特許拒絶査定不服審判
2016-018672
軟磁性金属粉末、および、軟磁性金属圧粉コア。
- 審判番号
- 2016-018672
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2016-055579外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2016年12月12日
- 審決日
- 2017年10月11日
- 公報発行日
- 2018年01月26日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】TDK株式会社
- 【請求人代理人】前田・鈴木国際特許業務法人
- 分類
- P18 .121-Z (B22F)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2016- 55579「軟磁性金属粉末、および、軟磁性金属圧粉コア。」拒絶査定不服審判事件〔平成28年12月22日出願公開、特開2016-216818〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
1.手続の経緯
本願は、平成28年3月18日(優先権主張 平成27年5月14日)の出願であって、平成28年6月13日付けで拒絶理由が通知され、同年同月28日付けで手続補正がなされたのに対して、同年7月13日付けで拒絶理由が通知され、同年8月17日付けで手続補正がなされたが、同年9月8日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年12月12日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。
2.本願発明
本願の請求項1ないし9に係る発明は、平成28年8月17日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定されるものと認められるところ、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。
「 【請求項1】
炭素を含む、鉄を主成分とする軟磁性金属粉末であって、
前記軟磁性金属粉末の金属粒子内の炭素の含有量が247~485ppmであることを特徴とする軟磁性金属粉末。
」
3.引用例とその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である特開2013-204108号公報(平成25年10月7日公開、以下、「引用例」という。)には、「磁心用粉末の製造方法」に関して図面とともに以下の記載がある。なお、下線は当審で付与した。
ア.「【0010】
そして、軟磁性粉末の内部に含まれる炭素の含有量が増加するに従って、図7に示すように、得られた圧粉磁心のヒステリシス損失が大きくなる傾向にあり、磁気特性が低下するおそれがあった。 」
イ.「【0018】
さらに、本発明では、浸珪処理後、前記浸珪処理により加熱された軟磁性粉末を冷却する段階で、前記ガス雰囲気下における露点を-15℃以上に切り替える。すなわち、浸珪処理反応が発現するガス雰囲気下における露点は、一般的には-50℃以下の低露点であるところ、この露点を-15℃以上の高露点に切り替える。
【0019】
これにより、そのガス雰囲気において積極的に水分(H2O)を導入し、導入されたH2Oと、軟磁性粉末に残存した炭素を反応させ、残存した軟磁性粉末内の炭素を低減することができる。このようにして得られた磁心用粉末を用いて圧粉磁心を製造した場合、磁心用粉末の内部には、不純物としての炭素がこれまでに比べて低減されているので、製造された圧粉磁心の磁気特性を向上させることができる。また、発明者らの後述する実験では、切り替える露点が-15℃未満の場合には、水分(H2O)と軟磁性粉末内の炭素との反応が十分に発現しないという結果を得ている。
【0020】
なお、本発明にいう露点(温度)とは、気体中の水蒸気が飽和に達して結露する温度であり、例えば、相対湿度100%のときの周囲温度である。ガス雰囲気下の水分量が少ないと、この露点温度が低くなる。一方、ガス雰囲気下の水分量が多いと、この露点温度が高くなる。すなわち、ガス雰囲気下に水分がどの程度含有されているかを示す指標であって、露点温度とガス雰囲気自体の温度とは無関係である。露点温度の測定は、熱処理を実施する炉体へ導入及び排出する雰囲気ガスの出入口において、ガス圧が1気圧の条件下で行われることが好ましく、本発明でいう露点は1気圧下(0.1MPa)における値を意味する。」
ウ.「【0024】
本発明によれば、炭素を含有した軟磁性粉末の表面に、浸珪処理を行うことを前提に、含有する炭素量を低減した磁心用粉末を得ることができる。このようにして得られた磁心用粉末を用いて圧粉磁心を製造した場合、磁心用粉末の内部には、不純物としての炭素がこれまでに比べて低減されているので、圧粉磁心の磁気特性を向上させることができる。」
エ.「【0028】
まず、軟磁性粉末として、炭素を含有した鉄系の軟磁性粉末を準備する。このような軟磁性粉末は、平均粒径が45~150μmのガスアトマイズ又は水アトマイズにより製造されたアトマイズ粉末、又は合金インゴットをボールミル等で粉砕した粉砕粉などである。さらに、軟磁性粉末には、主成分として鉄を含み、さらに炭素以外にも、シリコン等が含有していてもよい。」
オ.「【0044】
以下に本発明を実施例に基づき説明する。
〔実施例1〕
軟磁性粉末として、組成がFe-1%Cのガスアトマイズにより製造された鉄粉を準備した。さらに、この鉄粉の平均粒径50~200μmとなるように、JIS-Z8801に規定する試験用篩い用いた。浸珪用粉末として平均粒径50nmのシリカ粉末を準備した。」
カ.「【0047】
〔比較例1〕
実施例1と同じようにして、磁心用粉末を作製した。実施例1と相違する点は、炉内の露点温度を、-60℃に保持したまま、均熱後、軟磁性粉末を冷却させた点である。」
キ.「【0049】
(結果1および考察1)
図4に示すように、実施例1に係る磁心用粉末には、ほとんど炭素が残存していなかった(0.02質量%以下であった)が、比較例1に係る磁心用粉末には、0.2質量%以上の炭素が残存していた。 」
ク.「【0051】
〔実施例2〕
実施例1と同じようにして、磁心用粉末を作製した。実施例1と相違する点は、冷却段階において、露点を切り替えるタイミングを、冷却される軟磁性粉末の温度が、950℃になった時点で、表1に示すように、冷却段階において、切り替えた露点を、-15℃にした点である。このようにして、得られた各磁心用粉末に対して、実施例1と同じように、磁心用粉末の炭素残存量を測定した。この結果を、表1に示す。
【0052】
【表1】」
上記アないしクから、引用例には以下のことが記載されている。
・上記アによれば、軟磁性粉末の内部に含まれる炭素の含有量が増加するに従って、得られた圧粉磁心のヒステリシス損失が大きくなるものである。
・上記イによれば、磁心用粉末の製造方法は、浸珪処理後、前記浸珪処理により加熱された軟磁性粉末を冷却する段階で、前記ガス雰囲気下における露点を-15℃以上に切り替え、ガス雰囲気において積極的に水分(H2O)を導入し、導入されたH2Oと、軟磁性粉末に残存した炭素を反応させ、残存した軟磁性粉末内の炭素を低減するものである。
・上記ウによれば、炭素を含有した軟磁性粉末の表面に、浸珪処理を行い、含有する炭素量を低減した磁心用粉末である。
・上記エ、オによれば、軟磁性粉末は、炭素を含有した鉄系の軟磁性粉末であって、主成分として鉄を含むものである。
・上記カないしク及び表1によれば、磁心用粉末の炭素含有量(炭素残存量)が、浸珪処理により加熱された軟磁性粉末を冷却する冷却段階において、露点温度を-60℃に保持し作製された磁心用粉末は、0.23質量%であり、浸珪処理により加熱された軟磁性粉末を冷却する冷却段階において、切り替え時の露点温度を-15℃にして作製された磁心用粉末は、0.05質量%であり、 浸珪処理により加熱された軟磁性粉末を冷却する冷却段階において、切り替え時の露点温度を0℃にして作製された磁心用粉末は、0.02質量%以下である。
以上の点を踏まえて、上記記載事項および図面を総合的に勘案すると、引用例には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
「炭素を含有した鉄系の軟磁性粉末に、浸珪処理を行い、含有する炭素量を低減した磁心用粉末であって、
浸珪処理により加熱された軟磁性粉末を冷却する冷却段階において、露点温度を-60℃に保持し作製された磁心用粉末の炭素含有量(炭素残存量)が、0.23質量%、
または、浸珪処理により加熱された軟磁性粉末を冷却する冷却段階において、切り替え時の露点温度を-15℃にして作製された磁心用粉末の炭素含有量(炭素残存量)が、0.05質量%、
または、浸珪処理により加熱された軟磁性粉末を冷却する冷却段階において、切り替え時の露点温度を0℃にして作製された磁心用粉末の炭素含有量(炭素残存量)が、0.02質量%以下、
である磁心用粉末。」
4.対比
本願発明と引用発明とを対比する。
a.引用発明の「磁心用粉末」は、「炭素を含有した鉄系の軟磁性粉末」に、浸珪処理を行って作製されるものであることを鑑みれば、引用発明の「炭素を含有した鉄系の軟磁性粉末に、浸珪処理を行い、含有する炭素量を低減した磁心用粉末」は、本願発明の「炭素を含む、鉄を主成分とする軟磁性金属粉末」に相当する。
b.引用発明の「磁心用粉末の炭素含有量(炭素残存量)」は、本願発明の「前記軟磁性金属粉末の金属粒子内の炭素の含有量」に相当する。
ただし、炭素の含有量について、本願発明は、「前記軟磁性金属粉末の金属粒子内の炭素の含有量が247~485ppmである」と特定されているのに対して、引用発明は、炭素の含有量がそのような数値範囲ではない。
そうすると、本願発明と引用発明とは以下の点で一致ないし相違する。
<一致点>
「炭素を含む、鉄を主成分とする軟磁性金属粉末。」
<相違点>
炭素の含有量について、本願発明は、「前記軟磁性金属粉末の金属粒子内の炭素の含有量が247~485ppmである」と特定されているのに対して、引用発明は、炭素の含有量がそのような数値範囲ではない点。
5.判断
上記相違点について検討する。
引用発明の磁心用粉末の炭素含有量(炭素残存量)は、「切り替え時の露点温度を-15℃にして作製された磁心用粉末の炭素含有量(炭素残存量)が、0.05質量%(500ppm)」、「切り替え時の露点温度を0℃にして作製された磁心用粉末の炭素含有量(炭素残存量)が、0.02質量%以下(200ppm以下)」であって、磁心用粉末の炭素含有量(炭素残存量)が「247~485ppm」ではないものの、引用例の上記「3.引用例 イ」の段落【0018】ないし【0020】の記載を参酌すると、ガス雰囲気において積極的に水分(H2O)を導入し、導入されたH2Oと、軟磁性粉末に残存した炭素を反応させ、残存した軟磁性粉末内の炭素を低減するものであること、そして、ガス雰囲気下の水分量が少ないと、露点温度が低くなり、ガス雰囲気下の水分量が多いと、露点温度が高くなることを鑑みれば、浸珪処理により加熱された軟磁性粉末を冷却する冷却段階において、切り替え時の露点温度を-15℃と0℃の間に設定すれば、炭素磁心用粉末の炭素含有量(炭素残存量)も「0.05質量%(500ppm)」と「0.02質量%以下(200ppm以下)」の間にある磁心用粉末を得ることができることは当業者であれば容易に想到し得ることである。
そして、例えば、原査定の拒絶の理由に引用された特開2006-261378号公報(特に、段落【0034】、【0039】の【表2】のサンプルNo.4ないし6 参照)、また、特開2002-164208号公報(特に、段落【0015】参照)、特開2010-222637号公報(特に、段落【0019】参照)に記載のように、炭素の含有量が「247~485ppm」の範囲にある軟磁性金属粉末は周知の事項であることから、同様の炭素の含有量の磁心粉末を得るために、引用発明及び周知技術に基づいて、浸珪処理により加熱された軟磁性粉末を冷却する冷却段階において、切り替え時の露点温度を-15℃と0℃の間に設定し、炭素磁心用粉末の炭素含有量(炭素残存量)を「247~485ppm」の範囲とすることで相違点の構成とすることは当業者であれば容易になし得たことである。
したがって、本願発明は、引用発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
そして、本願発明の作用効果も引用発明及び周知の技術事項により当業者が予測できる範囲のものである。
なお、審判請求人は、平成28年12月12日付けの審判請求書において、「本願発明は、特に金属粒子内の炭素の含有量が247~485ppmである構成により、保磁力およびコアロスが著しく低下するという効果を有する。さらに、表Aより、当該炭素の含有量の数値範囲が臨界的意義を有する事が自明である。したがって、当該効果は、引用文献1および6から予測できない異質かつ著しく優れた公開である。」旨の主張をされている。
しかしながら、本願の明細書の段落【0069】の【表2】を参照すると、実施例2-1は、炭素の含有量が「297ppm」(「247~485ppm」の範囲内)で軟磁性金属粉末の保持力が「230A/m」であるのに対して、参考例2-7、2-8の炭素含有量はそれぞれ「502ppm」、「868ppm」(「247~485ppm」の範囲外)であるにもかかわらず、軟磁性金属粉末の保持力はそれぞれ「179A/m」、「194A/m」であり、実施例2-1よりも軟磁性金属粉末の保持力が低下している(同様に、参考例2-14、2-15も、炭素含有量は「247~485ppm」の範囲外であるが、軟磁性金属粉末の保持力は低い。)。このように、炭素の含有量が「247~485ppm」の範囲にあることと、軟磁性金属粉末の保持力が低いこととは必ずしも対応していないこと等を鑑みれば、軟磁性金属粉末の保持力は「炭素の含有量」のみに依存するものではなく、Si含有量、Ni含有量、粒子内の酸素量、熱処理温度や保持時間に依存結晶粒の大きさ、粒子の円形度など様々な要素によって決まるものであると判断され、審判請求人が主張するような「金属粒子内の炭素の含有量が247~485ppmである構成により、保磁力およびコアロスが著しく低下するという効果を有する」ものであるとはいえない。したがって、審判請求人が主張されている炭素の含有量が「247~485ppm」という数値範囲に臨界的意義は認められない。
してみれば、請求項1に係る発明は、「前記軟磁性金属粉末の金属粒子内の炭素の含有量が247~485ppmである」と炭素の含有量が特定されているに過ぎず、保磁力およびコアロスが著しく低下するという効果は認められないことから、上記に記載したとおり、引用発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、請求人の上記主張は認められない。
6.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用例に記載された発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項に言及するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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