特許異議申立
2017-701199
塗布型制振塗料用エマルション樹脂組成物、塗布型制振塗料及び塗膜
- 審判番号
- 2017-701199
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2012-277134外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2017年12月19日
- 審決日
- 2018年11月16日
- 公報発行日
- 2019年02月22日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社日本触媒
- 【権利者代理人】特許業務法人 安富国際特許事務所
- 【異議申立人】阿部 治美
- 分類
- P1651.113-YAA(C09K) / P1651.121-YAA(C09K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第113条第2号、特許法第29条、特許法第120条の5第4項、特許法第126条第6項、特許法第126条第1項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6164833号発明「塗布型制振塗料用エマルション樹脂組成物、塗布型制振塗料及び塗膜」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6164833号の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。
特許第6164833号の請求項1、2、4、5に係る特許を維持する。
特許第6164833号の請求項3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯等
1 本件特許異議の申立てに係る特許
本件特許異議の申立てに係る特許第6164833号は、特許権者である株式会社日本触媒が保有するものであり、平成24年12月19日に出願され、特願2012-277134号として審査された結果、平成29年6月30日に、発明の名称を「制振材用樹脂、制振材用組成物及び塗膜」、請求項の数を「5」として特許権の設定登録を受けたものである。
2 手続の経緯
本件特許異議の申立てにおける手続の経緯は、次のとおりである。
平成29年12月19日 特許異議申立人である阿部治美より全請求 項に対して特許異議の申立て
平成30年 3月22日付 取消理由通知
同年 5月28日 意見書の提出(特許権者)
同年 8月 1日付 取消理由通知(決定の予告)
同年10月 9日 訂正請求書及び意見書の提出(特許権者)
同年11月 8日 意見書の提出(特許異議申立人)
第2 本件訂正の適否
平成30年10月9日になされた訂正請求による、特許請求の範囲及び明細書についての訂正(以下、「本件訂正」という。)の請求は、特許法第120条の5第4項の規定、及び、同条第9項において準用する同法第126条第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項1~5を訂正の単位として請求されたものであるところ、当審は、本件訂正は適法になされたものであり認容すべきものである、と判断する。
その理由は、以下のとおりである。
1 訂正事項
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1において、「該制振材用樹脂は、該単量体成分として、・・・(中略)・・・(メタ)アクリル系化合物を含み、」と記載されているのを、「該単量体成分は、・・・(中略)・・・(メタ)アクリル系化合物を全単量体成分100質量部中、1~15質量部含み、」に訂正する(請求項2、4、5についても同様)。
(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1、2、4において、「制振材用樹脂」の「制振材用」との記載を、「塗布型制振塗料用」に訂正する(請求項5についても同様)。
また、特許請求の範囲の請求項4、5において、「制振材用組成物」と記載されているのを、「塗布型制振塗料」に訂正する。
(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1において、「該重合体は、(メタ)アクリル系重合体又はスチレン(メタ)アクリル系重合体である」との限定を付加する(請求項2、4、5についても同様)。
(4) 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項1において、「該重合体は、エマルションである」との記載を削除し(請求項2、4、5についても同様)、特許請求の範囲の請求項1、2、4において、「制振材用樹脂」の「樹脂」との記載を、「エマルション樹脂組成物」に訂正する(請求項5についても同様)。
(5) 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
(6) 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項4において、「請求項1~3のいずれか」と記載されているのを、「請求項1又は2」に訂正する(請求項5についても同様)。
(7) 訂正事項7
明細書の【発明の名称】において、「制振材用樹脂、制振材用組成物及び塗膜」と記載されているのを、「塗布型制振塗料用エマルション樹脂組成物、塗布型制振塗料及び塗膜」に訂正する。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正事項1
ア 訂正の目的の適否
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1において、(メタ)アクリル系化合物の含有量を限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである(請求項2、4、5についても同様)。
イ 新規事項の有無
訂正事項1は、本件訂正前の請求項3の記載、及び、明細書【0017】中の「上記重合体(A)は、上記単量体(1)を、全単量体100質量部に対して1~20質量部共重合してなることが好ましい。・・・(中略)・・・より好ましくは1~15質量部・・・(中略)・・・である。」との記載に基づいている。
したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1において、(メタ)アクリル系化合物の含有量を限定するものであり、当該請求項1に係る発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではない(請求項2、4、5についても同様)。
したがって、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
(2) 訂正事項2
ア 訂正の目的の適否
訂正事項2は、本件訂正前の請求項1、2、4において、「制振材用樹脂」の「制振材用」を「塗布型制振塗料用」と(請求項5についても同様)、また、本件訂正前の請求項4、5において、「制振材用組成物」を「塗布型制振塗料」とするものであるが、「塗布型制振塗料」は、「制振材」ないし「制振材用組成物」の形態の一つである。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の有無
訂正事項2は、明細書【0003】中の「成形加工品の代替材料として、塗布型制振材(塗料)が開発されており」との記載、及び、同【0085】以降の実施例で、塗布型制振塗料が実質的に開示されていることに基づいている。
したがって、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項2は、本件訂正前の請求項1、2、4において、「制振材用樹脂」の「制振材用」を「塗布型制振塗料用」に限定し(請求項5についても同様)、また、本件訂正前の請求項4、5において、「制振材用組成物」を「塗布型制振塗料」に限定するものであるから、これらの請求項に係る発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではない。
したがって、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
(3) 訂正事項3
ア 訂正の目的の適否
訂正事項3は、本件訂正前の請求項1において、「該重合体は、(メタ)アクリル系重合体又はスチレン(メタ)アクリル系重合体である」との限定を付加するものである(請求項2、4、5についても同様)。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の有無
訂正事項3は、明細書【0027】中の「・・・重合体(A)が、その単量体成分の少なくとも1種が(メタ)アクリル酸系単量体である(メタ)アクリル系重合体であることは、本発明の好適な実施形態の1つである。」との記載、同【0033】中の「・・重合体(A)が、スチレンを含む単量体成分から得られたスチレン(メタ)アクリル系重合体であることもまた、本発明の好適な実施形態の1つである。」との記載、及び、同【0085】以降の実施例で、(メタ)アクリル系重合体及びスチレン(メタ)アクリル系重合体が実質的に開示されていることに基づいている。
したがって、訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項3は、本件訂正前の請求項1において、「該重合体は、(メタ)アクリル系重合体又はスチレン(メタ)アクリル系重合体である」との限定を付加するものであるから(請求項2、4、5についても同様)、これらの請求項に係る発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではない。
したがって、訂正事項3は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
(4) 訂正事項4
ア 訂正の目的の適否
訂正事項4は、本件訂正前の請求項1において、「該重合体は、エマルションである」との記載を削除し(請求項2、4、5についても同様)、同請求項1、2、4において、「制振材用樹脂」の「樹脂」との記載を、「エマルション樹脂組成物」に訂正するものである(請求項5についても同様)。
ここで、エマルションとは、液体状の微粒子がこれと混合しない他の液体中に分散して乳状をなすものをいうから、本件訂正前の請求項1の「該重合体は、エマルションである」という記載は、それ自体意味の不明瞭な記載であるというべきである。
そして、本件訂正前の請求項1の「重合体を含有する」、「該重合体はエマルションである」との記載を斟酌して考えると、当該請求項1に係る制振材用樹脂の「樹脂」とは、本来、エマルションの形態の樹脂組成物、すなわち、エマルション樹脂組成物を意味するものであったと解するのが自然である。
そうすると、上記訂正事項4は、上記の不明瞭な記載を訂正し、その本来の意を明らかにするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 新規事項の有無
訂正事項4は、上記アのとおり、それ自体記載内容が明らかでない記載を正し、その本来の意を明らかにしたにすぎないから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項4は、上記アのとおり、それ自体記載内容が明らかでない記載を正し、その本来の意を明らかにしたにすぎないから、当該訂正事項4は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないと解するのが相当であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
(5) 訂正事項5
ア 訂正の目的の適否
訂正事項5は、請求項3を削除するものであるから、当該訂正事項5は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の有無
訂正事項5は、単に、請求項3を削除するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
イ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項5は、単に、請求項3を削除するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
(6) 訂正事項6
ア 訂正の目的の適否
訂正事項6は、請求項4で引用する請求項の一部を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の有無
訂正事項6は、単に、請求項4で引用する請求項の一部を削除するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項6は、単に、請求項4で引用する請求項の一部を削除するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
(7) 訂正事項7
ア 訂正の目的の適否
訂正事項7は、明細書の【発明の名称】において、「制振材用樹脂、制振材用組成物及び塗膜」と記載されているのを、「塗布型制振塗料用エマルション樹脂組成物、塗布型制振塗料及び塗膜」に訂正するものであり、当該訂正事項7は、特許請求の範囲の訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と整合させるために行う明細書の訂正であるから、特許法第126条第1項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 新規事項の有無
訂正事項7は、明細書【0003】中の「成形加工品の代替材料として、塗布型制振材(塗料)が開発されており」との記載、同【0016】中の「上記重合体(A)の形態としては、特に限定されないが、エマルションの形態であることが好ましい。」との記載、及び、同【0085】以降の実施例で、塗布型制振塗料やこれに用いるエマルション樹脂組成物が実質的に開示されていることに基づいている。
したがって、訂正事項7は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項7は、特許請求の範囲の訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と整合させるために行う明細書の訂正にすぎないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
3 本件訂正についてのまとめ
上記「2」のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、本件訂正後の請求項〔1~5〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記「第2」のとおり、本件訂正は認容し得るものであるから、本件特許の請求項1、2、4、5に係る発明(以下、各請求項に係る発明を項番号に合わせて「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」という。また、これらの発明に対応する特許を、「本件特許1」などといい、まとめて「本件特許」という。なお、請求項3は本件訂正により削除された。)は、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1、2、4、5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
単量体成分を重合してなる重合体を含有する塗布型制振塗料用エマルション樹脂組成物であって、
該単量体成分は、下記一般式(1):
H2C=C(R)COO-X-Y (1)
(式中、Rは水素原子又はメチル基を表し;Xは2価の有機基を表し;Yは-COOH又は-PO(OH)2を表す。)
で表される(メタ)アクリル系化合物を全単量体成分100質量部中、1~15質量部含み、
該重合体は、(メタ)アクリル系重合体又はスチレン(メタ)アクリル系重合体であることを特徴とする塗布型制振塗料用エマルション樹脂組成物。
【請求項2】
前記(メタ)アクリル系化合物は、一般式(1)中、Xは-R1-、-(R2-COO)m-R3-、-R4-OCO-R5-、又は、-(R6-O)n-R7-を表し;R1は炭素数2~10のアルキレン基を表し;R2、R3、R4、R5はそれぞれ独立して炭素数2~8のアルキレン基を表し;R6は炭素数2~6のアルキレン基を表し;R7は直接結合又は炭素数2~6のアルキレン基を表し;mは1~10の数を表し;nは1~10の数を表し;R2が複数個ある場合は同一でも異なっていてもよく、R6が複数個ある場合は同一でも異なっていてもよいものであることを特徴とする請求項1に記載の塗布型制振塗料用エマルション樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の塗布型制振塗料用エマルション樹脂組成物、顔料、発泡剤及び増粘剤を含有してなることを特徴とする塗布型制振塗料。
【請求項5】
請求項4に記載の塗布型制振塗料を塗布、乾燥して得られることを特徴とする塗膜。」
以降、請求項1、2に記載された一般式(1)で表される(メタ)アクリル系化合物を、単に「特定単量体」という。
第4 平成30年8月1日付け取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由の概要
標記取消理由通知(決定の予告)において、当審は次のとおり判断した。
本件訂正前の本件特許は、以下に示すとおり、特許法第113条第2号に該当するため、取り消すべきものである。
1 (新規性)本件訂正前の請求項1、2、4、5に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物(甲2あるいは甲3)に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するものであるから、本件訂正前の本件特許1、2、4、5は、特許法第29条の規定に違反してされたものである(特許法第113条第2号)。
2 (進歩性)本件訂正前の請求項1~5に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物(甲2あるいは甲3)に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件訂正前の本件特許1~5は、特許法第29条の規定に違反してされたものである(特許法第113条第2号)。
第5 取消理由1、2(新規性、進歩性)について
1 刊行物
特許異議申立人が刊行物として提出した、甲第2号証及び甲第3号証(以下、単に「甲2」及び「甲3」という。)は、次のものである。
・甲2:特開2008-133357号公報
・甲3:特開2009-114231公報
2 甲2発明及び甲3発明
(1) 甲2発明
甲2の特許請求の範囲の請求項1、7、8には、次の発明が記載されている。
・「【請求項1】
水性媒体と、該水性媒体中に分散する(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を有する粒子径が200~500nmのアクリル系重合体(A)粒子と、
該水性媒体中に分散する酸価が20~80であり、且つ、粒子径が200~500nmであるカルボキシル基含有共役ジエン系重合体(B)粒子とを必須構成成分として含有する
制振材用重合体水性分散液であって、
前記(A)粒子と前記(B)粒子との配合比率〔(A)/(B)〕(重量比)が40/60~90/10であることを特徴とする制振材用重合体水性分散液。」
・「【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の制振材用重合体水性分散液と無機充填剤を含有する制振材用塗料。」
・「【請求項8】
基材上に請求項7に記載の制振性塗料の制振性塗膜を形成して成る制振材。」
(以下、請求項1、7、8に係る発明をそれぞれ、「甲2の制振材用重合体水性分散液」、「甲2の制振材用塗料」、「甲2の制振材」といい、これらをまとめて、単に「甲2発明」ということがある。)。
(2) 甲3発明
甲3の特許請求の範囲の請求項2、4、5には、次の発明が記載されている。
・「(【請求項1】
単量体成分を乳化重合してなるエマルションを含む制振材用エマルション組成物であって、
該エマルションは、エマルション粒子中に硬化性モノマー及び/又はオリゴマーと重合開始剤とを含有するものであり、
該制振材用エマルション組成物は、水分含有量が40質量%以下の該エマルション粒子の水分散体である
ことを特徴とする制振材用エマルション組成物。)
【請求項2】
前記エマルションは、全単量体成分100質量%に対して、スチレンを35質量%以上含有するアクリル系エマルションである
ことを特徴とする請求項1に記載の制振材用エマルション組成物。」
・「【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の制振材用エマルション組成物、顔料、発泡剤、及び、増粘剤を必須成分とする制振材配合物であって、
固形分濃度が制振材配合物100質量%中、70~90質量%である
ことを特徴とする制振材配合物。」
・「【請求項5】
請求項4に記載の制振材配合物を加熱乾燥後の膜厚が3~6mmとなるように塗布して得られることを特徴とする制振材。」
(以下、請求項2、4、5に係る発明をそれぞれ、「甲3の制振材用エマルション組成物」、「甲3の制振材配合物」、「甲3の制振材」といい、これらをまとめて、単に「甲3発明」ということがある。)。
3 取消理由1、2(甲2発明に基づく、本件発明の新規性・進歩性)についての当審の判断
「甲2の制振材用重合体水性分散液」、「甲2の制振材用塗料」及び「甲2の制振材」は、それぞれ本件発明1、2の塗布型制振塗料用エマルション樹脂組成物、本件発明4の塗布型制振塗料及び本件発明5の塗膜に対応するものであるから、以下順に、それらを対比・検討していく。
(1) 本件発明1について
本件発明1と「甲2の制振材用重合体水性分散液」とを対比すると、両者は少なくとも次の点で相違するといえる。
・相違点1:前者は、単量体成分として、上記「特定単量体」を用い、かつ、当該「特定単量体」を全単量体成分100質量部中、1~15質量部含んでいるのに対して、後者は、その点の明示がない点。
そこで、当該相違点1について検討すると、甲2には、「甲2の制振材用重合体水性分散液」における「アクリル系重合体(A)」あるいは「カルボキシル基含有共役ジエン系重合体(B)」の単量体成分として、「β-カルボキシエチル(メタ)アクリレート」及び「2-(メタ)アクリロイルプロピオン酸」が挙げられている(【0016】、【0035】参照)。そして、これらは、本件発明1の「特定単量体」に該当するものである。
しかしながら、甲2に記載された上記「β-カルボキシエチル(メタ)アクリレート」及び「2-(メタ)アクリロイルプロピオン酸」は、アクリル酸やメタクリル酸などと同列か、むしろそれらよりも劣るものとして記載されたものである上(上記【0016】、【0035】を参照した。)、甲2の実施例において実際に具体例として使用されているものでもない。ましてや、甲2には、当該「β-カルボキシエチル(メタ)アクリレート」及び「2-(メタ)アクリロイルプロピオン酸」が全単量体成分100質量部中に占める割合を把握するに足りる記載はない。
そして、本件発明1は、当該相違点1に係る構成を具備することにより、得られた塗膜は、甲2の記載からは予測し得ない本件特許明細書記載の優れた特性、すなわち、本件特許明細書の【0017】に記載された優れた塗膜外観、並びに、同【0111】【表1】から看取できる優れた制振性、立体面加熱時の塗膜形成性及び屈曲性を発現するものと認められる(特に、【表1】に記載された比較例1、2は、単量体としてアクリル酸やメタクリル酸を用いたものであるが、実施例1~6の結果は、当該比較例1、2の結果よりも、制振性などの特性において優れていることなどから判断した。)。
そうすると、甲2には、確かに、「甲2の制振材用重合体水性分散液」を構成する重合体の単量体成分の具体例として、本件発明1の「特定単量体」に該当するものが列記されているものの、甲2の記載からは予測し得ない顕著な効果の発現に寄与する、上記相違点1に係る本件発明1の構成にまで想到することは、当業者であっても容易なこととは言い難い。
したがって、上記相違点1は実質的な相違点であるから、本件発明1は、甲2発明に対して新規性を有するものであるとともに、当該相違点1に係る本件発明1の構成は容易想到の事項とはいえないから、本件発明1は、甲2発明に対して進歩性を有するものである。
(2) 本件発明2、4、5について
本件発明2の塗布型制振塗料用エマルション樹脂組成物、及び、本件発明4の塗布型制振塗料は、いずれも本件発明1の発明特定事項をすべて具備するものであり、また、本件発明5の塗膜は、本件発明4の塗布型制振塗料の主要成分を保持するものであるから、これらの発明についても、甲2発明に対して新規性及び進歩性を有するものといえる。
(3) 小括
以上のとおり、本件発明は、甲2発明に対して新規性及び進歩性を有するものであるから、本件特許を、当該取消理由1、2(甲2発明に基づく、本件発明の新規性・進歩性)により取り消すことはできない。
4 取消理由1、2(甲3発明に基づく、本件発明の新規性・進歩性)についての当審の判断
「甲3の制振材用エマルション組成物」、「甲3の制振材配合物」及び「甲3の制振材」は、それぞれ本件発明1、2の塗布型制振塗料用エマルション樹脂組成物、本件発明4の塗布型制振塗料及び本件発明5の塗膜に対応するものであるから、以下順に、それらを対比・検討していく。
(1) 本件発明1について
本件発明1と「甲3の制振材用エマルション組成物」とを対比すると、両者は少なくとも次の点で相違するといえる。
・相違点2:前者は、単量体成分として、上記「特定単量体」を用い、かつ、当該「特定単量体」を全単量体成分100質量部中、1~15質量部含んでいるのに対して、後者は、その点の明示がない点。
そこで、当該相違点2について検討すると、甲3には、「甲3の制振材用エマルション組成物」における「アクリル系エマルション」の単量体成分として、「(メタ)アクリロキシエチルホスフェート」が挙げられている(【0032】参照)。そして、これは、本件発明1の「特定単量体」に該当するものである。
しかしながら、甲3に記載された上記「(メタ)アクリロキシエチルホスフェート」は、アクリル酸やメタクリル酸などと同列に記載されたものである上(上記【0032】を参照した。)、甲3の実施例において実際に具体例として使用されているものでもない。ましてや、甲3には、当該「(メタ)アクリロキシエチルホスフェート」が全単量体成分100質量部中に占める割合を把握するに足りる記載はない。
そして、本件発明1は、当該相違点2に係る構成を具備することにより、得られた塗膜は、甲3の記載からは予測し得ない本件特許明細書記載の優れた特性、すなわち、本件特許明細書の【0017】に記載された優れた塗膜外観、並びに、同【0111】【表1】から看取できる優れた制振性、立体面加熱時の塗膜形成性及び屈曲性を発現するものと認められる(特に、【表1】に記載された比較例1、2は、単量体としてアクリル酸やメタクリル酸を用いたものであるが、実施例1~6の結果は、当該比較例1、2の結果よりも、制振性などの特性において優れていることなどから判断した。)。
そうすると、甲3には、確かに、「甲3の制振材用エマルション組成物」を構成する重合体の単量体成分の具体例として、本件発明1の「特定単量体」に該当するものが列記されているものの、甲3の記載からは予測し得ない顕著な効果の発現に寄与する、上記相違点2に係る本件発明1の構成にまで想到することは、当業者であっても容易なこととは言い難い。
したがって、上記相違点2は実質的な相違点であるから、本件発明1は、甲3発明に対して新規性を有するものであるとともに、当該相違点2に係る本件発明1の構成は容易想到の事項とはいえないから、本件発明1は、甲3発明に対して進歩性を有するものである。
(2) 本件発明2、4、5について
本件発明2の塗布型制振塗料用エマルション樹脂組成物、及び、本件発明4の塗布型制振塗料は、いずれも本件発明1の発明特定事項をすべて具備するものであり、また、本件発明5の塗膜は、本件発明4の塗布型制振塗料の主要成分を保持するものであるから、これらの発明についても、甲3発明に対して新規性及び進歩性を有するものといえる。
(3) 小括
以上のとおり、本件発明は、甲3発明に対して進歩性を有するものであるから、本件特許を、当該取消理由1、2(甲3発明に基づく、本件発明の新規性・進歩性)により取り消すことはできない。
第6 上記取消理由通知(決定の予告)の取消理由以外の特許異議申立理由についての当審の判断
特許異議申立人は、特許異議申立書において、甲第1号証に記載された発明を主引用発明とし、これに上記甲2あるいは甲3に記載された技術的事項を組み合わせることにより、本件発明は容易想到である旨主張するので、この点について以下検討をする。
1 刊行物
特許異議申立人が提出した甲第1号証(以下、単に「甲1」という。)は、次のものである。
・甲1:特開2010-275546号公報
2 甲1発明
甲1の特許請求の範囲の請求項1には、次の発明が記載されている。
「【請求項1】
不飽和カルボン酸単量体及びその他の共重合可能な不飽和単量体を含む単量体成分を重合してなる制振材用エマルションであって、
該エマルションは、M(OH)n(式中、Mは、2価以上の金属元素を表す。nは、2以上の整数を表す。)で表される多価金属塩基によって中和されたカルボキシル基を有し、
該中和カルボキシル基を有する構成単位は、該エマルションを構成する重合体の全構成単位100モル%に対し、0.5~5モル%であることを特徴とする制振材用エマルション。」
以下、当該請求項1に係る発明の制振材用エマルションを、「甲1発明」という。
3 甲1発明に基づく、本件発明の進歩性についての当審の判断
(1) 本件発明1について
本件発明1と甲1発明とを対比すると、両者は、少なくとも次の点で相違する。
・相違点3:前者は、単量体成分として、上記「特定単量体」を用い、かつ、当該「特定単量体」を全単量体成分100質量部中、1~15質量部含んでいるのに対して、後者は、その点の明示がない点。
そこで、当該相違点3について検討すると、甲1には、甲1発明の「不飽和カルボン酸単量体」及び「その他の共重合可能な不飽和単量体」の具体例につき、次のような記載がある。
・「【0013】
上記不飽和カルボン酸単量体としては、分子中に不飽和結合とカルボキシル基とを有する化合物であれば特に限定されないが、制振性をより向上させるためには、エチレン系不飽和カルボン酸単量体を含むことが好適である。エチレン系不飽和カルボン酸単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、シトラコン酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、無水マレイン酸等の他、これらの塩等が好適であり、これらの1種又は2種以上を用いることができる。中でも、(メタ)アクリル酸又はその塩(以下、「(メタ)アクリル酸系単量体」とも称する。)が好適である。」
・「【0014】
上記その他の共重合可能な不飽和単量体としては、上記不飽和カルボン酸単量体と共重合可能なものであれば特に限定されないが、例えば、上記(メタ)アクリル酸系単量体以外の(メタ)アクリロイル基を有する不飽和単量体(以下、「(メタ)アクリル系単量体」ともいう。)、芳香環を有する不飽和単量体、窒素原子を有する不飽和単量体、ホモポリマー(単独重合体)のガラス転移温度が0℃以下の重合性単量体、官能基を有する不飽和単量体等が好ましく挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。中でも、少なくとも(メタ)アクリル系単量体を用いることが好ましい。」
しかしながら、本件発明1の上記「特定単量体」に関する記載は見当たらない。
そこで、当該相違点につき、特許異議申立人は、甲2の記載(【0016】、【0035】参照)や、甲3の記載(【0032】参照)に基づいて、本件発明1の「特定単量体」を適用することは、当業者にとって容易なことである旨主張するので、この点について検討する。
確かに、当該甲2及び甲3の記載は、本件発明1の上記「特定単量体」についても教示するものといえるが、当該記載は、「特定単量体」のほか、アクリル酸をはじめとする種々の単量体を列記するものであるから、そのような広範な単量体のうちの「特定単量体」のみを取り出して、甲1発明と組み合わせる動機付けとなる事実を、甲1~3の記載に見いだすことはできない。そして、本件発明1は、当該「特定単量体」を採用することにより、アクリル酸などの単量体を採用した場合と比較して、本件特許明細書記載の顕著な作用効果を奏するものである(例えば、実施例1と比較例1の結果を比較して判断した。)。さらにいうと、本件発明1は、当該相違点3に係る構成を具備することにより、得られた塗膜は、本件特許明細書記載の顕著な効果、すなわち、本件特許明細書の【0017】に記載された優れた塗膜外観、及び、同【0111】【表1】から看取できる優れた立体面加熱時の塗膜形成性を発現するものと認められる。
したがって、本件発明1は、甲1発明に対して進歩性を有するものであるといえる。
(2) 本件発明2、4、5について
本件発明2の塗布型制振塗料用エマルション樹脂組成物、及び、本件発明4の塗布型制振塗料は、いずれも本件発明1の発明特定事項をすべて具備するものであり、また、本件発明5の塗膜は、本件発明4の塗布型制振塗料の主要成分を保持するものであるから、これらの発明についても、甲1発明に対して進歩性を有するものといえる。
(3) 小括
以上のとおり、本件発明は、甲1発明に対して進歩性を有するものであるから、本件特許を、特許異議申立理由により取り消すことはできない。
第7 結び
以上のとおり、本件特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるともいえず、同法第113条第2号に該当するとは認められないから、上記取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことはできない。そして、ほかに本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、本件訂正により請求項3は削除されたため、当該請求項3に対する特許異議の申立てについては、対象が存在しないこととなった。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2017-701199