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特許異議申立

2017-701185

表面性状に優れたステンレス鋼とその製造方法

審判番号
2017-701185
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2013-211957外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2017年12月14日
審決日
2018年05月28日
公報発行日
2018年08月31日
結論
訂正認容
当事者
審判長/審判官
分類
P1651.537-YAA(C22C) / P1651.121-YAA(C22C) / P1651.536-YAA(C22C)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項第3号
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特許第6146908号発明「表面性状に優れたステンレス鋼とその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

【結 論】 特許第6146908号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕について訂正することを認める。 特許第6146908号の請求項1~6に係る特許を維持する。

理由

【理 由】 第1 手続の経緯 特許第6146908号の請求項1~6に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成25年10月9日に特許出願され、平成29年5月26日に特許権の設定登録がされ、同年6月14日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年12月14日に特許異議申立人 鈴木正法により特許異議の申立てがなされ、当審において平成30年2月1日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年3月15日に意見書の提出及び訂正の請求があり、この訂正の請求に対して特許異議申立人に意見を求めたところ、意見書の提出はなされなかったものである。 第2 訂正の適否についての判断 1 訂正の内容 平成30年3月15日付け訂正請求書による訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)における訂正の内容は、以下の訂正事項1~3のとおりである。 (1) 訂正事項1 請求項1の「該ステンレス鋼中に含まれる非金属介在物」の前に、「鋳込み開始直後のタンディッシュから採取した溶湯を凝固させた」を追加する(請求項1を引用する請求項2~6も同様に訂正する。)。 (2) 訂正事項2 明細書の【0016】の「該ステンレス鋼中に含まれる非金属介在物」の前に、「、鋳込み開始直後のタンディッシュから採取した溶湯を凝固させた」を追加する。 (3) 訂正事項3 明細書の【0050】の「サイズ5μm以上の介在物」の前に「任意の1cm2あたりの」を追加する。 2 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1) 訂正事項1について 訂正事項1による訂正は、平成30年2月1日付け取消理由において、訂正前の請求項1に係る発明について、「MgO、MgO・Al2O3、CaO-SiO2-MgO-Al2O3系酸化物の1種または2種以上を含」む「非金属介在物」を含む「ステンレス鋼」が、どの製造段階にあるものかが不明確であるとされたため、当該「ステンレス鋼」が、「鋳込み開始直後のタンディッシュから採取した溶湯を凝固させた」ものであることを特定することにより、どの製造段階にあるものかを明確にするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 また、願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)の【0050】には、「2)非金属介在物組成:鋳込み開始直後、タンディッシュにて採取したサンプルを鏡面研磨し、SEM-EDSを用いて、サイズ5μm以上の介在物を20点ランダムに測定した。」と記載されており、ここで、上記「タンディッシュにて採取したサンプル」は、タンディッシュから採取した溶湯を凝固させたものであることは技術常識であるから、本件明細書には、非金属介在物を測定する際の「ステンレス鋼」が、「鋳込み開始直後のタンディッシュから採取した溶湯を凝固させた」ものであることが記載されているといえる。 したがって、訂正事項1による訂正は、新規事項の追加に該当しない。 そして、以上のとおり、訂正事項1による訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、かつ、新規事項の追加に該当しないものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (2) 訂正事項2について 訂正事項2による訂正は、訂正事項1による訂正によって生じる特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明との記載の不一致を解消して、記載の整合を図るものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (3) 訂正事項3について 訂正事項3による訂正は、訂正前の明細書の【0050】において、「サイズ5μm以上の介在物」を測定する際に、金属組織中のどの箇所及びどの領域で測定するのか明確でなかったため、「任意の1cm2あたりの」との事項を特定することで、測定箇所については「任意」であり、測定領域については「1cm2あたり」であることを明確にするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 また、本件明細書の【0016】には、「非金属介在物のうち長さ5μm以上の物が任意の1cm2あたり100個以下であり」と記載されているから、本件明細書には、「サイズ5μm以上の介在物」を測定する際に、「任意の1cm2あたり」の箇所及び領域において測定することが記載されているといえる。 したがって、訂正事項3による訂正は、新規事項の追加に該当しない。 そして、以上のとおり、訂正事項3による訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、かつ、新規事項の追加に該当しないものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (4) 一群の請求項について 訂正事項1に係る訂正前の請求項2~6は、それぞれ請求項1を引用するものであるから、訂正前の請求項1~6は、一群の請求項である。 また、訂正事項2、3は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、これらは一群の請求項1~6に関係する訂正である。 (5) なお、本件においては、全ての請求項について特許異議の申立てがされているので、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならないとの、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。 3 小括 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第4項~第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1~6〕について訂正を認める。 第3 本件発明 本件訂正請求により訂正された請求項1~6に係る発明(以下、「本件発明1~6」といい、これらをまとめて「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 C:0.1%以下、Si:0.2~1%、Mn:0.2~2%、S:0.005%以下、Ni:3~15%、Cr:13~20%、Al:0.005%未満、Mg:0.0001~0.01%、Ca:0.0001~0.01%、O:0.0005~0.01%、残部がFeおよび不可避的不純物からなるステンレス鋼において、 鋳込み開始直後のタンディッシュから採取した溶湯を凝固させた該ステンレス鋼中に含まれる非金属介在物が、MgO、MgO・Al2O3、CaO-SiO2-MgO-Al2O3系酸化物の1種または2種以上を含み、 前記非金属介在物のうち長さ5μm以上の物が任意の1cm2あたり100個以下であり、 前記非金属介在物のうちMgO・Al2O3が個数比率で50%以下であることを特徴とするステンレス鋼。 【請求項2】 前記非金属介在物のうちMgO・Al2O3が個数比率で20%以下であることを特徴とする請求項1に記載のステンレス鋼。 【請求項3】 前記非金属介在物のうちMgO・Al2O3が個数比率で0%であることを特徴とする請求項1に記載のステンレス鋼。 【請求項4】 前記非金属介在物のうち、MgO・Al2O3はMgO:10~40%、Al2O3:60~90%であり、CaO-SiO2-Al2O3-MgO系酸化物は、CaO:20~60%、SiO2:10~40%、Al2O3:30%以下、MgO:5~50%であることを特徴とする請求項1または2に記載のステンレス鋼。 【請求項5】 さらに、Mo:5%以下、Cu:1~5%、Nb:0.05~1%、N:0.01~0.05%、B:0.01%以下の1種または2種以上を含むことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載のステンレス鋼。 【請求項6】 請求項1~5のいずれか1項に記載のステンレス鋼の製造方法であって、原料を溶解し、Ni:3~15%、Cr:13~20%を含有するステンレス溶鋼を溶製し、次いで、AODおよび/またはVODにおいて脱炭した後に、石灰、蛍石、フェロシリコン合金を投入しCaO/SiO2比:2~5未満、MgO:3~15%、Al2O3:5%未満からなるCaO-SiO2-MgO-Al2O3-F系スラグを用い、C:0.1%以下、Si:0.2~1%、Mn:0.2~2%、S:0.005%以下、Ni:3~15%、Cr:13~20%、Al:0.005%未満、Mg:0.0001~0.01%、Ca:0.0001~0.01%、O:0.0005~0.01%、残部がFeおよび不可避的不純物からなるステンレス溶鋼に調整することを特徴とするステンレス鋼の製造方法。」 第4 申立理由の概要 特許異議申立人は、証拠として甲第1号証~甲第5号証を提出し、以下の理由により、請求項1~6に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。 1-1 申立理由1-1 本件発明1~5は、甲第1号証に記載された発明及び周知技術(甲第2号証~甲第4号証)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~5に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。 1-2 申立理由1-2 本件発明6は、甲第3号証に記載された発明及び周知技術(甲第2号証、甲第5号証)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。 2 申立理由2 請求項1~5に係る特許は、その特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 3 申立理由3 本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明1~6の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、請求項1~6に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 [証拠方法] 甲第1号証:鉄と鋼、社団法人日本鉄鋼協会、Vol.93、2007、No.3、p.8-14 甲第2号証:特開2012-201945号公報 甲第3号証:特開2005-274408号公報 甲第4号証:特開2007-284768号公報 甲第5号証:特開2001-26811号公報 第5 取消理由の概要 請求項1~6に係る特許に対して平成30年2月1日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 1 取消理由1(前記申立理由2を採用。) 本件特許の請求項1~5に係る発明は、明確でない。その理由は、特許異議申立書の18頁4~11行に記載のとおりである。 よって、請求項1~5に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消されるべきものである。 第6 甲号証の記載事項 1 本件特許に係る出願日前に頒布された甲第1号証には、「SUS304ステンレス鋼スラブ中のスピネルを含む介在物の生成機構」(標題)に関して、以下の事項が記載されている(なお、下線は当合議体が付加したものであり、「・・・」は記載の省略を表す。以下、同様である。)。 (1a) 「供試材としてAl濃度の異なる3種類のSUS304鋼スラブを用いた。Table2にそれらの化学組成を示す。なお,これら3種類のスラブは,すべて実機で製造されたものであり,Fe-Siを用いて脱酸を行っている。 Fig.1に,サンプルの切り出し位置を示す。定常部スラブの幅中央において,スラブ表層から0.025m深部から直径100mmの円盤形サンプルを切り出して,表面を鏡面研磨した。その後,サンプル表面に現れた粒径5~50μmの介在物を実体顕微鏡およびSEMによって観察した。各サンプルにおいて,40~60個の介在物を観察した。」(9頁右欄12~21行) (1b) 「 」(9頁右欄) (1c) 「 」(9頁右欄) (1d) 「3.2 SUS304鋼スラブ中の介在物調査結果 Fig.4にスラブ中に観察された典型的な介在物のSEM写真を示す。(a)は下も多く観察された介在物である。形状は球形であり,全体的にほぼ均質な組成で,主成分はCaO,SiO2,Al2O3,MgOであり,MgO=10%程度であった。(b)はMgOとAl2O3がモル比でほぼ1対1の組成であったため,MgO・Al2O3スピネルと判断される。(c)はスラグ型の内部にスピネルが含まれているタイプの介在物であった。」(10頁右欄下から4行~11頁左欄4行) (1e) 「 」(10頁右欄) (1f) 「Fig.6にスラブ2に観察された介在物の組成を示す。・・・スラブ2には,スラグ型とスラグ+スピネル型介在物が観察されたが,単体のスピネル介在物は認められなかった。」(11頁左欄20~25行) (1g)  「 」(11頁右欄) (1h)  「SUS304ステンレス鋼中のスピネル(MgO・Al2O3)介在物の生成抑制を目的として,その生成機構を基礎実験と,Al濃度の異なる3種類のSUS304ステンレス鋼実機スラブの介在物調査から検討した。得られた主要な結果を以下にまとめた。 ・・・ (2) SUS304ステンレス鋼スラブ中の直径5μm以上の介在物は,(a)スラグ型(CaO-SiO2-Al2O3-MgO系),(b)スピネル,(c)スラグ+スピネル型 の3種類に大別された。」(14頁右欄2~12行) 2 本件特許に係る出願日前に頒布された甲第2号証には、「表面光沢性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。 (2a) 「【技術分野】 【0001】 本発明は表面欠陥を低減した光沢性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼に関するものである。」 (2b) 「【発明が解決しようとする課題】【0005】 本発明は以上のような問題を解消すべく案出されたものであり、微細なカキ庇、シミ状欠陥を防止するために非金属介在物である酸化物の組成さらには硫化物の大きさを制御することにより光沢性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼を提供することを目的とする。」 (2c) 「【発明の効果】 【0007】 本発明成分のオーステナイト系ステンレス鋼はカキ疵が防止できる酸化物系非金属組成に制御でき、かつシミ状欠陥が発生しない小さな硫化物の大きさに制御できるため極めて表面光沢性のよい鋼板を得ることが可能となる。」 (2d) 「【実施例】 【0013】 表1に示した14チャージの各組成のオーステナイト系ステンレス鋼80トンを電気炉→転炉→真空脱ガス(VOD)精錬→CC工程を経てスラブとして溶製した。なお、VODにおける還元精錬ではチャージに応じて使用するスラグの塩基度CaO/SiO2を1.0~2.5まで変化させるとともに脱酸剤として使用するMn、Si、Al濃度を変化させた。 【0014】 【表1】 」 3 本件特許に係る出願日前に頒布された甲第3号証には、「鋼スラブ段階での最大非金属介在物の大きさを特定する方法、および鋼スラブ中の最大非金属介在物の大きさが特定された鋼板」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。 (3a) 「【背景技術】 【0002】 近年、鋼板に対して表面品質や内部品質の高いものが求められている。例えば、注射針として用いられるステンレス鋼板は、0.3mm程度にまで冷間圧延されて製品となり、また、ハードディスク用のサスペンションや、ガンパーツ等の電子材料として用いられるステンレス鋼板は、打ち抜き加工やエッチング加工等を経て製品になる。しかし、これらの加工段階において、前記鋼板中にもし大きな非金属介在物など含まれていると、圧延の際に鋼板表面に疵が発生したり、また、加工の作業性を悪化させるという問題点があった。このため、従来、鋼スラブの成分組成を調整するなどして、非金属介在物の含有量そのものを少なくしたり、そのうちの大型のものの含有量を少なくするなどして、上記問題に対処してきた。」 (3b) 「【0013】 本発明において、上記鋼板、例えば、ステンレス鋼板の組成は、該鋼板に含有される非金属介在物が、MnO:1~45wt%、CaO:1~45wt%、SiO2:10~60wt%、Al2O3:5~50wt%、MgO:0.5~30wt%、Cr2O3:0.2~10wt%、FeO:0.2~10wt%であること、該介在物がMgO・Al2O3介在物を非金属介在物全体の50体積%以下含むこと、ステンレス鋼板の金属成分が、Cr:5~30wt%、Ni:30wt%以下、Si:0.1~3wt%、Mn:0.3~3wt%、Al:0.0001~0.01wt%、Ca:0.00001~0.002wt%、Mg:0.00001~0.002wt%、O:0.001~0.007wt%、残部はFe及び不可避的不純物からなることが特徴である。」 (3c) 「【0028】 本発明において用いる鋼板としては、ステンレス鋼板が好適である。そのステンレス鋼の代表的な製造方法を以下に詳細に説明するが、本発明は以下の例示の方法のみに限定されるものではない。 まず、電気炉において原料を溶解し、その後、AODおよび/またはVODにおいて、酸素を吹精し、脱炭する。その原料としては、鉄屑、ステンレス屑、FeCr、FeNi等を使用する。その後、スラグ中に移行したCrを、FeSiおよび/または金属Siにより還元し、さらに脱酸、脱硫を行う。このとき、石灰石、螢石のいずれかまたは一方を投入することにより、生成したシリカとともに、CaO-SiO2系のスラグとする。AODあるいはVODの耐火物には、マグネシア含有れんが(マグクロ、ドロマイト、マグネシアカーボン)を用いるため、スラグは、CaO-SiO2-MgO系のものとなる。耐火物保護の目的で、MgO含有耐火物屑を添加してもよい。以下に、本発明で用いる上記ステンレス鋼板の成分組成について説明する。 【0029】 Cr:5~30wt% Crは、耐食性を保つため、かつ必要な不動態皮膜をステンレス鋼板の表面に形成するために必要不可欠な元素である。Crの存在により、耐酸性、耐孔食性、対隙間腐食性ならびに対応力腐食割れ性が改善される。したがって、母材の構成成分としては、最も重要な元素である。なお、Crの含有量が5wt%未満だと、耐食性が十分ではなくなる。一方、Crの含有量が30wt%超だと、シグマ相を生成しステンレス鋼板の脆化を招く。このような理由から、Cr含有量は、5~30wt%が好適である。好ましくは、6~28wt%であり、より好ましくは、6~25wt%である。 【0030】 Ni:30wt%以下 Niは、塩化物を含む溶液環境にて、耐孔食性、耐隙間腐食性、耐応力割れ性を改善するとともに、組織をオーステナイトにする効果を持つ。本発明は、オーステナイト系ステンレス鋼、フェライト系ステンレス鋼ともに効果を発揮するため、Ni含有量は30%以下と規定した。なお、好ましくは28wt%以下、より好ましくは25wt%である。 【0031】 Si:0.1~3wt% Siは、耐酸性ならびに耐孔食性に有効に作用するばかりか、脱酸にも有効な元素である。さらに、介在物組成を、MnO-CaO-SiO2-Al2O3-MgO-Cr2O3-FeO系非金属介在物に制御する働きがある。Siの含有量が0.1wt%未満だと、脱酸が不十分となり、非金属介在物量が多くなる。この非金属介在物が増えることで、大型介在物の発生頻度も高くなり、これら大型介在物が表面欠陥をもたらし、ステンレス鋼板に要求される品質を満足できなくなる。一方、Siの含有量が3wt%超だと、Fe、Cr、Moから構成されるシグマ相の生成を促し、ステンレス鋼板を脆化させてしまううえに、ステンレス鋼板の溶接性を低下させる。さらには、非金属介在物が、MgO・Al2O3スピネルあるいはMgO主体となり、クラスター化しやすくなり、表面欠陥を引き起こす。 そこで、本発明では、Siの含有量を0.1~3wt%と定めた。この範囲内で好ましくは、0.2~2.5wt%である。より好ましくは、0.3~2.3wt%である。 また、Si源としては、金属Si合金および/またはFeSi合金を用いるのが好ましい。 【0032】 Mn:0.3~3wt% Mnは、脱酸に有効な元素であるとともに、介在物組成をMnO-CaO-SiO2-Al2O3-MgO-Cr2O3-FeO系非金属介在物に制御する働きがある。しかし、Mnの過剰量(3wt%超)の添加は、シグマ相の生成を促進しステンレス鋼板を脆化させる。そこで、本発明では、Mnの含有量を0.3~3wt%と定めた。この範囲内で好ましくは0.4~2.8wt%である。Mn源としては、金属Mnおよび/またはSiMnが好ましい。 【0033】 Al:0.0001~0.01wt% Alは、介在物組成をMnO-CaO-SiO2-Al2O3-MgO-Cr2O3-FeO系非金属介在物に制御する働きがある。しかし、Alの過剰量(0.01wt%超)の添加は、アルミナ介在物を生成し、生成したアルミナ介在物は、クラスター化しやすいため、表面疵の原因ともなる。そこで、本発明では、Alの含有量を0.0001~0.01wt%と定めた。この範囲で好ましくは0.0005~0.008wt%である。 Al含有量を上記範囲に制御するためには、金属Alを用いるか、あるいは、Alを0.1~2wt%含むFeSi合金を用いることが好ましい。 【0034】 Ca:0.00001~0.002wt% Caは、非金属介在物をMnO-CaO-SiO2-Al2O3-MgO-Cr2O3-FeO系非金属介在物に制御する働きがある。しかし、Caの含有量が0.002wt%超だと、介在物中のCaO濃度を上昇させ、耐食性あるいはエッチング加工性に悪影響を与える。このような観点から、Caの含有量は、0.00001~0.002wt%と規定した。より好ましくは、0.00005~0.0015wt%である。Caをこの濃度範囲に制御するために、Caを0.1~2wt%含むFeSi合金を用いることが好ましい。 【0035】 Mg:0.00001~0.002wt% Mgは、非金属介在物をMnO-CaO-SiO2-Al2O3-MgO-Cr2O3-FeO系非金属介在物に制御する働きがある。しかし、Mgの含有量は、0.002wt%超だと、非金属介在物が硬質のMgO・Al2O3スピネルあるいはMgO主体となるために、表面疵を引き起こしたり、エッチング時に孔形状不良を起こしたりする。このような観点から、Mgの含有量は、0.00001~0.002wt%と規定した。この範囲で好ましくは、0.00005~0.0015wt%である。Mg濃度を上記の範囲に制御すために、金属Mgの添加は好ましくない。そこで、下記の反応を用いることが最も好ましい。 2Al+3(MgO)=(Al2O3)+3Mg…Alがスラグ中MgOを還元する反応 ( )…スラグ中の成分、    …溶鋼中の成分 すなわち、金属Alを用いるか、あるいは、Alを0.1~2wt%含むFeSi合金を投入して、溶鋼中の溶存Alを、0.0001~0.01wt%に制御する。このAlが、スラグ中のMgOを還元することで、適量のMgを溶鋼中に供給することができる。 【0036】 O:0.001~0.007wt% ステンレス鋼板のOには、溶存酸素(固溶酸素)と非金属介在物として酸化物として含有される酸素とがある。この両者の和を全酸素濃度とし、ここでは全酸素濃度(以下、「O濃度」という。)を規定する。O濃度が0.001wt%よりも低いと、溶鋼中のMg濃度が0.002wt%を超えて高くなり、ステンレス鋼板中の非金属介在物は、硬質のMgO・Al2O3スピネルあるいはMgO主体となるため、表面疵を引き起こしたり、エッチング時に酸しみを引き起こしたりする。一方、O濃度が0.007wt%超だと、脱酸不足となり、非金属介在物量が多くなる。非金属介在物が増えることで大型介在物の発生頻度も高くなり、その大型介在物が表面欠陥をもたらし、ステンレス鋼板に要求される品質を満足できなくなる。そこで、本発明では、Oの含有量を0.001~0.007wt%と定めた。より好ましくは、0.001~0.005wt%である。 【0037】 酸素濃度を上記の範囲に制御するためには、脱酸に寄与するSiならびにMn濃度を、上記に示した本発明で規定する範囲に制御することが必要である。好ましくは、スラグの塩基度(CaO/SiO2:スラグ中のCaOとSiO2の重量%比)を1.5~4に制御する。 特に限定はしないが、用途に応じて、この他に、Mo、Cuのいずれか一方または両方を、10wt%以下含んでいても構わない。Moは、耐食性をさらに向上するために有効であり、Cuは、深絞り特性を向上させるのに有効である。また、耐食性が要求される用途には、Nが0.3wt%以下含まれていても構わない。 【0038】 次に、本発明において、ステンレス鋼板に含有される非金属介在物は、基本的にその成分は、MnO:1~45wt%、CaO:1~45wt%、SiO2:10~60wt%、Al2O3:5~50wt%、MgO:0.5~30wt%、Cr2O3:0.2~10%、FeO:0.2~10wt%を有するMnO-CaO-SiO2-Al2O3-MgO-Cr2O3-FeO系非金属介在物からなっている。その理由は、熱間圧延、及び冷間圧延時に延伸、分断により、微細化がなされるようにするためと、溶鋼中で大型化しないようにするためである。さらに、MgO・Al2O3介在物を、ステンレス鋼板に含まれる非金属介在物全体の50体積%以下含んでも構わない。 以下、上述した非金属介在物の組成を限定した根拠を説明する。」 (3d) 「【0046】 MgO・Al2O3介在物は、非金属介在物に対して50体積%以下であることが好ましい。その理由は、上記した組成の非金属介在物の他に、MgO・Al2O3介在物を、ステンレス鋼板に含まれる非金属介在物全体の50体積%以下含んでいても、MgO・Al2O3介在物がクラスター化して大型化することがなく、そのため、ステンレス鋼板の表面欠陥を引き起こさないからである。・・・」 (3e) 「【0047】 以下に、実施例を示し、本発明の効果をより明確なものとする。 (ステンレス鋼板の製造) 表1に示す金属組成を有するステンレス鋼板を、以下のようにして製造した。 まず、鉄屑、ステンレス屑、FeCr、FeNi等などからなる原料60tonを、電気炉で溶解しながら、所定のFe-Cr-Ni系あるいはFe-Cr系ステンレス溶鋼の組成に調整した。その後、AOD処理、VOD処理、またはAOD→VOD処理の3通りのいずれかの処理より脱炭を行い、次いで、AODあるいはVODにおいて、FeSi合金等のSi合金鉄を添加して、スラグ中に移行したCrを溶鋼中に還元する処理を行った。このとき、石灰石および/または螢石をフラックスとして添加し、所定の塩基度(CaO/SiO2:スラグ中のCaOとSiO2の重量%比)に調整したが、一部のチャージでは、耐火物保護の目的で、MgO含有耐火物屑をフラックスとともに添加した。 次に、微量成分調整及び温度調整を行った後、普通造塊法により鋳造するか、または連続鋳造法により鋳造した。その後、連鋳スラブについては直接に、また普通造塊スラブについては、鍛造工程を経た後、熱間圧延を施して3.0~10.0mm厚のステンレス鋼の熱延板を得た。これらの熱延板のうち、いくつかは、さらに冷間圧延を施すことにより0.5~1.0mm厚まで圧延した。 【0048】 (調査および評価) 発明例1~7、及び比較例1~6のステンレス鋼板につき、以下の調査を行った。 ・・・ 【0057】 (結果) 上記B~Eの分析を行ったステンレス鋼スラブの成分組成(wt%)およびその合金の不可避不純物である非金属介在物の平均組成(wt%)を、表2にまとめた。そして、表2のステンレス鋼スラブについて行った上記分析結果を、表3にまとめた。 【0058】 【表2】 【0059】 【表3】 【0060】 表3の発明例1~7に示すように、√areamaxが300μm以下で、かつ非金属介在物が、MnO-SiO2-Al2O3-CaO-MgO-FeO系で、MnO:1~45wt%、CaO:1~45wt%、SiO2:10~60wt%、Al2O3:5~50wt%、MgO:0.5~30wt%、Cr2O3:0.2~10wt%、FeO:0.2~10wt%の組成を有していて、かつスピネル介在物の割合が非金属介在物全体に対して50体積%以下のステンレス鋼板の場合には、製品厚(0.01~0.5mm)まで圧延しても表面欠陥の発生は確認されなかった。」 4 本件特許に係る出願日前に頒布された甲第4号証には、「オーステナイト系ステンレス鋼」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。 (4a) 「【請求項1】 C :0.020wt%以下、 Si:0.50wt%以下、 Mn:0.30~2.00wt%、 P :0.050wt%以下、 S :0.005wt%以下、 Ni:8.0~12.0wt%、 Cr:16.0~20.0wt%、 Cu:2.0~5.0wt%、 B :0.0030~0.0250wt%、 O :0.020wt%以下、 N :0.040wt%以下を含有し、残部が実質的にFeおよび不可避的不純物よりなることを特徴とするオーステナイト系ステンレス鋼。 【請求項2】 Mo:0.1~2.5wt%、および、 W :0.1~2.5wt%、 から選択される1種または2種以上をさらに含有することを特徴とする請求項1に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。 【請求項3】 Ca:0.0010~0.0100wt%、 Mg:0.0010~0.0100wt%、 Al:0.005wt%以下、 Ti:0.50wt%以下、 Nb:0.50wt%以下、 V :0.50wt%以下、および、 Zr:0.50wt%以下、 から選択される1種または2種以上をさらに含有することを特徴とする請求項1または2に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。」 (4b) 「【0012】 すなわち、とりわけ、Bを比較的多く含有させることにより、精錬時における脱窒反応(BNの生成)によって鋼材中に含まれるNを低下させることが可能になることに加え、さらに、鋼材中に含まれている固溶NをBNとして固定しておけば、冷間加工性も害されないことが分かった。また、これにより熱間加工性もそれほど低下しないことも分かった。」 (4c) 「【0034】 (8)Cu:2.0~5.0wt%。 Cuは、加工硬化を生じ難くし、冷間加工性を向上させる元素である。その効果を得るため、Cu含有量は、2.0wt%以上とする。好ましくは、2.5wt%以上、より好ましくは、3.0wt%以上とすると良い。」 (4d) 「【0042】 (11)N:0.040wt%以下。 Nは、固溶強化元素であり、C、Siと同様に、鋼の強度向上に寄与する。しかし、N含有量が多くなると、加工硬化が生じやすくなり、冷間加工性が低下する傾向が見られる。また、他の元素と結びついて生成した窒化物が破壊起点となって冷間加工時に割れなどが生じやすくなり、これによっても冷間加工性が低下する傾向が見られる。」 (4e) 「【0064】 (18)Nb:0.50wt%以下。 Nbは、Tiと同様に、固溶強化元素であり、鋼の強度向上に寄与する。しかし、Nb含有量が多くなると、冷間加工時の変形抵抗が大きくなるなど、冷間加工性が低下する傾向が見られる。」 (4f) 「【0088】 【表1】 」 5 本件特許に係る出願日前に頒布された甲第5号証には、「ステンレス鋼の精錬に用いるSi合金鉄およびステンレス鋼の精錬方法」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。 (5a) 「【0031】すなわち、表1に示した工程に従って、表4に示すSi合金鉄をスラグのCr2 O3 の還元剤および溶鋼の脱酸剤に用いて、Cr2 O3 還元後のスラグの調整は、Cr2 O3 還元後にスラグの組成分析を行い、目的のスラグ組成になるように、CaO、CaF2 などのフラックスを投入して行った。表4において、No.4-1~4-6までは比較例、No. 4-7~4-12は発明例を示す。No. 4-1、4-5、4-9、4-12はSi合金中のCa不足をCa合金の添加で補った例であり、Si合金鉄中のCa濃度に換算して表記してある。 【0032】また、表2に示した工程に従って、表5に示すSi合金鉄をスラグのCr2 O3 の還元剤および溶鋼の脱酸剤に用いて、Cr2 O3 還元後のスラグの調整は、Cr2 O3 還元後にスラグの組成分析を行い、除滓をした後の残滓に、目的のスラグ組成になるようにCaO、CaF2 などのフラックスを投入して行った。表5において、No. 5-1~5-6までは比較例、No. 5-7~5-12は発明例を示す。No. 5-1、5-5、5-9、5-12はSi合金鉄中のCa不足をCa合金の添加で補った例であり、Si合金鉄中のCa濃度に換算して表記してある。 【0033】さらに、表3に示した工程に従って、表6に示すSi合金鉄をスラグのCr2O3 の還元剤および溶鋼の脱酸剤に用いて、Cr2 O3 還元後のスラグの調整は、Cr2 O3 還元後にスラグの組成分析を行い、目的のスラグ組成になるように、CaO、CaF2 などのフラックスを投入して行った。表6において、No. 6-1~6-6までは比較例、No. 6-7~6-12は発明例を示す。No. 6-1、6-5、6-9、6-12はSi合金中のCa不足をCa合金の添加で補った例であり、Si合金鉄中のCa濃度に換算して表記してある。 【0034】 【表4】 【0035】 【表5】 【0036】 【表6】 」 第7 当審の判断 1 取消理由通知に記載した取消理由について (1) 取消理由1の概要 取消理由1において引用した、特許異議申立書の18頁4~11行の概要は以下のとおりである。 ステンレス鋼中の非金属介在物は工程が進むにつれ分断され、小サイズ化するのが通常であり、また、非金属介在物の存在密度は材料のどの断面を観察するかによって大きく変動するものであるところ、本件発明1~5は、どの製造段階のステンレス鋼を特定しているのか、また、非金属介在物の個数密度はどのように採取し、どの断面の観察により特定されるのか不明確である。 (2) 判断 本件訂正請求による訂正によって、本件発明1~5の「ステンレス鋼」は、「鋳込み開始直後のタンディッシュから採取した溶湯を凝固させた」ものであることが特定されたから、どの製造段階にあるものか明確となった。 そして、ステンレス鋼中の非金属介在物の個数密度はどのように採取し、どの断面の観察により特定されるのかという点については、本件発明1には「任意の1cm2あたり」と特定されており、また、本件発明1~5の「ステンレス鋼」は、「鋳込み開始直後のタンディッシュから採取した溶湯を凝固させた」ものであるから、何ら加工がされていないため、非金属介在物は、当該「ステンレス鋼」中に均一に分布しており、どの断面を観察しても、その個数密度は一義的に決まるものと認められる。 したがって、本件発明1~5は明確であり、取消理由1は解消している。 2 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について (1) 申立理由1-1について ア 甲第1号証に記載された発明 (ア) 甲第1号証の前記(1b)のTable2におけるNo.Slab2(以下、「スラブ2」ともいう。)は、同(1a)の記載によればSUS304鋼スラブであるところ、このSUS304鋼スラブは、Table2に記載された化学組成(C:0.06mass%、Si:0.6mass%、Mn:1.0mass%、Ni8.0mass%、Cr:18.2mass%、Al:0.0008mass%、Mg:0.0003mass%、Ca:0.0004mass%、O:0.0031mass%)を含むものであり、残部が鉄及び不可避不純物からなるものであることは技術常識である。 (イ) 甲第1号証の前記(1a)、(1d)、(1e)、(1h)の記載によれば、SUS304ステンレス鋼スラブ中の直径5μm以上の介在物は、定常部スラブの幅中央において、スラブ表層から0.025m深部から直径100mmの円盤形サンプルを切り出し、その表面を鏡面研磨したサンプル表面の介在物であって、(a)スラグ型(CaO-SiO2-Al2O3-MgO系)、(b)スピネル(MgO・Al2O3)、(c)スラグ+スピネル型の3種類に大別されるところ、同(1f)には、スラブ2には、スラグ型とスラグ+スピネル型介在物が観察されたが、単体のスピネル介在物は認められなかったことが記載されているから、スラブ2のSUS304ステンレス鋼スラブ中の介在物には、スラグ型(CaO-SiO2-Al2O3-MgO系)介在物及びスラグ+スピネル型介在物が含まれており、スピネル介在物は含まれていないといえる。 (ウ) 前記(ア)及び(イ)で検討したNo.Slab2のSUS304ステンレス鋼スラブについて、本件発明1の記載ぶりに即して整理すると、甲第1号証には、以下の発明が記載されていると認められる。 「C:0.06mass%、Si:0.6mass%、Mn:1.0mass%、Ni8.0mass%、Cr:18.2mass%、Al:0.0008mass%、Mg:0.0003mass%、Ca:0.0004mass%、O:0.0031mass%を含み、残部がFe及び不可避不純物からなるSUS304ステンレス鋼スラブにおいて、 前記SUS304ステンレス鋼スラブの幅中央において、スラブ表層から0.025m深部から直径100mmの円盤形サンプルを切り出し、その表面を鏡面研磨したサンプル表面の介在物が、スラグ型(CaO-SiO2-Al2O3-MgO系)介在物及びスラグ+スピネル型介在物を含み、 前記SUS304ステンレス鋼スラブ中に含まれる介在物にスピネル(MgO・Al2O3)介在物は含まれていない、SUS304ステンレス鋼スラブ。」(以下、「甲1発明」という。) イ 本件発明1と甲1発明との対比・判断 本件発明1と甲1発明とを対比すると、介在物について、本件発明1は「鋳込み開始直後のタンディッシュから採取した溶湯を凝固させた該ステンレス鋼中に含まれる非金属介在物」(以下、「本件発明1特定事項」という。)であるのに対し、甲1発明は「前記SUS304ステンレス鋼スラブの幅中央において、スラブ表層から0.025m深部から直径100mmの円盤形サンプルを切り出し、その表面を鏡面研磨したサンプル表面の介在物」である点で少なくとも相違する。 そして、甲第1号証~甲第5号証のいずれにも、上記相違点に係る本件発明1特定事項は記載も示唆もされていない。 したがって、その余の相違点について判断するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易になし得るものとはいえない。 ウ 本件発明2~5について 本件発明2~5は、いずれも本件発明1の全ての発明特定事項を有しているから、前記イで検討したのと同様の理由により、本件発明2~5は、甲1発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易になし得るものとはいえない。 (2) 申立理由1-2について ア 本件発明6 請求項1を引用する本件発明6を独立形式で記載すると以下のとおりである。 「C:0.1%以下、Si:0.2~1%、Mn:0.2~2%、S:0.005%以下、Ni:3~15%、Cr:13~20%、Al:0.005%未満、Mg:0.0001~0.01%、Ca:0.0001~0.01%、O:0.0005~0.01%、残部がFeおよび不可避的不純物からなるステンレス鋼において、 鋳込み開始直後のタンディッシュから採取した溶湯を凝固させた該ステンレス鋼中に含まれる非金属介在物が、MgO、MgO・Al2O3、CaO-SiO2-MgO-Al2O3系酸化物の1種または2種以上を含み、 前記非金属介在物のうち長さ5μm以上の物が任意の1cm2あたり100個以下であり、 前記非金属介在物のうちMgO・Al2O3が個数比率で50%以下であるステンレス鋼の製造方法であって、原料を溶解し、Ni:3~15%、Cr:13~20%を含有するステンレス溶鋼を溶製し、次いで、AODおよび/またはVODにおいて脱炭した後に、石灰、蛍石、フェロシリコン合金を投入しCaO/SiO2比:2~5未満、MgO:3~15%、Al2O3:5%未満からなるCaO-SiO2-MgO-Al2O3-F系スラグを用い、C:0.1%以下、Si:0.2~1%、Mn:0.2~2%、S:0.005%以下、Ni:3~15%、Cr:13~20%、Al:0.005%未満、Mg:0.0001~0.01%、Ca:0.0001~0.01%、O:0.0005~0.01%、残部がFeおよび不可避的不純物からなるステンレス溶鋼に調整することを特徴とするステンレス鋼の製造方法。」(以下、「本件発明6’」という。) イ 甲第3号証に記載された発明 (ア) 甲第3号証の前記(3b)、(3c)には、ステンレス鋼板の組成は、該鋼板に含有される非金属介在物が、MnO:1~45wt%、CaO:1~45wt%、SiO2:10~60wt%、Al2O3:5~50wt%、MgO:0.5~30wt%、Cr2O3:0.2~10wt%、FeO:0.2~10wt%であること、該介在物がMgO・Al2O3介在物を非金属介在物全体の50体積%以下含むこと、ステンレス鋼板の金属成分が、Cr:5~30wt%、Ni:30wt%以下、Si:0.1~3wt%、Mn:0.3~3wt%、Al:0.0001~0.01wt%、Ca:0.00001~0.002wt%、Mg:0.00001~0.002wt%、O:0.001~0.007wt%、残部はFe及び不可避的不純物からなること、スラグの塩基度(CaO/SiO2:スラグ中のCaOとSiO2の重量%比)を1.5~4に制御すること、及び、電気炉において原料を溶解し、その後、AODおよび/またはVODにおいて、酸素を吹精し、脱炭し、その後、スラグ中に移行したCrを、FeSiにより還元し、このとき、石灰石、螢石を投入することにより、シリカを生成するとともに、AODあるいはVODの耐火物に用いられるマグネシア含有れんが(マグクロ、ドロマイト、マグネシアカーボン)により、スラグをCaO-SiO2-MgO系のものとし、さらに脱酸、脱硫を行うステンレス鋼の製造方法が記載されている。 また、甲第3号証の前記(3e)の【0047】によれば、上記「ステンレス鋼の製造方法」を行った後に、鋳造、圧延することによってステンレス鋼板が製造されるといえる。 ここで、上記「ステンレス鋼の製造方法」によって、ステンレス溶鋼の成分組成が、ステンレス鋼板の成分組成である、上記「Cr:5~30wt%、Ni:30wt%以下、Si:0.1~3wt%、Mn:0.3~3wt%、Al:0.0001~0.01wt%、Ca:0.00001~0.002wt%、Mg:0.00001~0.002wt%、O:0.001~0.007wt%、残部はFe及び不可避的不純物」に調整されることは自明の事項である。 (イ) 前記(ア)で検討したステンレス鋼板の製造方法について、本件発明6’の記載ぶりに即して整理すると、甲第3号証には、以下の発明が記載されていると認められる。 「Cr:5~30wt%、Ni:30wt%以下、Si:0.1~3wt%、Mn:0.3~3wt%、Al:0.0001~0.01wt%、Ca:0.00001~0.002wt%、Mg:0.00001~0.002wt%、O:0.001~0.007wt%、残部はFe及び不可避的不純物からなるステンレス鋼板において、 当該ステンレス鋼板に含有される非金属介在物が、MnO:1~45wt%、CaO:1~45wt%、SiO2:10~60wt%、Al2O3:5~50wt%、MgO:0.5~30wt%、Cr2O3:0.2~10wt%、FeO:0.2~10wt%であり、 前記非金属介在物がMgO・Al2O3介在物を非金属介在物全体の50体積%以下含むステンレス鋼板の製造方法であって、 電気炉において原料を溶解し、その後、マグネシア含有れんがを耐火物に用いたAODおよび/またはVODにおいて、酸素を吹精し、脱炭し、その後、スラグ中に移行したCrを、FeSiにより還元し、このとき、石灰石、螢石を投入し、CaO/SiO2:1.5~4からなるCaO-SiO2-MgO系スラグを用い、Cr:5~30wt%、Ni:30wt%以下、Si:0.1~3wt%、Mn:0.3~3wt%、Al:0.0001~0.01wt%、Ca:0.00001~0.002wt%、Mg:0.00001~0.002wt%、O:0.001~0.007wt%、残部はFe及び不可避的不純物からなるステンレス溶鋼に調整し、その後、鋳造、圧延するステンレス鋼板の製造方法。」(以下、「甲3発明」という。) ウ 本件発明6’と甲3発明との対比・判断 本件発明6’と甲3発明とを対比すると、非金属介在物について、本件発明6’は「鋳込み開始直後のタンディッシュから採取した溶湯を凝固させた該ステンレス鋼中に含まれる非金属介在物」(以下、「本件発明6’特定事項」という。)を有しているのであるのに対し、甲3発明は「ステンレス鋼板に含有される非金属介在物」である点で少なくとも相違する。 そして、甲第1号証~甲第5号証のいずれにも、上記相違点に係る本件発明6’特定事項は記載も示唆もされていない。 したがって、その余の相違点について判断するまでもなく、本件発明6’は、甲3発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易になし得るものとはいえない。 (3) 申立理由3について ア 特許異議申立人は、特許異議申立書18頁13~19行において、請求項1の「非金属介在物のうち長さが5μm以上の物が任意の1cm2あたり100個以下」を実現するために、特別の操作や制御が必要であるとすれば、その手法が発明の詳細な説明に記載されておらず、当業者にとって、「非金属介在物のうち長さが5μm以上の物が任意の1cm2あたり100個以下」である鋼を作り分けることが困難であり、発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない旨主張している。 しかし、特許異議申立人の上記主張は、請求項1の「非金属介在物のうち長さが5μm以上の物が任意の1cm2あたり100個以下」を実現するために、「特別の操作や制御が必要である」ことを前提とするものであるところ、特許異議申立書には、この前提が成り立つことを裏付ける証拠は何ら示されていない。 また、本件明細書の【実施例】(【0047】~【0061】)の記載によれば、「非金属介在物のうち長さが5μm以上の物が任意の1cm2あたり100個以下」の鋼を作り分けることは、当業者にとって困難であるとはいえない。 したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。 イ 特許異議申立人は、特許異議申立書18頁下から6行~19頁1行において、Si、S、Al、Mg、Ca、Oの含有量を請求項6に規定される「C:0.1%以下、Si:0.2~1%、Mn:0.2~2%、S:0.005%以下、Ni:3~15%、Cr:13~20%、Al:0.005%未満、Mg:0.0001~0.01%、Ca:0.0001~0.01%、O:0.0005~0.01%、残部がFeおよび不可避的不純物からなるステンレス溶鋼」の溶鋼組成に制御するための、特別な操作や手法が必要であるとすれば、その手法が発明の詳細な説明に記載されておらず、当業者にとって、Si、S、Al、Mg、Ca、Oの含有量を上記溶鋼組成の範囲に調製するためには試行錯誤が要求されるから、発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない旨主張している。 しかし、特許異議申立人の上記主張は、Si、S、Al、Mg、Ca、Oの含有量を請求項6に規定される「C:0.1%以下、Si:0.2~1%、Mn:0.2~2%、S:0.005%以下、Ni:3~15%、Cr:13~20%、Al:0.005%未満、Mg:0.0001~0.01%、Ca:0.0001~0.01%、O:0.0005~0.01%、残部がFeおよび不可避的不純物からなるステンレス溶鋼」の溶鋼組成に制御するために、「特別な操作や手法が必要である」ことを前提とするものであるところ、特許異議申立書には、この前提が成り立つことを裏付ける証拠は何ら示されていない。 また、本件明細書の【実施例】(【0047】~【0061】)の記載によれば、Si、S、Al、Mg、Ca、Oの含有量を請求項6に規定される「C:0.1%以下、Si:0.2~1%、Mn:0.2~2%、S:0.005%以下、Ni:3~15%、Cr:13~20%、Al:0.005%未満、Mg:0.0001~0.01%、Ca:0.0001~0.01%、O:0.0005~0.01%、残部がFeおよび不可避的不純物からなるステンレス溶鋼」の溶鋼組成に制御することは、当業者にとって困難であるとはいえない。 したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。 ウ 以上のとおりであるから、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明1~6を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではないとはいえない。 第8 むすび したがって、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立理由によっては、請求項1~6に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1~6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2017-701185

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    共通の審決分類: 121・C22C、536・C22C、537・C22C
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  • 2023-701108異議申立 / 2024-05-24 / 訂正認容水素吸蔵合金
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