特許拒絶査定不服審判
2016-010522
合成ダイヤモンド製造のためのマイクロ波プラズマ反応器及び基板
- 審判番号
- 2016-010522
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2014-094417外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2016年07月12日
- 審決日
- 2017年10月30日
- 公報発行日
- 2018年05月25日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 分類
- P18 .537-WZ (C30B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条6項1号特許法36条6項2号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2014- 94417「合成ダイヤモンド製造のためのマイクロ波プラズマ反応器及び基板」拒絶査定不服審判事件〔平成26年7月31日出願公開、特開2014-139137〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
1 手続の経緯
本願は、2011年12月14日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2010年12月23日、英国(GB)、2011年2月3日、米国(US))を国際出願日とする特願2013-545197号の一部を平成26年5月1日に新たに特許出願したものであって、平成27年6月26日付けで拒絶理由が通知され、同年10月1日に意見書が提出され、平成28年3月8日付けで拒絶査定がされ、同年7月12日に拒絶査定不服審判が請求され、さらに、平成29年5月19日付けで当審からの拒絶理由が通知され、同年8月17日に意見書が提出されたものである。
2 本願発明
本願の請求項1~15に係る発明は、願書に添付された特許請求の範囲の請求項1~15に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明は、次のとおりである。
「【請求項1】
マイクロ波プラズマ反応器に用いられる基板であって、前記基板は、
CVDダイヤモンドを成長させるべき平坦な成長面及び前記成長面と反対側の平坦な支持面を備えた炭化物形成耐熱金属の円筒形ディスクを含み、
前記円筒形ディスクは、80mm以上の直径を有し、
前記成長面は、100μm以下の平坦度ばらつきを有し、
前記支持面は、100μm以下の平坦度ばらつきを有する、基板。」
3 当審で通知した拒絶理由の概要
当審で通知した平成29年5月19日付けの拒絶理由の概要は、次のとおりである。
(1)本願の請求項1に記載された「平坦度ばらつき」が明確でなく、請求項1~15に係る発明が明確といえないから、本願の特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。(以下、「明確性要件違反」という。)
(2)本願の請求項1~15に係る発明は、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものとはいえず、また、その記載や示唆がなくとも当業者が本願出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものでもなく、発明の詳細な説明に記載された発明であるとはいえないから、本願の特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。(以下、「サポート要件違反」という。)
4 明確性要件違反の検討
(1)請求項1~15について
ア 請求項1に記載された「平坦度ばらつき」に関して、発明の詳細な説明には、「平坦度ばらつき」の定義が記載されていないし、また、「平坦度ばらつき」の定義が技術常識であるともいえない。
そして、「平坦度」との用語に関連し、JIS B 0621に規定する「平面度」(平面形状の幾何学的に正しい平面からの狂いの大きさ)、基板の全厚みのばらつき(TTV:total thicknesss variation やGBIR:global backsurface-referenced ideal plane/range)、反りの大きさ、表面粗さなどの多様な物理量が知られているところ、「平坦度」がいずれかの物理量を示していると仮定しても、「平坦度ばらつき」が何に対するばらつきを示すものなのか明確でない。
したがって、請求項1に係る発明及びこれを引用する請求項2~15に係る発明は明確でない。
イ 請求人は、「請求項1に記載された「平坦度ばらつき」の定義は、当業者には明らかである。即ち、「平坦度ばらつき」が幾何学的に完全な平面からのずれのばらつきを意味していることは当業者には明らかである。ここで、「全体の厚さ」のばらつきは、「平坦度ばらつき」ではない。例えば、凸型の表面は一様な厚さを有していたとしても平坦ではない。このように、「平坦度」が、表面が完全な平面からどれだけ外れているかを規定するものであることは明らかである。従って、本願請求項1記載の発明は明確であり、本願の特許法第36条第6項第2号違反は解消されたものと思料する。」ことを主張している(平成29年8月17日付けの意見書の「(3)特許法第36条第6項第2号違反について」参照)。
しかしながら、請求人の主張するように、「平坦度」が、表面が幾何学的に完全な平面からどれだけ外れているかを規定するものであるとしても、請求項1に記載された「平坦度ばらつき」は依然として明確であるといえない。
すなわち、「平坦度」が、幾何学的に完全な平面からの狂いの大きさを示す、JIS B 0621の「平面度」と同様なものであると仮定すると、JIS B 0621の「平面度」は、「平面形体を幾何学的平行二平面で挟んだとき、平行二平面の間隔が最小となる場合の、二平面の間隔」で定義されるものであり、1つの基板表面(基板成長面又は基板支持面)に対する「平坦度」は、1つの値しか存在しないことになるから、「平坦度」に「ばらつき」は存在しないことになる。
また、1つの基板表面の複数箇所で「平坦度」である幾何学的に完全な平面からずれが測定され、これらのずれのばらつきが「平坦度ばらつき」であると仮定しても、当該測定箇所の選択について、発明の詳細な説明に記載されていないし、技術常識といえない以上、当該ばらつきを測定できないため、「平坦度ばらつき」がいかなるものであるか明らかといえない。しかも、このように定義した「平坦度ばらつき」は、1つの基板表面の複数の測定箇所の「平坦度」のばらつき、すなわち、幾何学的に完全な平面からのずれの一様さを特定するものになって、個々の「平坦度」の大小と無関係なものになるから、「平坦度ばらつき」は、基板表面の平坦性の程度を示すものにならない。
したがって、請求人の主張は採用できない。
5 サポート要件違反の検討
(1)請求項1~9について
ア 発明の詳細な説明の段落【0047】~【0053】には、図3に示された「基板温度制御システムを含むプラズマ反応器」について記載されている。
「【図3】
」
また、発明の詳細な説明の段落【0012】、【0015】、【0042】~【0053】、【0060】、【0061】の記載によれば、本願発明の解決しようとする課題は、基板(5)の支持面(22)と冷却した基板ホルダ(4)の支持面(20)との間にガス隙間(18)を設けて、ガス隙間(18)に中央ガス隙間キャビティを画定し、中央ガス隙間キャビティに留まるガスにより、ガス隙間(18)の熱伝導率を変更し、CVDダイヤモンド成長中の基板の成長面周辺温度を中央領域温度より低くなるように制御するCVDダイヤモンドウェーハを製造する方法において、直径80mm以上の基板を用いた場合に、基板の端から端までにおける非一様なCVDダイヤモンド成長、CVDダイヤモンド成長中における基板からのCVDダイヤモンドウェーハの層状剥離並びにCVDダイヤモンドウェーハの成長後の冷却の際の亀裂発生開始及び伝搬という問題が依然として存在することを改善することといえる。
そして、請求項1に係る発明が、発明の詳細な説明に記載された発明であるというためには、請求項1に係る発明が、発明の詳細な説明に記載されており、発明の詳細な説明の記載により、当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲のものであることを要する。
そこで検討するに、上記4の明確性要件で検討したように、発明の詳細な説明には、請求項1に記載された「平坦度ばらつき」を有する基板について実質的に記載されているとはいえない。
また、発明の詳細な説明には、「基板の後面の僅かな平坦度のばらつきの結果として、ガス隙間の高さの僅かなばらつきが生じ、この結果、基板全体にわたって冷却度の差が生じるということが判明した。ガス隙間高さのばらつきにより生じる温度のばらつきの結果として、CVDダイヤモンド成長後の冷却時にCVDダイヤモンドに応力のばらつきが生じ、それにより、ダイヤモンドウェーハが少なくとも成長段階の一部分において亀裂が生じる場合があり、その結果歩留りが減少する。」(段落【0061】)、「これは、例えば、供給業者により提供される基板の後面を更に処理して基板ホルダの支持面のプロフィールと相補する極めて正確に定められたプロフィールを有するようにすることによって達成できる。例えば、基板ホルダの支持面が平坦である場合、基板ホルダ(当審注:「基板」の誤記と認められる。)の後面は、これは極めて正確に平坦であるように処理されるべきである。」(段落【0063】)と記載されており、これら記載によれば、基板(5)の支持面(22)と冷却した基板ホルダ(4)の支持面(20)との間にガス隙間(18)を設けて、ガス隙間(18)に中央ガス隙間キャビティを画定し、中央ガス隙間キャビティに留まるガスにより、ガス隙間(18)の熱伝導率を変更し、CVDダイヤモンド成長中の基板の成長面周辺温度を中央領域温度より低くなるように制御するCVDダイヤモンドウェーハを製造する方法において、基板ホルダ(4)の平坦な支持面(20)に対して、基板(5)の支持面(22)を平坦にして、ガス隙間(18)の高さのばらつきを抑えて、基板全体にわたっての冷却度のばらつきを抑えることで、上記課題を解決しているともいえるが、この実施形態では、ガス隙間を形成する基板ホルダの特定なしに、請求項1に係る発明の「基板」のみで上記課題を解決できないことは明らかである。
さらに、基板ホルダとのガス隙間を介して冷却することなく、基板の支持面を平坦にすることのみで、CVDダイヤモンド形成時の基板の温度分布を調整できることが技術常識であるといえないから、請求項1に係る発明の「基板」のみで上記課題を解決できるとはいえない。
そうしてみると、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものとはいえず、また、その記載や示唆がなくとも当業者が本願出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものでもない。
また、請求項2~9に係る発明についても、上記で検討としたことと同様に、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものとはいえず、また、その記載や示唆がなくとも当業者が本願出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものでもない。
したがって、請求項1~9に係る発明は発明の詳細な説明に記載された発明であるとはいえない。
イ 請求人は、「本願明細書段落0080には、「上述したような基板は、化学気相成長により合成ダイヤモンド膜を製造する方法、特に本発明の第1の観点に従って説明したマイクロ波プラズマ反応器を利用する方法に用いられるのに有利であることが判明した。しかしながら、原理的には、基板を他形式のCVDダイヤモンド反応器にも利用できる。」との記載がある(下線は出願人による)。この記載から明らかなように、本願発明の「基板」は、請求項1に記載されている構成以外の構成がないとしても効果があり、「基板」のみで本願発明の技術課題が解決可能であることは明らかである。」ことを主張している(平成29年 8月17日付けの意見書の「(4)特許法第36条第6項第1号違反について」の「a.」参照)。
しかしながら、上記段落【0080】の記載は、マイクロ波プラズマCVD以外のCVD形式の反応器にも利用できることが記載されているのみであり、上記アで検討した基板ホルダを利用しないことは記載されていない。
仮に、上記段落【0080】に、上記アで検討した基板ホルダを利用しないことが記載されているとしても、そのような場合に、本願請求項1に記載された「基板」にダイヤモンド膜を成長することで、上記アで検討した技術課題を解決できることは、発明の詳細な説明に記載も示唆もなされていないし、また、そのようなことが自明なことであるともいえない。
よって、出願人の主張は採用できない。
(2)請求項10~15について
ア 請求項10に係る発明は、「請求項1~9のうちずれか一に記載の基板」を用いた「化学気相成長法を用いて合成ダイヤモンド材料を製造する方法」において、「前記基板の前記成長面上に」「少なくとも80mmの直径を有する多結晶ダイヤモンドウェーハを形成するよう」に「合成ダイヤモンド材料を成長させる」こと、及び、「前記多結晶ダイヤモンドウェーハは、少なくとも中央領域上に実質的に亀裂のない自立型多結晶ダイヤモンドウェーハを生じさせるよう前記化学気相成長法を完了させた後、冷却時に前記基板から自然発生的に層状に剥離され、前記中央領域は、前記自立型多結晶ダイヤモンドウェーハの面積全体の少なくとも70%を占め、前記中央領域には、前記自立型多結晶ダイヤモンドウェーハの主要外側フェースの両方と交差すると共に長さ2mm超にわたって延びる亀裂が存在しない」ことが特定されている。
しかしながら、請求項10に係る発明は、基板(5)の支持面(22)と冷却した基板ホルダ(4)の支持面(20)との間にガス隙間(18)を設けて、ガス隙間(18)に中央ガス隙間キャビティを画定し、中央ガス隙間キャビティに留まるガスにより、ガス隙間(18)の熱伝導率を変更し、CVDダイヤモンド成長中の基板の成長面周辺温度を中央領域温度より低くなるように制御することも、基板ホルダ(4)の平坦な支持面(20)に対して、基板(5)の支持面(22)を平坦にして、ガス隙間(18)の高さのばらつきを抑えることも特定されておらず、上記(1)アで検討した課題解決手段を特定していない。
したがって、請求項10に係る発明は、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものとはいえず、また、その記載や示唆がなくとも当業者が本願出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものでもない。
また、請求項11~15に係る発明についても、上記で検討したことと同様に、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものとはいえず、また、その記載や示唆がなくとも当業者が本願出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものでもない。
イ 請求人は、「上記のように本願発明の「基板」は、それのみで本願発明の技術課題が解決可能なものである。加えて、非常に平坦な「基板」を使用している本願発明において、本願請求項10記載の発明の目的に対し「ガス隙間」は本質的なものではなく、本願請求項10の記載により本願発明の課題解決手段は特定されている。」ことを主張している(平成29年 8月17日付けの意見書の「(4)特許法第36条第6項第1号違反について」の「c.」参照)。
しかしながら、上記(1)イで検討したように、本願発明の「基板」のみで本願発明の技術課題が解決可能であるといえないから、出願人の主張は採用できない。
5 むすび
以上のとおり、本願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていないから、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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