特許異議申立
2017-700101
反応混合液および関連製品の調製方法
- 審判番号
- 2017-700101
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2012-531466外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2017年02月02日
- 審決日
- 2017年04月18日
- 公報発行日
- 2017年06月30日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 分類
- P1651.113-Y (C12Q) / P1651.121-Y (C12Q) / P1651.536-Y (C12Q) / P1651.537-Y (C12Q)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第5965317号発明「反応混合液および関連製品の調製方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第5965317号の請求項1ないし34に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第5965317号の請求項1ないし34に係る特許についての出願は、平成22年10月4日に特許出願され、平成28年7月8日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人 秋本 悠太 より特許異議の申立てがされたものである。
第2 本件発明
特許第5965317号の請求項1ないし34の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし34に記載された事項により特定されるとおりのものである。
第3 申立理由の概要
1.(新規性違反)請求項1~34に係る発明は、特開昭53-142521号(甲第1号証)に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない発明であるから、請求項1~34に係る発明の特許を取り消すべきである。
2.(進歩性違反)請求項1~34に係る発明は、特開昭53-142521号(甲第1号証)に記載された発明および技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるか、特開昭53-142521号(甲第1号証)に記載された発明および米国特許第5861251号明細書(甲第3号証)に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明であるから、請求項1~34に係る発明の特許を取り消すべきである。
3.(サポート要件違反)請求項1、9、23、27に係る発明は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、特許を受けることができない発明であるから、請求項1、9、23、27に係る特許を取り消すべきである。
4.(実施可能要件違反)本件の発明の詳細な説明は、請求項9、27に係る発明について、当業者が容易に実施することができる程度に記載されていないから、請求項9、27に係る発明は特許を受けることができず、請求項9、27に係る発明の特許を取り消すべきである。
第4 刊行物の記載
1.甲第1号証
甲第1号証には、以下の事項が記載されている。
ア 「1. ラジオアッセイ系における抗原、抗体、分離剤等の試薬のうち少なくともラジオアイソトープ標識抗原を他の試薬と区別できる色素標識溶液として測定することを特徴とするラジオイムノアッセイ法。
2. 抗体、分離剤等の試薬は抗原の色素標識溶液とは異なる色彩又は色調の色素標識を施している特許請求の範囲第1項記載のラジオイムノアッセイ法。」(特許請求の範囲)
イ 「3 発明の詳細な説明
本発明はラジオアッセイ系の試薬に特殊な色素を標識して測定するラジオイムノアッセイ法に関するもので、ラジオアイソトープから放出される放射線の無用な体外被曝や、アイソトープ汚染を防止し、かつラジオアッセイキットの試薬の取り違え及び分注ミス等アッセイ系に発生する事故を予防しうるような試薬を提供することを目的としている。
1959年にバーソン(Berson)とヤロー(Yallow)がインシュリンの測定にラジオイムノアッセイを初めて用いて以来、多くのホルモン、血中薬剤等の微量物質の定量に応用され、最近におけるラジオイムノアッセイは診断検査の発展に目ざましいものがある。
ところがラジオアイソトープを使用するため研究室、臨床検査室などに従事する検査担当者は体外被曝や汚染にさらされるため特にその取扱いに注意する必要が生じている。また反応系が微量反応であり試薬量及び操作ミスにより測定結果に重大な結果を及ぼすことがある。
本発明者等はこの点の解決に鋭意努力し、ラジオアッセイに用いる試薬に色素を用い着色溶液とすることにより操作手順を視覚で容易に判断出来るようにしたものである。
以下更に詳しく本発明について説明する。
ラジオイムノアッセイ測定は一般に次の主要な試薬から成り立っている。即ち、(1)ラジオアイソトープ標識抗原(抗体)、(2)抗体、(3)B-F分離剤(抗原と抗体との結合したものと、非結合のものとを分離するだめの分離剤)の3種からなっている。ラジオアイソトープ標識抗原(抗体)溶液は他の試薬と同様に無色であるため他の試薬と容易に区別出来る様に明瞭な色素標識溶液とした。
一般に危険を意味するような色素標識であれば一層効果がある。次に測定系で(1)のアイソトープ溶液ばかりでなく上記(2)、(3)の溶液にも異なる色彩、色調の色素を標識し、例えば(1)溶液にはA色、(2)溶液はB色、(3)溶液はC色とした場合(1)(2)を混合した抗原・抗体反応溶液はA、Bの二種混合色調となり(3)のBF分離剤溶液を加えると(1)、(2)、(3)の三種混合色調に変化する。この様に調製することにより操作手順の経過は容易に判り、操作によるミスを防止し、安定した測定結果を得ることができる。」(第2頁左上欄7行~右上欄11行)
2.甲第3号証(周知技術)
甲第3号証には、以下の事項が記載されている。
ウ 「PCR法による核酸の増幅では、反応開始前の最初のステップにおいて、PCR用の反応混合物の各成分、すなわち、鋳型DNA、プライマー、反応緩衝液、MgCl2、KCl、dNTPs(dATP、dCTP、dGTPおよびdTTP)、並びにDNAポリメラーゼを段階的にまたは同時に混合しなければならない。したがって、微量の各成分を、すべて試験サンプルに対して別々に添加し、混合することは煩雑な操作であり、たびたび実験誤差をもたらす。特に多数のサンプルを短時間で分析する場合、その実験効率の悪さおよび実験誤差が重大な障害となっている。」(異議申立人の「甲第3号証の抄訳」)
なお、甲第2号証(参考文献)は、特許異議申立書において、甲第1号証の審査における引用文献であり、甲第1号証と同様の発明が開示されている、とされているが、異議申立人の具体的な取消理由では言及されていないから、記載事項は摘記しない。
第5 判断
1.特許法第29条第1項第3号(新規性)違反、同条第2項(進歩性)違反について
(1)甲1発明
上記ア、イより、甲第1号証には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「ラジオアッセイ系おいて、
(1)ラジオアイソトープ標識抗原溶液をA色、
(2)抗体溶液をB色、
(3)分離剤溶液をC色とし、
(1)(2)を混合した抗原・抗体反応溶液はA色、B色の二種混合色調となり、
(3)のBF分離剤溶液を加えると(1)、(2)、(3)の三種混合色調に変化する、
ラジオイムノアッセイ法。」
(2)対比
本件特許の請求項1に係る発明(以下、「本件特許発明1」という。)と、甲1発明とを対比する。
甲1発明の「ラジオイムノアッセイ法」と、本件特許発明1の「ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)」とは、測定のための反応混合液を調製することを含む方法である点で共通する。
そして、甲1発明のA色の「ラジオアイソトープ標識抗原溶液」、B色の「抗体溶液」は、それぞれ本件特許発明1の第一の着色剤を含む「第一の試薬溶液」、第二の着色剤を含む「第二の試薬溶液」に相当し、甲1発明の「(1)(2)を混合した抗原・抗体反応溶液はA色、B色の二種混合色調となり」は、本件特許発明1の「混合により、該第一および第二の着色剤に起因して、第一および第二の色とは異なる第三の色を呈する混合溶液が得られ」に相当すると認められる。
したがって、両者は、
「測定のための反応混合液の調製方法であって、
-該測定を行うために必要とされる、少なくとも一つの物質を含む第一の試薬溶液の提供、
-該測定を行うために必要とされる、少なくとも一つの他の物質を含む第二の試薬溶液の提供、
-PCR工程に供される混合溶液を提供するための、第一の試薬溶液と第二の試薬溶液の混合、
を含み、
-第一の試薬溶液は、第一の試薬溶液に第一の色を与える第一の着色剤を含み、
-第二の試薬溶液は、第二の試薬溶液に第一の色とは異なる第二の色を与える第二の着色剤を含み、
-該混合により、該第一および第二の着色剤に起因して、第一および第二の色とは異なる第三の色を呈する混合溶液が得られ、かつ第三の色が検出される、
ことを特徴とする反応混合液の調製方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点)
測定のために調製される反応混合液が、本件特許発明1では「ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)」のためのものであるのに対して、甲1発明では「ラジオイムノアッセイ法」のためのものである点。
(3)判断
ア 請求項1~34に係る発明の新規性違反について
本件特許発明1と甲1発明とは、上記の相違点で相違するから、本件特許発明1は甲第1号証に記載された発明とはいえない。
イ 請求項1~34に係る発明の進歩性違反について
まず、甲第1号証には、甲1発明を他の技術に転用することは記載も示唆もされていないから、上記相違点は、甲第1号証の記載から当業者が容易になし得たものとはいえない。
次に、甲第3号証には、上記ウの事項が記載されており、PCRを行う反応混合物は「鋳型DNA、プライマー、反応緩衝液、MgCl2、KCl、dNTPs(dATP、dCTP、dGTPおよびdTTP)、並びにDNAポリメラーゼ」の各成分を含むこと、これらの成分を段階的にまたは同時に混合する必要があること、試験サンプルに対してこれら各成分を別々に添加・混合することは煩雑な操作であり、効率が悪く、実験誤差をもたらすことが理解されるが、甲第3号証に、「試験サンプルに対してこれら各成分を別々に添加・混合することは煩雑な操作であり、効率が悪く、実験誤差をもたらす」という問題点を解決するための具体的な手段が記載ないし示唆されているとは認められない。
一方、甲1発明は、ラジオアイソトープから放出される放射線の無用な体外被曝や、アイソトープ汚染を防止し、かつラジオアッセイキットの試薬の取り違え及び分注ミス等アッセイ系に発生する事故を予防し得る試薬を提供することを目的としており、反応系が微量反応であり、試薬量及び操作ミスにより測定結果に重大な結果を及ぼすラジオイムノアッセイ法において、操作によるミスを防止し、安定した測定結果を得ることができるようにするために、人体に危険なラジオアイソトープを含む試薬溶液を色素標識するものである。
しかしながら、PCRを行う反応混合物はラジオアイソトープのような危険な成分は含んでおらず、PCR法とラジオイムノアッセイ法とでは、測定する対象も全く異なるから、PCR法は、ラジオイムノアッセイ法と共通する課題を有する、同じ技術分野に属する方法には該当しない。
したがって、ラジオイムノアッセイ法に係る甲1発明の方法を、PCR法に転用する動機付けはないから、甲第3号証に記載された技術的事項を考慮しても、上記相違点を当業者が容易になし得るとはいえない。
(4)請求項2~34に係る発明について
請求項2~22に係る発明は、請求項1に係る発明を引用するものであり、また、請求項23~34に係る発明は、請求項1に係る発明の特徴を全て備える発明であるから、上記本件特許発明1(請求項1に係る発明)についての判断と同様の理由により、甲第1号証に記載された発明であるとも、甲第1号証および甲第3号証に記載された技術的事項から当業者が容易になし得るものでもない。
(5)異議申立人の主張について
特許異議申立人は、甲第1号証と本件特許発明とは、共にライフサイエンスあるいはバイオテクノロジーの技術分野に包含される近い技術であることを理由として、本件特許発明に進歩性がないことを主張している。
しかし、甲1発明に基づく容易想到性、または甲1発明と甲第3号証に記載された事項に基づく容易想到性は、甲1発明と技術常識、あるいは甲第3号証の記載に基づいて判断されるものであり、本件特許発明と甲1発明とが近い技術であることは、該判断とは直接関係がない。
2.本件特許発明9、本件特許発明27についての、サポート要件違反、実施可能要件違反について
特許異議申立人が指摘する本件明細書の段落【0033】の記載は、段落【0061】【0062】に示されるような蛍光色素分子を用いる『定量的PCR(qPCR)』に関するものであるが段落【0033】の直前の段落【0032】 に「さらなる実施形態は、従属項に記載している。」と記載され、本件の請求項4に、請求項1記載の方法における少なくとも一つの試薬溶液が「PCRマスターミックス、qPCTマスターミックスまたはPCRもしくはqPCRプレミックスである」と特定されていることから、『定量的PCR(qPCR)』は、本件に係る発明のPCRの一実施形態として記載されているに過ぎないと認められる。
これに対し、本件の請求項9、請求項27に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明9」、「本件特許発明27」という。)のPCRは、『定量的PCR(qPCR)』に限られない、蛍光色素分子を用いない他のPCRも包含しており、本件に係る発明は、そのようなPCRにおいて、少なくとも二つの試薬溶液が混合されるPCR測定のピペッティング段階において、溶液の色によって、第一の試薬溶液、第二の試薬溶液、またはこれらの混合液であるかどうかを直接的に見分けることを解決課題とするものであると認められる。
そして、そのためには、第一の試薬溶液に含まれる第一の着色剤、第二の試薬溶液に含まれる第二の着色剤が異なる色であって、第一の着色剤と第二の着色剤を混合して第三の色が検出されるような第一の着色剤、第二の着色剤であれば、上記課題が解決できると理解できる。
そうすると、実施例で使用された「キシレンシアノール」と「キノリンイエロー」だけでなく、請求項9、請求項27に列挙される着色剤が上記のような第一の着色剤、第二の着色剤として使用できることは、当業者であれば十分に理解できる。
したがって、本件特許発明9、本件特許発明27は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えているとはいえず、また、発明の詳細な説明の記載から、本件特許発明9、本件特許発明27を当業者が容易に実施できないともいえない。
また、異議申立人は、本件特許発明で使用される着色剤はPCR反応を阻害しないことも必須の要件であると主張しているが、PCRに係る本件特許発明において使用される着色剤がPCR反応を大きく阻害すれば、本件特許発明が実施できないことは、当業者であれば明らかであるから、そのことをあえて特定する必要があるとはいえない。また、請求項9、請求項27に列挙される着色剤がPCR反応を大きく阻害するものであるとも認められない。
よって、本件特許発明9、本件特許発明27が特許法第36条第6項第1号の規定を満足しないとも、本件の発明の詳細な説明は、本件特許発明9、本件特許発明27について、当業者が容易に実施することができる程度に記載されていないともいえない。
3.本件特許発明1、本件特許発明23についての、サポート要件違反について
特許異議申立人は、段落【0033】の記載を根拠として、各着色剤の吸収ピークと蛍光剤の放射波長、および励起波長が互いに重複しないように設定することは本件特許発明の必須の要件であると主張している。
しかし、上記2.のとおり、段落【0033】の記載は『定量的PCR(qPCR)』に関するものであり、本件に係る発明のPCRの一実施形態として記載されているに過ぎず、各着色剤の吸収ピークと蛍光剤の放射波長、および励起波長が互いに重複しないように設定することは、本件特許発明1、本件特許発明23の必須の要件ではない。
したがって、本件特許発明1、本件特許発明23が特許法第36条第6項第1号の規定を満足しないとはいえない。
第6 むすび
以上のとおり、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1~34に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~34に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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