特許拒絶査定不服審判
2018-004613
半導体装置
- 審判番号
- 2018-004613
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2016-132665外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2018年04月05日
- 審決日
- 2019年07月08日
- 公報発行日
- 2019年10月25日
- 結論
- 請求不成立
- 分類
- P18 .536-WZ (H01L)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条4項1号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2016-132665「半導体装置」拒絶査定不服審判事件〔平成28年11月17日出願公開,特開2016-195271〕について,次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は,成り立たない。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本願は,2013年(平成25年)6月12日を国際出願日とする特願2015-522327号の一部を,平成28年7月4日に新たに特許出願としたものであって,その手続の経緯は,概略,以下のとおりである。
平成28年 7月 4日:上申書
平成29年 2月14日:拒絶理由通知(起案日)
平成29年 4月 7日:意見書,手続補正書
平成29年 9月27日:拒絶理由通知(起案日)
平成29年11月28日:意見書
平成30年 1月31日:拒絶査定(起案日)
平成30年 4月 5日:手続補正書,審判請求
平成30年 7月20日:上申書
平成31年 2月 4日:拒絶理由通知(起案日)
平成31年 4月 4日:意見書,手続補正書(以下,この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。)
第2 本願発明について
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,平成31年4月4日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである(下線部は補正事項である。)。
「【請求項1】
珪素によって形成された半導体装置であって,
n型ドリフト層と,
前記n型ドリフト層の上面に設けられたp型ベース層と,
前記p型ベース層上に部分的に設けられたn型エミッタ層と,
前記n型エミッタ層及び前記p型ベース層を貫通するように設けられたトレンチゲートと,
前記n型ドリフト層の下面に設けられたp型コレクタ層と,
前記n型ドリフト層と前記p型コレクタ層の間に設けられたn型バッファ層とを備え,
前記n型バッファ層のキャリア濃度のピークは,前記n型ドリフト層より高く,前記p型コレクタ層より低く,
前記n型バッファ層のキャリア濃度は,前記n型ドリフト層側から前記p型コレクタ層側に向かって深さの指数関数で増加し,
前記n型ドリフト層と前記p型コレクタ層との間の前記n型バッファ層全体における前記キャリア濃度の傾斜が20~2000cm-1であることを特徴とする半導体装置。」
第3 当審の拒絶理由通知書の概要
当審の拒絶の理由である,平成31年2月4日付け拒絶理由通知の理由は,概略,次のとおりのものである。
1 この出願は,発明の詳細な説明の記載が,本願の請求項1ないし3に係る「半導体装置」を実施できる程度に明確かつ十分に記載されておらず,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
第4 本願の発明の詳細な説明の記載
発明の詳細な説明には,次の内容が記載されている(下線は当審で付した。以下同じ。)。
1 技術分野
「【0001】
本発明は,高耐圧パワーモジュール(≧600V)に用いられるダイオードなどの半導体装置に関する。」
2 発明が解決しようとする課題
「【0008】
従来の半導体装置では,n-型ドリフト層とn型バッファ層の接続部分におけるキャリア濃度の傾斜が8×103cm-1又は1×105cm-1と急峻であるため,接続部分の電界強度の高まりによってスナップオフが生じる。さらに,スナップオフをトリガーとして高周波発振が生じるという問題があった。
【0009】
また,従来のダイオードのVFとリカバリー損失ERECのトレードオフ特性は,重金属拡散や電子又はイオンの照射を用いライフタイム制御手法により調整されていた。しかし,電子又はイオン照射時の被照射体との照射角度や温度等により,VF,ERECのばらつきが大きい。また,チップ通電動作時の自己発熱により格子欠陥が変化して電気的特性が変動する。さらに,格子欠陥起因のリーク電流が大きいことにより高温動作時に熱暴走が発生する。このため,ライフタイム制御手法に頼らないVF-ERECトレードオフ特性の制御手法の確立が望まれてきた。
【0010】
様々な用途にパワーデバイスが用いられるようになり,IGBT,ダイオード等にもアバランシェ耐量が要求されてきている。しかし,寄生のバイポーラトランジスタ構造を有する半導体装置では,そのような構造が無い半導体装置に比べてアバランシェ耐量が減少する。また,VF-EREC特性の改善を狙ってn-型ドリフト層の厚みを薄くするとアバランシェ耐量が著しく低下する。また,寄生のバイポーラトランジスタ構造を有する半導体装置では,そのような構造が無い半導体装置に比べて最大可制御電流密度が低下する。
【0011】
本発明は,上述のような課題を解決するためになされたもので,その目的は高発振耐量を実現することができる半導体装置を得るものである。」
3 発明の効果
「【0013】
本発明により,高発振耐量を実現することができる。」
4 発明を実施するための形態
「【0016】
実施の形態1.
図1及び図2は,それぞれ本発明の実施の形態1に係る半導体装置を示す上面図及び下面図である。図3は,図1及び図2のI-IIに沿った断面図である。n-型ドリフト層1の上面にp型アノード層2が設けられている。n-型ドリフト層1の下面にn型カソード層3が設けられている。
【0017】
n-型ドリフト層1とn型カソード層3の間にn型バッファ層4が設けられている。n型バッファ層4の不純物のピーク濃度は,n-型ドリフト層1より高く,n型カソード層3より低い。p型アノード層2にアノード電極5がオーミック接触し,n型カソード層3にカソード電極6がオーミック接触している。
【0018】
図4は,深さに対するキャリア濃度を示す図である。n型バッファ層4の深さをDbuffer,n型ドリフト層とn型バッファ層の接続部分におけるキャリア濃度の傾斜を濃度勾配∇nbuffer[cm-1],n型バッファ層4中の実効ドーズ量をφeff[cm-2],n-型ドリフト層1のキャリア濃度をn0[cm-3]とする。これらの関係は以下の数式で表される。
【数1】
【0019】
図5は,キャリア濃度の傾斜∇nbufferに対するVF,EREC,Vsnap-off,JA(break)を示す図である。VFはオン状態での電圧降下,ERECはリカバリー損失,Vsnap-offはリカバリー時のオーバーシュート電圧,JA(break)は最大可制御電流密度である。このデータに基づいて,VF,EREC,Vsnap-offを低くし,JA(break)を高くするために,濃度勾配∇nbufferを20~2000cm-1にする。なお,従来技術では濃度勾配が105cm-1程度であり,本実施の形態に比べて急峻であった。
【0020】
本実施の形態のようにn-型ドリフト層1とn型バッファ層4の接続部分のキャリア濃度が緩くブロードに分布した深いバッファ構造をCPL(Controlling Plasma Layer)バッファ構造と呼ぶ。このCPLバッファ構造によりリカバリー時における同境界部分での電界強度の高まりを抑制することができる。この結果,カソード側の電界強度の高まりによって生じるスナップオフと,それをトリガーとして発生する高周波発振を防ぐことができるため,高発振耐量を実現することができる。
【0021】
また,n型バッファ層4の実効ドーズ量φeffを,n-型ドリフト層1の実効ドーズ量よりも高い1×1012~5×1012cm-2に設定する。これにより,n型バッファ層4の総ドーズ量がn-型ドリフト層1の総ドーズ量と同程度になるため,n-型ドリフト層1とn型バッファ層4の双方で耐圧を保持できる。従って,n型バッファ層4が無い場合に比べて同等耐圧を保持するのに必要なn-型ドリフト層1の厚みを薄くでき,トータルロスを低減することができる。
【0022】
なお,n-型ドリフト層1のキャリア濃度n0は,耐圧クラスに依存して決定される。一例として,600~6500Vクラスの場合,キャリア濃度n0は1×1012~1×1015cm-3である。n型カソード層3の表面濃度は1×1019~5×1020cm3,拡散深さは0.5~2μmである。n型バッファ層4の厚みDbufferは上記の数式のとおりn0,∇nbuffer,φeffの関数である。
【0023】
また,n型バッファ層4のピーク濃度とn-型ドリフト層1のピーク濃度の比は1×10-4~1×10-1である。n型バッファ層4とn-型ドリフト層1の深さの比は0.1~10である。
【0024】
実施の形態2.
図6は,本発明の実施の形態2に係る半導体装置を示す断面図である。実施の形態1はダイオードであったが,本実施の形態はIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)である。
【0025】
p型アノード層2はp型ベース層であり,そのピーク濃度は1.0×1016~1.0×1018cm-3である。p型アノード層2上のウエハ表面部に部分的にp+型拡散層7とn+型エミッタ層8が形成されている。n+型エミッタ層8のピーク濃度は1.0×1018~1.0×1021cm-3,深さは0.2~1.0μmである。
【0026】
p型アノード層2とn-型ドリフト層1の間にn+型層9が形成されている。n+型層9は,ピーク濃度が1.0×1015~1.0×1017cm-3であり,深さがp型アノード層2より0.5~1.0μm深い。
【0027】
n+型エミッタ層8,p型アノード層2及びn+型層9を貫通するようにトレンチゲート10が設けられている。トレンチゲート10上には層間絶縁膜11が設けられている。アノード電極5はエミッタ電極であり,p+型拡散層7に接続されている。n型カソード層3の代わりにp型コレクタ層12が設けられている。カソード電極6はコレクタ電極であり,p型コレクタ層12にオーミック接触する。
【0028】
n型バッファ層4のピーク濃度は,n-型ドリフト層1より高く,p型コレクタ層12より低い。そして,実施の形態1と同様に,n-型ドリフト層1とn型バッファ層4の接続部分におけるキャリア濃度の傾斜を20~2000cm-1にする。そして,n型バッファ層4の実効ドーズ量φeffを,n-型ドリフト層1の実効ドーズ量よりも高い1×1012~5×1012cm-2に設定する。これにより,IGBTの場合であっても実施の形態1と同様の効果を得ることができる。」
「【図4】
」
「【図5】
」
「【図6】
」
第5 当審の判断
1 本願発明
本願発明は上記第2のとおりのものである。
2 発明の詳細な説明の記載
(1)発明の詳細な説明の段落【0016】,【0017】,【0024】,【0025】,【0027】,【0028】(上記第4の4)には,実施の形態1に係る半導体装置として,n-型ドリフト層1の上面にp型アノード層2が設けられ,n-型ドリフト層1の下面にn型カソード層3が設けられ,n-型ドリフト層1とn型カソード層3の間にn型バッファ層4が設けられたダイオードが記載され,実施の形態2として,p型アノード層2はp型ベース層であり,p型アノード層2上のウエハ表面部に部分的にn+型エミッタ層8が形成され,n+型エミッタ層8,p型アノード層2を貫通するようにトレンチゲート10が設けられ,実施の形態1のダイオードにおけるn型カソード層3の代わりにp型コレクタ層12が設けられたIGBTが記載されている。また,ここで,実施の形態2のIGBTにおいて,n型バッファ層4のピーク濃度は,n-型ドリフト層1より高く,p型コレクタ層12より低くすることが記載されている。
(2)また,段落【0018】(上記第4の4)には,n型バッファ層4の深さをDbuffer,n型ドリフト層とn型バッファ層の接続部分におけるキャリア濃度の傾斜を濃度勾配∇nbuffer[cm-1],n型バッファ層4中の実効ドーズ量をφeff[cm-2],n-型ドリフト層1のキャリア濃度をn0[cm-3]としたときの,これらの関係が以下の数式【数1】で表されることが示されている。
「【数1】
」
(3)また,段落【0019】,【0028】(上記第4の4)には,キャリア濃度の傾斜∇nbufferに対するVF,EREC,Vsnap-off,JA(break)を示す図5のデータに基づいて,VF,EREC,Vsnap-offを低くし,JA(break)を高くするために,濃度勾配∇nbufferを20~2000cm-1にすることが記載され,実施の形態2のIGBTにおいて,実施の形態1と同様に,n-型ドリフト層1とn型バッファ層4の接続部分におけるキャリア濃度の傾斜を20~2000cm-1にすることが記載されている。
(4)そして,段落【0020】(上記第4の4)には「本実施の形態のようにn-型ドリフト層1とn型バッファ層4の接続部分のキャリア濃度が緩くブロードに分布した深いバッファ構造をCPL(Controlling Plasma Layer)バッファ構造と呼ぶ。このCPLバッファ構造によりリカバリー時における同境界部分での電界強度の高まりを抑制することができる。この結果,カソード側の電界強度の高まりによって生じるスナップオフと,それをトリガーとして発生する高周波発振を防ぐことができるため,高発振耐量を実現することができる。」と記載され,「CPLバッファ構造」を採用したことにより,本願発明1の効果である「カソード側の電界強度の高まりによって生じるスナップオフと,それをトリガーとして発生する高周波発振を防ぐことができるため,高発振耐量を実現することができる」ものである。
3 判断
(1)発明の詳細な説明においては,上記2(1)で説示したように,実施の形態1に係る半導体装置としてダイオードが,実施の形態2に係る半導体装置としてIGBTの構成が記載されているものの,上記2(4)の「CPLバッファ構造」をどのようにして実現するのか,すなわち,上記2(2)の【数1】の数学的モデルに基づき,上記2(3)のキャリア濃度の傾斜を達成した「前記n型バッファ層のキャリア濃度は,前記n型ドリフト層側から前記p型コレクタ層側に向かって深さの指数関数で増加し,前記n型ドリフト層と前記p型コレクタ層との間の前記n型バッファ層全体における前記キャリア濃度の傾斜が20~2000cm-1であることを特徴とする半導体装置」(上記第2)という「物品」をいかにして作り出すのか,その具体的な製造方法が,なんら発明の詳細な説明中には記載されていない。
(2)この点,技術常識を参酌すれば,キャリア濃度の傾斜を達成するためのイオン注入において,その注入するイオンのドーパントを特定し,特定したドーパントをどの加速電圧でどのドーズ量,イオンを注入するのかを特定し,さらにまた,注入後の各ドーパントを活性化させるための熱処理として,その加熱温度と加熱時間等で構成された温度プロファイルを特定する必要があるところ,発明の詳細な説明においては,かろうじてドーズ量を数式【数1】で計算することが示されているのみで,半導体装置を実際に製造するために特定すべき必須のパラメータがなんら特定されておらず,当業者が上記本願発明を実施しようとするためには過度の試行錯誤を要するといえる。
(3)さらに,「前記n型バッファ層のキャリア濃度は,前記n型ドリフト層側から前記p型コレクタ層側に向かって深さの指数関数で増加し,前記n型ドリフト層と前記p型コレクタ層との間の前記n型バッファ層全体における前記キャリア濃度の傾斜が20~2000cm-1である」という構成が,当業者において,その製造方法を示す必要がない程度に周知なものであったと認められる証拠もない。
(4)なお,平成31年4月4日の意見書において,審判請求人は,
ア 「本意見書と同日付けで提出した手続補正書により請求項1を補正して珪素によって形成された半導体装置であることを明確にしました。」「このような珪素によって形成された半導体装置においてイオンを注入して熱処理を行うと,イオン注入の際のドーパントの種類,加速電圧,ドーズ量に関わらず,キャリア濃度が深さの指数関数で変化することは当業者の技術常識です。」「なお,同文献の図12のように対数グラフにおいて不純物濃度の濃度勾配が完全な直線ではなく,緩やかに濃度勾配が変化する直線状であっても,指数関数で変化する濃度勾配と言えます。」(以下「主張ア」という。)
イ 「また,珪素によって形成された半導体装置においてキャリア濃度の傾斜の大ききを調整することも当業者にとって技術常識です。」「バッファ層のキャリア濃度の傾斜の大きさを調整するには,バッファ層に注入したドーパントを活性化させる際の熱処理温度を調整することでも実施可能です。」「従って,当業者は,バッファ層に注入したドーパントを活性化させる際の熱処理時間又は熱処理温度をいくつか変化させて熱処理を数回突施するだけで,「n型ドリフト層とp型コレクタ層との間のn型バッファ層全体におけるキャリア濃度の傾斜が20~2000cm-1である」構成を得ることができます。」(以下「主張イ」という。)
ウ 「よって,当業者であれば,注入するイオンのドーパント,加速電圧,ドーズ量,温度プロファイルなどの製造条件を適宜設定して本願発明を実施することができます。」旨主張しているので,上記各主張について検討を行う。
(5)主張アについて
ア 審判請求人は,「珪素によって形成された半導体装置においてイオンを注入して熱処理を行うと,イオン注入の際のドーパントの種類,加速電圧,ドーズ量に関わらず,キャリア濃度が深さの指数関数で変化することは当業者の技術常識」であること,「対数グラフにおいて不純物濃度の濃度勾配が完全な直線ではなく,緩やかに濃度勾配が変化する直線状であっても,指数関数で変化する濃度勾配と言えます」ことを主張している。
イ しかしながら,本願発明においては,「前記n型バッファ層のキャリア濃度は,前記n型ドリフト層側から前記p型コレクタ層側に向かって深さの指数関数で増加し,前記n型ドリフト層と前記p型コレクタ層との間の前記n型バッファ層全体における前記キャリア濃度の傾斜が20~2000cm-1である」と特定されるのみであり,「緩やかに濃度勾配が変化する直線状であっても,指数関数で変化する濃度勾配と言え」ることを特定するものとは認められない。
ウ また,当該イの構成要件に対応する発明の詳細な説明の段落【0018】,【0019】,【0028】にはそれぞれ「n型バッファ層4の深さをDbuffer,n型ドリフト層とn型バッファ層の接続部分におけるキャリア濃度の傾斜を濃度勾配∇nbuffer[cm-1],n型バッファ層4中の実効ドーズ量をφeff[cm-2],n-型ドリフト層1のキャリア濃度をn0[cm-3]とする。」「このデータに基づいて,VF,EREC,Vsnap-offを低くし,JA(break)を高くするために,濃度勾配∇nbufferを20~2000cm-1にする。」「そして,実施の形態1と同様に,n-型ドリフト層1とn型バッファ層4の接続部分におけるキャリア濃度の傾斜を20~2000cm-1にする。」と記載され,段落【0018】に数式【数1】として,「n0exp(∇nbuffer・x)」をn型バッファ層4全体にわたって積分をすることでドーズ量を算出する数式が記載されている。
エ そうすると,前記ウの記載からは,発明の詳細な説明においては「濃度勾配∇nbuffer」が「緩やかに濃度勾配が変化する直線状であっても,指数関数で変化する濃度勾配と言え」(主張ア)ることを示唆する記載は認められず,むしろ,数式【数1】において「濃度勾配∇nbuffer」は,指数関数exp内の変数xの固定の係数「∇nbuffer」としてのみ明記がなされ,数式上は明らかに「濃度勾配∇nbuffer」は「対数グラフにおいて不純物濃度の濃度勾配が完全な直線」のみを意味するものと解される。この点,図4(上記第4の4)のグラフにおける濃度勾配∇nbufferが全て直線であることとも整合的である。
オ してみれば,上記主張アにおける「このような珪素によって形成された半導体装置においてイオンを注入して熱処理を行うと,イオン注入の際のドーパントの種類,加速電圧,ドーズ量に関わらず,キャリア濃度が深さの指数関数で変化すること」,「不純物濃度の濃度勾配が完全な直線ではなく,緩やかに濃度勾配が変化する直線状であっても,指数関数で変化する濃度勾配と言え」るという主張は,本願発明に係る「前記n型バッファ層のキャリア濃度は,前記n型ドリフト層側から前記p型コレクタ層側に向かって深さの指数関数で増加し,前記n型ドリフト層と前記p型コレクタ層との間の前記n型バッファ層全体における前記キャリア濃度の傾斜が20~2000cm-1である」ことを実現するための主張ではなく,上記主張アは採用できない。
(6)主張イについて
ア 上記(5)エにて検討したように「濃度勾配∇nbuffer」は「対数グラフにおいて不純物濃度の濃度勾配が完全な直線」のみを意味するものと解され,「緩やかに濃度勾配が変化する直線状であっても,指数関数で変化する濃度勾配と言え」るという概念を包含しないことは上記説示のとおりである。
イ そうすると,上記主張イのように「バッファ層のキャリア濃度の傾斜の大きさを調整するには,バッファ層に注入したドーパントを活性化させる際の熱処理温度を調整することでも実施可能」であったとしても,本願発明に係る「前記n型バッファ層のキャリア濃度は,前記n型ドリフト層側から前記p型コレクタ層側に向かって深さの指数関数で増加し,前記n型ドリフト層と前記p型コレクタ層との間の前記n型バッファ層全体における前記キャリア濃度の傾斜が20~2000cm-1である」ことをそもそも実現することができないのであるから,上記主張イは採用できない。
(7)したがって,審判請求人の上記主張ア,イを認めることはできず,「当業者」であっても,「注入するイオンのドーパント,加速電圧,ドーズ量,温度プロファイルなどの製造条件を適宜設定して本願発明を実施することができ」るとは認められないので,本願の発明の詳細な説明の記載は,本願発明に係る「半導体装置」を実現できる程度に明確かつ十分なものであるとは認められない。
4 当審の判断のむすび
したがって,本願発明を引用する請求項2,3に係る発明を検討するまでもなく,この出願の発明の詳細な説明は,当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。
第5 むすび
以上のとおり,本願は,発明の詳細な説明の記載が,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから,拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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