特許異議申立
2017-700452
電解用電極板および電解用電極
- 審判番号
- 2017-700452
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2012-261697外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2017年05月09日
- 審決日
- 2017年07月18日
- 公報発行日
- 2017年09月29日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】石福金属興業株式会社
- 【異議申立人】西村 明美
- 分類
- P1651.121-Y (C25B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6021255号発明「電解用電極板および電解用電極」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6021255号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第602125号の特許請求の範囲の請求項1~5に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成24年11月29日に特許出願され、平成28年10月14日に特許の設定登録がされ、その後、本件特許に対し、特許異議申立人である西村明美(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
第2 本件発明
本件特許の特許請求の範囲の請求項1~5に係る発明(以下、「本件発明1~5」といい、これらをまとめて「本件発明」という。)は、それぞれ、願書に添付された特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
チタン又はチタン合金よりなる電極基体の片面に触媒層が形成され、殺菌作用を有する電解水を生成するための電極において、前記触媒層形成面とは反対側の面が給電側面とされ、研摩領域に給電部材取付部位を含むように、前記給電側面が物理的な研摩手段によって部分的に研摩されていることを特徴とする電解用電極板。
【請求項2】
回転ブラシで前記給電側面が部分的に研摩されていることを特徴とする請求項1記載の電解用電極板。
【請求項3】
前記給電側面における研摩部位の粗さRz(輪郭曲線の最大高さ)が15μm以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の電解用電極板。
【請求項4】
請求項1、2又は3記載の電解用電極板の前記給電部材取付部位に給電部材が取付けられていることを特徴とする電解用電極。
【請求項5】
給電部材であるハーネス線に端子がカシメて取り付けられ、研摩された前記給電部材取付部位に前記端子が溶着されていることを特徴とする請求項4記載の電解用電極。」
第3 申立理由の概要
申立人は、証拠として下記の甲第1号証~甲第7号証を提出し、本件特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである旨、主張する。
甲第1号証:特開2009-52069号公報
甲第2号証:特開2004-315937号公報
甲第3号証:「改訂5版 金属便覧」丸善株式会社、平成2年3月31日発行、第1092頁
甲第4号証:「チタン テクニカルガイド 基礎から実務まで」株式会社内田老鶴圃、平成5年9月30日発行、第137~138、142頁
甲第5号証:「金属チタンとその応用」日刊工業新聞社、昭和58年12月15日発行、第28~33頁
甲第6号証:国際公開第2004/107335号
甲第7号証:特開平11-239805号公報
第4 当審の判断
1 本件発明1について
(1)甲第1号証に記載された発明
ア 甲第1号証(以下、「甲1」という。他の甲号証についても同様。)には以下の記載がある。なお、「・・・」は記載の省略を表す。
(ア)特許請求の範囲
「【請求項1】
(a)チタン又はチタン合金よりなる電極基体と、
(b)該電極基体上に設けられた酸化チタン層と、
(c)該酸化チタン層上に設けられた、金属換算で、酸化イリジウム3~30モル%と酸化タンタル70~97モル%の複合体からなる中間酸化物層と
(d)該中間酸化物層上に設けられた、金属換算で、酸化ロジウム2~35モル%、酸化イリジウム30~80モル%、酸化タンタル6~35モル%及び白金12~62モル%の複合体、
とからなることを特徴とする電解用電極。」
(イ)技術分野
「【0001】
本発明は、希薄な食塩水中で陽極として使用し殺菌能力の高い電解水を生成せしめるのに有用な電解用電極に関・・・する。」
(ウ)発明が解決しようとする課題
「【0007】
本発明の目的は、希薄な食塩水中で陽極と陰極の極性を切替えての使用を繰り返し行っても、安定かつ高い塩素発生効率特性を有し、長期間にわたりその高い塩素発生効率を維持することができる電解用電極を提供することである。」
(エ)発明の効果
「【0009】
本発明の電極は、希薄食塩水中で陽極と陰極の極性を切替えての使用を繰り返し行なうことにより消耗量が大きくなっても高い塩素発生効率を維持するという優れた特性を有しており、また、電極基体表面に形成せしめた水素化チタン被膜に基づく薄い酸化チタン層と酸化イリジウム及び酸化タンタルからなる中間酸化物層が有する高い耐食性により、被覆層が脱落することがなく、被覆層が殆ど消耗されるまで用いることができ、電極寿命の著しい延長を図ることができるという優れた効果を奏する。」
(オ)発明の実施の形態
「【0011】
本発明において使用される電極基体の材質としては、チタンまたはチタン基合金が挙げられる。・・・これらの電極材料は板状、有孔板状、棒状、網板状等の所望形状に加工して電極基材として用いることができる。
【0012】
上記の如き電極基体には、通常行われているように、予め前処理をするのが望ましい。・・・」
「【0014】
・・・前処理されたチタン基体は、大気中で焼成することにより・・・チタン基体表面近傍のチタンを低酸化状態の酸化チタンに変えることができる。・・・
【0015】
しかる後、このように焼成されたチタン基体上の酸化チタン面を、3~30モル%の酸化イリジウムと70~97モル%の酸化タンタル・・・からなる混合酸化物(以下、中間酸化物ということがある)で被覆する。」
「【0018】
・・・チタン基体上の酸化チタン面に、イリジウム化合物とタンタル化合物を含む溶媒溶液・・・を塗布した後乾燥することにより、イリジウム化合物とタンタル化合物を付着せしめる。・・・」
「【0021】
該溶液による・・・チタン基体上の酸化チタン面の塗布は、例えば、吹き付け法、ハケ塗り法、浸漬法等により行うことができ、このようにして・・・溶液が塗布されたチタン基体は、一般に、約20~約100℃の範囲内の比較的低温で乾燥させた後、酸化性雰囲気中、通常大気中で焼成する。・・・
【0022】
該焼成は、例えば、電気炉、ガス炉、赤外線炉などの適当な加熱炉中で、通常約450~約600℃・・・の範囲内の温度に加熱することによって行うことができる。その際の加熱時間は・・・大体5分~2時間程度とすることができる。この焼成によりイリジウム化合物及びタンタル化合物はそれぞれ酸化イリジウム及び酸化タンタルに変わり、中間酸化物を形成する。」
「【0024】
しかる後、このようにしてチタン基体上に酸化チタン層を介して形成された中間酸化物層上に、ロジウム化合物、イリジウム化合物、タンタル化合物及び白金化合物を含む溶液を塗布し、乾燥した後焼成して、該中間酸化物層上に酸化ロジウム-酸化イリジウム-酸化タンタル-白金複合体を析出、担持せしめる。」
「【0028】
また、ロジウム化合物、イリジウム化合物、タンタル化合物及び白金化合物の相対的使用割合は、金属換算で、ロジウム化合物は一般に2~35モル%・・、イリジウム化合物は一般に30~80モル%、・・・タンタル化合物は一般に6~35モル%、・・・そして白金化合物は一般に12~62モル%・・・の範囲内とすることができる。
【0029】
チタン基体上の酸化チタン層を介して形成された中間酸化物層面に該溶液が塗布された基体は、必要により、約20~約150℃の範囲内の温度で乾燥させた後、酸素含有ガス雰囲気中、例えば空気中で焼成される。焼成は、例えば、電気炉、ガス炉、赤外線炉等の適当な加熱炉中で、一般に約450~約600℃・・・の範囲内の温度に加熱することによって行うことができる。加熱時間は・・・大体5分~30分間程度とすることができる。この焼成により、該中間酸化物層の表面に酸化ロジウム-酸化イリジウム-酸化タンタル-白金複合体を担持させることができる。・・・
【0030】
ここで、「酸化ロジウム-酸化イリジウム-酸化タンタル-白金複合体」とは、酸化ロジウムと酸化イリジウムと酸化タンタルと白金の4成分が相互作用を及ぼすように混合又は緊密に接触した状態にある組成物をいう。
【0031】
該中間酸化物層上に担持せしめられる酸化ロジウム-酸化イリジウム-酸化タンタル-白金複合体における各成分の割合は、金属換算で、酸化ロジウム2~35モル%、・・・;酸化イリジウム30~80モル%・・・;酸化タンタル6~35モル%、・・・;白金12~62モル%・・・の範囲内であることができる。
【0032】
複合体中の酸化ロジウムの割合が2モル%未満では触媒の消耗にともない塩素発生効率の低下が大きくなり、反対に35モル%を越えると触媒の消耗速度が大きくなる。また、酸化イリジウムの割合が30モル%未満では触媒の消耗にともない塩素発生効率の低下が大きくなり、反対に80モル%を越えると触媒の消耗速度が大きくなる。さらに、酸化タンタルの割合が6モル%未満では触媒の消耗速度が大きくなり、一方35モル%を越えると塩素発生効率が低くなる。さらにまた、白金の割合が12モル%未満では塩素発生効率が低くなり、一方62モル%を越えると触媒の消耗にともない塩素発生効率の低下が大きくなる。」
(カ)実施例
「【0035】
実施例1~4、比較例1~3
JIS2種相当のチタン板素材(t1.0mm×w100mm×l100mm)をアルコールで洗浄後、20℃の8重量%フッ化水素酸水溶液中で2分間処理し、120℃の60重量%硫酸水溶液中で3分間処理した。次いで、チタン基体を硫酸水溶液から取りだし、窒素雰囲気中で冷水を噴霧し急冷した。さらに、20℃の0.3重量%フッ化水素酸水溶液中に2分間浸漬した後水洗した。水洗後、400℃の大気中で1時間加熱処理して、チタン基体表面に薄い酸化チタン層を形成せしめた。
【0036】
次いで、イリジウム濃度100g/Lに調整した塩化イリジウム酸のブタノール溶液とタンタル濃度100g/Lに調整したタンタルエトキシドのブタノール溶液を混合して、イリジウム5.9g/L及びタンタル50g/Lを含有する塗布液を調製した後、この溶液をピペットで0.27ml秤量し、それをチタン基体表面に形成せしめた薄い酸化チタン層に塗布した後、室温で30分間乾燥し、さらに、500℃の大気中で10分間焼成した。この塗布-乾燥-焼成工程を1回繰返し、中間酸化物層を形成せしめた。
【0037】
次いで、ロジウム濃度100g/Lに調整した塩化ロジウムのブタノール溶液とイリジウム濃度100g/Lに調整した塩化イリジウム酸のブタノール溶液とタンタル濃度100g/Lに調整したタンタルエトキシドのブタノール溶液と白金濃度200g/Lに調整した塩化白金酸のブタノール溶液を、Rh-Ir-Ta-Ptの組成比が下記表-1に示すモル%となるようにそれぞれ秤量し、次いで、Rh-Ir-Ta-Ptの金属換算合計量が75g/Lとなるようにブタノールにて希釈し、表-1に示す実施例1~4及び比較例1~3の溶液を作製した。
【0038】
この溶液をピペットで0.2ml秤量し、それをチタン基体表面に形成せしめた薄い酸化チタン層に塗布した後(当審注:請求項1、【0024】の記載によれば、酸化ロジウム、酸化イリジウム、酸化タンタル、及び白金からなる複合体が中間酸化物層上に形成されることは明らかであるから、「チタン基体表面に形成せしめた薄い酸化チタン層」は、「チタン基体表面に薄い酸化チタン層を介して形成された中間酸化物層」等の誤記と認められる。)、室温で30分間乾燥し、さらに、550℃の大気中で10分間焼成した。この塗布-乾燥-焼成工程を5回繰返し、該酸化チタン層(当審注:同様に「酸化チタン層」は「中間酸化物層」の誤記と認められる。)上に酸化ロジウム-酸化イリジウム-酸化タンタル-白金複合体が担持された表-1に示す実施例電極1~4及び比較例電極1~3を作製した。」
(キ)表1
表1には、「実施例電極1」における「酸化ロジウム-酸化イリジウム-酸化タンタル-白金複合体」(【0038】)の各元素の「組成(モル%)」が、Rh:5、Ir:65、Ta:10、Pt:20であることが記載されている。
イ 前記アで摘記した記載によれば、甲1には、請求項1に記載された電解用電極が記載されており、この電解用電極は、希薄な食塩水中で陽極として使用し殺菌能力の高い電解水を生成するためのものであること(【0001】)が記載されている。
発明の実施の形態の欄には、電極基体の材質として、チタン又はチタン合金が挙げられ、これらの電極材料を板状、有孔板状、棒状、網板状等の所望形状に加工して用いること(【0011】)、前処理されたチタン基体を大気中で焼成することによりチタン基体表面近傍のチタンを低酸化状態の酸化チタンに変えること(【0014】)、その後、イリジウム化合物とタンタル化合物を含む溶媒溶液の塗布・乾燥・焼成により(【0018】、【0021】、【0022】)、チタン基体上の酸化チタン面を、3~30モル%の酸化イリジウムと70~97モル%の酸化タンタルからなる混合酸化物である中間酸化物で被覆すること(【0015】)、さらに、チタン基体上に酸化チタン層を介して形成された中間酸化物層上に、ロジウム化合物、イリジウム化合物、タンタル化合物及び白金化合物を含む溶液を塗布し、乾燥した後焼成して、該中間酸化物層上に酸化ロジウム-酸化イリジウム-酸化タンタル-白金複合体を析出、担持せしめるとともに(【0024】)、ロジウム化合物、イリジウム化合物、タンタル化合物及び白金化合物の相対的使用割合を、金属換算で、ロジウム化合物は2~35モル%、イリジウム化合物は30~80モル%、タンタル化合物は6~35モル%、白金化合物は12~62モル%の範囲内とすること(【0028】、【0031】)が記載されているから、発明の実施の形態の欄には、請求項1に記載された電解用電極が記載され、これに加えて、電極基体の材料を板状にすることも記載されている。
実施例の欄には、チタン基体としてチタン板素材を用いて、その表面に薄い酸化チタン層を形成し(【0035】)、その薄い酸化チタン層上に、イリジウム5.9g/L及びタンタル50g/Lを含有する塗布液を塗布した後、乾燥、焼成して中間酸化物層を形成し(【0036】)、次いで、Rh-Ir-Ta-Ptの組成比が表-1に示すモル%にそれぞれ秤量され、金属換算合計量を75g/Lとしたブタノール溶液を塗布した後、乾燥、焼成して、酸化ロジウム-酸化イリジウム-酸化タンタル-白金複合体を形成することが記載され(【0037】、【0038】)、表1には、「実施例電極1」の「酸化ロジウム-酸化イリジウム-酸化タンタル-白金複合体」(【0038】)における各元素の「組成(モル%)」が、Rh:5、Ir:65、Ta:10、Pt:20であることが記載され、実施例における上記中間酸化物層が酸化イリジウムと酸化タンタルからなることは、「焼成によりイリジウム化合物及びタンタル化合物はそれぞれ酸化イリジウム及び酸化タンタルに変わり、中間酸化物を形成する。」(【0024】)という記載から明らかである。
そして、甲1には、以上のような構造の電解用電極とすることにより、酸化チタン層と酸化イリジウム及び酸化タンタルからなる中間酸化物層が有する高い耐食性により、被覆層(酸化ロジウム-酸化イリジウム-酸化タンタル-白金複合体)が脱落することがなく、殆ど消耗されるまで用いることができ、電極寿命の著しい延長を図ることができるという優れた効果を奏すること(【0009】)が記載されている。
そうすると、実施例電極1の記載に基づけば、甲1には、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。
(甲1発明)
「(a)チタン板素材からなるチタン基体と、
(b)該チタン基体上に設けられた酸化チタン層と、
(c)該酸化チタン層上に設けられた、酸化イリジウムと酸化タンタルからなる中間酸化物層と
(d)該中間酸化物層上に設けられた、金属換算で、酸化ロジウム5モル%、酸化イリジウム65モル%、酸化タンタル10モル%及び白金20モル%の複合体、
とからなる殺菌能力の高い電解水を生成するための電解用電極。」
(2)本件発明1と甲1発明の一致点・相違点
ア 本件発明1と甲1発明を対比すると、甲1発明の「チタン基体」は、本件発明1の「チタン」「よりなる電極基体」に相当し、甲1発明の「チタン板素材からなるチタン基体」を備えた「殺菌能力の高い電解水を生成するための電解用電極」は、本件発明1の「殺菌作用を有する電解水を生成するための電極」である「電解用電極板」に相当する。
イ 甲1の【0030】~【0032】の記載によれば、甲1発明の「(d)該中間酸化物層上に設けられた、金属換算で、酸化ロジウム5モル%、酸化イリジウム65モル%、酸化タンタル10モル%及び白金20モル%の複合体」における「酸化ロジウム」、「酸化イリジウム」、「酸化タンタル」及び「白金」の各成分は、消耗速度が大きくならない範囲で塩素発生効率が低下しないように、それぞれの割合が定められているから、甲1発明の「(d)該中間酸化物層上に設けられた、金属換算で、酸化ロジウム5モル%、酸化イリジウム65モル%、酸化タンタル10モル%及び白金20モル%の複合体」は、「触媒」として機能しているものと認められ、本件発明1の「触媒層」に相当する。
また、本件発明1における「チタン」「よりなる電極基体」「に触媒層が形成され」ることは、「チタン」「よりなる電極基体」に他の層を介して「触媒層」が形成される場合も含むから、甲1発明の「(a)チタン板素材からなるチタン基体と、(b)該チタン基体上に設けられた酸化チタン層と、(c)該酸化チタン層上に設けられた、酸化イリジウムと酸化タンタルからなる中間酸化物層と(d)該中間酸化物層上に設けられた、金属換算で、酸化ロジウム5モル%、酸化イリジウム65モル%、酸化タンタル10モル%及び白金20モル%の複合体、とからなる殺菌能力の高い電解水を生成するための電解用電極。」は、本件発明1の「チタン」「よりなる電極基体」「に触媒層が形成され、殺菌作用を有する電解水を生成するための電極」である「電解用電極板」に相当する。
ウ したがって、本件発明1と甲1発明は、
(一致点)
「チタンよりなる電極基体に触媒層が形成され、殺菌作用を有する電解水を生成するための電極である電解用電極板。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点)
本件発明1では、「電極基体の片面に触媒層が形成され、」「前記触媒層形成面とは反対側の面が給電側面とされ、研摩領域に給電部材取付部位を含むように、前記給電側面が物理的な研摩手段によって部分的に研摩されている」のに対して、甲1発明では、本件発明1の「触媒層」に相当する(d)の「複合体」がチタン基体のいかなる箇所に形成されたのかが明らかではなく、電解用電極への給電手段も明らかではない点。
(3)相違点についての検討
ア 甲2~7の記載事項
(ア)甲2の記載事項
a 甲2には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
電解槽の内部に電極板を設け、この電極板の一部に給電体を当接し、前記電解槽に金属イオンを含む電解液を溜め、この電解液にドラムを浸漬し、前記給電体から供給した電流を前記電極板及び前記電解液を経由してドラムに流すことにより、このドラムの外周面で金属箔を製造する装置であって、前記給電体として設けたブスバーを前記電解槽の上部にして前記電極板の上部外面に当接してこの電極板に電流を供給するように構成し、このブスバーと前記電極板とを、溶接による固定構造を採用せず、ボルトの螺着による固定構造で固定せしめたことを特徴とする金属箔製造用不溶性電極。」
「【請求項6】
前記電極板がチタン製であることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の金属箔製造用不溶性電極。」
「【請求項8】
前記ブスバーがチタン・・・製であることを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の金属箔製造用不溶性電極。」
「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、金属箔製造用不溶性電極に関するものである。」
「【0003】
この金属箔製造用不溶性電極について図1,2に基づいて簡単に説明すると、金属イオンを含む電解液(例えば、硫酸銅溶液)が溜められる電解槽1と、この電解槽1に溜められた電解液に浸漬される円筒状のドラム2とから成り、電解槽1の内部にはドラム2の円弧外縁に対応する半円弧形状の電極板3(アノードプレート)が設けられ、この電極板3の上部外面にはブスバー4と呼ばれる給電体が設けられている。・・・
【0004】
電流は、前記ブスバー4に付設した電極体9から、ブスバー4,電極板3及び電解液を経由してドラム2に供給され、このドラム2から軸12を経由して放出される。この電流の流れによってドラム2の外周面には金属箔が形成される。この金属箔は、ドラム2から順次剥離されていく。」
「【0006】
・・・ドラム2や電極板3には・・・電解液の腐食作用も考慮する必要があり・・・実際にはチタン製のものが採用され・・・ブスバー4も電解液とふれることもあることから、チタン製のもの・・・が採用されている。
【0007】
ところで、従来、ブスバー4の当接部と電極板3とは溶接によって固定される構造が採用され・・・ブスバー4と電極板3とは密着することができる。
【0008】
しかし、溶接による固定構造では、特に電極板3に歪みが発生して平面精度や円弧精度が低下してしまい、この電極板3に電圧ムラが発生してしまうという問題点がある。
【0009】
電極板3に電圧ムラが発生すれば、当然ながら形成される金属箔の厚さにムラが発生してしまい、薄い金属箔の形成も不可能となる。」
「【0011】
本発明は、上記問題点を解決するもので、ブスバーと電極板とをこの金属板に歪みが発生しないように固定することで薄く且つ均一な厚さの金属箔を製造できる実用性に秀れた金属箔製造用不溶性電極を提供することを目的とする。」
「【0022】
【発明の実施の形態】
好適と考える本発明の実施の形態・・・を、図面に基づいてその作用効果を示して説明する。
【0023】
ブスバー4と電極板3とを、溶接による固定構造を採用せず、ボルト5の螺着による固定構造で固定せしめたから・・・電極板3を歪みがほとんど発生しない状態でブスバー4に固定することができる。
【0024】
従って、ブスバー4から供給される電流は、電極板3にムラ無く均一に作用し、この電極板3に均一に作用した電流がドラム2に均一に作用し、よって、ドラム2の外周面で均一な厚さの金属箔を製造することができる。」
「【0054】
・・・金属箔製造用不溶性電極において、ドラム2は直径数メートルと非常に大きく、当然ながら電極板3も非常に大きくて自重等により歪み易く、この為、この電極板3を歪まないようにブスバー4と溶接して固定することは大変厄介であったが、本実施例は、ボルト5の螺着による固定構造であるから、ボルト5の締め付け度合いを調整する等により、電極板3の歪みを防止することができ、これにより電極板3に通電ムラは発生せず、ドラム2の外周面で薄く且つ均一で良好な厚さの金属箔を製造することができる。」
「【図面の簡単な説明】
【図1】金属箔製造用不溶性電極の説明側断面図である。
【図2】従来の電極板3とブスバー4との固定構造を示す説明拡大断面図である。
【図3】本実施例の電極板3とブスバー4との固定構造を示す説明拡大断面図である。」
「【図1】
」
「【図2】
」
「【図3】
」
b 前記aで摘記した記載によれば、甲2には、電極板及び当該電極板に給電するためのブスバーが耐腐食性確保の観点からチタンで形成された金属箔製造用不溶性電極(請求項1、6、8、【0006】、図1)において、従来、ブスバーの当接部と電極板とは溶接によって固定される構造が採用されていたところ(【0006】、図2)、このような固定構造では、電極板の寸法が数メートル程度と非常に大きいため自重等により歪みが発生して平面精度や円弧精度が低下してしまい、電極板に電圧ムラが発生してしまうという問題点があったため(【0007】、【0008】、【0054】)、この問題点を解決するために、ブスバーの当接部と電極板とを、ボルトの螺着による固定構造で固定せしめたこと(請求項1、【0023】、【0054】、図3)が記載されている。
(イ)甲3の記載事項
甲3には、以下の事項が記載されている。
「Tiおよびその合金の溶融溶接に当たっては,とくに溶接雰囲気の制御(空気の混入の防止)が必要であるとともに前処理が重要である.
開先部の油脂,酸化皮膜,塵埃などは,気孔ならびに脆化の原因となるので完全に除去しなければならない。通常は,有機溶剤による脱脂ならびにステンレス鋼製ワイヤブラシによる研磨がなされている.」(第1092頁左欄第12~18行)
(ウ)甲4の記載事項
甲4には、以下の事項が記載されている。
「良好な溶接結果を得るために,継手部はもちろん,開先の両側上,後行シールドガスがあたる範囲の50mm外側まで被溶接物の表面上を注意深く洗浄する必要がある.」(第137頁第2~3行)
「チタン合金は溶融ソルトバス法かブラスティング法でスケールを除去する.」(第137頁第5行)
第138頁の「図10.1 チタン合金洗浄作業のフローチャート」には,「酸化物の除去」「538℃以下で生成した薄い酸化物の除去」として、「脱脂」と「ワイヤブラシまたはやすりがけ」が記載されている。
「溶接部の汚染を防ぐためには良好な洗浄と充分なシールドが必須条件となる.」(第142頁第1~2行)
(エ)甲5の記載事項
甲5には、以下の事項が記載されている。
「チタンの溶接に際しては,板材などの加工の際に用いられる圧延潤滑油や,切削油などの付着を完全に除去するクリーニング,および溶接により高温に曝露される部分をアルゴンガスで局部的に覆い,空気を完全に遮断するシールドが絶対条件である.
(1)クリーニング
溶接のための開先の機械加工や,管素材のスリッティング加工に際しては,切削油などをなるべく使用せず,また使用しても除去作業の容易なものを用いることが必要である.切削面付近の油類などの付着物はアセトンなどの有機溶剤を用いて洗浄するがさらに幅広く,溶接作業により加熱を受ける部分も清浄にすることが必要である.酸化物や表面に薄く生成している酸化層があれば,ステンレス製ワイヤーブラシを用いて除去するのが妥当で,・・・」(第31頁下から第2行~第32頁第9行)
(オ)甲6の記載事項
甲6には、以下の事項が記載されている。
「[0001] 本発明は、CD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)等の光ディスクを大量に複製するためのスタンパを製造するために用いるスタンパ用基板及び該スタンパ用基板の製造方法に関する。」
「[0008] 通常、圧延により製造された金属板には残留応力が生じる。したがって、片面のみを研磨した場合、表裏両面の残留応力バランスが不均衡となり、金属板に大きく反りが生じるという問題点があった。・・・」
「[0039] また、第12発明に係るスタンパ用基板の製造方法は、第7発明から第11発明のいずれかにおいて、前記金属は、ニッケル、チタン、鉄、銅、アルミニウムのうち少なくとも一つを主成分とすることを特徴とする。」
(カ)甲7の記載事項
甲7には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】表面粗さがいずれの方向においてもRa≦2μmで、かつ表面のうねりがWCA≦10μmの圧延材であることを特徴とするチタン合金シート材。」
「【請求項3】圧延後の表面仕上げが、研削・研磨および酸洗処理であることを特徴とする請求項1に記載のチタン合金シート材。」
「【0008】本発明は・・・優れた加工性を有し、曲げ特性などの加工性の異方性がなく、しかも部材への成形後の表面性状が良好なチタン合金シート材を提供することを目的とする。」
イ 相違点についての検討
(ア)甲1発明における「(b)該チタン基体上に設けられた酸化チタン層と、(c)該酸化チタン層上に設けられた、酸化イリジウムと酸化タンタルからなる中間酸化物層と(d)該中間酸化物層上に設けられた、金属換算で、酸化ロジウム5モル%、酸化イリジウム65モル%、酸化タンタル10モル%及び白金20モル%の複合体」(以下、(b)~(d)をまとめて「積層体層」という。)の形成に際し、積層体層を、電極基体の表面側と裏面側の両側に形成するのか、又はいずれか一方のみに形成するのか、また、各面について、その全面に形成するのか、部分的に形成するのか等については、上記積層体層を構成する各層の形成方法に関する甲1の記載(【0014】、【0015】、【0018】、【0021】~【0022】、【0024】、【0029】、【0035】~【0038】、表1)を参酌しても、何ら明らかとはならず、また、電解用電極への給電手段についても、甲1には何らの記載もされていない。
(イ)この点に関し、甲2には、前記のとおり、チタン製の金属箔製造用不溶性電極の裏面側に給電手段となるチタン製のブスバーを溶接により固定することが従来技術として記載されているが、甲2に記載された電極は、銅箔等の金属箔を製造するためのもので、自重による歪みが問題となる数メートル程度の寸法を有しており、甲1発明における積層体層に相当する層も備えていないから、電極の用途や寸法、構造の点で、甲1発明の「殺菌能力の高い電解水を生成するための電解用電極」とは技術分野が大きく異なるものである。したがって、甲2に記載された事項は、甲1発明において、積層体層をチタン基体のいかなる箇所に形成し、給電手段をどのように設けるのかに際して、何らの指針となるものではない。
また、甲3~5によれば、チタンの溶接に際して、ワイヤブラシ等で酸化膜を除去すること自体は、本願の出願日前における当業者の周知技術であったと認められるが、いずれも、チタンの溶接に際しての一般的な留意事項が記載されているのにどとまるから、甲3~5に記載された事項についても、甲1発明において、積層体層をチタン基体のいかなる箇所に形成し、給電手段をどのように設けるのかに際して、何らの指針となるものではない。
さらに、甲6、7についても、甲1発明とは技術分野が異なり「殺菌能力の高い電解水を生成するための電解用電極」に関して何らの記載もされていないから、甲6、7に記載された事項についても、甲1発明において、積層体層をチタン基体のいかなる箇所に形成し、給電手段をどのように設けるのかに際して、何らの指針となるものではない。
(ウ)以上のとおりであるから、甲1発明において、上記相違点に係る本件発明1の特定事項を採用することは、当業者であっても容易になし得たということはできない。
したがって、本件発明1は、甲1~7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
そして、本件発明1は、上記相違点に係る特定事項を有することにより、研磨工程で生じ得る板材の反りを基準以下に抑制できるという、当業者であっても予測のできない格別の効果を奏するものである。
2 本件発明2~5について
請求項2~4は請求項1を引用し、請求項5は請求項4を介して請求項1を引用しているから、本件発明2~5は、いずれも本件発明1の発明特定事項を全て有している。
したがって、本件発明1と同様に、本件発明2~5についても、甲1~7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
第5 結び
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1~5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2017-700452