特許異議申立
2017-701045
石炭灰混合セメントの製造方法
- 審判番号
- 2017-701045
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2013-073271
- 登録番号
- 特許第6128313号(P6128313)
- 請求日
- 2017年11月09日
- 審決日
- 2018年08月22日
- 公報発行日
- 2018年11月30日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】三菱マテリアル株式会社
- 【権利者代理人】千葉 博史
- 【異議申立人】渋谷 都
- 【異議申立人】林 愛子
- 審判長/審判官
- 審判長 菊地 則義
- 審判官 山崎 直也
- 審判官 大橋 賢一
- 分類
- P1651.113-Z (C04B) / P1651.121-Z (C04B) / P1651.537-Z (C04B) / P1651.55 -Z (C04B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第1項第3号、特許法第17条の2第3項、特許法第113条第2号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6128313号発明「石炭灰混合セメントの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6128313号の請求項1ないし2に係る特許を取り消す。
理由
【理 由】
1.手続の経緯
特許第6128313号の請求項1、2に係る特許についての出願は、平成25年 3月29日の出願であって、平成29年 4月21日にその特許権の設定登録がされ、その後、その請求項1、2に係る特許について、平成29年11月 9日付けで特許異議申立人「渋谷 都」(以下、「申立人A」という。)によって特許異議の申立て(以下、「特許異議申立書A」という。)がされ、また、請求項1、2に係る特許について、平成29年11月16日付けで特許異議申立人「林 愛子」(以下、「申立人B」という。)により特許異議の申立て(以下、「特許異議申立書B」という。)がされ、平成29年12月11日付けで、申立人Aより上申書が提出され、平成29年12月25日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成30年 2月28日に意見書(以下、「特許権者意見書1」という。)の提出がされ、平成30年 3月20日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、その指定期間内である平成30年 5月12日に意見書(以下、「特許権者意見書2」という。)の提出がされたものである。
2.本件発明
特許第6128313号の請求項1、2の特許に係る発明(以下、「本件発明1、2」という。)は、次の事項により特定されるものである。
【請求項1】
セメントクリンカーおよび石膏と共に石炭灰を混合粉砕して、石炭灰由来の未燃炭素量が0.35質量%以下の石炭灰混合セメントにし、この石炭灰混合セメントについて、モルタル調製後に16cm×4cmの供試体表面に浮遊する1mm角以上の大きさの黒色浮遊物が1個以下のものをコンクリート打継部用とすることを特徴とする石炭灰混合セメントの製造方法。
【請求項2】
セメントクリンカーおよび石膏と共に石炭灰を混合粉砕して、内割りで、セメントクリンカー70.0~97.5質量%、石炭灰0.5~25.0質量%、残部が石膏であって、石炭灰由来の未燃炭素量が0.35質量%以下の石炭灰混合セメントにし、モルタル調製後の前記黒色浮遊物が1個以下のものをコンクリート打継部用とする請求項1に記載する石炭灰混合セメントの製造方法。
3.当審の判断
(1)証拠
申立人Aは、特許異議申立書Aにおいて、証拠として甲第1号証~甲第5号証を提出した。
ただし、甲第5号証は、特許異議申立書Aに記載のURLに、提出された甲第5号証が存在していないため、証拠として採用できない。
以下、甲第1号証~甲第4号証を「甲A-1~A-4」という。
申立人Bは、特許異議申立書Bにおいて、証拠として甲第1号証~甲第4号証(以下、「甲B-1~B-4」という。)を提出した。
・甲A-1(特許異議申立書A甲第1号証):
笠井 伍朗,佐々木 滋郎,田中 尚、フライアッシュの混合と混合粉砕によるポゾランセメント、セメント技術年報(昭和31年)、1956.12.20発行、pp.227-232
・甲A-2(特許異議申立書A甲第2号証):特開2004-175651号公報
・甲A-3(特許異議申立書A甲第3号証):特開平5-138151号公報
・甲A-4(特許異議申立書A甲第4号証):
R 5201-1997 セメントの物理試験方法、JIS ハンドブック 生コンクリート、2002.01.31発行、vol.10、pp.454-479
・甲B-1(特許異議申立書B甲第1号証):国際公開第2007/052464号
・甲B-2(特許異議申立書B甲第2号証):特開2003-286060号公報
・甲B-3(特許異議申立書B甲第3号証):
西林 新蔵,小柳 洽,渡邉 史夫,宮川 豊章、コンクリート工学ハンドブック、2009.10.25発行、pp.1116-1117
・甲B-4(特許異議申立書B甲第4号証):特開平5-194003号公報
(2)取消理由通知に記載した取消理由について
平成29年12月25日付けで当審が通知した取消理由の概要は、以下の取消理由A.~D.のとおりである。
取消理由A.本件発明1、2に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、その発明に係る特許を取り消すべきものである。
取消理由B.本件発明1、2は、甲A-1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、その発明に係る特許を取り消すべきものである。
取消理由C.本件発明1、2は、甲A-1に記載された発明、及び、甲A-3、甲B-1に記載された発明から、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、その発明に係る特許を取り消すべきものである。
取消理由D.本件発明1、2は、甲B-1に記載された発明、及び、甲A-1に記載された発明から、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、その発明に係る特許を取り消すべきものである。
(3)証拠に記載された事項(抜粋)
取消理由通知において引用した甲B-1には、以下の事項が記載されている。
(下線は当審で付加したものである。以下同じ。)
摘記1-1:「請求の範囲
[1]
湿灰を脱水する脱水機と、
該脱水機によって脱水した湿灰を、クリンカとの混合粉砕物の一つと混合する混合設備と、
該混合設備によって混合された湿灰と、クリンカとの混合粉砕物の一つとの混合物をセメントミルに供給する供給機とを備えることを特徴とする湿灰のセメント添加装置。
・・・
[3]
前記混合設備は、パッグミル、静止型混合機、回転胴型混合機、又は、クレーン及びホッパであることを特徴とする請求項1又は2に記載の湿灰のセメント添加装置。
[4]
湿灰を脱水した後、セメントミルへ添加するクリンカとの混合粉砕物の一つへ所定の量を混合し、混合した湿灰及びクリンカとの混合粉砕物の一つをセメントミルへ添加することを特徴とする湿灰のセメント添加方法。
・・・
[6]
前記湿灰は、フライアッシュ脱炭設備からの改質灰であることを特徴とする請求項4又は5に記載の湿灰のセメント添加方法。」
摘記1-2:「
技術分野
[0001]
本発明は、湿灰のセメント添加装置及び添加方法に関し、特に、石炭焚き火力発電所等で発生するフライアッシュから未燃カーボンを除去した後の改質灰等をセメントミルに添加して有効利用するためなどに用いることのできる装置及び方法に関する。
背景技術
[0002]
石炭焚き火力発電所等で発生したフライアッシュは、セメントや人工軽量骨材の原料、及びコンクリート用混和材等に利用されているが、コンクリートの混和材として使用すると、フライアッシュ中の未燃カーボンがAE減水剤等を吸収し、コンクリートの作業性を低下させる。また、コンクリートの打設時には、未燃カーボンが浮き上がり、コンクリートの打継部に黒色部が発生するなどの弊害がある。さらに、フライアッシュ中に未燃カーボンが多いと、人工軽量骨材の品質が低下するという問題もあった。
[0003]
そこで、未燃カーボン含有率の高いフライアッシュから未燃カーボンを除去して有効に利用するため、例えば、特許文献1には、浮選工程の前に、捕集剤を加えた未燃カーボンを含む原フライアッシュスラリーに剪断力を付与することにより、大幅に未燃カーボン分を低下させることができるフライアッシュ中の未燃カーボンの除去方法が記載されている。」
摘記1-3:「[0012]
また、前記湿灰のセメント添加方法において、前記湿灰をフライアッシュ脱炭設備からの改質灰とすることができる。フライアッシュ脱炭設備とは、特許文献1に記載のような浮選工程を介してフライアッシュスラリーから未燃カーボン分を分離させる設備等をいい、このような設備によって得られた、未燃カーボン分含有率の低い湿灰を改質灰という。」
摘記1-4:「
発明を実施するための最良の形態
[0014]
図1は、本発明にかかる湿灰のセメント添加装置及び添加方法を適用したセメント粉砕設備の構成例を示し、このセメント粉砕設備1は、石膏ホッパ3及び湿灰ホッパ4に石膏及び湿灰を供給するクレーン2と、石膏供給機5及び湿灰供給機6によって供給された湿灰と石膏とを混合する混合機としてのパッグミル7と、ボールミル14へクリンカ、石灰石、及び石膏と湿灰との混合物を供給するための各ホッパ8~10及び供給機11~13と、クリンカ等を微粉砕するボールミル14と、ボールミル14の精粉をセパレータ16に輸送するバケットエレベータ15と、微粉砕されたクリンカ等を分級するセパレータ16と、セパレータ16の出口ガスからセメント成分を回収するサイクロン17及びバグフィルタ18と、排ガスを大気に放出する排気ファン19とで構成される。
・・・
[0017]
脱水した湿灰を、クレーン2によって湿灰ホッパ4に投入する。次に、湿灰ホッパ4に一時的に貯蔵された湿灰を、石膏ホッパ3内の石膏とともに、石膏供給機5及び湿灰供給機6を介してパッグミル7に供給して混合する。この際、湿灰及び石膏は、ある程度の水分を有するため、両者が互いに分離され難く、目標とするセメントのSO3、及びボールミル14への湿灰添加率を安定させることができる。パッグミル7から排出された石膏と湿灰との混合物は、輸送機を介して石膏・湿灰ホッパ8に供給され、一時的に貯蔵される。
[0018]
次に、ボールミル14を運転し、クリンカホッパ10内のクリンカ、石灰石ホッパ9内の石灰石と、石膏・湿灰ホッパ8内の石膏と湿灰との混合物とを所定の比率でボールミル14に供給し、微粉砕する。湿灰は、ボールミル14の中で粉砕熱によって乾燥される。ボールミル14以降の動作については、従来のセメント粉砕設備と同様であるため、詳細説明を省略するが、湿灰は、ボールミル14によって微粉砕され、セパレータ16等を介して最終的にセメントの一部を構成する。」
摘記1-5:「[図1]
」
取消理由通知において引用した甲A-1には、以下の事項が記載されている。
摘記2-1:「
」
摘記2-2:「
」
摘記2-3:「
」
(4)取消理由A(特許法第36条第6項第2号)について
取消理由Aは、請求項1に記載された「コンクリート打継部用とすること」、及び、「この石炭灰混合セメントについて、モルタル調製後に16cm×4cmの供試体表面に浮遊する1mm角以上の大きさの黒色浮遊物が1個以下のものを」の意味するところが明確ではないと指摘するものである。
前者に関し、本件明細書には、以下の事項が記載されている。
摘記A-1:「【0005】
石炭灰混合セメントを使用する場合、品質が安定したコンクリートを得るために、石炭灰と共にコンクリートに添加されるAE剤の種類や量を調整する必要がある。さらに、コンクリートの品質への影響を抑制するために石炭灰の添加量を比較的抑えた場合でも、石炭灰に含まれる未燃炭素が多いと、コンクリート打設時にブリーディング水に未燃炭素による黒色浮遊物が含まれるようになり、コンクリート打ち継ぎ部に黒色の層が生じる問題があった。
【0006】
本発明は、従来の上記問題を解決したものであり、石炭灰混合セメントを使用したコンクリートの打設において、打ち継ぎ部に黒色層が形成され難く、また品質が安定したコンクリートを得ることができる石炭灰混合セメントの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明において、石炭灰を混合したセメントについて、セメントクリンカーおよび石膏と共に石炭灰を一緒に混合粉砕し、未燃炭素に起因する黒色浮遊物の発生を極力排除すれば、コンクリートの打ち継ぎ部に黒色層が形成され難いことを見出した。この黒色浮遊物量は石炭灰由来の強熱減量を指標として把握できる。そこで、本発明は、石炭灰混合セメントについて、石炭灰に含まれる未燃炭素による強熱減量(石炭灰由来の強熱減量と云う)を一定量以下にし、調製したモルタルの黒色浮遊物の数を制限することによって、コンクリート打ち継ぎ部に黒色層が形成され難い石炭灰混合セメントを達成した。」
また、特許権者は特許権者意見書1において、「請求項1には「この石炭灰混合セメントについて、・・・のものをコンクリート打継部用とすること・・・」と記載されており、これは「この石炭灰混合セメントについて、・・・のものをコンクリート打継部用のセメントとすること・・・」の意味であり、「コンクリート打継部に用いる」とは記載されていない。
しかも、請求項1には「・・・石炭灰混合セメントの製造方法。」と明確に記載されており、「コンクリート打継部に用いる」などの使用方法の意味に解する余地はないと思われる。
また、本件発明1、2は、本件明細書段落[0005]および段落[0006]に記載されているように、「コンクリート打ち継ぎ部に黒色の層が生じる問題」を解決したものであり、コンクリート打ち継ぎ部に黒色の層が生じ難い石炭灰混合セメントの製造方法を提供することが明確に示されている。
この課題を解決するためには、本件明細書段落[0021]に示すように、セメントを石膏の存在下で石炭灰と粉砕混合して製造した石炭灰混合セメントであっても、モルタル調製したときに、16cm×4cmの供試体表面に浮遊する1mm角以上の大きさの黒色浮遊物が2個より多いものは適さない(判定△、判定×)のであり(比較例3,4,7,8,11)、従って、「モルタル調製後に16cm×4cmの供試体表面に浮遊する1mm角以上の大きさの黒色浮遊物が1個以下のものになっていることが重要である。従って、本件特許1,2の請求項には、「モルタル調製後に16cm×4cmの供試体表面に浮遊する1mm角以上の大きさの黒色浮遊物が1個以下のものをコンクリート打継部用とすること」が製造方法の構成要件として示されている。」と主張している。
以上の記載及び主張から、本件発明1、2は、請求項1、2に記載されているとおり、コンクリート打継部用の「石炭灰混合セメントの製造方法」発明であり、「コンクリート打継部の製造方法」発明ではないものと認められる。
また、摘記A-1から、本件発明の黒色浮遊物は、コンクリート打設時にブリーディング水が発生するような時間を経過した際に発生するものであり、申立人Aが主張するような、コンクリート供給がしばしば中断し、その後、再開する場合のコンクリート施工部は、本件発明1、2の「コンクリート打継部」には含まれないものといえる。
さらに、申立人Bは特許異議申立書Bにおいて、「セメントをコンクリート打継部用とする」は、水平打継目のレイタンスを取り除かない場合の新旧コンクリートの打継部に用いると想像されるが、レイタンスを取り除かないで水平打継目の施工を行った場合、引張強度が大きく低下することは当業者の常識であり、レイタンスを取り除かないで水平打継目の施工を行うことは、当業者の常識としてありえないが、本件明細書には、混合粉砕物をコンクリート打継部用に用いた際の具体例について記載がなく、本件発明1、2に記載の「コンクリート打継部用とする」用途が不明確である旨を主張しているが、本件特許1、2は「石炭灰混合セメントの製造方法」であるから、当該具体例の有無は、石炭灰混合セメントの製造方法の明確性とは関係のない主張であり採用できない。
したがって、「コンクリート打継部用とすること」の意味は明確である。
次に、後者に関し、本件明細書には、以下の事項が記載されている。
摘記A-2:「【0014】
本発明の石炭灰混合セメントは、セメントクリンカーおよび石膏と共に石炭灰を混合粉砕して製造したもの、あるいは石膏を含むセメントに石炭灰を混合して粉砕してなるセメントであり、石炭灰が石膏の存在下で粉砕されたセメントである。セメント粉体(石膏粉末含有)と石炭灰粉末を単純に混合したもの、あるいは、セメント粉体(石膏粉末含有)に石炭灰(未粉砕)を単純に混合したものは、何れも黒色浮遊物が少なく本発明の基準に適合する石炭灰混合セメントにならない。なお、本発明の基準とは、モルタル調製後に16cm×4cmの供試体表面に浮遊する1mm角以上の大きさの黒色浮遊物が1個以下であることを云う。」
摘記A-3:「【0018】
〔実施例1~13、比較例3、4、7、8、11〕
表2に示す配合で、粒径3.5mm以下に粗粉砕した普通ポルトランドセメントクリンカー(粒状)、石膏(SO3として2質量%)および石炭灰をテストミル(ボールミル)で混合粉砕して、ブレーン値3250±50cm2/gの混合粉末にした。
【0019】
〔比較例1、5、9〕
表2に示す配合で、普通ポルトランドセメント粉体(石膏含有)と石炭灰粉末(オートミルにて30秒間粉砕した粉末)を容器回転揺動型の粉体混合機で30分間混合(粉砕せずに混合)した。
【0020】
〔比較例2、6、10〕
表2に示す配合で、普通ポルトランドセメント粉体(石膏含有)と石炭灰(未粉砕)を容器回転揺動型の粉体混合機で30分間混合(粉砕せずに混合)した。
【0021】
〔黒色浮遊物の有無の判定〕
セメントの物理試験方法(JIS R 5201)に規定するモルタルの練り混ぜに従って、モルタルを調製し、6時間後に、3本の供試体の表面(1本:16cm×4cm)における黒色浮遊物(1mm×1mm以上)の有無を目視で観察し、5個以上認められた場合を×、2~4個を△、1個以下を○とした。
【0022】
【表2】
【0023】
表2に示すように、実施例1~13の本発明の石炭灰混合セメントは、モルタル練り混ぜ6時間後に、型枠の上面における黒色浮遊物が目視でほとんど認められなかった。一方、セメントと石炭灰(未粉砕)を単純に混合した場合は、未燃炭素量が少ない場合でも黒色浮遊物が多量に認められた(比較例2、6、10)。なお、石炭灰を別途粉砕してセメントと混合した場合は、未燃炭素量が増すと黒色浮遊物が多量に認められた(比較例1、5、9)。また、未燃炭素量が0.35質量%より多い場合には黒色浮遊物が多量に認められた(比較例3、4、7、8、11)。」
また、特許権者意見書1において、
「(ロ-2)
しかし、本件明細書段落[0022]表1に記載されているように、未燃カーボン分の少ないフライアッシュを用いれば、モルタルの黒色浮遊物を必ず低減できるのではない。表1の比較例1,2では、未燃炭素量が0.1質量%であっても黒色浮遊物が2個以上になり、コンクリート打継部用として不適になるのであり、この事実から明らかなように、未燃カーボン分の少ないフライアッシュを用いることが直ちに本件発明1、2を容易に想到させることにはならない。石炭灰が石膏の存在下で粉砕されたものであることが必須要件である。
(ロ-3)
さらに、重要であるのは、未燃炭素量とモルタルの黒色浮遊物との関係が認識されていることである。表1の比較例1,2に示すように、未燃炭素量が0.1質量%であっても黒色浮遊物が2個以上になるのであり、従って、モルタル調製後の黒色浮遊物を1個以下にすることの認識が不可欠である。この点について、本件発明1、2は、石炭灰を石膏の存在下で粉砕して未燃炭素量を0.35質量%以下にすれば、モルタル調製後の黒色浮遊物を1個以下に低減できることを明らかにしたのであり、このような未燃炭素量に対するモルタル調製後の黒色浮遊物の個数についての認識がなければ、本件発明1、2を想到することはできない。単に未燃炭素量を少なくすればモルタル調製後の黒色浮遊物が少なくなるのではない。」と主張している。
摘記A-2、A-3から、本件明細書には、モルタル調製後に16cm×4cmの供試体表面に浮遊する1mm角以上の大きさの黒色浮遊物が1個以下のセメントとなるための粉砕混合条件について何等記載されていないと認められるから、特許権者意見書1でも主張しているように、石炭灰由来の未燃炭素量が0.35質量%以下となるように、石膏の存在下で石炭灰を粉砕すれば、当然にモルタル調製後の黒色浮遊物を1個以下に低減できるものと認められる。
さらに、特許権者意見書1において、「モルタル調製後に16cm×4cmの供試体表面に浮遊する1mm角以上の大きさの黒色浮遊物が1個以下のものをコンクリート打継部用とすること」とは、「モルタル調製後に16cm×4cmの供試体表面に浮遊する1mm以上の大きさの黒色浮遊物が1個以下のものをコンクリート打継部用のセメントとすること」と主張しており、別途、「モルタル調製後に16cm×4cmの供試体表面に浮遊する1mm角以上の大きさの黒色浮遊物が1個以下のものを」選択する工程を行うことは主張しておらず、また、そのような記載が本件明細書にもないため、本件発明1、2は「モルタル調製後に16cm×4cmの供試体表面に浮遊する1mm角以上の大きさの黒色浮遊物が1個以下のものを」さらに選択する工程を別途設けるものではないものと認められる。
以上のことから、「この石炭灰混合セメントについて、モルタル調製後に16cm×4cmの供試体表面に浮遊する1mm角以上の大きさの黒色浮遊物が1個以下のものを」の意味は明確であるといえる。
よって、取消理由Aは理由がない。
(5)取消理由B、C(特許法第29条第1項第3号、第29条第2項)について
甲A-1には、本件発明1、2に関し、黒色浮遊物を減らすことを意図してコンクリートの打継部に用いるセメントを製造することについて記載も示唆もない。
よって、取消理由B、Cは理由がない。
(6)取消理由D(特許法第29条第2項)について
ア.本件発明1について
(ア)摘記1-1、1-4、1-5には、湿灰と石膏とを混合設備であるパッグミルで混合させた後、湿灰と石膏の混合物と、クリンカ及び石灰石とをボールミルに供給し、粉砕混合することが記載されている。
また、摘記1-3には、湿灰として、未燃カーボン分を分離させた未燃カーボン分含有率の低い改質灰を用いることが記載されている。
よって、甲B-1には、以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「フライアッシュから未燃カーボン分を分離させた未燃カーボン分含有率の低い改質灰と、石膏とを混合させた後、さらに、クリンカ、石灰石を加え、ボールミルで粉砕混合する混合セメントの製造方法」
ここで、引用発明1の「フライアッシュから未燃カーボン分を分離させた未燃カーボン分含有率の低い改質灰」、「クリンカ」は、それぞれ、本件発明1の「石炭灰」、「セメントクリンカー」に相当する。
そして、引用発明1の「フライアッシュから未燃カーボン分を分離させた未燃カーボン分含有率の低い改質灰と、石膏とを混合させた後、さらに、クリンカ、石灰石を加え、ボールミルで粉砕混合する混合セメントの製造方法」は、本件発明1の「セメントクリンカーおよび石膏と共に石炭灰を混合粉砕する石炭灰混合セメントの製造方法」に相当する。
よって、本件発明1と引用発明1とを対比すると、「セメントクリンカーおよび石膏と共に石炭灰を混合粉砕した石炭灰混合セメントの製造方法」の点で両者は一致し、以下の2点で相違する。
<相違点1>
本件発明1は、石炭灰由来の未燃炭素量が0.35質量%以下の石炭灰混合セメントにし、この石炭灰混合セメントについて、モルタル調製後に16cm×4cmの供試体表面に浮遊する1mm角以上の大きさの黒色浮遊物が1個以下であるものを用いるのに対し、引用発明1は、改質灰由来の未燃炭素量及び混合セメントのモルタル性状が不明である点。
<相違点2>
本件発明1は、用途に関して「コンクリート打継部用とする」のに対し、引用発明1は混合セメントの用途が不明な点。
上記相違点について先に相違点2から検討する。
(イ)相違点2について
引用発明1は、摘記1-2に記載されているように、コンクリートの打設時に、未燃カーボンが浮き上がり、コンクリートの打継部に黒色部が発生するのを防ぐことも目的とした発明であるから、得られる混合セメントをコンクリート打継部用のセメントに用いることは当業者であれば容易に想到し得るものである。
(ウ)相違点1について
甲A-1には、クリンカ、セッコウ、フライアッシュをミルを用いて同時粉砕混合する混合セメントの製造方法(摘記2-1)について、フライアッシュの配合比を20質量%としたG20と、フライアッシュの配合比を30質量%としたG30を形成すること(摘記2-3)、及び、フライアッシュ中のIg.loss量について記載されており(摘記2-2)、ここで、Ig.lossは未燃炭素に相当するものである。
よって、摘記2-2から、混合セメント中のフライアッシュに由来するIg.lossの質量比を計算すると、
全分析97.43質量%を100質量%に換算すると、Ig.lossは0.53質量%×(100/97.43)=53/97.43質量%(≒0.544質量%)となり、これにフライアッシュの配合比を掛けたものであるから、
G20のIg.lossは、(53/97.43)×20/100=0.11質量%となり、
G30のIg.lossは、(53/97.43)×30/100=0.16質量%となる。
したがって、甲A-1には、クリンカ、セッコウ、フライアッシュをミルを用いて同時粉砕混合する混合セメントの製造方法において、フライアッシュに由来する未燃炭素量が0.11質量%及び0.16質量%の混合セメントを製造することが記載されているといえる。
してみると、摘記1-2の段落[0002]には、「フライアッシュ中の未燃カーボンがAE減水剤等を吸収し、コンクリートの作業性を低下させる。また、コンクリートの打設時には、未燃カーボンが浮き上がり、コンクリートの打継部に黒色部が発生するなどの弊害がある。さらに、フライアッシュ中に未燃カーボンが多いと、人工軽量骨材の品質が低下するという問題もあった。」と記載されており、摘記1-2の段落[0003]、摘記1-3の段落[0012]には、フライアッシュから未燃カーボンを分離した低未燃カーボンの改質灰を用いることが記載されていることから、引用発明1の改質灰について、コンクリートの打継部に黒色部が発生するのを抑制するために、改質灰由来の未燃カーボン分が混合セメント中で0.35質量%以下となるような改質灰を用いる程度のことは、甲A-1において算出された混合セメント中の上記未燃炭素量からみて当業者であれば容易になし得る事項であるといえる。
すなわち、引用発明1において、甲A-1に記載されるような特に改質されていないフライアッシュを適用し、G20又はG30に記載の混合比で混合セメントを形成しても、混合セメント中の未燃炭素量は上述したように、0.11質量%(G20の場合)、0.16質量%(G30の場合)となるのだから、混合セメント中の未燃カーボン分が0.35質量%以下となるような改質灰を用いることは当然のことといえ、石膏、クリンカ等と混合させた後の粉砕混合の結果として、上記(4)の後段で検討したところによれば、混合セメントは、モルタル調製後に16cm×4cmの供試体表面に浮遊する1mm角以上の大きさの黒色浮遊物が1個以下のセメントが得られるといえる。
(エ)特許権者意見書の主張について
特許権者は、特許権者意見書2において、「引用発明1には、セメントクリンカーおよび石膏と共に石炭灰を混合粉砕すれば黒色浮遊物が低減することは全く認識されていないのであるから、引用発明1に基づいて本件特許発明1を想到することはできない。すなわち、未燃炭素量が0.35質量%以下の石炭灰を用い、セメントクリンカーおよび石膏と共に石炭灰を混合粉砕すれば、黒色浮遊物が低減することが客観的効果として存在しても、そのことが技術的効果として認識されていなければ、課題解決の手段として用いることができない。」と主張している。
しかしながら、引用発明1は、本件発明1と同様の粉砕工程を有することが特定されているのだから、粉砕工程によって、黒色浮遊物の低減度合いに差異があることの認識の有無は、容易性の判断を左右するものではない。
したがって、上記主張は採用できない。
(オ)小括
以上より、本件発明1は、甲B-1及び甲A-1に記載の発明に基づいて、当業者であれば容易に発明をすることができたものである。
イ.本件発明2について
本件発明2で特定されているセメントクリンカー、石炭灰、石膏の質量比は、本件明細書の段落【0010】~【0011】に記載されているように、石炭灰由来の未燃炭素量が0.35質量%以下となることを前提とし、強度等の通常のコンクリートの特性を考慮した適正値を特定したものであり、その上限値、下限値に臨界的意義を見いだせるものではない。
例えば、甲A-1のG20は、本件発明2で特定するセメントクリンカー、石炭灰、石膏の質量比を満たすものである。
よって、本件発明2は、甲B-1及び甲A-1に記載の発明に基づいて、当業者であれば容易に発明をすることができたものである。
ウ.まとめ
上記ア.イ.より、本件発明1、2は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は取り消すべきものである。
よって、取消理由Dには理由がある。
(7)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
申立人Aは特許異議申立書Aにおいて、出願当初の明細書には、モルタル調製後に16cm×4cmの供試体表面に浮遊する1mm角以上の大きさの黒色浮遊物が1個以下のセメントを選択してコンクリート打継部用とすることまでは開示されていないから、平成29年 2月20日付けの手続補正書で追加された事項は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない旨を主張している。
また、申立人Bは特許異議申立書Bにおいて、出願当初の明細書には、「コンクリートの打ち継ぎ部の黒色層が形成され難い石炭灰混合セメント」は記載されている(段落【0007】)が、「コンクリート打継部用」なる語句はなく、元来「コンクリート打継部」は、打設コンクリートの一部である「打ち継ぎ部」を指すものである。一方、「セメントをコンクリート打ち継ぎ部用とする」は、打設コンクリートの一部を指すものではなく、セメントを「敷きモルタル」や「打継用コンクリート」として用いる意味と解されるが、出願当初の明細書にはそのような記載がないから、平成29年 2月20日付けの手続補正書で追加された事項は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない旨を主張している。
しかしながら、上記(4)で検討したように、本件発明は、モルタル調製後に16cm×4cmの供試体表面に浮遊する1mm角以上の大きさの黒色浮遊物が1個以下のセメントを選択してコンクリート打継部用とするものではないから、申立人Aの主張は採用できず、また、本件発明1、2は、「石炭灰混合セメントの製造方法」の発明であるから、申立人Bの主張も採用できない。
よって、当該特許異議申立理由によって、本件発明1、2に係る特許を取り消すことはできない。
4.むすび
上記3.(6)に記載したとおり、本件発明1、2は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本件発明1、2に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
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2017-701045