審決検索MVP
← 検索一覧に戻る
特許拒絶査定不服審判

2024-017922

神経活動を検出するための方法及びシステム

審判番号
2024-017922
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2021-572640外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2024年11月08日
審決日
2026年02月17日
公報発行日
2026年08月28日
結論
請求不成立
当事者
審判長/審判官
分類
P18 .537-WZ (A61B) / P18 .121-WZ (A61B)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条2項特許法36条6項2号
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2021-572640「神経活動を検出するための方法及びシステム」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年12月10日国際公開、WO2020/243785、令和 4年 8月10日国内公表、特表2022-535931〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本件出願(以下「本願」という。)は、2020年(令和2年)6月5日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2019年6月7日(以下「優先日」という。)(AU)オーストラリア)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯の概要は以下のとおりである。 令和 6年 3月 1日付け 拒絶理由通知書 同年 6月11日 意見書・手続補正書の提出 同年 6月26日付け 拒絶査定 同年11月 8日 審判請求書の提出 令和 7年 6月25日付け 拒絶理由通知書 同年12月25日 意見書・手続補正書の提出 以下では、令和7年6月25日付けの拒絶理由通知書を「当審拒絶理由通知」という。 第2 本願発明 本願の請求項1~28に係る発明は、令和7年12月25日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~28に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、そのうち本願の請求項1及び2に係る発明(以下「本願発明1」及び「本願発明2」という。)は、次に特定されるとおりである。 「 【請求項1】 神経における神経活動を検出する方法であって、 第1の電極対からの第1の電気信号を受信することであって、前記第1の電極対が前記神経に沿って互いの近傍に位置する2つの第1の電極を含む、前記受信すること、 第2の電極対からの第2の電気信号を受信することであって、前記第2の電極対は、前記神経に沿って互いの近傍に位置する2つの第2の電極を含み、前記第2の電極対は、前記神経に沿って前記第1の電極対から離間している、前記受信すること、 相関データを取得するために、複数のゼロ以外の遅延時間を含む、1s以上の期間にわたって前記第1及び第2の電気信号間の相関分析を適用することであって、前記複数のゼロ以外の遅延時間が、複数の正の符号の遅延時間及び/又は複数の負の符号の遅延時間を含む、前記適用すること、及び 前記相関データから、前記神経における神経活動を示す少なくとも1つの神経信号を検出することであって、前記神経信号は、前記複数のゼロ以外の遅延時間のうちの少なくとも1つのゼロ以外の遅延時間で前記第1及び第2の電気信号の間の増加する相関に対応する、前記検出すること、を含む、前記方法。 【請求項2】 前記第1及び/または第2の電気信号は信号対雑音比が負である、請求項1に記載の方法。」 第3 当審における拒絶の理由 当審拒絶理由通知により通知した拒絶の理由は、以下の理由を含むものである。 1 理由1(1):明確性について 本願の請求項2の「前記第1及び/または第2の電気信号は信号対雑音比が負である」との記載は不明確である。よって、本願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 2 理由3:進歩性について 本願の請求項1に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献1:米国特許出願公開第2014/0249647号明細書 引用文献2:特開昭58-212432号公報 第4 明確性について 1 本願の請求項2には、「前記第1及び/または第2の電気信号は信号対雑音比が負である」との記載がある。 そして、一般的に、「信号対雑音比」は「信号」の大きさの「雑音」の大きさに対する比を表すものであって、0以下にはならないものであるのが技術常識であるから、上記「前記第1及び/または第2の電気信号は信号対雑音比が負である」との記載が何を意味するのか分からず、不明確である。 2 審判請求人は、令和7年12月25日提出の意見書(以下「意見書」という。)において、 「本願明細書の段落[0007]は、「いくつかの実施形態では、第1及び/または第2の電気信号は信号対雑音比(SNR)が負である場合がある。つまり、神経信号成分のパワーは、第1及び/または第2の電気信号のノイズ信号成分のパワーよりも小さい場合がある」ことを開示しています。当業者は、信号対雑音比(SNR)のデシベル(dB)単位での計算式が、SNRdB=10×log10(Psignal/Pnoise)であることを理解することができます。信号のパワーが雑音のパワーより小さい場合、Psignal/Pnoiseの比は1未満となります。1未満の値に10進対数を適用すると負の数となります。したがって、負のSNR値は信号のパワーが雑音のパワーより低いことを示します。 これにより、「前記第1及び/または第2の電気信号は信号対雑音比が負である」との記載が何を意味するのかが明確になったと思料いたします。」 と主張しているので検討する。 (1)請求項2に記載の「信号対雑音比」は、「比」を表す値であるから、単位を持たない無次元の値であるといえる。 そして、一般的に、「信号対雑音比」は「信号」の大きさの「雑音」の大きさに対する比を表すものであって、0以下にはならないものであるのが技術常識であるから、当該無次元の値である「信号対雑音比」は、その表記をどのようにするかに関わらず、0以下になるとはいえない。(例えば、比の値が0.1である場合、-10dBというデシベル単位での表記が可能であるとしても、0.1との比の値が負であるとはいえない。) よって、信号のパワーが雑音のパワーより小さい場合、デシベル(dB)単位での計算式を用いると、信号対雑音比(SNR)が負となる旨の上記主張は採用できない。 (2)また、上記主張における、「信号のパワーが雑音のパワーより小さい場合、Psignal/Pnoiseの比は1未満となります。1未満の値に10進対数を適用すると負の数となります。したがって、負のSNR値は信号のパワーが雑音のパワーより低いことを示します。」との主張より、審判請求人の主張は、請求項2における「信号対雑音比が負である」との事項が、信号対雑音比をデシベル単位で表した場合の数字の値が負であることを意味する旨の主張であると解されるので、請求項2における「信号対雑音比が負である」との事項についてそのように解釈し得るかについて、以下検討する。 ア 請求項2における「前記第1及び/または第2の電気信号は信号対雑音比が負である」との記載は、「負である」のは「信号対雑音比」であると明示的に特定するものであるから、当該記載が信号対雑音比をデシベル単位で表した場合の数字の値が負であることを意味すると解釈することはできない。 イ さらに、請求項2には、「信号対雑音比」に関して、デシベル単位とした場合の数字の値であることを特定する記載はないし、単位が特定されていない「信号対雑音比」との用語が、日本語において、および当該技術分野において、比をデシベル単位で表現した場合の数字の値を意味することが自明であるともいえない。 また、本願の発明の詳細な説明においても、「信号対雑音比」がデシベル単位で表した場合の数字の値であることを定義する旨の記載もないし、段落【0007】の「いくつかの実施形態では、第1及び/または第2の電気信号は信号対雑音比(SNR)が負である場合がある。つまり、神経信号成分のパワーは、第1及び/または第2の電気信号のノイズ信号成分のパワーよりも小さい場合がある。」との、「信号対雑音比」の具体的な算出方法やデシベル単位とすることについては示していない記載のみから、請求項2に記載の「信号対雑音比」がデシベル単位で表した場合の数字の値であることが明らかであるとはいえない。 ウ よって、上記アのとおり、請求項2の「信号対雑音比が負である」との記載は、信号対雑音比をデシベル単位で表した場合の数字の値が負であることを意味するものと解釈することはできないし、上記イのとおり、発明の詳細な説明の記載及び技術常識を参酌しても、上記記載が信号対雑音比をデシベル単位で表した場合の数字の値が負であることを意味するものと解釈することはできない。 よって、審判請求人の上記主張は採用できない。 3 以上より、本願発明2は、明確でない。 第5 進歩性について 1 引用文献の記載等 (1)引用文献1 ア 引用文献1の記載 当審拒絶理由通知における拒絶の理由で引用文献1として引用され、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった米国特許出願公開第2014/0249647号明細書(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに次の記載がある。また、原文の摘記の後に当審による日本語訳を示す。(下線は当審において付与した。以下同様。) (ア)「[0016] More detailed the system comprises at least three equally spaced electrodes that are adapted to be arranged along the longitudinal axis of a concerned nerve. The electrodes can be formed as extracellular electrodes that are either adapted to be placed circumferentially around the nerve, or which are adapted to be placed in-between or even within the individual nerve fascicles. [0017] The electrode arrangement is in an embodiment configured to be used to provide at least two separate bipolar recording channels, where a first signal is recorded from a first bipolar channel formed between the first and second electrodes. The second bipolar channel may be derived between the second electrode and a third electrode. [0018] In a further embodiment, a time delay which is inversely proportional to the conduction velocity of the neural signal is added to the signal recorded from the bipolar channel which is first being passed by the said neural signal. Practically, the delay may be determined as the amount of time it takes a specific neural signal to propagate between the geometric centres of the first and second bipolar channels, respectively.」 ([0016]より詳細には、このシステムは、対象となる神経の長手方向軸に沿って配置されるように構成された、少なくとも3つの等間隔に配置された電極を備える。これらの電極は、神経の周囲に円周状に配置されるように構成された細胞外電極として形成することも、個々の神経束の間または神経束内に配置されるように構成された電極として形成することもできる。 [0017]電極配置は、一実施形態では、少なくとも2つの別個のバイポーラ記録チャネルを提供するために用いられるように構成されており、第1の信号は、第1の電極と第2の電極との間に形成された第1のバイポーラチャネルから記録される。第2のバイポーラチャネルは、第2の電極と第3の電極との間に導出されてもよい。 [0018]さらなる実施形態では、神経信号の伝導速度に反比例する時間遅延が、神経信号が最初に通過するバイポーラチャネルから記録された信号に加算される。実際には、遅延は、特定の神経信号がそれぞれ第1および第2のバイポーラチャネルの幾何学的中心の間を伝播するのにかかる時間として決定できる。) (イ)「[0026] Further, in yet another embodiment, the instantaneous energy content of the neural activity may be evaluated as the moving variance of the recorded, added or subtracted signals according to Equ. 1 to prepare for a following step of detection of activity: [図:0001437872000001.jpg] where xi denotes the summed or subtracted signal and NW is the number of samples in the sliding window. [0027] Alternatively, in a further embodiment a signal very similar to the moving variance signal may be obtained by directly incorporating the delay and sum operations into a cross correlation operation, where the cross correlation between the two un-delayed bipolar channels is calculated with a time lag corresponding to the desired delay between the channels according to Equ. 2: [図:0001437872000002.jpg] where x(t) and y(t) denotes the two undelayed bipolar channels and τ denotes the desired lag (delay). [0028] The system may give input to any system that aims to react on nerve signals. Especially appreciated will the system be used for giving input to a system for correcting gait related deceases as e.g. drop-foot or to a system for the control of prostheses substituting functional body parts such as artificial legs or arms.」 ([0026]さらに別の実施形態では、神経活動の瞬間エネルギー量は、記録、加算、または減算された信号の移動分散として、式1に従って評価され、次の活動検出ステップの準備を整えることができる。 ・・・式(1) ここで、xiは加算または減算された信号を示し、NWはスライディングウィンドウ内のサンプル数である。 [0027]あるいは、さらなる実施形態では、遅延演算と加算演算を相互相関演算に直接組み込むことで、移動分散信号に非常に類似した信号を得ることができる。この場合、2つの遅延のないバイポーラチャネル間の相互相関は、式2に従ってチャネル間の所望の遅延に対応する時間差で計算される。 ・・・式(2) ここで、x(t)およびy(t)は2つの遅延のないバイポーラチャネルを示し、τは所望の遅延を示す。) (ウ)「[0045] In the embodiment shown in FIG. 5, a cuff electrode arrangement is placed on a peripheral nerve and the shown electrode triplet consists of the electrodes 1a, 1b and 1c. Here, electrode 1a is closer to the spinal cord than electrode 1c, which means that action potentials traveling from electrode 1a to electrode 1c are ‘efferent’ (motor commands), and action potentials traveling the opposite directions are ‘afferent’ (sensory signals).」 ([0045]図5に示す実施形態では、カフ電極が末梢神経上に配置され、図示の電極トリプレットは電極1a、1b、および1cから構成される。ここで、電極1aは電極1cよりも脊髄に近いため、電極1aから電極1cへ伝わる活動電位は「遠心性」(運動指令)であり、反対方向に伝わる活動電位は「求心性」(感覚信号)である。) (エ)「1. A system for recording neural activity, comprising: at least three electrodes adapted to be arranged along a longitudinal axis of a peripheral nerve; at least one device to amplify and process nerve signals sensed by the at least three electrodes and to emphasize the neural signals in a neural propagation direction of interest; wherein a time delay which is inversely proportional to a conduction velocity of the neural signals is added to at least one bipolar channel which is first passed by the neural signals.」(第4頁、請求項1の記載) (1.以下のものを備える、神経活動を記録するシステム: 末梢神経の長手軸に沿って配置されるように適合された少なくとも3つの電極; 前記少なくとも3つの電極によって感知された神経信号を増幅および処理し、関心対象の神経伝播方向における神経信号を強調する少なくとも1つのデバイス; 前記神経信号が最初に通過する少なくとも1つのバイポーラチャネルに、前記神経信号の伝導速度に反比例する時間遅延が加えられる。) (オ)「Fig.5 [図:0001437872000003.jpg] 」 上記(ア)~(オ)の記載事項及び図面から、以下の事項が導かれる。 (カ)請求項1には、「神経活動を記録するシステム」と記載されているから、引用文献1には、当該神経活動を記録するシステムにより神経活動を記録する方法についても記載されているといえる。 (キ)段落[0026]には、「神経活動の瞬間エネルギー量は、記録、加算、または減算された信号の移動分散として、式1に従って評価され、」と記載されているから、段落[0027]の「あるいは、さらなる実施形態では、遅延演算と加算演算を相互相関演算に直接組み込むことで、移動分散信号に非常に類似した信号を得ることができる。この場合、2つの遅延のないバイポーラチャネル間の相互相関は、式2に従ってチャネル間の所望の遅延に対応する時間差で計算される。」との記載における、「遅延演算と加算演算を相互相関演算に直接組み込むことで」「得ることができる」「移動分散信号に非常に類似した信号」が、「神経活動の瞬間エネルギー量」として計算されるものであることは、明らかである。 よって、引用文献1には、神経活動の瞬間的なエネルギー量として、2つの遅延のないバイポーラチャネル間の相互相関が、チャネル間の所望の遅延に対応する時間差で計算される点が記載されているといえる。 イ 引用文献1に記載された発明 上記ア(ア)~(オ)の記載事項及び図面、(カ)~(キ)の認定事項を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「神経活動を記録する方法であって、(認定事項(カ)) 対象となる神経の長手方向軸に沿って配置される3つの等間隔に配置された電極から構成されるカフ電極を備え、第1の信号は、第1の電極と第2の電極との間に形成された第1のバイポーラチャネルから記録され、第2のバイポーラチャネルは、第2の電極と第3の電極との間に導出され、(段落[0016]、[0017]、[0045]) 遅延は、神経信号の伝導速度に反比例し、特定の神経信号がそれぞれ第1および第2のバイポーラチャネルの幾何学的中心の間を伝播するのにかかる時間として決定され、(段落[0018]) 神経活動の瞬間的なエネルギー量として、2つの遅延のないバイポーラチャネル間の相互相関が、チャネル間の所望の遅延に対応する時間差で計算される、(認定事項(キ)) 神経活動を記録する方法。(認定事項(カ))」 (2)引用文献2 ア 引用文献2の記載 当審拒絶理由通知における拒絶の理由で引用文献2として引用され、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開昭58-212432号公報(以下「引用文献2」という。)には、図面とともに次の記載がある。 (ア)「第3図において筋肉1上の皮膚面に貼着した第1及び第2の二組の双極電極11、12は、上述の時間遅れをもった筋電位信号を検出するもので、それらの電極11、12を筋繊維2に沿って互いに所定距離だけ離間させている。従って、筋電位信号は、第1の双極電極11で検出してから遅延時間τの後に第2の双極電極12で検出されることになる。上記遅延時間τを決定する二組の双極電極11、12の離間距離は、双極電極11、12やそれに接続したリード線13、14を通じて筋電位信号に混入する雑音信号の周期等によって決定されるものであり、従ってその距離は筋電位信号に後述する処理を施すことにより雑音信号を抑制、除去できる距離に設定される。」(第2頁左下欄第4~17行) (イ)「第3図 [図:0001437872000004.jpg] 」 イ 引用文献2に記載された発明 上記ア(ア)~(イ)の記載事項及び図面を総合すると、引用文献2には、次の事項(以下「引用文献2記載事項」という。)が記載されていると認められる。 「時間遅れをもった筋電位信号を検出するものにおいて、 筋肉1上の皮膚面に、筋繊維2に沿って互いに所定距離だけ離間させた第1及び第2の2組の双極電極11、12を貼着し、筋電位信号を、第1の双極電極11で検出してから遅延時間τの後に第2の双極電極12で検出されるようにしたこと。」 2 対比、判断 (1)対比 本願発明1と引用発明とを対比する。 ア 引用発明の「神経活動を記録する方法」は、本願発明の1「神経における神経活動を検出する方法」に相当する。 イ 引用発明において、「第1の電極と第2の電極との間に形成された第1のバイポーラチャネル」及び「第2の電極と第3の電極との間に導出され」た「第2のバイポーラチャネル」は、それぞれ、本願発明1の「第1の電極対」及び「第2の電極対」に相当する。 そして、引用発明の「第1のバイポーラチャネル」を形成する「第1の電極と第2の電極」及び「第2のバイポーラチャネル」を形成する「第2の電極と第3の電極」は、それぞれ、本願発明1の「2つの第1の電極」及び「2つの第2の電極」に相当する。 引用発明において、「対象となる神経の長手方向軸に沿って配置される3つの等間隔に配置された電極」は、一つの「カフ電極」を構成するものであるから、それぞれが「3つの等間隔に配置された電極」の一つである「第1の電極」と「第2の電極」、及び、「第2の電極」と「第3の電極」が、それぞれ、「対象となる神経の長手方向軸に沿」う方向において近傍に位置していることは明らかである。 引用発明において「第1の信号」を「第1のバイポーラチャネルから記録」することは、本願発明1において「第1の電極対からの第1の電気信号を受信すること」に相当する。 また、引用発明において、「第2の電極と第3の電極との間に導出され」る「第2のバイポーラチャネル」からも信号を記録することは明らかであり、当該「第2のバイポーラチャネル」から信号を記録することは、本願発明1において「第2の電極対からの第2の電気信号を受信すること」に相当する。 以上より、引用発明において、「対象となる神経の長手方向軸に沿って配置される3つの等間隔に配置された電極から構成されるカフ電極を備え、第1の信号は、第1の電極と第2の電極との間に形成された第1のバイポーラチャネルから記録され、第2のバイポーラチャネルは、第2の電極と第3の電極との間に導出され」ることは、本願発明1において、「第1の電極対からの第1の電気信号を受信することであって、前記第1の電極対が前記神経に沿って互いの近傍に位置する2つの第1の電極を含む、前記受信すること」及び「第2の電極対からの第2の電気信号を受信することであって、前記第2の電極対は、前記神経に沿って互いの近傍に位置する2つの第2の電極を含」む「前記受信すること」に相当する。 ウ 引用発明において、「2つの」「バイポーラチャネル間の相互相関」が「計算される」こと、及び、「計算され」た「相互相関」の結果は、それぞれ、本願発明1の「前記第1及び第2の電気信号間の相関分析を適用すること」及び「相関データ」に相当する。 引用発明の「所望の遅延」は本願発明1の「遅延時間」に相当し、また、引用発明において、「所望の遅延」がゼロではないことは明らかであるから、「相互相関が、チャネル間の所望の遅延に対応する時間差で計算される」ことは、本願発明1において、「ゼロ以外の遅延時間を含」め、「相関分析を適用すること」に相当する。 よって、引用発明において、「神経活動の瞬間的なエネルギー量として、2つの遅延のないバイポーラチャネル間の相互相関が、チャネル間の所望の遅延に対応する時間差で計算される」ことは、本願発明1において、「相関データを取得するために、」「ゼロ以外の遅延時間を含む」「前記第1及び第2の電気信号間の相関分析を適用することであって、」「前記適用すること」に相当する。 エ 引用発明において、「神経活動の瞬間的なエネルギー量」の情報は、「前記神経における神経活動を示す少なくとも1つの神経信号」に相当する。 また、引用発明において、「神経活動の瞬間的なエネルギー量」は、「2つの遅延のないバイポーラチャネル間の相互相関が、チャネル間の所望の遅延に対応する時間差で計算され」たものから検出されるものであり、また、当該「計算され」た「相互相関」の値に対応するものであるといえる。さらに、当該「計算され」た「相互相関」の値が増加することは、「神経活動の瞬間的なエネルギー量」の増加に対応するものであることも、明らかである。 そうすると、上記ウの対比も踏まえると、引用発明において、「神経活動の瞬間的なエネルギー量として、2つの遅延のないバイポーラチャネル間の相互相関が、チャネル間の所望の遅延に対応する時間差で計算される」ことは、本願発明1において、「前記相関データから、前記神経における神経活動を示す少なくとも1つの神経信号を検出することであって、前記神経信号は」、「ゼロ以外の遅延時間で前記第1及び第2の電気信号の間の増加する相関に対応する、前記検出すること」に相当する。 オ 一致点、相違点 上記アからエのとおりであるから、本願発明1と引用発明とは、下記(ア)の点で一致し、下記(イ)~(エ)の点で相違する。 (ア)一致点 「神経における神経活動を検出する方法であって、 第1の電極対からの第1の電気信号を受信することであって、前記第1の電極対が前記神経に沿って互いの近傍に位置する2つの第1の電極を含む、前記受信すること、 第2の電極対からの第2の電気信号を受信することであって、前記第2の電極対は、前記神経に沿って互いの近傍に位置する2つの第2の電極を含む、前記受信すること、 相関データを取得するために、ゼロ以外の遅延時間を含む、前記第1及び第2の電気信号間の相関分析を適用することであって、前記適用すること、及び 前記相関データから、前記神経における神経活動を示す少なくとも1つの神経信号を検出することであって、前記神経信号は、前記ゼロ以外の遅延時間で前記第1及び第2の電気信号の間の増加する相関に対応する、前記検出すること、を含む、前記方法。」 (イ)相違点1 第1の電極対と第2の電極対について、本願発明1は、「前記第2の電極対は、前記神経に沿って前記第1の電極対から離間している」と特定されているのに対し、引用発明の「第1の電極と第2の電極との間に形成された第1のバイポーラチャネル」(第1の電極対)と「第2の電極と第3の電極との間に導出され」た「第2のバイポーラチャネル」(第2の電極対)とは、「第2の電極」を共用しており、離間するものとはなっていない点。 (ウ)相違点2 第1及び第2の電気信号間の相関分析を適用することについて、本願発明1は、「1s以上の期間にわたって」相関分析を適用すると特定されているのに対し、引用発明は、相関分析を行う対象となる電気信号の期間について、「1s以上の期間にわた」るものであるとは特定されていない点。 (エ)相違点3 ゼロ以外の遅延時間について、本願発明1は、「複数」であり、「複数の正の符号の遅延時間及び/又は複数の負の符号の遅延時間を含む」と特定され、また、「前記神経信号は、前記複数のゼロ以外の遅延時間のうちの少なくとも1つのゼロ以外の遅延時間で前記第1及び第2の電気信号の間の増加する相関に対応する」と特定されているのに対し、引用発明は、「遅延時間」が複数ある旨は特定されていない点。 (2)相違点について ア 相違点1 引用発明と引用文献2記載事項とは、人体に流れる電気信号を検出するものであり、また、所定の遅延時間で信号の検出が遅延する2組の電極を用いたものである点で、共通するものである。 そして、引用発明において、「第1バイポーラチャンネル」及び「第2バイポーラチャンネル」の具体的な構成として、「対象となる神経の長手方向軸に沿って配置される3つの等間隔に配置された電極」に代えて引用文献2記載事項の構成を適用し、第1の電極対と、対象となる神経に沿って第1の電極対から離間している第2の電極対との、4つの電極を用いるものとし、上記相違点1に係る本願発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 イ 相違点2 引用発明において、「第1のバイポーラチャネル」及び「第2のバイポーラチャネル」から記録され、「チャネル間の所望の遅延に対応する時間差で」「相互相関」が「計算される」2つの信号の長さは、「相互相関」の計算により「神経活動の瞬間的なエネルギー量」を適切に把握できる程度に長くする必要があることは、当業者にとって自明である。そうすると、当該2つの信号の具体的な長さを1s以上の期間にわたる長さとし、上記相違点2に係る発明の構成とすることは、当業者が適宜なし得たことである。 ウ 相違点3 神経について、神経の種類によりその伝導速度が異なることは、例えば特公平3-20249号公報(第10頁左欄第33行~右欄第16行参照)、特開2019-72321号公報(段落【0014】)に例示されているように、本願の優先日前における技術常識であるといえる。 そして、測定装置一般において、複数の測定対象に対して測定できるようにするとの課題があることも技術常識であることを考慮すれば、複数の異なる伝導速度の神経について、「神経活動を記録」できるようにするために、「神経信号の伝導速度に反比例し、特定の神経信号がそれぞれ第1および第2のバイポーラチャネルの幾何学的中心の間を伝播するのにかかる時間として決定され」るものである「遅延」を、複数種類の神経に対応して複数設けることは、当業者が容易に想到し得ることである。また、その際に複数種類の神経のうち、少なくとも2つの神経における信号の伝導方向を同方向に設定し、「遅延」が、複数の正の符号の遅延時間又は複数の負の符号の遅延時間を含むようにし、上記相違点3に係る発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 (3)効果について 本願発明1により奏される効果も、引用発明、引用文献2記載事項、及び技術常識から当業者が予期し得るものであり、格別顕著なものではない。 (4)審判請求人の主張について ア 審判請求人は、令和7年12月25日提出の意見書(以下「意見書」という。)において、 「引用文献1は、神経信号を検出するための相互相関を教示していません。代わりに、既知の感覚/運動活動を強調または減衰させるために遅延を用いています(例えば、引用文献1の段落[0052]および[0053]を参照されたい)。遅延の存在が相関に基づく検出を自明とする審判官殿の仮定は、目的と実施方法における根本的な差異を見落としています。 引用文献1は、予め定められたサンプリングと既知の伝播速度(ΔT=IED/v)に依存しており、システムが特定の活動電位を想定していることを意味しています。引用文献1の段落[0048]は、チャネルがサンプルクロックに従い予め定められたレートでスイッチによってサンプリングされることを開示しています。この予め定められたサンプリングレートは、ΔT=IED/vに従い活動電位の伝播速度に比例して変動します。このサンプルクロックへの依存性は、引用文献1のシステムが任意の時点において、予め定められた1つまたは2つの活動電位の神経活動のみを追跡可能であることを示唆しています。実際、検出対象となる神経活動の種類は事前に知られていなくてはなりません。 対照的に、本発明は、 - 信号タイプの事前知識なしで連続記録に対して動作します。 - 負の信号対雑音比(SNR)を持つ信号、すなわち識別可能な活動電位を欠く信号に対しても機能します(本願請求項2を参照されたい)。 - 連続記録に相互相関を適用し、ゼロ以外の時間差で発生するピークから神経活動を検出します。 - その後、検出された活動を(時間差の符号に基づいて)求心性または遠心性として分類し、(時間差の大きさに基づいて)高速または低速として分類します。 引用文献1は、相関データの取得や相関データからの神経信号の検出を教示していません。引用文献1では、信号は相互相関を実施する前に検出されています。さらに、引用文献1における相互相関の出力を用いて神経応答タイプを識別しており、本願請求項1で特定されたような神経信号の検出には使用されていません。審判官殿は「遅延ベースの」増強と「相関ベースの検出」とを混同しているものと思料いたします。」 との主張をしているので、検討する。 イ 引用文献1の段落[0027]には、上記主張における引用文献1記載の実施態様とは異なる「さらなる実施形態」として、相互相関を所望の遅延に対応する時間差で計算する点が記載されている。 よって、上記主張における、引用文献1は神経信号を検出するための相互相関を教示していない旨の主張は、採用できない。 ウ 本願の発明の詳細な説明の段落【0011】には、「いくつかの実施形態では、相関分析は、単一のゼロ以外の遅延時間に適用され得る。他の実施形態では、相関分析は、複数のゼロ以外の遅延時間に適用することができる。複数のゼロ以外の遅延時間は、遅延時間の範囲に亘ることができる。例えば、複数のゼロ以外の遅延時間は、最大遅延時間と最小遅延時間との間で、増大させて設定することができる。複数のゼロ以外の遅延時間は、負及び正の符号の遅延時間を含み得る。」と記載されているから、本願の発明の詳細な説明には、遅延時間が、「単一のゼロ以外の遅延時間」である場合(以下「態様A」という。)、「複数のゼロ以外の遅延時間」である場合(以下「態様B」という。)、及び、「複数のゼロ以外の遅延時間」であって、それが「遅延時間の範囲に亘る」ものである場合(以下「態様C」という。)が記載されているといえる。 そして、本願発明1は、「相関データを取得するために、複数のゼロ以外の遅延時間を含む」点、及び、「前記複数のゼロ以外の遅延時間が、複数の正の符号の遅延時間及び/又は複数の負の符号の遅延時間を含む」点は特定されているものの、遅延時間が、所定の範囲に亘る時間である点は特定されていないから、上記3つの態様のうち、態様Bであることは特定されているものの、態様Cであることまでは特定されていないと認められる。 そして、態様Bにおいて、例えば、遅延時間が、正の2つの遅延時間である場合、2つの神経における、2つの遅延時間が既知である必要があるから、態様Bを含む本願発明1は、検出対象となる神経活動の種類が事前に知られていなくても動作可能なものであるとはいえない。 本願の発明の詳細な説明の段落【0044】には、「他の実施形態は、より狭い範囲またはより広い範囲の遅延時間にわたって相関分析を適用することができる。代替的または追加的に、例えば、対象の1つまたは複数の伝導速度の神経応答を分離するために、対象の単一の遅延時間(または対象の複数の離散した遅延時間)の第1及び第2の信号の間に、相関分析を適用することができる。」と記載されていることからも、態様Bが、伝導速度が既知である複数の対象の神経における信号を得るための実施態様であることは、明らかである。 よって、上記主張における、引用発明は検出対象となる神経活動の種類は事前に知られていなくてはならないことに対して、本件発明1は、信号タイプの事前知識なしで動作する旨の主張は、態様Bであることは限定されているものの、態様Cであることまでは限定されていない本件発明1の構成に基づく主張であるとは認められず、採用できない。 エ よって、審判請求人の上記主張は採用できない。 (5)小括 以上より、本願発明1は、引用発明、引用文献2記載事項及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 第6 むすび 以上のとおり、本願は、特許請求の範囲の請求項2の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 また、本願発明1は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 したがって、他の理由及び他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

審決本文(J-PlatPat)

J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。

J-PlatPat 審決検索を開く
2024-017922

番号・当事者・条文・審決分類・商標の称呼が一致(または近い)審決を機械的に集めた候補です。判断内容は各審決の本文でご確認ください。

同じ根拠条文の審決8,104件(特許法29条2項、特許法36条6項2号)
  • 2022-014655拒絶査定不服審判 / 2025-02-05 / 請求不成立コイニングされた縫合糸通しドリル
    共通の条文: 特許法29条2項、特許法36条6項2号
  • 2023-004232拒絶査定不服審判 / 2024-06-25 / 請求不成立外科用ステープラ及び関連する方法
    共通の条文: 特許法29条2項、特許法36条6項2号
  • 2019-012254拒絶査定不服審判 / 2020-06-15 / 請求不成立人間の歩容及び姿勢バランスを解析するシステム及び方法
    共通の条文: 特許法29条2項、特許法36条6項2号
  • 2016-004869拒絶査定不服審判 / 2017-09-11 / 請求不成立骨固定システムおよび使用方法
    共通の条文: 特許法29条2項、特許法36条6項2号
  • 2016-001501拒絶査定不服審判 / 2017-01-30 / 請求不成立抱き可能形態の呼吸誘導体
    共通の条文: 特許法29条2項、特許法36条6項2号
同じ論点・分野の審決(審決分類)2,205件(121・A61B、537・A61B)
  • 2024-014320拒絶査定不服審判 / 2026-08-25 / 原査定取消(特許/登録すべき)生理学的データのモニタリング方法
    共通の審決分類: 121・A61B、537・A61B
  • 2025-010743拒絶査定不服審判 / 2026-08-25 / 原査定取消(特許/登録すべき)乳房の病変を同定する方法及びモデル
    共通の審決分類: 121・A61B、537・A61B
  • 2024-019207拒絶査定不服審判 / 2026-08-25 / 原査定取消(特許/登録すべき)少なくとも1つの呼吸パラメータを決定するための測定装置及び方法
    共通の審決分類: 121・A61B、537・A61B
  • 2024-020357拒絶査定不服審判 / 2026-08-24 / 原査定取消(特許/登録すべき)情報処理装置、情報処理方法及びコンピュータプログラム
    共通の審決分類: 121・A61B、537・A61B
  • 2025-001465拒絶査定不服審判 / 2026-08-18 / 原査定取消(特許/登録すべき)耳、鼻、および咽喉の不調を治療するデバイスおよび方法
    共通の審決分類: 121・A61B、537・A61B

メモ・タグ(非公開)

あなただけに表示されます。審決本文の公開範囲は変わりません。

メモとタグは Pro の機能です。ログイン/Proでメモを保存