特許異議申立
2016-701034
繊維製造用材料および繊維
- 審判番号
- 2016-701034
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2011-253883外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2016年11月07日
- 審決日
- 2017年03月31日
- 公報発行日
- 2017年05月26日
- 結論
- 維持
- 分類
- P1652.121-Y (D01F) / P1652.537-Y (D01F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条、特許法第36条
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第5914927号発明「繊維製造用材料および繊維」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第5914927号の請求項1ないし2、4に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
1.手続の経緯
特許第5914927号の請求項1ないし2、4に係る特許についての出願は、平成23年11月21日に特許出願され、平成28年4月15日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人東レ株式会社により特許異議の申立てがされ、当審において平成28年12月20日付けで取消理由を通知し、平成29年2月17日付けで意見書が提出されたものである。
2.本件発明
【請求項1】
下記(a)、(b)の要件を満たす液晶ポリエステルからなり、
前記液晶ポリエステルは、下記式(1)、下記式(2)及び下記式(3)で表される繰返し単位を有する繊維製造用材料。
(a)重量平均分子量が30000以下であり、且つ多分散度が2.5以下である。
(b)流れ特性試験機を用い、ノズルの孔径0.5mm、せん断速度1000s-1の条件で360℃にて測定した溶融粘度が、70Pa・s以下である。
(1)-O-Ar1-CO-
(2)-CO-Ar2-CO-
(3)-X-Ar3-Y-
(Ar1は、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基を表す。Ar2及びAr3は、それぞれ独立に、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記式(4)で表される基を表す。X及びYは、それぞれ独立に、酸素原子又はイミノ基(-NH-)を表す。Ar1、Ar2又はAr3で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、炭素数1~10のアルキル基または炭素数6~20のアリール基で置換されていてもよい。)
(4)-Ar4-Z-Ar5-
(Ar4及びAr5は、それぞれ独立に、フェニレン基又はナフチレン基を表す。Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基を表す。)
【請求項2】
前記液晶ポリエステルは、Ar1が1,4-フェニレン基である式(1)で表される繰返し単位と、Ar2が1,4-フェニレン基または1,3-フェニレン基である式(2)で表される繰返し単位と、Ar3が4,4’-ビフェニリレン基である式(3)で表される繰返し単位とを含む請求項1に記載の繊維製造用材料。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の繊維製造用材料を紡糸して得られた繊維。
3.取消理由の概要
当審において、請求項1ないし2、4に係る特許に対して通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
1)本件特許の請求項1、2、4に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
2)本件特許の請求項1、2、4に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
3)本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
記
甲1:特開平6-192406号公報
甲2:特表2009-510195号公報
甲3:"Anisotropic Polymers, their Synthesis and Properties." Proceedings of the Robert A. Welch Conference on Chemical Research, XXVI. Synthetic Polymers. 1982年11月講演録
(29条)
請求項1、2、4に係る発明は、甲1又は甲3発明と同一。
請求項1、2、4に係る発明は、甲1、甲2、甲3発明のいずれかにより容易想到。
(36条)
請求項1、2、4に係る発明は、多くの種類の繰り返し単位を含むが、実施例として記載されているのは、一部にすぎないから、発明の詳細な説明の記載により支持されていない。
4.甲各号証の記載
甲1には、以下の発明が記載されている。
「繊維製造用液晶性ポリエステルであって、
対数粘度が1.0~3.0dl/g、多分散度(MW/MN)が3.0未満であり、
融点(Tm)+10℃の条件で、ずり速度1000(1/秒)で測定した溶融粘度が10~20000ポイズ(1~2000Pa・s)であり、
構造単位としてp-ヒドロキシ安息香酸を含み、
構造単位としてテレフタル酸、イソフタル酸を含み、
構造単位として4,4’-ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノンを含む、
液晶性ポリエステルから得られる繊維。」
甲2には、以下の発明が記載されている。
「様々な用途に用いられる液晶性ポリエステルであって、
14430のMn及び24780のMw、すなわち多分散度(Mw/Mn)が1.72であり、
融点よりも20~50℃高い温度で、1000/秒の剪断速度で測定した溶融粘度が1Pa・s以上であり、
構造単位として4-ヒドロキシ安息香酸(PHBA)を含み、
構造単位としてテレフタル酸、イソフタル酸を含み、
構造単位としてヒドロキノン及び4,4’-ビフェノールを含むもの。」
甲3には、以下の発明が記載されている。
「繊維製造用液晶性ポリエステルであって、
Mwが25000~60000、多分散度が2近傍であり、
PETの溶融粘度が測定できる温度で、1000/秒の剪断速度での溶融粘度が約50Pa・sであり、
構造単位として4-ヒドロキシ安息香酸を含み、
構造単位としてテレフタル酸、イソフタル酸を含み、
構造単位としてヒドロキノン及び4,4’-ビフェノールを含み、
紡糸繊維の強度は約10g/d、熱処理後の強度は2倍に達するもの。」
5.判断
(1)特許法第29条について
ア.請求項1に係る発明について
本件の請求項1に係る発明(以下「本件発明1」という。)は、段落0007、0090~0093の記載からみて、繊維強度の向上を課題として、繰返し単位、重量平均分子量、多分散度、溶融粘度を特定したものである。
イ.甲1発明によるもの
甲1発明の課題は、段落0004の記載からみて、優れた溶融流動性、光学異方性を有し、通常の成形方法により優れた機械物性を有する成形品を与えるのみならず、優れた溶融紡糸性を有する均質性の改良された液晶性ポリエステルを得ることを課題とするものであり、本件発明1とは、課題が異なる。
甲1発明は「重量平均分子量」の特定がなく、甲1に「重量平均分子量」に関する記載、示唆もない。
甲1発明の多分散度は「3.0未満」であり、本件発明1の「2.5以下」より広い範囲である。
本件特許明細書の段落0085~0093の比較例1は、多分散度が「2.61」で甲1発明の範囲のものであるが、引張強度は、本件発明1の実施例1、2よりも劣っている。
甲1発明の溶融粘度は「1~2000Pa・s」であり、本件発明1の「70Pa・s以下」より広い範囲である。
すなわち、本件発明1は、重量平均分子量、多分散度、溶融粘度を特定したことにより、繊維強度の向上という課題が解決されている。
よって、本件発明1は、甲1発明であるとも、甲1発明から容易想到とすることもできない。
ウ.甲2発明によるもの
甲2発明は、「繊維用」との特定はなく、その課題は、段落0006の記載からみて、単純でより速く、より安価な重合プロセスとすることを課題とするものであり、本件発明1とは、用途、課題が異なる。
甲2発明は「重量平均分子量」の特定がなく、甲2に「重量平均分子量」に関する記載、示唆もない。
甲2発明の溶融粘度は「1Pa・s以上」であり、段落0047には「特に好ましくは100Pa・s以上」とされる。甲2発明では、大きいことが好ましく、本件発明1の「70Pa・s以下」とは、技術思想が異なる。
すなわち、本件発明1は、重量平均分子量、多分散度、溶融粘度を特定したことにより、「繊維用」において、繊維強度の向上という課題が解決されている。
よって、本件発明1は、甲2発明から容易想到とすることはできない。
エ.甲3発明によるもの
甲3は、非等方性ポリマに関する講演録であり、特定の用途、課題に関するものではなく、本件発明1の課題を示すものではない。
甲3発明の重量平均分子量は「25000~60000」であり、本件発明1の「30000以下」より広い範囲である。
本件特許明細書の段落0085~0093の比較例1は、重量平均分子量が「33900」で甲3発明の範囲のものであるが、引張強度は、本件発明1の実施例1、2よりも劣っている。
甲3発明の溶融粘度は、測定条件等、本件発明1の溶融粘度に対応するものか、明らかでない。
すなわち、本件発明1は、重量平均分子量、多分散度、溶融粘度を特定したことにより、繊維強度の向上という課題が解決されている。
よって、本件発明1は、甲3発明であるとも、甲3発明から容易想到とすることもできない。
オ.本件発明2、4
本件発明2、4は、本件発明1を減縮したものであるから、本件発明1と同様の理由で、甲1発明、甲3発明であるとも、甲1発明、甲2発明、又は甲3発明から容易想到とすることもできない。
(2)特許法第36条について
繰り返し単位については、本件特許明細書の段落0028~0030、0037~0043に、多くの種類について具体的に説明がされている。
また、液晶性ポリエステルから得られる繊維については、甲1、甲3、乙1~3にみられるように、多くの文献がある。
そうすると、本件特許明細書の記載、技術常識を踏まえれば、本件発明1、2、4は、発明の詳細な説明に記載されていると言える。
申立人は、実施例の記載が、実施例1、2のみである旨主張するが、実施例の数が少ないことをもって、発明の詳細な説明に記載されていないとすることはできない。
なお、申立書21ページ下から2行~22ページ5行の理由については、本件発明1が甲2発明と同一であることを前提とする主張であるが、申立人は29条の主張において、甲2発明と同一であるとは主張していないから、前提において誤りであり、取消理由に採用しなかった。
6.むすび
したがって、請求項1ないし2、4に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1ないし2、4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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