特許異議申立
2017-701200
リチウム二次電池用高容量負極活物質、その製造方法、及びそれを含むリチウム二次電池
- 審判番号
- 2017-701200
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2015-526483
- 登録番号
- 特許第6152419号(P6152419)
- 請求日
- 2017年12月19日
- 審決日
- 2018年04月05日
- 公報発行日
- 2018年05月25日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】エルジー・ケム・リミテッド
- 【権利者代理人】堅田 健史
- 【権利者代理人】松野 知紘
- 【異議申立人】河村 真人
- 審判長/審判官
- 審判長 千葉 輝久
- 審判官 宮本 純
- 審判官 小川 進
- 分類
- P1651.113-Y (H01M) / P1651.121-Y (H01M) / P1651.55 -Y (H01M)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第17条の2第3項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6152419号発明「リチウム二次電池用高容量負極活物質、その製造方法、及びそれを含むリチウム二次電池」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6152419号の請求項に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許6152419号の請求項1~2に係る特許についての出願は、2013年11月29日(パリ条約に基づく優先権主張外国庁受理 2012年12月6日 (KR)韓国、2013年11月29日 (KR)韓国)を国際出願日とする出願であり、平成29年6月2日にその特許権の設定登録がされ、同年6月21日にその特許公報が発行され、その後、その特許に対し、同年12月19日に特許異議申立人河村真人(以下、「申立人」という。)により特許異議申立書(以下、「申立書」という。)が提出されたものである。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~2に係る発明(以下それぞれ「本件発明1~2」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1~2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
コア‐シェル構造の非晶質SiOx‐C複合体を備えた負極活物質の製造方法であって、
前記コア‐シェル構造の非晶質SiOx‐C複合体が、フリーSi結晶のケイ素酸化物(SiOx)粒子を含むコア部と、及び、前記コア部の少なくとも一部の表面に、炭素物質を含むコーティング層であるシェル部とを備えてなるものであり、
コア部としてケイ素酸化物(SiOx)粒子を用意する段階と、並びに、
常圧下の回転管状炉で、前記コア部の少なくとも一部の表面に、炭素含有気体又は炭素前駆体の気化物で化学蒸着し、及び、1000℃未満の温度で熱処理し、前記コア部の少なくとも一部の表面に0.01~5μmの厚さを有する炭素コーティング層であるシェル部を形成する段階とを含んでなることを特徴とする、コア‐シェル構造の非晶質SiOx‐C複合体を含む負極活物質の製造方法。
【請求項2】
前記熱処理の温度が、900℃以下であることを特徴とする、請求項1に記載の負極活物質の製造方法。」
第3 申立理由の概要
申立人は、証拠として、下記甲第1号証~甲第2号証を提出し、以下の申立理由1~3によって請求項1~2に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。
甲第1号証:国際公開第2012/77268号
甲第2号証:特開2004-47404号公報
申立理由1
本件特許の請求項1~2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と同一であるから、その特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものである。
申立理由2
本件特許の請求項1~2に係る発明は、甲第1号証及び甲第2号証に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。
申立理由3
本件特許に係る平成29年1月18日付け手続補正書により補正された事項は、新規に追加された事項であるから、その特許は、特許法第17条の2第3項の規定に違反してなされたものである。
第4 甲各号証の記載事項
1 甲第1号証について
(1-1)甲第1号証の記載事項
本件特許に係る優先日前に外国で頒布または電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった、上記甲第1号証には以下の事項が記載されている(なお、下線は当審が付与したものであり、「・・・」は記載の省略を表す。以下同様。)。
ア 「1.本発明のリチウムイオン二次電池負極材用粉末
本発明のリチウムイオン二次電池負極材用粉末は、低級酸化珪素粉末の表面に導電性炭素皮膜を有し、この酸化珪素粉末の粒度分布において、1μm≦D50≦20μmであり、D50とD10の関係が1.4≦D50/D10≦2.4を満足することを特徴とする。
低級酸化珪素粉末とは、上述のように、xが0.4≦x≦1.2を満足す
るSiOxの粉末である。」([0033]~[0034])
イ 「絶縁体である低級酸化珪素粉末に導電性炭素皮膜を形成することで、この低級酸化珪素粉末を負極材用粉末として用いたリチウムイオン二次電池の放電容量を改善することができる。導電性炭素皮膜の厚さは、1.5nm以上、7.5nm以下とするのが好ましい。導電性炭素皮膜が1.5nm未満では電気伝導性が不足する可能性があり、7.5nmを超えて厚いと低級酸化珪素粉末の表面から剥離しやすく、いずれの場合とも、リチウムイオン二次電池の放電容量が不十分となるおそれがあるからである。」([0035])
ウ 「リチウムイオン二次電池負極材用粉末は、CuKα線を用いたXRDで測定した場合に、10°≦2θ≦30°に現れるSiOxに由来するハローの最大値P1と、2θ=28.4±0.3°に現れるSi(111)の最強線ピークの値P2が、P2/P1<0.01を満足すること、すなわちアモルファスであることが好ましい。これは、負極材用粉末中の低級酸化珪素粉末が、結晶性を有する場合と比較して、アモルファスである場合にはリチウムイオンの侵入による膨張が緩和されやすく、リチウムイオン二次電池のサイクル特性に優れるからである。」([0043])
エ 「5.導電性炭素皮膜の形成方法
粒度を調整した低級酸化珪素粉末の表面への導電性炭素皮膜の形成は、CVD等により行う。具体的には、装置としてロータリーキルンを用い、ガスとして炭素源である炭化水素ガスまたは有機物含有ガスと、不活性ガスとの混合ガスを用いて行う。
・・・
導電性炭素皮膜の形成処理温度は、700℃以上、750℃以下とする。
また、処理時間は、20分以上、120分以下とし、形成する導電性炭素皮膜の厚さに応じて設定する。この処理条件は、結晶性の低い導電性炭素皮膜を得られる範囲である。また、低級酸化珪素粉末の表面と炭素皮膜との界面近傍におけるSiCの生成が抑制される範囲でもある。」([0066]~[0068])
オ 「実施例
本発明の効果を確認するため、リチウムイオン二次電池を用いた以下の試験を行い、その結果を評価した。
1.試験条件
1-1.リチウムイオン二次電池の構成
リチウムイオン二次電池の構成は、前記図1に示すコイン形状とした。
最初に負極2について説明する。珪素粉末と二酸化珪素粉末とを所定の割合で配合し、混合、造粒および乾燥した混合造粒原料を原料とし、前記図2に示す装置を用いて析出基板上に低級酸化珪素を析出させた。析出した低級酸化珪素は、アルミナ製ボールミルを使用して24時間粉砕してD50が4.4μmの粉末とした。この低級酸化珪素粉末は、上述の方法で最大168時間の自然沈降により粒度調整を行った。沈降時間、粒度調整後のD50、D10およびD50/D10の値は後掲の表4~6に示す通りとした(試験番号1~14)。この低級酸化珪素(SiOx)の粉末は、x=1を満たしていた。
低級酸化珪素粉末の表面には導電性炭素皮膜を形成し、リチウムイオン二次電池負極材用粉末とした。炭素皮膜の形成には、装置としてロータリーキルン、ガスとしてノルマルブタンとArとの混合ガスを使用し、処理温度は700℃とした。炭素皮膜の形成処理温度、炭素皮膜率および炭素皮膜の厚さは、表4~6に示す通りとした。」([0076]~[0079])
カ 「[表6]
」([0084])
キ 「このリチウムイオン二次電池負極材用粉末を65質量%、アセチレンブラックを10質量%、PAAを25質量%とした混合物に、n‐メチルピロリドンを加えてスラリーを作製する。このスラリーを厚さ20μmの銅箔に塗布し、120℃の雰囲気下で30分乾燥した後、片面の面積が1cm2となる大きさに打ち抜いて負極2とした。」([0085])
ク 「表6に示すように、試験番号9~14はいずれも初期放電容量が1659mAh/g以上と優れた値であった。・・・
また、試験番号1~14のいずれのリチウムイオン二次電池とも、10回目の放電容量と初回放電容量との比の値が93%と、サイクル特性が優れていたことを確認した。」([0095]~[0097])
(1-2)甲第1号証に記載された発明
上記(1-1)の摘記事項について検討する。
ア 上記(1-1)ア~イによれば、リチウムイオン二次電池の負極材用粉末として用いる導電性炭素皮膜を形成した低級酸化珪素粉末は、粒度分布において、1μm≦D50≦20μmであり、D50とD10の関係が1.4≦D50/D10≦2.4を満足し、xが0.4≦x≦1.2を満足するSiOxの粉末であり、導電性炭素皮膜の厚さは、1.5nm以上、7.5nm以下とするものである。
イ 上記(1-1)ウによれば、リチウムイオン二次電池負極材用粉末は、負極材用粉末中の低級酸化珪素粉末が、結晶性を有する場合と比較して、アモルファスである場合には、リチウムイオンの侵入による膨張が緩和されやすく、リチウムイオン二次電池のサイクル特性に優れるものになる。
ウ また、上記(1-1)エによれば、低級酸化珪素粉末の表面への導電性炭素皮膜の形成は、CVDにより行う。その際、結晶性の低い導電性炭素皮膜を得られ、また、低級酸化珪素粉末の表面と炭素皮膜との界面近傍におけるSiCの生成が抑制されるため、形成処理温度は、700℃以上、750℃以下としている。
エ そして、上記ア~ウで検討した事項の具体的態様として(1-1)オ~クの記載事項があり、この記載事項において、負極にする試験番号14の導電性炭素皮膜を形成した低級酸化珪素粉末の製造方法に注目すると、甲第1号証には、以下の甲1発明が記載されているものと認められる。
<甲1発明>
「珪素粉末と二酸化珪素粉末とを所定の割合で配合し、混合、造粒および乾燥した混合造粒原料を原料とし、析出基板上に低級酸化珪素(SiOx、x=1)の粉末を析出させ、低級酸化珪素粉末の表面に、CVDにより導電性炭素皮膜を形成し、その形成には、装置としてロータリーキルン、ガスとしてノルマルブタンとArとの混合ガスを使用し、処理温度を700℃とする、負極に用いる炭素皮膜厚さが11.36nmである導電性炭素皮膜を形成した低級酸化珪素粉末の製造方法。」
2 甲第2号証の記載事項
本件特許に係る優先日前に日本国内において頒布された、上記甲第2号証には次の事項が記載されている。
ア 「[実施例2]
酸化珪素(SiOx:x=1.02)を、ヘキサンを分散媒としてボールミルで粉砕し、得られた懸濁物をろ過し、窒素雰囲気下で脱溶剤後、平均粒子径が約0.8μmの粉末を得た。」(【0043】)
イ 「[実施例4]
実施例2で使用した酸化珪素粉末を原料にして、縦型管状炉(内径約50mmφ)を用いて、アセチレン-アルゴン混合ガス通気下、800℃、1時間の熱CVDを行った。その後、約1200℃に設定したロータリーキルンにより、不活性気流下で平均滞留時間約1時間熱処理を施して不均化を行った。こうして得られた導電性珪素複合体の粉末の分析結果は、炭素量:17.5%、活性珪素量:25.4%、平均粒子径:3.1μmであり、X線回折(シェーラー法)により求めた二酸化珪素中に分散した珪素の結晶の大きさは約20nmであった。」(【0050】)
第5 判断
1 申立理由1(新規性)について
(1) 本件発明1について
(1-1) 本件発明1と甲1発明との対比
ア 本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「低級酸化珪素(SiOx、x=1)の粉末」は、本件発明1の「ケイ素酸化物(SiOx)粒子」に相当し、甲1発明の「導電性炭素皮膜」は、本件発明1の「炭素物質を含むコーティング層」に相当するものである。そして、甲1発明の「負極に用いる」「導電性炭素皮膜を形成した低級酸化珪素粉末」は、「低級酸化珪素粉末の表面に、導電性炭素皮膜を形成」したものであるから、「低級酸化珪素粉末」がコア部分を占め、「導電性炭素皮膜」がシェル部分を占めるものであり、また、負極において、活物質として用いられるものであるので、本件発明1の「コア‐シェル構造の」「SiOx‐C複合体を含む負極活物質」に相当する。
イ そして、甲1発明の「珪素粉末と二酸化珪素粉末とを所定の割合で配合し、混合、造粒および乾燥した混合造粒原料を原料とし、析出基板上に低級酸化珪素(SiOx、x=1)の粉末を析出させ」る工程は、本件発明1の「コア部としてケイ素酸化物(SiOx)粒子を用意する段階」に相当する。
ウ また、甲1発明の「ロータリーキルン」、「ノルマルブタン」、「CVDにより」「形成し」、「処理温度を700℃とする」は、それぞれ、本件発明1の「回転管状炉」、「炭素含有気体」、「化学蒸着し」、「1000℃未満の温度で熱処理し」に相当するので、甲1発明の「低級酸化珪素粉末の表面に、導電性炭素皮膜を形成し、その形成には、装置としてロータリーキルン、ガスとしてノルマルブタンとArとの混合ガスを使用し、処理温度を700℃とする」工程は、本件発明1の「回転管状炉で、前記コア部の少なくとも一部の表面に、炭素含有気体又は炭素前駆体の気化物で化学蒸着し、及び、1000℃未満の温度で熱処理し、前記コア部の少なくとも一部の表面に」「炭素コーティング層であるシェル部を形成する段階」に相当する。
エ さらに、甲1発明の「炭素皮膜厚さが11.36nm」は、本件発明1の「0.01~5μmの厚さを有する炭素コーティング層」と、厚さが0.01136μmの点で重複する。
(1-2) 本件発明1と甲1発明との一致点と相違点
上記(1-1)の検討から、本件発明1と甲1発明の一致点と相違点は次のとおりである。
<一致点>
コア‐シェル構造のSiOx‐C複合体を備えた負極活物質の製造方法であって、
前記コア‐シェル構造のSiOx‐C複合体が、ケイ素酸化物(SiOx)粒子を含むコア部と、及び、前記コア部の少なくとも一部の表面に、炭素物質を含むコーティング層であるシェル部とを備えてなるものであり、
コア部としてケイ素酸化物(SiOx)粒子を用意する段階と、並びに、
回転管状炉で、前記コア部の少なくとも一部の表面に、炭素含有気体又は炭素前駆体の気化物で化学蒸着し、及び、1000℃未満の温度で熱処理し、前記コア部の少なくとも一部の表面に0.01136μmの厚さを有する炭素コーティング層であるシェル部を形成する段階とを含んでなることを特徴とする、コア‐シェル構造のSiOx‐C複合体を含む負極活物質の製造方法。
<相違点>
相違点1:コア‐シェル構造SiOx‐C複合体について、本件発明1では、「非晶質」であるとするのに対し、甲1発明では、「非晶質」であるか不明な点。
相違点2:SiOx‐C複合体のコア部において、本件発明1では、「フリーSi結晶のケイ素酸化物(SiOx)粒子を含む」のに対し、甲1発明では、そのような特性を有するか不明な点。
相違点3:回転管状炉での化学蒸着において、本件発明1では、「常圧下」とするのに対し、甲1発明では、「常圧下」であるか不明な点。
(1-3) 相違点についての検討
ア 上記相違点のうち、事案に鑑みて、相違点2について先に検討する。本件特許明細書には、「フリーSi結晶」について、以下の記載が存在する。「本発明において、フリーSi結晶とは、ケイ素酸化物(SiOx)の金属酸化物にSi結晶などが存在しないものを意味する。具体的に、前記Si結晶は、5~50nmの粒径の微結晶及びこのような微結晶より大きい粒径を有する結晶をも含む。」(【0021】)
イ 一方、甲第1号証には、第4の1(1-1)ウで摘記したように、「アモルファスであることが好ましい。」とは記載されているものの、「CuKα線を用いたXRDで測定した場合に、10°≦2θ≦30°に現れるSiOxに由来するハローの最大値P1と、2θ=28.4±0.3°に現れるSi(111)の最強線ピークの値P2が、P2/P1<0.01を満足する」程度のアモルファスであると記載されていることから、「ケイ素酸化物(SiOx)の金属酸化物にSi結晶などが存在しない」フリーSi結晶とすることまでは記載されているものでない。
そして、甲1発明における、「析出基板上に」「析出させ」た「低級酸化珪素(SiOx、x=1)の粉末」が、その製造条件等から「ケイ素酸化物(SiOx)の金属酸化物にSi結晶などが存在しない」フリーSi結晶となっていると認定し得る、具体的かつ客観的な証拠は認められないので、上記相違点2は実質的な相違点である。
(1-4) 小活
してみると、相違点1、3を検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明ではなく、本件特許の請求項1に係る発明は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものとはいえない。
(2) 本件発明2について
(2-1) 本件発明2と甲1発明との対比
ア 本件発明2は、本件発明1を引用し、「熱処理の温度」を「900℃以下」とすることを更に特定するものである。
イ 本件発明2と甲1発明とを対比すると、上記(1-2)で示した3点で相違し、その他の点で一致する。
(2-2) 判断
ここで、相違点2については、上記(1-3)で示したように実質的な相違点であるから、相違点1、3を検討するまでもなく、本件発明2も、甲1発明ではなく、本件特許の請求項2に係る発明は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものとはいえない。
2 申立理由2(進歩性)について
(1) 本件発明1について
(1-1)相違点についての検討
ア まず、上記(1-3)で示した実質的な相違点である相違点2について検討する。
イ 上記(1-3)イで示したように、甲第1号証には、SiOx‐C複合体のコア部のケイ素酸化物(SiOx)粒子について、「アモルファスであることが好ましい。」とは記載されているものの、「ケイ素酸化物(SiOx)の金属酸化物にSi結晶などが存在しない」フリーSi結晶とすること、すなわち、CuKα線を用いたXRDで測定した場合に、10°≦2θ≦30°に現れるSiOxに由来するハローの最大値P1と、2θ=28.4±0.3°に現れるSi(111)の最強線ピークの値P2とした際に、P2/P1=0とするまでのことは記載されていない。
また、上記第4の2ア~イによれば、甲第2号証には、SiOx‐C複合体のコア部において、二酸化珪素中に分散した珪素の結晶の大きさが約20nmであったと記載されているにとどまり、「フリーSi結晶のケイ素酸化物(SiOx)粒子」を用いる技術的事項は何ら記載されていない。
してみると、相違点2に係る本件請求項1の発明特定事項は、甲第1~2号証いずれにも記載されていなことから、当該相違点2は、甲1発明において、甲第1号証または甲第2号証の記載事項に基づいても当業者が容易に相当し得る事項であるとは認められない。
ウ また、相違点2に係る発明特定事項を備えた本件発明1は、本件明細書【0054】【表1】によれば、図面【図1】に示される特徴的なピークを示さないX線回折曲線を有するSiOをコア部として用いた態様である「実施例」の「50サイクル目の正規化した容量(%)」評価項目が「97%」という水準の効果を奏するものであり、これに対し、甲1発明におけるサイクル特性に関しては、上記第4の1(1-1)クで摘記したところによると「10回目の放電容量と初回放電容量との比の値が93%」という水準であり、50サイクルまでの充放電寿命を有するのか不明ではあるし、仮に、甲1発明が10サイクル目以降10サイクル毎に放電容量が93%ずつ低下すると仮定して50サイクル目の放電容量と初回放電容量との割合を換算してみると、(0.93)5×100(%)、すなわち、70%程度という水準であると認められるから、本件発明1の効果は、甲1発明からは、予測できない優れた効果を有するものであるといえる。
エ よって、相違点1、3についての検討を示すまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲第1~2号証に記載された事項から当業者が容易に想到し得ないものであり、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものとはいえない。
(2) 本件発明2について
(2-1)判断
上記1の(2-1)で示したように、本件発明2においても甲1発明との相違点は、本件発明1と甲1発明とを対比した時と同じ相違点1~3であり、上記(1-1)に示したように、相違点2に係る発明特定事項は、甲1発明において、甲第1号証または、甲第2号証の記載事項から当業者が容易になし得るものでないし、また、相違点2に係る発明特定事項を備える本件発明2は、甲第1~2号証の記載から予測できない優れた効果を有するものであるので、本件発明2についても、甲1発明及び甲第1~2号証に記載された事項から当業者が容易に想到し得ないものであり、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものとはいえない。
3 申立理由3(新規事項の追加)について
(1) 申立理由3の概要
申立書には、本件特許に係る平成29年1月18日付け手続補正書による補正により請求項1に係る発明が、回転管状炉による炭素皮膜形成処理での圧力条件が「常圧下」であるとの発明特定事項を備えることになったが、これは本件特許の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件特許の当初明細書等」という。)に記載されていないものであり、新規に追加された事項であるとの主張が示されている。(申立書第11頁第9行~第18行)
(2) 検討・判断
ア 新規事項の追加というには、当初明細書等と補正された明細書等の記載事項を比較すると、補正された明細書等には、当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものというべき記載の認定が必要である。そこで、本件特許の当初明細書等における回転管状炉による炭素皮膜形成処理での圧力条件について以下に検討する。
イ 申立人の主張するように、本件特許の当初明細書等には、直接的に、回転管状炉による炭素皮膜形成処理での圧力条件について「常圧下」で実施することは、記載されていない。
ウ しかしながら、本件特許の当初明細書の【0048】には、実施例1として「中間粒径が5μmであるSiO 10gを回転管状炉に投入し、アルゴンガスを0.5L/分で流した後、5℃/分の速度で800℃まで温度を上温させた。回転管状炉を10rpm/分の速度で回転させると共に、アルゴンガスを1.8L/分、アセチレンガスを0.3L/分で流し、かつ、3時間熱処理して導電性炭素コーティング層が形成されたケイ素系負極活物質を製造した。」と記載されている。そして、例えば、当業者が、当該記載のとおりに追試をする場合、圧力条件については調節することなく行うこととなるところ、その場合に圧力条件は当然「常圧下」となることから、回転管状炉による炭素皮膜形成処理での圧力条件について「常圧下」で実施することは、本件特許の当初明細書の記載から自明な事項であるといえる。
エ したがって、平成29年1月18日付け手続補正書による補正により請求項1に発明特定事項として備えられた「常圧下」は、本件特許の当初明細書等の記載から自明な事項であり、当初明細書等の全ての記載事項を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであるとはいえないから、上記補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反してなされたものとはいえない。
第6 むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1~2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本請求項1~2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。
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2017-701200