の重合によって調製」することは、当業者であれば容易になし得ることである。
上記相違点3について検討するに、引用例1発明においても、アクリレート系バインダーに対するSiO2の乾燥重量比が、「約0.01から約4まで」とされているから、本願発明と引用例1発明とのアクリレート系バインダーに対するSiO2の乾燥重量比の範囲は重複しているし、引用例1にはこれを「0.2」とした実施例も記載されているから(摘記事項(1f)参照)、相違点3は実質的な差異とはいえない。また、仮に差異があるとしても、引用例1発明において、所望の目的を達成するためにこの範囲内で最適化を図り、本願発明と同程度の範囲に定めることは、当業者であれば容易になし得ることである。
上記相違点4について検討するに、本願発明において特定されている「分散体中の、XRFによって測定されたSiO2の含有量」について、本願明細書には、「好ましくは、本発明のシリカ含有量を測定するための方法は、以下の通りである。Li2B4O7によって試料を溶解しガラスビードにすることによって、試料の調整を行った。炭素含有量が高い場合、試料を溶解する前に空気中で加熱する。同じように、認証基準を使用することによって、対照試料を調整した。Rh管によって発生させたガンマ放射線で試料を照射し、次にPhilips Magix DW2424分光計で、試料により放射された蛍光放射線の量を測定することによってXRFを使用するSiO2の定量化を実施した。」と記載されており(本願明細書の段落0007、0050参照)、さらに、「シラン処理コロイダルシリカ粒子のSiO2含有量の測定は、好ましくは、任意のさらなる構成成分の添加の前に行われる。」という記載(本願明細書の段落0007参照)とあわせてみると、「分散体中の、XRFによって測定されたSiO2の含有量」とは、分散体に配合する前のシラン処理コロイダルシリカ粒子について測定されたSiO2の含有量と、分散体中におけるシラン処理コロイダルシリカ粒子の配合量により特定されるものであって、SiO2の測定方法(定量化)に依存するものではないと認められる。そして、引用例1発明において、アクリレート系バインダーに対するSiO2の乾燥重量比乾燥基準におけるシリカと有機バインダーの重量比は約0.01~約4などの範囲にあり、有機バインダーおよびシラン処理コロイドシリカ粒子を含む分散体の合計固形分含量は、約15~約80重量%であること(摘示事項(1h)参照)を考慮すると、引用例1発明における分散体中のSiO2の含有量は、本願発明において特定される「1.05から7.5wt%の範囲」を含むものと認められ、相違点4は実質的な差異とはいえない。また、仮に差異があるとしても、引用例1発明において、所望の目的を達成するためにこの範囲内で最適化を図り、本願発明と同程度の範囲に定めることは、当業者であれば容易になし得ることである。
また、本願発明の効果について検討するに、本願発明の「沈殿またはゲル化することなく、容易に貯蔵し輸送でき、環境への影響を最小化し、基材への塗布後の塗料の乾燥時間を維持するまたは短縮する分散体を提供する」という効果は、引用例1にも記載されているので(摘示事項(1b)、(1c)、(1i)、(1k)参照)、格別のものではない。また、引用例1には、 オープンタイム延長に関する効果は記載されていないが、そもそも、本願明細書ではその効果については十分に確認されていない(上記第4参照)。してみると、本願発明が、引用例1~2に記載された発明から予測外の格段の作用効果を奏しているものとは認められない。
したがって、本願発明は、上記引用例1~2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
6 請求人の主張の検討
請求人は、令和1年7月18日提出の意見書において
「上記すべての発明特定事項を組み合わせたもの、すなわち本願発明そのものは引用例1にも引用例2にも一切記載されておらず、さらに、引用例1及び引用例2に記載された多くの情報の中から、本願発明に関連する特定の情報だけを抜き出して本願発明を構成しようとする動機付けも全くありません。
本願発明は、(i)特定のシラン処理コロイダルシリカ粒子を選択すること、(ii)特にアクリレート系バインダー、(iii)特に塗料組成物に着目して、(iv)塗料組成物中に含有されるシラン処理コロイダルシリカを特定量にすること、および(v)シリカの量をアクリレート系バインダーに対して特定量にすることのすべてを組み合わせて構成された、極めて具体的な発明であり、このような具体的な発明には引用例1および2からは容易に想到することはできません。
まして、上記「(1)サポート要件について」の欄で説明したとおり、本願の実施例で実際に実証された分散体や、そのデータから当業者が合理的かつ妥当と判断できる一般化によって、本願発明の全範囲にわたって好ましいオープンタイムの効果が得られると認められるべきです。そして、引用例1にも引用例2にも、本願発明のように特定の構成にすることによってオープンタイムの改善効果が得られることは、一切記載されていません。
以上から明らかなように、本願発明は、その着想は勿論のこと、目的、構成および作用効果のいずれの点においても引用例1及び2に記載の発明とは全く相違し、また、当業者が引用例1及び2から容易に本願発明に想到することはできません。」と主張する。
しかし、上記5に記載したように、引用例1には特定のシラン処理コロイダルシリカ粒子を選択すること(摘記事項(1d))、アクリレート系バインダーを使用すること(摘記事項(1e))、分散液を塗料とすること(摘記事項(1i))、アクリレート系バインダーに対するSiO2の乾燥重量比を所定の範囲とすること(摘記事項(1f))が記載され、有機バインダーおよびシラン処理コロイドシリカ粒子を含む分散体の合計固形分含量を所定の範囲とすること(摘記事項(1h))も記載されているから、アクリレート系バインダーに対するSiO2の乾燥重量比等をその範囲内で調節し所定の範囲に定めることは、当業者ならば容易になし得る事項であり、またその動機付けも十分に存在する。
そして、上記5に記載したように、本願発明の全範囲にわたって好ましいオープンタイムの効果が得られると認めることはできない。
よって、請求人の主張は採用できない。
7 まとめ
以上検討のとおり、本願発明は、引用例1、2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
第6 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではないから、本願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、また、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。よって、その余の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2018-010386