特許無効審判
2016-800040
はんだ合金、ソルダペーストおよび電子回路基板
- 審判番号
- 2016-800040
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 無効審判(無効の審決)
- 出願番号
- 特願2014-253280
- 登録番号
- 特許第5723056号(P5723056)
- 請求日
- 2016年04月01日
- 審決日
- 2018年11月13日
- 公報発行日
- 2019年03月29日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】千住金属工業 株式会社
- 【請求人代理人】大野 聖二
- 【請求人代理人】多田 宏文
- 【請求人代理人】鮫島 正洋
- 【請求人代理人】高見 憲
- 【請求人代理人】篠田 淳郎
- 【被請求人】ハリマ化成 株式会社
- 【被請求人代理人】小林 浩
- 【被請求人代理人】加藤 志麻子
- 【被請求人代理人】片山 英二
- 【被請求人代理人】服部 誠
- 【被請求人代理人】中村 閑
- 【被請求人代理人】大西 ひとみ
- 審判長/審判官
- 審判長 池渕 立
- 審判官 金 公彦
- 審判官 土屋 知久
- 分類
- P1113.113-YAA(B23K) / P1113.121-YAA(B23K) / P1113.841-YAA(B23K) / P1113.851-YAA(B23K) / P1113.853-YAA(B23K) / P1113.854-YAA(B23K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第134条の2第1項、特許法第134条の2第9項、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第134条の2第3項、特許法第169条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
上記当事者間の特許第5723056号「はんだ合金、ソルダペーストおよび電子回路基板」の特許無効審判事件についてされた平成29年 4月24日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において請求項2~8に係る発明に対する部分の審決取消しの判決(平成29年(行ケ)第10121号、平成30年 2月14日)があったので、審決が取り消された部分の請求項2~8に係る発明についてさらに審理のうえ、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
特許第5723056号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔2~8〕について訂正することを認める。
本件審判の請求は、成り立たない。
特許第5723056号の請求項2~6に係る特許についての本件審判の請求を却下する。
審判費用は、請求人の負担とする。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
1 本件無効審判事件の一次審決までの経緯
本件特許第5723056号(以下「本件特許」という。)は、平成26年12月15日を出願日とする出願(特願2014-253280号)であって、その請求項1~8に係る発明について、平成27年 4月 3日に特許権が設定登録されたものであり、その後、千住金属工業株式会社(以下、「請求人」という。)から平成28年 4月 1日に請求項1~8に係る発明の特許について無効審判が請求されたものであるところ、一次審決までの手続の経緯は、おおむね以下のとおりである。
平成26年12月15日付け 本件出願
平成27年 4月 3日付け 特許権の設定登録
平成28年 4月 1日付け 請求人:無効審判請求
平成28年 6月17日付け 被請求人:審判事件答弁書
平成28年10月31日付け 審理事項通知書
平成28年11月25日付け 請求人:口頭審理陳述要領書
平成28年12月22日付け 被請求人:口頭審理陳述要領書
平成29年 1月17日差出 請求人:上申書
平成29年 1月17日 口頭審理
平成29年 1月30日付け 被請求人:上申書
平成29年 1月31日付け 請求人:上申書(2)
平成29年 2月20日付け 被請求人:上申書(2)
平成29年 2月20日付け 請求人:上申書(3)
平成29年 3月 1日付け 請求人:上申書(4)
平成29年 4月24日付け 一次審決
2 一次審決
一次審決の結論は、
「本件審判の請求は、成り立たない。
審判費用は、請求人の負担とする。」
というものである。
3 審決取消訴訟
請求人は、上記一次審決の取消しを求めて、平成29年 6月 5日に知的財産高等裁判所に訴えを提起した。
上記訴えは、知的財産高等裁判所において、平成29年(行ケ)第10121号事件として審理され、平成30年 2月14日に、主文を
「1 特許庁が無効2016-800040号事件について平成29年 4月24日にした審決のうち、特許第5723056号の請求項2~8に係る部分を取り消す。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、これを8分し、その1を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。」
とする判決の言渡しがあり、この判決は、平成30年 6月29日の最高裁判所による上告棄却及び上告受理申立て不受理の決定(平成30年(行ツ)第00154号事件、平成30年(行ヒ)第00169号事件)により確定した。
このため、一次審決のうち、判決で取り消されていない「特許第5723056号の請求項1に係る部分」については審決が確定したので、一次審決のうち、判決で取り消された「特許第5723056号の請求項2~8に係る部分」について、再度審理すべきものとなった。
4 再審理における手続の経緯
再審理における手続の経緯は、おおむね以下のとおりである。
平成30年 7月 5日付け 被請求人:訂正の請求のための指定期間を求める申立
平成30年 8月 3日付け 審理再開通知及び訂正請求のための期間指定通知(平成30年 8月 7日発送)
平成30年 8月10日付け 被請求人:訂正請求書
平成30年 9月10日付け 被請求人:手続補正書
第2 訂正請求についての当審の判断
1 訂正請求の趣旨・内容
被請求人が平成30年 8月10日に提出し、同年 9月10日付け手続補正書によって補正された訂正請求書による訂正請求(以下、同訂正請求に係る訂正を「本件訂正」という。)の趣旨は、「特許第5723056号の特許請求の範囲を本請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項2~8について訂正することを求める。」というものであって、本件訂正の内容は、以下の訂正事項1~6からなるものである。
なお、訂正箇所に下線を付した。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4を削除する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5を削除する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項6を削除する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項7に
「【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載のはんだ合金からなるはんだ粉末と、
フラックスとを
含有することを特徴とする、ソルダペースト。」と記載されているのを、
「【請求項7】
請求項1に記載のはんだ合金からなるはんだ粉末と、
フラックスとを
含有することを特徴とする、ソルダペースト。」と訂正する。
(請求項7を引用する請求項8も同様に訂正する。)
2 訂正の適否についての判断
(1)訂正事項1~5について
訂正事項1~5による訂正は、それぞれ、特許請求の範囲の請求項2~6を削除するものであるから、特許法第134条の2第1項のただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、特許明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張、変更するものではないことは明らかであるので、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合する。
(2)訂正事項6について
訂正事項6による訂正は、訂正事項1~5により特許請求の範囲の請求項2~6を削除する訂正がされたことに伴って、請求項7において請求項2~6を引用しないものに訂正して、記載の整合を図るものであるから、特許法第134条の2第1項のただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当し、特許明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張、変更するものではないことは明らかであるので、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合する。
(3)一群の請求項について
本件訂正前の請求項3~請求項8は、直接的又は間接的に訂正前の請求項2を引用するものであるから、本件訂正前の請求項2~8は、一群の請求項である。
そして、本件訂正は、請求項間の引用関係の解消を目的とするものではなく、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めもないから、本件訂正請求は、訂正後の請求項〔2~8〕を訂正単位とする訂正の請求をするものである。
なお、本件訂正請求においては、全ての請求項に対して無効審判請求がされているので、特許法第134条の2第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。
3 訂正の適否についてのむすび
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものに該当し、特許法第134条の2第3項、同法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、本件訂正を認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり、本件訂正は認められたので、本件特許の請求項1~8は、訂正請求書に添付された特許請求の範囲の請求項1~8に記載された次のとおりのものとなった。
「【請求項1】
実質的に、スズ、銀、銅、ビスマス、アンチモンおよびコバルトからなるはんだ合金であって、
前記はんだ合金の総量に対して、
前記銀の含有割合が、2質量%以上4質量%以下であり、
前記銅の含有割合が、0.3質量%以上1質量%以下であり、
前記ビスマスの含有割合が、4.8質量%を超過し10質量%以下であり、
前記アンチモンの含有割合が、3質量%以上10質量%以下であり、
前記コバルトの含有割合が、0.001質量%以上0.3質量%以下であり、
前記スズの含有割合が、残余の割合であることを特徴とする、はんだ合金。
【請求項2】
削除。
【請求項3】
削除。
【請求項4】
削除。
【請求項5】
削除。
【請求項6】
削除。
【請求項7】
請求項1に記載のはんだ合金からなるはんだ粉末と、フラックスとを含有することを特徴とする、ソルダペースト。
【請求項8】
請求項7記載のソルダペーストのはんだ付によるはんだ付け部を備えることを特徴とする、電子回路基板。」
ここで、請求項7、8は、それぞれ請求項1、7を引用する形式で記載されているところ、ほかの請求項を引用しない形式で書き下すと、それぞれ、
「【請求項7】
実質的に、スズ、銀、銅、ビスマス、アンチモンおよびコバルトからなるはんだ合金であって、
前記はんだ合金の総量に対して、
前記銀の含有割合が、2質量%以上4質量%以下であり、
前記銅の含有割合が、0.3質量%以上1質量%以下であり、
前記ビスマスの含有割合が、4.8質量%を超過し10質量%以下であり、
前記アンチモンの含有割合が、3質量%以上10質量%以下であり、
前記コバルトの含有割合が、0.001質量%以上0.3質量%以下であり、
前記スズの含有割合が、残余の割合であるはんだ合金からなるはんだ粉末と、フラックスとを含有することを特徴とする、ソルダペースト。」
「【請求項8】
実質的に、スズ、銀、銅、ビスマス、アンチモンおよびコバルトからなるはんだ合金であって、
前記はんだ合金の総量に対して、
前記銀の含有割合が、2質量%以上4質量%以下であり、
前記銅の含有割合が、0.3質量%以上1質量%以下であり、
前記ビスマスの含有割合が、4.8質量%を超過し10質量%以下であり、
前記アンチモンの含有割合が、3質量%以上10質量%以下であり、
前記コバルトの含有割合が、0.001質量%以上0.3質量%以下であり、
前記スズの含有割合が、残余の割合であるはんだ合金からなるはんだ粉末と、フラックスとを含有するソルダペーストのはんだ付によるはんだ付け部を備えることを特徴とする、電子回路基板。」
となるので、以下の検討においては、本件訂正後の請求項7、8に係る発明については、上記引用しない形式で記載された事項により特定されるとおりのものと認める。
第4 請求人の主張の概要
請求人は、「特許第5723056号の特許請求の範囲の請求項1~8に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は、被請求人の負担とする。」との審決を求め、その理由として、以下のとおり主張し、その証拠方法として下記甲第1号証を、また、平成29年 1月17日差出の上申書とともに下記甲第2号証を、そして、平成29年 1月31日付け上申書とともに、下記甲第3号証~甲第5号証を提出した。
(i)無効理由1
本件特許の請求項1~8に係る発明は、甲1に記載の発明(引用発明1~3)及び甲1の記載事項から当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本件特許の請求項1~8に係る特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
(ii)無効理由2
本件特許の請求項1~8に係る発明は、甲1に記載の発明(引用発明4~6)及び甲1の記載事項から当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本件特許の請求項1~8に係る特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
(iii)無効理由3
本件特許の請求項2に係る発明は、明細書の発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないから、特許法第36条第6項第1号の規定に違反するものである。
したがって、本件特許の請求項2~8に係る特許は同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。
甲第1号証:国際公開第2014/163167号
甲第2号証:Z.Huang,et al.,Journal of ELECTRONIC MATERIALS,vol.41,No.2,2012,p375-389及び抄訳
甲第3号証:JESD22-B111及び抄訳
甲第4号証:Bo chang et al.,Microelectronics Reliability 49(2009),p.530-536及び抄訳
甲第5号証:特開2005-254298号公報
第5 被請求人の主張の概要
被請求人は、本件無効審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とするとの審決を求め、平成28年6月17日付け審判事件答弁書とともに、下記乙第1号証~乙第3号証を提出している。
乙第1号証:村井淳一,他3名、「Sn-Ag-Cu-Bi系Pbフリーはんだにおけるはんだ付性・信頼性に及ぼすBi濃度の影響 Effevct of Bi Contents of Sn-Ag-Cu-Bi Solder for PCA Productivity」、7th Symposium on ”Microjoining and Assembly Technology in Electronics”Februaly 1-2,2001,Yokohama、mate 2001,p.463-468
乙第2号証:「鉛フリーはんだ試験方法-第7部:チップ部品のはんだ継手せん断試験方法」(JISZ3198-7:2003)、日本規格協会、平成15年6月20日
乙第3号証:森郁夫、外4名、「Sn-Ag系鉛フリーはんだの接合信頼性に及ぼすBi添加の影響 Effect of Bismuth Addition on Joint Reliability of Sn-Ag-Bi Solders」、5th symposium on ”Microjoining and Assembly Technology in Electronics”Februaly 4-5,1999,Yokohama、mate ’99、p.359-364
第6 甲各号証の記載事項
(1)甲第1号証
甲第1号証には、以下の記載がある(当審注:下線は当審が付与した。)。
(1a)「[請求項1] Ag:1~4質量%、Cu:0.6~0.8質量%、Sb:1~5質量%、Ni:0.01~0.2質量%、残部Snからなることを特徴とする鉛フリーはんだ合金。
[請求項2] さらに、Bi:1.5~5.5質量%を含有することを特徴とする請求項1に記載の鉛フリーはんだ合金。
[請求項3] さらに、CoおよびFeから選択された元素を少なくとも1種を合計で0.001~0.1質量%含有することを特徴とする請求項1または2に記載の鉛フリーはんだ合金。
[請求項4] 請求項1~3に記載の鉛フリーはんだ合金であって、温度サイクル試験の3000サイクル後の初期値に対するシェア強度残存率が30%以上であることを特徴とする鉛フリーはんだ合金。
[請求項5] 請求項1~4に記載の鉛フリーはんだ合金であって、Cu-OSP処理を施した基板と接合されることを特徴とする鉛フリーはんだ合金。
[請求項6] 請求項1~5のいずれかに記載の鉛フリーはんだ合金からなるはんだ接合部を有する車載電子回路。
[請求項7] 請求項1~5のいずれかに記載の鉛フリーはんだ合金からなるはんだ接合部を有するECU電子回路。
[請求項8] 請求項6記載の電子回路を備えた車載電子回路装置。
[請求項9] 請求項7記載のECU電子回路を備えたECU電子回路装置。」
(1b)「技術分野
[0001]本発明は、温度サイクル特性に優れ、衝突などの衝撃に強い鉛フリーはんだ合金と、車載電子回路装置とに関する。」
(1c)「[0013]本発明は、Agが1~4質量%、Cuが0.6~0.8質量%、Sbが1~5質量%、Niが0.01~0.2質量%、残部がSnの鉛フリーはんだ合金である。さらに、Biを1.5~5.5質量%を添加しても良い。さらに、CoおよびFeから選択された元素を少なくとも1種を合計で0.001~0.1質量%添加しても良い。」
(1d)「[0022]本発明のはんだ合金に添加されるSbが1質量%未満では、Sb量が少なすぎてSnマトリックス中にSbが分散する形態が現れず、さらに固溶強化の効果も現れない。さらに、はんだ接合部のシェア強度も低くなる。また、Sbが5質量%を超えるようなSbの添加では、液相線温度が上昇するので、炎天下のエンジン稼働時等に現れる125℃を超す高温時にSbが再溶融しないので、SnSb金属間化合物の粗大化が進み、はんだ中にクラックが伝播することを抑制することができない。さらに、液相線温度が上がると実装時の温度ピークが上がるので、プリント基板の表面に配線されているCuがはんだ中に溶融して、Cu6Sn5等のSnCuの金属間化合物層がプリント基板とのはんだ付け部に厚く形成され易くなり、プリント基板とはんだ接合部が破壊され易くなる。
したがって、本発明のSbの量は1~5質量%であり、好ましくは3~5質量%である。後述するBiが配合される場合には、Sbの量は3超~5%が好ましい。
[0023]本発明のはんだ合金では、はんだ中におけるクラックの発生と伝播を抑制すると共に、セラミック部品とはんだ接合部のはんだ接合界面でのクラックの発生も抑制している。例えば、Cuランドにはんだ付けするとCu6Sn5の金属間化合物がCuランドとの接合界面に発生するが、本発明のはんだ合金はNiを0.01~0.2質量%含有しており、この含有しているNiは、はんだ付け時にはんだ付け界面部分に移動して、Cu6Sn5ではなく(CuNi)6Sn5が発生して、界面の(CuNi)6Sn5の金属間化合物層のNi濃度が高くなる。これにより、はんだ付け界面にCu6Sn5よりも微細で、粒径が揃った(CuNi)6Sn5の金属間化合物層が形成される。微細な(CuNi)6Sn5の金属間化合物層は、界面から伝播するクラックを抑制する効果を有する。これは、Cu6Sn5のような大きな粒径がある金属間化合物層では、発生したクラックが大きな粒径に沿って伝播するので、クラックの進展が早い。ところが粒径が微細なときは、発生したクラックの応力が多くの粒径方向に分散するので、クラックの進展を遅くすることができる。
[0024]このように、本発明のはんだ合金では、Niを添加することで、はんだ付け界面付近に発生する金属間化合物層の金属間化合物を微細化して、クラックの発生を抑制するとともに、一旦発生したクラックの伝播を抑制する働きをしている。そのため、本発明のはんだ合金は接合界面からのクラックの発生や伝播の抑制も可能である。
Niの量が0.01質量%未満では、はんだ付け界面のNiの量が少ないため、はんだ接合部界面の改質効果が不十分であるためクラック抑止効果がなく、Niの量が0.2質量%を超えてしまうと、液相線温度が上昇するため、本発明に添加したSbの再溶融が発生せず、微細なSnSb金属間化合物の粒径維持の効果を阻害してしまう。
したがって、本発明のNiの量は、0.01~0.2質量%が好ましく、より好ましくは0.02~0.1質量%である。さらに好ましくは、0.02~0.08%である。」
(1e)「[0031]このような特性は、上記ヒートサイクル試験のような非常に過酷な条件で使用されても、車載電子回路が破断しない、つまり使用不能あるいは誤動作をもたらさないことを意味しており、特にECU用のはんだ付けに用いられるはんだ合金としては信頼性の高いはんだ合金である。さらに、本発明のはんだ合金は、温度サイクル経過後のシェア強度残存率に優れている。つまり、長期間使用しても衝突や振動等の外部から加わる外力に対してシェア強度等の外力に対する耐性が低下しない。
このように、本発明にかかるはんだ合金は、より特定的には、車載電子回路のはんだ付けに用いられ、あるいは、ECU電子回路のはんだ付けに用いられて優れたヒートサイクル性を発揮するはんだ合金である。
[0032]「電子回路」とは、それぞれが機能を持っている複数の電子部品の電子工学的な組み合わせによって、全体として目的とする機能を発揮させる系(システム)である。 ここにそのような電子回路を構成する電子部品としては、チップ抵抗部品、多連抵抗部品、QFP、QFN、パワートランジスタ、ダイオード、コンデンサなどが例示される。これらの電子部品を組み込んだ電子回路は基板上に設けられ、電子回路装置を構成するのである。
[0033]本発明において、そのような電子回路装置を構成する基板、例えばプリント配線基板は特に制限されない。またその材質も特に制限されないが、耐熱性プラスチック基板(例:高Tg低CTEであるFR-4)が例示される。プリント配線基板はCuランド表面をアミンやイミダゾール等の有機物(OSP: Organic Surface Protection)で処理したプリント回路基板が好ましい。
[0034]本発明に係る鉛フリーはんだの形状は、微細なはんだ部の接合に用いられるので、リフローはんだ付けに用いられ、ソルダペーストとして使用させるのが通常であるが、ボール状、ペレットもしくはワッシャーなどの形状のはんだプリフォームとして用いられても良い。」
(1f)「[0035]表1では、表1の各はんだ合金について、液相線温度、温度サイクル試験の初期値と1500サイクル後のSnSb粒径、クラック率を測定を以下の方法で測定した。
[0036](はんだの溶融試験)
表1の各はんだ合金を作製して、はんだの溶融温度を測定した。測定方法は、固相線温度はJIS Z3198-1に準じて行った。液相線温度は、JIS Z3198-1を採用せずに、JIS Z3198-1の固相線温度の測定方法と同様のDSCによる方法で実施した。
結果を表1の液相線温度に示す。
[0037](温度サイクル試験)
表1のはんだ合金をアトマイズしてはんだ粉末とした。松脂、溶剤、活性剤、チキソ剤、有機酸等からなるはんだ付けフラックスと混和して、各はんだ合金のソルダペーストを作製した。ソルダペーストは、6層のプリント基板(材質:FR-4)に150μmのメタルマスクで印刷した後、3216のチップ抵抗器をマウンターで実装して、最高温度235℃、保持時間40秒の条件でリフローはんだ付けをし、試験基板を作製した。
各はんだ合金ではんだ付けした試験基板を低温-40℃、高温+125℃、保持時間30分の条件に設定した温度サイクル試験装置に入れ、初期値、1500サイクル後に各条件で温度サイクル試験装置から取り出し、3500倍の電子顕微鏡で観察して、はんだ合金のSnマトリックス中のSnSb金属間化合物の粒子の平均粒径を測定した。
結果を表1のクラック率とSnSb粒径に示す。
ここで、表1中の※1はSnSb金属間化合物が見えず測定ができなかったことを示し、※2ははんだの液相線温度が高く、リフロー条件の235℃でははんだ付けできなかったことを示す。
[0038](クラック率)
クラック発生率は、クラックが想定クラック長さに対して、クラックが生じた領域がどの程度かの指標となる。SnSbの粒径測定後に、150倍の電子顕微鏡を用いて、クラックの状態を観察して、クラックの全長を想定し、クラック率を測定した。
クラック率(%)=クラック長さの総和×100 想定線クラック全長
ここに、「想定線クラック全長」とは、完全破断のクラック長さをいう。 クラック率は、図5に示した複数のクラック7の長さの合計を、クラック予想進展経路8の長さで割った率である。
結果は、表1に記載する。
[0039]
[0040]表1からは、温度サイクル試験の1500サイクル後も、SnSbの結晶粒が粗大化せずに、初期値と変わらないままの状態で維持されていることがわかる。」
(1g)「[0043]次に、表2では、表2の各はんだ合金について、温度サイクル試験での3000サイクル後のクラック発生率とシェア強度残存率を測定した。クラック発生率の測定方法は、表1と同じだが、サイクル数は3000サイクルとした。シェア強度残存率の測定方法は以下の通りである。
[0044](シェア強度残存率)
シェア強度残存率は、初期状態のはんだ付け部のシェア強度に対して温度サイクル試験にどの程度の強度が維持されているかの指標となる。
シェア強度試験は、継手強度試験機STR‐1000を用いて、室温下で、試験速度6mm/min、試験高さは50μmの条件で行った。
結果はまとめて表2に示す。
[0045]
[表2]
[0046]表2より、Sn-Ag-Cu-Ni-Sb系のはんだ合金について、Sb含有量に対して、クラック発生率とシェア強度残存率をプロットしたグラフを図6に示す。Sb量が本発明の範囲内である1.0~5.0%の時に、クラック発生率は90%以下で、且つ、シェア強度残存率は30%以上であり、本発明のはんだ合金によって、温度サイクル特性に優れ、衝突などの衝撃に強いはんだ合金が得られる。
[0047]表2より、Sn-Ag-Cu-Ni-Sb-Bi系のはんだ合金に対して、Bi含有量に対して、Sb量別に、クラック発生率をプロットしたグラフを図7に示す。Bi量が本発明の範囲内である1.5~5.5%で、且つ、Sb量が1~5%の時に、クラック発生率が90%以下となり、温度サイクル特性に優れ、クラック発生を抑制することができる。
[0048]表2より、Sn-Ag-Cu-Ni-Sb-Bi系のはんだ合金に対して、Bi含有量に対して、Sb量別に、シェア強度残存率をプロットしたグラフを図8に示す。Bi量が本発明の範囲内である1.5~5.5%で、且つ、Sb量が1~5%の時に、シェア強度残存率が30%以上となり、衝突などの衝撃に強く、クラック発生を抑制することができる。
[0049]結論として、本願発明のはんだ合金は、-40~+125℃の自動車のECU基板に必要な過酷な温度条件でも、SnSbの結晶粒が粗大化せずに、初期値と変わらないままの状態で維持されており、その結果としてはんだ中から発生するクラックの発生も、他のはんだ合金に比較して少なくすることができる。」
第7 無効理由1について
ア 甲第1号証に記載される発明
甲第1号証には、上記第6(1)(1a)、(1b)によれば、温度サイクル特性に優れ、衝突などの衝撃に強い鉛フリーはんだ合金、該はんだ合金からなるはんだ接合部を有する車載電子回路装置およびECU電子回路装置が記載され、上記第6(1)(1e)、(1f)によれば、はんだ合金からなるはんだ粉末とフラックスとを混合してなるソルダーペースト及び該ソルダーペーストによりはんだ付けを行うことが記載されている。
また、上記第6(1)(1e)によれば、上記車載電子回路装置およびECU電子回路装置は、電子回路が基板上に設けられるから、ソルダーペーストのはんだ付けによるはんだ付け部を有する車載電子回路基板およびECU電子回路基板が記載されているといえる。
そして、上記第6(1)(1g)の[表2]には、実施例45、46として、Ag:3.4質量%、Cu:0.7質量%、Ni:0.04質量%、Sb:3.0質量%、Bi:3.2質量%、Co:0.01質量%または0.05質量%残部Snからなる組成のはんだ合金が記載されている。
そうすると、甲第1号証には、以下の発明が記載されているといえる。
・「Ag:3.4質量%、Cu:0.7質量%、Ni:0.04質量%、Sb:3.0質量%、Bi:3.2質量%、Co:0.01質量%または0.05質量%残部Snからなる鉛フリーはんだ合金のはんだ粉末とフラックスとを混合したソルダーペースト。」(以下、「引用発明1」という。)
・「Ag:3.4質量%、Cu:0.7質量%、Ni:0.04質量%、Sb:3.0質量%、Bi:3.2質量%、Co:0.01質量%または0.05質量%残部Snからなる鉛フリーはんだ合金のはんだ粉末とフラックスとを混合したソルダーペーストのはんだ付けによるはんだ接合部を備える車載電子回路基板およびECU電子回路基板。」(以下、「引用発明2」という。)
イ 対比・判断
(イ-1)本件特許の請求項7に係る発明と引用発明1との対比
本件特許の請求項7に係る発明(以下、「本件発明7」という。)と引用発明1とを対比すると、本件発明7における「実質的に、スズ、銀、銅、ビスマス、アンチモンおよびコバルトからなるはんだ合金」とは、本件明細書の記載(「本発明の一観点に係るはんだ合金は、必須成分として、スズ(Sn)、銀(Ag)、銅(Cu)、ビスマス(Bi)、アンチモン(Sb)およびコバルト(Co)を含有している。換言すれば、はんだ合金は、実質的に、スズ、銀、銅、ビスマス、アンチモンおよびコバルトからなる。なお、本明細書において、実質的とは、上記の各元素を必須成分とし、また、後述する任意成分を後述する割合で含有することを許容する意味である。」(【0022】)、「また、上記はんだ合金は、任意成分として、さらに、ニッケル(Ni)、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、ゲルマニウム(Ge)、リン(P)などを含有することができる。」(【0039】、「任意成分としてニッケルを含有する場合には、その含有割合は、はんだ合金の総量に対して、例えば、0質量%を超過し、例えば、1.0質量%以下である。 ニッケルの含有割合が上記範囲であれば、本発明の優れた効果を維持することができる」(【0040】、【0041】))によれば、「スズ、銀、銅、ビスマス、アンチモンおよびコバルトを必須成分とし、さらに任意成分として例えば、ニッケルを0質量%超~1質量%以下の範囲で含むことを許容するはんだ合金」を意味するものである。
一方、引用発明1においては、上記第6(1)(1a)、(1c)、(1d)の[0023]、[0024]の記載から、はんだ接合界面からのクラックの発生や伝播抑制のためにNiを0.01~0.2質量%を含有することは、必須のものと認められる。
また、引用発明1における「Ag:3.4質量%」、「Cu:0.7質量%」、「Sb:3.0質量%」、「Co:0.01質量%または0.05質量%」は、それぞれ、本件発明7における「銀の含有割合が、2質量%以上4質量%以下」、「銅の含有割合が、0.3質量%以上1質量%以下」、「アンチモンの含有割合が、3質量%以上10質量%以下」、「コバルトの含有割合が、0.001質量%以上0.3質量%以下」に含まれる。
そして、本件発明7のはんだ合金は、その成分組成から、鉛フリーはんだ合金であることは明らかであり、引用発明1における「鉛フリーはんだ合金のはんだ粉末とフラックスとを混合したソルダーペースト」は、本件発明7の「はんだ合金からなるはんだ粉末と、フラックスとを含有する、ソルダペースト」に相当する。
よって、本件発明7と引用発明1は、
「はんだ合金の総量に対して、
銀の含有割合が、3.4質量%であり、
銅の含有割合が、0.7質量%であり、
アンチモンの含有割合が、3.0質量%であり、
前記コバルトの含有割合が、0.01質量%または0.05質量%であり、
前記スズの含有割合が、残余の割合である、はんだ合金からなるはんだ粉末と、フラックスとを含有する、ソルダペースト。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
・相違点1
本件発明7では、任意成分として、ニッケルを0質量%超~1質量%以下の範囲で含むことを許容するものであるのに対し、引用発明1では、Ni:0.04質量%を必須成分として含有する点。
・相違点2
本件発明7では、「ビスマスの含有割合が、4.8質量%を超過し10質量%以下であ」るのに対し、引用発明1では、「Bi:3.2質量%」である点。
(イ-2)判断
以下、上記相違点について検討する。
(ア)相違点1について
引用発明1におけるニッケルは、上記第6(1)(1a)、(1c)、(1d)の[0023]、[0024]の記載からみれば、クラックの発生を抑制するとともに、一旦発生したクラックの伝播を抑制するという、引用発明1の課題解決のために不可欠な技術的意義を有する必須の成分とされているものである。
それに対して、本件発明7においては、ニッケルは任意成分にすぎない。したがって、本件発明7におけるニッケルと、引用発明1におけるニッケルとは、課題解決に当たっての技術的意義が相違するから、上記相違点1は実質的な相違点である。
そして、引用発明1において、ニッケルは、クラックの発生を抑制するとともに、一旦発生したクラックの伝播を抑制する技術的意義を有し、これは、引用発明1における課題である外部からの力に対して長時間耐えることに貢献するものといえ、このように引用発明1において不可欠な要素であるニッケルを任意成分とする動機付けは存在しない。
更に、このことは、甲第2号証~甲第5号証の記載事項に左右されるものではないから、引用発明1のニッケルを任意成分として上記相違点1に係る構成を備えることは、当業者が容易に想到し得るものではない。
このため、上記相違点2について検討するまでもなく、本件発明7は、引用発明1及び甲第1号証~甲第5号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(イ-3)本件特許の請求項8に係る発明と引用発明2との対比・判断
本件特許の請求項8に係る発明(以下、「本件発明8」という。)における「電子回路基板」は、本件明細書の【0008】によれば、自動車のエンジンルームで用いられる部品がはんだ付けされたものを含むといえるから、引用発明2の「車載電子回路基板およびECU電子回路基板」を包含するものと認められる。
そして、上記(イ-1)で行った検討を踏まえて、本件発明8と引用発明2とを対比すると、両者は、少なくとも上記相違点1と同じ相違点を有している。
そして、上記相違点1についての判断は、上記(イ-2)(ア)に記載したとおりである。
したがって、本件発明8は、引用発明2及び甲第1号証~甲第5号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(イ-4)無効理由1についてのむすび
以上のとおりであるから、無効理由1は理由がない。
第8 無効理由2について
ア 甲第1号証に記載される発明
甲第1号証には、上記第6(1)(1a)、(1b)によれば、温度サイクル特性に優れ、衝突などの衝撃に強い鉛フリーはんだ合金、該はんだ合金からなるはんだ接合部を有する車載電子回路装置およびECU電子回路装置が記載され、上記第6(1)(1e)、(1f)によれば、はんだ合金からなるはんだ粉末とフラックスとを混合してなるソルダーペースト及び該ソルダーペーストによりはんだ付けを行うことが記載されている。
また、上記第6(1)(1e)によれば、上記車載電子回路装置およびECU電子回路装置は、電子回路が基板上に設けられるから、ソルダーペーストのはんだ付けによるはんだ付け部を有する車載電子回路基板およびECU電子回路基板が記載されているといえる。
そして、上記第6(1)(1g)の[表2]には、実施例42、43として、Ag:3.4質量%、Cu:0.7質量%、Ni:0.04質量%、Sb:5.0質量%、Bi:5.0質量%または5.5質量%残部Snからなる組成のはんだ合金が記載されている。
そうすると、甲第1号証には、以下の発明が記載されているといえる。
・「Ag:3.4質量%、Cu:0.7質量%、Ni:0.04質量%、Bi:5.0質量%または5.5質量%、Sb:5.0質量%残部Snからなる鉛フリーはんだ合金からなるはんだ粉末とフラックスとを混合したソルダーペースト。」(以下、「引用発明3」という。)
・「Ag:3.4質量%、Cu:0.7質量%、Ni:0.04質量%、Bi:5.0質量%または5.5質量%、Sb:5.0質量%残部Snからなる鉛フリーはんだ合金からなるはんだ粉末とフラックスとを混合したソルダーペーストのはんだ付けによるはんだ接合部を備える車載電子回路基板およびECU電子回路基板。」(以下、「引用発明4」という。)
イ 対比・判断
(イ-1)本件発明7と引用発明3との対比
本件発明7と引用発明3とを対比すると、引用発明3における「Ag:3.4質量%」、「Cu:0.7質量%」、「Bi:5.0質量%または5.5質量%」、「Sb:5.0質量%」は、それぞれ、本件発明7の「銀の含有割合が、2質量%以上4質量%以下」、「銅の含有割合が、0.3質量%以上1質量%以下」、「ビスマスの含有割合が、4.8質量%を超過し10質量%以下」、「アンチモンの含有割合が、3質量%以上10質量%以下」の範囲に含まれる。
また、引用発明3における「鉛フリーはんだ合金からなるはんだ粉末とフラックスとを混合したソルダーペースト」は、本件発明7の「はんだ合金からなるはんだ粉末と、フラックスとを含有する、ソルダペースト」に相当する。
よって、本件発明7と引用発明3は、
「はんだ合金の総量に対して、
銀の含有割合が、3.4質量%であり、
銅の含有割合が、0.7質量%であり、
ビスマスの含有割合が、5.0質量%または5.5質量%であり、
アンチモンの含有割合が、5.0質量%であり、
スズの含有割合が、残余の割合である、はんだ合金からなるはんだ粉末と、フラックスとを含有する、ソルダペースト。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
・相違点3
本件発明7では、任意成分として、ニッケルを0質量%超~1質量%以下の範囲で含むことを許容するものであるのに対し、引用発明3では、Ni:0.04質量%を必須成分として含有する点。
・相違点4
本件発明7では、「コバルトの含有割合が、0.001質量%以上0.3質量%以下であ」るのに対し、引用発明3では、コバルトを含有していない点。
(イ-2)判断
以下、上記相違点について検討する。
(ア)相違点3について
引用発明3におけるニッケルは、上記第6(1)(1a)、(1c)、(1d)の[0023]、[0024]の記載からみれば、クラックの発生を抑制するとともに、一旦発生したクラックの伝播を抑制するという、引用発明3の課題解決のために不可欠な技術的意義を有する必須の成分とされているものである。
それに対して、本件発明7においては、ニッケルは任意成分にすぎない。したがって、本件発明7におけるニッケルと、引用発明3におけるニッケルとは、課題解決に当たっての技術的意義が相違するから、上記相違点3は実質的な相違点である。
そして、引用発明3において、ニッケルは、クラックの発生を抑制するとともに、一旦発生したクラックの伝播を抑制する技術的意義を有し、これは、引用発明3における課題である外部からの力に対して長時間耐えることに貢献するものといえ、このように引用発明3において不可欠な要素であるニッケルを任意成分とする動機付けは存在しない。
更に、このことは、甲第2号証~甲第5号証の記載事項に左右されるものではないから、引用発明3のニッケルを任意成分として上記相違点3に係る構成を備えることは、当業者が容易に想到し得るものではない。
このため、上記相違点4について検討するまでもなく、本件発明7は、引用発明3及び甲第1号証~甲第5号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(イ-3)本件発明8と引用発明4との対比・判断
本件発明8における「電子回路基板」は、本件明細書の【0008】によれば、自動車のエンジンルームで用いられる部品がはんだ付けされたものを含むといえるから、引用発明4の「車載電子回路基板およびECU電子回路基板」を包含するものと認められる。
そして、上記(イ-1)で行った検討を踏まえて、本件発明8と引用発明4とを対比すると、両者は、少なくとも上記相違点3と同じ相違点を有する。
そして、上記相違点3についての判断は、上記(イ-2)(ア)に記載したとおりである。
したがって、本件発明8は、引用発明4及び甲第1号証~甲第5号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(イ-4)無効理由2についてのむすび
以上のとおりであるから、無効理由2は理由がない。
第9 無効理由3について
無効理由3は、本件特許の請求項2に係る発明は、明細書の発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないから、特許法第36条第6項第1号の規定に違反するものであり、このことは、請求項2を引用する請求項3~8に係る発明についても同様であることをいうものである。
ところが、本件訂正が認められることは上記第2の3に記載のとおりであって、無効理由3の対象とされる請求項2は削除されるものとなったので、無効理由3はその対象が存在しないから、理由がない。
第10 むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件発明7~8の特許を無効とすることはできない。
請求項2~6については、訂正により削除されたため、本件特許の請求項2~6に対して請求人がした本件審判の請求については対象となる請求項が存在しない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
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2016-800040