特許異議申立
2016-701003
一次防錆塗料組成物およびその用途
- 審判番号
- 2016-701003
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2014-525868
- 登録番号
- 特許第5905097号(P5905097)
- 請求日
- 2016年10月20日
- 審決日
- 2017年06月20日
- 公報発行日
- 2017年09月29日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】中国塗料株式会社
- 【権利者代理人】特許業務法人SSINPAT
- 【異議申立人】アトテツク・ドイチユラント・ゲゼルシヤフト・ミツト・ベシユレンクテル・ハフツング
- 【異議申立人代理人】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
- 【異議申立人代理人】醍醐 美知子
- 審判長/審判官
- 審判長 冨士 良宏
- 審判官 原 賢一
- 審判官 天野 宏樹
- 分類
- P1651.113-YAA(C09D) / P1651.121-YAA(C09D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第4項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第5905097号発明「一次防錆塗料組成物およびその用途」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第5905097号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-14〕について訂正することを認める。
特許第5905097号の請求項1ないし14に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
理由
1.手続の経緯
特許第5905097号の請求項1~14に係る特許についての出願は、平成25年7月18日(優先権主張 平成24年7月20日、日本国)を国際出願日とする日本語国際特許出願であって、平成28年3月25日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人アトテツク・ドイチユラント・ゲゼルシヤフト・ミツト・ベシユレンクテル・ハフツングにより特許異議の申立てがされたものである。
本件特許異議の申立てに係る手続きの経緯は以下のとおりである。
平成28年10月20日 :特許異議の申立て
平成28年12月22日付け:取消理由通知
平成29年 3月 6日 :訂正請求書、意見書の提出(特許権者)
平成29年 5月10日 :意見書の提出(特許異議申立人)
2.訂正請求について
(1)訂正の内容
平成29年3月6日に提出された訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)による訂正事項は、以下のとおりである。
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1において、
「アルキルシリケートおよびメチルトリアルコキシシランから選択される少なくとも1種の化合物の縮合物であるシロキサン系結合剤」と記載されているのを、
「アルキルシリケートの縮合物であるシロキサン系結合剤」に訂正する。
請求項1の記載を直接的または間接的に引用する請求項2~14も同様に訂正する。
イ 訂正事項2
願書に添付した明細書の段落[0169]、[0163]表1A、[0164]表2A、[0165]表3A、[0181]表1Dに一次防錆塗料の上塗り性評価の付着強度の単位が「MPa・s」と記載されているものを「MPa」訂正する。
(2)訂正の適否についての判断
ア 訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載されていた、「アルキルシリケートおよびメチルトリアルコキシシランから選択される少なくとも1種の化合物の縮合物であるシロキサン系結合剤」のうち、選択肢の一方を削除することにより、「アルキルシリケートの縮合物であるシロキサン系結合剤」に減縮する訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。
また、訂正事項1は新規事項を追加するものではなく、特許請求の範囲のカテゴリーや対象、目的を拡張し、又は変更するものでもないことも明らかであるから、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
さらに、訂正事項1に係る訂正前の請求項1~14のうち請求項2~14は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、いずれも訂正事項1による請求項1の訂正に連動して訂正され、訂正後の請求項2~14となるから、訂正事項1は、訂正事項1により訂正される一群の請求項である請求項1~14に対して請求されたものといえ、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。
加えて、本件においては、訂正前のすべての請求項1~14に対して特許異議の申立てがされているので、訂正事項1については、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
イ 訂正事項2について
訂正前の段落[0169]には、「上塗り性については、PVCが60%以下の場合、付着強度が2.4MPa・s以上となり充分な強度であったのに対して、PVCが65%以上の場合(比較例7A~12A)、付着強度が1.0MPa・s以下となり不充分な強度であった。」と記載されているが、「Pa・s」は、通常は粘度の単位として用いられる単位であるし、その100万倍を意味する「MPa・s」という単位では、塗料分野における通常の粘度値に比べても高い値になるから、訂正前の段落[0169]における「付着強度」の記載が誤記を含むことは明らかである。また、訂正前の明細書の段落[0156]~[0157]における、「(2)上塗り塗膜の付着性」の試験方法の記載を参照すると、その測定方法は、「上塗り塗膜の表面に直径16mm(面積2cm2)、長さが20mmの軟鋼製の円筒形治具の底面をエポキシ系の接着剤で貼り付けて24時間放置した後、プルゲージ(モトフジ製)で治具の頭部を上塗り塗膜表面の垂直方向に引っ張り、治具を上塗り塗膜表面から剥離して、付着強度(凝集破壊および/または界面剥離に要した力)を測定した。」というものであるから、その測定値は単位面積当たりの力(N/m2、すなわちPa)を単位として表されるべきものと解される。そして、塗料の技術分野における塗膜の一般的な付着強度の値を勘案すると、訂正前の段落[0169]における「MPa・s」という単位は、「MPa」の明らかな誤記であるといえる。
そうすると、訂正事項2のうち、上記訂正前の[0169]における「MPa・s」という記載を「MPa」とする訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に規定する誤記の訂正を目的とする訂正である。また、同様の理由により、訂正事項2のうち、訂正前の[0163]表1A、同[0164]表2A、同[0165]表3A及び同[0181]表1Dに記載された一次防錆塗料の上塗り性評価の付着強度の単位である「MPa・s」という記載を、「MPa」とする訂正も、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に規定する誤記の訂正を目的とする訂正である。
さらに、訂正事項2は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面の記載に照らして新たな事項を追加するものではなく、また、訂正事項2は、請求項に記載された事項の解釈に影響を与えることによって実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
ウ 小括
以上のとおり、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第2号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、並びに同条第9項において読み替えて準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するから、訂正後の請求項〔1~14〕について訂正を認める。
3.本件発明について
本件訂正請求により訂正された請求項1~14に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明14」という。まとめて、「本件発明」ということもある。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~14に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「[請求項1]
(A)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定される標準ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)が1000~6000であり、アルキルシリケートの縮合物であるシロキサン系結合剤と、
(B)鱗片状亜鉛系粉末(b-1)を含む亜鉛末と
を含有し、
顔料体積濃度(PVC)が35~60%であり、かつ、亜鉛末(B)とSiO2換算のシロキサン系結合剤(A)との質量比((B)/(A))が1.0~5.0であることを特徴とする一次防錆塗料組成物。
[請求項2]
亜鉛末(B)の含有量の合計100質量%に対して、鱗片状亜鉛系粉末(b-1)の含有量が15質量%以上であることを特徴とする請求項1に記載の一次防錆塗料組成物。
[請求項3]
鱗片状亜鉛系粉末(b-1)とSiO2換算のシロキサン系結合剤(A)との質量比((b-1)/(A))が1.0~5.0であることを特徴とする請求項1または2に記載の一次防錆塗料組成物。
[請求項4]
亜鉛末(B)として、鱗片状亜鉛系粉末(b-1)とともに球状亜鉛系粉末(b-2)をさらに含有することを特徴とする請求項1または2に記載の一次防錆塗料組成物。
[請求項5]
亜鉛末(B)の含有量の合計100質量%に対して、鱗片状亜鉛系粉末(b-1)の含有量が15~90質量%であり、球状亜鉛系粉末(b-2)の含有量が10~85質量%であることを特徴とする請求項4に記載の一次防錆塗料組成物。
[請求項6]
さらに導電性顔料(C)を含有する
ことを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の一次防錆塗料組成物。
[請求項7]
導電性顔料(C)が、酸化亜鉛であることを特徴とする請求項6に記載の一次防錆塗料組成物。
[請求項8]
鱗片状亜鉛系粉末(b-1)が、鱗片状亜鉛粉末および鱗片状亜鉛合金粉末から選択される少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の一次防錆塗料組成物。
[請求項9]
鱗片状亜鉛系粉末(b-1)のメディアン径(D50)が30μm以下であり、かつ平均厚さが1μm以下であることを特徴とする請求項1~8のいずれか1項に記載の一次防錆塗料組成物。
[請求項10]
シロキサン系結合剤(A)の含有量が、全組成物の8~40質量%であることを特徴とする請求項1~9のいずれか1項に記載の一次防錆塗料組成物。
[請求項11]
請求項1~10のいずれか1項に記載の一次防錆塗料組成物から形成された一次防錆塗膜であって、平均乾燥膜厚が10μm以下である一次防錆塗膜。
[請求項12]
基板と、前記基板表面に形成された、請求項1~10のいずれか1項に記載の一次防錆塗料組成物からなる塗膜とを有することを特徴とする一次防錆塗膜付き基板。
[請求項13]
基板表面に、請求項1~10のいずれか1項に記載の一次防錆塗料組成物を塗装する工程、および塗装された前記塗料組成物を硬化させて一次防錆塗膜を形成する工程を有することを特徴とする基板の防錆方法。
[請求項14]
基板表面に、請求項1~10のいずれか1項に記載の一次防錆塗料組成物を塗装する工程、および塗装された前記塗料組成物を硬化させて一次防錆塗膜を形成する工程を有することを特徴とする一次防錆塗膜付き基板の製造方法。」
4.取消理由の概要
訂正前の請求項1~14に係る特許に対して平成28年12月22日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
(1)新規性
本件特許の請求項1~3、6、8、10、12~14に係る発明は、引用文献1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、上記請求項に係る特許は取り消すべきものである。
(2)進歩性
(ア)本件特許の請求項1~3に係る発明は、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、上記請求項に係る特許は取り消すべきものである。
(イ)本件特許の請求項4、5に係る発明は、引用文献1~3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、上記請求項に係る特許は取り消すべきものである。
(ウ)本件特許の請求項6、7に係る発明は、引用文献1~4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、上記請求項に係る特許は取り消すべきものである。
(エ)本件特許の請求項8~14に係る発明は、引用文献1~5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、上記請求項に係る特許は取り消すべきものである。
5.引用文献に記載された事項
<引用文献等一覧>
引用文献1:特開2005-232537号公報(甲第1号証)
引用文献2:特開昭54-048831号公報(当審において新たに引用された文献)
引用文献3:特開昭60-137973号公報(当審において新たに引用された文献)
引用文献4:特開昭57-057758号公報(当審において新たに引用された文献)
引用文献5:特開昭61-123674号公報(当審において新たに引用された文献)
(1)引用文献1の記載事項
引用文献1には、以下の事項が記載されている。
(1-1)「[請求項1]
(A)鱗箔状に形成された亜鉛粉末、
(B)鱗箔状に形成されたアルミニウム粉末、
(C)オルガノキシシリル基を含有する硬化性シリコーン化合物、
(D)金属アルコキシド(但し、金属がケイ素である場合を除く)
を含有してなることを特徴とする防錆剤。」
(1-2)「[請求項2]
(C)成分が、下記一般式(1)
R1aSi(OR2)4-a(1)
(式中、R1は同一又は異なってもよく、炭素数1~10の非置換又は置換の一価炭化水素基である。R2は炭素数1~3のアルキル基、炭素数2もしくは3のアシル基、又は炭素数3~5のアルコキシアルキル基を表し、aは0、1又は2のいずれかの数である。)
で表されるシラン化合物及び/又はその部分(共)加水分解縮合物の1種又は2種以上の混合物からなる硬化性シリコーン化合物であることを特徴とする請求項1に記載の防錆剤。」
(1-3)「[0022]
(A)、(B)成分の鱗箔状に形成された亜鉛粉末・アルミニウム粉末は、大きさ(最大対角長乃至直径)が20~80μm、特に40~60μm、厚さが0.5~10μm、特に1~5μmのものが好ましい。」
(1-4)「[0025]
次に、本発明の防錆剤に使用される(C)成分は、オルガノキシシリル基を含有する硬化性シリコーン化合物であるが、これは下記一般式(1)で表されるシラン化合物及び/又はその部分(共)加水分解縮合物の1種又は2種以上の混合物であることが好ましい。
R1aSi(OR2)4-a (1)
・・・
[0028]
また、一般式(1)中のaは0、1又は2のいずれかの数であるが、防錆剤の硬化性、硬化塗膜の表面硬度、基材との密着性といった観点からは、(C)成分の硬化性シリコーン化合物中で、a=1のシラン化合物及び/又はその部分(共)加水分解縮合物の占める割合が30モル%以上であることが好ましく、更には40~100モル%であることがより好ましい。また、a=0のシラン化合物及び/又はその部分(共)加水分解縮合物の占める割合は、(C)成分中0~40モル%であることが好ましく、a=2のシラン化合物及び/又はその部分(共)加水分解縮合物の占める割合は、(C)成分中0~60モル%であることが好ましい。(C)成分として、a=1のシラン化合物及び/又はその部分(共)加水分解縮合物に加えて、a=0のシラン化合物及び/又はその部分(共)加水分解縮合物を配合すると、硬化塗膜の表面硬度をより高くすることができるが、配合量が多すぎるとクラックが発生するおそれがあり、a=2のシラン化合物及び/又はその部分(共)加水分解縮合物を併用すると、硬化塗膜に強靱性と可撓性が与えられるが、配合量が多すぎると十分な架橋密度が得られないために、表面硬度や硬化性が低下するおそれがある。
・・・
[0030]
このようなシラン化合物及びその部分(共)加水分解縮合物の具体例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、メチルトリアセトキシシラン、メチルトリス(メトキシエトキシ)シラン、メチルトリス(メトキシプロポキシ)シラン、エチルトリメトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、へキシルトリメトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、トリルトリメトキシシラン、クロロメチルトリメトキシシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン、3,3,3-トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、シアノエチルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、メチルエチルジメトキシシラン、メチルプロピルジメトキシシラン、メチルビニルジメトキシシラン、メチルアリルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン、γ-クロロプロピルメチルジメトキシシラン、3,3,3-トリフルオロプロピルメチルジメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン等のアルコキシシラン又はアシロキシシラン、及びこれらの部分(共)加水分解縮合物を挙げることができる。
[0031]
これらのシラン化合物及び部分(共)加水分解縮合物前駆体としてのシラン化合物の中でも、汎用性、コスト面、防錆剤として使用した際の硬化性、塗膜特性等からは、一般式(1)におけるR1がメチル基及びフェニル基から選択される基、R2がメチル基及びエチル基から選択される基であるシラン化合物を用いることが好ましく、具体的には、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシランが例示される。またこの場合、aが1であるトリオルガノキシシラン又はaが1のトリオルガノキシシランとaが2のジオルガノキシシランとの混合シランの部分(共)加水分解縮合物を含有することが好ましい。」
(1-5)「[0032]
この場合、部分(共)加水分解縮合物としては、上記したようなシラン化合物の2量体(シラン化合物2モルに水1モルを作用させてアルコール2モルを脱離させ、ジシロキサン単位としたもの)~100量体、好ましくは2~50量体、更に好ましくは2~30量体としたものが好適に使用できるし、2種以上のシラン化合物を原料とする部分共加水分解縮合物を使用することも可能である。本発明の(C)成分の硬化性シリコーン化合物としては、上記したシラン化合物又はその部分(共)加水分解縮合物を単独で使用してもよいし、構造の異なる2種類以上のシラン化合物又は部分(共)加水分解縮合物を使用することも、あるいはシラン化合物と部分(共)加水分解縮合物を併用することも可能であるが、各成分の混合時や塗装時の揮発性、作業性や、硬化性コントロールのし易さ、湿気硬化により発生するアルコール量といった観点からは、部分(共)加水分解縮合物を必須成分とすることが好ましい。」
(1-6)「[0035]
なお、粘度や硬化性の調整目的で上記したシラン化合物を使用することができるし、場合によってアルコール類等の溶剤成分を併用することも可能である。」
(1-7)「[0037]
次に、本発明の防錆剤に使用される(D)成分は、金属アルコキシド(但し、金属がケイ素(Si)の場合を除く)であり、金属アルコキシドとしては、Al,Ti,Sn,Zr,Zn,Feのアルコキシドが好ましく、特に導電性を上げる効果が高い点でアルミニウムアルコキシドが好ましく用いられる。アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、ヘキシルオキシ基、フェノキシ基等の炭素数1~8、特に1~6のものが好ましく、特に取り扱い易さの点でイソプロポキシ基が好ましい。このためアルミニウムアルコキシドとして特に好ましくはアルミニウムトリイソプロポキシドである。(D)成分は、(C)成分がなす3次元架橋の間に入り込み、水分と反応して遊離した金属イオンによって被膜の導電性が向上し、犠牲陽極反応を強化し、防錆効果を向上させることができる。」
(1-8)「[0040]
本発明においては、必要に応じて、(C)成分のオルガノキシシリル基を含有する硬化性シリコーン化合物を湿気硬化させるための硬化触媒を添加してもよい。そのような硬化触媒としては、リン酸等の酸類;トリエタノールアミン等の有機アミン類;ジメチルアミンアセテート等の有機アミン塩;テトラメチルアンモニウムヒドロキシド等の第4級アンモニウム塩;炭酸水素ナトリウム等の有機酸のアルカリ(土類)金属塩;γ-アミノプロピルトリエトキシシラン等のアミノアルキルシラン化合物;オクチル酸亜鉛等のカルボン酸金属塩;ジオクチル錫ジラウレート等の有機錫化合物;テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート等のチタン酸エステル類;アセチルアセトンアルミニウム塩等の金属キレートなどが挙げられるが、防錆剤の硬化性、保存安定性、防錆塗膜の特性といった観点からは、有機錫化合物、チタン酸エステル類、有機アルミニウム化合物等の有機金属化合物を用いることが好ましい。」
(1-9)「[0044]
この際、(A)、(B)、(C)成分の混合比率は、これら3成分の合計100質量%とした場合、(A)/(B)/(C)=35~55質量%/3~15質量%/40~50質量%の範囲とすることが好ましく、更には(A)/(B)/(C)=42~48質量%/5~8質量%/47~50質量%の範囲とすることがより好ましく、(A)と(B)の容積が同容量に近くなると、標準電極電位の差による犠牲陽極効果が際立った防錆効果が発揮される。」
(1-10)「[0045]
本発明の防錆剤が適用される基材としては、鉄鋼材、鋳鉄等を挙げることができる。この場合、塗布方法としては、浸漬方法・スプレー方法・刷毛塗り方法等を挙げることができ、更に現場塗装を行うことも可能である。また、防錆剤の塗布量としては、基材の種類や塗布方法によっても異なるが、一般的には硬化後の塗膜厚さが30~120μmの範囲となるようにすればよく、好ましくは50~70μmの範囲である。」
(1-11)「[0049]
(A)~(E)成分として、以下に示したものを使用した。
(A)成分(鱗箔状に形成された亜鉛粉末)
A-1:大きさ40~60μm、厚さ1~5μm(純度98%)
(B)成分(鱗箔状に形成されたアルミニウム粉末)
B-1:大きさ40~60μm、厚さ1~5μm(純度98%)
(C)成分(オルガノキシシリル基を含有する硬化性シリコーン化合物)
C-1:メチルトリメトキシシランの部分加水分解縮合物(平均重合度5、粘度5mm2/s)
C-2:メチルトリメトキシシランの部分加水分解縮合物(平均重合度25、粘度150mm2/s)
C-3:メチルトリエトキシシラン85モル%とジフェニルジメトキシシラン15モル%との部分共加水分解縮合物(平均重合度10、粘度35mm2/s)
C-4:メチルトリメトキシシラン70モル%とジメチルジメトキシシラン30モル%との部分共加水分解縮合物(平均重合度20、粘度100mm2/s)
C-5:ジメチルジメトキシシラン
C-6:γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン
(C’)成分(オルガノキシシリル基非含有の硬化性シリコーン化合物)・・・比較例用
C’-1:シラノール基含有メチルフェニル系シリコーン樹脂の60%キシレン溶液(信越化学工業(株)製商品名:KR-311)
(D)成分(金属アルコキシド)
D-1:アルミニウムトリイソプロポキシド
(E)その他の成分(硬化触媒、溶剤)
E-1:ジ-n-ブトキシ・エチルアセトアセテートアルミニウム(ホープ製薬(株)製商品名:ケロープACS)
E-2:テトライソプロポキシチタン(日本曹達(株)製商品名:TPT-100)
E-3:オルソリン酸(純度85%品)
E-4:無水エタノール」
(1-12)「[0050]
[実施例1]
(1)室温、窒素雰囲気下において、(C)成分の硬化性シリコーン化合物として、C-1:36質量部、C-2:18質量部、C-5:38質量部を撹拌混合し、更に硬化触媒としてE-1:8質量部を添加して撹拌混合した。この(C)、(E)成分の混合物:100質量部に対して、更に(D)成分の金属アルコキシドとしてD-1:13質量部を添加して、再度撹拌混合した。
(2)(A)成分の隣箔状亜鉛粉末としてA-1:88質量部、(B)成分の隣箔状アルミニウム粉末としてB-1:12質量部とからなる混合粉末を用意した。
(3)工程(1)で作製した(C)、(D)、(E)成分の混合物:45質量部と、工程(2)で作製した(A)、(B)成分の混合物:55質量部を配合し、分散撹拌機を使用して水冷により35℃以下を保ちながら、窒素雰囲気下で十分に撹拌混合した。
(4)粘度調整のため、工程(3)で作製した(A)~(E)成分の混合物:100質量部に対して、更に溶剤としてE-4:4質量部を添加して撹拌混合を行い、防錆剤-1を得た。防錆剤-1の粘度は100mPa・sであった。」
(1-13)「[0052]
[実施例3]
実施例1における各成分の使用量を、工程(1)において、C-2:18質量部、C-3:78質量部、C-5:2質量部、E-2:2質量部、D-1:13質量部とし、更に工程(4)において、E-4:5質量部とした以外は同様の操作を行い、防錆剤-3を得た。防錆剤-3の粘度は110mPa・sであった。」
(1-14)「[0058]
上記の実施例1~4及び比較例1~4で調製した防錆剤-1~8における各成分の配合組成(質量%)と、防錆剤の粘度(mPa・s)を表1に示す。」
(1-15)「[0059]
[表1]
」
(1-16)「[0060]
試験片の作製
鋼板(材質SS400、3mm×70mm×150mm)をサンドブラストで表面処理し、スプレー法により乾燥膜厚50μmとなるように上記の実施例1~4及び比較例1~4で調製した防錆剤-1~8を塗布した後、25℃/相対湿度65%雰囲気下で5日間放置して硬化被膜とした試験片を作製した。
次に、比較例5として、上記と同じ鋼板に50μmの溶融亜鉛鍍金の被膜を、比較例6として、上記と同じ鋼板に100μmの亜鉛金属溶射の被膜を、比較例7として、上記と同じ鋼板に100μmの亜鉛・アルミニウム複合金属溶射の被膜を作製した。
また、比較例8として、上記と同じ鋼板に100μmの亜鉛・アルミニウム複合金属溶射の被膜の上にブチラール系樹脂の封孔剤を塗布した。」
(2)引用文献2の記載事項
引用文献2には、以下の事項が記載されている。
(2-1)「(1)防錆顔料成分として(a)グラファイトをりん片化助剤として製造した、りん片状亜鉛末および(b)球状亜鉛末を含有する防錆塗料組成物。」(特許請求の範囲の請求項(1))
(2-2)「(2)(a):(b)の重量比が1:9~9:1である特許請求の範囲第(1)項記載の防錆塗料組成物。」(特許請求の範囲の請求項(2))
(2-3)「しかしジンクリツチペイントは極めて優れた防錆力を有する反面、数々の欠点を持つている。例えば一般の塗料は一缶型であるが、通常のジンクリツチペイントは金属亜鉛顔料が塗料の媒体中で沈降し易いために顔料、結合剤、場合によっては硬化剤を別の缶に入れて2~3缶型とし、使用直前に混合して用いねばならない。またスプレーで塗装する際、上記した如く顔料の沈降が早いためにスプレーガンのノズルが詰まり易く、塗装の作業性は著しく悪いものとなつている。さらに防錆力を高めるために厚塗りを行なうと塗膜にヒビ割れを生じて良好な塗膜を得ることが困難であり、しかも塗装の際にタレを生じ易く作業性が悪いという欠点がある。」(引用文献2の第2頁左上欄3~16行)
(2-4)「上述した従来の金属亜鉛顔料は金属亜鉛を非酸化雰囲気中で加熱して溶融・蒸発させ、冷却凝縮したものを捕集して得られる球状粒子であるが、これに代わるものとして球状亜鉛粒子をボールミル等で加工して扁平にした、りん片状金属亜鉛顔料が提案されている。りん片状金属亜鉛顔料(以下りん片状亜鉛末と称す)は球状金属亜鉛顔料(以下球状亜鉛末と称す)に比べ、その形状と粒子径の故に塗料中での沈降速度が極めて遅いという特徴を有し、かつ厚塗り性も良好でタレも生じ難く、球状亜鉛末の前記欠点をことごとく補うものとして期待されたのであるが、塗膜の硬化に長時間を要して塗装作業性が悪く、また乾燥塗膜が柔かく、かつ通常の塗膜厚では球状亜鉛末使用のものに比較して防錆力が劣り、フクレを生じ易い等の欠点があつてまだ実用化に至っていない。」(引用文献2の第2頁左下欄17行~右上欄13行)
(2-5)「続いて球状亜鉛末とりん片状亜鉛末を混合して両者の欠点を相い補なわしめることも提案されたが、本発明者らの研究によればステアリン酸やその金属石ケン等をりん片化助剤(滑剤)として製造した通常のりん片状亜鉛末を用いた場合、幾分性能改良は認められるが、りん片状亜鉛末使用の最大の利点である厚塗り塗装において性能的に充分満足できるものではないことが判った。」(第2頁右上欄14行~左下欄2行)
(2-6)「本発明者らは上述の如き状況に鑑み、鋭意研究の結果、特定のりん片化助剤を用いて製造した、りん片状亜鉛末を球状亜鉛末と共に併用する場合に限り、両者の利点を発揮し、かつ欠点を相い補なう実用的な防錆塗料が得られることを見い出し本発明を完成するに至った。」(第2頁左下欄3~8行)
(3)引用文献3の記載事項
引用文献3には、以下の事項が記載されている。
(3-1)「本発明は塗料組成物に関し、さらに詳しくは、加工前の鋸板に塗装して溶接時、特にガスシールド溶接時に良好な溶接性を与える一次防錆塗料絹成物に関する。」(第1頁右下欄8~11行)
(3-2)「本発明に用いる亜鉛は防錆顔料として不可欠のものであり、乾量基準で15~60重量%用いるが、望ましくは20~40重量%である。ここで用いる亜鉛は、従来用いられている蒸留法によって得られた球状亜鉛末及び、亜鉛粉をボールミル等で粉砕して得た亜鉛フレークがある。後者は球状亜鉛末に較べ比表面積(粉末単位重量当りの表面積)が大きいため、粒子間の接触が密に保たれ防錆性に優れている。一方、球状亜鉛末は塗装時、その形状から良好な膜となる。防食性と塗膜形成の点から球状亜鉛末あるいはフレーク状亜鉛のいずれかを選べばよく、また両者の併用も何ら差しつかえない。」(第2頁右下欄8~20行)
(3-3)第4頁表1には、実施例5として、エチルシリケート縮合物10重量部、ポリビニルブチラール樹脂2重量部、球状亜鉛末15重量部、フレーク亜鉛20重量部、銅製錬スラグ15重量部、CaCO35重量部、リン酸亜鉛10重量部及びタルク23重量部(以上合計100重量部)を含有する防錆塗料の具体例が記載されている。
(4)引用文献4の記載事項
引用文献4には、以下の事項が記載されている。
(4-1)「(イ)亜鉛粉末20~80重量%と導電性酸化亜鉛80~20重量%とを混合してなる防錆顔料50~95重量部及び(ロ)結合剤として有機合成樹脂又は無機結合剤を5~50重量部(不揮発分として)含み、有機溶剤又は水を加えてなる、改良された溶接性、防錆性と上塗適合性を有する防食用塗料の組成物。」(特許請求の範囲)
(4-2)「上記導電性酸化亜鉛は亜鉛粉末と均一に混合するとき、亜鉛粉末相互の電気的接触及び保護金属面との電気的接触を著しく改善することを見出した。又導電性酸化亜鉛は亜鉛粉末と接触して電池が形成されるとカソード反応が容易となり、亜鉛粉末の活性化を助長する。また導電性酸化亜鉛を加えることにより、塗膜の導電性が向上する為、電気溶接の単位時間当りの溶接スピードが速くなり、従つて塗膜の熱による焼けが少なくなる。また導電性酸化亜鉛は亜鉛粉末に比して気化温度が高いため溶接時のブローホールも少なくなり溶接性が向上する。」(引用文献4の第2頁右上欄16行~左下欄7行)
(4-3)「導電性酸化亜鉛と亜鉛粉末の組成比は2:8~8:2の範囲で用いる。この量比よりも導電性酸化亜鉛が多くなると防食効果が不十分となり、又少なくなると溶接性において満足な結果が得られない。なお導電性酸化亜鉛又は亜鉛粉末の一部を溶接性、防食性を損なわない範囲でアルミニウム金属粉で置換することもできる。」(引用文献4の第2頁左下欄8~14行)
(5)引用文献5の記載事項
引用文献5には、以下の事項が記載されている。
(5-1)「(1)シリカ、アルミナ、酸化チタンから成るグループから選ばれた超微粉金属酸化物の含量が0.1~5.0重量%であり、かつ高級脂肪酸および/または高級脂肪酸の周期律表IIA、IIB及びIIIA族の金属塩の含量が0.1~0.5重量%である亜鉛又は、亜鉛基合金のフレーク状粉末からなることを特徴とするフレーク状亜鉛粉末組成物。」(引用文献5の特許請求の範囲の請求項(1))
(5-2)「本発明はフレーク状亜鉛粉末組成物に関し、更に詳しくは塗料用として好適な亜鉛又は亜鉛基合金のフレーク状粉末組成物に関する。」(引用文献5の第1頁右下欄3~5行)
(5-3)「又、上記条件は、亜鉛のフレークだけでなく、Zn-Al-Mg等の亜鉛基合金のフレークにも充分適用される。」(引用文献5の第3頁左下欄1~3行)
(5-4)「以上から明らかな如く、本発明は以下の優れた特徴を有するフレーク状亜鉛粉末組成物を提供することを可能とした。・・・
(2)防錆性に優れている。
有機系粉砕助剤の含有量が僅少なため、塗膜中において亜鉛粒子間の金属接触が充分に保たれ防清性にすぐれている。」(引用文献5の第7頁右上欄15行~左下欄6行)
6.引用文献1に記載された発明
引用文献1には、
(A)鱗箔状に形成された亜鉛粉末、
(B)鱗箔状に形成されたアルミニウム粉末、
(C)オルガノキシシリル基を含有する硬化性シリコーン化合物、
(D)金属アルコキシド(但し、金属がケイ素である場合を除く)
を含有してなる防錆剤が記載されており(摘記1-1)、表1には、実施例1~4及び比較例1~4で調製した防錆剤-1~8における各成分の配合組成(質量%)と、防錆剤の粘度(mPa・s)が記載され(摘記1-14、1-15)、表1に記載された各成分の具体的な名称も開示されているところ(摘記1-11)、実施例3において調製された「防錆剤-3」(摘記1-13、1-14)は、表1から、A-1(鱗箔状に形成された亜鉛粉末)を46.1質量%、B-1(鱗箔状に形成されたアルミニウム粉末)を6.3質量%、C-2(メチルトリメトキシシランの部分加水分解縮合物(平均重合度25、粘度150mm2/s))を6.8質量%、C-3(メチルトリエトキシシラン85モル%とジフェニルジメトキシシラン15モル%との部分共加水分解縮合物(平均重合度10、粘度35mm2/s))を29.6質量%、C-5(ジメチルジメトキシシラン)を0.8質量%、D-1(アルミニウムトリイソプロポキシド)を4.9質量%、E-2(テトライソプロポキシチタン(日本曹達(株)製商品名:TPT-100)、硬化触媒)を0.7質量%、E-4(無水エタノール、溶剤)を4.8質量%それぞれ配合して調製されたことが読みとれる(摘記1-15、1-11)。
また、防錆剤が適用される基材としては、鉄鋼材、鋳鉄等が挙げられており(摘記1-11)、実施例の試験片の作成に当たっては、鋼板をサンドブラストで表面処理し、スプレー法により乾燥膜厚50μmとなるように防錆剤を塗布した後、25℃/相対湿度65%雰囲気下で5日間放置して硬化被膜としたことが記載されているから(摘記1-16)、引用文献1に記載された防錆剤は一次防錆塗料に相当する。
そうすると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「鱗箔状に形成された亜鉛粉末を46.1質量%、鱗箔状に形成されたアルミニウム粉末を6.3質量%、メチルトリメトキシシランの部分加水分解縮合物(平均重合度25、粘度150mm2/s)を6.8質量%、メチルトリエトキシシラン85モル%とジフェニルジメトキシシラン15モル%との部分共加水分解縮合物(平均重合度10、粘度35mm2/s)を29.6質量%、ジメチルジメトキシシランを0.8質量%、アルミニウムトリイソプロポキシドを4.9質量%、テトライソプロポキシチタンを0.7質量%、無水エタノールを4.8質量%含有する一次防錆塗料組成物。」
7.取消理由通知に記載した取消理由についての判断
(1)(新規性)特許法第29条第1項第3号について
ア 本件発明1について
(ア)本件発明1と引用発明との対比
本件発明1と引用発明とを対比すると、引用発明の「鱗箔状に形成された亜鉛粉末」は、「鱗片状亜鉛系粉末」に相当し、引用発明の「メチルトリメトキシシランの部分加水分解縮合物」及び「メチルトリエトキシシラン85モル%とジフェニルジメトキシシラン15モル%との部分共加水分解縮合物」は、いずれも本件発明1の「シロキサン系結合剤」の一種に相当する。そうすると、両者は、
「鱗片状亜鉛系粉末と、シロキサン系結合剤とを含有する一次防錆塗料組成物」である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点1:シロキサン系結合剤が、本件発明1においては、「アルキルシリケートの縮合物」であるのに対し、引用発明においてはそのように特定されていない点
相違点2:引用発明においては、「ジメチルジメトキシシラン」、「アルミニウムトリイソプロポキシド」、「テトライソプロポキシチタン」及び「無水エタノール」を更に含有するのに対し、本件発明1においては、これらを含有することが特定されていない点
相違点3:本件発明1においては、「アルキルシリケートの縮合物であるシロキサン系結合剤」が、「ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定される標準ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)が1000~6000」であることが特定されているのに対し、引用発明においては、そのようなことが明らかでない点
相違点4:本件発明1においては、顔料体積濃度(PVC)が35~60%であるのに対し、引用発明においては、そのようなことが明らかでない点
相違点5:本件発明1においては、亜鉛末(B)とSiO2換算のシロキサン系結合剤(A)との質量比((B)/(A))が1.0~5.0であることが特定されているのに対し、引用発明においては、そのようなことが明らかでない点
そこで、上記相違点について検討する。
(イ)相違点1について
引用発明において、「シロキサン系結合剤」に相当する成分は、「メチルトリメトキシシランの部分加水分解縮合物」及び「メチルトリエトキシシラン85モル%とジフェニルジメトキシシラン15モル%との部分共加水分解縮合物」であるが、加水分解縮合物の原料である「メチルトリメトキシシラン」、「メチルトリエトキシシラン」及び「ジフェニルジメトキシシラン」は、いずれも「アルキルシリケート」ではない。また、引用発明に含まれる他の成分について検討しても、「ジメチルジメトキシシラン」、「アルミニウムトリイソプロポキシド」及び「テトライソプロポキシチタン」は、いずれも「アルキルシリケート」ではない。
そうすると、相違点1は実質的なものであるから、本件発明1と引用発明とは、少なくとも上記相違点1において相違することが明らかである。よって、相違点2~5については検討するまでもなく、本件発明1は引用文献1に記載された発明とはいえない。
イ 本件発明2、3、6、8、10及び12~14について
本件発明1を直接又は間接的に引用して記載されている請求項2、3、6、8、10及び12~14についても、本件発明1と同じ理由により、いずれも引用文献1に記載された発明とはいえない。
ウ 新規性についてのまとめ
よって、本件発明1~3、6、8、10、12~14は、特許法第29条第1項第3号に該当するものではないから、当審が通知した(1)新規性の取消理由によって、本件請求項1~3、6、8、10、12~14に係る特許を取り消すことはできない。
(2)(進歩性)特許法第29条第2項について
ア 本件発明1について
(ア)相違点1について
上記7.(1)ア(ア)「本件発明1と引用発明との対比」に記載した相違点1について検討する。
(ア-1)引用文献1の記載について
引用文献1には、(C)オルガノキシシリル基を含有する硬化性シリコーン化合物として、一般式(1) R1aSi(OR2)4-a (aは0、1又は2)で表されるシラン化合物及び/又はその部分(共)加水分解縮合物の1種又は2種以上の混合物を用いることができることが記載されており(摘記1-2、1-4の[0025]及び[0028])、a=0のとき上記一般式(1)は本件発明1における「アルキルシリケート」を表すものである。また、引用文献1には、シラン化合物及びその部分(共)加水分解縮合物の具体例として、「テトラメトキシシラン」、「テトラエトキシシラン」及びこれらの部分(共)加水分解縮合物が例示されており(摘記1-4の[0030])、これらは本件発明1の「アルキルシリケート」及びその縮合物に相当する。しかし、引用文献1には、「防錆剤の硬化性、硬化塗膜の表面硬度、基材との密着性といった観点からは、(C)成分の硬化性シリコーン化合物中で、a=1のシラン化合物及び/又はその部分(共)加水分解縮合物の占める割合が30モル%以上であることが好ましく、更には40~100モル%であることがより好ましい」こと、及び「a=0のシラン化合物及び/又はその部分(共)加水分解縮合物の占める割合は、(C)成分中0~40モル%であることが好ましく・・・(C)成分として、a=1のシラン化合物及び/又はその部分(共)加水分解縮合物に加えて、a=0のシラン化合物及び/又はその部分(共)加水分解縮合物を配合すると、硬化塗膜の表面硬度をより高くすることができるが、配合量が多すぎるとクラックが発生するおそれがあ」ること(摘記1-4の[0028])が記載されており、また、「これらのシラン化合物及び部分(共)加水分解縮合物前駆体としてのシラン化合物の中でも、汎用性、コスト面、防錆剤として使用した際の硬化性、塗膜特性等からは、一般式(1)におけるR1がメチル基及びフェニル基から選択される基、R2がメチル基及びエチル基から選択される基であるシラン化合物を用いることが好ましく・・・またこの場合、aが1であるトリオルガノキシシラン又はaが1のトリオルガノキシシランとaが2のジオルガノキシシランとの混合シランの部分(共)加水分解縮合物を含有することが好ましい」(摘記1-4の[0031])ことが記載されている。さらに、引用文献1には、「アルキルシリケート」(a=0の化合物)及び/又はその部分(共)加水分解物を配合した実施例は一つも記載されていない。
そうすると、引用文献1には、引用発明(実施例3)で用いられた「メチルトリメトキシシラン」、「メチルトリエトキシシラン」及び「ジフェニルジメトキシシラン」と同じ一般式(1)で表現される一群の化合物として、「テトラメトキシシラン」、「テトラエトキシシラン」等の「アルキルシリケート」が記載されているといえるものの、塗膜物性等の観点からは、「アルキルシリケート」(a=0の化合物)よりも、引用発明(実施例3)で用いられた「メチルトリメトキシシラン」及び「メチルトリエトキシシラン」等のa=1の化合物を使用することが好ましいことが記載されているものと認められる。
(ア-2)本件明細書の記載について
これに対して、本件明細書の[0034]~[0037]には、「シロキサン系結合剤(A)としては、例えば、アルキルシリケートおよびメチルトリアルコキシシランから選択される少なくとも1種の化合物の縮合物が挙げられ・・・これらの中でも、アルキルシリケートの縮合物が好ましく、テトラエチルオルトシリケートの縮合物がより好ましく、テトラエチルオルトシリケートの初期縮合物であるエチルシリケート40(商品名;コルコート(株)製)の部分加水分解縮合物が特に好ましい。」と記載されており、実施例においては、上記[0037]に特に好ましいものとして記載されたテトラオルトシリケートの初期縮合物(エチルシリケート40、コルコート(株)製)の加水分解縮合物が調製されて([0127]~[0129])、実施例1A~実施例4D([0163]表1A~[0181]表1D)の塗料組成物に配合され、本件発明1の他の発明特定事項との組合せにおいて、従来の塗装条件でも平均乾燥膜厚が10μm以下の塗膜が得られ([0167])、発錆防止性、上塗り性(付着強度)、溶接性(ブローホール発生率)の点で好ましい効果が得られたことが実験データから読み取れる。
(ア-3)乙第1号証について
また、特許権者は、平成29年3月6日に意見書及び乙第1号証(実験成績証明書、平成29年2月16日、中国塗料株式会社 技術生産本部 防食技術部作成)を提出した。
乙第1号証には、以下のような実験データが記載されている。
(乙-1)「
」
特許権者は、上記意見書の第4~5頁において、「訂正発明1におけるアルキルシリケートの縮合物を引用発明におけるメチルトリメトキシシランの縮合物に変更した塗料組成物を調製し、本件特許明細書記載の試験を行った追加比較例1を、添付の実験成績証明書に記載する。・・・シロキサン系結合剤の重量平均分子量が同程度である実施例8Aと追加比較例1とを対比する。追加比較例1では、付着強度が0.5MPaと低く上塗り性が悪く、またブローホール発生率が40.4%と非常に高く溶接性が悪い。一方、本件特許明細書の実施例8Aは、付着強度が5.8MPaと高く上塗り性に優れており、またブローホール発生率が4.6%と低く溶接性にも優れている。」と説明しており、実際、乙第1号証には、塗料の主剤成分としてアルキルシリケートの縮合物5(Mw=2500)の溶液を用いた実施例8Aと、主剤成分としてメチルトリメトキシシランの縮合物(Mw=2300)の溶液を用いた追加比較例1の実験データが記載されており、特許権者が記載したとおりの実験結果が読み取れる。
(ア-4)相違点1についての判断
上記本件明細書及び乙第1号証の記載についての検討を踏まえると、本件明細書には、塗料組成物の主剤としてアルキルシリケートを用いた場合に、塗膜の発錆防止性、上塗り性(付着強度)及び溶接性(ブローホール発生率)等の点で優れた効果が得られることが記載されているものといえる。そうすると、本件発明1は、上記相違点1に係る構成である、シロキサン系結合剤としてアルキルシリケートの縮合物を用いる点に基づいて、塗膜の発錆防止性、上塗り性(付着強度)及び溶接性(ブローホール発生率)等の点で有利な効果が得られることを見いだしたものであると解される。
これに対して、引用文献1には、アルキルシリケートの縮合物がそのような有利な効果をもたらすことについて記載されておらず、また、アルキルシリケートを好ましいものとして積極的に採用することを動機付ける記載もなく、そのようなことが示唆されているとも認められない。さらに、そのような有利な効果が出願時の技術常識として知られていたとも認められない。よって、相違点1に係る構成については、当業者が引用文献1に記載された事項に基づいて容易に想到し得た構成であるとすることはできない。
なお、上記相違点1に基づく有利な効果については、引用文献2~5にも記載も示唆もされていないから(摘記2-1~5-4等を参照)、仮に引用文献1と引用文献2~5とを組み合わせたとしても、相違点1に係る構成については、当業者が引用文献1~5に記載された事項に基づいて容易に想到し得た構成であるとすることはできない。
(ア-5)小括
よって、相違点2~5については検討するまでもなく、本件発明1は引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない。
イ 本件発明2~14について
本件発明1を直接又は間接的に引用して記載されている請求項2~14についても、本件発明1と同じ理由により、相違点1に係る構成について、当業者が引用文献1に記載された事項に基づいて容易に想到し得た構成であるとすることはできない。また、上記相違点1に基づく有利な効果については、引用文献2~5にも記載も示唆もされていないから、相違点1に係る構成については、当業者が引用文献1~5に記載された事項に基づいて容易に想到し得た構成であるとすることはできない。
ウ 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、平成29年5月10に提出した意見書において、「(1-1)・・・意見書に添付された比較実験では、主剤成分の配合量がアルキルシリケート縮合物の溶液100.0部に対してメチルトリメトキシシランの縮合物の溶液70.0部となっており、塗料組成の合計量について、メチルトリメトキシシランの縮合物を用いた追加比較例1の方が少なくなっている。少ない量のメチルトリメトキシシランの縮合物の溶液の使用は、実施例8Aにおけるものよりも低い効果を導く可能性がある。・・・結合剤の量が少ない組成物では、塗膜の物性も変わり得ることが考えられるため、実施例8Aよりも追加比較例1の方が上塗り性及び溶接性が劣るという比較実験の結果が、主剤成分の種類のみによるものなのかどうか判別できない。このため、追加比較実験による証明は、実際のところ意味をなさない。」(上記意見書の第3~4頁)と主張している。
しかし、乙第1号証(実験成績証明書)に記載された実験データ(摘記乙-1)の「塗料特性」を参照すると、実施例8Aと追加比較例1とは、「不揮発分の体積(cm3)」が前者10.4、後者10.6、「(B)/(A)<Zn/SiO2>(質量比)」が前者2.2、後者2.1等、「塗装面積当りのVOC量(g/m2)」の1項目を除くすべての項目で数値がほぼ揃っているから、追加比較例1の実験データが意味をなさないとまではいえない。
また、特許異議申立人は、上記意見書において、「(1-2)・・・メチルトリメトキシシランの部分加水分解縮合物は、アルキルシリケートの縮合物と共にシロキサン系結合剤の選択肢として、本件明細書にそもそも記載されているものである。しかしながら本件明細書には、シロキサン系結合剤としてアルキルシリケートの縮合物が好ましい旨の記載はあるものの、アルキルシリケートの縮合物の方がメチルトリメトキシシランの加水分解縮合物よりも上塗り性及び溶接性について「各段に」優れていることについて、何ら記載されていない。・・・アルキルシリケートの縮合物の方がメチルトリメトキシシランの部分加水分解縮合物よりも上塗り性及び溶接性が「各段に」優れるという効果は、本件明細書に記載されていない効果である。上塗り性及び溶接性が「各段に」優れるというこの効果が進歩性を有するほど予想外なものであるならば、本件明細書に記載されていない効果を主張するものであり、認められるべきものではないと思料する。」(上記意見書の第4頁)と主張している。
しかし、上記7.(2)ア(ア)「(ア-2)本件明細書の記載について」において検討したとおり、本件明細書には、出願当初から、シロキサン系結合剤(A)としてはアルキルシリケートの縮合物が好ましく、テトラエチルオルトシリケートの縮合物がより好ましく、テトラエチルオルトシリケートの初期縮合物であるエチルシリケート40(商品名;コルコート(株)製)の部分加水分解縮合物が特に好ましい旨が記載され、その効果を裏付ける実施例の実験データも記載されていたから、アルキルシリケートの縮合物が他のシロキサン系結合剤より有利な効果をもたらす旨の特許権者の主張が不当なものであるとまではいえない。また、上記7.(2)ア(ア)「(ア-1)引用文献1の記載について」及び同「(ア-4)相違点1についての判断」に記載したとおり、引用文献1には、アルキルシリケートの縮合物が上塗り性及び溶接性等の点で有利な効果をもたらすことについて記載されておらず、アルキルシリケートを積極的に採用する動機付けとなる記載もされていないから、本件明細書にメチルトリメトキシシランの部分加水分解縮合物を用いた場合の実験データが開示されていなかったとしても、そのことのみによって本件発明1の進歩性が認められなくなるものではない。
よって、特許異議申立人の主張を採用することはできない。
エ 進歩性についてのまとめ
よって、本件発明1~14については、いずれも特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとすることはできないから、当審が通知した(2)進歩性(ア)~(エ)の取消理由によって、本件請求項1~14に係る特許を取り消すことはできない。
8.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)特許異議申立の要旨について
特許異議申立人が、特許異議申立書において申し立てている特許異議申立理由の要旨は、次のとおりである。
(進歩性)本件特許の請求項1~14に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証~甲第6号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、請求項1~14に係る特許は取り消すべきものである。
(2)証拠方法
特許異議申立人は証拠方法として以下の甲第1号証~甲第6号証を提出している。
甲第1号証:特開2005-232537号公報(取消理由通知の引用文献1)
甲第2号証:特開2005-238001号公報
甲第3号証:特開2005-97584号公報
甲第4号証:国際公開第2009/081452号
甲第5号証:Resene Paints Limited, "Volume solids, PVC and hiding power", NZIA-Resene CPD (New Zealand Institute of Architects Incorporated - Resene Paints Limited Continuing Professional Development), Resisterd Architects Online activities, 2005.08, p.1-14,
URL:http://www.resene/co.nz/archspec/cpd_earn_points/pdfs/CPD_volumesolidspvchiding_oct2003.pdf
甲第6号証:特開2007-141521号公報
(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、特許異議申立書において、「甲第3号証では、テトラメチルオルトシリケート等のシロキサン系結合剤が開示されており、特に実施例では、テトラエチルオルトシリケートの初期縮合物であるエチルシリケート40(日本コルコート社製)が使用されている。・・・また、甲第3号証では、得られたシロキサン系結合剤を含む一次防錆塗料組成物を常温乾燥して、良好な防錆効果が得られることを開示している(甲第3号証、段落0062参照)。また、甲第3号証では、乾燥後の一次防錆塗膜の厚みについて10~20μmとなるように塗装することも可能と記載されている
従って、甲1発明において、重量平均分子量1000~6000のメチルトリアルコキシシランの縮合物に代えて又はこれに加えて重量平均分子量1000~6000のアルキルシリケートの縮合物であるシロキサン系結合剤を用いることは、当業者であれば容易に想到し得る事項である。」(特許異議申立書の第39~40頁)と主張している。また、特許異議申立人は、平成29年5月10に提出した意見書において、「(1-3)・・・甲第3号証・・・には・・・シロキサン系結合剤(c)としてアルキルシリケートが挙げられ、テトラエチルオルトシリケートの初期縮合物であるエチルシリケート40が最も好ましいと明確に記載されている(甲第3号証、段落0034)。その上で、甲第3号証には・・・平均膜厚10μmとなるように塗装することができる点(段落0045)、実施例においてはエチルシリケートを用いた一次防錆塗料組成物による塗膜が優れた溶接性及び防食性(防錆性)を示す点も記載されている(段落0051、表3及び表4等)。これらの記載から甲第3号証に接した当業者は、溶接性及び防錆性に優れ、10μmの膜厚を形成可能な一次防錆塗料組成物とするために、シロキサン系結合剤としてアルキルシリケート、特にエチルシリケート40が最も好ましいと理解する。」(上記意見書の第4~5頁)と主張している。
そこで、まず、甲第3号証の記載事項について検討する。
(4)甲第3号証の記載事項
甲第3号証には、以下の事項が記載されている。
(甲3-1)「[請求項1]
(a)亜鉛末と、
(b)組成成分としてアルカリ金属酸化物を含む非晶質ガラス粉末と、
(c)シロキサン系結合剤と、
(d)有機溶剤と
を含んでなることを特徴とする一次防錆塗料組成物。」
(甲3-2)「[0003]
無機ジンク一次防錆塗料組成物は、溶接時に一次防錆塗膜から発生するガスの量が少なく、溶接ビートにピット(貫通孔)やブローホール(内泡)などの欠陥の発生を抑制することができるので溶接性に優れているが、近年、溶接のより一層の高速化が要請されており、この要請に応えるには、溶接時のピット、ブローホールの原因となる亜鉛(融点419℃、沸点930℃)の気化ガス圧を抑える必要がある。亜鉛末は、溶接の際、鉄の融点1530℃以上の熱に曝されると急激に気化し、溶接ビード(weld bead)にピットやブローホールなどの欠陥を発生させる原因となる。このような問題点を解決するため、一次防錆塗料組成物中の亜鉛末を減少させる方法が提案されている(例えば、特許文献1~4参照)。
[0004]
しかしながら、亜鉛末の量を減らす方法では、溶接の高速化が可能になるものの、防食性が低下してしまうという問題がある。
また、近年では、溶接速度の向上に対する要請は高まっており、さらに人手不足やタンカーの2重船殻構造への移行に伴って、100cm/分を超える溶接速度が求められるようになった。従来の一次防錆塗料を用いて、1個のトーチを有する溶接機で溶接する、いわゆる1電極法(シングル法)によるアーク溶接においては、溶接速度が90cm/分を超えると、充分な脚長(溶接ビードの高さ)が得られず、また2個のトーチを有する溶接機で溶接する2電極法(タンデム法)によるアーク溶接においては、溶接速度が100cm/分を超えても充分な脚長が得られるものの、防食性が低下するという問題がある。」
(甲3-3)「[0011]
本発明は、前記のような従来技術に伴う課題を解決しようとするものであって、100cm/分以上という高速で溶接を行なっても、防食性を低下させることなく、かつピットやブローホールなどの欠陥の発生を抑制することができる塗膜を形成可能な一次防錆塗料組成物、その一次防錆塗料組成物が塗布された一次防錆塗膜付き鋼板を提供することを目的としている。」
(甲3-4)「[0019]
以下、各成分について説明する。
亜鉛末(a)
本発明で用いられる亜鉛末(a)は、塗膜中において鋼板の発錆を防止する防食顔料として用いられる。この亜鉛末(a)としては通常使用されているものが用いられ、平均粒子径が2~15μmの亜鉛末が好ましい。」
(甲3-5)「[0022]
非晶質ガラス粉末(b)は、アルカリ金属酸化物を、1~20%、好ましくは5~15%、さらに好ましくは5~8%となる量で組成成分として含むことが望ましい。このような範囲でアルカリ金属酸化物を含む非晶質ガラス粉末(b)を用いることにより、一次防錆塗料組成物は防食性に優れる一次防錆塗膜を形成することができ、さらに溶接時においては溶接ビードにピットやブローホールなどの欠陥が生じることもない。また、非晶質ガラス粉末(b)の平均粒子径は1~30μmであることが好ましく、このような粒子径とするために、通常、非晶質ガラスを粉砕して製造される。」
(甲3-6)「[0034]
シロキサン系結合剤(c)
本発明で用いられるシロキサン系結合剤(c)としては、具体的には、テトラメチルオルトシリケート、テトラエチルオルトシリケート、テトラ-n-プロピルオルトシリケート
、テトラ-i-プロピルオルトシリケート、テトラ-n-ブチルオルトシリケート、テトラ-sec-ブチルオルトシリケート、メチルポリシリケート、エチルポリシリケート等のアルキルシリケート、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン等のメチルトリアルコキシシラン、またはこれらの初期縮合物などが挙げられる。中でも、テトラエチルオルトシリケートの初期縮合物であるエチルシリケート40(日本コルコート社製)が最も好ましく、部分加水分解して用いられる。」
(甲3-7)「[0045]
本発明の一次防錆塗料組成物から形成される乾燥後の一次防錆塗膜は、溶接時に発生する亜鉛の気化ガスや有機系添加剤の分解ガスが溶融プールにほとんど残留することがないため、平均膜厚が20~50μmとなるように厚膜に塗装することができる。また、通常のショッププライマーのように平均膜厚10~20μmとなるように塗装することも可能である。
[0046]
これに対し、従来の一次防錆塗料組成物は、乾燥後の平均膜厚が20μm以上になると、鋼材加工の溶断・溶接のいずれ場合においても溶接欠陥が顕著に表れるようになるため、平均膜厚が15μm程度となるように塗装される。さらに、従来の一次防錆塗料組成物は、このように薄膜塗装であるため、溶接時の熱により塗膜中の亜鉛の含有量が減少するため溶接後は防食性が著しく低下する。
[0047]
本発明の一次防錆塗料組成物は、乾燥後の平均膜厚が上記範囲となるように塗装することが可能であり、さらに溶接ビードにピットやブローホールなどの欠陥が生じない。そのため、一次防錆塗膜の防食性の向上と溶接性の向上とを同時に達成することができる。したがって、得られる一次防錆塗膜付き鋼板は、溶接性を損なうことなく、長期にわたり優れた防食性を発揮することができる
また、従来の一次防錆塗膜のように平均塗膜15μmに塗装しても、優れた防食性効果を得ることができる。」
(甲3-8)「[0050]
[実施例1~11、比較例1~3]
一次防錆塗料用の顔料ペーストの調製
亜鉛末を除く原材料をポリエチレン製容器に仕込み、ガラスビーズを加えてペイントシェーカーにて3時間振とうした後、亜鉛末を加えてさらに5分振とうして顔料を分散させた。80メッシュの網を用いてガラスビーズを除去してペーストを調製した。実施例、比較例で用いた顔料ペーストの組成を第2表に示す。
[0051]
一次防錆塗料用の主剤の調製
エチルシリケート40(日本コルコート社製)350g、工業用エタノール150g、脱イオン水50g、および35%塩酸0.5gを容器に仕込み、攪拌しながら3時間50℃に保った後、IPA(イソプロピルアルコール)449.5gを加えて主剤を調製した。本主剤を実施例、比較例に共通して用いた。
[0052]
[溶接性試験]
図1-1に示すような、鋼板12の片面全面に一次防錆塗膜14が形成された第一鋼板10と、鋼板22の両面全面に一次防錆塗膜24,26が形成された第二鋼板20とを準備する。具体的には、第一鋼板10は、サイズ500mm×100mm×9mmのサンドブラスト処理したSS400鋼板12の片面全面に、防食試験用試験片と同様の要領で比較例、実施例の塗料を乾燥膜厚が30μmとなるように塗装して製造する。一方、第二鋼板20は、サイズ500mm×50mm×9mmのサンドブラスト処理したSS400鋼板22の両面全面に、防食試験用試験片と同様の要領で塗料を乾燥膜厚が30μmとなるようにして製造する。」
(甲3-9)「[0057]
[防食性試験]
常温乾燥後の防食性
主剤と顔料ペーストとを所定の混合比率で充分に混合し、一次防錆塗料組成物を得る。次いで、70mm×150mm×2.3mmのサンドブラスト鋼板に、所定の乾燥膜厚となるように一次防錆塗料組成物をエアースプレーにて塗装し、JISK56001-6に従い温度23℃、相対湿度50%の恒温室内で1週間乾燥させて試験板を得る。その後、試験板を屋外に置き曝露試験を行い、ASTM-D610に準拠して以下の評価において7点となるまでの期間を確認した。評価結果を第4表に示す。」
(甲3-10)「[表2]
」
(甲3-11)「[表3]
」
(甲3-12)「[表4]
」
(5)甲第3号証に記載された発明について
甲第3号証には、(a)亜鉛末と、(b)組成成分としてアルカリ金属酸化物を含む非晶質ガラス粉末と、(c)シロキサン系結合剤と、(d)有機溶剤とを含んでなる一次防錆塗料組成物が記載されている(摘記甲3-1)。その解決しようとする課題については、溶接のより一層の高速化が要請されており、そのために溶接ビード(weld bead)にピットやブローホールなどの欠陥を発生させる原因となる亜鉛(融点419℃、沸点930℃)の気化ガス圧を抑える必要があるところ、従来採用されていた防錆塗料組成物中の亜鉛末の量を減らす等の方法では、防食性が低下してしまう等の不十分な点があったこと(摘記甲3-2)、これに対し、甲第3号証に記載された発明は、100cm/分以上という高速で溶接を行なっても、防食性を低下させることなく、かつピットやブローホールなどの欠陥の発生を抑制することができる塗膜を形成可能な一次防錆塗料組成物を提供することを課題とするものであることが記載されており(摘記甲3-3)、上記ブローホールなどの欠陥の発生を抑制する等の効果は、甲第3号証に記載された発明に必須成分として含まれる、アルカリ金属酸化物を1~20%含む非晶質ガラス粉末(b)が、亜鉛の気化ガスや有機系添加剤の分解ガスを溶融プール外に逃す働きによるものと考えられることが記載されている(摘記甲3-5)。また、シロキサン系結合剤(c)としては、テトラエチルシリケートの初期縮合物であるエチルシリケート40(日本コルコート社製)が最も好ましく、部分加水分解して用いられることが記載されており(摘記甲3-6)、実施例の一次防錆塗料組成物においても、当該エチルシリケート40(日本コルコート社製)の部分加水分解物が用いられている(摘記甲3-8)。さらに、塗膜の膜厚については、乾燥後の一次防錆塗膜は、溶接時に発生する亜鉛の気化ガスや有機系添加剤の分解ガスが溶融プールにほとんど残留することがないため、平均膜厚が20~50μmとなるように厚膜に塗装することができ、また、通常のショッププライマーのように平均膜厚10~20μmとなるように塗装することも可能であることが記載されているが(摘記甲3-7)、実施例の溶接性試験及び防食性試験は、乾燥膜厚が30μm又は15μmの塗膜で実施されており(摘記甲3-8~甲3-12)、実際に10μmの塗膜を形成し、その塗膜の溶接性及び防食性を確認した具体例は記載されていない。そして、請求項1に特定される必須成分をすべて含む実施例1~11の一次防錆塗料組成物と、アルカリガラス粉末を含まない比較例1~3の一次防錆塗料組成物(摘記甲3-10)を用いて、塗膜の溶接性及び防食性を試験した結果、比較例1~3の塗膜は溶接性(摘記甲3-11)及び防食性(摘記甲3-12)の点で実施例1~11の塗膜より劣るものであったことが読み取れる。
(6)当審の判断
ア 甲第3号証について
甲第1号証は、当審が平成28年12月22日付けで通知した取消理由通知において引用文献1として引用した文献であり、上記5.(1)「引用文献1の記載事項」に摘記したとおりの事項が記載され、上記6.「引用文献1に記載された発明」に記載したとおりの発明が記載されており、上記7.(1)ア(ア)「本件発明1と引用発明との対比」に記載したとおりの点で本件発明1と一致し、相違点1~5の点で相違するものと認められる。また、上記7.(2)ア(ア)「(ア-1)引用文献1の記載について」及び同「(ア-4)相違点1についての判断」に記載したとおり、甲第1号証には、本件発明1との相違点1に係る構成であるアルキルシリケートの縮合物を用いる点に基づいて、上塗り性及び溶接性等の点で有利な効果がもたらされることについて記載されておらず、アルキルシリケートを積極的に採用する動機付けとなる記載もされていない。
これに対して、甲第3号証には、特許異議申立人が指摘するとおり、テトラエチルシリケートの初期縮合物であるエチルシリケート40(日本コルコート社製)の部分加水分解物を含有する一次防錆塗料組成物が記載されており(摘記甲3-6、甲3-8)、塗膜の溶接性及び防食性等の向上を課題としているが(摘記甲3-3)、当該効果は甲第3号証に記載された発明に必須成分として含まれる、アルカリ金属酸化物を1~20%含む非晶質ガラス粉末(b)によりもたらされるものとされており(摘記甲3-5)、実施例及び比較例の実験データからも、アルカリガラス粉末に基づく効果を読み取ることができるが(摘記甲3-11、甲3-12)、溶接性及び防食性の向上効果が、テトラエチルシリケートの初期縮合物であるエチルシリケート40(日本コルコート社製)の部分加水分解物を採用したことに基づいてもたらされたものであることまでは、甲第3号証の記載から読み取ることはできない。そうすると、甲第3号証の記載をみても、一次防錆塗料組成物において、塗膜の溶接性及び防食性等の向上を目的として、テトラエチルシリケートの部分加水分解縮合物を用いることが動機付けられるとはいえない。また、甲第1号証には、引用発明が、「アルカリ金属酸化物を1~20%含む非晶質ガラス粉末(b)」を含むことは記載されておらず、アルキルシリケートを積極的に採用する動機付けとなる記載はなく、むしろ、「メチルトリメトキシシラン」、「メチルトリエトキシシラン」等が好ましいものとして記載されているのであるから、これらの点からみても、引用発明に甲第3号証に記載された発明を組み合わせることにより上記相違点1に係る構成を導き出すことが、当業者にとって容易に想到し得たことであるとはいえない。
さらに、特許異議申立人は、「甲第3号証に接した当業者は、溶接性及び防錆性に優れ、10μmの膜厚を形成可能な一次防錆塗料組成物とするために、シロキサン系結合剤としてアルキルシリケート、特にエチルシリケート40が最も好ましいと理解する。」と主張しているが、甲第3号証には、実際に10μmの膜厚で塗膜を形成した具体例は記載されておらず、10μmの膜厚の塗膜としたときの溶接性及び防錆性の実験データは開示されていないから、10μmの膜厚とした際にも優れた溶接性及び防錆性が確保されるかどうかは必ずしも明らかではない。なお、本件発明1においては、「(B)鱗片状亜鉛系粉末」が用いられることが特定されており、本件明細書の[0040]には、「鱗片状亜鉛系粉末(b-1)の平板面が塗膜表面と略平行に配向する。このため、塗膜の連続性が保たれ、鋼板素地が見えることがない。したがって、鋼板の発錆を防止することができる。」と記載されており、鱗片状亜鉛粉末を用いない場合(比較例13A、14A、1B、2B)の比較実験データも記載されているが、甲第3号証には、鱗片状亜鉛系粉末を用いること及びその効果については明記されていない(摘記甲3-4、甲3-8)。そうすると、甲第3号証における膜厚に関する記載を参酌しても、引用発明に甲第3号証に記載された発明を組み合わせることにより上記相違点1に係る構成を導き出すことが、当業者にとって容易に想到し得たことであるとはいえない。
イ 甲第2号証及び甲第4~6号証について
加えて、甲第2号証及び甲第4~6号証にも、上記相違点1に係るアルキルシリケートの縮合物を用いることにより、上塗り性及び溶接性等の点で有利な効果がもたらされることについては、記載も示唆もされていないものと認められる。
ウ 小括
よって、本件発明1は甲第1号証に記載された発明及び甲第2~6号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。本件発明1を直接又は間接的に引用して記載されている請求項2~14についても同様である。
9.むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件発明1~14の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1~14の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2016-701003