特許拒絶査定不服審判
2017-003854
低インダクタンス高効率のインダクションマシン及びその製作方法
- 審判番号
- 2017-003854
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2011-250219外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2017年03月16日
- 審決日
- 2018年08月20日
- 公報発行日
- 2019年02月22日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ
- 【請求人代理人】荒川 聡志
- 【請求人代理人】小倉 博
- 【請求人代理人】黒川 俊久
- 【請求人代理人】田中 拓人
- 分類
- P18 .121-WZ (H02P)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2011-250219「低インダクタンス高効率のインダクションマシン及びその製作方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 6月14日出願公開、特開2012-115134〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本願は、平成23年11月16日(パリ条約による優先権主張 2010年11月19日、米国)の出願であって、平成27年12月24日付けの拒絶理由の通知に対し、平成28年7月5日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、平成28年12月5日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成29年3月16日に審判の請求がなされ、その審判の請求と同時に手続補正がなされ、その後、当審において、平成30年3月8日付けで拒絶理由が通知され、平成30年5月16日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされたものである。
第2 本願発明
本願の請求項に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「車両用の電気駆動システムであって、
車両牽引誘導モータと、
前記車両牽引誘導モータに電気的に結合され、車両牽引誘導モータを駆動するためのパワー変換器であって、複数の炭化ケイ素(Sic)金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)切替えデバイスを備えたパワー変換器と、
前記パワー変換器に電気的に結合されると共に、ピーク対ピーク電流リップルが5パーセント未満となるように前記複数の切替えデバイスに対して少なくとも50kHzの切替え周波数で切替え信号を送るようにプログラムされた制御器と、
を備える電気駆動システム。」
第3 拒絶の理由
平成30年3月8日付けで当審が通知した拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)のうちの理由Aは、次のとおりのものである。
本願発明は、本願の優先権主張の日(以下、「優先日」という。)前に日本国内または外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、以下の引用例1に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
引用例1.特開2006-42529号公報
引用例2.特開平11-206183号公報
引用例3.特開2006-121877号公報
引用例4.特開平11-307352号公報
引用例5.Honggang SHENG et al.,Investigation of 1.2kV SiC MOSFET for High Frequency High Power Applications, Applied Power Electronics Conference and Exposition (APEC), 2010 Twenty-Fifth Annual IEEE,(米国,IEEE,2010年3月18日), p.1572-1577
引用例6.Gangyao WANG et al.,Comparisons of 6.5kV 25A Si IGBT and 10-kV SiC MOSFET in Solid-State Transformer Application,Energy Conversion Congress and Exposition (ECCE), 2010 IEEE,(米国,IEEE,2010年11月1日), p.100-104
第4 引用例の記載及び引用発明
1.引用例1の記載及び引用発明1
(1)引用例1には、図面とともに、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付加した。)。
ア.「【請求項1】
圧縮機、凝縮器、絞り装置、および蒸発器が冷媒配管で接続された冷媒回路を有してなる空気調和装置の前記圧縮機を駆動する整流器、直流リアクトル、直流平滑コンデンサ、および逆変換器を具備するPWMインバータを備えた空気調和装置のインバータ制御装置において、
前記逆変換器にSiC(シリコンカーバイド)素子を適用したことを特徴とする空気調和装置のインバータ制御装置。
・・・(中略)・・・
【請求項3】
前記PWMインバータを15kHz以上のキャリア周波数で動作させることを特徴とする請求項1に記載の空気調和装置のインバータ制御装置。」
イ.「【0002】
近年、空気調和装置の分野においても、インバータ装置を適用することが一般的な構成となってきており、空気調和装置の圧縮機に備えられた電動機がインバータ装置のPWM制御によって可変速に駆動され、高効率な運転制御や、詳密な空調能力制御などが実現されている。
【0003】
ところで、このような、インバータ装置を備えた従来の空気調和装置においては、電動機を可変速制御するインバータ装置の主回路に、IGBT(Insulated Gated Bipolar Transistor:絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)素子を適用した構成が一般的である(例えば、特許文献1)。
【0004】
この文献に開示されている空気調和装置では、インバータ付き誘導電動機に起因する騒音を低減し、かつ高効率な運転を実現するために、空気調和装置の圧縮機と、この圧縮機を駆動する誘導電動機をチャンバ内に密閉するとともに、誘導電動機を回転制御するインバータのスイッチング素子にIGBTを使用し、インバータ制御のキャリア周波数を4kHz以上10kHz以下の周波数に設定することを特徴としている。」
ウ.「【0007】
すなわち、従来の空気調和装置では、IGBT素子の動作温度特性に関係してIGBT素子自身のスイッチング損失による発熱を制限する必要があり、キャリア周波数の上限は15KHz程度が限界であった。したがって、インバータ装置出力にリプル電流が多く残存し、電動機の運転効率が低下したり、騒音が発生するなどの問題点があった。
・・・(中略)・・・
【0010】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、従来の空気調和装置に比して、さらに、高効率、低損失、低騒音、低ノイズの空気調和装置を実現することができるインバータ制御装置を提供することを目的とする。」
エ.「【0011】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、本発明にかかる空気調和装置のインバータ制御装置は、圧縮機、凝縮器、絞り装置、および蒸発器が冷媒配管で接続された冷媒回路を有してなる空気調和装置の前記圧縮機を駆動する整流器、直流リアクトル、直流平滑コンデンサ、および逆変換器を具備するPWMインバータを備えた空気調和装置のインバータ制御装置において、前記逆変換器にSiC(シリコンカーバイド)素子を適用したことを特徴とする。」
オ.「【0014】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1にかかるインバータ制御装置を備えた空気調和装置の概略構成を示す図である。同図の右上部において、圧縮機1、凝縮器2、絞り手段(減圧器)3および蒸発器4のそれぞれが冷媒配管で順次接続され、空気調和装置の冷媒回路が構成されている。一方、同図の左上部には、インバータ制御装置の主回路であるPWMインバータ15が構成されている。すなわち、PWMインバータ15は、電源5、ダイオード等により構成される整流器6、直流リアクトル7、直流平滑コンデンサ8およびスイッチング素子としてSiC(シリコンカーバイト)モジュールを適用した逆変換器9を備えている。また、同図の下部には、PWMインバータ15を制御して空気調和装置の圧縮機1を制御するインバータ制御装置の各制御手段が構成されている。すなわち、インバータ制御装置の各制御手段は、直流母線電圧検出手段10、出力電流検出手段11、出力周波数設定手段12、PWM演算手段13、および逆変換器駆動手段14を備えている。
【0015】
これらの各制御手段において、直流母線電圧検出手段10は、逆変換器9に印加される電圧を検出し、出力電流検出手段11は、逆変換器9から圧縮機1に出力される出力電流を検出する。PWM演算手段13は、直流母線電圧検出手段10、出力電流検出手段11、および出力周波数設定手段12からの信号に基づいて、空気調和装置の所要空調能力や、圧縮機駆動時の所要駆動トルクが出力されるようなPWM演算信号を生成して逆変換器駆動手段14に出力する。逆変換器駆動手段14は、PWM演算手段13から出力されたPWM演算信号に基づいてSiCモジュールが搭載された逆変換器9をPWM制御する。
【0016】
この実施の形態の空気調和装置では、上述のように、逆変換器9にSiCモジュールを適用している。SiCモジュールは、IGBTモジュールに比して、スイッチング動作が速く、また、非常な高温(例えば、200度以上)でも動作が可能であるといった特徴を有している。したがって、PWM演算手段13にてキャリア周波数を15KHz以上に上げたとしても、問題なく動作させることができる。例えば、高速スイッチング動作によって生ずる発熱の問題も生じない。また、スイッチング動作がそのものが高速なので、スイッチング損失が小さくなり、出力電圧、および出力電流の歪み成分を小さくすることができる。また、過渡状態への応答特性も高速になるので、FWDダイオードのリカバリ電流によるノイズの発生も小さくなる。さらに、キャリア周波数を15KHz以上とすることで、キャリア音に基づく騒音を可聴域の高域にシフトさせることができる。さらには、キャリア周波数を15KHz以上とすることで、制御周期を高速化することができるので、空気調和装置に対する詳細な運転制御を容易に実現することができる。
【0017】
また、この実施の形態にかかるインバータ制御装置を備えた空気調和装置は、損失の面においても、以下に示すような利点を有している。図2は、IGBTおよびSiCのIcに基づく損失特性を示す図である。SiCモジュールはMOSFETと同等な構造を有するので、その損失特性は、同図に示すような「Ron×Ic2」となる。なお、IGBTの損失特性は、「Vce×Ic」である。一般的に、空気調和装置が軽負荷で運転される場合には、低周波運転となりコレクタ電流は小さくなる。したがって、低周波運転の場合には、同図に示すように「Vce×Ic」曲線に比して「Ron×Ic2」曲線の方が低損失となり、低周波運転域での損失を電流の2乗のオーダーで低減させることができる。」
カ.「【0018】
以上説明したように、この実施の形態では、空気調和装置のインバータ制御装置に具備される逆変換器にSiCモジュールを適用するようにしているので、PWM制御のキャリア周波数を15KHz以上とすることができ、従来の空気調和装置に比して、効率、損失、騒音、ノイズなどにかかる諸特性を改善した空気調和装置を実現することができる。」
そして、記載事項ア、イ及びオからみて、次の事項が理解できる。
キ.空気調和装置の圧縮機1は、電動機を備え、該電動機は、PWMインバータ15により駆動される。
記載事項オ、事項キ及び図1の記載からみて、次の事項が理解できる。
ク.逆変換器9は,空気調和装置の圧縮機1が備える電動機に電気的に結合され、該電動機に出力電流を出力する。
記載事項オ及び図1の記載からみて、次の事項が理解できる。
ケ.直流母線電圧検出手段10、出力電流検出手段11、出力周波数設定手段12、PWM演算手段13及び逆変換器駆動手段14を備えるインバータ制御装置の各制御手段は、逆変換器9に電気的に結合され、該逆変換器9をPWM制御するものであって、キャリア周波数を15KHz以上に上げ、逆変換器9の出力電流の歪み成分を小さくすることができる。
記載事項ア及びオ並びに事項キからみて、次の事項が理解できる。
コ.空気調和装置の圧縮機1が備える電動機、逆変換器9、並びに直流母線電圧検出手段10、出力電流検出手段11、出力周波数設定手段12、PWM演算手段13及び逆変換器駆動手段14を備えるインバータ制御装置の各制御手段は、いずれも、空気調和装置用である。
(2)そうすると、これらの事項からみて、引用例1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「空気調和装置用の装置であって、
空気調和装置の圧縮機1が備える電動機と、
前記電動機を駆動するPWMインバータ15が備える逆変換器9であって、前記電動機に電気的に結合され、該電動機に出力電流を出力し、スイッチング素子としてSiC(シリコンカーバイド)モジュールを適用した逆変換器9と、
前記逆変換器9に電気的に結合され、該逆変換器9をPWM制御するものであって、キャリア周波数を15kHz以上に上げ、前記出力電流の歪み成分を小さくすることができる、直流母線電圧検出手段10、出力電流検出手段11、出力周波数設定手段12、PWM演算手段13及び逆変換器駆動手段14を備えるインバータ制御装置の各制御手段と、
を備える装置。」
2.引用例2の記載
引用例2には、図面とともに、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付加した。)。
ア.「【特許請求の範囲】
【請求項1】複数個の半導体モジュールを含み形成されたインバータ回路を回転電機に内蔵して成る回転電機内蔵用インバータであって、
前記半導体モジュールを構成するパワートランジスタ及びダイオードは、
Tj=160℃以上~300℃以下のジャンクション温度特性を有していることを特徴とする回転電機内蔵用インバータ。
【請求項2】請求項1において、前記パワートランジスタは、SiC組成材を用いたSIT形半導体から成り、前記ダイオードは、SiC組成材を用いたSiC形ダイオードから成ることを特徴とする回転電機内蔵用インバータ。」
イ.「【0024】図6において、本発明品のSiC組成材を用いたSIT形半導体としてのパワートランジスタは、従来品のパワートランジスタに比べて、定格電圧VCEの広い範囲に亘って、オン抵抗が小さいことが分かる。具体的には、本実施例の回転電機内蔵用インバータを電気車用の永久磁石形同期電動機に用いて、定格電圧VCE=600V~3000Vの範囲と、スイッチング周波数10kHz~100kHzの範囲とで動作させると、半導体モジュールの順方向飽和電圧が、従来形半導体モジュール(例えば、IGBTモジュール)の1/6の0.3Vとすることができて、低熱損失化されることが判明した。また、本実施例の回転電機内蔵用インバータを、車両用交流発電機(定格電圧VCE=24~100Vの範囲)に採用しても、同様の低熱損失効果が得られることは、図6から明らかに理解できる。」
(2)そうすると、これらの事項からみて、引用例2には次の技術が記載されていると認められる。
「複数個の半導体モジュールを含み形成された、回転電機用のインバータであって、前記半導体モジュールを構成するパワートランジスタ及びダイオードが、それぞれ、SiC組成材を用いたSIT形半導体及びSiC組成材を用いたSiC形ダイオードから成るインバータを、スイッチング周波数10kHz~100kHzの範囲で動作させる。」
3.引用例3の記載
引用例3には、図面とともに、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付加した。)。
ア.「【0002】
モータにより駆動力を発生させて走行する電気車等において、その走行モータには高出力、保守、寿命等を背景に多相交流モータを採用することが主流となり、モータ制御装置もPWMインバータを採用することが主流となっている。走行モータの運転範囲は、低速から高速まで広範囲に渡り、モータ制御装置には、走行モータを全運転範囲において、連続的に、かつ、スムーズに制御することが必要とされている。」
イ.「【0004】
電気車用の電力変換装置は、3レベルインバータと、パルス幅変調手段とから構成されている。さらに、電力変換装置には、電源となる直流架線と誘導電動機とが接続されている。」
(2)そうすると、これらの事項からみて、引用例3には次の技術が記載されていると認められる。
「モータにより駆動力を発生させて走行する電気車等において、その走行モータには多相交流モータである誘導電動機を採用し、モータ制御装置にはPWMインバータを採用する。」
4.引用例4の記載
(1)引用例4には、図面とともに、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付加した。)。
ア.「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、産業機械、家電、情報、輸送、娯楽、電力などの分野に用いられるインバータ駆動のモータに関する。」
イ.「【0029】(実施例4)ロータとステータのコアが同一材質で、表4に示されるような軟磁性材料で構成される3kW、12000rpm、12極の誘導モータを試作し、モータ効率および生産コストを調査した。なお、スイッチング周波数は16kHzでリップル電流は基本波の3~12%であった。生産コストの評価基準は実施例1と同様にした。」
(2)そうすると、これらの事項からみて、引用例4には次の技術が記載されていると認められる。
「輸送などの分野に用いられるインバータ駆動のモータに関して、誘導モータをスイッチング周波数は16kHzでインバータ駆動すると、リップル電流は基本波の3~12%であった。」
5.引用例5の記載
引用例5には、図面とともに、以下の事項が記載されている。
「Abstract-SiC is among the most promising materials for next generation power electronic devices due to its superior physical properties to Si and relative mature technology. SiC MOSFET is expected to offer performance improvement over Si counterpart. This paper presents the characterization of 1.2kV SiC MOSFET, including its static and dynamic characteristics, and its high-frequency (1 MHz), high-power (1.2kW) zero-voltage switching (ZVS) operation in a half-bridge parallel resonant converter. In comparison with SiC JFET and Si CoolMOS, the advantages and disadvantages of the SiC MOSFET are summarized.」(第1ページ左欄第1~11行)
(要約-当審による仮訳:炭化ケイ素(SiC)は、シリコン(Si)に対して物理的特性が優れ、比較的成熟した技術であるために、次世代電力電子デバイスにとって最も有望な材料である。SiC MOSFETは、Si相当品よりも性能が改善することが期待される。この論文は、1.2kV SiC MOSFET の、静的及び動的特性を含む特性、並びにハーフブリッジ並列共振コンバータにおける高周波(1 MHz)高出力 (1.2 kW)0電圧スイッチング(ZVS)動作を提示する。SiC JFET及びSi CoolMOSと比較して、SiC MOSFETの利点及び欠点が要約される。)
6.引用例6の記載
引用例6には、図面とともに、以下の事項が記載されている
ア.「Another factor that limits silicon devices’ application in SST is the frequency limitation. From Fig.7, one can see that at the same breakdown level, silicon carbide device can operate at a much higher switching frequency [5].」(第102ページ左欄第1~4行)
(当審による仮訳:シリコンデバイスのSSTへの適用を制限する別の要因は、周波数の制限である。図7から、同じ絶縁破壊レベルで、炭化ケイ素デバイスは、ずっと高いスイッチング周波数で動作することができることが分かる[5]。)
そうすると、記載事項ア及び図7の記載からみて、引用例6には次の技術が記載されていると認められる。
「炭化ケイ素デバイスは、50kHz以上のスイッチング周波数で動作させることが可能である。」
第5 対比
a.本願発明と引用発明を対比する。引用発明の「空気調和装置の圧縮機1が備える電動機」は、引用例1の記載からみて、交流モータといえるから、本願発明の「車両牽引誘導モータ」と、「交流モータ」である点において一致する。
b.引用発明の「逆変換器9」は、本願発明の「パワー変換器」に相当する。引用発明の、スイッチング素子としての「SiC(シリコンカーバイド)モジュール」は、MOSFETと同等な構造を有するから(記載事項オ参照)、本願発明の「炭化ケイ素(Sic)金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)切替えデバイス」に相当する。そして、引用発明の「空気調和装置の圧縮機1が備える電動機」は、先に検討したとおり、交流モータであり、逆変換器9の出力電流により駆動されていることも明らかであるから、引用発明の「前記電動機を駆動するPWMインバータ15が備える逆変換器9であって、前記電動機に電気的に結合され、該電動機に出力電流を出力し、スイッチング素子としてSiC(シリコンカーバイド)モジュールを適用した逆変換器9」は、本願発明の「前記車両牽引誘導モータに電気的に結合され、車両牽引誘導モータを駆動するためのパワー変換器であって、複数の炭化ケイ素(Sic)金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)切替えデバイスを備えたパワー変換器」と、「交流モータに電気的に結合され、交流モータを駆動するためのパワー変換器であって、複数の炭化ケイ素(Sic)金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)切替えデバイスを備えたパワー変換器」を備える点で一致する。
c.引用発明の「直流母線電圧検出手段10、出力電流検出手段11、出力周波数設定手段12、PWM演算手段13及び逆変換器駆動手段14を備えるインバータ制御装置の各制御手段」は、本願発明の「制御器」に相当する。引用発明において、前記インバータ制御装置の各制御手段は、逆変換器9に電気的に結合されると共に、該逆変換器9をPWM制御するものであるから、逆変換器駆動手段14が逆変換器9のSiC(シリコンカーバイド)モジュールに対してPMW駆動信号を送ることは明らかであって、当該信号は、本願発明の「切替え信号」に相当する。そして、引用発明の「キャリア周波数」は、本願発明の「切替え周波数」に相当するから、引用発明の「キャリア周波数を15kHz以上に上げ」ることは、本願発明の「少なくとも50kHzの切替え周波数で切替え信号を送る」ことと、「15kHz以上の切替え周波数で切替え信号を送る」点において一致する。
引用発明の「出力電流の歪み成分」は、本願発明の「ピーク対ピーク電流リップル」と、「電流リップル」である点において一致し、引用発明の「前記出力電流の歪み成分を小さくする」ことは、本願発明の「ピーク対ピーク電流リップルが5パーセント未満となる」ことと、「電流リップルが小さくなる」という点において一致する。
そうすると、引用発明の「前記逆変換器9に電気的に結合され、該逆変換器9をPWM制御するものであって、キャリア周波数を15kHz以上に上げ、前記出力電流の歪み成分を小さくすることができる、直流母線電圧検出手段10、出力電流検出手段11、出力周波数設定手段12、PWM演算手段13及び逆変換器駆動手段14を備えるインバータ制御装置の各制御手段」は、
本願発明の「前記パワー変換器に電気的に結合されると共に、ピーク対ピーク電流リップルが5パーセント未満となるように前記複数の切替えデバイスに対して少なくとも50kHzの切替え周波数で切替え信号を送るようにプログラムされた制御器」と、
「パワー変換器に電気的に結合されると共に、電流リップルが小さくなるように複数の切替えデバイスに対して15kHz以上の切替え周波数で切替え信号を送るようにされた制御器」である点において一致する。
d.引用発明の「装置」は、本願発明の「車両牽引誘導モータ」と「交流モータ」である点で一致する「空気調和装置の圧縮機1が備える電動機」と、本願発明の「パワー変換器」に相当する「逆変換器9」と、本願発明の「制御器」に相当する「インバータ制御装置の各制御手段」と、を備え、前記電動機を駆動するものであるから、本願発明の「電気駆動システム」に相当する。
e.以上のことから、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、以下のとおりと認められる。
【一致点】
「電気駆動システムであって、
交流モータと、
前記交流モータに電気的に結合され、交流モータを駆動するためのパワー変換器であって、複数の炭化ケイ素(Sic)金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)切替えデバイスを備えたパワー変換器と、
前記パワー変換器に電気的に結合されると共に、電流リップルが小さくなるように前記複数の切替えデバイスに対して15kHz以上の切替え周波数で切替え信号を送るようにされた制御器と、
を備える電気駆動システム。」
【相違点1】
前者は、電気駆動システムが車両用であり、モータが車両牽引誘導モータであるのに対し、後者は、装置が空気調和装置用であり、電動機が、空気調和装置の圧縮機1が備える交流モータであって、交流モータの形式が明らかではない点。
【相違点2】
前者は、制御器が、ピーク対ピーク電流リップルが5パーセント未満となるように複数の切替えデバイスに対して少なくとも50kHzの切替え周波数で切替え信号を送るのに対し、
後者は、インバータ制御装置の各制御手段が、キャリア周波数を15kHz以上に上げ、逆変換器9の出力電流の歪み成分を小さくすることができるものであって、前記歪み成分をどの程度に小さくするのかも特定されていない点。
【相違点3】
前者は、制御器がプログラムされるものであるのに対し、後者は、インバータ制御装置の各制御手段がプログラムされるものであるか否かが明らかではない点。
第6 判断
相違点について検討する。
a.相違点1について、引用例1(特に記載事項イ参照)には、引用発明の交流モータ(電動機)を誘導モータとすることについての示唆がある。
さらに、車両兼引誘導モータをパワー変換器を用いて駆動する、車両用の電気駆動システムは、例えば引用例3や、優先日前に日本国内または外国において頒布された、井上,外2名,“N700系新幹線車両用主回路システム”,富士時報,富士電機ホールディングス株式会社技術企画部,平成18年3月10日,第79巻,第2号,p.110-117に記載されているように、周知の技術的事項である。さらに、車両用の電気駆動システムにおいて、シリコンIGBTデバイスに代えて炭化ケイ素(SiC)デバイスを切替えデバイスとして用いることは、例えば、前記“N700系新幹線車両用主回路システム”(特に図1参照)に記載されているように、周知の技術課題である。
そうすると、引用発明の電気駆動システム(装置)を車両牽引誘導モータを駆動する、車両用の電気駆動システムに適用し、引用発明において、相違点1に係る本願発明を特定する事項を備えるようにすることは、当業者が容易に想到し得る事項である。
b.相違点2について、引用発明は、切替え周波数(キャリア周波数)を従来よりも高くすることにより、電流リップル(出力電流の歪み成分)を小さくするものである。PWM制御においては、切替え周波数が高いほど電流リップルが小さくなることが、電気技術分野において一般的に周知の事項であるし、PWM制御における切替え周波数として50kHz以上のものは特別なものではない(例えば引用例2参照)。さらに、炭化ケイ素(Sic)金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)が、50kHz以上のスイッチング周波数で動作可能であることは、例えば引用例5及び6に記載されているように、電気技術分野において一般的に周知の事項である。そうすると、引用発明において、切替え周波数を50kHz以上とすることは、当業者が必要に応じて適宜選択し得る事項である。
そして、本件出願の明細書等を参照しても、本願発明において「ピーク対ピーク電流リップルが5パーセント未満」となるようにすることに格別な技術的意義(臨界的意義等)は認められないし、電動機等のPWM制御においては、電流リップルが小さいほど好ましいことは、電気技術分野において一般的に周知の事項である。さらに、引用例4には、電流リップルを3~12%とすることが記載されている。そうすると、引用発明において、前記出力電流の歪み成分をピーク対ピークでどの程度にまで抑制するかは、当業者が必要に応じて適宜選択し得る事項にすぎない。
そうすると、引用発明において、相違点2に係る本願発明を特定する事項を備えるようにすることは、当業者が容易に想到し得る事項である。
c.相違点3について、プログラムされる制御器は慣用されている。引用発明において、相違点3に係る本願発明を特定する事項を備えるようにすることは、当業者が容易に想到し得る事項である。
本願発明の奏する効果に、引用例1に記載された事項及び前記周知の事項に基いて、当業者が容易に想到し得る範囲を越えるものは見いだせない。
したがって、本願発明は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
これに対し、請求人は、平成30年5月16日付けの意見書において、「当該意見書と同時に提出致しました手続補正書に記載されておりますように、本願発明では、車両牽引モータ(60)を駆動するパワー変換器(58)に電気的に結合されると共に、ピーク対ピーク電流リップルが5パーセント未満となるように複数の切替えデバイス(72~82)に対して少なくとも50kHzの切替え周波数で切替え信号を送るという特徴を備えます。
本願明細書第0009,0026段落に「・・・(中略)・・・」と例示されておりますように、本願発明では上記特徴を有しておりますので、冷却の必要性が低く、小型化が可能で、インダクションマシンの漏れインダクタンスを低下させることができ、「一定パワー」動作モードでの車両牽引駆動システムの動作が可能な速度レンジの拡大が可能とし、エネルギー効率の高い車両牽引駆動システムを提供することを可能にします。
引用文献1は、第0001段落に記載されておりますように、空気調和装置のインバータ制御装置に関する発明であり、「一定パワー」動作モードでの駆動システムの動作が可能な速度レンジの拡大が可能としまません。このため、車両牽引システムの技術分野に属する他の引用文献を引用文献1に組み合わせて本願発明に到達することが引用文献1の当業者にとって困難であったと思料致します。
また、引用文献1は、少なくとも50kHzの切替え周波数で切替え信号を送ることを開示しません。このため、引用文献1の技術では漏れインダクタンスを大きく低下させることができません。
そして、引用文献1と同様に、引用文献2-8も冷却の必要性が低く、小型化が可能で、インダクションマシンの漏れインダクタンスを低下させることができ、「一定パワー」動作モードでの車両牽引駆動システムの動作が可能な速度レンジの拡大が可能とし、エネルギー効率の高い車両牽引駆動システムを提供することを可能にしません。
このように、少なくとも引用文献2-8は、本願発明に到達するに際し引用文献1に組み合わせることが容易な技術であるとは言えず、本願発明は引用文献1-8が奏することのできない効果を奏することのできる発明であり、本願の全ての請求項にかかる発明は、引用文献1-8によって容易に想到し難いと考えられ、本願は上記理由1には該当しないものであると思料いたします。」と主張している(意見書【意見の内容】参照)。
しかしながら、本件出願の請求項1には、車両牽引誘導モータについて、単に「車両牽引誘導モータ」としか記載されていないから、本願発明は、車両牽引誘導モータの漏れインダクタンスがいかなる大きさであっても、それを包含するものである。さらに、インバータ駆動されるモータを定格回転数以下の回転数領域においては一定トルクで動作させ、定格回転数を超える回転数領域においては一定出力で動作させることは慣用手段であるが、インバータ駆動されるモータの動作態様はそれに限られるものではない。そして、本件出願の請求項1には車両牽引誘導モータの動作態様について何ら記載されていない。そうすると、本願発明は「一定パワー」動作モードでの車両牽引駆動システムの動作が可能な速度レンジの拡大を可能とするという効果を奏する旨の請求人の主張は、本件出願の請求項1の記載に基づかないものである。
また、切替えデバイスに対して従来よりも高い切替え周波数で切替え信号を送り、電流リップルが小さくするものである点において、引用発明は、本願発明と異なるところはない。そして、本件出願の請求項1には、先に述べたとおり、車両牽引誘導モータについて、単に「車両牽引誘導モータ」とのみ記載され、当該モータについてそれ以上の特定がなされておらず、本件出願の明細書等を参照しても、本願発明において「ピーク対ピーク電流リップルが5パーセント未満となるように前記複数の切替えデバイスに対して少なくとも50kHzの切替え周波数で切替え信号を送る」ことに臨界的意義は認められないから、切替えデバイスに対して従来よりも高い切替え周波数で切替え信号を送り、電流リップルが小さくすることにより、駆動されるモータの動作特性を改善する点において、本願発明が引用発明と異質な効果を奏するとは認められない。
さらに、引用例1の記載、特に記載事項カからみて、高いエネルギー効率の点についても、本願発明が引用発明と異質な効果を奏するとは認められない。
以上のとおりであるから、請求人の主張は認められない。
第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2017-003854