2022-000933
半導体加工用シートおよび半導体装置の製造方法
- 審判番号
- 2022-000933
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2018-524941外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2022年01月21日
- 審決日
- 2023年03月22日
- 公報発行日
- 2023年06月30日
- 結論
- 請求不成立
- 分類
- P18 .536-WZ (H01L)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条4項1号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
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結論
理由
目次 ▾ 15項目
第1 手続の経緯
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本願は、2017年(平成29年)5月12日(優先権主張 2016年(平成28年)6月30日)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
そして、令和4年12月20日付けの審判審尋で、請求人に期間を指定して回答書を提出する機会を与えたが、請求人から応答はなかった。
第2 本願発明
本願の請求項1~6に係る発明は、令和4年11月21日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】少なくとも基材を備える半導体加工用シートであって、前記半導体加工用シートの復元率が、91%以上、100%以下であり、23℃において前記基材のCD方向に測定される前記半導体加工用シートの100%応力に対する、23℃において前記基材のMD方向に測定される前記半導体加工用シートの100%応力の比が、0.97以上、1.03以下であり、続きを表示(全33行)23℃において前記基材のMD方向およびCD方向に測定される前記半導体加工用シートの引張弾性率が、MD方向について10MPa以上、39MPa以下であるとともに、CD方向について10MPa以上、38MPa以下であり、23℃において前記基材のMD方向およびCD方向に測定される前記半導体加工用シートの100%応力が、MD方向について3MPa以上、7.6MPa以下であるとともに、CD方向について3MPa以上、7.4MPa以下であり、23℃において前記基材のMD方向およびCD方向に測定される前記半導体加工用シートの破断伸度が、それぞれ600%超であり、前記復元率は、前記半導体加工用シートを150mm×15mmに切り出した試験片において、長さ方向の両端を、つかみ具間の長さが100mmとなるようにつかみ具でつかみ、その後、つかみ具間の長さが200mmとなるまで200mm/minの速度で引張り、つかみ具間の長さが200mmに拡張された状態で1分間保持し、その後、つかみ具間の長さが100mmとなるまで200mm/minの速度で長さ方向に戻し、つかみ具間の長さが100mmに戻された状態で1分間保持し、その後、60mm/minの速度で長さ方向に引張り、引張力の測定値が0.1N/15mmを示した時のつかみ具間の長さを測定し、当該長さから初期のつかみ具間の長さ100mmを引いた長さをL2(mm)とし、前記拡張された状態におけるつかみ具間の長さ200mmから初期のつかみ具間の長さ100mmを引いた長さをL1(mm)としたとき、次式(I)復元率(%)={1-(L2÷L1)}×100 ・・・ (I)から算出される値であり、前記100%応力は、前記半導体加工用シートを150mm×15mmに切り出した試験片において、長さ方向の両端を、つかみ具間の長さが100mmとなるようにつかみ具でつかみ、その後、速度200mm/minで長さ方向に引張り、つかみ具間の長さが200mmとなったときの引張力の測定値を、半導体加工用シートの長さ方向に直交する面で切断したときの断面積で除算することで得られる値であり、前記基材は、ウレタン系エラストマーからなり、前記半導体加工用シートは、粘着シートの片面に、個片化された複数の半導体チップを貼付する工程と、前記粘着シートを引き延ばして、前記複数の半導体チップ同士の間隔を拡げる工程とを備える半導体装置の製造方法において、前記粘着シートとして使用され、前記半導体加工用シートは、前記半導体加工用シートの片面に積層された前記複数の半導体チップにおける隣り合う半導体チップの相互の間隔を、200μm以上、6000μm以下まで拡げるために使用されることを特徴とする半導体加工用シート。【請求項2】前記基材の少なくとも一方の面に積層された粘着剤層をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の半導体加工用シート。【請求項3】互いに直交するX軸およびY軸における+X軸方向、-X軸方向、+Y軸方向および-Y軸方向の4方向に張力を付与して半導体加工用シートを引き延ばすことにより、前記半導体加工用シートの片面に積層された複数の半導体チップの間隔を拡げるために使用されることを特徴とする請求項1または2に記載の半導体加工用シート。【請求項4】ファンアウト型の半導体ウエハレベルパッケージを製造するために使用されることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の半導体加工用シート。【請求項5】ダイシングシート上において半導体ウエハを分割することで複数の半導体チップを得る工程と、前記ダイシングシートから請求項1~4のいずれか一項に記載の半導体加工用シートに前記複数の半導体チップを転写する工程と、前記半導体加工用シートを引き延ばして、前記複数の半導体チップ同士の間隔を拡げる工程とを備えることを特徴とする半導体装置の製造方法。【請求項6】ダイシングシート上において半導体ウエハを分割することで複数の半導体チップを得る工程と、前記ダイシングシートから第一の半導体加工用シートに前記複数の半導体チップを転写する工程と、前記第一の半導体加工用シートを引き延ばして、前記複数の半導体チップ同士の間隔を拡げる工程と、前記第一の半導体加工用シートから第二の半導体加工用シートに前記複数の半導体チップを転写する工程と、前記第二の半導体加工用シートを引き延ばして、前記複数の半導体チップ同士の間隔をさらに拡げる工程とを備え、前記第一の半導体加工用シートおよび前記第二の半導体加工用シートが、それぞれ請求項1~4のいずれか一項に記載の半導体加工用シートであることを特徴とする半導体装置の製造方法。」
第3 当審における拒絶の理由
令和4年9月14日付けで、当審において通知した拒絶の理由の概要は次のとおりである。
1)(進歩性)本件出願の下記の請求項に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
2)(サポート要件)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
3)(実施可能要件)この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
記
●理由1(進歩性)について
●理由2(サポート要件)について
・請求項1、4~10について
請求項1には「前記半導体加工用シートの復元率が、70%以上、100%以下であり」と記載されている。また、本願明細書の発明の詳細な説明の段落0007及び段落0008には、半導体加工用シートの復元率が70%以上、100%以下であることで、半導体加工用シートが大きく延伸することが可能となることが記載されている。
しかし、本願明細書の発明の詳細な説明の段落0185及び段落0203には、実施例1として、半導体加工用シートの基材としてポリエステル系ポリウレタンエラストマーシート(シーダム社製,製品名「ハイグレスDUS202」,厚さ50μm)を用いた際の復元率が91%となること、その際のエキスパンド試験による評価が良好であることが記載されているのみである。そして、復元率が91%よりも低い場合、91%である場合よりも半導体加工用シートの延伸の程度が下がることは、本願明細書の発明の詳細な説明の記載と、本願の出願時の技術常識とから明らかである。よって、本願明細書の発明の詳細な説明には、復元率が70%以上91%未満の範囲であれば半導体加工用シートを大きく延伸できることの根拠は示されていない。
したがって、出願時の技術常識に照らしても、請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
よって、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。請求項1を引用する請求項4~10に係る発明についても同様である。
・請求項2、4~10について
請求項2には「23℃において前記基材のCD方向に測定される前記半導体加工用シートの100%応力に対する、23℃において前記基材のMD方向に測定される前記半導体加工用シートの100%応力の比が、0.8以上、1.2以下であり」と記載されている。また、本願明細書の発明の詳細な説明の段落0009及び段落0010には、MD方向及びCD方向に測定される100%応力の比が、0.8以上、1.2以下であることで、半導体加工用シートが大きく延伸することが可能となることが記載されている。
しかし、本願明細書の発明の詳細な説明の段落0185及び段落0203には、実施例1として、半導体加工用シートの基材としてポリエステル系ポリウレタンエラストマーシート(シーダム社製,製品名「ハイグレスDUS202」,厚さ50μm)を用いた際の上記比が1.03となること、その際のエキスパンド試験による評価が良好であることが記載されているのみである。そして、上記比が1.03よりも大きく又は1.03の逆数である0.97よりも小さい場合に延伸の対称性が劣ることは、本願明細書の発明の詳細な説明の記載と、本願の出願時の技術常識とから明らかである。よって、本願明細書の発明の詳細な説明には、上記比が0.8以上0.97未満及び1.03より大きく1.2以下であれば半導体加工用シートを大きく延伸できることの根拠は示されていない。
したがって、出願時の技術常識に照らしても、請求項2に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
よって、請求項2に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。請求項2を引用する請求項4~10に係る発明についても同様である。
・請求項3~10について
請求項3には「23℃において前記基材のMD方向およびCD方向に測定される前記半導体加工用シートの引張弾性率が、それぞれ10MPa以上、350MPa以下であり、23℃において前記基材のMD方向およびCD方向に測定される前記半導体加工用シートの100%応力が、それぞれ3MPa以上、20MPa以下であり」及び「23℃において前記基材のMD方向およびCD方向に測定される前記半導体加工用シートの破断伸度が、それぞれ100%以上であり」と記載されている。また、本願明細書の発明の詳細な説明の段落0011及び段落0012には、MD方向及びCD方向に測定される半導体加工用シートの引張弾性率が10MPa以上350MPa以下であり、同じく100%応力がそれぞれ3MPa以上20MPa以下であり、同じく破断伸度が、それぞれ100%以上であることで、半導体加工用シートが大きく延伸することが可能となることが記載されている。
しかし、本願明細書の発明の詳細な説明の段落0185及び段落0203には、実施例1として、半導体加工用シートの基材としてポリエステル系ポリウレタンエラストマーシート(シーダム社製,製品名「ハイグレスDUS202」,厚さ50μm)を用いた際の上記引張弾性率が38MPa、39MPaであり、同じく100%応力が7.4MPa、7.6MPaであり、同じく破断伸度がそれぞれ600%よりも大きいことが記載されているのみである。そして、引張弾性率が実施例1における上記値を除いた10MPa以上350MPa以下の範囲であり、100%応力が実施例1における上記値を除いた3MPa以上20MPa以下の範囲であり、破断伸度が実施例1における上記値よりも小さい場合であっても、半導体加工用シートを大きく延伸できることの根拠は示されていない。
したがって、出願時の技術常識に照らしても、請求項3に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
よって、請求項3に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。請求項3を引用する請求項4~10に係る発明についても同様である。
・請求項1~10
請求項1には「前記半導体加工用シートの復元率が、70%以上、100%以下であり」(以下、「条件1」という。)と記載され、請求項2には「23℃において前記基材のCD方向に測定される前記半導体加工用シートの100%応力に対する、23℃において前記基材のMD方向に測定される前記半導体加工用シートの100%応力の比が、0.8以上、1.2以下であり」(以下、「条件2」という。)と記載され、請求項3には「23℃において前記基材のMD方向およびCD方向に測定される前記半導体加工用シートの引張弾性率が、それぞれ10MPa以上、350MPa以下であり、23℃において前記基材のMD方向およびCD方向に測定される前記半導体加工用シートの100%応力が、それぞれ3MPa以上、20MPa以下であり」及び「23℃において前記基材のMD方向およびCD方向に測定される前記半導体加工用シートの破断伸度が、それぞれ100%以上であり」(以下、「条件3」という。)と記載され、本願明細書の発明の詳細な説明の段落0185及び段落0203には実施例1として、半導体加工用シートの基材としてポリエステル系ポリウレタンエラストマーシート(シーダム社製,製品名「ハイグレスDUS202」,厚さ50μm)を用いた場合に、条件1~3がすべて満たされ、エキスパンド試験による評価が良好であることが記載されている。
しかし、条件1~3のそれぞれと、半導体加工用シートが大きく延伸されることとの関係を示す根拠は記載されていないため、実施例1のみからは、条件1~3がすべて満たされる場合に、上記エキスパンド試験による評価が良好で、半導体加工用シートを大きく延伸できることを理解できるものの、条件1~3のうちのいずれか一つ又は二つを満たさない場合にも、上記エキスパンド試験による評価が良好で、半導体加工用シートを大きく延伸できることを理解することはできない。
したがって、条件1~3のうちいずれか一つのみを特定する請求項1~3に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
よって、請求項1~3に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではない。請求項4~10に係る発明についても同様である。
●理由3(実施可能要件)について
・請求項1~10について
本願明細書の発明の詳細な説明には、請求項1~3に記載された条件1~3を満たす材料として、段落0185に実施例1としてポリエステル系ポリウレタンエラストマーシート(シーダム社製,製品名「ハイグレスDUS202」,厚さ50μm)が記載され、復元率が91%となること、MD方向及びCD方向に測定される100%応力の比が1.03となること、同じく引張弾性率が38MPa、39MPaであり、同じく100%応力が7.4MPa、7.6MPaであり、同じく破断伸度がそれぞれ600%よりも大きくなること(以下、「実施例1の物性値」という。)が記載されている。しかし、本願明細書の発明の詳細な説明には、ポリエステル系ポリウレタンエラストマーシート(シーダム社製,製品名「ハイグレスDUS202」,厚さ50μm)以外に、条件1~3を満たすウレタンエラストマーは記載されておらず、また、実施例1の物性値を除いた条件1~3の数値範囲を満たすウレタンエラストマーの組成も製造方法も記載されていない。
さらに、本願明細書の発明の詳細な説明には、実施例1に記載されたポリエステル系ポリウレタンエラストマーシート(シーダム社製,製品名「ハイグレスDUS202」,厚さ50μm)の組成と、条件1~3の特性との関係も記載されていないため、技術常識を参酌しても、上記実施例1に記載された上記復元率(91%)、上記100%応力の比(1.03)、上記引張弾性率(38MPa、39MPa)、上記100%応力(7.4MPa、7.6MPa)、上記破断伸度(>600%)を除いた条件1~3の数値範囲を満たすウレタンエラストマーシートの組成又は製造方法を類推することもできない。
してみると、実施例1の物性値を除いた条件1~3の数値範囲を持つ組成のウレタンエラストマーを得るために、当業者が過度な試行錯誤を要することは明らかである。
よって、本願明細書の発明の詳細な説明は、請求項1~3に係る発明と、請求項1~3のいずれかを引用する請求項4~10に係る発明とを実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。
<引用文献等一覧>
1.特開2012-114397号公報
2.特開2006-095185号公報(周知技術を示す文献)
3.特開2003-137350号公報(周知技術を示す文献)
4.特開2007-066818号公報(周知技術を示す文献)
5.特開2007-063340号公報
6.特開2011-119767号(周知技術を示す文献)
7.特開2011-096929号公報(周知技術を示す文献)
8.特開2016-62986号公報(周知技術を示す文献)
第4 実施可能要件について
1 本願明細書の記載
本願明細書には、以下の事項が記載されている。
「【0183】〔実施例1〕(1)粘着性組成物の調製ブチルアクリレート/2-ヒドロキシエチルアクリレート=85/15(質量比)を反応させて得られたアクリル系共重合体と、その2-ヒドロキシエチルアクリレートに対して80モル%のメタクリロイルオキシエチルイソシアネート(MOI)とを反応させて、エネルギー線硬化型重合体を得た。このエネルギー線硬化型重合体の重量平均分子量(Mw)は、60万であった。【0184】続きを表示(全24行)得られたエネルギー線硬化型重合体100質量部と、光重合開始剤としての1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(BASF社製,製品名「イルガキュア184」)3質量部と、架橋剤としてのトリレンジイソシアネート系架橋剤(東ソー社製,製品名「コロネートL」)0.45質量部とを溶媒中で混合し、粘着性組成物を得た。【0185】(2)半導体加工用シートの作製ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの片面にシリコーン系の剥離剤層が形成されてなる剥離フィルム(リンテック社製,製品名「SP-PET3811」)の剥離面に対して、上記粘着性組成物を塗布し、加熱により乾燥させることで、剥離フィルム上に、厚さ10μmの粘着剤層を形成した。その後、この粘着剤層の露出面に、基材としてのポリエステル系ポリウレタンエラストマーシート(シーダム社製,製品名「ハイグレスDUS202」,厚さ50μm)の片面を貼り合せることで、粘着剤層に剥離フィルムが貼付された状態で半導体加工用シートを得た。・・・(中略)・・・【0188】〔試験例1〕(引張試験)実施例および比較例において製造した半導体加工用シートを15mm×140mmに裁断し、剥離シートを剥離することで試験片とした。当該試験片について、JIS K7161:2014およびJIS K7127:1999に準拠して、23℃における破断伸度および引張弾性率を測定した。具体的には、上記試験片を、引張試験機(島津製作所製,製品名「オートグラフAG-IS 500N」)にて、チャック間距離100mmに設定した後、200mm/minの速度で引張試験を行い、破断伸度(%)および引張弾性率(MPa)を測定した。なお、測定は、基材の製造時の流れ方向(MD)およびこれに直角の方向(CD)の双方で行った。結果を表1に示す。【0189】〔試験例2〕(100%応力および復元率の測定)実施例または比較例で得た半導体加工用シートを、150mm×15mmに切断し、剥離シートを剥離することで試験片を得た。なお、半導体加工用シートの製造時における流れ方向(MD方向)が、試験片の長さ方向となるように切断した。その後、試験片の長さ方向の両端を、引張試験機(島図製作所社製,製品名「オートグラフAG-IS 50N」)のつかみ具で固定した。このとき、つかみ具間の長さが100mmとなるように、つかみ具で試験片を把持した。この長さを、初期つかみ具間の長さL0(mm)とした。そして、200mm/minの速度で長さ方向に100mm引張り、つかみ具間の長さを200mmとした。この長さから初期つかみ具間の長さL0(mm)(すなわち100mm)を引いた長さを拡張長さL1(mm)とした。この時の試験力を測定し、引張試験における100%強度(N)を求め、MD方向の100%強度(N)とした。そして、MD方向の100%強度(N)を、半導体加工シートの断面積で除算することで、MD方向の100%応力(MPa)を求めた。さらに、つかみ具間の長さが200mmとなった状態で1分間保持した後、つかみ具間の長さがL0(mm)となるまで200mm/minの速度でつかみ具を戻し、つかみ具間の長さがL0(mm)の状態で1分間保持した。その後、60mm/minの速度で長さ方向に引張り、引張力が0.1N/15mmを示した時点でのつかみ具間の長さを記録した。この長さから初期つかみ具間の長さL0(mm)を引いた値を、L2(mm)とした。【0190】上記L1およびL2の値を下記式(I)にあてはめ、復元率(%)を算出した。その結果を表1に示す。復元率(%)={1-(L2÷L1)}×100 ・・・ (I)【0191】また、実施例または比較例で得た半導体加工用シートを、その製造時における流れ方向に対して直交する方向(CD方向)が試験片の長さ方向となるように、150mm×15mmに切断し、剥離シートを剥離することで得た試験片についても、上記と同様に100%強度(N)および100%応力(MPa)の測定を行い、それぞれCD方向の100%強度(N)およびCD方向の100%応力(MPa)とした。それらの結果を表1に示す。さらに、CD方向の100%応力(MPa)に対する、MD方向の100%応力(MPa)の比を算出した。その結果も表1に示す。・・・(中略)・・・【0203】【表1】[図:0001397684000001.jpg]」
2 当審の判断
(1)明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するというためには、物の発明にあっては、当業者が明細書及び図面の記載並びに本願の出願当時の技術常識に基づいて、その物を作れ、かつ、その物を使用できるように記載されていることが必要であると解される。
(2)本願の請求項1には「少なくとも基材を備える半導体加工用シート」について、「前記半導体加工用シートの復元率が、91%以上、100%以下であり」(以下、「条件a」という。)、「23℃において前記基材のCD方向に測定される前記半導体加工用シートの100%応力に対する、23℃において前記基材のMD方向に測定される前記半導体加工用シートの100%応力の比が、0.97以上、1.03以下であり」(以下、「条件b」という。)、「23℃において前記基材のMD方向およびCD方向に測定される前記半導体加工用シートの引張弾性率が、MD方向について10MPa以上、39MPa以下であるとともに、CD方向について10MPa以上、38MPa以下であり、23℃において前記基材のMD方向およびCD方向に測定される前記半導体加工用シートの100%応力が、MD方向について3MPa以上、7.6MPa以下であるとともに、CD方向について3MPa以上、7.4MPa以下であり、23℃において前記基材のMD方向およびCD方向に測定される前記半導体加工用シートの破断伸度が、それぞれ600%超であり」(以下、「条件c」という。)と記載されている。
一方、本願明細書の発明の詳細な説明の段落0185には条件a~cを満たす実施例1として、「基材としてのポリエステル系ポリウレタンエラストマーシート(シーダム社製,製品名「ハイグレスDUS202」,厚さ50μm)」を用いた「半導体加工用シート」が記載され、さらに、表1に、その時の復元率が91%、23℃において基材のMD方向及びCD方向に測定される100%応力の比が1.03、23℃において基材のMD方向及びCD方向に測定される引張弾性率が38MPa及び39MPa、23℃において基材のMD方向及びCD方向に測定される100%応力が7.4MPa及び7.6MPa、23℃において基材のMD方向及びCD方向に測定される破断伸度がそれぞれ600%よりも大きくなること(以下、「実施例1の物性値」という。)が記載されている。
しかし、本願明細書の発明の詳細な説明には、ポリエステル系ポリウレタンエラストマーシート(シーダム社製,製品名「ハイグレスDUS202」,厚さ50μm)以外に、条件a~cを満たすウレタンエラストマーは記載されておらず、また、上記実施例1の物性値を除いた条件a~cの数値範囲を満たすウレタンエラストマーの組成も製造方法も記載されていない。さらに、本願明細書の発明の詳細な説明には、実施例1に記載されたポリエステル系ポリウレタンエラストマーシート(シーダム社製,製品名「ハイグレスDUS202」,厚さ50μm)の組成と、条件a~cの特性との関係も記載されていないため、本願の出願当時の技術常識を参酌しても、上記実施例1に記載された上記復元率(91%)、上記100%応力の比(1.03)、上記引張弾性率(38MPa、39MPa)、上記100%応力(7.4MPa、7.6MPa)、上記破断伸度(>600%)を除いた条件a~cの数値範囲を満たすウレタンエラストマーシートの組成又は製造方法を類推することができない。
したがって、上記実施例1の物性値を除いた条件a~cの数値範囲を持つ組成のウレタンエラストマーを得るために、当業者が過度な試行錯誤を要することは明らかである。
(3)令和4年11月21日提出の意見書(以下、「意見書」という。)における請求人の主張について検討する。
ア 意見書における請求人の主張は以下のとおりである。
(ア)特開平9-255927号公報(以下、「引用文献A」という。)の段落0046には「シーダム株式会社」製の「DUS214CDB」という製品名のポリウレタン樹脂製のシートが開示されていること、及び、エヌティーダブリュー株式会社が公開している「エラストマー事業部製品カタログ」(物件1)に記載された「DUS214-CDB6」の「硬度JIS A」が「80±2」であり「100%Mo」が「4.5MPa」であることから、引用文献Aに開示されたポリウレタン樹脂製のシートの「硬度JIS A」及び「100%Mo」が「80±2」及び「4.5MPa」であるといえる。
(イ)特開2010-146849号公報(以下、引用文献B」という。)の段落0068には「シーダム社」製の「DUS601」という製品名の熱可塑性ポリウレタンシートが開示されていること、及び、エヌティーダブリュー株式会社が公開している「エラストマー事業部製品カタログ 2nd edition」(物件2)に記載された「DUS601-CDS6」の「硬度JIS A」が「90±2」であり「100%Mo」が「6.5MPa」であることから、引用文献Bに開示された熱可塑性ポリウレタンシートの「硬度JIS A」及び「100%Mo」が「90±2」及び「6.5MPa」であるといえる。
(ウ)上記(ア)及び(イ)と、本願の出願当時の技術常識とによれば、本願の出願当時において補正後の本願請求項1に特定される100%応力及び引張弾性率の条件を満たす可能性が高いポリウレタン製のシートが公知であるといえ、当業者は、これらのシートから補正後の請求項1に特定される条件を満たす基材を選び出すことにより、過度な試行錯誤を要することなく、補正後の本願請求項1の発明を製造することが可能である。
イ 引用文献A、B並びに物件1、2の記載は以下のとおりである。
(ア)引用文献A
「【0046】合成ゴム カリフレックスTR1107P 80重量部(シエル化学社製)粘着付与剤 ウィングタック プラス 20重量部続きを表示(全55行)(グッドイヤー社製)老化防止剤 イルガノックス1076 1重量部(日本チバ・ガイギー社製)溶剤 トルエン 200重量部溶剤 イソプロピルアルコール 50重量部また、基材の入手先は、それぞれ、以下に列挙する通りである。基材(品名) 入手先JSR0598 日本合成ゴム株式会社Nipol ZLX-B 日本ゼオン株式会社W-2510 大日本インキ化学工業株式会社モビニール 184E ヘキスト合成株式会社Croslene 2M-36 武田薬品工業株式会社CR115 昭和電工-デュポン株式会社MG-25 葵ラバー株式会社得られた結果を下記の第1表に記載する。比較例1~比較例5前記例1に記載の手法を繰り返した。しかし、本例では、比較のため、それぞれ、以下に記載するような基材及び粘着剤を使用した。比較例 基材(品名) 樹脂のタイプ 粘着剤のタイプ1 AE315 アクリル樹脂 アクリル系2 V401S EVA樹脂 合成ゴム系3 57L VLPE樹脂 合成ゴム系4 ラプレーズU ポリウレタン樹脂 アクリル系5 DUS214CDBポリウレタン樹脂 アクリル系また、基材の入手先は、それぞれ、以下に列挙する通りである。基材(品名) 入手先V401S 三菱化学株式会社57L 三菱化学株式会社ラプレーズU 東燃化学株式会社DUS214CDB シーダム株式会社得られた結果を次の第1表に記載する。第1表100%モジュラス* 破断強度 伸び 接着力例番号 初期 5分後 (kg/mm2) (%) (g/25mm)例1 267 40 0.68 324 353例2 89 24 0.49 408 300例3 234 63 0.72 447 800例4 93 42 0.20 573 1000例5 437 79 0.90 245 365例6 274 74 1.08 416 1250例7 85 33 0.20 612 200例8 49 16 0.15 597 175例9 167 97 0.76 467 250例10 267 40 0.68 324 975例11 263 44 0.58 296 325比較例1 1707 190 2.07 125 405比較例2 557 365 2.21 508 900比較例3 774 537 2.50 627 300比較例4 464 302 2.55 501 285比較例5 527 347 2.55 624 250* 100%モジュラス(g/mm2)・・・(略)・・・」
(イ)引用文献B
「【0068】次に、これら個々のキートップの第2の加飾層側の面を、厚み50μmの熱可塑性ポリウレタンシート(シーダム社製、DUS601)の片面にキートップを設ける位置に対応させてアクリル系両面テープ(日立化成ポリマー社製、ハイボン)が貼りつけられた領域に貼り合わせて接着した。そして最後に熱可塑性ポリウレタンシートのもう片方の面に押し子シートを接着することで押釦スイッチ用部材を得た。」
(ウ)物件1
「[図:0001397684000002.jpg]」
(エ)物件2
「[図:0001397684000003.jpg]」
ウ 上記アの主張について検討する。
(ア)引用文献Aに記載された製品名は「DUS214CDB」であるのに対し、物件1に記載されたシートの型番は「DUS214-CDB6」(下線部は当審にて付した。以下同じ。)であり、両者は下線部の点で一致せず、他に「DUS214CDB」製品の型番が「DUS214-CDB6」であることを示す根拠はない。
したがって、引用文献Aに開示されたポリウレタン樹脂製のシートの「硬度JIS A」及び「100%Mo」が「80±2」及び「4.5MPa」であるとはいえず、補正後の本願請求項1に特定される100%応力及び引張弾性率の条件を満たす可能性が高いポリウレタン製のシートが本願の出願当時に公知であったとはいえない。
(イ)引用文献Bに記載された製品名は「DUS601」であるのに対し、物件2に記載されたシートの型番は「DUS601-CDS6」であり、両者は下線部の点で一致せず、他に「DUS601」製品の型番が「DUS601-CDS6」であることを示す根拠はない。
したがって、引用文献Bに開示された熱可塑性ポリウレタンシートの「硬度JIS A」及び「100%Mo」が「90±2」及び「6.5MPa」であるとはいえず、補正後の本願請求項1に特定される100%応力及び引張弾性率の条件を満たす可能性が高いポリウレタン製のシートが本願の出願当時に公知であったとはいえない。
(ウ)仮に、引用文献Aに記載されたポリウレタン樹脂製シートの型番が物件1に記載された型番であり、引用文献Bに開示された熱可塑性ポリウレタンシートの型番が物件2に記載された型番であり、「硬度JIS A」及び「100%Mo」が「80±2」及び「4.5MPa」であるポリウレタン樹脂製シート、又は、「硬度JIS A」及び「100%Mo」が「90±2」及び「6.5MPa」である熱可塑性ポリウレタンシートが本願の出願当時に公知であったとしても、請求項1に記載された復元率、100%応力の比、並びに、CD方向及びMD方向の100%応力及び引張弾性率については、上記引用文献A及びB並びに物件1及び2には何ら記載されていない。
よって、実施例1の物性値を除いた条件a~cの数値範囲を満たすポリウレタン製のシートが本願の出願当時に公知であったとはいえない。
(エ)上記(ア)~(ウ)より、請求人の主張を採用することはできない。
(4)以上のとおりであるから、当業者は、本願明細書及び図面の記載並びに本願の出願当時の技術常識を考慮しても、条件a~cの数値範囲から実施例1の物性値を除いた数値範囲に該当するウレタンシートを、どのように製造するか理解できない。したがって、上記(1)の判断手法に照らすと、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が請求項1に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。
また、請求項1を引用する請求項2~4に係る発明についても同様であるから、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が請求項2~4に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。
さらに、請求項4及び5は請求項1を引用し、請求項1に係る発明である「半導体加工用シート」を発明特定事項に含む「半導体装置の製造方法」 の発明であるから、本願明細書の発明の詳細な説明が、当業者が請求項1に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではない以上、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が請求項4及び5に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものでもない。
第5 むすび
以上のとおりであるから、本願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
したがって、他の拒絶の理由について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2022-000933