特許拒絶査定不服審判
2016-004266
多接合型太陽電池に関してInP格子定数を有する広バンドギャップのタイプIIトンネル接合
- 審判番号
- 2016-004266
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2013-539840外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2016年03月22日
- 審決日
- 2016年11月21日
- 公報発行日
- 2017年05月26日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ザ・ボーイング・カンパニー
- 【請求人代理人】園田・小林特許業務法人
- 分類
- P18 .121-Z (H01L) / P18 .575-Z (H01L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第17条の2第6項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2013-539840「多接合型太陽電池に関してInP格子定数を有する広バンドギャップのタイプIIトンネル接合」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 5月24日国際公開、WO2012/067715、平成25年11月28日国内公表、特表2013-543278〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本願は、2011年(平成23年)9月23日(パリ条約による優先権主張 2010年(平成22年)11月19日(以下、「優先日」という。)米国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成26年 9月22日 手続補正書の提出
平成27年 5月15日付け 拒絶理由の通知
平成27年 8月 6日 意見書、手続補正書の提出
平成27年11月16日付け 拒絶査定(同年同月24日送達)
平成28年 3月22日 審判請求、手続補正書の提出
平成28年 5月26日付け 前置報告
平成28年 8月 5日 上申書の提出
第2 平成28年3月22日付け手続補正についての補正の却下の決定
[結論]
平成28年3月22日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲を補正するものであり、そのうち特許請求の範囲の請求項1について、本件補正前(平成27年8月6日付けの手続補正書)の請求項1に、
「トンネル接合であって、
pドープトンネル層と、
nドープトンネル層と、を備え、
当該トンネル接合は、InP格子定数を有し、
前記pドープトンネル層は、pドープAl(Ga)InAs材料であり、
前記nドープトンネル層は、InP,GaInPAs,AlAsSb,AlInAsSb,及びAlInPAsから成るグループから選択されるnドープ材料であり、
前記pドープトンネル層及び前記nドープトンネル層は、1x1019/cm3~1x1020/cm3のドープ濃度を有する、トンネル接合。」
とあったものを、
「トンネル接合であって、
pドープトンネル層と、
nドープトンネル層と、を備え、
当該トンネル接合は、InP格子定数を有し、
前記pドープトンネル層は、pドープAl(Ga)InAs材料であり、
前記nドープトンネル層は、InP,GaInPAs,AlAsSb,AlInAsSb,及びAlInPAsから成るグループから選択されるnドープ材料であり、
前記pドープトンネル層及び前記nドープトンネル層は、1x1019/cm3~1x1020/cm3のドープ濃度を有し、
前記pドープトンネル層は、1.25eV以上のバンドギャップを有し、前記nドープトンネル層は、1.35eV以上のバンドギャップを有する、トンネル接合。」
と補正することを含むものである(なお、下線は補正箇所を示すために請求人が付したものである。)。
2 補正の適否
補正前の「pドープトンネル層」及び「nドープトンネル層」について、「前記pドープトンネル層は、1.25eV以上のバンドギャップを有し、前記nドープトンネル層は、1.35eV以上のバンドギャップを有する」と限定する補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて以下に検討する。
(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1に本件補正後の請求項1として記載されたとおりのものである。
(2)引用例の記載事項、引用発明、技術事項
ア 引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である「Y.Gu,High-efficiency InP based four-junction solar cells,16TH ANNUAL MEETING OF THE IEEE LASERS & ELECTRO-OPTICS SOCIETY (LEOS 2003),米国,IEEE,2003年10月26日,V2,pp.927-928」には、図面とともに、次の記載がある。また、原文の引用の後に日本語訳(当審訳)を記載する(下線は当審で付したものである。)。
(ア)「In the paper, ternary and quaternary alloys between III-V compounds AlAsSb(l.9leV), AlInAs(l.5eV),AlGaInAs(l.0eV) and InGaAs(0.75eV) material system, which are lattice matched to InP substrate, is proposed for multi junction solar cells of high efficiency. 」(第927頁本文 第3行~5行)
(本紙では、III-V族化合物であるAlAsSb(1.91eV)、AlInAs(1.5eV)、AlGaInAs(1.0eV)とInGaAs(0.75eV)材料系との間がInP基板に格子整合された三元または四元の合金が、高効率の多接合型太陽電池のために提案されている。)
(イ)「Fig. 1(a) shows the basic structure of the proposed four-junction solar cells. Doping level and thickness of each solar cell epitaxial layers are modeled and optimized to obtain maximal theoretical efficiency.」(第927頁本文第9行~10行)
(図1(a)は、提案された4接合太陽電池の基本構造を示している。各太陽電池のエピタキシャル層のドーピングレベルおよび厚さは、最大の理論的効率を得るためにモデル化されて最適化される。 )
(ウ)
「
」
(第927頁図1(a))
(エ)
「
」(第928頁図4(左図))
(オ)「Figure 4: the structure and I-V curve of tunnel junction. X: 0.2V/Div, Y: 0.2mA/Div; R=4.76x102 O・cm2,Jp=36.8A/cm2」(第928頁図4注釈)
(図4: トンネル接合の構造と I-V曲線 X: 0.2V/Div, Y: 0.2mA/Div; R=4.76x102 O・cm2,Jp=36.8A/cm2)
(カ)「And we also demonstrated a working tunnel device, which Jp is 36.8A/cm2 and the series resistance is 4.76x10-2O・cm2 . 」(第928頁図4下本文 第4行~5行)
(また、Jpが36.8A/cm2で直列抵抗が4.7×10-2O・cm2のトンネルデバイスの動作を説明した。)
イ 引用発明
図1の記載から、「p++-Bandgap>1.91eV」の層及び「n++-Bandgap>1.91eV」の層からなるトンネル接合を介して接合される多接合型太陽電池が見て取れる。これらのことから、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「「p++-Bandgap>1.91eV」の層及び「n++-Bandgap>1.91eV」の層からなるトンネル接合を介して接合され、InP基板に格子整合された多接合型太陽電池。」
ウ 技術事項
また、引用例には、トンネルデバイスの動作を説明する図である図4から、「p+-AlInAs]の層及び「n+-InP」の層からなるトンネル接合において、それぞれの層について、「1e19」である、つまり「ドープ濃度が1×1019/cm3」のものが用いられたことが見て取れる。よって、引用例には、次の技術事項が記載されていると認められる。
「「p+-AlInAs]の層及び「n+-InP」の層からなるトンネル接合において、それぞれの層について、「ドープ濃度が1×1019/cm3」のものが用いられた。」
(3)対比
ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「p++-Bandgap>1.91eV」の層及び「n++-Bandgap>1.91eV」の層は、それぞれ本件補正発明の「pドープトンネル層」及び「nドープトンネル層」に相当し、また、引用発明の「Bandgap>1.91eV」は、バンドギャップが1.91eVより大きいことを意味するから、引用発明の「p++-Bandgap>1.91eV」の層及び「n++-Bandgap>1.91eV」の層からなるトンネル接合を介して接合され、InP基板に格子整合され」ていることは、本件補正発明の「当該トンネル接合は、InP格子定数を有し」、「前記pドープトンネル層は、1.25eV以上のバンドギャップを有し、前記nドープトンネル層は、1.35eV以上のバンドギャップを有する」ことに相当する。
イ 以上のことから、本件補正発明と引用発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。
(ア)一致点
「トンネル接合であって、
pドープトンネル層と、
nドープトンネル層と、を備え、
当該トンネル接合は、InP格子定数を有し、
前記pドープトンネル層は、1.25eV以上のバンドギャップを有し、前記nドープトンネル層は、1.35eV以上のバンドギャップを有する、トンネル接合。」
(イ)相違点
本件補正発明は「前記pドープトンネル層は、pドープAl(Ga)InAs材料であり、前記nドープトンネル層は、InP,GaInPAs,AlAsSb,AlInAsSb,及びAlInPAsから成るグループから選択されるnドープ材料であり、前記pドープトンネル層及び前記nドープトンネル層は、1x1019/cm3~1x1020/cm3のドープ濃度を有し」ているのに対し、引用発明は層の材料及びドープ濃度が特定されていない点。
(4)判断
以下、相違点を検討する。
引用例のトンネルデバイスの動作を説明する図である図4には、「「p+-AlInAs]の層及び「n+-InP」の層からなるトンネル接合において、それぞれの層について、「ドープ濃度が1×1019/cm3」のものが用いられた」との技術事項が記載されている。
してみると、引用発明の多接合型太陽電池のトンネル接合である「p++-Bandgap>1.91eV」の層及び「n++-Bandgap>1.91eV」の層の材料として、「AlInAs]及び「InP」を用いることに困難性は見いだせない。
また、トンネルデバイスの動作を説明する際に用いた「p+-AlInAs]の層及び「n+-InP」の層の「ドープ濃度が1×1019/cm3」であることに鑑みるに、引用発明の「p++」の層及び「n++」の層のドープ濃度は、「+」の数が多い分「1×1019/cm3」よりも高濃度であるといえる。してみると、引用発明において、「p++-Bandgap>1.91eV」の層及び「n++-Bandgap>1.91eV」の層の材料として、「AlInAs]及び「InP」を用い、1x1019/cm3よりも高濃度のドープ濃度とすることは、当業者が適宜なし得ることである。そして、ドープ濃度の上限値については、当業者が適宜設定し得る設計事項であるから、ドープ濃度を「1x1019/cm3~1x1020/cm3」と設定することに格別の困難性はない。
そして、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明及び引用例に記載された技術事項の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。
したがって、本件補正発明は、引用発明及び引用例に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
(5) 本件補正についてのむすび
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
第3 本願発明について
1 本願発明
平成28年3月22日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成27年8月6日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし16に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、前記第2の[理由]1に本件補正前の請求項1として記載されたとおりのものである。
2 引用例の記載事項、引用発明、技術事項
原査定の拒絶の理由で引用された引用例に記載された引用発明及び技術事項は、前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。
3 対比、判断
本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、「前記pドープトンネル層は、1.25eV以上のバンドギャップを有し、前記nドープトンネル層は、1.35eV以上のバンドギャップを有する」との限定を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]2(3)(4)に記載したとおり、引用発明及び引用例に記載された技術事項に基づいて、容易に想到し得ることであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明及び引用例に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。
4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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