特許無効審判
2017-800086
船舶
- 審判番号
- 2017-800086
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 無効審判(無効の審決)
- 出願番号
- 特願2013-095949
- 登録番号
- 5536254
- 請求日
- 2017年07月04日
- 審決日
- 2021年10月26日
- 公報発行日
- 2022年12月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】内海造船 株式会社
- 【請求人代理人】松阪 正弘
- 【請求人代理人】田中 勉
- 【請求人代理人】井田 正道
- 【請求人代理人】鎌田 邦彦
- 【請求人代理人】福本 洋一
- 【請求人代理人】坂根 大亮
- 【参加人】三菱重工業株式会社
- 【参加人代理人】大野 聖二
- 【参加人代理人】酒谷 誠一
- 【被請求人】三菱造船株式会社
- 【被請求人代理人】大野 聖二
- 【被請求人代理人】酒谷 誠一
- 審判長/審判官
- 審判長 藤井 昇
- 審判官 佐々木 一浩
- 審判官 出口 昌哉
- 分類
- P1113.121-YAA(B63B) / P1113.113-YAA(B63B) / P1113.841-YAA(B63B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第126条第5項、特許法第134条の2第6項、特許法第134条の2第1項、特許法第169条第2項
- データ出所
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事件の表示
上記当事者間の特許第5536254号「船舶」の特許無効審判事件についてされた平成31年4月23日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において請求項1ないし8に係る発明に対する部分の審決取消しの判決(令和元年(行ケ)第10079号、令和2年7月2日判決言渡)がされ、当該判決は確定したので、審決が取り消された部分の請求項1ないし8に係る発明についてさらに審理のうえ、次のとおり審決する。
結論
結 論
特許第5536254号の特許請求の範囲を令和2年10月15日付け訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5、7、8〕、6について訂正することを認める。
特許第5536254号の請求項1から8に係る発明についての本件審判の請求は、成り立たない。
審判費用は、請求人の負担とする。
理由
理 由
第1 手続の経緯
1 本件審判請求がされるまでの経緯
本件特許5536254号(以下「本件特許」という。)は、平成22年12月18日に出願した特願2010-282471号の一部を平成25年4月30日に新たな特許出願(特願2013-95949号)としたものであって、平成26年5月9日にその発明について特許権の設定登録がされた。
その後、平成27年8月17日付けで訂正審判の請求(訂正2015-390092号)がされ、同年10月6日付けで手続補正がされ、同年10月13日付けで特許に係る特許請求の範囲を審判請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを認める旨の審決がされ、当該審決が同年10月22日に確定した。
さらに、平成29年6月2日付けで訂正審判の請求(訂正2017-390042号)がされ、同年7月25日付けで、本件特許に係る特許請求の範囲を審判請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを認める旨の審決がされ、当該審決が同年8月3日に確定した。
2 一次審決までの主な手続きの経緯
そして、本件無効審判に係る、平成31年4月23日付け審決(以下「一次審決」という。)までの主な手続の経緯は、以下のとおりである。
平成29年 7月 4日付け 審判請求書
同年 8月10日付け 訂正を認める審決の確定の通知書
同年 9月11日付け 弁駁書、手続補正書
同年 9月22日付け 手続補正指令書(方式)
同年10月11日付け 手続補正書(方式)、証拠説明書(請求人)
同年12月19日付け 答弁書、証拠説明書(1)(被請求人)、営業秘密に関する申出書
平成30年 1月29日付け 併合審理通知書(無効2017-800109号)
同年 2月20日付け 審理事項通知書
同年 3月14日付け 口頭審理陳述要領書(請求人)
同年 4月 5日付け 口頭審理陳述要領書、証拠説明書(2)(被請求人)
同年 4月 9日付け 手続続行通知書(被請求人:三菱造船株式会社へ権利移転)
同年 4月11日付け 参加申請書(被請求人:参加人 三菱重工業株式会社)
同年 4月12日付け 参加申請書副本の送達通知
同年 4月18日付け 意見書(請求人)
同年 4月19日付け 参加許否の決定(参加の申請を許可)
同年 4月25日 口頭審理
同年 5月16日付け 上申書、証拠説明書(2)(請求人)
同年 6月 6日付け 上申書(被請求人、参加人)
同年 7月23日付け 審尋(請求人へ)
同年 8月27日付け 回答書、証拠説明書(3)(請求人)
同年10月23日付け 無効理由通知書、職権審理結果通知書
同年11月26日付け 訂正請求書、意見書、調査嘱託の申立書、証拠説明書(3)(被請求人)
同年12月27日付け 訂正請求書副本の送付通知
平成31年 1月15日付け 上申書(被請求人、参加人)
同年 2月 1日付け 弁駁書
同年 2月22日付け 併合分離通知書(無効2017-800109号)
同年 3月29日付け 補正許否の決定
同年 4月 9日付け 審理終結通知書
同年 4月23日付け 一次審決
3 一次審決
一次審決の結論は「特許第5536254号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5、7、8〕、6、9について訂正することを認める。本件審判の請求は、成り立たない。審判費用は、請求人の負担とする。」というものである。
4 審決取消訴訟
請求人は、令和元年6月5日、上記一次審決の取り消しを求めて、知的財産高等裁判所に訴訟を提起した。上記訴訟は、知的財産高等裁判所において、令和元年(行ケ)第10079号審決取消請求事件として審理され、令和2年7月2日に「主文 1 特許庁が無効2017-800086号事件について平成31年4月23日にした審決のうち,特許第5536254号の請求項1から8に係る部分を取り消す。2 原告のその余の請求を棄却する。3 訴訟費用は,これを9分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。」とする判決(以下「本件判決」という。)の言い渡しがあり、その後確定した。
5 本件判決確定後の主な手続きの経緯
本件判決確定後の主な手続の経緯は、以下のとおりである。
令和 2年 9月 9日付け 訂正申立
同年 9月15日付け 審理再開通知書
同年10月 8日付け 通知書
同年10月15日付け 訂正請求書
同年10月27日付け 上申書(請求人)
同年12月17日付け 弁駁書、証拠説明書(4)(請求人)
令和 3年 2月18日付け 上申書(請求人)
同年 3月 4日付け 補正許否の決定
同年 3月31日付け 上申書(被請求人)
同年 4月21日付け 答弁書、証拠説明書(4)(被請求人)
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和2年10月15日付けの訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)は、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~8のとおり訂正することであり、訂正事項は以下のとおりである(なお、下線部が訂正箇所である。)。
(1)訂正事項1(請求項1に係る訂正)
(1-1)訂正事項1-1
特許請求の範囲の請求項1に、
「前記側壁及び前記隔壁に接する少なくとも1つの浸水防止部屋」とあるのを、
「前記側壁及び前記隔壁に接する少なくとも1つの浸水防止部屋(ただし、タンクを除く。)」に訂正する。
請求項1の記載を引用する請求項2~5、7~8も同様に訂正する。
(1-2)訂正事項1-2
特許請求の範囲の請求項1に、
「前記浸水防止部屋は、ショアランプが設けられる甲板に面してその下方に設けられ、」とあるのを、
「前記浸水防止部屋は、ショアランプが設けられる甲板に面してその下方に設けられ、前記部屋の高さ方向にわたって形成され、」に訂正する。
請求項1の記載を引用する請求項2~5、7~8も同様に訂正する。
(1-3)訂正事項1-3
特許請求の範囲の請求項1に、
「前記機関区域の前記部屋は、縦通隔壁で区画されていない」とあるのを、
「前記隔壁によって推進方向の前後に区画された前記機関区域の2つの前記部屋は、いずれも縦通隔壁で区画されていない」に訂正する。
請求項1の記載を引用する請求項2~5、7~8も同様に訂正する。
(2)訂正事項2(請求項6に係る訂正)
特許請求の範囲の請求項6に、
「前記浸水防止部屋は、前記隔壁の前記船体の後方の前記部屋側に設けられることを特徴とする請求項1または2に記載の船舶。」とあるのを、
「船外に面する左右の側壁を有する船体と、
該船体の内部であって隔壁により推進方向の前後に区画される複数の部屋と、
前記側壁及び前記隔壁に接する少なくとも1つの浸水防止部屋(ただし、タンクを除く。)と、
を備え、
前記浸水防止部屋は、端部が前記側壁及び前記隔壁に接合される仕切板により形成され、前記仕切板の全面が前記部屋に面すると共に、
前記浸水防止部屋は、ショアランプが設けられる甲板に面してその下方に設けられ、前記部屋の高さ方向にわたって形成され、
前記浸水防止部屋の少なくとも1つは、機関区域の前記部屋に設けられ、
前記機関区域の前記部屋の前記側壁と前記隔壁との連結部を覆った空間であり前記空間に面する前記側壁が損傷した場合浸水し、
前記浸水防止部屋で前記連結部が覆われた前記隔壁は、前記機関区域の2つの前記部屋を推進方向の前後に区画し、
前記隔壁によって推進方向の前後に区画された前記機関区域の2つの前記部屋は、いずれも縦通隔壁で区画されず、
前記浸水防止部屋は、前記隔壁の前記船体の後方の前記部屋側に設けられることを特徴とする船舶。」に訂正する。
(3)本件訂正請求は、平成29年8月3日に確定した訂正審判である訂正2017-390042号により訂正された、本件訂正前の一群の請求項〔1-8〕に対して請求されたものである。
なお、本件訂正請求に伴い、先にした平成30年11月26日付けの訂正請求のうち、請求項1~8に対して請求された訂正請求は、特許法第134条の2第6項の規定により、取り下げられたものとみなす。
また、訂正後の請求項6については、引用関係の解消を目的とする訂正であるから、当該請求項についての訂正が認められる場合には請求項6は、請求項1~5、7、8とは別途訂正することを求めている。
2 訂正の適否についての判断
(1)訂正事項1(請求項1に係る訂正)について
(1-1)訂正事項1-1について
ア 訂正の目的
訂正事項1-1は、請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「浸水防止部屋」に関し、「(ただし、タンクを除く。)」こと(以下「事項A」ということもある。)を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の有無について
本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」といい、同様に特許請求の範囲を「本件特許請求の範囲」、図面を「本件図面」といい、これら特許請求の範囲、明細書及び図面を合わせたものを「本件明細書等」という。)の段落【0009】には、「【課題を解決するための手段】」に関して「側壁における隔壁の近傍が損傷を受けても、浸水防止部屋が浸水するだけで、複数の部屋に跨って浸水することはなく、船損傷時における複数の部屋への浸水を防止することができると共に、複数の部屋の大型化を抑制して設計の自由度を拡大することができる。」と記載されており、「浸水防止部屋」とは、それに面する側壁が損傷し浸水しても、それが設けられた部屋に浸水しないような水密の構造となっている部屋であることが開示されている。
そして、「タンク」とは、「気体・液体を収容する密閉容器。」(岩波書店「広辞苑」第六版)であるところ、訂正事項1-1により、「浸水防止部屋」から「タンク」が除かれたとしても、そのような「浸水防止部屋」が、それに面する側壁が損傷し浸水しても、それが設けられた部屋に浸水しないような水密の構造となっている部屋であることに何ら変わりはなく、訂正事項1-1が本件明細書等から導かれる技術的事項に何らかの変更を生じさせるものとはいえないから、訂正事項1-1が本件明細書等に開示された技術的事項に新たな技術的事項を導入するものでないことは明らかである。
したがって、事項Aを限定する訂正事項1-1は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてした訂正であって、新規事項の追加に該当しない。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項1-1は、訂正の前後で特許請求の範囲に記載された発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
エ 請求人の主張について
請求人は、令和2年12月17日付けの弁駁書5ページ「7.(2)ウ」において、「本件発明から、タンクである浸水防止部屋を除くことは、タンクを兼用した浸水防止部屋とタンクを兼用しない浸水防止部屋という新たな区分を設け、その区分によって新たな技術的意義をもたらすものであり、新たな技術的事項を導入することにほかならない。」と主張する。
しかしながら、上記イで述べたとおり、「タンク」を含む「浸水防止部屋」から「タンク」が除かれたとしても、そのような「浸水防止部屋」が、それに面する側壁が損傷し浸水しても、それが設けられた部屋に浸水しないような水密の構造となっている部屋であることに何ら変わりはないから、請求人の主張は採用することができない。
(1-2)訂正事項1-2について
ア 訂正の目的
訂正事項1-2は、請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「浸水防止部屋」に関し、「前記部屋の高さ方向にわたって形成され」ること(以下「事項B」ということもある。)を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の有無について
訂正事項1-2に係る浸水防止部屋は、「ショアランプが設けられる甲板に面してその下方に設け」られるものであるところ、本件明細書の段落【0027】の「甲板12bの船首側右舷に、車両がロールオン・ロールオフするための起倒式の船首舷側ランプ17aが設けられ、船尾側右舷には、起倒式の船尾舷側ランプ17bが設けられている。」との記載によれば、「甲板12bがショアランプが設けられる甲板」に当たるので、本件図面の【図2】も踏まえると、訂正事項1-2に係る浸水防止部屋は、その下方にある浸水防止部屋27a,27bということになる。
本件図面の【図2】によれば、浸水防止部屋27a,27bを形成する仕切板は、上端が甲板12bに、下端が仕切甲板24にそれぞれ接しているように描かれている。浸水防止部屋を設けることで、これを設けた部屋への浸水を防止するという発明の目的に照らせば、浸水防止部屋は水密な区画であると解されるところ、仕切板が上下の甲板に接していないのであれば、浸水防止部屋に天井又は床を形成する部材が必要となるはずであるが、本件明細書の段落【0031】には、仕切板26a及び26bについてしか記載がないことからも、仕切板は、上下の甲板に接していると解される。
また、浸水防止部屋が、これを設ける部屋の高さ方向にわたって形成されていれば、隔壁付近の側壁のどのような高さの部分が損傷しても、浸水防止部屋を設けた部屋への浸水を防止できることとなり、発明の目的にかなうこととなる。
したがって、本件明細書には、浸水防止部屋27a,27bを、部屋22bの高さ方向にわたって形成することが記載されているといえる。
以上によれば、事項Bを限定する訂正事項1-2は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてした訂正であって、新規事項の追加に該当しない。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項1-2は、訂正の前後で特許請求の範囲に記載された発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
(1-3)訂正事項1-3について
ア 訂正の目的
訂正事項1-3は、訂正前において「前記機関区域の前記部屋は、縦通隔壁で区画されていない」と記載され、「前記機関区域の前記部屋」が、その前に記載された「前記隔壁は、前記機関区域の2つの前記部屋を推進方向の前後に区画し、」における「前記機関区域の2つの前記部屋」であることが必ずしも明確でなかった記載を、訂正後に「前記隔壁によって推進方向の前後に区画された前記機関区域の2つの前記部屋は、いずれも縦通隔壁で区画されていない」(以下「事項C」ということもある。)とすることで明確にしたものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 新規事項の有無について
(ア)本件明細書の段落【0034】の「部屋22a,23aは、機関室として利用し、部屋22b,23bは、軸室として利用してもよい。」との記載によれば、部屋22a,23aは機関室として、部屋22b,23bは軸室として利用可能であるから、前記部屋22a,23a及び部屋22b,23bは機関区域として利用可能であるといえる。
(イ)ここで、上記事項Cに記載されている「縦通隔壁」の用語の意味を検討する。
日本工業規格の「造船用語-一般」には、「縦通隔壁」について、「船の縦方向に設ける隔壁。」(番号2039)と規定されている。さらに「隔壁」は、「船内の区画を形作る仕切り壁。備考 目的によって水密,油密,非水密隔壁など,また配置によって横,縦,囲壁隔壁,部分隔壁などの区分がある。」(番号2038)と規定され、「部分隔壁」は、「船側から船側まで,又は前後に全通しないで一部分に設ける隔壁。」(番号2043)と規定されている(かかる技術分野の技術常識である。)。
これらの規定から、「縦通隔壁」は、船の縦方向に設ける仕切り壁であって、船の前後に全通しないで一部分に設ける仕切り壁を含むものと解することができる。
(ウ)そして、本件明細書の段落【0003】、【0006】及び【0007】に記載された船舶の国際規則を踏まえると、本件特許に係る発明は、船側損傷について、隔壁を挟んだ2区画が損傷することを前提に判断することとなるため、浸水容積が過大となり、配置の自由度が制限されてしまうとの課題を解決して、船側損傷時における複数の部屋への浸水を防止すると共に設計の自由度を拡大可能とする船舶を提供することを目的とするものであり、そのために、隔壁を挟んだ2区画(部屋)に、側壁及び隔壁に接する浸水防止部屋を設けるなどの構造とすることで、側壁における隔壁の近傍が損傷を受けても、浸水容積が小さい浸水防止部屋が浸水するだけで、浸水防止部屋を設けた部屋が浸水することがないようにするとともに、設計の自由度を拡大するものである。
そうだとすると、本件特許に係る発明は、隔壁を挟んだ2区画(部屋)が、いずれも浸水容積が大きい場合に適用することが第一次的に想定されているといえるところ、一般に、2つの部屋がいずれも「縦通隔壁で区画されていない」方が、浸水容積が大きくなるし、設計の自由度も高いといえる。
(エ)また、本件図面の【図1】は、「本発明の実施例1に係る船舶としての旅客船における後部の平面図」(本件明細書段落【0025】)であるが、部屋22a,22b,23a,23bに、縦通隔壁は記載されていない。特許図面は設計図面等とは異なり、構造の一部が省略されることがありうるものであるが、浸水区画の広狭が問題となる本件特許に係る発明において、隔壁の存否は浸水区画に影響するから、存在するとすれば記載があるのが自然であるし、船側及び横置隔壁で囲まれた区画には、「22a(23a)部屋」等の番号が付されおり、仕切甲板24の上下に2部屋あることは明示しているから、22a等の区画は1つの部屋と見るのが自然であり、上下の部屋の一方が、不図示の隔壁により複数の部屋に区画されているにも関わらず、それらをまとめて1つの番号を付しているとは考え難い。
(オ)したがって、当業者が、本件明細書に記載された事項を総合すれば、隔壁を挟んだ2区画(前記隔壁によって推進方向の前後に区画された前記機関区域の2つの前記部屋)が、いずれも縦通隔壁で区画されていない構造であることを導くことができるといえる。
(カ)以上によれば、訂正事項1-3は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてした訂正であって、新規事項の追加に該当しない。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項1-3は、訂正の前後で特許請求の範囲に記載された発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
(2)訂正事項2(請求項6に係る訂正)について
ア 訂正の目的
訂正事項2は、訂正前において、請求項6が請求項1または2を引用するものであったところ、訂正後に、訂正前の請求項1を引用する請求項6について、請求項間の引用関係を解消して独立形式請求項へ改める訂正をするとともに、上記訂正事項1(訂正事項1-1~1-3)に係る訂正をするものであるから、特許請求の範囲の減縮、明瞭でない記載の釈明及び他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。
イ 新規事項の有無について
上記「(1)」で述べたとおり、訂正事項1(訂正事項1-1~1-3)による訂正は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり、新規事項の追加には該当しないから、訂正事項2も同様の理由により、新規事項の追加には該当しない。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項2は、訂正の前後で特許請求の範囲に記載された発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
(3)小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書き第1号、3号及び4号に掲げる事項を目的とし、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、本件訂正を認める。
また、訂正後の請求項6については、引用関係の解消を目的とする訂正であるところ、被請求人は、別途訂正することを求めているので、訂正後の請求項〔1-5、7、8〕、6がそれぞれ一群の請求項をなす。
第3 本件発明
上記「第2」で述べたとおり本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1~9に係る発明(以下「本件発明1~9」といい、「本件発明1~9」を総称して「本件発明」ということがある。)は、令和2年10月15日付け訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1~9に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
船外に面する左右の側壁を有する船体と、
該船体の内部であって隔壁により推進方向の前後に区画される複数の部屋と、
前記側壁及び前記隔壁に接する少なくとも1つの浸水防止部屋(ただし、タンクを除く。)と、
を備え、
前記浸水防止部屋は、端部が前記側壁及び前記隔壁に接合される仕切板により形成され、前記仕切板の全面が前記部屋に面すると共に、
前記浸水防止部屋は、ショアランプが設けられる甲板に面してその下方に設けられ、前記部屋の高さ方向にわたって形成され、
前記浸水防止部屋の少なくとも1つは、機関区域の前記部屋に設けられ、前記機関区域の前記部屋の前記側壁と前記隔壁との連結部を覆った空間であり前記空間に面する前記側壁が損傷した場合浸水し、
前記浸水防止部屋で前記連結部が覆われた前記隔壁は、前記機関区域の2つの前記部屋を推進方向の前後に区画し、
前記隔壁によって推進方向の前後に区画された前記機関区域の2つの前記部屋は、いずれも縦通隔壁で区画されていないことを特徴とする船舶。
【請求項2】
前記浸水防止部屋は、前記左側の側壁と前記隔壁に接する左方浸水防止部屋と、前記右側の側壁と前記隔壁に接する右方浸水防止部屋とを有することを特徴とする請求項1に記載の船舶。
【請求項3】
前記浸水防止部屋は、前記隔壁を挟んで前後の前記部屋側にそれぞれ設けられることを特徴とする請求項1または2のいずれか一つに記載の船舶。
【請求項4】
前記浸水防止部屋は、前記複数の部屋より容積が小さく、且つ、満載喫水線での幅が前記船体の幅の1/10以上に設定されることを特徴とする請求項1から3のいずれか一つに記載の船舶。
【請求項5】
前記浸水防止部屋は、前記複数の部屋より容積が小さく、且つ、前記満載喫水線での前後長さが前記船体の全長の3/100以上に設定されることを特徴とする請求項1から3のいずれか一つに記載の船舶。
【請求項6】
船外に面する左右の側壁を有する船体と、
該船体の内部であって隔壁により推進方向の前後に区画される複数の部屋と、
前記側壁及び前記隔壁に接する少なくとも1つの浸水防止部屋(ただし、タンクを除く。)と、
を備え、
前記浸水防止部屋は、端部が前記側壁及び前記隔壁に接合される仕切板により形成され、前記仕切板の全面が前記部屋に面すると共に、
前記浸水防止部屋は、ショアランプが設けられる甲板に面してその下方に設けられ、前記部屋の高さ方向にわたって形成され、
前記浸水防止部屋の少なくとも1つは、機関区域の前記部屋に設けられ、前記機関区域の前記部屋の前記側壁と前記隔壁との連結部を覆った空間であり前記空間に面する前記側壁が損傷した場合浸水し、
前記浸水防止部屋で前記連結部が覆われた前記隔壁は、前記機関区域の2つの前記部屋を推進方向の前後に区画し、
前記隔壁によって推進方向の前後に区画された前記機関区域の2つの前記部屋は、いずれも縦通隔壁で区画されず、
前記浸水防止部屋は、前記隔壁の前記船体の後方の前記部屋側に設けられることを特徴とする船舶。
【請求項7】
前記浸水防止部屋は、4辺の壁に囲まれていることを特徴とする請求項1から3のいずれか一つに記載の船舶。
【請求項8】
前記浸水防止部屋は、前記ショアランプが設けられる甲板と船底との間に設けられる車両搭載甲板より後方に設けられることを特徴とする請求項1から3のいずれか一つに記載の船舶。
【請求項9】
船外に面する左右の側壁を有する船体と、
該船体の内部であって隔壁により推進方向の前後に区画される複数の部屋と、
を備え、
前記浸水防止部屋は、端部が前記側壁及び前記隔壁に接合される仕切板により形成され、前記仕切板の全面が前記部屋に面すると共に、
前記浸水防止部屋は、ショアランプが設けられる甲板に面してその下方に設けられ、前記部屋の高さ方向にわたって形成され、
前記浸水防止部屋の少なくとも1つは、機関区域の前記部屋に設けられ、前記機関区域の前記部屋の前記側壁と前記隔壁との連結部を覆った空間であり前記空間に面する前記側壁が損傷した場合浸水し、
前記浸水防止部屋で前記連結部が覆われた前記隔壁は、前記機関区域の2つの前記部屋を推進方向の前後に区画し、
前記隔壁によって推進方向の前後に区画された前記機関区域の2つの前記部屋は、いずれも縦通隔壁で区画されず、
前記浸水防止部屋は、前記左側の側壁と前記隔壁に接する左方浸水防止部屋と、前記右側の側壁と前記隔壁に接する右方浸水防止部屋とを有し、
前記浸水防止部屋は、前記隔壁の前記船体の後方の前記部屋側に設けられ、二つの前記浸水防止部屋が上下2段に並んで配置されていることを特徴とする船舶。」
第4 請求人の主張の概要及び証拠方法
1 請求人の主張の概要
請求人は、平成29年7月4日付け審判請求書において、甲第1号証~甲第8号証の3を提出するとともに、無効理由1~2-4を主張した。その後、本件特許に係る訂正審判(訂正2017-390042号)において、訂正を認める旨の審決が確定したことによる同年8月10日付けの「訂正を認める審決の確定の通知書」を受けて同年9月11日付け弁駁書及び手続補正書を提出し、同年9月22日付け手続補正指令書(方式)を受けて同年10月11日付け手続補正書(方式)(参考資料4及び5を甲第9及び10号証に変更)を提出し、また、平成30年3月14日付け口頭審理陳述要領書(陳述参考資料1及び2を提出)を提出した。
そして、同年4月25日付け口頭審理において、審判長は、平成29年9月11日付け弁駁書に記載されている請求の理由の補正事項のうち、補正事項(4)~(7)[3ページ11行~4ページ4行]、補正事項(10)[4ページ15行~5ページ2行]、補正事項(16)[6ページ下から6行~同ページ末行]、補正事項(18)[7ページ7行~同ページ12行]、補正事項(20)~(22)[7ページ22行~8ページ21行]は、審判請求書の要旨を変更するものであるから、審理の対象とはしない。その他の弁駁書に記載された補正事項は審理の対象とする旨の許否決定を行った。また、請求人は、甲第8号証(甲第8号証の1ないし甲第8号証の3)の書証としての提出を撤回すると共に、甲第8号証を主引用文献とする無効理由2-4を撤回した(第1回口頭審理調書)。
さらに、口頭審理後に、平成30年5月16日付け上申書(上申書に添付して甲第13号証、甲第14号証の1、甲第14号証の2、甲第15~18号証を提出)を、同年7月23日付け当審からの審尋を受けて同年8月27日付け回答書(回答書に添付して甲第14号証の3、甲第14号証の4、甲第19号証の1~甲第21号証を提出)を提出した。
本件判決後においては、令和2年10月27日付け上申書を提出し、本件訂正の請求に対して同年12月17日付け弁駁書を提出して甲第22~27号証を追加した無効理由を主張し、令和3年2月18日に上申書を提出したところ、令和3年3月4日付け補正許否の決定により、当該弁駁書による請求の理由の補正は、本件訂正の請求によりその必要が生じたものであるから、無効理由2-2及び2-3を以下のとおり補正することが許可された。
上記各提出書類によれば、請求人が主張する請求の趣旨は、「特許第5536254号の特許請求の範囲の請求項1から8に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求めるものであり、無効理由及び証拠方法は次のとおりである。
(1)無効理由1
本件特許に対して平成27年8月17日付けで請求された訂正審判(訂正2015-390092号)によりなされた訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲または図面に記載した事項の範囲内ではなく、特許法第126条第5項の規定に違反するものであり、その特許は同法第123条第1項第8号により、無効とすべきである。
(2-1)無効理由2-1
本件発明1、4、5、7、8は、本件特許の出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第3号証の1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、それらについての特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
本件発明2、3、6は、本件特許の出願前に、日本国内において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である甲第3号証の1に記載された発明、甲第4号証及び甲第5号証に記載された事項に基いて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、それらについての特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
(2-2)無効理由2-2
本件発明1ないし8は、本件特許の出願前に日本国内において頒布された刊行物に記載された発明である甲第4号証に記載された発明、甲第17号証、甲第22号証及び甲第23号証に記載された事項、甲第27号証に記載された事項、甲第5号証に記載された事項に基いて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、それらについての特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
(2-3)無効理由2-3
本件発明1ないし8は、本件特許の出願前に日本国内において頒布された刊行物に記載された発明である甲第6号証に記載された発明、甲第17号証、甲第22号証及び甲第23号証に記載された事項、甲第24~26号証に記載された事項、甲第5号証に記載された事項、甲第7号証に記載された事項に基いて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、それらについての特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
2 証拠方法
・甲第1号証:平成26年11月21日付け請求人から被請求人への送付文書
・甲第2号証:平成27年1月6日付け被請求人から請求人への送付文書
・甲第3号証の1:「Damage Stability Tests with the Model of a 200m RoPax Vessl Final Report Part IIb」(200m RoPax船のモデルを用いた損傷時復原性試験最終報告 Part IIb),表紙からアネックスAまで,「1st EMSA study on damage stability of ROPAX vessels [2009 Report & Annexes]」(「ROPAX船の第1回EMSA研究報告」[2009年報告および添付資料])
・甲第3号証の2:「Damage Stability of RoPax Vessl [2009]」(RoPax船の損傷時復原性試験 2009年),「1st EMSAstudy on damage stability of ROPAX vessels [2009 Report & Annexes]」(ROPAX船の第1回EMSA研究報告[2009年報告および添付資料])を掲載
URL:http://www.emsa.europa.eu/implementation-tasks/ship-safety-standards/items.html?cid=92&id=160
・甲第4号証:「船の科学」1977年12月号(昭和52年12月10日),発行所:株式会社船舶技術協会,第30巻第12号,p31-33,51-57,106
・甲第5号証:特開昭52-143689号公報
・甲第6号証:「船の科学」2001年1月号(平成13年1月10日),発行所:株式会社船舶技術協会,第54巻第1号,p55-61,104
・甲第7号証:特開2003-137168号公報
・甲第9号証:被請求人が平成27年10月6日に提出した手続補正書
・甲第10号証:特開2012-131242号公報
・陳述参考資料1:平成30年2月28日付けEMSAのMartin氏から請求人代理人への電子メール
・陳述参考資料2:「HSVA Report No.1669」「Research for Parameters of the Damage Stability Rules including the Calculation of Water on Deck of Ro-Ro Passenger Vessels, for the amendment of the Directives 2003/25/EC and 98/18/EC Final Report Part I」(HSVAレポートNo.1669 指針2003/25/EC及び98/18/ECの修正のためのRo-Ro客船の甲板上浸水の計算を含む損傷時復原性規則のパラメータの研究 最終報告パート1),表紙,目次,p42-43,甲第3号証の1が含まれるzipファイルに同封されているFSGレポートの「Part I.pdf」
・甲第13号証:平成30年2月28日付けEMSAのMartin氏から請求人代理人への電子メール
・甲第14号証の1:平成30年4月6日付けHSVA社のValanto氏から請求人代理人への電子メール
・甲第14号証の2:甲第14号証の1の電子メールのヘッダ
・甲第14号証の3:平成30年7月27日付けHSVA社のValanto氏から請求人代理人への電子メール
・甲第14号証の4:甲第14号証の3の電子メールのヘッダ
・甲第15号証:ウィキペディアの「インターネットアーカイブ」の掲載ホームページ
URL:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%83%8D%E3%83%83%E3%83%88%E3%82%A2%E3%83%BC%E3%82%AB%E3%82%A4%E3%83%96
・甲第16号証:平成18年(行ケ)第10358号審決取消請求事件判決文,平成19年3月26日(判決言渡日)知的財産高等裁判所第3部
・甲第17号証:実願昭49-019748号(実開昭50-111892号)のマイクロフィルム
・甲第18号証:本願(特願2013-95949)において被請求人が平成26年1月10日に提出した意見書
・甲第19号証の1:HOLLY ANDERSEN(ホリー・アンダーセン)著,「A WEBSITE OWNER'S PRACTICAL GUIDE TO THE WAYBACK MACHINE」(ウェイバックマシーンに対するウェブサイトオーナーの実務ガイド),2013年,発行者:University of Colorado Law School(コロラド法科大学)
URL:http://www.jthtl.org/content/articles/V11I1/JTHTLv11i1_Andersen.PDF
・甲第19号証の2:「JOURNAL ON TELECOMMUNICATIONS & HIGH TECHNOLOGY LAW」(テレコミュニケーションおよび高度技術法に関する機関誌),pi,iii,xiii
URL:http://www.jthtl.org/content/articles/V11I1/JTHTLv11i1_Intro.PDF
・甲第20号証:特開2014-8805号公報
・甲第21号証:「特許・実用新案審査基準」第III部第2章第2節進歩性,特許庁
・甲第22号証:特開2007-261338号公報
・甲第23号証:「2008年海上人命安全条約」2009年8月10日,発行所:海文堂出版株式会社,pp.126-127
・甲第24号証:「船の科学」1983年1月号(昭和58年1月10日),発行所:株式会社船舶技術協会,第36巻第1号,pp.35-37
・甲第25号証:「関西造船協会誌」昭和46年12月号(昭和46年12月30日),発行所:関西造船協会,第142号,pp.62-65及び「M.S. UFU GENERAL ARRANGEMENT」(ゆふの一般配置)
・甲第26号証:「船の科学」1971年12月号(昭和46年12月10日),発行所:株式会社船舶技術協会,第24巻第12号,pp.65-74
・甲第27号証:「船の科学」2001年8月号(平成13年8月10日),発行所:株式会社船舶技術協会,第54巻第8号,pp.28-34
第5 当審が通知した無効理由の概要
本件特許の請求項1~7に係る発明は、本件特許に係る出願前に、日本国内又は外国において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の電子的技術情報1(以下「引用文献1」という。)に記載された発明に基いて、本件特許の請求項8に係る発明は、下記の引用文献1及び日本国内において頒布された下記の刊行物(以下「引用文献2」という。)に記載された発明に基いて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件の請求項1~8に係る特許発明は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、その特許は、同法123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
記
・引用文献1:「Damage Stability Tests with the Model of a 200 m RoPax Vessl Final Report Part IIb」(200 m RoPax船のモデルを用いた損傷時復原性試験最終報告 Part IIb),表紙からアネックスAまで,「1st EMSA study on damage stability of ROPAX vessels [2009 Report & Annexes]」(「ROPAX船の第1回EMSA研究報告」[2009年報告および添付資料])(請求人が提出した甲第3の1号証)
・引用文献2:特開2003-137168号公報(請求人が提出した甲第7号証)
第6 被請求人の主張の概要及び証拠方法
1 被請求人の主張の概要
被請求人は、平成29年12月19日付け答弁書(答弁書に添付して乙第1~6号証を提出)及び平成30年4月5日付け口頭審理陳述要領書(口頭審理陳述要領書に添付して乙第7~11号証を提出)を提出した。また、口頭審理後に、同年6月6日付け上申書を提出し、同年11月26日付け訂正請求書及び意見書(意見書に添付して乙第12、13号証を提出)を提出し、平成31年1月15付け上申書を提出した。
本件判決後においては、令和2年10月15日付け訂正請求書を提出し、上記第2で述べたとおり、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5、7、8〕、6について訂正することを求めた。
さらに、令和3年4月21日付け答弁書(答弁書に添付して乙第14号証を提出)を提出した。
上記各提出書類によれば、被請求人は、「本件無効審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求めるものであり、本件発明1~8は、請求人の主張する無効理由及び証拠によっては無効とすることはできない旨主張している。
また、被請求人の提出した証拠方法は、以下のとおりである。
2 証拠方法
・乙第1号証:審判便覧(改訂第16版),51-16PUD 「請求の理由」の要旨変更
・乙第2号証:「1974年の海上における人命の安全のための国際条約」
URL:http://www.houko.com/00/05/S55/016.HTM
・乙第3号証:「船舶及び海洋技術-期間区域の可燃性油装置からの漏油による火災防止」
URL:http://www.kikakurui.com/f7/F7100-2008-01.html
・乙第4号証:「Summary of emsa.europa.eu」
URL:https://web.archive.org/web/*/http://www.emsa.europa.eu/implementation-tasks/ship-safety-standards/items.html?cid=92&id=160
・乙第5号証:「Damage Stability of Ro-Pax Vessels[2009]」(RoPax船の損傷時復原性試験2009年),「1st EMSA study on damage stability of ROPAX vessels [2009 Report & Annexes]」(ROPAX船の第1回EMSA研究報告[2009年報告および添付資料])を掲載
URL:http://www.emsa.europa.eu/implementation-tasks/ship-safety-standards/items.html?cid=92&id=160
・乙第6号証:「Summary of emsa.europa.eu」
URL:https://web.archive.org/web/*/http://www.emsa.europa.eu/implementation-tasks/ship-safety-standards/download/325/160/23.html
・乙第7号証:「HSVA Report No.1669」「Research for Parameters of the Damage Stability Rules including the Calculation of Water on Deck of Ro-Ro Passenger Vessels, for the amendment of the Directives 2003/25/EC and 98/18/EC」「Final Report Part I」(HSVAレポート No.1669 指針2003/25/EC及び98/18/ECの修正のためのRo-Ro客船の甲板上浸水の計算を含む損傷時復原性規則のパラメータの研究 最終報告パート1),表紙,甲第3号証の1が含まれるzipファイルに同封されているFSGレポートの「Part I.pdf」
・乙第8~10号証:インターネットアーカイブの「Wayback Machine」における甲第3号証の1のダウンロード元のURL:
http://www.emsa.europa.eu/implementation-tasks/ship-safety-standards/download/325/160/23.htmlの3つの履歴の一つ
・乙第11号証:「Research for the Parameters of the Damage Stability Rules including the Calculation of Water on Deck of Ro-Ro Passenger Vessels, for the amendment of the Directives 2003/25/EC and 98/18/EC」「FLENSBURGER」「FSG Report」,甲第3号証の1が含まれるzipファイルに同封されているFSGレポート
・乙第12号証:「特許・実用新案審査基準」第III部第2章第3節 新規性・進歩性の審査の進め方,特許庁
・乙第13号証:「HSVA Report No.1669」「Research for the Parameters of the Damage Stability Rules including the Calculation of Water on Deck of Ro-Ro Passenger Vessels, for the amendment of the Directives 2003/25/EC and 98/18/EC」「Final Report Part I」(HSVAレポート No.1669 指針2003/25/EC及び98/18/ECの修正のためのRo-Ro客船の甲板上浸水の計算を含む損傷時復原性規則のパラメータの研究 最終報告パート1),甲第3号証の1が含まれるzipファイルに同封されているFSGレポートの「Part I.pdf」
・乙第14号証:「審決」,無効第2017-800086号(平成31年4月23日),p1,pp.9-10
第7 当審の判断
1 各甲号証の記載事項等
(1)甲第3号証の1に記載された事項ないし発明
(1-1)甲第3号証の1に記載された事項
甲第3号証の1には、図面とともに、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付したものであり、( )内は請求人が記載した翻訳文を参考にして当審で作成した翻訳文である(以下、同様である。)。
ア Page6には、「Model Description 1.1 Main Particulars of the 200m RoPax Vessel」(モデルの説明 1.1 200m RoPax船の主要諸元)と題され、RoPax船の主要諸元が、Table 1に開示されているとともに、「Side view of the 200m RoPax Vessel」(200m RoPax船の側面図)がFigure 1に示されている。
Figure 1
[図:0001391197000001.jpg]
イ Page 7の1~4行
「1.2 Construction of the Model
The 200m RoPax Vessel is a twin screw vessel which has two Ro-Ro cargo holds and a maximum passenger capacity of 542. The ship represents a larger modern RoPax vessel and is therefore well suitable for the present damage stability investigations.」
(1.2 モデルの構成
200m RoPax船は二軸船であり、2つの車両倉を有し、最大乗客収容人数は542である。船はより大きな近代的なRoPax船であり、そのため、今回の損傷時復原性の調査に十分に適している。)
ウ Page 8の4~8行
「Two damage cases, both located on starboard side, have been considered within the model tests. The longitudinal centre of the first damage hole (Damage Case 1) was arranged at #60. The damage length was 8.69m and had a triangular shape in the horizontal plane with a penetration depth of 6.16m(B/5). The opening angle corresponded to 55°. In the vertical direction the leakage extended to a height of 17m above the base line.」
(モデルテストでは、両方とも右舷に設けた2つの損傷ケースについて検討した。第1損傷穴(Damage Case 1)の長手方向の中心が#60の位置に設けた。損傷長さは、8.69mであり、6.16m(B/5)の進入深さで平面視で三角形である。開口角度は55°に対応させた。垂直方向の漏れは、ベースライン上から17mの高さまで延びるものである。)
エ 「Annex A」(添付資料A)は、その表紙A1を含めてA12まであり、Figure 1~Figure 23が掲載されている。そして、Page 8の下から2~1行には「Annex A contains a couple of drawings and photographs showing the details of the model described above.」(添付資料Aは、上述のモデルの詳細を示す1組の図面と写真を含む。)と記載されているところ、以下のFigure 8、9、11、15が示されている。
なお、当審で引出線を用いて部材に名称を付けている。
Figure 8
[図:0001391197000002.jpg]
Figure 9
[図:0001391197000003.jpg]
Figure 11
[図:0001391197000004.jpg]
Figure 15
[図:0001391197000005.jpg]
(1-2)甲第3号証の1の認定事項
上記(1-1)の記載事項から、以下のことが認定できる。
ア Figure 8: Dimension of the damage holes and positions of the wave probes on the car deck(図8:損傷穴の寸法とカーデッキ上の波プローブの位置)の「DAMAGE CASE 1」の図(以下「Figure 8」という。)1番上の図には、「第1損傷穴」の外縁が表示されており、該「第1損傷穴」の前後方向の長さの中心が#60の位置にあり、「Main Deck(主甲板)」よりも上の範囲にわたって形成されていること。
また、Figure 9の「DAMAGE CASE 1」の図(以下「Figure 9」という。)における1番上の図には、Figure8と同様に、「DAMAGE CASE 1」における、「Main Deck(主甲板)」よりも上の範囲にわたって形成された「第1損傷穴」の外縁が表示され、Figure 9の各図面には該「第1損傷穴」から侵入した際の水の浸水箇所が青色に着色されていること。
イ Figure 15: Engine room; void7; purifier plant2(図15:エンジンルーム;空所7;清掃プラント2)を参照すると、船体は船外に面する左右舷の側壁と該左右舷の側壁を連結する隔壁を有し、該隔壁の前方側(紙面下側)には、該隔壁と左右舷の側壁で囲まれる「エンジンルーム」があり、該隔壁の後方側(紙面上側)には、Figure 11に示された左右舷の側壁及び該隔壁の後方側に接する構造体があるところ、該構造体の船体の幅方向中央(紙面上下方向の中央)で区画されている「エンジン&電気室」があるから、「エンジンルーム」と「エンジン&電気室」は、隔壁により推進方向の前後に区画される複数の部屋といえること。
また、「エンジンルーム」内には、右舷の側壁及び隔壁の前方側に接し、壁1及び壁2が接合されることで形成される区画があり、該区画は、一端が右舷の側壁に接合される壁1及び一端が隔壁の前方に接合される壁2とを有し、壁1の他端と壁2の他端が接合されることで形成され、壁1及び壁2の全面が「エンジンルーム」に面すると共に、「エンジンルーム」の右舷の側壁と隔壁との連結部を覆っていること。
ウ Figure 11: Void8; engine & electric workshop etc.(#39 to #60)(図11:空間8;エンジン&電気室 その他 #39から#60)には、中央に上記イで認定した構造体が示されており、該構造体は、左右舷の側壁側(紙面上側及び下側)にある二つの区画と、船体の幅方向中央(紙面上下方向の中央)にある区画が設けられること。
そして、Figure 11の#39から#60は、Figure 8の下に表示されたスケール上の範囲であるところ、上記アで述べた「第1損傷穴」が位置と重複しているので、Figure 11に示されている構造体の前記左右舷の側壁側(紙面上側及び下側)にある二つの区画は、Figure 9の上から3番目の図の浸水区画1、2であり、構造体と接する右舷の側壁が損傷した場合に浸水すること。
エ 上記イで述べたようにFigure 15の後方側(紙面上側)には、構造体があるから、Figure 15の構造体から前方側(紙面下側)にある「エンジンルーム」はFigure 9の上から3番目の図の浸水区画3を含んだ側の室に対応し、同じく上記イのFigure 15の右舷の側壁及び隔壁の前方側に接し、壁1及び壁2が接合されることで形成される区画はその配置関係から浸水区画3に対応すること。
また、Figure 15に示された「エンジンルーム」及びFigure 11に示された「エンジン&電気室」は、Figure 9の上から1及び2番目の図には、喫水線から直上の甲板の全体に渡って浸水する様子が描かれており、Figure 9の上から3番目の図の「エンジンルーム」に対応する部屋及び「エンジン&電気室」に対応する部屋は浸水していないことからみて、Figure 15に示された「エンジンルーム」とFigure 11に示された「エンジン&電気室」は、天井の板により塞がれていることが明らかであるから、右舷の側壁及び隔壁の前方側に接し、壁1及び壁2が接合されることで形成される区画(浸水区画3)も、天井の板により塞がれることで、「エンジンルーム」の右舷の側壁と隔壁との連結部を覆った空間を形成し、該空間に面する右舷の側壁が損傷した場合浸水するものであること。
オ Figure 11及びFigure 15を参照すると、上記イで述べた隔壁は、複数の部屋であるFigure 15に示された「エンジンルーム」とFigure 11に示された構造体の船体の幅方向中央(紙面上下方向の中央)にある「エンジン&電気室」を推進方向の前後に区画していること。
カ Figure 11から、「エンジンルーム」は、左右舷の側壁と隔壁で区画され、「エンジン&電気室」は、隔壁、壁3,4、及び後側の隔壁で区画されていること。
(1-3)甲第3号証の1に記載された発明
上記(1-1)の記載事項及び(1-2)の認定事項に基づいて、本件発明1の発明特定事項に倣って整理すると、甲第3号証の1には次の発明が記載されていると認められる(以下「甲3発明」という。)。
<甲3発明>
「船外に面する左右舷の側壁を有する船体と、
該船体の内部であって隔壁により推進方向の前後に区画される複数の部屋と、
前記右舷の側壁及び前記隔壁の前方側に接し、壁1及び壁2が接合されることで形成される区画と、前記左右舷の側壁及び前記隔壁の後方側に接する構造体と、
を備え、
前記右舷の側壁及び前記隔壁の前方側に接し、壁1及び壁2が接合されることで形成される区画は、一端が前記右舷の側壁に接合される前記壁1と、一端が前記隔壁に接合される前記壁2とを有し、前記壁1の他端と前記壁2の他端が接合されることで形成され、前記壁1及び前記壁2の全面がエンジンルームに面し、
前記右舷の側壁及び前記隔壁の前方側に接し、壁1及び壁2が接合されることで形成される区画は、前記エンジンルームに設けられ、前記エンジンルームの前記右舷の側壁と前記隔壁との連結部を覆った空間であり前記空間に面する前記右舷の側壁が損傷した場合浸水し、
前記構造体は、左右舷の側壁側にある二つの浸水区画と、船体の幅方向中央にあるエンジン&電気室が設けられ、前記構造体に接する右舷の側壁が損傷した場合に前記二つの浸水区画が浸水し、
前記右舷の側壁及び前記隔壁の前方側に接し、壁1及び壁2が接合されることで形成される区画で前記連結部が覆われた前記隔壁は、前記エンジンルームとエンジン&電気室を推進方向の前後に区画し、
前記エンジンルームは、前記左右舷の側壁と前記隔壁で区画され、前記エンジン&電気室は、前記隔壁、壁3,4、及び後側の隔壁で区画されている
200m RoPax船のモデル。」
(2)甲第4号証に記載された事項ないし発明
(2-1)甲第4号証に記載された事項
甲第4号証の51~57ページには「ロール・オン/ロール・オフ貨物船 “TOUGGOURT”について」と題して、次の事項が記載されている。
ア 51ページ右欄3~7行
「3. 一般計画及び配置
一般配置に示すとおり,本船は車両搭載用として,主甲板下の船倉,主甲板,および全通上甲板を有し,機械室を主甲板下船尾に,居住区を上甲板上船首に配置し,その外観は客船のようにスマートである。」
イ 51ページ右欄16~18行
「主甲板下,船首タンクの次に,バウスラスター室,船倉,アンチローリングタンク,機械室,舵取機室等が配置されている。」
ウ 51ページ右欄19行~52ページ右欄20行
「4. 船体部
4・1 船殻構造
本船はビュローベリタス規則に基づき設計建造され,荒天時の運行に耐える強度を有し,又振動に対しても十分な考慮が払われている。
船倉は5tフォークリフト,20tマフィタイプ・トレーラーおよび3t/m2に耐える強度を有し,主甲板を支える為2列の柱を配置した。
主甲板は36tトレーラー,軸荷重20tのトレーラー,軸荷重40tのフォークリフトおよび4t/m2に耐える強度を有し,船尾部には350t特殊トレーラー(26.6m×4.6m×224車輪)も搭載出来る。柱は配置されていない。
上甲板は36tトレーラーおよび2t/m2に耐える強度を有している。
4・2 車両搭載設備
船尾端に配置されたランプドア兼ランプウェイを岸壁にかけ,車両は自送して本船に乗る。45tリフトに乗り上甲板へ,または5tリフトで船倉へも運ぶことが出来る。吊下げ甲板を使用する場合は,主甲板から斜路を通って吊下げ甲板へ自送して乗ることが出来る。・・・
4・3 準受動式減揺兼自動ヒール調整装置
本船には,荒天時車両の移動防止および乗り心地を良好にする為にアンチローリングタンクを設けた。我国では初めてのこの方式は,左右舷側に設けられたタンク間の下部をダクトで結び,各タンク上部には空気駆動の弁が設けられており,計画された動揺周期において,受動式のアンチローリングタンクと同様の働きをするのに加えて,動揺周期が遅くなれば,自動的に弁をある時間,閉じることにより,減揺効果が得られるので,貨物の積付がいろいろとかわるこの種の船には,効果的なものである。」
エ 53ページ左欄下から10~8行
「5. 機関部
本船の機関部は機械室,清浄機室及び制御室から成っており,・・・」
オ 54及び55ページには、「ロールオン・ロールオフ貨物船“TOUGGOURT” 一般配置図」が示されており、以下の図が含まれている(なお、当審で矢印を用いて部材に仮称※を付けている。)。
「ロールオン・ロールオフ貨物船“TOUGGOURT”一般配置図」
[図:0001391197000006.jpg]
(2-2)甲第4号証からの認定事項
上記(2-1)の記載事項から、次のことが認定できる。
ア 上記(2-1)摘示オの一般配置図から、ロール・オン/ロール・オフ貨物船“TOUGGOURT”が、船外に面する左右の側壁を有する船体を備えること、が看取できる。
イ 同一般配置図から、船体が仕切壁B※を有することが看取でき、この仕切壁B※は、左右の側壁に渡り船内の区画を形作っているから、隔壁であることは明らかである。
ウ 上記(2-1)摘示イの「主甲板下,船首タンクの次に,バウスラスター室,船倉,アンチローリングタンク,機械室,舵取機室等が配置されている。」なる記載を踏まえつつ、同一般配置図(平成30年3月14日付け口頭審理陳述要領書(請求人)の陳述参考図19~20も参照)をみると、甲板A※が主甲板であること、4つある区画A※には「CITERNE STABILISATRICE No.1」、「N0.2」(減揺タンクNo.1、N0.2)と記載されているから、区画A※が摘示イの「アンチローリングタンク」であること、が理解できる。
エ さらに上記イ、ウを踏まえると、同一般配置図から、ロール・オン/ロール・オフ貨物船“TOUGGOURT”が、船体の内部であって隔壁により推進方向の前後に区画される複数の部屋を備えること、側壁及び隔壁に接する少なくとも1つのアンチローリングタンクを備えること、前記アンチローリングタンクは、端部が前記側壁及び前記隔壁に接合される仕切壁A※により区画されていること、前記仕切壁A※の一部の面が部屋A※に面すること、前記アンチローリングタンクは、主甲板に面してその下方に設けられること、アンチローリングタンクの内部は液体の存在に関わらず空間といえるから、前記アンチローリングタンクの少なくとも1つは、部屋A※に一部が面して設けられ、前記側壁と前記隔壁との連結部を覆った空間であること、前記アンチローリングタンクで前記連結部が覆われた前記隔壁は、2つの部屋を推進方向の前後に区画すること、前記隔壁によって推進方向の前後に区画された2つの前記部屋のうち、部屋A※は縦通隔壁で区画されていないこと、が看取できる。
(2-3)甲4号証に記載された発明
上記(2-1)の記載事項及び(2-2)の認定事項に基づいて、本件発明1の発明特定事項に倣って整理すると、甲第4号証には次の発明が記載されていると認められる(以下「甲4発明」という。)。
「船外に面する左右の側壁を有する船体と、
該船体の内部であって隔壁により推進方向の前後に区画される複数の部屋と、
前記側壁及び前記隔壁に接する少なくとも1つのアンチローリングタンクと、
を備え、
前記アンチローリングタンクは、端部が前記側壁及び前記隔壁に接合される仕切壁A※により区画され、前記仕切壁A※の一部の面が部屋A※に面すると共に、
前記アンチローリングタンクは、主甲板に面してその下方に設けられ、
前記アンチローリングタンクの少なくとも1つは、前記部屋A※に一部が面して設けられ、前記側壁と前記隔壁との連結部を覆った空間であり、
前記アンチローリングタンクで前記連結部が覆われた前記隔壁は、2つの前記部屋を推進方向の前後に区画し、
前記隔壁によって推進方向の前後に区画された2つの前記部屋のうち、前記部屋A※は縦通隔壁で区画されていないロール・オン/ロール・オフ貨物船“TOUGGOURT”。」
(3)甲第5号証に記載された事項
甲第5号証には、図面とともに次の事項が記載されている。
ア 1ページ左下欄12行~右下欄1行
「本発明は油タンカーを代表とするタンカーに関する。
・・・このため、そのタンカーに衝突あるいは坐礁などの事故が生じた場合、その損傷範囲が2つ以上の貨物油タンクにおよぶ可能性が大きく、その際の流出油量も多くなりやすい。」
イ 2ページ左上欄6~15行
「第2図は本発明の第1実施例を示し、(A)は見取図、(B)は平面図である。図において、1~4は前記第1図と同一部分を示し、5a,5bが本発明の要部をなす二重構造部(すなわち空室)であり、この例では底部と側壁部の二種類の二重構造部がある。側壁部の二重構造部5aは、衝突の際に2つ以上のタンクに損傷がおよびにくいように作られたものであり、横隔壁3と外板(側部)2の接する部分を、底部から上甲板部1までおおう水密な構造である。」
ウ 2ページ右下欄15~3ページ左上欄15行
「また、上記の二重構造部5a,5bについては、第5図および第6図に示すような種々の変形例が考えられる。第5図(A)~(D)は底部の二重構造部5bの各例の概略を示す横断面図である。そのうち、(A)~(C)は直方体の形状をもつ二重構造部5bの例であり、(A)は縦隔壁4のウイングタンク側から二重構造部を設けた例、(B)は縦隔壁4のウイングタンク側とセンタータンク側から二重構造部を設けた例、(C)は(B)の2つの二重構造部5bの間の隔壁部を取り除いた例である。このように二重構造部5bを直方体形状とした場合、それに船体外板の補強材である肋板、桁板を利用できる点で工作上有利であり、また(C)の例は、(B)と比較して鋼材重量が少なくなる点でより有利である。さらに、(D)の例は、ニ重構造部5bを三角柱状とした例であり、肋板、桁板を利用できない場合には、鋼材使用量が最も少なく、工作上も簡単な構造である。一方、第6図(A)~(D)は側壁部の二重構造部5aの各例を示す平断面図であり、それらは上記第5図(A)~(D)と同様の特徴をもつている。」
エ 第2図及び第6図を以下に示す。
第2図
[図:0001391197000007.jpg]
第6図
[図:0001391197000008.jpg]
(4)甲第6号証に記載された事項ないし発明
(4-1)甲第6号証に記載された事項
甲第6号証の55~61ページには「2基2軸CPP装備・船尾双胴型」「旅客船兼自動車航送船“3号はやぶさ”の概要」と題して、次の事項が記載されている。
ア 56ページ3~28行
「(2)概略配置
本船は一般配置図に示すように突出バルブ付傾斜型船首,トランサム型双胴船尾,2基2軸2舵を備えたディーゼル機関駆動の全通船楼型旅客フェリーである。
強度甲板は船楼甲板,乾舷甲板は車輛甲板とし,乾舷甲板下は10枚の水密横置隔壁により区画されている。
甲板は下方より船橋,航海船橋,羅針儀甲板の各甲板を配し,船楼甲板上には旅客室,ドライバー室,ロビー及び乗組員公室,船橋甲板上には乗組員居室区画,航海船橋甲板には操船区画を設けている。更に,車輌甲板上にはトラック搭載区画を設けている。
(3)車輌搭載設備
船首にははねあげ式バウバイザー及びランプ扉を有し,船尾には可動甲板及びランプ扉を装備している。
船首ランプ扉の有効幅は約6.1m,船尾ランプ扉の有効幅は約6.7mとし,強度はトレーラー等の走行に耐えられるものとしている。
船首尾のランプは油圧式ランプウインチ及び油庄シリンダにより作動し,ポンプユニッ卜の発停は船楼甲板上の船首尾に配置の油圧ポンプ室により行い,各操作は操作スタンドで集中操作可能とし,乗組員の作業軽減を図っている。」
イ 57ページ19~28行
「(9)トリム及びヒール調整装置
本装置は車輌乗降時の岸壁と舷外ランプの高さを保つため,船首トリミングタンク(F.P.T.,No.1 W.B.T.(C),No.2 W.B.T.(C),No.3 W.B.T.(C))及び船尾トリミングタンク(No.4 W.B.T.(C)&No.4 W.B.T.(P/S))を利用して船体のトリムを調整し易いように配管されており,船橋操作盤に組み込みのタッチパネル式監視制御コンソールによりポンプ,弁の遠隔操作が出来るようになっている。」
ウ 60ページ7~33行
「3. 機関部
(1)機関部概要
本船の機関室は,車輛甲板下に配置され,船首側より補機室,主機室,発電機室,第一軸室及び第二軸室から成り立っている。主機室には主機関2基と補助ボイラ1基,補機室には,機関制御室とフィンスタビライザ,発電機室にはディーゼル発電機2台が配置されている。
主機室,発電機室にワイド固定監視カメラを各1台装備し,機関制御室に2台の14インチカラーモニターディスプレーにて監視できるようにしている。
主機関には,6シリンダディーゼル機関を装備し,高弾性継手及び減速機を介してスキュード型可変ピッチプロペラを駆動する2機2軸方式を採用しており,迅速な港内操船,低振動を実現している。
主機関及び補助ボイラは,50℃にて240cSt程度の燃料油を焚くものとして計画し,発電機関も主機関と同一の燃料油を焚くモノフューエル方式としたダイレクトスタートとしている。
本船の主補機器冷却システムはフルセントラル清水クーリング方式を採用及びセントラルクーラーの冷却海水ラインには海洋生成物防止装置を設けたものとしている。又,冷却海水ポンプの電力費低減のために,エンガードシステムを採用している。」
エ 58及び59ページには、「共栄運輸向け 旅客船兼自動車航送船“3号はやぶさ” 一般配置図」が示されている(なお、当審で矢印を用いて部材に仮称※を付けている。)。
[図:0001391197000009.jpg]
(4-2)甲第6号証からの認定事項
上記(4-1)の記載事項から、次のことが認定できる。
ア 上記(4-1)摘示アの「強度甲板は船楼甲板,乾舷甲板は車輛甲板とし,乾舷甲板下は10枚の水密横置隔壁により区画されている。」なる記載を踏まえつつ、摘示エの一般配置図をみると、仕切壁D※は、水密横置隔壁であることが理解できる。
イ 上記(4-1)摘示イの「船尾トリミングタンク(No.4 W.B.T.(C)&No.4 W.B.T.(P/S))」なる記載を踏まえつつ、摘示エの一般配置図(平成29年7月4日付け審判請求書に添付された参考図4、5も参照。)をみると、「区画B※」にも「No.4 W.B.TK (P)」又は「No.4 W.B.TK (P&S)」と記載されているから、「区画B※」は、摘示イの「船尾トリミングタンク」であることが理解できる。
ウ 上記ア、イ及び上記(4-1)摘示ウの「本船の機関室は,車輛甲板下に配置され,船首側より補機室,主機室,発電機室,第一軸室及び第二軸室から成り立っている。」なる記載を踏まえて、摘示エの一般配置図(平成29年7月4日付け審判請求書に添付された参考図4、5も参照。)をみると、旅客船兼自動車航送船“3号はやぶさ”が、船外に面する左右の側壁を有する船体を備えること、該船体の内部であって水密横置隔壁により推進方向の前後に区画される発電機室及び第一軸室を備えること、前記側壁及び前記水密横置隔壁に接する船尾トリミングタンクを備えること、が理解できる。
エ また、上記(4-1)摘示エの一般配置図から、前記船尾トリミングタンクは、端部が前記側壁及び前記水密横置隔壁に接合される仕切壁C※により区画され、前記仕切壁C※の全面が前記第一軸室に面すること、が看取できる。
オ 上記(4-1)摘示アの「(3)車輌搭載設備」の「船尾には可動甲板及びランプ扉を装備している。」なる記載及び摘示アの「強度甲板は船楼甲板,乾舷甲板は車輛甲板とし,乾舷甲板下は10枚の水密横置隔壁により区画されている。」なる記載を踏まえて、摘示エの一般配置図をみると、車輛甲板の船尾側に点線でランプ扉が設けられることが示されており、さらに、区画B※が車輛甲板に面してその下方に設けられ、第一軸室の高さ方向にわたって形成されることが看取できる。
そして上記イのとおり「区画B※」が船尾トリミングタンクであることを踏まえると、前記船尾トリミングタンクは、ランプ扉が設けられる車輛甲板に面してその下方に設けられ、第一軸室の高さ方向にわたって形成されること、が理解できる。
カ 上記(4-1)摘示ウの「本船の機関室は,車輛甲板下に配置され,船首側より補機室,主機室,発電機室,第一軸室及び第二軸室から成り立っている。」なる記載及び摘示エの一般配置図より、船尾トリミングタンクの内部は液体の存在に関わらず空間といえるから、前記船尾トリミングタンクの少なくとも1つは、前記第一軸室に設けられ、前記第一軸室の前記側壁と前記水密横置隔壁との連結部を覆った空間であること、前記船尾トリミングタンクで前記連結部が覆われた前記水密横置隔壁は、前記発電機室及び第一軸室を推進方向の前後に区画すること、前記水密横置隔壁によって推進方向の前後に区画された前記発電機室及び前記第一軸室のうち、前記第一軸室は縦通隔壁で区画されていないこと、が看取できる。
(4-3)甲6号証に記載された発明
上記(4-1)の記載事項及び(4-2)の認定事項に基づいて、本件発明1の発明特定事項に倣って整理すると、甲第6号証には次の発明が記載されていると認められる(以下「甲6発明」という。)。
「船外に面する左右の側壁を有する船体と、
該船体の内部であって水密横置隔壁により推進方向の前後に区画される発電機室及び第一軸室と、
前記側壁及び前記水密横置隔壁に接する少なくとも1つの船尾トリミングタンクと、
を備え、
前記船尾トリミングタンクは、端部が前記側壁及び前記水密横置隔壁に接合される仕切壁C※により区画され、前記仕切壁C※の全面が前記第一軸室に面すると共に、
前記船尾トリミングタンクは、ランプ扉が設けられる車輛甲板に面してその下方に設けられ、前記第一軸室の高さ方向にわたって形成され、
前記船尾トリミングタンクの少なくとも1つは、前記第一軸室に設けられ、前記第一軸室の前記側壁と前記水密横置隔壁との連結部を覆った空間であり、
前記船尾トリミングタンクで前記連結部が覆われた前記水密横置隔壁は、前記発電機室及び前記第一軸室を推進方向の前後に区画し、
前記水密横置隔壁によって推進方向の前後に区画された前記発電機室及び前記第一軸室のうち、前記第一軸室は縦通隔壁で区画されていない旅客船兼自動車航送船“3号はやぶさ”。」
(5)甲第7号証に記載された事項
甲第7号証には、図面とともに次の事項が記載されている。
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ロールオン・ロールオフ旅客船等の旅客船兼自動車航送船の機関区域構造に関するものである。」
イ 「【0003】前記乾舷甲板13の下の車両スペース17は下部甲板18上に形成されているが、万一、船体11が損傷した場合に沈没等の致命的な事故へ発展することを防止するために、図6に示されるように、満載喫水線の左右の舷側から船幅の少なくとも1/5の幅を取った部分に、船体11前後方向ヘ延びる縦置水密隔壁19を設け、且つ該縦置水密隔壁19によって画成される船体11幅方向左右両側の空間を横置水密隔壁20で複数分割することが法規上義務付けられているため、前記乾舷甲板13の下の車両スペース17は、前記縦置水密隔壁19より船体11の中央側に設けられる形となる。」
ウ 【図3】を以下に示す。
【図3】
[図:0001391197000010.jpg]
(6)甲第17号証に記載された事項
甲第17号証には、図面とともに次の事項が記載されている。
ア 1ページ9~13行
「3.考案の詳細な説明
本考案は、船側の損傷時における船内への浸水量を最小限にとどめるために、横置隔壁の両端部に浸水阻止用の区画を設けた船舶に関するものである。」
イ 2ページ末行~4ページ7行
「図面において、1は船側外板、2は横置隔壁、3a,3b,3c,3dはそれぞれ順に並設された船艙、4は船艙3aの隣りに設けられた機関室、5は船尾水槽、6は船首水槽である。
前記横置隔壁2のうち、各船艙間に設けられたものには、船側部両端にて該外板1とで形成された浸水阻止用の液密性区画7を有している。すなわち、該区画7の一面は外板1、底面は船底、上面は上甲板、他の3面は適当な鋼板で構成され、高さ方向に細長いほほ直6面体のような箱型をしている。さらに、該区画7の寸法について述べると、船舶が衝突した場合の船体損傷の大きさ(長さおよび深さ)は、船体破壊に要するエネルギー等をもとにある程度予測することができ、また諸法規にも定められているから、それらに基づいた長さおよび深さよりも該区画7の長さlおよび幅wをそれぞれ幾分大にする。
このように構成された船舶においては、ちようど1つの区画7の長さ1の中央のところの船側外板1に損傷を受けた場合における浸水は、その1つの区画7内のみにとどめることができ、また第1図にみられるように、1つの区画7の中央部からある程度ずれたところの外板1に損傷部8が生じた場合における浸水は、その1つの区画7とそのずれたほうの1つの船艙3b内のみにとどまり、隣接の船艙3cへの浸水は阻止される。」
ウ 4ページ14行~5ページ7行
「したがつて本考案は、横置隔壁2の船側部両端に、船側外板1を一面とした高さ方向に細長い浸水阻止用の区画7を備えているから、横隔壁数を増加しなくても、船側外板1の損傷による船内への浸水を該区画7内に、または該区画7と隣接する1つの船内区画内にとどめることができ、きわめて効果的であり、しかも、本考案においては船側外板1を利用して単に小区画7を設けるだけでよく、とくに、船艙に球型または円筒型タンクを積載する船においては、ちようど、前記区画7を設けようとする空間は何んらの使用にも供されずに死空間となつているから、それを有効に利用することかでき、さらに該区画7を小槽として利用することもできる。」
エ 第1図を以下に示す。
第1図
[図:0001391197000011.jpg]
(7)甲第22号証に記載された事項
甲第22号証には、図面とともに次の事項が記載されている。
ア 「【0005】
図4において、1は外板、2は上甲板、3は内底板、4は船側隔壁である。船底外板1は船底部から湾曲部を経て船側部に至る船体の外郭を形成する構造部材である。上甲板2は一方の船側から他方の船側に渡って船体の最上部を覆って、降雨や波の打ち込みによる浸水を防ぐ構造部材である。内底板3は船体の下部にあって、船倉5と二重底6を区画する構造部材である。船側隔壁4は、船倉5の側壁を形成して、船倉5と船側区画7を区画する構造部材である。」
イ 「【0007】
このような船側区画7を有する船体構造は、側面からの衝突に対する安全性が高いとされている。例えば、他船の船首が舷側に衝突して、外板1を破ったとしても、前記他船の運動エネルギーを、外板1や船側区画7内の図示しない内構材等を変形あるいは破壊する仕事で吸収できれば、前記他船の船首が船側隔壁4に到達することがないからである。船側隔壁4の破壊を防止できれば、衝突による浸水は船側区画7の内部に留まるので、沈没の危険は小さくなる。」
ウ 「【0019】
なお、船側区画は、水バラストタンクあるいは空所として使用されるが、船側区画の一部を配線配管通路、あるいは荒天通路として使用される場合もある。また、「少なくとも内底板の上面に達する船側隔壁」としたのは、「内底板を超えて二重底内、あるいは外板の内面に達する船側隔壁」をここでいう「船側隔壁」に包含させる意図によるものである。」
エ 【図4】には、以下の図が示されている。
【図4】
[図:0001391197000012.jpg]
(8)甲第23号証に記載された事項
甲第23号証には、次の事項が記載されている。
ア 127ページ
「第7-3規則 浸水率
1 区画及び損傷復元性の計算上,それぞれの一般区画又は区画の一部の浸水率は,次のとおりとする。
場所 浸水率
貯蔵品を積載する場所 0.60
居住に充てる場所 0.95
機関に充てる場所 0.85
空所 0.95
液体を入れる場所 0又は0.95※
※いずれかより厳格な条件となる方の値をとる。」
(9)甲第24号証に記載された事項
甲第24号証には、図面とともに次の事項が記載されている。
ア 37ページ
甲第24号証には、「シルバーフェリー向け カーフェリー“シルバークイーン2”一般配置図」と題して、以下の図が示されている(なお、当審で矢印を用いて部材名を付けている。)。
[図:0001391197000013.jpg]
(10)甲第25号証に記載された事項
ア 甲第25号証には、「M.S. UFU GENERAL ARRANGEMENT」(ゆふ 一般配置図)と題して以下の図が示されている(なお、当審で矢印を用いて部材名を付けている。)。
[図:0001391197000014.jpg]
(11)甲第26号証に記載された事項
甲第26号証の65~73ページ上には「ロールオンオフ高速貨客船黒潮丸について」と題して、次の事項が記載されている。
ア 67~68ページ
「黒潮丸 一般配置図(2)」と題して、以下の図が示されている(なお、当審で矢印を用いて部材名を付けている。)。
[図:0001391197000015.jpg]
イ 71ページ右欄16~20行
「 10. 機関部
10-1 一 般
機関室は水密隔壁により船首部より,前部補機室,後部補機室,主機室,発電機室,軸室の5室から構成されている。」
(12)甲第27号証に記載された事項
甲第27号証の28~34ページには「シャーシ50台/コンテナ200個積」「内航高速RO/ROコンテナ運搬船“ひまわり1”の概要」と題して、次の事項が記載されている。
ア 28ページ右欄下から4行~29ページ左欄8行
「・・・
横揺れ減揺装置として,U字型管式受動制御型アンチローリングタンクを装備した。
また,バウスラスタ,シリンダ舵を装備しているほか,寒冷地就航を考慮した艤装を行った。
4. 船型および配置上の特徴
本船は省エネを図り,推進性能および耐航性能上から,船首部はできるだけファインとし,高出力低回転主機関および大直径プロペラを採用し,スタンバルブ付きとした。
航海中の船体ローリングを軽減させるため,アンチローリングタンクを装備し,ビルジキールの深さを大きくした。」
イ 30ページには「日本通運・日本海運向け」「RO/ROコンテナ運搬船“ひまわり1”一般配置図」と題して、以下の図が示されている(なお、当審で矢印を用いて部材名を付けている。)。
[図:0001391197000016.jpg]
2 無効理由1について
上記「第1」及び「第4」のとおり、本件特許は、平成27年8月17日付けで訂正審判の請求(訂正2015-390092号)がなされ、その訂正(以下「訂正審判の訂正」ということがある。)の適否(新規事項の有無)について争いがあるので、以下検討する。
(1)訂正審判の訂正の内容(下線部は訂正箇所)
特許請求の範囲の請求項1に、
「前記浸水防止部屋の少なくとも1つは、機関区域の前記部屋に設けられ、前記機関区域の前記部屋の前記側壁と前記隔壁との連結部を覆っていること」とあるのを、
「前記浸水防止部屋の少なくとも1つは、機関区域の前記部屋に設けられ、前記機関区域の前記部屋の前記側壁と前記隔壁との連結部を覆った空間であり前記側壁が損傷した場合浸水し、前記浸水防止部屋で前記連結部が覆われた前記隔壁は、前記機関区域の2つの前記部屋を区画し、前記機関区域の前記部屋は、縦通隔壁で区画されていないこと」に訂正する。
請求項1の記載を引用する請求項2~8も同様に訂正する。
(2)当審の判断
訂正審判の訂正は、「浸水防止部屋」の少なくとも1つが「空間であり前記側壁が損傷した場合浸水」するとの事項(以下「事項a」という。)及び「前記浸水防止部屋で前記連結部が覆われた前記隔壁は、前記機関区域の2つの前記部屋を区画し、前記機関区域の前記部屋は、縦通隔壁で区画されていない」との事項(以下「事項b」という。)を加えるものである。
ア 事項aについて
本件明細書の段落【0031】には、実施例1として、「上部の空間(部屋22a,22b)にて、・・・仕切板26a,26bが設けられることで、左右の側壁20a,20b及び隔壁25(25a)に接する左右の浸水防止部屋27a,27bが形成されている。」ことが記載されている。この記載によれば、「浸水防止部屋」は、空間に仕切板を設けることで形成するものであるから、「浸水防止部屋」自体も空間と考えるのが自然である。
また、本件明細書の段落【0035】の「船体11の外部から隔壁25(25a,25b)の近傍に位置する左側壁20aに損傷を受けた場合・・・浸水防止部屋27a,29aに浸水することで、部屋22b,23bへの浸水が防止される。」との記載によれば、「浸水防止部屋」は、「側壁が損傷した場合浸水」するものである。
したがって、本件明細書の記載から、「浸水防止部屋」が、「空間であり前記側壁が損傷した場合浸水」することは自明であるといえるから、事項aに係る訂正審判の訂正は、新規事項の追加に当たらない。
イ 事項bについて
本件明細書の段落【0030】には「また、船体11は、この各空間(部屋)22,23の前後方向のほぼ中間部に位置して隔壁25(25a,25b)が設けられることで、前後の空間(部屋)22a,22b,23a,23bが区画されている。」と記載され、段落【0034】には「部屋22a,23aは、機関室として利用し、部屋22b,23bは、軸室として利用してもよい。」と記載されているから、「前記浸水防止部屋で前記連結部が覆われた前記隔壁は、前記機関区域の2つの前記部屋を区画」することが記載されているといえる。
また、本件図面の【図1】は、「本発明の実施例1に係る船舶としての旅客船における後部の平面図」(段落【0025】)であるが、部屋22a,22b,23a,23bに、縦通隔壁は記載されていない。特許図面は設計図面等とは異なり、構造の一部が省略されることがありうるものであるが、浸水区画の広狭が問題となる本件発明において、隔壁の存否は浸水区画に影響するから、存在するとすれば記載があるのが自然であるし、船側及び横置隔壁で囲まれた区画には、「22a(23a)部屋」等の番号が付されおり、仕切甲板24の上下に2部屋あることは明示しているから、22a等の区画は1つの部屋と見るのが自然であり、上下の部屋の一方が、不図示の隔壁により複数の部屋に区画されているにも関わらず、それらをまとめて1つの番号を付しているとは考え難い。
さらに、本件明細書の段落【0003】、【0006】及び【0007】に記載された船舶の国際規則を踏まえると、本件発明は、船側損傷について、隔壁を挟んだ2区画が損傷することを前提に判断することになるため、浸水容積が過大となり、配置の自由度が制限されてしまうとの課題を解決して、船側損傷時における複数の部屋への浸水を防止すると共に設計の自由度を拡大可能とする船舶を提供することを目的とするものであり(段落【0006】~【0007】)、そのために、隔壁を挟んだ2区画(部屋)に、側壁及び隔壁に接する浸水防止部屋を設けるなどの構造とすることで、側壁における隔壁の近傍が損傷を受けても、浸水容積が小さい浸水防止部屋が浸水するだけで、浸水防止部屋を設けた部屋が浸水することがないようにするとともに、設計の自由度を拡大するものといえる(段落【0008】~【0009】)。
そうだとすれば、本件発明は、隔壁を挟んだ2区画(部屋)が、いずれも浸水容積が大きい場合に適用することが第一次的に想定されているといえるところ、一般に、2つの部屋がいずれも「縦通隔壁で区画されていない」方が、浸水容積が大きくなるし、設計の自由度も高いといえる。
したがって、当業者が、本件明細書に記載された事項を総合すれば、隔壁を挟んだ2区画(前記機関区域の前記部屋)が、縦通隔壁で区画されていない構造であることを導くことができるといえる。
以上によれば、事項bに係る訂正審判の訂正は、新規事項の追加に当たらない。
(3)請求人の主張について
ア 事項aについて
請求人は、審判請求書の2、3ページ「7.(1)(理由1)(理由1-1)」及び13、14ページ「7.(5)(理由1-1)」において、「浸水防止部屋」が、「側壁が損傷した場合浸水」する「空間であり」液体が満ちていない部屋であると主張してバラストタンクや燃料タンク等を「浸水防止部屋」から除外しつつ、訂正後に、「浸水防止部屋」が「空間であり前記側壁が損傷した場合浸水」すると訂正することは新規事項の追加である旨主張する。
しかしながら、上記(2)アのとおり、本件明細書には「空間であり前記側壁が損傷した場合浸水」するという構造の「浸水防止部屋」が開示されているから、そのような「浸水防止部屋」に限定することが、新たな技術的事項を導入するものでないことは明らかであり、請求人の主張は採用することができない。
イ 事項bについて
請求人は、審判請求書の3ページ「7.(1)(理由1)(理由1-2)」及び14、15ページ「7.(5)(理由1-2)」において、事項bは本件明細書等から導かれる事項とはいえない旨主張する。
しかしながら、本件明細書に記載された事項を総合すれば、事項bを導くことができることは、上記(2)イで述べたとおりである。よって、請求人の主張は採用することができない。
(4)小括
以上のとおり、本件特許に対して平成27年8月17日に請求された訂正審判(訂正2015-390092号)によりなされた訂正は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてした訂正といえるから、特許法第126条第5項の規定に違反するものではなく、その特許は、同法第123条第1項第8号により、無効となるものではない。
3 無効理由2-1について
上記「第4」のとおり、本件発明1、4、5、7、8に関し、甲3発明に基づく新規性の有無について争いがあり、また、本件発明2、3、6に関し、甲3発明、甲第4号証及び甲第5号証に記載された事項に基づく進歩性の有無について争いがあるので、以下検討する。
甲第3号証の1の公知日についても争いがあるところではあるが、まずは、無効理由2-1の新規性及び進歩性の検討を先にする。
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲3発明とを対比すると、
(ア)後者の「船外に面する左右舷の側壁を有する船体」は前者の「船外に面する左右の側壁を有する船体」に相当し、後者の「該船体の内部であって隔壁により推進方向の前後に区画される複数の部屋」は前者の「該船体の内部であって隔壁により推進方向の前後に区画される複数の部屋」に相当する。
(イ)後者の「前記右舷の側壁及び前記隔壁の前方側に接し、壁1及び壁2が接合されることで形成される区画」は、「空間であり前記空間に面する前記側壁が損傷した場合浸水」するものであるところ、Figure 9の上から3番目の図を参照すると、第1損傷穴からの水の浸入に際し、該区画の壁1及び壁2に面するエンジンルームは浸水していないから、「エンジンルーム」への浸水を防止するものといえる。そうすると、後者の「前記右舷の側壁及び前記隔壁の前方側に接し、壁1及び壁2が接合されることで形成される区画」と前者の「前記側壁及び前記隔壁に接する少なくとも1つの浸水防止部屋(ただし、タンクを除く。)」とは、「前記側壁及び前記隔壁に接する少なくとも1つの浸水防止部屋」という点で共通する。
(ウ)後者の「壁1及び壁2」は、「一端が右舷の側壁に接合される壁1と、一端が隔壁に接合される壁2とを有し、前記壁1の他端と前記壁2の他端が接合される」ものであるから、前者の「端部が前記側壁及び前記隔壁に接合される仕切板」に相当し、後者の「前記右舷の側壁及び前記隔壁の前方側に接し、壁1及び壁2が接合されることで形成される区画は、一端が右舷の側壁に接合される壁1と、一端が隔壁に接合される壁2と、壁1の他端と壁2の他端が接合されることで形成され、前記壁1及び壁2の全面が前記エンジンルームに面し」との構成は、前者の「前記浸水防止部屋は、端部が前記側壁及び前記隔壁に接合される仕切板により形成され、前記仕切板の全面が前記部屋に面する」との構成に相当する。
(エ)後者の「エンジンルーム」は前者の「機関区域の前記部屋」に相当するから、後者の「前記右舷の側壁及び前記隔壁の前方側に接し、壁1及び壁2が接合されることで形成される区画は、前記エンジンルームに設けられ、前記エンジンルームの前記右舷の側壁と前記隔壁との連結部を覆った空間であり前記空間に面する前記右舷の側壁が損傷した場合浸水し」との構成は、前者の「前記浸水防止部屋の少なくとも1つは、機関区域の前記部屋に設けられ、前記機関区域の前記部屋の前記側壁と前記隔壁との連結部を覆った空間であり前記空間に面する前記側壁が損傷した場合浸水し」との構成に相当する。
(オ)後者の「エンジンルーム」と「エンジン&電気室」は前者の「機関区域の2つの前記部屋」に相当するから、後者の「前記右舷の側壁及び前記隔壁の前方側に接し、壁1及び壁2が接合されることで形成される区画で前記連結部が覆われた前記隔壁は、前記エンジンルームとエンジン&電気室を推進方向の前後に区画し」との構成は、前者の「前記浸水防止部屋で前記連結部が覆われた前記隔壁は、前記機関区域の2つの前記部屋を推進方向の前後に区画し」との構成に相当する
(カ)後者の「200m RoPax船のモデル」と前者の「船舶」とは、「船」という点で共通する。
以上を踏まえると、本件発明1と甲3発明との一致点、相違点は以下のとおりである。
〔一致点〕
「船外に面する左右の側壁を有する船体と、
該船体の内部であって隔壁により推進方向の前後に区画される複数の部屋と、
前記側壁及び前記隔壁に接する少なくとも1つの浸水防止部屋と、
を備え、
前記浸水防止部屋は、端部が前記側壁及び前記隔壁に接合される仕切板により形成され、前記仕切板の全面が前記部屋に面すると共に、
前記浸水防止部屋の少なくとも1つは、機関区域の前記部屋に設けられ、前記機関区域の前記部屋の前記側壁と前記隔壁との連結部を覆った空間であり前記空間に面する前記側壁が損傷した場合浸水し、
前記浸水防止部屋で前記連結部が覆われた前記隔壁は、前記機関区域の2つの前記部屋を推進方向の前後に区画する船。」
〔相違点1〕
「浸水防止部屋」に関し、本件発明1は、「(ただし、タンクを除く。)」ものであるのに対し、甲3発明は、そのような特定がない点。
〔相違点2〕
本件発明1は、「船舶」であり、「前記浸水防止部屋は、ショアランプが設けられる甲板に面してその下方に設けられ、前記部屋の高さ方向にわたって形成され」ているのに対し、甲3発明は、「200m RoPax船のモデル」であり、ショアランプが設けられる甲板の特定がなく、該甲板と「前記右舷の側壁及び前記隔壁の前方側に接し、前記壁1及び壁2が接合されることで形成される区画」との配置関係も特定されていない点。
〔相違点3〕
本件発明1は、「前記隔壁によって推進方向の前後に区画された前記機関区域の2つの前記部屋は、いずれも縦通隔壁で区画されていない」のに対し、甲3発明は、「前記エンジンルームは、前記左右舷の側壁と前記隔壁で区画され、前記エンジン&電気室は、前記隔壁、壁3,4、及び後側の隔壁で区画されている」点。
イ 判断
事案に鑑み、相違点3を先に検討する。
(ア)本件発明1の「機関区域の2つの前記部屋」に相当する「エンジンルーム」と「エンジン&電気室」のうち、「エンジンルーム」は、「前記左右舷の側壁と前記隔壁で区画され」ているから、縦通隔壁で区画されていない部屋といえる。他方、「エンジン&電気室」は、「前記隔壁、壁3,4、及び後側の隔壁で区画されている」部屋である。
(イ)ここで、上記「第2 2(1)(1-3)イ(イ)」で述べたとおり、「縦通隔壁」は、船の縦方向に設ける仕切り壁であって、船の前後に全通しないで一部分に設ける仕切壁を含むものと解されるところ、この解釈に基づけば、甲3発明の「壁3,4」は「縦通隔壁」に該当するものであるから、「縦通隔壁」で区画されているものといえる。そうすると、相違点3は実質的な相違点といえる。
(ウ)したがって、その余の相違点を検討するまでもなく、本件発明1と甲3発明とは、少なくとも相違点3において相違するから、本件発明1は、甲3発明であるとはいえない。
よって、甲第3号証の1の公知性を検討するまでもなく、その特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に該当するものとはいえない。
(2)本件発明4、5、7、8について
請求項4、5、7、8は、請求項1を引用するものであるから、本件発明4、5、7、8は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに減縮したものである。
したがって、本件発明4、5、7、8は、本件発明1と同様に、甲3発明(甲第3号証の1に記載された発明)であるとはいえないから、甲第3号証の1の公知性を検討するまでもなく、それらについての特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に該当するものとはいえない。
(3)本件発明2、3、6について
ア 対比
請求項2、3は請求項1を引用するものであり、請求項6は、上記「第2 2(2)ア」で述べたとおり、本件訂正前において、請求項6が請求項1または2を引用するものであったところ、本件訂正後に、訂正前の請求項1を引用する請求項6について、請求項間の引用関係を解消して独立形式請求項へ改める訂正をするとともに、上記訂正事項1(訂正事項1-1~1-3)に係る訂正をしたものであるから、本件発明2、3、6は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに減縮したものである。そして、本件発明2、3、6と甲3発明とを対比すると、本件発明1と同様に、少なくとも上記相違点3を含むものである。
イ 判断
上記相違点3についての容易想到性について検討する。
(ア)甲3発明の「エンジン&電気室」は、上記「(1)イ(ア)及び(イ)」で述べたとおり「前記隔壁、壁3,4、及び後側の隔壁で区画されている」部屋であり、該「壁3,4」は「縦通隔壁」に該当するものである。
また、甲3発明は「前記構造体は、左右舷の側壁側にある二つの浸水区画と、船体の幅方向中央にあるエンジン&電気室が設けられ、前記構造体に接する右舷の側壁が損傷した場合に前記二つの浸水区画が浸水し」との構成を有するものであるから、「エンジン&電気室」を区画する「壁3,4」は、「二つの浸水区画」を区画するための壁ということもできる。
そして、甲3発明は、甲第3号証の1に記載されているように、損傷時復原性の調査に資する船であり(「1(1)(1-1)」の摘示イ)、モデルテストでは、モデル船をFigure 8, 9, 11, 15に示された浸水区画を有する内部構造にした上で、側壁の所定位置に第1損傷穴(Damage Case 1)を設け(「1(1)(1-1)」の摘示ウ)、該第1損傷穴から浸水した際に、浸水した区画が青色に着色されているFigure 9の各図に示される実験結果が得られたものである(「1(1)(1-2)」の認定事項ア)。
上記浸水区画を有する内部構造には、構造体も含まれ、該構造体の「二つの浸水区画」も上記モデルテストによる実験結果を得る上で一体不可分な区画となっており、仮に床を左右に広げて壁3,4を省くとの設計変更を行うとすれば、側壁損傷の際、エンジン&電気室が浸水することになるなど、浸水区画が変わってくるから、甲3発明には、該構造体の「二つの浸水区画」を排除して、「エンジン&電気室」を縦通隔壁で区画されていない部屋にすることには阻害要因があるといえる。
また、甲3号証の1には、上記実験結果を受けて、床を左右に広げて壁3、4を省く構成とすべきなどとする記載も示唆もない。
(イ)無効理由2-1においては、甲第4号証及び甲第5号証は、請求項2及び3で特定されている事項に関する文献であり、相違点3に係る構成は開示されていないから、甲3発明に、甲第4号証若しくは甲第5号証に記載された事項を適用しても、相違点3に係る構成には至らない。
(ウ)以上のとおり、本件発明2、3、6と甲3発明とは、少なくとも相違点3が存在し、当該相違点3に係る構成が容易想到であるとはいえない。
したがって、本件発明2、3、6は、甲3発明(甲第3号証の1に記載された発明)、甲第4号証及び甲第5号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、甲第3号証の1の公知性を検討するまでもなく、それらについての特許は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。
4 無効理由2-2について
上記「第4」のとおり、本件発明1ないし8に関し、甲4発明、甲第17号証、甲第22号証及び甲第23号証に記載された事項、甲第27号証に記載された事項、甲第5号証に記載された事項に基づく進歩性の有無について争いがあるので、以下検討する。
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲4発明とを対比すると、
(ア)後者の「船外に面する左右の側壁を有する船体」は、前者の「船外に面する左右の側壁を有する船体」に相当し、同様に、後者の「該船体の内部であって隔壁により推進方向の前後に区画される複数の部屋」は、前者の「該船体の内部であって隔壁により推進方向の前後に区画される複数の部屋」に相当する。
(イ)後者の「アンチローリングタンク」と、前者の「浸水防止部屋(ただし、タンクを除く。)」とは、「水密な構造体」という点で共通する。
そうすると、後者の「前記側壁及び前記隔壁に接する少なくとも1つのアンチローリングタンク」と、前者の「前記側壁及び前記隔壁に接する少なくとも1つの浸水防止部屋(ただし、タンクを除く。)」とは、「前記側壁及び前記隔壁に接する少なくとも1つの水密な構造体」という点で共通する。
(ウ)後者の「仕切壁A※」と、前者の「仕切板」とは、「仕切り」という点で共通する。また、後者の「部屋A※」は、前者の「部屋」に相当し、同様に、後者の「区画され」は、前者の「形成され」に相当する。
(エ)上記(イ)、(ウ)の相当関係を踏まえると、後者の「前記アンチローリングタンクは、端部が前記側壁及び前記隔壁に接合される仕切壁A※により区画され、前記仕切壁A※の一部の面が部屋A※に面する」ことと、前者の「前記浸水防止部屋は、端部が前記側壁及び前記隔壁に接合される仕切板により形成され、前記仕切板の全面が前記部屋に面する」こととは、「前記水密な構造体は、端部が前記側壁及び前記隔壁に接合される仕切りにより形成され、前記仕切りが前記部屋に面する」という点で共通する。
(オ)後者の「前記アンチローリングタンクは、主甲板に面してその下方に設けられ」ることと、前者の「前記浸水防止部屋は、ショアランプが設けられる甲板に面してその下方に設けられ、前記部屋の高さ方向にわたって形成され」ることとは、上記(イ)も踏まえると、「前記水密な構造体は、甲板に面してその下方に設けられ」るという点で共通する。
(カ)後者の「前記アンチローリングタンクの少なくとも1つは、前記部屋A※に一部が面して設けられ、前記側壁と前記隔壁との連結部を覆った空間であ」ることと、前者の「前記浸水防止部屋の少なくとも1つは、機関区域の前記部屋に設けられ、前記機関区域の前記部屋の前記側壁と前記隔壁との連結部を覆った空間であり前記空間に面する前記側壁が損傷した場合浸水」することとは、上記(イ)も踏まえると、「前記水密な構造体の少なくとも1つは、前記部屋に面して設けられ、前記側壁と前記隔壁との連結部を覆った空間であ」るという点で共通する。
(キ)後者の「前記アンチローリングタンクで前記連結部が覆われた前記隔壁は、2つの前記部屋を推進方向の前後に区画する」ことと、前者の「前記浸水防止部屋で前記連結部が覆われた前記隔壁は、前記機関区域の2つの前記部屋を推進方向の前後に区画し、前記隔壁によって推進方向の前後に区画された前記機関区域の2つの前記部屋は、いずれも縦通隔壁で区画されていない」こととは、上記(イ)も踏まえると、「前記水密な構造体で前記連結部が覆われた前記隔壁は、2つの前記部屋を推進方向の前後に区画する」点で共通する。
(ク)後者の「前記隔壁によって推進方向の前後に区画された2つの前記部屋のうち、前記部屋A※は縦通隔壁で区画されていない」ことと、前者の「前記隔壁によって推進方向の前後に区画された前記機関区域の2つの前記部屋は、いずれも縦通隔壁で区画されていないこと」とは、「前記隔壁によって推進方向の前後に区画された2つの前記部屋のうち、少なくとも1方の部屋は縦通隔壁で区画されていない」点で共通する。
(ケ)後者の「ロール・オン/ロール・オフ貨物船“TOUGGOURT”」は、前者の「船舶」に相当する。
以上を踏まえると、本件発明1と甲4発明との一致点、相違点は以下のとおりである。
〔一致点〕
「船外に面する左右の側壁を有する船体と、
該船体の内部であって隔壁により推進方向の前後に区画される複数の部屋と、
前記側壁及び前記隔壁に接する少なくとも1つの水密な構造体と、
を備え、
前記水密な構造体は、端部が前記側壁及び前記隔壁に接合される仕切りにより形成され、前記仕切りが前記部屋に面すると共に、
前記水密な構造体は、甲板に面してその下方に設けられ、
前記水密な構造体の少なくとも1つは、前記部屋に面して設けられ、前記側壁と前記隔壁との連結部を覆った空間であり、
前記水密な構造体で前記連結部が覆われた前記隔壁は、2つの前記部屋を推進方向の前後に区画し、
前記隔壁によって推進方向の前後に区画された2つの前記部屋のうち、少なくとも1方の部屋は縦通隔壁で区画されていない船舶。」
〔相違点1〕
「水密な構造体」に関し、本件発明1は「浸水防止部屋(ただし、タンクを除く。)」であるのに対し、甲4発明は「アンチローリングタンク」である点。
〔相違点2〕
「仕切り」に関し、本件発明1は「仕切板」であって、「前記仕切板の全面が前記部屋に面する」のに対し、甲4発明は「仕切壁A※」が仕切板であるか明らかでなく、また、「前記仕切壁A※の一部の面が前記部屋A※に面する」点。
〔相違点3〕
「水密な構造体」に関し、本件発明1は「ショアランプが設けられる甲板」に面してその下方に設けられ、「前記部屋の高さ方向にわたって形成」されているのに対し、甲4発明は「甲板」に面してその下方に設けられているものの、「甲板」が「ショアランプが設けられる甲板」であるか明らかでなく、前記「部屋A※の高さ方向にわたって形成」されているかも明らかでない点。
〔相違点4〕
「水密な構造体」に関し、本件発明1は「機関区域の前記部屋に設けられ、前記機関区域の前記部屋の前記側壁と前記隔壁との連結部を覆った空間であり前記空間に面する前記側壁が損傷した場合浸水」するのに対し、甲4発明は「前記部屋A※に一部が面して設けられ、前記側壁と前記隔壁との連結部を覆った空間」であるものの、「前記部屋A※」が「機関区域」の部屋であるか明らかでなく、「前記部屋A※」に設けられているとはいえず、「前記側壁」も「前記部屋A※」の側壁とはいえず、さらに、「前記側壁と前記隔壁との連結部を覆った空間」が、「前記空間に面する前記側壁が損傷した場合浸水」するか明らかでない点。
〔相違点5〕
「隔壁」及び「2つの前記部屋」に関し、本件発明1は、「隔壁」が「機関区域の2つの前記部屋」を推進方向の前後に区画し、「2つの前記部屋」は「いずれも縦通隔壁で区画されていない」のに対し、甲4発明は、「隔壁」が区画する「2つの前記部屋」が「機関区域」の部屋であるか明らかでなく、また、「2つの前記部屋」のうち「前記部屋A※」は縦通隔壁で区画されていないものの、「2つの前記部屋」は「いずれも縦通隔壁で区画されていない」か明らかでない点。
イ 判断
上記相違点1について検討する。
(ア)甲4発明の「アンチローリングタンク」は、タンクであって側壁に接する水密な構造体であるから、当該側壁が損傷した場合浸水し、その浸水を防止するものといえる。よって、甲4発明の「アンチローリングタンク」は、浸水防止部屋ということができる。
(イ)しかしながら、本件発明1の浸水防止部屋は「(タンクを除く)」ものである。
他方、甲4発明の「アンチローリングタンク」は、タンクであって、上記「1(2)(2-1)」摘示ウに「本船には,荒天時車両の移動防止および乗り心地を良好にする為にアンチローリングタンクを設けた。我国では初めてのこの方式は,左右舷側に設けられたタンク間の下部をダクトで結び,各タンク上部には空気駆動の弁が設けられており,計画された動揺周期において,受動式のアンチローリングタンクと同様の働きをするのに加えて,動揺周期が遅くなれば,自動的に弁をある時間,閉じることにより,減揺効果が得られるので,貨物の積付がいろいろとかわるこの種の船には,効果的なものである。」と記載されるとおり、荒天時車両の移動防止および乗り心地を良好にするために、受動式のアンチローリングタンクと同様の減揺効果を得るのに加えて、各タンク上部に設けられた空気駆動の弁を閉じることで、動揺周期が遅い場合でも減揺効果を得るという機能を有するものである。そして、当該機能は、貨物の積付がいろいろとかわるこの種の船には、効果的なものといえる。
そうすると、甲4発明において上記の効果的な機能を有する「アンチローリングタンク」を、敢えて当該機能を有しない、タンクではないものとし、相違点1に係る本件発明1の「浸水防止部屋(ただし、タンクを除く)」に換える動機付けはない。
(ウ)また、甲第17号証の「浸水阻止用の区画7を備えている」及び「前記区画7を設けようとする空間は何んらの使用にも供されずに死空間となつているから、それを有効に利用することかでき、さらに該区画7を小槽として利用することもできる。」なる記載(上記「1(6)」摘示ウ)、甲第22号証の「衝突による浸水は船側区画7の内部に留まるので、沈没の危険は小さくなる。」及び「船側区画は、水バラストタンクあるいは空所として使用される」なる記載(上記「1(7)」摘示イ、ウ)、甲第23号証の「空所」の「浸水率0.95」、「液体を入れる場所」の「浸水率0又は0.95」なる記載(上記摘示「1(8)」摘示ア)によれば、浸水防止のための部屋を、空所又はタンクとして使用可能であることは周知の事項といえる。
さらに、甲第27号証に記載された「航海中の船体ローリングを軽減させるため,アンチローリングタンクを装備し,」なる記載(上記「1(12)摘示ア」)及び「日本通運・日本海運向け」「RO/ROコンテナ運搬船“ひまわり1”一般配置図」(上記「1(12)」摘示イ)によれば、甲第27号証には、アンチローリングタンクを、船舶の上部に設けることが記載されているといえる。
(エ)しかしながら、上記(ウ)のとおり、浸水防止のための部屋を、空所又はタンクとして使用可能であることが周知の事項であったとしても、上記(イ)で述べたとおり、甲4発明の「アンチローリングタンク」は、荒天時車両の移動防止および乗り心地を良好にするためのものであり、減揺効果を得るという機能を有するものであって、甲第4号証には当該「アンチローリングタンク」を浸水防止のための部屋として利用することは記載も示唆もされていないのであるから、甲4発明の「アンチローリングタンク」に上記周知の事項を適用する動機付けはなく、仮に適用を試みた場合であっても、減揺効果が得られない空所に改変することには阻害要因があるといわざるを得ない。
以上のとおりであるから、甲4発明の「アンチローリングタンク」を、空所に換えた上で、さらに甲第27号証記載のごとく「アンチローリングタンク」を船舶の上部に設ける動機付けもない。
(オ)さらに、甲第5号証は、無効理由2-2においては、本件発明3で特定されている事項に関する文献であるが、その記載事項及び図面(上記「1(3)」摘示ア、イ)によれば、甲第5号証には「衝突あるいは座礁などの事故の際に、2つ以上の貨物油タンクに損傷がおよびにくくするためのタンカーであって、横隔壁3と外板(側部)2の接する部分を、底部から上甲板部1まで覆う水密な構造である二重構造部(空室)5aを設けることで流出油量を制限するタンカー。」という事項が記載されていると認められる。
しかしながら、甲4発明の「アンチローリングタンク」は、上記(イ)で述べたとおり、減揺効果(荒天時車両の移動防止および乗り心地を良好にする)を得るという機能を有するものであるから、当該「アンチローリングタンク」に換えて、その機能とは異なる甲第5号証に記載された流出油量を制限するために設けられる「二重構造部(空室)5a」を採用する動機付けはない。
(カ)以上を踏まえると、その余の相違点を検討するまでもなく、本件発明1は、甲4発明、甲第17号証、甲第22号証、甲第23号証、甲第27号証及び甲第5号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、その特許は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。
(キ)請求人は、令和2年12月17日付けの弁駁書の21~23ページにおいて、甲17、甲22、甲23によれば、浸水防止のための部屋として空所とタンクが置換可能であることは周知の事項であるから、甲17、甲22又は甲23を単独又は複数参照して、甲4発明のアンチローリングタンクを空所に置き換えることは容易に想到できる旨主張するとともに、同弁駁書の22ページにおいて、例えば、甲27には、アンチローリングタンクを船体の上部に設けることが記載されており、甲4発明において、アンチローリングタンクを船体の上部に設けることは当業者が容易に想到することができる旨主張する。
しかしながら、甲4発明の「アンチローリングタンク」を、空所、すなわちタンクを除く浸水防止部屋に換える動機付けがないことは、上記(イ)、(エ)に示したとおりであるから、上記請求人の主張は採用することができない。
(2)本件発明2~8について
請求項2~5、7、8は、請求項1を引用するものであり、請求項6は、上記「第2 2(2)ア」で述べたとおり、本件訂正前において、請求項6が請求項1または2を引用するものであったところ、本件訂正後に、訂正前の請求項1を引用する請求項6について、請求項間の引用関係を解消して独立形式請求項へ改める訂正をするとともに、上記訂正事項1(訂正事項1-1~1-3)に係る訂正をしたものである。
よって、本件発明2~8は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに減縮したものである。
そして、本件発明2~8と甲4発明とを対比すると、本件発明1と同様に、少なくとも上記相違点1を含むものである。
したがって、本件発明2~8は、本件発明1と同様の理由により、当業者であっても、甲4発明、甲第17号証、甲第22号証、甲第23号証、甲第27号証及び甲第5号証に記載された事項に基いて容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。
5 無効理由2-3について
上記「第4」のとおり、本件発明1ないし8に関し、甲6発明、甲第17号証、甲第22号証及び甲第23号証に記載された事項、甲第24~26号証に記載された事項、甲第5号証に記載された事項、甲第7号証に記載された事項に基づく進歩性の有無について争いがあるので、以下検討する。
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲6発明とを対比すると、
(ア)後者の「船外に面する左右の側壁を有する船体」は、前者の「船外に面する左右の側壁を有する船体」に相当する。
(イ)後者の「水密横置隔壁」は、前者の「隔壁」に相当し、同様に、後者の「発電機室及び第一軸室」は、前者の「複数の部屋」に相当する。
よって、後者の「該船体の内部であって水密横置隔壁により推進方向の前後に区画される発電機室及び第一軸室」は、前者の「該船体の内部であって隔壁により推進方向の前後に区画される複数の部屋」に相当する。
(ウ)後者の「船尾トリミングタンク」と、前者の「浸水防止部屋(ただし、タンクを除く。)」とは、「水密な構造体」という点で共通する。
そうすると、上記(イ)も踏まえると、後者の「前記側壁及び前記水密横置隔壁に接する少なくとも1つの船尾トリミングタンク」と、前者の「前記側壁及び前記隔壁に接する少なくとも1つの浸水防止部屋(ただし、タンクを除く。)」とは、「前記側壁及び前記隔壁に接する少なくとも1つの水密な構造体」という点で共通する。
(エ)後者の「仕切壁C※」と、前者の「仕切板」とは、「仕切り」という点で共通する。また、後者の「区画され」は、前者の「形成され」に相当する。
(オ)上記(イ)~(エ)を踏まえると、後者の「前記船尾トリミングタンクは、端部が前記側壁及び前記水密横置隔壁に接合される仕切壁C※により区画され、前記仕切壁C※の全面が前記第一軸室に面する」ことと、前者の「前記浸水防止部屋は、端部が前記側壁及び前記隔壁に接合される仕切板により形成され、前記仕切板の全面が前記部屋に面する」こととは、「前記水密な構造体は、端部が前記側壁及び前記隔壁に接合される仕切りにより形成され、前記仕切りの全面が前記部屋に面する」という点で共通する。
(カ)後者の「ランプ扉」は、車輛搭載設備であって、トレーラー等の走行に耐えられるものであるから、(1(4)(4-1)摘示ア)、前者の「ショアランプ」に相当する。また、後者の「車輛甲板」は、前者の「甲板」に相当する。
よって、後者の「ランプ扉が設けられる車輛甲板」は、前者の「ショアランプが設けられる甲板」に相当する。
(キ)上記(ウ)及び(カ)を踏まえると、後者の「前記船尾トリミングタンクは、ランプ扉が設けられる車輛甲板に面してその下方に設けられ、前記第一軸室の高さ方向にわたって形成され」ることと、前者の「前記浸水防止部屋は、ショアランプが設けられる甲板に面してその下方に設けられ、前記部屋の高さ方向にわたって形成され」ることとは、「前記水密な構造体は、ショアランプが設けられる甲板に面してその下方に設けられ、前記部屋の高さ方向にわたって形成され」るという点で共通する。
(ク)後者の「第一軸室」は、上記「1(4)(4-1)」の摘示ウに、「本船の機関室は,車輛甲板下に配置され,船首側より補機室,主機室,発電機室,第一軸室及び第二軸室から成り立っている。」と記載されているから、機関区域の部屋といえる。
そうすると、上記(イ)、(ウ)も踏まえると、後者の「前記船尾トリミングタンクの少なくとも1つは、前記第一軸室に設けられ、前記第一軸室の前記側壁と前記水密横置隔壁との連結部を覆った空間であ」ることと、前者の「前記浸水防止部屋の少なくとも1つは、機関区域の前記部屋に設けられ、前記機関区域の前記部屋の前記側壁と前記隔壁との連結部を覆った空間であり前記空間に面する前記側壁が損傷した場合浸水」することとは、「前記水密な構造体の少なくとも1つは、機関区域の前記部屋に設けられ、前記機関区域の前記部屋の前記側壁と前記隔壁との連結部を覆った空間であ」るという点で共通する。
(ケ)後者の「前記発電機室及び前記第一軸室」は、上記「1(4)(4-1)」の摘示ウに、「本船の機関室は,車輛甲板下に配置され,船首側より補機室,主機室,発電機室,第一軸室及び第二軸室から成り立っている。」と記載されているから、機関区域の2つの部屋といえる。
そうすると、上記(イ)、(ウ)も踏まえると、後者の「前記船尾トリミングタンクで前記連結部が覆われた前記水密横置隔壁は、前記発電機室及び前記第一軸室を推進方向の前後に区画」することと、前者の「前記浸水防止部屋で前記連結部が覆われた前記隔壁は、前記機関区域の2つの前記部屋を推進方向の前後に区画」することとは、「前記水密な構造体で前記連結部が覆われた前記隔壁は、前記機関区域の2つの前記部屋を推進方向の前後に区画」するという点で共通する。
(コ)上記(イ)、(ケ)も踏まえると、後者の「前記水密横置隔壁によって推進方向の前後に区画された前記発電機室及び前記第一軸室のうち、前記第一軸室は縦通隔壁で区画されていない」ことと、前者の「前記隔壁によって推進方向の前後に区画された前記機関区域の2つの前記部屋は、いずれも縦通隔壁で区画されていない」こととは、「前記隔壁によって推進方向の前後に区画された前記機関区域の2つの前記部屋のうち、少なくとも1方の部屋は縦通隔壁で区画されていない」点で共通する。
(サ)後者の「客船兼自動車航送船“3号はやぶさ”」は、前者の「船舶」に相当する。
以上を踏まえると、本件発明1と甲6発明との一致点、相違点は以下のとおりである。
〔一致点〕
「船外に面する左右の側壁を有する船体と、
該船体の内部であって隔壁により推進方向の前後に区画される複数の部屋と、
前記側壁及び前記隔壁に接する少なくとも1つの水密な構造体と、
を備え、
前記水密な構造体は、端部が前記側壁及び前記隔壁に接合される仕切りにより形成され、前記仕切りの全面が前記部屋に面すると共に、
前記水密な構造体は、ショアランプが設けられる甲板に面してその下方に設けられ、前記部屋の高さ方向にわたって形成され、
前記水密な構造体の少なくとも1つは、機関区域の前記部屋に設けられ、前記機関区域の前記部屋の前記側壁と前記隔壁との連結部を覆った空間であり、
前記水密な構造体で前記連結部が覆われた前記隔壁は、前記機関区域の2つの前記部屋を推進方向の前後に区画し、
前記隔壁によって推進方向の前後に区画された前記機関区域の2つの前記部屋のうち、少なくとも1方の部屋は縦通隔壁で区画されていない船舶。」
〔相違点1〕
「水密な構造体」に関し、本件発明1は、「浸水防止部屋(ただし、タンクを除く。)」であって、「その少なくとも1つは、」「前記空間に面する前記側壁が損傷した場合浸水」するのに対し、甲6発明は、「船尾トリミングタンク」であって、「前記空間に面する前記側壁が損傷した場合」浸水するか明らかでない点。
〔相違点2〕
「仕切り」に関し、本件発明1は、「仕切板」であるのに対し、甲6発明は、「仕切壁C※」であって、仕切板であるか明らかでない点。
〔相違点3〕
「隔壁によって推進方向の前後に区画された前記機関区域の2つの前記部屋」に関し、本件発明1は「いずれも縦通隔壁で区画されていない」のに対し、甲6発明は「第一軸室は縦通隔壁で区画されていない」ものの、「発電機室」については明らかでない点。
イ 判断
上記相違点1について検討する。
(ア)甲6発明の「船尾トリミングタンク」は、タンクであって、側壁に接する水密な構造体であるから、前記空間に面する側壁が損傷した場合浸水し、その浸水を防止するものといえる。よって、甲6発明の「船尾トリミングタンク」は、浸水防止部屋ということができる。
(イ)しかしながら、本件発明1の浸水防止部屋は「(タンクを除く)」ものである。
他方、甲6発明における「船尾トリミングタンク」は、タンクであって、上記1(4)(4-1)摘示イに「本装置は車輌乗降時の岸壁と舷外ランプの高さを保つため,船首トリミングタンク(F.P.T.,No.1 W.B.T.(C),No.2 W.B.T.(C),No.3 W.B.T.(C))及び船尾トリミングタンク(No.4 W.B.T.(C)&No.4 W.B.T.(P/S))を利用して船体のトリムを調整し易いように配管されており,船橋操作盤に組み込みのタッチパネル式監視制御コントロールによりポンプ,弁の遠隔操作が出来るようになっている。」と記載されるとおり、車輌乗降時の岸壁と舷外ランプの高さを保つためのものであり、船体のトリム(船体の前後方向の傾斜)を調整する機能を有するものである。
そうすると、甲6発明において上記の機能を有する「船尾トリミングタンク」を、敢えて当該機能を有しない、タンクではないものとし、相違点1に係る本件発明1の「浸水防止部屋(ただし、タンクを除く)」に換える動機付けはない。
(ウ)また、甲第17号証の「浸水阻止用の区画7を備えている」及び「前記区画7を設けようとする空間は何んらの使用にも供されずに死空間となつているから、それを有効に利用することかでき、さらに該区画7を小槽として利用することもできる。」なる記載(上記「1(6)」摘示ウ)、甲第22号証の「衝突による浸水は船側区画7の内部に留まるので、沈没の危険は小さくなる。」及び「船側区画は、水バラストタンクあるいは空所として使用される」なる記載(上記「1(7)」摘示イ、ウ)、甲第23号証の「空所」の「浸水率0.95」、「液体を入れる場所」の「浸水率0又は0.95」なる記載(上記「1(8)」摘示ア)によれば、浸水防止のための部屋を、空所又はタンクとして使用可能であることは周知の事項といえる。
また、甲第24号証に記載された「シルバーフェリー向け カーフェリー“シルバークイーン2”一般配置図」(上記「1(9)」摘示ア)、甲第25号証に記載された「M.S. UFU GENERAL ARRANGEMENT」(ゆふ 一般配置図)(上記「1(10)」摘示ア)及び甲第26号証に記載された「黒潮丸 一般配置図(2)」(上記「1(11)」摘示ア)によれば、バラスト水タンクを、船舶の後方の部屋に設けることも周知の事項といえる。
(エ)しかしながら、上記(ウ)のとおり、浸水防止のための部屋を、空所又はタンクとして使用可能であることが周知の事項であったとしても、上記(イ)で述べたとおり、甲6発明の「船尾トリミングタンク」は、車輌乗降時の岸壁と舷外ランプの高さを保つためのものであり、船体のトリム(船体の前後方向の傾斜)を調整する機能を有するものであって、甲第6号証には当該「船尾トリミングタンク」を浸水防止のための部屋として利用することは記載も示唆されていないのであるから、甲6発明の「船尾トリミングタンク」に上記周知の事項を適用する動機付けはなく、仮に適用を試みた場合であっても、船体のトリム(船体の前後方向の傾斜)を調整する機能を有しない空所に改変することには阻害要因があるといわざるを得ない。
以上のとおりであるから、甲6発明の「船尾トリミングタンク」を、空所に換えた上で、さらに甲第24~26号証記載のバラスト水タンクを、船舶の後方の部屋に設ける点を適用し、「船尾トリミングタンク」を船舶の後方の部屋に設ける動機付けもない。
(オ)さらに、甲第5号証は、無効理由2-3においては、本件発明3で特定されている事項に関する文献であるが、その記載事項及び図面(上記「1(3)」摘示ウ、エ)によれば、甲第5号証には「衝突あるいは座礁などの事故の際に、2つ以上の貨物油タンクに損傷がおよびにくくするためのタンカーであって、横隔壁3と外板(側部)2の接する部分を、底部から上甲板部1まで覆う水密な構造である該二重構造部(空室)5aを設けることで流出油量を制限するタンカー。」という事項が記載されていると認められる。
しかしながら、甲6発明の「船尾トリミングタンク」は、車輌乗降時の岸壁と舷外ランプの高さを保つ機能を有するものであるから、当該「船尾トリミングタンク」に換えて、その機能とは異なる甲第5号証に記載された事項の流出油量を制限するために設けられる「二重構造部(空室)5a」を採用する動機付けはない。
(カ)また、甲第7号証は、無効理由2-3においては、本件発明8で特定されている事項に関する文献であるが、【図3】には「バラスト槽(5)」が示されている。しかしながら、当該「バラスト槽(5)」も甲6発明の「船尾トリミングタンク」と同様に、タンクといえるから、本件発明1の「浸水防止部屋(ただし、タンクを除く。)」に相当するものではない。
(キ)以上を踏まえると、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲6発明、甲第17号証、甲第22~26号証、並びに、甲第5号証及び甲第7号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、その特許は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。
(ク)請求人は、令和2年12月17日付けの弁駁書の8ページにおいて、(i)甲17、甲22、甲23によれば、浸水防止のための部屋として空所とタンクが置換可能であることは周知の事項であるから、当業者が甲6発明の船尾トリミングタンクを空所に置き換えることは容易に想到でき、また、(ii)甲17、甲22又は甲23を単独又は複数参照しても、当業者が甲6発明の船尾トリミングタンクを空所に置き換えることは容易に想到できる旨主張するとともに、同弁駁書の10~20ページにおいて、バラスト水タンクを、後方の部屋、たとえば補機室、軸室に続く後ろの部屋に設けることはよくみられる例であるから(甲24~甲26)、甲6発明の「船尾トリミングタンク」を空所に換えて、「船尾トリミングタンク」を甲24~26のように後方の部屋に移動させることは当業者が容易に想到することができる旨主張する。
しかしながら、甲6発明の「船尾トリミングタンク」を、空所、すなわちタンクを除く浸水防止部屋に換える動機付けがないことは、上記(イ)、(エ)に示したとおりであるから、上記請求人の主張は採用することができない。
(2)本件発明2~8について
請求項2~5、7、8は、請求項1を引用するものであり、請求項6は、上記「第2 2(2)ア」で述べたとおり、本件訂正前において、請求項6が請求項1または2を引用するものであったところ、本件訂正後に、訂正前の請求項1を引用する請求項6について、請求項間の引用関係を解消して独立形式請求項へ改める訂正をするとともに、上記訂正事項1(訂正事項1-1~1-3)に係る訂正をしたものである。
よって、本件発明2~8は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに減縮したものである。
そして、本件発明2~8と甲6発明とを対比すると、本件発明1と同様に、少なくとも上記相違点1を含むから、本件発明1と同様の理由により、当業者であっても、甲6発明、甲第17号証、甲第22~26号証、並びに、甲第5号証及び甲第7号証に記載された事項に基いて容易に発明をすることができたものとはいえないから、それらの特許は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。
6 当審が通知した無効理由について
当審が通知した無効理由は、本件訂正前の請求項1~8に係る特許発明について、請求人が主張した無効理由2-1と同様に、甲3発明を主引用発明とした容易想到性を述べたものである。
そして、上記「第7 3」で検討したように、本件発明1~8と甲3発明を対比すると、少なくとも相違点3が存在し、当該少なくとも相違点3が容易想到といえるものではないから、本件発明1~8は、甲第3号証の1の公知性を検討するまでもなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。
第8 むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する無効理由1、2-1~2-3及び提出した証拠方法、並びに当審が通知した無効理由によっては、本件発明1~8に係る特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
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2017-800086