特許拒絶査定不服審判
2017-015909
ナノ粒子組成物、その製剤およびその使用
- 審判番号
- 2017-015909
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2016-054872外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2017年10月26日
- 審決日
- 2018年09月10日
- 公報発行日
- 2019年03月29日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】アンテリオス, インコーポレイテッド
- 【請求人代理人】細田 芳徳
- 分類
- P18 .575-Z (A61K) / P18 .121-Z (A61K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第6項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2016- 54872「ナノ粒子組成物、その製剤およびその使用」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 6月30日出願公開、特開2016-117765〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本願は、平成24年1月23日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2011年1月24日(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする特願2013-551271号の一部を、平成28年3月18日に新たな出願としたものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成28年 8月24日 :手続補正書の提出
平成28年12月 9日付け:拒絶理由通知書
平成29年 5月30日 :意見書、誤訳訂正書の提出
平成29年 6月21日付け:拒絶査定
平成29年10月26日 :審判請求書、手続補正書の提出
平成29年12月 4日 :請求の理由を補正する手続補正書(方式) の提出
第2 平成29年10月26日付の手続補正について補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成29年10月26日付の手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1.本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1、4及び13の記載は、次のとおり補正された(下線部は、補正箇所である。)。
「【請求項1】
ナノ粒子組成物、ボツリヌス毒素、および注入による投与のための少なくとも1つの賦形剤を含む、非経口投与のために製剤化された滅菌され注射可能な医薬組成物であって、
前記ナノ粒子組成物が粒子の集団を含み、前記粒子の大部分が10~300ナノメートルの直径を有し、前記ナノ粒子組成物が少なくとも1つの水性媒体、少なくとも1つの油、および少なくとも1つの界面活性物質を含み、界面活性物質に対する油の比率が約0.5:1~約1:1であり、前記注入による投与のための少なくとも1つの賦形剤が、塩化ナトリウム、リン酸ナトリウム、ゼラチンおよびそれらの組み合わせからなる群より選択され、前記医薬組成物は、望ましくない発汗、臭汗症、過剰皮脂産出障害、体臭、色汗症、レイノー現象、エリテマトーデス、高色素沈着障害、黒皮症、低色素沈着障害、ざ瘡、脂漏症、脂漏性皮膚炎、酒さ、抜け毛、乾癬、頭痛、またはそれらの任意の組合せの治療のために製剤化され、前記組成物が針を含む機器内に配置される、医薬組成物。」
「【請求項4】
前記油が、カプリル酸トリグリセリド、カプリン酸トリグリセリド、およびその組合せからなる群から選択される、請求項1に記載の医薬組成物。」
「【請求項13】
対象の皮膚への投与のための医薬の調製における、請求項1~12のいずれか1項に記載の滅菌され注射可能な医薬組成物の使用であって、前記医薬は、皮下注射、筋肉内注射、または静脈内注射により投与される、使用。」
(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、平成29年5月30日の誤訳訂正書により補正された特許請求の範囲の請求項1、請求項4及び請求項15(補正後に請求項13に対応)の記載は次のとおりである(下線部は、補正箇所である。)。
「【請求項1】
ナノ粒子組成物、ボツリヌス毒素、および注入による投与のための少なくとも1つの賦形剤を含む、非経口投与のために製剤化された滅菌され注射可能な医薬組成物であって、
前記ナノ粒子組成物が粒子の集団を含み、前記粒子の大部分が10~300ナノメートルの直径を有し、前記ナノ粒子組成物が少なくとも1つの水性媒体、少なくとも1つの油、および少なくとも1つの界面活性物質を含み、界面活性物質に対する油の比率が約0.5:1~約1:1であり、前記注入による投与のための少なくとも1つの賦形剤が、塩化ナトリウム、リン酸ナトリウム、ゼラチンおよびそれらの組み合わせからなる群より選択され、前記組成物が針を含む機器内に配置される、医薬組成物。」
「【請求項4】
前記油が、中鎖トリグリセリドである、請求項1に記載の医薬組成物。」
「【請求項15】
対象の皮膚への投与のための医薬の調製における、請求項1~14のいずれか1項に記載の滅菌され注射可能な医薬組成物の使用。」
2.補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1、請求項4及び請求項15に記載された発明を特定するために必要な事項である「医薬組成物」、「油」および「注射」について、上記のとおり限定を付加するものであって、補正前の請求項1、請求項4及び請求項15に記載される発明と補正後の請求項1、請求項4及び請求項13に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明1」という。)、本件補正後の前記請求項4に記載された発明(以下、「本願補正発明4」という)及び本件補正後の前記請求項13に記載された発明(以下、「本願補正発明13」という)が、同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。
(1)本願補正発明
本願補正発明1、4及び13は、上記1.(1)に記載したとおりのものである。
(2)引用文献の記載事項
ア.引用文献1
(ア)原査定の拒絶の理由に引用された、本出願の優先日前に頒布された引用文献である、特表2009-518307号公報(平成21年5月7日出願公表)には、次の記載がある。
(i)「【請求項1】
粒子の集団を含むナノエマルジョンであって、粒子の大部分が約10ナノメートルから約300ナノメートルの直径を有し、かつ該ナノエマルジョンが少なくとも1つのボツリヌス毒素を含む、ナノエマルジョン。
(中略)
【請求項79】
ボツリヌス毒素が、A型、B型、C1型、C2型、D型、F型、およびG型を含む群より選択される、請求項1記載のナノエマルジョン。
【請求項80】
ボツリヌス毒素がA型ボツリヌス毒素である、請求項1記載のナノエマルジョン。
(中略)
【請求項113】
油および界面活性剤を含む、請求項1記載のナノエマルジョン。
(中略)
【請求項116】
油と界面活性剤が0.5~1.0の範囲の比率で存在する、請求項113記載のナノエマルジョン。
(中略)
【請求項135】
水性分散媒内に分散している油性粒子を含む、請求項1記載のナノエマルジョン。
【請求項136】
水性分散媒が、水、塩類溶液、リン酸緩衝生理食塩水、短鎖アルコール、5%デキストロース、リンガー液、乳酸加リンガー注射液、乳酸加リンガー液プラス5%デキストロース注射液、アシル化リンガー注射液、Normosol-M、Isolyte-E、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項135記載のナノエマルジョン。
(中略)
【請求項141】
油性分散媒内に分散している水性粒子を含む、請求項1記載のナノエマルジョン。
(中略)
【請求項146】
油が、ステアリン酸ブチル、カプリル酸トリグリセリド、カプリン酸トリグリセリド、シクロメチコン、セバシン酸ジエチル、ジメチコン360、ミリスチン酸イソプロピル、ミネラルオイル、オクチルドデカノール、オレイルアルコール、シリコンオイル、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項141記載のナノエマルジョン。」
(ii)「【0203】
実施例1:ボツリヌス菌ナノ粒子製剤
この実施例は、ボツリヌス毒素(すなわち、例えば、BOTOX(登録商標))を含むマイクロ流動化により調製されたナノエマルジョンの一つの態様を提示する。
【0204】
マイクロ流動化のための調製物は以下のとおりに作製された:
1. 5gのダイズ油および5gのTween 80を混合し、混合物を乳化するのに必要である場合には(典型的には、必要でない)加熱する。
2. ヒトアルブミンマトリックス内に組み入れられた100ユニットのBOTOX(登録商標)(Allergan, Irvine CA)を、100mLの脱イオン水/蒸留水へ加え、均一に混合されるまで撹拌した。
3. 段階1調製物を段階2調製物に加え、均一に混合されるまで撹拌した。
4. 調製物を1分間、ホモジナイズした(表1および図1における結果として生じた粒子分布参照)。
5. 24,000psiでの単一パスマイクロ流動化手順を、Microfluidizer(登録商標)プロセッサを用いて実行した。
【0205】
結果として生じたナノエマルジョンを、約0.6nm~6000nmの粒子をサイズで分類できるMalvern Nano S整粒器を用いて粒子サイズについて評価した。BOTOX(登録商標)ナノエマルジョン調製物は、95.33nmの平均粒子サイズをもつ2つの粒子サイズピークを有した(表2および図2)。
【0206】
(表1)ホモジナイズされたBOTOX(登録商標)マイクロエマルジョンの粒子サイズ分布 (略)
【0207】
(表2)マイクロ流動化BOTOX(登録商標)ナノエマルジョンの粒子サイズ分布」
「【0208】
実施例2:注射されたBOTOX(登録商標)ナノエマルジョンの筋弛緩効果
この実施例は、塩類溶液としての自由溶液BOTOX(登録商標)注射と同程度の効力を有するBOTOX(登録商標)ナノエマルジョンの一つの態様を提示する。
【0209】
実験計画は、以下の2つのBOTOX(登録商標)調製物を比較した:
1)実施例1に従って調製されたBOTOX(登録商標)を、Swiss Webster雌マウスの後肢(腓腹筋)への筋内(IM)注射により注入した。
2)BOTOX(登録商標)塩類溶液を、Swiss Webster雌マウスの後肢腓腹筋への筋内(IM)注射により注入した。
【0210】
指外転スコア(DAS)アッセイを用いて、局所的筋脱力効力を測定した(Aoki, 1999)。DAS値は以下のとおり割り当てられた:(0)扁平足、対照脚と同じ指の広がり;(1)扁平足、対照脚と比較して指外転の幅における差、または2本の指の接触および残りは完全に広がっている;(2)扁平足、全指の先端で開いたわずかな空間、または3本の指の接触;(3)足が扁平の場合には、5本の指の接触、足が湾曲している場合には、4本の指が合わさっている;(4)湾曲した足、全5本の指の接触。
【0211】
BOTOX(登録商標)ナノエマルジョンおよびBOTOX(登録商標)塩類溶液のIM注射は、単純盲検プロトコール下で7日間、DASにより評価された。1~2のDASスコアは、ボツリヌス毒素ナノエマルジョン(3.96U/5μl)およびボツリヌス毒素塩類溶液(3.96U/5μl)の両方について観察された。空ナノエマルジョンである対照群はDAS(0)であった。各群(ボツリヌス毒素ナノエマルジョン、塩類溶液、および対照)は5匹の動物から構成された。
【0212】
この情報は、非マイクロ流動化ボツリヌス毒素塩類溶液の注射により実証されているように、マイクロ流動化技術がボツリヌス毒素の機能特性を破壊しないこと、およびボツリヌス毒素ナノエマルジョンが機能的に効果があることを証明している。」(段落【0208】~【0212】)
(iii)「【0007】
本発明のボツリヌス菌ナノ粒子組成物は、限定されるわけではないが、経皮的および注射(例えば、静脈、皮下、または筋内注射)によることを含む任意の利用可能な手段により投与されうる。本発明は、特定のボツリヌス菌ナノ粒子組成物が、皮膚の構造を変化させる、または変更することなく、経皮的に送達されうるという所見を含む。例えば、研磨剤、または皮膚の表層を腐食するもしくは崩壊させる作用物質は、本発明によるボツリヌス毒素の経皮的送達を達成するのに必要とされない。従って、多くの態様において、ボツリヌス毒素の経皮的送達は、皮膚への有意な刺激なしに達成される。」
(iv)「【0109】
従って、本発明のいくつかの態様において、プレミックスは、水性分散媒、および分散媒においてナノ粒子の形で分散するようになる油性媒体を含む;本発明のいくつかの態様において、プレミックスは、油性分散媒、および油性分散媒においてナノ粒子の形をとって分散するようになる水性媒体を含む。
【0110】
当業者は、分散媒として、または本発明に従って分散しうる媒体として、用いられうる適切な水性媒体を良く知っていると思われる。代表的なそのような媒体には、例えば、水、塩類溶液(リン酸緩衝生理食塩水を含む)、注射用蒸留水、短鎖アルコール、5%デキストロース、リンガー液(乳酸加リンガー注射液、乳酸加リンガー液プラス5%デキストロース注射液、アシル化リンガー注射液)、Normosol-M、Isolyte-Eなど、およびそれらの組み合わせが挙げられる。」
(v)「【0198】
多汗症
多汗症は、人が過剰に、かつ予想できないほど、汗をかく病状である。多汗症をもつ人は、温度が涼しい時、および彼らが休息している時でさえ、汗をかきうる。発汗は、身体が涼しさを保つのを助け、ごく自然なことである。人は、暖かい温度で、彼らが運動している時、または彼らを神経質、怒り、恥ずかしい、または恐れの状態にさせる状況に応答して、より多く汗をかく。
【0199】
しかしながら、過剰な発汗はそのような誘因なしに起こる。多汗症をもつ人は、過活動汗腺を有するように思われる。制御できない発汗は、肉体的および感情的の両方の有意な不快感へ導きうる。過剰な発汗が手、足、および腋窩に作用する時、それは、原発性または限局性多汗症と呼ばれる。原発性多汗症は、人口の2%~3%を冒し、さらに、この状態をもつ患者の40%未満は医師の診察を受けている。原発性多汗症症例の大部分において、原因を見出すことができない。遺伝であるように思われる。発汗は別の病状の結果として起こる場合には、それは二次多汗症と呼ばれる。発汗は身体中全体でありうる、またはそれは一つの領域に限局されうる。二次多汗症を引き起こす状態には、限定されるわけではないが、末端肥大症、甲状腺機能亢進症、グルコース調節障害、褐色細胞腫、カルチノイド症候群、癌、結核、感染症、更年期障害、脊髄損傷、卒中、パーキンソン病、心臓または肺疾患、薬剤、物質乱用、または不安状態が挙げられる。多汗症の一次症状は湿りである。
【0200】
ボツリヌス毒素A型(BOTOX(登録商標))は、著しい脇の下発汗、原発性腋窩多汗症と呼ばれる状態の処置として2004年にFDAにより認可された。脇の下へ注射される少量の精製ボツリヌス毒素は、発汗を刺激する神経を一時的にブロックする。副作用は、注射部位の疼痛、およびインフルエンザに似た症状を含む。手のひらの発汗に用いられるBOTOX(登録商標)は、軽いが、一時的脱力および激痛を引き起こしうる。
【0201】
一つの態様において、本発明は、多汗症の症状を示す患者へのマイクロ流動化ボツリヌス毒素ナノエマルジョンなどのボツリヌス菌ナノ粒子組成物の投与を企図する。」
(vi)「【0111】
当業者はまた、分散媒として、または本発明に従って分散しうる媒体として、用いられうる適切な油性媒体を良く知っていると思われる。代表的なそのような媒体には、例えば、飽和および不飽和の、アーモンド、杏仁、アボカド、ババス、ベルガモット、クロフサスグリ種、ルリヂサ、ジュニパータール(cade)、カモミール、カノーラ、キャラウェー、カルナバ、キャスター、シナモン、カカオバター、ココナッツ、タラの肝臓、コーヒー、コーン、綿実、エミュー、ユーカリ、月見草、魚、亜麻仁、ゲラニオール、ゴード(gourd)、ブドウの種、ヘーゼルナッツ、ヒソップ、ホホバ、ククイノキの堅果(kukui nut)、ラバンジン(lavandin)、ラベンダー、レモン、リトシー・キュービバ、マカデミアナッツ、アオイ(mallow)、マンゴー種、メドウフォーム(meadowfoam)種、ミンク、ナツメグ、オリーブ、オレンジ、オレンジ・ラッフィー、パーム、パーム核、桃仁、ピーナッツ、ケシの実、カボチャの種、ナタネ、米ヌカ、ローズマリー、紅花、サンダルウッド、サスクアナ(sasquana)、セイボリー(savoury)、シーバックソーン(sea buckthorn)、ゴマ、シアバター、シリコーン、ダイズ、ヒマワリ、ティーツリー、アザミ、ツバキ、ベチバー、クルミ、およびコムギ胚芽の油;ステアリン酸ブチル;カプリル酸トリグリセリド;カプリン酸トリグリセリド;シクロメチコン;セバシン酸ジエチル;ジメチコン360;ミリスチン酸イソプロピル;ミネラルオイル;オクチルドデカノール;オレイルアルコール;シリコンオイル;ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。」
(イ)上記(ア)(i)からみて、引用文献1の請求項116には、以下の発明が記載されていると認める。
「 粒子の集団、油および界面活性剤を含むナノエマルジョンであって、油と界面活性剤が0.5~1.0の範囲の比率で存在し、粒子の大部分が約10ナノメートルから約300ナノメートルの直径を有し、かつ該ナノエマルジョンが少なくとも1つのボツリヌス毒素を含む、ナノエマルジョン。」
(ウ)ここで、「エマルジョン」とは、「互いに混ざり合わない2液相間で、一方が他方の相に微粒子状に分散しているコロイド分散液」であることは、当該分野における周知技術であり(周知を示すための文献である化学大辞典(第1版 第5刷)、1998.発行、第296頁右欄参照)、上記(ア)(i)の請求項135、(ア)(ii)実施例1のナノエマルジョンの製造方法及び(ア)(iv)の記載からみて、上記(イ)のナノエマルジョンは分散媒として、または分散しうる媒体として、用いられうる適切な水性媒体を含むものであることは明らかである。
したがって、引用文献1には、「 粒子の集団、分散媒として、または分散しうる媒体として、用いられうる適切な水性媒体、油および界面活性剤を含むナノエマルジョンであって、油と界面活性剤が0.5~1.0の範囲の比率で存在し、粒子の大部分が約10ナノメートルから約300ナノメートルの直径を有し、かつ該ナノエマルジョンが少なくとも1つのボツリヌス毒素を含む、ナノエマルジョン。」の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認める。
(3)本願補正発明1と引用発明1との対比
引用発明1の「ナノエマルジョン」は本願補正発明1の「ナノ粒子組成物」に相当するものであり、本願補正発明と引用発明1は、
「ナノ粒子組成物およびボツリヌス毒素を含む組成物であって、前記ナノ粒子組成物が粒子の集団を含み、前記粒子の大部分が10~300ナノメートルの直径を有し、前記ナノ粒子組成物が少なくとも1つの水性媒体、少なくとも1つの油、および少なくとも1つの界面活性物質を含み、界面活性物質に対する油の比率が約0.5:1~約1:1である組成物」であるという点で一致するものであり、
(A)本願補正発明1は、「塩化ナトリウム、リン酸ナトリウム、ゼラチンおよびそれらの組み合わせからなる群より選択され」る「前記注入による投与のための少なくとも1つの賦形剤」を含むことが特定されているのに対して、引用発明1では、その点は特定されていない点
(B)本願補正発明1は、組成物は「望ましくない発汗、臭汗症、過剰皮脂産出障害、体臭、色汗症、レイノー現象、エリテマトーデス、高色素沈着障害、黒皮症、低色素沈着障害、ざ瘡、脂漏症、脂漏性皮膚炎、酒さ、抜け毛、乾癬、頭痛、またはそれらの任意の組合せの治療のために製剤化された医薬組成物」であるのに対して、引用発明1では組成物が特定の症状の治療のために製剤化された医薬組成物であることは特定されていない点
(C)本願補正発明1は、「非経口投与のために製剤化された滅菌された」「注射可能な」組成物であり、「組成物が針を含む機器内に配置されている」のに対して、引用発明1ではその点が特定されていない点
で相違するものである。
(4)判断
以下、相違点について検討する。
ア.相違点(A)について
本願補正発明1の組成物が、「塩化ナトリウム、リン酸ナトリウム、ゼラチンおよびそれらの組み合わせからなる群より選択され」る「前記注入による投与のための少なくとも1つの賦形剤」を含むという点は、上記1.(2)に記載のとおり、平成29年5月30日に提出された誤訳訂正書における補正により請求項1に追加された事項である。
ここで、塩化ナトリウム、リン酸ナトリウム、ゼラチンについて、本願の発明の詳細な説明には、以下の記載がなされている(下線は、合議体が付したものである。)。
(i)「【0009】
(略)いくつかの実施形態では、提供されるナノ粒子組成物は、等張塩化ナトリウム溶液を含む。いくつかの実施形態では、提供されるナノ粒子組成物は、精製水を含む。いくつかの実施形態では、提供されるナノ粒子組成物は、ゼラチンを含む。いくつかの実施形態では、提供されるナノ粒子組成物は、二塩基性リン酸ナトリウムを含む。(略)
【0010】
いくつかの実施形態では、ナノ粒子組成物は、ナノエマルション(これに限定されない)を含めたナノ粒子組成物を含む。いくつかの実施形態では、ナノエマルションは、1349オイル、ポリソルベート80、プロピルパラベン、等張塩化ナトリウム溶液、メチルパラベン、緩衝溶液(ゼラチン、二塩基性リン酸ナトリウム、精製水および塩酸を含む)、ならびに任意に、既知の治療薬および/または独立して活性な生物学的活性作用物質を含む。いくつかの実施形態では、ナノエマルションは、1349オイル、ポリソルベート80、等張塩化ナトリウム溶液、緩衝溶液(ゼラチン、二塩基性リン酸ナトリウム、精製水および塩酸を含む)、ならびに任意に、既知の治療薬および/または独立して活性な生物学的活性作用物質を含む。(略)
【0011】
いくつかの実施形態では、提供されるナノ粒子組成物は、生理食塩溶液を含む。いくつかの実施形態では、生理食塩溶液は等張塩化ナトリウム溶液を含む。いくつかの実施形態では、生理食塩溶液は、等張塩化ナトリウム溶液および/または水を含む。いくつかの実施形態では、生理食塩溶液は、等張塩化ナトリウム溶液およびメチルパラベンを含む。いくつかの実施形態では、生理食塩溶液は実施例1~20のいずれかに記述される構成成分を含む。」
(ii)「【0086】
いくつかの実施形態では、提供されるナノ粒子組成物は、等張塩化ナトリウム溶液を含む水性分散媒を含む。いくつかの実施形態では、提供されるナノ粒子組成物は、実質的に等張塩化ナトリウム溶液からなる水性分散媒を含む。いくつかの実施形態では、提供されるナノ粒子組成物は、等張塩化ナトリウム溶液からなる水性分散媒を含む。いくつかの実施形態では、提供されるナノ粒子組成物は、ゼラチンを含む水性分散媒を含む。いくつかの実施形態では、提供されるナノ粒子組成物は、リン酸ナトリウムを含む水性分散媒を含む。いくつかの実施形態では、提供されるナノ粒子組成物は、精製水を含む水性分散媒を含む。いくつかの実施形態では、提供されるナノ粒子組成物は、塩酸を含む水性分散媒を含む。いくつかの実施形態では、提供されるナノ粒子組成物は、ゼラチン、リン酸ナトリウム、精製水および塩酸を含む水性分散媒を含む。いくつかの実施形態では、提供されるナノ粒子組成物は、実質的にゼラチン、リン酸ナトリウム、精製水および塩酸からなる水性分散媒を含む。いくつかの実施形態では、提供されるナノ粒子組成物は、ゼラチン、リン酸ナトリウム、精製水および塩酸からなる水性分散媒を含む。」
(iii)「【0101】
いくつかの実施形態では、本発明は、改良されたナノ粒子組成物を提供するが、この場合、提供されるナノ粒子組成物は、1349オイル、ポリソルベート80、パラベン(例えば、プロピルパラベン、メチルパラベン、その他のパラベンおよび/またはその組合せ)、等張塩化ナトリウム溶液、精製水、ゼラチン、二塩基性リン酸ナトリウムおよび濃塩酸のうちの1つ以上を含む。
【0102】
いくつかの実施形態では、本発明は改良されたナノ粒子組成物を提供するが、この場合、提供されるナノ粒子組成物は、実質的に、1349オイル、ポリソルベート80、パラベン(例えば、プロピルパラベン、メチルパラベン、その他のパラベンおよび/またはその組合せ)、等張塩化ナトリウム溶液、精製水、ゼラチン、二塩基性リン酸ナトリウムおよび濃塩酸のうちの1つ以上からなる。
【0103】
いくつかの実施形態では、本発明は改良されたナノ粒子組成物を提供するが、この場合、提供されるナノ粒子組成物は、1349オイル、ポリソルベート80、等張塩化ナトリウム溶液、精製水、ゼラチン、二塩基性リン酸ナトリウムおよび濃塩酸のうちの1つ以上からなる。」
(iv)「【0188】
当業者は、本発明に従って分散媒または分散する媒体として使用し得る適切な水性媒体を認識するであろう。このような水性媒体の代表的なものとしては、例えば、水、生理食塩水(リン酸塩緩衝生理食塩水を含む)、注射用水、短鎖アルコール、5%デキストロース、リンゲル液(乳酸リンゲル注射液、乳酸リンゲル液+5%デキストロース注射液、アシル化リンゲル注射液)、Normosol-M、Isolyte Eなどおよびその組合せが挙げられる。
【0189】
いくつかの実施形態では、プレミックスは、等張塩化ナトリウム溶液を含む水性分散媒を含む。いくつかの実施形態では、プレミックスは、等張塩化ナトリウム溶液から実質的になる水性分散媒を含む。いくつかの実施形態では、プレミックスは、等張塩化ナトリウム溶液からなる水性分散媒を含む。いくつかの実施形態では、プレミックスは、ゼラチンを含む水性分散媒を含む。いくつかの実施形態では、プレミックスは、リン酸ナトリウムを含む水性分散媒を含む。いくつかの実施形態では、プレミックスは、精製水を含む水性分散媒を含む。いくつかの実施形態では、プレミックスは、塩酸を含む水性分散媒を含む。いくつかの実施形態では、プレミックスは、ゼラチンとリン酸ナトリウムと精製水と塩酸とを含む水性分散媒を含む。いくつかの実施形態では、プレミックスは、ゼラチンとリン酸ナトリウムと精製水と塩酸とから実質的になる水性分散媒を含む。いくつかの実施形態では、プレミックスは、ゼラチンとリン酸ナトリウムと精製水と塩酸とからなる水性分散媒を含む。」
また、賦形剤について、以下の記載がなされている。
(v)「【0471】
組成物(例えば、薬学的および/または美容的に許容可能な組成物)における使用に適した賦形剤は、例えば、1つまたは複数の賦形剤(所望の特定の投与形態に適するような、溶媒、分散媒、造粒媒、希釈剤または他の液体ビヒクル、分散補助剤または懸濁補助剤、界面活性剤および/または乳化剤、等張剤、増粘剤または乳化剤、保存剤、固体結合剤、潤滑剤、崩壊剤、結合剤、保存剤、緩衝剤等)を含み得る。代替的または追加的に、賦形剤(カカオ脂および/または坐剤ワックス、染色剤、コーティング剤、甘味料、香味料および/または香薬等)を使用することができる。RemingtonのThe Science and Practice of Pharmacy,21st Edition,A.R.Gennaro(Lippincott,Williams & Wilkins,Baltimore,MD,2005;参照により本明細書に組み込まれる)では、医薬組成物を製剤化する際に使用される様々な賦形剤およびその調製のための既知の技術が開示されている。」
本願明細書等には、ナノ粒子組成物に、さらに「塩化ナトリウム、リン酸ナトリウム、ゼラチンおよびそれらの組み合わせからなる群より選択され」る「注入による投与のための少なくとも1つの賦形剤」を添加することは記載されておらず、上記(v)の賦形剤の定義、及び、(i)~(iv)の記載からみて、本願補正発明1の「塩化ナトリウム、リン酸ナトリウム、ゼラチンおよびそれらの組み合わせからなる群より選択され」る「前記注入による投与のための少なくとも1つの賦形剤」とは、ナノ粒子組成物の水性媒体中に含まれるものであると認める。
引用文献1には、(2)ア.(ア)(iv)に、用いられる代表的な水性媒体として、水と共に、塩類溶液(リン酸緩衝生理食塩水を含む)、リンガー液(乳酸加リンガー注射液、乳酸加リンガー液プラス5%デキストロース注射液、アシル化リンガー注射液)が挙げられており、これらの水性媒体を用いることは(2)ア.(ア)(i)の請求項136にも記載されている。
ここで、リン酸緩衝生理食塩水及びリンガー注射液が、塩化ナトリウムを含むものであることは、当該分野における周知技術である(要すれば、周知技術を示すための文献である化学大辞典(第1版 第5刷)、1998.発行、第2512頁左欄参照)。
してみれば、引用発明1において、水性媒体として引用文献1に代表的な水性媒体として記載されるリン酸緩衝生理食塩水や、各種リンガー注射液を用いることにより、組成物が塩化ナトリウムを含むものとすることは、当業者が容易に想到し得るものである。
また、下記ウ.の相違点(C)についての検討で述べるとおり、引用発明1の組成物を注射により投与する態様において、リン酸緩衝生理食塩水や各種リンガー注射液は、注入による投与のためのものとなることは明らかである。
イ.相違点(B)について
本願明細書等には「望ましくない発汗」について明確な定義等はなされていないが、明細書等段落【0329】には「不必要な発汗」は「いくつかの実施形態では、多汗症などの臨床的に診断される状態の症状である」と記載されていることから、望ましくない発汗には、多汗症による発汗も包含されるものと認められる。
(2)ア.(ア)(v)にあるように、引用文献1には、ボツリヌス毒素含有ナノ粒子組成物を、多汗症の症状を示す患者へ投与することが記載されているから、引用発明1の組成物を多汗症用の医薬組成物とすることは、当業者が引用文献1の記載に基づいて容易に想到し得るものである。
仮に「望ましくない発汗」に「多汗症」が含まれないと解した場合においても、(2)ア.(ア)(v)には、脇の下へ注射される少量の精製ボツリヌス毒素は、発汗を刺激する神経を一時的にブロックすることが記載されているのであるから、多汗症との診断が下されていない場合でも、望ましくない発汗を抑えるために引用発明1の組成物を用いようとすることは、当業者が引用文献1の記載に基づいて容易に想到し得るものである。
また、ボツリヌス毒素を、緊張頭痛や偏頭痛等の頭痛や、乾癬や皮膚炎等の治療に用いることは、当該分野における周知技術である(要すれば、周知技術を示すための文献である国際公開第2009/158687号の段落000155、000163、000174、000176、000179、000182、000218及び特表2007-523689号公報の段落0033等参照)から、引用発明1の組成物を、緊張頭痛や偏頭痛等の頭痛や、乾癬や皮膚炎等の各種治療用の医薬組成物とすることは、当業者が周知技術に基づいて容易に想到し得るものである。
ウ.相違点(C)について
引用文献1には、(2)ア.(ア)(iii)に記載されるように、ナノ粒子組成物を注射(例えば、静脈、皮下、または筋内注射)により投与することが開示されると共に、(2)ア.(ア)(ii)には実施例2として筋肉注射を行ったことも記載されている。
ここで、注射による投与が、非経口投与であることは自明であると共に、注射用医薬組成物を調製する際に、製剤化の過程において滅菌することや、針を含む機器内に組成物を配置することは、常套手段である。
してみれば、引用発明1の組成物を注射により投与するものとし、滅菌し、針を含む機器内に配置することは、当業者が容易に想到し得るものである。
エ.本願の発明の詳細な説明には、実施例として、ボツリヌス毒素を含むナノ粒子組成物(実施例1、3、【表6】【表14】のナノエマルションレシピ)を製造したこと、ナノ粒子組成物中の油に対する界面活性剤の比率を検討したこと(実施例5)、ナノ粒子組成物中の油をダイズ油または1349オイルとして、マウスの皮膚にすり込み、神経末端での染色を確認したこと(実施例6)、ナノ粒子組成物中の界面活性剤を複数種用いて、マウスの皮膚にすり込み、神経末端での染色を確認したこと(実施例7)、ペムレンを含む賦形剤または鉱油やミリスチン酸イソプロピル等を含む賦形剤を含むナノ粒子組成物を、マウスの皮膚にすり込み、神経末端での染色を確認したこと(実施例8)、賦形剤の濃度をかえて、マウスの皮膚にすり込み、神経末端での染色を確認したこと(実施例9)、ベンジルアルコールまたはパラベン等の保存剤を含むナノ粒子組成物をマウスの皮膚にすり込み、神経末端での染色を確認したこと(実施例10)、パラベンやボツリヌスホロ毒素について検討したこと(実施例11及び12)、ゼラチンを含むナノ粒子組成物をクリームと併合してマウスの皮膚にすり込み、指外転スコア(DAS)を確認したこと(実施例13)、ボツリヌス毒素を含むナノ粒子組成物を2~8℃で数ヶ月間保存した後にマウスの尾に静脈注射して死亡時刻を記録し確認したこと(実施例14)、ボツリヌス毒素を含むナノ粒子をクリームと併合し凍結保存後、マウスの皮膚にすり込みDASを確認したこと(実施例15)、ボツリヌス毒素を含まないナノエマルション製剤(実施例16)、局所化学的に神経を麻痺させる薬剤の効力を評価する上で有用でありえる皮下注射または局所適用のDAS法を検討したこと(実施例17、実施例18)、局所化学的に神経を麻痺させる薬剤の効力を評価する上で有用であり得る静脈注射と致死時間を介した毒素効力の測定方法について検討したこと(実施例19)、局所化学的に神経を麻痺させる薬剤の効力を評価するため、組成物を腹腔内注射して50%の処置動物が死亡するまでにかかる時間を測定すること(実施例20)、エンプティナノエマルション製剤を多汗症も含む対象者の腋窩にすり込み発汗に対する効果を検討したこと(実施例21)、「エマルションV」ナノ粒子組成物(注:組成は不明である)を多汗症も含む対象者の皮膚の皮膚に腋窩にすりこみ発汗に対する効果を確認したこと(実施例22)、ポリソルベート80、Labrafac(登録商標)脂溶性W1349、ミリスチン酸イソプロピルまたはプロピルパラベンを多汗症も含む対象者の腋窩にすり込み発汗に対する効果を検討したこと(実施例23、24、25、26)、並びに、「エマルションV」ナノ粒子組成物(注:組成は不明である)を皮膚にすり込み抗しわ効果を検討したこと(実施例27)が記載されている。
しかしながら、これらはいずれも、本願補正発明1の「注入による投与のための少なくとも1つの賦形剤が、塩化ナトリウム、リン酸ナトリウム、ゼラチンおよびそれらの組み合わせからなる群より選択され」、「望ましくない発汗・・頭痛、またはそれらの任意の組合せの治療のために製剤化され」、「針を含む機器内に配置される」医薬組成物の実施例ではなく、本願補正発明1の医薬組成物による治療効果は記載されていないのであるから、本願明細書の記載及び上記相違点を総合的に勘案しても、本願補正発明1により、引用発明1と比較して予測しえない有利な効果が奏されたとはいえない。
オ.以上の通りであるから、本願補正発明1は、当業者が引用発明1並びに引用文献1の記載及び周知技術に基いて、容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
(5)本願補正発明4と引用発明1の対比
本願補正発明4は、本願補正発明1の引用形式で記載されるものであり、本願補正発明4ではナノ粒子組成物中の油が「カプリル酸トリグリセリド、カプリン酸トリグリセリド、およびその組合せからなる群から選択される」ものであるのに対して、引用発明1では油がそのように特定されていない点で、引用発明1とさらに相違するものである。
(6)判断
引用文献1には、(2)ア.(ア)(vi)に記載されるように、カプリル酸トリグリセリド、カプリン酸トリグリセリドは、組成物において用いられうる代表的な油性媒体として挙げられているものであり、(2)ア.(ア)(i)の請求項146にも、油としてカプリル酸トリグリセリドやカプリン酸トリグリセリドを用いることが記載されていることから、引用発明1において油としてカプリル酸トリグリセリドやカプリン酸トリグリセリドを用いてみることは、当業者が容易に想到し得るものである。
そして、本願の発明の詳細な説明には、本願補正発明4に対応する実施例等の具体的な記載はなされておらず、本願明細書の記載及び上記相違点を総合的に勘案しても、本願補正発明4により、引用発明1と比較して予測しえない有利な効果が奏されたとはいえない。
以上の通りであるから、本願補正発明4は、当業者が引用発明1並びに引用文献1の記載及び周知技術に基いて、容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
(7)本願補正発明13と引用発明1の対比
本願補正発明13は、本願補正発明1及び本願補正発明4を含む請求項1~12の引用形式で記載されるものであり、本願補正発明13では、組成物が「皮下注射、筋肉内注射、または静脈内注射」により投与されることが特定されているのに対して、引用発明1ではそのような特定がないという点でさらに相違するものである。
(8)判断
上記(2)で相違点(C)について判断したとおり、引用文献1には、(2)ア.(ア)(iii)に記載されるように、ナノ粒子組成物を注射(例えば、静脈、皮下、または筋内注射)により投与することが開示されており、(2)ア.(ア)(ii)には実施例2として筋肉注射を行ったことも記載されていることから、引用発明1において、投与方法を静脈、皮下、または筋内注射とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。
そして、本願の発明の詳細な説明には、本願補正発明13に対応する実施例等の具体的な記載はなされておらず、本願明細書の記載及び上記相違点を総合的に勘案しても、本願補正発明13により、引用発明1と比較して予測しえない有利な効果が奏されたとはいえない。
以上の通りであるから、本願補正発明13は、当業者が引用発明1並びに引用文献1の記載及び周知技術に基いて、容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである
(9)審判請求人の主張について
ア.請求人の主張
請求人は、平成29年10月26日提出の審判請求書の手続補正書(方式)(平成29年12月4日提出)において、以下のとおり主張している。
補正後の本発明は、特定のサイズ範囲および/または分布を有する粒子を有するナノ粒子組成物を含む医薬組成物が、所定の症状の治療に使用できるというものであります。また、該ナノ粒子組成物は、好ましくは、不混和性の分散媒中に分散された油性または水性の粒子を含み(段落0055)、好ましくは、該ナノ粒子組成物は、ナノ粒子内に被包され、分散媒中に分散されたボツリヌス毒素で構成されています(段落0044)。
引用例1には、ボツリヌス毒素の処置適用として、顔のしわの処置;見端の悪い顔の表情(例えば、下層にある顔面筋系の活動亢進による)の処置;機能亢進性顔の線の管理;たるみ肥大性広頚筋帯(すなわち、典型的には、老化首と呼ばれる)の処置;前立腺肥大の処置;多汗症の処置が挙げられています(段落0161、0164、0166、0169、0195、0198)。また、引用例1には、さらに、マウス後肢腓腹筋へのボツリヌス菌ナノエマルジョン組成物の局所適用による筋弛緩効果(実施例3、4);しわへのボツリヌス菌ナノエマルジョン組成物の局所適用(実施例5);マウス後肢腓腹筋に注射されたボツリヌス菌ナノエマルジョン組成物の効果(実施例2)も開示されています。しかし、引用例1には、このような広範な開示があるものの、補正後の請求項1に係る状態の治療は開示も示唆もされていません。また、このような引用例1の開示からは、補正後の本発明に対して当業者が合理的な成功の期待を抱くことはありません。
イ.請求人の主張に対する当審の判断
本願明細書等には、上記(4)において検討したとおり、ボツリヌス毒素とナノ粒子組成物を含む組成物を、注射により投与し、望ましくない発汗、臭汗症、過剰皮脂産出障害、体臭、色汗症、レイノー現象、エリテマトーデス、高色素沈着障害、黒皮症、低色素沈着障害、ざ瘡、脂漏症、脂漏性皮膚炎、酒さ、抜け毛、乾癬または頭痛を治療したことについて、実施例等の具体的な記載はなされていない。
したがって、そもそも請求人の主張する「成功」が本願明細書等に開示されているとはいえない。
また、上記(4)の相違点(B)についての検討において指摘した、本願明細書等の段落【0329】の記載に加え、本願補正発明1の実施例に対応するものではないが、たとえば本願明細書等の「発汗」に関する実施例21~26の試験対象者の登録基準として、「中等度~重度の原発性腋窩多汗症と診断される」、「多汗症の疾患重症度スケールスコア≧3」と記載されており、当該記載によれば、発汗に対する治療は、多汗症患者の治療を包含するものである。
したがって、平成29年10月26日提出の手続補正書において、請求項1の「多汗症」との文言を削除しても、本願補正発明1の用途として「望ましくない発汗」が含まれている以上、本願補正発明1が多汗症の治療のための医薬組成物を含まないものとはいえない。
仮に、「望ましくない発汗」が「多汗症」を含まないと解した場合においても、上記(4)の相違点(B)について検討したとおりであるから、本願補正発明1は、引用発明1並びに引用文献1の記載及び周知技術に基づいて、当業者が容易に想到し得るものである。
3.本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126項第7項の規定に違反するものであるから、同法159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1.本願発明
平成29年10月26日提出の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明1」という。)は、平成29年5月30日提出誤訳訂正書の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】ナノ粒子組成物、ボツリヌス毒素、および注入による投与のための少なくとも1つの賦形剤を含む、非経口投与のために製剤化された滅菌され注射可能な医薬組成物であって、前記ナノ粒子組成物が粒子の集団を含み、前記粒子の大部分が10~300ナノメートルの直径を有し、前記ナノ粒子組成物が少なくとも1つの水性媒体、少なくとも1つの油、および少なくとも1つの界面活性物質を含み、界面活性物質に対する油の比率が約0.5:1~約1:1であり、前記注入による投与のための少なくとも1つの賦形剤が、塩化ナトリウム、リン酸ナトリウム、ゼラチンおよびそれらの組み合わせからなる群より選択され、前記組成物が針を含む機器内に配置される、医薬組成物。」
2.原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1に係る発明は、本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
引用文献1:特表2009-518307号公報
3.引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1の記載事項は、前記第2の[理由]2.(2)ア.(ア)に記載したとおりである。
4.対比・判断
本願発明1は、前記「第2」の[理由]で検討した本願補正発明1から、発明特定事項である「医薬組成物」について、限定事項である「特定の症状の治療のための用途」の記載を削除したものである。
そうすると、本願発明1の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記第2の[理由]2.(4)に記載したとおり、引用発明1並びに引用文献1の記載及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明1も、引用発明1並びに引用文献1の記載及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
また、本願発明1と引用発明1を対比すると、両者は、「ナノ粒子組成物およびボツリヌス毒素を含む組成物であって、前記ナノ粒子組成物が粒子の集団を含み、前記粒子の大部分が10~300ナノメートルの直径を有し、前記ナノ粒子組成物が少なくとも1つの水性媒体、少なくとも1つの油、および少なくとも1つの界面活性物質を含み、界面活性物質に対する油の比率が約0.5:1~約1:1である組成物」であるという点で一致するものであり、
(A)本願発明1は、「塩化ナトリウム、リン酸ナトリウム、ゼラチンおよびそれらの組み合わせからなる群より選択され」る「前記注入による投与のための少なくとも1つの賦形剤」を含むことが特定されているのに対して、引用発明1では、その点は特定されていない点、
(B)本願発明1は、組成物は「医薬組成物」であるのに対して、引用発明1では組成物が医薬組成物であることは特定されていない点
(C)本願発明1は、「非経口投与のために製剤化された滅菌され」「注射可能な」組成物であり、「組成物が針を含む機器内に配置されている」のに対して、引用発明1ではその点が特定されていない点
で相違するものである。
相違点(A)については、前記第2の[理由]2.(4)で検討したとおりである。
また、相違点(B)及び(C)について、引用文献1には、前記第2の[理由]2.(2)ア.(ア)(ii)の実施例2として、ボツリヌス毒素を含有するナノエマルジョンを筋弛緩のために筋肉注射により注入することが記載されていたのであるから、引用発明1のナノエマルジョンを、注射用、すなわち非経口投与用の医薬組成物とし、その際に、製剤化の過程で滅菌することや、針を含む機器内に組成物を配置することは、当業者が周知技術に基づいて容易に想到し得るものである。
そして、本願明細書の記載及び上記相違点を総合的に勘案しても、本願発明1により、引用発明1と比較して予測しえない有利な効果が奏されたとはいえない。
したがって、本願発明1は、引用発明1並びに引用文献1の記載及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上のとおり、本願発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明については検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する
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2017-015909