特許異議申立
2016-700864
カプセル用アントシアニン含有組成物及びカプセル剤
- 審判番号
- 2016-700864
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2015-089814
- 登録番号
- 特許第5886457号(P5886457)
- 請求日
- 2016年09月14日
- 審決日
- 2017年07月13日
- 公報発行日
- 2017年10月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社 わかさ生活
- 【権利者代理人】福井 宏司
- 【異議申立人】荒井 夏代
- 審判長/審判官
- 審判長 中村 則夫
- 審判官 山崎 勝司
- 審判官 窪田 治彦
- 分類
- P1651.113-YAA(A61K) / P1651.121-YAA(A61K) / P1651.537-YAA(A61K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第36条、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第5886457号発明「カプセル用アントシアニン含有組成物及びカプセル剤」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第5886457号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認める。
特許第5886457号の請求項1~6に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
1 特許第5886457号の請求項1~6に係る特許(以下「本件特許」という。)の手続の経緯は,概ね以下のとおりである。
平成27年 4月24日 特許出願(特願2015-89814号)
平成28年 2月19日 特許権の設定登録
平成28年 3月16日 特許公報の発行
平成28年 9月14日 特許異議申立書(異議申立人 荒井夏代)
平成28年11月 7日 取消理由通知書
平成29年 1月10日 訂正請求書及び意見書(特許権者)
平成29年 1月16日 通知書(訂正請求があった旨の通知)
平成29年 2月16日 意見書(異議申立人)
平成29年 3月10日 取消理由通知書
平成29年 5月15日 訂正請求書及び意見書(特許権者)
平成29年 5月17日 通知書(訂正請求があった旨の通知)
平成29年 6月14日 意見書(異議申立人)
2 なお,平成29年1月10日付けの訂正請求書に係る訂正は,取り下げられたものとみなす(特許法120条の5第7項)。
以下,平成29年5月15日けの訂正請求書について「本件訂正請求書」といい,これに係る訂正を「本件訂正」という。
第2 本件訂正の適否について
1 本件訂正の内容
本件訂正の内容は,本件訂正請求書に添付した訂正特許明細書及び訂正特許請求の範囲に記載されたとおり,請求項1ないし6について訂正することを求めるものであって,その訂正内容は次のとおりである。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「油性成分を溶媒とし,アントシアニン含有素材及びリゾレシチンを含有することを特徴とするカプセル用アントシアニン含有組成物。」とあるのを,「油性成分を溶媒とし,アントシアニン含有素材及びペースト状大豆リゾレシチンを含有することを特徴とするカプセル用アントシアニン含有組成物。」と訂正する(下線は訂正箇所を示す。以下同様。)。
(2) 訂正事項2
特許明細書の【0008】に「上記目的を達成するために,本発明の一態様では,油性成分を溶媒とし,アントシアニン含有素材及びリゾレシチンを含有することを特徴とするカプセル用アントシアニン含有組成物が提供される。前記アントシアニン含有素材は,ビルベリー,ブルーベリー,クランベリー,コケモモ,リンゴンベリー,ハックルベリー,ラズベリー,ブラックベリー,ローガンベリー,サーモンベリー,ボイセンベリー,イチゴ,クワ,エルダベリー,ハスカップ,ニワトコ,ハイビスカス,スグリ,クズベリー,アサイー,プルーン,サクランボ,リンゴ,マンゴー,シソ,有色イモ,赤キャベツ,赤ダイコン,ブドウ,紫トウモロコシ,紫タマネギ,ナス,有色米,黒豆,黒ゴマ,及び椿から選ばれる少なくとも一種でもよい。さらに,ミツロウを含有してもよい。前記油性成分は,魚油,植物油,及び中鎖脂肪酸から選ばれる少なくとも一種であってもよい。」とあるのを,「上記目的を達成するために,本発明の一態様では,油性成分を溶媒とし,アントシアニン含有素材及びペースト状大豆リゾレシチンを含有することを特徴とするカプセル用アントシアニン含有組成物が提供される。前記アントシアニン含有素材は,ビルベリー,ブルーベリー,クランベリー,コケモモ,リンゴンベリー,ハックルベリー,ラズベリー,ブラックベリー,ローガンベリー,サーモンベリー,ボイセンベリー,イチゴ,クワ,エルダベリー,ハスカップ,ニワトコ,ハイビスカス,スグリ,クズベリー,アサイー,プルーン,サクランボ,リンゴ,マンゴー,シソ,有色イモ,赤キャベツ,赤ダイコン,ブドウ,紫トウモロコシ,紫タマネギ,ナス,有色米,黒豆,黒ゴマ,及び椿から選ばれる少なくとも一種でもよい。さらに,ミツロウを含有してもよい。前記油性成分は,魚油,植物油,及び中鎖脂肪酸から選ばれる少なくとも一種であってもよい。」と訂正する。
(3) 訂正事項3
特許明細書の【0022】に「本実施形態のアントシアニン含有組成物は,乳化剤としてリゾレシチンが用いられる。リゾレシチンにより,カプセルに封入されるアントシアニン含有素材の水,特に消化液への分散性を向上できる。リゾレシチンは,レシチンを酵素等を使用して低分子化したものであればいずれも使用することができる。レシチンの由来としては特に限定されず,植物性レシチン,例えば大豆レシチン,及び動物性レシチン,例えば卵黄レシチンのいずれも使用することができる。これらは単独で用いられてもよいし,二種以上が組み合わされて用いられてもよい。」とあるのを,「本実施形態のアントシアニン含有組成物は,乳化剤としてペースト状大豆リゾレシチンが用いられる。リゾレシチンにより,カプセルに封入されるアントシアニン含有素材の水,特に消化液への分散性を向上できる。リゾレシチンは,レシチンを酵素等を使用して低分子化したものを使用することができる。レシチンの由来としては,植物性レシチン,例えば大豆レシチン,及び動物性レシチン,例えば卵黄レシチンが挙げられるが,本発明においては大豆レシチンが使用される。」と訂正する。
2 判断
(1) 訂正事項1について
後記第3・5のとおり,大豆由来のリゾレシチンである大豆リゾレシチンには,大豆レシチンを酵素分解して得られるペースト状大豆リゾレシチン,ペースト状大豆リゾレシチンを油分除去・精製をして(アセトン分別して)得られるもの,さらにアルコール分別したものがあるところ,訂正事項1は,請求項1における「リゾレシチン」について,特定の種類のリゾレシチンである「ペースト状大豆リゾレシチン」に限定したものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして,本件特許明細書には,「リゾレシチンは,レシチンを酵素等を使用して低分子化したものであればいずれも使用することができる。レシチンの由来としては・・・例えば大豆レシチン・・・使用することができる。」(【0022】)と,リゾレシチンとして大豆リゾレシチンを使用することができる旨記載され,実施例に関し「実施例1は,微細化ビルベリーエキス末50質量%,ミツロウ4質量%,サフラワー油41質量%,乳化剤としてリゾレシチン(SLPペーストリゾ,辻製油社製)5質量%を配合した溶液をアントシアニン含有組成物として調製した。」(【0053】)と,リゾレシチンとして「SLP-ペーストリゾ」を使用したこと,それにより所定の効果が発揮されたことが記載されている(【0051】~【0075】)。この「SLP-ペーストリゾ」はペースト状大豆リゾレシチンであるから(後記第3・3(3)キ,ケ~サ,ス),本件特許明細書には,カプセル用アントシアニン含有組成物中にペースト状大豆リゾレシチンを含有させることで,アントシアニン含有素材の水への分散性を向上させた点が記載されていると認められる。
よって,訂正事項1は,新規事項の追加に該当せず,カテゴリーや対象,目的を変更するものではないから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
(2) 訂正事項2について
訂正事項2は,前記訂正事項1に係る訂正に伴って,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るため,発明の詳細な説明の【0008】の記載を訂正するものであるから,明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして,訂正事項2は,新規事項の追加に該当せず,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
(3) 訂正事項3について
訂正事項3は,前記訂正事項1に係る訂正に伴って,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るため,発明の詳細な説明の【0022】の記載を訂正するものであるから,明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして,訂正事項3は,新規事項の追加に該当せず,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
(4) さらに,本件訂正は一群の請求項ごとに請求されたものである。
(5) 以上のとおりであるから,本件訂正は特許法120条の5第2項ただし書1号及び3号に掲げる事項を目的とするものであって,同条4項,及び同条9項において準用する同法126条4項~6項の規定に適合するので,訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認める。
第3 特許異議の申立てについて
1 本件発明
前記第2のとおり本件訂正は認められるから,本件特許の請求項1~6に係る発明は,訂正特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定される,次のとおりのものである。以下,本件特許に係る発明を請求項の番号に従って「本件発明1」などといい,総称して「本件発明」いう。
【請求項1】
油性成分を溶媒とし,アントシアニン含有素材及びペースト状大豆リゾレシチンを含有することを特徴とするカプセル用アントシアニン含有組成物。
【請求項2】
前記アントシアニン含有素材は,ビルベリー,ブルーベリー,クランベリー,コケモモ,リンゴンベリー,ハックルベリー,ラズベリー,ブラックベリー,ローガンベリー,サーモンベリー,ボイセンベリー,イチゴ,クワ,エルダベリー,ハスカップ,ニワトコ,ハイビスカス,スグリ,クズベリー,アサイー,プルーン,サクランボ,リンゴ,マンゴー,シソ,有色イモ,赤キャベツ,赤ダイコン,ブドウ,紫トウモロコシ,紫タマネギ,ナス,有色米,黒豆,黒ゴマ,及び椿から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項1に記載のカプセル用アントシアニン含有組成物。
【請求項3】
さらに,ミツロウを含有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のカプセル用アントシアニン含有組成物。
【請求項4】
前記油性成分は,魚油,植物油,及び中鎖脂肪酸から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のカプセル用アントシアニン含有組成物。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のカプセル用アントシアニン含有組成物を内包することを特徴とするカプセル剤。
【請求項6】
日本薬局方第16改正に記載されている崩壊試験法において,溶出試験第1液を用いて試験を行った場合,内容物の溶出開始から30分後のアントシアニンの溶出率が90%以上となるよう規定されたことを特徴とする請求項5に記載のカプセル剤。
2 取消理由の概要
(1) 本件訂正前の本件特許に対し,平成28年11月7日付けで通知した取消理由は,概ね,次のとおりである。
ア 本件発明1~6は,本件特許の出願前に日本国内又は外国において,頒布された甲1号証(後記3(1))に記載された発明であって,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができないから,その発明に係る特許は取り消すべきものである。
イ 本件発明1~6は,本件特許の出願前に日本国内又は外国において,頒布された甲1号証~甲8号証(後記3(1))に記載された発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから,その発明に係る特許は取り消すべきものである。
(2) 本件訂正前の本件特許に対し,平成29年3月10日付けで通知した取消理由は,概ね,次のとおりである。
すなわち,本件特許は,平成29年1月10日付けの訂正請求書に係る訂正により訂正された特許請求の範囲の記載が次の点で不備のため,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり,取り消されるべきものである。
ア 請求項1に記載された「ペースト状リゾレシチン」が,どのようなものを意味しているのか不明であり,物として何が特定されているのか不明である。
イ 請求項1に記載された「・・・リゾレシチンを含有し,該リゾレシチンは,ペースト状リゾレシチンとして配合した」とは,製造に関して,経時的な要素の記載がある場合,又は,製造に関して,技術的な特徴や条件が付された記載がある場合に該当するため,当該請求項にはその物の製造方法が記載されているといえるから,特許法36条6項2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえない。
3 証拠方法
(1) 甲号証
甲1号証:特開2009-46438号公報
甲2号証:特開2000-245383号公報
甲3号証:”食品用乳化剤の製品情報”,[online],太陽化学株式会社,[2016年9月2日検索],インターネット<URL:http://www.taiyokagaku.com/products/71>
甲4号証:特開2003-111575号公報
甲5号証:特開2008-169151号公報
甲6号証:特開2009-114157号公報
甲7号証:園良治,“植物油製造副産物からの複合脂質の製造と利用(レシチン・グルコシルセラミドを中心に)”,オレオサイエンス,日本油化学会,平成22年3月1日,第10巻,第3号,p.5-9
甲8号証:小竹(奈良)英一,外1名,“カロテノイドの腸管吸収と代謝”,オレオサイエンス,日本油化学会,平成24年10月1日,第12巻,第10号,p.15-21
甲9号証:濱口展年,“大豆レシチンの種類と使い方”,月刊フードケミカル,株式会社食品化学新聞社,平成24年2月1日,2012年2月号,Vol.28,No.2,p.51-56
甲10号証:パンフレット“レシチン”,辻製油株式会社,2010年9月30日
甲11号証:特開2013-34829号公報
甲12号証:特開平11-172277号公報
甲13号証:化学辞典,株式会社東京化学同人,1994年5月10日,第1版,第2刷,p.1302
甲14号証:広辞苑,株式会社岩波書店,1995年11月10日,第4版,第5刷,p.2303
甲15号証:野島高彦,“状態変化”,2017年6月14日
(2) 乙号証
乙1号証:“レシチン製品情報”,辻製油株式会社,[2016年12月24日検索],インターネット<URL:http://www.tsuji-seiyu.co.jp/products/lecithin/enzumaatically_lecithin.html>
乙2号証:荘厳哲哉,実験成績証明書,株式会社わかさ生活(特許権者),2016年12月9日
乙3号証:化学辞典,森北出版株式会社,2009年12月16日,第2版,第1刷,p.81
乙4号証:荘厳哲哉,実験成績証明書,株式会社わかさ生活(特許権者),2017年5月10日
(以下,証拠番号に従って,「甲1」,「乙1」などという。)
(3) 証拠方法に記載された事項
ア 甲1
(ア) 甲1には,以下の事項が記載されている。
・「【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細化されたアントシアニン含有素材及び分散剤を含有するアントシアニン含有組成物において,
前記分散剤は,レシチン,グリセリン脂肪酸エステル,ショ糖脂肪酸エステル,及びポリグリセリン脂肪酸エステルから選ばれる少なくとも一種であることを特徴とするアントシアニン含有組成物。
・・・
【請求項5】
さらに,ドコサヘキサエン酸,サフラワー油,及び亜麻仁油から選ばれる少なくとも一種を含有することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のアントシアニン含有組成物。
【請求項6】
さらに,粘度調整基材としてのミツロウとともにソフトカプセルに内包されていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のアントシアニン含有組成物。」
・「【0001】
本発明は,有効成分の生体への吸収性を向上させたアントシアニン含有組成物及びその製造方法に関する。」
・「【0004】
・・・本発明は,微細化されたアントシアニン含有素材と特定の分散剤と併用することにより,アントシアニンの生体への吸収率が大幅に向上することを発見したことに基づくものである。本発明の目的とするところは,ミネラル分の吸収を阻害する作用を有する成分を含有することなく,アントシアニンの生体吸収率を向上させたアントシアニン含有組成物及びその製造方法を提供することにある。」
・「【発明の効果】
【0011】
本発明によれば,ミネラル分の吸収を阻害する作用を有する成分を含有することなく,アントシアニンの生体吸収率を向上させたアントシアニン含有組成物及びその製造方法を提供することができる。」
・「【0021】
分散剤は,微細化されたアントシアニン含有素材の再凝集を抑制し,生体摂取後のアントシアニンの吸収率を向上させるために配合される。尚,本発明においては,分散剤には,食品添加物として用いられる保護剤及び乳化剤も含むものとする。分散剤としては,例えば,微細化されたアントシアニンの再凝集を抑制する作用を発揮する成分が採用され,公知の成分を使用することができる。例えば,レシチン,・・・が挙げられる。・・・これらの中で,アントシアニンの消化管からの吸収率の高いレシチン,・・・がより好ましく,レシチンが特に好ましい。
・・・
【0023】
その他の成分としてドコサヘキサエン酸(DHA),サフラワー油,及び亜麻仁油から選ばれる少なくとも一種は,アントシアニン含有組成物中のアントシアニンの消化管からの吸収率をさらに高めるために配合されることが好ましい。・・・アントシアニン含有組成物中におけるDHA,サフラワー油,及び亜麻仁油から選ばれる少なくとも一種の含有量は,好ましくは,1~99重量%,より好ましくは,20~80重量%である。」
・「【0026】
本実施形態のアントシアニン含有組成物を飲食品に適用する場合,種々の食品素材又は飲料品素材に添加することによって使用することができる。飲食品の形態としては,特に限定されず,液状,粉末状,ゲル状,固形状のいずれであってもよく,また剤形としては,・・・カプセル剤,・・・のいずれであってもよい。その中でも,一度に多くの組成物の摂取が可能なカプセル剤であることが好ましい。・・・
【0027】
本実施形態のアントシアニン含有組成物を医薬品として使用する場合は,好ましくは服用(経口摂取)により投与される。剤形としては,特に限定されないが,例えば,・・・カプセル剤,・・・等が挙げられる。・・・
【0028】
本実施形態のアントシアニン含有組成物をカプゼル剤として適用する場合,例えば粘度調整基材又は安定剤としてのミツロウとともにソフトカプセルに内包することにより構成することができる。・・・」
・「【0038】
・・・
<試験例1:アントシアニン含有組成物の製造及びアントシアニン含有組成物の粒径分布の測定>
分散剤としてレシチン(サンレシチンA‐1,太陽化学社製)1重量%とアントシアニン含量36%以上(アントシアニジン含量25%以上)に規格化されたビルベリーエキス末30重量%を配合した水溶液をアントシアニン含有素材として調製した。・・・
・・・
【0042】
<試験例2:アントシアニン含有組成物におけるアントシアニンの消化管からの吸収性についての評価>
まず,ビルベリーエキス末が1重量%となるように生理食塩水に添加することにより,吸収性試験用の試料を調製する。これら吸収性試験用の試料について吸収促進効果を調べるために,・・・ラットの腸管反転嚢を用いてアントシアニンの吸収率(%)を測定した。
・・・
【0045】
(試験例2-1:分散剤の選択)
まず,吸収性試験用の試料に用いるためのアントシアニン含有組成物を調製した。表1に示される各種分散剤を用い,パス回数を3回とした以外,試験例1欄に記載の方法に従って微細化処理を行ない,アントシアニン含有組成物としての各凍結乾燥粉末を作製した。この粉末を上記のようにビルベリーエキス末濃度を1重量%になるように生理食塩水に配合し,各吸収性試験用の試料を調製し,反転腸管試験を行なった。尚,吸収性の評価は,比較対照(比較例1)として試験例1欄に記載のビルベリーエキス末30重量%水溶液からなるアントシアニン含有素材について,分散剤の添加及び微細化処理を施さずにそのまま凍結乾燥した粉末を用いて反転腸管試験を行なった時の吸光度を100%とし,各試料の吸光度を比較することにより行なった。結果を表1に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
表1に示されるように,実施例1~5の分散剤としてレシチン,・・・を用いたアントシアニン含有組成物は吸収率が比較例1より増加していることが確認された。特に,実施例1のレシチンを分散剤として使用する場合は,吸収率が比較対照(比較例1)より大幅に増加していることが確認された。
・・・
【0051】
(試験例2-3:油類添加の影響)
パス回数を3回とした以外,試験例1欄に記載の方法に従って微細化処理を行ない,アントシアニン含有組成物としての各凍結乾燥粉末を作製した。この粉末をビルベリーエキス末がそれぞれ1重量%となるように生理食塩水に配合し,さらに下記表3に示される各種油を0.5重量%となるように配合して各試料を調製し,反転腸管試験を行なった。尚,吸収性の評価は,油類を含有せず,微細化ビルベリーエキス末(1%レシチン含有組成物(3パス))を使用した時の吸光度(参考例1)を100%とした時の,各試料の吸光度を比較することによって行なった。結果を表3に示す。
【0052】
【表3】
【0053】
表3に示されるように,アントシアニン含有組成物中に,DHA,サフラワー油及び亜麻仁油を配合した参考例2,3,6は吸収率が良好であったことが確認された。特に,サフラワー油及び亜麻仁油を配合した参考例3,6は吸収率が特に優れることが確認された。」
(イ) 上記の甲1の記載からすると,甲1には次の発明(以下,それぞれ「甲1発明1」,「甲1発明2」という。)が記載されているといえる。
(甲1発明1)
「油性成分を溶媒とし,アントシアニン含有素材及びレシチンを含有するカプセル用アントシアニン含有組成物。」
(甲1発明2)
「甲1発明1に係るカプセル用アントシアニン含有組成物を内包するカプセル剤。」
イ 甲2
・「【0009】実施例2
生馬鈴薯約1kgを水洗し,皮を剥いた後,厚さ1mmにスライスした。リゾレシチン含量85%の精製酵素分解大豆レシチンを33%含むデキストリン製剤(商品名:サンレシチンA-1,太陽化学(株)製)の1%水溶液に,このスライスポテトを60℃,3分間浸漬し,水切りを行なった。」
ウ 甲3
・「
」
エ 甲4
・「【0017】
・・・乳化剤は太陽化学(株)製「サンレシチンA-1」(リゾレシチン含量33%),・・・」
オ 甲5
・「【0017】
・・・
*サンレシチンA-1(太陽化学社株式会社)は,天然大豆レシチンを酵素分解して得られるリゾレシチン(1-モノアシルグリセリン脂質)を33%含有する。」
カ 甲6
・「【特許請求の範囲】
【請求項1】
油性成分(A),グリセリン(B),澱粉または澱粉誘導体(C),および,リゾレシチン(D)を含有するカプセル製剤用乳化組成物。
・・・
【請求項3】
油相成分(A)が58.6~83.5%重量,グリセリン(B)が10~18%重量,澱粉または澱粉誘導体(C)が5~18%重量,リゾレシチン(D)が1.5~5.4%重量であることを特徴とする請求項1又は2記載のカプセル製剤用乳化組成物。
・・・
【請求項5】
リゾレシチン原料中に含まれるリゾフォスファチジルコリンの濃度が少なくとも18%以上,望ましくは65%以上であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のカプセル製剤用乳化組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載されたカプセル製剤用乳化組成物を封入したソフトカプセル製剤。」
・「【0001】
本発明は自己乳化能を有するソフトカプセル製剤用組成物に関するものである。
自己乳化とは自然乳化とも呼ばれる現象で,水もしくは消化液に触れることで外力を必要とすることなく自然に乳化する現象のことを指す。この現象を利用した製剤として自己乳化型製剤(SEDDS)が知られている。この技術を導入することで,胆汁酸による乳化工程を経なくても,乳化することから食前・食後を問わず吸収されやすくなると言われている。」
・「【0008】
本発明者らは,上記課題解決のため鋭意研究した結果,グリセリン中に澱粉または澱粉誘導体を分散させ,乳化剤と共存させたものを外相,油相成分を内相とする水溶性の乳化組成物を調製することで,従来型の自己乳化製剤よりも油相成分高配合で乳化剤使用量を大幅に低減させた製剤を得られることを見出した。また該組成物中の澱粉もしくは澱粉誘導体は該組成物中から軟カプセル皮膜もしくは硬カプセルへのグリセリン移行を抑制し,該組成物が分離することなく安定で,カプセルの軟化,変形を抑制できるという知見を得,さらに,また油性成分を高比率にするために使用する乳化剤としてリゾレシチンを用いることによりグリセリン-油性成分間で強固な界面膜を作ることができることを知見して本発明に至った。
即ち,本発明は油相成分,グリセリン,リゾレシチンおよび澱粉または澱粉誘導体を含有するカプセル製剤用乳化組成物に関する。」
・「【0012】
成分(A)
成分(A),即ち油相成分としては,動植物性オイル,例えば大豆油,菜種油,綿実油,ひまわり油,サフラワー油,やし油,小麦胚芽油,コーン胚芽油,オリーブ油,米ぬか油,肝油,魚油,鯨油,中鎖脂肪酸トリグリセライドなどが挙げられる。これらの油相成分は,単独で,または2種以上組み合わせて用いても良い。実施例では中鎖脂肪酸トリグリセライドを主に使用した。油相成分(A)は58.6~83.5%重量が好ましい。・・・」
・「【0021】
・・・
試験例
・・・リゾレシチン(辻製油(株) SLP LPC-70 リゾフォスファチジルコリン濃度65%以上)を所定量秤取し,乳鉢で練合し均質化させた。・・・」
・「【0028】
・・・またリゾレシチンをリゾフォスファチジル含量の少ない原料(辻製油(株) SLP ホワイトリゾ リゾフォスファチジルコリン濃度18%以上)に切り替えて実施した比較例の結果を表5に示す。・・・」
キ 甲7
・「2 精製工程からの副産物1)
・・・脱ガム工程から排出されるガム質を原料として,脱水乾燥,成分調整を行うことにより『レシチン』が得られる。・・・
2・1 レシチンの由来
・・・
レシチンという名称は,商業的にはホスファチジルコリン(PC)も含めて,ホスファチジルエタノールアミン(PE),ホスファチジルイノシトール(PI),ホスファチジン酸(PA)などの各種のリン脂質を主体とし,その他の糖脂質やステロール,中性脂質,脂肪酸を含んだ混合物の総称として用いられている。植物由来のレシチンの起源としては,さまざまな油糧種子が考えられるが,原料の処理量(粗油の生産量)と粗油中のリン脂質含量によって選択され,世界的に見ても現時点では専ら大豆由来のレシチンが利用されている。・・・大豆由来のレシチンは,・・・大豆油製造工程の副産物であるガム質を原料に製造されるため,原料大豆の性状に加えて,搾油前処理,粗油の搾油条件,ガム質の分離・乾燥条件等が,大豆レシチンの品質に大きく影響することが知られている。・・・
2・2 大豆レシチンの性質と改質5)
・・・レシチンとはリン脂質を主体とする混合物の総称であり,最も幅広く用いられている大豆レシチンは大豆粗油を35~40%含む粘稠なペースト状のため,その物性面からハンドリングが悪く,かつ油分を含むために水への分散が悪く,さらにはリン脂質含量が60%程度と低いため,効果発揮のために添加量を増加すると,含有する大豆粗油に基づく色相や臭いが製品に影響する場合があり,使用用途が限られていた。これらの欠点を改良すると同時に,レシチン中の各リン脂質の特性を発揮させることを目的として,成分分別,酵素分解,酵素処理,水素添加等の改質を行うことにより,さまざまな種類のレシチンが製造され利用されている。改質レシチンの製造概略をFig.3に示す。
2・2・1 分別レシチン
大豆粗油を含むペースト状のレシチンに対して,アセトンを用いて脱油を行った粉末状レシチンは,上記の欠点を大幅に改良されたことにより,大豆レシチンの用途拡大に大きく寄与した。これに次いで,大豆レシチンを構成する各種リン脂質の溶剤に対する溶解度差を利用して,リン脂質の組成を変化させた分別レシチンも製造されている。特定の条件での分別操作を繰り返し,組み合わせることにより,通常の大豆レシチンにおいては,リン脂質の30%程度の含量であるPCを,90%程度にまで濃縮することができる。
2・2・2 酵素分解レシチン
リン脂質の分解酵素であるホスホリパーゼ(PL)を用いることで,その酵素の有する基質特異性によりリン脂質の特定の部位が分解され,特性が大きく変化する。近年,利用分野が拡大している酵素分解レシチンは,PLA2を用いて,グリセリンに結合している2位の脂肪酸のエステル結合を分解したもので,通常のレシチンと区別してリゾレシチンと呼ばれる。このリゾレシチンは,レシチンと比較して水溶性が著しく向上しており,ペースト状大豆レシチンは水へ分散し難いが,ペースト状大豆リゾレシチンは簡単な攪拌で容易に水へ分散し均一な乳濁液を調整することが可能である。
このリゾレシチンは水溶性の改善以外にも,酸性下でのエマルション安定性の向上,塩類の影響を受けにくい,高温でのエマルション安定性が良い,水・油のどちら側に添加してもほぼ同様の乳化力を発揮するなど,通常の大豆レシチンと比較して,乳化剤としての機能が飛躍的に向上する。このペースト状大豆リゾレシチンから,先に述べた分別操作を行うことにより,LPC(リゾホスファチジルコリン)含量を高めたものは,強力な乳化力と可溶化力を持ち,脂溶性ビタミン,油溶性の生理活性物質,色素,香料などの可溶化にも優れている。さらに,脂肪や脂溶性ビタミンの体内吸収を促進する作用も有することから,経腸栄養剤の乳化剤として医薬品分野でも利用されている。」(5頁右欄8行~7頁右欄23行)
ク 甲8
・「可溶化されたカルテノイドは濃度のみに依存して細胞へ取込まれるわけではない。可溶化にかかわる界面活性物質によって取込み量が大きく異なる。例えばCaco-2細胞を使用した我々の研究では,代表的なリン脂質であるホスファチジルコリンを含む混合ミセル中のカルテノイド取込み量は低く,逆にその加水分解物であるリゾホスファチジルコリンは取込みを著しく高めた」(17頁左欄12~18行)
ケ 甲9
・「1.はじめに
・・・工業的にレシチンと呼ばれるものは,ホスファチジルコリン(PC),ホスファチジルエタノールアミン(PE),ホスファチジルイノシトール(PI),ホスファチジン酸(PA)の代表的な4種・・・のリン脂質を主体として,その他の脂質も含んだ混合物の総称である。
・・・食品添加物公定書第8版で,レシチンは『油糧種子又は動物原料から得られたもので,その主成分はリン脂質である』と定義されている1)。現在食品分野で利用されているのは大豆レシチン,なたねレシチンと卵黄レシチンであるが,量的には大豆レシチンが圧倒的に多い。
2.大豆レシチンの製造
大豆レシチンは,大豆油製造における副産物として生産される。・・・得られたガム状レシチンは水分50%程度,リン脂質30%程度,未精製大豆油20%程度からなっており,減圧条件下で乾燥すると,リン脂質60%程度,未精製大豆油40%程度,色素等からなる淡黄~暗褐色の粘稠な液状の『ペースト状レシチン』が得られる・・・。
3.大豆レシチンの種類
ペースト状レシチンは・・・,粘稠な液状のためハンドリングが悪く,かつ未精製大豆油,色素等が含まれることにより,その風味,色が食品に対して影響を及ぼす場合がある。さらには油分を含むため水への分散性が悪く,使用用途が制限されてきた。これらの欠点を改良し,さらに大豆レシチンの機能を高める目的で古くから種々の改質がなされているが,用途を食品分野に限った場合,実用化されているのは,成分分別と酵素による改質である。
3.1レシチンのアセトン分別
リン脂質のアセトンへの溶解度は低く,『ペースト状レシチン』をアセトンで処理すると未精製大豆油や色素等はアセトンに溶け,リン脂質は沈降して分離される。こうして分離・精製されたリン脂質を乾燥して,白~褐色の『粉末状レシチン』が得られる(図3)。・・・
3.2レシチンのアルコール分別
レシチンのO/W,W/O乳化力は,PC,PE,PI,PAなどのリン脂質の組成に影響される。したがって,これらリン脂質の成分をアルコールにて分別することにより,もとのレシチンより好ましい性質を有するレシチンに改質することができる。
PCはPE,PI,PAに比べてアルコールに対する溶解度が高いこと,アルコール分別とアセトン分別を併用することにより,PC含量を65~75%に濃縮した淡黄~暗褐色で塊状の『PC高含有レシチン』が得られる(図3)。・・・
3.3レシチンの酵素分解
レシチンのエステル結合を加水分解する酵素,ホスフォリパーゼ(PL)として,PLA2,PLB,PLC,PLDが知られている・・・。
・・・脱ガム工程で得られたガム状レシチン,またはペースト状レシチンに加水してPLA2を作用させてC-2位の脂肪酸のエステル結合を加水分解,その後に乾燥,ろ過することで,レシチン分子の親水バランスを大きく高めた淡黄~暗褐色の粘稠な液体の『ペースト状リゾレシチン』が得られる。なお,酵素分解時の反応条件を調節することにより,分解率を制御したさまざまなタイプのリゾレシチンの調節が可能である。
この『ペースト状リゾレシチン』は,・・・アセトン分別することで,白~褐色の『粉末状リゾレシチン』が得られ,さらにアルコール分別することでPCのリゾ体含量を65~75%に高めた塊状の『LPC70』が得られる(図3)。こうして得られたいずれの『リゾレシチン』もO/W乳化効果が非常に高く,さらにデンプンやタンパク質との結合効果が高いため,パンや麺類の品質改良剤としても利用されている。さらに,脂肪や脂溶性ビタミンの体内吸収を促進する作用を持つことが知られており,近年食品と医薬品の両面の用途で最も需要が拡大している。
・・・
4.レシチンの使い方
・・・
」(51頁左欄1行~53頁末行)
コ 甲10
・「
」
サ 甲11
・「【0053】
本発明で使用する(B)リン酸エステルおよび/またはその塩の具体例としては,例えば,辻製油株式会社製・・・,『SLP-ペーストリゾ(液状リゾレシチン)』,『SLP-ホワイトリゾ(高純度粉末リゾレシチン)』『SLP-LPC70(LPC濃縮リゾレシチン)』などを挙げることができる。リン脂質の各成分組成については,表1に示した。」
【0054】
【表1】
」
シ 甲12
・「【請求項1】 油脂に対して,レシチンをリゾ化処理して得られた,含有リン脂質中のホスファチジルコリンとリゾホスファチジルコリンとの合計含有割合が50%以上であり,且つそれらの合計量の3割以上がリゾホスファチジルコリンであるリゾ化処理物を,該油脂と該リゾ化処理物の合計量に対して0.01~15重量%の割合において配合すると共に,グリセリンの平均重合度が7以上であり且つ縮合リシノレイン酸の平均重合度が5以上であるポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを,該リゾ化処理物の100重量部に対して30~500重量部の割合において配合してなる均一なリゾホスファチジルコリン高含有油脂組成物。
【請求項2】 油脂に対して,レシチンをリゾ化処理して得られた,含有リン脂質中のホスファチジルコリンとリゾホスファチジルコリンとの合計含有割合が50%以上であり,且つそれらの合計量の3割以上がリゾホスファチジルコリンであるリゾ化処理物を,該油脂と該リゾ化処理物の合計量に対して0.01~15重量%の割合において配合すると共に,該リゾ化処理物中の含有リン脂質の100重量部に対して100~700重量部の割合のエタノールを配合してなる均一なリゾホスファチジルコリン高含有油脂組成物。
【請求項3】 油脂に対して,レシチンをリゾ化処理して得られた,含有リン脂質中のホスファチジルコリンとリゾホスファチジルコリンとの合計含有割合が50%以上であり,且つそれらの合計量の3割以上がリゾホスファチジルコリンであるリゾ化処理物を,該油脂と該リゾ化処理物の合計量に対して0.01~15重量%の割合において配合すると共に,該リゾ化処理物中の含有リン脂質の100重量部に対して100~700重量部の割合のエタノールを配合せしめ,更にポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを,前記リゾ化処理物の100重量部に対して10~300重量部の割合において配合してなる均一なリゾホスファチジルコリン高含有油脂組成物。」
・「【0001】
【技術分野】本発明は,油脂にリゾホスファチジルコリン高含有のリゾレシチン(レシチンのリゾ化処理物)を含有せしめてなる油脂組成物に係り,特に,製菓・製パン用油脂,天板油,離型油等の食品の分野において好適に用いられ得る,風味が良く,且つ保存中に沈殿を生じたり,分離したりすることがなく,長期に亘って清澄な状態を保持し得る,均一なリゾホスファチジルコリン高含有油脂組成物に関するものである。」
・「【0005】・・・原料たるレシチンが高い吸湿性を有するものであるところから,油脂中に溶解,含有せしめられたレシチン,ひいてはそのリゾ化処理物の一成分たるリゾホスファチジルコリンも水分を吸着し,油脂に不溶性となるのであって,そしてそれにより,濁りや沈殿を惹起し,特に5℃以下の冷蔵状態下においては,かかる現象が促進されることが知られているのである。
【0006】しかも,レシチンのリゾ化処理物は,レシチンと比較して,親水性が高められているところから,水分との結合も惹起され易くなるのであり,そのため,油脂組成物中における沈殿の発生も格段に増加することとなるために,その解決策として,特開昭63-279751号公報には,食用油脂への酵素処理レシチン(リゾレシチン)の配合に際して,分散剤として,グリセリン脂肪酸エステル,ポリグリセリン脂肪酸エステル,プロピレングリコール脂肪酸エステル,ソルビタン脂肪酸エステル,或いはショ糖脂肪酸エステルを更に配合せしめる方法が提案されているが,この方法には,リゾ化処理していないレシチンを併用する必要があるという問題を内在しており,また,分散剤として用いられる各成分も,概念的に定義されているのみであって,特に限定されてはいない。而して,後述するように,リゾホスファチジルコリン高含有油脂組成物にあっては,そのような分散剤では,油脂組成物中における沈殿の発生を有効に阻止し得ないのである。」
・「【0011】
【解決手段】かかる状況下,本発明者等は,リゾホスファチジルコリン高含有のレシチンのリゾ化処理物を油脂に配合せしめて形成される油脂組成物における沈殿の発生を防止するために,分散剤として各種の乳化剤について種々検討した結果,各種ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルの中でも,特定のポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルのみが,優れた沈殿防止作用を発揮し得ることを見出したのであり,また,食用に供し得るアルコールについても検討した結果,エタノールを一定範囲内で使用すると,分散剤として有効に機能することも見出したのであり,更には,そのようなエタノールの存在下では,単独では分散剤として有効に機能し得なかった各種ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルも,有効に作用し得ることを見出したのである。」
ス 乙1に記載された事項
・「
」
4 取消理由1及び2(29条1項3号及び29条2項)について
(1) 本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明1とを,その有する機能に照らして対比すると,両者は以下の点で相違し,その余の点で一致する。
(相違点)
本件発明1は,「ペースト状大豆リゾレシチン」を含有するのに対し,甲1発明1は「レシチン」を含有する点。
イ 上記相違点について検討する。甲1には,具体的なレシチンとして「サンレシチンA-1,太陽化学社製」を利用する点が記載されているところ(【0038】,【0046】),当該「サンレシチンA-1,太陽化学社製」はリゾレシチンであるが(甲2【0009】,甲3「酵素分解レシチン」の欄,甲4【0017】,甲5【0017】),粉末状リゾレシチンであると認められる(甲3「酵素分解レシチン」の欄)。
そうすると,甲1発明1は,本件発明1と,含有するリゾレシチンの種類が異なり,この点で実質的に相違するから,本件発明1は,甲1に記載された発明であるとはいえない。
ウ 甲1発明1は,アントシアニンの生体吸収率の向上を目的としたものであるが,アントシアニン含有素材の水への分散性に着目したものではなく,甲1には,レシチンとして,ペースト状大豆リゾレシチンを利用することに関する記載や示唆は特段認められない。
甲6~12をみても,カプセル用アントシアニン含有素材との関連で,水への分散性も含め,ペースト状大豆リゾレシチンを利用することに関し,特段記載や示唆はない。甲6には,自己乳化能を有するカプセル製剤用組成物において,乳化剤としてリゾレシチンを利用する点が開示されているが,例示されたリゾレシチンはペースト状大豆リゾレシチンではない。甲7には,ペースト状大豆リゾレシチンがレシチンに比べて水への分散性が高く,乳化剤としての機能が飛躍的に増大する旨記載されているが,ペースト状大豆リゾレシチンをさらに分別操作したものが,強力な可溶力を持ち,脂溶性ビタミン,油溶性の生理活性物質,色素,香料などの可溶化力に優れ,脂肪や脂溶性ビタミンの体内吸収を促進する作用も有する旨記載されており,甲1発明1の目的の観点では,当該分別操作したリゾレシチンの優位性が示唆されているともいえる。甲12に,油脂組成物中において,リゾレシチンは水分と結合して沈殿を生じやすいことが記載されているが,特定のポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル,エタノールを配合することなどで解決する旨記載されており,アントシアニン含有素材の水への分散性やペースト状大豆リゾレシチンが有利である旨の記載は特段ない。
そうすると,甲1発明1において,レシチンとしてペースト状大豆リゾレシチンを採用することに,格別動機付けが認められない。
そして,本件発明1は,ペースト状大豆リゾレシチンを含有することにより,アントシアニン含有素材の水への分散性に所定の効果を発揮しており(本件特許明細書【0051】~【0068】),この点を単なる選択的事項とすることはできない。
エ 異議申立人は,この点に関し,
・リゾレシチンとして「SLP-ペーストリゾ」は周知であったから(甲9~11),甲1発明1において「SLP-ペーストリゾ」を採用することは,単なる選択的事項である
・甲1発明1において,ソフトカプセルにリゾレシチンと油性成分を混合する際に,粉末状のリゾレシチンを用いるより,油脂に溶解したリゾレシチン(ペースト状リゾレシチン)を用いる方が,油性成分と混ざりやすいと考えるのが通常であるから,油性成分との混ざりやすさを考慮し,ペースト状のリゾレシチンを採用することは容易である
・甲12に記載されていることからすると,甲1発明1において,「20~80重量%」(甲1【0023】)程度に油脂量を多くした場合に,リゾレシチンが水溶性であるアントシアニン含有素材に含まれる水分に吸着し,濁りや沈殿などの不都合が生じて分散性が低下することを防止するために,「SLP-ペーストリゾ」を用いることは,設計的事項である
などと,主張している。
しかしながら,「SLP-ペーストリゾ」が周知のものであるとしても,甲1には,「SLP-ペーストリゾ」について特段記載や示唆はなく,その他の証拠を参酌しても,甲1発明1において,レシチンとして「SLP-ペーストリゾ」を採用することの契機は希薄である。
既に述べたように,甲1発明1は水への分散性に着目したものではない。甲1には,油性成分とレシチンとの関係について特段記載はなく,レシチンの一具体例として「サンレシチンA-1」が開示されているに過ぎないから,当業者にとって,ペースト状大豆リゾレシチンを採用することが容易であるとは認められない。
甲12には,リゾレシチンは水分と結合して沈殿を生じやすいことに対し,特定のポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル,エタノールを配合することなどで解決する旨記載されており,このような甲12に記載の事項を当業者が知り得たとしても,甲1発明1において,レシチンとしてペースト状大豆リゾレシチンを採用することが,当然に導かれるものではない。
オ 以上のとおり,本件発明1は,甲1に記載された発明(甲1発明1)であるとは認められないとともに,甲1発明1及び甲2~12に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるとは認められない。
(2) 本件発明2~4について
本件発明2~4は,発明を特定するための事項として,請求項1に記載された事項を含むものであるから,その余の事項を検討するまでもなく,本件発明2~4は,本件発明1と同様の理由により,甲1に記載された発明(甲1発明1)であるとは認められないとともに,甲1発明1及び甲2~12に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるとは認められない。
(3) 本件発明5及び6について
本件発明5及び6は,発明を特定するための事項として,請求項1に記載された事項を含むものであるから,その余の事項を検討するまでもなく,本件発明5及び6は,本件発明1と同様の理由により,甲1に記載された発明(甲1発明2)であるとは認められないとともに,甲1発明2及び甲2~12に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるとは認められない。
(4) まとめ
以上のとおりであるから,本件発明1~6は,甲1に記載された発明であるとは認められないとともに,甲1に記載された発明(甲1発明1又は甲1発明2)及び甲2~12に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。
5 取消理由3(36条6項2号)について
(1) 「ペースト状大豆リゾレシチン」について
ア 本件訂正により,本件発明が「ペースト状大豆リゾレシチン」を含有することが特定された。
甲7,甲9~11,乙1の記載によれば,次のことがわかる。
・大豆レシチンは,大豆油を製造する工程における脱ガム工程から排出されるガム質を原料として得られ,これを酵素分解して得られるものが「リゾレシチン」(「酵素分解レシチン」(甲7,10,乙1)ともいう。以下同様。)である。
・「リゾレシチン」のうち,大豆レシチンを酵素分解して得られ,油分除去・精製をしていない(アセトン分別していない)ものが「ペースト状大豆リゾレシチン」(「ペースト状酵素分解レシチン」(甲7),「ペースト状リゾレシチン」(甲9),「液状リゾレシチン」(甲11),「液状酵素分解レシチン」(乙1))である。
・リゾレシチンにはほかに,「ペースト状大豆リゾレシチン」を油分除去・精製をして(アセトン分別して)得られるもの(「粉末状酵素分解レシチン」(甲7),「粉末状リゾレシチン」(甲9),「高純度粉末リゾレシチン」(甲11),「粉末状酵素分解レシチン」(乙1)),さらにアルコール分別したもの(「LPC70」(甲9),「LPC濃縮リゾレシチン」(甲11),「酵素分解分別レシチン」(乙1))がある。
以上の点に照らすと,本件発明の「ペースト状大豆リゾレシチン」とは,大豆レシチンを酵素分解して得られ,油分除去・精製をしていない(アセトン分別していない)ものを意味していることがわかり,本件発明は,その意味で,他の種類のリゾレシチンを含有するものとは区別することができる。
また,前記第2・2(1)のとおり,本件特許明細書には,カプセル用アントシアニン含有組成物中にペースト状大豆リゾレシチンを含有させることで,アントシアニン含有素材の水への分散性を向上させた点が記載されていると認められ,本件発明の「ペースト状大豆リゾレシチン」を上記のように理解することと整合している。
そうすると,本件訂正により,本件発明が,特定の種類のリゾレシチンである「ペースト状大豆リゾレシチン」を含有することが明確になったといえる。
イ 異議申立人は,この点に関し,
・「ペースト状大豆リゾレシチン」について,「油分除去・精製をしていない状態の特定のリゾレシチン」と解することも,単に,「リゾレシチンが何らかの溶媒に分散又は溶解し,ペースト状を呈しているもの」と解することもでき,多義的な解釈が可能である
・粉末状リゾレシチンを含むカプセル用アントシアニン含有組成物と,ペースト状リゾレシチンを含むカプセル用アントシアニン含有組成物とは,物として同じであるから,「ペースト状大豆リゾレシチン」が物として何を特定しているのかが不明確である
・「ペースト状大豆リゾレシチンを含有する」とは,カプセル用アントシアニン含有組成物中における大豆リゾレシチンの性状を示すのか,カプセル用アントシアニン含有組成物の調整時にペースト状の大豆リゾレシチンを配合したことを規定しているのか不明確であり,調整する前の性状を示しているのであれば,実質的に物の製造方法により物を特定するものである
・本件特許明細書には,「SLP-ペーストリゾ」が単に製品名称として記載されているに過ぎず,リゾレシチンを性状によって区別するという概念は存在しないから,「ペースト状大豆リゾレシチン」が「SLP-ペーストリゾ」以外に何を規定しているのか不明確である
・「ペースト状大豆リゾレシチン」が「油分除去・精製をしていない大豆粗油を含む状態の大豆リゾレシチン」を意味するのであれば,実質的に製造工程を記載したものとなる
・物質の状態は温度によって変化するから,「ペースト状」について多義的な解釈が可能である
などと主張している。
しかしながら,既に述べたように,「ペースト状大豆リゾレシチン」が,大豆レシチンを酵素分解して得られ,油分除去・精製をしていない(アセトン分別していない)ものを意味し,「リゾレシチンが何らかの溶媒に分散又は溶解し,ペースト状を呈しているもの」ではないことは明らかである。
そして,本件発明が,異なる種類のリゾレシチンである粉末状リゾレシチンを含むカプセル用アントシアニン含有組成物とは,物として異なることも明らかである。
また,本件発明が,特定の種類のリゾレシチンを含有するものであることは明らかであるから,請求項1の記載は物の製造方法により物を特定するものには当たらない。
さらに,既に述べたように,本件特許明細書には,カプセル用アントシアニン含有組成物中にペースト状大豆リゾレシチンを含有させることで,アントシアニン含有素材の水への分散性を向上させた点が記載されていると認められるから,本件特許明細書の記載を参酌しても,「ペースト状大豆リゾレシチン」の意味は明確で,温度条件を規定することも要しない。
ウ 以上のとおり,本件発明が,特定の種類のリゾレシチンである「ペースト状大豆リゾレシチン」を含有することは,明確である。
(2) 物の発明に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されていることについて
平成29年1月10付けの訂正請求書に係る訂正により訂正された特許請求の範囲の請求項1には,「・・・リゾレシチンを含有し,該リゾレシチンは,ペースト状リゾレシチンとして配合した」と,物の発明に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合に該当する記載が認められたが,本件訂正により,当該記載は削除されたため,当該記載に係る明確性要件違反は解消された。
(3) そして,請求項1~6において,ほかに特段不明確なところはない。
よって,請求項1~6において,本件発明が明確でないとは認められない。
第4 むすび
以上のとおりであるから,前記取消理由によっては,本件特許(請求項1~6に係る特許)を取り消すことはできない。
また,他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
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2016-700864