特許拒絶査定不服審判
2017-017144
通信端末装置、地上セルラー基地局及び移動通信システム
- 審判番号
- 2017-017144
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2016-049568外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2017年11月20日
- 審決日
- 2018年12月26日
- 公報発行日
- 2019年04月26日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ソフトバンク株式会社
- 【請求人代理人】黒田 壽
- 【請求人代理人】中村 弘通
- 分類
- P18 .121-Z (H04W) / P18 .575-Z (H04W)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第17条の2第5項、特許法第17条の2第6項、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2016- 49568「通信端末装置、地上セルラー基地局及び移動通信システム」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 9月21日出願公開、特開2017-168897〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本願は、平成28年3月14日の出願であって、平成29年1月31日に手続補正書が提出され、同年3月22日付けで拒絶理由が通知され、同年7月31日に意見書及び手続補正書が提出され、同年8月7日付けで拒絶査定されたところ、同年11月20日に拒絶査定不服審判の請求がされ、同時に手続補正されたものである。
第2 平成29年11月20日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成29年11月20日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1.本件補正について
(1)本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、次のとおりに補正された。
「 地上セルラー移動通信システムと衛星移動通信システムとに共用される通信端末装置であって、
同一周波数帯が使用される地上セルラー移動通信システム及び衛星移動通信システムに対して時間軸上で互いに重複しないように前記同一周波数帯の無線通信フレーム内の互いに異なる時間スロットが割り当てられた無線リソースの時間スロットの割り当て情報を記憶する記憶手段と、
当該通信端末装置の在圏するエリアに応じて地上セルラー移動通信方式及び衛星移動通信方式のいずれかを選択して無線通信を行う送受信手段と、
当該通信端末装置が前記衛星移動通信システムのエリアに重複している前記地上セルラー移動通信システムのエリアに在圏するとき、前記無線リソースの時間スロットの割り当て情報に基づいて、当該通信端末装置への下り回線では前記同一周波数帯の無線通信フレームにおいて前記地上セルラー移動通信システムに割り当てられている時間スロットの全部と前記衛星移動通信システムに割り当てられている時間スロットの少なくとも一部とを用い、当該通信端末装置からの上り回線では前記同一周波数帯の無線通信フレームにおいて前記地上セルラー移動通信システムに割り当てられている時間スロットの全部を用い前記衛星移動通信システムに割り当てられている時間スロットを用いないように、前記下り回線と前記上り回線とで前記同一周波数帯の無線通信フレーム内の時間スロットを切り替えて制御する制御手段と、を備えることを特徴とする通信端末装置。」(当審注:下線は補正箇所を示す。)
(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、平成29年7月31日に手続補正された特許請求の範囲の請求項1は次のとおりである。
「 地上セルラー移動通信システムと衛星移動通信システムとに共用される通信端末装置であって、
同一周波数帯が使用される地上セルラー移動通信システム及び衛星移動通信システムに対して時間軸上で互いに重複しないように割り当てられた無線リソースの時間スロットの割り当て情報を記憶する記憶手段と、
当該通信端末装置の在圏するエリアに応じて地上セルラー移動通信方式及び衛星移動通信方式のいずれかを選択して無線通信を行う送受信手段と、
当該通信端末装置が前記地上セルラー移動通信システムのエリアに在圏するとき、前記無線リソースの時間スロットの割り当て情報に基づいて、当該通信端末装置への下り回線では前記同一周波数帯において前記地上セルラー移動通信システムに割り当てられている時間スロットの全部と前記衛星移動通信システムに割り当てられている時間スロットの少なくとも一部とを用い、当該通信端末装置からの上り回線では前記同一周波数帯において前記地上セルラー移動通信システムに割り当てられている時間スロットの全部を用い前記衛星移動通信システムに割り当てられている時間スロットを用いないように制御する制御手段と、を備えることを特徴とする通信端末装置。」
2.補正の適否
(1)新規事項の有無、シフト補正の有無、補正の目的要件
請求項1に係る上記補正の内容は次のとおりである。
a.「同一周波数帯が使用される地上セルラー移動通信システム及び衛星移動通信システムに対して時間軸上で互いに重複しないように割り当てられた無線リソースの時間スロット」が、「同一周波数帯が使用される地上セルラー移動通信システム及び衛星移動通信システムに対して時間軸上で互いに重複しないように前記同一周波数帯の無線通信フレーム内の互いに異なる時間スロットが割り当てられた無線リソースの時間スロット」であると限定する補正。
b.当該通信端末装置が在圏する前記地上セルラー移動通信システムのエリアが「前記衛星移動通信システムのエリアに重複している」エリアであると限定する補正。
c.前記同一周波数帯においての地上セルラー移動通信システムと、衛星移動通信システムへの割り当てが、同一周波数帯の「無線通信フレーム」における割り当てであると限定する補正。
d.「制御手段」が「前記下り回線と前記上り回線とで前記同一周波数帯の無線通信フレーム内の時間スロットを切り替えて制御する」と限定する補正。
そうしてみると、上記補正の内容a.~d.はいずれも特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当し、特許法17条の2第5項2号(補正の目的)に規定された事項を目的とするものである。また、同法17条の2第3項(新規事項)及び同法17条の2第4項(シフト補正)の規定に違反するところはない。
(2)独立特許要件
上記補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下、「本件補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのか否かについて、以下に検討する。
ア.本件補正発明
本件補正発明は、上記「1.(1)」に記載したとおりのものと認める。
イ.引用例1、2の記載、引用発明、及び公知技術
(引用発明)
原査定の拒絶の理由で引用された国際公開第2015/114729号(2015年(平成27年)8月6日公開。以下、「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている。(下線は当審が付与。)
(ア)「[0005] 本発明の一態様に係る移動通信システムは、地上セルラー移動通信方式と衛星移動通信方式とを利用可能な移動通信システムであって、移動局装置と無線通信可能な地上セルラー基地局と、人工衛星の通信中継装置を介して移動局装置と無線通信可能な衛星基地局と、前記地上セルラー基地局と前記衛星基地局とを制御する基地局制御装置と、を備える。ここで、地上セルラー移動通信方式と衛星移動通信方式とを利用可能な共通エリアにおいて前記地上セルラー基地局及び前記人工衛星の通信中継装置それぞれと移動局装置との間の無線通信に同一周波数帯が使用される。・・・・(略)・・・・
[0006] 前記基地局制御装置は、前記共通エリアにおける前記地上セルラー基地局と前記衛星基地局とが時間同期した状態で、該地上セルラー基地局で使用される時間スロットと該衛星基地局で使用される時間スロットとを互いに重ならないように割り当て、前記非常時に該衛星基地局に割り当てる時間スロットの割り当て率を平常時よりも大きくするように制御してもよい。
この場合、前記共通エリアの地上セルラー基地局と衛星基地局において同一周波数帯内の同一周波数を使用することができるため、周波数利用効率を更に高めることできる。また、各基地局において同一周波数に使用される時間スロットを互いに重ならないように割り当てることにより、地上セルラー移動通信方式と衛星移動通信方式との間の干渉を回避することができる。しかも、前記非常時に衛星基地局に割り当てる時間スロットの割り当て率を平常時よりも大きくする。これにより、平常時において地上セルラー移動通信方式の周波数利用効率の向上を図りつつ、非常時には、共通エリア内で障害が発生した地上セルラー基地局での通信を衛星通信システムでカバーできるので、地上セルラー移動通信方式及び衛星移動通信方式の移動局装置を用いた移動通信サービスを確実に提供することができる。」(2~4ページ)
(イ)「[0026] 移動局装置10は、例えばCPUやメモリ等を有するコンピュータ装置、無線通信部などのハードウェアを用いて構成され、所定のプログラムが実行されることにより地上セルラー基地局20及び衛星基地局30との間の無線通信等を行うことができる。・・・・」(12ページ)
(ウ)「[0033] 図4A及び図4Bはそれぞれ、本実施形態に係る移動通信システムの平常時における無線リソースの割り当て制御の他の例を示す全体構成図及び無線リソース割り当ての説明図である。本例は、前述の図3の場合と同様に、人工衛星40がシングルビームアンテナ構成を有し、単一の衛星局エリア(ビームエリア)400内に複数の地上局エリア200が重なっている例である。また、本例の地上セルラー移動通信方式及び衛星移動通信方式で共用される所定の無線通信フレームは複数の時間スロットに分割され、各時間スロットを無線リソースとして割り当てることができる。なお、図4A及び図4Bでは、時間スロットの数が4つの場合について示しているが、時間スロットの数はこの例に限定されるものではない。
[0034] 図4A及び図4Bにおいて、基地局制御装置50は、地上セルラー基地局20と衛星基地局30とを互いに時間同期させ、地上セルラー基地局20と衛星基地局30とが干渉しないように、所定の無線通信フレームにおいて、地上セルラー基地局20で使用される時間スロットと衛星基地局30で使用される時間スロットとを互いに重ならないように割り当てる制御を行う。例えば、図4Bに示すように、地上セルラー基地局20による地上セルラー移動通信方式の無線リソースに時間スロットT0,T2を割り当て、衛星基地局30による衛星移動通信方式の無線リソースに時間スロットT1,T3を割り当てる。単一の衛星局エリア(ビームエリア)400と地上局エリア200とが重なる共通エリアにおいて、移動局装置10は、時間スロットT0,T2で地上セルラー基地局20と通信し、時間スロットT1,T3で衛星基地局30と通信する。これにより、地上セルラー移動通信方式と衛星移動通信方式との間の干渉をより確実に回避することができる。」(15~16ページ)
(エ)「[0084] また、上記各実施形態において、上記共通エリア内に位置する移動局装置10は地上セルラー移動通信方式と衛星移動通信方式の両方式で通信可能であるが、平常時は地上セルラー移動通信方式での通信を優先するように制御してもよい。例えば、通信可能な受信電力に対する閾値を移動局装置10に予め設定しておき、地上セルラー移動通信方式の受信電力が当該閾値以上であれば、地上セルラー移動通信方式で通信を行うように制御してもよい。また、移動局装置10がどちらの通信方式を優先して選択するかについては、基地局制御装置50により当該閾値の値を変更する等、の手段によって制御してもよい。」(33~34ページ)
(オ)図4A、図4Bとして以下の図が記載されている。
上記記載及び当業者の技術常識を考慮すると、引用例1には次の技術的事項が記載されている。
a 上記(ア)[0005]に「本発明の一態様に係る移動通信システムは、地上セルラー移動通信方式と衛星移動通信方式とを利用可能な移動通信システムであって」と記載され、また上記(イ)[0026]に「移動局装置10は、・・・・地上セルラー基地局20及び衛星基地局30との間の無線通信等を行うことができる。」と記載されているところによれば、移動局装置10は地上セルラー移動通信方式と衛星移動通信方式とに共用される移動局装置10ということができる。
b 上記(ア)[0006]の「・・・地上セルラー基地局と衛星基地局において同一周波数帯内の同一周波数を使用することができる・・・」との記載によれば、地上セルラー基地局と衛星基地局において同一周波数帯が使われており、また、上記(ア)[0006]及び上記(ウ)[0033]、[0034]によれば、地上セルラー移動通信方式及び衛星移動通信方式で共用される所定の無線通信フレームは複数の時間スロットに分割され、地上セルラー基地局20で使用される時間スロットと衛星基地局30で使用される時間スロットとを互いに重ならないように割り当てる制御が行われている。そうしてみると、地上セルラー基地局20及び衛星基地局30と通信する移動局装置10においても、同一周波数帯が使用される地上セルラー移動通信方式及び衛星移動通信方式で共用される所定の無線通信フレームの時間スロットが、地上セルラー移動通信方式で使用される時間スロットと衛星移動通信方式で使用される時間スロットとが互いに重ならないように割り当てられているということができる。
c 上記(ア)[0005]に「地上セルラー移動通信方式と衛星移動通信方式とを利用可能な共通エリア」、及び上記(ウ)[0034]に「単一の衛星局エリア(ビームエリア)400と地上局エリア200とが重なる共通エリア」と記載されているように、地上局エリアと衛星局エリアの重なるエリアを「共通エリア」と称している。そして、上記(エ)[0084]の「上記各実施形態において、上記共通エリア内に位置する移動局装置10は地上セルラー移動通信方式と衛星移動通信方式の両方式で通信可能であるが、平常時は地上セルラー移動通信方式での通信を優先するように制御してもよい。」との記載から、移動局装置10は、共通エリア内に位置する場合には地上セルラー移動通信方式により通信を行うといえ、また、共通エリア外の衛星局エリア400では地上セルラー移動通信方式による通信ができないことから、衛星移動通信方式により通信を行うことが明らかである。
したがって、移動局装置10は、共通エリア内に位置する場合に地上セルラー移動通信方式による通信を行い、共通エリア外の衛星局エリア400では衛星移動通信方式による通信を行うものであり、また、このような通信を行う送受信手段を有することは明らかである。
d 上記(エ)[0084]の記載から、移動局装置10は共通エリア内に位置する場合に、地上セルラー移動通信方式で通信を行い、当該通信は上記(ウ)[0034]を参照すれば、同一周波数帯で衛星移動通信方式とは互いに重ならないように割り当てられた時間スロットにより行われるものである。そして、移動局装置10は当該通信を制御する制御手段を有していると考えるが自然である。
以上を総合すると、引用例1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認める。
「 地上セルラー移動通信方式と衛星移動通信方式とに共用される移動局装置10であって、
同一周波数帯が使用される地上セルラー移動通信方式及び衛星移動通信方式で共用される所定の無線通信フレームの時間スロットが、地上セルラー移動通信方式で使用される時間スロットと衛星移動通信方式で使用される時間スロットとが互いに重ならないように割り当てられており、
移動局装置10が共通エリア内に位置する場合に地上セルラー移動通信方式による通信を行い、共通エリア外の衛星局エリア400では衛星移動通信方式による通信を行う送受信手段と、
移動局装置10が共通エリア内に位置する場合に、同一周波数帯において、地上セルラー移動通信方式により衛星移動通信方式とは互いに重ならないように割り当てられた時間スロットで通信を行うように制御する制御手段と、
を有する移動局装置10。」
(公知技術)
原出願の拒絶の理由に引用された特表2010-524299号公報(平成22年7月15日公表。以下、「引用例2」という。)には、以下の事項が記載されている。
(カ)「【0009】
図1中で示すように、衛星トランシーバ102は、複数の移動デバイス106と双方向に通信できる。同様に、地上基地局104は、複数の移動デバイス106と双方向に通信できる。この実施形態において、移動デバイス106は、セルラ移動電話機、パーソナルデジタルアシスタント(PDA)、または他のオブジェクトにデータを伝達できる任意の移動デバイスを含む。」(5ページ)
(キ)「【0018】
図2Bは、本発明の1つの実施形態にしたがった、複数の帯域外チャネルを付加することによる、スポットビームにおけるチャネルの割り振りを図示する。図2B中で示すように、衛星から移動デバイスへの通信(ダウンリンクSチャネル)および基地局から移動デバイスへの通信(ダウンリンクTチャネル)に対して使用される、複数のデュアルダウンリンクT/Sチャネル250がある。表記TおよびSは、基地局と移動デバイスとの間の通信のような、地上(T)ベースの通信と、移動デバイスと衛星との間の通信のような、衛生(S)ベースの通信とを一般的に示すために使用される。例えば、1つの実施形態において、このシステムはMSS/ATCシステムとは別に使用できるが、1つ以上の地上(T)チャネルはATCチャネルとすることができ、衛星(S)チャネルのうちの1つ以上はMSSチャネルとすることができる。T/Sデュアルダウンリンクチャネル250は、複数のチャネル250のそれぞれにおいて、衛星トランシーバ102および基地局104の両方が移動デバイス106に通信することを可能にする。基地局の信号は、衛星トランシーバ102からのスポットビーム送信のカバレッジエリアにおいて衛星信号よりも桁違いに大きいことから、衛星の送信は、同じ周波数上での基地局の送信に干渉しない。T/Sデュアルダウンリンクチャネル250におけるダウンリンクSチャネル(すなわち、衛星から移動デバイスへのダウンリンクチャネル)は、アップリンクSチャネル252(すなわち、移動デバイスから衛星へのアップリンクチャネル)と対をなしている。」(7ページ)
(ク)「【0023】
衛星が唯一のサービスプロバイダであるエリアにおいて、移動デバイスから衛星トランシーバへのアップリンクと、衛星トランシーバから移動デバイスへのダウリンクは、指定された衛星帯域で動作する。地上基地局が動作するエリアにおいて、衛星ダウンリンクスペクトルのうちの、いくつかまたはすべてのいずれかが、地上基地局によって使用されて、ダウンリンク(すなわち、基地局から移動デバイスへのダウンリンク)が提供される。地上信号は、カバレッジエリアにおいて桁違いに強いことから、より強い地上信号は、衛星ダウンリンク信号を“無効にする”だろう。アップリンク方向において、OOBアップリンクスペクトルが“通常の”衛星アップリンクスペクトルの外にあることから、OOBスペクトルは、衛星の動作に対して実質的に何ら影響を及ぼすことなく、地上アップリンク(すなわち、移動デバイスから基地局へのアップリンク)において使用される。」(8ページ)
上記記載によれば、移動デバイスが衛星及び地上基地局と通信する通信システムにおいて、衛星から移動デバイスへのダウンリンクと、地上基地局から移動デバイスへのダウンリンクでは、地上基地局からの信号は衛星からの信号よりも桁違いに大きく干渉されないため、同じ周波数を使ったデュアルダウンリンクT/Sチャネルが使われている。
そうすると、以下の事項は公知技術であると認める。
「移動デバイスが衛星及び地上基地局と通信する通信システムにおいて、地上信号のダウンリンクは衛星信号によるダウンリンクと干渉が生じないので、地上信号のダウンリンクは衛星信号によるダウンリンクと同じ周波数で同時に通信する。」(公知技術)
ウ.引用発明との対比
本件補正発明と引用発明を対比すると、
a 引用発明では「地上セルラー移動通信方式」を用いて通信を行う構成を有しているといえ、当該構成が本件補正発明の「地上セルラー移動通信システム」に相当する。また、引用発明では「衛星移動通信方式」を用いて通信を行う構成を有しているといえ、当該構成が本件補正発明の「衛星移動通信システム」に相当する。
したがって、引用発明における地上セルラー移動通信方式と衛星移動通信方式とに共用される「移動局装置10」が、本件補正発明における地上セルラー移動通信システムと衛星移動通信システムとに共用される「通信端末装置」に相当する。
b 引用発明において、地上セルラー移動通信方式と衛星移動通信方式とで時間スロットが互いに重ならないように割り当てられていることは、本件補正発明において時間軸上で互いに重複しないように互いに異なる時間スロットが割り当てられていることに相当する。
そうすると、引用発明における「同一周波数帯が使用される地上セルラー移動通信方式及び衛星移動通信方式で共用される所定の無線通信フレームの時間スロットが、地上セルラー移動通信方式で使用される時間スロットと衛星移動通信方式で使用される時間スロットとが互いに重ならないように割り当てられ」ることは、本件補正発明の「同一周波数帯が使用される地上セルラー移動通信システム及び衛星移動通信システムに対して時間軸上で互いに重複しないように前記同一周波数帯の無線通信フレーム内の互いに異なる時間スロットが割り当てられ」ることに相当する。
c 引用発明では、移動局装置10は、共通エリア内に位置する場合に地上セルラー移動通信方式による通信を行い、共通エリア外の衛星局エリア400では衛星移動通信方式により通信を行うから、移動局装置10の在圏するエリアに応じて地上セルラー移動通信方式と衛星移動通信方式のいずれかを選択して通信を行っているといえる。したがって、引用発明の「移動局装置10が共通エリア内に位置する場合に地上セルラー移動通信方式による通信を行い、共通エリア外の衛星局エリア400では衛星移動通信方式による通信を行う送受信手段」は、本件補正発明における「当該通信端末装置の在圏するエリアに応じて地上セルラー移動通信方式及び衛星移動通信方式のいずれかを選択して無線通信を行う送受信手段」に相当する。
d 引用発明における「共通エリア」は、上記「イ.c」で述べたように、地上局エリアと衛星局エリアの重なるエリアであるから、本件補正発明における「前記衛星移動通信システムのエリアに重複している前記地上セルラー移動通信システムのエリア」に相当する。
引用発明では、「移動局装置10が共通エリア内に位置する場合に、同一周波数帯において、地上セルラー移動通信方式により衛星移動通信方式とは互いに重ならないように割り当てられた時間スロットで通信を行うように制御する制御手段」を有するが、本件補正発明のように下り回線と上り回線とで異なる時間スロットを用いることは特定されていない。
しかしながら、引用発明と本件補正発明とは、通信端末装置が衛星移動通信システムのエリアに重複している地上セルラー移動通信システムのエリアに在圏するとき、無線リソースの時間スロットの割り当て情報に基づいて、同一周波数帯の無線通信フレームにおいて、地上セルラー移動通信システムに割り当てられている時間スロットを用いた制御を行う制御手段を有しているといえる点で共通する。
したがって、本件補正発明と引用発明は以下の点で一致ないし相違する。
[一致点]
「 地上セルラー移動通信システムと衛星移動通信システムとに共用される通信端末装置であって、
同一周波数帯が使用される地上セルラー移動通信システム及び衛星移動通信システムに対して時間軸上で互いに重複しないように前記同一周波数帯の無線通信フレーム内の互いに異なる時間スロットが割り当てられ、
当該通信端末装置の在圏するエリアに応じて地上セルラー移動通信方式及び衛星移動通信方式のいずれかを選択して無線通信を行う送受信手段と、
当該通信端末装置が前記衛星移動通信システムのエリアに重複している前記地上セルラー移動通信システムのエリアに在圏するとき、無線リソースの時間スロットの割り当てに基づいて、同一周波数帯の無線通信フレームにおいて地上セルラー移動通信システムに割り当てられている時間スロットを用いた制御を行う制御手段と、を備えることを特徴とする通信端末装置。」
[相違点1]
本件補正発明では、通信端末装置は無線リソースの時間スロットの割り当て情報を記憶する記憶手段を有し、当該割り当て情報に基づいて制御を行っているのに対して、引用発明では当該記憶手段について明示されておらず、無線リソースの時間スロットの割り当て情報に基づいた制御を行うことが特定されていない点。
[相違点2]
制御手段に関し、本件補正発明は「当該通信端末装置への下り回線では前記同一周波数帯の無線通信フレームにおいて前記地上セルラー移動通信システムに割り当てられている時間スロットの全部と前記衛星移動通信システムに割り当てられている時間スロットの少なくとも一部とを用い、当該通信端末装置からの上り回線では前記同一周波数帯の無線通信フレームにおいて前記地上セルラー移動通信システムに割り当てられている時間スロットの全部を用い前記衛星移動通信システムに割り当てられている時間スロットを用いないように、前記下り回線と前記上り回線とで前記同一周波数帯の無線通信フレーム内の時間スロットを切り替えて」制御を行っているが、引用発明では、下り回線と上り回線とで切り替えて制御を行うことについて特定されていない点。
エ.判断
上記相違点1について検討する。
引用発明では、地上セルラー移動通信方式と衛星移動通信方式とで互いに重ならないように割り当てられた時間スロットにより通信を行うように制御しているところ、当該制御を行う上で時間スロットの割り当てを示す情報が必要であると考えるのが自然である。そして、割り当て情報を記憶しておく記憶手段を設けることも適宜なし得た事項である。
したがって、相違点1とした本件補正発明の構成は当業者が引用発明から容易に想到できたものである。
上記相違点2について検討する。
無線通信の分野において、時分割された無線リソースのうち利用可能な無線リソースを使って通信容量を増やそうとすることは技術常識であり、引用発明においても利用可能な無線リソースを利用して通信容量の増加を図ろうという要請が内在しているは明らかである。
そして、上述のように「移動デバイスが衛星及び地上基地局と通信する通信システムにおいて、地上信号のダウンリンクは衛星信号によるダウンリンクと干渉が生じないので、地上信号のダウンリンクは衛星信号によるダウンリンクと同じ周波数で同時に通信する。」ことは公知技術であり、当該公知技術は、地上セルラー移動通信方式と衛星移動通信方式とを利用する点で、引用発明と分野が共通するものである。
そうしてみると、公知技術に接した当業者であれば、引用発明において通信容量を増加するため、上記の公知技術を引用発明に適用し通信容量の増加を図ることは、適宜着想できた事項にすぎず、公知技術を引用発明に適用する上で阻害要因を見いだすことはできない。
そして、公知技術を引用発明に適用すれば、引用発明のダウンリンクにおいて地上セルラー移動通信方式と衛星移動通信方式とで同じ周波数帯を使用しても干渉が生じないのであるから、ダウンリンクでは地上セルラー移動通信方式の時間スロットを衛星移動通信方式の時間スロットまで広げ、アップリンクではダウンリンクとは異なり、地上セルラー移動通信方式の時間スロットのみを用いるように切り替えて制御する構成とすることは、当業者が容易になし得た事項に過ぎない。
したがって、相違点2とした本件補正発明の構成は、当業者が引用発明、公知技術及び技術常識から容易に想到できたものである。
そして、本件補正発明が奏する効果も、当業者が引用発明、公知技術及び技術常識から容易に予測できる範囲のものである。
したがって、本件補正発明は、引用発明に基づき、当業者が容易に想到できたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
3.本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1.本願発明
平成29年11月20日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成29年7月31日に手続補正された特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記「第2[理由]1.(2)」に記載のとおりのものと認める。
2.原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由の概要は、以下のとおりである。
「(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」というものであり、請求項1に対して引用例1、2が引用されている。
引用例1. 国際公開第2015/114729号
引用例2. 特表2010-524299号公報
3.引用発明、公知技術
引用発明及び公知技術は、前記「第2[理由]2.(2)イ.」の項で認定したとおりである。
4.対比・判断
本願発明は本件補正後の発明から本件補正に係る限定を省いたものである。
そうすると、相違点は上記「第2[理由]2.(2)ウ」の相違点1及び2であるところ、本願発明の構成に本件補正に係る限定を付加した本件補正発明が、上記「第2[理由]2.(2)」の「独立特許要件」の項で検討したとおり、引用発明、公知技術及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用発明、公知技術及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2017-017144