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特許異議申立

2017-700073

前駆体シート

審判番号
2017-700073
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2015-018392外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2017年01月27日
審決日
2018年07月12日
公報発行日
2018年10月26日
結論
訂正認容
当事者
審判長/審判官
分類
P1651.113-YAA(H01M) / P1651.121-YAA(H01M) / P1651.537-YAA(H01M) / P1651.536-YAA(H01M)
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特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特許第6008000号発明「前駆体シート」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

【結 論】 特許第6008000号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。 特許第6008000号の請求項1に係る特許を維持する。

理由

【理 由】 第1 手続の経緯 特許第6008000号の請求項1に係る特許についての出願は、2012年(平成24年)1月20日(優先権主張 2011年1月27日 日本国 2011年1月27日 日本国 2011年3月24日 日本国)を国際出願日とする特願2012-504215号(以下、「原出願」という。なお、本件特許についての出願における最先の優先権出張日である2011年1月27日を、以下、「本件優先日」という。)の一部を、平成25年10月21日に特願2013-218365号として新たな特許出願とし、更にその一部を平成27年2月2日に特願2015-18392号として新たな特許出願としたものであって、平成28年9月23日にその特許権の設定登録がされ、同年10月19日にその特許公報が発行されたものである。 そして、本件請求項1に係る特許に対して、平成29年1月27日付けで、特許異議申立人 特許業務法人朝日奈特許事務所(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがなされ、同年6月27日付けで当審から取消理由が通知され、その指定期間内である同年8月28日付けで特許権者から意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)がされ、これに対して申立人から同年10月10日付けで意見書が提出され、同年11月8日付けで当審から審尋がされ、これに対して特許権者から平成30年1月12日付けで回答書、同年3月29日付けで上申書が提出され、同年4月17日付けで当審から取消理由通知(決定の予告)がされ、その指定期間内である同年6月22日付けで特許権者から意見書の提出がされたものである。 第2 訂正の適否についての判断 1 訂正の内容 本件訂正の内容は以下の(1)~(2)のとおりである。 (1) 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1において、「炭素短繊維(A)と、フェノール樹脂とを含む多孔質電極基材用の前駆体シートであって、」と記載されているのを「炭素短繊維(A)と、炭素繊維前駆体短繊維(b1)およびフィブリル状繊維(b2)のうちの一方または両方と、フェノール樹脂とを含む多孔質電極基材用の前駆体シートであって、」に訂正する。 (2) 訂正事項2 特許請求の範囲の請求項1において、「ナトリウムの含有量が150mg/m2以下である前駆体シート。」と記載されているのを「ナトリウムの含有量が9mg/m2以下である前駆体シート。」と訂正する。 2 訂正の適否についての判断 (1) 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 ア 訂正事項1は、訂正前の請求項1における「多孔質電極基材用の前駆体シート」に含まれる成分について「炭素短繊維(A)と、フェノール樹脂とを含む」との特定から「炭素短繊維(A)と、炭素繊維前駆体短繊維(b1)およびフィブリル状繊維(b2)のうちの一方または両方と、フェノール樹脂とを含む」との特定にすることにより、前駆体シートに含まれる成分を更に付加、限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、願書に添付した明細書の【0037】には、シート状物は、炭素短繊維(A)と前駆体繊維(b)とからなることもでき、前駆体繊維(b)とは、炭素繊維前駆体短繊維(b1)およびフィブリル状繊維(b2)のうちの一方、または両方を意味することが記載され、また、同【0042】には、このシート状物にフェノール樹脂を添加して前駆体シートを製造することが記載されていることから、訂正事項1による訂正は、新規事項の追加に該当しない。 また、訂正事項1による訂正は、前駆体シートに含まれる成分を更に付加、限定するものであり、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものでもない。 イ 訂正事項2は、訂正前の請求項1における「多孔質電極基材用の前駆体シート」に含まれるナトリウム含有量について「150mg/m2以下である」との特定から「9mg/m2以下である」との特定に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、願書に添付した明細書の【0181】の【表2】には、「多孔質電極基材用の前駆体シート」のナトリウム含有量として、3~9mg/m2であるものが記載されているので、訂正事項2は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものでもない。 (2) 訂正の適否についての結論 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項~第6項の規定に適合するので、訂正後の特許請求の範囲について訂正を認める。 第3 本件特許発明 1 請求項1に係る発明 上記第2に記載したとおり、本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1に係る発明(以下、「本件特許発明1」という。)は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 炭素短繊維(A)と、炭素繊維前駆体短繊維(b1)およびフィブリル状繊維(b2)のうちの一方または両方と、フェノール樹脂とを含む多孔質電極基材用の前駆体シートであって、 該前駆体シート中で該炭素短繊維(A)が3次元交絡構造を形成しており、 バインダーの含有量が5g/m2以下であり、 ナトリウムの含有量が9mg/m2以下である前駆体シート。」 第4 申立理由、取消理由 1 申立理由の概要 申立人が申し立てた理由は、特許異議申立書の記載によれば、以下のものであると認められる。 (申立理由1-1) 本件訂正前の請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当するものであり、その特許を取り消すべきものである。 (申立理由1-2) 本件訂正前の請求項1に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当するものであり、その特許を取り消すべきものである。 (申立理由1-3) 本件訂正前の請求項1に係る発明は、甲第3号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当するものであり、その特許を取り消すべきものである。 (申立理由2) 本件訂正前の請求項1に係る発明は、甲第1~3号証のいずれかに記載された発明と、甲第4~8号証に記載された周知技術とに基づいて、その本件優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、その特許を取り消すべきものである。 (申立理由3) 本件訂正前の請求項1に係る発明には、「ナトリウムの含有量」が「150mg/m2以下」と特定されているが、この特定により本件発明の解決しようとする課題が解決できることが発明の詳細な説明に実施例として具体的に記載されていないので、その特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、その特許を取り消すべきものである。 (申立理由4) 本件訂正前の請求項1に係る発明には、「ナトリウムの含有量」が「150mg/m2以下」と特定されているが、発明の詳細な説明に実施例として具体的に記載されているのは、「3~9mg/m2」であり、9mg/m2を大きく超える範囲となるような訂正前の請求項1に係る発明を実施する方法が発明の詳細な説明に記載されていないので、発明の詳細な説明は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないから、その特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、その特許を取り消すべきものである。 <証拠方法> 甲第1号証:特開平5-9853号公報 甲第2号証:特開2002-327355号公報 甲第3号証:特開2004-100102号公報 甲第4号証:特開2002-113360号公報 甲第5号証:特開2000-313894号公報 甲第6号証:特開2003-109616号公報 甲第7号証:特開2004-124267号公報 甲第8号証:財団法人日本規格協会編、JIS工業用語大辞典、財団法人日本規格協会発行、2001年3月30日、第5版第1刷、p2129 また、申立人は、平成29年10月10日付け意見書において、証拠方法として、甲第9~12号証を提示し、「水流交絡等により3次元交絡構造を有する前駆体シートである炭素短繊維紙において、炭素短繊維とフェノール樹脂に加え、取扱性等の観点から、炭素繊維前駆体炭素繊維またはフィブリル化されたパルプ状物を含ませて、本件訂正発明と酷似する前駆体シートを作成すること」は、本件優先日前において周知の技術事項であり、本件特許発明1は、甲第1~3号証のいずれかに記載された発明と、周知技術とに基づいて、当業者が容易に想到可能である旨と、本件特許明細書の実施例において炉の損傷に関する評価が一切なされていないことから、本件特許発明1は、特許法第36条第6項第1項の規定に違反したものである旨とを主張している。 <証拠方法> 甲第9号証:特開2009-283259号公報 甲第10号証:特開2008-214120号公報 甲第11号証:特開2002-266217号公報 甲第12号証:特開2005-273051号公報 2 取消理由の概要 平成29年6月27日付けの取消理由通知で当審から通知した取消理由の概要は以下のとおりである。 (取消理由1) 本件訂正前の請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるので、特許法第29条第1項第3号に該当するものであるから、その特許を取り消すべきものである。 (取消理由2) 本件訂正前の請求項1に係る発明には、「ナトリウムの含有量」が「150mg/m2以下」と特定されているが、この特定により本件発明の解決しようとする課題が解決できることが発明の詳細な説明に実施例として具体的に記載されていないので、その特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、その特許を取り消すべきものである。 なお、取消理由1は、申立理由1-1を採用したものであり、取消理由2は、申立理由3を採用したものである。 3 取消理由通知(決定の予告)の概要 平成30年4月17付けの取り消し理由通知(決定の予告)の概要は以下のとおりである。 (取消理由2’) 本件訂正後の請求項1に係る発明には、「ナトリウムの含有量」が「9mg/m2以下」と特定されているが、この特定により本件発明の解決しようとする課題が解決できることが本件特許明細書に示されておらず、また、原出願時の技術常識に基づいて上記発明特定事項を備えることにより、本件発明の課題が解決できるともいえないので、その特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、その特許を取り消すべきものである。 第5 甲号証の記載 1 甲第1号証について (1) 甲第1号証の記載事項 甲第1号証(特開平5-9853号公報)には、以下の事項が記載されている(当審注:下線は、強調のために当審が付したものである。以下、同様。)。 ア 「【請求項1】 繊維の集合体であって、該集合体は繊維の長さが少なくとも1~15mmの範囲で連続的に分布している短繊維を含み、かつ該各種長さの短繊維はランダムに交り合って集合していることを特徴とする繊維集合体。 【請求項2】 繊維集合体が、不織布状物である請求項1記載の繊維集合体。 【請求項3】 繊維が、少なくとも炭素繊維を含むことを特徴とする請求項1記載の繊維集合体。」(特許請求の範囲) イ 「【0003】 【発明が解決しようとする課題】これらの従来技術の短繊維集合体は、概ね繊維長が一定である繊維集合体であり、数種の繊維長の異なる繊維を断続的に集合させても、繊維は部分的に集合斑を形成し易く、不均一に平面配列したものしか得られず、特に三次元的に等方性に優れたものは得られなかった。 【0004】本発明は、カット長がバリアブルであり、しかも繊維長の短いもの程本数が多い分布で、しかも連続的に変化している繊維長分布でランダムに集合させたときに三次元的に等方性で、かつ均質性に優れた集合体を形成することを究明したものである。本発明は、特に剛直性に富んだ繊維においてその特徴を十分に発揮するものである。」 ウ 「【0023】図3は、本発明で得る繊維集合体15のうちシート状に積層せしめた態様のモデル図を示すが、ここで、幅方向(w-w′)、長手方向( l- l′)あるいはバイアス方向(b-b′)に対し2次元的に配列がランダムである短繊維14以外に厚さ方向(t-t′)の配列もランダムである、いわゆる三次元的に配列がランダムである短繊維14を有していることが明らかである。該繊維集合体の厚さ方向のランダム性の程度は吸引作用の調整により自在に達成し得るものである。該厚さ方向に繊維軸が向いている繊維としては特に短い繊維が寄与し、該繊維の配列のランダム性と繊維の剛直性と相俟って繊維集合体構造に対し、高嵩高性、高反発性、気体や液体の易通過性および易含浸性が確保できる。炭素繊維を例にするならばNa/S電池や各種燃料電池の電極基材として要求される導電性に好結果をもたらすものである。さらに複合材の前駆体にあっては樹脂の易含浸性、結着性をもたらし、複合材として、高強度、高信頼性の基材が得られる。」 エ 「【0025】実施例1 単糸デニールが0.6デニール、構成繊維本数3000本のPAN系炭素繊維糸条を窒素シール下650℃の熱処理を施し、脱サイジング加工した後、コーミングローラに供した。コーミングローラの回転数は7000r.p.m とした。得られた炭素繊維の短繊維特性は最大繊維長が65mm、最小繊維長0.02mm(測定可能範囲内で測長したもの)であり、本発明でいう少なくとも1mmから15mmの範囲を含んで分布している繊維集合体となった。該分布するランダム繊維長の繊維集合体の重量平均繊維長は8.9mmであった。該繊維集合体を負圧下のチャンバ内に飛散せしめ、ステンレス製金網60メッシュのネット上に捕集した。捕集したシートの目付は24 g/ m2 とし、該シートにフェノール樹脂(メタノールで希釈の溶液)を含浸した後、再焼成によりC/C材を得た。該基板をリン酸型燃料電池用電極基材に供したところ気孔性、電気伝導性、熱伝導性ならびにシート強力に共に優れた性能を示した。」 (2) 甲第1号証に記載された発明 ア 上記(1)の摘記エにおける、再焼成前のシートに着目すると、甲第1号証には、以下の甲1発明が記載されている。 <甲1発明> 「最大繊維長が65mm、最小繊維長0.02mmであり、重量平均繊維長が8.9mmの炭素短繊維の繊維集合体を負圧下のチャンバ内に飛散せしめ、ステンレス製金網60メッシュのネット上に捕集し、24 g/ m2の目付とし、該炭素短繊維がランダムに配向したシートにフェノール樹脂を含浸して得られる、リン酸型燃料電池用電極基材を得るための再焼成前のシート。」 2 甲第2号証について (1) 甲第2号証の記載事項 甲第2号証(特開2002-327355号公報)には、以下の事項が記載されている。 ア 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は主として炭素質繊維から成り、通気性を有する導電性炭素質繊維シートに関するものである。本発明に係る炭素質繊維シートは、電気伝導性及びガス透過性に優れており、かつ適度の剛性を有しているので、固体高分子型燃料電池のガス拡散層材料として用いるのに好適であり、これを用いた固体高分子型燃料電池は自動車用電源やコージェネレーション発電システム用電源として好適である。」 イ 「【0007】 【発明が解決しようとする課題】炭素質繊維織布のこのような問題点を解消する方法もいくつか提案されている。例えば特開昭58-165254号公報には、フッ素樹脂とカーボンブラックの混合物を炭素質繊維織布の空隙部に充填することが記載されている。また特開平10-261421号公報には、フッ素樹脂とカーボンブラックから成る層を炭素質繊維織布の表面に形成することが記載されている。しかしながら、これらの方法は、炭素質繊維織布の利点であるガス拡散性を低下させるという欠点を伴っている。従って、本発明は、ガス拡散性が良好であり、かつ剛性が大きくて電気伝導度が安定している導電性炭素質繊維シートを提供しようとするものである。」 ウ 「【0023】本発明に係る導電性炭素質繊維シートの代表的なものの他の例であり、かつ上記のものよりも一般的に好ましいのは、炭素質繊維で織布を製織したのち、織布の炭素繊維を互に融着させるか、又はバインダーないしはその炭化物で互に結着させたものである。この織布を基材とするものは、比較的少量のバインダーしか必要としないので、ガス透過性及び導電性を確保しつつ適度の剛性を得ることができる。 【0024】なお、織布中の金属不純物は、燃料電池の作動時に生成水の電気分解反応による電池特性の低下要因となるため、極力少なくするのが好ましい。 例えば鉄は50μg/g以下、ニッケルは50μg/g以下、ナトリウムは100μg/g以下であるのが好ましい。織布の金属不純物は、織布ないしはその原料の炭素質繊維、更にはその原料糸などを、塩酸、酢酸などの酸で洗浄することにより、その含有量を低減させることができる。」 エ 「【0041】上記により得られた導電性炭素質繊維シートは、そのままでも燃料電池のガス拡散層の材料として用いることができるが、これを更に加工してガス拡散層の材料として用いることもできる。例えば膜電極体に適度の水分を保持させたり、電池に供給される燃料や酸化剤に含まれる不純物を吸着除去して電池特性の低下を防止するために、上記で得られた導電性炭素質繊維シートに、800~1200℃程度の水蒸気や二酸化炭素、又は300~500℃程度の空気を接触させ、炭素質の一部をガス化して炭素質繊維に微細な孔を生成させ、多孔性の炭素質繊維からなるシートとすることができる。」 オ 「【0047】実施例9 ポリアクリロニトリル繊維(PAN)を空気酸化して耐炎化処理して得た「LOI値50」のPAN耐炎化繊維を紡績してスライバを作製した。次にこのスライバを精紡して、メートル番手51番手の双糸(2/51Nm)を得た。得られた糸の毛羽数を市販の光学式毛羽カウンター(SHIKIBO F-INDEX TESTER)にて測定したところ、3mm以上の毛羽長の毛羽個数が糸10m長あたり300個であった。この双糸を縦糸及び横糸に用い、縦糸が1インチあたり51本、横糸が1インチあたり45本の経緯密度で平織することによる耐炎化繊維織布を得た。次に、この耐炎化織布を窒素雰囲気中で950℃で炭素化処理した後、さらに、真空下で2300℃で黒鉛化処理をして、黒鉛化炭素質繊維織布を得た。得られた黒鉛化炭素質繊維織布の経緯密度は、縦糸が1インチあたり60本(236本/10cm相当)、横糸が1インチあたり54本(213本/10cm相当)であり、目付量が90m2/g、厚さが0.24mm」であった。得られた黒鉛化炭素質繊維織布を実施例7におけるのと同様に、濃度10重量%の平均粒径20μmのフェノール樹脂半硬化物(メタノール煮沸時の溶解率が95%)の水分散液に浸漬した。100℃で60分間乾燥した後、300℃でホットプレスして導電性炭素質繊維シートを得た。」 (2) 甲第2号証に記載された発明 ア 上記(1)の摘記オに着目すると、甲第2号証には、以下の甲2発明が記載されている。 <甲2発明> 「ポリアクリロニトリル繊維(PAN)を空気酸化して耐炎化処理して得たPAN耐炎化繊維を紡績してスライバを作製し、このスライバを精紡して、メートル番手51番手の双糸(2/51Nm)を得、この双糸を縦糸及び横糸に用い、縦糸が1インチあたり51本、横糸が1インチあたり45本の経緯密度で平織することにより耐炎化繊維織布を得、この耐炎化織布を窒素雰囲気中で950℃で炭素化処理した後、さらに、真空下で2300℃で黒鉛化処理をして、黒鉛化炭素質繊維織布とし、濃度10重量%の平均粒径20μmのフェノール樹脂半硬化物(メタノール煮沸時の溶解率が95%)の水分散液に浸漬し、100℃で60分間乾燥した後、300℃でホットプレスして得られる導電性炭素質繊維シート。」 3 甲第3号証について (1) 甲第3号証の記載事項 甲第3号証(特開2004-100102号公報)には、以下の事項が記載されている(当審注:「・・・」は、省略を表す。以下、同様。)。 ア 「【請求項1】 主として炭素質繊維の糸で構成された織布であって、目付量が50~200g/m2、厚さが0.05~2mm、嵩密度が0.2~0.6g/cc、面方向の体積固有抵抗が0.2Ωcm以下であり、該織布をその縦糸方向及び横糸方向を辺とする正方形に切りだしたとき、その対角線2本をそれぞれ11等分した合計20個の分割点における織布の厚さの変動係数が3.2%以下であり、織布を構成する縦糸及び横糸はその断面の長径が短径の2倍以上であり、かつ、45゜カンチレバー法に準拠した剛軟性指数値(L)が6cm以上であることを特徴とする炭素質繊維織布。」(特許請求の範囲) イ 「【0011】 【発明が解決しようとする課題】 従って本発明の課題は、ガス透過性、導電性(低抵抗)、保水性、排水性等のガス拡散層材料として望まれる性質がバランスしており、また均一で、厚さムラが小さいために、セパレータとガス拡散層との間の微少レベルでの接触抵抗の差異が減少し、結果として出力特性等の電池特性を安定させることができる炭素質繊維織布を提供することであり、さらに、炭素質繊維織布の剛性が高いために、セパレータの溝への垂れ込みが殆ど起こらず、その結果、燃料電池内のガス拡散性が均一となり安定した発電特性を発現させることが可能なガス拡散増材料として好適な炭素質繊維織布を提供することであり、特に固体高分子型燃料電池用ガス拡散層材料として好適な炭素質繊維織布を提供することである。」 ウ 「【0082】 (炭素質繊維織布中の金属不純物) 織布中の金属不純物は、燃料電池の作動時に生成水の電気分解反応により電池特性の低下要因となるため、極力少なくするのが好ましい。例えば鉄は50μg/g以下、ニッケルは50μg/g以下、ナトリウムは100μg/g以下であるのが好ましい。織布中の金属不純物は、織布ないしはその原料の炭素質繊維更にはその原料糸などを、塩酸、酢酸などの酸で洗浄することにより、その含有量を低減させることができる。」 エ 「【0085】 【実施例】 次に本発明の具体的態様を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り以下の実施例によって限定されるものではない。 [比較例1] (炭素質前駆体繊維織布) メートル番手40番手双糸(2/40Nm)のLOI値50のポリアクリロニトリル耐炎化紡績糸を平織とした。織布のサイズは幅100cm、長さ150mであり、厚さは0.318mm(平均値)、目付量は171g/m2(平均値)、嵩密度は0.538g/ccであった。」 ・・・ 【0087】 (炭素化処理) プレス加工後の炭素質前駆体繊維織布を幅50cmで切り出し、窒素雰囲気下の横型連続式炭素化炉で950℃で炭素化処理を行った。 ・・・ 【0088】 ・・・ (黒鉛化処理) 巻き取った炭素化後の炭素質繊維織布を真空黒鉛化炉で2000℃以上で黒鉛化処理して黒鉛化処理された織布を得た。」 オ 「【0090】 [実施例1] 黒鉛化処理まで比較例1と同様にして黒鉛化後の炭素質繊維織布を得た。 (剛性付与処理) 得られた黒鉛化後の炭素質繊維織布を、濃度8重量%のフェノール樹脂(レゾール型)のエタノール溶液に浸漬した。130℃で乾燥したのち、330℃でホットプレスし、樹脂を硬化させて炭素質繊維織布を得た。 【0091】 (剛性付与処理後の炭素質繊維織布の物性) 剛性付与処理後の炭素質繊維織布の厚さは0.226mm、厚さの変動係数は2%、目付量は110g/m2、嵩密度は0.487g/cc、体積固有抵抗は0.07Ωcm、ガス透過性は80cm3/cm2・sec、糸の長径/短径の比は縦糸、横糸ともに5.0であり、剛軟性指数値(L)は10cm、毛羽立ち度は3-4級、バインダーの付着量は15重量%であった。なお、フェノール樹脂を含浸させたのち、乾燥・硬化すると、炭素質繊維織布は若干収縮するので、製品の単位面積当りのフェノール樹脂付着量は、ホットプレス前の付着量よりも多い。 【0092】 [実施例2] (剛性付与処理) 実施例1で得られた樹脂硬化後の炭素質繊維織布を用い、窒素ガス雰囲気下の横型連続炉にて、980℃で炭素化処理を行ない、炭素質繊維織布を得た。 (剛性付与処理した炭素質繊維織布の物性) 剛性付与処理後の炭素質繊維織布の厚さは0.221mm、厚さの変動係数は1.9%、目付量は104g/m2、嵩密度は0.471g/cc、体積固有抵抗は0.03Ωcm、ガス透過性は85cm3/cm2・sec、糸の長径/短径の比は縦糸4.9、横糸5.1、剛軟性指数値は9cm、毛羽立ち度は3-4級、バインダーの炭素化物の付着量は8重量%であった。」 (2) 甲第3号証に記載された発明 ア 上記(1)の摘記エ、オに示される実施例1は、その後、実施例2にて、窒素ガス雰囲気下980℃で炭素化処理を行なって、炭素質繊維織布とされるものであり、上記(1)の摘記オの実施例2に供する前の実施例1に着目すると、甲第3号証には、以下の甲3発明が記載されている。 <甲3発明> 「メートル番手40番手双糸(2/40Nm)のLOI値50のポリアクリロニトリル耐炎化紡績糸を平織とした織布を、炭素化し、黒鉛化して得られる炭素質繊維織布を、濃度8重量%のフェノール樹脂(レゾール型)のエタノール溶液に浸漬し、130℃で乾燥したのち、330℃でホットプレスし、樹脂を硬化させた炭素質繊維織布。」 4 甲第4号証について (1) 甲第4号証の記載事項 甲第4号証(特開2002-113360号公報)には、以下の事項が記載されている。 ア 「【0022】 又、他の一実施例において、油捕集素材10は、スライバー、即ち、スフ(ステープル・ファイバー)等の短繊維を梳り、繊維を長さ方向に平行な状態に引き揃え、通常、直径10~30mm程度の細長い繊維連続体としたものから成る。スライバーを構成する短繊維としては、例えば、スプリットヤーン、パーストヤーン、フィラメント及びステープルファイバー等の短繊維が挙げられる。」 5 甲第5号証について (1) 甲第5号証の記載事項 甲第5号証(特開2000-313894号公報)には、以下の事項が記載されている。 ア 「【0005】 ・・・短繊維は、織物及び不織物機械の両方で綿のような天然短繊維と同様の方法で加工するために適当な長さ(普通約1~10cm)に切断される。」 6 甲第6号証について (1) 甲第6号証の記載事項 甲第6号証(特開2003-109616号公報)には、以下の事項が記載されている。 ア 「【図面の簡単な説明】 【図1】電極材として炭素繊維紡績糸織物構造体を用いた高分子電解質型燃料電池における、炭素繊維紡績糸織物構造体と高分子電解質膜との積層体の断面を示す概略図である。 【符号の説明】 2 炭素繊維紡績糸織物構造体 4 高分子電解質膜 6 表面ケバ」(【0151】) イ 「【図1】 」(図面) 7 甲第7号証について (1) 甲第7号証の記載事項 甲第7号証(特開2004-124267号公報)には、以下の事項が記載されている。 ア 「【図面の簡単な説明】 【図1】本発明で提案する膜-電極接合体の部分断面図である。 【図2】実施例1の炭素繊維織物の累積細孔容積および細孔径分布を示す図である。 【図3】本発明で提案する炭素繊維織物の拡大図面である。」(【0070】) イ 「【図1】 」(図面) ウ 「【図3】 」(図面) 8 甲第8号証について (1) 甲第8号証の記載事項 甲第8号証(財団法人日本規格協会編、JIS工業用語大辞典、財団法人日本規格協会発行、2001年3月30日、第5版第1刷、p2129)には、以下の事項が記載されている。 ア 「紡績 ぼうせき spinning 短い繊維からなる糸を作ること。」(2129頁右欄) 9 甲第9号証について (1) 甲第9号証の記載事項 甲第9号証(特開2009-283259号公報)には、以下の事項が記載されている。 ア 「【0015】 本発明に係る多孔質炭素電極基材は、特定の厚みや大きさに限定されず、ポリアクリロニトリル系(PAN系)炭素繊維を主要構成要素とする不織布、抄紙体、フェルト、クロス等を包含する。また、それらの製造方法は特に限定されず、例えば、ウォータージェット処理やスチームジェット処理などによって繊維を交絡してもよい。特に複数本の炭素短繊維が集合してなる抄紙体が好ましく、表面平滑性が高く、電気的接触が良好で、かつ高分子電解質膜への突き刺さりによる短絡が低減される複数本の炭素短繊維が集合してなる抄紙体がより好ましい。」 イ 「【0019】 本発明の多孔質炭素電極基材に用いる炭素短繊維紙は、バインダーとして有機高分子化合物を含むことが好ましい。 有機高分子化合物としては、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ酢酸ビニル、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂などの熱可塑性樹脂やフェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂などの熱硬化樹脂の他、熱可塑性エラストマー、ブタジエン・スチレン共重合体(SBR)、ブタジエン・アクリロニトリル共重合体(NBR)等のエラストマー、ゴム、セルロースなどを用いることができる。また、その形態としては、パルプ状物や短繊維が適している。 ここでいうパルプ状物とは、繊維状の幹から直径が数μm以下のフィブリルを多数分岐した構造で、このパルプ状物を用いた炭素短繊維紙は効率よく繊維同士が絡み合い、薄い炭素短繊維紙であってもその取り扱い性に優れている特徴を有している。」 ウ 「【0020】 ・・・ PAN系炭素短繊維を結着する樹脂炭化物の原料樹脂は、炭化した段階で炭素短繊維を結着することのできる公知の樹脂から適宜選んで用いることができるが、炭化後に導電性物質として残存しやすいという観点から、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フラン樹脂、コプナ樹脂、ピッチ等が好ましく、フェノール樹脂が特に好ましい。 洗浄後の炭素短繊維紙に樹脂を含浸する方法としては、炭素短繊維紙に樹脂を含浸させることができればよく、特段の制限はないが、コーターを用いて炭素短繊維紙表面に樹脂を均一にコートする方法、絞り装置を用いるdip-nip方法、もしくは炭素短繊維紙と樹脂フィルムを重ねて、樹脂を炭素短繊維紙に転写する方法が、連続的に行うことができ、生産性および長尺ものも製造できるという点で好ましい。 【0021】 樹脂含浸炭素短繊維紙は、そのまま炭素化処理することができる。その他、得られた樹脂含浸炭素短繊維紙を加熱加圧成型後に炭素化処理することもでき、さらにその加熱加圧成型後の樹脂含浸炭素短繊維紙を酸化処理した後に炭素化処理することが可能である。樹脂含浸炭素短繊維紙の炭素化処理は、多孔質電極基材の機械的強度と導電性を発現させることを目的に行う。」 10 甲第10号証について (1) 甲第10号証の記載事項 甲第10号証(特開2008-214120号公報)には、以下の事項が記載されている。 ア 「【0002】 炭素繊維の不織布、織物から構成される炭素繊維シートは、燃料電池電極基材やCFRP(炭素繊維強化プラスチック)の成形や、コンクリート構造物の補修・補強や、電波吸収体等、多種多様な用途に利用されている。」 イ 「【0011】 本発明において熱処理される炭素繊維シート前駆体は、炭素繊維または炭素繊維前駆体繊維を含んでなる。 ・・・ 【0013】 本発明でいう炭素繊維前駆体繊維としては、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維、フェノール系炭素繊維のいずれの炭素繊維の前駆体でもよいが、得られた炭素繊維シートの曲げ強度や、引張強度の高くなるPAN系炭素繊維またはピッチ系炭素繊維の前駆体繊維が好ましく、織物や不織布への加工が容易なPAN系炭素繊維前駆体繊維、例えばPAN酸化繊維(耐炎化繊維ともいう)を用いることがさらに好ましい。かかる炭素繊維前駆体繊維は、炭素繊維と混用してもよい。炭素繊維前駆体繊維として、PAN酸化繊維を用いた場合には、それを用いて織物や水流交絡不織布とすることにより、炭素繊維シート前駆体とすることができる。・・・ 【0014】 本発明でいう有機物は、炭素繊維シート前駆体に含まれる繊維間を結着する目的で使用される、たとえばポリビニルアルコール(以下、PVAと略記する)等の熱可塑性樹脂やフェノール樹脂等の熱硬化性樹脂やピッチや澱粉等のバインダーや前記した製織時の糊剤や不織布化時の油剤を含むものである。有機物のうちフェノール樹脂やピッチは、熱処理で炭化してできた炭化物によって、炭素繊維シート中の炭素繊維間を結着する機能を発揮し、また、澱粉やPVA等は、炭素繊維シート前駆体を得る工程での通過性を高める機能を発揮する。なお、炭素繊維前駆体シートには、炭素繊維、炭素繊維前駆体繊維、有機物以外にも、炭素粉末や金属粉末、無機粉末、金属繊維、無機繊維等の無機物を含んでいてもよいが、燃料電池電極基材として用いる場合には、導電性向上、不純物低減のために、炭素粉末を含ませることが好ましい。炭素粉末の例としては、フェノール樹脂、フラン樹脂やピッチ等の有機物を炭素化した粉末、黒鉛粉末、カーボンブラック、カーボンナノチューブなどが上げられるが、体積平均による平均粒径1μm以上の炭素粉末であることが、炭素繊維シートの電気抵抗を低くするために好ましく、体積平均による平均粒径20μm以下の炭素粉末であることが、シート中への均一な分散やシート表面の平滑性維持のために好ましい。 【0015】 次に、本発明における炭素繊維シート前駆体は、炭素繊維または炭素繊維前駆体繊維の含有比率は10~90重量%が好ましく、20~60重量%がより好ましく、30~50重量%が特に好ましい。すなわち、炭素繊維または炭素繊維前駆体繊維の含有比率が10重量%より下回ると、得られる炭素繊維シートの引張強さが低下したり、脆く折れやすい炭素繊維シートになる傾向がある。また、炭素繊維または炭素繊維前駆体繊維の比率が90重量%を超えると、得られる炭素繊維シートが嵩高になり、引張強度や圧縮強度が低下し、燃料電池の電極用としても適さなくなる。 【0016】 炭素繊維シート前駆体の製造法としては、炭素短繊維または炭素繊維前駆体繊維短繊維を抄紙後、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂を含浸、硬化させる方法や、PAN酸化繊維を用いて、カーディング後、ニードルパンチまたは水流交絡により不織布を得る方法や、PAN酸化繊維を用いて、カーディング後、ニードルパンチまたは水流交絡により不織布を得、さらにフェノール樹脂等の熱硬化性樹脂を含浸、硬化させる方法や、PAN酸化繊維を用いて紡績糸を得、紡績糸を製織した織物等が挙げられるが、燃料電池電極用としては、平滑で曲げ剛性の高い材料を得ることのできる、炭素短繊維または炭素繊維前駆体繊維短繊維を抄紙後、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂を含浸、硬化させる方法が好ましい。また、熱硬化性樹脂の代わりにピッチを用いてもよい。」 ウ 「【0028】 実施例1 東レ(株)製PAN系炭素繊維“トレカ(登録商標)”T300-6K(平均単繊維径:7μm、単繊維数:6,000本)を12mmの長さにカットし、水を抄造媒体として連続的に抄造し、さらにポリビニルアルコールの10重量%水溶液に浸漬し、乾燥して、炭素繊維の目付が約20g/m2の長尺の炭素繊維紙を得てロール状に巻き取った。ポリビニルアルコールの付着量は、炭素繊維紙100重量部に対して20重量部であった。」 11 甲第11号証について (1) 甲第11号証の記載事項 甲第11号証(特開2002-266217号公報)には、以下の事項が記載されている。 ア 「【請求項1】 ポリアクリロニトリル系炭素短繊維を70質量%以上含み、該炭素繊維同士が互いに水流交絡されてなることを特徴とする炭素繊維不織布。 【請求項2】 該ポリアクリロニトリル系炭素短繊維とポリアクリロニトリル系耐炎化短繊維とをあわせて90質量%以上含む請求項1記載の炭素繊維不織布。」(特許請求の範囲) イ 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、高温で使用中の設備・装置にたまった塵・ほこりのふき取りや熱伝導性マットとして暖房機器など多用途で使用でき、さらには燃料電池等の気体透過性が必要とされる電極基材の材料としても好適な導電性・熱伝導性・耐熱性・耐腐食性に優れた、炭素繊維の特性を十分に発揮させることが可能な炭素繊維不織布およびその製造方法に関するものである。」 ウ 「【0039】〔実施例1〕平均繊維径が4μmのポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維の繊維束を切断し、平均繊維長が3mmの短繊維を得た。連続抄紙装置のパルパーにこの炭素短繊維および結着剤であるポリビニルアルコール(PVA)短繊維(平均繊維長=3mm)を炭素短繊維/PVA質量比が85/15になるように加えて、水中で解繊し、十分に混合し、スラリーを調製した。このスラリーをタンクから送り出し、抄紙してウェブを形成し、ウェブが網板を通るところで孔径100μm、スパン1mmのノズルを使用し、1.0MPaの水圧で高圧水流を噴射して、孔を有し交絡されたウェブを形成し、ドライヤー乾燥して、炭素繊維不織布を得た。なお、得られた炭素繊維紙は単位面積当たりの質量が30g/m2に調節した。」 エ 「【0043】〔実施例4〕実施例3で得た不織布を窒素ガス雰囲気中にて2000℃の焼成炉において10分間加熱し、PVAを除去し、後処理された炭素繊維不織布とした。十分に形状保持できる程度の強度があり、バインダーがないため、導電性・熱伝導性に非常に優れた炭素繊維不織布が得られた。」 オ 「【0048】 【表1】 」 12 甲第12号証について (1) 甲第12号証の記載事項 甲第12号証(特開2005-273051号公報)には、以下の事項が記載されている。 ア 「【0035】 「三次元網状構造」とは、断面構造が図1のように不規則な間隔で互いに結合しかつ分離して蜂の巣状またはスポンジ状構造を呈しており、平面構造が図2のように繊維またはフィブリルのような微細構造が不規則な間隔で互いに結合しかつ分離して網状構造を呈している状態をいい、厚み方向、面方向ともに三次元的に結合し一体化した構造である。このような三次元網状構造を呈することで不織布としてより強固な一体化構造となり、より強い引っ張り強さを得ることができるようになる。」 イ 「【図2】 」(図面) 第6 当審の判断 1 平成29年6月27日付け及び平成30年4月17日付けで通知した取消理由について (1) 取消理由1(特許法第29条第1項第3号)について ア 本件特許発明1と甲1発明について (ア) 本件特許発明1と甲1発明とを対比すると、両者は、少なくとも以下の2点で相違する。 相違点1―1:前駆体シートにおいて、本件特許発明1は、「炭素繊維前駆体短繊維(b1)およびフィブリル状繊維(b2)のうちの一方または両方」を含むのに対し、甲1発明はそれらを含まない点。 相違点1-2:本件特許発明1は、「ナトリウムの含有量が9mg/m2以下である」のに対し、甲1発明では、ナトリウムの含有量が明らかでない点。 (イ) そして、上記相違点1-1については、前駆体シートを構成する成分として、実質的な相違点といえるので、相違点1-2について判断するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明であるとはいえない。 したがって、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当するものではない。 (2) 取消理由2、2’(特許法第36条第6項第1号)について ア 平成29年6月27日付けの取消理由通知書における取消理由2の概要は、上記第4の2で示したように、本件訂正前の請求項1には、その「ナトリウムの含有量」が「150mg/m2以下」と特定されているが、この特定により本件発明の解決しようとする課題が解決できることが発明の詳細な説明に実施例として具体的に記載されていないので、その特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、その特許を取り消すべきものであるとしたものである。 イ ここで、本件特許明細書の【発明が解決しようとする課題】には、「しかし、特許文献1の方法は、製造プロセスが複雑な傾向があり、高コストとなる場合があった。また特許文献2の方法では、低コスト化は可能であるものの、焼成時の収縮が大きい場合があり、得られる多孔質電極基材の厚みむらが大きくなったり、シートのうねりが大きくなったりする場合があった。さらに特許文献3の方法では、シート化する際の炭素繊維とアクリルパルプの絡みが少ない場合があり、ハンドリングが困難な場合があった。また、アクリルパルプは繊維状材料と比較してポリマーの分子配向がほとんどないため、炭素化時の炭素化率が低い傾向があり、ハンドリング性を高めるために、多くのアクリルパルプを添加することが望まれた。 本発明は、上記の点を鑑みて行われたものであり、シート強度が大きく、製造コストが低く、かつ十分なガス透過度および導電性を持った多孔質電極基材およびその製造方法を提供することを目的とする。また、この多孔質電極基材の作製に用いる前駆体シート、並びに、この多孔質電極基材を含む膜-電極接合体及び固体高分子型燃料電池を提供することを他の目的とする。」(【0006】~【0007】)と記載されているが、これは、本件発明の「前駆体シート」を炭素化工程に付した後に得られる多孔質電極基材についての課題であると認められる。 そして、本件発明の「前駆体シート」についての課題は、炭素化工程以前に存在する技術的課題であると考えられるところ、本件特許明細書【0039】に、「バインダーとして使用する有機高分子化合物は特に限定されないが、例えば、水溶性バインダーであるポリビニルアルコール(PVA)や、熱融着するポリエステル系あるいはポリオレフィン系のバインダー等が挙げられる。バインダーは繊維や粒子のような固体状でも良いし、液体状でも良い。繊維状のPVAは、硫酸ナトリウムを含む紡浴を用いて製造されることが多いため、一般にナトリウムを元素として多量に含有する。このようにナトリウム分を多量に含有するバインダーを用いると、そのナトリウム分はシート状物および前駆体シートにも残留するが、後の炭素化処理工程[3]でシート外に放出される。放出されたナトリウム分は炭素化炉内に飛散し、炉を傷める原因となるので、シート状物中および前駆体シート中のナトリウム含有量はいずれも少なければ少ないほど好ましい。」との記載が存在し、本件特許明細書のその他の箇所には、炭素化工程以前に存在する技術的課題は、何ら記載されていないことから、本件発明の「前駆体シート」についての課題は、「前駆体シート」の「炭素化処理工程」において「ナトリウム分」が「炭素化炉内に飛散し、炉を傷める」ことを抑制することであるといえる(以下、単に「課題」という。)。 ウ そして、上記第3に示すように、本件訂正により本件特許発明1は、本件特許明細書の表2、表3に記載されている実施例1~29のナトリウム含有量に基づいて「ナトリウムの含有量が9mg/m2以下」との特定事項を備えるものになった。 エ しかしながら、平成30年4月17日付けの取消理由通知(決定の予告)において取消理由2’として示したように、本件特許明細書には、上記課題である、「前駆体シート」の「炭素化処理工程」において「ナトリウム分」が「炭素化炉内に飛散し、炉を傷める」ことを抑制することが、実施例において具体的に裏付けされていないし、炭素化炉内においてナトリウム分が存在することにより炭素化炉の損傷が生じることが、原出願時の技術常識に基づいて理解し得ることも、適切な証拠を伴って示されなかったため、本件訂正後の本件発明1が依然として課題を解決できるものといえないので、本件発明1に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、その特許を取り消すべきものであるとされた。 オ そこで、「炭素化炉内においてナトリウム分が存在することにより炭素化炉の損傷が生じること」が、本件優先日前の技術常識に基づいて理解することができたかについて、検討する。 カ 特許権者から提出された平成30年1月15日受付の回答書に添付された乙第1号証には、以下の記載がある。 乙第1号証:GARY B.DUNKS,et al.「Graphite Oxidation in Sodium Carbonate / Sodium Sulfate Melts」、Inorganic Chemistry 1982, 21, p.108-114 「The oxidation of spectroscopic grade graphite in sodium carbonate/sodium sulfate melts using oxidizing(air and oxygen)or inert(argon and nitrogen)sparge was investigated between 900 and 1000℃.」(第108頁第4行~第5行) 当審訳「酸化性(空気及び酸素)ガスもしくは不活性(アルゴン及び窒素)ガス注入による、炭酸ナトリウム/硫酸ナトリウム溶融物中の高純度黒鉛の酸化について、900~1000℃で調べた。」 「The oxidation of carbon in the presence of sodium carbonate has been studied under a variety of experimental conditions.」(第108頁左欄第2行~第3行) 当審訳「さまざまな実験条件において、炭酸ナトリウムの存在下での炭素の酸化について、研究されてきた。」 「The overall process of carbon oxidation in the absence of oxygen in sodium carbonate melts containing sodium sulfate was represented by eq 7.」(第108頁左欄第23行~第26行) 当審訳「酸素非存在下で、硫酸ナトリウムを含む炭酸ナトリウム溶融物中の炭素が酸化される反応を総合すると、式7で表される。」 「Na2SO4+2C→Na2S+2CO2   (7) 」(第108頁左欄第27行) 「A sequence of reactions that is consistent with the results of this study for the oxidation of graphite in pure sodium sulfate using argon is represented by eq 2,4,13,14,17,and 18.The overall process is represented by eq 7.」(第114頁左欄第4行~第8行) 当審訳「アルゴン雰囲気における純粋な硫酸ナトリウム中の黒鉛酸化についての本検討結果に整合する一連の反応は、式2、4、13、14、17及び18で表される。これらの反応を総合すると式7で表される。」 キ 更に、特許権者から提出された平成30年6月22日付けの意見書に添付された乙第4号証~乙第6号証には、以下の旨の記載がある。 乙第4号証:特開平4-308226号公報 乙第5号証:特開昭58-208421号公報 乙第6号証:特開昭63-152415号公報 乙第4号証には、「炭素繊維用熱処理炉」詳しくは「炭素化炉」に関する発明が記載されており(【発明の名称】、【請求項1】、【0001】)、【0006】には、「黒鉛を炉材とする炉」と記載され、「炭素繊維を処理する」温度が「約1000℃以上」であることも記載されている。 すなわち、炭素化炉の内部の材質として黒鉛が使用されることが記載されている。 乙第5号証には、「黒鉛質」の板状炉心材で加熱室を構築してなる「竪型加熱炉」が記載され(請求項1)、「竪型加熱炉」が「炭素繊維製造用」であることが記載されている(第1頁右欄第7行)。 すなわち、炭素繊維製造用の加熱炉の内部の材質として黒鉛が使用されることが記載されている。 乙第6号証には、「グラファイト」からなる筒状の発熱体及びパイプを有する「炭素繊維の製造装置」が記載され(請求項1)、「黒鉛化炉」であることが記載され(第3頁右下欄第1行)、炭素繊維を製造するための炭化を「800~2000℃」で行うことも記載されている(第1頁右下欄第9~10行)。 すなわち、炭素繊維を製造するための炭素化炉の内部の材質としてグラファイトすなわち黒鉛が使用されることが記載されている。 ク 上記カに示す乙第1号証により、酸素非存在下であっても、「黒鉛が硫酸ナトリウム等と約1000℃で反応」することについて、理解できる。 ケ また、上記キに示す乙第4号証~乙第6号証により、炭素繊維を製造するために炭素化工程を行う炉について、「炉の内部の材質として黒鉛が用いられること」が古くから技術常識であることが理解できる。 コ したがって、酸素非存在下であっても、「黒鉛が硫酸ナトリウム等と約1000℃で反応」し、炭素が酸化され、二酸化炭素になること、すなわち、酸素非存在下であっても、ナトリウムの存在下、約1000℃で黒鉛が消費されること、及び、炭素繊維を製造するために炭素化工程を行う炉について「炉の内部の材質として黒鉛が用いられること」、はいずれも、原出願時の技術常識であったといえるから、炭素化炉内においてナトリウム分が存在することにより炭素化炉の損傷が生じることが、原出願時の技術常識に基づいて合理的に理解することができる。 サ 以上のことから、本件特許明細書には、上記イで示した課題である、「前駆体シート」の「炭素化処理工程」において「ナトリウム分」が「炭素化炉内に飛散し、炉を傷める」ことを抑制することが、実施例において具体的に確認はされていないけれども、上記コの技術常識に照らせば、「炭素化処理工程」に供される「前駆体シート」の「ナトリウム含有量」が少なければ、黒鉛からなる炉壁の損傷を抑制できることが理解できる。 そして、本件特許発明1は、「ナトリウム含有量」について、実施例の上限値に基づく「9mg/m2以下」との発明特定事項を備えるものであるから、上記課題を解決することができるものであるということを合理的に理解することができるので、本件特許発明1は、発明の詳細な説明に記載したものであるといえる。 したがって、本件の請求項1に係る発明は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている。 2 取消理由に採用しなかった申立理由について (1) 申立理由1-2、1-3(特許法第29条第1項第3号)について 上記1の(1)で検討した取消理由1は、甲第1号証を主引用例とする申立理由1-1に対応するものであるので、ここでは、申立理由1-2、1-3について検討する。 (1-1) 申立理由1-2について ア 本件特許発明1と甲2発明について (ア) 本件特許発明1と甲2発明とを対比すると、甲2発明の「黒鉛化炭素質繊維」は、PAN耐炎化繊維すなわちポリアクリロニトリル繊維の紡績糸が黒鉛化されたものであり、甲第8号証に記載される紡績の意から、当該繊維には、黒鉛化された短い「ポリアクリロニトリル繊維」が含まれていると認められる。そして、当該黒鉛化された短い「ポリアクリロニトリル繊維」は、本件特許発明1の「炭素短繊維(A)」に相当するものである。また、甲2発明の「導電性炭素質繊維シート」は、上記第5の2(1)の摘記エによると、更に800~1200℃の熱処理等が行われるものであるから、本件特許発明1の「前駆体シート」に相当するので、両者は、少なくとも以下の3点で相違する。 相違点2―1:前駆体シートにおいて、本件特許発明1は、「炭素繊維前駆体短繊維(b1)およびフィブリル状繊維(b2)のうちの一方または両方」を含むのに対し、甲2発明はそれらを含まない点。 相違点2-2:前駆体シート中の炭素短繊維が、本件特許発明1では、「3次元交絡構造を形成」しているのに対し、甲2発明では、「紡績してスライバ」とされ「このスライバを精紡して」「縦糸及び横糸に用い」「平織」された状態である点。 相違点2-3:ナトリウムの含有量において、本件特許発明1は、「9mg/m2以下である」のに対し、甲2発明では、明らかでない点。 (イ) そして、上記相違点2-1については、前駆体シートを構成する成分として、実質的な相違点といえるので、その余の相違点について判断するまでもなく、本件特許発明1は、甲2発明であるとはいえない。 したがって、本件特許発明1は、甲第2号証に記載された発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当するものではない。 (1-2) 申立理由1-3について ア 本件特許発明1と甲3発明について (ア) 本件特許発明1と甲3発明とを対比すると、甲3発明の「ポリアクリロニトリル耐炎化紡績糸を平織とした織布を、黒鉛化して得られる炭素質繊維織布」における「炭素質繊維」は、ポリアクリロニトリルの紡績糸が黒鉛化されたものであリ、当該繊維には、黒鉛化された短い「ポリアクリロニトリル繊維」が含まれていると認められる。そして、当該黒鉛化された短い「ポリアクリロニトリル繊維」は、本件特許発明1の「炭素短繊維(A)」に相当するものである。また、甲3発明の「炭素質繊維織布」は、その後980℃での炭素処理が行われるものであるから、本件特許発明1の「前駆体シート」に相当するので、両者は、少なくとも以下の3点で相違する。 相違点3―1:前駆体シートにおいて、本件特許発明1は、「炭素繊維前駆体短繊維(b1)およびフィブリル状繊維(b2)のうちの一方または両方」を含むのに対し、甲3発明はそれらを含まない点。 相違点3-2:前駆体シート中の炭素短繊維が、本件特許発明1では、「3次元交絡構造を形成」しているのに対し、甲3発明では、「平織」された状態である点。 相違点3-3:ナトリウムの含有量において、本件特許発明1は、「9mg/m2以下である」のに対し、甲3発明では、明らかでない点。 (イ) そして、上記相違点3-1については、前駆体シートを構成する成分として、実質的な相違点といえるので、その余の相違点について判断するまでもなく、本件特許発明1は、甲3発明であるとはいえない。 したがって、本件特許発明1は、甲第3号証に記載された発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当するものではない。 (2) 申立理由2(特許法第29条第2項)について (2-1) 甲1発明を主引例とする場合について ア 上記第6の1(1)ア(ア)に示したように、本件特許発明1と甲1発明とは、少なくとも相違点1-1、1-2において、相違するものである。 イ そこで、まず、相違点1-1について検討する。 甲第9号証には、上記第5の9(1)イのように、多孔質炭素電極基材に関し、「本発明の多孔質炭素電極基材に用いる炭素短繊維紙は、バインダーとして有機高分子化合物を含むことが好ましい。 有機高分子化合物としては、ポリビニルアルコール(PVA)、・・・などを用いることができる。また、その形態としては、パルプ状物や短繊維が適している。 ここでいうパルプ状物とは、繊維状の幹から直径が数μm以下のフィブリルを多数分岐した構造で、このパルプ状物を用いた炭素短繊維紙は効率よく繊維同士が絡み合い、薄い炭素短繊維紙であってもその取り扱い性に優れている特徴を有している。」と記載されていることから、取扱い性向上の観点から多孔質炭素電極基材に用いる薄い炭素短繊維紙にフィブリル状のパルプ状物を配合することが記載されているといえ、また、甲第10号証には、上記第5の10(1)イのように「炭素繊維または炭素繊維前駆体繊維を含んでなる」「熱処理される炭素繊維シート前駆体」において「炭素繊維前駆体繊維は、炭素繊維と混用してもよい」と記載されている。 ウ しかしながら、上記第5の1(1)ウのように「厚さ方向に繊維軸が向いている繊維としては特に短い繊維が寄与し、該繊維の配列のランダム性と繊維の剛直性と相俟って繊維集合体構造に対し、高嵩高性、高反発性、気体や液体の易通過性および易含浸性が確保できる」という、各種長さの炭素短繊維がランダムに交り合って繊維集合体を形成することにより優れた性能を示す甲1発明において、炭素短繊維が交じり合うことによって、既に優れた性能を有する繊維集合体を形成しているものであるにも関わらず、更に、フィブリル状のパルプ状物または炭素繊維前駆体繊維を配合しようとする動機付けは存在しないことから、甲1発明において、相違点1-1に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得たものとはいえない。 エ また、申立人は、平成29年10月10日付け意見書において、「甲第9号証~甲第12号証を参酌すれば、水流交絡等により3次元交絡構造を有する前駆体シートである炭素短繊維紙において、炭素短繊維とフェノール樹脂に加え、取扱性の観点から、炭素繊維前駆体短繊維またはフィブリル化されたパルプ状物を含ませて、本件訂正発明と酷似する前駆体シートを作製することは、本件訂正発明の出願前において周知であ」(第11頁第1~5行)り、「本件訂正発明1は、甲1発明・・・に、・・・甲第9号証~甲第12号証に記載の周知技術を適宜参酌することにより、容易想到である。」(第13頁第10~13行)と主張する。 甲第9号証~甲第12号証は、それぞれ公知ではあるが、甲第11号証および甲第12号証に記載されているのは、単に「炭素繊維不織布」等に関するものであって、フェノール樹脂が含浸され、焼成される多孔質電極基材用の前駆体用シートに関するものではない。 また、甲第9号証及び甲第10号証のいずれにも、前駆体シートに係る発明が記載されているものの、甲第9号証には「炭素短繊維紙」に「炭素繊維前駆体短繊維」を加えることは記載されていないし、甲第10号証には、「炭素短繊維紙」に「取扱性の観点から」「炭素繊維前駆体短繊維」または「フィブリル化されたパルプ状物」を加えることについては、記載されていないので、甲第9号証及び甲第10号証の両方に、上記の申立人が周知と主張する「炭素短繊維紙において、・・・取扱性の観点から、炭素繊維前駆体短繊維またはフィブリル化されたパルプ状物を含ませて、本件訂正発明と酷似する前駆体シートを作製すること」は、記載されておらず、周知の技術事項であったとは認められないので、上記申立人の意見書による主張は採用できない。 オ また、甲第4~8号証のいずれにおいても、上記相違点1-1に係る発明特定事項に関する記載は存在しない。 カ したがって、相違点1-2について検討するまでもなく、本件特許発明1は、当業者であっても甲1発明及び甲第4~12号証に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものでなく、特許法第29条第2項の規定に違反するものではない。 (2-2) 甲2発明を主引例とする場合について ア 上記(1)(1-1)ア(ア)に示したように、本件特許発明1と甲2発明とは、少なくとも相違点2-1~2-3において相違するものである。 イ そこで、まず、相違点2-1について検討する。上記(2-1)イで示したように、甲第9号証には、炭素短繊維紙に、直径が数μm以下のフィブリルを多数分岐した構造を有するパルプ状物を配合することが記載され、甲第10号証には、炭素繊維シートにおいて、炭素繊維前駆体繊維を混用することが記載されている。 ウ しかしながら、炭素繊維を平織して炭素質繊維シートを形成した甲2発明において、更に、フィブリル状のパルプ状物または炭素繊維前駆体繊維を配合しようとする動機付けは存在せず、また、甲2発明の炭素質繊維シートにおける炭素繊維は、精紡、すなわち長繊維化された糸となった後、平織された状態であるのに対し、甲第9号証に記載の炭素繊維紙、または、甲第10号証に記載の炭素繊維シートにおける炭素繊維は、長繊維の糸とされた後、平織された状態ではないため、その存在状態は大きく異なるものであるし、甲2発明と甲第9号証、甲第10号証の記載事項の炭素繊維についての存在形態について共通点も存在しないことから、甲2発明において、本件特許発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得たものとはいえない。 エ また、甲第4~8号証のいずれにおいても、上記相違点2-1に係る発明特定事項に関する記載は存在しないし、上記(2-1)エで示したように、甲第11号証および甲第12号証に記載されているのは、単に「炭素繊維不織布」等に関するものであって、フェノール樹脂が含浸され、焼成される多孔質電極基材用の前駆体用シートに関するものではない。 オ したがって、他の相違点2-2~2-3について検討するまでもなく、本件特許発明1は、当業者であっても甲2発明及び甲第4~12号証に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものでなく、特許法第29条第2項の規定に違反するものではない。 (2-3) 甲3発明を主引例とする場合について ア 上記(1)(1-2)ア(ア)に示したように、本件特許発明1と甲3発明とは、少なくとも相違点3-1~3-3において相違するものである。 イ そこで、まず、相違点3-1について検討する。上記(2-1)イで示したように、甲第9号証には、炭素短繊維紙に、直径が数μm以下のフィブリルを多数分岐した構造を有するパルプ状物を配合することが記載され、甲第10号証には、炭素繊維シートにおいて、炭素繊維前駆体繊維を混用することが記載されている。 ウ しかしながら、炭素繊維を平織して織布を形成した甲3発明において、更に、フィブリル状のパルプ状物または炭素繊維前駆体繊維を配合しようとする動機付けは存在せず、また、甲3発明の織布内における炭素繊維は、紡績糸となった後、平織された状態であるのに対し、甲第9号証に記載の炭素繊維紙、または、甲第10号証に記載の炭素繊維シートにおける炭素繊維は、長繊維の糸とされた後、平織された状態ではないため、その存在状態は大きく異なるものであるから、甲3発明と甲第9号証、甲第10号証の記載事項の炭素繊維についての存在形態について共通点も存在しないことから、甲3発明において、相違点3-1に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得たものとはいえない。 エ また、甲第4~8号証のいずれにおいても、上記相違点3-1に係る発明特定事項に関する記載は存在しないし、上記(2-1)エで示したように、甲第11号証および甲第12号証に記載されているのは、単に「炭素繊維不織布」等に関するものであって、フェノール樹脂が含浸され、焼成される多孔質電極基材用の前駆体用シートに関するものではない。 オ したがって、他の相違点3-2~3-3について検討するまでもなく、本件特許発明1は、当業者であっても甲3発明及び甲第4~12号証に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものでなく、特許法第29条第2項の規定に違反するものではない。 (3) 申立理由4(特許法第36条第4項第1号)について ア 申立理由4の概要は、以下のとおりである。 本件訂正前の請求項1に係る特許は、その「ナトリウムの含有量」を「150mg/m2以下」と特定されていたが、発明の詳細な説明に実施例として具体的に記載されているのは、「3~9mg/m2」であり、9mg/m2を大きく超える範囲となるよう本件訂正前の請求項1に係る発明を実施する方法が発明の詳細な説明に記載されていないので、発明の詳細な説明は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないから、その特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、その特許を取り消すべきものである。 イ しかしながら、本件訂正により本件特許発明1は、「ナトリウムの含有量が9mg/m2以下」との特定事項を備えるものになり、発明の詳細な説明に実施例として具体的に記載されている、ナトリウム含有量「3~9mg/m2」から、大きく超える範囲はなくなったので、上記の理由は解消されたものといえる。 ウ したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。 第7 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2017-700073

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