特許異議申立
2017-700841
水圧転写用ベースフィルム
- 審判番号
- 2017-700841
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2015-052565
- 登録番号
- 特許第6093793号(P6093793)
- 請求日
- 2017年09月06日
- 審決日
- 2018年04月06日
- 公報発行日
- 2018年07月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社アイセロ
- 【権利者代理人】長谷部 善太郎
- 【権利者代理人】山田 泰之
- 【異議申立人】能條 明奈
- 審判長/審判官
- 審判長 鉄 豊郎
- 審判官 樋口 信宏
- 審判官 清水 康司
- 分類
- P1651.113-YAA(C08J) / P1651.121-YAA(C08J)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6093793号発明「水圧転写用ベースフィルム」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6093793号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。
特許第6093793号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続等の経緯
特許第6093793号の請求項1-請求項4に係る特許(以下「本件特許」という。)についての特許出願(特願2015-52565号)は,平成27年3月16日に出願され,平成29年2月17日に特許権の設定の登録がされたものである。本件特許について,平成29年3月8日に特許掲載公報が発行されたところ,発行の日から6月以内である同年9月6日に,特許異議申立人 能條明奈から全請求項に対して特許異議の申立てがされた(異議2017-700841号)。
その後の手続等の経緯の概要は,以下のとおりである。
平成29年11月27日付け:取消理由通知書
平成30年 1月29日付け:意見書(特許権者)
平成30年 1月29日付け:訂正請求書
(この訂正請求書による訂正の請求を,以下「本件訂正請求」という。)
平成30年 3月 6日付け:意見書(特許異議申立人)
(この意見書を,「特許異議申立人意見書」という。)
第2 本件訂正請求について
1 訂正の趣旨及び訂正の内容
(1) 訂正の趣旨
本件訂正請求の趣旨は,特許第6093793号の明細書及び特許請求の範囲を,本訂正請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり,訂正することを求める,というものである。
(2) 訂正の内容
本件訂正請求において特許権者が求める訂正は,以下のとおりである。なお,下線は当合議体が付したものであり,訂正箇所を示す。
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「ノニオン及び/又はアニオン系界面活性剤を含有し,及び可塑剤を」と記載されているのを,「ノニオン系界面活性剤及びアニオン系界面活性剤を含有し,ポリビニルアルコール100質量部に対して可塑剤を」に訂正する。請求項1の記載を引用して記載された請求項2-請求項4についても,同様に訂正する。
イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に「水溶性樹脂」と記載されているのを,「ポリビニルアルコール」に訂正する。請求項2の記載を引用して記載された請求項3及び4についても,同様に訂正する。
ウ 訂正事項3
明細書の【0033】に「実施例1~10及び比較例」と記載されているのを,「参考例1~8,実施例1~2,及び比較例」に訂正する。
エ 訂正事項4
明細書の【0033】及び【0034】に「実施例1」,「実施例2」,「実施例3」,「実施例4」,「実施例5」,「実施例6」,「実施例7」,「実施例8」,「実施例9」及び「実施例10」と記載されているのを,それぞれ「参考例1」,「参考例2」,「参考例3」,「参考例4」,「参考例5」,「参考例6」,「参考例7」,「参考例8」,「実施例1」及び「実施例2」に訂正する。
オ 訂正事項5
明細書の【0035】及び【0036】に「実施例1」及び「実施例2」と記載されているのを,それぞれ「参考例1」及び「参考例2」に訂正する。
カ 訂正事項6
明細書の【0039】の表1に「実施例1」,「実施例2」,「実施例3」,「実施例4」,「実施例5」,「実施例6」,「実施例7」,「実施例8」,「実施例9」及び「実施例10」と記載されているのを,それぞれ「参考例1」,「参考例2」,「参考例3」,「参考例4」,「参考例5」,「参考例6」,「参考例7」,「参考例8」,「実施例1」及び「実施例2」に訂正する。
キ 訂正事項7
明細書の【0040】に「実施例1~10」及び「実施例3~5及び10」と記載されているのを,それぞれ「実施例1及び2」及び「実施例2」に訂正する。
2 訂正の適否
(1) 特許法120条の5第4項について
特許請求の範囲の請求項1-請求項4の引用関係からみて,本件訂正請求は特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である,〔請求項1-請求項4〕ごとにされたものである。
(2) 訂正事項1について
特許請求の範囲の請求項1についての,訂正事項1による訂正は,[A]「ノニオン系界面活性剤」と「アニオン系界面活性剤」が取り得る組み合わせを,「ノニオン系界面活性剤及びアニオン系界面活性剤」に限定するとともに,[B]本件特許の願書に添付した明細書の【0013】の記載に基づいて,可塑剤の重量部が「ポリビニルアルコール100質量部に対して」の重量部であることを明らかにする訂正である。また,請求項1の訂正に伴い連動して訂正されることになる請求項2-請求項4についても,同様である。
したがって,訂正事項1による訂正は,[A]特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」及び[B]同3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正に該当する。また,訂正は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり,かつ,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもない。
(3) 訂正事項2について
特許請求の範囲の請求項2についての,訂正事項2による訂正は,訂正事項1による訂正に合わせて「水溶性樹脂」が「ポリビニルアルコール」であることを明らかにする訂正である。また,請求項2の訂正に伴い連動して訂正されることになる請求項3及び請求項4についても,同様である。
したがって,訂正事項2による訂正は,特許法120条の5第2項ただし書3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正に該当する。また,訂正は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり,かつ,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもない。
(4) 訂正事項3-訂正事項6について
明細書についての,訂正事項3-訂正事項6による訂正は,前記訂正事項1による訂正に伴って,請求項1-請求項4に係る発明の範囲に含まれないものとなる実施例1-実施例8が,参考のためであることを明らかにするものである。
したがって,訂正事項3-訂正事項6による訂正は,前記訂正事項1による訂正に伴い,発明の詳細な説明の記載が明瞭でないものとなることを避けることを目的としたものであるから,特許法120条の5第2項ただし書3号に掲げる,「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正に該当する。また,訂正は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり,かつ,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもない。そして,訂正事項3-訂正事項6に係る訂正後の請求項を含む一群の請求項は,請求項1-請求項4であるところ,訂正事項3-訂正事項6による訂正は,請求項1-請求項4について行われたものである。
(5) 小括
以上のとおりであるから,本件訂正請求による訂正(訂正事項1-訂正事項6による訂正)は,特許法120条の5第2項ただし書,同法同条9項において準用する同法126条4項-6項の規定に適合する。また,本件訂正請求は,同法120条の5第4項の規定にも適合する。
第3 当合議体が通知した取消の理由について
1 本件特許発明について
前記「第2」のとおり,本件訂正請求による訂正は認められた。
したがって,本件特許の請求項1-請求項4に係る発明(以下「本件特許発明1」-「本件特許発明4」という。)は,本件訂正請求による訂正後の特許請求の範囲の請求項1-請求項4に記載された事項により特定されるとおりの,以下のものである。
「【請求項1】
ノニオン系界面活性剤及びアニオン系界面活性剤を含有し,ポリビニルアルコール100重量部に対して可塑剤を0.5~5重量部含有し,印刷面の表面固有抵抗値が9.9×1013Ω以下であり,印刷面のぬれ張力試験用混合液73.0mN/mとの接触角が15~50°である,重合度1000~4000,ケン化度70~99モル%の,厚みが15~100μmであるポリビニルアルコールフィルムであり,基材層を積層することなくグラビア印刷により印刷されるための水圧転写用ベースフィルム。
【請求項2】
ポリビニルアルコール100重量部に対してアニオン系界面活性剤を0.1~5.0重量部含有する請求項1に記載の水圧転写用ベースフィルム。
【請求項3】
引張弾性率が6000MPa以下である請求項1又は2に記載の水圧転写用ベースフィルム。
【請求項4】
架橋剤を配合していない請求項1~3のいずれかに記載の水圧転写用ベースフィルム。」
2 取消の理由の概要
平成29年11月27日付けで特許権者に通知した取消の理由は,概略,[A]本件訂正請求による訂正前の請求項1,請求項2及び請求項4に係る発明は,本件特許の出願前に日本国内又は外国において,頒布された刊行物である甲1(特開2008-143969号公報)に記載された発明であり,また,[B]本件訂正請求による訂正前の請求項1-請求項4に係る発明は,前記甲1に基づいてその出願前にその発明が属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条の規定に違反してされたものであるから,本件特許は取り消されるべきものである,というものである。
3 当合議体の判断
(1) 甲1の記載
本件特許の出願前に頒布された刊行物である前記甲1には,以下の記載がある。なお,下線は当合議体が付したものであり,引用発明の認定に活用した箇所を示す。
ア 「【請求項1】
ガラス転移温度が15~32℃の範囲内であることを特徴とする液圧転写印刷用ベースフィルム。
【請求項2】
ベースフィルムの水分率が3.5~5重量%の範囲内であることを特徴とする請求項1記載の液圧転写印刷用ベースフィルム。
【請求項3】
ベースフィルムが,ポリビニルアルコール系樹脂を主成分とし,可塑剤を含有してなるフィルム形成材料からなり,かつ上記可塑剤の含有量がポリビニルアルコール系樹脂100重量部に対して5重量部以下に設定されていることを特徴とする請求項1または2記載の液圧転写印刷用ベースフィルム。
【請求項4】
上記ポリビニルアルコール系樹脂の4重量%水溶液粘度が,20℃において10~70mPa・sの範囲内であり,かつ平均ケン化度が70~98モル%の範囲内であることを特徴とする請求項3記載の液圧転写印刷用ベースフィルム。
【請求項5】
ベースフィルムの厚みが,20~50μmの範囲内であることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項記載の液圧転写印刷用ベースフィルム。」
イ 「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,液面,とりわけ水面に浮かべて使用し,フィルム面に印刷された意匠を被転写体に対して円滑に転写することのできる液圧転写印刷用ベースフィルム,およびそれを用いた液圧転写方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から,水圧転写印刷用ベースフィルムとしては,ポリビニルアルコール系樹脂を形成材料とするポリビニルアルコール系樹脂フィルムが用いられている。
…(省略)…
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら,上記特許文献1をはじめとする従来のポリビニルアルコール系樹脂フィルムを用いた水圧転写方法では,ベースフィルムに高精細な意匠を印刷する際にフィルムが伸びることにより,イメージ通りの印刷がしづらいと言った印刷適性の問題がある。
…(省略)…
【0005】
本発明は,このような事情に鑑みなされたもので,印刷適性に優れ,かつカール発生が抑制されて転写効率に優れ,さらに転写時の付きまわり性にも優れた液圧転写印刷用ベースフィルムおよびそれを用いた液圧転写方法の提供をその目的とする。」
ウ 「【課題を解決するための手段】
【0006】
…(省略)…
【発明の効果】
【0009】
このように,本発明は,ガラス転移温度が15~32℃の範囲内となる液圧転写印刷用ベースフィルムである。このため,良好な印刷適性を有し,液圧転写印刷時に,ベースフィルムを液面に浮かべてもカールの発生が抑制され,優れた生産性,さらに優れた転写時の付きまわり性を発揮するようになる。」
エ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下,本発明について詳細に説明する。
本発明の液圧転写印刷用ベースフィルム(以下「ベースフィルム」と称す)は,ガラス転移温度が15~32℃の範囲内であるフィルムである。
【0014】
上記ベースフィルムは,例えば,ポリビニルアルコール(PVA)系樹脂を主成分とし,可塑剤を含有してなるフィルム形成材料を用いてフィルム状に形成されてなる。
…(省略)…
【0016】
また,上記PVA系樹脂の4重量%水溶液の20℃における平均粘度が,10~70mPa・sの範囲であることが好ましく,15~60mPa・sの範囲であることがより好ましい。
…(省略)…
【0017】
さらに,上記PVA系樹脂の平均ケン化度が,70~98モル%の範囲であることが好ましく,より好ましくは75~96モル%の範囲である。
…(省略)…
【0018】
上記可塑剤としては,例えば,グリセリン,ジグリセリン,トリグリセリン等のグリセリン類,トリエチレングリコール,ポリエチレングリコール,ポリプロピレングリコール,ジプロピリングリコール等のアルキレングリコール類やトリメチロールプロパンなどがあげられる。これらは単独であるいは2種以上併せて用いられる。
【0019】
上記可塑剤の含有量は,PVA系樹脂100重量部(以下「部」と略すことがある。)に対して,5部以下に設定することが好ましく,0.05~4部に設定することがより好ましい。すなわち,上記可塑剤の含有量が少なすぎると,可塑効果が低く,得られるベースフィルムの破断の原因となりやすく,含有量が多すぎると,フィルム面に意匠を印刷する際の寸法安定性が悪く,高精細な印刷が困難となる傾向がみられるからである。
【0020】
上記フィルム形成材料には,上記PVA系樹脂および可塑剤以外に,必要に応じて各種添加剤を配合することができる。
【0021】
例えば,ベースフィルムの製膜装置であるドラムやベルト等の金属表面と製膜したフィルムとの剥離性の向上を目的として,界面活性剤を配合することができる。上記界面活性剤としては,特に限定するものではなく,例えば,ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル,ポリオキシエチレンオクチルノニルエーテル,ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル,ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル,ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート,ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート,ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート,ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート,ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステルモノエタノールアミン塩,ポリオキシエチレンラウリルアミン,ポリオキシエチレンステアリルアミン等のポリオキシエチレンアルキルアミン等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。なかでも,剥離性の点でポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステルモノエタノールアミン塩,ポリオキシエチレンアルキルアミン,ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートを用いることが好適である。上記界面活性剤の含有量については,特に限定されないが,PVA系樹脂と可塑剤の合計100部に対して0.01~5部に設定することが好ましく,0.03~4.5部に設定することがより好ましい。すなわち,上記界面活性剤の含有量が少なすぎると,製膜装置のドラムやベルト等の金属表面と製膜したフィルムとの剥離性が低下して製造困難となる傾向がみられ,逆に多すぎるとフィルム表面にブリードして意匠印刷層が脱落する原因となる傾向がみられるからである。
…(省略)…
【0041】
まず,上記連続方式による液圧転写方法について述べる。すなわち,上記のようにして得られたベースフィルム面に所定の意匠を印刷する。その後,上記意匠印刷面に活性剤を塗工する。そして,吸水後にベースフィルムが伸展し,意匠がぼけないように上記ベースフィルムの流れ方向に対し幅方向に1.25倍以下の規制を設けて,活性剤が塗布された意匠印刷面を上方にしてベースフィルムを液面に浮かべるとともに移動させる。移動する上記ベースフィルム上方から被転写体を押し当て,ベースフィルム面に印刷された意匠を被転写体表面に転写し固着することにより液圧転写印刷が行われる。そして,固着した後は,ベースフィルムを除去し意匠を転写した被転写体を充分に乾燥させることにより目的とする製品を得るのである。」
オ 「【実施例】
【0047】
以下,実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが,本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
なお,例中「%」とあるのは,断りのない限り重量基準を意味する。
【0048】
〔実施例1~4,比較例1~4〕
下記の表1に示す各成分及び澱粉5部,界面活性剤としてポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステルモノエタノールアミン塩1部を水に溶解して18%水溶液を調製した。そして,上記水溶液を用い,ステンレス製のエンドレスベルトを備えたベルト製製膜機により流延製膜法に従い製膜し,温度95℃の条件で乾燥させた後,85℃の熱ロール1本に7秒間接触させることによりPVA系樹脂フィルム(ベースフィルム)を作製した。
…(省略)…
【0051】
【表1】
…(省略)…
【0059】
【表2】
」
(2) 甲1発明
甲1には,甲1の【0001】に記載された技術分野に属する,具体的実施例(実施例1:【0048】,【0051】の表1及び【0059】の表2)として,次の発明が記載されている(以下「甲1発明」という。なお,【0048】に記載の澱粉及び界面活性剤の分量,並びに,【0051】の表1に記載の可塑剤の分量が,ポリビニルアルコール100重量部に対するものであることは,甲1の【0019】の下線部の記載等からみて明らかである。また,用語を統一して記載した。)。
「 水面に浮かべて使用し,フィルム面に印刷された意匠を被転写体に対して円滑に転写することのできる液圧転写印刷用ベースフィルムであって,
粘度26mPa・s,ケン化度88モル%のポリビニルアルコール100重量部,可塑剤としてグリセリン2重量部,澱粉5重量部,界面活性剤としてポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステルモノエタノールアミン塩1重量部を水に溶解して18%水溶液を調製し,
上記水溶液を用い,ステンレス製のエンドレスベルトを備えたベルト製製膜機により流延製膜法に従い製膜し,温度95℃の条件で乾燥させた後,85℃の熱ロール1本に7秒間接触させることにより作製した,
膜厚が30μm,水分率が3.7%,ガラス転移温度28℃である,
液圧転写印刷用ベースフィルム。」
(3) 対比
本件特許発明1と甲1発明を対比すると,以下のとおりとなる。
ア 水圧転写用ベースフィルム
甲1発明は,「水面に浮かべて使用し,フィルム面に印刷された意匠を被転写体に対して円滑に転写することのできる液圧転写印刷用ベースフィルム」である。
したがって,甲1発明の「液圧転写印刷用ベースフィルム」は,本件特許発明1の「水圧転写用ベースフィルム」に相当する。
イ 界面活性剤
甲1発明の「液圧転写印刷用ベースフィルム」は,その材料及び製造工程からみて,「界面活性剤としてポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステルモノエタノールアミン塩」を含有するものである。また,「ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステルモノエタノールアミン塩」がアニオン系界面活性剤であることは,技術的にみて明らかである。
したがって,甲1発明の「液圧転写印刷用ベースフィルム」は,本件特許発明1の「水圧転写用ベースフィルム」における「ノニオン系界面活性剤及びアニオン系界面活性剤を含有し」という要件のうち「アニオン系界面活性剤を含有し」という要件を満たす。
ウ 可塑剤
甲1発明の「液圧転写印刷用ベースフィルム」は,その材料及び製造工程からみて,「ポリビニルアルコール100重量部」に対して「可塑剤としてグリセリン2重量部」を含有するものである。
したがって,甲1発明の「液圧転写印刷用ベースフィルム」は,本件特許発明1の「水圧転写用ベースフィルム」における,「ポリビニルアルコール100重量部に対して可塑剤を0.5~5重量部含有し」という要件を満たす。
エ 重合度
甲1発明の「液圧転写印刷用ベースフィルム」における「ポリビニルアルコール」は,「粘度26mPa・s」である。ここで,ポリビニルアルコールの重合度と粘度は,重合度を粘度で代用表記しても差し支えがないほど相関度が高いものであるところ,「粘度26mPa・s」に対応する重合度は約2000である。また,甲1発明の「液圧転写印刷用ベースフィルム」は,その材料及び製造工程からみて,ポリビニルアルコールフィルムということができる。
したがって,甲1発明の「液圧転写印刷用ベースフィルム」は,本件特許発明1の「重合度1000~4000」「であるポリビニルアルコールフィルム」の要件を満たす。
オ ケン化度
甲1発明の「液圧転写印刷用ベースフィルム」における「ポリビニルアルコール」は,「ケン化度88モル%」である。
したがって,甲1発明の「液圧転写印刷用ベースフィルム」は,本件特許発明1の「ケン化度88モル%」「であるポリビニルアルコールフィルム」の要件を満たす。
カ 厚み
甲1発明の「液圧転写印刷用ベースフィルム」は,「膜厚が30μm」である。
したがって,甲1発明の「液圧転写印刷用ベースフィルム」は,本件特許発明1の「厚みが15~100μmであるポリビニルアルコールフィルム」の要件を満たす。
(4) 一致点及び相違点
ア 一致点
本件特許発明1と甲1発明は,次の構成で一致する。
「アニオン系界面活性剤を含有し,ポリビニルアルコール100重量部に対して可塑剤を0.5~5重量部含有し,重合度1000~4000,ケン化度70~99モル%の,厚みが15~100μmであるポリビニルアルコールフィルムである,水圧転写用ベースフィルム。」
イ 相違点
本件特許発明1と甲1発明は,以下の点で相違する。
(相違点1)
界面活性剤について,本件特許発明1は,「ノニオン系界面活性剤及びアニオン系界面活性剤」を含有するのに対して,甲1発明は,「アニオン系界面活性剤」は含有するものの,「ノニオン系界面活性剤」は含有しない点。
(相違点2)
本件特許発明1の「水圧転写用ベースフィルム」は,「印刷面の表面固有抵抗値が9.9×1013Ω以下であり,印刷面のぬれ張力試験用混合液73.0mN/mとの接触角が15~50°である」のに対して,甲1発明の「液圧転写印刷用ベースフィルム」は,これが明らかではない点。
(相違点3)
本件特許発明1の「水圧転写用ベースフィルム」は,「基材層を積層することなくグラビア印刷により印刷されるための」ものであるのに対して,甲1発明の「液圧転写印刷用ベースフィルム」は,これが明らかではない点。
(5) 判断
ア 29条1項3号について
本件特許発明1と甲1発明は,相違点1-相違点3において,相違する。
したがって,本件特許発明1は,甲1に記載された発明であるということはできない。
イ 29条2項について
事案に鑑みて,相違点1及び相違点2について検討する。
甲1発明の界面活性剤は,「ベースフィルムの製膜装置であるドラムやベルト等の金属表面と製膜したフィルムとの剥離性の向上」(甲1の【0021】)を目的として配合されたものである。また,甲1の【0021】には,10種類以上の界面活性剤が例示されているところ,その中には,ノニオン系の界面活性剤も含まれるとともに,「これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる」と記載されている。しかしながら,「これらは…2種以上併せて用いられる」という記載は,2種以上の界面活性剤を併用することを意味する記載であり,「ノニオン系界面活性剤」と「アニオン系界面活性剤」を組み合わせて併用することを意味する記載ではない。甲1には,ノニオン系とアニオン系の界面活性剤を区別するような記載がない。加えて,甲1の【0021】には,「上記界面活性剤の含有量については,特に限定されないが,PVA系樹脂と可塑剤の合計100部に対して0.01~5部に設定することが好ましく,0.03~4.5部に設定することがより好ましい。すなわち,上記界面活性剤の含有量が少なすぎると,製膜装置のドラムやベルト等の金属表面と製膜したフィルムとの剥離性が低下して製造困難となる傾向がみられ,逆に多すぎるとフィルム表面にブリードして意匠印刷層が脱落する原因となる傾向がみられるからである。」と記載されている。
したがって,[A]当業者が,何らかの理由により甲1発明の「ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステルモノエタノールアミン塩」を他のものに替えることとし,[B]その際,甲1の【0021】の「これらは…2種以上併せて用いられる」という記載に着目し,[C]そして,甲1の【0021】に列挙された界面活性剤の中から,2種以上の界面活性剤として「ノニオン系界面活性剤及びアニオン系界面活性剤」を選択した場合を仮定しても,その際には,「製膜装置のドラムやベルト等の金属表面と製膜したフィルムとの剥離性」や「フィルム表面にブリードして意匠印刷層が脱落する原因となる傾向がみられること」を勘案して,界面活性剤の含有量を「PVA系樹脂と可塑剤の合計100部に対して0.01~5部」又は「0.03~4.5部」の範囲で調整すると考えるのが妥当である。そして,このように調製されてなる甲1発明の「液圧転写印刷用ベースフィルム」の印刷面の表面固有抵抗値及び接触角が,上記相違点2に係る本件特許発明の構成を満たすものとなるかは,判らない。
すなわち,本件特許発明1の界面活性剤は,「表面固有抵抗及び接触角を適切な範囲とする」(【0032】)ことを目的としたものである。そして,本件特許発明1は,この目的に合致するように界面活性剤の含有量を調整した結果として,前記相違点2に係る本件特許発明1の構成(印刷面の表面固有抵抗値が9.9×1013Ω以下であり,印刷面のぬれ張力試験用混合液73.0mN/mとの接触角が15~50°であるという構成)が得られている。これに対して,甲1発明の界面活性剤は,「ベースフィルムの製膜装置であるドラムやベルト等の金属表面と製膜したフィルムとの剥離性の向上」(【0021】)という,甲1発明の目的とは異質な目的のためのものであり,そこに「表面固有抵抗及び接触角を適切な範囲とする」という技術的思想は存在しない。
そうしてみると,仮に,甲1発明において当業者が上記[A]-[C]について思い到ったとしても,その場合の液圧転写印刷用ベースフィルムの印刷面の表面固有抵抗値及び接触角が,前記相違点2に係る本件特許発明1の構成を満たすものになるとまでは,いうことができない。
したがって,上記相違点3について検討するまでもなく,本件特許発明1は,当業者が甲1発明に基づいて容易に発明できたものであるということはできない。
(6) 本件特許発明2-本件特許発明4について
本件特許発明2-本件特許発明4は,本件特許発明1に対してさらに他の発明特定事項を加えた発明であり,いずれも,前記相違点1及び相違点2に係る構成を具備する。
したがって,本件特許発明2及び本件特許発明4は,甲1に記載された発明ということはできない。また,本件特許発明1と同一の理由により,本件特許発明2-本件特許発明4は,当業者が甲1発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるということはできない。
第4 その他の取消の理由について
1 29条1項3号(甲1)について
本件特許発明3と甲1発明は,少なくとも,前記「第3」3(4)イに記載したとおりの相違点1-相違点3において,相違する。
したがって,本件特許発明3は,甲1に記載された発明であるということはできない。
2 29条2項(甲1及び甲5-甲8)について
特許異議申立人は,本件特許発明1-本件特許発明4が,当業者が甲1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたことを裏付ける証拠として,以下の甲5-甲8を提出している。
甲5:著者不明,「ポバール」,[online],作成日不明,株式会社クラレ,インターネット<URL:http:www.poval.jp/japan/poval/gradelist/gl_03.html>
甲6:著者不明,「水溶性ポリマー」,株式会社シーエムシー,1992年11月30日,78-103頁
甲7:伊保内賢,他2,「ポリマーフィルムと機能薄膜」,技報堂出版株式会社,1991年4月20日,92-101,306,307頁
(当合議体注:人名の「賢」は,正しくは「又」の部分が「忠」である。)
甲8:水町浩,他1,「表面処理技術ハンドブック」,株式会社エヌ・ティー・エス,158,159頁
しかしながら,甲5-甲8には,ポリビニルアルコールの一般的な物性や本件出願時の技術水準が開示されているにすぎず,甲1発明の「液圧転写印刷用ベースフィルム」において「ノニオン系界面活性剤及びアニオン系界面活性剤」を採用したときに,印刷面の表面固有抵抗値及び接触角が,前記相違点2に係る本件特許発明1の構成を満たすものになることを裏付けるものではない。
したがって,本件特許発明1-本件特許発明4は,いずれも,当業者が,甲1に記載された発明及び甲5-甲8に記載された事項に基づいて,容易に発明できたものであるということはできない。
3 甲2を証拠とする取消の理由について
(1) 甲2(特開2005-60636号公報)の記載
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲2には,以下の記載がある。なお,下線は当合議体が付したものであり,引用発明の認定及び判断に関係する箇所を示す。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合度500~3000,ケン化度80~99.9モル%のポリビニルアルコール(A)からなり,水分率が1.5~4.0%であり,厚みが20~50μm,フィルムの長手方向に50℃で8.0kg/mの張力を1分間かけた時の幅収縮率が0.01~1.5%であることを特徴とする水圧転写用ベースフィルム。
…(省略)…
【請求項4】
ポリビニルアルコール(A)100重量部に対して,可塑剤(B)が0.5~10重量部および/又は澱粉類(C)が0.1~15重量部配合されていることを特徴とする請求項1又は2項記載の水圧転写用ベースフィルム。」
イ 「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,凹凸のある立体面や曲面を有する成形体に高精細な意匠を付与するのに適した水圧転写用ベースフィルムに関する。
…(省略)…
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって,本発明の目的とするところは,凹凸を有する非平面形状の成形体の表面に高精細な印刷パターンを転写印刷することができる水圧転写用ベースフィルムを提供し,さらにこのような水圧転写用ベースフィルムを用いた水圧転写用印刷シートの製造法を提供することにある。
…(省略)…
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
…(省略)…
【0016】
また,本発明の水圧転写用ベースフィルムには,本発明の効果を損なわない範囲であれば,水面に浮かべてからの吸水による柔軟化の速度,水中での延展性,水中での拡散に要する時間を調節する目的で,無機塩類や界面活性剤などの添加剤を添加することができる。
…(省略)…
界面活性剤としては特に制限はないが,水圧転写用シートの水面での延展性,および印刷面の寸法安定性の観点からノニオン性界面活性剤が好適である。界面活性剤の添加量は,印刷層のベースフィルムへの密着性などの点から,PVA100重量部に対して,好ましくは5重量部以下であり,より好ましくは1重量部以下である。
…(省略)…
【実施例1】
【0032】
ドラム式製膜機を用い,重合度1750,ケン化度88モル%のポリビニルアルコール100重量部,グリセリン5重量部,エーテル化澱粉3重量部,および界面活性剤0.5重量部からなる30%水溶液を,Tダイから,回転する表面温度90℃のドラム上に吐出して乾燥し,水分率が2.7%のときに剥離した後,得られたPVAフィルムに対して,エンボスロール温度100℃,線圧30kg/cmの条件でエンボス加工を行い,厚みが30μmのロール状の水圧転写用ベースフィルムを得た。得られたベースフィルムの含水率は2.4%であった。」
(2) 甲2発明
甲2には,実施例1として,次の発明が記載されている(以下「甲2発明」という。)。
「 ドラム式製膜機を用い,重合度1750,ケン化度88モル%のポリビニルアルコール100重量部,グリセリン5重量部,エーテル化澱粉3重量部,および界面活性剤0.5重量部からなる30%水溶液を,Tダイから,回転する表面温度90℃のドラム上に吐出して乾燥し,水分率が2.7%のときに剥離した後,得られたPVAフィルムに対して,エンボスロール温度100℃,線圧30kg/cmの条件でエンボス加工を行い得られた,
厚みが30μm,含水率が2.4%である,
ロール状の水圧転写用ベースフィルム。」
(3) 判断
事案に鑑みて判断のみを示す。
ア 29条1項3号について
甲2発明の材料及び製造工程からみて,甲2発明の「ロール状の水圧転写用ベースフィルム」には,「界面活性剤」が含まれるといえる。
しかしながら,甲2発明における界面活性剤が,どのような種類のものかは,明らかでない。
したがって,「ノニオン系界面活性剤及びアニオン系界面活性剤を含有し」という構成を具備する本件特許発明1-本件特許発明4は,いずれも,甲2に記載された発明ということができない。
イ 29条2項について
甲2の【0016】には,「界面活性剤としては特に制限はないが,水圧転写用シートの水面での延展性,および印刷面の寸法安定性の観点からノニオン性界面活性剤が好適である。」と記載されている。
そうしてみると,甲2発明の具体化を試みる当業者ならば,甲2発明の界面活性剤として,「ノニオン性界面活性剤」を採用すると考えられる。また,この点は,甲5-甲8に記載された事項を考慮しても,変わらない。
したがって,「ノニオン系界面活性剤及びアニオン系界面活性剤を含有し」という構成を具備する本件特許発明1-本件特許発明4は,いずれも当業者が甲2発明及び甲5-甲8に記載された事項に基づいて容易に発明できたものであるということはできない。
4 甲3を証拠とする取消の理由について
(1) 甲3(特開2009-160922号公報)の記載
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲3には,以下の記載がある。なお,下線は当合議体が付したものであり,引用発明の認定及び判断に関係する箇所を示す。
ア 「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,液面,とりわけ水面に浮かべて使用し,フィルム面に印刷された意匠を被転写体に対して円滑に転写することのできる液圧転写印刷用ベースフィルムに関するものである。
…(省略)…
【発明の効果】
【0009】
本発明の液圧転写印刷用ベースフィルムは,フィルムの両端の特定領域におけるフィルム表面のたわみ率(T)(%)が特定範囲であるため,良好な意匠印刷適性を有し,液圧転写印刷用のベースフィルムとして非常に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
…(省略)…
【0024】
上記フィルム形成材料には,上記PVA系樹脂および可塑剤以外に,必要に応じて各種添加剤を配合することができる。
【0025】
例えば,ベースフィルムの製膜装置であるドラムやベルト等の金属表面と製膜したフィルムとの剥離性の向上を目的として,界面活性剤を配合することができる。上記界面活性剤としては,例えば,ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル,ポリオキシエチレンオクチルノニルエーテル,ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル,ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル,ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート,ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート,ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート,ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート,ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステルモノエタノールアミン塩,ポリオキシエチレンラウリルアミン,ポリオキシエチレンステアリルアミン等のポリオキシエチレンアルキルアミン等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。なかでも,剥離性の点でポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステルモノエタノールアミン塩,ポリオキシエチレンアルキルアミン,ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートを用いることが好適である。
【0026】
上記界面活性剤の含有量については,PVA系樹脂と可塑剤の合計100重量部に対して通常0.01~5重量部であることが好ましく,0.03~4.5重量部であることがより好ましい。上記界面活性剤の含有量が少なすぎると,製膜装置のドラムやベルト等の金属表面と製膜したフィルムとの剥離性が低下して製造困難となる傾向がみられ,逆に多すぎるとフィルム表面にブリードして意匠印刷層が脱落する原因となる傾向がみられる。
…(省略)…
【実施例】
【0056】
…(省略)…
【0061】
〔実施例1〕
4%水溶液粘度26mPa・s(20℃),平均ケン化度88モル%のPVA100部に,可塑剤としてグリセリン2部,澱粉5部,界面活性剤としてポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート1.2部を水に溶解して18%水分散液を得た。そして,上記水分散液を用い,ステンレス製のエンドレスベルトを備えたベルト製製膜機により,10m/minの速度で流延製膜法に従い製膜し,温度95℃の条件で乾燥させ,PVAフィルムを得た後,フィルム両端部をスリットし,ベースフィルムを2週間連続して作製した(フィルム幅:1000mm,フィルム長さ:300m毎に巻き替え,フィルム膜厚:30μm)。なお,上記で使用した水はイオン交換水(モリブデンブルー法により測定されるケイ素含有量:0.01ppm以下)であり,ベルト表面には不純物被覆のない清面で製膜時のフィルム剥離に必要な張力は1kg/m,キャスト面の速度に対して剥離の速度が1.04倍であった。また,領域(S1)のフィルム表面のたわみ率(T)は1.5%,領域(S2)のフィルム表面のたわみ率(T)は1.5%,領域(S3)のフィルム表面のたるみ率(T)は0.5%であり,水分率は3.5%であった。」
(2) 甲3発明
甲3には,「水圧転写用ベースフィルム」(【0001】)の実施例1として,次の発明が記載されている(以下「甲3発明」という。)。
「 4%水溶液粘度26mPa・s(20℃),平均ケン化度88モル%のPVA100部に,可塑剤としてグリセリン2部,澱粉5部,界面活性剤としてポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート1.2部を水に溶解して18%水分散液を得て,
10m/minの速度で流延製膜法に従い製膜し,温度95℃の条件で乾燥させ,ポリビニルアルコールフィルムを得た後,フィルム両端部をスリットして作製した,
水分率が3.5%である,
水圧転写用ベースフィルム。」
(3) 判断
事案に鑑みて,判断のみを示す。
ア 29条1項3号について
甲3発明の材料及び製造方法からみて,甲3発明の「水圧転写用ベースフィルム」には,界面活性剤として,「ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート」のみが含まれている。また,「ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート」は,ノニオン系の界面活性剤である。
そうしてみると,甲3発明に含まれる界面活性剤はノニオン系の界面活性剤の1種類である。
したがって,「ノニオン系界面活性剤及びアニオン系界面活性剤を含有し」という構成を具備する本件特許発明1-本件特許発明4は,いずれも,甲3に記載された発明ということができない。
イ 29条2項について
甲3には,界面活性剤に関して,甲1の【0021】と同様の記載があるにとどまる(甲3の【0025】及び【0026】)。
したがって,甲1発明の場合と同様の理由により,本件特許発明1-本件特許発明4は,いずれも当業者が甲3発明及び甲5-甲8に記載された事項に基づいて容易に発明できたものであるということはできない。
5 甲4を証拠とする取消の理由について
(1) 甲4(国際公開第2008/142835号)の記載
本件特許の出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載された甲4には,以下の記載がある。なお,下線は当合議体が付したものであり,引用発明の認定及び判断に関係する箇所を示す。
ア 「技術分野
[0002] 本発明は,水溶性ポリビニルアルコール系フィルムのロール状物およびその製造方法,ならびに前記ロール状物の保管方法に関する。
…(省略)…
発明が解決しようとする課題
[0008] 最近,水溶性PVAフィルムに印刷を施す際の印刷精度を向上させたり,製袋加工する際のロスを低減させるため,今まで以上にタルミ(または歪み)やシワが解消された水溶性PVAフィルムが求められるようになってきている。
…(省略)…
発明の効果
[0029] 本発明では,水溶性PVAフィルムのロール状物を製造するに際し,特定の乾燥条件で水分含有率を調整したフィルムを特定の張力で巻き取るため,柔軟で延伸性のある水溶性PVAフィルムであっても,保管時にフィルムに発生する残存応力を低減することができ,フィルムを巻きもどして使用する際に問題となるタルミやシワの発生を抑制することができる。
…(省略)…
[0050] PVAフィルムを製造する際に界面活性剤を配合することもできる。配合することが可能な界面活性剤の種類としては,アニオン性界面活性剤,ノニオン性界面活性剤,カチオン系界面活性剤,両性界面活性剤が挙げられる。アニオン性界面活性剤としては,例えば,ラウリン酸カリウムなどのカルボン酸型,オクチルサルフェートなどの硫酸エステル型,ドデシルベンゼンスルホネート,アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのスルホン酸型のアニオン性界面活性剤が好適である。ノニオン性界面活性剤としては,例えば,ポリオキシエチレンオレイルエーテル,ポリオキシエチレンラウリルエーテルなどのアルキルエーテル型,ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルなどのアルキルフェニルエーテル型,ポリオキシエチレンラウレートなどのアルキルエステル型,ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテルなどのアルキルアミン型,ポリオキシエチレンラウリン酸アミドなどのアルキルアミド型,ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンエーテルなどのポリプロピレングリコールエーテル型,オレイン酸ジエタノールアミドなどのアルカノールアミド型,ポリオキシアルキレンアリルフェニルエーテルなどのアリルフェニルエーテル型が挙げられる。カチオン系界面活性剤としては,例えば,ラウリルアミン塩酸塩などのアミン類,ラウリルトリメチルアンモニウムクロライドなどの第四級アンモニウム塩類,ラウリルビリジニウムクロライドなどのピリジウム塩などが挙げられる。さらに,両性界面活性剤としては,N-アルキル-N,N-ジメチルアンモニウムベタインなどが挙げられる。界面活性剤は1種または2種以上を組み合わせて使用することができる。
[0051] 界面活性剤の配合量は,PVAに対して0.01~7重量%が好ましく,0.02~5重量%がさらに好ましい。これらの界面活性剤を配合することにより,本発明において目的とするロール状物をより好適に得ることができる。
…(省略)…
実施例
[0089] 以下,実施例により本発明をさらに詳細に説明するが,本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
(実施例1)
けん化度88モル%,重合度1700のPVA15重量部,グリセリン0.65重量部を含有するPVA濃度が15重量%の水溶液を,コンベアベルト上に流延し,ベルト上で120℃の熱風をあてながら5分間乾燥することにより皮膜を得,次いで,これを梨地加工(150メッシュのサンドブラスト処理)された金属ロール上を通過させて,片面をエンボス加工した後,フィルムの両端をレザー刃にて裁断して,フィルム幅(W)500mm,フィルム厚さ(M)30μm,粗面度がエンボス面0.3μm,非エンボス面0.15μm(KosakaLaboratory社製のSE1700で触針半径2μm,測定速さ0.5m/秒,カットオフ値λc=0.8で測定した)のPVAフィルム{長さ(L)1000m(余分なし)}を得,これを表面がポリエチレン加工された円筒状の紙管{紙管の外径(D)88.2mm,肉厚6mm}に,初期巻き取り張力15kgf,巻き取り速度40m/分,タッチ圧3kgf/m2,テーパー75%の条件で巻きつけることにより,水溶性PVAフィルムのロール状物{ロール状物の断面の直径(H)221mm}を得た。なお,前記巻き取り張力を,フィルム幅1m当りの巻き取り張力に換算すると,その値は30kgf/1m幅である。
[0090] 水溶性PVAフィルムの組成はPVA/グリセリン/水分=93/4/3(重量%)であった。TA Instruments社製のDSC Q1000を用い,ロール状物から切り取ったフィルム片7mgをアルミパンに入れて-30℃で1分保持した後,10℃/分の昇温速度で260℃まで昇温し,示差熱分析を行ったところ,主ピークの温度は186℃であった。
…(省略)…
産業上の利用可能性
[0122] 本発明の水溶性PVAのロール状物は,タルミ(または歪み)やシワがないかまたは極めて少ないため,各種の用途,たとえば水圧転写フィルム,農薬包装用フィルム,洗剤包装用フィルムなどとして使用され,とくに水圧転写曲面印刷用フィルムとして極めて有用である。」
(2) 甲4発明
甲4の[0089]には,実施例1として,「水溶性PVAフィルムのロール状物」が記載されているところ,[0122]には,「本発明の水溶性PVAのロール状物は…とくに水圧転写曲面印刷用フィルムとして極めて有用である」と記載されている。そうしてみると,甲4には,次の発明が記載されている。なお,用語を統一して記載してある。
「 けん化度88モル%,重合度1700のPVA15重量部,グリセリン0.65重量部を含有するPVA濃度が15重量%の水溶液を,コンベアベルト上に流延し,ベルト上で120℃の熱風をあてながら5分間乾燥することにより皮膜を得,次いで,これを梨地加工された金属ロール上を通過させて,片面をエンボス加工した後,フィルムの両端をレザー刃にて裁断して,フィルム幅(W)500mm,フィルム厚さ(M)30μm,粗面度がエンボス面0.3μm,非エンボス面0.15μmの水溶性PVAフィルムを得,これを表面がポリエチレン加工された円筒状の紙管に,初期巻き取り張力15kgf,巻き取り速度40m/分,タッチ圧3kgf/m2,テーパー75%の条件で巻きつけることにより得た,
水溶性PVAフィルムの組成はPVA/グリセリン/水分=93/4/3(重量%)である,
特に水圧転写曲面印刷用フィルムとして極めて有用である水溶性PVAのロール状物。」
(3) 判断
事案に鑑みて,判断のみを示す。
ア 29条1項3号について
甲4発明の「水溶性PVAフィルムの組成はPVA/グリセリン/水分=93/4/3(重量%)」であり,界面活性剤を含まない。
したがって,「ノニオン系界面活性剤及びアニオン系界面活性剤を含有し」という構成を具備する本件特許発明1-本件特許発明4は,いずれも,甲4に記載された発明ということができない。
イ 29条2項について
界面活性剤に関して,甲4の[0050]には,「PVAフィルムを製造する際に界面活性剤を配合することもできる。配合することが可能な界面活性剤の種類としては,アニオン性界面活性剤,ノニオン性界面活性剤,カチオン系界面活性剤,両性界面活性剤が挙げられる」及び「界面活性剤は1種または2種以上を組み合わせて使用することができる」と記載されている。
しかしながら,界面活性剤を配合する目的に関しては,「これらの界面活性剤を配合することにより,本発明において目的とするロール状物をより好適に得ることができる」([0051])と記載されているにとどまり,そこに「表面固有抵抗及び接触角を適切な範囲とする」という技術的思想は存在しない。
そうしてみると,当業者が,甲4の[0050]の記載に着目して,[A]甲4発明のPVAフィルムを製造する際に界面活性剤を配合することとし,[B]その際,界面活性剤は2種以上を組み合わせて使用することとし,[C]さらに,2種以上の界面活性剤の中から「ノニオン系界面活性剤及びアニオン系界面活性剤」を選択した場合を仮定したとしても,「表面固有抵抗及び接触角を適切な範囲とする」ことを目的として界面活性剤を配合しないからには,水圧転写曲面印刷用フィルムの印刷面の表面固有抵抗値及び接触角について,「印刷面の表面固有抵抗値が9.9×1013Ω以下であり,印刷面のぬれ張力試験用混合液73.0mN/mとの接触角が15~50°である」という本件特許発明1の構成を満たすものになるとまでは,いうことができない。
また,この点は,甲5-甲8に記載された事項を考慮しても,変わらない。
したがって,本件特許発明1-本件特許発明4は,いずれも当業者が甲4発明及び甲5-甲8に記載された事項に基づいて容易に発明できたものであるということはできない。
第5 まとめ
本件特許発明1-本件特許発明4は,いずれも,甲1-甲4に記載された発明ということができないから,特許法29条1項3号に該当するということができない。
そして,本件特許発明1-本件特許発明4は,いずれも,当業者が,甲1に記載された発明に基づいて容易に発明できたものであるということができず,また,甲1-甲4に記載された発明及び甲5-甲8に記載された事項に基づいて容易に発明できたものであるということもできないから,同法同条2項の規定により特許を受けることができないとすることもできない。
したがって,当合議体が通知した取消の理由,及び特許異議申立書に記載された特許異議申立の理由によっては,本件特許を取り消すことはできない。
また,他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
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2017-700841