特許拒絶査定不服審判
2016-010056
サスペンション用基板の設計方法、サスペンション用基板の製造方法、サスペンション用基板、サスペンション、素子付サスペンションおよびハードディスクドライブ
- 審判番号
- 2016-010056
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2011-235414外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2016年07月04日
- 審決日
- 2017年11月27日
- 公報発行日
- 2018年03月30日
- 結論
- 請求不成立
- 分類
- P18 .537-WZ (G11B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条6項1号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第17条の2第3項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2011-235414「サスペンション用基板の設計方法、サスペンション用基板の製造方法、サスペンション用基板、サスペンション、素子付サスペンションおよびハードディスクドライブ」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 5月16日出願公開、特開2013- 93081〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本願は、平成23年10月26日の出願であって、平成27年7月10日付けで拒絶理由が通知され、同年9月10日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成28年3月28日付けで拒絶査定されたところ、同年7月4日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。その後当審において平成29年5月30日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年8月7日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。
第2 当審において通知した拒絶理由
当審拒絶理由の概要は以下のとおり。
1.本件出願は、明細書、及び特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
記
(1)請求項1,3には、式(A)のXの値を24~64の範囲内とすることが特定されている。これに関して明細書には実施例1~4、比較例1~5が表1としてまとめられており、ここに記載された「X」の値と「基板反り量」を、Xの値を24~64とする根拠にしている(審判請求書には、表1の「X」と「基板反り量」から近似直線によってXの範囲を規定した旨記載されている。)。しかしながら、表1のパラメータを式(A)に当てはめてXを実際に計算すると、表1に記載されたXの値とはならないから、表1のXの値は根拠がない。したがって、請求項1,3のXの値を24~64とする根拠は明細書に記載されていないから、請求項1,3に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない。(例えば、実施例1のXは計算すると33.6となり、38.9とはならない。)
第3 請求人の対応
1 補正の概要
請求人は概略以下の補正を行った。
(1)【0147】表1において、実施例1~比較例5に対応するXの値を、それぞれ「38.9」、「38.9」、「21.3」、「58.9」、「71.5」、「141.8」、「68.9」、「36.5」、「-48.8」から、「33.6」、「33.6」、「16.1」、「52.1」、「62.9」、「133.2」、「60.3」、「27.9」、「-57.3」に変更する補正。
(2)請求項1、【0008】、【0011】、【0014】、【0029】、【0033】、【0034】、【0037】、【0041】、【0047】、【0117】、及び【0148】において、式(A)のXの範囲を「24~64」から「17~56」に変更する補正。
2 意見書の主張の概要
「2.補正の根拠について
(1)明細書における補正
i.0147段落における補正
0147段落における補正は、表1に記載された実施例1~4および比較例1~5のXの値を修正するものであります。具体的には、表1に記載された実施例1~4および比較例1~5のXの値を、表1に記載された実施例1~4および比較例1~5のX以外のパラメータの値を請求項1に特定された式(A)に正確に当てはめて実際に計算したXの値に修正するものであります。
補正前の表1に記載された実施例1~4および比較例1~5のXの値は、表1に記載された実施例1~4および比較例1~5のX以外のパラメータの値(測定値)を請求項1に特定された式(A)に当てはめて計算する際に、それらのパラメータにおける金属支持基板のCTE(熱膨張係数)(請求項1に係るCTEbaseに相当)のみを表1に記載された値ではなく誤った値として計算することで求められたものであります。実際に、表1に記載された実施例1~4および比較例1~5のX以外のパラメータの値を請求項1に特定された式(A)に当てはめて計算する際に、それらのパラメータにおける金属支持基板のCTEのみを誤った値(17.0)とした上で、その他の全てのパラメータを表1に記載された値として計算すると、補正前の表1に記載された実施例1~4および比較例1~5のXの値と正確に一致する値が求められます。例えば、金属支持基板のCTEのみを誤った値(17.0)としたときの実施例1のXの計算値は「38.850」となるので、小数点以下の有効数字を2桁とする、補正前の表1に記載された実施例1のXの値(38.9)と一致します。
したがって、補正前の表1に記載された実施例1~4および比較例1~5のXの値は、金属支持基板のCTEの値として、本来であれば表1に記載された正確な値(17.3)を当てはめて計算するべきところを、その小数点以下が四捨五入された誤った値(17.0)を当てはめて計算することで求められた値であることは明らかであると思料致します。すなわち、表1に記載された実施例1~4および比較例1~5のXの値が、本来であれば、金属支持基板のCTEの値として、表1に記載された正確な値(17.3)を当てはめて計算することで求められる補正後の表1に記載された値であることは、本願の明細書の記載などから明らかであると思料致します。
よって、0147段落における補正は、本来その意であることが明細書の記載などから明らかな字句・語句の誤りを、その意味内容の字句・語句に正す、誤記の訂正に該当するものであるから、新規事項の追加に該当するものではなく、特許法第17条の2第3項に記載された要件を充足するものと思料致します。
ii.他の段落における補正
他の段落(0008段落等)において、式(A)で示されるXの数値範囲を「24~64」から「17~56」に修正する補正は、後述する請求項1における補正と同様の補正であるから、特許法第17条の2第3項に記載された要件を充足するものと思料致します。
・・・略・・・
(2)特許請求の範囲における補正
i.請求項1における補正
請求項1における補正は、式(A)で示されるXの数値範囲を「24~64」から「17~56」に修正するものであります。以下、補正後の請求項1に係るXの数値範囲(17~56)の根拠について説明致します。
補正後の明細書における表1に記載された実施例および比較例のX(基板反り指標)と基板反り量(サスペンション用基板の長さ38mm当たりの基板反り量)との関係を、Xをy軸の値、基板反り量をx軸の値として、グラフ上にプロットすると以下の図1のようになります。
【図1】(略)
上記図1を見ると、Xと基板反り量との間に一定の相関関係があることは明らかであります。そして、補正後の請求項1に係るXの数値範囲(17~56)は、図1におけるプロットの近似直線の式1(y=9.7821x+36.783)において、基板反り量(x軸の値)が±2mm以内となるX(y軸の値)の数値範囲であります。
一方、当初明細書の0148段落には「表1より、Xの値を24~64(μm・ppm/℃)の範囲内とすることで、回路基板の長さ38mm当たりの基板反り量を±2mm以内とすることができ、安定的に反りの少ないものとすることができることを確認できた。」と記載されています。そして、当初の請求項1に係るXの数値範囲(24~64)は、当初明細書における表1に記載された実施例および比較例のX(基板反り指標)と基板反り量(サスペンション用基板の長さ38mm当たりの基板反り量)との関係を表した近似直線の式2(y=9.8066x+44.061)において基板反り量(x)が±2mm以内となるyの範囲に正確に一致するものであります。
これらのことからすれば、当初明細書における表1に記載された実施例および比較例について実際に測定された金属支持基板のCTE(線熱膨張係数)ならびに第一~第三絶縁層の厚みおよびCTEから、正確に計算されたXと、該実施例および比較例について実際に測定された基板反り量との関係を表した近似直線の式1(y=9.7821x+36.783)において、Xの数値範囲を基板反り量が±2mm以内となる範囲にすることにより、スタックト構造のサスペンション用基板を反りの少ないものにすることができるといった事項は、当初明細書等の記載に接した当業者であれば、出願時の技術常識に照らして、当初明細書等に記載されているのと同然であると理解する事項であると思料致します。
したがって、誤記の訂正に該当する補正後の明細書における表1に記載された実施例および比較例のXと基板反り量との関係を表した近似直線の式1(y=9.7821x+36.783)において、基板反り量(x軸の値)が±2mm以内となるX(y軸の値)の数値範囲(17~56)に、請求項1に係るXの数値範囲を修正する補正は、新規事項の追加に該当するものではないと思料致します。よって、請求項1における補正は、特許法第17条の2第3項に記載された要件を充足するものと思料致します。
・・・略・・・
したがって、特許請求の範囲における補正は、特許法第17条の2第3項および第4項に記載された要件を充足するものと思料します。
3.特許法第36条第6項第1号違反について
補正後の請求項1において、式(A)で示されるXの数値範囲は「17~56」に修正されています。一方、補正後の明細書における表1において、実施例1~4および比較例1~5のXの値は、表1に記載された実施例1~4および比較例1~5のX以外のパラメータを請求項1に特定された式(A)に正確に当てはめて実際に計算したXの値に修正されています。
そして、上述した通り、補正後の明細書における表1に記載された実施例および比較例のXと基板反り量との関係を表した近似直線の式1(y=9.7821x+36.783)において、基板反り量(x軸の値)が±2mm以内となるX(y軸の値)の数値範囲は、補正後の請求項1に係るXの数値範囲に該当する範囲(17~56)となっています。
したがって、補正後の請求項1に係るXの数値範囲(17~56)は、サスペンション用基板の長さ38mm当たりの基板反り量を±2mm以内にすることができる数値範囲に該当すると思料致します。このため、補正後の請求項1に係る発明であるサスペンション用基板の設計方法は、Xの数値範囲(17~56)の全体において、長さ38mm当たりの基板反り量を本発明者らが効果的な範囲であると考える±2mm以内にすることで、スタックト構造のサスペンション用基板を反りの少ないものにするといった本発明の作用効果を奏するものであると考えることができます。
よって、補正後の請求項1に係るXの数値範囲を17~56とする根拠は補正後の明細書に記載されており、補正後の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に違反するものではないと思料致します。
(以下略)」
第4 当審の判断
当審拒絶理由の理由1.(1)(サポート要件違反)について検討する。
請求人は、【0147】表1のXの値を補正し、補正したXの値に基づいて、式(A)のXの範囲を「24~64」から「17~56」に補正した。そして意見書において金属支持基板のCTEの値(以下、「CTEbase」という。)を「17.3」で計算すべきところ四捨五入して「17.0」で計算した結果、Xの値を誤って記載した旨釈明しているので、当該事項を前提に考える。
【0030】及び請求項1の式(A)はCTEbaseの値を特定の値とするものではないから、補正前の式(A)のXの範囲「24~64」は、CTEbaseとして一般的な範囲である任意の値を予定したものであったと解するのが自然である。ここで、【0099】の「金属支持基板の材料としては、特に限定されるものではないが、例えばステンレス鋼を挙げることができ、中でもSUS304(線熱膨張係数:17.3ppm/℃)、SUS410(線熱膨張係数:10.4ppm/℃)、SUS430(線熱膨張係数:10.4ppm/℃)、SUS630(線熱膨張係数:11.6ppm/℃)等を挙げることができ、特に、SUS304が好ましい。特に本発明においては、金属支持基板、第一導体層および第二導体層の材料の線熱膨張係数が10ppm/℃~30ppm/℃の範囲内であることが好ましい。」との記載によれば、「17.0」、「17.3」はCTEbaseとして一般的な範囲に含まれることは明らかである。これに対し、CTEbaseの値を四捨五入して計算しただけで、反りの少ない回路基板を安定的に設計できるXの範囲が「17~56」から「24~64」に変化してしまうのであれば、CTEbaseの変化が式(A)の計算結果(Xの範囲)に与える影響は非常に大きいものということができる。してみると,CTEbaseの値に依らずに規定された式(A)のXの範囲には根拠がない。
そして、表1の実施例1~比較例5をみると、CTEbaseの値は「17.3」に固定されており、他の値について何ら考慮されていない。つまり、本願発明における式(A)においてCTEbaseの値は固定されておらず、様々な値を取り得るのに対して、反りの少なくなるXの範囲はCTEbaseが「17.3」であることを前提として導出されている。してみると、上述したようにCTEbaseの変化が式(A)の計算結果に大きく影響することを踏まえれば、少なくともCTEbaseが「17.3」以外となる材料を使った場合については、表1は基板の反りを小さくできるXの範囲を導出する根拠を示しているということはできない。
したがって、本願の請求項1の式(A)におけるXの範囲の根拠が明細書に記載されているとはいえず、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものであるということはできない。
なお、請求人は審判請求書において、CTEbaseの値に関連して
「サスペンション用基板の反り量において支配的なパラメータは、絶縁層の厚みおよび線熱膨張係数である」
「サスペンション用基板を構成する各層について、材料や厚みなどの実用的な範囲は極めて狭いものである」
と主張している。
しかしながら、CTEbaseの値が式(A)の計算結果に大きく影響することは上述したとおりである。また、【0099】に「金属支持基板の材料としては、特に限定されるものではないが、例えばステンレス鋼を挙げることができ、中でもSUS304(線熱膨張係数:17.3ppm/℃)、SUS410(線熱膨張係数:10.4ppm/℃)、SUS430(線熱膨張係数:10.4ppm/℃)、SUS630(線熱膨張係数:11.6ppm/℃)等を挙げることができ、特に、SUS304が好ましい。特に本発明においては、金属支持基板、第一導体層および第二導体層の材料の線熱膨張係数が10ppm/℃~30ppm/℃の範囲内であることが好ましい。」と記載され、金属支持基板の線熱膨張係数であるCTEbaseの範囲が極めて狭いものということもできないから、請求人の上記主張を採用することはできない。
第5 むすび
以上のとおり、本件出願は、特許請求の範囲の記載に不備があり、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
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