特許異議申立
2017-700602
金属加工用潤滑油組成物
- 審判番号
- 2017-700602
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2013-210796
- 登録番号
- 特許第6043708号(P6043708)
- 請求日
- 2017年06月14日
- 審決日
- 2017年09月07日
- 公報発行日
- 2017年10月27日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】JXTGエネルギー株式会社
- 【権利者代理人】森田 順之
- 【異議申立人】木下 淳
- 審判長/審判官
- 審判長 冨士 良宏
- 審判官 日比野 隆治
- 審判官 天野 宏樹
- 分類
- P1651.121-Y (C10M)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6043708号発明「金属加工用潤滑油組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6043708号の請求項1、2に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本件特許異議の申立てに係る特許第6043708号の請求項1、2に係る特許(以下、それぞれ「本件特許1」、「本件特許2」という。)についての出願は、平成25年10月8日に特許出願され、平成28年11月18日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人 木下淳により特許異議の申立てがされたものである。
第2 本件発明
本件特許1、2に係る請求項1、2の発明(以下、それぞれ「本件発明1」、「本件発明2」という。)は、本件特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項に特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
潤滑油基油、(A)硫黄の架橋数が4以上のものが50モル%以上を占めるジ-tert-オクチルポリサルファイドまたはジ-sec-ドデシルポリサルファイドおよび(B)金属比が6以上の金属系清浄剤を含有する金属加工用潤滑油組成物。
【請求項2】
前記金属系清浄剤がカルシウムスルホネートであることを特徴とする請求項1に記載の金属加工用潤滑油組成物。」
第3 特許異議申立人からの申立理由
1 申立理由の概要
特許異議申立人からの申立理由は、おおむね次のとおりである。
本件特許1、2は、特許法第29条第2項の規定(進歩性)に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当するため、取り消すべきものである。
2 提出された証拠
特許異議申立人が提出した証拠は、次のとおりである。
(1) 甲第1号証:特開2011-1516号公報
(2) 甲第2号証:特開2003-253287号公報
(3) 甲第3号証:東亞合成研究年報TREND 2003年 第6号
p.54~57
第4 進歩性についての当審の判断
1 甲各号証に記載された事項
(1) 甲第1号証の記載事項
甲第1号証には、特許異議申立人が指摘するとおり、次の事項が記載されている。
・「【請求項1】
鉱物油及び/又は合成油からなる潤滑基油と、組成物全量基準で0.8質量%以上1.8質量%以下の硫黄分となる硫黄系極圧添加剤と、組成物全量基準で3質量%以上13質量%以下の過塩基性金属スルホネートと、を含有している、金属加工用油剤組成物。」
・「【0017】
(硫黄系極圧添加剤)
硫黄系極圧添加剤としては、分子内に硫黄原子を有し、潤滑基油に溶解又は均一に分散して極圧効果を発揮しうるものを用いることができる。このような硫黄系極圧添加剤の具体例としては、硫化油脂、硫化脂肪酸、硫化エステル、硫化オレフィン、ポリサルファイド類、チオカーバメート類、硫化鉱油などを挙げることができる。」
・「【0022】
ポリサルファイド類の具体例としては、ジベンジルポリサルファイド、ジ-tert-ノニルポリサルファイド、ジドデシルポリサルファイド、ジ-tert-ブチルポリサルファイド、ジオクチルポリサルファイド、ジフェニルポリサルファイド、ジシクロヘキシルポリサルファイドなどを挙げることができる。」
・「【0026】
(過塩基性金属スルホネート)
過塩基性金属スルホネートとしては、塩基価(JIS K-2501過塩素酸法による)が100mgKOH/g以上、好ましくは200~600mgKOH/gの範囲にある、カリウムスルホネート、ナトリウムスルホネート、カルシウムスルホネート、マグネシウムスルホネート、バリウムスルホネート等などが用いられる。該塩基価が100mgKOH/g未満では、使用中に劣化により発生する酸性物質に起因する被加工物の錆を充分に防止できない上、廃油の焼却の際には、腐食により炉の破損を生じる虞がある。」
(2) 甲第2号証の記載事項
甲第2号証には、特許異議申立人が指摘するとおり、次の事項が記載されている。
・「【請求項1】 活性硫黄の含有量が1%以上である含硫黄化合物(A)、及び過塩基性金属スルフォネート(B)を含有し、且つ塩素成分を含有しないことを特徴とする打抜き加工用潤滑油組成物。」
・「【0007】
【発明の実施の形態】本発明を更に詳しく説明する。上記成分(A)の含硫黄化合物は、分子内に活性硫黄を含有し、ASTM D1622に準じて測定されたその含有量が1重量%以上(特に3重量%以上)であれば特に限定されない。上記活性硫黄の含有量は、好ましくは1~30重量%、より好ましくは3~25重量%、更に好ましくは5~25重量%である。本発明の打抜き加工用潤滑油組成物に、活性硫黄を有する含硫黄化合物を含む場合、特に打抜きに要する荷重を低下させ、耐焼付き性が向上する。上記活性硫黄の含有量が少なすぎると、打抜きに要する荷重が増大し、バリ・焼付きが発生する傾向にある。上記成分(A)としては、通常、潤滑剤、離型剤、作動油等に用いられているものであれば特に限定されない。その例としては、ポリスルフィド、硫化鉱油、硫化エステル、硫化脂肪油、硫化オレフィン等が挙げられる。上記ポリスルフィドは、通常、一般式R5-Sx-R6で表されるものである。ここで、R5及びR6は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アルキルアリール基のいずれかである。上記アルキル基、アルケニル基、アリール基及びアルキルアリール基の炭素数は、好ましくは1~30であり、より好ましくは5~20である。これらの有機基は極性基等を有するものであってもよい。また、xは2以上であり、好ましくは3~8、より好ましくは3~6である。S数が多いほど活性硫黄の含有量が多く好ましい。上記例示した含硫黄化合物(A)のうち、ポリスルフィド及び硫化エステルが好ましい。また、上記成分(A)は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。更に、上記活性硫黄の含有量は、本組成物全体に対して、好ましくは2重量%以上、より好ましくは2.5~35重量%、更に好ましくは3~20重量%である。」
(3) 甲第3号証の記載事項
甲第3号証には、特許異議申立人が指摘するとおり、次の事項が記載されている。
・「GC/MS分析及びMALDI-TOFMS分析の結果と組合わせて考察すると、検出された成分はS2体~S12体であると推定された。ピーク面積値から求めた各成分の濃度を表3にまとめた。この結果テトラスルフィドと称しているが、実際には最も多く存在するのはS3体であり、各成分濃度を考慮して1分子当りの平均硫黄含有数を計算すると1分子当たり4.1個となった。」(p.56 左欄22~27行)
・表3(p.56 右欄、摘示省略)
2 甲第1号証に記載された発明(甲1発明)
甲第1号証には、上記【請求項1】の記載からみて、特許異議申立人が指摘するとおり、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「鉱物油及び/又は合成油からなる潤滑基油と、組成物全量基準で0.8質量%以上1.8質量%以下の硫黄分となる硫黄系極圧添加剤と、組成物全量基準で3質量%以上13質量%以下の過塩基性金属スルホネートと、を含有する金属加工用油剤組成物。」
3 本件発明1について
(1) 本件発明1と甲1発明の対比
本件発明1と甲1発明を対比すると、両者は、潤滑油基油(潤滑基油)に添加する添加剤について、少なくとも次の相違点を有するものと認められる。
・相違点:当該添加剤について、本件発明1は、「(A)硫黄の架橋数が4以上のものが50モル%以上を占めるジ-tert-オクチルポリサルファイドまたはジ-sec-ドデシルポリサルファイドおよび(B)金属比が6以上の金属系清浄剤を含有する」と特定しているのに対して、甲1発明は、「組成物全量基準で0.8質量%以上1.8質量%以下の硫黄分となる硫黄系極圧添加剤と、組成物全量基準で3質量%以上13質量%以下の過塩基性金属スルホネートと、を含有する」と特定している点。
(2) 相違点についての検討
本件発明1は、「(A)硫黄の架橋数が4以上のものが50モル%以上を占めるジ-tert-オクチルポリサルファイドまたはジ-sec-ドデシルポリサルファイド」という特定の硫黄系極圧添加剤と、「(B)金属比が6以上の金属系清浄剤」という特定の金属系清浄剤とを、組み合わせて用いるものであり、これらの組合せによりはじめて、所期の効果を得るものである。
すなわち、本件特許明細書の【0048】【表1】には、本件発明1に係る(A)成分(特定の硫黄系極圧添加剤)と(B)成分(特定の金属系清浄剤)をともに含有する実施例1~3と、これらの成分のうちのいずれかが欠けた比較例1~7の、タッピング試験の結果(加工性能の指標となるもの)が示されているところ、当該結果から明らかなとおり、本件発明1は、当該(A)成分と(B)成分の両者を含有することによりはじめて、優れた加工性能(所期の効果)が奏されることを理解することができる。
したがって、上記相違点に係る、本件発明1の添加剤に関する技術的事項の容易想到性を判断するにあたっては、特に、(A)成分(特定の硫黄系極圧添加剤)と(B)成分(特定の金属系清浄剤)との組合せに着目するのが肝要である。
そこで、甲1発明において、当該組合せを採用することが容易想到であるか否かを検討すべく、まず、甲第1号証をみると、そこには、硫黄系極圧添加剤として、ポリサルファイド類、具体的には、ジオクチルポリサルファイドやジドデシルポリサルファイドなどが挙げられ(【0017】、【0022】)、金属系清浄剤として、塩基価が100mgKOH/g以上、好ましくは200~600mgKOH/gの範囲にある、カリウムスルホネートなどの過塩基性金属スルホネートなどが挙げられている(【0026】)。
しかしながら、当該甲第1号証において硫黄系極圧添加剤あるいは金属系清浄剤として挙げられた、ジオクチルポリサルファイドやジドデシルポリサルファイド、あるいは200~600mgKOH/gの範囲にある、カリウムスルホネートなどの過塩基性金属スルホネートは、あくまで、多くの選択肢のなかの一例にすぎず、これらを積極的に組み合わせることは記載も示唆もされていない。加えて、本件発明1に係る上記(A)成分(特定の硫黄系極圧添加剤)及び(B)成分(特定の金属系清浄剤)はともに、当該甲第1号証例示のものをさらに限定したものであることから、甲第1号証が、上記本件発明1の所期の効果を期待して、当該(A)成分(特定の硫黄系極圧添加剤)と(B)成分(特定の金属系清浄剤)とを組み合わせて使用することまでを教示するとは到底いえない。
なお、確かに、甲第2号証及び甲第3号証には、本件発明1に係る(A)成分(特定の硫黄系極圧添加剤)と同等の硫黄の架橋数を有するポリサルファイドに関する記載を認めることができるが、当該記載は、甲1発明において、上述の組合せを動機付ける論拠となるものとはいえない。
以上を総合すると、甲各号証には、甲1発明において上記組合せを採用することを容易想到とするに足りる記載ないし示唆は見当たらないというほかないから、上記相違点に係る本件発明1の技術的事項(特に、(A)成分(特定の硫黄系極圧添加剤)と(B)成分(特定の金属系清浄剤)の組合せ)は、甲各号証の記載から容易想到の事項であるということはできない。
(3) 小括
以上のとおりであるから、本件発明1は特許法第29条第2項の規定に違反しており特許を受けることができない、とはいえない。
4 本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の発明特定事項をすべて有し、これをさらに限定したものであるから、本件発明1と同様の理由により、特許法第29条第2項の規定に違反しており特許を受けることができない、とはいえない。
第5 結び
以上の検討のとおり、本件特許1、2は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえず、同法第113条第2号に該当するとは認められないから、特許異議申立人からの申立理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件特許1、2を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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