特許異議申立
2018-700458
紡績糸およびその紡績糸を含む編物
- 審判番号
- 2018-700458
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2013-172267
- 登録番号
- 特許第6241133号(P6241133)
- 請求日
- 2018年06月05日
- 審決日
- 2019年04月12日
- 公報発行日
- 2019年07月26日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】三菱ケミカル株式会社
- 【権利者代理人】小林 均
- 【権利者代理人】林 司
- 【異議申立人】特許業務法人 朝日奈特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 茂夫
- 審判官 佐々木 正章
- 審判官 門前 浩一
- 分類
- P1651.537-YAA(D02G) / P1651.113-YAA(D02G) / P1651.121-YAA(D02G)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第4項、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第1項第3号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6241133号発明「紡績糸およびその紡績糸を含む編物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6241133号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-8〕について訂正することを認める。
特許第6241133号の請求項1~8に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6241133号の請求項1~8に係る特許についての出願は、平成25年8月22日の出願であって、平成29年11月17日にその特許権の設定登録がされ、同年12月6日に特許掲載公報が発行された。その特許についての本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
平成30年6月5日:特許異議申立人特許業務法人朝日奈特許事務所(以下「申立人」という。)による特許異議の申立て
平成30年9月5日付け:取消理由通知
平成30年11月8日:特許権者による意見書の提出及び訂正の請求
平成30年12月6日:申立人による意見書の提出
平成31年1月29日付け:取消理由通知(決定の予告)
平成31年3月28日:特許権者による意見書の提出及び訂正の請求
なお、平成31年3月28日の訂正の請求における訂正事項は、平成30年11月8日の訂正の請求における訂正事項に、実質的にすべて含まれるものであって、その平成30年11月8日の訂正の請求については、申立人に訂正の請求があった旨の通知を送付して意見書を提出する機会を与えているから、平成31年3月28日の訂正の請求については、特許法第120条の5第5項ただし書に規定する特許異議申立人に意見書を提出する機会を与える必要がないと認められる特別な事情があるときに該当すると認められるため、申立人に意見書を提出する機会を与えなかった。
第2 訂正の請求についての判断
1 訂正の内容
平成31年3月28日の訂正請求書による訂正の請求は、「特許第6241133号の明細書、特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~8について訂正することを求める。」ものであり、その訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は以下のとおりである。
なお、平成30年11月8日の訂正の請求は、本件訂正請求がされたことにより、特許法第120条の5第7項の規定に従い、取り下げられたものとみなす。
(訂正事項1)
特許請求の範囲の請求項1に「メートル番手が64~90である」とあるのを、「メートル番手が64~90であり、撚り係数が105~110である」に訂正する。(請求項1を引用する請求項2~8についても同様に訂正する。)
(訂正事項2)
明細書の【0008】に「紡績糸中の各繊維の混率が以下の(1)~(3)を満足する紡績糸にある。」とあるのを、「紡績糸中の各繊維の混率が以下の(1)~(3)を満足し、メートル番手が64~90であり、撚り係数が105~110である紡績糸にある。」に訂正する。
ここで、訂正前の請求項1~8は、請求項2~8が、訂正の請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、本件訂正は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項1~8について請求されている。
2 訂正の適否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的
上記訂正事項1は、請求項1の紡績糸において、「撚り係数が105~110である」ものに減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記訂正事項1は、上記アのとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第6項に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項1は、本件特許明細書の段落【0038】、【0039】の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第5項に適合するものである。
(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的
上記訂正事項2は、訂正事項1に係る訂正に伴い、本件特許明細書の対応する記載を整合させるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号の明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記訂正事項2は、上記アのとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第6項に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項2は、上記アのとおりであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第5項に適合するものである。
(3)小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、並びに同条第9項において準用する同法第126条第4項~第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1~8〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記のとおり本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1~8に係る発明(以下「本件発明1~8」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~8に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
単繊維繊度が0.8~3.3dtexであるアクリル繊維と、単繊維繊度が0.8~1.2dtexである綿繊維と、単繊維繊度が0.8~1.2dtexである再生セルロース繊維からなる紡績糸であって、紡績糸中の各繊維の混率が以下の(1)~(3)を満足し、メートル番手が64~90であり、撚り係数が105~110である紡績糸。
(1)アクリル繊維の混率が40~60質量%
(2)綿繊維の混率が20~30質量%
(3)再生セルロース繊維の混率が20~30質量%
【請求項2】
請求項1に記載のアクリル繊維が、単繊維繊度が0.8~1.3dtex、沸水収縮率が5%以下である低収縮アクリル繊維(A)であって、紡績糸中の各繊維の混率が以下の(4)~(6)を満足する請求項1に記載の紡績糸。
(4)低収縮アクリル繊維(A)の混率が40~60質量%
(5)綿繊維の混率が20~30質量%
(6)再生セルロース繊維の混率が20~30質量%
【請求項3】
請求項1または2に記載のアクリル繊維の一部又は全部が、単繊維繊度0.8~1.3dtex、沸水収縮率15%~45%である高収縮アクリル繊維(B)であって、紡績糸中の各繊維の混率が以下の(7)~(10)を満足する請求項1または2に記載の紡績糸。
(7)高収縮アクリル繊維(B)の混率が30~50質量%
(8)低収縮アクリル繊維(A)と高収縮アクリル繊維(B)との合計の混率が40~60質量%
(9)綿繊維の混率が20~30質量%
(10)再生セルロース繊維の混率が20~30質量%
【請求項4】
請求項1または2に記載のアクリル繊維の一部又は全部が、低収縮アクリル繊維(A)と、単繊維繊度が1.7~3.3dtexである導電性アクリル繊維(C)であって、紡績糸中の各繊維の混率が以下の(11)~(14)を満足する請求項1または2に記載の紡績糸。
(11)導電性アクリル繊維(C)の混率が3~10質量%
(12)低収縮アクリル繊維(A)と導電性アクリル繊維(C)との合計の混率が40~60質量%
(13)綿繊維の混率が20~30質量%
(14)再生セルロース繊維の混率が20~30質量%
【請求項5】
請求項1または2に記載のアクリル繊維の一部又は全部が、低収縮アクリル繊維(A)と、単繊維繊度が1.0~2.2dtexである消臭性アクリル繊維(D)であって、紡績糸中の各繊維の混率が以下の(15)~(18)を満足する請求項1または2に記載の紡績糸。
(15)消臭性アクリル繊維(D)の混率が20~40質量%
(16)低収縮アクリル繊維(A)と消臭性アクリル繊維(D)との合計の混率が40~60質量%
(17)綿繊維の混率が20~30質量%
(18)再生セルロース繊維の混率が20~30質量%
【請求項6】
請求項1または2に記載のアクリル繊維の一部又は全部が、低収縮アクリル繊維(A)と、高収縮アクリル繊維(B)および導電性アクリル繊維(C)であって、紡績糸中の各繊維の混率が以下の(19)~(23)を満足する請求項1乃至3に記載の紡績糸。
(19)高収縮アクリル繊維(B)の混率が30~50質量%
(20)導電性アクリル繊維(C)の混率が3~10質量%
(21)低収縮アクリル繊維(A)と高収縮アクリル繊維(B)と導電性アクリル繊維(C)との合計の混率が40~60質量%
(22)綿繊維の混率が20~30質量%
(23)再生セルロース繊維の混率が20~30質量%
【請求項7】
請求項1または2に記載のアクリル繊維の一部又は全部が、低収縮アクリル繊維(A)と、高収縮アクリル繊維(B)および消臭性アクリル繊維(D)であって、紡績糸中の各繊維の混率が以下の(24)~(28)を満足する紡績糸。
(24)高収縮アクリル繊維(B)の混率が25~35質量%
(25)消臭性アクリル繊維(D)の混率が25~35質量%
(26)低収縮アクリル繊維(A)と高収縮アクリル繊維(B)と消臭性アクリル繊維(D)との合計の混率が40~60質量%
(27)綿繊維の混率が20~30質量%
(28)再生セルロース繊維の混率が20~30質量%
【請求項8】
請求項1~7いずれか一項に記載の紡績糸を含む編物。」
第4 当審の判断
1 取消理由の概要
本件訂正前の平成30年11月8日の訂正の請求に基づく請求項に係る特許に対して通知した平成31年1月29日付け取消理由通知書(決定の予告)に示した取消理由の概要は、以下のとおりである。
(1)(進歩性)請求項1~8に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の甲第1号証に記載された発明及び甲第2~5記載の事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
記
<刊行物>
甲第1号証:特開2012-167388号公報
甲第2号証:特公昭61-451号公報
甲第3号証:特開2000-27044号公報
甲第4号証:特開平11-222715号公報
甲第5号証:特開2007-9390号公報
また、平成30年12月6日の意見書に添付して以下の刊行物が提出されている。
甲第6号証:繊維学会編、「繊維便覧 -加工編-」、丸善株式会社、昭和48年2月10日第3刷、p.184-185、192-193
甲第7号証:特開平3-269128号公報
(2)(明確性要件)請求項2~5及び8の記載は、以下の点で不備のため、その特許は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。
ア 請求項2中の「請求項1に記載のアクリル繊維が、単繊維繊度が0.8~1.3dtex、沸水収縮率が5%以下である低収縮アクリル繊維(A)であ」るとは、請求項1の紡績糸Aを引用する場合、請求項1の「単繊維繊度が0.9~1.3dtexであるアクリル繊維」の記載と整合しておらず、請求項2の特定する範囲が明確でない。
イ 請求項3中の「請求項1または2に記載のアクリル繊維の一部又は全部が、単繊維繊度0.8~1.3dtex、沸水収縮率15%~45%である高収縮アクリル繊維(B)」とは、請求項1の紡績糸Aを引用する場合、請求項1の「単繊維繊度が0.9~1.3dtexであるアクリル繊維」の記載と整合しておらず、請求項3の特定する範囲が明確でない。
ウ 請求項4中の「請求項1または2に記載のアクリル繊維の一部又は全部が、低収縮アクリル繊維(A)と、単繊維繊度が1.7~3.3dtexである導電性アクリル繊維(C)であって」とは、請求項1の紡績糸Aを引用する場合、請求項1の「単繊維繊度が0.9~1.3dtexであるアクリル繊維」の記載と整合しておらず、請求項4の特定する範囲が明確でない。エ 請求項5中の「請求項1または2に記載のアクリル繊維の一部又は全部が、低収縮アクリル繊維(A)と、単繊維繊度が1.0~2.2dtexである消臭性アクリル繊維(D)であって」とは、請求項1の紡績糸Aを引用する場合、請求項1の「単繊維繊度が0.9~1.3dtexであるアクリル繊維」の記載と整合しておらず、請求項5の特定する範囲が明確でない。オ 請求項8中、請求項2~5を引用するものについては、上記ア~エに同じである。
2 平成31年1月29日付け取消理由について
(1)本件発明1について
ア 甲第1号証記載の事項及び発明
甲第1号証には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、人体から発生する汗臭や加齢臭等の体臭による不快感を抑え、かつ洗濯による消臭性能の低下のない消臭性編地に関する。」
(イ)「【0007】
本発明の目的は、人体から発生
する汗臭や加齢臭等を消臭して体臭による不快感をなくし、かつ洗濯による消臭機能の低下のない肌着、インナー用途に適した消臭性編地を提供することにある。」
(ウ)「【0015】
繊維断面における海島型複合構造は、繊維の長手方向に島成分のセルロースアセテートが全長にわって連続して連なり或いは部分的に連なっていることが好ましい。繊維内部に空孔のある構造であってもよく、繊維内部に空孔のある構造であることは、消臭性能を発現させるうえで好ましく、本発明における海島型アクリル系複合繊維においては、島部のセルロースアセテートと海部のアクリロニトリル系重合体との界面で空孔が形成される傾向にある。海島型アクリル系複合繊維(A)は、消臭性能を発揮させるうえで、またインナー用途に必要な風合い、紡績等の工程通過性から、その単繊維繊度が0.8~3.3dtexであることが好ましい。」
(エ)「【0029】
(実施例1)
島部がセルロースジアセテート、海部がアクリロニトリル主体のアクリロニトリル系重合体でそれぞれ形成された、セルロースジアセテート30質量%、アクリロニトリル系重合体70質量%からなる海島型アクリル系複合繊維(三菱レイヨン社製A.H.F、単繊維繊度1.7dtex、繊維長51mm)(A)と、カルボン酸含有ビスコースレーヨン(ダイワボウレーヨン社製PARAMOS、単繊維繊度0.9dtex、繊維長38mm)(B)を、(A)60質量%、(B)40質量%の混率で混紡して毛番手1/68の紡績糸を得た。得られた紡績糸を用い22ゲージ丸編み機でフライス組織の編地に編成した。得られた編地の消臭性能の評価結果を表1に示した。なお、表1中の繊維含有率の%は質量%の意味である。
また、アクリル系複合繊維(A)単体の洗濯前の消臭率は、酢酸94.0%、イソ吉草酸93.0%、ノネナール91.2%、アンモニア9.8%であり、ビスコースレーヨン(B)単体の洗濯前の消臭率は、酢酸95.2%、イソ吉草酸56.8%、ノネナール14.5%、アンモニア98.5%であった。
【0030】
(実施例2、比較例1~3)
実施例1で用いたと同じ海島型アクリル系複合繊維短繊維(A)とビスコースレーヨン短繊維(B)と綿とを用い、混紡率を変更して紡績糸を得た。得られた紡績糸を用いた以外は、実施例1と同様に編成し、得られた編地の消臭性能の評価結果を表1に示した。なお、実施例2は、(A)50質量%、(B)30質量%、綿20質量%の混紡率、比較例1は、(A)55質量%、綿45質量%の混紡率、比較例2は、(B)50質量%、綿50質量%の混紡率、実施例3は、(A)20質量%、(B)13質量%、綿67質量%の混紡率とした。」
甲第1号証の実施例2には、「実施例1で用いたと同じ海島型アクリル系複合繊維短繊維(A)とビスコースレーヨン短繊維(B)と綿とを用い、混紡率を変更して紡績糸を得た。得られた紡績糸を用いた以外は、実施例1と同様に編成し」たと記載され、実施例1の紡績糸の毛番手は、「1/68」であるから、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
「島部がセルロースジアセテート、海部がアクリロニトリル主体のアクリロニトリル系重合体でそれぞれ形成された、セルロースジアセテート30質量%、アクリロニトリル系重合体70質量%からなる海島型アクリル系複合繊維(三菱レイヨン社製A.H.F、単繊維繊度1.7dtex、繊維長51mm)(A)と、カルボン酸含有ビスコースレーヨン(ダイワボウレーヨン社製PARAMOS、単繊維繊度0.9dtex、繊維長38mm)(B)と綿とを用い、(A)50質量%、(B)30質量%、綿20質量%の混紡率で混紡して得られた、毛番手1/68の紡績糸。」
イ 対比
イ-1 本件発明1と甲1発明とを対比すると、
(ア)甲1発明の「島部がセルロースジアセテート、海部がアクリロニトリル主体のアクリロニトリル系重合体でそれぞれ形成された、セルロースジアセテート30質量%、アクリロニトリル系重合体70質量%からなる海島型アクリル系複合繊維(三菱レイヨン社製A.H.F、単繊維繊度1.7dtex、繊維長51mm)(A)」は、本件発明1の「単繊維繊度が0.8~3.3dtexであるアクリル繊維」に相当する。
(イ)甲1発明の「カルボン酸含有ビスコースレーヨン(ダイワボウレーヨン社製PARAMOS、単繊維繊度0.9dtex、繊維長38mm)(B)」は、本件発明1の「単繊維繊度が0.8~1.2dtexである再生セルロース繊維」に相当する。
(ウ)甲1発明の「綿」は、本件発明1の「綿繊維」に相当する。
(エ)甲1発明の「(A)50質量%、(B)30質量%、綿20質量%の混紡率で混紡した紡績糸」は、本件発明1の「紡績糸中の各繊維の混率が以下の(1)~(3)を満足」する「紡績糸」「(1)アクリル繊維の混率が40~60質量% (2)綿繊維の混率が20~30質量% (3)再生セルロース繊維の混率が20~30質量%」に相当する。
(オ)甲1発明の「毛番手1/68の紡績糸」は、本件発明1の「メートル番手が64~90である紡績糸」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。
<一致点>
単繊維繊度が0.8~3.3dtexであるアクリル繊維と、綿繊維と、単繊維繊度が0.8~1.2dtexである再生セルロース繊維からなる紡績糸であって、紡績糸中の各繊維の混率が以下の(1)~(3)を満足し、メートル番手が64~90である紡績糸。
(1)アクリル繊維の混率が40~60質量%
(2)綿繊維の混率が20~30質量%
(3)再生セルロース繊維の混率が20~30質量%
<相違点1>
綿繊維の単繊維繊度が、本件発明1は、「0.8~1.2dtexである」のに対して、甲1発明は、不明である点。
<相違点2>
紡績糸が、本件発明1は、「撚り係数が105~110である」のに対して、甲1発明は、不明である点。
ウ 当審の判断
そこで、相違点について以下検討する。
<相違点1について>
甲第2号証には、特許請求の範囲の請求項1、2に、0.8~1.0デニールのアクリル繊維と綿として0.85~0.95デニールのものとからなる混紡糸が記載されており、実施例3(4頁右欄下から6行~5頁左欄7行)には、綿繊維を30%アクリル繊維を70%混紡した紡績糸において、肌着等に用いるメリヤス組織を得る際に0.82デニール(0.91dtex)や0.84(0.93dtex)デニールが好ましい点が記載されている。
そして、紡績糸において、混紡する繊維として短繊維繊度が同程度のものを用いることが通常であることから、甲1発明において、当該技術常識に従い、甲1発明と同じくインナー用途の編地に用いるアクリル繊維と綿繊維を混紡する紡績糸である甲第2号証の綿繊維の単繊維繊度を参照し、上記相違点1に係る本件発明1の範囲のものを用いることは、当業者が容易に想到し得たことである。
ここで、特許権者は、平成30年11月8日の意見書において、甲第2号証は、2種類の繊維からなるものであって、甲1発明とは、紡績糸を構成する繊維の種類の数が異なっているから、短繊維繊度の数値を甲1発明に適用する動機付けがない旨主張する。
しかし、紡績糸の風合いは、混紡する繊維個々の風合いの影響を受けるものであり、甲1発明と甲第2号証の紡績糸とは、共にインナー用途の編地に用いるアクリル繊維と綿繊維を混紡する紡績糸であって、それに適した風合いとするものであるから、特許権者の主張は採用できない。
<相違点2について>
甲第1号証は、紡績糸であるところ、撚り係数をどの程度とするかについて何ら記載されていない。そして、申立人が主張(申立人の意見書4頁5行~5頁17行)するように、紡績糸として撚り係数が105~110であるものが通常採用されているものであるとしても、申立人が示した甲第6号証及び甲第7号証には、撚り係数が105~110の範囲外の紡績糸も通常採用されていることから、甲1発明の紡績糸の撚り係数が105~110であるとは必ずしもいえない。
また、甲第2~5号証には、撚り係数を105~110とすることについて、何ら記載されていない。したがって、甲1発明において、甲1発明の紡績糸の撚り係数が105~110とする動機付けは存在せず、甲1発明は、「撚り係数が105以上であれば、編地を編み立てる際に必要な糸強度を保つことが出来る。また、撚り係数が110以下であれば、編地を握ったときの風合いが硬くなりすぎるのを防止できる。」(【0039】)ものであるから、単なる設計的事項であるともいえない。
エ 小括
よって、本件発明1は、甲1発明及び甲第2~7号証記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(2)本件発明2~8について
本件発明2~8は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定を加えたものであるから、上記(1)ウの<相違点2について>で検討したのと同じ理由で、甲1発明及び甲第2~7号証記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)明確性要件について
平成31年1月29日付け取消理由通知書(決定の予告)で通知した上記1(2)の明確性に関する取消理由は、本件訂正が認められることにより解消して、理由のないものとなった。
4 平成31年1月29日付け取消理由通知書(決定の予告)で通知しなかった取消理由について
申立人は特許異議申立書において、請求項1、2、5及び8に係る発明は、甲1発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである旨主張する点について、検討する。
上記3(1)イで対比したとおり、本件発明1と甲1発明とは、相違点1及び2の点で相違し、上記3(1)ウで検討したとおり、相違点1及び2は、実質的な相違点であるから、本件発明1は、甲1発明であるとはいえない。
また、本件発明2、5及び8は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定を加えたものであるから、同じ理由で、本件発明2、5及び8は、甲1発明であるとはいえない。
第5 むすび
以上のとおり、本件発明1~8に係る特許は、取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができないない。
また、他に本件発明1~8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2018-700458