特許異議申立
2017-700736
ヘリコプター、並びにその構造体の振動低減方法及び装置
- 審判番号
- 2017-700736
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2014-519620
- 登録番号
- 特許第6072786号(P6072786)
- 請求日
- 2017年07月27日
- 審決日
- 2018年02月21日
- 公報発行日
- 2018年04月27日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】アグスタウエストランド リミテッド
- 【権利者代理人】三好 秀和
- 【権利者代理人】伊藤 正和
- 【権利者代理人】原 裕子
- 【異議申立人】日高 賢治
- 審判長/審判官
- 審判長 中村 達之
- 審判官 小関 峰夫
- 審判官 内田 博之
- 分類
- P1651.121-Y (F16F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6072786号発明「ヘリコプター、並びにその構造体の振動低減方法及び装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6072786号の請求項に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6072786号の請求項1~16に係る特許についての出願は、2012年3月26日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2011年7月15日 英国(GB))を国際出願日とする出願であって、平成29年1月13日にその特許権の設定登録がされ、その後、平成29年7月27日に、その請求項1~16に係る特許について、特許異議申立人日高賢治(以下、「異議申立人」という。)により、特許異議の申立てがされ、同年10月26日付けで取消理由が通知され、平成30年1月29日に意見書が提出されたものである。
第2 本件発明
特許第6072786号の請求項1~16に係る発明(以下、「本件発明1」~「本件発明16」という。)は、それぞれその特許請求の範囲の請求項1~16に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
回転系を支持するか回転系によって支持される機体を含む構造体を備え、前記構造体の複数の部分が励起振動数で相対運動可能であるヘリコプターであって、
前記構造体の相対運動可能な複数の部分の間に接続された複数の電気静油圧アクチュエータと、
励起振動数に相当する振動数で前記電気静油圧アクチュエータを連続的に振動させるように動作可能な手段と、
前記回転系及び/又は前記機体の選択された位置に取り付けられ、回転中のそれぞれの前記選択された位置における動的変化を表す信号を生成するように適合された複数のセンサと、
前記センサからの信号を処理するように適合され、且つ前記電気静油圧アクチュエータによって生じた印加力の位相及び振幅を制御するための出力信号と、前記回転系の動的特性の変化を補償するように前記印加力の位相及び振幅の特性を変化させるための出力信号とを提供するように適合された処理手段と
を備え、それにより前記機体の振動の全体的なレベルを低減するヘリコプター。
【請求項2】
前記回転系は主支持回転翼である、請求項1に記載のヘリコプター。
【請求項3】
前記構造体の他の部分に対して運動可能な前記構造体の一部分が、前記回転系のエンジン、トランスミッション、及び支持構造のうちの1つ又は複数の組立体を含む、請求項1又は請求項2に記載のヘリコプター。
【請求項4】
前記センサは、力、ひずみ、加速度及び/又は速度の1つ以上を測定する、請求項1に記載のヘリコプター。
【請求項5】
前記電気静油圧アクチュエータは各々、シリンダ内に配置されたピストンと、ポンプに駆動接続された電気モータとを含み、
前記ポンプは、前記シリンダ内での前記ピストンの運動をもたらすために作動液を移動させるように動作可能である、請求項1から4のいずれか1項に記載のヘリコプター。
【請求項6】
前記ピストンは、前記ポンプによる作動液の第1チャンバへの移動が前記ピストンの第1方向の運動をもたらすように、且つ、前記ポンプによる作動液の第2チャンバへの移動が前記ピストンの第2方向の運動をもたらすように、前記シリンダを前記第1チャンバと前記第2チャンバとに分割する、請求項5に記載のヘリコプター。
【請求項7】
前記電気静油圧アクチュエータは、前記第1チャンバと前記第2チャンバとを互いに接続する流体導管を有し、
前記ポンプは作動液を前記第2チャンバから前記第1チャンバに向かって又は前記第1チャンバから前記第2チャンバに向かって移動させるために前記流体導管内に配置される、請求項5又は請求項6に記載のヘリコプター。
【請求項8】
前記電気静油圧アクチュエータは、前記アクチュエータ内の作動液を加圧するためにアキュムレータ又は柔軟壁を備えたチャンバを有する、請求項5から7のいずれか1項に記載のヘリコプター。
【請求項9】
前記アキュムレータは前記モータを含むチャンバに流体接続される、請求項8に記載のヘリコプター。
【請求項10】
各電気静油圧アクチュエータの電気モータ及びポンプは前記ピストン及び前記シリンダと一列に並んで配置される、請求項5から9のいずれか1項に記載のヘリコプター。
【請求項11】
各電気静油圧アクチュエータの電気モータ及びポンプは前記ピストン及び前記シリンダと並列に配置される、請求項5から9のいずれか1項に記載のヘリコプター。
【請求項12】
回転系を支持するか回転系によって支持される機体を含み且つ構造体の複数の部分が励起振動数で相対運動可能であるヘリコプター構造体において振動を低減する方法であって、
前記構造体の相対運動可能な複数の部分の間に複数の電気静油圧アクチュエータを接続するステップと、
励起振動数に相当する振動数で前記電気静油圧アクチュエータを振動させるステップと、
回転中の前記回転系上の複数の位置における動的変化を表す信号を生成するステップと、
処理手段に前記信号を供給するステップと
を含み、
前記処理手段は、前記電気静油圧アクチュエータによって生じた印加力の位相及び振幅を制御するための出力信号と、前記回転系の動的特性の変化を補償するように前記力の位相及び振幅の特性を変化させるための出力信号とを提供するように適合され、それにより前記機体の振動の全体的なレベルを低減する方法。
【請求項13】
前記回転系は複数の回転翼羽根を有するヘリコプターの主支持回転翼を備え、前記励起振動数は回転翼通過振動数に相当する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記電気静油圧アクチュエータは請求項5から11のいずれか1項に記載の特徴を有する、請求項12又は請求項13に記載の方法。
【請求項15】
回転系を支持するか回転系によって支持される機体を含み且つ構造体の複数の部分が励起振動数で相対運動可能であるヘリコプターの構造体の振動を低減する装置であって、
前記構造体の相対運動可能な複数の部分の間に接続されるように適合された複数の電気静油圧アクチュエータと、
使用時に励起振動数に相当する振動数で前記電気静油圧アクチュエータを連続的に振動させる手段と、
前記回転系上の選択された位置で前記回転系及び/又は前記機体に取り付けられるように適合され、使用時に回転中のそれぞれの前記選択された位置における動的変化を表す信号を生成するように適合された複数のセンサと
を含み、
更に、前記センサからの信号を処理するように適合され、且つ前記電気静油圧アクチュエータによって生じた印加力の位相及び振幅を制御するための出力信号と、前記回転系の動的特性の変化を補償するように前記力の位相及び振幅の特性を変化させるための出力信号とを提供するように適合された処理手段を含む装置。
【請求項16】
前記電気静油圧アクチュエータは請求項5から11のいずれか1項に記載の特徴を有する、請求項15に記載の装置。」
第3 取消理由の概要
当審において、請求項1~16に係る特許に対して通知した取消理由の要旨は、つぎのとおりである。
本件発明1~16は、本件特許の優先日前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
甲第1号証:特許第4042922号公報
甲第2号証:米国特許出願公開第2005/0212523号明細書
甲第3号証:米国特許出願公開第2010/0170999号明細書
甲第4号証:特開2005-8129号公報
甲第5号証:Xavier Le tron“A380 Flight Controls overview”,Airbus S.A.S,平成19年(2007)9月27日、インターネット<[URL]http://www.fzt.haw-hamburg.de/pers/Scholz/dglr/hh/text_2007_09_27_A380_Flight_Controls.pdf>
甲第6号証:Kyoung Taik Park,Han Me Kim,“ROBUST POSITION CONTROL OF ELECTRO HYDROSTATIC ACTUATOR WITH SYSTEM UNCERTAINTIES USING SLIDING MODE CONTROL AND NEURAL NETWORKS ALGORITHM”,28th International Symposium on Automation and Robotics in Construction(ISARC2011),第1255~1260ページ、平成23年(2011)6月29日~7月2日、大韓民国ソウル市開催、インターネット<[URL]http://www.iaarc.org/publications/fulltext/P1-9.pdf,http://www.iaarc.org/news/a_news_2011_06_29.pdf(開催日、開催場所),http://www.iaarc.org/publications/proceedings_of_the_28th_isarc/robust_position_control_of_electro_hydrostatic_actuator_with_system_uncertainties_using_sliding_mode_control_and_neural_networks_algorithm.html(もくじ)>
第4 各甲号証の記載
1 甲第1号証
甲第1号証には、「ヘリコプタ構造並びにその振動の減少方法及び装置」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。
(1)「【請求項1】
回転系を支持するか該回転系により支持される機体を含む構造からなり、前記回転系はサステイニング用の主ロータであり、前記回転系は複数のブレードが取り付けられるロータヘッドを備え、前記構造は、励振周波数で相対運動が可能なパーツを有すると共に、該パーツ間に接続される複数のアクチュエータを有するヘリコプタであって、
前記励振周波数に実質的に相当する周波数で前記アクチュエータを連続的に振動させる振動手段と、
前記ロータヘッド上に取り付けられ、回転中に選択された位置での動的変化を表す信号を発生するようになっている複数のセンサーと、
該センサーからの前記信号を処理して、前記アクチュエータにより発生される付与力の位相及び大きさを制御すると共に、前記回転系の動的特性の変化を補償して前記機体の全振動レベルを減少するように前記付与力の位相及び大きさの特性を変更するために出力信号を発生する処理装置と
を備えるヘリコプタ。
【請求項2】
前記構造の1つのパーツは、前記構造の別のパーツに関して相対運動が可能であって、前記回転系のエンジン、トランスミッション及び支持構造のうちの1つから、或いは1つ以上の組み合わせからなる請求項1記載のヘリコプタ。
・・・(中略)・・・
【請求項6】
前記アクチュエータの各々は電気油圧式のアクチュエータである請求項1~5のいずれか1つに記載のヘリコプタ。
・・・(中略)・・・
【請求項9】
前記センサーは加速度計である請求項1~8のいずれか1つに記載のヘリコプタ。
・・・(中略)・・・
【請求項11】
回転系を支持するか該回転系により支持される機体を含むヘリコプタ構造であって、サステイニング用の主ロータを有し、前記回転系は複数のブレードが取り付けられるロータヘッドを備え、前記ヘリコプタ構造のパーツが励振周波数で相対運動が可能である前記ヘリコプタ構造の振動を減少するために、
前記ヘリコプタ構造の前記相対運動が可能なパーツ間に接続されるようになっている複数のアクチュエータと、
使用時に、前記励振周波数に実質的に相当する周波数で前記アクチュエータを連続的に振動させる振動手段と、
前記ロータヘッド上に取り付けられ、回転中に選択された位置での動的変化を表す信号を使用時に発生するようになっている複数のセンサーと、
該センサーからの前記信号を処理して、前記アクチュエータにより発生される付与力の位相及び大きさを制御すると共に、前記回転系の動的特性の変化を補償するように前記付与力の位相及び大きさの特性を変更するために出力信号を発生するようになっている処理装置と
を備える、ヘリコプタ構造の振動減少装置。
【請求項12】
前記アクチュエータは電気油圧式アクチュエータである請求項11記載の振動減少装置。
【請求項13】
前記センサーは加速度計である請求項11又は請求項12記載の振動減少装置。」
(2)「【0014】
ヘリコプタ構造の相対運動が可能なパーツ間に力を付与しうるアクチュエータなら任意の種類のものを使用しうるが、各アクチュエータは電気油圧式のアクチュエータであることが好ましい。」
(3)「【0019】
【発明の実施の形態】
図1及び図2を参照すると、符号10で総括的に示されたヘリコプタの構造は、筏状の枠体17からなる支持構造によって支持されたさサステイニング用の主ロータ11と、トルク平衡ロータ14を支持して後方に延びる尾部13を有するヘリコプタ機体12とを備える回転系を含んでいる。」
(4)「【0024】
加速度計21は、機体12に支持されるコンピュータ22からなる処理装置に電気的に接続される。該コンピュータ22は、アクチュエータ19によって発生され付与される振動力の位相及び大きさを制御すると共に、この付与力もしくは振動力の位相及び大きさの特性を変化するために、出力信号を出すようになっている。運転中、例えば、前進飛行の際の非対称な空気流のために、振動力が主ロータ11によって発生される。主ロータ11が回転するときに生ずるこの振動力は、補償系が設けられていない場合には、枠体17から機体12に伝達される。これらの振動力とそれに関連したモーメントは、ブレード通過周波数及びその調和周波数で主として生じる。ブレード通過周波数とは、主ロータ11の回転速度とロータブレードの枚数の積である。」
(5)「【0026】
アクチュエータ19は、主ロータ11の回転により枠体17に生ずる振動を相殺するために機体12及び枠体17間に1組の力を付与するように、コンピュータ22によって制御された周波数で振動される。従って、ブレード通過周波数が21Hzである場合、電気油圧式のアクチュエータ19は約21Hzの周波数で連続的に振動される。」
(6)「【0040】
いずれの場合も、センサーは加速度計21,21’であることが好ましいが、1つ以上又は全てのセンサーを例えば、主ロータ11,11’のロータ駆動軸D(図1),D’(図3)に装着されて同駆動軸D,D’の例えば曲がりを測定する歪ゲージ、或いは変位変換器とすることができる。加速度計は、コンパクトであり、信頼性が高く、しかも設置が容易であるので好ましいが、反対に、歪ゲージは実施可能なセンサーとするには外力や疲労に対して損傷し易く、一方、変位変換器は使用中における摩耗や信頼上の問題がある。」
上記の記載事項及び図面の記載を総合すると、甲第1号証には、図1及び図2に示される実施例として、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「回転系を支持するか回転系によって支持される機体12を含む構造10を備え、前記構造10のパーツが励起周波数で相対運動が可能であるヘリコプターであって、
前記構造10の相対運動が可能なパーツ間に接続された複数の電気油圧式アクチュエータ19と、
励振周波数に実質的に相当する周波数で前記電気油圧式アクチュエータ19を連続的に振動させる振動手段20と、
ロータヘッド上に取り付けられ、回転中に選択された位置での動的変化を表す信号を発生するようになっている複数のセンサー21と、
前記センサー21からの信号を処理して、且つ前記電気油圧式アクチュエータ19により発生される付与力の位相及び大きさを制御すると共に、前記回転系の動的特性の変化を補償するように前記付与力の位相及び大きさの特性を変更するために出力信号を発生する処理装置22と
を備え、それにより前記機体12の全振動レベルを減少するヘリコプター。」
2 甲第2号証
甲第2号証(特に、段落[0003]を参照。)には、宇宙機、軍用飛行体、及び民間航空機のような、飛行及び基幹システムに対して、電気機械式アクチュエータ(EMA)、及び電気静油圧式アクチュエータ(EHA)の使用が増加していることが記載されている(以下、「甲第2号証記載事項」という。)。
3 甲第3号証
甲第3号証(特に、段落[0003]~[0005]を参照。)には、旅客機に用いられる飛行制御アーキテクチャにおいて、2つのアクチュエータが同じ操縦翼面に接続されるときには、優先的に、電気静油圧式アクチュエータ(EHA)が用いられる油圧サーボ制御、あるいは電気バックアップ油圧アクチュエータ(EBHA)が用いられることが記載されている(以下、「甲第3号証記載事項」という。)。
4 甲第4号証
甲第4号証には、「移動体とそのブレーキシステムと脚揚降システムとステアリングシステム」に関して、図面とともに次の事項が記載されている(以下、「甲第4号証記載事項」という。)。
「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、有人または無人で操縦される移動体とそのブレーキシステムと脚揚降システムとステアリングシステムに係る。特に、有人または無人の飛行機、ヘリコプタ、磁気浮上列車、その他の、浮遊して移動する移動体に好適なブレーキシステムと脚揚降システムとステアリングシステムに関する。
【0002】
【従来の技術】
航空機技術の世界では、次世代信頼性飛行制御システムとしてEMA(Electro Mechanical Actuator)、EHA(ElectroHydrostatic Actuator)の研究開発が世界的な流れになっていいる。一方、降着装置の揚降系統は依然として油圧アクチエータが主流である。降着装置に使用する油量の航空機全体の消費油量に占める割合が大きく、機体油圧系統への重量・容量・消費エネルギーに対する負担を大きくしている。
【0003】
現在の中型以上の航空機は油圧系統を装備し、その油圧系統の発生する油圧力を利用して舵面の操作、降着装置の揚降、ブレーキ及び前脚ステアリング操作を行なっている。舵面の操作系は、EHAもしくはEMAの採用によって、油圧系統から独立した。航空機のEHAもしくはEMA化は油圧系統を航空機からなくすのを目的としているが、降着装置の揚降、ブレーキ及び前脚ステアリング操作は依然として油圧系統を必要としている。航空機を全電気化することが大きな目標であり、そのために、降着装置のEHAもしくはEMA化が望まれている。しかし、現在のところ、降着装置のEHAもしくはEMA化が進んでいない。」
5 甲第5号証
甲第5号証(特に、6ページを参照。)には、A380の主操縦系統に用いられるElectro-Hydrostatic Actuator(EHA)の模式的構成が記載されている(以下、「甲第5号証記載事項」という。)。
6 甲第6号証
甲第6号証の1256ページのFig.1には、電気サーボモータ、双方向ギアポンプ、及びアクチュエータで構成されるEHAシステムの簡略図が示されており、また、1256ページ左欄下から3行~右欄5行には、Fig.1についての説明として、電気サーボモータは、双方向ギアポンプを回転させて、流速を生成し、この流速によって生成した圧力は、ピストンロッドの位置を変化させ、ピストンの移動方向は、サーボモータの回転方向に関係していることが記載されている(以下、「甲第6号証記載事項」という。)。
第5 判断
1 本件発明1について
本件発明1と引用発明とを対比する。
引用発明の「機体12」は、本件発明1の「機体」に相当する。
以下同様に、「構造10」は、「構造体」に、
「パーツ」は、「複数の部分」に、
「励起周波数」は、「励起振動数」に、
「相対運動が可能」であることは、「相対運動可能」であることに、
「パーツ間に接続され」ることは、「複数の部分の間に接続され」ることに、
「連続的に振動させる振動手段20」は、「連続的に振動させるように動作可能な手段」に、
「ロータヘッド上に取り付けられ」ることは、「回転系及び/又は前記機体の選択された位置に取り付けられ」ることに、
「回転中に選択された位置での動的変化を表す信号を発生するようになっている複数のセンサー21」は、「回転中のそれぞれの前記選択された位置における動的変化を表す信号を生成するように適合された複数のセンサ」に、
「センサー21からの信号を処理」することは、「センサからの信号を処理するように適合され」ることに、
「発生される付与力の位相及び大きさを制御する」ことは、「生じた印加力の位相及び振幅を制御する」ことに、
「回転系の動的特性の変化を補償」することは、「回転系の動的特性の変化を補償」することに、
「前記付与力の位相及び大きさの特性を変更するために出力信号を発生する」ことは、「前記印加力の位相及び振幅の特性を変化させるための出力信号とを提供する」ことに、
「機体12の全振動レベルを減少する」ことは、「機体の振動の全体的なレベルを低減する」ことに、それぞれ相当する。
また、引用発明の、励振周波数に実質的に相当する周波数で、連続的に振動させる「電気油圧式アクチュエータ19」と、本件発明1の、励起振動数に相当する振動数で、連続的に振動させる「電気静油圧アクチュエータ」とは、励起振動数に相当する振動数で、連続的に振動させる「アクチュエータ」である点で共通する。
そして、引用発明の「電気油圧式アクチュエータ19により発生される付与力の位相及び大きさを制御すると共に、前記回転系の動的特性の変化を補償するように前記付与力の位相及び大きさの特性を変更するために出力信号を発生する処理装置22」は、「アクチュエータによって生じた印加力の位相及び振幅を制御するための出力信号と、前記回転系の動的特性の変化を補償するように前記印加力の位相及び振幅の特性を変化させるための出力信号とを提供するように適合された処理手段」ということができる。
以上のことから、本件発明1と引用発明とは次の点で一致する。
[一致点]
「回転系を支持するか回転系によって支持される機体を含む構造体を備え、前記構造体の複数の部分が励起振動数で相対運動可能であるヘリコプターであって、
前記構造体の相対運動可能な複数の部分の間に接続された複数のアクチュエータと、
励起振動数に相当する振動数で前記アクチュエータを連続的に振動させるように動作可能な手段と、
前記回転系及び/又は前記機体の選択された位置に取り付けられ、回転中のそれぞれの前記選択された位置における動的変化を表す信号を生成するように適合された複数のセンサと、
前記センサからの信号を処理するように適合され、且つ前記アクチュエータによって生じた印加力の位相及び振幅を制御するための出力信号と、前記回転系の動的特性の変化を補償するように前記印加力の位相及び振幅の特性を変化させるための出力信号とを提供するように適合された処理手段と
を備え、それにより前記機体の振動の全体的なレベルを低減するヘリコプター。」
一方で、両者は次の点で相違する。
[相違点]
励起振動数に相当する振動数で、連続的に振動させる「アクチュエータ」について、本件発明1においては、「電気静油圧アクチュエータ」であるのに対して、
引用発明においては、「電気油圧式アクチュエータ19」である点。
上記相違点について検討する。
甲第2号証記載事項は、宇宙機、軍用飛行体、及び民間航空機の飛行及び基幹システムに対して、電気静油圧式アクチュエータ(EHA)の使用を開示しているものの、振動減衰のためのアクチュエータとして「電気静油圧式アクチュエータ」を用いることを示唆するものではない。
甲第3号証記載事項は、旅客機に用いられる飛行制御アーキテクチャにおいて、電気静油圧式アクチュエータ(EHA)が用いられる油圧サーボ制御を、操縦翼面に接続することを開示しているものの、振動減衰のためのアクチュエータとして「電気静油圧式アクチュエータ」を用いることを示唆するものではない。
甲第4号証記載事項は、航空機の舵面の操作、降着装置の揚降、ブレーキ及び前脚ステアリング操作に、電気静油圧式アクチュエータ(EHA)を用いることを開示しているものの、振動減衰のためのアクチュエータとして「電気静油圧式アクチュエータ」を用いることを示唆するものではない。
甲第5号証記載事項は、A380(航空機)の主操縦系統に、電気静油圧式アクチュエータ(EHA)を用いることを開示しているものの、振動減衰のためのアクチュエータとして「電気静油圧式アクチュエータ」を用いることを示唆するものではない。
甲第6号証記載事項は、EHA(電気静油圧式アクチュエータ)システムについて開示しているものの、振動減衰のためのアクチュエータとして「電気静油圧式アクチュエータ」を用いることを示唆するものではない。
また、甲第2~6号証記載事項には、航空機の制御・操作等を用途とするアクチュエータとして、電気静油圧式アクチュエータを用いることが開示されているものの、上記用途においてアクチュエータに要求される作動は、所望位置に動かす力があれば十分で、パイロットの入力に基いて、一度に一方向に動くことはあっても、短時間の間に繰り返しの前後動をすることはない。
一方、引用発明において電気油圧式アクチュエータ19に要求される作動は、振動減衰のために、例えば21Hzの周波数で連続的に振動されるものである(「第4 1(5)」を参照。)。
このように、甲第2~6号証記載事項における電気静油圧式アクチュエータと、引用発明における振動減衰のための電気油圧式アクチュエータ19とは、その要求される作動が異なるから、甲第2~6号証記載事項における電気静油圧式アクチュエータを、そのまま引用発明のアクチュエータとして利用できるとはいえず、引用発明において、電気油圧式アクチュエータ19を電気静油圧式アクチュエータに置き換える動機付けがあるとはいえない。
以上のことから、上記相違点にかかる本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
したがって、本件発明1は、引用発明及び甲第2~6号証記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
2 本件発明2~11について
本件発明2~11は、本件発明1を更に減縮したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、引用発明及び甲第2~6号証記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
3 本件発明12について
本件発明12は、本件発明1に対応する方法の発明であり、本件発明1の、励起振動数に相当する振動数で振動させる「電気静油圧アクチュエータ」に対応する構成を備えるものであるから、本件発明1についての判断と同様の理由により、引用発明及び甲第2~6号証記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
4 本件発明13及び14について
本件発明13及び14は、本件発明12を更に減縮したものであるから、上記本件発明12についての判断と同様の理由により、引用発明及び甲第2~6号証記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
5 本件発明15について
本件発明15は、本件発明1と同一の構成である、励起振動数に相当する振動数で、連続的に振動させる「電気静油圧アクチュエータ」との事項を備えるものであるから、本件発明1についての判断と同様の理由により、引用発明及び甲第2~6号証記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
6 本件発明16について
本件発明16は、本件発明15を更に減縮したものであるから、上記本件発明15についての判断と同様の理由により、引用発明及び甲第2~6号証記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1~16に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~16に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2017-700736