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特許異議申立

2017-700781

炭素繊維複合材料

審判番号
2017-700781
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2013-505653外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2017年08月10日
審決日
2018年06月15日
公報発行日
2018年09月28日
結論
訂正認容
当事者
審判長/審判官
分類
P1651.536-YAA(C08J) / P1651.537-YAA(C08J) / P1651.113-YAA(C08J) / P1651.121-YAA(C08J)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特許第6083377号発明「炭素繊維複合材料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

【結 論】 特許第6083377号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし8〕について訂正することを認める。 特許第6083377号の請求項1、5及び8に係る特許を維持する。 特許第6083377号の請求項2ないし4、6及び7に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。

理由

【理 由】 第1 手続の経緯 特許第6083377号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし8に係る特許についての出願は、2013年2月5日(優先権主張 平成24年2月9日)を国際出願日とする出願であって、平成29年2月3日にその特許権の設定登録(請求項数:8)がされ、その後、その特許に対し、同年8月10日に特許異議申立人 植松 愛(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし8)がされ、当審において同年11月6日付けで取消理由が通知され、同年12月26日に特許権者 東レ株式会社(以下、「特許権者」という。)から意見書が提出されるとともに訂正の請求(以下、「本件訂正の請求」という。)がされ、平成30年1月4日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、同年2月2日に特許異議申立人から意見書が提出され、同年3月8日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、同年5月8日付け(受理日:同年5月9日)で特許権者から意見書が提出され、平成30年5月29日に特許異議申立人から上申書が提出されたものである。 第2 訂正の適否について 1 訂正の内容 本件訂正の請求による訂正の内容は、次のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示すものである。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に記載される「1.1×10-2≦X≦8.1×10-2」を、「1.5×10-2≦X≦5.5×10-2」に訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項1に記載される「50≦σ≦400 の範囲にある」を、「50≦σ≦400の範囲にあり、 前記炭素繊維束(1)が、25℃におけるドレープ値/曲げ剛性(cm/(Pa・cm4))が3.5×103~9.0×103(cm/(Pa・cm4))の範囲にある炭素繊維束から形成されており、」に訂正する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項1に「前記炭素繊維束(1)における炭素繊維の繊維長Lnが5~25mmの範囲にあり、」を付加する。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項1に「前記炭素繊維束(1)を構成する炭素繊維の単糸曲げ剛性が1.0×10-11~2.8×10-11(Pa・m4)の範囲内にある炭素繊維複合材料であって、」を付加する。 (5)訂正事項5 特許請求の範囲の請求項1に「前記炭素繊維複合材料中の炭素繊維集合体がカーディング工程によって得られた炭素繊維不織布からなる」を付加する。 (6)訂正事項6 特許請求の範囲の請求項2を削除する。 (7)訂正事項7 特許請求の範囲の請求項3を削除する。 (8)訂正事項8 特許請求の範囲の請求項4を削除する。 (9)訂正事項9 特許請求の範囲の請求項6を削除する。 (10)訂正事項10 特許請求の範囲の請求項7を削除する。 (11)訂正事項11 特許請求の範囲の請求項5に記載される「請求項1~4のいずれかに」を「請求項1に」訂正する。 (12)訂正事項12 特許請求の範囲の請求項8に記載される「請求項1~7のいずれかに」を「請求項1または5に」訂正する。 (13)訂正事項13 明細書の【0047】における「xnは炭素繊維束の構成繊維本数ある。」を「xnは炭素繊維束の構成繊維本数である。」に訂正する。 (14)訂正事項14 明細書の【0047】における「炭素繊維束(1)の総重量をMAとし、束総数をNとして、測定する。」を「炭素繊維束(1)の総重量MA、束総数Nを計算する。」に訂正する。 (15)訂正事項15 明細書の【0047】における「炭素繊維束(2)の総重量をMBとして、測定する。」を「炭素繊維束(2)の総重量MBを計算する。」に訂正する。 (16)訂正事項16 明細書の【0047】における「全て分類し、測定後、」を「全て分類し、計算後、」に訂正する。 2 訂正の目的の適否、一群の請求項、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内か否か、願書に添付した明細書の訂正に係る請求項の全てについて訂正請求を行っているか及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1について 訂正事項1は、訂正前の請求項1では、炭素繊維束(1)のMn/Lnの平均値Xについて、「1.1×10-2≦X≦8.1×10-2(mg/mm)」の範囲であったものを、訂正前の請求項1を引用した訂正前の請求項2に記載の「1.5×10-2≦X≦5.5×10-2(mg/mm)」の範囲に狭めて限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。 さらに、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (2)訂正事項2について 訂正事項2は、訂正前の請求項1を引用した訂正前の請求項3に記載の発明特定事項を訂正前の請求項1に直列的に付加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。 さらに、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (3)訂正事項3について 訂正事項3は、訂正前の請求項1を引用した訂正前の請求項4に記載の発明特定事項を訂正前の請求項1に直列的に付加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。 さらに、訂正事項3は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (4)訂正事項4について 訂正事項4は、訂正前の請求項1を引用した訂正前の請求項6に記載の発明特定事項を訂正前の請求項1に直列的に付加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、訂正事項4は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。 さらに、訂正事項4は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (5)訂正事項5について 訂正事項5は、訂正前の請求項1を引用した訂正前の請求項7に記載の発明特定事項を訂正前の請求項1に直列的に付加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、訂正事項5は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。 さらに、訂正事項5は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (6)訂正事項6について 訂正事項6は、訂正事項1に係る訂正に伴い、訂正前の請求項2の記載を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、訂正事項6は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。 さらに、訂正事項6は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (7)訂正事項7について 訂正事項7は、訂正事項2に係る訂正に伴い、訂正前の請求項3の記載を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、訂正事項7は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。 さらに、訂正事項7は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (8)訂正事項8について 訂正事項8は、訂正事項3に係る訂正に伴い、訂正前の請求項4の記載を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、訂正事項8は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。 さらに、訂正事項8は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (9)訂正事項9について 訂正事項9は、訂正事項4に係る訂正に伴い、訂正前の請求項6の記載を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、訂正事項9は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。 さらに、訂正事項9は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (10)訂正事項10について 訂正事項10は、訂正事項5に係る訂正に伴い、訂正前の請求項7の記載を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、訂正事項10は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。 さらに、訂正事項10は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (11)訂正事項11について 訂正事項11は、訂正事項6ないし8に係る訂正に伴い、請求項間の引用関係を整理するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 また、訂正事項11は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。 さらに、訂正事項11は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (12)訂正事項12について 訂正事項12は、訂正事項6ないし10に係る訂正に伴い、請求項間の引用関係を整理するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 また、訂正事項12は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。 さらに、訂正事項12は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (13)訂正事項13について 訂正事項13は、明らかな誤記を訂正するものであるから、誤記又は誤訳の訂正を目的とするものである。 また、訂正事項13は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。 さらに、訂正事項13は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (14)訂正事項14ないし16について 訂正事項14ないし16は、明細書の【0047】の「(1)束の測定方法」に記載の一部の不明瞭な記載部分を明確にするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 また、訂正事項14ないし16は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。 さらに、訂正事項14ないし16は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (15)一群の請求項 本件訂正の請求は、特許請求の範囲の請求項1ないし8についての訂正を含むものである。 そして、訂正前の請求項1ないし8は、訂正前の請求項2ないし8が訂正前の請求項1を引用するものであるので、一群の請求項である。 したがって、本件訂正の請求は、一群の請求項ごとに対してされたものである。 (16)願書に添付した明細書の訂正に係る請求項の全てについて訂正請求を行っているか 本件訂正の請求は、願書に添付した明細書の訂正を含むものである。 そして、本件訂正の請求は、該明細書の訂正に係る請求項の全てについて行われている。 3 むすび 以上のとおり、本件訂正の請求は、特許法第120条の5第2項ただし書第1ないし3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項並びに同条第9項において準用する同法第126条第4ないし6項の規定に適合する。 また、特許異議の申立ては、訂正前の全ての請求項に対してされているので、訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。 したがって、本件訂正の請求は適法なものであるので、本件特許の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし8〕について訂正することを認める。 第3 特許異議の申立てについて 1 本件特許発明 上記第2 3のとおり、訂正後の請求項〔1ないし8〕について訂正することを認めるので、本件特許の請求項1ないし8に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。)は、平成29年12月26日に提出された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 炭素繊維と熱可塑性樹脂から成り、Mn/(Ln×D)が8.5×10-1(mg/mm2)以上の炭素繊維束(1)の炭素繊維全体重量に対する割合Yが、 30≦Y<90(wt%) の範囲にあり、炭素繊維束(1)のMn/Lnの平均値Xが、 1.5×10-2≦X≦5.5×10-2(mg/mm) の範囲にあり、かつ、前記Yが、 Y≧100X+30 を満たし、さらに、前記炭素繊維束(1)の束を構成する繊維本数xn=Mn/(Ln×F)の標準偏差σが、 50≦σ≦400 の範囲にあり、 前記炭素繊維束(1)が、25℃におけるドレープ値/曲げ剛性(cm/(Pa・cm4))が3.5×103~9.0×103(cm/(Pa・cm4))の範囲にある炭素繊維束から形成されており、 前記炭素繊維束(1)における炭素繊維の繊維長Lnが5~25mmの範囲にあり、 前記炭素繊維束(1)を構成する炭素繊維の単糸曲げ剛性が1.0×10-11~2.8×10-11(Pa・m4)の範囲内にある炭素繊維複合材料であって、 前記炭素繊維複合材料中の炭素繊維集合体がカーディング工程によって得られた炭素繊維不織布からなることを特徴とする炭素繊維複合材料。 Mn:炭素繊維束重量 Ln:炭素繊維の繊維長 D:炭素繊維の繊維径 F:炭素繊維の繊度 【請求項2】(削除) 【請求項3】(削除) 【請求項4】(削除) 【請求項5】 前記炭素繊維束(1)の炭素繊維全体重量に対する割合Yが、 40≦Y≦65(wt%) の範囲にある、請求項1に記載の炭素繊維複合材料。 【請求項6】(削除) 【請求項7】(削除) 【請求項8】 前記炭素繊維複合材料が前記炭素繊維集合体に熱可塑性樹脂を含浸させたスタンパブルシートからなる、請求項1または5に記載の炭素繊維複合材料。」 2 特許異議申立書に記載した理由の概要 平成29年8月10日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した理由の概要は次のとおりである。なお、該理由は、訂正前の特許請求の範囲の請求項1ないし8に対するものである。 ・(新規性)本件特許の請求項1、2、4、5及び8に係る発明は、下記の本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1、2、4、5及び8に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである(主引用文献は、甲第1号証である。)。 ・(進歩性)本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、下記の本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである(主引用文献は、甲第1号証である。)。 ・(実施可能要件)本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 ・(明確性)本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 なお、上記新規性・進歩性の理由は、本件特許が優先権の効果を得られるものではなく、新規性・進歩性の判断の基準日が、本件特許の優先日ではなく出願日である2013年2月5日であるとされることを前提とするものである。 甲第1号証:国際公開第2012/165418号 甲第2号証:特開2005-264383号公報 甲第3号証:国際公開第2011/089929号 甲第4号証:L.T.Harper,T.A.Turner,N.A.Warrior,C.D Rudd.Characterisation of random carbon fibre composites from a directed fibre preforming process:The effect of tow filamentisation.Sciences Direct,composites:Part A:applied science and manufacturing,Volume38A,Number 3,(2007),755-770、及び抄訳 甲第5号証:D.R.Mulligan,S.L.Ogin,P.A.Smith,G.M.Wells,C.M.Worrall.Fibre-bundling in a short-fibre composite:1.Review of literature and development of a method for controlling the degree of bundling, Composites Sciences and Technology 63(2003)715-725、及び抄訳 甲第6号証:「TohoTenax フィラメントの特性 カタログ値」、2008年4月発行 甲第7号証:「東レ トレカ糸の特性 カタログ値」、2017年6月1日閲覧及び出力、URL:http://www.torayca.com/download/pdf/torayca.pdf 甲第8号証:国際公開第2012/165076号 甲第9号証:平成29年5月22日付けの植松愛作成の実験成績証明書1 甲第10号証:Lee T Harper,Thomas A Turner,Nicholas A Warrior,A RANDOM FIBRE NETWORK MODEL FOR PREDICTING THE STOCHASTIC EFFECTS OF DISCONTINUOUS FIBRE COMPSITES,16TH INTERNATIONAL CONFERENCE ON COMPOSITE MATERIALS、2007年、及び抄訳 甲第11号証:日本国語大事典 第二版 第八巻1064頁、2004年、小学館 甲第12号証:特開平9-267401号公報 甲第13号証:特開2008-132697号公報 甲第14号証:特開2008-246782号公報 甲第15号証:特開2012-236897号公報 なお、文献名の表記は概略特許異議申立書の記載に従った。 3 平成29年11月6日付けで通知した取消理由及び平成30年3月8日付けで通知した取消理由(決定の予告)の概要 (1)平成29年11月6日付けで通知した取消理由の概要 平成29年11月6日付けで通知した取消理由の概要は次のとおりである。なお、該取消理由は、訂正前の特許請求の範囲の請求項1ないし8に対するものである。 「1.(実施可能要件)本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 2.(明確性)本件特許の請求項7及び8に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 記 第1 手続の経緯 ・・・(略)・・・ 第2 本件特許発明 ・・・(略)・・・ 第3 理由1(実施可能要件)について 発明の詳細な説明の記載は以下の1ないし3の点で明確でなく、発明の詳細な説明に、本件特許発明1及び請求項1を引用する本件特許発明2ないし8が、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。 1 請求項1の記載によると、本件特許発明1は、「Mn/(Ln×D)が8.5×10-1(mg/mm2)以上の炭素繊維束(1)の炭素繊維全体重量に対する割合Y」、「炭素繊維束(1)のMn/Lnの平均値X」及び「炭素繊維束(1)の束を構成する繊維本数xn=Mn/(Ln×F)の標準偏差σ」(以下、「パラメータ(Y、X、σ)」という。)を特定の範囲に規定した発明である。 そして、これらの「パラメータ(Y、X、σ)」は、平成29年8月10日付け(受理日:同年8月14日)で特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)の第63ないし66ページで主張するとおり、原料として使用される炭素繊維束の性状及び炭素繊維複合材料の製造方法に依存するものであるが、炭素繊維束の性状及び炭素繊維複合材料の製造方法の何が「パラメータ(Y、X、σ)」にどのような影響を与えるのかについて、発明の詳細な説明に何ら記載されていないし、本件特許の出願時の技術常識ともいえないから、実施例以外に、どのような性状の炭素繊維束を使用し、どのような製造装置を使用し、どのような製造条件を採用すれば、「パラメータ(Y、X、σ)」を請求項1に記載された特定の範囲とすることができるのか、当業者といえども理解できない。 2 上記1のとおり、本件特許発明1は、「Mn/(Ln×D)が8.5×10-1(mg/mm2)以上の炭素繊維束(1)の炭素繊維全体重量に対する割合Y」、「炭素繊維束(1)のMn/Lnの平均値X」及び「炭素繊維束(1)の束を構成する繊維本数xn=Mn/(Ln×F)の標準偏差σ」が特定の範囲に規定された発明であるから、本件特許発明1を実施するには、炭素繊維束の重量Mnを測定して、炭素繊維束(1)とそれ以外の炭素繊維束を区分して測定する必要がある。 他方、発明の詳細な説明の【0047】には、「1/10000gまで測定が可能な天秤を用いて、個々の炭素繊維束の重量Mnと長さLnを測定する。」と記載されている。 しかし、特許異議申立書の第66及び67ページに記載されているとおり、「1/10000gまで測定が可能な天秤」では、炭素繊維束(1)とそれ以外の炭素繊維束を区分して測定することはできないから、どのようにして、炭素繊維束(1)とそれ以外の炭素繊維束を区分して測定するのか、当業者といえども理解できない。 3 請求項3によると、本件特許発明3は、「炭素繊維束(1)」の「25℃におけるドレープ値/曲げ剛性(cm/(Pa・cm4))」を特定の範囲に規定した発明であるから、本件特許発明3を実施するには、炭素繊維束(1)の25℃における「ドレープ値」を測定する必要がある。 そして、発明の詳細な説明の【0055】には「ドレープ値」の測定方法が記載されている。 しかし、特許異議申立人が特許異議申立書の第68及び69ページで主張するとおり、上記測定方法は、ボビンから引き出した段階の炭素繊維束のドレープ値の測定方法であって、一部が開繊しておりかつ樹脂を含浸した状態の炭素繊維束(1)のドレープ値の測定方法ではないから、発明の詳細な説明の記載では、どのようにして、炭素繊維束(1)の25℃における「ドレープ値」を測定するのか、当業者といえども理解できない。 第4 理由2(明確性)について 本件特許発明7は、請求項7の記載によると、「炭素繊維複合材料」という物の発明であるが、「カーディング工程によって得られた」との記載は、製造に関して技術的な特徴や条件が付された記載がある場合に該当するため、当該請求項にはその物の製造方法が記載されているといえる。 ここで、物の発明に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合において、当該特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情(以下「不可能・非実際的事情」という)が存在するときに限られると解するのが相当である(最高裁第二小法廷平成27年6月5日 平成24年(受)第1204号、平成24年(受)第2658号)。 しかしながら、本件特許の明細書等には不可能・非実際的事情について何ら記載がなく、当業者にとって不可能・非実際的事情が明らかであるともいえない。 したがって、本件特許発明7及び請求項7を引用する本件特許発明8は明確でない。 なお、特許異議申立書の記載も参照されたい。」 (2)平成30年3月8日付けで通知した取消理由(決定の予告)の概要 平成30年3月8日付けで通知した取消理由(決定の予告)の概要は次のとおりである。なお、該取消理由(決定の予告)は、訂正後の特許請求の範囲の請求項1、5及び8に対するものである。また、該取消理由(決定の予告)において採用した取消理由は、平成29年11月6日付けで通知した取消理由の内の「第3 理由1(実施可能要件)について」(以下、「理由1(実施可能要件)」のようにいう。)の「2」に相当する。 「3 取消理由についての判断 (1)取消理由1(実施可能要件)について ア 実施可能要件 物の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を製造し、使用することができる程度の記載があることを要する。 そこで、本件特許発明1、5及び8に関して、発明の詳細な説明の記載が、実施可能要件を充足するか否かを検討する。 イ 取消理由1で指摘した第3 2の点について (ア)請求項1の記載によると、本件特許発明1は、「Mn/(Ln×D)が8.5×10-1(mg/mm2)以上の炭素繊維束(1)の炭素繊維全体重量に対する割合Y」、「炭素繊維束(1)のMn/Lnの平均値X」及び「炭素繊維束(1)の束を構成する繊維本数xn=Mn/(Ln×F)の標準偏差σ」が特定の範囲に規定された発明であるから、本件特許発明1を実施するには、炭素繊維束の重量Mnを測定して、炭素繊維束(1)とそれ以外の炭素繊維束を区分して測定する必要がある。 (イ)他方、発明の詳細な説明には、次の記載がある。 ・・・(略)・・・ (ウ)【0056】、【0060】、【0063】及び【0081】の記載によると、【表1】の実施例2では、用いた炭素繊維束(A)の繊維径は5.5μmであり、繊維長は15mmである。したがって、本件特許発明1で規定される「(炭素繊維束重量)Mn」は、実施例2の場合は、以下の計算式より約0.070mgである。 Mn=8.5×10-1mg/mm2×Ln×D =8.5×10-1mg/mm2×15mm×5.5μm =約0.070mg (エ)そして、【0047】の記載によると、炭素繊維束の質量は、「1/10000gまで測定が可能な天秤」を用いて測定することになるが、当該天秤は、0.050mg~0.149mgまでを「1/10000g(=0.1mg)」と表記しているはずであり、これが測定限界である。そうすると、0.070mg以上の炭素繊維束(8.5×10-1mg/mm2以上の炭素繊維束)を繊維束(1)とすべきであるのに、0.050mg~0.069mgまでの繊維束(2)が混じったものを0.1mgとして測定してしまうことになる。 (オ)【0047】には、「Mn/(Ln×D)の値が8.5×10-1mg/mm2以上の繊維束を炭素繊維束(1)とし、炭素繊維束(1)の総重量MA、束総数Nを計算する。また、8.5×10-1mg/mm2未満の炭素繊維束を繊維束(2)とし、炭素繊維束(2)の総重量MBを計算する。」と記載されているが、0.070mg以上の繊維束と0.050mg~0.069mgの繊維束を区別して測定できない以上、炭素繊維束(1)と炭素繊維束(2)を区別することができず、炭素繊維束(1)の総重量MA及び束総数N並びに炭素繊維束(2)の総重量MBは計算できない。 ・・・(略)・・・ (キ)したがって、発明の詳細な説明の記載では、どのようにして、炭素繊維束(1)とそれ以外の炭素繊維束を区分して測定するのか、当業者といえども理解できないし、「1/10000gまで測定が可能な天秤」を用いて、0.070mg以上の炭素繊維束と0.050mg~0.069mgまでの繊維束を区別して測定する方法が、本件特許の出願時に当業者の技術常識であったともいえないので、発明の詳細な説明に、本件特許発明1の物の発明について、過度の試行錯誤を要することなく、その物を製造し、使用することができる程度の記載があるとはいえない。 (ク)請求項1を引用する本件特許発明5及び8についても同様である。 (ケ)よって、本件特許発明1、5及び8に関して、発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を充足しない。 (2)取消理由についての判断のむすび したがって、本件特許の請求項1、5及び8に係る特許は、取消理由1により、取り消すべきものである。」 4 平成29年11月6日付けで通知した取消理由及び平成30年3月8日付けで通知した取消理由(決定の予告)について (1)平成30年3月8日付けで通知した取消理由(決定の予告)について ア 実施可能要件の判断基準 物の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を製造し、使用することができる程度の記載があることを要する。 そこで、本件特許発明1、5及び8に関して、発明の詳細な説明の記載が、実施可能要件を充足するか否かを検討する。 イ 発明の詳細な説明の記載 発明の詳細な説明には、次の記載がある。 ・「【0008】 このような本発明に係る炭素繊維複合材料においては、上記した本発明で特定した範囲を満たすことにより、後述の実施例の結果に示すように、それを用いた成形の際に高い流動性を得ることができるとともに、成形品の高い機械特性を実現することができ、その機械特性のばらつきも少なく、例えばリブ等の細かい部位への優れた炭素繊維追従性を発現できる。 【0009】 上記本発明に係る炭素繊維複合材料においては、高い流動性と機械特性の両立をより確実に実現するために、上記炭素繊維束(1)のMn/Lnの平均値Xが、 1.5×10-2≦X≦5.5×10-2(mg/mm) の範囲にあることが好ましい。 【0010】 さらに本発明では、高い流動性と機械特性の両立をより確実に実現するために、上記炭素繊維束(1)の束を構成する繊維本数xn=Mn/(Ln×F)の標準偏差σが50≦σ≦400の範囲にある。なお、Fは炭素繊維繊度であり、繊維本数xnと標準偏差σの算出方法については後述する。 【0011】 また、とくにリブ等の細かい部位への優れた炭素繊維追従性をより確実に発現させるためには、上記炭素繊維束(1)が、25℃におけるドレープ値/曲げ剛性(cm/(Pa・cm4))が3.5×103~9.0×103(cm/(Pa・cm4))の範囲にある炭素繊維束から形成されていることが好ましい。なお、ドレープ値等の測定方法については後述する。 【0012】 また、とくに高い流動性をより確実に実現するために、上記炭素繊維束(1)における炭素繊維の繊維長Lnが5~25mmの範囲にあることが好ましい。 【0013】 また、とくに高い流動性と機械特性の両立をより確実に実現するために、上記炭素繊維束(1)の炭素繊維全体重量に対する割合Yは、好ましくは、 40≦Y≦65(wt%) の範囲にあることが望ましい。 【0014】 さらに、高い機械特性を実現しつつ良好な流動性をより確実に実現するために、上記炭素繊維束(1)を構成する炭素繊維の単糸曲げ剛性が1.0×10-11~2.8×10-11(Pa・m4)の範囲内にあることが好ましい。 【0015】 さらに、安定して高い機械特性を実現しつつ良好な流動性を実現するために、前記炭素繊維複合材料中の炭素繊維集合体がカーディング工程によって得られた炭素繊維不織布からなることが好ましい。 【0016】 また、炭素繊維の歩留りや厚みの異なる部分を有する成形品を容易に作れることから、前記炭素繊維複合材料が前記炭素繊維集合体に熱可塑性樹脂を含浸させたスタンパブルシートからなることが好ましい。 【発明の効果】 【0017】 このように、本発明に係る炭素繊維複合材料によれば、高流動性と機械特性を両立でき、機械特性のばらつきも少なく、細かい部位への炭素繊維追従性にも優れた炭素繊維複合材料を提供することができる。」 ・「【0021】 炭素繊維の単糸曲げ剛性は1.0×10-11~2.8×10-11Pa・m4の範囲内にあることが好ましく、より好ましくは1.0×10-11~1.5×10-11Pa・m4のものが好ましい。単糸曲げ剛性が上記範囲内にあることで後述する炭素繊維集合体を製造する工程において、得られる炭素繊維集合体の品質を安定させることができる。」 ・「【0027】 炭素繊維束は後述する炭素繊維集合体を得るために、炭素繊維束の硬さを表す指標であるドレープ値を単糸曲げ剛性で除した、ドレープ値/単糸曲げ剛性が3.5×103~9.0×103cm/(Pa・cm4)の範囲であることが好ましく、より好ましくは4.0×103~9.0×103cm/(Pa・cm4)の範囲である。ドレープ値/単糸曲げ剛性が3.5×103cm/(Pa・cm4)未満であると繊維の収束性が悪く、後述するカーディングやエアレイドなどの炭素繊維集合体を得る工程において繊維が開繊しやすく、炭素繊維複合材料にした際に成形性が悪化する場合があり、9.0×103cm/(Pa・cm4)を超えると炭素繊維複合材料にした際にマトリックス樹脂との濡れ性が悪化し、力学特性に劣る。」 ・「【0029】 炭素繊維集合体を得る工程としては、カーディングやエアレイドなどが挙げられる。本発明でいうカーディングとは、不連続な繊維の集合体をくし状のもので概略同一方向に力を加えることにより、不連続な繊維の方向を揃えたり、繊維を開繊する操作のことをいう。一般的には針状の突起を表面に多数備えたロール及び/またはのこぎりの刃状の突起を有するメタリックワイヤを巻きつけたロールを有するカーディング装置を用いて行う。 【0030】 かかるカーディングを実施するにあたっては、炭素繊維が折れるのを防ぐ目的で炭素繊維がカーディング装置の中に存在する時間(滞留時間)を短くすることが好ましい。具体的にはカーディング装置のシリンダーロールに巻かれたワイヤー上に存在する炭素繊維をできるだけ短時間でドッファーロールに移行させることか好ましい。従って、かかる移行を促進するためにシリンダーロールの回転数は、例えば150rpm以上といった高い回転数で回転させることが好ましい。また、同様の理由で、ドッファーロールの表面速度は例えば、10m/分以上といった速い速度が好ましい。 【0031】 炭素繊維束をカーディングする工程は特に制限がなく一般的なものを用いることが出来る。例えば、図1に示すように、カーディング装置1は、シリンダーロール2と、その外周面に近接して上流側に設けられたテイクインロール3と、テイクインロール3とは反対側の下流側においてシリンダーロール2の外周面に近接して設けられたドッファーロール4と、テイクインロール3とドッファーロール4との間においてシリンダーロール2の外周面に近接して設けられた複数のワーカーロール5と、ワーカーロール5に近接して設けられたストリッパーロール6と、テイクインロール3と近接して設けられたフィードロール7及びベルトコンベアー8とから主として構成されている。 【0032】 ベルトコンベアー8に不連続な炭素繊維束9が供給され、炭素繊維束9はフィードロールの外周面、次いでテイクインロール3の外周面を介してシリンダーロール2の外周面上に導入される。この段階までで炭素繊維束は解され、綿状の炭素繊維束の集合体となっている。シリンダーロール2の外周面上に導入された綿状の炭素繊維束の集合体は一部、ワーカーロール5の外周面上に巻き付くが、この炭素繊維はストリッパーロール6によって剥ぎ取られ再びシリンダーロール2の外周面上に戻される。フィードロール7、テイクイロール3、シリンダーロール2、ワーカーロール5、ストリッパーロール6のそれぞれのロールの外周面上には多数の針、突起が立った状態で存在しており、上記工程で炭素繊維束が針の作用により所定の束まで開繊され、ある程度配向される。かかる過程を経て所定の炭素繊維束まで開繊され、炭素繊維集合体の1形態であるシート状のウエブ10としてドッファーロール4の外周面上に移動する。」 ・「【0034】 また、ここでいう炭素繊維集合体とは、上記カーディングやエアレイドによって不連続な炭素繊維束が開繊・配向された状態で繊維同士の絡み合いや摩擦により形態を保持しているものをいい、薄いシート状のウエブやウエブを積層して必要に応じて絡合や接着させて得られる不織布等を例示することができる。得られる炭素繊維集合体は集合体の均一性の観点からはカーディングによって得ることが好ましく、炭素繊維の折れや曲がりを防ぐ観点からはエアレイドによって得られることが好ましい。 【0035】 炭素繊維集合体は、炭素繊維のみから構成されていてもよいが、熱可塑性樹脂繊維を含有せしめることもできる。熱可塑性樹脂繊維を添加することは、カーディングやエアレイドの工程において炭素繊維の破断を防ぐことができるので好ましい。炭素繊維は剛直で脆いため、絡まりにくく折れやすい。そのため、炭素繊維だけからなる炭素繊維集合体はその製造中に、切れやすかったり、炭素繊維が脱落しやすいという問題がある。そこで、柔軟で折れにくく、絡みやすい熱可塑性樹脂繊維を含むことにより、均一性が高い炭素繊維集合体を形成することができる。本発明において、炭素繊維集合体中に熱可塑性樹脂繊維を含む場合には、炭素繊維集合体中の炭素繊維の含有率は、好ましくは20~95質量%、より好ましくは50~95質量%、さらに好ましくは70~95質量%である。炭素繊維の割合が低いと炭素繊維複合材料としたときに高い機械特性を得ることが困難となり、逆に、熱可塑性樹脂繊維の割合が低すぎると、上記の炭素繊維集合体の均一性を高める効果が得られない。 【0036】 炭素繊維集合体中の炭素繊維束は、炭素繊維束のMn/(Ln×D)が8.5×10-1(mg/mm2)以上の炭素繊維束(1)とMn/(Ln×D)が8.5×10-1(mg/mm2)未満の単糸または炭素繊維束から構成され、炭素繊維束(1)の炭素繊維全体重量に対する割合Yが、 30≦Y<90(wt%) の範囲にあり、かつ、後述する炭素繊維束(1)のMn/Lnの平均値Xと前記Yが、 Y≧100X+30 を満たすこととで、高流動性と機械特性を両立でき、機械特性のばらつきも少なく、細かい部位への炭素繊維追従性にも優れた炭素繊維複合材料を得ることができる。 Mn:炭素繊維束重量 Ln:炭素繊維の繊維長 D:炭素繊維の繊維径 【0037】 上記割合Yは好ましくは35<Y≦80(wt%)とY≧100X+30を満たす範囲であり、更に好ましくは、38≦Y≦75とY≧100X+30を満たす範囲であり、より更に好ましくは40≦Y≦65(wt%)である。上記割合Yが30wt%および100X+30を下回ると繊維束同士の交絡数が増加し、流動性が悪化する。上記割合Yが90を超えると機械的特性が悪化し、機械的特性のばらつきが大きくなる。 【0038】 炭素繊維集合体中の前記炭素繊維束(1)のMn/Lnの平均値Xは、 1.1×10-2≦X≦8.1×10-2(mg/mm) の範囲を満たすことで、高流動性と機械特性を両立でき、機械特性のばらつきも少なく、細かい部位への炭素繊維追従性にも優れた炭素繊維複合材料を得ることができる。 【0039】 上記Mn/Lnの平均値Xは、好ましくは1.5×10-2≦X≦5.5×10-2(mg/mm)であり、更に好ましくは1.7×10-2≦X≦5.5×10-2(mg/mm)であり、より更に好ましくは1.9×10-2≦X≦5.5×10-2(mg/mm)である。上記Mn/Lnの平均値Xが1.1×10-2を下回ると繊維同士の交絡数が増加し、流動性が悪化する。上記Mn/Lnの平均値X8.1×10-2を超えると機械的特性とリブ等の細かい部位への炭素繊維追従性が悪化し、機械的特性のばらつきが大きくなる。 【0040】 炭素繊維集合体中の前記炭素繊維束(1)の後述する炭素繊維束を構成する炭素繊維本数xnの標準偏差σが50≦σ≦400の範囲を満たし、炭素繊維束が前記範囲に分散して分布することで、高流動性と機械特性を両立でき、機械特性のばらつきも少なく、細かい部位への炭素繊維追従性にも優れた炭素繊維複合材料を得ることができる。上記標準偏差σが50を下回ると、流動性が悪化し、前記標準偏差σが400を上回ると、機械的特性が悪化し、機械特性のばらつきも大きくなる。 F:炭素繊維の繊度」 ・「【0047】 次に、本発明の実施例、比較例について説明する。 先ず、実施例、比較例で用いた特性、測定方法について説明する。 (1)束の測定方法 炭素繊維複合材料から100mm×100mmのサンプルを切り出し、その後、サンプルを500℃に加熱した電気炉の中で1時間程度加熱してマトリックス樹脂等の有機物を焼き飛ばした。室温まで冷却した後に残った炭素繊維集合体の質量を測定した後に、炭素繊維集合体から炭素繊維束をピンセットで全て抽出した。抽出した全ての炭素繊維束について、1/10000gまで測定が可能な天秤を用いて、個々の炭素繊維束の重量Mnと長さLnを測定する。測定後、個々の束に対してMn/Ln、Mn/(Ln×D)、xn=Mn/(Ln×F)を計算する。ここでDとは炭素繊維直径であり、Fとは炭素繊維の繊度であり、xnは炭素繊維束の構成繊維本数である。Mn/(Ln×D)の値が8.5×10-1mg/mm2以上の繊維束を炭素繊維束(1)とし、炭素繊維束(1)の総重量MA、束総数Nを計算する。また、8.5×10-1mg/mm2未満の炭素繊維束を繊維束(2)とし、炭素繊維束(2)の総重量MBを計算する。ピンセットで抽出することの出来ない程度に開繊した繊維束はまとめて最後に重量を測定した。また、繊維長が短く、重量の測定が困難になる場合は繊維長を0.2mm程度の間隔で分類し、分類した複数本の束をまとめて重量を測定し、平均値を用いてもよい。全て分類し、計算後、炭素繊維束(1)に対してΣ(Mn/Ln)/N、x=Σ{Mn/(Ln×F)}/N、σ={1/N×Σ(xn-x)2}1/2を計算し、炭素繊維束(1)のMn/Lnの平均値Xと繊維束の構成繊維本数の平均値xと繊維束の構成繊維本数の標準偏差σを求める。なお、Nは炭素繊維(1)の束総数である。また、炭素繊維束全体重量に対する炭素繊維束(1)の割合は、 MA/(MA+MB)×100 によって求められる。」 ・「【0056】 まず、本発明の実施例、比較例で用いた炭素繊維束(カット前)について説明する。 炭素繊維束(A):繊維径5.5μm、引張弾性率294GPa、単糸曲げ剛性1.32×10-11Pa ・m4、フィラメント数24000本の連続した炭素繊維束に対し、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル100%成分(分子量=670)の水系サイジング剤(Sz剤)(A)を炭素繊維束に1.0重量%付着させた炭素繊維束(A)を得た。このときの炭素繊維束(A)のドレープ値は6.6cmであった。」 ・「【0060】 実施例1: 炭素繊維束(A)を繊維長10mmにカットし、カットした炭素繊維束とナイロン6短繊維(短繊維繊度1.7dtex、カット長51mm、捲縮数12山/25mm、捲縮率15%)を質量比で90:10の割合で混合し、カーディング装置に投入した。出てきたウェブをクロスラップし、炭素繊維とナイロン6繊維とからなる目付100g/cm2のシート状の炭素繊維集合体を形成した。 【0061】 シート状の炭素繊維集合体の巻取り方向を0°とし、炭素繊維集合体を12枚、(0°/90°/0°/90°/0°/90°)sとなるように積層し、さらに積層した炭素繊維集合体全体で、炭素繊維と熱可塑性樹脂の体積比が25:75となるようにナイロン樹脂メルトブロー不織布(「CM1001」、ηr=2.3、東レ(株)製)を積層した後に、全体をステンレス板で挟み、240℃で90s間予熱後、2.0MPaの圧力をかけながら180s間、240℃にてホットプレスした。ついで、加圧状態で50℃まで冷却し、厚さ2mmの炭素繊維複合材料の平板を得た。得られた平板の表層の0°方向に対して、0°と90°方向の曲げ強度を測定したところ、0°と90°方向の曲げ強度の平均値は450MPaであり、繊維利用率が18MPa/%、CV値が5%未満であった。 【0062】 得られた平板から100mm×100mmの寸法になるようにサンプルを切り出し、繊維束の測定、流動試験、リブ成形試験を行ったところ、炭素繊維全体重量に対する炭素繊維束(1)の割合Yが55wt%、M/Lの平均値Xは0.022mg/mm、標準偏差σは260であり、流動性は320%流動、リブ立ち上がり部の角まで炭素繊維が流動した良品を得ることができた。条件、測定、評価結果を表1に示す。」 【0063】 実施例2~10: 実施例1に対し、表1に示すように条件を変更した以外実施例1と同様にして炭素繊維複合材料の平板を得た。条件、測定、評価結果を表1に併せて示す。」 ・「【0081】 【表1】 」 ウ 検討 請求項1の記載によると、本件特許発明1は、「Mn/(Ln×D)が8.5×10-1(mg/mm2)以上の炭素繊維束(1)の炭素繊維全体重量に対する割合Y」、「炭素繊維束(1)のMn/Lnの平均値X」及び「炭素繊維束(1)の束を構成する繊維本数xn=Mn/(Ln×F)の標準偏差σ」が特定の範囲に規定された発明であるから、本件特許発明1を実施するには、炭素繊維束の重量Mnを測定して、炭素繊維束(1)とそれ以外の炭素繊維束を区分して測定する必要がある。 そして、これを踏まえ、当審は、平成30年3月8日付けで通知した取消理由(決定の予告)において、実施可能要件違反と判断した。 しかし、【0047】に「また、繊維長が短く、重量の測定が困難になる場合は繊維長を0.2mm程度の間隔で分類し、分類した複数本の束をまとめて重量を測定し、平均値を用いてもよい。」と記載されているように、「1/10000gまで測定が可能な天秤」によっては、個々の束の正確な測定が困難な場合には、繊維長を0.2mm程度の間隔で分類し、分類した複数本の束をまとめて重量を測定し、その平均値を個々の束の重量とみなすことによって、0.070mg以上の繊維束と0.050mg~0.069mgの繊維束を区別して測定し、【0047】の「Mn/(Ln×D)の値が8.5×10-1mg/mm2以上の繊維束を炭素繊維束(1)とし、炭素繊維束(1)の総重量MA、束総数Nを計算する。また、8.5×10-1mg/mm2未満の炭素繊維束を繊維束(2)とし、炭素繊維束(2)の総重量MBを計算する。」という記載に従い、炭素繊維束(1)の総重量MA及び束総数N並びに炭素繊維束(2)の総重量MBを計算することができる(なお、【0047】の上記記載は、繊維長が短く、重量の測定が困難になる場合の測定の方法を述べるものであるが、繊維長が所定の繊維長を満たす場合にも、この方法が適用できることは明らかである。)。 したがって、発明の詳細な説明に、どのようにして、炭素繊維束(1)とそれ以外の炭素繊維束を区分して測定するのか当業者が理解できるように記載されているといえ、発明の詳細な説明に、本件特許発明1の物の発明について、過度の試行錯誤を要することなく、その物を製造し、使用することができる程度の記載があるといえる。 また、請求項1を引用する本件特許発明5及び8についても同様である。 よって、本件特許発明1、5及び8に関して、発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を充足する。 エ 平成30年3月8日付けで通知した取消理由(決定の予告)についてのまとめ 以上のとおり、平成30年3月8日付けで通知した取消理由(決定の予告)によっては、本件特許の請求項1、5及び8に係る特許を取り消すことはできない。 (2)平成29年11月6日付けで通知した取消理由の内、平成30年3月8日付けで通知した取消理由(決定の予告)で採用しなかった取消理由について 平成29年11月6日付けで通知した取消理由の内、平成30年3月8日付けで通知した取消理由(決定の予告)で採用しなかった取消理由は、「理由1(実施可能要件)」の「1」及び「3」並びに「理由2(明確性)」である。 ア 「理由1(実施可能要件)」の「1」及び「3」について 実施可能要件の判断基準は、上記3(1)アのとおりである。 そこで、本件特許発明1、5及び8に関して、発明の詳細な説明の記載が、実施可能要件を充足するか否かを検討する。 (ア)「理由1(実施可能要件)」の「1」について 請求項1の記載によると、本件特許発明1は、「Mn/(Ln×D)が8.5×10-1(mg/mm2)以上の炭素繊維束(1)の炭素繊維全体重量に対する割合Y」、「炭素繊維束(1)のMn/Lnの平均値X」及び「炭素繊維束(1)の束を構成する繊維本数xn=Mn/(Ln×F)の標準偏差σ」(以下、「パラメータ(Y、X、σ)」という。)を特定の範囲に規定した発明である。 そして、これらの「パラメータ(Y、X、σ)」は、炭素繊維束の性状及び炭素繊維複合材料の製造方法に依存するものであり、これらについては、請求項1において、次の限定がされている。 ・限定1:「炭素繊維束(1)が、25℃におけるドレープ値/曲げ剛性(cm/(Pa・cm4))が3.5×103~9.0×103(cm/(Pa・cm4))の範囲にある炭素繊維束から形成されており」 ・限定2:「炭素繊維束(1)における炭素繊維の繊維長Lnが5~25mmの範囲にあり」 ・限定3:「炭素繊維束(1)を構成する炭素繊維の単糸曲げ剛性が1.0×10-11~2.8×10-11(Pa・m4)の範囲内にある」 ・限定4:「炭素繊維複合材料中の炭素繊維集合体がカーディング工程によって得られた炭素繊維不織布からなる」 他方、「パラメータ(Y、X、σ)」に関する規定及び限定1ないし4を含め、本件特許発明1の発明特定事項について、発明の詳細な説明の【0008】ないし【0017】、【0021】、【0027】、【0029】ないし【0032】及び【0034】ないし【0040】に、それらの具体的内容及び技術的意義、すなわち、「パラメータ(Y、X、σ)」は高流動性と機械特性を両立でき、機械特性のばらつきも少なく、細かい部位への炭素繊維追従性にも優れた炭素繊維複合材料を得るための条件であること、限定1はリブ等の細かい部位への優れた炭素繊維追従性をより確実に発現させるための条件であること、限定2は高い流動性をより確実に実現するための条件であること、限定3は炭素繊維集合体を製造する工程において、得られる炭素繊維集合体の品質を安定させるための条件であること、限定4は得られる炭素繊維集合体の均一性の観点から好ましい条件であること等の技術的意義が詳細に記載され、【0056】、【0060】ないし【0063】及び【0081】には、「パラメータ(Y、X、σ)」が特定の範囲に規定された物の具体的な製造例が実施例として詳細に記載されている。 したがって、どのようにすれば、「パラメータ(Y、X、σ)」を本件特許発明1における特定の範囲とすることができるのか当業者は理解できるというべきである。 なお、特許異議申立人は、「そうすると、実施例1と比較例1との記載をみても、如何なる相違が本件特許発明1に規定する(Y、X、σ)に影響するのかが明らかではない。比較例3~7についても同様のことがいえる。即ち、本件特許発明1を実施しようとする者、又は本件特許発明1の実施を避けようとする者は、どのようにすれば本件特許発明1に規定するパラメータ(Y、X、σ)を具備するのか理解できない。」(特許異議申立書第63ないし66ページ)旨主張するが、限定1ないし4の全ての条件を満足させるように、発明の詳細な説明に記載された実施例を参考に炭素繊維複合材料の製造条件(例えば、炭素繊維に施す電解処理等の表面処理の条件、炭素繊維に施すサイジング剤の種類・濃度、サイジング剤の乾燥温度・乾燥条件等のサイジング処理の条件、カーディング装置のシリンダーロールやドッファーロールの回転速度等)を調整すれば、本件特許発明1に規定する「パラメータ(Y、X、σ)」を具備するようにすることは、当業者が過度の試行錯誤を要することなく実施できるというべきであるので、特許異議申立人の上記主張は採用できない。 (イ)「理由1(実施可能要件)」の「3」について 請求項1によると、本件特許発明1は、「炭素繊維束(1)」の「25℃におけるドレープ値/曲げ剛性(cm/(Pa・cm4))が3.5×103~9.0×103(cm/(Pa・cm4))の範囲にある炭素繊維束から形成されており」(限定1)と規定した発明であり、限定1については、上記(ア)のとおり、発明の詳細な説明に、その具体的内容及び技術的意義が詳細に記載され、【0056】、【0060】ないし【0063】及び【0081】には、限定1を満たす物の具体的な製造例が実施例として詳細に記載されている。 したがって、どのようにすれば、「炭素繊維束(1)」の「25℃におけるドレープ値/曲げ剛性(cm/(Pa・cm4))」を特定の範囲とすることができるのか当業者は理解できるというべきである。 なお、特許異議申立人は、「本件特許発明3に記載の前記炭素繊維束(1)は、炭素繊維と熱可塑性樹脂が一体化した複合材料に含まれる一部が開繊した炭素繊維束であるにも拘わらず、本件明細書の段落0055に記載のドレープ値の測定方法では、「炭素繊維をボビンから引き出した炭素繊維束を40cmの長さにカット」して測定している。 本件特許発明の各請求項に記載の複合材料では、炭素繊維束(1)は、一部が開繊しておりかつ樹脂を含浸した状態にあるから、そのドレープ値は、炭素繊維をボビンから引き出した段階の炭素繊維束とは当然異なるものである。そのため、本件明細書の段落0055に記載の測定方法では、本件特許発明1に記載の複合材料中の炭素繊維束(1)のドレープ値を測定することは不可能である。 したがって、本件特許発明3におけるドレープ値が上記の測定方法による値を意味するのであれば、その測定値は、複合材料中に存在する炭素繊維束(1)のドレープ値とは明らかに異なるから、本件特許発明3における数値限定は、それ自体全く根拠がなく、本件特許にはドレープ値の測定方法を十分に記載していないといえる。」(特許異議申立書第68ページ)旨主張するが、請求項1に「前記炭素繊維束(1)が、25℃におけるドレープ値/曲げ剛性(cm/(Pa・cm4))が3.5×103~9.0×103(cm/(Pa・cm4))の範囲にある炭素繊維束から形成されており」(当審注:下線は当審で付した。)と記載されているように、本件特許発明1は、「炭素繊維束(1)」の原料となる炭素繊維束の「25℃におけるドレープ値/曲げ剛性(cm/(Pa・cm4))」が「3.5×103~9.0×103(cm/(Pa・cm4))の範囲」にあることを特定したものであり、特許異議申立人の主張するような「一部が開繊しておりかつ樹脂が複合した状態にある」「炭素繊維束(1)」の「25℃におけるドレープ値/曲げ剛性(cm/(Pa・cm4))」の値を特定したものではないので、「一部が開繊しておりかつ樹脂が複合した状態にある」「炭素繊維束(1)」のドレープ値を測定する必要はない。そして、原料となる炭素繊維束の「25℃におけるドレープ値」の測定方法は、発明の詳細な説明の【0055】に詳細に記載されている。したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。 (ウ)「理由1(実施可能要件)」の「1」及び「3」についてのまとめ したがって、発明の詳細な説明に、本件特許発明1の物の発明について、過度の試行錯誤を要することなく、その物を製造し、使用することができる程度の記載があるといえる。 また、請求項1を引用する本件特許発明5及び8についても同様である。 よって、本件特許発明1、5及び8に関して、発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を充足する。 イ 「理由2(明確性)」について (ア)明確性の判断基準 特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不等に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。 また、物の発明に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合において、当該特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情(以下「不可能・非実際的事情」という)が存在するときに限られると解するのが相当である(最高裁第二小法廷平成27年6月5日 平成24年(受)第1204号、平成24年(受)第2658号)。 そこで、検討する。 (イ)検討 本件特許発明1は、請求項1の記載によると、「炭素繊維複合材料」という物の発明であるが、「カーディング工程によって得られた」との記載は、製造に関して技術的な特徴や条件が付された記載がある場合に該当するため、当該請求項にはその物の製造方法が記載されているといえる。 そして、発明の詳細な説明の【0029】ないし【0032】に記載されているように、「カーディング」とは、「不連続な繊維の集合体をくし状のもので概略同一方向に力を加えることにより、不連続な繊維の方向を揃えたり、繊維を開繊する操作のこと」であり、また、発明の詳細な説明の【0034】に「得られる炭素繊維集合体は集合体の均一性の観点からはカーディングによって得ることが好ましく、炭素繊維の折れや曲がりを防ぐ観点からはエアレイドによって得られることが好ましい。」と記載されているように、集合体の均一性の観点から、「カーディング」を採用するものであるから、炭素繊維束(1)と炭素繊維束(2)とが混在する程度にばらつかせた状態にするため、投入段階の炭素繊維束(及び所定割合の熱可塑性樹脂)が同一条件であっても、投入する回毎に、開繊状態及び集合体の均一性には相応のばらつきが生じるものであり、当該物の構造を直接特定することには不可能・非実際的事情があるといえる。 したがって、本件特許発明1に関して、特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されているとしても、不可能・非実際的事情が存在するといえるから、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不等に害されるほどに不明確であるとはいえない。 なお、特許異議申立人は、「そうすると、Xのばらつきはσで表されているといえます。また、Yは炭素繊維全体重量に対する炭素繊維束(1)の割合であることから、この値も当然に標準偏差を求めることが可能です。 したがって、「Y、X、σの範囲でばらつくものであることから、当該物の構造を直接規定することには不可能・非実際的事情があり、「カーディング工程」により直接規定する以外の方法はない」とする特許権者の主張は成り立たないと思慮致します。」(平成30年2月2日提出の意見書第2ページ)旨主張するが、発明の詳細な説明の【0034】に「得られる炭素繊維集合体は集合体の均一性の観点からはカーディングによって得ることが好ましく、炭素繊維の折れや曲がりを防ぐ観点からはエアレイドによって得られることが好ましい。」と記載されているように、「カーディング」は、集合体の均一性に影響を及ぼすものであり、(Y、X、σ)に直接影響を及ぼすものではない。換言すれば、(Y、X、σ)とは直接的には関係がない。そして、上記のとおり、投入段階の炭素繊維束(及び所定割合の熱可塑性樹脂)が同一条件であっても、投入する回毎に、開繊状態及び集合体の均一性には相応のばらつきが生じるものであるから、当該物の構造の内、開繊状態及び均一性に関する構造を直接特定することには不可能・非実際的事情があるといえる。したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。 また、請求項1を引用する本件特許発明5及び8についても同様である。 (ウ)「理由2(明確性)」のまとめ よって、本件特許発明1、5及び8に関して、特許請求の範囲の記載は、明確性の要件に適合する。 ウ 平成29年11月6日付けで通知した取消理由の内、平成30年3月8日付けで通知した取消理由(決定の予告)で採用しなかった取消理由についてのまとめ 以上のとおり、平成29年11月6日付けで通知した取消理由の内、平成30年3月8日付けで通知した取消理由(決定の予告)で採用しなかった取消理由によっては、本件特許の請求項1、5及び8に係る特許を取り消すことはできない。 5 特許異議申立書に記載した理由の内、平成29年11月6日付けで通知した取消理由及び平成30年3月8日付けで通知した取消理由(決定の予告)で採用しなかった理由について 特許異議申立書に記載した理由の内、平成29年11月6日付けで通知した取消理由及び平成30年3月8日付けで通知した取消理由(決定の予告)で採用しなかった理由は、訂正前の特許請求の範囲の請求項1、2、4、5及び8に係る発明についての甲第1号証に基づく新規性違反及び訂正前の特許請求の範囲の請求項1ないし8に係る発明についての甲第1ないし15号証に基づく進歩性違反(主引用文献は甲第1号証である。)並びに訂正前の特許請求の範囲の請求項1ないし8に係る発明についての「繊維束」という記載に起因する明確性要件違反である。 そこで、検討する。 (1)新規性違反及び進歩性違反について ア 甲第1号証に記載された発明 甲第1号証の記載([請求項1]、[0001]、[0002]、[0021]、[0022]、[0036]ないし[0043]、[0053]ないし[0056]、[0091]、[0095]、[0096]、[0104]ないし[0108]、[0133]及び[0134]等)を整理すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲第1号証に記載された発明」という。なお、特許異議申立人は、甲第1号証の記載を摘記しているが、甲第1号証に記載された発明の具体的な認定を行っていない。)が記載されていると認める。 「平均繊維長10~100mmの強化繊維と熱可塑性樹脂とを含むランダムマットであって、 式(1)で定義される臨界単糸数以上で構成される強化繊維束(A)が、前記ランダムマットにおける繊維全量に対して20Vol%以上99Vol%未満含まれており、 かつ強化繊維束(A)における平均繊維数(N)が、下記式(2)を満たすランダムマット。 臨界単糸数=600/D            (1) 0.7×104/D2<N<1×105/D2   (2) (式(1)および式(2)中、Dは強化繊維の平均繊維径(μm)である)」 イ 対比・判断 (ア)対比 本件特許発明1と甲第1号証に記載された発明を対比する。 甲第1号証に記載された発明における「平均繊維長10~100mmの強化繊維と熱可塑性樹脂とを含む」は、本件特許発明1における「炭素繊維と熱可塑性樹脂から成り」に相当する。 甲第1号証に記載された発明における「臨界単糸数=600/D」を変形すると、Mn/(Ln×D)=8.5×10-1(mg/mm2)となるから、甲第1号証に記載された発明における「式(1)で定義される臨界単糸数以上で構成される強化繊維束(A)」は、本件特許発明1における「Mn/(Ln×D)が8.5×10-1(mg/mm2)以上の炭素繊維束(1)」に相当する。 甲第1号証に記載された発明における「前記ランダムマットにおける繊維全量に対して20Vol%以上99Vol%未満含まれており」は、本件特許発明1における「炭素繊維全体重量に対する割合Yが、30≦Y<90(wt%)」に相当する。 甲第1号証に記載された発明における「0.7×104/D2<N<1×105/D2」を変形すると、0.99×10-2≦Mn/Ln≦14.1×10-2[単位:mg/mm]となるから、甲第1号証に記載された発明における「0.7×104/D2<N<1×105/D2」は、本件特許発明1における「Mn/Lnの平均値Xが、1.5×10-2≦X≦5.5×10-2(mg/mm)」に相当する。 甲第1号証に記載された発明における「ランダムマット」は、本件特許発明1における「炭素繊維複合材料」に相当する。 したがって、両者は次の点で一致する。 「炭素繊維と熱可塑性樹脂から成り、Mn/(Ln×D)が8.5×10-1(mg/mm2)以上の炭素繊維束(1)の炭素繊維全体重量に対する割合Yが、 30≦Y<90(wt%) の範囲にあり、炭素繊維束(1)のMn/Lnの平均値Xが、 1.5×10-2≦X≦5.5×10-2(mg/mm) の範囲にある炭素繊維複合材料。 Mn:炭素繊維束重量 Ln:炭素繊維の繊維長 D:炭素繊維の繊維径」 そして、次の点で相違する。 <相違点1> 本件特許発明1においては、「前記Yが、Y≧100X+30を満たす」という事項を有しているのに対し、甲第1号証に記載された発明では特定されていない点(訂正前から有している相違点でもある。)。 <相違点2> 本件特許発明1においては、「炭素繊維束(1)の束を構成する繊維本数xn=Mn/(Ln×F)(当審注:Fは炭素繊維の繊度である。)の標準偏差σが、50≦σ≦400の範囲にあり」という事項を有しているのに対し、甲第1号証に記載された発明では特定されていない点(訂正前から有している相違点でもある。)。 <相違点3> 本件特許発明1においては、「炭素繊維束(1)が、25℃におけるドレープ値/曲げ剛性(cm/(Pa・cm4))が3.5×103~9.0×103(cm/(Pa・cm4))の範囲にある炭素繊維束から形成されており」という事項を有しているのに対し、甲第1号証に記載された発明では特定されていない点。 <相違点4> 本件特許発明1においては、「炭素繊維束(1)を構成する炭素繊維の単糸曲げ剛性が1.0×10-11~2.8×10-11(Pa・m4)の範囲内にある」という事項を有しているのに対し、甲第1号証に記載された発明では特定されていない点。 <相違点5> 本件特許発明1においては、「炭素繊維複合材料中の炭素繊維集合体がカーディング工程によって得られた炭素繊維不織布からなる」という事項を有しているのに対し、甲第1号証に記載された発明では特定されていない点。 (イ)判断 まず、新規性について検討する。 上記(ア)のとおり、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明と相違点1ないし5の点で相違する。 したがって、本件特許が優先権の効果が得られるものであるか否かにかかわらず、本件特許発明1並びに請求項1を引用する本件特許発明5及び8は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえない(なお、本件特許発明1は、特許異議申立人が新規性違反を主張していない訂正前の請求項6及び7に記載された発明特定事項を有するものである。)。 次に、進歩性について検討する。 甲第1号証には、甲第1号証に記載された発明の認定の基礎となる記載がある。 甲第2号証には、「炭素繊維束およびその開繊方法」に関して、「ドレープ値」の技術的意義及び測定方法が記載されている。 甲第3号証には、「炭素繊維束」に関して、「ドレープ値」の測定方法及び各種サイジング剤を調整して得られたドレープ値が3.5から16.1の炭素繊維束の特性評価が記載されている。 甲第4号証には、不連続炭素繊維をランダムに分散させた複合材料に関して、24000本の炭素繊維フィラメントを、4000~400本のフィラメントに開繊して複合材料を作成しており、フィラメントの数が少ないと、機械的物性が向上すること及び開繊後の炭素繊維束を構成する繊維本数は、当然分布を有していることが記載され、2種類の繊維の一般的な頻度分布と最適な機械的特性と低剥離のための理想的な分布を示す図が記載されている。 甲第5号証には、コンポジット中の繊維束の束(開繊)程度に関して、サイジング剤の比率を調整することで、繊維束内部に存在する繊維数を調整することが可能である旨記載されている。 甲第6号証は、甲第1号証の【0104】の実施例1の東邦テナックス社製の炭素繊維”テナックス”(登録商標)のカタログであり、STS40-24Kの引張強度は4000MPaであり、引張弾性率は240GPaであり、繊維直径は7μmであり、密度は1.75g/cm3であることが記載されている。 甲第7号証は、甲第3号証の【0108】の実施例の東レ(株)製T700S-12Kのカタログであり、東レ株式会社製のPAN系炭素繊維(T700SC-12000)の引張弾性率は230GPa、繊度texは800(g/1000m)、密度1.8(g/cm3)であることが記載されている。 甲第8号証には、「炭素繊維強化プラスチックおよびその製造方法」に関して、カーディング工程について記載されている。 甲第9号証は、特許異議申立人が作成した実験成績証明書であって、「実験者氏名」、「実験の目的」、「繊維束分布の検証」及び「添付資料」の項目及びそれらの内容が記載されている。 甲第10号証には、空気により開繊し、繊維束を小さな繊維束に分散させた具体例が写真とともに記載されている。 甲第11号証は、日本国語大辞典であって、「束」の意味が記載されている。 甲第12号証には、「FRP管およびその製造方法」に関して、その【0030】には、甲第3号証の【0108】の実施例の東レ株式会社製のPAN系炭素繊維(T700SC-12000)の単糸径が7μm、フィラメント数が12000本、繊度が800tex、密度が1.8g/cm3であることが記載されている。 甲第13号証には、「繊維強化樹脂およびその製造方法」に関して、その【0020】には、甲第3号証の【0108】の実施例の東レ株式会社製のPAN系炭素繊維(T700SC-12000)が、弾性率:230GPa、強度:4900MPa、繊度:800tex、フィラメント数:12000本であることが記載されている。 甲第14号証には、「繊維強化熱可塑性樹脂テープ製造装置及び繊維強化熱可塑性樹脂テープの製造方法」に関して、その【0041】には、甲第1号証の【0104】の実施例1の東邦テナックス社製の炭素繊維”テナックス”(登録商標)STS40-24KSの単糸径が7μm、フィラメント数が24000本、繊度が1.6g/mであることが記載されている。 甲第15号証には、「繊維強化樹脂成形用材料」に関して、その【0030】には、炭素繊維糸条(tenax(登録商標)STS40 F13 24K 1600tex)の引張弾性率は240GPaであることが記載されている。 甲第1ないし15号証の記載事項は上記のとおりであり、また、それにとどまるものであるから、甲第1号証に記載された発明において、少なくとも相違点2ないし4に係る発明特定事項を採用する動機付けとなる事項は、甲第1ないし15号証のいずれにも記載も示唆もされておらず、また、本件特許発明1により奏される「高流動性と機械特性を両立でき、機械特性のばらつきも少なく、細かい部位への炭素繊維追従性にも優れた炭素繊維複合材料を提供することができる」(本件特許明細書の【0017】)という効果も甲第1ないし15号証からみて格別顕著なものであることから、本件特許が優先権の効果が得られるものであるか否かにかかわらず、本件特許発明1並びに請求項1を引用する本件特許発明5及び8は、甲第1号証に記載された発明及び甲第1ないし15号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 なお、特許異議申立人は、相違点2に係る発明特定事項について、甲第1号証に記載された発明は、本件特許発明1、5及び8と実質的に同一の開繊方法により炭素繊維束を開繊しているので、甲第1号証に記載された発明においても、相違点2に係る発明特定事項を内在的に有している旨主張するが、訂正後は、開繊方法自体が甲第1号証に記載された空気開繊とは酷似するとはいえないカーディングに特定されたため、上記主張は採用できない。 また、特許異議申立人は、相違点2に係る発明特定事項について、甲第9号証を勘案すると、甲第1号証に記載された発明が内在的に有しているものである旨主張するが、甲第9号証は、甲第1号証に記載された実施例1及び5について、実際に実験して標準偏差を確認したものではないので、甲第9号証が甲第1号証に記載された実施例1及び5の正確な実験成績証明書であるとはいえず、上記主張も採用できない。 さらに、特許異議申立人は、相違点2に係る発明特定事項について、甲第4号証を勘案すると、甲第1号証に記載された発明においても、適宜設計できる事項である旨主張するが、甲第4号証は、甲第1号証に記載された実施例についての繊維束分布に関するものではなく、また、単に繊維束分布がどのようになるのかが描かれたものに過ぎないので、甲第1号証に記載された発明において、甲第4号証を勘案しても、相違点2に係る発明特定事項のように標準偏差を設計することが適宜設計できる事項であるとはいえず、上記主張も採用できない。 (2)明確性要件違反について 特許異議申立人の主張は、概略、訂正前の本件特許発明1ないし8における「繊維束」に関する定義が本件特許明細書の記載では不十分であり、そもそも用語自体の意味が明確でないというものであるが、本件特許明細書にその定義が記載されていないとしても、「束」という用語は、甲第11号証に「いくつかの物を一まとめにしてくくったもの。」と記載されているように日本語として明確であるし、本件特許明細書の【0047】等の記載からみて、本件特許発明1、5及び8の実施に際して、ピンセットで抽出した時に、ばらばらにならずに一まとめにしてくくったものとして抽出できるものが、本件特許発明1、5及び8における「繊維束」とされることも明らかである。 したがって、本件特許発明1、5及び8に関して、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不等に害されるほどに不明確であるとはいえない。 よって、甲第1号証に基づく新規性違反及び甲第1ないし15号証に基づく進歩性違反並びに明確性要件違反の主張はいずれも理由がなく、特許異議申立書に記載した理由の内、平成29年11月6日付けで通知した取消理由及び平成30年3月8日付けで通知した取消理由(決定の予告)で採用しなかった理由によっては、本件特許の請求項1、5及び8に係る特許を取り消すことはできない。 第4 結語 上記第3のとおり、本件特許の請求項1、5及び8に係る特許は、平成30年3月8日付けで通知した取消理由(決定の予告)及び平成29年11月6日付けで通知した取消理由並びに特許異議申立書に記載した理由によっては、取り消すことはできない。 また、他に、本件特許の請求項1、5及び8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 さらに、本件特許の請求項2ないし4、6及び7に係る特許は、訂正により削除されたため、本件特許の請求項2ないし4、6及び7に対して、特許異議申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2017-700781

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