特許拒絶査定不服審判
2016-009968
ハイブリッド車両
- 審判番号
- 2016-009968
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2013-206373外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2016年07月01日
- 審決日
- 2017年05月23日
- 公報発行日
- 2017年08月25日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】トヨタ自動車株式会社
- 【請求人代理人】特許業務法人深見特許事務所
- 分類
- P18 .121-Z (B60K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2013-206373「ハイブリッド車両」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 4月13日出願公開、特開2015- 67265〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
1.手続の経緯
本件出願は、平成25年10月1日の出願であって、平成27年9月30日付けで拒絶理由が通知され、平成27年12月1日に意見書が提出されるとともに、同日に特許請求の範囲について補正する手続補正書が提出されたが、平成28年5月30日付けで拒絶査定がされ、これに対して平成28年7月1日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。
2.本件発明
本件出願の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、平成27年12月1日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲並びに本件出願の願書に最初に添付した明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認める。
「【請求項1】
吸気バルブの作動特性を変更するための可変動弁装置を有する内燃機関と、
前記内燃機関の始動を行なうことが可能に構成された回転電機と、
前記回転電機を駆動するための電力を蓄積するための蓄電装置と、
前記蓄電装置の性能が第1の状態よりも制限された第2の状態である場合には、前記内燃機関を始動するときの前記吸気バルブのリフト量および前記吸気バルブの作用角の少なくとも一方を前記第1の状態よりも小さくするように前記可変動弁装置を制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、前記内燃機関の停止処理時または始動処理時において、前記蓄電装置の性能が前記第2の状態であり、かつ、前記内燃機関が冷間状態である場合には、前記内燃機関を始動するときの前記吸気バルブのリフト量および前記吸気バルブの作用角の少なくとも一方を、前記蓄電装置の性能が前記第1の状態である場合よりも小さくするように前記可変動弁装置を制御する、ハイブリッド車両。」
3.刊行物に記載された発明
(1)刊行物1の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願前に頒布された刊行物である国際公開第2013/031023号(国際公開日は2013年(平成25年)3月7日。以下、「刊行物1」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている。
a)「[0029]エンジン10には、図3、図4、図5に示す可変バルブタイミング機構90が備えられている。図3において、可変バルブタイミング機構90は、エンジン10の図示しないクランク軸にタイミングチェーンを介して作動的に連結されてそれと同期回転する外部ロータ92と、外部ロータ92に対して相対回転可能に同軸に配置され、エンジン10の吸気弁又は排気弁の開閉を制御するカムの回転軸を構成するカムシャフト94の軸端に固定されてそれと一体回転する内部ロータ96とを備えている。・・・・・中略・・・・・
[0030]・・・・・中略・・・・・図4に示すように、内部ロータ96には、外側へ突き出す矩形板状のベーン106が複数箇所(本実施例では4箇所)が設けられており、外部ロータ92の内周面には、それら複数枚のベーン106をそれぞれ周方向の摺動が可能に収容する油室108が複数箇所設けられている。ベーン106は、それを嵌め入れる油室108を分割し、ベーン106よりも回転方向S側に進角室108aを、ベーン106よりも回転方向Sとは反対側に遅角室108bをそれぞれ油密に形成している。進角油路110aを介して進角室108a内へ作動油が供給されてベーン106が遅角室108b側へ移動させられるにともなって、排気弁或いは吸気弁の開閉タイミングが進角される。遅角油路110bを介して遅角室108b内へ作動油が供給されてベーン106が進角室108a側へ移動させられるにともなって、排気弁或いは吸気弁の開閉タイミングが遅角される。」(段落[0029]及び[0030])
b)「[0036]・・・・・中略・・・・・また、電子制御装置142は、エンジン10の運転状態に関する状態量、たとえば潤滑油の温度Toil、冷却水Twの温度を検知するとともに、エンジン10の停止要求下のエンジン10の回転が停止指令が出力されてからエンジン10の回転が停止するまでの停止過程において、次回の再始動のために、可変バルブタイミング機構90を制御してエンジン10の少なくとも吸気弁の閉弁タイミングを、エンジン始動性が確保されていると推定されるか否か、および電動機MGの出力制限状態およびトルク制限状態に応じて、中間遅角ロック位置或いは最遅角ロック位置に制御する。
[0037]図7は、電子制御装置142の制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図7において、エンジン停止要求判定部146は、たとえばハイブリッド制御部或いは駆動制御部などの他の制御部から電動機走行或いはアイドルストップを開始させるなどのためのエンジン停止要求が出されたか否かを判定する。エンジン始動性確保判定部148は、エンジン停止要求が出されたと判定された場合には、エンジン10の再始動時にエンジン10が円滑に再始動が行われるという再始動性が確保されていると推定されるか否かを、エンジン10の油温Toilおよび/または冷却水温度Twに基づいて判定する。エンジン始動性確保判定部148は、たとえば、エンジン10の油温Toilおよび/または冷却水温度Twがたとえば-20℃以下に予め設定された極低温判定値を上回っている場合は、エンジン10の再始動性が確保されていると判定する。
[0038]MG出力制限判定部150は、エンジン10の再始動に必要な予め設定された出力よりもエンジン10の再始動時に電動機MGの出力(kW)が制限されることがエンジン10の再始動時に予測されるか否かを、電動機MGの温度Tm、電動機MGへの駆動電流を制御するインバータTiの温度、バッテリの温度Tbの上昇或いは低下、および、バッテリの充電残量SOCの少なくとも1つに基づいて判定する。すなわち、電動機MGの温度Tmがその加熱から保護するために予め設定された温度よりも高い場合、インバータの温度Tiがその加熱から保護するために予め設定された温度よりも高い場合、バッテリの温度Tbがそのバッテリの性能を損なわないように設定された使用温度域よりも高いか低い場合、バッテリの充電残量SOCがそのバッテリの耐久性能を損なわないように予め設定されたSOC使用域を超えるか或いは下回る場合の少なくとも1つにより決まる出力制限値が、エンジン10の再始動時に所定のクランキング回転数を得るために予め設定されたクランキング出力よりも低い場合には、MG出力制限判定部150は、エンジン10の再始動に必要な予め設定された出力よりもエンジン10の再始動時に電動機MGの出力が制限されること、すなわちエンジン10の再始動のためのクランキング回転数が所定の回転よりも上げられないような電動機MGの出力が不十分であることが予測されると判定する。」(段落[0036]ないし[0038])
c)「[0040]中間ロック制御部154は、MG出力制限判定部150によってエンジン10の再始動に必要な予め設定された出力よりもエンジン10の再始動時に電動機MGの出力が制限されることが予測されると判定された場合は、エンジン10の停止時の閉弁タイミングを中間ロック機構114によって中間ロック位置にロックさせる。すなわち、中間ロック機構114を用いて、エンジン10の停止過程においてカムにより開閉される吸気弁の閉弁タイミングを前記遅角範囲内の予め定められた中間遅角位置で固定させる。電動機MGの出力が制限される状況下において、吸気弁の閉弁タイミングが最遅角位置とする場合よりも圧縮比を高めてエンジン始動時の爆発力を高め、エンジン10の始動性能を確保するためである。」(段落[0040])
d)「[0042]図8は、電子制御装置142の制御作動の要部を説明するフローチャートであって、エンジン停止時可変バルブタイミング制御ルーチンを示している。・・・・・中略・・・・・
[0043]図8において、エンジン停止要求判定部146に対応するステップS1(以下、ステップを省略する)では、たとえばハイブリッド制御部或いは駆動制御部などの他の制御部から電動機走行を開始させるなどのためのエンジン停止要求が出されたか否かが判定される。この判定が否定された場合は本ルーチンが終了させられるが、肯定される場合は、エンジン10の油温Toilおよび/または冷却水温度Twが極低温を示すか否かに基づいて、カム位置が再遅角であってもエンジン10が再始動されるか否かが判定される。
[0044]上記S2の判断が肯定される場合は、MG出力制限判定部150に対応するS3において、電動機MGの温度Tmがその加熱から保護するために予め設定された温度よりも高い場合、インバータの温度Tiがその加熱から保護するために予め設定された温度よりも高い場合、バッテリの温度Tbがそのバッテリの性能を損なわないように設定された使用温度域よりも高いか低い場合、バッテリの充電残量SOCがそのバッテリの耐久性能を損なわないように予め設定されたSOC使用域を超えるか或いは下回る場合の少なくとも1つにより決まる出力制限値が、予め設定されたクランキング出力よりも低いか否かに基づいて、エンジン10の再始動に必要な予め設定された出力よりもエンジン10の再始動時に電動機MGの出力(kW)が制限されることが予測されるか否かが判定される。
[0045]このS3の判定が否定される場合すなわちエンジン10の再始動に必要な予め設定された出力よりもエンジン10の再始動時に電動機MGの出力が制限されることが予測されない場合は、中間ロックキャンセル部156に対応するS6において、エンジン10の停止過程においてカムにより開閉される吸気弁の閉弁タイミングを遅角範囲内の予め定められた中間遅角位置で固定させることを禁止し、爆発力を低くしてエンジン10の再始動時の振動を低減するために最遅角位置に固定させる。
[0046]しかし、S2の判定が否定されてエンジン10の再始動時にエンジン10が円滑に再始動が行われるという再始動性が確保されていると推定されない場合、または、S3の判定が肯定されてエンジン10の再始動に必要な予め設定された出力よりもエンジン10の再始動時に電動機MGの出力が制限されることが予測されない場合は、MG出力トルク制限判定部152に対応するS4において、エンジン10の再始動時に必要な予め設定されたクランキングトルク(m-kg)よりもエンジン10の再始動時に電動機MGの出力トルクが制限されることが予測されたか否かが、電動機MGの温度Tmがその加熱から保護するために予め設定された温度よりも高い場合、インバータの温度Tiがその加熱から保護するために予め設定された温度よりも高い場合、バッテリの温度Tbがそのバッテリの性能を損なわないように設定された使用温度域よりも高いか低い場合、バッテリの充電残量SOCがそのバッテリの耐久性能を損なわないように予め設定されたSOC使用域を超えるか或いは下回る場合の少なくとも1つにより決まる電流制限値が、予め設定されたクランキング電流よりも低いか否かに基づいて判定される。
[0047]上記S4の判定が否定される場合は、中間ロック制御部154に対応するS5において、中間ロック機構114を用いて、エンジン10の停止過程においてカムにより開閉される吸気弁の閉弁タイミングが遅角範囲内の予め定められた中間遅角位置で固定され、吸気弁の閉弁タイミングが最遅角位置とする場合よりも圧縮比を高めてエンジン始動時の爆発力を高め、エンジン10の始動性能が確保される。」(段落[0042]ないし[0047])
e)「[0054]例えば、前述の実施例では、1モータハイブリッド車両においてエンジン走行からモータ走行へのエンジン停止要求に際して、エンジン10の再始動に備え、再始動時の電動機MGの出力不足が予測される場合は、中間ロック機構114を用いてエンジン10の停止過程においてカムにより開閉される吸気弁の閉弁タイミングを前記遅角範囲内の予め定められた中間遅角位置で固定させる例であったが、・・・・・中略・・・・・
[0055]また、前述の実施例において、エンジン10の停止に際して、そのエンジン10の再始動時の電動機MGの出力不足およびトルク不足が予測される場合は、中間ロック機構114を用いてカムにより開閉される吸気弁の閉弁タイミングを前記遅角範囲内の予め定められた中間遅角位置で固定させることを禁止して、最遅角位置とする中間ロックキャンセル部156が設けられていたが、必ずしも必要ではない。」(段落[0054]及び[0055])
f)「[請求項1]エンジンを回転駆動して前記エンジンを始動させる電動機と、前記エンジンの吸気バルブのバルブタイミングを可変とする可変バルブタイミング機構と、前記バルブタイミングの最遅角位置と再進角位置(審決注:「再進角位置」は「最進角位置」の明らかな誤記と認める。)との間の中間位置にてバルブタイミングを機械的にロックする中間ロック機構と、を備えた車両用エンジンの制御装置であって、
前記エンジンの再始動時に前記電動機の出力制限が予測される場合は、前記エンジンの停止時の前記バルブタイミングを前記中間ロック機構によって前記中間ロック位置にロックさせることを特徴とする車両用エンジンの制御装置。」(請求の範囲の[請求項1])
(2)上記(1)及び図面から分かること
a)上記(1)e)及び図1の記載によれば、刊行物1にはモータハイブリッド車両が記載されていることが分かる。
b)上記(1)a)及びf)並びに図3ないし5の記載によれば、可変バルブタイミング機構90は吸気バルブの開閉タイミングを変更することが分かる。
c)上記(1)a)及び図2の記載を上記a)とあわせてみると、モータハイブリッド車両において、可変バルブタイミング機構90を有するエンジン10を備えることが分かる。
d)上記(1)b)及びf)の記載を上記a)とあわせてみると、モータハイブリッド車両において、電動機MGはエンジン10の始動を行なうことが可能に構成されたこと、及び、バッテリが電動機MGを駆動するための電力を蓄積することが分かる。
e)上記(1)b)ないしd)並びに図7及び8の記載を上記a)とあわせてみると、モータハイブリッド車両において、電子制御装置142は、バッテリの温度Tbがそのバッテリの性能を損なわないように設定された使用温度域よりも高いか低い状態の場合には、エンジン10を始動するときの吸気バルブの閉弁タイミングをバッテリの温度Tbがそのバッテリの性能を損なわないように設定された使用温度域よりも高いか低い状態でない状態よりも進角となるように可変バルブタイミング機構90を制御すること、並びに、電子制御装置142は、エンジン10の停止処理時において、バッテリの温度Tbがそのバッテリの性能を損なわないように設定された使用温度域よりも高いか低い状態である、又は、エンジン10の油温Toil及び/又は冷却水温度Twが極低温判定値を下回っている場合には、エンジン10を始動するときの吸気バルブの閉弁タイミングを、バッテリの温度Tbがそのバッテリの性能を損なわないように設定された使用温度域よりも高いか低い状態でない状態である場合よりも進角となるように可変バルブタイミング機構90を制御することが分かる。
(3)刊行物1に記載された発明
したがって、上記(1)及び(2)を総合すると、刊行物1には次の発明(以下、「刊行物1に記載された発明」という。)が記載されていると認める。
<刊行物1に記載された発明>
「吸気バルブの開閉タイミングを変更するための可変バルブタイミング機構90を有するエンジン10と、
エンジン10の始動を行なうことが可能に構成された電動機MGと、
前記電動機MGを駆動するための電力を蓄積するためのバッテリと、
前記バッテリの温度Tbがそのバッテリの性能を損なわないように設定された使用温度域よりも高いか低い状態の場合には、前記エンジン10を始動するときの前記吸気バルブの閉弁タイミングを前記バッテリの温度Tbがそのバッテリの性能を損なわないように設定された使用温度域よりも高いか低い状態でない状態よりも進角となるように前記可変バルブタイミング機構90を制御する電子制御装置142とを備え、
前記電子制御装置142は、前記エンジン10の停止処理時において、前記バッテリの温度Tbがそのバッテリの性能を損なわないように設定された使用温度域よりも高いか低い状態である、又は、前記エンジン10の油温Toil及び/又は冷却水温度Twが極低温判定値を下回っている場合には、前記エンジン10を始動するときの前記吸気バルブの閉弁タイミングを、前記バッテリの温度Tbがそのバッテリの性能を損なわないように設定された使用温度域よりも高いか低い状態でない状態である場合よりも進角となるように前記可変バルブタイミング機構90を制御する、モータハイブリッド車両。」
(4)刊行物2の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願前に頒布された刊行物である特開2000-34913号公報(以下、「刊行物2」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている。
a)「【0105】以上説明した本実施の形態1によれば、以下の効果が得られる。
(イ).エンジン11が自動停止および自動始動を行う際には、リフト量可変アクチュエータ22aを駆動して作用角を最大領域に設定している(S1074,S1174)。また、回転位相差可変アクチュエータ24についても自動停止および自動始動を行う際には、吸気バルブ20が最も遅く閉じるように位相差を0に設定している(S1072,S1073,S1173)。このことにより、吸気バルブ20の閉弁タイミングを最大に遅角した状態でエンジン11の自動停止や自動始動が行われることになる。
【0106】このように吸気バルブ20の閉タイミングを最大限に遅角した状態では、吸気バルブ20が開弁している期間が圧縮行程に深く入ることになる。このため、吸気の慣性過給が低下するとともにデコンプ作用が生じて実圧縮比も低下する。このことにより、運転者の意志によらない自動停止時や自動始動時において、エンジン11やその駆動力伝達系に振動を生じることが抑制され、運転者に違和感を与えることがなくなる。」(段落【0105】及び【0106】)
b)「【0112】図15のエンジン始動時吸気バルブ閉タイミング制御処理が開始されると、まず、オイルコントロールバルブ94を位相差の保持状態に制御する(S1272)。この処理は図13に示したステップS1173と同じ処理であり、このことで、自動停止時と同様に吸気バルブ20の開閉タイミングは、回転位相差可変アクチュエータ24においての最遅角位置に保持される。
【0113】次に、水温センサ150により検出されているエンジン11の冷却水温度THWが読み込まれる(S1274)。そして、この冷却水温度THWが冷間判定温度Hsを越えているか否かが判定される(S1276)。
【0114】THW>Hsであれば(S1276で「YES」)、図13に示した1174と同じく、リフト量可変アクチュエータ22aをコイル31への電流量を0にするあるいは0に維持することで、吸気バルブ20のリフト量を最大として、吸気バルブ20の閉タイミングを最遅角にする(S1278)。こうして、吸気バルブ閉タイミング制御処理を終了し、その後、この最大の遅角位置にて、図12に示したエンジン11の自動始動処理(S1130)が行われることになる。
【0115】一方、THW≦Hsであれば(S1276で「NO」)、エンジン11は冷間状態にあるとして、リフト量可変アクチュエータ22aによる吸気バルブ閉タイミングの冷間時用進角制御処理が行われる(S1280)。
【0116】この冷間時用進角制御処理では、まず、ステップS1278の場合と同様に、リフト量可変アクチュエータ22aにより吸気バルブ20のリフト量を最大にすることで、吸気バルブ20の閉タイミングを最遅角にする。そして、次にリフト量可変アクチュエータ22aをリフト量を小さくする方向へ駆動して、吸気バルブ20の閉タイミングを最遅角状態から進角側へ必要量移動させる。
【0117】この進角側への移動の程度は、冷間時のエンジン始動不良を回避できる程度であれば良く、一律の進角量でも良く、冷却水温度THWに応じた量、あるいは冷間判定温度Hsと冷却水温度THWとの差に応じた量の進角量としてもよい。
【0118】例えば、図16に示すごとく、調整前の吸気バルブ20の閉タイミングが、(A2)におけるごとく120°CA(ABDC)であったものが、冷間時と判断されたことで、リフト量可変アクチュエータ22aにより最大のリフト量から減少され、(B2)におけるごとく吸気バルブ20の閉タイミングが100°CA(ABDC)となる。
【0119】こうして、吸気バルブ閉タイミング制御処理を終了し、その後、最大の遅角位置よりも進角された位置にて、図12に示したエンジン11の自動始動処理(S1130)が行われることになる。なお、前記ステップS1272およびステップS1278は、前記実施の形態1で述べたと同じ理由で処理を省略することができる。」(段落【0112】ないし【0119】)
c)「【0121】以上説明した本実施の形態2によれば、以下の効果が得られる。
(イ).前記実施の形態1の(イ)~(ニ)と同じ効果が得られる。
(ロ).自動始動時においては、冷却水温度THWの状態からエンジン11の始動性低下状態を判定して、作用角を最大領域から進角するようにしている。作用角を最大領域に設定した状態ではエンジン11の始動性は最も低下している。このため、作用角が最大領域に存在する状態でエンジン11の始動性低下因子としての冷却水温度THWが低くなれば、エンジン11の始動自体が困難となるおそれがある。したがって、吸気バルブ20のバルブリフト量を、冷却水温度THWの値、あるいは冷却水温度THWと冷間判定温度Hsとの差に応じて作用角を最大領域から進角した位置に設定する。このことにより、始動性を確保しつつ、エンジン11の始動時の振動を極力抑制することができる。」(段落【0121】)
d)「【0152】・前記実施の形態1~4では、自動車の停止時に内燃機関を停止する際の制御例を示したが、これ以外に、内燃機関の出力により発電してこれを蓄電やモータに給電してモータの回転により走行するハイブリッドカーに適用してもよい。すなわち、バッテリの蓄電が十分になされた場合に内燃機関を自動停止し、バッテリの蓄電容量が少なくなってきた場合に内燃機関を自動始動する場合に、リフト量可変アクチュエータのみ、またはリフト量可変アクチュエータと回転位相差可変アクチュエータとを組み合わせた内燃機関の可変動弁装置により吸気バルブの閉タイミングを最大遅角領域まで遅角するようにしてもよい。」(段落【0152】)
(5)刊行物2に記載された技術
したがって、上記(4)及び図10ないし16を総合して、実施の形態2を説明する図16に着目すると、刊行物2には次の技術(以下、「刊行物2に記載された技術」という。)が記載されていると認める。
<刊行物2に記載された技術>
「ハイブリッド車両(ハイブリッドカー)において、デコンプ作用が生じないようにするために、内燃機関(エンジン11)を始動するときの吸気バルブ(吸気バルブ20)のリフト量を小さくするように可変動弁装置(リフト量可変アクチュエータ22a)を制御する技術。」
(括弧内に刊行物2において対応する用語を示す。)
4.対比・判断
(1)対比
本件発明と刊行物1に記載された発明とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比すると、刊行物1に記載された発明における「吸気バルブの開閉タイミング」、「可変バルブタイミング機構90」、「エンジン10」、「電動機MG」、「バッテリ」、「電子制御装置142」及び「モータハイブリッド車両」は、それぞれ、本件発明における「吸気バルブの作動特性」、「可変動弁装置」、「内燃機関」、「回転電機」、「蓄電装置」、「制御装置」及び「ハイブリッド車両」に相当する。
また、前述の相当関係を踏まえると、刊行物1に記載された発明における「前記バッテリの温度Tbがそのバッテリの性能を損なわないように設定された使用温度域よりも高いか低い状態」、「前記エンジン10の油温Toil及び/又は冷却水温度Twが極低温判定値を下回っている」及び「前記バッテリの温度Tbがそのバッテリの性能を損なわないように設定された使用温度域よりも高いか低い状態でない状態である」は、それぞれ、本件発明における「前記蓄電装置の性能が第1の状態よりも制限された第2の状態」若しくは「前記蓄電装置の性能が前記第2の状態」、「前記内燃機関が冷間状態である」及び「前記蓄電装置の性能が前記第1の状態である」に相当する。
ここで、デコンプ作用によりエンジン始動時の振動を抑制すること、また、可変動弁装置により吸気バルブのリフト角、作用角及び/又は閉弁タイミングを変更することにより、デコンプ作用を生じさせることは、ハイブリッド車両の技術分野における技術常識である。
そして、当該技術常識及び前述の相当関係を参酌すると、刊行物1に記載された発明における「前記エンジン10を始動するときの前記吸気バルブの閉弁タイミングを前記バッテリの温度Tbがそのバッテリの性能を損なわないように設定された使用温度域よりも高いか低い状態でない状態よりも進角となるように前記可変バルブタイミング機構90を制御する」と、本件発明における「前記内燃機関を始動するときの前記吸気バルブのリフト量および前記吸気バルブの作用角の少なくとも一方を前記第1の状態よりも小さくするように前記可変動弁装置を制御する」とは、「前記内燃機関を始動するときの前記吸気バルブの作動特性をデコンプ作用が生じないようにするように前記可変動弁装置を制御する」という限りにおいて一致している。
また、前述の相当関係を踏まえると、刊行物1に記載された発明における「前記バッテリの温度Tbがそのバッテリの性能を損なわないように設定された使用温度域よりも高いか低い状態である、又は、前記エンジン10の油温Toil及び/又は冷却水温度Twが極低温判定値を下回っている場合」と、本件発明における「前記蓄電装置の性能が前記第2の状態であり、かつ、前記内燃機関が冷間状態である場合」とは、「前記蓄電装置の性能が前記第2の状態であること、及び、前記内燃機関が冷間状態であること、の2つの条件が組み合わされた所定の場合」という限りにおいて一致している。
してみると、本件発明と刊行物1に記載された発明とは、
「吸気バルブの作動特性を変更するための可変動弁装置を有する内燃機関と、
前記内燃機関の始動を行なうことが可能に構成された回転電機と、
前記回転電機を駆動するための電力を蓄積するための蓄電装置と、
前記蓄電装置の性能が第1の状態よりも制限された第2の状態である場合には、前記内燃機関を始動するときの前記吸気バルブの作動特性をデコンプ作用が生じないようにするように前記可変動弁装置を制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、前記内燃機関の停止処理時において、前記蓄電装置の性能が前記第2の状態であること、及び、前記内燃機関が冷間状態であること、の2つの条件が組み合わされた所定の場合には、前記内燃機関を始動するときの前記吸気バルブの作動特性をデコンプ作用が生じないようにするように前記可変動弁装置を制御する、ハイブリッド車両。」
の点で一致し、次の点で相違する。
<相違点>
「前記内燃機関を始動するときの前記吸気バルブの作動特性をデコンプ作用が生じないようにするように前記可変動弁装置を制御する」に関し、
本件発明においては、「前記内燃機関を始動するときの前記吸気バルブのリフト量および前記吸気バルブの作用角の少なくとも一方を前記第1の状態よりも小さくするように前記可変動弁装置を制御する」のに対し、
刊行物1に記載された発明においては、「前記エンジン10を始動するときの前記吸気バルブの閉弁タイミングを前記バッテリの温度Tbがそのバッテリの性能を損なわないように設定された使用温度域よりも高いか低い状態でない状態よりも進角となるように前記可変バルブタイミング機構90を制御する」点(以下、「相違点1」という。)。
内燃機関を始動するときの吸気バルブの作動特性をデコンプ作用が生じないようにするための条件である「前記蓄電装置の性能が前記第2の状態であること、及び、前記内燃機関が冷間状態であること、の2つの条件が組み合わされた所定の場合」に関し、
本件発明においては、「前記蓄電装置の性能が前記第2の状態であり、かつ、前記内燃機関が冷間状態である場合」であるのに対し、
刊行物1に記載された発明においては、「前記バッテリの温度Tbがそのバッテリの性能を損なわないように設定された使用温度域よりも高いか低い状態である、又は、前記エンジン10の油温Toil及び/又は冷却水温度Twが極低温判定値を下回っている場合」である点(以下、「相違点2」という。)。
(2)判断
上記相違点について、以下、検討する。
ア 相違点1について
上記3.(4)及び(5)で認定した刊行物2に記載された技術は、ハイブリッド車両における内燃機関の制御の技術分野において、本件出願前周知の技術(以下、「刊行物2にみられるような周知技術」という。)である。
そして、刊行物1に記載された発明、刊行物2にみられるような周知技術は、ともに、ハイブリッド車両の技術分野に属するものであり、内燃機関におけるデコンプ作用が生じないようにするという機能を有する点でも共通するものである。
してみると、刊行物1に記載された発明において、刊行物2にみられるような周知技術を適用して、「前記蓄電装置の性能が第1の状態よりも制限された第2の状態である場合には、前記内燃機関を始動するときの前記吸気バルブの作動特性をデコンプ作用が生じないようにするように前記可変動弁装置を制御する」のに際し、「内燃機関を始動するときの吸気バルブのリフト量を」(第1の状態よりも)「小さくするように可変動弁装置を制御する」こととして、上記相違点1に係る本件発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到できたことである。
イ 相違点2について
(ア)相違点2についての検討1
ハイブリッド車両において、蓄電装置の性能が第1の状態よりも制限された第2の状態であり、かつ、内燃機関が冷間状態である場合には、内燃機関の始動性を確保するための制御を行うことは、本件出願前周知の技術(拒絶査定において周知例として例示した特開2011-47348号公報[特に、段落【0013】ないし【0015】及び図2]等参照。以下、周知技術1という。)である。
そして、刊行物1に記載された発明及び周知技術1は、いずれもハイブリッド車両の技術分野に属するものである。
してみると、刊行物1に記載された発明において、周知技術1を適用して、「前記蓄電装置の性能が前記第2の状態であること、及び、前記内燃機関が冷間状態であること、の2つの条件が組み合わされた所定の場合」に関し、「蓄電装置の性能が第1の状態よりも制限された第2の状態であり、かつ、内燃機関が冷間状態である場合には」、内燃機関の始動性を確保するために、内燃機関を始動するときの吸気バルブの作動特性をデコンプ作用が生じないようにして、上記相違点2に係る本件発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到できたことである。
(イ)相違点2についての検討2
刊行物1に記載された発明においては、蓄電装置の性能が第2の状態であること、及び、内燃機関が冷間状態であること、の2つの条件のうち一方でも満足する場合に始動性を確保するための制御を行っている。ここで、2つの条件の組合せに関し、2つの条件のうち一方でも満足する場合に始動性を確保するための制御を行うか、又は、2つの条件の両方を満足する場合に始動性を確保するための制御を行うかは、当業者が適宜選択し得る設計事項である。
そして、蓄電装置の性能が第2の状態であること、及び、内燃機関が冷間状態であること、の2つの条件の両方を満足する場合に始動性を確保するための制御を行う設計例は、拒絶査定において周知例として例示した特開2011-47348号公報にも開示されている。
してみると、刊行物1に記載された発明において、蓄電装置の性能が第2の状態であること、及び、内燃機関が冷間状態であること、の2つの条件の両方を満足する場合に始動性を確保するための制御を行うこととし、「蓄電装置の性能が第1の状態よりも制限された第2の状態であり、かつ、内燃機関が冷間状態である場合には」、内燃機関を始動するときの吸気バルブの作動特性をデコンプ作用が生じないようにして、上記相違点2に係る本件発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到できたことである。
ウ 本件発明の作用効果について
本件発明は、全体としてみても、刊行物1に記載された発明、刊行物2にみられるような周知技術及び周知技術1から、又は、刊行物1に記載された発明、刊行物2にみられるような周知技術及び設計例から、予測される以上の格別な効果を奏するものではない。
5.まとめ
以上のとおり、本件発明は、刊行物1に記載された発明、刊行物2にみられるような周知技術及び周知技術1に基づいて、又は、刊行物1に記載された発明、刊行物2にみられるような周知技術及び設計例に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
6.むすび
上記5.で述べたとおり、本件発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2016-009968