特許拒絶査定不服審判
2018-002573
粉末薬剤をカプセルから放出するためにカプセルに穴を開けるための装置および方法
- 審判番号
- 2018-002573
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2015-546548外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2018年02月23日
- 審決日
- 2019年08月19日
- 公報発行日
- 2020年02月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】シビタス セラピューティクス, インコーポレイテッド
- 【請求人代理人】古谷 聡
- 【請求人代理人】大西 昭広
- 【請求人代理人】西山 清春
- 【請求人代理人】細井 玲
- 分類
- P18 .121-Z (A61M) / P18 .575-Z (A61M)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第6項、特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2015-546548「粉末薬剤をカプセルから放出するためにカプセルに穴を開けるための装置および方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 6月12日国際公開、WO2014/089018、平成27年12月24日国内公表、特表2015-536765〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本件出願は、平成25(2013)年12月3日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 平成24(2012)年12月4日 (US)アメリカ合衆国 平成24(2012)年12月19日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成29年7月13日付けで拒絶の理由が通知され、その指定期間内である同年10月10日に意見書が提出されるとともに特許請求の範囲及び明細書について手続補正がなされたが、同年10月19日付けで拒絶をすべき旨の査定がされた。
これに対し、平成30年2月23日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に特許請求の範囲について手続補正がなされ、同年5月8日並びに7月24日に上申書が提出された。
第2 平成30年2月23日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成30年2月23日付けの手続補正を却下する。
[理由]
1 本件補正
平成30年2月23日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、平成29年10月10日付けで補正された特許請求の範囲をさらに補正するものであって、特許請求の範囲の請求項1に関する以下の補正を含むものである。(なお、下線部は補正箇所を明確にする目的で当審にて付与した。)
ア 補正前
「粉末薬剤をカプセルから放出するために前記カプセルに穴を開けるための装置であって、
対向するドーム、及び前記対向するドームの中心軸から測定された半径rの壁により画定された円筒形壁部分を含む前記カプセルを受容するためのチャンバと、
少なくとも1つのドームに少なくとも1つの穴を開けるための機構であって、各穴の中心が、0.4r未満でない所に位置する環状穴開け領域内に位置する、機構とを含み、
全ての穴の総表面積が、前記カプセルの総表面積の0.5%から2.2%までの間にある、装置。」
イ 補正後
「粉末薬剤をカプセルから放出するために前記カプセルに穴を開けるための装置であって、
対向するドーム、前記対向するドームの中心軸から測定された半径rの壁により画定された円筒形壁部分、少なくとも0.50cm3の体積、及び0.08mm~0.12mmの厚さを含む前記カプセルを受容するためのチャンバと、
前記カプセルの少なくとも1つのドームに少なくとも1つの穴を開けるための機構であって、各穴の中心が、0.4rと0.8rにより前記少なくとも1つのドームに境界を形成されて画定された環状穴開け領域内に位置する、機構とを含み、
全ての穴の総表面積が、前記カプセルの総表面積の0.5%から2.2%までの間にある、装置。」
2 本件補正の適否
本件補正は、補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「カプセル」に関して、「対向するドーム、及び前記対向するドームの中心軸から測定された半径rの壁により画定された円筒形壁部分を含む」を「対向するドーム、前記対向するドームの中心軸から測定された半径rの壁により画定された円筒形壁部分、少なくとも0.50cm3の体積、及び0.08mm~0.12mmの厚さを含む」と特定するとともに、同じく「環状穴開け領域」に関して、「0.4r未満でない所に位置する」を「0.4rと0.8rにより前記少なくとも1つのドームに境界を形成されて画定された」と特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮(特許法第17条の2第5項第2号)を目的とするものに該当する。そして、本件補正は、同条第3項及び第4項の規定に違反するものではない。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか、すなわち同条第6項において準用する同法第126条第7項に規定される特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならないとの要件に適合するものであるかについて検討する。
(1)補正発明
補正発明は、特許請求の範囲、明細書及び図面の記載からみて、上記1イに示す、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであると認める。
(2)引用文献の記載及び引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された、本件優先日前に頒布された刊行物である特表2006-508699号公報(以下、「引用文献」という。)には、「吸入装置で使用する穿孔手段」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。
A 「【0001】
発明の分野
本発明は、一般に、容器に収容されている粉末の放出を容易にすることに関する。特に、本発明は、粉末薬剤の吸入を容易にする方法および装置による医薬品の投与に関する。」
B 「【0041】
本発明の吸入器およびそれに関連する方法
図1に、本発明の吸入装置100の一実施形態の正面図を示す。
・・・
【0043】
図2は、図1に示される装置100の線2-2に沿った断面図である。図2に示されるように、装置100は、吸入又は放出器部分220を備える。吸入部分220は、複数の孔224を画定する半球状の部位222を備える。本発明は、特定の数の孔224に限定されず、少なくとも1つの孔224が提供されるように形成できることを理解すべきである。使用者が薬剤を吸入できるように、吸入ピース226が提供される。吸入ピース226は、使用者の口を通して吸入するためのマウスピースとして形成することができる。或いは、吸入ピース226は、使用者の鼻を通して吸入するためのノーズピースとして形成することができる。
【0044】
装置100は、円形の断面を有するまっすぐな壁212により画定される円筒状のチャンバ210を備える。チャンバ210は、近位端214および遠位端216を有する。複数のベント218が壁212によって画定され、チャンバ210の中に空気を導入して、カプセル219から放出される粉末を分散させるように形成される。本発明は、特定の数のベント218に限定されず、少なくとも1つのベント218が提供されるように形成できることを理解すべきである。カプセル219から放出される粉末は、チャンバ210内で分散され、孔224および吸入ピース226を通して使用者に吸入される。」
C 「【0045】
・・・本発明の一実施形態では、容器は、カプセルサイズ2、1、0、00、又は000に設計されたカプセルである。・・・」
D 「【0047】
本発明の一実施形態では、装置と共に使用される粒子は、約0.4g/cm3未満のタップ密度を有する。約0.4g/cm3未満のタップ密度を有する粒子は、本明細書では、「空気力学的に軽い」と称される。好ましい実施形態では、粒子は、約0.1g/cm3に近いかそれ未満のタップ密度を有する。タップ密度は、粒子を特徴付ける包膜質量密度(envelope mass density)の尺度である。」
E 「【0048】
装置100は、カプセル219を穿孔し、その中に収容されている粉末をチャンバ210の中に放出するのに使用される穿孔手段230を備える。図1に示される実施形態では、穿孔手段230は、2つのプロング232を有する実質的にU形のステープルとして形成される。この実施形態では、各プロング232は、正方形の断面234を有するように形成され、それによって、鋭利な先端と2つの切刃を提供する。これを図9Aおよび9Bに関して以下に更に詳細に検討する。以下に更に詳細に検討されるように、装置100は、或いは、図7A~7Dに示される穿孔手段を有するように形成することができる。また、装置100は、或いは、図16A~16Dに示される穿孔手段を有するように形成することができる。当業者には容易に分かるように、本発明は、以下に詳述される、これらのカプセル穿孔手段に限定されない。例えば、1つ又は複数のまっすぐな針状の器具を使用することができる。好ましくは、穿孔手段は、穿孔してカプセル中に少なくとも2つの穴を開けるように形成される。」
F 「【0070】
本発明は、容器が1回分の用量10~50mgまでの粉末を収容するとき、並びに、装置が25L/分以下の最大吸気流速および0.75L以下の吸入体積で操作されるとき、多くとも0.28(cm H2O)1/2/L/分の低い抵抗を維持し、少なくとも85%の放出用量を達成するため、装置チャンバ210の形状を最適化することを更に包含する。1回分の用量20mgの標準試験粉末を充填したサイズ00のカプセルを使用して、様々なチャンバ形状で実験を行った。前述の既知の方法を使用し、15L/分~25L/分の範囲の最大吸気流速および0.25L/分~0.75L/分の範囲の吸入体積で様々な形状の放出用量(ED)を試験した。更に、約1バールで、RODOSオリフィスから放出される乾燥粉末の粒子の幾何学的直径が、HELOS又は他のレーザー回折システムで測定される場合、4バールで測定される幾何学的粒度の約1.5倍未満であるように、RODOS乾燥粉末分散器(又は同等の技術)を使用して、放出粉末の体積平均幾何学的直径(VMGD)を測定することにより粉末の分散を定量化した。更に、当業者に分かる方法を使用して、各チャンバの抵抗を測定した。
【0071】
最適な組合せを見出すため、チャンバ210の次の寸法を変えた。マウスピースの穴の面積、マウスピースの穴の数、チャンバの直径(図4のX)、環の直径(図4のY)、ベント面積(ベント幅、ベント高さ、およびベントの数の積)、およびカプセルの穴の面積(穴の面積と穴の数の積)。最初に、カプセルの穴の面積を最大にすることが常に望ましいということが分かった。従って、カプセルの穴の面積を0.013平方インチに固定した。・・・」
G 「【0088】
図8は、図7A~7Dに表されるステープルを使用して得られる穿孔を表す。ステープルによって形成される穴は、鋭利な縁部で切削されているように見え、余分な材料は捲れる。試験では、カプセルを穿孔するのに必要な労力は、円形の断面のステープルより小さく、正方形の断面のステープルとほぼ同じである。しかし、試験中、カプセルを押しつぶしたり、又はその他穿孔し損なったことに気付いた例はなかった。これらのステープルは、非常に安く製造され、図9Aに表されるような正方形の断面積のステープルの費用の約三分の1である。」
H 「【0098】
図17A~17Dは、プロング1620を使用して穿孔し、容器1700の壁1710に垂下する穿孔屑を作り出すこと概略的に表している。容器1700は、カプセルの形状で表されているが、容器は錠剤又はブリスターパックなどの他の任意の好適な形状を有してもよいことを理解すべきである。容器1700は、プロング1620に実質的に平行な縦軸1770と、縦軸1770に実質的に垂直な短軸1780とを有する。
【0099】
図17Aに示されるように、最初に、プロング1620の穿孔面1630は、壁1710に小さい開口部1740を穿孔して開ける。次に、図17Bに示されるように、プロング1620は容器1700の中に深さDまで挿入され、開口部1740のサイズを大きくし、自由端1755を有する穿孔屑1750を形成する。実質的に平面状の面1650は、穿孔屑1750が垂下する穿孔屑となるように、穿孔屑1750と壁1710との間にヒンジ1760を形成する。最後に、図17Cに示されるように、プロング1620が壁1710から引き抜かれ、容器1700の内側に垂下する穿孔屑1750が残る。好ましくは、容器からの効率的な排出と高い放出用量を容易にするため、穿孔屑1750と短軸1780との間の角度Aは、プロング1600が容器1700から取り除かれた後、少なくとも30~45°である。」
I 「【図面の簡単な説明】
【0115】
・・・
【図17A】容器を穿孔し、その中に垂下する穿孔屑を作り出すのに使用されている、図16A~Dに示される穿孔装置のプロングの1つの概略図である。・・・」
a 摘記事項B中の「図2は、図1に示される装置100の線2-2に沿った断面図である。・・・使用者が薬剤を吸入できるように、吸入ピース226が提供される。・・・」との記載及び摘記事項E中の「装置100は、カプセル219を穿孔し、その中に収容されている粉末をチャンバ210の中に放出するのに使用される穿孔手段230を備える。」との記載からみて、引用文献に記載された吸入装置100は、粉末薬剤をカプセルから放出するために前記カプセルに穴を開けるためのものといえる。
b 摘記事項Iの「容器を穿孔し、その中に垂下する穿孔屑を作り出すのに使用されている・・・概略図である。」との記載を踏まえて、【図17A】を見れば、カプセルの形状である容器1700は、対向するドームの中心軸から測定された半径Rの壁により画定された円筒形壁部分を含むこと及び穿孔手段であるプロング1620はカプセルの少なくとも1つのドームに穴を開けるものであるといえる。
c 摘記事項H中の「図17A~17Dは・・・容器1700は、カプセルの形状で表されている・・・」との記載、一般的な粉末薬剤用カプセルの形状についての技術常識からみて、引用文献に記載されたカプセルは、対向するドーム、前記対向するドームの中心軸から測定された半径Rの壁により画定された円筒形壁部分を含むものといえる。
d 摘記事項B中の「装置100は、円形の断面を有するまっすぐな壁212により画定される円筒状のチャンバ210を備える。チャンバ210は、近位端214および遠位端216を有する。複数のベント218が壁212によって画定され、チャンバ210の中に空気を導入して、カプセル219から放出される粉末を分散させるように形成される。」との記載及び上記認定事項bからみて、引用文献の吸入装置100は、対向するドーム、前記対向するドームの中心軸から測定された半径Rの壁により画定された円筒形壁部分を含むカプセルを受容するためのチャンバ210を含むものといえる。
e 摘記事項C「本発明の一実施形態では、容器は、カプセルサイズ2、1、0、00、又は000に設計されたカプセルである。」との記載及び摘記事項F中の「1回分の用量20mgの標準試験粉末を充填したサイズ00のカプセルを使用して、様々なチャンバ形状で実験を行った。」との記載からみて、引用文献に記載された吸入装置のチャンバ210が受容するカプセルはサイズ00のものを含むことが理解できる。
f 摘記事項E中の「装置100は、カプセル219を穿孔し、その中に収容されている粉末をチャンバ210の中に放出するのに使用される穿孔手段230を備える。図1に示される実施形態では、穿孔手段230は、2つのプロング232を有する実質的にU形のステープルとして形成される。・・・穿孔手段は、穿孔してカプセル中に少なくとも2つの穴を開けるように形成される。」との記載及び図1、2に記載された装置100の構造から、引用文献に記載された穿孔手段は、カプセルの少なくとも1つのドームに2つの穴を開けるための2つのプロングを有する実質的にU形のステープルとして形成されたものといえる。
g 摘記事項F中の「1回分の用量20mgの標準試験粉末を充填したサイズ00のカプセルを使用して、様々なチャンバ形状で実験を行った。・・・カプセルの穴の面積(穴の面積と穴の数の積)。最初に、カプセルの穴の面積を最大にすることが常に望ましいということが分かった。従って、カプセルの穴の面積を0.013平方インチに固定した。」との記載から、吸入装置100においてカプセルに開けられる穴の面積は0.013平方インチ、すなわち0.08cm2であるといえる。
引用文献の摘記事項A~I及び認定事項a~gを、図面を参照しつつ技術常識を踏まえて整理すると、引用文献には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「粉末薬剤をカプセルから放出するために前記カプセルに穴を開けるための吸入装置100であって、
対向するドーム、前記対向するドームの中心軸から測定された半径Rの壁により画定された円筒形壁部分、を含むサイズ00の前記カプセルを受容するためのチャンバ210と、
前記カプセルの少なくとも1つのドームに2つの穴を開けるための2つのプロングを有する実質的にU形のステープルとして形成された穿孔手段とを含み、当該穿孔手段により開けられるカプセルの穴の面積(穴の面積と穴の数の積)が0.08cm2となる、吸入装置100。」
(3)対比及び判断
ア 対比
補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「吸入装置100」は、その文言の意味、機能または構成等からみて、補正発明の「装置」に相当する。以下同様に、「チャンバ210」は「チャンバ」に、「穿孔手段」は「機構」に、「穴の面積(穴の面積と穴の数の積)」は「全ての穴の総表面積」に、「半径R」は「半径r」に、それぞれ相当する。
また、引用発明のサイズ00のカプセルについて、本件図面【図3】にもみられるとおり、その体積は0.95cm3であることが当業者の技術常識であるところ、引用発明の「サイズ00」の「カプセル」は、補正発明の「少なくとも0.50cm3 の体積」を含む「カプセル」に相当する。
さらに、引用発明のサイズ00のカプセルの総表面積については、請求人が審判請求書13頁で指摘するとおり、616mm2であることが知られているところ、カプセルの穴の面積(穴の面積と穴の数の積)となる0.08cm2はカプセルの総表面積の1.3%にあたるから、引用発明の「サイズ00」の「カプセルの穴の面積(穴の面積と穴の数の積)が0.08cm2となる」ことは、補正発明の「全ての穴の総表面積が、前記カプセルの総表面積の0.5%から2.2%までの間にある」ことに相当する。
してみると、補正発明と引用発明とは、以下の点において一致する。
(一致点)
「粉末薬剤をカプセルから放出するために前記カプセルに穴を開けるための装置であって、
対向するドーム、前記対向するドームの中心軸から測定された半径rの壁により画定された円筒形壁部分、少なくとも0.50cm3の体積、を含む前記カプセルを受容するためのチャンバと、
前記カプセルの少なくとも1つのドームに少なくとも1つの穴を開けるための機構とを含み、
全ての穴の総表面積が、前記カプセルの総表面積の0.5%から2.2%までの間にある、装置。」
そして、補正発明と引用発明とは、以下の点で相違する。
(相違点1)
チャンバに受容されるカプセルに関し、補正発明は0.08mm~0.12mmの厚さを含むのに対し、引用発明のサイズ00のカプセルの厚さは明らかでない点。
(相違点2)
穴を開けるための機構に関し、補正発明は各穴の中心が、0.4rと0.8rにより前記少なくとも1つのドームに境界を形成されて画定された環状穴開け領域内に位置する機構であるのに対し、引用発明では穴の中心が、どのような位置にある機構であるのか明らかでない点。
イ 判断
上記相違点1及び2について検討する。
(ア)相違点1について
吸入装置において粉末薬剤を収容するためのカプセルの厚さを約0.10mm前後の厚さとすることは、常套手段といえる。例えば、本件優先日前に公知である特表2011-505905号の請求項1には、レセプタクルすなわちカプセルの壁の厚さを約100ミクロンから約240ミクロン、すなわち約0.10mmから約0.24mmとすることが記載されており、さらに段落【0080】には、壁厚の上限を120ミクロン、すなわち0.12mmに設定することも示唆されている。同じく米国特許第3927195号明細書(第2欄48行参照)には、カプセルの壁の厚さを0.10~0.20mmとすることが記載されている。
引用発明において上記常套手段を採用することにより、カプセルの厚さを約0.10mm前後、すなわち0.08mm~0.12mmとすることは、当業者が適宜採用し得たことである。
そして、補正発明においてカプセルの厚さを0.08mm~0.12mmとしたことによる臨界的意義について検討すると、カプセルの厚さは技術常識からみて、穴開け時の強度に関係すると考えられるところ、そもそもカプセルの材料を何ら特定することなく単に厚さを特定しても、強度を特定することはできないのであるから、そのような数値範囲とした臨界的意義も見出すことができない。
してみると、引用発明において上記常套手段を採用することにより、相違点1に係る補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到できたことといえる。
(イ)相違点2について
引用発明における穿孔手段が開ける2つの穴の中心位置について検討すると、まず2つの穴の面積(穴の面積と穴の数の積)が0.08cm2であるから、当該穴をドームの水平方向投影面上の円として近似すれば、穴の半径は0.12cmとなる。一方、サイズ00のカプセルの外径は、本件図面【図3】によれば、8.53mmであるから、外径(直径)が0.853cm(すなわち半径rは0.43cm)の円の直径上に半径0.12cmの円が2つ配置されるためには、穴の中心は、計算上中心軸からおおよそ0.12cm~0.31cmすなわち約0.28r~0.72rの範囲に位置することになる。
そして、中心軸から約0.28r~0.72rの範囲をドームの水平方向の投影面上に図示すれば、当該範囲は0.28rと0.72rにより境界を形成されて画定された環状穴開け領域をなすといえることも明らかである。
ここで、上記(2)の摘記事項G「【0088】・・・試験では、カプセルを穿孔するのに必要な労力は、円形の断面のステープルより小さく、正方形の断面のステープルとほぼ同じである。しかし、試験中、カプセルを押しつぶしたり、又はその他穿孔し損なったことに気付いた例はなかった。」との記載を参酌すると、引用文献においてもカプセルに穿孔する際のつぶれや、穿孔のし損ないといった課題が認識されていたことが窺われる。
また、例えば引用文献の【図8】、【図9B】にも図示されているように、2つのプロングを有する実質的にU形のステープルとして形成される引用発明の穿孔手段で穿孔する場合には、2つのプロングがカプセルに与える力ができるだけ均等になるように、あるいは穿孔後の粉末薬剤の放出がスムーズになるように、カプセルに穿孔される2つの穴を、カプセルの中心軸(縦軸)を挟んだ略対称位置となるように穿孔することが慣用されているといえる。
さらに、上記(2)の摘記事項H「容器1700は、プロング1620に実質的に平行な縦軸1770と、縦軸1770に実質的に垂直な短軸1780とを有する。・・・図17Aに示されるように、最初に、プロング1620の穿孔面1630は、壁1710に小さい開口部1740を穿孔して開ける。次に、図17Bに示されるように、プロング1620は容器1700の中に深さDまで挿入され、開口部1740のサイズを大きくし、自由端1755を有する穿孔屑1750を形成する。・・・最後に、図17Cに示されるように、プロング1620が壁1710から引き抜かれ、容器1700の内側に垂下する穿孔屑1750が残る。」の記載及び引用文献の【図17A】~【図17C】を参照すると、容器1700(カプセル)の縦軸1770と穿孔手段であるプロング1620とは平行に配置され、プロング1620が容器1700の縦軸1770と平行に上下動することにより、穿孔することが理解できる。そして、穴を開ける部分はドームすなわちほぼ半球状であるから、プロング1620が図中上方向に移動して穿孔する際に、プロング1620の容器1700の短軸1780方向の位置が容器1700の縦軸1770すなわち中心軸に近いほど、プロング1620先端と容器1700との衝突角度が大きくなり、容器1700の縦軸1770から離れるほど衝突角度が小さくなることになる。
そうすると、プロング1620の位置が容器1700の縦軸1770に近くなるほど、プロング1620が容器1700の壁に衝突する際に当該壁に生じる応力が大きくなることは技術常識といえるから、穿孔時につぶれが生じないように、穿孔位置を縦軸1700からできるだけ離す必要があることが理解できる。同様に、プロング1620の位置が容器1700の縦軸1770から離れ、円筒形壁部分に近くなるほど、プロング1620が容器1700の壁に衝突する際に当該壁に生じる応力が小さくなることも技術常識といえるから、穿孔のし損ないが生じないように、穿孔位置を円筒形壁部分からできるだけ離す必要があることが理解できる。
以上のことを踏まえると、上記のようにカプセルに開ける穴の中心が、0.28rと0.72rにより境界を形成されて画定された環状穴開け領域内に位置する引用発明において、0.28r~0.72rの環状穴開け領域のうち、その中央値(例えば、下限値を0.4r以上とすること。)を選択し、穴の中心位置を適宜調整して、0.4r~0.8rの範囲とすることは、当業者が容易になし得たことといえる。
そして、本件明細書に記載された補正発明の効果をみても、引用文献及び常套手段に接した当業者であれば当然に認識できた程度のものであって、格別なものということはできない。
よって、補正発明は引用発明及び常套手段に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでない。
(4)審判請求書等における主張について
請求人は、審判請求書等において、主として以下ア及びイの点について主張する。
ア 各穴の中心が、0.4rと0.8rにより少なくとも1つのドームに境界を形成されて画定された環状穴開け領域内に位置することは、少なくとも0.50cm3の体積及び0.08~0.12mmの厚さを有するカプセルからの粉末薬剤の適切な放出を達成するためにクリティカルである。
イ 引用文献の段落0065に記載された、0.33インチの内径X、0.30インチの内径Y、及び0.57インチの距離Zを有するチャンバを用いて、サイズ0のカプセルに0.6rのところで穴を開けるために用いたプロングの位置では、カプセルをサイズ2に変えた場合、0.52r及び0.92rのところに穴を開けることとなり、請求項の範囲外の位置となってしまう。
まず、主張アについて検討すると、本件明細書等を見ても、穴の中心位置と粉末薬剤の放出量との直接的な関係を示す記載は存在しない。本件図面【図6】、【図7】は穴の総表面積及びカプセルの総表面積と粉末薬剤の放出量の関係について示唆するものの、穴の中心位置との関係では何らの示唆を与えるものではないし、その他に具体的な証拠は何ら提出されていない。さらにそのカプセルが少なくとも0.50cm3の体積及び0.08~0.12mmの厚さを有するものであることと上記穴の中心位置や粉末薬剤の放出との関係についても本件明細書中には何ら記載されていない。そして技術常識をみても、穴の中心位置、カプセルの体積及び厚さがそれぞれの数値範囲内であった場合と数値範囲外であった場合とで粉末薬剤の放出に大きな違いが生ずるものとも解せない。
つぎに、主張イについて検討すると、本件図面【図3】によれば、サイズ2のカプセルの体積は0.37cm3であって、補正発明の「少なくとも0.50cm3の体積」を有するとの要件を満たしていないのであるから、主張イは特許請求の範囲の記載に基づかない主張といわざるを得ない。
なお、主張イでは、サイズ0のカプセルに0.6rの位置で穴を開けることを前提としているが、例えば、0.4rの位置とした場合には、サイズ2のカプセルであっても、0.59r及び0.68rの位置に穴が開くこととなる。
よって、主張ア及びイは、いずれも採用することができない。
(5)平成30年7月24日付けの上申書における主張について
請求人は、上申書において、明細書の段落0042において言及されたカプセルの「サイズ00」は、「サイズ0」の誤記であって、これに伴い請求項1に特定されたカプセルの体積である「少なくとも0.50cm3」を、「少なくとも0.68cm3」と補正を希望する旨主張するが、例えそのように補正したとしても、引用発明のカプセルの体積は、「少なくとも0.68cm3」との要件を満たしている(上記(3)ア参照。)のであるから、上記(3)ア、イの検討には何ら影響しない。
(6)本件補正についての結び
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反している。よって、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により、本件補正は却下すべきものである。
以上のことから、上記[補正却下の決定の結論]のとおり決定する。
第3 本願発明
本件補正が上記のとおり却下されたので、本願の請求項1~30に係る発明は、平成29年10月10日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1~30に記載された事項により特定されるとおりのものであって、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記第2 1アに示すとおりのものであると認める。
第4 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由のうち本願発明に対する理由は、概ね次のとおりである。
この出願の請求項1に係る発明は、本願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
第5 引用文献の記載及び引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献の記載事項及び引用発明は、上記第2 2(2)に示したとおりである。
第6 対比及び判断
本願発明は、補正発明から「少なくとも0.50cm3の体積、及び0.08mm~0.12mmの厚さ」、「と0.8rにより前記少なくとも1つのドームに境界を形成されて画定された」という発明特定事項を削除したものに相当する。すなわち、補正発明は、本願発明の発明特定事項の全てを含んでいる。
そうすると、補正発明が上記第2 2(3)に示したように、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様に、引用発明に基いて容易に発明をすることができたものである。
第7 結び
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2018-002573