特許異議申立
2017-700449
ダクト装置及びそれを用いた船舶
- 審判番号
- 2017-700449
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2013-028288
- 登録番号
- 特許第6021678号(P6021678)
- 請求日
- 2017年05月08日
- 審決日
- 2018年11月21日
- 公報発行日
- 2019年06月28日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】三菱造船株式会社
- 【権利者代理人】松沼 泰史
- 【権利者代理人】伊藤 英輔
- 【権利者代理人】橋本 宏之
- 【権利者代理人】古都 智
- 【権利者代理人】鎌田 康一郎
- 【権利者代理人】長谷川 太一
- 【異議申立人】安齋 彰
- 【異議申立人代理人】尋木 浩司
- 審判長/審判官
- 審判長 和田 雄二
- 審判官 島田 信一
- 審判官 尾崎 和寛
- 分類
- P1651.113-ZDA(B63H) / P1651.121-ZDA(B63H) / P1651.537-ZDA(B63H)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6021678号発明「ダクト装置及びそれを用いた船舶」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6021678号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~3、5~7〕、4、8について訂正することを認める。
特許第6021678号の請求項4~6に係る特許を取り消す。
同請求項1~3、7、8に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1.手続の経緯
特許第6021678号の請求項1~8に係る特許についての出願は、平成25年2月15日に出願され、平成28年10月14日にその特許権の設定登録がされ、平成28年11月9日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議申立ての経緯は、次のとおりである。
平成29年 5月 8日 :特許異議申立人安齋彰(以下「特許異議申立
人」という。)による請求項1~8に係る特
許に対する特許異議の申立て
同年 9月14日 :手続補正書(方式)
同年10月 5日付け:取消理由通知書
同年12月11日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
平成30年 2月19日 :特許異議申立人による意見書の提出
同年 3月12日付け:訂正拒絶理由通知書
同年 4月13日 :特許権者による意見書の提出
同年 5月23日付け:取消理由通知書(決定の予告)
同年 7月26日 :特許権者による意見書の提出及び訂正請求
同年 9月19日 :特許異議申立人による意見書の提出
第2.訂正の適否
1.訂正の内容
平成30年7月26日にされた訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。また、本件訂正請求に係る訂正を「本件訂正」という。)は、本件特許の願書に添付した明細書及び特許請求の範囲(以下、それぞれ「本件明細書」、「本件特許請求の範囲」といい、図面を含めて「本件明細書等」という。)を、訂正請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は以下のとおりである。(下線部は訂正箇所を示す。)
なお、平成29年12月11日にされた訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取下げられたものとみなす。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「船舶の船尾部においてプロペラの前方に配置されるダクト装置であって、
前記ダクト装置は、ダクト本体を具備し、
前記ダクト本体は、
前記船舶の後方側に位置し、前記プロペラの回転軸を内側とする弧を描く後縁と、
前記船舶の前方側に位置し、前記回転軸を内側とする弧を描き、前記回転軸に垂直な方向の輪郭形状が前記後縁よりも大きい前縁とを有し、
前記ダクト本体の前記回転軸を含む平面による断面は翼形状を有し、前記断面の翼弦線と、前記回転軸の延長方向とがなす角度は、前記回転軸を中心とする周方向の角度が鉛直線に近い位置ほど大きく、
前記前縁の前記回転軸に垂直な断面における形状は、前記回転軸を通る鉛直線から左右にそれぞれ所定の角度の範囲内において、前記回転軸上の点を中心とする仮想的な円よりも上方に張り出す曲線形状であり、
前記曲線形状は、前記鉛直線からの角度が小さいほど、前記仮想的な円からの張り出し長さが大きい
ダクト装置。」と記載されているのを、
「船舶の船尾部においてプロペラの前方に配置されるダクト装置であって、
前記ダクト装置は、ダクト本体を具備し、
前記ダクト本体は、
前記船舶の後方側に位置し、前記プロペラの回転軸を内側とする弧を描く後縁と、
前記船舶の前方側に位置し、前記回転軸を内側とする弧を描き、前記回転軸に垂直な方向の輪郭形状が前記後縁よりも大きい前縁とを有し、
前記ダクト本体の前記回転軸を含む平面による断面は翼形状を有し、前記断面の翼弦線と、前記回転軸の延長方向とがなす角度は、前記回転軸を中心とする周方向の角度が鉛直線に近い位置ほど大きく、
前記前縁の前記回転軸に垂直な断面における形状は、前記回転軸を通る鉛直線から左右にそれぞれ所定の角度の範囲内において、前記回転軸上の点を中心とする仮想的な円よりも上方に張り出す曲線形状であり、
前記曲線形状は、前記鉛直線からの角度が小さいほど、前記仮想的な円からの張り出し長さが大きく、
前記後縁の前記回転軸に垂直な断面における形状は、前記回転軸を通る鉛直線から左右にそれぞれ所定の角度の範囲内において、前記回転軸上の点を中心とする円弧を描く、
ダクト装置。」に訂正する。
(請求項1の記載を引用する請求項2、3、5、6、7も同様に訂正する。)
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項8に、
「船舶の船尾部においてプロペラの前方に配置されるダクト装置であって、
前記ダクト装置は、ダクト本体を具備し、
前記ダクト本体は、
前記船舶の後方側に位置し、前記プロペラの回転軸を内側とする弧を描く後縁と、
前記船舶の前方側に位置し、前記回転軸を内側とする弧を描き、前記回転軸に垂直な方向の輪郭形状が前記後縁よりも大きい前縁とを有し、
前記ダクト本体の前記回転軸を含む平面による断面は翼形状を有し、前記断面の翼弦線と、前記回転軸の延長方向とがなす角度は、前記回転軸を中心とする周方向の角度が鉛直線に近い位置ほど大きく、
前記前縁を船首方向から前記回転軸に沿って見た時、前記前縁の形状は、前記回転軸上の点を中心とする仮想的な円と前記回転軸よりも上方の2箇所において交わる曲線形状であって、前記仮想的な円よりも上方に張り出した部分を含む曲線形状を有し、
前記張り出した部分は、前記鉛直線からの角度が小さいほど、前記仮想的な円からの張り出し長さが大きい
ダクト装置。」と記載されているのを、
「船舶の船尾部においてプロペラの前方に配置されるダクト装置であって、
前記ダクト装置は、ダクト本体を具備し、
前記ダクト本体は、
前記船舶の後方側に位置し、前記プロペラの回転軸を内側とする弧を描く後縁と、
前記船舶の前方側に位置し、前記回転軸を内側とする弧を描き、前記回転軸に垂直な方向の輪郭形状が前記後縁よりも大きい前縁とを有し、
前記ダクト本体の前記回転軸を含む平面による断面は翼形状を有し、前記断面の翼弦線と、前記回転軸の延長方向とがなす角度は、前記回転軸を中心とする周方向の角度が鉛直線に近い位置ほど大きく、
前記前縁を船首方向から前記回転軸に沿って見た時、前記前縁の形状は、前記回転軸上の点を中心とする仮想的な円と前記回転軸よりも上方の2箇所において交わる曲線形状であって、前記仮想的な円よりも上方に張り出した部分を含む曲線形状を有し、
前記張り出した部分は、前記鉛直線からの角度が小さいほど、前記仮想的な円からの張り出し長さが大きく、
前記後縁の前記回転軸に垂直な断面における形状は、前記回転軸を通る鉛直線から左右にそれぞれ所定の角度の範囲内において、前記回転軸上の点を中心とする円弧を描く、
ダクト装置。」に訂正する。
(3)訂正事項3
明細書段落【0017】に「回転軸C1の延長方向とがなす角度αは、」とあるのを、
「回転軸C1の延長方向とがなす角度θは、」に訂正する。
(4)訂正事項4
明細書段落【0019】に「図6は、図5のB-B´断面におけるダクト本体9と水流を示す。図12は、図10のC-C´断面におけるダクト本体9と水流を示す。図11に示すB-B´断面においては、ダクト本体9の傾き角(正確には、回転軸C1の延長方向(x軸方向)に対する、回転軸C1を含む平面内の傾き角)θ1が大きい。この領域には、回転軸C1に対して真上付近の水流がダクト本体9の後縁7に流入する。この領域における水流は半径方向に大きい成分を有するため、ダクト本体9が大きい傾きを有することにより、ダクト本体9がより大きな推進力を発生することができる。」とあるのを、
「図6は、図5のB-B´断面におけるダクト本体9と水流を示す。図7は、図5のC-C´断面におけるダクト本体9と水流を示す。図6に示す図5におけるB-B´断面においては、ダクト本体9の傾き角(正確には、回転軸C1の延長方向(x軸方向)に対する、回転軸C1を含む平面内の傾き角)θ1が大きい。この領域には、回転軸C1に対して真上付近の水流がダクト本体9の後縁7に流入する。この領域における水流は半径方向に大きい成分を有するため、ダクト本体9が大きい傾きを有することにより、ダクト本体9がより大きな推進力を発生することができる。」に訂正する。
(5)訂正事項5
明細書段落【0020】に「一方、図7に示すC-C´断面においては、ダクト本体9の傾き角(正確には、回転軸C1の延長方向に対する、回転軸C1を含む平面内の傾き角)θ2が小さい。この領域の水流は、B-B´断面に比べて回転軸C1方向の成分が大きい。そのため、ダクト本体9の回転軸C1方向に対する傾きが小さいことにより、α<0とならず、ダクト本体9がより前進方向に推力を発生することができる。」とあるのを、
「一方、図7に示す図5におけるC-C´断面においては、ダクト本体9の傾き角(正確には、回転軸C1の延長方向に対する、回転軸C1を含む平面内の傾き角)θ2が小さい。この領域の水流は、図5におけるB-B´断面に比べて回転軸C1方向の成分が大きい。そのため、ダクト本体9の回転軸C1方向に対する傾きが小さいことにより、α<0とならず、ダクト本体9がより前進方向に推力を発生することができる。」に訂正する。
(6)訂正事項6
明細書段落【0021】に「典型的な翼形状を有するダクトにおいては、ダクト本体9に流入する水流の迎角αが0度~20度付近で大きな推進力が得られる。従って、ダクト本体9の形状は、以下のように設計される。(1)船尾部2のプロペラ3前方の水流の流速分布を求める。(2)その流速分布に基づいて、各周方向の角度における迎角(図11のα1、図12のα2)が0度~20度に近づくように、各周方向におけるダクト本体9の傾き(θ1、θ2)を設計する。図8は、回転軸C1を中心とする周方向の角度φと流向角Ψとの関係を示す。φが小さい領域においては、流向角Ψが大きいため、ダクト本体9の傾きθが大きくなるように設計される。」とあるのを、
「典型的な翼形状を有するダクトにおいては、ダクト本体9に流入する水流の迎角αが0度~20度付近で大きな推進力が得られる。従って、ダクト本体9の形状は、以下のように設計される。(1)船尾部2のプロペラ3前方の水流の流速分布を求める。(2)その流速分布に基づいて、各周方向の角度における迎角(図6のα1、図7のα2)が0度~20度に近づくように、各周方向におけるダクト本体9の傾き(θ1、θ2)を設計する。図8は、回転軸C1を中心とする周方向の角度φと流向角Ψとの関係を示す。φが小さい領域においては、流向角Ψが大きいため、ダクト本体9の傾きθが大きくなるように設計される。」に訂正する。
(7)訂正事項7
明細書段落【0036】に「C2 円錐面」、「C3 前縁側円」、「C4 後縁側円」とあるのを、
「C2 円錐形」、「C3 後縁側円」、「C4 前縁側円」に訂正する。
訂正前の請求項1~3及び5~7は、請求項2、3及び5~7が、訂正の請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、訂正前において一群の請求項に該当し、訂正事項1は、当該一群の請求項ごとに訂正請求したものであり、訂正事項2は、請求項8について行うものであり、請求項ごとに訂正請求したものである。また、訂正事項3~7に係る明細書の訂正は、請求項1~8について行うものである。
2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1、2について
訂正事項1、2は、訂正前の請求項1及び請求項8の「ダクト本体」の「後縁」の「弧」に関し、「前記後縁の前記回転軸に垂直な断面における形状は、前記回転軸を通る鉛直線から左右にそれぞれ所定の角度の範囲内において、前記回転軸上の点を中心とする円弧を描く」との構成を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、当該限定は、本件明細書の段落【0016】等の記載内容に基づくものであるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。
さらに、カテゴリーや対象、目的を変更するものでないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものにも該当しない。
(2)訂正事項3~7について
訂正事項3~7は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当するものであって、新規事項の追加に該当せず、また、 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものにも該当しない。
3.小括
したがって、上記訂正請求による訂正事項1~7は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1~3、5~7〕、4、8について訂正を認める。
第3.取消理由の概要
訂正前の請求項1~8に係る特許に対して、当審が平成30年5月23日に特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
【取消理由1】
本件特許の請求項1、2、6、8に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
【取消理由2】
本件特許の請求項1~8に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
【取消理由3】
本件特許は、明細書の発明の詳細な説明の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は取り消すべきものである。
記
刊行物
1:特開2008-308023号公報(特許異議申立人が提出した甲第1
号証)
2:特許第5025247号公報(同甲第2号証)
3:特開2008-143489号公報
4:特開昭62-292592号公報(同甲第3号証)
5:実願平3-58601号(実開平5-3092号)のCD-ROM
6:特開昭58-492号公報(同甲第4号証)
7:実願昭56-103762号(実開昭58-9898号)のマイクロ
フィルム(同甲第15号証)
8:特開2003-11880号公報(同甲第5号証)
9:特開2009-214874号公報
第4.当審の判断
1.本件発明
上記第2.のとおり、本件訂正請求が認められるので、訂正後の請求項1~8に係る発明は、以下のとおりのものである(以下「本件発明1~8」という。)。
【請求項1】
船舶の船尾部においてプロペラの前方に配置されるダクト装置であって、
前記ダクト装置は、ダクト本体を具備し、
前記ダクト本体は、
前記船舶の後方側に位置し、前記プロペラの回転軸を内側とする弧を描く後縁と、
前記船舶の前方側に位置し、前記回転軸を内側とする弧を描き、前記回転軸に垂直な方向の輪郭形状が前記後縁よりも大きい前縁とを有し、
前記ダクト本体の前記回転軸を含む平面による断面は翼形状を有し、前記断面の翼弦線と、前記回転軸の延長方向とがなす角度は、前記回転軸を中心とする周方向の角度が鉛直線に近い位置ほど大きく、
前記前縁の前記回転軸に垂直な断面における形状は、前記回転軸を通る鉛直線から左右にそれぞれ所定の角度の範囲内において、前記回転軸上の点を中心とする仮想的な円よりも上方に張り出す曲線形状であり、
前記曲線形状は、前記鉛直線からの角度が小さいほど、前記仮想的な円からの張り出し長さが大きく、
前記後縁の前記回転軸に垂直な断面における形状は、前記回転軸を通る鉛直線から左右にそれぞれ所定の角度の範囲内において、前記回転軸上の点を中心とする円弧を描く、
ダクト装置。
【請求項2】
前記回転軸を含む平面における前記ダクト本体の断面は、前記回転軸の側を負圧面とする翼形状を有する
請求項1に記載のダクト装置。
【請求項3】
前記後縁は、前記回転軸に垂直な方向の輪郭形状が前記プロペラの半径をRとして0.5Rより小さい領域に収まる
請求項1又は2に記載のダクト装置。
【請求項4】
船舶の船尾部においてプロペラの前方に配置されるダクト装置であって、
前記ダクト装置は、ダクト本体を具備し、
前記ダクト本体は、
前記船舶の後方側に位置し、前記プロペラの回転軸を内側とする弧を描く後縁と、
前記船舶の前方側に位置し、前記回転軸を内側とする弧を描き、前記回転軸に垂直な方向の輪郭形状が前記後縁よりも大きい前縁とを有し、
前記ダクト本体の前記回転軸を含む平面による断面は翼形状を有し、前記断面の翼弦線と、前記回転軸の延長方向とがなす角度は、前記回転軸を中心とする周方向の角度が鉛直線に近い位置ほど大きく、
前記ダクト本体は、上向きの鉛直線からの前記回転軸の周方向の角度が50度以内に収まる
ダクト装置。
【請求項5】
更に、前記ダクト本体に支持され、前記ダクト本体から半径方向外側に向かって延長する少なくとも1枚のリアクションフィンを具備する
請求項1から4のいずれかに記載のダクト装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載のダクト装置を具備する船舶。
【請求項7】
前記前縁は、前記回転軸に垂直な面内にある
請求項1から5のいずれかに記載のダクト装置。
【請求項8】
船舶の船尾部においてプロペラの前方に配置されるダクト装置であって、
前記ダクト装置は、ダクト本体を具備し、
前記ダクト本体は、
前記船舶の後方側に位置し、前記プロペラの回転軸を内側とする弧を描く後縁と、
前記船舶の前方側に位置し、前記回転軸を内側とする弧を描き、前記回転軸に垂直な方向の輪郭形状が前記後縁よりも大きい前縁とを有し、
前記ダクト本体の前記回転軸を含む平面による断面は翼形状を有し、前記断面の翼弦線と、前記回転軸の延長方向とがなす角度は、前記回転軸を中心とする周方向の角度が鉛直線に近い位置ほど大きく、
前記前縁を船首方向から前記回転軸に沿って見た時、前記前縁の形状は、前記回転軸上の点を中心とする仮想的な円と前記回転軸よりも上方の2箇所において交わる曲線形状であって、前記仮想的な円よりも上方に張り出した部分を含む曲線形状を有し、
前記張り出した部分は、前記鉛直線からの角度が小さいほど、前記仮想的な円からの張り出し長さが大きく、
前記後縁の前記回転軸に垂直な断面における形状は、前記回転軸を通る鉛直線から左右にそれぞれ所定の角度の範囲内において、前記回転軸上の点を中心とする円弧を描く、
ダクト装置。」
2.【取消理由1】及び【取消理由2】について
2-1.刊行物の記載事項等
(1)刊行物1の記載事項及び刊行物1に記載された発明
ア.刊行物1には図面とともに、次の記載がある(なお、下線は当審で付した。以下同様。)。
(1a)「【技術分野】
【0001】
本発明は、推進性能を向上させるための船舶用ダクト及び当該ダクトが設けられた船舶に関する。
(1b)「【背景技術】
【0002】
従来、前後方向における断面形状が内側に向けて突出する翼形状を呈する、略円環状の船舶用ダクトが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002-220089号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、本発明者は、従来の船舶用ダクトでは、推進性能の向上が減殺されていたことを見出した。すなわち、本発明者による船舶用ダクトがない場合の船尾近傍における流向の解析の結果、船舶用ダクトの上側部分に相当する領域においては、船尾に向かうにつれて下方に向かう流向となっているが、船舶用ダクトの下側部分に相当する領域においては、船尾に向かうにつれて上方に向かう流向となっていることが明らかとなった。そのため、従来の船舶用ダクトでは、上側部分においては推進力を得られるものの、下側部分においては抵抗となってしまっていた。
【0004】
本発明は、推進性能の更なる向上を図ることが可能な船舶用ダクト及び船舶を提供することを目的とする。」
(1c)「【0006】
本発明に係る船舶用ダクトでは、第1板状体が円弧状に湾曲されており、当該第1板状体の端部に直線状の第2板状体が設けられている。そのため、この船舶用ダクトを、スクリューの前方に位置すると共に、第1板状体が上側で且つ第2板状体が下側となるように、船体に取り付けた場合、従来の船舶用ダクトにおいて抵抗の原因となっていた下側部分が存在しなくなる。その結果、推進性能の更なる向上を図ることが可能となる。そして、本発明に係る船舶用ダクトでは、第1板状体の中心軸と第2板状体との直線距離rが、0<r/r0<0.85を満たしている。そのため、従来の船舶用ダクトにおいて抵抗の原因となっていた下側部分が存在しないことによる推進性能の向上の効果を、十分に発揮することが可能となっている。」
(1d)「【0020】
まず、図1~図3を参照して、本実施形態に係る船舶10の構造について説明する。船舶10は、船体12と、スクリュー14と、舵16と、ラダーホーン18と、船舶用ダクト20とを備える。なお、ラダーホーン18を備えない船舶も存在するが、そのような船舶であっても本発明の効果は変わらない。
【0021】
船体12は、図12に示されるように、後方に向いた後向船尾部12aと、下方に向いた下向船尾部12bとを有している。」
(1e)「【0024】
船舶用ダクト20は、図1及び図2に示されるように、第1板状体20a及び一対の第2板状体20bを有する。第1板状体20aは、図2に示されるように、半径r0を有する円弧状に湾曲されている。また、第1板状体20aは、図1及び図3に示されるように、前後方向における断面形状(縦断面形状)が、内側に向けて突出する翼形状を呈している。なお、例えば溶接等によって、ブラケット26の一端が第1板状体20aの頂部に接合されており、ブラケット26の他端が突出部22に接合されている。
【0025】
第2板状体20bは、図1及び図2に示されるように、平板によって構成されている。一対の第2板状体20bの各一端は、第1板状体20aの各端部にそれぞれ設けられている。一対の第2板状体20bの各他端は、例えば溶接等によって突出部22に接合されている。」
(1f)「【0027】
ここで、船舶用ダクト20は、スクリュー14の前方に位置すると共に、第1板状体20aが上側で且つ第2板状体20bが下側となるように、船体12の突出部22に取り付けられている(図1参照)。また、船舶用ダクト20は、第1板状体20aの中心軸X1とその後縁部20cを含む仮想平面Sとの交点Pがスクリュー14の回転軸X2よりも上方に位置するように、船体12の突出部22に取り付けられている(図1参照)。
【0028】
船舶用ダクト20は、第1板状体20aの中心軸X1がスクリュー14の回転軸X2に対して上方に角度θだけ傾いている。この角度θは、第1板状体20aによって大きな揚力が得られるよう、第1板状体20aにおける流向に対して適切な迎角となるように設定することができる。」
(1g)「【0032】
図5に示されるように、直線距離rが0<r/r0<0.85を満たす場合、推進性能の向上率が7%よりも大きくなり、直線距離rが0.4≦r/r0≦0.8を満たす場合、推進性能の向上率が8%以上となった。従って、直線距離rが0<r/r0<0.85を満たす場合、推進性能が更に向上し、直線距離rが0.4≦r/r0≦0.8を満たす場合、推進性能がより一層向上することが確認された。」
(1h)「【0033】
また、本実施形態においては、第1板状体20aの中心軸X1と船舶用ダクト20の後縁部20cを含む仮想平面Sとの交点Pがスクリュー14の回転軸X2よりも上方に位置するように、船舶用ダクト20が船体12に取り付けられている。第1板状体20aは、前後方向における断面形状が内側に向けて突出する翼形状を呈しているので(図1及び図3参照)、船舶用ダクト20の内側における流速は船舶用ダクトの外側における流速よりも速くなる。そのため、第1板状体20aの中心軸X1とスクリュー14の回転軸X2とが一致しているような場合と比較して、速い流れがより多くスクリュー14に流入することとなる。その結果、より一層の推進性能の向上を図ることが可能となる(図3参照)。」
(1i)【図1】及び【図2】として、以下の図面が記載されている。
【図1】
【図2】
イ.刊行物1に記載された発明
刊行物1には、摘記(1d)及び【図1】を参酌すると、船舶10の後向船尾部12aにおいてスクリュー14の前方に配置される船舶用ダクト20に関する技術について開示されているところ、特に摘示(1d)~(1f)によれば、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「船舶10の後向船尾部12aにおいてスクリュー14の前方に配置される船舶用ダクト20であって、
前記船舶用ダクト20は、第1板状体20a及び一対の第2板状体20bを具備し、
前記第1板状体20aは、半径r0を有する円弧状に湾曲されており、前後方向における断面形状(縦断面形状)が、内側に向けて突出する翼形状を呈し、
一対の第2板状体20bの各一端は、第1板状体20aの各端部にそれぞれ設けら、各他端は、突出部22に接合されており、
船舶用ダクト20は、第1板状体20aの中心軸X1がスクリュー14の回転軸X2に対して上方に角度θだけ傾いており、前記中心軸X1とその後縁部20cを含む仮想平面Sとの交点Pがスクリュー14の回転軸X2よりも上方に位置するように船体12の突出部22に取り付けられている
船舶用ダクト20。」
(2)刊行物2の記載事項
刊行物2には図面とともに、次の記載がある。
(2a)「【0001】
本発明は、船舶の船尾に設置される船舶用ダクト、および船舶用ダクトが設置された船舶用ダクト付き船舶に関するものである。」
(2b)「【0014】
なお、船体2の対称面を一点鎖線(以下「船体中心面」と称す)2cで、プロペラ3の中心軸を一点鎖線(以下「プロペラ軸」と称す)3cで、筒状ダクト4の中心軸を一点鎖線(一点鎖線3cに一致している、以下「ダクト軸」と称す)4cで、水面の一例を実線(以下「水平面」と称す)1cで、それぞれ示している。
プロペラ3の直径が「Dp」のとき、筒状ダクト4の船尾側直径Dn(位置C-位置Dの距離)、筒状ダクト4の上側長さLd(線分ACの長さ)、筒状ダクト4の下側長さLb(線分BDの長さ)、および、筒状ダクト4の船首方向に拡径する割合(図中、線分ACとダクト軸4cとのなす角度、線分BDとダクト軸4cとのなす角度、以下「開き角度」と称す)θdは周方向で一定であって、それぞれ以下の範囲にある。
0.40×Dp≦Dn≦1.0×Dp
0.40×Dp≦Ld≦1.0×Dp
0.02×Dp≦Lb≦1.0×Dp
Lb≦Ld
5°≦θd≦20°」
(3)刊行物3の記載事項
刊行物3には図面とともに、次の記載がある。
(3a)「【0001】
本発明は、船舶の船尾に設置される船舶用ダクト、および船舶用ダクトの製造方法、並びに船舶用ダクトが設置された船舶用ダクト付き船舶に関するものである。」
(3b)「【0019】
プロペラ3の直径が「P」のとき、船舶用ダクト4の船尾側直径D1(位置C-位置Dの距離、図5参照)、船舶用ダクト4の上側長さM1(線分ACの長さ、図5参照)、船舶用ダクト4の下側長さN1(線分BDの長さ、図5参照)、および、船舶用ダクト4の船首方向に拡径する割合θ(図中、線分ACと中心軸8とのなす角度、線分BDと中心軸8とのなす角度、図5参照)は周方向で一定であって、それぞれ以下の範囲にある。 0.40×P<D1<1.0×P
0.40×P<M1<1.0×P
0.02×P<N1<1.0×P
N1≦M1
5°<θ<20°」
(4)刊行物4の記載事項
刊行物4には図面とともに、次の記載がある。
(4a)1ページ左下欄13行~末行
「[産業上の利用分野]
本発明は船舶の船尾流整流フィン装置に係り,特にプロペラ面に流入する海水の流れを整流することで,伴流利得を改善すると共にプロペラ起振力を減少させることができる船尾流整流フィン装置に関するものである。」
(4b)3ページ左上欄9行~15行
「また,プロペラ直径9の上部近傍の高さの所に,前記縦フィン6a,6bの間に横フィン7が円弧状に設けられている。
また,前記縦フィン6a,6bおよび横フィン7は断面形状が略流線形をなし,翼舷を有する形状(以下「エァロフォイル型」という)の断面を有し,流体抵抗の小さな形状をなしている。」
(4c)3ページ右上欄11行~18行
「これは船体外板1と海水との摩擦抵抗により,海水中に捨てられていたエネルギーの一部を推進力としてプロペラ4で回収すること(伴流利得)を意味する。
また,縦フィン6a,6bおよび横フィン7はエァロフォイル型断面を有しているので,第4図に示すようにフィンに揚力が発生し,その前向き(船の進行方向)の成分は推力となる。」
(4d)第1図として以下の図面が記載されている。
(5)刊行物5の記載事項
刊行物5には図面とともに、次の記載がある。
(5a)「【請求項1】 船舶の船尾部分を通過する水流による船体抵抗を軽減する船舶の船体抵抗軽減装置であって、前記船尾部分の船体の表面に対向する側の面が断面凸状であるとともに、全体形状が該表面に沿った翼状の整流フィンを、
支持枠により該船尾部分に取り付けたことを特徴とする船舶の船体抵抗軽減装置。」
(5b)「【0001】
【産業上の利用分野】
本考案は船舶の船体抵抗軽減装置にかかるもので、とくに船舶の船尾部分を通過する水流による船体抵抗を軽減する船舶の船体抵抗軽減装置に関するものである。」
(5c)「【0013】
スターンフレーム部用の翼状の上方整流フィン12、および下方整流フィン13は、上方支持枠15および下方支持枠16によってスターンフレーム部4部分にそれそれこれらを取り付けるもので、それぞれの全体形状を船体1の表面に沿って翼状に反らせた形状(図3)とするとともに、船体1の表面に対向する側のそれぞれの面12Aおよび面13Aを断面凸状(図1)に形成してある。」
(5d)「【0019】
なお、本考案においては、トランサム部用の翼状の整流フィン11、ないしスターンフレーム部用の翼状の上方整流フィン12および下方整流フィン13はこれらのいずれかを設ければよく、その数や大きさも船体に応じて任意に選択可能である。」
(5e)【図3】として以下の図面が記載されている。
【図3】
(6)刊行物6の記載事項
刊行物6には図面とともに、次の記載がある。
(6a)1ページ右下欄2行~3行
「本発明は,船舶の推進性能を向上させるための装置に関する。」
(6b)3ページ右上欄15行~19行
「なお,第16図および第17図は補強材19a,19b,19c,19d,19e,19fを,リアクシヨンフインの振動防止をかねて補強を行つた従来の第3例の船舶推進性能向上装置である。」
(6c)第16図として以下の図面が記載されている。
(7)刊行物7の記載事項
刊行物7には図面とともに、次の記載がある。
(7a)明細書1ページ15行~18行
「本考案は、船舶におけるスクリュープロペラの後流に回転成分が残らないようにして、推進性能の向上をはかるようにしたリアクションフインに関する。」
(7b)第4図として以下の図面が記載されている。
(8)刊行物8の記載事項
刊行物8には図面とともに、次の記載がある。
(8a)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、船舶の推進性能を向上させるようにした船尾部構造に関するものである。」
(8b)「【0017】
前記半円弧ダクト8は、プロペラ3の半径よりも小さい半径を有する円筒の下半部を除去して上半部のみとした形状を有しており、更にこの半円弧ダクト8は、その内面に、前端から後端に向かって縮径された縮流曲面10を形成している。この時、半円弧ダクト8は、半楕円の形状を有していてもよい。」
(8c)【図2】として以下の図面が記載されている。
(9)刊行物9の記載事項
刊行物9には図面とともに、次の記載がある。
(9a)「【0001】
この発明は、単一プロペラ或いは複数プロペラ船、特に幅広建造(完全)と非幅広建造(非完全)のあまり迅速でない船の推進出力の必要量を減少させる装置に関する。」
(9b)「【0024】
図1によると、この発明による装置10には、円筒状形状或いは幾つかの他の形状の横断面の前ノズル20が船体100のプロペラ(図に示されていない)の上流に直接に設けられていて、前ノズル20が船体に取り付けられている。前ノズル20の内部空間20aには、フィン或いは水中翼30が配列されている。前ノズル20が船体に配列されていて上方に変位した軸線21により回転可能に対称的である。」
(9c)【図1】として以下の図面が記載されている。
2-2.対比・判断
(1)本件発明1について
ア.対比
本件発明1と引用発明とを対比すると、その意味、機能または構造からみて、
(ア)後者の「船舶10」は前者の「船舶」に相当し、以下同様に、「後向船尾部12a」は「船尾部」に、「スクリュー14」は「プロペラ」に、「船舶用ダクト20」は「ダクト装置」に、「第1板状体20a」は「ダクト本体」に、それぞれ相当する。
(イ)後者の「第1板状体20a」は、刊行物1の【図1】を参酌すると、後縁部20cと前縁部とを有しているといえる。また、後者の「第1板状体20a」は、「半径r0を有する円弧状に湾曲されており、前後方向における断面形状(縦断面形状)が、内側に向けて突出する翼形状を呈」するものであるから、スクリュー14の回転軸X2を含む平面による断面は翼形状を有しているといえる。そして、本件発明1の「前記回転軸に垂直な方向の輪郭形状」とは、本件明細書の段落【0012】の「回転軸C1に垂直な断面における後縁7の輪郭形状(回転軸C1に平行な方向への射影の形状)は、前縁6よりも小さい。」との記載によれば、前記回転軸に垂直な断面における輪郭形状であると解されるところ、後者は「第1板状体20aの中心軸X1がスクリュー14の回転軸X2に対して上方に角度θだけ傾いて」いることから、回転軸X2に垂直な断面における輪郭形状が後縁部20cよりも大きい前縁部とを有しているといえる。
そうすると、後者の「第1板状体20a」は、前者の「ダクト本体は、前記船舶の後方側に位置し、前記プロペラの回転軸を内側とする弧を描く後縁と、前記船舶の前方側に位置し、前記回転軸を内側とする弧を描き、前記回転軸に垂直な方向の輪郭形状が前記後縁よりも大きい前縁とを有し、前記ダクト本体の前記回転軸を含む平面による断面は翼形状を有する」という構成に相当する構成を有するものといえる。
したがって、本件発明1と引用発明とは、
「船舶の船尾部においてプロペラの前方に配置されるダクト装置であって、
前記ダクト装置は、ダクト本体を具備し、
前記ダクト本体は、
前記船舶の後方側に位置し、前記プロペラの回転軸を内側とする弧を描く後縁と、
前記船舶の前方側に位置し、前記回転軸を内側とする弧を描き、前記回転軸に垂直な方向の輪郭形状が前記後縁よりも大きい前縁とを有し、
前記ダクト本体の前記回転軸を含む平面による断面は翼形状を有する、
ダクト装置。」の点で一致し、以下の点で相違する。
〔相違点1〕
「ダクト本体」に関し、
本件発明1は、「前記断面の翼弦線と、前記回転軸の延長方向とがなす角度は、前記回転軸を中心とする周方向の角度が鉛直線に近い位置ほど大きく、前記前縁の前記回転軸に垂直な断面における形状は、前記回転軸を通る鉛直線から左右にそれぞれ所定の角度の範囲内において、前記回転軸上の点を中心とする仮想的な円よりも上方に張り出す曲線形状であり、前記曲線形状は、前記鉛直線からの角度が小さいほど、前記仮想的な円からの張り出し長さが大きい」のに対し、
引用発明は、「船舶用ダクト20は、第1板状体20aの中心軸X1がスクリュー14の回転軸X2に対して上方に角度θだけ傾いており、前記中心軸X1とその後縁部20cを含む仮想平面Sとの交点Pがスクリュー14の回転軸X2よりも上方に位置するように取り付けられている」点。
〔相違点2〕
「ダクト本体」の「後縁」に関し、
本件発明1は、「前記後縁の前記回転軸に垂直な断面における形状は、前記回転軸を通る鉛直線から左右にそれぞれ所定の角度の範囲内において、前記回転軸上の点を中心とする円弧を描く」構成であるのに対し、
引用発明は、「後縁部20c」の回転軸X2に垂直な断面における形状について、かかる構成が特定されていない点。
イ.判断
イ-1.【取消理由1】について
本件発明1と引用発明との間には、イ-2.で後述するように少なくとも相違点2が存在するから、本件発明1は引用発明であるとはいえない。
イ-2.【取消理由2】について
(ア)相違点1について 検討する。
引用発明の「船舶用ダクト20は、第1板状体20aの中心軸X1がスクリュー14の回転軸X2に対して上方に角度θだけ傾いており、前記中心軸X1とその後縁部20cを含む仮想平面Sとの交点Pがスクリュー14の回転軸X2よりも上方に位置するように取り付けられている」との構成から、次のことがいえる。なお、特許異議申立書を補正対象書類名としている平成29年9月14日に提出された手続補正書の14~17ページに記載されている〔参考図1〕~〔参考図4〕を当審においても援用する。
a.ダクト装置の前方への開き角度を該ダクト装置の中心軸に対して周方向で均一にすることは、特開2008-137462号公報(甲第7号証)の段落【0025】及び刊行物2(甲第2号証)の段落【0014】等に示されるように周知ないし慣用技術(以下「周知・慣用技術」という。)であり、これを前提として検討すると、〔参考図1〕及び〔参考図2〕に示されるように、スクリュー14の回転軸X2を中心とする周方向の角度φが鉛直線に近い位置ほど(φ3からφ1にいくほど近くなる)回転軸X2から前縁部(〔参考図1〕ではCf(前縁))の距離と後縁部20c(〔参考図1〕ではCa(後縁))の距離との差δが大きくなる(δ3<δ2<δ1)から、断面の翼弦線と、回転軸X2の延長方向とがなす角度は大きくなる(ε3<ε2<ε1)。
したがって、引用発明は、スクリュー14の回転軸X2を含む平面による断面の翼弦線と、前記回転軸X2の延長方向とがなす角度は、前記回転軸X2を中心とする周方向の角度が鉛直線に近い位置ほど大きくなっているといえる。
b.引用文献1の【図2】に仮想円Ciaを書き加えた〔参考図3〕によれば、引用発明は、スクリュー14の回転軸X2に垂直な断面における形状は、前記回転軸X2を通る鉛直線から左右にそれぞれ所定の角度の範囲内において、前記回転軸X2上の点を中心とする仮想的な円よりも上方に張り出す曲線形状であり、前記曲線形状は、前記鉛直線からの角度が小さいほど、前記仮想的な円からの張り出し長さが大きいといえる。
以上a.及びb.から、引用発明は、上記相違点1に係る本件発明1の構成を備えているということができるから、相違点1は実質的な相違点ではないといえる。
仮に相違点であるとしても、相違点1に係る本件発明1の構成は、上記周知・慣用技術を考慮して当業者が容易に想到し得たことである。
(イ)相違点2について 検討する。
引用発明は「前記第1板状体20aは、半径r0を有する円弧状に湾曲されており、」「船舶用ダクト20は、第1板状体20aの中心軸X1がスクリュー14の回転軸X2に対して上方に角度θだけ傾いており、前記中心軸X1とその後縁部20cを含む仮想平面Sとの交点Pがスクリュー14の回転軸X2よりも上方に位置するように船体12の突出部22に取り付けられている 」構成(以下「構成A」ということがある。)であるところ、【図1】及び【図2】(摘記(1i))に示されるように、仮想平面Sが回転軸X2(本件発明1の「回転軸」)に対して角度を有して交差しているから、引用発明の「船舶用ダクト20」の「後縁部20c」の「回転軸X2」(本件発明1の「回転軸」)に垂直な断面における形状は、幾何学的に、中心軸X1上の点を中心とする楕円形状を描くものであり、本件発明1の後縁とは、中心点の位置及び断面における形状において相違する。
そして、引用発明の上記構成Aは、本件発明1の上記相違点1に係る構成を充足するための必要な構成であることに加え、刊行物1の段落【0028】(摘記(1f))の「この角度θは、第1板状体20aによって大きな揚力が得られるよう、第1板状体20aにおける流向に対して適切な迎角となるように設定することができる。」及び段落【0033】(摘記(1h))の「第1板状体20aの中心軸X1とスクリュー14の回転軸X2とが一致しているような場合と比較して、速い流れがより多くスクリュー14に流入することとなる。その結果、より一層の推進性能の向上を図ることが可能となる」との技術的意義を有するものであるから、上記構成Aを変更する動機付けはなく、むしろ阻害要因があるといえる。
よって、相違点2に係る本件発明1の構成が当業者にとって容易想到であるということはできない。
(ウ)以上のとおり、相違点2に係る本件発明1の構成は容易想到とはいえないものであるから、本件発明1は引用発明及び周知・慣用技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(エ)特許異議申立書人の意見について
特許異議申立書人は、平成30年9月19日に提出した意見書において、a.上記相違点2に関連して、刊行物1の段落【0032】(摘記(1g))の「図5に示されるように、直線距離rが0<r/r0<0.85を満たす場合、推進性能の向上率が7%よりも大きくなり、直線距離rが0.4≦r/r0≦0.8を満たす場合、推進性能の向上率が8%以上となった。従って、直線距離rが0<r/r0<0.85を満たす場合、推進性能が更に向上し、直線距離rが0.4≦r/r0≦0.8を満たす場合、推進性能がより一層向上することが確認された。」との記載から、引用発明においても、r=0(r/r0=0)の場合も想定でき、この場合に相違点2に係る構成を充足する旨、主張している。
しかしながら、上記記載における「0<r/r0<0.85」の数値範囲にはr=0(r/r0=0)は入っていないし、引用文献1の【図5】を参酌するとr/r0=0.6の時がベストモードであるから、r=0(r/r0=0)を選択するという合理的理由がない。仮にr=0(r/r0=0)が選択し得たとしても、上記(イ)で述べたように、「船舶用ダクト20」の「後縁部20c」の「回転軸X2」(本件発明1の「回転軸」)に垂直な断面における形状は、楕円形状であるから、円弧になることはない。
b.また、本件発明1の記載不備に関し、本件発明1の「前記前縁の前記回転軸に垂直な断面における形状は、前記回転軸を通る鉛直線から左右にそれぞれ所定の角度の範囲内において」との記載、及び「前記後縁の前記回転軸に垂直な断面における形状は、前記回転軸を通る鉛直線から左右にそれぞれ所定の角度の範囲内において」との記載における、それぞれ「所定の角度」は、同じであるのか、異なるかが不明確である旨、主張しているが、本件明細書の段落【0016】には「ダクト本体9の後縁7は円C3上の円弧を描く。図4の例では、その円弧の角度は、前縁6と同じであるが、前縁6と異なる角度でもよい。」と記載されており、同じ場合も、異なる場合もあることが記載されているから、「前縁」及び「後縁」に関する「所定の角度」が不明確であるとまではいえない。
よって、特許異議申立書人の主張は、いずれも採用できない。
(2)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに、限定を加えて発明を特定するものであるから、本件発明1と同様に、引用発明であるとはいえず、また、引用発明及び周知・慣用技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)本件発明3について
本件発明3は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに、限定を加えて発明を特定するものである。刊行物2及び3は、後縁の半径を、回転軸に垂直な方向の輪郭形状がプロペラの半径に対して0.4以上1.0以下の領域に収まるように設定することが記載され、ダクト装置の後縁の半径を許容できる幅をもって調整することが本件出願日前に周知(以下「周知技術1」という。)であることを示すために挙げた刊行物であり、引用発明において、上記相違点2に係る本件発明1の構成を成すための契機となるものではないから、本件発明3は、本件発明1と同様に、引用発明、周知技術1及び周知・慣用技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)本件発明4について
ア.対比
本件発明4と引用発明とを対比すると、その意味、機能または構造からみて、
(ア)後者の「船舶10」は前者の「船舶」に相当し、以下同様に、「後向船尾部12a」は「船尾部」に、「スクリュー14」は「プロペラ」に、「船舶用ダクト20」は「ダクト装置」に、「第1板状体20a」は「ダクト本体」に、それぞれ相当する。
(イ)後者の「第1板状体20a」は、刊行物1の【図1】を参酌すると、後縁部20cと前縁部とを有しているといえる。また、後者の「第1板状体20a」は、「半径r0を有する円弧状に湾曲されており、前後方向における断面形状(縦断面形状)が、内側に向けて突出する翼形状を呈」するものであるから、スクリュー14の回転軸X2を含む平面による断面は翼形状を有している。そして、本件発明4の「前記回転軸に垂直な方向の輪郭形状」とは、本件明細書の段落【0012】の「回転軸C1に垂直な断面における後縁7の輪郭形状(回転軸C1に平行な方向への射影の形状)は、前縁6よりも小さい。」との記載によれば、前記回転軸に垂直な断面における輪郭形状であると解されるところ、後者は「第1板状体20aの中心軸X1がスクリュー14の回転軸X2に対して上方に角度θだけ傾いて」いることから、回転軸X2に垂直な断面における輪郭形状が後縁部20cよりも大きい前縁部とを有しているといえる。
そうすると、後者の「第1板状体20a」は、前者の「ダクト本体は、前記船舶の後方側に位置し、前記プロペラの回転軸を内側とする弧を描く後縁と、前記船舶の前方側に位置し、前記回転軸を内側とする弧を描き、前記回転軸に垂直な方向の輪郭形状が前記後縁よりも大きい前縁とを有し、前記ダクト本体の前記回転軸を含む平面による断面は翼形状を有する」という構成に相当する構成を有するものといえる。
したがって、本件発明4と引用発明とは、
「船舶の船尾部においてプロペラの前方に配置されるダクト装置であって、
前記ダクト装置は、ダクト本体を具備し、
前記ダクト本体は、
前記船舶の後方側に位置し、前記プロペラの回転軸を内側とする弧を描く後縁と、
前記船舶の前方側に位置し、前記回転軸を内側とする弧を描き、前記回転軸に垂直な方向の輪郭形状が前記後縁よりも大きい前縁とを有し、
前記ダクト本体の前記回転軸を含む平面による断面は翼形状を有する、
ダクト装置。」の点で一致し、以下の点で相違する。
〔相違点3〕
「ダクト本体」に関し、
本件発明4は、「前記断面の翼弦線と、前記回転軸の延長方向とがなす角度は、前記回転軸を中心とする周方向の角度が鉛直線に近い位置ほど大き」いのに対し、
引用発明は、「船舶用ダクト20は、第1板状体20aの中心軸X1がスクリュー14の回転軸X2に対して上方に角度θだけ傾いており、前記中心軸X1とその後縁部20cを含む仮想平面Sとの交点Pがスクリュー14の回転軸X2よりも上方に位置するように取り付けられている」る点。
〔相違点4〕
本件発明4は、「前記ダクト本体は、上向きの鉛直線からの前記回転軸の周方向の角度が50度以内に収まる」のに対し、
引用発明は、かかる構成が特定されていない点。
イ.判断
(ア)相違点3については、上記(1)イ.イ-2.(ア)で検討したとおり、相違点3は実質的な相違点ではないといえ、仮に相違点であるとしても、相違点3に係る本件発明4の構成は、周知・慣用技術を考慮して当業者が容易に想到し得たことである。
(イ)相違点4について
a.刊行物4には、上記2.2-1.(4)の摘記(4a)~(4c)から、船舶の船尾流整流フィン装置に係り、縦フィン6a,6bの間に横フィン7が円弧状に設けられ、前記縦フィン6a,6bおよび横フィン7は断面形状が略流線形をなし、フィンに揚力が発生することで、その前向き(船の進行方向)の成分を推力とすることが記載されているといえる。また、第1図(摘記(4d))には、上記縦フィン6a,6b及び横フィン7が、上向きの鉛直線からの回転軸の周方向の角度(以下「周方向の角度」という。)が0度である点を中心として対象的に設けられ、0度から90度に向けた途中の角度に収まる大きさであることが看取できる。
また、刊行物5の上記2.2-1.(5)の摘記(5a)~(5c)から、刊行物5には、船舶の船体抵抗軽減装置に係り、翼状の上方整流フィン12、及び下方整流フィン13を上方支持枠15及び下方支持枠16によってスターンフレーム部4部分にそれそれこれらを取り付けることが記載されているといえるところ、摘記(5d)には「上方整流フィン12および下方整流フィン13はこれらのいずれかを設ければよく」と記載されているから、刊行物5には、船舶の船体抵抗軽減装置に係り、翼状の上方整流フィン12を上方支持枠15によってスターンフレーム部4部分に取り付けることが記載されているといえる。また、【図3】(摘記(5e))には、上記上方整流フィン12が、周方向の角度が0度である点を中心として対象に設けられ、0度から90度に向けた途中の角度に収まる大きさであることが看取できる。
このように、推進性能の向上を図るためのプロペラの前方に配置されるダクト装置において、ダクト本体を、周方向の角度が0度である点を中心として対象的に設けられ、0度から90度に向けた途中の角度に収まる大きさにすることは、刊行物4及び刊行物5等に示されているように本件出願日前に周知の技術(以下「周知技術2」という。)といえる。
b.他方、刊行物1の摘記(1b)の段落【0003】には「船舶用ダクトの上側部分に相当する領域においては、船尾に向かうにつれて下方に向かう流向となっているが、船舶用ダクトの下側部分に相当する領域においては、船尾に向かうにつれて上方に向かう流向となっていることが明らかとなった。そのため、従来の船舶用ダクトでは、上側部分においては推進力を得られるものの、下側部分においては抵抗となってしまっていた。」との課題が記載され、該課題を解決するための手段として、同摘記(1c)の段落【0006】に「本発明に係る船舶用ダクトでは、第1板状体が円弧状に湾曲されており、当該第1板状体の端部に直線状の第2板状体が設けられている。そのため、この船舶用ダクトを、スクリューの前方に位置すると共に、第1板状体が上側で且つ第2板状体が下側となるように、船体に取り付けた場合、従来の船舶用ダクトにおいて抵抗の原因となっていた下側部分が存在しなくなる。その結果、推進性能の更なる向上を図ることが可能となる。」と記載されているから、引用発明は、船舶用ダクトにおいて抵抗の原因となっていた下側部分が存在しないように構成したものといえる。
c.また、刊行物1の摘記(1f)の段落【0028】に「船舶用ダクト20は、第1板状体20aの中心軸X1がスクリュー14の回転軸X2に対して上方に角度θだけ傾いている。この角度θは、第1板状体20aによって大きな揚力が得られるよう、第1板状体20aにおける流向に対して適切な迎角となるように設定することができる。」と記載されているように、引用発明の「第1板状体20a」は、「大きな揚力が得られる」との作用効果を得るためのものである。
d.上記b.及びc.を踏まえると、引用発明の「第1板状体20a」は、「船舶用ダクト」により「大きな揚力が得られる」との作用効果が得られることを維持しつつも、抵抗の原因となっている箇所を省くといった技術思想が内在するといえる。
e.そして、引用発明の「前記船舶用ダクト20は、第1板状体20a及び一対の第2板状体20bを具備し、前記第1板状体20aは、半径r0を有する円弧状に湾曲されており、前後方向における断面形状(縦断面形状)が、内側に向けて突出する翼形状を呈し、一対の第2板状体20bの各一端は、第1板状体20aの各端部にそれぞれ設けら、各他端は、突出部22に接合されており」との構成において、「第1板状体20a」の周方向の角度が小さい程揚力の発生が大きく、周方向の角度が大きくなる程揚力の発生が小さくなることは、例えば、特開2011-178222号公報(特許異議申立人が提出した甲第13号証)の段落【0001】~【0006】にも記載ないし示唆されているように、構造から技術的に明らかな事項であるから、引用発明の「第1板状体20a」を、揚力の発生が小さくなる周方向の角度が大きい部分を省いて抵抗を軽減し、揚力の発生が大きくなる周方向の角度が小さい部分は残して揚力を維持する構成に変更することは当業者であれば想起し得ることである。また、その際に、引用発明の「第1板状体20a及び一対の第2板状体20b」の構成として、上記周知技術2を参考にできるものであるところ、「第1板状体20a」が収まる、周方向の具体的角度は、上記揚力と抵抗のバランスを考慮して、50度以内に設定することは、当業者であれば適宜になし得ることである。また、第1板状体20aが、周方向の角度が50度以内に収まるように、第1板状体20aの各端部に一対の第2板状体20bそれぞれ設けて突出部22に接合する構成とすることも技術的困難性はない。
よって、引用発明において、上記相違点4に係る本件発明4の構成とすることは当業者が容易に想到し得たことといえる。
f.本件発明4の奏する効果は、引用発明及び周知技術2、又は引用発明、周知技術2及び周知・慣用技術から予測しうるものであり、格別顕著であるとはいえない。
よって、本件発明4は、引用発明及び周知技術2、又は引用発明、周知技術2及び周知・慣用技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(5)本件発明5(請求項4を引用する請求項5)について
ア.対比
本件発明5と引用発明を対比すると、上記(4)ア.で検討した一致点で一致し、上記相違点3、4に加えて、以下の相違点5で相違するといえる。
〔相違点5〕
本件発明5は、「更に、前記ダクト本体に支持され、前記ダクト本体から半径方向外側に向かって延長する少なくとも1枚のリアクションフィンを具備する」のに対し、
引用発明は、かかるリアクションフィンが特定されていない点。
イ.判断
相違点3については上記(4)イ.(ア)で、相違点4については上記(4)イ.(イ)で、検討済みであるから相違点5について検討する。
推進性能の向上を図るためのプロペラの前方に配置されるダクト装置において、ダクト本体に支持され、前記ダクト本体から半径方向外側に向かって延長する少なくとも1枚のリアクションフィンを具備することは、刊行物6(第16図のフィン12a1~12e1を参照。)及び刊行物7(第4図のフィンブレード05a~05fを参照。)等に示されているように本件出願日前に周知の技術(以下「周知技術3」という。)である。
したがって、引用発明に上記周知技術3を適用し、上記相違点5に係る本件発明5の構成とすることは当業者が容易に想到し得たことといえる。
そして、本件発明5の奏する効果は、引用発明及び周知技術2、3、又は引用発明、周知技術2、3、及び周知・慣用技術から予測しうるものであり、格別顕著であるとはいえない。
よって、本件発明5は、引用発明及び周知技術2、3に基いて、又は引用発明、周知技術2、3、及び周知・慣用技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(6)本件発明6(請求項4又は5を引用する請求項6)について
本件発明6と引用発明を対比すると、上記(4)ア.で検討した対比関係に加えて、引用発明の「船舶用ダクト20」も船舶10に配置されるものであるから、引用発明は実質的に船舶用ダクト20を具備する船舶10といえる。そうすると、上記(4)ア.で検討した一致点で一致し、上記相違点3、4及び5で相違するといえる。そして、相違点3については上記(4)イ.(ア)で、相違点4については上記(4)イ.(イ)で、及び相違点5については上記(5)イ.で検討済みである。
よって、本件発明6は、引用発明及び周知技術2、3に基いて、又は引用発明、周知技術2、3、及び周知・慣用技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(7)本件発明7について
(7-1)請求項1~3を引用する請求項7に係る発明
請求項1~3を引用する請求項7に係る発明は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに、限定を加えて発明を特定するものであるから、本件発明1~3と同様に、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(7-2)請求項4~5を引用する請求項7に係る発明(以下「本件発明7’」という。)
ア.対比
本件発明7’と引用発明を対比すると、上記(5)ア.で検討した一致点で一致し、上記相違点3、4及び5に加えて、以下の相違点6で相違するといえる。
〔相違点6〕
本件発明7’は、「前記前縁は、前記回転軸に垂直な面内にある」のに対し、
引用発明は、かかる事項が特定されていない点。
イ.判断
相違点3については上記(4)イ.(ア)で、相違点4については上記(4)イ.(イ)で、相違点5については上記(5)イ.で検討済みであるから相違点6について検討する。
推進性能の向上を図るためのプロペラの前方に配置されるダクト装置において、前縁が、回転軸に垂直な面内にあることは、刊行物8(【図2】を参照。)及び刊行物9(【図1】を参照。)等に示されているように本件出願日前に周知の技術(以下「周知技術4」という。)である。
しかしながら、本件発明7’は、上記(1)イ.イ-2.(イ)で検討したとおり、引用発明の構成Aは、本件発明7’の上記相違点3に係る構成を充足するための必要な構成であることに加え、技術的意義を有するものであるから、上記構成Aに周知技術4を適用ないし参考にして変更する動機付けはないといえる。
よって、相違点6に係る本件発明7’の構成が当業者にとって容易想到であるということはできないから、本件発明7’は引用発明、周知技術2~4、又は引用発明、周知技術2~4、及び周知・慣用技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(8)本件発明8について
ア.対比
本件発明8と引用発明とを対比すると、その意味、機能または構造からみて、
(ア)後者の「船舶10」は前者の「船舶」に相当し、以下同様に、「後向船尾部12a」は「船尾部」に、「スクリュー14」は「プロペラ」に、「船舶用ダクト20」は「ダクト装置」に、「第1板状体20a」は「ダクト本体」に、それぞれ相当する。
(イ)後者の「第1板状体20a」は、刊行物1の【図1】を参酌すると、後縁部20cと前縁部とを有しているといえる。また、後者の「第1板状体20a」は、「半径r0を有する円弧状に湾曲されており、前後方向における断面形状(縦断面形状)が、内側に向けて突出する翼形状を呈」するものであるから、スクリュー14の回転軸X2を含む平面による断面は翼形状を有している。そして、本件発明1の「前記回転軸に垂直な方向の輪郭形状」とは、本件明細書の段落【0012】の「回転軸C1に垂直な断面における後縁7の輪郭形状(回転軸C1に平行な方向への射影の形状)は、前縁6よりも小さい。」との記載によれば、前記回転軸に垂直な断面における輪郭形状であると解されるところ、後者は「第1板状体20aの中心軸X1がスクリュー14の回転軸X2に対して上方に角度θだけ傾いて」いることから、回転軸X2に垂直な断面における輪郭形状が後縁部20cよりも大きい前縁部とを有しているといえる。
そうすると、後者の「第1板状体20a」は、前者の「ダクト本体は、前記船舶の後方側に位置し、前記プロペラの回転軸を内側とする弧を描く後縁と、前記船舶の前方側に位置し、前記回転軸を内側とする弧を描き、前記回転軸に垂直な方向の輪郭形状が前記後縁よりも大きい前縁とを有し、前記ダクト本体の前記回転軸を含む平面による断面は翼形状を有する」との構成を有するものといえる。
したがって、本件発明8と引用発明とは、
「船舶の船尾部においてプロペラの前方に配置されるダクト装置であって、
前記ダクト装置は、ダクト本体を具備し、
前記ダクト本体は、
前記船舶の後方側に位置し、前記プロペラの回転軸を内側とする弧を描く後縁と、
前記船舶の前方側に位置し、前記回転軸を内側とする弧を描き、前記回転軸に垂直な方向の輪郭形状が前記後縁よりも大きい前縁とを有し、
前記ダクト本体の前記回転軸を含む平面による断面は翼形状を有する、
ダクト装置。」の点で一致し、以下の点で相違する。
〔相違点7〕
「ダクト本体」に関し、
本件発明8は、「前記断面の翼弦線と、前記回転軸の延長方向とがなす角度は、前記回転軸を中心とする周方向の角度が鉛直線に近い位置ほど大きく、前記前縁を船首方向から前記回転軸に沿って見た時、前記前縁の形状は、前記回転軸上の点を中心とする仮想的な円と前記回転軸よりも上方の2箇所において交わる曲線形状であって、前記仮想的な円よりも上方に張り出した部分を含む曲線形状を有し、前記張り出した部分は、前記鉛直線からの角度が小さいほど、前記仮想的な円からの張り出し長さが大きい」のに対し、
引用発明は、「船舶用ダクト20は、第1板状体20aの中心軸X1がスクリュー14の回転軸X2に対して上方に角度θだけ傾いており、前記中心軸X1とその後縁部20cを含む仮想平面Sとの交点Pがスクリュー14の回転軸X2よりも上方に位置するように取り付けられている」る点。
〔相違点8〕
「ダクト本体」の「後縁」に関し、
本件発明8は、「前記後縁の前記回転軸に垂直な断面における形状は、前記回転軸を通る鉛直線から左右にそれぞれ所定の角度の範囲内において、前記回転軸上の点を中心とする円弧を描く」構成であるのに対し、
引用発明は、「後縁部20c」の回転軸X2に垂直な断面における形状について、かかる構成が特定されていない点。
イ.判断
イ-1.【取消理由1】について
本件発明8と引用発明との間には、イ-2.で後述するように少なくとも相違点8が存在するから、本件発明8は引用発明であるとはいえない。
イ-2.【取消理由2】について
(ア)相違点7について検討する。
a.上記(1)イ.イ-2.(ア)で述べたとおり、引用発明は、スクリュー14の回転軸X2を含む平面による断面の翼弦線と、前記回転軸X2の延長方向とがなす角度は、前記回転軸X2を中心とする周方向の角度が鉛直線に近い位置ほど大きくなっているといえる。
b.刊行物1の【図2】に仮想円Cibを書き加えた〔参考図4〕によれば、引用発明は、前縁部を船首方向から前記回転軸X2に沿って見た時、前記前縁部の形状は、前記回転軸X2上の点を中心とする仮想的な円と前記回転軸X2よりも上方の2箇所において交わる曲線形状であって、前記仮想的な円よりも上方に張り出した部分を含む曲線形状を有し、前記張り出した部分は、鉛直線からの角度が小さいほど、前記仮想的な円からの張り出し長さが大きいといえる。
以上a.及びb.から、引用発明は、上記相違点7に係る本件発明8の構成を備えているということができるから、相違点7は実質的な相違点ではないといえる。
仮に相違点であるとしても、相違点7に係る本件発明8の構成は、周知・慣用技術を考慮して当業者が容易に想到し得たことである。
(イ)相違点8について検討する。
上記(1)イ.イ-2.(イ)で検討したように、引用発明の構成Aは、本件発明8の上記相違点7に係る構成を充足するための必要な構成であることに加え、技術的意義を有するものであるから、上記構成Aを変更する動機付けはなく、むしろ、阻害要因があるといえる。
よって、相違点8に係る本件発明8の構成が当業者にとって容易想到であるということはできないから、本件発明8は引用発明、又は引用発明及び周知・慣用技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
2.【取消理由3】について
2-1.【取消理由3】の内容
(1)本件明細書の段落【0017】には、「その断面Bの翼弦線CHと、回転軸C1の延長方向とがなす角度α」と記載されているが、同段落【0005】の「ダクト105は、翼弦線がプロペラ103の回転軸に対して角度θをなして船尾側に向かって内側に傾くように形成される。」との記載、同段落【0006】の「αは、翼断面形状を有するダクト105に対する水流の迎角である。」との記載、同段落【0019】の「図11に示すB-B´断面においては、ダクト本体9の傾き角(正確には、回転軸C1の延長方向(x軸方向)に対する、回転軸C1を含む平面内の傾き角)θ1が大きい。」との記載、同段落【0020】の「一方、図7に示すC-C´断面においては、ダクト本体9の傾き角(正確には、回転軸C1の延長方向に対する、回転軸C1を含む平面内の傾き角)θ2が小さい。」との記載、及び同段落【0021】の「(2)その流速分布に基づいて、各周方向の角度における迎角(図11のα1、図12のα2)が0度~20度に近づくように、各周方向におけるダクト本体9の傾き(θ1、θ2)を設計する。」との記載によれば、「回転軸C1の延長方向とがなす角度」は「θ」であり、「α」は「水流の迎角」となっているが、上記段落【0017】の記載は、これと整合していないので不明確である。
(2)本件明細書の段落【0017】において、「翼弦線CH」という技術用語を用いているが【図2】及び【図7】において角度θで定義された線分はいずれも前縁の点を通っておらず、一般的に前縁の点と後縁の点を結ぶ線が翼弦線であることとの齟齬があり、角度θが何を表すのか不明確である。
(3)【符号の説明】に「C3 前縁側円」及び「C4 後縁側円」と記載されているが、段落【0013】~段落【0016】に記載されている「C3」、「C4」及び段落【0022】に記載されている「後縁側円C3」は、上記【符号の説明】と整合しておらず不明確である。
以上(1)~(3)において本件明細書の記載は不明確であるから、本件明細書の発明の詳細な説明は、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確にかつ充分に記載したものとはいえない。
2-2.当審の判断
(1)について
上記第2.1.(3)の訂正事項3の訂正により解消された。
(2)について
【図2】及び【図7】において角度θで定義された線分はいずれも前縁の点を通っておらず、一般的に翼の前縁の点と後縁の点を結ぶ線が翼弦線であることとの齟齬があるが、「翼弦線」は、技術用語として明確である。そして、【図2】及び【図7】は特許図面であり、設計図面のように精緻に描かれていない場合もあるから、図面との齟齬をもってして、本件明細書の発明の詳細な説明が、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確にかつ充分に記載したものではないとまではいえない。
(3)について
上記第2.1.(7)の訂正事項7の訂正により解消された。
3.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
特許異議申立書人は、特許異議申立書を補正対象書類名としている平成29年9月14日に提出された手続補正書の25ページの(4)エにおいて、本件発明1、8は、本件明細書の発明の詳細な説明において、ダクト本体の形状は、本件明細書の段落0014、段落0015及び図3~5、図11で示されるように扇型形状のみに関して説明されていると共に、その作用効果も扇型形状に起因するにもかかわらず、本件発明1,8では全周ダクトを含む限定になっているから、本件発明1、8は、発明の詳細な説明に記載したものでなく、特許法第36条第6項第1号の要件を満たさない旨、主張している。
しかしながら、本件発明1、8の課題は、本件明細書の段落【0007】に記載されているように「プロペラの前方にダクトを設ける技術において、更に推進効率を向上すること」であるところ、同明細書の段落【0017】の「本実施形態においては、ダクト本体9が、上方ほど傾きが大きい形状を有している。より正確に言うと、ダクト本体9の回転軸C1を含む平面Pによる断面Bは、内周側を負圧側とする翼形状を有する。その断面Bの翼弦線CHと、回転軸C1の延長方向とがなす角度αは、回転軸C1を中心とする周方向の角度φが鉛直線Vに近い位置ほど大きい。このような形状により、船尾部2の流速分布に応じて、効率的な推進力を得ることができる。」との記載内容から、ダクト本体の形状が扇型形状であることが必須のものではないから、本件発明1、8は、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであり、発明の詳細な説明に記載された発明であるといえる。
よって、特許異議申立書人の上記主張は理由がない。
第5.むすび
以上のとおりであるから、本件請求項4~6に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
また、本件請求項1~3、7、8に係る特許は、取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由又は特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことはできない。さらに、他に本件請求項1~3、7、8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2017-700449