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特許拒絶査定不服審判

2017-000388

潤滑油基油及びその製造方法並びに潤滑油組成物

審判番号
2017-000388
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2015-185420外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2017年01月11日
審決日
2017年08月07日
公報発行日
2017年11月24日
結論
請求不成立
当事者
審判長/審判官
分類
P18 .537-Z (C10G)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法36条6項1号
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第6項第1号
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特願2015-185420「潤滑油基油及びその製造方法並びに潤滑油組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 1月28日出願公開、特開2016- 14150〕について、次のとおり審決する。

結論

【結 論】 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

【理 由】 第1 手続の経緯 本願は、平成20年3月25日を出願日とする特願2008-78582号の一部を平成26年1月7日に新たな特許出願とした特願2014-1194号を、さらにその一部を平成27年9月18日に新たな特許出願として分割したものであって、以降の手続の経緯は以下のとおりのものである。 平成27年9月18日   上申書 平成28年7月8日付け  拒絶理由通知書 平成28年9月14日   意見書 平成28年10月3日付け 拒絶査定 平成29年1月11日   審判請求書・手続補正書 平成29年2月22日   手続補正書(方式) 平成29年3月16日付け 前置報告書 平成29年4月19日   上申書 第2 本願発明 本願請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という)は、平成29年1月11日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 尿素アダクト値が4~6質量%であり、粘度指数が100以上であり、100℃における動粘度が2.0~11mm2/sであり、-35℃におけるCCS粘度が18000mPa・s以下であり、且つ、飽和分の含有量が、潤滑油基油全量を基準として、90質量%以上であり、非環状飽和分に占めるイソパラフィンの含有量が潤滑油基油全量を基準として45~55質量%であり、非環状飽和分に占めるノルマルパラフィンの含有量が非環状飽和分全量を基準として0.2質量%以下であり、 溶剤/油の容積比が0.5~1.2、温度が-27~-45℃である処理条件で行われる溶剤脱ろう処理を経て得られる潤滑油基油。」 第3 原査定における拒絶の理由の概要 原査定における拒絶の理由は、本願発明は、本願の発明の詳細な説明に記載されたものでなく、この出願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない、という理由を含むものである。 第4 当審の判断 1.発明の詳細な説明の記載事項 発明の詳細な説明における潤滑油基油に関連する主な記載事項は,以下のとおりである。 ア 「【0002】 従来、潤滑油の分野では、高度精製鉱油等の潤滑油基油に流動点降下剤等の添加剤を配合することによって、潤滑油の低温粘度特性の改善が図られている(例えば、特許文献1~3を参照)。また、高粘度指数基油の製造方法としては、減圧蒸留留出油(WVGO)等の原料油について水素化分解、脱ろう処理後脱芳香族処理、又は脱芳香族処理後脱ろう処理を行う工程による方法が知られている(例えば、特許文献4を参照)。 【0003】 潤滑油基油及び潤滑油の低温粘度特性の評価指標としては、流動点、曇り点、凝固点などが一般的である。また、ノルマルパラフィンやイソパラフィンの含有量等の潤滑油基油に基づき低温粘度特性を評価する手法も知られている。しかし、上記水素化分解基油についても、凝固点や流動点が同じにもかかわらず、基油単体もしくは組成物の低温特性が異なる場合が見られるため、適切な評価指標の特定及びその指標に基づき低温粘度特性の良好な基油を製造する方法が求められていた。 ・・・・・・ 【0005】 近年潤滑油の省燃費特性の向上が求められ、そのための手段として、潤滑油の低温粘度特性の向上、更には低温粘度特性と粘度-温度特性とを両立させる必要性は益々高くなっており、上記従来の評価指標に基づき低温性能が良好であると判断された潤滑油基油を用いた場合であっても、かかる要求特性を十分に満足させることが困難となっている。 【0006】 また、減圧蒸留留出油(WVGO)を原料として水素化分解して得られる、高粘度指数を有する高性能基油(グループIII)は、現在の最高品質のエンジン油を製造するには欠かせない基油である。この基油は高粘度指数を有するため、粘度温度特性に優れ、常温領域での粘度を低くすることができ、燃費向上に大きな影響を及ぼす。ところが最近では、燃費の更なる向上が求められており、特にエンジンの低温始動時の燃費の向上が求められている。そのため、更なる基油粘度の低下検討など基油物性による改良と、添加剤の添加により低温粘度を下げる検討がなされている。しかし、基油粘度の低下は、潤滑の信頼性の低下を引き起こす可能性がありかつエンジン油のAPI規格である蒸発性が外れる可能性があるため、限度がある。また潤滑油基油への添加剤の配合により上記特性をある程度改善することはできても、この手法にも限界がある。特に、流動点降下剤は、配合量を増加させてもその効果が濃度と比例関係ではなく、また、配合量の増加に伴ってせん断安定性が低下してしまう。 【0007】 また、前記したように、基油の流動点、凝固点等が同じにもかかわらず、低温粘度に大きな差異の出ることもあり、基油の低温特性を決定する因子の特定が必要と考えられている。 【0008】 本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、潤滑油の低温粘度特性の向上、更には粘度-温度特性と低温粘度特性の高水準での両立が可能な潤滑油基油及びその製造方法、並びに当該潤滑油基油を含有する潤滑油組成物を提供することを目的とする。」 イ 「【0009】 本発明者は、上記目的を達成するために、基油の低温特性が含有するワックス分に影響される点に着目し、低温粘度特性を支配するワックス量の適切な評価指標を確立するとともに、効率よく基油の低温粘度特性を改良し、低温粘度特性及び粘度-温度特性に優れた基油及びその製造方法を完成するに至った。 【0010】 すなわち、本発明は、尿素アダクト値が4~6質量%であり、粘度指数が100以上であり、飽和分の含有量が、潤滑油基油全量を基準として、90質量%以上であり、且つ、当該飽和分に占める環状飽和分の割合が0.1~60質量%であることを特徴とする潤滑油基油を提供する。 また、本発明は、尿素アダクト値が4~6質量%であり、且つ粘度指数が100以上であることを特徴とする潤滑油基油を提供する。 【0011】 なお、本発明でいう尿素アダクト値は以下の方法により測定される。秤量した試料油(潤滑油基油)100gを丸底フラスコに入れ、尿素200g、トルエン360ml及びメタノール40mlを加えて室温で6時間攪拌する。これにより、反応液中に尿素アダクト物として白色の粒状結晶が生成する。反応液を1ミクロンフィルターでろ過することにより、生成した白色粒状結晶を採取し、得られた結晶をトルエン50mlで6回洗浄する。回収した白色結晶をフラスコに入れ、純水300ml及びトルエン300mlを加えて80℃で1時間攪拌する。分液ロートで水相を分離除去し、トルエン相を純水300mlで3回洗浄する。トルエン相に乾燥剤(硫酸ナトリウム)を加えて脱水処理を行った後、トルエンを留去する。このようにして得られた尿素アダクト物の試料油に対する割合(質量百分率)を尿素アダクト値と定義する。 【0012】 また、本発明でいう粘度指数、並びに後述する40℃又は100℃における動粘度とは、それぞれJIS K 2283-1993に準拠して測定された粘度指数及び40℃又は100℃における動粘度を意味する。 【0013】 本発明の潤滑油基油によれば、尿素アダクト値及び粘度指数がそれぞれ上記条件を満たすことによって、低温粘度特性の向上及び粘度-温度特性と低温粘度特性とを高水準で両立させることが可能となる。また、本発明の潤滑油基油に流動点降下剤等の添加剤が配合された場合には、その添加効果を有効に発現させることができる。したがって、本発明の潤滑油基油は、近時の低温粘度特性と粘度-温度特性との両立に対する要求に応える潤滑油基油として非常に有用である。更に、本発明の潤滑油基油によれば、上述した優れた粘度-温度特性により実用温度範囲における粘度抵抗や攪拌抵抗を低減することができる。特に、本発明の潤滑油基油は、0℃以下の低温条件において、粘性抵抗や攪拌抵抗を大幅に低減することによりその効果を発揮することができ、当該潤滑油基油が適用される装置におけるエネルギー損失を低減し、省エネルギー化を達成できる点で非常に有用である。 【0014】 なお、従来、水素化分解による潤滑油基油の製造方法においてノルマルパラフィンからイソパラフィンへの異性化率の向上が検討されているが、本発明者らの検討によれば、単に水素化分解の分解率をあげてノルマルパラフィンの残存量を低減するだけでは低温粘度特性を十分に改善することは困難である。また、ノルマルパラフィン及びイソパラフィンの分析にはガスクロマトグラフィー(GC)やNMRなどの分析手法が適用されるが、これらの分析手法ではイソパラフィンの中から低温粘度特性に悪影響を及ぼす成分を分離又は特定することは、煩雑な作業や多大な時間を要するなど実用上有効であるとはいえない。 【0015】 これに対して、本発明における尿素アダクト値の測定においては、尿素アダクト物として、イソパラフィンのうち低温粘度特性に悪影響を及ぼす成分、更には潤滑油基油中にノルマルパラフィンが残存している場合の当該ノルマルパラフィンを精度よく且つ確実に捕集することができるため、潤滑油基油の低温粘度特性の評価指標として優れている。なお、本発明者らは、GC及びNMRを用いた分析により、尿素アダクト物の主成分が、ノルマルパラフィン及び主鎖の末端から分岐位置までの炭素数が6以上であるイソパラフィンの尿素アダクト物であることを確認している。 【0016】 また、本発明は、得られる被処理物の尿素アダクト値が4~6質量%の範囲、粘度指数が100以上、飽和分の含有量が、潤滑油基油全量を基準として、90質量%以上、且つ、当該飽和分に占める環状飽和分の割合が0.1~60質量%となるように、減圧蒸留留出油、減圧蒸留留出油のマイルドハイドロクラッキング処理油、脱れき油、脱れき油のマイルドハイドロクラッキング処理油又はこれらの2種以上の混合油を原料として、水素化分解触媒の存在下で水素化分解を行い、更に、脱芳香族処理及び脱ろう処理を組み合せて処理する潤滑油基油の製造方法であって、前記水素化分解は、全圧力が100~130kg/cm2の中低圧、温度が360~440℃、LHSVが0.2~0.3hr-1の低LHSV、水素対原料油比が2,500~5,000s.c.f/bbl-原料油である反応条件で行なわれ、前記脱芳香族処理は、溶剤脱芳香族処理又は高圧水素化脱芳香族処理であり、前記溶剤脱芳香族処理は、溶剤にフルフラールを用い、溶剤/油容積比4以下、温度90~150℃で行なわれ、ラフィネート収率が60容積%以上となるように操作され、前記高圧水素化脱芳香族処理は、アルミナ担体にVIb族金属及び第VIII族鉄族金属を担持して硫化した触媒の存在下、全圧力150~200kg/cm2、温度280~350℃、LHSV0.2~2.0hr-1の条件で行なわれ、前記脱ろう処理は、溶剤脱ろう処理又は接触脱ろう処理であり、前記溶剤脱ろう処理は、溶剤としてベンゼン、トルエン、アセトン又はベンゼン、トルエン、メチルエチルケトン(MEK)の混合溶剤を使用し、脱ろう油が所定の流動点になるように、溶剤/油の容積比が0.5~5.0、温度が-5~-45℃である処理条件で行なわれ、前記接触脱ろう処理は、ペンタシル型ゼオライトを触媒とし、水素流通下、脱ろう油が所定の流動点になるように、全圧力が10~70kg/cm2、温度が240~400℃、LHSVが0.1~3.0hr-1である反応条件で行なわれることを特徴とする潤滑油基油の製造方法を提供する。 また、本発明は、得られる被処理物の尿素アダクト値が4~6質量%の範囲であり且つ粘度指数が100以上となるように、減圧蒸留留出油、減圧蒸留留出油のマイルドハイドロクラッキング処理油、脱れき油、脱れき油のマイルドハイドロクラッキング処理油又はこれらの2種以上の混合油を原料として、水素化分解触媒の存在下で水素化分解を行い、更に、脱芳香族処理及び脱ろう処理を組み合せて処理する潤滑油基油の製造方法であって、前記水素化分解は、全圧力が100~130kg/cm2の中低圧、温度が360~440℃、LHSVが0.2~0.3hr-1の低LHSV、水素対原料油比が2,500~5,000s.c.f/bbl-原料油である反応条件で行なわれ、前記脱芳香族処理は、溶剤脱芳香族処理又は高圧水素化脱芳香族処理であり、前記溶剤脱芳香族処理は、溶剤にフルフラールを用い、溶剤/油容積比4以下、温度90~150℃で行なわれ、ラフィネート収率が60容積%以上となるように操作され、前記高圧水素化脱芳香族処理は、アルミナ担体にVIb族金属及び第VIII族鉄族金属を担持して硫化した触媒の存在下、全圧力150~200kg/cm2、温度280~350℃、LHSV0.2~2.0hr-1の条件で行なわれ、前記脱ろう処理は、溶剤脱ろう処理又は接触脱ろう処理であり、前記溶剤脱ろう処理は、溶剤としてベンゼン、トルエン、アセトン又はベンゼン、トルエン、メチルエチルケトン(MEK)の混合溶剤を使用し、脱ろう油が所定の流動点になるように、溶剤/油の容積比が0.5~5.0、温度が-5~-45℃である処理条件で行なわれ、前記接触脱ろう処理は、ペンタシル型ゼオライトを触媒とし、水素流通下、脱ろう油が所定の流動点になるように、全圧力が10~70kg/cm2、温度が240~400℃、LHSVが0.1~3.0hr-1である反応条件で行なわれることを特徴とする潤滑油基油の製造方法を提供する。 【0017】 本発明の潤滑油基油の製造方法によれば、得られる被処理物の尿素アダクト値が4~6質量%、且つ粘度指数が100以上となるように、上記特定の原料油について水素化分解を行い、脱芳香族処理又は脱ろう処理のいずれか1つ又は2つ以上の組合せによる処理を行うことによって、粘度-温度特性と低温粘度特性とが高水準で両立された潤滑油基油を確実に得ることができる。なお、脱芳香族処理と脱ろう処理との順序は特に制限されず、脱芳香族処理を行った後で脱ろう処理を行ってもよく、あるいは、脱ろう処理を行った後で脱芳香族処理を行ってもよい。 【0018】 また、本発明は、上記本発明の潤滑油基油を含有することを特徴とする潤滑油組成物を提供する。 【0019】 本発明の潤滑油組成物は、上述のように優れた特性を有する本発明の潤滑油基油を含有するものであるため、低温粘度特性に優れ、粘度-温度特性と低温粘度特性の高水準での両立が可能な潤滑油組成物として有用である。また、上述のように、本発明の潤滑油基油は添加剤が配合された場合にその添加効果を有効に発現させることができるものであるため、本発明の潤滑油組成物は各種添加剤を好適に含有することができる。」 ウ 「【0020】 本発明によれば、低温粘度特性に優れ、粘度-温度特性と低温粘度特性の高水準での両立が可能な潤滑油基油及びその製造方法、並びに当該潤滑油基油を含有する潤滑油組成物が提供される。」 エ 「【0022】 本発明の潤滑油基油は、尿素アダクト値が4~6質量%、且つ粘度指数が100以上のものである。 【0023】 また、本発明の潤滑油基油の尿素アダクト値は、粘度-温度特性を損なわずに低温粘度特性を改善する観点から、上述の通り4~6質量%であることが必要であり、好ましくは4.0~5.8質量%、より好ましくは4.0~5.6質量%、更に好ましくは4.0~5.4質量%である。また、尿素アダクト値が前記範囲内であると、潤滑油基油の製造工程において脱ろう処理を行うに際し、脱ろう条件を緩和することができ、経済性にも優れるため好ましい。 【0024】 本発明の潤滑油基油の粘度指数は、粘度-温度特性の観点から、上述の通り100以上であることが必要であり、好ましくは110以上、より好ましくは120以上、更に好ましくは130以上、特に好ましくは140以上である。粘度指数が100に満たない場合には、良好な低温粘度特性が得られないおそれがある。 ・・・・・・ 【0044】 上記の製造方法により得られる本発明の潤滑油基油においては、尿素アダクト値及び粘度指数がそれぞれ上記条件を満たせば、その他の性状は特に制限されないが、本発明の潤滑油基油は以下の条件を更に満たすものであることが好ましい。 【0045】 本発明の潤滑油基油における飽和分の含有量は、潤滑油基油全量を基準として、好ましくは90質量%以上、より好ましくは93質量%以上、更に好ましくは95質量%以上である。また、当該飽和分に占める環状飽和分の割合は、好ましくは0.1~60質量%、より好ましくは0.5~55質量%、更に好ましくは1~52質量%、特に好ましくは5~50質量%である。飽和分の含有量及び当該飽和分に占める環状飽和分の割合がそれぞれ上記条件を満たすことにより、粘度-温度特性及び熱・酸化安定性を達成することができ、また、当該潤滑油基油に添加剤が配合された場合には、当該添加剤を潤滑油基油中に十分に安定的に溶解保持しつつ、当該添加剤の機能をより高水準で発現させることができる。更に、飽和分の含有量及び当該飽和分に占める環状飽和分の割合がそれぞれ上記条件を満たすことにより、潤滑油基油自体の摩擦特性を改善することができ、その結果、摩擦低減効果の向上、ひいては省エネルギー性の向上を達成することができる。 【0046】 なお、飽和分の含有量が90質量%未満であると、粘度-温度特性、熱・酸化安定性及び摩擦特性が不十分となる傾向にある。また、飽和分に占める環状飽和分の割合が0.1質量%未満であると、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に、当該添加剤の溶解性が不十分となり、潤滑油基油中に溶解保持される当該添加剤の有効量が低下するため、当該添加剤の機能を有効に得ることができなくなる傾向にある。更に、飽和分に占める環状飽和分の割合が60質量%を超えると、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下する傾向にある。 【0047】 本発明において、飽和分に占める環状飽和分の割合が30~50質量%であることは、飽和分に占める非環状飽和分が70~50質量%であることと等価である。ここで、非環状飽和分にはノルマルパラフィン及びイソパラフィンの双方が包含される。本発明の潤滑油基油に占めるノルマルパラフィン及びイソパラフィンの割合は、尿素アダクト値が上記条件を満たせば特に制限されないが、イソパラフィンの割合は、潤滑油基油全量基準で、好ましくは40~70質量%、より好ましくは42~65質量%、更に好ましくは44~60質量%、特に好ましくは45~55質量%である。潤滑油基油に占めるイソパラフィンの割合が前記条件を満たすことにより、粘度-温度特性及び熱・酸化安定性をより向上させることができ、また、当該潤滑油基油に添加剤が配合された場合には、当該添加剤を十分に安定的に溶解保持しつつ、当該添加剤の機能を一層高水準で発現させることができる。 ・・・・・・ 【0053】 また、本発明の潤滑油基油における芳香族分は、潤滑油基油全量を基準として、好ましくは5質量%以下、より好ましくは0.05~3質量%、更に好ましくは0.1~1質量%、特に好ましくは0.1~0.5質量%である。芳香族分の含有量が上記上限値を超えると、粘度-温度特性、熱・酸化安定性及び摩擦特性、更には揮発防止性及び低温粘度特性が低下する傾向にあり、更に、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下する傾向にある。また、本発明の潤滑油基油は芳香族分を含有しないものであってもよいが、芳香族分の含有量を0.05質量%以上とすることにより、添加剤の溶解性を更に高めることができる。 ・・・・・・ 【0055】 また、本発明の潤滑油基油の%CPは、好ましくは80以上、より好ましくは82~99、更に好ましくは85~98、特に好ましくは90~97である。潤滑油基油の%CPが80未満の場合、粘度-温度特性、熱・酸化安定性及び摩擦特性が低下する傾向にあり、更に、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下する傾向にある。また、潤滑油基油の%CPが99を超えると、添加剤の溶解性が低下する傾向にある。 【0056】 また、本発明の潤滑油基油の%CNは、好ましくは20以下、より好ましくは15以下、より好ましくは1~12、更に好ましくは3~10である。潤滑油基油の%CNが20を超えると、粘度-温度特性、熱・酸化安定性及び摩擦特性が低下する傾向にある。また、%CNが1未満であると、添加剤の溶解性が低下する傾向にある。 【0057】 また、本発明の潤滑油基油の%CAは、好ましくは0.7以下、より好ましくは0.6以下、更に好ましくは0.1~0.5である。潤滑油基油の%CAが0.7を超えると、粘度-温度特性、熱・酸化安定性及び摩擦特性が低下する傾向にある。また、本発明の潤滑油基油の%CAは0であってもよいが、%CAを0.1以上とすることにより、添加剤の溶解性を更に高めることができる。 【0058】 更に、本発明の潤滑油基油における%CPと%CNとの比率は、%CP/%CNが7以上であることが好ましく、7.5以上であることがより好ましく、8以上であることが更に好ましい。%CP/%CNが7未満であると、粘度-温度特性、熱・酸化安定性及び摩擦特性が低下する傾向にあり、更に、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下する傾向にある。また、%CP/%CNは、200以下であることが好ましく、100以下であることがより好ましく、50以下であることが更に好ましく、25以下であることが特に好ましい。%CP/%CNを200以下とすることにより、添加剤の溶解性を更に高めることができる。 ・・・・・・ 【0063】 また、本発明の潤滑油基油の動粘度は、その100℃における動粘度は、好ましくは1.5~20mm2/s、より好ましくは2.0~11mm2/sである。潤滑油基油の100℃における動粘度が1.5mm2/s未満の場合、蒸発損失の点で好ましくない。また、100℃における動粘度が20mm2/sを超える潤滑油基油を得ようとする場合、その収率が低くなり、分解率を高めることが困難となるため好ましくない。 【0064】 本発明においては、100℃における動粘度が下記の範囲にある潤滑油基油を蒸留等により分取し、使用することが好ましい。 (I)100℃における動粘度が1.5mm2/s以上3.5mm2/s未満、より好ましくは2.0~3.0mm2/sの潤滑油基油 (II)100℃における動粘度が3.0mm2/s以上4.5mm2/s未満、より好ましくは3.5~4.1mm2/sの潤滑油基油 (III)100℃における動粘度が4.5~20mm2/s、より好ましくは4.8~11mm2/s、特に好ましくは5.5~8.0mm2/sの潤滑油基油。 【0065】 また、本発明の潤滑油基油の40℃における動粘度は、好ましくは6.0~80mm2/s、より好ましくは8.0~50mm2/sである。本発明においては、40℃における動粘度が下記の範囲にある潤滑油留分を蒸留等により分取し、使用することが好ましい。 (IV)40℃における動粘度が6.0mm2/s以上12mm2/s未満、より好ましくは8.0~12mm2/sの潤滑油基油 (V)40℃における動粘度が12mm2/s以上28mm2/s未満、より好ましくは13~19mm2/sの潤滑油基油 (VI)40℃における動粘度が28~50mm2/s、より好ましくは29~45mm2/s、特に好ましくは30~40mm2/sの潤滑油基油。 【0066】 上記潤滑油基油(I)及び(IV)は、尿素アダクト値及び粘度指数がそれぞれ上記条件を満たすことにより、粘度グレードが同じ従来の潤滑油基油と比較して、粘度-温度特性と低温粘度特性とを高水準で両立することができ、特に、低温粘度特性に優れ、粘性抵抗や撹拌抵抗を著しく低減することができる。また、流動点降下剤を配合することにより、-40℃におけるMRV粘度を10000mPa・s以下とすることができる。なお、-40℃におけるMRV粘度とは、JPI-5S-42-93に準拠して測定された粘度を意味する。 【0067】 また、上記潤滑油基油(II)及び(V)は、尿素アダクト値及び粘度指数がそれぞれ上記条件を満たすことにより、粘度グレードが同じ従来の潤滑油基油と比較して、粘度-温度特性と低温粘度特性とを高水準で両立することができ、特に、低温粘度特性に優れ、更には揮発防止性及び潤滑性に優れる。例えば、潤滑油基油(II)及び(V)においては、-35℃におけるCCS粘度を3000mPa・s以下とすることができる。 【0068】 また、上記潤滑油基油(III)及び(VI)は、尿素アダクト値及び粘度指数がそれぞれ上記条件を満たすことにより、粘度グレードが同じ従来の潤滑油基油と比較して、粘度-温度特性と低温粘度特性とを高水準で両立することができ、特に、低温粘度特性に優れ、更には揮発防止性、熱・酸化安定性及び潤滑性に優れる。例えば、潤滑油基油(III)及び(VI)においては、-35℃におけるCCS粘度を20000mPa・s以下とすることができる。 【0069】 また、本発明の潤滑油基油の流動点は、潤滑油基油の粘度グレードにもよるが、例えば、上記潤滑油基油(I)及び(IV)の流動点は、好ましくは-10℃以下、より好ましくは-12.5℃以下、更に好ましくは-15℃以下である。また、上記潤滑油基油(II)及び(V)の流動点は、好ましくは-10℃以下、より好ましくは-15℃以下、更に好ましくは-17.5℃以下である。また、上記潤滑油基油(III)及び(VI)の流動点は、好ましくは-10℃以下、より好ましくは-12.5℃以下、更に好ましくは-15℃以下である。流動点が前記上限値を超えると、その潤滑油基油を用いた潤滑油全体の低温流動性が低下する傾向にある。なお、本発明でいう流動点とは、JIS K 2269-1987に準拠して測定された流動点を意味する。 【0070】 また、本発明の潤滑油基油の-35℃におけるCCS粘度は、潤滑油基油の粘度グレードにもよるが、例えば、上記潤滑油基油(I)及び(IV)の-35℃におけるCCS粘度は、好ましくは1000mPa・s以下である。また、上記潤滑油基油(II)及び(V)の-35℃におけるCCS粘度は、好ましくは5000mPa・s以下、より好ましくは4500mPa・s以下、更に好ましくは4000mPa・s以下、更に好ましくは3500mPa・s以下、特に好ましくは3000mPa・s以下である。また、上記潤滑油基油(III)及び(VI)の-35℃におけるCCS粘度は、好ましくは18000mPa・s以下、より好ましくは15000mPa・s以下である。-35℃におけるCCS粘度が前記上限値を超えると、その潤滑油基油を用いた潤滑油全体の低温流動性が低下する傾向にある。なお、本発明でいう-35℃におけるCCS粘度とは、JIS K 2010-1993に準拠して測定された粘度を意味する。 【0071】 また、本発明の潤滑油基油の15℃における密度(ρ15)は、潤滑油基油の粘度グレードによるが、下記式(1)で表されるρの値以下であること、すなわちρ15≦ρであることが好ましい。 ρ=0.0025×kv100+0.816  (1) [式中、kv100は潤滑油基油の100℃における動粘度(mm2/s)を示す。] 【0072】 なお、ρ15>ρとなる場合、粘度-温度特性及び熱・酸化安定性、更には揮発防止性及び低温粘度特性が低下する傾向にあり、また、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下する傾向にある。 【0073】 例えば、上記潤滑油基油(I)及び(IV)のρ15は、好ましくは0.825以下、より好ましくは0.820以下である。また、上記潤滑油基油(II)及び(V)のρ15は、好ましくは0.835以下、より好ましくは0.830以下である。また、上記潤滑油基油(III)及び(VI)のρ15は、好ましくは0.840以下、より好ましくは0.835以下である。 ・・・・・・ 【0075】 また、本発明の潤滑油基油のアニリン点(AP(℃))は、潤滑油基油の粘度グレードによるが、下記式(2)で表されるAの値以上であること、すなわちAP≧Aであることが好ましい。 A=4.3×kv100+100  (2) [式中、kv100は潤滑油基油の100℃における動粘度(mm2/s)を示す。] 【0076】 なお、AP<Aとなる場合、粘度-温度特性及び熱・酸化安定性、更には揮発防止性及び低温粘度特性が低下する傾向にあり、また、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下する傾向にある。 【0077】 例えば、上記潤滑油基油(I)及び(IV)のAPは、好ましくは105℃以上、より好ましくは108℃以上である。また、上記潤滑油基油(II)及び(V)のAPは、好ましくは110℃以上、より好ましくは113℃以上である。また、上記潤滑油基油(III)及び(VI)のAPは、好ましくは120℃以上、より好ましくは123℃以上である。なお、本発明でいうアニリン点とは、JIS K 2256-1985に準拠して測定されたアニリン点を意味する。 【0078】 また、本発明の潤滑油基油の蒸留性状は、ガスクロマトグラフィー蒸留で、初留点(IBP)が290~440℃、終点(FBP)が430~580℃であることが好ましく、かかる蒸留範囲にある留分から選ばれる1種又は2種以上の留分を精留することにより、上述した好ましい粘度範囲を有する潤滑油基油(I)~(III)及び(IV)~(VI)を得ることができる。 【0079】 例えば、上記潤滑油基油(I)及び(IV)の蒸留性状に関し、その初留点(IBP)は、好ましくは260~340℃、より好ましくは270~330℃、更に好ましくは280~320℃である。また、10%留出温度(T10)は、好ましくは310~390℃、より好ましくは320~380℃、更に好ましくは330~370℃である。また、50%留出点(T50)は、好ましくは340~440℃、より好ましくは360~430℃、更に好ましくは370~420℃である。また、90%留出点(T90)は、好ましくは405~465℃、より好ましくは415~455℃、更に好ましくは425~445℃である。また、終点(FBP)は、好ましくは430~490℃、より好ましくは440~480℃、更に好ましくは450~490℃である。また、T90-T10は、好ましくは60~140℃、より好ましくは70~130℃、更に好ましくは80~120℃である。また、FBP-IBPは、好ましくは140~200℃、より好ましくは150~190℃、更に好ましくは160~180℃である。また、T10-IBPは、好ましくは40~100℃、より好ましくは50~90℃、更に好ましくは60~80℃である。また、FBP-T90は、好ましくは5~60℃、より好ましくは10~55℃、更に好ましくは15~50℃である。 【0080】 また、上記潤滑油基油(II)及び(V)の蒸留性状に関し、その初留点(IBP)は、好ましくは310~400℃、より好ましくは320~390℃、更に好ましくは330~380℃である。また、10%留出温度(T10)は、好ましくは350~430℃、より好ましくは360~420℃、更に好ましくは370~410℃である。また、50%留出点(T50)は、好ましくは390~470℃、より好ましくは400~460℃、更に好ましくは410~450℃である。また、90%留出点(T90)は、好ましくは420~490℃、より好ましくは430~480℃、更に好ましくは440~470℃である。また、終点(FBP)は、好ましくは450~530℃、より好ましくは460~520℃、更に好ましくは470~510℃である。また、T90-T10は、好ましくは40~100℃、より好ましくは45~90℃、更に好ましくは50~80℃である。また、FBP-IBPは、好ましくは110~170℃、より好ましくは120~160℃、更に好ましくは130~150℃である。また、T10-IBPは、好ましくは5~60℃、より好ましくは10~55℃、更に好ましくは15~50℃である。また、FBP-T90は、好ましくは5~60℃、より好ましくは10~55℃、更に好ましくは15~50℃である。 【0081】 また、上記潤滑油基油(III)及び(VI)の蒸留性状に関し、その初留点(IBP)は、好ましくは440~480℃、より好ましくは430~470℃、更に好ましくは420~460℃である。また、10%留出温度(T10)は、好ましくは450~510℃、より好ましくは460~500℃、更に好ましくは460~480℃である。また、50%留出点(T50)は、好ましくは470~540℃、より好ましくは480~530℃、更に好ましくは490~520℃である。また、90%留出点(T90)は、好ましくは470~560℃、より好ましくは480~550℃、更に好ましくは490~540℃である。また、終点(FBP)は、好ましくは505~565℃、より好ましくは515~555℃、更に好ましくは525~565℃である。また、T90-T10は、好ましくは35~80℃、より好ましくは45~70℃、更に好ましくは55~80℃である。また、FBP-IBPは、好ましくは50~130℃、より好ましくは60~120℃、更に好ましくは70~110℃である。また、T10-IBPは、好ましくは5~65℃、より好ましくは10~55℃、更に好ましくは10~45℃である。また、FBP-T90は、好ましくは5~60℃、より好ましくは5~50℃、更に好ましくは5~40℃である。 【0082】 潤滑油基油(I)~(VI)のそれぞれにおいて、IBP、T10、T50、T90、FBP、T90-T10、FBP-IBP、T10-IBP、FBP-T90を上記の好ましい範囲に設定することで、低温粘度の更なる改善と、蒸発損失の更なる低減とが可能となる。なお、T90-T10、FBP-IBP、T10-IBP及びFBP-T90のそれぞれについては、それらの蒸留範囲を狭くしすぎると、潤滑油基油の収率が悪化し、経済性の点で好ましくない。」 2.実施例の記載 オ 「【0093】 [実施例1~3、比較例1~3] 実施例1においては、原油の常圧蒸留ボトムを減圧蒸留して得られる留出油(WVGO)原料を、水素化分解触媒の存在下、全圧力130kg/cm3以下、温度360~440℃、LHSV0.5hr-1以下の反応条件で水素化分解し、潤滑油留分(ボトム分)を分離回収し、次いで蒸留、脱ろう温度-27℃、溶剤比1.2での溶剤脱ろう処理、脱芳香族処理をこの順で行うことにより、潤滑油基油を得た。また、実施例2、3及び比較例1~3においては、水素化分解圧力、脱ろう温度、溶剤比を表1に示したように変更した以外は実施例1と同様にして、潤滑油基油を得た。得られた潤滑油基油の性状を表2~4に示す。表2~4中、「尿素アダクト物中のノルマルパラフィン由来成分の割合」は、尿素アダクト値の測定の際に得られた尿素アダクト物についてガスクロマトグラフィー分析を実施することによって得られたものである。 【0094】 【表1】 【0095】 次に、実施例1及び比較例1の潤滑油基油に、自動車用潤滑油に一般的に用いられているポリメタアクリレート系流動点降下剤(重量平均分子量:約6万)を添加して潤滑油組成物を得た。流動点降下剤の添加量は、実施例1及び比較例1のそれぞれについて、組成物全量基準で0.3質量%、0.5質量%および1.0質量%の3条件とした。次に、得られた各潤滑油組成物について、-40℃におけるMRV粘度を測定した。得られた結果を表2に示す。 【0096】 【表2】 【0097】 【表3】 【0098】 【表4】 【0099】 実施例1~3と比較例1~3の基油をそれぞれ同一の100℃動粘度レベルで比較すると、流動点、凝固点等は同等であるが、本願発明の基油のCCS粘度は各比較例に比べてはるかに低い。また実施例1及び比較例1に示すように、流動点降下剤を添加した場合の、-40℃MRV粘度においても、尿素アダクト値が本願発明の範囲の基油を用いたときには、著しく低いMRV粘度を示す。以上のように尿素アダクト値が本願で規定する範囲内に入るように処理した基油を用いた場合には、低温粘度特性が優れていることは明白である。」 3.本願の発明が解決しようとする課題と「潤滑油基油」の関係について (1)本願の発明が解決しようとする課題について 上記1.ア~ウより、本願の発明が解決しようとする課題等については、以下の点を理解することができる。 ア 従来、潤滑油の分野では、高度精製鉱油等の潤滑油基油に流動点降下剤等の添加剤を配合することによって、潤滑油の低温粘度特性の改善が図られ、また、高粘度指数基油の製造方法としては、減圧蒸留留出油(WVGO)等の原料油について水素化分解、脱ろう処理後脱芳香族処理、又は脱芳香族処理後脱ろう処理を行う工程による方法が知られている(【0002】)。 近年、潤滑油の省燃費特性の向上が求められ、そのための手段として、潤滑油の低温粘度特性の向上、更には低温粘度特性と粘度-温度特性とを両立させる必要性は益々高くなっており、従来の評価指標に基づき低温性能が良好であると判断された潤滑油基油を用いた場合であっても、かかる要求特性を十分に満足させることが困難となっている(【0005】)。 また、減圧蒸留留出油(WVGO)を原料として水素化分解して得られる、高粘度指数を有する高性能基油(グループIII)は、現在の最高品質のエンジン油を製造するには欠かせない基油であり、粘度温度特性に優れ、常温領域での粘度を低くすることができ、燃費向上に大きな影響を及ぼす。ところが最近では、エンジンの低温始動時の燃費の向上が求められ、基油物性による改良と、添加剤の添加により低温粘度を下げる検討がなされている。しかし、基油粘度の低下は、潤滑の信頼性の低下を引き起こす可能性がありかつエンジン油のAPI規格である蒸発性が外れる可能性があるため、限度がある。また潤滑油基油への添加剤の配合により特性をある程度改善することはできても、この手法にも限界がある。特に、流動点降下剤は、配合量を増加させてもその効果が濃度と比例関係ではなく、また、配合量の増加に伴ってせん断安定性が低下してしまう。また、基油の流動点、凝固点等が同じにもかかわらず、低温粘度に大きな差異の出ることもあり、基油の低温特性を決定する因子の特定が必要と考えられている(【0006】、【0007】)。 イ 本願発明は、前記アの実情に鑑みて、潤滑油の低温粘度特性の向上、更には粘度-温度特性と低温粘度特性の高水準での両立が可能な潤滑油基油及びその製造方法、並びに当該潤滑油基油を含有する潤滑油組成物を提供することを目的として(【0008】)、かかる課題を解決する手段として本願発明の構成を採用したものである(【0009】~【0019】)。 ウ 本願発明によれば、低温粘度特性に優れ、粘度-温度特性と低温粘度特性の高水準での両立が可能な潤滑油基油及びその製造方法、並びに当該潤滑油基油を含有する潤滑油組成物が提供される、という効果を奏する(【0020】)。 (2)「粘度-温度特性」及び「低温粘度特性」の影響因子について 前記(1)のとおり、本願発明は、「低温粘度特性」の向上と、「粘度-温度特性」及び「低温粘度特性」を高水準で両立する潤滑油基油等の提供を課題とするところ、これらの特性等は、上記1.エより、潤滑油基油の以下の物性と密接な関係があることを理解することができる。 ・尿素アダクト値(【0023】) ・粘度指数(【0024】) ・飽和分の含有量、飽和分に占める環状飽和分の割合、イソパラフィン の割合【0045】~【0047】) ・芳香族分の含有量(【0053】) ・%CP、%CN、%CA、及び%CP/%CN(【0055】~【00 59】) ・100℃及び40℃における動粘度(【0063】~【0068】) ・流動点(【0069】) ・-35℃におけるCCS粘度(【0070】) ・ρ15とρの大小関係(【0071】~【0073】) ・APとAの大小関係(【0075】~【0077】) ・蒸留状態(【0078】~【0082】) (3)実施例について 上記2.オより、本願明細書の実施例には、原油の常圧蒸留ボトムを減圧蒸留して得られる留出油(WVGO)を原料油とし、水素化分解触媒の存在下、水素化分解(反応条件:圧力、温度、LHSV)し、潤滑油留分(ボトム分)を分離回収し、次いで蒸留、脱ろう温度-27℃、溶剤比1.2での溶剤脱ろう処理、脱芳香族処理をこの順で行うことにより、潤滑油基油を得ている。 また、同様に、実施例2、3及び比較例1~3は、水素化分解圧力、脱ろう温度、溶剤比を変更して、潤滑油基油を得たことが示され(【表1】)、【表2】~【表4】には、当該潤滑油基油の組成・物性(尿素アダクト値、粘度指数、動粘度、飽和分、環状飽和分及びイソパラフィンの含有量、流動点といった種々の物性)が示されている。 4.検討、判断 前記3.(2)のとおり、本願発明の課題に関連する潤滑油基油の「粘度-温度特性」及び「低温粘度特性」は、「尿素アダクト値」、「粘度指数」、「100℃における動粘度」、「-35℃におけるCCS粘度」、「飽和分の含有量」、「非環状飽和分に占めるイソパラフィンの含有量」、「非環状飽和分に占めるノルマルパラフィンの含有量」のみならず、40℃における動粘度をはじめとする種々の物性に影響されるものであることから、当該「粘度-温度特性」及び「低温粘度特性」は、「尿素アダクト値」、「粘度指数」、「100℃における動粘度」、「40℃における動粘度」、「飽和分の含有量」及び「飽和分に占める環状飽和分の割合」のみに基づいて、本願発明の潤滑油基油が「粘度-温度特性」及び「低温粘度特性」の点で優れたものであるかを評価することはできないと解するのが合理的である。 そして、前記3.(3)のとおり、本願明細書の実施例(【表2】、【表3】及び【表4】)をみてみると、実施例に係る潤滑油基油(実施例1~3)は、「低温粘度特性」の向上と、「粘度-温度特性」及び「低温粘度特性」を高水準で両立することができるという本願発明の課題をおおよそ解決することができていると解することもできるが、そのような結果は、確かに「尿素アダクト値」に依拠するところがあるとしても、例えば、潤滑油基油の40℃における動粘度を【0065】記載の好適な数値範囲内にするなどして、上記「影響因子」が相当程度に最適化されるという前提があってのことと理解すべきである。 加えて、当該潤滑油基油の「尿素アダクト値」、「粘度指数」、「100℃における動粘度」、「40℃における動粘度」、「飽和分の含有量」及び「飽和分に占める環状飽和分の割合」を最適化しさえすれば、他の物性について、必然的に最適化されることになり、結果としてこれらの物性の最適化をことさら要しない、という技術常識も存しない。 なお、本願発明の潤滑油基油は、上記の物性(「尿素アダクト値」、「粘度指数」、「100℃における動粘度」、「-35℃におけるCCS粘度」、「飽和分の含有量」、「非環状飽和分に占めるイソパラフィンの含有量」、「非環状飽和分に占めるノルマルパラフィンの含有量」)のほかに「溶剤/油の容積比が0.5~1.2、温度が-27~-45℃である処理条件で行われる溶剤脱ろう処理を経て得られる」こと、いわゆる当該潤滑油基油を製造するための処理条件を発明特定事項としている。 しかしながら、本願発明の潤滑油基油は、当該発明特定事項における処理の結果、最終生成物である当該潤滑油基油が得られ、上記の物性をもって発明特定事項としていると解することができるから、ここでは、当該処理条件について特に言及しない。 そうすると、本願発明の課題に関連する上記「粘度-温度特性」及び「低温粘度特性」は、単に潤滑油基油の「尿素アダクト値」、「粘度指数」、「100℃における動粘度」、「-35℃におけるCCS粘度」、「飽和分の含有量」、「非環状飽和分に占めるイソパラフィンの含有量」、「非環状飽和分に占めるノルマルパラフィンの含有量」のみをもって、特性を評価できるものではなく、これら本願発明で特定された物性以外の物性も含めなければ、本願発明の課題である「低温粘度特性」の向上と、「粘度-温度特性」及び「低温粘度特性」を高水準で両立する点で優れたものであると判断することはできないというほかない。 したがって、本願明細書の発明の詳細な説明の記載及び技術常識を参酌して、当業者において、本願発明の課題が解決できると認識できる範囲は、当該潤滑油基油において、 「尿素アダクト値」、「粘度指数」、「100℃における動粘度」、「-35℃におけるCCS粘度」、「飽和分の含有量」、「非環状飽和分に占めるイソパラフィンの含有量」、「非環状飽和分に占めるノルマルパラフィンの含有量」に加え、上記3.(2)で指摘した物性について最適化された潤滑油基油であり、それ以外の本願発明に含まれる潤滑油基油についてまで、本願発明の課題を解決できるものとして当業者が認識できるとはいえない。 よって、本願発明は、本願の発明の詳細な説明の課題を解決できると当業者が認識できるように記載された範囲を超える発明が記載されていることになるから、サポート要件を満たしていない。 5.審判請求人の主張について 審判請求人は、平成29年1月11日付け審判請求書の手続補正書(方式)において、拒絶査定において指摘する「潤滑油基油の組成(ノルマルパラフィンの量及びイソパラフィンの量)」、「所定温度(100℃)における動粘度」、「CCS粘度」及び「脱ろう処理の条件」をそれぞれ特定する補正を行ったので、サポート要件に関する不備は解消した旨主張している。 しかしながら、サポート要件については、上記4.のとおりであるから、審判請求人の主張は採用できない。 6.小括 よって、本願発明は、発明の詳細な説明に記載したものとはいえない。 第5 むすび 以上のとおり、本願の特許請求の範囲の請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合するものではないから、他の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

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2017-000388

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