特許異議申立
2016-700274
無塗装高鮮映耐衝撃射出成形品とその製造方法
- 審判番号
- 2016-700274
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2012-536578外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2016年04月05日
- 審決日
- 2017年10月27日
- 公報発行日
- 2018年01月26日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】旭化成ケミカルズ株式会社
- 【権利者代理人】特許業務法人浅村特許事務所
- 【異議申立人】株式会社 アイピージェイ
- 分類
- P1651.113-YAA(B29C) / P1651.121-YAA(B29C) / P1651.537-YAA(B29C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第1項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第4項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第5793501号発明「無塗装高鮮映耐衝撃射出成形品とその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第5793501号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、2、3、4、5について訂正することを認める。
特許第5793501号の請求項1、3及び4に係る特許を維持する。
特許第5793501号の請求項2及び5に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第5793501号の請求項1~5に係る特許についての出願は、2011年9月30日(優先権主張 2010年10月1日 日本国(JP))を国際出願日とする出願であって、平成27年8月14日に特許権の設定登録がされ、平成27年10月14日にその特許公報が発行され、平成28年4月5日に、その請求項1~5に係る発明の特許に対し、株式会社アイピージェイ(以下「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
その後の手続の経緯は以下のとおりである。
平成28年 7月 7日 取消理由通知書
同年 9月 5日 意見書及び訂正請求書(特許権者)
同年11月 1日 意見書(特許異議申立人)
同年12月27日 取消理由通知書
平成29年 3月10日 意見書及び訂正請求書(特許権者)
同年 4月14日 訂正拒絶理由通知書
同年 5月18日 意見書及び手続補正書(特許権者)
同年 6月15日 取消理由通知書(決定の予告)
同年 8月21日 意見書及び訂正請求書(特許権者)
同年10月 5日 意見書(特許異議申立人)
第2 訂正の適否
特許権者は、特許法第120条の5第1項の規定により審判長が指定した期間内である平成29年8月21日に訂正請求書を提出し、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~5について訂正することを求めた(以下「本件訂正」という。)。
なお、平成28年9月5日付け及び平成29年3月10日になされた訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。
1 訂正の内容
(1)請求項1~5に係る一群の請求項に係る訂正について
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1である、
「ゴム成分(A)、及び熱可塑性樹脂(B)を含む射出成形品であって、
(1)ゴム成分(A)が熱可塑性樹脂(B)中に分散している、
(2)ゴム成分(A)の線膨張係数が12.5×10-5~19×10-5/℃である、
(3)該射出成形品表面の鮮映性が60~100%、及び
(4)該射出成形品のノッチ付きシャルピー衝撃強さが5~60kJ/m2 の特徴を有する無塗装高鮮映耐衝撃射出成形品。」を、
「ゴム成分(A)、及び熱可塑性樹脂(B)を含む射出成形品であって、
(1)ゴム成分(A)が熱可塑性樹脂(B)中に分散している、
(2)ゴム成分(A)の線膨張係数が12.5×10-5~19×10-5/℃である、
(3)該射出成形品表面の鮮映性が60~97%、及び
(4)該射出成形品のノッチ付きシャルピー衝撃強さが5~54kJ/m2 の特徴を有し、
更にステアリン酸系金属塩と、ポリプロピレンワックス、ポリエチレンワックス、酸化型ポリプロピレンワックス、酸化型ポリエチレンワックスのいずれかから選択される1種以上とを組み合わせて含有する摺動補助剤(C)を、ゴム成分(A)及び熱可塑性樹脂(B)の合計重量に対し0.05~2質量%含み、
該ゴム成分(A)のグラフト率が50%以上170%以下であり、
該熱可塑性樹脂(B)がシアン化ビニル単量体を含み、
該ゴム成分(A)中のグラフト成分におけるシアン化ビニル系単量体の量が15質量%~45質量%である、
無塗装高鮮映耐衝撃射出成形品。」に訂正する。
イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3である、
「繊維摩擦試験によるL*値の増加率が60%以下である、請求項1又は2のいずれかに記載の無塗装高鮮映耐衝撃射出成形品。」を、
「ゴム成分(A)、及び熱可塑性樹脂(B)を含む射出成形品であって、
(1)ゴム成分(A)が熱可塑性樹脂(B)中に分散している、
(2)ゴム成分(A)の線膨張係数が12.5×10-5~19×10-5/℃である、
(3)該射出成形品表面の鮮映性が60~97%、及び
(4)該射出成形品のノッチ付きシャルピー衝撃強さが5~54kJ/m2 の特徴を有し、
繊維摩擦試験によるL*値の増加率が60%以下であり、
更にステアリン酸系金属塩と、ポリプロピレンワックス、ポリエチレンワックス、酸化型ポリプロピレンワックス、酸化型ポリエチレンワックスのいずれかから選択される1種以上とを組み合わせて含有する摺動補助剤(C)を含み、
該ゴム成分(A)のグラフト率が50%以上170%以下であり、
該熱可塑性樹脂(B)がシアン化ビニル単量体を含み、
該ゴム成分(A)中のグラフト成分におけるシアン化ビニル系単量体の量が15質量%~45質量%である、
無塗装高鮮映耐衝撃射出成形品。」に訂正する。
エ 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4である、
「連続荷重式表面測定機における20g時抵抗値が3gf以下である、請求項1から3のいずれか一項に記載の無塗装高鮮映耐衝撃射出成形品。」を、
「ゴム成分(A)、及び熱可塑性樹脂(B)を含む射出成形品であって、
(1)ゴム成分(A)が熱可塑性樹脂(B)中に分散している、
(2)ゴム成分(A)の線膨張係数が12.5×10-5~17×10-5/℃である、
(3)該射出成形品表面の鮮映性が60~97%、及び
(4)該射出成形品のノッチ付きシャルピー衝撃強さが5~54kJ/m2 の特徴を有し、
連続荷重式表面測定機における20g時抵抗値が3gf以下であり、
該ゴム成分(A)のグラフト率が74.8%以上170%以下であり、
該熱可塑性樹脂(B)がシアン化ビニル単量体を含み、
該ゴム成分(A)中のグラフト成分におけるシアン化ビニル系単量体の量が15質量%~45質量%である、
無塗装高鮮映耐衝撃射出成形品(但し、ハロゲン系難燃剤、及び表面処理アンチモン化合物を含むものを除く)。」に訂正する。
オ 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5を削除する。
2 判断
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的について
訂正事項1は、「射出成形品表面の鮮映性が60~100%」であったものを、「60~97%」と限定する訂正と、「射出成形品のノッチ付きシャルピー衝撃強さが5~60kJ/m2」であったものを、「5~54kJ/m2」と限定する訂正と、「更にステアリン酸系金属塩と、ポリプロピレンワックス、ポリエチレンワックス、酸化型ポリプロピレンワックス、酸化型ポリエチレンワックスのいずれかから選択される1種以上とを組み合わせて含む摺動補助剤(C)を、ゴム成分(A)及び熱可塑性樹脂(B)の合計重量に対し0.05~2質量%含」むことを加入し、射出成形品を構成する材料を特定する訂正と、「該ゴム成分(A)のグラフト率が50%以上170%以下であ」ることを加入し、「該ゴム成分(A)中のグラフト成分におけるシアン化ビニル系単量体の量が15質量%~45質量%である」ことを加入することで、ゴム成分(A)を限定する訂正と、「該熱可塑性樹脂(B)がシアン化ビニル単量体を含」むことを加入することで、熱可塑性樹脂(B)を限定する訂正である。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。
イ 実質上の特許請求の範囲の拡張・変更について
訂正事項1は、上記アで述べたとおり、いずれも特許請求の範囲を減縮する訂正であるから、特許請求の範囲を実質上拡張又は変更するものではない。
したがって、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
ウ 新規事項の追加について
願書に添付した明細書の段落【0182】に記載の【表1】中、実施例1では、鮮映性の値が97%であること、実施例7では、シャルピー衝撃試験の値が54kJ/m2であることが記載されている。
また、願書に添付した明細書の同【0042】には、ゴム成分(A)、熱可塑性樹脂(B)以外の原材料として、摺動補助剤(C)を含有しても良いことが記載され、含有量はゴム成分(A)、熱可塑性樹脂(B)の合計質量に対し、0.05~2質量%であることが記載されており、同【0043】には、摺動補助剤(C)として、脂肪族金属塩等の滑剤、ポリオレフィン類が挙げられることが記載され、同【0044】には、脂肪族金属塩として脂肪酸金属塩が記載され、【0045】~【0047】には、脂肪酸金属塩として、特に好ましくはステアリン酸系の金属塩であることが記載され、同【0048】~【0050】には、ポリオレフィン類として、さらに好ましくはポリプロピレンワックス、ポリエチレンワックス、酸化型ポリプロピレンワックス、酸化型ポリエチレンワックスが記載され、同【0059】には、これら摺動補助剤(C)の中では、耐傷付き性の点で特にステアリン酸系金属塩とワックス類を併用したものが良いことが記載されている。
さらに、願書に添付した明細書の段落【0018】には、「グラフト率は、ゴム質重合体にグラフト共重合したグラフト成分のゴム質重合体の質量に対する、質量割合で定義できる。」と記載され、同【0017】には、「ゴム成分(A)がグラフト成分を含むゴム質重合体の場合、・・・グラフト率は、好ましくは200%以下であり、より好ましくは50~170%・・・である」ことが記載され、同【0039】には、熱可塑性樹脂(B)がシアン化ビニル単量体を含む場合、該ゴム成分(A)中のグラフト成分もシアン化ビニル単量体を含む組成であることが好ましく、ゴム成分(A)中のグラフト成分におけるシアン化ビニル系単量体の量が15質量%~45質量%であることが好ましいことが記載されている。
以上のとおり、訂正事項1は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内であるといえるから、訂正事項1は特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的について
訂正事項2は、請求項2を削除する訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。
イ 実質上の特許請求の範囲の拡張・変更、新規事項の追加について
訂正事項2は、請求項2を削除する訂正であり、実質上特許請求の範囲の拡張・変更に該当せず、また、新規事項の追加に当たらないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
(3)訂正事項3について
ア 訂正の目的について
訂正事項3は、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとする訂正と、「射出成形品表面の鮮映性が60~100%」であったものを、「60~97%」と限定する訂正と、「射出成形品のノッチ付きシャルピー衝撃強さが5~60kJ/m2」であったものを、「5~54kJ/m2」と限定する訂正と、「更にステアリン酸系金属塩と、ポリプロピレンワックス、ポリエチレンワックス、酸化型ポリプロピレンワックス、酸化型ポリエチレンワックスのいずれかから選択される1種以上とを組み合わせて含む摺動補助剤(C)を含」むことを加入し、射出成形品を構成する材料を特定する訂正と、「該ゴム成分(A)のグラフト率が50%以上170%以下であ」ることを加入し、「該ゴム成分(A)中のグラフト成分におけるシアン化ビニル系単量体の量が15質量%~45質量%である」ことを加入することで、ゴム成分(A)を限定する訂正と、「該熱可塑性樹脂(B)がシアン化ビニル単量体を含」むことを加入することで、熱可塑性樹脂(B)を限定する訂正である。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とする訂正及び第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。
イ 実質上の特許請求の範囲の拡張・変更について
訂正事項3は、上記アで述べたとおり、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとする訂正及び特許請求の範囲を減縮する訂正であるから、特許請求の範囲を実質上拡張又は変更するものではない。
したがって、訂正事項3は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
ウ 新規事項の追加について
他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとする訂正は、新規事項の追加に当たらないことは明らかである。
また、願書に添付した明細書の段落【0182】に記載の【表1】中、実施例1では、鮮映性の値が97%であること、実施例7では、シャルピー衝撃試験の値が54kJ/m2であることが記載されている。
さらに、願書に添付した明細書の同【0042】には、ゴム成分(A)、熱可塑性樹脂(B)以外の原材料として、摺動補助剤(C)を含有しても良いことが記載され、同【0043】には、摺動補助剤(C)として、脂肪族金属塩等の滑剤、ポリオレフィン類が挙げられることが記載され、同【0044】には、脂肪族金属塩として脂肪酸金属塩が記載され、【0045】~【0047】には、脂肪酸金属塩として、特に好ましくはステアリン酸系の金属塩であることが記載され、同【0048】~【0050】には、ポリオレフィン類として、さらに好ましくはポリプロピレンワックス、ポリエチレンワックス、酸化型ポリプロピレンワックス、酸化型ポリエチレンワックスが記載され、同【0059】には、これら摺動補助剤(C)の中では、耐傷付き性の点で特にステアリン酸系金属塩とワックス類を併用したものが良いことが記載されている。
加えて、願書に添付した明細書の段落【0018】には、「グラフト率は、ゴム質重合体にグラフト共重合したグラフト成分のゴム質重合体の質量に対する、質量割合で定義できる。」と記載され、同【0017】には、「ゴム成分(A)がグラフト成分を含むゴム質重合体の場合、・・・グラフト率は、好ましくは200%以下であり、より好ましくは50~170%・・・である」ことが記載され、同【0039】には、熱可塑性樹脂(B)がシアン化ビニル単量体を含む場合、該ゴム成分(A)中のグラフト成分もシアン化ビニル単量体を含む組成であることが好ましく、ゴム成分(A)中のグラフト成分におけるシアン化ビニル系単量体の量が15質量%~45質量%であることが好ましいことが記載されている。
以上のとおり、訂正事項3は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内であるといえるから、訂正事項3は特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
(4)訂正事項4について
ア 訂正の目的について
訂正事項4は、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとする訂正と、ゴム成分(A)の「線膨張係数」の範囲を、「12.5×10-5~19×10-5/℃」から「12.5×10-5~17×10-5/℃」に減縮する訂正と、「射出成形品表面の鮮映性が60~100%」であったものを、「60~97%」と限定する訂正と、「射出成形品のノッチ付きシャルピー衝撃強さが5~60kJ/m2」であったものを、「5~54kJ/m2」と限定する訂正と、「該ゴム成分(A)のグラフト率が74.8%以上170%以下であ」ることを加入し、「該ゴム成分(A)中のグラフト成分におけるシアン化ビニル系単量体の量が15質量%~45質量%である」ことを加入することで、ゴム成分(A)を限定する訂正と、「該熱可塑性樹脂(B)がシアン化ビニル単量体を含」むことを加入することで、熱可塑性樹脂(B)を限定する訂正と、「但し、ハロゲン系難燃剤、及び表面処理アンチモン化合物を含むものを除く」ことを加入し、射出成形品を構成する材料を限定する訂正である。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とする訂正及び第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。
イ 実質上の特許請求の範囲の拡張・変更について
訂正事項4は、上記アで述べたとおり、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとする訂正及び特許請求の範囲を減縮する訂正であるから、特許請求の範囲を実質上拡張又は変更するものではない。
したがって、訂正事項4は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
ウ 新規事項の追加について
他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとする訂正は、新規事項の追加に当たらないことは明らかである。
また、願書に添付した明細書の段落【0182】に記載の【表1】中、実施例1では、鮮映性の値が97%であること、実施例7では、シャルピー衝撃試験の値が54kJ/m2であることが記載されている。
さらに、願書に添付した明細書の段落【0018】には、「グラフト率は、ゴム質重合体にグラフト共重合したグラフト成分のゴム質重合体の質量に対する、質量割合で定義できる。」と記載され、同【0017】には、「ゴム成分(A)がグラフト成分を含むゴム質重合体の場合、・・・グラフト率は、好ましくは200%以下であり、より好ましくは50~170%・・・である」ことが記載され、同【0147】には、製造例2として、グラフト率が74.8%のゴム成分(重合体)(A)が記載され、同【0039】には、熱可塑性樹脂(B)がシアン化ビニル単量体を含む場合、該ゴム成分(A)中のグラフト成分もシアン化ビニル単量体を含む組成であることが好ましく、ゴム成分(A)中のグラフト成分におけるシアン化ビニル系単量体の量が15質量%~45質量%であることが好ましいことが記載されている。
加えて、「但し、ハロゲン系難燃剤、及び表面処理アンチモン化合物を含むものを除く」としても、新たな技術的事項を導入するものではないから、新規事項の追加とはいえない。
以上のとおり、訂正事項4は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内であるといえるから、訂正事項4は特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
(5)訂正事項5について
ア 訂正の目的について
訂正事項5は、請求項5を削除する訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。
イ 実質上の特許請求の範囲の拡張・変更、新規事項の追加について
訂正事項5は、請求項5を削除する訂正であり、実質上特許請求の範囲の拡張・変更に該当せず、また、新規事項の追加に当たらないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
(6)一群の請求項について
訂正事項1~5に係る訂正前の請求項1~5について、請求項2~5はそれぞれ請求項1を直接的に引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1~5に対応する訂正後の請求項1~5は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項に対してなされたものである。
3 まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正の請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
そして、特許権者から、訂正後の請求項2、3、4、5について訂正が認められるときは、他の請求項とは別の別途訂正することの求めがあったことから、訂正後の請求項2、3、4、5について請求項ごとに訂正することを認める。
よって、訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、2、3、4、5について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記のとおり、本件訂正は認められたので、特許第5793501号の請求項1~5に係る発明(以下「本件発明1」~「本件発明5」という。)は、訂正後の特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
ゴム成分(A)、及び熱可塑性樹脂(B)を含む射出成形品であって、
(1)ゴム成分(A)が熱可塑性樹脂(B)中に分散している、
(2)ゴム成分(A)の線膨張係数が12.5×10-5~19×10-5/℃である、
(3)該射出成形品表面の鮮映性が60~97%、及び
(4)該射出成形品のノッチ付きシャルピー衝撃強さが5~54kJ/m2 の特徴を有し、
更にステアリン酸系金属塩と、ポリプロピレンワックス、ポリエチレンワックス、酸化型ポリプロピレンワックス、酸化型ポリエチレンワックスのいずれかから選択される1種以上とを組み合わせて含有する摺動補助剤(C)を、ゴム成分(A)及び熱可塑性樹脂(B)の合計重量に対し0.05~2質量%含み、
該ゴム成分(A)のグラフト率が50%以上170%以下であり、
該熱可塑性樹脂(B)がシアン化ビニル単量体を含み、
該ゴム成分(A)中のグラフト成分におけるシアン化ビニル系単量体の量が15質量%~45質量%である、
無塗装高鮮映耐衝撃射出成形品。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
ゴム成分(A)、及び熱可塑性樹脂(B)を含む射出成形品であって、
(1)ゴム成分(A)が熱可塑性樹脂(B)中に分散している、
(2)ゴム成分(A)の線膨張係数が12.5×10-5~19×10-5/℃である、
(3)該射出成形品表面の鮮映性が60~97%、及び
(4)該射出成形品のノッチ付きシャルピー衝撃強さが5~54kJ/m2の特徴を有し、
繊維摩擦試験によるL*値の増加率が60%以下であり、
更にステアリン酸系金属塩と、ポリプロピレンワックス、ポリエチレンワックス、酸化型ポリプロピレンワックス、酸化型ポリエチレンワックスのいずれかから選択される1種以上とを組み合わせて含有する摺動補助剤(C)を含み、
該ゴム成分(A)のグラフト率が50%以上170%以下であり、
該熱可塑性樹脂(B)がシアン化ビニル単量体を含み、
該ゴム成分(A)中のグラフト成分におけるシアン化ビニル系単量体の量が15質量%~45質量%である、
無塗装高鮮映耐衝撃射出成形品。
【請求項4】
ゴム成分(A)、及び熱可塑性樹脂(B)を含む射出成形品であって、
(1)ゴム成分(A)が熱可塑性樹脂(B)中に分散している、
(2)ゴム成分(A)の線膨張係数が12.5×10-5~17×10-5/℃である、
(3)該射出成形品表面の鮮映性が60~97%、及び
(4)該射出成形品のノッチ付きシャルピー衝撃強さが5~54kJ/m2の特徴を有し、
連続荷重式表面測定機における20g時抵抗値が3gf以下であり、
該ゴム成分(A)のグラフト率が74.8%以上170%以下であり、
該熱可塑性樹脂(B)がシアン化ビニル単量体を含み、
該ゴム成分(A)中のグラフト成分におけるシアン化ビニル系単量体の量が15質量%~45質量%である、
無塗装高鮮映耐衝撃射出成形品(但し、ハロゲン系難燃剤、及び表面処理アンチモン化合物を含むものを除く)。
【請求項5】
(削除)
」
第4 特許異議申立人が申立てた取消理由の概要
1 取消理由1(進歩性)
訂正前の請求項1~4に係る発明は、本件優先日前に日本国内または外国において頒布された刊行物である下記の甲第1号証に記載された発明に基いて、また、訂正前の請求項5に係る発明は、本件優先日前に日本国内または外国において頒布された刊行物である下記の甲第1~3号証に記載された発明に基いて、本件優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件の請求項1~5に係る発明の特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。
記
甲第1号証:特開2004-27044号公報
甲第2号証:特開2005-97563号公報
甲第3号証:特開2002-92861号公報
2 取消理由2(サポート要件)
訂正前の特許請求の範囲の請求項1~5に記載された特許を受けようとする発明は、下記の点で、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないから、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。
よって、本件の請求項1~5に係る発明の特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。
記
本件発明1~4は、物性を数値で規定した射出成形品の発明であり、本件発明5は本件発明1~4に係る射出成形品の製造方法の発明であるが、発明の詳細な説明に記載された具体例に比べて不当に広い範囲を包含する発明であるから、出願時の技術常識に照らしても、発明の課題を解決できると当業者が認識できるとはいえない。
第5 取消理由通知(決定の予告)の概要
1 当審が平成29年6月15日付け取消理由通知(決定の予告)で通知した取消理由の概要は、以下の取消理由1~3に示すとおりである。
(1)取消理由1(新規性)
訂正前の請求項1~3に係る発明は、本件優先日前に日本国内または外国において頒布された刊行物である下記の甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
よって、本件の請求項1~3に係る発明の特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。
記
甲第1号証:特開2004-27044号公報
(2)取消理由2(サポート要件)
訂正前の特許請求の範囲の請求項1~3に記載された特許を受けようとする発明は、下記の点で、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないから、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。
よって、本件の請求項1~3に係る発明の特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。
記
本件発明のうち、射出成形品の鮮映性が60~100%、ノッチ付きシャルピー衝撃強さが5~60kJ/m2である点について、発明の詳細な説明の実施例をみると、97%を越えて100%までの鮮映性については具体的に記載されておらず、また、54kJ/m2を越えて60kJ/m2までのノッチ付きシャルピー衝撃強さについては具体的に記載されておらず、本件発明の課題を解決できることについて、裏付けをもって記載されていない。
(3)取消理由3(進歩性)
平成29年3月10日付け訂正請求により訂正された請求項4に係る発明は、本件優先日前に日本国内または外国において頒布された下記の刊行物である甲第1号証に記載された発明に基いて、本件優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件の請求項4に係る発明の特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。
記
甲第1号証:特開2004-27044号公報
第6 当審の判断
当審は、請求項2及び5に係る特許については、特許異議申立を却下することとし、また、本件発明1、3及び4に係る特許については、取消理由通知(決定の予告)の取消理由によっては、特許を取り消すことはできないと判断する。
その理由は以下のとおりである。
1 申立ての却下
上記第3で示したとおり、請求項2及び5は、本件訂正により削除されているので、請求項2及び5についての申立てを却下する。
2 取消理由について
(1)取消理由1(新規性)について
ア 刊行物
甲第1号証:特開2004-27044号公報
イ 刊行物の記載事項
本件優先日前に頒布された刊行物である甲第1号証には、以下の事項が記載されている。
(1a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ゴム質重合体(a)の存在下に、芳香族ビニル化合物、または芳香族ビニル化合物およびこれと共重合可能な他のビニル系単量体からなる単量体成分を重合して得られるゴム強化共重合樹脂(A1)、又は該ゴム強化共重合樹脂(A1)とビニル系単量体の(共)重合体(A2)との混合物からなり、ゴム質重合体(a)の含有量が5~40重量%である、ゴム強化熱可塑性樹脂100重量部に対し、
(B)ハロゲン系難燃剤3~30重量部、
(C)表面処理アンチモン化合物0.1~10重量部、
を配合したことを特徴とする難燃性熱可塑性樹脂組成物。」
(1b)「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、難燃性、成形品表面外観および耐衝撃性に優れた難燃性熱可塑性樹脂組成物に関する。」
(1c)「【0002】
【従来の技術】
ABS樹脂などのスチレン系樹脂は、成形品表面外観、成形加工性、耐衝撃性、寸法安定性などに優れているため、電気・電子分野、OA・家電分野、車両分野、建材、サニタリー用品などの幅広い分野に使用されている。しかしながら、スチレン系樹脂は、燃えやすいという欠点を有しており、難燃性が要求される分野では、難燃剤としてハロゲン系化合物、難燃助剤としてアンチモン化合物などを配合した難燃性スチレン系樹脂組成物が一般に使用されている。ところが、ABS樹脂などのスチレン系樹脂は、難燃剤やアンチモン化合物などの難燃助剤を配合すると、成形品表面外観、耐衝撃性が劣るという欠点を有している。更に難燃性樹脂組成物の比重が大きくなり、軽量化が要求される用途への展開の支障となっている。
【0003】
成形品表面外観については、表面光沢と発色性の要素からなり、近年、便座などの成形品においては高光沢性、高発色性の両要素が要求されている。しかし、一般に難燃助剤として使用されるアンチモン化合物を添加すると、難燃性スチレン系樹脂の成形品表面外観は低下する。難燃助剤として用いられる代表的なアンチモン化合物である三酸化アンチモンの形態は、平均粒径0.5~1μm程度の白色粒状化合物である。そのため、樹脂に三酸化アンチモンを配合することで、成形品表面に凸凹が発生し、成形品表面外観が不良となる。成形品表面外観を改良する手段としては、三酸化アンチモンの配合量を減量するか、または配合する三酸化アンチモンの平均粒径を小さくすることが考えられる。しかし、三酸化アンチモンの配合量を減量することは、難燃性を確保するという点から限界があり、かつ減量した三酸化アンチモンの代わりに難燃剤を大幅に配合する必要があり、経済的なデメリットが大きい。
【0004】
耐衝撃性については、近年、成形品の軽量化が求められ、薄肉化が進み、それに伴い樹脂組成物には耐衝撃性の向上が必要とされてきている。しかしながら、薄肉化に要求される耐衝撃性と難燃性は、逆相関関係となっている。すなわち、難燃性向上には三酸化アンチモンおよび難燃剤の増量が必要となるが、三酸化アンチモンの増量は耐衝撃性を低下させる。
以上のとおり、三酸化アンチモンを難燃助剤として使用している樹脂組成物の成形品表面外観および耐衝撃性を改良し、そして比重を低減するには、三酸化アンチモンの配合量を低減する必要があるが、難燃性と経済性を満足させながら低減できる技術は従来ない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記従来技術の課題を背景になされたもので、難燃性、成形品表面外観および耐衝撃性に優れ、さらに低比重化が達成でき、広範囲の用途に使用し得る難燃性熱可塑性樹脂組成物を提供することを目的とする。」
(1d)「【0011】
本発明の(A1)成分を、ゴム質重合体(a)存在下に、乳化重合で得る場合、使用されるゴム質重合体(a)の平均ゴム粒径は、成形品表面外観および耐衝撃性から、好ましくは0.1~2μm、特に好ましくは0.12~0.8μmである。
なお、(A)成分中のゴム質重合体(a)の量は、好ましくは5~40重量%、さらに好ましくは5~30重量%、特に好ましくは7~20重量%である。ゴム質重合体(a)の量が5重量%未満では耐衝撃性が低下し、一方、40重量%を超えた場合は剛性、燃焼性が劣る。」
(1e)「【0014】
上記(A)成分であるゴム強化熱可塑性樹脂をグラフト重合で得る場合、そのグラフト率は、好ましくは20~200重量%、さらに好ましくは30~150重量%である。グラフト率が30重量%未満では、ゴム質重合体成分(a)の添加効果が充分発揮されず、充分な耐衝撃強度が得られない。一方、200重量%を超えると、成形加工性が低下する。
上記グラフト率は、ゴム質重合体(a)、重合開始剤、連鎖移動剤、乳化剤などの種類や量、さらに重合時間、重合温度などを変えることにより容易に調整することができる。
ここで、グラフト率(重量%)は、ゴム強化熱可塑性樹脂1g中のゴム成分重量をx、メチルエチルケトン不溶分重量をyとすると、次式により求められた値である。
グラフト率(重量%)=〔(y-x)/x〕×100」
(1f)「【0025】
また、本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物には、公知のカップリング剤、抗菌剤、防カビ剤、酸化防止剤、耐候(耐光)剤、可塑剤、着色剤(顔料、染料など)、滑剤、帯電防止剤、金属粉、シリコーンオイルなどの添加物を配合することができる。
さらに、本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物には、要求される性能に応じて、他の熱可塑性重合体、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド樹脂、ポリアミドエラストマー、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル、ポリカーボネート、ポリエステルエラストマー、ポリスルホン、ポリフェニレンエーテル、ポリフッ化ビニリデンなどを適宜ブレンドすることもできる。」
(1g)「【0029】
・・・
なお、実施例中、部および%は特に断らない限り重量基準である。・・・
【実施例】
・・・
【0031】
・・・
成形品表面外観
長さ80mm×幅50mm×厚み2.4mmの試験片を成形し、スガ試験機(株)製、写像性測定器ICM-1DPを用い、成形品表面外観を下記条件で測定した。
試料反射角;45°、光学櫛;0.5mm
【0032】
耐衝撃性(アイゾット衝撃強度)
JIS K-7110に準拠して測定した。」
(1h)「【0033】
(イ)〔ゴム質重合体(a)-1、(a)-2の調製〕
本発明の(A)成分に用いられるエチレン-プロピレン系ゴム質重合体(a)-1、およびジエン系ゴム質重合体(a)-2を表1に示す。
【0034】
【表1】
【0035】
(ロ)[(A)成分の調整]
ゴム質重合体(a)-1または(a)-2の存在下に、乳化剤としてロジン酸カリウム、重合開始剤としてクメンハイドロパーオキサイドを用い、単量体成分としてスチレンとアクリロニトリルを重合した樹脂、およびスチレンとアクリロニトリルだけで重合した樹脂を得た。これらの樹脂組成を表2に示す。
【0036】
【表2】
」
(1i)「【0040】
実施例1~4、比較例1~2
上記各成分を、表3に示す配合割合で、ミキサーで3分間混合し、50mmφ押し出し機を用い、シリンダー設定温度180~210℃で溶融混練り押し出しし、ペレットを得た。得られたペレットを充分に乾燥し、シリンダー設定温度200℃、金型温度50℃で射出成形し、燃焼性、成形品表面外観および耐衝撃性評価用試験片を得た。これらの試験片を用い、上記評価法で評価した。結果を表3に示す。
【0041】
【表3】
」
ウ 甲第1号証に記載された発明
甲第1号証には、特許請求の範囲の請求項1に「(A)ゴム質重合体(a)の存在下に、芳香族ビニル化合物、または芳香族ビニル化合物およびこれと共重合可能な他のビニル系単量体からなる単量体成分を重合して得られるゴム強化共重合樹脂(A1)、又は該ゴム強化共重合樹脂(A1)とビニル系単量体の(共)重合体(A2)との混合物からなり、ゴム質重合体(a)の含有量が5~40重量%である、ゴム強化熱可塑性樹脂100重量部に対し、(B)ハロゲン系難燃剤3~30重量部、(C)表面処理アンチモン化合物0.1~10重量部、を配合したことを特徴とする難燃性熱可塑性樹脂組成物。」が記載され(摘記(1a))、実施例1では、ゴム強化共重合樹脂(A1)として、ゴム質重合体(a)-2のポリブタジエン(平均粒径0.35μm)を40部の存在下、単量体成分としてスチレン42部とアクリロニトリル18部を重合した樹脂(グラフト率が60%、極限粘度が0.48dl/g)の樹脂(A-2)、スチレン70部とアクリロニトリル30部だけで重合した樹脂(極限粘度が0.52dl/g)を65部を含む組成物が記載され(摘記(1f)、(1g))、実施例における部は重量部と記載され(摘記(1e))、ゴム質重合体(a)の含有量は、ゴム質重合体(a)が、ゴム強化共重合樹脂(A1)中に40重量%含み、ゴム強化共重合樹脂(A1)が、ゴム強化熱可塑性樹脂100重量部中に35重量部含むので、14重量%と算出できる。また、実施例1では、各成分を混合し、金型温度50℃で射出成形することが記載されているので、射出成形品が記載されているといえる。更に、射出成形により得られた試験片は、成形品表面外観が91%であり、アイゾット衝撃強度が11kgf・cm/cmであることが記載されている。
そうすると、甲第1号証には、「(A)ゴム質重合体(a)としてポリブタジエン40重量部の存在下に、スチレン42重量部およびアクリロニトリル18重量部を重合して得られるグラフト率が60%であるゴム強化共重合樹脂(A1)35重量部とビニル系単量体としてスチレン70重量部とアクリロニトリル30重量部との共重合体(A2)65部との混合物からなり、ゴム質重合体(a)の含有量が14重量%である、ゴム強化熱可塑性樹脂100重量部に対し、(B)ハロゲン系難燃剤18重量部、(C)表面処理アンチモン化合物3重量部、を配合した難燃性熱可塑性樹脂組成物からなる成形品表面外観が91%であり、アイゾット衝撃強度が11kgf・cm/cmである射出成形品」の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認める。
エ 対比・判断
(ア)本件発明1について
a 対比
甲1発明の「ゴム質重合体(a)としてポリブタジエン40重量部の存在下に、スチレン42重量部およびアクリロニトリル18重量部を重合して得られるグラフト率が60%であるゴム強化共重合樹脂(A1)」は、本件発明1の「ゴム成分(A)」であって、「該ゴム成分(A)のグラフト率が50%以上170%以下であ」ることに相当する。
また、甲1発明の「スチレンとアクリロニトリルとの共重合体(A2)」は、熱可塑性樹脂であることは明らかであり、また、アクリロニトリルはシアン化ビニル単量体の一種であるから、本件発明1の「熱可塑性樹脂(B)」であって、「該熱可塑性樹脂がシアン化ビニル単量体を含」むことに相当する。
更に、甲1発明では、ゴム強化共重合樹脂(A1)を35重量部、共重合体(A2)を65重量部からなるゴム強化熱可塑性樹脂100重量部であり、少量成分であるゴム強化共重合樹脂(A1)は、大量成分である共重合体(A2)に分散されていると認められる。
加えて、本件発明1は、ゴム成分(A)、及び熱可塑性樹脂(B)を含む射出成形品と特定され、他の配合成分を含むことを許容する射出成形品であるから、甲1発明が(B)ハロゲン系難燃剤18重量部、(C)表面処理アンチモン化合物3重量部を含むことは、両者の相違点ではない。
そして、甲1発明の射出成形品は塗装されるとの記載はないから無塗装であるといえ、射出成形品のアイゾット衝撃強度は11kgf・cm/cmであり、この評価値からみて、射出成形品は耐衝撃性を有するといえる。
そうすると、本件発明1と甲1発明とでは、
「ゴム成分(A)、及び熱可塑性樹脂(B)を含む射出成形品であって、
(1)ゴム成分(A)が熱可塑性樹脂(B)中に分散している、
該ゴム成分(A)のグラフト率が50%~170%以下であり、
該熱可塑性樹脂(B)がシアン化ビニル単量体を含む、
無塗装耐衝撃射出成形品」である点で一致し、次の点で相違する。
(相違点1-1)本件発明1では、ゴム成分(A)の線膨張係数が12.5×10-5~19×10-5/℃と特定されているのに対して、甲1発明では、ゴム強化共重合樹脂が、ポリブタジエン40重量部の存在下に、スチレン42重量部およびアクリロニトリル18重量部を重合して得られるグラフト率が60%であるものであって、その線膨張係数の値が明確でない点
(相違点1-2)本件発明1では、射出成形品表面の鮮映性が60~97%である高鮮映の射出成形品であるのに対して、甲1発明では、成形品表面外観が91%である射出成形品である点
(相違点1-3)本件発明1では、ノッチ付きシャルピー衝撃強さが5~54kJ/m2と特定された耐衝撃の射出成形品であるのに対して、甲1発明ではアイゾット衝撃強度が11kgf・cm/cmである耐衝撃射出成形品である点
(相違点1-4)本件発明1では、ステアリン酸系金属塩と、ポリプロピレンワックス、ポリエチレンワックス、酸化型ポリプロピレンワックス、酸化型ポリエチレンワックスのいずれかから選択される1種以上とを組み合わせて含有する摺動補助剤(C)を、ゴム成分(A)及び熱可塑性樹脂(B)の合計重量に対し0.05~2質量%含むのに対して、甲1発明では、このような摺動補助剤(C)を含まない点
(相違点1-5)本件発明1では、ゴム成分(A)中のグラフト成分におけるシアン化ビニル系単量体の量が15質量%~45質量%であるのに対して、甲1発明では、ゴム成分(A)中のグラフト成分におけるシアン化ビニル系単量体の量が明らかでない点
b 判断
事案に鑑み、まず、相違点1-4について検討する。
甲第1号証の段落【0025】には、本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物には、公知の滑剤を配合することができると記載されている(摘記(1f))。
しかしながら、具体的な滑剤として、ステアリン酸系金属塩と、ポリプロピレンワックス、ポリエチレンワックス、酸化型ポリプロピレンワックス、酸化型ポリエチレンワックスのいずれかから選択される1種以上とを組み合わせて含有する摺動補助剤(C)を、ゴム成分(A)及び熱可塑性樹脂(B)の合計重量に対し0.05~2質量%含むことは記載されていない。そして、このことは技術常識ともいえない。
そうすると、相違点1-4は、明らかに実質的な相違点であるから、その余の点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明ではない。
c まとめ
よって、本件発明1は、本件優先日前に日本国内または外国において頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当するものではない。
(イ)本件発明3について
a 対比
上記(ア)aで述べた甲1発明と本件発明1との各発明特定事項における一致点を踏まえた上で、本件発明3と甲1発明とを対比すると、両者は、
「ゴム成分(A)、及び熱可塑性樹脂(B)を含む射出成形品であって、
(1)ゴム成分(A)が熱可塑性樹脂(B)中に分散している、
該ゴム成分(A)のグラフト率が50%~170%以下であり、
該熱可塑性樹脂(B)がシアン化ビニル単量体を含む、
無塗装耐衝撃射出成形品」である点で一致し、次の点で相違する。
(相違点3-1)本件発明3では、ゴム成分(A)の線膨張係数が12.5×10-5~19×10-5/℃と特定されているのに対して、甲1発明では、ゴム強化共重合樹脂が、ポリブタジエン40重量部の存在下に、スチレン42重量部およびアクリロニトリル18重量部を重合して得られるグラフト率が60%であるものであって、その線膨張係数の値が明確でない点
(相違点3-2)本件発明3では、射出成形品表面の鮮映性が60~97%である高鮮映の射出成形品であるのに対して、甲1発明では、成形品表面外観が91%である射出成形品である点
(相違点3-3)本件発明3では、ノッチ付きシャルピー衝撃強さが5~54kJ/m2と特定された耐衝撃の射出成形品であるのに対して、甲1発明ではアイゾット衝撃強度が11kgf・cm/cmである耐衝撃射出成形品である点
(相違点3-4)本件発明3では、ステアリン酸系金属塩と、ポリプロピレンワックス、ポリエチレンワックス、酸化型ポリプロピレンワックス、酸化型ポリエチレンワックスのいずれかから選択される1種以上とを組み合わせて含有する摺動補助剤(C)を含むのに対して、甲1発明では、このような摺動補助剤(C)を含まない点
(相違点3-5)本件発明3では、ゴム成分(A)中のグラフト成分におけるシアン化ビニル系単量体の量が15質量%~45質量%であるのに対して、甲1発明では、ゴム成分(A)中のグラフト成分におけるシアン化ビニル系単量体の量が明らかでない点
(相違点3-6)本件発明3では、射出成形品の繊維摩擦試験によるL*値の増加率が60%以下であるのに対し、甲1発明では、射出成形品の繊維摩擦試験によるL*値の増加率が明らかでない点
b 判断
事案に鑑み、まず、相違点3-4について検討するが、甲第1号証の段落【0025】には、本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物には、公知の滑剤を配合することができると記載されている(摘記(1f))。
しかしながら、具体的な滑剤として、ステアリン酸系金属塩と、ポリプロピレンワックス、ポリエチレンワックス、酸化型ポリプロピレンワックス、酸化型ポリエチレンワックスのいずれかから選択される1種以上とを組み合わせて含有することは記載されていない。そして、このことは技術常識ともいえない。
そうすると、相違点3-4は、明らかに実質的な相違点であるから、その余の点について検討するまでもなく、本件発明3は、甲第1号証に記載された発明ではない。
c まとめ
よって、本件発明3は、本件優先日前に日本国内または外国において頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当するものではない。
オ 小括
以上のとおり、本件発明1及び3は、特許法第29条第1項第3号に該当する発明ではないから、本件の請求項1及び3に係る発明の特許は、同法第29条の規定に違反してされたものとはいえず、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものではない。
(2)取消理由2(サポート要件)について
ア 特許請求の範囲の記載
上記「第3」に記載したとおりである。
イ 発明の詳細な説明の記載
本願の発明の詳細な説明には、以下の事項が記載されている。
(a)「【0008】
このように、高い鮮映性を付与する技術は、塗装や表面処理に依存しているのが実態である。特に、ゴム成分を含有する耐衝撃性樹脂は、柔軟なゴム成分の影響を受け、優れた鮮映性の発現が困難であった。
【0009】
本発明における課題は、耐衝撃性を有するとともに、塗装することなく優れた鮮映性を発現する射出成形品、及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、ゴム成分が熱可塑性樹脂中に分散している射出成形品であって、ゴム成分の線膨張係数が特定範囲のものを射出成形品とすることで、上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成するに至った。」
(b)「【0017】
ゴム成分(A)が、グラフト成分を含むゴム質重合体の場合、グラフト成分は、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体、アクリル系単量体、から選ばれる一種以上の単量体を含む重合体がゴム質重合体に結合したものであることが好ましい。なお、グラフト成分は、これらの単量体以外に、共重合可能な他の単量体を含んでいてよい。グラフト率は、好ましくは200%以下であり、より好ましくは50~170%、さらに好ましくは60~150%である。グラフト率をこの範囲とすることで、ゴム成分(A)の線膨張係数を12.5×10-5~19×10-5/℃に制御することができる。
・・・
【0023】
本発明の射出成形品において、ゴム成分(A)は射出成形品から取り出したとき、特定の線膨張係数を有することが必要である。ゴム成分(A)の線膨張係数は、12.5×10-5~19×10-5/℃、好ましくは、12.5×10-5~17×10-5/℃である。線膨張係数を19×10-5/℃以下とすることで、優れた鮮映性を発現する射出成形品を得ることができる。また12.5×10-5/℃以上とすることで、十分な耐衝撃性が得られる。」
(c)「【0038】
さらに、本発明において、熱可塑性樹脂(B)の組成と、ゴム成分(A)中のグラフト成分の組成を調整して相溶性を高めると、ゴム質重合体の分散状態が良好となり、射出成形品の耐衝撃性、鮮映性、耐傷つき性をバランス化することができる。熱可塑性樹脂(B)とゴム成分(A)中のグラフト成分の好ましい組み合わせの例を以下に示す。
【0039】
熱可塑性樹脂(B)がシアン化ビニル単量体を含む場合、ゴム成分(A)中のグラフト部分も、シアン化ビニル単量体を含む組成であることが好ましく、ゴム成分(A)中のグラフト成分、及び熱可塑性樹脂(B)におけるシアン化ビニル系単量体の量は、それぞれにおいて15質量%~45質量%であることが好ましい。」
(d)「【0042】
本発明の射出成形品は、ゴム成分(A)、熱可塑性樹脂(B)以外の原材料として、摺動補助剤(C)を含有しても良い。摺動補助剤は、射出成形品表面に滑性を付与することを目的とするものである。摺動補助剤(C)の含有量はゴム成分(A)、熱可塑性樹脂(B)の合計質量に対し、0.05~2質量%であることが耐衝撃性の点で好ましい。摺動補助剤(C)を含有することにより、繊維摩擦試験がさらに良好となる。」
(e)「【0071】
本発明の射出成形品は、鮮映性が60~100%、ノッチ付きシャルピー衝撃強さが5~60kJ/m2である。鮮映性は、90~100%が好ましく、95%以上がより好ましい。ノッチ付きシャルピー衝撃強さは、7~50kJ/m2が好ましく、8~30kJ/m2がより好ましい。」
(f)「【0180】
(実施例1)
重合体(A-1)21質量部、共重合体(B-1)9質量部、共重合体(B-9)20質量部、共重合体(B-12)50質量部を混合し、(B-1)成分、(B-9)成分及び(B-12)成分中に(A-1)成分を分散させた後、これを押出機ホッパーに投入し、二軸押出機(PCM-30、L/D=28、池貝鉄工(株)製)を使用して、シリンダー設定温度250℃、スクリュー回転数150rpm、混練樹脂の吐出速度15kg/hrの条件で混練して樹脂組成物のペレットを得た後、樹脂温度250℃、および射出速度20mm/sで射出成形(東芝機械(株)製 EC100)を行い、平板10cm×10cm×3mmを作成した。金型は10000番手のヤスリにて、表面がRa0.01μmになるまで磨いたものを使用した。金型温度は80℃とした。
【0181】
(実施例2~13、比較例1~3)
表1記載の配合組成にて、実施例1と同様の方法でペレット、及び射出成形品を得た。
【0182】
(実施例14)
表1記載の配合組成にて、実施例1の射出速度を5mm/sとした以外、同様な方法でペレット、及び射出成形品を得た。
(比較例4)
表1記載の配合組成にて、実施例1と同様の方法でペレットを得た後、射出成形を行った。金型は3500番手のヤスリにて、表面がRa0.05μmになるまで磨いたものを使用した。金型温度は80℃とした。
【表1】
【表2】
【0183】
以上より、本発明の射出成形品では、無塗装で鮮映性が高く、かつ耐衝撃性・耐傷付き性に優れた効果が得られていることがわかる。」
ウ 本件発明の課題について
本件発明の課題は、発明の詳細な説明の段落【0009】、【0011】及び明細書全体の記載からみて、耐衝撃性を有するとともに塗装することなく優れた鮮映性を発現する射出成形品を提供することである。
エ 判断
まず、本件発明の課題のうち、耐衝撃性を有する射出成形品を提供することについて検討すると、発明の詳細な説明には、一般的な記載として、段落【0071】に、「本発明の射出成形品は、・・・ノッチ付きシャルピー衝撃強さが5~60kJ/m2である。」ことが記載されているところ、同【0023】には、「ゴム成分(A)の線膨張係数は、12.5×10-5~19×10-5/℃、好ましくは、12.5×10-5~17×10-5/℃である。・・・12.5×10-5/℃以上とすることで、十分な耐衝撃性が得られる。」ことが記載され、同【0038】には、「熱可塑性樹脂(B)の組成と、ゴム成分(A)中のグラフト成分の組成を調整して相溶性を高めると、ゴム質重合体の分散状態が良好となり、射出成形品の耐衝撃性、鮮映性、耐傷つき性をバランス化することができる。」ことが記載され、同【0039】には、「熱可塑性樹脂(B)がシアン化ビニル単量体を含む場合、ゴム成分(A)中のグラフト部分も、シアン化ビニル単量体を含む組成であることが好ましく、ゴム成分(A)中のグラフト成分、及び熱可塑性樹脂(B)におけるシアン化ビニル系単量体の量は、それぞれにおいて15質量%~45質量%であることが好ましい。」ことが記載され、同【0042】には、「摺動補助剤(C)の含有量はゴム成分(A)、熱可塑性樹脂(B)の合計質量に対し、0.05~2質量%であることが耐衝撃性の点で好ましい。」ことが記載されている。また、実施例に記載された具体例では、ノッチ付きシャルピー衝撃強さについて、最大で54kJ/m2の場合が記載されている。
次に、本件発明の課題のうち、塗装することなく優れた鮮映性を発現する射出成形品を提供することについて検討すると、発明の詳細な説明には、一般的な記載として、段落【0071】に、「本発明の射出成形品は、鮮映性が60~100%である。」ことが記載されているところ、同【0023】には、「ゴム成分(A)の線膨張係数は、12.5×10-5~19×10-5/℃、好ましくは、12.5×10-5~17×10-5/℃である。・・・線膨張係数を19×10-5/℃以下とすることで、優れた鮮映性を発現する射出成形品を得ることができる。」ことが記載され、同【0038】には、「熱可塑性樹脂(B)の組成と、ゴム成分(A)中のグラフト成分の組成を調整して相溶性を高めると、ゴム質重合体の分散状態が良好となり、射出成形品の耐衝撃性、鮮映性、耐傷つき性をバランス化することができる。」ことが記載され、同【0039】には、「熱可塑性樹脂(B)がシアン化ビニル単量体を含む場合、ゴム成分(A)中のグラフト部分も、シアン化ビニル単量体を含む組成であることが好ましく、ゴム成分(A)中のグラフト成分、及び熱可塑性樹脂(B)におけるシアン化ビニル系単量体の量は、それぞれにおいて15質量%~45質量%であることが好ましい。」ことが記載され、同【0042】には、「摺動補助剤(C)の含有量はゴム成分(A)、熱可塑性樹脂(B)の合計質量に対し、・・・摺動補助剤(C)を含有することにより、繊維摩擦試験がさらに良好となる。」ことが記載されている。また、実施例に記載された具体例では、鮮映性について、最大で97%の場合が記載されている。
以上のとおり、本件特許明細書には、一般的な記載として、耐衝撃性を有するとともに塗装することなく優れた鮮映性を発現する射出成形品が得るという本件発明の課題が解決できることに関して、ゴム成分(A)の線膨張係数を12.5×10-5~19×10-5/℃の範囲とし、熱可塑性樹脂(B)がシアン化ビニル単量体を含み、ゴム成分(A)中のグラフト部分も、シアン化ビニル単量体を含む組成であることとし、ゴム成分(A)中のグラフト成分におけるシアン化ビニル系単量体の量を15質量%~45質量%とすることとし、摺動補助剤(C)を含有することが記載されている。また、具体例として、ノッチ付きシャルピー衝撃強さについて、最大で54kJ/m2の場合や、鮮映性について、最大で97%の場合が記載されている。
そして、これらの記載に反するような技術常識の存在は認められない。
よって、本件発明1及び3の特許請求の範囲に記載された特許を受けようとする発明が、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものではないとはいえず、発明の詳細な説明に記載されたものでないとはいえない。
オ 小括
以上のとおり、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合しないとはいえないから、本件発明1及び3に係る特許は、同法第36条第6項の規定を満たさない特許出願に対してされたものであるとはいえず、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものとはいえない。
(3)取消理由3(進歩性)について
ア 刊行物、刊行物の記載事項及び甲第1号証に記載された発明
刊行物、刊行物の記載事項及び甲第1号証に記載された発明は、上記(1)ア~ウで記載したとおりである。
イ 対比・判断
(ア)本件発明4について
a 対比
上記(ア)aで述べた甲1発明と本件発明1との各発明特定事項における一致点を踏まえた上で、本件発明4と甲1発明とを対比すると、両者は、
「ゴム成分(A)、及び熱可塑性樹脂(B)を含む射出成形品であって、
(1)ゴム成分(A)が熱可塑性樹脂(B)中に分散している、
該熱可塑性樹脂(B)がシアン化ビニル単量体を含む、
無塗装耐衝撃射出成形品」である点で一致し、次の点で相違する。
(相違点4-1)本件発明4では、ゴム成分(A)の線膨張係数が12.5×10-5~17×10-5/℃と特定されているのに対して、甲1発明では、ゴム強化共重合樹脂が、ポリブタジエン40重量部の存在下に、スチレン42重量部およびアクリロニトリル18重量部を重合して得られるグラフト率が60%であるものであって、その線膨張係数の値が明確でない点
(相違点4-2)本件発明4では、射出成形品表面の鮮映性が60~97%である高鮮映の射出成形品であるのに対して、甲1発明では、成形品表面外観が91%である射出成形品である点
(相違点4-3)本件発明4では、ノッチ付きシャルピー衝撃強さが5~54kJ/m2と特定された耐衝撃の射出成形品であるのに対して、甲1発明ではアイゾット衝撃強度が11kgf・cm/cmである耐衝撃射出成形品である点
(相違点4-4)本件発明4では、ゴム成分(A)中のグラフト成分におけるシアン化ビニル系単量体の量が15質量%~45質量%であるのに対して、甲1発明では、ゴム成分(A)中のグラフト成分におけるシアン化ビニル系単量体の量が明らかでない点
(相違点4-5)本件発明4では、連続荷重式表面測定機における20g時抵抗値が3gf以下であるとしているのに対し、甲1発明では、連続荷重式表面測定機における20g時抵抗値が明らかでない点
(相違点4-6)本件発明4では、ゴム成分(A)のグラフト率が74.8%以上170%以下であるとしているのに対し、甲1発明では、ゴム成分のグラフト率が60%である点
(相違点4-7)本件発明4では、「(但し、ハロゲン系難燃剤、及び表面処理アンチモン化合物を含む物を除く)」との特定がされているのに対して、甲1発明では、ハロゲン系難燃剤18重量部及び表面処理アンチモン化合物3重量部を配合した射出成形品である点
b 判断
事案に鑑み、まず、相違点4-7について検討するが、甲第1号証には、甲1発明の前提である従来の技術として、難燃性が要求される分野では、難燃剤としてハロゲン系化合物、難燃助剤としてアンチモン化合物を配合することが一般的であるが、ABS樹脂などのスチレン系樹脂は、難燃剤やアンチモン化合物を配合すると、成形品表面外観、耐衝撃性が劣ることが記載され(摘記(1c))、また、難燃助剤としてアンチモン化合物を添加すると、成形品の表面外観は低下することが記載され(摘記(1c))、耐衝撃性と難燃性は逆相関関係があり、難燃性向上には、三酸化アンチモンおよび難燃剤の増量が必要となるが、三酸化アンチモンの増量は耐衝撃性を低下させることが記載され(摘記(1c))、この上で、三酸化アンチモンを難燃助剤として使用している樹脂組成物の成形品表面外観および耐衝撃性に優れた難燃性熱可塑性樹脂を提供することを目的とすることが記載されており(摘記(1c))、これらの記載からすると、甲1発明は、難燃性の向上した樹脂組成物を前提として、さらに成形品表面外観および耐衝撃性に優れた樹脂組成物の発明であるといえ、甲1発明において、難燃性が必要とされない分野に使用することが想定されているとはいえないから、当業者であったとしても、甲1発明である射出成形品において、ハロゲン系難燃剤18重量部及び表面処理アンチモン化合物3重量部を除くことが容易であるとはいえない。
c まとめ
したがって、本件発明4は、その余の点について検討するまでもなく、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 小括
以上のとおり、本件発明4は、本件優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明に基いて、本件優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとはいえない。
よって、本件発明4に係る特許は、同法第29条の規定に違反してされたものとはいえず、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものとはいえない。
3 その他特許異議申立書で申し立てられた取消理由について
上記「第4」で示したように、特許異議申立人は、訂正前の請求項1及び3に係る発明は、本件優先日前に日本国内または外国において頒布された下記の刊行物である甲第1号証に記載された発明に基いて、本件優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、と主張し、そして、平成28年11月1日付け意見書において、下記で示した証拠を追加して、平成28年9月5日付け訂正請求により訂正された請求項1及び3に係る発明は、本件優先日前に日本国内または外国において頒布された刊行物に記載された発明に基いて、本件優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、と主張しているので、この取消理由について検討する。
記
参考資料1:特開2001-323128号公報
参考資料2:特開2002-69308号公報
参考資料3:特開2001-11282号公報
参考資料4:特開2001-40160号公報
参考資料5:実用プラスチック事典 編集委員会編集、実用プラスチック事典、1993年5月1日 株式会社産業調査会発行、第822~828頁
(1)刊行物の記載事項
甲第1号証の記載事項及び甲第1号証に記載された発明は、上記「2(1)イ~ウ」で記載したとおりである。また、参考資料1~5の記載事項は、以下のとおりである。
ア 参考資料1
参考資料1には、以下の事項が記載されている。
(2a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 (A)エチレン-α・オレフィン系共重合ゴムおよび/またはジエン系重合体の水素添加物からなるゴム(a)の存在下に、芳香族ビニル化合物(b)、シアン化ビニル化合物(c)および必要に応じてこれらと共重合可能な他のビニル系単量体からなる単量体成分をグラフト重合してなるゴム強化熱可塑性樹脂5~40重量部、
(B)アクリル系ゴム(d)の存在下に、芳香族ビニル化合物(b)、シアン化ビニル化合物(c)および必要に応じてこれらと共重合可能な他のビニル系単量体からなる単量体成分をグラフト重合してなるゴム強化熱可塑性樹脂5~40重量部、
(C)芳香族ビニル化合物(b)、シアン化ビニル化合物(c)および必要に応じてこれらと共重合可能な他のビニル系単量体からなる単量体成分であって、単量体成分中の(c)成分の配合量が35重量%を超え60重量%以下である単量体成分を共重合してなる共重合体10~45重量部、ならびに
(D)芳香族ビニル化合物(b)、シアン化ビニル化合物(c)および必要に応じてこれらと共重合可能な他のビニル系単量体からなる単量体成分であって、単量体成分中の(c)成分の配合量が10~35重量%である単量体成分を共重合してなる共重合体0~80重量部〔ただし、(A)+(B)+(C)+(D)=100重量部〕を主成分とする、耐候性・耐薬品性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】 請求項1記載の(A)~(D)成分の合計量100重量部に対し、さらに(E)タルク、耐候剤および滑剤の群から選ばれた少なくとも1種を0.01~20重量部配合した耐候性・耐薬品性熱可塑性樹脂組成物。」
(2b)「【0044】さらに、滑剤としては、公知の滑剤を使用することができる。具体的には、長鎖のアルキル基と官能基とを有する化合物、エチレン、プロピレンなどのα-オレフィン(共)重合体、ジメチルポリシロキサンなどのシリコーン含有重合体、α-オレフィンと官能基含有不飽和化合物との共重合体、エチレン系共重合体、プロピレン系共重合体、エチレン-プロピレン共重合体、シリコーン含有重合体などの重合体に官能基含有不飽和化合物を付加した重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体などを酸化し、カルボキシル基などを付加する方法によって得られる重合体などが挙げられる。」
(2c)「【実施例】以下、実施例を挙げ、本発明をさらに具体的に説明する。なお、実施例中の部および%は、特に断らない限り重量部および重量%である。・・・
【0063】参考例4〔(E)成分の調製〕
(E)成分として、下記のものを使用した。
タルク:嵩密度0.9~1.3ml/g
耐候剤:
2-(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール(略称;HMPBT)
ビス(2,2′,6,6′-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート(略称;TMPS)
滑剤:ステアリン酸マグネシウム
【0064】実施例1~4、比較例1~3
上記各成分を、表1の配合処方で混合し、二軸押し出し機を用いて溶融混練りして押し出し、ペレット形状の組成物を得た。得られたペレットを充分に乾燥し、市販のABS樹脂〔テクノポリマー(株)製、ABS150〕100部に対し、発泡剤としてアゾジカルボンアミド(ADCA)を0.5部配合したものを、共押し出し機を用い、180℃で発泡共押し出しし、シート状成形品を得た。シート状成形品の厚み5mmにおける本発明の樹脂組成物とABS樹脂との重量割合は、1/9であった。評価結果を表1に示す。」
そして、表1には、実施例1~3として、樹脂の合計量100重量部に対して0.5重量部の滑剤を配合したことが記載されている。
イ 参考資料2
参考資料2には、以下の事項が記載されている。
(3a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 ゴム状重合体を含有する熱可塑性樹脂100質量部に対し、比表面積が50m2/g以上であるアルカリ金属、アルカリ土類金属から選ばれた少なくとも一種の酸化物及び/又は水酸化物の粒子が0.05~5質量部添加された熱可塑性樹脂組成物。」
(3b)「【0041】この様にして得られた熱可塑性樹脂組成物のペレットはそのまま、または、必要に応じて染料、顔料、安定剤、補強剤、充填材、難燃剤、発泡剤、滑剤、可塑剤等の添加剤を配合した後、成形品の製造原料として使用することができる。・・・」
(3c)「【0042】
【実施例】以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、以下の例に限定されるものではない。なお、以下の実施例の%、部数は、明記しない限りは質量%、質量部を表す。
・・・
【0056】(実施例1~11および比較例1~3)製造例で製造したグラフト共重合体(A-1)~(F-1)と、アクリロニトリル成分29%およびスチレン成分71%よりなり、N、N-ジメチルホルムアミド溶液から25℃で測定した還元粘度が0.60dl/gであるアクリロニトリル-スチレン共重合体(AS樹脂)の所定量に、ステアリン酸マグネシウムおよびエチレンビスステアリルアミドを樹脂成分100部に対してそれぞれ0.4部、0.4部、更に酸化マグネシウムを所定量添加した・・・」
ウ 参考資料3について
参考資料3には、以下の事項が記載されている。
(4a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 (イ)(A)ゴム重合体5~95重量部に、α,β-不飽和酸グリシジルエステル化合物0.1~30.2重量%、シアン化ビニル化合物9.9~40重量%、芳香族ビニル化合物59.9~90重量%およびこれらと共重合可能なビニル系化合物0~30重量%からなるビニル系単量体5~95重量部を合計量が100重量部になるように重合させてなるグラフト共重合体5~100重量部と、(B)シアン化ビニル化合物10~40重量%、芳香族ビニル化合物50~90重量%およびこれらと共重合可能なビニル系化合物0~30重量%を重合させてなる共重合体0~95重量部とからなるグラフト共重合体(A)と共重合体(B)との合計量が100重量部となる組成物1~30重量部と、(ロ)ABS系樹脂70~99重量部とからなる組成物(イ)とABS系樹脂(ロ)との合計量が100重量部の組成物(I)であり、かつ、組成物(I)のメチルエチルケトン可溶分の還元粘度が0.3~1.5dl/g(N,N-ジメチルホルムアミド0.3重量%溶液)であるABS系樹脂組成物。」
(4b)「【0009】すなわち、本発明は、(イ)(A)ゴム重合体5~95重量部(以下、部という)・・・」
(4c)「【0024】本発明のABS系樹脂組成物には、本発明の効果を損わない範囲で滑剤、酸化防止剤、タルク、アルカリ金属の水酸化物または炭酸塩、さらに必要に応じて、顔料、可塑剤、紫外線吸収剤、光安定剤などの1種または2種以上を混合してもよい。」
(4d)「【0065】実施例1
組成物(イ-1)10部とABS系樹脂(ロ-1)90部に対して、リン系安定剤(アデカスタブPEP-36、旭電化工業(株)製)0.4部、フェノール系安定剤(アデカスタブAO-30、旭電化工業(株)製)0.4部、滑剤としてエチレンビスステアリルアミド0.5部(日本油脂(株)製)、ポリエチレンワックス(ネオワックスACL、安原油脂工業(株)製)0.5部、タルク(ミクロエースL-1、日本タルク(株)製)0.5部、アルカリ金属の水酸化物として水酸化カルシウム(スーパーミクロスター、丸尾カルシウム(株)製)1.0部を添加し、ヘンシェルミキサーで混合し、ベント式単軸押出機(HV-40-28、田端機械工業(株)製)で270℃の設定温度で押し出し、樹脂組成物(1)を得、評価した。」
エ 参考資料4について
参考資料4には、以下の事項が記載されている。
(5a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 下記の(A)~(D)を含有するスチレン系熱可塑性樹脂組成物。(A)ゴム状重合体の存在下で、芳香族ヒ゛ニル化合物、シアン化ヒ゛ニル化合物及びこれらと共重合可能な単量体の混合物をク゛ラフト重合して得られるク゛ラフト共重合体10~80重量部、(B)芳香族ヒ゛ニル化合物、シアン化ヒ゛ニル化合物及びこれらと共重合可能な単量体混合物を重合して得られる共重合体20~90重量部((A)及び(B)の総量は100重量部とされる。)、(C)シリコーンオイル、 及び(D)変性ホ゜リオレフィン及び/又は炭素数が10以上の直鎖又は脂環式(メタ)アクリル酸エステルの単独重合体及び/又はその共重合体からなる相溶化剤。」
(5b)「【0024】本発明における樹脂組成物には、上記必須成分(A)~(D)の他に、必要に応じて、その他の樹脂、着色剤、フェノール酸化防止剤、滑剤、紫外線吸収剤等の各種添加剤などを使用することが出来る。」
(5c)「【0026】
【実施例】以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらにより制限されるものではない。尚、以下において「部」は「重量部」を、「%」は「重量%」を表す。また実施例に用いた化合物の略称を以下に示した。
・・・
【0027】実施例1
・・・
【0030】上記により得られたク゛ラフト共重合体(A)37部、共重合体(B)63部に、シリコーンオイル(C)1.0部、塩素化率30%の塩素化ホ゜リエチレンの相溶化剤(D)0.05部及び酸化防止剤(吉富ファインケミカル製:トミノックスSSR)0.3部、光安定剤(吉富ファインケミカル製:トミソーフ゛77)0.3部、滑剤(花王製:WAX-EB)2.0部、着色剤6.0部(カーホ゛ン含有量35重量%のカーホ゛ンフ゛ラックマスターハ゛ッシ゛、メーカ名:商品名)を配合し、二軸押出機(池貝鉄工製:PCM-30)により溶融混練し、ヘ゜レット化した。このヘ゜レットを用いて射出成形を行い、物性測定用のテストヒ゜ースを作製し、物性を以下の方法によって評価した。結果を表1に示す。
・・・
【0034】
【表1】
・・・
【0037】
・・・
*滑剤: 花王製:WAX-EB
・・・」
オ 参考資料5について
参考資料5には、以下の事項が記載されている。
(6a)「4.滑剤
1.はじめに
プラスチックを成形加工する場合、プラスチックと加工機械との接触面やポリマー相互間で摩擦が起こる。これらの摩擦を低下させ、プラスチックの流動性や離型性を改善し、その加工性を向上する目的で添加される薬剤が滑剤である。
一般に滑剤は二つの型に分類され、プラスチックと加工機械の接触面での潤滑性を向上させるものを外部滑剤、ポリマー相互間の潤滑性を向上させるものを内部滑剤と言う。・・・
本来、滑剤という言葉は成形加工時に添加される加工助剤の一種を意味していたが、成形加工されたプラスチック製品のスリップ性改良やブロッキング防止の目的で使用される添加剤も広い意味で滑剤として扱われる。」(第822頁右欄第1~19行)
(6b)「2.滑剤の一般的な性質
一般に滑剤の構造は次のようになっている。
1(原文では丸の中に1)炭化水素鎖(非極性)のみ
2(原文では丸の中に2)炭化水素鎖(非極性)+極性基
この炭化水素鎖が滑性を与え、極性基がポリマーとの相溶性や配向性をコントロールしている。以下に主な滑剤の一般的性質を示す。
(1)炭化水素系滑剤
炭化水素系滑剤には・・・ポリエチレンワックス等がある。・・・表2-4-2に炭化水素系滑剤の一般性状を示す。」(第822頁右欄第21行~823頁左欄第11行)
そして、表2-4-2には、ワックスの種類として「ポリエチレンワックス」が記載され、その添加量(PHR)が「0.1~1.0」であることが記載されている。
(6c)「(5)金属せっけん系滑剤
金属せっけんは脂肪酸と金属水酸化物(または酸化物)との反応、あるいは脂肪酸のアルカリ金属塩と金属塩化物(または硫酸塩)との反応により得られる。・・・
表2-4-6に金属せっけんの一般性状を示す。・・・ステアリン酸鉛、ステアリン酸亜鉛は外部滑剤として、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウムは内部滑剤として作用する。」(第825頁左欄第12~右欄第6行)
そして、表2-4-6には、ワックスの種類として「ステアリン酸カルシウム」、「ステアリン酸亜鉛」、「ステアリン酸マグネシウム」及び「ステアリン酸鉛」が記載され、それらの添加量(PHR)は、それぞれ「0.1~2.0」、「0.1~1.0」、「0.1~1.5」及び「0.1~2.0」であることが記載されている。
(6d)「4.滑剤の使用方法
滑剤の実際の使用に際しては、ポリマーの種類、加工機械、加工条件、製品の形状、要求品質、他の添加剤の影響等を考慮して適切な滑剤を選定し、その使用量を決めなければならない。表2-4-7に滑剤の使用例を示す。表2-4-8にプラスチックの種類と適応滑剤の一覧表を、・・・示す。」(第826頁右欄第17~24行)
(6e)「
」(第827頁下段)
(6f)「
」(第828頁右欄)
(2)対比・判断
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲1発明との対比は、上記「2(1)エ(ア)a」で述べたとおりであり、一致点及び相違点について再掲すると以下のとおりである。
a 一致点
「ゴム成分(A)、及び熱可塑性樹脂(B)を含む射出成形品であって、
(1)ゴム成分(A)が熱可塑性樹脂(B)中に分散している、
該ゴム成分(A)のグラフト率が50%~170%以下であり、
該熱可塑性樹脂(B)がシアン化ビニル単量体を含む、
無塗装耐衝撃射出成形品」
b 相違点
(相違点1-1)本件発明1では、ゴム成分(A)の線膨張係数が12.5×10-5~19×10-5/℃と特定されているのに対して、甲1発明では、ゴム強化共重合樹脂が、ポリブタジエン40重量部の存在下に、スチレン42重量部およびアクリロニトリル18重量部を重合して得られるグラフト率が60%であるものであって、その線膨張係数の値が明確でない点
(相違点1-2)本件発明1では、射出成形品表面の鮮映性が60~97%である高鮮映の射出成形品であるのに対して、甲1発明では、成形品表面外観が91%である射出成形品である点
(相違点1-3)本件発明1では、ノッチ付きシャルピー衝撃強さが5~54kJ/m2と特定された耐衝撃の射出成形品であるのに対して、甲1発明ではアイゾット衝撃強度が11kgf・cm/cmである耐衝撃射出成形品である点
(相違点1-4)本件発明1では、ステアリン酸系金属塩と、ポリプロピレンワックス、ポリエチレンワックス、酸化型ポリプロピレンワックス、酸化型ポリエチレンワックスのいずれかから選択される1種以上とを組み合わせて含有する摺動補助剤(C)を、ゴム成分(A)及び熱可塑性樹脂(B)の合計重量に対し0.05~2質量%含むのに対して、甲1発明では、摺動補助剤(C)を含まない点
(相違点1-5)本件発明1では、ゴム成分(A)中のグラフト成分におけるシアン化ビニル系単量体の量が15質量%~45質量%であるのに対して、甲1発明では、ゴム成分(A)中のグラフト成分におけるシアン化ビニル系単量体の量が明らかでない点
(イ)判断
事案に鑑み、まず、相違点1-4について検討する。
甲第1号証の段落【0025】には、本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物には、公知の滑剤を配合することができると記載されている(摘記(1f))。
しかしながら、具体的な滑剤として、ステアリン酸系金属塩と、ポリプロピレンワックス、ポリエチレンワックス、酸化型ポリプロピレンワックス、酸化型ポリエチレンワックスのいずれかから選択される1種以上とを組み合わせて含有する摺動補助剤(C)を、ゴム成分(A)及び熱可塑性樹脂(B)の合計重量に対し0.05~2質量%含むことは記載されていない。
そして、参考資料5は、滑剤について一般的な技術的内容が記載された文献であり、そこには、滑剤について「プラスチックを成形加工する場合、プラスチックと加工機械との接触面やポリマー相互間で摩擦が起こる。これらの摩擦を低下させ、プラスチックの流動性や離型性を改善し、その加工性を向上する目的で添加される薬剤が滑剤である。一般に滑剤は二つの型に分類され、プラスチックと加工機械の接触面での潤滑性を向上させるものを外部滑剤、ポリマー相互間の潤滑性を向上させるものを内部滑剤と言う。・・・本来、滑剤という言葉は成形加工時に添加される加工助剤の一種を意味していたが、成形加工されたプラスチック製品のスリップ性改良やブロッキング防止の目的で使用される添加剤も広い意味で滑剤として扱われる。」と記載がされている(摘記(6a))ことからみて、プラスチックに配合する滑剤とは、プラスチックと加工機械との接触面やポリマー相互間での摩擦を低下させ、プラスチックの流動性や離型性を改善する添加剤を意味し、更には、プラスチック製品のスリップ性やブロッキング防止のための添加剤を意味することは技術常識であるといえる。そうすると、甲第1号証には、周知技術としてプラスチックの流動性や離型性、プラスチック製品のスリップ性やブロッキング防止のために滑剤を配合することが記載されているといえる。
また、参考資料5には、滑剤の具体例として(1)炭化水素系滑剤、(5)金属せっけん系滑剤が記載され、上記各滑剤に含まれる具体的な化合物が種々記載されており、そして、その添加量も具体的な化合物ごとに別々に記載されている。そして、具体的な滑剤として、炭化水素型滑剤としてポリエチレンワックスを0.1~1.0PHRの添加量で用いること、(4)金属せっけん系滑剤としてステアリン酸カルシウムを0.1~2.0PHRの添加量で用いること、ステアリン酸亜鉛を0.1~1.0PHRの添加量で用いること、ステアリン酸マグネシウムを0.1~1.5PHRの添加量で用いること、ステアリン酸鉛を0.1~2.0PHRの添加量で用いることが記載されている(摘記(6b)~(6c))。ここで、PHRとは、Per Hundred Resinの略であり、樹脂100重量部に対する配合量であることを意味することは明らかである。
そして、滑剤の実際の使用はポリマーの種類等を考慮して適切に滑剤を選定し、その使用量を決めなくてはならない旨の記載(摘記(6d))がされ、滑剤の使用例として異なる種類の滑剤を組み合わせた使用例が記載され(摘記(6e))、プラスチックの種類と適用できる滑剤の関係を示した表が記載されている(摘記(6f))ものの、各種例示されている滑剤の中から、ステアリン酸金属塩とポリエチレンワックスを選択して、これらを組み合わせて、グラフト成分にシアン化ビニル単量体を含むゴム成分とシアン化ビニル単量体を含む熱可塑性樹脂を含む組成物に対して配合することやその配合量を0.05~2質量%とすることは記載されていない。
さらに、特許文献である参考資料1~4の実施例において具体的に用いる滑剤とその添加量に関し、参考資料1には、ステアリン酸マグネシウムを樹脂100重量部に対して0.5重量部用いることが記載され(摘記(2c))、参考資料2には、ステアリン酸マグネシウムおよびエチレンビスステアリルアミドを樹脂100重量部に対してそれぞれ0.4重量部用いることが記載され(摘記(3c))、参考資料3には、エチレンビスステアリルアミド、ポリエチレンワックスを樹脂100重量部に対してそれぞれ0.5重量部用いることが記載され(摘記(4d))、参考資料4には、樹脂100重量部に対して、滑剤である花王製WAX-EBを2.0重量部用いることが記載されている(摘記(5c))。
しかしながら、これらの参考資料1から4にも、滑剤として、ステアリン酸金属塩とポリエチレンワックスを選択し、これらを組み合わせて、グラフト成分にシアン化ビニル単量体を含むゴム成分とシアン化ビニル単量体を含む熱可塑性樹脂を含む組成物に対して配合することやその配合量を0.05~2質量%とすることは記載されていない。
上記したとおり、甲第1号証には、周知技術としてプラスチックの流動性や離型性、プラスチック製品のスリップ性やブロッキング防止のために滑剤を配合することが記載され、参考資料1~5には、具体的に使用する滑剤として、ステアリン酸金属塩、ポリエチレンワックスがそれぞれ個別に記載されているだけであって、ステアリン酸金属塩とポリエチレンワックスを選択してこれらを組み合わせて、グラフト成分にシアン化ビニル単量体を含むゴム成分とシアン化ビニル単量体を含む熱可塑性樹脂を含む組成物に対して配合することやその配合量を0.05~2質量%とすることは記載されておらず、参考資料1~5の記載をみた当業者であっても、甲1発明において、ステアリン酸金属塩とポリエチレンワックスとを組み合わせて、樹脂に対して0.05~2質量%配合する動機付けがあるとはいえず、相違点1-4を構成することは、当業者が容易に想到できたとはいえない。
(ウ)効果について
上で述べたとおり、本件発明1を構成することは当業者が容易に想到できたとはいえないが、念のため効果について検討してみる。
本件発明の効果について、特許明細書の段落【0011】には、「塗装や表面コート層の形成等の煩雑な工程を必要とすることなく、特殊な塗装並みの高い鮮映性を有し、かつ耐衝撃性を有し、さらには耐傷付き性をも発現しうる無塗装高鮮映耐衝撃射出成形品を得ることが可能となる。」との記載がされ、同段落【0131】以降に記載の実施例では、具体的なデータとともに記載がされているが、本件発明1の具体例である実施例2は、摺動補助剤が配合されていない実施例1や、摺動補助剤として、酸化型ポリエチレンワックスに代えてエチレン酢酸ビニル共重合体を用いた実施例3と比べて、高い鮮映性、耐衝撃性を維持しつつ、繊維摩擦試験におけるL*値の増加率がより低く抑えられており、耐傷付き性がより優れることがデータと共に示されている。
一方、特許異議申立人が引用した甲第1号証には、難燃性、表面外観、耐衝撃性に優れた組成物が記載され、また、滑剤を配合することが記載され、参考文献1には、滑剤は、プラスチックの流動性や離型性を改善し、プラスチック製品のスリップ性やブロッキング防止のための添加剤であることが記載されているが、高い鮮映性、耐衝撃性を維持しつつ耐傷付き性が優れることについては示されておらず、本件発明1の効果は当業者の予測を超えた顕著な効果であるということができる。
(エ)まとめ
したがって、その余の点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明及び参考資料1~5に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
イ 本件発明3について
(ア)対比
本件発明3と甲1発明との対比は、上記「2(1)エ(イ)a」で述べたとおりであり、一致点及び相違点について再掲すると以下のとおりである。
a 一致点
「ゴム成分(A)、及び熱可塑性樹脂(B)を含む射出成形品であって、
(1)ゴム成分(A)が熱可塑性樹脂(B)中に分散している、
該ゴム成分(A)のグラフト率が50%~170%以下であり、
該熱可塑性樹脂(B)がシアン化ビニル単量体を含む、
無塗装耐衝撃射出成形品」
b 相違点
(相違点3-1)本件発明3では、ゴム成分(A)の線膨張係数が12.5×10-5~19×10-5/℃と特定されているのに対して、甲1発明では、ゴム強化共重合樹脂が、ポリブタジエン40重量部の存在下に、スチレン42重量部およびアクリロニトリル18重量部を重合して得られるグラフト率が60%であるものであって、その線膨張係数の値が明確でない点
(相違点3-2)本件発明3では、射出成形品表面の鮮映性が60~97%である高鮮映の射出成形品であるのに対して、甲1発明では、成形品表面外観が91%である射出成形品である点
(相違点3-3)本件発明3では、ノッチ付きシャルピー衝撃強さが5~54kJ/m2と特定された耐衝撃の射出成形品であるのに対して、甲1発明ではアイゾット衝撃強度が11kgf・cm/cmである耐衝撃射出成形品である点
(相違点3-4)本件発明3では、ステアリン酸系金属塩と、ポリプロピレンワックス、ポリエチレンワックス、酸化型ポリプロピレンワックス、酸化型ポリエチレンワックスのいずれかから選択される1種以上とを組み合わせて含有する摺動補助剤(C)を含むのに対して、甲1発明では、摺動補助剤(C)を含まない点
(相違点3-5)本件発明3では、ゴム成分(A)中のグラフト成分におけるシアン化ビニル系単量体の量が15質量%~45質量%であるのに対して、甲1発明では、ゴム成分(A)中のグラフト成分におけるシアン化ビニル系単量体の量が明らかでない点
(相違点3-6)本件発明3では、射出成形品の繊維摩擦試験によるL*値の増加率が60%以下であるのに対し、甲1発明では、射出成形品の繊維摩擦試験によるL*値の増加率が明らかでない点
(イ)判断
事案に鑑み、まず、相違点3-4について検討する。
相違点3-4は、相違点1-4と、「ステアリン酸系金属塩と、ポリプロピレンワックス、ポリエチレンワックス、酸化型ポリプロピレンワックス、酸化型ポリエチレンワックスのいずれかから選択される1種以上とを組み合わせて含有する摺動補助剤」である点は同じであるが、相違点3-4は、「摺動補助剤(C)を、ゴム成分(A)及び熱可塑性樹脂(B)の合計重量に対し0.05~2質量%含」むことが特定されていない点で相違点1-4と異なるので、以下では、上記「ア(イ)」で述べたことを参照しつつ、「ステアリン酸系金属塩と、ポリプロピレンワックス、ポリエチレンワックス、酸化型ポリプロピレンワックス、酸化型ポリエチレンワックスのいずれかから選択される1種以上とを組み合わせて含有する摺動補助剤」について検討する。
甲第1号証、参考資料1~5には、上記「(1)ア~オ」で示したとおりのことが記載されているが、ステアリン酸金属塩とポリエチレンワックスを選択して、これらを組み合わせて、樹脂に対して配合することは記載されていない。
そして、上記「ア(イ)」で述べたとおり、甲第1号証には、周知技術としてプラスチックの流動性や離型性、プラスチック製品のスリップ性やブロッキング防止のために滑剤を配合することが記載され、参考資料1~5には、具体的に使用する滑剤として、ステアリン酸金属塩、ポリエチレンワックスがそれぞれ個別に記載されているだけであって、ステアリン酸金属塩とポリエチレンワックスを選択して、これらを組み合わせて、樹脂に対して配合することは記載されておらず、参考資料1~5の記載をみた当業者であっても、ステアリン酸金属塩とポリエチレンワックスとを組み合わせて、樹脂に対して配合する動機付けがあるとはいえず、相違点3-4を構成することは、当業者が容易に想到できたとはいえない。
(ウ)効果について
上で述べたとおり、本件発明3を構成することは当業者が容易に想到できたとはいえないが、念のため効果について検討してみるに、これは、上記「ア(ウ)」で述べたとおりであり、本件発明3の効果は当業者の予測を超えた顕著な効果であるということができる。
(エ)まとめ
したがって、その余の点について検討するまでもなく、本件発明3は、甲第1号証に記載された発明及び参考資料1~5に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)小括
以上のとおり、本件発明1及び3は、本件優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明及び参考資料1~5に記載された技術的事項に基いて、本件優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとはいえない。
よって、本件発明1及び3に係る特許は、同法第29条の規定に違反してされたものとはいえず、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものとはいえない。
第6 むすび
したがって、特許異議申立の理由及び当審が通知した取消理由によっては、本件発明1、3及び4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1、3及び4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
請求項2及び5に係る特許は、訂正により、削除されたため、本件特許の請求項2及び5に対して特許異議申立人がした特許異議申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2016-700274