特許拒絶査定不服審判
2016-007782
ハイブリッド車両の制御装置
- 審判番号
- 2016-007782
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2011-173770外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2016年05月27日
- 審決日
- 2017年05月22日
- 公報発行日
- 2017年08月25日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】日産自動車株式会社
- 【請求人代理人】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
- 分類
- P18 .121-WZ (B60K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2011-173770「ハイブリッド車両の制御装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 2月21日出願公開、特開2013- 35441〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本願は、平成23年8月9日の出願であって、平成27年6月3日付けで拒絶理由が通知され、平成27年8月7日に意見書及び手続補正書が提出され、平成27年10月13日付けで再び拒絶理由が通知され、平成27年12月17日に意見書が提出されたが、平成28年2月24日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成28年5月27日に拒絶査定不服審判が請求され、平成29年2月3日付けで当審において拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、平成29年4月10日に意見書が提出され、同日に明細書及び特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出されたものである。
第2 本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1ないし6に係る発明は、平成29年4月10日に提出された手続補正書によって補正された明細書及び特許請求の範囲並びに願書に最初に添付した図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。
「エンジンと、
車両の駆動力を出力すると共に前記エンジンの始動を行うモータと、
前記エンジンと前記モータとの間に介装され前記エンジンと前記モータとを断接する第1締結要素と、
前記モータと駆動輪との間に介装され前記モータと前記駆動輪とを断接する第2締結要素と、
駆動力伝達系負荷を検出または推定する駆動力伝達系負荷検出手段と、
前記駆動力伝達系負荷が所定値以上のとき、前記エンジンを所定回転数で作動させたまま前記第1締結要素をスリップ締結し、前記モータを前記所定回転数よりも低い回転数として前記第2締結要素をスリップ締結するエンジン/モータスリップ走行制御手段と、
前記駆動力伝達系負荷が所定値以上のとき、前記エンジンを所定回転数で作動させたまま前記第1締結要素を解放し、前記モータを前記所定回転数よりも低い回転数として前記第2締結要素をスリップ締結するモータスリップ走行制御手段と、を備え、
前記エンジン/モータスリップ走行制御手段は、アクセル開度条件を、前記モータのモータトルクがドライバの要求駆動トルク相当を確保でき、モータスリップ走行制御を維持することができるアクセル開度上限値とし、
前記アクセル開度上限値未満の間は、前記モータスリップ走行制御の実行を維持し、
前記アクセル開度上限値以上になると、モータスリップ走行制御からエンジン/モータスリップ走行制御へと移行する
ことを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。」
第3 引用文献
1 引用文献1
(1)引用文献1の記載
本願の出願前に頒布され、当審拒絶理由に引用された特開2009-132195号公報(以下、「引用文献1」という。)には、次の事項が記載されている。
ア 「【0001】
本発明は、動力源にエンジンとモータを備えたハイブリッド車両の制御装置に関する。」(段落【0001】)
イ 「【0007】
以下、本発明のハイブリッド車両の制御装置を実現する最良の形態を、図面に示す実施例に基づいて説明する。
・・・(中略)・・・
【0008】
まず、ハイブリッド車両の駆動系構成を説明する。図1は実施例1のエンジン始動制御装置が適用された後輪駆動によるハイブリッド車両を示す全体システム図である。実施例1におけるハイブリッド車の駆動系は、図1に示すように、エンジンEと、第1クラッチCL1と、モータジェネレータMGと、第2クラッチCL2と、自動変速機ATと、プロペラシャフトPSと、ディファレンシャルDFと、左ドライブシャフトDSLと、右ドライブシャフトDSRと、左後輪RL(駆動輪)と、右後輪RR(駆動輪)と、を有する。尚、FLは左前輪、FRは右前輪である。」(段落【0007】及び【0008】)
ウ 「【0010】
第1クラッチCL1は、エンジンEとモータジェネレータMGとの間に介装されたクラッチであり、後述する第1クラッチコントローラ5からの制御指令に基づいて、第1クラッチ油圧ユニット6により作り出された制御油圧により、スリップ締結を含み締結・開放が制御される。」(段落【0010】)
エ 「【0012】
第2クラッチCL2は、モータジェネレータMGと左右後輪RL,RRとの間に介装されたクラッチであり、後述するATコントローラ7からの制御指令に基づいて、第2クラッチ油圧ユニット8により作り出された制御油圧により、スリップ締結を含み締結・開放が制御される。」(段落【0012】)
オ 「【0015】
このハイブリッド駆動系には、第1クラッチCL1の締結・開放状態に応じて3つの走行モードを有する。第1走行モードは、第1クラッチCL1の開放状態で、モータジェネレータMGの動力のみを動力源として走行するモータ使用走行モードとしての電気自動車走行モード(以下、「EV走行モード」と略称する。)である。第2走行モードは、第1クラッチCL1の締結状態で、エンジンEを動力源に含みながら走行するエンジン使用走行モード(以下、「HEV走行モード」と略称する。)である。第3走行モードは、第1クラッチCL1の締結状態で第2クラッチCL2をスリップ制御させ、エンジンEを動力源に含みながら走行するエンジン使用スリップ走行モード(以下、「WSC走行モード」と略称する。)である。このモードは、特にバッテリSOCが低いときやエンジン水温が低いときに、クリープ走行を達成可能なモードである。尚、EV走行モードからHEV走行モードに遷移するときは、第1クラッチCL1を締結し、モータジェネレータMGのトルクを用いてエンジン始動を行う。」(段落【0015】)
カ 「【0021】
次に、ハイブリッド車両の制御系を説明する。実施例1におけるハイブリッド車両の制御系は、図1に示すように、エンジンコントローラ1と、モータコントローラ2と、インバータ3と、バッテリ4と、第1クラッチコントローラ5と、第1クラッチ油圧ユニット6と、ATコントローラ7と、第2クラッチ油圧ユニット8と、ブレーキコントローラ9と、統合コントローラ10と、を有して構成されている。尚、エンジンコントローラ1と、モータコントローラ2と、第1クラッチコントローラ5と、ATコントローラ7と、ブレーキコントローラ9と、統合コントローラ10とは、互いの情報交換が可能なCAN通信線11を介して接続されている。
【0022】
エンジンコントローラ1は、エンジン回転数センサ12からのエンジン回転数情報を入力し、統合コントローラ10からの目標エンジントルク指令等に応じ、エンジン動作点(Ne:エンジン回転数,Te:エンジントルク)を制御する指令を、例えば、図外のスロットルバルブアクチュエータへ出力する。更に詳細なエンジン制御内容については後述する。尚、エンジン回転数Ne等の情報は、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給される。
【0023】
モータコントローラ2は、モータジェネレータMGのロータ回転位置を検出するレゾルバ13からの情報を入力し、統合コントローラ10からの目標モータジェネレータトルク指令等に応じ、モータジェネレータMGのモータ動作点(Nm:モータジェネレータ回転数,Tm:モータジェネレータトルク)を制御する指令をインバータ3へ出力する。尚、このモータコントローラ2では、バッテリ4の充電状態を表すバッテリSOCを監視していて、バッテリSOC情報は、モータジェネレータMGの制御情報に用いると共に、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給される。
【0024】
第1クラッチコントローラ5は、第1クラッチ油圧センサ14と第1クラッチストロークセンサ15からのセンサ情報を入力し、統合コントローラ10からの第1クラッチ制御指令に応じ、第1クラッチCL1の締結・開放を制御する指令を第1クラッチ油圧ユニット6に出力する。尚、第1クラッチストロークC1Sの情報は、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給する。
【0025】
ATコントローラ7は、アクセル開度センサ16と車速センサ17と第2クラッチ油圧センサ18と運転者の操作するシフトレバーの位置に応じた信号を出力するインヒビタスイッチからのセンサ情報を入力し、統合コントローラ10からの第2クラッチ制御指令に応じ、第2クラッチCL2の締結・開放を制御する指令をAT油圧コントロールバルブ内の第2クラッチ油圧ユニット8に出力する。尚、アクセルペダル開度APOと車速VSPとインヒビタスイッチの情報は、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給する。
【0026】
ブレーキコントローラ9は、4輪の各車輪速を検出する車輪速センサ19とブレーキストロークセンサ20からのセンサ情報を入力し、例えば、ブレーキ踏み込み制動時、ブレーキストロークBSから求められる要求制動力に対し回生制動力だけでは不足する場合、その不足分を機械制動力(摩擦ブレーキによる制動力)で補うように、統合コントローラ10からの回生協調制御指令に基づいて回生協調ブレーキ制御を行う。
【0027】
統合コントローラ10は、車両全体の消費エネルギを管理し、最高効率で車両を走らせるための機能を担うもので、モータ回転数Nmを検出するモータ回転数センサ21と、第2クラッチ出力回転数N2outを検出する第2クラッチ出力回転数センサ22と、第2クラッチ伝達トルク容量TCL2を検出する第2クラッチトルクセンサ23と、ブレーキ油圧センサ24と、第2クラッチCL2の温度を検知する温度センサ10aと、前後加速度を検出するGセンサ10bからの情報およびCAN通信線11を介して得られた情報を入力する。
【0028】
また、統合コントローラ10は、エンジンコントローラ1への制御指令によるエンジンEの動作制御と、モータコントローラ2への制御指令によるモータジェネレータMGの動作制御と、第1クラッチコントローラ5への制御指令による第1クラッチCL1の締結・開放制御と、ATコントローラ7への制御指令による第2クラッチCL2の締結・開放制御と、を行う。
【0029】
以下に、図2に示すブロック図を用いて、実施例1の統合コントローラ10にて演算される制御を説明する。例えば、この演算は、制御周期10msec毎に統合コントローラ10で演算される。統合コントローラ10は、目標駆動力演算部100と、モード選択部200と、目標充放電演算部300と、動作点指令部400と、変速制御部500と、を有する。
【0030】
目標駆動力演算部100では、図3に示す目標駆動力マップを用いて、アクセルペダル開度APOと車速VSPとから、目標駆動力tFoOを演算する。」(段落【0021】ないし【0030】)
キ 「【0031】
モード選択部200は、Gセンサ10bの検出値に基づいて路面勾配を推定する路面勾配推定演算部201を有する。路面勾配推定演算部201は、車輪速センサ19の車輪速加速度平均値等から実加速度を演算し、この演算結果とGセンサ検出値との偏差から路面勾配を推定する。
【0032】
更に、モード選択部200は、推定された路面勾配に基づいて、後述する二つのモードマップのうち、いずれかを選択するモードマップ選択部202を有する。図4はモードマップ選択部202の選択ロジックを表す概略図である。モードマップ選択部202は、通常モードマップが選択されている状態から推定勾配が所定値g2以上になると、MWSC対応モードマップに切り換える。一方、MWSC対応モードマップが選択されている状態から推定勾配が所定値g1(<g2)未満になると、通常モードマップに切り換える。すなわち、推定勾配に対してヒステリシスを設け、マップ切り換え時の制御ハンチングを防止する。」(段落【0031】及び【0032】)
ク 「【0037】
MWSCモードマップ内には、EV走行モード領域が設定されていない点で通常モードマップとは異なる。また、WSC走行モード領域として、アクセルペダル開度APOに応じて領域を変更せず、下限車速VSP1のみで領域が規定されている点で通常モードマップとは異なる。また、WSC走行モード領域内にMWSC走行モード領域が設定されている点で通常モードマップとは異なる。MWSC走行モード領域は、下限車速VSP1よりも低い所定車速VSP2と所定アクセル開度APO1よりも高い所定アクセル開度APO2とで囲まれた領域に設定されている。尚、MWSC走行モードの詳細については後述する。」(段落【0037】)
ケ 「【0041】
〔WSC走行モードについて〕
次に、WSC走行モードの詳細について説明する。WSC走行モードとは、エンジンEが作動した状態を維持している点に特徴があり、要求駆動力変化に対する応答性が高い。具体的には、第1クラッチCL1を完全締結し、第2クラッチCL2を要求駆動力に応じた伝達トルク容量としてスリップ制御し、エンジンE及び/又はモータジェネレータMGの駆動力を用いて走行する。
【0042】
実施例1のハイブリッド車両では、トルクコンバータのように回転数差を吸収する要素が存在しないため、第1クラッチCL1と第2クラッチCL2を完全締結すると、エンジンEの回転数に応じて車速が決まってしまう。エンジンEには自立回転を維持するためのアイドル回転数による下限値が存在し、このアイドル回転数は、エンジンの暖機運転等によりアイドルアップを行っていると、更に下限値が高くなる。また、要求駆動力が高い状態では素早くHEV走行モードに遷移できない場合がある。
【0043】
一方、EV走行モードでは、第1クラッチCL1を解放するため、上記エンジン回転数による下限値に伴う制限はない。しかしながら、バッテリSOCに基づく制限によってEV走行モードによる走行が困難な場合や、モータジェネレータMGのみで要求駆動力を達成できない領域では、エンジンEによって安定したトルクを発生する以外に手段がない。
【0044】
そこで、上記下限値に相当する車速よりも低車速領域であって、かつ、EV走行モードによる走行が困難な場合やモータジェネレータMGのみでは要求駆動力を達成できない領域では、エンジン回転数を所定の下限回転数に維持し、第2クラッチCL2をスリップ制御させ、エンジントルクを用いて走行するWSC走行モードを選択する。」(段落【0041】ないし【0044】)
コ 「【0059】
〔MWSC走行モードについて〕
次に、MWSC走行モード領域を設定した理由について説明する。推定勾配が所定勾配(g1もしくはg2)より大きいときに、例えば、ブレーキペダル操作を行うことなく車両を停止状態もしくは微速発進状態に維持しようとすると、平坦路に比べて大きな駆動力が要求される。自車両の荷重負荷に対向する必要があるからである。
【0060】
第2クラッチCL2のスリップによる発熱を回避する観点から、バッテリSOCに余裕があるときはEV走行モードを選択することも考えられる。このとき、EV走行モード領域からWSC走行モード領域に遷移したときにはエンジン始動を行う必要があり、モータジェネレータMGはエンジン始動用トルクを確保した状態で駆動トルクを出力するため、駆動トルク上限値が不要に狭められる。
【0061】
また、EV走行モードにおいてモータジェネレータMGにトルクだけを出力し、モータジェネレータMGの回転を停止もしくは極低速回転すると、インバータのスイッチング素子にロック電流が流れ(電流が1つの素子に流れ続ける現象)、耐久性の低下を招くおそれがある。
【0062】
また、1速でエンジンEのアイドル回転数に相当する下限車速VSP1よりも低い領域(VSP2以下の領域)において、エンジンE自体は、アイドル回転数より低下させることができない。このとき、WSC走行モードを選択すると、第2クラッチCL2のスリップ量が大きくなり、第2クラッチCL2の耐久性に影響を与えるおそれがある。
【0063】
特に、勾配路では、平坦路に比べて大きな駆動力が要求されていることから、第2クラッチCL2に要求される伝達トルク容量は高くなり、高トルクで高スリップ量の状態が継続されることは、第2クラッチCL2の耐久性の低下を招きやすい。また、車速の上昇もゆっくりとなることから、HEV走行モードへの遷移までに時間がかかり、更に発熱するおそれがある。
【0064】
そこで、エンジンEを作動させたまま、第1クラッチCL1を解放し、第2クラッチCL2の伝達トルク容量を運転者の要求駆動力に制御しつつ、モータジェネレータMGの回転数が第2クラッチCL2の出力回転数よりも所定回転数高い目標回転数にフィードバック制御するMWSC走行モードを設定した。
【0065】
言い換えると、モータジェネレータMGの回転状態をエンジンのアイドル回転数よりも低い回転数としつつ第2クラッチCL2をスリップ制御するものである。同時に、エンジンEはアイドル回転数を目標回転数とするフィードバック制御に切り換える。WSC走行モードでは、モータジェネレータMGの回転数フィードバック制御によりエンジン回転数が維持されていた。これに対し、第1クラッチCL1が解放されると、モータジェネレータMGによってエンジン回転数をアイドル回転数に制御できなくなる。よって、エンジンE自体によりエンジン回転数フィードバック制御を行う。」(段落【0059】ないし【0065】)
サ 「【0135】
(3)路面勾配が所定値以上であっても運転者の要求駆動力であるアクセルペダル開度APOが所定値APO2以上のときはWSC走行モードを選択することとした。
【0136】
よって、モータジェネレータMGのみのトルクでは運転者の要求駆動力を満たせない場合にもエンジントルクを用いることで要求駆動力を満たすことができる。」(段落【0135】及び【0136】)
(2)引用文献1記載の事項
上記(1)アないしサ並びに図1ないし3、6及び11の記載から、次のことが分かる。
タ 上記(1)アの記載から、引用文献1には、ハイブリット車両の制御装置が記載されていることが分かる。
チ 上記(1)イないしオ及び図1の記載から、ハイブリッド車両は、エンジンE、第1クラッチCL1、モータジェネレータMG及び第2クラッチCL2を備えることが分かる。また、第1クラッチCL1はエンジンEとモータジェネレータMGとの間に介装され、第2クラッチCL2はモータジェネレータMGと左後輪RL及び右後輪RRとの間に介装されることが分かる。さらに、モータジェネレータMGは、力行及び回生を行うとともにエンジンEの始動を行うことが分かる。
ツ 上記(1)カ及びキの記載から、引用文献1記載のハイブリッド車両の制御装置は、Gセンサ10b、当該Gセンサ10bの検出値に基づいて路面勾配を推定する路面勾配推定演算部201、及び路面勾配推定演算部201の推定勾配に基づいてMWSC対応モードマップと通常モードマップとを切替えるモードマップ選択部202を備える統合コントローラ10を有することが分かる。
テ 上記(1)カ及びキの記載から、統合コントローラ10は、選択されたモードマップに基づいて、エンジンE、モータジェネレータMG、第1クラッチCL1及び第2クラッチCL2の制御を行うことが分かる。
ト 上記(1)ク及び図6の記載から、MWSC対応モードマップにおいては、WSC走行モード領域内に、アクセルペダル開度APOに応じたMWSC走行モード領域が設定されていることが分かる。
ナ 上記(1)ケの記載から、WSC走行モードにおいては、第1クラッチCL1を完全締結し、第2クラッチCL2を要求駆動力に応じた伝達トルク容量としてスリップ制御し、エンジンE及び/又はモータジェネレータMGの駆動力を用いて走行することが分かる。
ニ 上記(1)ケ及びサ並びに図6の記載から、アクセルペダル開度は運転者の要求駆動力を表すことが分かる。また、モータジェネレータMGのトルクのみでは運転者の要求駆動力を達成できない領域では、WSC走行モードを選択することが分かる。そして、アクセルペダル開度APOが所定値APO2以上のときはWSC走行モードとし所定値APO2未満のときはMWSC走行モードとすることから、アクセルペダル開APOが所定値APO2以上の領域は、モータジェネレータMGのトルクのみでは運転者の要求駆動力を達成できない領域であり、所定値APO2未満の領域ではモータジェネレータのみで運転者の要求駆動力が達成できる領域であることが分かる。さらに、所定値APO2は、MWSC走行モードを維持することができるアクセルペダル開度APOの上限であることが分かる。
ヌ 上記(1)コの記載から、エンジンEのアイドル回転数に相当する下限車速VSP1よりも低い領域(VSP2以下の領域)において、WSC走行モードを選択すると、第2クラッチCL2のスリップ量が大きくなり、第2クラッチCL2の耐久性に影響を与えるおそれがあること、特に勾配路では、平坦路に比べて大きな駆動力が要求されていることから、第2クラッチCL2に要求される伝達トルク容量は高くなり、高トルクで高スリップ量の状態が継続すると、第2クラッチCL2の耐久性の低下を招きやすく、発熱のおそれがあることが分かる。また、MWSC走行モードにおいては、エンジンEは作動させたままであること、第1クラッチCL1を開放し、第2クラッチCL2の伝達トルク容量を運転者の要求駆動力に制御すること、モータジェネレータMGの回転数をエンジンEのアイドル回転数よりも低い回転数としつつ第2クラッチCL2の出力回転数よりも所定回転数高い目標回転数にフィードバック制御し、第2クラッチCL2をスリップ制御することが分かる。
(3)引用発明
上記(1)及び(2)並びに図1ないし3、6及び11から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用文献1発明」という。)が記載されていると認める。
<引用文献1発明>
「エンジンEと、
車両を駆動すると共に前記エンジンEの始動を行うモータジェネレータMGと、前記エンジンEと前記モータジェネレータMGとの間に介装され前記エンジンEと前記モータジェネレータMGとを断接する第1クラッチCL1と、
前記モータジェネレータMGと左後輪RL及び右後輪RRとの間に介装され前記モータジェネレータMGと前記左後輪RL及び右後輪RRとを断接する第2クラッチCL2と、
路面勾配を推定する路面勾配推定演算部201と、
前記路面勾配が所定値以上のとき、前記エンジンEを所定回転数で作動させたまま前記第1クラッチCL1を締結し、前記モータジェネレータMGを前記所定回転数で回転して前記第2クラッチCL2をスリップ締結するWSC走行モードの制御処理を実行する統合コントローラ10と、
前記路面勾配が所定値以上のとき、前記エンジンEを所定回転数で作動させたまま前記第1クラッチを解放し、前記モータジェネレータMGを前記所定回転数よりも低い回転数として前記第2クラッチをスリップ締結するMWSC走行モードの制御処理を実行する統合コントローラ10と、を備え、
アクセルペダル開度条件を、前記モータジェネレータMGのトルクが運転者の要求駆動力を確保でき、MWSC走行モードを維持することができる上限を示す所定値APO2とし、
前記所定値APO2未満の間は、前記MWSCモードでの走行を維持し、
前記所定値APO2以上になると、MWSC走行モードからWSC走行モードへと移行する、
ハイブリッド車両の制御装置。」
2 引用文献2
本願の出願前に頒布され、当審拒絶理由に引用された特開2008-7094号公報(以下、「引用文献2」という。)には、段落【0033】及び【0042】ないし【0048】並びに図6の記載からみて、次の技術(以下、「引用文献2記載技術」という。)が記載されていると認める。
<引用文献2記載技術>
「ハイブリッド車両の制御装置において、WSCモードにおいて、エンジンEをアイドル回転で作動させたまま第1クラッチCL1をスリップ制御し、前記モータジェネレータMGをアイドル回転数よりも低い回転数に制御して第2クラッチCL2をスリップ制御し、第2クラッチCL2のスリップ量を低下させ、発熱量を低下させる技術。」
3 対比
本願発明と引用文献1発明とを対比すると、引用文献1発明における「エンジンE」は、その構造、機能又は技術的意義からみて、本願発明における「エンジン」に相当し、以下同様に、「車両を駆動すると共に」は「車両の駆動力を出力すると共に」に、「前記エンジンEの始動を行うモータジェネレータMG」は「前記エンジンの始動を行うモータ」に、「前記エンジンEと前記モータジェネレータMGとの間に介装され前記エンジンEと前記モータジェネレータMGとを断接する第1クラッチCL1」は「前記エンジンと前記モータとの間に介装され前記エンジンと前記モータとを断接する第1締結要素」に、「左後輪RL及び右後輪RR」は「駆動輪」に、「前記モータジェネレータMGと前記左後輪RL及び右後輪RRとを断接する第2クラッチCL2」は「前記モータと前記駆動輪とを断接する第2締結要素」に、「路面勾配」は「駆動力伝達系負荷」に、「推定」は「検出又は推定」に、「路面勾配推定演算部201」は「駆動力伝達系負荷検出手段」に、「アクセルペダル開度条件」は「アクセル開度条件」に、「前記モータジェネレータMGのトルク」は「前記モータのモータトルク」に、「運転者」は「ドライバ」に、「要求駆動力」は「要求駆動トルク相当」に、「所定値APO2」は「アクセル開度上限値」に、相当する。
また、引用文献1発明において「前記所定値APO2未満の間は、前記MWSCモードでの走行を維持」することは、本願発明において「前記アクセル開度上限値未満の間は、前記モータスリップ走行制御の実行を維持」することに相当する。
また、引用文献1発明において「前記路面勾配が所定値以上のとき、前記エンジンEを所定回転数で作動させたまま前記第1クラッチを解放し、前記モータジェネレータMGを前記所定回転数よりも低い回転数として前記第2クラッチをスリップ締結する」ことは、その構造、機能又は技術的意義からみて、本願発明において「前記駆動力伝達系負荷が所定値以上のとき、前記エンジンを所定回転数で作動させたまま前記第1締結要素を解放し、前記モータを前記所定回転数よりも低い回転数として前記第2締結要素をスリップ締結する」ことに相当し、引用文献1発明における「MWSC走行モード」は、その構造、機能又は技術的意義からみて、本願発明における「モータスリップ走行制御」に相当し、引用文献1発明における「MWSC走行モードの制御処理を実行する統合コントローラ10」は、その構造、機能又は技術的意義からみて、本願発明における「モータスリップ走行制御手段」に、相当する。
また、「前記アクセル開度上限値以上になると、モータスリップ走行制御から別モードへと移行する」という限りにおいて、引用発明において「前記所定値APO2以上になると、MWSC走行モードからWSC走行モードへと移行する」ことは、本願発明において「前記アクセル開度上限値以上になると、モータスリップ走行制御からエンジン/モータスリップ走行制御へと移行する」ことに相当する。
してみると、本願発明と引用文献1発明とは、
「エンジンと、
車両の駆動力を出力すると共に前記エンジンの始動を行うモータと、
前記エンジンと前記モータとの間に介装され前記エンジンと前記モータとを断接する第1締結要素と、
前記モータと駆動輪との間に介装され前記モータと前記駆動輪とを断接する第2締結要素と、
駆動力伝達系負荷を検出または推定する駆動力伝達系負荷検出手段と、
前記駆動力伝達系負荷が所定値以上のとき、前記エンジンを所定回転数で作動させたまま前記第1締結要素を解放し、前記モータを前記所定回転数よりも低い回転数として前記第2締結要素をスリップ締結するモータスリップ走行制御手段と、を備え、
アクセル開度条件を、前記モータのモータトルクがドライバの要求駆動トルク相当を確保でき、モータスリップ走行制御を維持することができるアクセル開度上限値とし、
前記アクセル開度上限値未満の間は、前記モータスリップ走行制御の実行を維持し、
前記アクセル開度上限値以上になると、モータスリップ走行制御から別モードへと移行する
ハイブリッド車両の制御装置。」
という点で一致し、次の点で相違する。
<相違点1>
本願発明においては、「前記駆動力伝達系負荷が所定値以上のとき、前記エンジンを所定回転数で作動させたまま前記第1締結要素をスリップ締結し、前記モータを前記所定回転数よりも低い回転数として前記第2締結要素をスリップ締結するエンジン/モータスリップ走行制御手段」を備えているのに対し、引用文献1発明においては、「エンジンEを所定回転数で作動させたまま第1クラッチCL1を締結し、前記モータジェネレータMGを前記所定回転数で回転して前記第2クラッチCL2をスリップ締結するWSC走行モードの制御処理を実行する統合コントローラ10」を備えている点(以下、「相違点1」という。)。
<相違点2>
「前記アクセル開度上限値以上になると、モータスリップ走行制御から別モードへと移行する」ことに関し、本願発明においては「前記アクセル開度上限値以上になると、モータスリップ走行制御からエンジン/モータスリップ走行制御へと移行する」であるのに対し、引用文献1発明においては、「所定値APO2以上になると、MWSC走行モードからWSC走行モードへと移行する」である点(以下、「相違点2」という。)
4 判断
上記相違点について検討する。
(1)相違点1についての検討
引用文献1発明と引用文献2記載技術は、ハイブリッド車両の制御装置という共通の技術分野に属し、引用文献1発明及び引用文献2記載技術はいずれも路面勾配が所定以上ある場合の停止又は低速走行時において第2クラッチCL2の発熱を抑制するという共通の課題を有するものである。
そして、引用文献1発明においては、モータジェネレータMGのみのトルクでは運転者の要求駆動力が確保できない、すなわちアクセルペダル開度APOが所定値APO2以上の場合において、エンジンEの出力をも用いて運転者の要求駆動力を確保する際、エンジンE自体はアイドル回転数より低下させることができないため、第2クラッチCL2に高伝達トルク容量かつ高スリップ量が要求されることとなり、その結果、第2クラッチCL2の発熱が顕著になることは自明である(必要であれば、引用文献1の段落【0062】及び【0063】参照。)。
そうすると、引用文献1発明において、第2クラッチCL2の発熱を低減すべく、アクセルペダル開度が所定値APO2以上の領域において、引用文献2記載技術を適用し、エンジンEを所定回転数で作動させたまま第1クラッチCL1をスリップ締結し、モータジェネレータMGを前記所定回転数よりも低い回転数として第2クラッチCL2をスリップ締結するよう統合コントローラ10において制御するようにして、前記相違点1に係る本願発明の発明特定事項とすることは当業者が容易に想到できたことである。
(2)相違点2についての検討
上記(1)において検討したとおり、引用文献1発明においては、アクセルペダル開度が、モータジェネレータMGのみのトルクでは運転者の要求駆動力を確保できないアクセルペダル開度、即ち所定値APO2以上となったとき、モータジェネレータMGのみのトルクでは運転者の要求駆動力が確保できない場合に、エンジンEをも用いて運転者の要求駆動力を確保すべく、第1クラッチCL1が開放となるMWSC走行モードから、エンジンEの出力をも用いるWSCモードへ移行るものであり、その際に第2クラッチCL2の発熱が顕著になるものである。
また、引用文献1発明においては、第2クラッチCL2の発熱の抑制を課題としており、モータジェネレータMG2のみで運転者の要求駆動力が確保できるアクセルペダル開度の場合は第1クラッチCL1を開放し、エンジンEの回転数が第2クラッチCL2へ伝達しないよう制御するものである。
そうすると、引用文献1発明における、第2クラッチCL2の発熱の抑制という課題を考慮して、引用文献1発明に引用文献2記載技術を適用し、前記アクセル開度上限値以上になると、モータスリップ走行制御からエンジンEを所定回転数で作動させたまま第1クラッチCL1をスリップ締結し、モータジェネレータMGを前記所定回転数よりも低い回転数として第2クラッチCL2をスリップ締結するよう統合コントローラ10において制御するように移行させるようにして前記相違点2に係る本願発明の発明特定事項とすることは当業者が容易に想到できたことである。
そして、本願発明は、全体としてみても、引用文献1発明及び引用文献2記載技術から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。
したがって、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1発明及び引用文献2記載技術から当業者が容易に発明をすることができたものである。
5 まとめ
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1発明及び引用文献2記載技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
第4 むすび
上記のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないので、本願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2016-007782