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特許異議申立

2024-700891

収縮性バイオポリマー繊維の使用

審判番号
2024-700891
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2022-018539
登録番号
7454002
請求日
2024年09月17日
審決日
2025年10月10日
公報発行日
2026年01月30日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】アムシルク・ゲーエムベーハー
  • 【権利者代理人】上田 邦生
  • 【異議申立人】寺澤 佳奈美
審判長/審判官
  • 審判長 神山 茂樹
  • 審判官 長清 吉範
  • 審判官 金丸 治之
分類
P1651.121-YAA(D01F) / P1651.536-YAA(D01F) / P1651.537-YAA(D01F)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法120条の8第1項特許法135条
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の8第1項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7454002号発明「収縮性バイオポリマー繊維の使用」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7454002号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕、〔7~15〕について訂正することを認める。 特許第7454002号の請求項1~4、6~11、13~15に係る特許を維持する。 特許第7454002号の請求項5及び12に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7454002号の請求項1~15に係る特許についての出願(特願2022-18539号)は、平成29年11月9日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2016年11月11日、欧州)を国際出願日とする出願である特願2019-525004号の一部を令和4年2月9日に新たな特許出願としたものであって、令和6年3月12日にその特許権の設定登録がされ、令和6年3月21日に特許掲載公報が発行された。 本件の特許異議の申立てに係る手続の経緯の概要は、次のとおりである。 令和6年 9月17日 :特許異議申立人寺澤佳奈美(以下「申立人」という。)による請求項1~15に係る特許に対する本件特許異議の申立て 令和7年 1月31日付け:取消理由通知書 令和7年 4月22日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出 令和7年 6月18日 :令和7年4月22日に提出した訂正請求書に対する手続補正書(方式)の提出(以下、この手続補正書(方式)によって補正された令和7年4月22日に提出された訂正請求書による訂正の請求を「本件訂正請求」といい、訂正自体を「本件訂正」という。) 令和7年 7月23日 :申立人による意見書の提出 第2 本件訂正の適否 1 本件訂正の内容 本件訂正請求の趣旨は、「特許第7454002号の特許請求の範囲を本件請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~15について訂正することを求める。」ものであり、本件訂正の内容は、訂正箇所に下線を付して示すと、次のとおりである。 (1)訂正事項1 本件訂正前の請求項1に記載された 「前記繊維が、溶媒との接触後に、」を、 「前記繊維が、pH6~8の水溶液との接触後に、」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2~4及び6も同様に訂正する。)。 (2)訂正事項2 本件訂正前の請求項1に記載された 「その全長に対して少なくとも10%収縮し、」を、 「成形物品上または人間の身体部位上において、その全長に対して少なくとも10%収縮し、」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2~4及び6も同様に訂正する。)。 (3)訂正事項3 請求項5を削除する。 (4)訂正事項4 本件訂正前の請求項6に記載された 「請求項1から請求項5のいずれかに記載の組換えクモ糸ポリペプチド繊維の使用。」を、 「請求項1から請求項4のいずれかに記載の組換えクモ糸ポリペプチド繊維の使用。」に訂正する。 (5)訂正事項5 本件訂正前の請求項7に記載された 「前記物体を溶媒と接触させ、前記繊維が、前記物体の前記溶媒との接触後に、」を、 「前記物体をpH6~8の水溶液と接触させ、前記繊維が、前記物体の前記水溶液との接触後に、」に訂正する(請求項7の記載を直接的又は間接的に引用する請求項8~11、13~15も同様に訂正する。)。 (6)訂正事項6 本件訂正前の請求項7に記載された 「その全長に対して少なくとも10%収縮し、」を、 「成形物品上または人間の身体部位上において、その全長に対して少なくとも10%収縮し、」に訂正する(請求項7の記載を直接的又は間接的に引用する請求項8~11、13~15も同様に訂正する。)。 (7)訂正事項7 請求項12を削除する。 (8)訂正事項8 本件訂正前の請求項13に記載された 「請求項7から請求項12のいずれかに記載の方法。」を、 「請求項7から請求項11のいずれかに記載の方法。」に訂正する(請求項13の記載を直接的又は間接的に引用する請求項14及び15も同様に訂正する。)。 (9)訂正事項9 本件訂正前の請求項14に記載された 「請求項7から請求項13のいずれかに記載の方法。」を、 「請求項7から請求項11または請求項13のいずれかに記載の方法。」に訂正する(請求項14の記載を引用する請求項15も同様に訂正する。)。 (10)訂正事項10 本件訂正前の請求項15に記載された 「請求項7から請求項14のいずれかに記載の方法。」を、 「請求項7から請求項11、請求項13または請求項14のいずれかに記載の方法。」に訂正する。 2 一群の請求項について 本件訂正前の請求項1~6は、請求項2~6が、本件訂正前の請求項1の記載を引用する関係にあるから、訂正事項1及び訂正事項2によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであり、訂正前の請求項1~6は、一群の請求項である。 また、本件訂正前の請求項7~15は、請求項8~15が、本件訂正前の請求項7の記載を引用する関係にあるから、訂正事項5及び訂正事項6によって記載が訂正される請求項7に連動して訂正されるものであり、訂正前の請求項7~15は、一群の請求項である。 そうすると、本件訂正請求は、一群の請求項〔1~6〕、〔7~15〕について請求されたものである。 3 訂正の目的、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の適否について (1)訂正事項1について 訂正事項1は、本件訂正前の請求項1の「組換えクモ糸ポリペプチド繊維の使用」における繊維に接触する「溶媒」について「pH6~8の水溶液」と限定したものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 訂正事項1は、本件特許の明細書の【0065】の記載に基づくものであるから、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてするものである。 また、訂正事項1は、発明のカテゴリーや対象を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (2)訂正事項2について 訂正事項2は、本件訂正前の請求項1の「組換えクモ糸ポリペプチド繊維の使用」における繊維が「その全長に対して少なくとも10%収縮」することについて「成形物品上または人間の身体部位上において」収縮することを限定したものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 訂正事項2は、本件特許の明細書の【0209】及び【0210】の記載に基づくものであるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。 また、訂正事項2は、発明のカテゴリーや対象を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (3)訂正事項3について 訂正事項3は、請求項5を削除するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 訂正事項3は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。 また、訂正事項3は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (4)訂正事項4について 訂正事項4は、請求項6の引用請求項から請求項5を削除するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、訂正事項3によって削除された請求項5を引用するという明瞭でない状態を解消するものであり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 訂正事項4は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。 また、訂正事項4は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (5)訂正事項5について 訂正事項5は、本件訂正前の請求項7の「物体を成形する方法」における繊維に接触する「溶媒」について「pH6~8の水溶液」と限定したものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 訂正事項5は、本件特許の明細書の【0065】の記載に基づくものであるから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。 また、訂正事項5は、発明のカテゴリーや対象を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (6)訂正事項6について 訂正事項6は、本件訂正前の請求項7の「物体を成形する方法」における繊維が「その全長に対して少なくとも10%収縮」することについて「成形物品上または人間の身体部位上において」収縮することを限定したものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 訂正事項6は、本件特許の明細書の【0209】及び【0210】の記載に基づくものであるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。 また、訂正事項6は、発明のカテゴリーや対象を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (7)訂正事項7について 訂正事項7は、請求項12を削除するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 訂正事項7は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。 また、訂正事項7は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (8)訂正事項8~10について 訂正事項8~10は、請求項13~15の引用請求項から請求項12を削除するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、訂正事項7によって削除された請求項12を引用するという明瞭でない状態を解消するものであり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 訂正事項8~10は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。 また、訂正事項8~10は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 4 小括 以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕、〔7~15〕について訂正することを認める。 第3 本件発明 上記第2のとおり本件訂正が認められたから、本件特許の請求項1~4、6~11、13~15に係る発明(以下「本件発明1」等という。また、本件発明1~4、6~11、13~15を「本件発明」と総称することもある。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~4、6~11、13~15に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。 「【請求項1】 衣料品または靴を成形するための、組換えクモ糸ポリペプチド繊維の使用であって、 前記衣料品または靴が、前記組換えクモ糸ポリペプチド繊維を含むか、または前記組換えクモ糸ポリペプチド繊維からなり、 前記繊維が、pH6~8の水溶液との接触後に、成形物品上または人間の身体部位上において、その全長に対して少なくとも10%収縮し、それにより、前記衣料品または靴を成形する、組換えクモ糸ポリペプチド繊維の使用。 【請求項2】 前記衣料品または靴が、特別設計および/またはカスタマイズされた衣料品または靴である、請求項1に記載の組換えクモ糸ポリペプチド繊維の使用。 【請求項3】 前記衣料品または靴を成形することは、前記衣料品または靴を収縮させること、前記衣料品または靴を圧縮すること、および、前記衣料品または靴のサイズを低減すること、の少なくとも1つを含む、請求項1または請求項2に記載の組換えクモ糸ポリペプチド繊維の使用。 【請求項4】 前記繊維が、溶媒との第1の接触後に、その全長に対して少なくとも25%の収縮を示す、請求項1から請求項3のいずれかに記載の組換えクモ糸ポリペプチド繊維の使用。」 「【請求項6】 前記組換えクモ糸ポリペプチドが、(C)m、(CCys)m、(Ckappa)m、(C)mCCys、CCys(C)m、(C)mCCys(C)m、(C)mNRz、NRz(C)m、およびNRz(C)mNRzからなる群から選択され、 ここで、Cは、配列番号1に従う配列を有するモジュールC、または、これに対して少なくとも94%の配列同一性を有するその変異型を表し、 mは、8から96の整数であり、 zは、1から3の整数であり、 NRは、非反復単位を表す、請求項1から請求項4のいずれかに記載の組換えクモ糸ポリペプチド繊維の使用。 【請求項7】 物体を成形する方法であって、 (i)組換えクモ糸ポリペプチド繊維を含むか、または組換えクモ糸ポリペプチド繊維からなる物体を用意するステップと、 (ii)組換えクモ糸ポリペプチド繊維を含むか、または組換えクモ糸ポリペプチド繊維からなる前記物体をpH6~8の水溶液と接触させ、前記繊維が、前記物体の前記水溶液との接触後に、成形物品上または人間の身体部位上において、その全長に対して少なくとも10%収縮し、それにより該物体を成形するステップと、を含み、 前記物体が衣料品または靴である、方法。 【請求項8】 前記収縮が、前記物体の前記溶媒との第1の接触後、3~200秒の間で開始する、請求項7に記載の方法。 【請求項9】 前記収縮が、前記物体の前記溶媒との第1の接触後、4~120秒の間で開始する、請求項8に記載の方法。 【請求項10】 前記繊維が、10%~50%の間の収縮を示す、請求項7から請求項9のいずれかに記載の方法。 【請求項11】 前記収縮が、前記収縮の開始後、30~700秒の間の時間範囲の後に、少なくとも80%まで完了する、請求項7から請求項10のいずれかに記載の方法。」 「【請求項13】 前記衣料品または靴が、特別設計および/またはカスタマイズされた衣料品または靴である、請求項7から請求項11のいずれかに記載の方法。 【請求項14】 前記衣料品または靴を成形することは、前記衣料品または靴を収縮させること、前記衣料品または靴を圧縮すること、および、前記衣料品または靴のサイズを低減すること、の少なくとも1つを含む、請求項7から請求項11または請求項13のいずれかに記載の方法。 【請求項15】 前記組換えクモ糸ポリペプチドが、(C)m、(CCys)m、(Ckappa)m、(C)mCCys、CCys(C)m、(C)mCCys(C)m、(C)mNRz、NRz(C)m、およびNRz(C)mNRzからなる群から選択され、 ここで、Cは、配列番号1に従う配列を有するモジュールC、または、これに対して少なくとも94%の配列同一性を有するその変異型を表し、 mは、8から96の整数であり、 zは、1から3の整数であり、 NRは、非反復単位を表す、請求項7から請求項11、請求項13または請求項14のいずれかに記載の方法。」 第4 取消理由通知に記載した取消理由について 1 取消理由の概要 本件訂正前の請求項1~15に係る特許に対して、当審が特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。 (1)取消理由1(実施可能要件) 本件特許は、明細書の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 発明の詳細な説明では、「収縮」という処理を適用するにあたっての、収縮に使用する溶媒の選択や、適用温度、適用時間及びその他の条件の選択により、実際の「衣料品または靴」の収縮が適切に行うことができるか否かについて把握するための、選択する条件による収縮挙動の態様を明らかとするような計算及びシミュレーションを行っているわけでなく、さらに「衣料品または靴」を「成形する」という実施例を示しているものでもない。すなわち、発明の詳細な説明の記載により、当業者がその記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、請求項1~15に係る発明を実施できるものとは到底いえない。 (2)取消理由2(サポート要件) 本件特許は、特許請求の範囲の請求項1~15の記載が以下の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 発明の詳細な説明では、「収縮」という処理を適用するにあたっての、収縮に使用する溶媒の選択や、適用温度、適用時間及びその他の条件の選択により、実際の「衣料品または靴」の収縮が適切に行うことができるか否かについて把握するための、選択する条件による収縮挙動の態様を明らかとするような計算及びシミュレーションを行っているわけでなく、さらに「衣料品または靴」を「成形する」という実施例を示しているものでもない。すなわち、発明の詳細な説明の記載により、当業者であっても「組換えクモ糸ポリペプチド繊維」を収縮し「衣料品または靴」を「成形する」ことはできず、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえない。 (3)取消理由3(進歩性) 本件の請求項1~15に係る発明は、以下の甲4及び引1に記載された発明並びに甲6、引2及び引3に例示される周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 <引用文献等一覧> 甲4:特表2008-507260号公報(申立人の提示した甲第4号証) 引1:特開平6-98771号公報(当審で引用した文献) 甲6:特開平1-104872号公報(申立人の提示した甲第6号証) 引2:特開2001-279571号公報(当審で引用した文献) 引3:特開2003-193356号公報(同上) 2 取消理由通知に記載した取消理由についての当審の判断 当審合議体は、上記取消理由で通知した取消理由1~3によっては、本件発明1~4、6~11、13~15に係る特許は取り消されるべきものではないと判断する。 (1)引用文献の記載及び引用発明 ア 甲4 (ア)甲4の記載 甲4には、以下の記載がある。(下線は当審で付した。「・・・」は記載の省略を示す。以下同様。) 「【請求項1】 配列番号1または2の核酸配列によって、あるいはこれらの核酸配列の変異体によってコードされるアミノ酸を含むクモのドラグラインタンパク質であって、中程度に厳しい条件下において変異体が配列番号1または2の配列を含む核酸とハイブリッド形成するか、あるいは遺伝子コードの縮退に起因する核酸の変更であって、配列番号1または2として前記アミノ酸と同じ、もしくは機能的に等価なアミノ酸をコードする核酸の変更を変異体が含むならば、変異体は、配列番号1または2の配列と比較して1つまたは複数の置換、挿入および/または欠失を有するものと定義されるクモのドラグラインタンパク質。 ・・・ 【請求項7】 請求項1から請求項4の一項または複数項に記載のタンパク質/糸および他の繊維を含み、該繊維はクモ起源のものではなく、好ましくは植物起源の繊維または合成繊維である糸または繊維。」 「【0039】 本発明の状況においては、以下の段階を含むクモのドラグラインタンパク質の糸の製造方法を使用することができる。 a)前記で定義されたクモのドラグラインタンパク質を発現させる工程、 b)該タンパク質を取り出す工程、および c)該タンパク質を適当な方法によって糸に紡糸する工程。 【0040】 段階c)においては、当業に周知の紡糸方法が使用されてもよい。たとえば、スパイダーシルクタンパク質のドープ溶液は、糸疣(出糸突起)を通して押し出されてバイオフィラメントを形成する。得られたバイオフィラメントは、引き出されたり、延伸されたりすることができる。バイオフィラメント中に結晶性および無定形の両方の分子配列が存在するときはいつでも、引き出しまたは延伸は、分子を配向させるのに十分なせん断応力を与えて分子をフィラメントの壁に対してより並行にし、バイオフィラメントの引張り強度および靭性を高める。 ・・・ 【0045】 「バイオフィラメント」は、組換え技術によって作られたスパイダーシルクタンパク質を含むタンパク質から作られた(たとえば、紡糸された)フィラメントを意味する。 スパイダーシルクタンパク質繊維を紡糸する方法に関するより詳細な情報は、2003年7月24日発行の国際公開第03060099号パンフレット(カラツァスら(Karatzas et al.))で見出すことができ、これを参照により本願に援用する。」 「【0057】 加えて、本発明の糸/繊維は、医療用接着テープ、植皮、代用靭帯、外科用網などの医療用品の製造において、および衣料用織物、防弾ベストの内張り、容器用織物、バッグまたは財布用ストラップ、ケーブル、ロープ、接着性結束材、非接着性結束材、紐用材料、乗り物カバーおよび部品、建設材料、コンクリート、塗料、ポリシロキサン、耐候性材料、フレキシブル・パーティション材料、スポーツ器具などの広い範囲の工業製品および商業製品において、また、高い引張り強さおよび弾力性が望まれる特徴である繊維または織物の、事実上ほとんどあらゆる用途において使用可能である。他の形態の安定な繊維製品の適合性および用途、たとえばドライスプレー塗料、ビーズ様粒子、または他の組成物との混合物における用途も本発明において意図されている。」 「【0067】 Sf9細胞中で形成されるフィラメントの寸法は細胞の容積によって制約されるようであり、これらのフィラメントは通常、シルク糸について行われる力学的な力の測定のためには短すぎるものとなる(21)。しかし、本発明者らは、濡れた、または乾燥したADF-4フィラメントの化学的な安定性を、ニワオニグモ(A.diadematus)の天然しおり糸と比較して解析することができた。しおり糸は、多くの変性剤中に不溶であると報告されてきた(22)。2%のドデシル硫酸ナトリウム(SDS)および8Mの尿素の適用は、30秒の暴露後にADF-4フィラメントおよびしおり糸の構造に対して明らかに影響しない(図3、データは示していない)。フィラメントの、6Mの塩化グアニジウム(GdmCl)中への浸漬は、ADF-4フィラメントおよびしおり糸のいずれの可溶化にも至らなかったが、しおり糸の膨潤には至った。このような膨潤は、以前に水性溶液中に浸漬されたスパイダーシルクについて記載されている繊維の超収縮(21)に起因すると考えられ、これは非晶質マトリックス中の水素結合の再形成(組換え)の結果である(21)。前記で言及した変性剤とは対照的に、6MのGdmSCNの1つの小滴が、数秒間以内にADF-4フィラメントもしおり糸も同様に完全に溶解させた(図3)。その結果、本発明者らは、両方の構造が特定の変性剤に対する化学的抵抗性の原因となる同じ分子相互作用を持つと結論している。」 (イ)甲4に記載されていると認められる事項 a 【0057】の「加えて、本発明の糸/繊維は、・・・衣料用織物・・・などの広い範囲の工業製品および商業製品において、・・・使用可能である。」という記載における「本発明の糸/繊維は」、【請求項1】の「・・・クモのドラグラインタンパク質。」【請求項7】の「請求項1から請求項4の一項または複数項に記載のタンパク質/糸および他の繊維を含み、・・・糸または繊維。」という記載から、「クモのドラグラインタンパク質を含む糸」ということができることは明らかである。 b 【0057】の「加えて、本発明の糸/繊維は、・・・衣料用織物・・・などの広い範囲の工業製品および商業製品において、・・・使用可能である。」の記載から、「衣料用織物に対」して、「本発明の糸/繊維」(クモのドラグラインタンパク質を含む糸)を「使用」すること、とともに、「本発明の糸/繊維」(クモのドラグラインタンパク質を含む糸)を使用することによって「衣料用織物」とする方法についても記載されているに等しいと認める。 (ウ)引用発明 よって、甲4には、以下の発明(以下「引用発明1」及び「引用発明2」という。)が記載されていると認める。 [引用発明1] 「衣料用織物に対する、クモのドラグラインタンパク質を含む糸の使用であって、 前記衣料が、クモのドラグラインタンパク質を含む糸を含む、 クモのドラグラインタンパク質を含む糸の使用。」 [引用発明2] 「衣料用織物とする方法であって、 (i)クモのドラグラインタンパク質を含む糸を使用した衣料用織物を用意するステップを含む、方法。」 イ 引1 (ア)引1の記載 引1には、以下の記載がある。 「【0046】クモしおり糸絹糸はいくつかの変わった性質を示す。具体的には、引張強度が鋼や炭素繊維より大きいこと(200ksi)、弾性が一部のナイロンと同程度に大きいこと(35%)、剛性が絹と同程度に低いこと(0.6msi)、水中で超収縮能力を示すこと(長さが最大60%減少する)などが挙げられる。これらの性質は他の材料では見られない。本発明の新規材料は非常に軽量の材料中でこれらの特性を与えるものである。本発明のクローン化タンパク質がこの絹糸の主成分である。」 (イ)引1に記載されていると認められる事項 上記(ア)により、引用文献1には、以下の技術事項(以下「引1記載事項」という。)が記載されていると認める。 「クモしおり糸絹糸は、水中で超収縮能力を示すこと。」 ウ 周知技術 (ア)甲6の記載 甲6には、以下の記載がある。 「2.特許請求の範囲 (1) 少なくとも一部分に嵩高糸と強撚糸とから成る複合糸を用いた絹織物の織成に際し、予じめ経、緯の収縮率を見込んだ規格により製織し、しかる後、90~150℃の温度で湿熱セットを施すことを特徴とする防縮性絹織物の製造法。」 (イ)引2の記載 引2には、以下の記載がある。 「【請求項2】天然繊維もしくは合成繊維またはその混紡繊維糸条よりなる布帛の経緯両方向に合成繊維長繊維糸条から加工された伸縮性嵩高加工糸をカバーリングした高度に延伸された弾性糸条を交織して製布した交織布帛に,捺染し,縫製した後,湿熱処理して収縮させるすることを特徴とする繊維製品の製造方法。 ・・・ 【請求項4】捺染交織布帛を縫製した後,所定のサイズ及び立体形状が顕現されるまで,80℃以上の熱水浴中で5分以上湿熱処理することにより交織した弾性糸の収縮を促進することを特徴とする請求項2記載の繊維製品の製造方法。」 (ウ)引3の記載 引3には、以下の記載がある。 「【請求項3】 80dtex以上であって、1000dtex以下であるモノフィラメントである磁性を有する非弾性糸と、 10dtex以下の繊維よりなり、糸としてのトウタル繊度が30dtex以上であって1000dtex以下である非弾性糸と、 20dtex以上であって3000dtex以下の弾性糸との、少なくとも3種類の糸を編成してニットとする工程と、 該ニットを温水中で収縮する工程を有する、抗菌防臭ニット製品の製造方法。」 (エ)周知技術について 上記(ア)~(ウ)より、以下の技術事項は周知技術(以下「周知技術」という。)と認める。 「繊維製品を収縮することによって成形すること」 (2)理由1(実施可能要件)について 実施可能要件を満たすためには、明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が、その記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、請求項に係る発明を実施できる程度のものでなければならない。以下検討する。 ア 本件特許の請求項に係る発明について 本件特許の請求項1に係る発明は、「衣料品または靴を成形するための、組換えクモ糸ポリペプチド繊維の使用であって、前記衣料品または靴が、前記組換えクモ糸ポリペプチド繊維を含むか、または前記組換えクモ糸ポリペプチド繊維からなり、前記繊維が、pH6~8の水溶液との接触後に、成形物品上または人間の身体部位上において、その全長に対して少なくとも10%収縮し、それにより、前記衣料品または靴を成形する、組換えクモ糸ポリペプチド繊維の使用。」であり、請求項7に係る発明は、「物体を成形する方法であって、(i)組換えクモ糸ポリペプチド繊維を含むか、または組換えクモ糸ポリペプチド繊維からなる物体を用意するステップと、(ii)組換えクモ糸ポリペプチド繊維を含むか、または組換えクモ糸ポリペプチド繊維からなる前記物体をpH6~8の水溶液と接触させ、前記繊維が、前記物体の前記水溶液との接触後に、成形物品上または人間の身体部位上において、その全長に対して少なくとも10%収縮し、それにより該物体を成形するステップと、を含み、前記物体が衣料品または靴である、方法。」である。 すなわち、請求項1及び請求項1を引用する請求項2~4、6並びに請求項7及び請求項7を引用する請求項8~11、13~15に係る発明は、いずれも、「組換えクモ糸ポリペプチド繊維」を「成形物品上または人間の身体部位上において、その全長に対して少なくとも10%収縮し」、それにより「衣料品または靴」を「成形する」という発明特定事項を含むものといえる。 イ 発明の詳細な説明の記載は、当業者が、過度の試行錯誤を要することなく、請求項に係る発明を実施できる程度のものであるか否かの検討 本件特許の発明の詳細な説明の【0209】には、「代替として、または追加的に、本発明の第5の態様の方法は、物体を固定するステップをさらに含む。物体が成形物品に装着される場合、物体は、固定後に前記物品から取り外されてもよい。物体の固定は、形成された物体がその形態/形状を、特に物体が成形物品上で形成した形態/形状をそれ以上変化させないという効果を有する。」と、【0210】には、「上述のように、物体はまた、生きている人間の身体部位に、例えば、成形される物体がバンデージ、ストッキングまたは靴である場合には、人間の脚/足に装着されてもよい。」と記載されている。物体に固定することによって、当該物体に倣った形状に「成形」し得ることは技術常識といえることから、これらの記載をふまえると、当業者が、過度の試行錯誤を要することなく、請求項に係る発明を実施できる程度のものであるといえる。 ウ 小括 よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1~4、6~11、13~15に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものである。 (3)理由2(サポート要件)について 特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。以下検討する。 ア 発明の課題 本件特許に係る発明が解決しようとする課題は、本件特許の発明の詳細な説明の【0016】の記載から、「物体を成形するための収縮性バイオポリマー繊維の使用」を提供すること、また、本件特許の発明の詳細な説明の【0017】の記載から、「物体を成形する方法であって、(i)収縮性バイオポリマー繊維を含むか、または収縮性バイオポリマー繊維からなる物体を用意するステップと、(ii)該物体を溶媒と接触させ、それにより物体を成形するステップと、を含む方法」を提供することである。 イ 発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か 本件特許の請求項1及び請求項7に係る発明は、本件特許の請求項1及び請求項7に記載のとおりのものであり、請求項1及び請求項1を引用する請求項2~4、6並びに請求項7及び請求項7を引用する請求項8~11、13~15に係る発明は、いずれも、「組換えクモ糸ポリペプチド繊維」を収縮し「衣料品または靴」を「成形する」という発明特定事項を含むものといえる。ここで、請求項1~4、6~11、13~15に記載の「組換えクモ糸ポリペプチド繊維」及び「衣料品または靴」は、上記アで示した本件特許に係る発明が解決しようとする課題における「収縮性バイオポリマー繊維」及び「物体」を、具体的に限定するものである。すなわち、本事案において、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討するとは、上記アの本件特許に係る発明が解決しようとする課題とも併せて鑑みると、発明の詳細な説明により当業者が「組換えクモ糸ポリペプチド繊維」を「成形物品上または人間の身体部位上において、その全長に対して少なくとも10%収縮し」、それにより「衣料品または靴」を「成形する」ことができるか否かを検討することといえる。 そして、本件特許の発明の詳細な説明の【0209】には、「代替として、または追加的に、本発明の第5の態様の方法は、物体を固定するステップをさらに含む。物体が成形物品に装着される場合、物体は、固定後に前記物品から取り外されてもよい。物体の固定は、形成された物体がその形態/形状を、特に物体が成形物品上で形成した形態/形状をそれ以上変化させないという効果を有する。」と、【0210】には、「上述のように、物体はまた、生きている人間の身体部位に、例えば、成形される物体がバンデージ、ストッキングまたは靴である場合には、人間の脚/足に装着されてもよい。」と記載されており、ここで、物体に固定することによって、当該物体に倣った形状に「成形」し得ることは技術常識といえる。そうすると、特許請求の範囲の記載は、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。 ウ 小括 よって、請求項1~4、6~11、13~15に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものである。 (4)理由3(進歩性)について ア 本件発明1について (ア)対比 本件発明1と引用発明1を対比する。 引用発明1の「衣料」は、本件発明1の「衣料品または靴」に相当し、引用発明1の「クモのドラグラインタンパク質を含む糸」は、本件発明1の「組換えクモ糸ポリペプチド繊維」と、「クモ糸由来の繊維」である限りにおいて一致する。 そうすると、引用発明1の「衣料用織物に対する、クモのドラグラインタンパク質を含む糸の使用」は、本件発明1の「衣料品または靴を成形するための、組換えクモ糸ポリペプチド繊維の使用」と「衣料品または靴を成形するための、クモ糸由来の繊維の使用」である限りにおいて一致する。 また、引用発明1の「前記衣料用織物が、クモのドラグラインタンパク質を含む糸を含」むことは、本件発明1の「前記衣料品または靴が、前記組換えクモ糸ポリペプチド繊維を含むか、または前記組換えクモ糸ポリペプチド繊維からな」ることと、「前記衣料品または靴が、クモ糸由来の繊維を含む」限りにおいて一致する。 以上より、本件発明1と引用発明1との一致点及び相違点は、次のとおりである。 <一致点1> 「衣料品または靴を成形するための、クモ糸由来の繊維の使用であって、 前記衣料品または靴が、クモ糸由来の繊維を含む、 クモ糸由来の繊維の使用。」 <相違点4-1> クモ糸由来の繊維について、本件発明1が「組換えクモ糸ポリペプチド繊維」であるのに対し、引用発明1は「クモのドラグラインタンパク質を含む糸」である点。 <相違点4-2> 本件発明1が「繊維が、pH6~8の水溶液との接触後に、成形物品上または人間の身体部位上において、その全長に対して少なくとも10%収縮し、それにより、前記衣料品または靴を成形する、」のに対し、引用発明1では、当該構成を有しない点。 (イ)判断 事案に鑑み<相違点4-2>から検討する。 <相違点4-2>について 引用発明1は「衣料用織物に対する、クモのドラグラインタンパク質を含む糸の使用」であるものの、当該「クモのドラグラインタンパク質を含む糸」をいかに成形し、「衣料」を得るかについては示されていないものである。 ここで、甲4の【0067】には、「本発明者らは、濡れた、または乾燥したADF-4フィラメントの化学的な安定性を、ニワオニグモ(A.diadematus)の天然しおり糸と比較して解析することができた。・・・フィラメントの、6Mの塩化グアニジウム(GdmCl)中への浸漬は、ADF-4フィラメントおよびしおり糸のいずれの可溶化にも至らなかったが、しおり糸の膨潤には至った。このような膨潤は、以前に水性溶液中に浸漬されたスパイダーシルクについて記載されている繊維の超収縮(21)に起因すると考えられ、これは非晶質マトリックス中の水素結合の再形成(組換え)の結果である(21)。」と記載されている。当該記載からは、「水性溶液中に浸漬されたスパイダーシルクが超収縮する」ことが把握される。また、引1記載事項である「クモしおり糸絹糸は、水中で超収縮能力を示すこと。」も鑑みると、引用発明1の「クモのドラグラインタンパク質を含む糸」が、水性溶液により収縮する蓋然性が高いといえるものの、上記(1)ウ(エ)に示す周知技術を適用したとしても、「pH6~8の水溶液との接触後に、成形物品上または人間の身体部位上において」、「前記衣料品または靴を成形する」ことについては、当業者といえども容易に想到し得たことではない。 また、「組換えクモ糸ポリペプチド繊維」について、「pH6~8の水溶液との接触後に、成形物品上または人間の身体部位上において」、「前記衣料品または靴を成形する」ことについては、特許異議申立書及び令和7年7月23日に提出された意見書で示された、他のいずれの証拠にも記載されていない。 よって、引用発明1、引1記載事項及び周知技術に基いて、上記<相違点4-2>の本件発明1に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。 (ウ)小括 よって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、引用発明1、引1記載事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イ 本件発明2~4、6について 本件発明2~4、6は、本件発明1を引用し、本件発明1の発明特定事項を全て有したうえでさらに限定する発明である。 したがって、上記アと同様に、本件発明2~4、6は、引用発明1、引1記載事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ 本件発明7について (ア)対比 本件発明7と引用発明2を対比する。 引用発明2の「衣料」は、本件発明7の「物体」及び「衣料品または靴」に相当する。 そうすると、引用発明2の「衣料用織物とする方法」は、「衣料用織物」である以上、織物を衣料とすることについても実質的に示しているといえ、本件発明7の「物体を成形する方法」と「物体とする方法」である限りにおいて一致する。 また、引用発明2の「クモのドラグラインタンパク質を含む糸」は、本件発明7の「組換えクモ糸ポリペプチド繊維」と、「クモ糸由来の繊維」である限りにおいて一致する。 そうすると、引用発明2の「クモのドラグラインタンパク質を含む糸を使用した衣料用織物を用意するステップ」は、本件発明7の「組換えクモ糸ポリペプチド繊維を含むか、または組換えクモ糸ポリペプチド繊維からなる物体を用意するステップ」と「クモ糸由来の繊維を含む物体を用意するステップ」である限りにおいて一致する。 以上より、本件発明7と引用発明2との一致点及び相違点は、次のとおりである。 <一致点2> 「物体とする方法であって、 (i)クモ糸由来の繊維を含む物体を用意するステップを含み、 前記物体が衣料品または靴である、方法。」 <相違点4-1’> クモ糸由来の繊維について、本件発明7が「組換えクモ糸ポリペプチド繊維」であるのに対し、引用発明2は「クモのドラグラインタンパク質を含む糸」である点。 <相違点4-3> 本件発明7が「組換えクモ糸ポリペプチド繊維を含むか、または組換えクモ糸ポリペプチド繊維からなる前記物体をpH6~8の水溶液と接触させ、前記繊維が、前記物体の前記水溶液との接触後に、成形物品上または人間の身体部位上において、その全長に対して少なくとも10%収縮し、それにより該物体を成形するステップと、を含」み、「物体を成形する方法」を規定するのに対し、引用発明2では、当該構成は有しない点。 (イ)判断 事案に鑑み<相違点4-3>から検討する。 <相違点4-3>について 上記ア(イ)の「<相違点4-2>について」で説示したことと同様に、「組換えクモ糸ポリペプチド繊維を含むか、または組換えクモ糸ポリペプチド繊維からなる前記物体をpH6~8の水溶液と接触させ、前記繊維が、前記物体の前記水溶液との接触後に、成形物品上または人間の身体部位上において、その全長に対して少なくとも10%収縮し、それにより該物体を成形するステップと、を含」むことについては、当業者といえども容易に想到し得たことではない。 (ウ)小括 よって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明7は、引用発明2、引1記載事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 エ 本件発明8~11、13~15について 本件発明8~11、13~15は、本件発明7を引用し、本件発明7の発明特定事項を全て有したうえでさらに限定する発明である。 したがって、上記ウと同様に、本件発明8~11、13~15は、引用発明2、引1記載事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (5)まとめ 以上により、本件特許の明細書の記載に不備はなく、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではない。 また、特許請求の範囲の請求項1~4、6~11、13~15の記載に不備はなく、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではない。 さらに、本件の請求項1~4、6~11、13~15に係る発明は、取消理由通知で示した本件特許出願前に頒布された刊行物に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでないから、当該請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。 第5 取消理由通知に採用しなかった特許異議申立書に記載の申立理由について 1 取消理由通知で採用しなかった申立理由の概要について 取消理由通知で採用しなかった特許異議申立理由の概要は次のとおりである。 (1)申立理由1(甲1を主引用例とする進歩性) 本件特許の請求項1~15に係る発明は、甲1、甲4及び甲5に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 (2)申立理由2(甲2を主引用例とする進歩性) 本件特許の請求項1~15に係る発明は、甲2、甲4及び甲5に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 (3)申立理由3(甲3を主引用例とする進歩性) 本件特許の請求項1~15に係る発明は、甲3、甲4及び甲5に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 (4)申立理由4(甲5を主引用例とする進歩性) 本件特許の請求項1~15に係る発明は、甲5及び甲6に記載された発明並びに周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 <引用文献等一覧> 甲1:特開平7-278995号公報(申立人が提出した甲第1号証) 甲2:特開平9-119062号公報(同甲第2号証) 甲3:国際公開第2009/038321号(同甲第3号証) 甲4:特表2008-507260号公報(上記「甲4」) 甲5:国際公開第2009/135161号(申立人が提出した甲第5号証) 甲6:特開平1-104872号公報(上記「甲6」) 甲7:特開平1-246458号公報(申立人が提出した甲第7号証) 甲8:特開平2-242962号公報(同甲第8号証) 甲9:特開平3-213565号公報(同甲第9号証) 甲10:特開平6-294068号公報(同甲第10号証) 甲11:特開2012-246580号公報(同甲第11号証) 甲12:国際公開第2013/147590号(同甲第12号証) 2 取消理由通知で採用しなかった申立理由についての当審の判断 (1)引用文献の記載 ア 甲1 甲1の【0036】~【0039】の実施例2の記載をふまえると、甲1には以下の発明が記載されているものと認める。 [甲1発明] 「28番手双糸の生糸を用いて、糸密度が32(g/m)で、二重織の織物を製織し、 この織物を、タンニン酸50mg/リットル,アラビアガムHPG1g/リットルが溶解されている比重1.42の硝酸カルシウム溶液(液温度:80℃)に30~60秒間浸漬して塩縮処理を施し(【0037】)、 塩縮処理を施した織物は、湯洗浄後脱水、乾燥させた(【0038】)、 絹織物の肌着への使用及び絹織物による肌着の製造方法(【0036】)。」 イ 甲2 甲2の【0009】~【0010】の実施例の記載をふまえると、甲2には以下の発明が記載されているものと認める。 [甲2発明] 「綿布の多数箇所を綿糸により縛って絞りを施し、次いでボーメ度25の水酸化ナトリウム水溶液中に、室温下、15分間浸漬処理し、水洗した後、綿糸をほどいて得た、 絞り部は収縮せず、絞り部以外の部分が20%程収縮した絞り凹凸模様を有する、 綿布のブラウスへの使用及び綿布によるブラウスの作製方法(【0010】)。」 ウ 甲3 甲3の[21]、[25]、[66]~[71]、[83]~[84]の記載をふまえると、甲3には以下の発明が記載されているものと認める。翻訳は当審による。 [甲3発明] 「塩縮処理槽内に絹織物を移送し、塩縮装置に充填された塩縮処理液を循環ポンプで循環させるか、あるいは上置きベルトと下置きベルトとの間で絹織物を圧縮しながら両置きベルトを移動させることにより外圧の影響を受けずに塩縮処理を行い([71])、 塩縮処理後、パターン部は20%収縮し、凹凸処理後の試料の幅は36インチを維持した([83])、 形状保持布の女性のフォーマル衣料や、ウェディングドレスの3次元パターンへの使用、及び形状保持布による女性のフォーマル衣料や、ウェディングドレスの3次元パターンの作製方法([25])。」 エ 甲5 甲5の請求項7~11、[0020]~[0021]、[0025]、[0029]、[0031]の記載をふまえると、甲5には、以下の発明が記載されていると認める。翻訳は当審による。 [甲5発明] 「収縮/弛緩特性を有し、収縮/弛緩特性は隣接する大気中の所定の相対湿度特性にさらされることによって開始される(請求項7)、 クモの糸に関連するシルク材料のマット及び三次元物品への使用、及び クモの糸に関連するシルク材料によるマット及び三次元物品を成型する方法([0020]、[0035]、[0029])。」 (2)申立理由1(甲1を主引用例とする進歩性)について ア 本件発明1について (ア)対比 本件発明1と甲1発明とを対比する。 甲1発明の「絹織物の肌着への使用」は、「絹織物」は「繊維」であり、「肌着」が「衣料品」であることより、本件発明1の「衣料品または靴を成形するための、組換えクモ糸ポリペプチド繊維の使用」及び「前記衣料品または靴を成形する、組換えクモ糸ポリペプチド繊維の使用」と、「衣料品を成形するための、繊維の使用」及び「前記衣料品を成形する、繊維の使用」である限りにおいて一致する。 甲1発明の「この織物を、タンニン酸50mg/リットル,アラビアガムHPG1g/リットルが溶解されている比重1.42の硝酸カルシウム溶液(液温度:80℃)に30~60秒間浸漬して塩縮処理を施」すことは、本件発明1の「前記繊維が、pH6~8の水溶液との接触後に、成形物品上または人間の身体部位上において、その全長に対して少なくとも10%収縮」することと、「前記繊維が、収縮する」限りにおいて一致する。 したがって、本件発明1と甲1発明とは、 「衣料品を成形するための、繊維の使用であって、 前記繊維が、収縮する、 前記衣料品を成形する、繊維の使用。」 で一致し、少なくとも以下の点で相違する。 <相違点1-1> 本件発明1が「繊維が、pH6~8の水溶液との接触後に、成形物品上または人間の身体部位上において、その全長に対して少なくとも10%収縮し、それにより、前記衣料品または靴を成形する、」のに対し、甲1発明では、繊維が収縮するものの、本件発明1のような衣料品の成形についての構成を有しない点。 (イ)判断 上記<相違点1-1>について検討する。 甲1発明は、「繊維が、」「成形物品上または人間の身体部位上において」「収縮し、それにより、前記衣料品または靴を成形する」ことについて規定しておらず、このような成形方法は当業者は容易に想到し得たことではない。さらに、甲4及び甲5に接した当業者であっても、「繊維が、」「成形物品上または人間の身体部位上において」「収縮し、それにより、前記衣料品または靴を成形する」ことは、容易に想到し得たことではない。 (ウ)小括 よって、本件発明1は、他の相違点について検討するまでもなく、甲1発明及び甲4及び甲5記載の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イ 本件発明2~4、6について 本件発明2~4、6は、本件発明1を引用し、本件発明1の発明特定事項を全て有したうえでさらに限定する発明である。 したがって、上記アと同様に、本件発明2~4、6は、甲1発明及び甲4及び甲5記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ 本件発明7について (ア)対比 本件発明7と甲1発明を対比する。 甲1発明の「絹織物による肌着の製造方法」は、本件発明7の「物体を成形する方法」に相当し、「肌着」が「衣料品」であることより、本件発明7の「前記物体が衣料品または靴である」と「前記物体が衣料品である」限りにおいて一致する。 甲1発明の「この織物を、タンニン酸50mg/リットル,アラビアガムHPG1g/リットルが溶解されている比重1.42の硝酸カルシウム溶液(液温度:80℃)に30~60秒間浸漬して塩縮処理を施」すことは、本件発明7の「組換えクモ糸ポリペプチド繊維を含むか、または組換えクモ糸ポリペプチド繊維からなる前記物体をpH6~8の水溶液と接触させ、前記繊維が、前記物体の前記水溶液との接触後に、成形物品上または人間の身体部位上において、その全長に対して少なくとも10%収縮」することと、「繊維を含む物体において、前記繊維が、収縮」する限りにおいて一致する。 したがって、本件発明7と甲1発明とは、 「物体を成形する方法であって、 繊維を含む物体において、前記繊維が、収縮し、 前記物体が衣料品である、方法。」 で一致し、少なくとも以下の点で相違する。 <相違点1-2> 本件発明7が「前記繊維が、前記物体の前記水溶液との接触後に、成形物品上または人間の身体部位上において、その全長に対して少なくとも10%収縮し、それにより該物体を成形するステップと、を含」むのに対し、甲1発明では、繊維が収縮するものの、本件発明7のような衣料品の成形についての構成を有しない点。 (イ)判断 上記<相違点1-2>について検討する。 甲1発明は、「繊維が、」「成形物品上または人間の身体部位上において」「収縮し、それにより、前記衣料品または靴を成形する」ことについて規定しておらず、このような成形方法は当業者は容易に想到し得たことではない。さらに、甲4及び甲5に接した当業者であっても、「繊維が、」「成形物品上または人間の身体部位上において」「収縮し、それにより、前記衣料品または靴を成形する」ことは、容易に想到し得たことではない。 (ウ)小括 よって、本件発明7は、他の相違点について検討するまでもなく、甲1発明及び甲4及び甲5記載の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 エ 本件発明8~11、13~15について 本件発明8~11、13~15は、本件発明7を引用し、本件発明7の発明特定事項を全て有したうえでさらに限定する発明である。 したがって、上記ウと同様に、本件発明8~11、13~15は、甲1発明及び甲4及び甲5記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3)申立理由2(甲2を主引用例とする進歩性)について ア 本件発明1について (ア)対比 本件発明1と甲2発明とを対比する。 甲2発明の「綿布のブラウスへの使用」は、「綿布」は「繊維」であり、「ブラウス」が「衣料品」であることより、本件発明1の「衣料品または靴を成形するための、組換えクモ糸ポリペプチド繊維の使用」及び「前記衣料品または靴を成形する、組換えクモ糸ポリペプチド繊維の使用」と、「衣料品を成形するための、繊維の使用」及び「前記衣料品を成形する、繊維の使用」である限りにおいて一致する。 甲2発明の「綿布の多数箇所を綿糸により縛って絞りを施し、次いでボーメ度25の水酸化ナトリウム水溶液中に、室温下、15分間浸漬処理し、水洗した後、綿糸をほどいて得た」ことは、「絞り部以外の部分が20%程収縮した絞り凹凸模様を有する」ことより、本件発明1の「前記繊維が、pH6~8の水溶液との接触後に、成形物品上または人間の身体部位上において、その全長に対して少なくとも10%収縮」することと、「前記繊維が、収縮する」限りにおいて一致する。 したがって、本件発明1と甲2発明とは、 「衣料品を成形するための、繊維の使用であって、 前記繊維が、収縮する、 前記衣料品を成形する、繊維の使用。」 で一致し、少なくとも以下の点で相違する。 <相違点2-1> 本件発明1が「繊維が、pH6~8の水溶液との接触後に、成形物品上または人間の身体部位上において、その全長に対して少なくとも10%収縮し、それにより、前記衣料品または靴を成形する、」のに対し、甲2発明では、繊維が収縮するものの、本件発明1のような衣料品の成形についての構成を有しない点。 (イ)判断 上記<相違点2-1>について検討する。 甲2発明は、「繊維が、」「成形物品上または人間の身体部位上において」「収縮し、それにより、前記衣料品または靴を成形する」ことについて規定しておらず、このような成形方法は当業者は容易に想到し得たことではない。さらに、甲4及び甲5に接した当業者であっても、「繊維が、」「成形物品上または人間の身体部位上において」「収縮し、それにより、前記衣料品または靴を成形する」ことは、容易に想到し得たことではない。 (ウ)小括 よって、本件発明1は、他の相違点について検討するまでもなく、甲2発明及び甲4及び甲5記載の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イ 本件発明2~4、6について 本件発明2~4、6は、本件発明1を引用し、本件発明1の発明特定事項を全て有したうえでさらに限定する発明である。 したがって、上記アと同様に、本件発明2~4、6は、甲2発明及び甲4及び甲5記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ 本件発明7について (ア)対比 本件発明7と甲2発明を対比する。 甲2発明の「綿布によるブラウスの作製方法」は、本件発明7の「物体を成形する方法」に相当し、「ブラウス」が「衣料品」であることより、本件発明7の「前記物体が衣料品または靴である」と「前記物体が衣料品である」限りにおいて一致する。 甲2発明の「綿布の多数箇所を綿糸により縛って絞りを施し、次いでボーメ度25の水酸化ナトリウム水溶液中に、室温下、15分間浸漬処理し、水洗した後、綿糸をほどいて得た」ことは、「絞り部以外の部分が20%程収縮した絞り凹凸模様を有する」ことより、本件発明7の「組換えクモ糸ポリペプチド繊維を含むか、または組換えクモ糸ポリペプチド繊維からなる前記物体をpH6~8の水溶液と接触させ、前記繊維が、前記物体の前記水溶液との接触後に、成形物品上または人間の身体部位上において、その全長に対して少なくとも10%収縮」することと、「繊維を含む物体において、前記繊維が、収縮」する限りにおいて一致する。 したがって、本件発明7と甲2発明とは、 「物体を成形する方法であって、 繊維を含む物体において、前記繊維が、収縮し、 前記物体が衣料品である、方法。」 で一致し、少なくとも以下の点で相違する。 <相違点2-2> 本件発明7が「前記繊維が、前記物体の前記水溶液との接触後に、成形物品上または人間の身体部位上において、その全長に対して少なくとも10%収縮し、それにより該物体を成形するステップと、を含」むのに対し、甲2発明では、繊維が収縮するものの、本件発明7のような衣料品の成形についての構成を有しない点。 (イ)判断 上記<相違点2-2>について検討する。 甲2発明は、「繊維が、」「成形物品上または人間の身体部位上において」「収縮し、それにより、前記衣料品または靴を成形する」ことについて規定しておらず、このような成形方法は当業者は容易に想到し得たことではない。さらに、甲4及び甲5に接した当業者であっても、「繊維が、」「成形物品上または人間の身体部位上において」「収縮し、それにより、前記衣料品または靴を成形する」ことは、容易に想到し得たことではない。 (ウ)小括 よって、本件発明7は、他の相違点について検討するまでもなく、甲2発明及び甲4及び甲5記載の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 エ 本件発明8~11、13~15について 本件発明8~11、13~15は、本件発明7を引用し、本件発明7の発明特定事項を全て有したうえでさらに限定する発明である。 したがって、上記ウと同様に、本件発明8~11、13~15は、甲2発明及び甲4及び甲5記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (4)申立理由3(甲3を主引用例とする進歩性)について ア 本件発明1について (ア)対比 本件発明1と甲3発明とを対比する。 甲3発明の「形状保持布の女性のフォーマル衣料や、ウェディングドレスの3次元パターンへの使用」は、「形状保持布」は「繊維」であり、「女性のフォーマル衣料や、ウェディングドレスの3次元パターン」が「衣料品」であることより、本件発明1の「衣料品または靴を成形するための、組換えクモ糸ポリペプチド繊維の使用」及び「前記衣料品または靴を成形する、組換えクモ糸ポリペプチド繊維の使用」と、「衣料品を成形するための、繊維の使用」及び「前記衣料品を成形する、繊維の使用」である限りにおいて一致する。 甲3発明の「塩縮処理槽内に絹織物を移送し、塩縮装置に充填された塩縮処理液を循環ポンプで循環させるか、あるいは上置きベルトと下置きベルトとの間で絹織物を圧縮しながら両置きベルトを移動させることにより外圧の影響を受けずに塩縮処理を行い、塩縮処理後、パターン部は20%収縮」することは、本件発明1の「前記繊維が、pH6~8の水溶液との接触後に、成形物品上または人間の身体部位上において、その全長に対して少なくとも10%収縮」することと、「前記繊維が、収縮する」限りにおいて一致する。 したがって、本件発明1と甲3発明とは、 「衣料品を成形するための、繊維の使用であって、 前記繊維が、収縮する、 前記衣料品を成形する、繊維の使用。」 で一致し、少なくとも以下の点で相違する。 <相違点3-1> 本件発明1が「繊維が、pH6~8の水溶液との接触後に、成形物品上または人間の身体部位上において、その全長に対して少なくとも10%収縮し、それにより、前記衣料品または靴を成形する、」のに対し、甲3発明では、繊維が収縮するものの、本件発明1のような衣料品の成形についての構成を有しない点。 (イ)判断 上記<相違点3-1>について検討する。 甲3発明は、「繊維が、」「成形物品上または人間の身体部位上において」「収縮し、それにより、前記衣料品または靴を成形する」ことについて規定しておらず、このような成形方法は当業者は容易に想到し得たことではない。さらに、甲4及び甲5に接した当業者であっても、「繊維が、」「成形物品上または人間の身体部位上において」「収縮し、それにより、前記衣料品または靴を成形する」ことは、容易に想到し得たことではない。 (ウ)小括 よって、本件発明1は、他の相違点について検討するまでもなく、甲3発明及び甲4及び甲5記載の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イ 本件発明2~4、6について 本件発明2~4、6は、本件発明1を引用し、本件発明1の発明特定事項を全て有したうえでさらに限定する発明である。 したがって、上記アと同様に、本件発明2~4、6は、甲3発明及び甲4及び甲5記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ 本件発明7について (ア)対比 本件発明7と甲3発明を対比する。 甲3発明の「形状保持布による女性のフォーマル衣料や、ウェディングドレスの3次元パターンの作製方法」は、本件発明7の「物体を成形する方法」に相当し、「女性のフォーマル衣料や、ウェディングドレスの3次元パターン」が「衣料品」であることより、本件発明7の「前記物体が衣料品または靴である」と「前記物体が衣料品である」限りにおいて一致する。 甲3発明の「塩縮処理槽内に絹織物を移送し、塩縮装置に充填された塩縮処理液を循環ポンプで循環させるか、あるいは上置きベルトと下置きベルトとの間で絹織物を圧縮しながら両置きベルトを移動させることにより外圧の影響を受けずに塩縮処理を行い、塩縮処理後、パターン部は20%収縮」することは、本件発明7の「組換えクモ糸ポリペプチド繊維を含むか、または組換えクモ糸ポリペプチド繊維からなる前記物体をpH6~8の水溶液と接触させ、前記繊維が、前記物体の前記水溶液との接触後に、成形物品上または人間の身体部位上において、その全長に対して少なくとも10%収縮」することと、「繊維を含む物体において、前記繊維が、収縮」する限りにおいて一致する。 したがって、本件発明7と甲3発明とは、 「物体を成形する方法であって、 繊維を含む物体において、前記繊維が、収縮し、 前記物体が衣料品である、方法。」 で一致し、少なくとも以下の点で相違する。 <相違点3-2> 本件発明7が「前記繊維が、前記物体の前記水溶液との接触後に、成形物品上または人間の身体部位上において、その全長に対して少なくとも10%収縮し、それにより該物体を成形するステップと、を含」むのに対し、甲3発明では、繊維が収縮するものの、本件発明7のような衣料品の成形についての構成を有しない点。 (イ)判断 上記<相違点3-2>について検討する。 甲3発明は、「繊維が、」「成形物品上または人間の身体部位上において」「収縮し、それにより、前記衣料品または靴を成形する」ことについて規定しておらず、このような成形方法は当業者は容易に想到し得たことではない。さらに、甲4及び甲5に接した当業者であっても、「繊維が、」「成形物品上または人間の身体部位上において」「収縮し、それにより、前記衣料品または靴を成形する」ことは、容易に想到し得たことではない。 (ウ)小括 よって、本件発明7は、他の相違点について検討するまでもなく、甲3発明及び甲4及び甲5記載の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 エ 本件発明8~11、13~15について 本件発明8~11、13~15は、本件発明7を引用し、本件発明7の発明特定事項を全て有したうえでさらに限定する発明である。 したがって、上記ウと同様に、本件発明8~11、13~15は、甲3発明及び甲4及び甲5記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (5)申立理由4(甲5を主引用例とする進歩性)について ア 本件発明1について (ア)対比 本件発明1と甲5発明とを対比する。 甲5発明の「クモの糸に関連するシルク材料のマット及び三次元物品への使用」は、「クモの糸に関連するシルク材料」は「繊維」であり、「マット及び三次元物品」も「衣料品」も物品であることより、本件発明1の「衣料品または靴を成形するための、組換えクモ糸ポリペプチド繊維の使用」及び「前記衣料品または靴を成形する、組換えクモ糸ポリペプチド繊維の使用」と、「物品を成形するための、繊維の使用」及び「前記物品を成形する、繊維の使用」である限りにおいて一致する。 甲5発明の「クモの糸に関連するシルク材料」が「収縮/弛緩特性を有し、収縮/弛緩特性は隣接する大気中の所定の相対湿度特性にさらされることによって開始される」ことは、本件発明1の「前記繊維が、pH6~8の水溶液との接触後に、成形物品上または人間の身体部位上において、その全長に対して少なくとも10%収縮」することと、「前記繊維が、収縮する」限りにおいて一致する。 したがって、本件発明1と甲5発明とは、 「物品を成形するための、繊維の使用であって、 前記繊維が、収縮する、 前記物品を成形する、繊維の使用。」 で一致し、少なくとも以下の点で相違する。 <相違点5-1> 本件発明1が「繊維が、pH6~8の水溶液との接触後に、成形物品上または人間の身体部位上において、その全長に対して少なくとも10%収縮し、それにより、前記衣料品または靴を成形する、」のに対し、甲5発明では、繊維が収縮するものの、本件発明1のような衣料品の成形についての構成を有しない点。 (イ)判断 上記<相違点5-1>について検討する。 甲5発明は、「繊維が、」「成形物品上または人間の身体部位上において」「収縮し、それにより、前記衣料品または靴を成形する」ことについて規定しておらず、このような成形方法は当業者は容易に想到し得たことではない。さらに、甲6に接した当業者であっても、「繊維が、」「成形物品上または人間の身体部位上において」「収縮し、それにより、前記衣料品または靴を成形する」ことは、容易に想到し得たことではない。 (ウ)小括 よって、本件発明1は、他の相違点について検討するまでもなく、甲5発明、甲6記載の事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イ 本件発明2~4、6について 本件発明2~4、6は、本件発明1を引用し、本件発明1の発明特定事項を全て有したうえでさらに限定する発明である。 したがって、上記アと同様に、本件発明2~4、6は、甲5発明、甲6記載の事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ 本件発明7について (ア)対比 本件発明7と甲5発明を対比する。 甲5発明の「クモの糸に関連するシルク材料によるマット及び三次元物品を成型する方法」は、本件発明7の「物体を成形する方法」に相当する。 甲5発明の「クモの糸に関連するシルク材料」が「収縮/弛緩特性を有し、収縮/弛緩特性は隣接する大気中の所定の相対湿度特性にさらされることによって開始される」ことは、本件発明7の「組換えクモ糸ポリペプチド繊維を含むか、または組換えクモ糸ポリペプチド繊維からなる前記物体をpH6~8の水溶液と接触させ、前記繊維が、前記物体の前記水溶液との接触後に、成形物品上または人間の身体部位上において、その全長に対して少なくとも10%収縮」することと、「繊維を含む物体において、前記繊維が、収縮」する限りにおいて一致する。 したがって、本件発明7と甲5発明とは、 「物体を成形する方法であって、 繊維を含む物体において、前記繊維が、収縮する、方法。」 で一致し、少なくとも以下の点で相違する。 <相違点5-2> 本件発明7が「前記繊維が、前記物体の前記水溶液との接触後に、成形物品上または人間の身体部位上において、その全長に対して少なくとも10%収縮し、それにより該物体を成形するステップと、を含」むのに対し、甲5発明では、繊維が収縮するものの、本件発明7のような衣料品の成形についての構成を有しない点。 (イ)判断 上記<相違点5-2>について検討する。 甲5発明は、「繊維が、」「成形物品上または人間の身体部位上において」「収縮し、それにより、前記衣料品または靴を成形する」ことについて規定しておらず、このような成形方法は当業者は容易に想到し得たことではない。さらに、甲6に接した当業者であっても、「繊維が、」「成形物品上または人間の身体部位上において」「収縮し、それにより、前記衣料品または靴を成形する」ことは、容易に想到し得たことではない。 (ウ)小括 よって、本件発明7は、他の相違点について検討するまでもなく、甲5発明、甲6記載の事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 エ 本件発明8~11、13~15について 本件発明8~11、13~15は、本件発明7を引用し、本件発明7の発明特定事項を全て有したうえでさらに限定する発明である。 したがって、上記ウと同様に、本件発明8~11、13~15は、甲5発明、甲6記載の事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (6)まとめ 本件の請求項1~4、6~11、13~15に係る発明は、申立人が提出した本件特許出願前に頒布された刊行物に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでないから、当該請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。 なお、請求項5及び12は本件訂正により削除されたため、請求項5及び12に係る特許についての申立ては、申立ての対象が存在しないものとなった。 第6 むすび 以上のとおり、請求項1~4、6~11、13~15に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。さらに、他に請求項1~4、6~11、13~15に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 また、本件特許の請求項5及び12は、本件訂正により削除されたため、請求項5及び12に係る特許についての本件特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったから、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。 よって、結論のとおり決定する。

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2024-700891

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