特許異議申立
2017-700564
加飾シート及び加飾樹脂成形品
- 審判番号
- 2017-700564
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2013-070158外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2017年06月06日
- 審決日
- 2018年03月15日
- 公報発行日
- 2018年06月29日
- 結論
- 訂正認容
- 分類
- P1651.121-YAA(B32B) / P1651.537-YAA(B32B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第4項、特許法第113条第2号、特許法第113条第4号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6040835号発明「加飾シート及び加飾樹脂成形品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6040835号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-11、13〕、12について訂正することを認める。
特許第6040835号の請求項1ないし13に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6040835号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~13に係る特許についての出願は、平成25年3月28日に特許出願され、平成28年11月18日にその特許権の設定登録がされ、その後、平成29年6月6日にその請求項1~13に係る特許について、特許異議申立人山岸容子(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがなされ、平成29年9月19日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年11月17日に意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」といい、訂正自体を「本件訂正」という。)がなされ、平成30年1月17日に申立人から意見書が提出されたものである。
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
本件訂正は、明細書及び特許請求の範囲を本件訂正請求書に添付の訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり訂正するもので、その内容は以下のとおりである(下線部は訂正個所を示す。)。
(1)訂正事項1
本件訂正前の請求項1に
「前記第1の保護層が、粒子径が5μm以下の無機粒子と、粒子径が8μm以上の粒子とを含む、」とあるのを、
「前記第1の保護層が、粒子径が5μm以下の無機粒子と、粒子径が8μm以上の粒子とを含み、
前記粒子径が8μm以上の粒子が、シリカ粒子及び樹脂粒子の少なくとも1種である、」に訂正する。
(2)訂正事項2
本件訂正前の請求項6に
「前記粒子径が8μm以上の粒子が、無機粒子及び樹脂粒子の少なくとも一方である、」とあるのを、
「前記粒子径が8μm以上の粒子が、樹脂粒子である、」に訂正する。
(3)訂正事項3
本件訂正前の明細書の段落【0028】に
「第1の保護層2における粒子径が8μm以上の無機粒子の含有量としては、特に制限されないが、加飾シートに表出されていた高い立体感が加飾樹脂成形品の成形時に劣化してしまうことを抑制する観点からは、第1の保護層2に含まれる後述の樹脂100質量部に対して、好ましくは1~200質量部程度、より好ましくは3~100質量部程度、さらに好ましくは5~50質量部程度が挙げられる。」とあるのを、
「第1の保護層2における粒子径が8μm以上の粒子の含有量としては、特に制限されないが、加飾シートに表出されていた高い立体感が加飾樹脂成形品の成形時に劣化してしまうことを抑制する観点からは、第1の保護層2に含まれる後述の樹脂100質量部に対して、好ましくは1~200質量部程度、より好ましくは3~100質量部程度、さらに好ましくは5~50質量部程度が挙げられる。」に訂正する。
(4)訂正事項4
本件訂正前の明細書の段落【0079】に
「(耐傷付き性評価試験)
実施例1~9及び比較例1~7の加飾シートの透明樹脂層側の表面を爪で5往復ひっかき、表面の状態を目視で観察し、以下の基準に従い評価した。結果を表1に示す。
○:表面に傷付きがなかった
△:表面に微細な傷が認められたが、削れや白化は無かった
×:表面に傷が認められ、傷付き部分の艶上がりが観察された
××:表面に著しい傷があり、表面が削られていた」とあるのを、
「(耐傷付き性評価試験)
実施例1~9及び比較例1~7の加飾シートの第2の保護層側の表面を爪で5往復ひっかき、表面の状態を目視で観察し、以下の基準に従い評価した。結果を表1に示す。
○:表面に傷付きがなかった
△:表面に微細な傷が認められたが、削れや白化は無かった
×:表面に傷が認められ、傷付き部分の艶上がりが観察された
××:表面に著しい傷があり、表面が削られていた」に訂正する。
(5)訂正事項5
本件訂正前の明細書の段落【0081】に
「表1に示す各成分としては、以下のものを用いた。
(透明樹脂層)
ウレタンビーズ:平均粒子径3.5μm
なお、実施例において、各種粒子の平均粒子径は、上記の方法で測定して得られた値である。
樹脂A:アクリルポリオール(重量平均分子量15000~20000)
樹脂B:2官能ポリカーボネートアクリレート
(保護層)
シリカα:平均粒子径4μm
シリカβ:平均粒子径1.3μm
シリカγ:平均粒子径10μm
ウレタンビーズA:平均粒子径3.5μm
ウレタンビーズB:平均粒子径10μm
ウレタンビーズC:平均粒子径14μm
アクリル1:アクリルポリオール(重量平均分子量15000~20000)
アクリル2:アクリルポリオール(重量平均分子量30000)
ウレタン:ポリウレタン」とあるのを、
「表1に示す各成分としては、以下のものを用いた。
(第2の保護層)
ウレタンビーズ:平均粒子径3.5μm
なお、実施例において、各種粒子の平均粒子径は、上記の方法で測定して得られた値である。
樹脂A:アクリルポリオール(重量平均分子量15000~20000)
樹脂B:2官能ポリカーボネートアクリレート
(第1の保護層)
シリカα:平均粒子径4μm
シリカβ:平均粒子径1.3μm
シリカγ:平均粒子径10μm
ウレタンビーズA:平均粒子径3.5μm
ウレタンビーズB:平均粒子径10μm
ウレタンビーズC:平均粒子径14μm
アクリル1:アクリルポリオール(重量平均分子量15000~20000)
アクリル2:アクリルポリオール(重量平均分子量30000)
ウレタン:ポリウレタン」に訂正する。
(6)訂正事項6
本件訂正前の請求項12に
「前記第1の保護層が、粒子径が5μm以下の無機粒子と、粒子径が8μm以上の粒子とを含む、」とあるのを、
「前記第1の保護層が、粒子径が5μm以下の無機粒子と、粒子径が8μm以上の粒子とを含み、
前記粒子径が8μm以上の粒子が、シリカ粒子及び樹脂粒子の少なくとも1種である、」に訂正する。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、一群の請求項
(1)訂正事項1
訂正事項1は、訂正前の請求項1の「粒子径が8μm以上の粒子」を、「シリカ粒子及び樹脂粒子の少なくとも1種」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、同法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合する。
また、訂正事項1に関連して、本件特許の明細書の段落【0026】に「粒子径が8μm以上の粒子としては、特に制限されず、例えば、無機粒子、樹脂粒子などが挙げられる。無機粒子としては、上記の粒子径が5μm以下の無機粒子で例示したものと同じものが例示できる。」と記載され、段落【0021】に「粒子径が5μm以下の無機粒子としては、無機化合物により形成された粒子であれば、特に制限されず、例えば、シリカ粒子、炭酸カルシウム粒子、硫酸バリウム粒子、アルミナ粒子、ガラスバルーン粒子が挙げられ、これらの中でも好ましくはシリカ粒子が挙げられる。」と記載されているから、これらの記載に接した当業者であれば、「粒子径が8μm以上の粒子」として「樹脂粒子」及び「シリカ粒子」が本件特許の明細書に記載されていると理解し得る。よって、訂正事項1は、明細書に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合する。
(2)訂正事項2
訂正事項2は、訂正前の請求項6の「粒子径が8μm以上の粒子」が「無機粒子及び樹脂粒子の少なくとも一方」であったのを「樹脂粒子」のみに限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、上記(1)と同様に同条第9項で準用する第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
(3)訂正事項3
訂正前の段落【0028】では「第1の保護層2における粒子径が8μm以上の無機粒子の含有量としては、特に制限されないが、加飾シートに表出されていた高い立体感が加飾樹脂成形品の成形時に劣化してしまうことを抑制する観点からは、第1の保護層2に含まれる後述の樹脂100質量部に対して、好ましくは1~200質量部程度、より好ましくは3~100質量部程度、さらに好ましくは5~50質量部程度が挙げられる。」(下線は当審で付した。以下同じ。)と記載されて、所定の含有量の対象が無機粒子のみに制限されているが、請求項3や段落【0009】では「前記第1の保護層において、前記粒子径が8μm以上の粒子の含有量が、前記第1の保護層に含まれる樹脂100質量部に対して、1~200質量部である」と記載されて無機粒子に制限されておらず、訂正前の段落【0028】の「無機粒子」という記載は、特許請求の範囲や明細書の他の記載と整合していない。
また、段落【0028】では、「加飾シートに表出されていた高い立体感が加飾樹脂成形品の成形時に劣化してしまうことを抑制する観点」から含有量が説明されているところ、上記観点における成形時の劣化の抑制というのは、「第1の保護層2に粒子径が8μm以上の粒子(以下、「大きい粒子」ということがある。)が含まれていることにより、第1の保護層2の表面の第2の保護層3が形成されていない部分2bから、このような大きな粒子が突出し、当該大きな粒子の突出した部分が、第2の保護層3を横から支える効果を発揮する」(段落【0025】)ことで実現するのであって、このような作用を奏する「粒子径が8μm以上の粒子としては、特に制限されず、例えば、無機粒子、樹脂粒子などが挙げられる」(段落【0026】)から、上記観点から好ましい含有量を規定するにあたり、その対象が無機粒子のみに制限されるべき合理的な理由はない。
そうしてみると、他の記載と整合せず、合理的な理由もない訂正前の段落【0028】の「無機粒子」という記載は、単に「粒子」と記載すべきであったものの誤記であることが明らかであって、同じ観点で粒子径を規定している段落【0027】では無機粒子に制限されていないことや、段落【0028】の「さらに好ましくは5~50質量部程度」という含有量が実施例3~9の平均粒子径10μmのウレタンビーズBの5~50質量部という含有量と合致しており段落【0028】の含有量が無機粒子以外にも当てはまることと整合する。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に掲げる誤記の訂正を目的とするものであり、また、同条第9項で準用する第126条第5項及び第6項の規定に適合する。さらに、訂正事項3に係る請求項1~13の全てについて訂正が請求されているから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第4項の規定に適合する。
申立人は「無機粒子の含有量が明確に記載されている以上、当業者が、技術的側面から、そのような記載を誤記と考える余地はございません。」(意見書7頁2~3行)と主張する。しかし、段落【0028】だけ部分的に読んで記載が明確であるとしても、直ちに誤記ではないとはいえず、上記したとおり、特許請求の範囲や明細書の他の記載と整合していないのだから誤記であることは明らかである。したがって、申立人の上記主張は採用できない。
(4)訂正事項4、5
訂正前の段落【0081】には「表1に示す各成分としては、以下のものを用いた。
(透明樹脂層)
ウレタンビーズ:平均粒子径3.5μm
なお、実施例において、各種粒子の平均粒子径は、上記の方法で測定して得られた値である。
樹脂A:アクリルポリオール(重量平均分子量15000~20000)
樹脂B:2官能ポリカーボネートアクリレート」と記載されている。そして表1には、ウレタンビーズ、樹脂A、Bが、第2の保護層の成分であることが記載されているから、「透明樹脂層」は「第2の保護層」であることは明らかである。
また、段落【0081】には「表1に示す各成分としては、以下のものを用いた。…
(保護層)
シリカα:平均粒子径4μm
シリカβ:平均粒子径1.3μm
シリカγ:平均粒子径10μm
ウレタンビーズA:平均粒子径3.5μm
ウレタンビーズB:平均粒子径10μm
ウレタンビーズC:平均粒子径14μm
アクリル1:アクリルポリオール(重量平均分子量15000~20000)
アクリル2:アクリルポリオール(重量平均分子量30000)
ウレタン:ポリウレタン」と記載されている。そして表1には、シリカα~γ、ウレタンビーズA~C、アクリル1、2及びウレタンが、第1の保護層の成分であることが記載されているから、「保護層」は「第1の保護層」であることは明らかである。
したがって、訂正事項4、5は、本件訂正前において、異なる用語で示された同じ構成を同じ用語とするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、また、同条第9項で準用する第126条第5項及び第6項の規定に適合する。さらに、訂正事項4、5に係る請求項1~13の全てについて訂正が請求されているから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第4項の規定に適合する。
(5)訂正事項6
訂正事項6は、請求項12において、訂正事項1と実質的に同じ訂正をするものであるから、上記(1)と同様に、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、同条第9項で準用する第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
(6)一群の請求項
本件訂正前の請求項2~11、13は、直接的又は間接的に請求項1を引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1~11、13は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項であり、本件訂正請求のうち、訂正事項1~5に係る訂正は、一群の請求項ごとに請求されたものである。
3 小括
よって、本件訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号ないし第3号に掲げる事項を目的とし、同条第4項並びに同条第9項で準用する第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、本件訂正を認める。
第3 特許異議の申立てについて
1 本件発明
上記第2のとおり本件訂正が認められるから、本件特許の請求項1~13に係る発明(以下。「本件発明1~13」という。また、これらをまとめて「本件発明」ということもある。)は、本件訂正請求書に添付の訂正特許請求の範囲の請求項1~13に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
【請求項1】
少なくとも、基材層と、第1の保護層と、前記第1の保護層の一部の上に設けられた第2の保護層とを有し、
前記第1の保護層が、粒子径が5μm以下の無機粒子と、粒子径が8μm以上の粒子とを含み、
前記粒子径が8μm以上の粒子が、シリカ粒子及び樹脂粒子の少なくとも1種である、加飾シート。
【請求項2】
前記第1の保護層において、前記粒子径が5μm以下の無機粒子の含有量が、前記第1の保護層に含まれる樹脂100質量部に対して、1~70質量部である、請求項1に記載の加飾シート。
【請求項3】
前記第1の保護層において、前記粒子径が8μm以上の粒子の含有量が、前記第1の保護層に含まれる樹脂100質量部に対して、1~200質量部である、請求項1または2に記載の加飾シート。
【請求項4】
前記第1の保護層において、前記粒子径が5μm以下の無機粒子と、前記粒子径が8μm以上の粒子との含有量の質量比(粒子径が5μm以下の無機粒子/粒子径が8μm以上の粒子)が、10/1~1/4である、請求項1~3のいずれかに記載の加飾シート。
【請求項5】
前記粒子径が5μm以下の無機粒子が、シリカ粒子である、請求項1~4のいずれかに記載の加飾シート。
【請求項6】
前記粒子径が8μm以上の粒子が、樹脂粒子である、請求項1~5のいずれかに記載の加飾シート。
【請求項7】
前記第1の保護層の厚さが、0.1~15μmである、請求項1~6のいずれかに記載の加飾シート。
【請求項8】
前記第2の保護層の厚さが、0.1~15μmである、請求項1~7のいずれかに記載の加飾シート。
【請求項9】
前記第2の保護層が、樹脂粒子を含む、請求項1~8のいずれかに記載の加飾シート。
【請求項10】
絵柄層をさらに有する、請求項1~9のいずれかに記載の加飾シート。
【請求項11】
前記第1の保護層上において、前記第2の保護層が設けられた部分と設けられていない部分とによって形成された凹部形状が、前記絵柄層の模様と同調している、請求項10に記載の加飾シート。
【請求項12】
少なくとも、射出樹脂層と、基材層と、第1の保護層と、前記第1の保護層の一部の上に設けられた第2の保護層とがこの順に積層された積層体からなり、
前記第1の保護層が、粒子径が5μm以下の無機粒子と、粒子径が8μm以上の粒子とを含み、
前記粒子径が8μm以上の粒子が、シリカ粒子及び樹脂粒子の少なくとも1種である、加飾樹脂成形品。
【請求項13】
請求項1~11のいずれかに記載の加飾シートを真空成形型により予め立体形状に成形する真空成形工程、
前記真空成形された加飾シートの余分な部分をトリミングして成形シートを得るトリミング工程、及び
前記成形シートを射出成形型に挿入し、前記射出成形型を閉じ、流動状態の樹脂を前記射出成形型内に射出して前記樹脂と前記成形シートとを一体化する一体化工程、
を備える、加飾樹脂成形品の製造方法。
2 取消理由の概要
平成29年9月19日付け取消理由通知の概要は、以下のとおりである。
理由1)
本件特許の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
理由2)
本件特許の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記
[刊行物]
刊行物1.特開2001-315286号公報
刊行物2.特開2013-14146号公報
刊行物3.特開2003-236994号公報
刊行物4.特開2009-113387号公報
理由1)について
本件特許の請求項1~8、10~11に係る発明は、刊行物1に記載された発明である。
理由2)について
本件特許の請求項1~8、10~11に係る発明は、刊行物1に記載された発明及び周知技術(刊行物2、3)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件特許の請求項9、12~13に係る発明は、刊行物1に記載された発明、刊行物4の記載事項及び周知技術(刊行物2、3)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
3 引用発明
刊行物1には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】基材上に、無機耐摩剤及び艶消剤を含有する耐摩耗艶消樹脂層が全面に設けられ、該耐摩耗艶消樹脂層上に、模様状の艶出樹脂層が設けられてなることを特徴とする化粧材。」
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、住宅等の建築物における壁面や床面等の内装材や造作材、建具、家具、什器、家電製品等の表面化粧に使用するための化粧材に関するものである。」
「【0003】係る化粧材やそれを使用した化粧製品は通常、数年ないし数十年に亘って使用される耐久消費財であり、使用中における人体や器物との衝突や摩擦によって、傷が付いたり表面が削られたりして、意匠性が損なわれることが起こりにくいように、十分な耐傷付き性や耐摩耗性が要求される。」
「【0021】本発明の化粧材は、図1に示すように、基材1上に無機耐摩剤4を添加した耐摩耗樹脂層を設けた化粧材において、該耐摩耗樹脂層は無機耐摩剤4と共に艶消剤が添加されて表面が艶消状態とされた耐摩耗艶消樹脂層5であり、且つ、該耐摩耗艶消樹脂層5上に、所望の適宜の模様状の艶出樹脂層6が設けられてなるものである。」
「【0038】耐摩耗艶消樹脂層5に添加する無機耐摩剤4は、例えばアルミナ又は炭化珪素等の硬質の無機化合物の粉粒体で、平均粒径5~50μmのものが良い。添加量は、樹脂100重量部当たり2~30重量部程度とするのが良い。
【0039】無機耐摩剤4の粒子の形状は、不定形、鱗片形、球形、多面体形などのいずれでも良いが、不定形よりも鱗片形や球形、多面体形などの方が耐摩耗効果が高いので好ましい。
【0040】耐摩耗艶消樹脂層5に添加する艶消剤は、例えばシリカ又は炭酸カルシウム等の無機質粉体や、ガラスビーズ、合成樹脂ビーズなどが使用され、平均粒径0.5~5μm程度のものが通常使用される。添加量は意匠上所望の艶消感の程度に応じて任意であるが、通常は樹脂100重量部当たり1~20重量部程度とするのが良い。」
上記記載事項を総合すると、刊行物1には、次の発明(以下、「引用発明A、B」という。)が記載されている。
「基材1と、耐摩耗艶消樹脂層5と、耐摩耗艶消樹脂層5上に設けられた所望の適宜の模様状の艶出樹脂層6とを有し、
耐摩耗艶消樹脂層5が、平均粒径0.5~5μm程度の例えばシリカ又は炭酸カルシウム等の無機質粉体の艶消剤、及び、平均粒径5~50μmの無機耐摩剤4の粒子を含有し、
平均粒径5~50μmの無機耐摩剤4の粒子が、例えばアルミナ又は炭化珪素等の硬質の無機化合物の粉粒体である、化粧材。」(引用発明A)
「基材1と、耐摩耗艶消樹脂層5と、耐摩耗艶消樹脂層5上に設けられた所望の適宜の模様状の艶出樹脂層6とを有し、
耐摩耗艶消樹脂層5が、平均粒径0.5~5μm程度の例えばシリカ又は炭酸カルシウム等の無機質粉体の艶消剤、及び、平均粒径5~50μmの無機耐摩剤4の粒子を含有し、
平均粒径5~50μmの無機耐摩剤4の粒子が、例えばアルミナ又は炭化珪素等の硬質の無機化合物の粉粒体である、化粧材を、
住宅等の建築物における壁面や床面等の内装材や造作材、建具、家具、什器、家電製品等の表面化粧に使用した化粧製品。」(引用発明B)
4 判断
(1)取消理由通知に記載した取消理由について
ア 理由1(新規性)について
(ア)本件発明1について
本件発明1と引用発明Aとを対比すると、両者は少なくとも以下の点で相違する。
相違点1.本件発明1は「少なくとも、基材層と、第1の保護層と、前記第1の保護層の一部の上に設けられた第2の保護層とを有し、前記第1の保護層が、粒子径が5μm以下の無機粒子と、粒子径が8μm以上の粒子とを含」む「加飾シート」であるのに対して、引用発明Aは「基材1と、耐摩耗艶消樹脂層5と、耐摩耗艶消樹脂層5上に設けられた所望の適宜の模様状の艶出樹脂層6とを有し、耐摩耗艶消樹脂層5が、平均粒径0.5~5μm程度の例えばシリカ又は炭酸カルシウム等の無機質粉体の艶消剤、及び、平均粒径5~50μmの無機耐摩剤4の粒子を含有」する「化粧材」である点。
相違点2.本件発明1の粒子径が8μm以上の粒子はシリカ粒子及び樹脂粒子の少なくとも1種であるのに対して、引用発明Aの平均粒径5~50μmの無機耐摩剤4の粒子は例えばアルミナ又は炭化珪素等の硬質の無機化合物の粉粒体である点。
そして、上記相違点2は素材自体が異なるという明らかに実質的な相違点であり、また、下記イに示すとおり引用発明Aの「化粧材」を本件発明1の「加飾シート」であるとはいえないから上記相違点1は実質的な相違点であり、本件発明1は引用発明Aではない。
(イ)本件発明2~8、10~11について
本件発明2~8、10~11は、本件発明1の発明特定事項をすべて含むものであるから、本件発明1と同様に、引用発明Aではない。
イ 理由2(進歩性)について
(ア)本件発明1について
上記相違点1について検討する。
本件発明1は「高い成形性、耐傷付き性、さらに高い立体感を有する加飾シートに関する。」(段落【0001】)ものであって、「従来の加飾シートにおいては、インサート成形法などにおける射出成形時、またはこれに先立つ予備成形(真空成形)時の熱と圧力によって、透明樹脂層に形成されていた凹凸形状が、なだらかとなったり、小さくなったりすることにより、加飾シートに表出されていた高い立体感が損なわれるという問題がある。」(段落【0005】)のを、「第1の保護層2に粒子径が8μm以上の粒子(以下、「大きい粒子」ということがある。)が含まれていることにより、第1の保護層2の表面の第2の保護層3が形成されていない部分2bから、このような大きな粒子が突出し、当該大きな粒子の突出した部分が、第2の保護層3を横から支える効果を発揮する」(段落【0025】)ことで解決するという格別な効果を奏するものであるから、本件発明1の加飾シートとは、インサート成形法などにおける射出成形、またはこれに先立つ予備成形(真空成形)のように、熱と圧力によって成形して利用するものといえる。これに対して刊行物1には、熱と圧力によって化粧材を成形することの記載や示唆する記載はないから、引用発明Aの化粧材が、本件発明1の加飾シートであるということはできない。
そして、引用発明Aの化粧材を、熱と圧力によって成形して利用すること、及び、その際に上記格別な効果が奏されることを当業者が予測できたことの記載や示唆する記載は、刊行物2~4のいずれにもない。
そうすると、本件発明1は、上記相違点1に係る本件発明1の構成によって、当業者が予測し得ない上記格別な効果を奏するものであるから、引用発明A及び刊行物2~4記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
(イ)本件発明2~11、13について
本件発明2~11、13は、本件発明1の発明特定事項をすべて含むものであるから、本件発明1と同様に、引用発明A及び刊行物2~4記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
(ウ)本件発明12について
本件発明12と引用発明Bとを対比すると、両者は少なくとも以下の点で相違する。
相違点3.本件発明12は「少なくとも、射出樹脂層と、基材層と、第1の保護層と、前記第1の保護層の一部の上に設けられた第2の保護層とがこの順に積層された積層体からなり、前記第1の保護層が、粒子径が5μm以下の無機粒子と、粒子径が8μm以上の粒子とを含」む「加飾樹脂成形品」であるのに対して、引用発明Bは「基材1と、耐摩耗艶消樹脂層5と、耐摩耗艶消樹脂層5上に設けられた所望の適宜の模様状の艶出樹脂層6とを有し、耐摩耗艶消樹脂層5が、平均粒径0.5~5μm程度の例えばシリカ又は炭酸カルシウム等の無機質粉体の艶消剤、及び、平均粒径5~50μmの無機耐摩剤4の粒子を含有」する「化粧材を、住宅等の建築物における壁面や床面等の内装材や造作材、建具、家具、什器、家電製品等の表面化粧に使用した化粧製品」である点。
相違点4.本件発明12の粒子径が8μm以上の粒子はシリカ粒子及び樹脂粒子の少なくとも1種であるのに対して、引用発明Bの平均粒径5~50μmの無機耐摩剤4の粒子は例えばアルミナ又は炭化珪素等の硬質の無機化合物の粉粒体である点。
上記相違点3について検討する。
本件発明12は「加飾シートを利用した加飾樹脂成形品に関する。」(段落【0001】)ものであって、「加飾樹脂成形品の製造においては、予め意匠が付与された加飾シートを、射出成形によって樹脂と一体化させる成形法などが用いられている」(段落【0002】)が、「従来の加飾シートにおいては、インサート成形法などにおける射出成形時、またはこれに先立つ予備成形(真空成形)時の熱と圧力によって、透明樹脂層に形成されていた凹凸形状が、なだらかとなったり、小さくなったりすることにより、加飾シートに表出されていた高い立体感が損なわれるという問題がある。」(段落【0005】)のを、「第1の保護層2に粒子径が8μm以上の粒子(以下、「大きい粒子」ということがある。)が含まれていることにより、第1の保護層2の表面の第2の保護層3が形成されていない部分2bから、このような大きな粒子が突出し、当該大きな粒子の突出した部分が、第2の保護層3を横から支える効果を発揮する」(段落【0025】)ことで解決するという格別な効果を奏するものである。そして、本件発明12の加飾樹脂成形品が熱と圧力によって樹脂成形されたものであるのに対して、刊行物1には、熱と圧力によって化粧製品を樹脂成形することの記載や示唆する記載はないから、引用発明Bの化粧製品が、本件発明12の加飾樹脂成形品であるということはできない。
そして、引用発明Bの化粧製品を、熱と圧力によって樹脂成形すること、及び、その際に上記格別な効果が奏されることを当業者が予測できたことの記載や示唆する記載は、刊行物2~4のいずれにもない。
そうすると、本件発明12は、上記相違点3に係る本件発明12の構成によって、当業者が予測し得ない上記格別な効果を奏するものであるから、引用発明B及び刊行物2~4記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
(2)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
申立人は、訂正前の特許請求の範囲に関し、特許異議申立書において、「「第1の保護層」と、「第2の保護層」との構成差が明確でなく、…明細書を参酌したとしても、これら二つの保護層の技術的意味が理解されません。」(特許異議申立書29頁1~8行)と主張し、特許請求の範囲の記載は特許を受けようとする発明が不明確であり、特許法第36条第6項第2号の要件を満たさないと主張している。しかし、特許請求の範囲には、「第1の保護層」が「粒子径が5μm以下の無機粒子と、粒子径が8μm以上の粒子とを含」む層であり、「第2の保護層」が「第1の保護層」の一部の上に設けられている層であることが記載されているから、両者の構成差は明確であるといえる。また、明細書の段落【0020】、【0045】には、両層の技術的意味も記載されているから、申立人の上記主張は理由がない。
(3)小括
上記(1)アのとおり、本件発明1~8、10~11は、特許法第29条第1項第3号に該当しない。また、上記(1)イのとおり、本件発明1~13は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。したがって、本件発明1~13に係る特許は、特許法第113条第2号に該当しない。
また、上記(2)のとおり、本件発明1~13に係る特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしている。したがって、本件発明1~13に係る特許は、特許法第113条第4号に該当しない。
第4 むすび
以上のとおり、上記取消理由及び特許異議申立理由によっては、本件発明1~13に係る特許を取り消すことができない。
また、他に本件発明1~13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2017-700564