特許拒絶査定不服審判
2016-010989
無線聴診器およびその使用方法
- 審判番号
- 2016-010989
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2015-520164外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2016年07月21日
- 審決日
- 2017年08月25日
- 公報発行日
- 2018年03月30日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】パルモネリ エイピーピーエス、 エルエルシー
- 【請求人代理人】阿部 正博
- 【請求人】トライス ケヴィン
- 【請求人代理人】阿部 正博
- 分類
- P18 .121-WZ (A61B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2015-520164「無線聴診器およびその使用方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 1月 9日国際公開、WO2014/007857、平成27年 9月 7日国内公表、特表2015-525606〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本願は,2013年(平成25年)3月14日(パリ条約による優先権主張 2012年7月5日 米国)を国際出願日とする出願であって,平成27年8月20日付けで拒絶理由が通知され,同年12月12日に意見書及び手続補正書が提出され,平成28年2月25日付けで拒絶査定されたところ,同年7月21日に拒絶査定不服審判の請求がなされ,同時に手続補正がなされたものである。その後当審において平成29年3月15日付けで拒絶理由(以下,「当審拒絶理由」という)が通知され,同年6月19日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。
第2 本願発明
本願の請求項1-26に係る発明は,平成29年6月19日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1-26に記載された事項により特定される発明であり,その請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は以下のとおりの発明である。
「【請求項1】
少なくとも1の身体音を監視するための少なくとも1の無線検出器と受信器装置とを備える無線聴診器であって,
前記無線検出器が,
身体音を検出する少なくとも1のマイクロホン,
肺音,心音または消化音に典型的な音の波長に対応する特定の波長範囲内のみの身体音を増幅する前置増幅器,
前置増幅された身体音において,前記特定の波長範囲外の身体ノイズを除去または低減するフィルタ回路,
前記フィルタ回路にインターフェースを使用して接続され,前記フィルタ回路からの前記特定の波長範囲内の身体音を増幅する電力増幅器,
前記電力増幅器により増幅された前記特定の波長範囲内の身体音をデジタル化するマイクロコントローラーにインターフェースを使用して接続されるアナログ・デジタル変換器,及び
デジタル化された身体音の前記受信器装置への無線送信のための送信器装置,を備え,
前記受信器装置が,前記デジタル化された身体音を受信および処理すること,ならびに,前記デジタル化された身体音をユーザー側の聴取および表示装置に送信することを行う,前記無線聴診器。」
第3 引用文献,引用発明等
1 引用文献1について
(1)引用文献1に記載された事項
当審拒絶理由に引用された,本願の優先日前に頒布された刊行物である,国際公開第2008/097008号(以下,「引用文献1」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている(日本語訳は当審が作成した。また,下線は当審が付した。)。
(引1a)「Technical Field
[1] The present invention relates to a wireless auscultation system using digital electronic stethoscope, and more particularly, a wireless auscultation system using a multi-function digital stethoscope, upgraded one step higher in convenience of its usage and quality of the product, in which auscultation data of a patient collected through the electronic stethoscope are transmitted by wireless, and then outputted through separate speaker or headset via neighboring wireless receiving device, and so the extra communication wire from the stethoscope are not needed and therefore the stethoscope can be used free, and more a doctor as well as a patient can hear the diagnosed auscultation sounds together so that more detailed medical service can be provided, and moreover, various functions can be provided by adding a non-contact mode temperature sensor or a lamp being used for observing inner side of mouth or ears to the stethoscope. 」
(日本語訳)
「技術分野
[1]本発明は,デジタル電子聴診器を用いた無線聴診システム,特に,電子聴診器を通じて収集された患者の聴診データを無線により送信し,近くの無線受信装置を介して離れた場所のスピーカ又はヘッドセットを通じて出力し,そして,聴診器からの余分な通信線が必要なく,それ故,聴診器を自由に使うことができ,さらにきめ細かな医療サービスが提供でき,さらに,非接触モード温度センサや口や耳の内側を観察するための光源を聴診器に追加することによって様々な機能を提供するといった,製品の使用法と品質とを一段階高い利便性にアップグレードされた多機能デジタル電子聴診器を用いた無線聴診システムに関する。」
(引1b)「[39] Fig. 3 is a constitution view of wireless auscultation system using a multi-function digital stethoscope according to a preferred embodiment of the present invention;
[40] The wireless auscultation system using a multi-function digital stethoscope according to the present invention is designed to have said digital stethoscope(10) with built-in wireless transmitting unit applied by blue-tooth technology and to transmit by wireless the auscultation data collected through the stethoscope(10), and further to have a receiving device(20) receiving the auscultation data transmitted by wireless from the digital stethoscope(10) and then to hear the auscultation data using a speaker(30) or a headset(40) selectively to the receiving device(20).」
(日本語訳)
「[39]図3は,本発明の好ましい実施形態による多機能デジタル聴診器を使用する無線聴診システムの構成図である。
[40]本発明に係る多機能デジタル聴診器を使用する無線聴診システムは,ブルートゥース技術を用いた無線送信ユニットを内蔵する上記デジタル聴診器(10)を有し,聴診器(10)を通じて収集した聴診データを無線で送信し,デジタル聴診器(10)から無線で送信された聴診データを受信する受信装置(20)を有し,受信装置(20)において選択的にスピーカー(30)又はヘッドセット(40)を用いて聴診データを聞くように設計されている。」
(引1c)「[74] When the power supply switch(151) becomes turned on, power is supplied to the auscultation input unit(l10) and its function is activated.
[75] At this time, when the sound collecting unit(14) of the stethoscope(l0) is contacted to the auscultation region of patient, the auscultation oscillation sounds collected through the sound collecting unit(14) are inputted into the microphone(l11) of the auscultation input unit(l10).
[76] The auscultation oscillation sounds inputted into the microphone(l11) are converted into the electric signals, and the weak analogue auscultation sound signals are firstly amplified through the first amplifier(l12).
[77] The auscultation sound sings outputted through the first amplifier(l12) output only region selected after going through one between the first filter and the third filter(l14, 115, 116) selected already through the filter- selecting unit(l13).
[78] The auscultation sound signals outputted through the filter are secondly amplified through the second amplifier(117), and the analogue auscultation sound signals are converted into the digital signals through the A/D converter(l18).
[79] The digital auscultation sound signals outputted from the A/D converter(l18) are inputted into the controller(120), and the controller stores them in predetermined form and outputs them to LCD(12) and outputs this auscultation data to the blue-tooth transmitting unit(130) in order to transmit by wireless them.
[80] The blue-tooth transmitting unit(130) transmits by wireless the auscultation data outputted from the controller(120) in a blue-tooth mode to the receiving device(20).
[81] The auscultation data transmitted by wireless from the digital stethoscope(l0) are received by the blue-tooth receiving unit(211) of the receiving device(20).
[82] The auscultation data received by the blue-tooth receiving unit(211) are filtered through the digital filter(212) and then removes the feedback signals having possibility of howling among the signals outputted through the digital filter(212) by using the feedback filter(213).
[83] Accordingly, the howling signals taken place by the feedback signals, into which speaker output signals are re-inputted when speaker(30) and the stethoscope (10) are used closely, can be perfectly removed by the feedback filter(213).
[84] The auscultation data signals outputted through the feedback filter(213) are amplified passing through the digital main-amplifier(214) and then are outputted as sounds to the speaker(30) through the output terminal(23).
[85] At the same time, the auscultation data outputted through the digital filter(212) are amplified through the digital sub-amplifier(215) and then are outputted to the headset(40) through the output terminal (24). 」
(日本語訳)
「[74]電力供給スイッチ(151)がオンにされると,聴診入力ユニット(110)に電力が供給され,その機能が起動される。
[75]聴診器(10)の音収集ユニット(14)が患者の聴診領域に接触されると同時に,音収集ユニット(14)を通じて収集された聴診振動音は聴診入力ユニットのマイクロフォン(111)に入力される。
[76]マイクロフォン(111)に入力された聴診振動音は,電気信号に変換され,その弱いアナログ聴診音信号は,第1増幅器(112)によって最初の増幅をされる。
[77]第1増幅器(112)から出力された聴診音信号は,フィルター選択ユニット(113)によって既に選択されている第1フィルターないし第3フィルター(114,115,116)のうちの一つを通過することで,選択された領域のみを出力する。
[78]フィルターから出力された聴診音信号は,第2増幅器(117)によって2度目の増幅をされ,アナログ聴診音信号はA/D変換器(113)によってデジタル信号に変換される。
[79]A/D変換器(113)から出力されたデジタル聴診音信号は,コントローラ(120)に入力され,コントローラはそれらを所定の形式で記憶しLCD(12)に出力するとともに,聴診データを無線で送信するためにブルートゥース送信ユニット(130)に送信する。
[80]ブルートゥース送信ユニット(130)は,ブルートゥースモードのコントローラ(120)から出力された聴診音データを無線で受信装置(20)に送信する。
[81]デジタル聴診器(10)から送信された聴診データは,受信装置(20)のブルートゥース受信ユニット(211)によって受信される。
[82]ブルートゥース受信ユニット(211)によって受信された聴診音データは,デジタルフィルタ(212)でフィルタされ,フィードバックフィルタ(213)によってデジタルフィルタ(212)を通じて出力された信号の中のハウリングを生じさせる可能性があるフィードバック信号が除去される。
[83]これによって,スピーカー(30)と聴診器(10)とが近接して使用される場合にスピーカーの出力信号が再入力されるフィードバック信号として生じるハウリング信号はフィードバックフィルタ(213)によって完全に除去することができる。
[84]フィードバックフィルタ(213)から出力された聴診データ信号は,デジタル主増幅器(214)を通過して増幅され,出力端子(23)を介してスピーカー(30)に音として出力される。
[85]同時に,デジタルフィルタ(212)から出力された聴診データは,デジタル副増幅器(215)によって増幅され,出力端子(24)を介してヘッドセット(40)に出力される。」
ここで,[77]段落における「The auscultation sound sings」(聴診音は歌う)は,前後の文脈から,「The auscultation sound signals」(聴診音信号)の誤記であることは明らかであるから,当審においては,当該記載は「The auscultation sound signals」の誤記であるとして上記日本語訳を作製した。
(引1d)図3は,以下のようなものである。
(引1e)図4は,以下のようなものである。
(引1f)図5は,以下のようなものである。
(2)引用文献1に記載された発明
上記(引1a)ないし(引1c)の下線部の記載を総合すると,引用文献1には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されている。
なお,引用発明の認定の根拠となった対応する段落番号等を付記した。
「無線送信ユニットを内蔵するデジタル聴診器(10)と,デジタル聴診器(10)から無線で送信された聴診データを受信する受信装置(20)とを有するデジタル電子聴診器を用いた無線聴診システムであって([40]段落,[1]段落),
聴診器(10)の音収集ユニット(14)が患者の聴診領域に接触されると同時に,音収集ユニット(14)を通じて収集された聴診振動音は聴診入力ユニットのマイクロフォン(111)に入力され([75]段落),
マイクロフォン(111)に入力された聴診振動音は,電気信号に変換され,その弱いアナログ聴診音信号は,第1増幅器(112)によって最初の増幅をされ([76]段落),
第1増幅器(112)から出力された聴診音信号は,第1フィルターないし第3フィルター(114,115,116)のうちの一つを通過することで,選択された領域のみを出力し([77]段落),
フィルターから出力された聴診音信号は,第2増幅器(117)によって2度目の増幅をされ,アナログ聴診音信号はA/D変換器(113)によってデジタル信号に変換され([78]段落),
A/D変換器(113)から出力されたデジタル聴診音信号は,コントローラ(120)に入力され,コントローラはそれらを所定の形式で記憶しLCD(12)に出力するとともに,聴診データを無線で送信するためにブルートゥース送信ユニット(130)に送信され([79]段落),
ブルートゥース送信ユニット(130)は,ブルートゥースモードのコントローラ(120)から出力された聴診音データを無線で受信装置(20)に送信し([80]段落),
デジタル聴診器(10)から送信された聴診データは,受信装置(20)のブルートゥース受信ユニット(211)によって受信され([81]段落),
ブルートゥース受信ユニット(211)によって受信された聴診音データは,デジタルフィルタ(212)でフィルタされ([82]段落),
フィードバックフィルタ(213)から出力された聴診データ信号は,デジタル主増幅器(214)を通過して増幅され,出力端子(23)を介してスピーカー(30)に音として出力され([84]段落),
デジタルフィルタ(212)から出力された聴診データは,デジタル副増幅器(215)によって増幅され,出力端子(24)を介してヘッドセット(40)に出力される([85]段落),
デジタル電子聴診器を用いた無線聴診システム。」
2 引用文献2について
当審拒絶理由に引用された,本願の優先日前に頒布された刊行物である,実願昭57-131469号(実開昭59-036309号)のマイクロフィルム(以下,「引用文献2」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。
(引2a)「第2図は信号処理回路8の一例をブロック図で示したもので,図示のものではアンプ5,同調増幅器6及びフィルタ7とからなっている。受音素子2で得られた信号はアンプ5で増幅された後,同調増幅器6で特定周波数の信号のみが増幅され,取り出される。例えば人体の胸部において心音を聴取する場合,心音は一般に80~1,000Hzの範囲にあるので,音波としてこの範囲に相当する信号の範囲において上記同調増幅器6のインピ-ダンスを変化させて特定周波数の音のみを聴取してゆく。また同様にして呼吸音は200~800Hzの範囲にあるので,呼吸音のみを聴取する場合は,音域をこの範囲に設定する。さらに図示の実施例では取り出した特定周波数の信号をフィルタ7に通し,特定波形の信号を通過させ,その他の信号を除去せしめるようにしている。既述した通り,体音中には種々雑多な音が混入しているだけでなく,給音器1を通して体音以外の外部の音までもが拾音されてしまうこともあるため,これら雑音を除去することにより,診察に必要とする心音なり呼吸音をより聴き易くするうえで効果がある。」(明細書第4頁9行目-第5頁13行目)
(引2b)図2は,以下のようなものである。
3 引用文献3について
当審拒絶理由に引用された,本願の優先日前に頒布された刊行物である,特開昭61-253046号公報(以下,「引用文献3」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。
(引3a)「抵抗94は,演算増幅器52の帰還抵抗であって,通常,容量96によりバイパスされている。これは高周波を制限して,呼吸する人が作る全ての音に対して増幅器52の周波数応答を最適にするので,医師が呼吸の測定にこの電子聴診器を使用することが出来る。言い替えれば,トーン・コントロール38が「高」位置にある時は,容量96は高周波応答を与える。トーン・コントロール38が「低」位置にある時は,容量98が高周波をバイパスして低周波応答を与える。すなわち,電子聴診器は心臓音を聞くのに適した状態である。」(第5頁右上欄12行目-同頁左下欄2行目)
(引3b)第4図は,以下のようなものである。
4 引用文献4について
当審拒絶理由に引用された,本願の優先日前に頒布された刊行物である,特許第2661124号公報(以下,「引用文献4」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。
(引4a)「〔従来の技術〕
人体から得られる検査音,例えば心音,脈拍音,呼吸音等の周波数は概して低く,1Hz~300Hz程度である。この周波数帯域の中で,医学的に重要な意味を持つものは超低周波成分であるが,この超低周波成分は,人間の聴力限界(一般的に20Hz~20KHz)外にも及ぶため,直接的に全ての超低周波成分を聴取することができない。」(第2頁左欄9-11行目)
(引4b)「第1図には,この発明に係る聴診器のブロック図を示す。
マイク1は,人体より生ずる心音,脈拍音,呼吸音等の検査音を収音して電気信号に変換するものである。このマイク1は,検査音以外の雑音が殆ど集音されないようにされている。このマイクの1から得られる電気信号は,アンプ2にて増幅された後,ローパスフィルタ3に供給される。
ローパスフィルタ3に於いて,従来例で既に述べた,人体から得られる検査音の周波数帯域である1~300Hzの帯域外の成分の除去された電気信号は,A/D変換回路4に供給される。」(第2頁右欄24-35行目)
(引4c)第1図は,以下のようなものである。
5 引用文献5について
当審拒絶理由に引用された,本願の優先日前に頒布された刊行物である,特許第3142876号公報(以下,「引用文献5」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。
(引5a)「図2は,本発明の異なる実施例にかかる装置を示す。図1の装置に対する相違点は,まず,既に可能性として述べたことであるが自動利得制御ユニット3を省略した事であり,次にはプリアンプからの信号をアナログ/デジタル変換するために,あるいはメインアンプ5からの信号の変換のために,例えばフィルタリングの実行後に変換装置8を追加したことである。変換装置8によって送出されたサンプルされかつデジタル可された信号は,デジタル処理装置9に伝送され,あるいは勿論ここに,回路4で基本的に実行されたものと同じタイプのフィルタリングを実行する,デジタルフィルタを備えることも可能である。残りの回路に関しては,図1に示したものと同じタイプである。」(第3頁左欄29-41行目)
(引5b)「図3は,依然ブロック図の形式ではあるが,図1および図2に示した構成の組み合わせである,1個の回路の詳細を示している。自動利得制御ユニット3およびデジタル装置8,9の両者が含まれ,さらに出力回路15が含まれている。この出力回路15は,スピーカ6への信号に相当する信号をヘッドセット16または補助装置17(プリンター,スクリーンディスプレイ装置等)に送信する。プリアンプ2からのオリジナル信号をデジタル化することに関して,あるいはメインアンプ5からのフィルタされた信号をデジタル化することに関して,自由にスイッチするためのスイッチ18が挿入されている。しかしながら,図面中で最も重要な特性は,可調整フィルタ回路4に最も密接に関連するユニットである。」
(引5c)「フィルタ回路4は,中心周波数および通過帯域のバンド幅の両者が,自由にかつ希望どおりに調整可能なバンドパスフィルタである。」(第3頁右欄5-7行目)
(引5d)「従って,本発明にかかる装置の効果は,ユーザー自身が,バンドパスフィルタの中心周波数およびバンド幅を調整することにより,可聴画像(audible picture)内で彼が聴きたいと思う周波数を正確に決定することが可能な事である。フィルタリングの前後でのマイクロフォンからの信号の増幅と組み合わせることによって,ユーザーが細部において豊富でかつ非常に良いスピーカからの音画像(sound picture)を得る事が可能となる。」(第3頁右欄26-30行目)
(引5e)「例えばいわゆる第1および第2の心臓音の典型的な音の周波数範囲は20~150Hzであり,一方循環器からの音は200~750Hzの範囲であり,僧帽/大動脈の血液逆流は170~900Hzの範囲に聞こえ,僧帽狭窄は25~80Hzの範囲に聞こえることを理解すべきである。このように,ある現象を聴き取る場合,関係の無い周波数を取り除くことができればそれ非常に好ましい事であり,さらに本発明がこのような新しい可能性を提供するものであることは明白である。」(第3頁右欄42-50行目)
(引5f)図2は,以下のようなものである。
(引5g)図3は,以下のようなものである。
6 引用文献6について
当審拒絶理由に引用された,本願の優先日前に頒布された刊行物である,特開2005-296643号公報(以下,「引用文献6」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。
(引6a)「マイクロコントローラ10は,外部メモリ11が接続される場合には,外部メモリ11を起動させて外部メモリ11に信号を格納するために作動したり,さらには,聴診音のAD変換を行ったりする。」(第5頁左欄19-22行目)
(引6b)図1は,以下のようなものである。
第4 当審の判断
1 対比
ア 本願発明における「身体音」は,身体から収集される音のみならず,当該音の振動を電気信号に変換したものも含まれていることは明らかである。
してみれば,引用発明の「患者の聴診領域に接触され」た「音収集ユニット(14)を通じて収集された聴診振動音」及び当該「聴診振動音」を「マクロフォン(111)」によって電気信号に変換した「聴診音信号」は,本願発明の「身体音」に相当する。
イ 引用発明の「無線送信ユニットを内蔵するデジタル聴診器(10)」及び「デジタル聴診器(10)から無線で送信された聴診データを受信する受信装置(20)」は,それぞれ,本願発明の「無線検出器」及び「受信器装置」に相当し,「聴診器」は肺音,心音または消化音といった身体音を定期的に聴取するすなわち監視するためにも使用されるものであることは当業者の技術常識から明らかであるから,引用発明の「無線送信ユニットを内蔵するデジタル聴診器(10)と,デジタル聴診器(10)から無線で送信された聴診データを受信する受信装置(20)とを有するデジタル電子聴診器を用いた無線聴診システム」は,本願発明の「少なくとも1の身体音を監視するための少なくとも1の無線検出器と受信器装置とを備える無線聴診器」に相当する。
ウ 引用発明の「マイクロフォン(111)」は,「患者の聴診領域に接触され」た「音収集ユニット(14)を通じて収集した聴診振動音」を「電気信号に変換」して「聴診音信号」を出力するものであるから,本願発明の「身体音を検出する少なくとも1のマイクロホン」に相当する。
エ 引用発明の「マイクロフォン(111)に入力され,電気信号に変換され」た「弱いアナログ聴診音信号」に対して「最初の増幅」をする「第1増幅器(112)」と,本願発明の「肺音,心音または消化音に典型的な音の波長に対応する特定の波長範囲内のみの身体音を増幅する前置増幅器」とは,「身体音を増幅する前置増幅器」である点で共通する。
オ 引用発明の「第1フィルターないし第3フィルター(114,115,116)のうちの一つ」は「聴診音信号」の「選択された領域のみ」を出力するものである。
ここで,当該「領域」とはフィルタが透過させる「波長範囲」を意味していることは明らかであり,「選択された領域」以外の聴診音信号は身体ノイズであるといえる。
そうすると,引用発明の「第1フィルターないし第3フィルター(114,115,116)のうちの一つ」は,「選択された波長範囲外の身体ノイズを除去または低減」するものであるといえる。
したがって,引用発明の「第1増幅器(112)から出力された聴診音信号」の「選択された領域のみを出力」する「第1フィルターないし第3フィルター(114,115,116)のうちの一つ」と,本願発明の「前置増幅された身体音において,前記特定の波長範囲外の身体ノイズを除去または低減するフィルタ回路」とは,「前置増幅された身体音において,選択された波長範囲外の身体ノイズを除去または低減するフィルタ回路」である点で共通する。
カ 引用発明の「第2増幅器(117)」が電力増幅を行なう増幅器であることは,明らかであるから,引用発明の「フィルターから出力された」「選択された領域のみ」の「聴診音信号」に対して「2度目の増幅」をする「第2増幅器(117)」と,本願発明の「前記フィルタ回路にインターフェースを使用して接続され,前記フィルタ回路からの前記特定の波長範囲内の身体音を増幅する電力増幅器」とは,「前記フィルタ回路に接続され,前記フィルタ回路からの前記選択された波長範囲内の身体音を増幅する電力増幅器」である点で共通する。
キ 引用発明の「第2増幅器(117)によって2度目の増幅をされ」た「アナログ聴診音信号」を「デジタル信号に変換」する「A/D変換器(113)」と,本願発明の「前記電力増幅器により増幅された前記特定の波長範囲内の身体音をデジタル化するマイクロコントローラーにインターフェースを使用して接続されるアナログ・デジタル変換器」とは,「前記電力増幅器により増幅された前記選択された波長範囲内の身体音をデジタル化するアナログ・デジタル変換器」である点で共通する。
ク 引用発明の「A/D変換器(113)から出力されたデジタル聴診音信号」を「無線で受信装置(20)に送信」する「ブルートゥース送信ユニット(130)」は,本願発明における「デジタル化された身体音の前記受信器装置への無線送信のための送信器装置」に相当する。
ケ 引用発明の「受信装置(20)」は「デジタル聴診器(10)から送信された聴診データ」を「ブルートゥース受信ユニット(211)によって受信」している。
また,「受信装置(20)」の「デジタルフィルタ(212)」,「フィードバックフィルタ(213)」,「デジタル主増幅器(214)」及び「デジタル副増幅器(215)」は,「デジタル聴診器(10)から送信された聴診データ」を処理している。
そして,引用発明の「デジタル聴診器(10)から送信された聴診データ」は,上記クで検討したとおり,本願発明の「デジタル化された身体音」に相当する。
そうすると,引用発明の「受信装置(20)」と,本願発明の「受信器装置」とは,「前記デジタル化された身体音を受信および処理する」点で共通する。
コ 引用発明の「スピーカー(30)」及び「ヘッドセット(40)」が無線聴診システムを用いる「ユーザー側の」「装置」であることは明らかであるから,引用発明の「受信装置(20)」が「聴診データ」又は「聴診データ信号」を「出力端子(23)を介してスピーカー(30)に音として出力」また「出力端子(24)を介してヘッドセット(40)に出力」することと,本願発明の「前記受信器装置が,」「前記デジタル化された身体音をユーザー側の聴取および表示装置に送信すること」とは,「前記受信器装置が,前記デジタル化された身体音をユーザー側の聴取装置に送信することを行う」点で共通する。
サ 上記ア-コから,本願発明と,引用発明とは,以下の一致点で一致し,以下の相違点で相違する。
<一致点>
「少なくとも1の身体音を監視するための少なくとも1の無線検出器と受信器装置とを備える無線聴診器であって,
前記無線検出器が,
身体音を検出する少なくとも1のマイクロホン,
身体音を増幅する前置増幅器,
前置増幅された身体音において,選択された波長範囲外の身体ノイズを除去または低減するフィルタ回路,
前記フィルタ回路に接続され,前記フィルタ回路からの前記選択された波長範囲内の身体音を増幅する電力増幅器,
前記電力増幅器により増幅された前記選択された波長範囲内の身体音をデジタル化するアナログ・デジタル変換器,及び,
デジタル化された身体音の前記受信器装置への無線送信のための送信器装置,を備え,
前記受信器装置が,前記デジタル化された身体音を受信および処理すること,ならびに,前記デジタル化された身体音をユーザー側の聴取装置に送信することを行う,
前記無線聴診器」
<相違点>
(相違点1)「身体音」を処理する「前置増幅器」,「フィルタ回路」,「電力増幅器」及び「アナログ・デジタル変換器」について,本願発明は,前置増幅器で増幅する周波数範囲は「肺音,心音または消化音に典型的な音の波長に対応する特定の波長範囲内のみ」であり,フィルタ回路で「前記特定の波長範囲」外の身体ノイズを除去または低減し,「電力増幅器」及び「アナログ・デジタル変換器」は「前記特定の波長範囲内」の身体音を処理するのに対して,引用発明は,「第1増幅器(112)」の増幅可能な周波数範囲が特定されておらず,「第1フィルターないし第3フィルター(114,115,116)」が出力し「第2増幅器(117)」及び「A/D変換器(113)」が処理する「選択された波長範囲」が「肺音,心音または消化音に典型的な音の波長に対応する特定の波長範囲」であるかが特定されていない点。
(相違点2)「フィルタ回路」と「電力増幅器」との接続態様,及び,「電力増幅器」と「アナログ・デジタル変換器」との接続態様について,本願発明は,電力増幅器は「インターフェースを使用して」フィルタ回路に接続されており,アナログ・デジタル変換器は「マイクロコントローラー」に「インターフェースを使用して」電力増幅器に接続されるものであるのに対して,引用発明は,そのような構成を有するものか不明である点。
(相違点3)「受信器装置」が送信する「ユーザー側の」装置について,本願発明は,「聴取および表示装置」であるのに対して,引用発明は,「聴取装置」である点。
2 判断
(1)相違点1について
電子聴診器の技術分野におけるフィルタ回路の前段に配置される増幅器として,呼吸音や心音等の特定の身体音に対応する波長範囲のみを増幅する増幅器を用いることは,本願優先日前において周知である(例えば引用文献2及び引用文献3のそれぞれ上記第3の2及び第3の3で摘記した記載を参照。以下,「周知事項1」という。)。
また,電子聴診器の技術分野における前置増幅器と後段の増幅器との間に配置されたフィルタ回路において,呼吸音や心音等の特定の一種類の身体音に対応する波長範囲外の身体ノイズを除去または低減するようにフィルタ回路の周波数特性を調整することも,本願優先日前において周知である(例えば引用文献2,引用文献4及び引用文献5のそれぞれ上記第3の2,第3の4及び第3の5で摘記した記載を参照。以下,「周知事項2」という。)。
また,聴診器の技術分野において,呼吸音すなわち肺音,心音以外に,消化音も聴く場合があることは,技術常識である。
そして,引用発明は,電子聴診器の技術分野に属する技術であり,電子聴診器の分野において,雑音を除去して診察に必要な特定の生体音のみを取り出すことは,当業者に自明の課題である。
したがって,引用発明において,雑音を除去して診察に必要な肺音,心音または消化音の特定の生体音を聴くために,電子聴診器に関する前記周知事項1,2を採用し,第1増幅器(112)が増幅する周波数範囲を当該特定の身体音に典型的な音に対応する特定の波長範囲のみに設定し,第1フィルターないし第3フィルター(114,115,116)の周波数特性を当該特定の波長範囲外の身体ノイズを除去または低減するように設定することには,十分な動機がある。
また,引用発明において「第2増幅器(117)」及び「A/D変換器(113)」は,「フィルター」から出力された信号を処理するものであるから,第1フィルターないし第3フィルター(114,115,116)の周波数特性を当該特定の波長範囲外の身体ノイズを除去または低減するように設定することによって,当然に「第2増幅器(117)」及び「A/D変換器(113)」が処理する信号の周波数も,当該特定の波長範囲に限定された信号となる。
したがって,引用発明において,引用文献2-5に記載された周知事項1,2を採用し,上記相違点1に係る本願発明の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。
(2)相違点2について
回路要素を接続するために何らかのインタフェースを使用することは,必要とする回路全体を形成するための単なる設計的事項である。
したがって,引用発明において,第1フィルターないし第3フィルター(114,115,116)と第2増幅器(117),及び,第2増幅器(117)とA/D変換器(113)の接続に,インタフェースを使用することも,単なる設計的事項に過ぎない。
また,アナログ・デジタル変換をマイクロコントローラで制御することは,本願出願時において周知であり(例えば引用文献6の上記第3の6で摘記した記載を参照。以下「周知事項3」という。),引用発明のA/D変換器(113)として,「マイクロコントローラーにインターフェースを使用して接続されるアナログ・デジタル変換器」を採用することも,単なる設計的事項に過ぎない。
したがって,引用発明において,上記相違点2に係る本願発明の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。
(3)相違点3について
聴診器の技術分野において,得られた身体音を聴取する手段に送信することに加えて,当該身体音を「表示」する手段にも送信することは,本願出願時において周知である(例えば引用文献5の上記第3の5で摘記した(引5b)を参照。以下「周知事項4」という。)。
また,引用発明は,A/D変換器(113)から出力されたデジタル聴診音信号を「無線で送信」するとともにデジタル聴診器(10)に設けられた表示装置である「LCD(12)」にも出力しており,聴診音信号を表示装置に出力するとの技術思想を有しているものである。
そして,引用発明の「受信装置(20)」においても,上記周知事項4に倣って,身体音を表示装置にも送信することは,当業者であれば容易に想到し得たことである。
(4)本願発明の効果について
本願発明の効果は,引用発明及び周知の技術的事項から当業者が予測しうる範囲内のものにすぎず,格別顕著なものではない。
(5)小括
上記(1)-(4)から,本願発明は,引用発明及び周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
第5 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,他の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶をすべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
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2016-010989